JP6828262B2 - 燻製食品 - Google Patents

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Description

本発明は、燻製食品に関し、詳細には植物原料の種類を変更することなく製造でき、かつ、加熱されても香りが減弱及び消失しにくい燻製食品に関する。
燻製は元来、食品の保存性を高めることが目的であったが、食品保存技術が発達した現在では、食品に燻煙由来の好ましい風味を付与することが主目的となっている。そのため、燻製食品の風味に大きく影響する燻煙の質をコントロールすることが、非常に重要となっている。
燻煙の質をコントロールする方法に関し、植物原料の燃焼、不完全燃焼又は熱分解によって発生させた燻煙を加熱することにより、燻煙の質をコントロールし、且つベンツピレン等の有害成分を低減させ、燻製食品に好ましい風味を付与できることが報告されている(特許文献1)。
一方、特許文献2には、1−ペンテン−3−オール等の香料を添加した魚節の製造方法が記載されている。
特許文献3には、(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナールを有効成分とする魚節香味改善剤が記載されている。
非特許文献1には、鰹節の香気成分の、焙乾中の変化が記載されている。
国際公開第2007/142086号 特開2006−187254号公報 特開2012−34662号公報
日本食品科学工学会誌 Vol.43、No.1、29−35(1996)
燻製食品は、食品や調味料の原料として用いられ得るが、燻製食品の香りは加熱によって減弱又は消失しやすいという問題がある。そのため、例えば、長時間の加熱調理によって製造される食品(例、煮込み料理等)や調理後に再加熱される食品等は、燻製食品を原料として用いても、最終的に喫食する際には、燻製食品の香りは殆ど感じられない。
植物原料を燃焼、不完全燃焼、又は熱分解して発生させた燻煙を、原料食品に接触又は付着させた燻製食品において、植物原料の種類を変えることで、燃焼等により発生する燻煙の質を変えることは可能である。しかし、製造に用いる植物原料の種類を変更すると、目的とする好ましい香りの質が損なわれてしまい、香りの質が大きく異なる燻製食品になってしまう場合もあるという課題がある。従って、燻煙由来の好ましい香りを有し、かつ、加熱されても香りが減弱及び消失しにくい燻製食品の実現は極めて困難であった。
本発明の目的は、植物原料の種類を変更することなく製造でき、かつ、加熱されても香りが減弱及び消失しにくい燻製食品を提供することにある。
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、驚くべきことに、燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける、ケトン類、フェノール類及び窒素化合物のピーク面積の各総和が特定の比率である燻製食品は、植物原料の種類を変更せずに製造でき、かつ、加熱しても香りが減弱及び消失しにくいことを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける、ケトン類のピーク面積の総和をAとし、フェノール類のピーク面積の総和をBとし、且つ窒素化合物のピーク面積の総和をCとするとき、
A:(B+C)が、15〜35:45〜75である、燻製食品。
[2]更に、燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける、炭化水素類のピーク面積の総和をDとするとき、
A:Dが、15〜35:5〜10である、[1]記載の燻製食品。
[3]燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける全成分のピーク面積の総和に占める前記Aの割合が、15〜35%である、[1]又は[2]記載の燻製食品。
[4]魚を原料とする、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の燻製食品。
[5]魚節である、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の燻製食品。
本発明によれば、加熱されても香りが減弱及び消失しにくい燻製食品を提供することができる。特に、本発明により提供される加熱されても香りが減弱及び消失しにくい燻製食品は、使用する植物原料の種類を変更することなく製造し得るため、目的とする好ましい香りの質が損なわれることなく、燻煙由来の好ましい香りを有し得る。
本発明の燻製食品を製造するための典型的な装置例(冷却部を備えている装置例)を示した正面断面図である。 本発明の燻製食品の製造方法を実施するための典型的な装置例(冷却部を備えていない装置例)を示した正面断面図である。 図1及び図2に示される装置例のA−A線に沿って切断した概略的な一部断面側面図である。 比較例1の評価サンプルの官能評価の結果を示すグラフである。 実施例1の評価サンプルの官能評価の結果を示すグラフである。 熱分解時間経過と炭化槽内の一酸化炭素濃度(CO濃度)及び二酸化炭素濃度(CO濃度)推移の一例を示すグラフである。
本発明の燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける、ケトン類のピーク面積の総和をAとし、フェノール類のピーク面積の総和をBとし、且つ窒素化合物のピーク面積の総和をCとするとき、A:(B+C)は、好ましくは15〜35:45〜75であり、より好ましくは20〜30:50〜70である。当該A:(B+C)が、上記の範囲内であることにより、加熱後においても、加熱前の燻煙由来の好ましい香りを維持することができ、かつ当該香りが減弱及び消失しにくい燻製食品を提供できることとなる。
本発明の燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける、ケトン類のピーク面積の総和をAとし、フェノール類のピーク面積の総和をBとし、且つ窒素化合物のピーク面積の総和をCとするとき、全揮発性成分のピーク面積の総和は100とすることが好ましい。
本発明の燻製食品の揮発性成分のケトン類は、分子内に1つ以上のケトン基を有する有機化合物をいい、例えば、2,3−ペンタンジオン、シクロペンタノン、2−メチルシクロペンタノン、2,5−ジメチル−2−シクロペンテノン、2−シクロペンテン−1−オン、2−メチル−2−シクロペンテノン、2,3−ジメチル−2−シクロペンテン−1−オン、3,4−ジメチル−2−シクロペンテン−1−オン、2,3,4−トリメチル−2−シクロペンテン−1−オン、ブチロラクトン、3−エチル−2−シクロペンテン−1−オン、3−メチルシクロヘキサノン、3−メチルアセトフェノン、1−メチルインダン−2−オン等が挙げられる。
本発明の燻製食品の揮発性成分のフェノール類は、芳香族置換基上に1つ以上のヒドロキシ基を有する有機化合物をいい、例えば、フェノール、2−エチルフェノール、3−エチルフェノール、2−メチルフェノール、グアイアコール、2−エチル−5−メチルフェノール、2−メトキシ−3−メチルフェノール、2−メトキシ−5−メチルフェノール、2,3−ジメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、3,5−ジメチルフェノール、2,6−ジメトキシフェノール等が挙げられる。
本発明の燻製食品の揮発性成分の窒素化合物は、分子内に1つ以上の窒素原子を有する化合物をいい、例えば、ピリジン、3−メトキシピリジン、2−エチル−5−メチルピラジン、2−エチル−6−メチルピラジン、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン、2,3,5−トリメチルピラジン等が挙げられる。
本発明の燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける、炭化水素類のピーク面積の総和をDとするとき、A:Dは、好ましくは15〜35:5〜10であり、より好ましくは20〜30:6〜9である。当該A:Dが、上記の範囲内であることにより、加熱後においても、加熱前の官能品質を維持することができ、かつ燻煙由来の好ましい香りが減弱又は消失しにくい燻製食品を提供できることとなる。
本発明の燻製食品の揮発性成分の炭化水素類は、炭素原子及び水素原子のみから構成される有機化合物をいい、例えば、エチルベンゼン、m−キシレン、o−キシレン、1,2,3−トリメチルベンゼン、3,4−ジメトキシトルエン、3,5−ジメトキシトルエン、ナフタレン等が挙げられる。
本発明の燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける全成分のピーク面積の総和に占める前記Aの割合は、好ましくは15〜35%であり、より好ましくは20〜30%である。
本発明の燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける全成分のピーク面積の総和に占める前記B及びCの合計(B+C)の割合は、好ましくは45〜75%であり、より好ましくは50〜70%であり、さらに好ましくは50.1〜67.9%であり、特に好ましくは52.6〜64.5%である。
本発明の燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける全成分のピーク面積の総和に占める前記Bの割合は、好ましくは42〜57%であり、より好ましくは44〜54%である。
本発明の燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける全成分のピーク面積の総和に占める前記Cの割合は、好ましくは8.1〜10.9%であり、より好ましくは8.6〜10.5%である。
本発明の燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける全成分のピーク面積の総和に占める前記Dの割合は、好ましくは6.6〜8.9%であり、より好ましくは7〜8.6%である。
本発明において、燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける、ケトン類、フェノール類、窒素化合物、炭化水素類及び全成分の各ピーク面積の総和は、燻製食品の揮発性成分をダイナミックヘッドスペース(DHS)法により捕集後、GC/MS法(カラム:DB−WAX 60m×0.25mm径、膜厚0.25μm)により得られるトータルイオンクロマトグラム(TIC)から測定される値である。測定条件の詳細は、後掲の実施例の通りである。
本発明の燻製食品の原料(原料食品)は、燻臭が付与されることを所望される食品であれば特に制限されないが、例えば、魚、貝、イカ、エビ等の魚介類;牛肉、豚肉、羊肉等の畜肉;鶏肉、アヒル肉等の家禽肉;チーズ等の乳製品;卵等が挙げられ、好ましくは魚介類であり、より好ましくは魚である。
本発明の燻製食品の種類は特に制限されないが、例えば、鰹節、宗田鰹節、鮪節、鯖節、鰯節、鯵節等の魚節;燻製貝柱、スモークサーモン、燻製牡蠣、燻製いか、燻製かまぼこ等の燻製魚介類;ハム、ソーセージ、ベーコン等の畜肉燻製品;スモークチーズ等の燻製乳製品;燻製卵;燻煙濃縮物である燻液等が挙げられ、好ましくは魚節である。
本発明の燻製食品中の3,4−ベンツピレンの濃度は、好ましくは20ppb以下であり、より好ましくは10ppb以下であり、特に好ましくは検出限界以下である。
ここで、燻製食品中の3,4−ベンツピレンの濃度は、食品衛生検査指針ベンゾ(a)ピレン試験法によって測定される値である。
本発明の燻製食品は、(a)植物原料を炭化槽内で熱分解して燻煙を発生させることと、(b)当該燻煙を加熱することと、(c)加熱後の燻煙又はその有効成分を原料食品に接触又は付着させることとを含む製造方法により製造することができる。以下、当該製造方法について説明する。
[(a)植物原料の熱分解]
植物原料は、異臭を発しないものであれば特に制限されないが、例えば、木材、竹材、果実、草花、藁、椰子殻、籾殻等が挙げられ、好ましくは木材である。植物原料として用いる木材の種類は、原料食品の種類等に応じて適宜選択すればよいが、例えば、原料食品が魚である場合、ナラ、ブナ、クヌギ、サクラ等が挙げられる。植物原料の形態は特に制限されないが、例えば、薪、チップ、おが粉、スモークウッド等が挙げられ、表面積が大きく、効率良く熱分解を行い得ることから、チップ又はおが粉が好ましい。
植物原料の使用量は、原料食品1重量部に対して、好ましくは0.15〜0.3重量部であり、より好ましくは0.2〜0.28重量部である。
炭化槽は、その内部において植物原料の熱分解を行うことができれば、その大きさ及び形状等は特に制限されない。炭化槽は、高温、高圧に耐性の容器であることが好ましく、例えば、ガラス、耐熱性の樹脂、磁器、金属等の容器が好ましい。熱分解を開始する前の炭化槽内の雰囲気は、空気であることが工業上は好ましいが、他の気体(例、窒素、又はそれらの混合物等)が空気に導入されていてもよい。
熱分解の開始前の炭化槽内の二酸化炭素濃度は、好ましくは1%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。炭化槽内の二酸化炭素濃度は、通常、熱分解の開始直後から上昇して最高濃度(通常、68〜75%)に達し、その後は熱分解が進むにつれて徐々に低下する(例えば、図6に示されるように推移する)。
熱分解の開始前の炭化槽内の一酸化炭素濃度は、好ましくは1%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。炭化槽内の一酸化炭素濃度は、通常、熱分解の開始直後から上昇して最高濃度(通常、20〜27%)に達し、その後は熱分解が進んでも殆ど低下せず、一定の濃度が維持される(例えば、図6に示されるように推移する)。
熱分解の開始前の炭化槽内の酸素濃度は、好ましくは1〜21%であり、より好ましくは1〜18%である。
本発明において、炭化槽内の二酸化炭素濃度、一酸化炭素濃度及び酸素濃度は、いずれも株式会社リエロ・ジャパン製の排ガス分析計「AUTO4.1」によって測定される値である。
熱分解の方法は、植物原料から燻煙を発生させることができれば特に制限されないが、例えば、炭化槽を固体熱媒体(例、電熱コイル、電気ヒーター等)、バーナーの炎等で加熱することにより植物原料を加熱する方法、炭化槽内に設置した固体熱媒体(例、電熱コイル、電気ヒーター等)により植物原料を加熱する方法、炭化槽内に高温の気体(例、高温ガス、過熱水蒸気等)を導入して植物原料を加熱する方法等が挙げられ、温度制御が容易であることから、炭化槽を加熱することにより植物原料を加熱する方法が好ましい。固体熱媒体による炭化槽又は植物原料の加熱は、固体熱媒体と炭化槽又は植物原料とを接触させることにより行うものであっても、固体熱媒体の放射熱により行うものであってもよい。
熱分解温度は、好ましく600℃以下であり、ベンツピレン等の有害成分の生成を完全に抑制するため、より好ましくは425℃以下である。当該温度が600℃を超えると、ベンツピレン等の有害成分の生成が増加する傾向がある。熱分解温度の下限は、植物原料から燻煙を発生させ得れば特に制限されないが、十分な量の燻煙を発生させるため、熱分解温度は、好ましくは240℃以上である。
植物原料の熱分解は、炭化槽内の二酸化炭素濃度が特定の濃度に低下するまで行うこと(即ち、炭化槽内の二酸化炭素濃度が特定の濃度に低下するまでは、植物原料の熱分解を止めないこと)が好ましい。植物原料の熱分解を、炭化槽内の二酸化炭素濃度が特定の濃度に低下するまで行うことで、植物原料の熱分解の程度を把握し、好ましい香りの質を維持しつつ、加熱されても香りが減弱又は消失しにくい燻煙を得ることができる。
具体的には、植物原料の熱分解は、炭化槽内の二酸化炭素濃度が35〜58%に低下するまで行うことが好ましく、37〜56%に低下するまで行うことがより好ましい。
尚、言うまでもないが「炭化槽内の二酸化炭素濃度がX%に低下する」とは、炭化槽内の二酸化炭素濃度がX%を超える濃度からX%になることを意味し、X%未満の濃度からX%になることではない。
[(b)燻煙の加熱(2次加熱)]
植物原料より発生した燻煙を加熱すること(2次加熱)により、燻煙の香りを改質し得る。燻煙を加熱する方法としては、例えば、固体熱媒体(例、熱交換機、電気ヒーター等)により加熱する方法、酸素を含まない高温の気体(例、高温不活性ガス、過熱水蒸気等)により加熱する方法、バーナー等の炎により加熱する方法、燻煙に少量の酸素を導入して、燻煙を燃焼させ、その燃焼熱により加熱する方法等が挙げられるが、温度制御が容易であることや燻煙の濃度を薄めることがないことから、固体熱媒体により加熱する方法が好ましい。固体熱媒体による燻煙の加熱は、固体熱媒体と燻煙とを接触させることにより行うものであっても、又は固体熱媒体の放射熱により行うものであってもよいが、より精度高く燻煙の温度制御が可能で設備保全がしやすいという観点から、固体熱媒体と燻煙とを接触させることにより行うことが好ましい。
燻煙の加熱温度は、300℃以上800℃未満に保持すること(即ち、300℃以上800℃未満の範囲外としないこと)が好ましい。300℃以上で燻煙を加熱することにより、燻煙の香りが改質され、温度の上昇とともに、甘い香りから刺激的な香りに変化し、またタール臭や木の異風味等の好ましくない香りが低減する。一方、加熱温度が800℃を超えると、燻煙中の低沸点炭化水素等が無臭成分にまで分解され、燻煙の香りは改質されるものの、香り全体の強さとしては弱くなる傾向がある。燻煙の加熱温度は、400〜700℃に保持することがより好ましく、400〜600℃に保持することが特に好ましい。
燻煙の加熱温度は、炭化槽内の二酸化炭素濃度に対する一酸化炭素濃度の比(CO/CO)が0.4を超えた後は、二酸化炭素濃度の低下に応じて下げることが好ましい。そのように燻煙の加熱温度を下げることで、発生した煙成分を過度に分解することなく、好ましい香りの質を維持しつつ、加熱されても香りが減弱又は消失しにくい燻煙を得ることができる。
具体的には、燻煙の加熱温度は、二酸化炭素濃度1%低下当たり5〜35℃下げることが好ましく、10〜25℃下げることがより好ましい。
本発明において、燻煙の加熱温度を「二酸化炭素濃度1%低下当たりX℃下げる」とは、燻煙の加熱温度を、炭化槽内の二酸化炭素濃度が1%低下する間に、X℃下げることを意味する。炭化槽内の二酸化炭素濃度は最高濃度に到達した後は徐々に低下するが、燻煙の加熱温度は、それに合わせて徐々に(即ち、連続的に)下げてもよく、又は炭化槽内の二酸化炭素濃度が1%低下する毎に段階的に下げてもよい。
燻煙の加熱温度は、炭化槽内の二酸化炭素濃度に対する一酸化炭素濃度の比(CO/CO)が0.4を超えたと同時に下げ始めなくてもよいが、当該比が0.5になるまでには下げ始めることが好ましい。
燻煙の加熱温度は、最終的に300℃以上になるように下げることが好ましく、400℃以上になるように下げることがより好ましい。
燻煙を加熱するとき、追加の気体を供給してもよい。追加の気体を供給することにより、燻煙の香りを、単に加熱するだけでは得られない質に改質できるようになる。追加の気体としては、例えば、酸素、空気等の酸素供給源となる気体;水素、水蒸気等の水素供給源となる気体;メタノール、エタノール、プロパン、ブタン、エチレン、アセチレン等の炭化水素供給源となる気体;窒素、アルゴン等が挙げられる。
燻煙を加熱するとき、紫外線等の波長の短い光線を燻煙に照射してもよい。また、燻煙を加熱するとき、反応助剤(例、ラジカル等)、触媒(例、白金等)を燻煙に添加してもよい。これらによっても、燻煙の香りの質を変えることができる。
加熱後の燻煙は、原料食品に接触等させる前に冷却してよい。燻煙を冷却する方法としては、例えば、燻煙加熱装置と燻製室の間に煙滞留管や熱交換機を設置することによって燻煙の冷却温度を調整する方法等が挙げられる。
冷却後の燻煙の温度は、好ましくは50〜250℃であり、より好ましくは80〜200℃であり、さらに好ましくは100〜200℃である。
[(c)燻付け]
加熱後の燻煙又はその有効成分を原料食品に接触又は付着させること(燻付け)により、原料食品に燻煙由来の好ましい風味が付与される。
本発明の一実施態様として、原料食品が魚である場合、該魚は煮熟されていることが好ましく、さらに該魚は、煮熟後に乾燥されていることがより好ましい。魚を煮熟する方法は特に制限されず、自体公知の方法で行えばよい。また煮熟された魚の乾燥方法も特に制限されないが、例えば、熱風で魚を加熱することにより乾燥させる方法(熱風乾燥)、遠赤外線を魚に放射することにより乾燥させる方法(遠赤外線乾燥)及び高周波を魚に照射することにより乾燥させる方法(高周波乾燥)等が挙げられ、多量の魚を均一に乾燥でき、また簡便であることから、熱風乾燥が好ましい。これらの乾燥方法は、適宜組み合わせてもよい。
熱風乾燥の熱源は、煮熟された魚に異風味、有害成分を付与するものでなければ特に制限されないが、温度制御が容易であることから、LPG(液化石油ガス)及びLNG(液化天然ガス)等のガスを燃焼させ、その際に発生する熱風で乾燥することが好ましい。熱風乾燥の方式は特にされないが、煮熟された魚に並行に熱風を送る方式(並行流)が好ましい。並行流で乾燥する場合、送風方向は常に一定であってもよいが、均一な乾燥のために、適当な時間間隔で切り替えること(交互流)が好ましい。熱風とする気体は、乾燥空気を用いればよいが、魚肉中の脂質の酸化を防止するために、煙を導入してもよい。あるいは、酸素濃度の低い燃焼空気を利用してもよいし、窒素置換等により酸素濃度を低くしてもよい。
熱風の温度は、短時間で乾燥させるためにできるだけ高温であることが好ましいが、高温で乾燥させ続けると、煮熟された魚の表面が過度に乾燥し、好ましくない焦げ臭が発生する場合があるため、熱風温度は高温から経時的に下げることが好ましい。熱風温度は、連続的に下げてもよく、又は適当な時間間隔で段階的に下げてもよい。
具体的な熱風の温度は、乾燥開始時は、好ましくは120℃以上であり、より好ましくは140℃以上であり、さらに好ましくは160℃以上である。乾燥開始時の温度が120℃未満であると、乾燥に長時間を要するようになり、また乾燥後の魚に生臭さが残ることがある。一方、乾燥開始時の温度は200℃以上であってもよいが、焦げ臭が発生しやすく、速やかに温度を下げる必要があるため、200℃未満であることが好ましい。乾燥終了時の温度は、好ましくは120℃未満であり、より好ましくは110℃以下であり、さらに好ましくは100℃以下である。乾燥終了時の温度の下限は特に制限されないが、通常80℃である。
煮熟された魚は、腐敗及び微生物の増殖を防止する観点から、その水分含量が30重量%以下となるように乾燥することが好ましく、16重量%以下となるように乾燥することがより好ましい。当該水分含量の下限は特に制限されないが、通常5重量%であり、好ましくは10重量%である。
本発明において、魚の水分含量は、常圧乾燥法(105℃、4時間)により測定される値である。
煮熟された魚は、そのままの形状で乾燥してよいが、乾燥する前に所定の形状に切断してもよい。あるいは、煮熟された魚をそのままの形状で乾燥した後に、所定の形状に切断してもよい。煮熟された魚の切断後の形状及び大きさは、特に制限されないが、例えば、煮熟された魚を乾燥前に切断する場合は、長辺(最も長い部分)が20〜200mmで、厚み(最も短い部分)が5〜20mmであるフレーク状が好ましく、長辺20〜100mmで、厚みが5〜15mmであるフレーク状がより好ましい。このようなフレーク状に切断することによって、その後の乾燥を短時間で効率よく行うことができる。また、この場合の切断物には、長辺が20mm以下、又は厚みが5mm以下のものが含まれていてもよいが、その重量割合は、切断物全量に対して、好ましくは20%以下である。
加熱後の燻煙又はその有効成分を、原料食品に接触又は付着させる方法は特に制限されず、自体公知の方法で行えばよい。当該方法としては、例えば、原料食品を加熱後の燻煙雰囲気下に存在させる方法、加熱後の燻煙の有効成分を水に溶解し、得られた溶液(燻液)に原料食品を浸漬するか、又は燻液を原料食品に吹き付けた後、乾燥させる方法(液燻法)、燻煙室内に高電圧の電流を流して電場を作ることにより、原料食品への加熱後の燻煙の有効成分の付着を促進する方法(電燻法)等が挙げられる。中でも、原料食品への加熱後の燻煙又はその有効成分の接触又は付着は、設備の整備、維持、および品質管理方法の簡便さの観点から、原料食品を加熱後の燻煙雰囲気下に存在させることにより行うことが好ましい。
原料食品への加熱後の燻煙又はその有効成分の接触又は付着を、原料食品を加熱後の燻煙雰囲気下に存在させることにより行う場合、燻煙雰囲気の温度は特に制限されず、例えば16〜20℃(冷燻法)、25〜45℃(温燻法)及び50〜90℃(熱燻法)等のいずれであってもよいが、燻煙雰囲気は低温であることが好ましく、具体的には50〜80℃が好ましい。燻煙雰囲気を低温にする場合は、原料食品は予め乾燥していることが好ましい。また燻煙雰囲気の温度は変動させてもよく、例えば、100℃程度から開始して最終的に50〜80℃に低下させてもよい。
原料食品への加熱後の燻煙又はその有効成分の接触又は付着を、原料食品を加熱後の燻煙雰囲気下に存在させることにより行う場合、燻煙雰囲気の風速は、燻煙雰囲気が均一な温度になりさえすれば特に制限されないが、燻煙雰囲気の風速が大きいほど、短時間で燻煙雰囲気が均一な温度になることから、燻煙雰囲気の風速は、好ましくは0.5m/秒以上であり、より好ましくは1.8m/秒以上である。燻煙雰囲気の風速の上限は、通常2m/秒である。
ここで、燻煙雰囲気の風速は、「KANOMAX ANEMOMASTER モデル6114」(日本カノマックス株式会社製)等の風速計を用いることにより測定可能である。
原料食品への加熱後の燻煙又はその有効成分の接触又は付着を、原料食品を加熱後の燻煙雰囲気下に存在させることにより行う場合、原料食品を加熱後の燻煙雰囲気下に存在させる時間は、通常2〜10時間であり、好ましくは3〜7時間である。
加熱後の燻煙の有効成分は、燻煙の香りを付与し得る成分であり、その具体例としてはグワヤコール、4−メチルグワヤコール、2,6−ジメトキシフェノール等のフェノール類;2,3−ペンタジオン、シクロペンタノン、2-メチルシクロペンタノン等のケトン類;ピリジン、3−メトキシピリジン、2−エチル−5−メチルピラジン等の含窒素化合物類;エチルベンゼン、m−キシレン、1,2,3−トリメチルベンゼン等の炭化水素類等が挙げられる。
本発明の燻製食品を製造するための装置は、少なくとも、植物原料を熱分解して燻煙を発生させる機構(燻煙発生部)と、当該燻煙を加熱する機構(2次加熱部)と、加熱後の燻煙又はその有効成分を原料食品に接触又は付着させる機構(燻製部)とを備えていることが好ましい。当該装置は、加熱後の燻煙を冷却する機構(冷却部)を更に備えていてよい。2次加熱部は、燻煙の加熱温度及び/又は滞留時間を調整する機構、追加の気体を供給する機構を備えていることが好ましい。燻製部は、原料食品を乾燥(例、熱風乾燥等)する機構も兼ね備えた乾燥燻製部であることが、省力化の観点から好ましい。
本発明の燻製食品を製造するための装置としては、例えば、国際公開第2007/142086号に記載の装置等が挙げられる。
図1は、本発明の燻製食品を製造するための典型的な装置例を示した図(正面断面図)である。以下において、当該図を参照しながら本発明を説明するが、本発明の燻製食品を製造するための装置はこれに限定されず、他の装置(例えば、図2に示される装置等)を用いて実施してもよい。
図1に示される装置は、燻煙発生部32と、燻煙を加熱する熱交換器2からなる2次加熱部と、燻煙を冷却する熱交換器3からなる冷却部と、乾燥燻製部4とから構成されている。
(燻煙発生部)
燻煙発生部32は、バーナーB1、炭化槽48、温度センサーT1を備えている。温度センサーT1は、炭化槽48の底面と接し、その中心部の温度を測定することができ、炭化槽内の植物原料が所定の温度になるよう、炭化槽48をバーナーB1で加熱し得る。
(2次加熱部)
熱交換器2は、任意の位置(例えば、熱交換器出口部等)に温度センサーT2を備え、これにより燻煙の温度を検出し得る。熱交換器2は、温度センサーT2と電気ヒーター33とにより、燻煙を所定の温度で加熱するように調整し得る。例えば、温度センサーT2が燻煙の温度を検出して信号を発し、当該信号に基づき、温度指示制御器(図示せず)が、電気ヒーター33の出力を調節し得る。
熱交換器2は、滞留管の長さ、径を変えることで、燻煙の流速、2次加熱部における燻煙の滞留時間を調整することができる。2次加熱部における燻煙の滞留時間は特に制限されないが、通常0.02〜30秒間であり、過加熱による、燻煙成分の過剰な熱分解を抑制できるという観点から、好ましくは、0.1〜3秒間である。
追加のガスを供給する場合、2次加熱部(熱交換器2)の任意の位置に当該ガスの供給口を設け、これを介して追加のガスの供給用ガスボンベ等を装着し得る。
(冷却部)
熱交換器3は、任意の位置(例えば、熱交換器出口部等)に温度センサーT3を備え、これにより燻煙の温度を検出し得、燻煙を所定の温度で冷却するように調整し得る。
熱交換器3は、滞留管の長さ、径を変えることで、燻煙の流速、冷却部における燻煙の滞留時間を調整することができる。冷却部における燻煙の滞留時間は特に制限されないが、通常0.02〜30秒間であり、燻煙成分中のタール分の析出防止の観点から、好ましくは、0.1〜3秒間である。
熱交換器3は、ダンパーDP4を備え、これを調整することにより、燻煙発生部32から燻煙を引き込む圧力を調整し得る 。
本発明の燻製食品を製造するための装置は、少なくとも燻煙発生部と、2次加熱部と、燻製部とを備えていることが好ましいが、冷却部は必ずしも備えていなくてもよい。冷却部を備えていない装置(例えば、図2に示される装置等)により、本発明の燻製食品を製造する場合、2次加熱部において加熱された燻煙は、例えば、乾燥燻製部4までの配管を通る間に自然に温度を低下させること等により冷却し得る。
(乾燥燻製部)
乾燥燻製部4は、循環ファン45及び46、排気ファン47、バーナーB2、温度センサーT4及びT5を備え、原料食品の熱風乾燥及び燻付けを行うことができる。
循環ファン45及び46は、風速や送風方向を調整するインバーターを備えていることが好ましい。循環ファン45及び46の運転を交互に切り替えることにより、送風方向を切り替えることができる。あるいは、循環ファンを一つのみにして、ダンパーを開閉することや循環ファンを逆回転にすることにより、送風方向を切り替え得る。
排気ファン47は、ダンパーDP5を備え、これを調整することにより、燻煙発生部32から燻煙を引き込む圧力を調整し得る。
温度センサーT4及びT5は、燻煙雰囲気の温度を測定することができる。
本発明の燻製食品は、ケトン類、フェノール類、窒素化合物及び炭化水素類を、燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける上記A〜Dが、上記の特定の比率になるように、燻製食品に添加することによっても製造することができる。
本発明の燻製食品は、食品及び調味料の原料として用いることができる。従って、本発明は、本発明の燻製食品を原料とする食品又は調味料、並びに、本発明の燻製食品を原料として用いることを含む、食品又は調味料の製造方法も提供する。
本発明の燻製食品を原料とする食品は、燻煙由来の風味が付与されることを所望される食品であれば特に制限されないが、例えば、煮物料理、炒め物料理、焼き物料理、揚げ物料理、ソース、スープ及びこれらの加工品(例、電子レンジ調理用飲食品、インスタント食品、冷凍食品、乾燥食品等)等が挙げられる。
本発明の燻製食品を原料とする調味料は、燻煙由来の風味が付与されることを所望される食品であれば特に限定されないが、具体的には天然系調味料と風味調味料とが例示される。天然系調味料としては、例えば、鰹エキス、鰹節エキス、鰹枯節エキス、宗田鰹節エキス、宗田鰹枯節エキス、鯖エキスなどの各種魚介エキス類;鰹節エキス、鰹枯節エキス、宗田鰹節エキス、宗田鰹枯節エキス、鯖節エキス、グチエキスなどの各種節エキス類;酵母エキス類;各種タンパク加水分解物;醤油、魚醤、蝦醤、味噌などの各種発酵調味料等が挙げられる。また、風味調味料としては、例えば、鰹風味調味料、合わせだし風味調味料、昆布風味調味料、節原料または各種天然調味料を配合しただしパックなどの各種魚介風味調味料等が挙げられる。また、本発明の燻製食品を原料とする調味料の例としては、基礎調味料である、塩、うま味調味料等も挙げられる。
本発明の燻製食品は、加工することなく、そのまま食品及び調味料の原料として用いてよいが、例えば粉砕、粉末化及びペースト化等の加工を施したものを用いてもよい。また、燻製食品から抽出されたエキス画分を使用してもよい。燻製食品からエキス画分を抽出する方法としては、例えば、液化炭酸ガス抽出法、超臨界ガス抽出法、アルコール抽出法、熱水抽出法等が挙げられる。エキス画分は液状のまま使用し得るが、粉末化して使用してもよい。エキス画分を粉末化する方法としては、例えば、真空乾燥法、凍結乾燥法、スプレードライ法、ドラムドライヤー法、真空ドラムドライヤー法、マイクロ波乾燥法等が挙げられる。またエキス画分を粉末化するとき、必要に応じて賦形剤を添加してもよい。賦形剤の例としては、デキストリン、乳糖、食塩、グルタミン酸ナトリウム、グラニュー糖、ゼラチン等が挙げられる。
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
(原料食品の製造)
鰹を常法により煮熟した後に、長辺が20〜100mmで、厚みが5〜15mmであるフレーク状に切削して鰹フレークを得、次いで鰹フレーク100kgに対し、図2に示される装置を使用して、その乾燥燻製部4にて熱風乾燥を8時間行い、原料食品(乾燥した鰹フレーク)を製造した。熱風の温度は、乾燥開始時は170℃とし、20℃/時間の速度で90℃まで低下させた後、一定(90℃)に保持した。熱風の風速は2.0m/秒とした。得られた原料食品(乾燥した鰹フレーク)の水分含量は、16%であった。ここで原料食品の水分含量は、常圧乾燥法(105℃、4時間)により測定した。
(実施例1の燻製食品の製造)
実施例1の燻製食品(鰹節)の製造は、図2に示される装置を使用して、下記の手順で行った。
前記原料食品の製造後、植物原料としてナラのチップ(330kg)を炭化槽48に収容し、該炭化槽48をバーナーB1で加熱して植物原料(ナラのチップ)を熱分解させ、燻煙を発生させた。熱分解温度は熱分解時間内で平均して300℃に維持した。発生した燻煙を、2次加熱部の熱交換器2により550〜600℃で加熱した。冷却後の燻煙を乾燥燻製部4内に導入して、原料食品(乾燥した鰹フレーク)を燻煙雰囲気下に存在させることにより、燻煙を原料食品に接触させた。尚、2次加熱部と乾燥燻製部4とをつなぐ配管内の燻煙の温度は100〜200℃であった。乾燥燻製部4の雰囲気温度は50〜80℃に維持した。炭化槽内の二酸化炭素濃度に対する一酸化炭素濃度の比(CO/CO)が0.4を超えた後(CO濃度=22.5%、CO濃度=50.3%、CO/CO=0.45)は、2次加熱部の熱交換器2による燻煙の加熱温度(596℃)を、炭化槽内の二酸化炭素濃度1%低下当たり16℃下げた。炭化槽内の二酸化炭素濃度が39.2%に低下した時点で植物原料の熱分解を止め、装置の運転を停止し、燻製食品の製造を終了した。炭化槽内の二酸化炭素濃度が39.2%に低下した時点の、燻煙の加熱温度は424℃であった。
(比較例1の燻製食品の製造)
炭化槽内の二酸化炭素濃度に対する一酸化炭素濃度の比(CO/CO)が0.4を超えた後も、2次加熱部の熱交換器2による燻煙の加熱温度を下げずに550〜600℃に維持したこと、及び、炭化槽内の二酸化炭素濃度が約60%に低下した時点で植物原料の熱分解を止めたこと以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1の燻製食品の製造を行った。
(燻製食品の揮発性成分の分析)
実施例1及び比較例1において製造した燻製食品(鰹節)の揮発性成分の捕集(分析サンプルの調製)は、ダイナミックヘッドスペース(DHS)法により行った。具体的には、以下の手順で、実施例1及び比較例1の燻製食品の揮発性成分を捕集し、分析サンプルを調製した。
[分析サンプルの調製方法]
燻製食品(鰹節)を2g秤取し、100℃のお湯200gを加え、よく撹拌したのち、10分間静置する。得られた溶液をフィルターでろ過し、室温まで氷冷した後、ろ液2mlを10mlスクリューキャップバイアルに正確にとり、栓をする。
調製した分析サンプルの揮発性成分は、GC−MS装置により分析した。
DHS法でのサンプル導入にはオートサンプラと加熱脱着装置および昇温気化型注入口を組み合わせて用いた。
<DHS条件>
使用機器:DHSオプション付オートサンプラ MPS2(GERSTEL社製)
使用トラップ管:Tenax TA(GERSTEL社製) 内径4mm、長さ60mm
サンプル温度:37℃
予備加熱時間:10min
トラップ管温度:37℃
トラップ流量:50mL/min(12min)
ドライパージ温度:40℃
ドライパージ流量:50mL/min(20min)
<加熱脱着装置条件>
使用装置:TDU(GERSTEL社製)
昇温条件:30℃(0.2min保持)→720℃/min昇温→280℃(3min保持)
<昇温気化型注入口条件>
使用装置:CIS4(GERSTEL社製)
使用ライナー:Tenax TA(GERSTEL社製)
トラップ温度:37℃
スプリットベント流量:20mL/min(2min)
注入温度:250℃
<GC条件>
使用機器:7890A(Agilent Technologies社製)
使用カラム:DB−WAX(J&W社製) 内径0.25mm、長さ60m、膜厚0.25μm
キャリアガス:He
キャリアガス流量:1.5mL/min(コンスタントフローモード)
オーブン温度:40℃(2min保持)→4℃/min昇温→220℃(5min保持)
<MS条件>
使用機器:5975C(Agilent Technologies社製)
イオン化モード:EI
イオン化電圧:70eV
測定モード:Scan(29〜300amu)
得られたトータルイオンクロマトグラム(TIC)から、ケトン類のピーク面積の総和(A)、フェノール類のピーク面積の総和(B)、窒素化合物のピーク面積の総和(C)、炭化水素類のピーク面積の総和(D)及び全成分の各ピーク面積の総和をそれぞれ測定し、全成分のピーク面積の総和に占めるA〜Dの各割合を算出した。実施例1の結果を表1に、比較例1の結果を表2それぞれに示す。
(燻製食品の官能評価)
実施例1及び比較例1において製造した燻製食品(鰹節、20g)をそれぞれミキサーで粉砕した後、100℃のお湯(2,000g)に溶解し、1%熱水溶液を評価サンプルとして作製した。
各評価サンプルを10分間、100℃で加熱した後、8名の訓練されたパネルが、加熱前及び加熱後の評価サンプルを飲み、それぞれの燻香(燻煙由来の香り)の強度を評価した。評価は、加熱前の燻香の強度を5点、全く燻香がない状態を0点とする評点法により行った。実施例1及び比較例1の加熱前の評価サンプルの燻香の強度は、ほぼ同等であった。
結果(8名のパネルの評点の平均、標準偏差)を表3に示す。また比較例1の結果を図4に、実施例1の結果を図5にそれぞれ示す。
表3、図4及び図5に示す結果から明らかなように、本発明の実施例1の燻製食品は、比較例1の燻製食品に比べ、加熱後も燻香が維持されることが示された。
本発明によれば、加熱されても香りが減弱及び消失しにくい燻製食品を提供することができる。特に、本発明により提供される加熱されても香りが減弱及び消失しにくい燻製食品は、使用する植物原料の種類を変更することなく製造し得るため、目的とする好ましい香りの質が損なわれることなく、燻煙由来の好ましい香りを有し得る。
2、3 熱交換機
4 乾燥燻煙部
32 燻煙発生部
33 電気ヒーター
44 トレイ
45、46 循環ファン
47 排気ファン
48 炭化槽
DP4、DP5 ダンパー
T1、T2、T3、T4、T5 温度センサー
B1、B2 バーナー

Claims (2)

  1. 燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける、ケトン類のピーク面積の総和をAとし、フェノール類のピーク面積の総和をBとし、且つ窒素化合物のピーク面積の総和をCとするとき、
    A:(B+C)が、15〜35:45〜75である、燻製食品であって、
    前記ガスクロマトグラムにおける全成分のピーク面積の総和に占める前記Aの割合が15〜35%、前記B及びCの合計の割合が45〜75%であり、
    前記燻製食品が、魚節であり、
    前記揮発性成分は、下記の方法で調製された分析サンプルから、ダイナミックヘッドスペース法により捕集されるものであり、
    前記ガスクロマトグラムにおける、ケトン類のピーク面積の総和、フェノール類のピーク面積の総和、窒素化合物のピーク面積の総和及び全成分のピーク面積の総和が、前記揮発性成分を下記GC条件のGC/MS法で分析して得られるトータルイオンクロマトグラムから測定される値である、燻製食品。
    [分析サンプルの調製方法]
    燻製食品を2g秤取し、100℃のお湯200gを加えて撹拌したのち、10分間静置する。得られた溶液をフィルターでろ過し、室温まで氷冷した後、ろ液2mlを10mlスクリューキャップバイアルにとり、栓をする。
    <GC条件>
    使用機器:7890A(Agilent Technologies社製)
    使用カラム:DB−WAX 内径0.25mm、長さ60m、膜厚0.25μm
    キャリアガス:He
    キャリアガス流量:1.5mL/min(コンスタントフローモード)
    オーブン温度:40℃(2min保持)→4℃/min昇温→220℃(5min保持)
  2. 更に、燻製食品の揮発性成分のガスクロマトグラムにおける、炭化水素類のピーク面積の総和をDとするとき、
    A:Dが、15〜35:5〜10であり、
    前記ガスクロマトグラムにおける、炭化水素類のピーク面積の総和が、前記揮発性成分を請求項1記載のGC条件のGC/MS法で分析して得られるトータルイオンクロマトグラムから測定される値である、請求項1記載の燻製食品。
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