以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図1を参照しながら、第1実施形態に係る制御装置100について説明する。制御装置100は、車両10(全体は不図示)に搭載される装置であって、車両10が有する制駆動装置14や変速機16の制御を行うための装置として構成されている。制御装置100の説明に先立ち、車両10の構成について説明する。
車両10は、車速の調整を自動的に行う自動運転モードと、車速の調整を運転者の操作に基づいて行う手動運転モードと、を実行し得る車両、すなわち自動運転車両として構成されている。車両10は、走路情報取得装置11と、モード切り換えスイッチ12と、制駆動装置14と、ECU13と、変速機16と、ECU15と、を備えている。
走路情報取得装置11は車載カメラである。走路情報取得装置11は、車両10の前方側にある道路を撮影し、画像解析によって当該道路の形状を取得するために設けられている。当該道路は、車両10がこれから走行する走路といえるものであり、以下では「目標走路」とも称する。走路情報取得装置11によって、目標走路の曲率や勾配等の情報が取得される。これらの情報のことを、以下では「走路情報」とも称する。
走路情報を取得するための走路情報取得装置11は、本実施形態のように車載カメラであってもよく、GPSと地図データとを用いたナビゲーションシステムであってもよい。また、車載カメラとナビゲーションシステム等とを複合的に備えた装置として、走路情報取得装置11が構成されていてもよい。走路情報取得装置11によって取得された画像データ等の情報は、制御装置100に送信される。
モード切り換えスイッチ12は、自動運転モードと手動運転モードを切り換えるために、車両10の乗員、具体的には運転者が操作するスイッチである。モード切り換えスイッチ12は、車両10の運転席の近傍に設けられている。
モード切り換えスイッチ12に対し、運転者によって自動運転モードに切り換える操作が行われると、車両10では自動運転モードが実行される。自動運転モードの実行時には、車両10の駆動力の制御、及び制動力の制御が、いずれも自動的に行われる。これにより、車両10の車速は目標車速(後述)に自動的に一致した状態となる。自動運転モードの実行時においては、上記の制御に加えて、車両10の操舵が自動的に行われてもよい。自動運転モードの実行時において行われる制動力の制御には、内燃機関の減速力(所謂エンジンブレーキ)を用いた制御も含まれる。
モード切り換えスイッチ12に対し、運転者によって手動運転モードに切り換える操作が行われると、車両10では手動運転モードが実行される。手動運転モードの実行時には、車両10の駆動力の制御、及び制動力の制御が、いずれも運転者が行う操作によって行われる。運転者が行う操作とは、具体的にはアクセルペダルやブレーキペダルを踏み込む操作である。
制駆動装置14は、車両10の駆動力を生じさせる内燃機関等の駆動装置と、車両10の制動力を生じさせるブレーキ装置等の制動装置と、を含むものである。図1では、これらの駆動装置と制動装置とが、単一のブロックである制駆動装置14として示されている。制駆動装置14の動作は、次に述べるECU13を介することにより、制御装置100によって制御される。
ECU13は、制駆動装置14の動作を制御するためのコンピュータシステムである。ECU13は、制御装置100から送信される制御信号に基づいて、制駆動装置14の動作を制御する。ECU13は、制駆動装置14に含まれる駆動装置及び制動装置に対応して個別に設けられていてもよい。また、制御装置100が、ECU13を介することなく、制駆動装置14の制御を直接的に行うように構成されていてもよい。つまり、制御装置100が、ECU13の機能を包含しているような態様であってもよい。
変速機16は、内燃機関の回転速度を変速させて駆動輪に伝達するための機構である。例えば車両10が低速で走行しているとき等には、変速機16における変速比が高くなるように(つまりギヤ段が低くなるように)、変速機16の制御が行われる。また、車両10が高速で走行しているとき等には、変速機16における変速比が低くなるように(つまりギヤ段が高くなるように)、変速機16の制御が行われる。本実施形態に係る変速機16は、変速比を段階的に変化させる多段式の変速機として構成されている。変速機16は、変速比を連続的に変化させる無断式の変速機であってもよい。変速機16の変速比は、次に述べるECU15を介することにより、制御装置100によって制御される。
ECU15は、変速機16の動作を制御するためのコンピュータシステムである。ECU15は、制御装置100から送信される制御信号に基づいて、変速機16の動作(具体的には変速比)を制御する。制御装置100が、ECU15を介することなく、変速機16の制御を直接的に行うように構成されていてもよい。つまり、制御装置100が、ECU15の機能を包含しているような態様であってもよい。
引き続き図1を参照しながら、制御装置100について説明する。制御装置100は、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータシステムとして構成されている。制御装置100は、機能的な制御ブロックとして、情報取得部110と、目標車速設定部120と、制駆動力制御部130と、変速比制御部140と、余裕代算出部150と、を有している。
情報取得部110は、走路情報取得装置11で取得されたデータを受信し、当該データから先に述べた走路情報を取得する処理を行う部分である。本実施形態では、走路情報取得装置11から送信された画像データを情報取得部110が処理することにより、目標走路の曲率や勾配等の走路情報が取得される。このような態様に替えて、画像データの処理が走路情報取得装置11側で行われ、処理の結果得られた走路情報が情報取得部110に送信されるような態様であってもよい。情報取得部110で取得された走路情報は、目標車速設定部120及び余裕代算出部150のそれぞれに送信される。
尚、目標走路としては、例えば現時点における車両10の位置から、走路に沿って所定の距離だけ前方側となる位置、が設定される。また、例えば現時点における車両10の位置から、走路に沿って所定時間走行した時に車両10が到達する位置、が目標走路として設定されてもよい。
目標車速設定部120は、上記の走路情報に基づいて、車両が目標走路を走行する際の目標車速を設定する部分である。「目標車速」とは、自動運転モードの実行時における車速の目標値である。例えば、目標走路がカーブである場合、すなわち、車両10がこれからカーブに差し掛かる場合には、目標車速が低めの値に設定される。また、車両10がカーブを抜けて、目標走路が直線となった場合には、目標車速が高めの値に設定される。設定された目標車速は、制駆動力制御部130及び変速比制御部140のそれぞれに送信される。
制駆動力制御部130は、目標走路における車両10の車速が目標車速に一致するように、車両10の駆動力及び制動力を制御する部分である。車両10を加速させる必要がある場合には、制駆動力制御部130は、駆動力を増加させるための制御信号をECU13に送信し、加速に必要な動作を制駆動装置14(具体的には駆動装置)に行わせる。車両10を減速させる必要がある場合には、制駆動力制御部130は、制動力を増加させるための制御信号をECU13に送信し、減速に必要な動作を制駆動装置14(具体的には制動装置)に行わせる。
尚、制駆動力制御部130がこのような制御を行うのは、自動運転モードの実行時のみである。手動運転モードの実行時には、既に述べたように、駆動力等の制御は運転者が行う操作によって行われる。このため、制駆動力制御部130は上記のような処理を行わない。
変速比制御部140は、変速機16における変速比の制御を行う部分である。変速比制御部140は、車両10の車速等に応じて適切な変速比となるように、変速機16の動作を制御する。例えば、変速比を小さくする必要が有る場合には、変速比制御部140は、ギヤ段を上げる(つまりシフトアップする)ための制御信号をECU15に送信し、変速機16における変速比を低下させる。変速比を大きくする必要が有る場合には、変速比制御部140は、ギヤ段を下げる(つまりシフトダウンする)ための制御信号をECU15に送信し、変速機16における変速比を上昇させる。
変速比制御部140は、自動運転モードの実行時、及び手動運転モードの実行時、のいずれにおいても変速比の制御を行う。ただし、自動運転モードの実行時と手動運転モードの実行時とでは、変速比制御部140が行う制御の態様が異なっている。具体的な態様については後に説明する。
変速比制御部140は、変速比設定部141と変速比調整部142とを有している。変速比設定部141は、内燃機関の回転数や車速等に基づいて適切な変速比を設定する部分である。変速比設定部141によって行われる変速比の設定は、一般的な車両において行われるものと同様の態様により行われる。
手動運転モードの実行時においては、変速比設定部141で設定された変速比に対応する制御信号が、そのままECU15に送信される。つまり、手動運転モードの実行時においては、一般的な車両と同様の態様で変速比の制御が行われることとなる。
変速比調整部142は、自動運転モードの実行時において、変速比設定部141で設定された変速比を必要に応じて変更する処理を行う部分である。本実施形態における変速比調整部142は、余裕代算出部150から送信される余裕駆動力及び余裕減速力(いずれも後述する)に基づいて、変速比を変更する処理を行う。変速比調整部142によって変速比を変更する処理が行われると、変更後の変速比に対応する制御信号がECU15に送信される。
余裕代算出部150は、余裕駆動力及び余裕減速力を算出し、これを変速比調整部142に送信する部分である。余裕駆動力及び余裕減速力について、図2を参照しながら説明する。
図2に示される線L01は、変速機16のギヤ段が「1速」となっているとき、すなわち変速機16の変速比が最も大きくなっているときにおける、車速(横軸)と最大駆動力(縦軸)との関係を示す走行性能曲線である。最大駆動力とは、車両10が発生させ得る駆動力の最大値のことである。
駆動力及び最大駆動力の符号は、車両10が走行している方向に力が働くときを正とする。つまり、駆動力及び最大駆動力の値は正値として表現される。
線L02は、変速機16のギヤ段が「2速」となっているとき、すなわち変速機16の変速比が2番目に大きくなっているときにおける、車速と最大駆動力との関係を示す走行性能曲線である。
同様に、変速機16のギヤ段が「3速」から「8速」までのそれぞれに対応する走行性能曲線が、図2では線L03から線L08までのそれぞれの線によって示されている。図2に示されるように、変速機16のギヤ段が大きくなるほど、すなわち変速比が小さくなるほど、それぞれギヤ段に対応する最大駆動力は小さくなる傾向がある。
線L09は、走行中の車両10が受ける走行抵抗の大きさを示す線である。この走行抵抗には、例えば車両10が路面や空気から受ける抵抗力が含まれる。また、車両10が斜面を走行する際において、車両10に働く重力のうち斜面に沿った成分の力も、上記の走行抵抗に含まれる。走行抵抗の値の符号は、車両10が走行している方向とは逆方向に走行抵抗が働くときを正とする。このため、車両10が下り斜面を走行しているときには、走行抵抗が負値となることもある。図2の線L09に示される例では、車速が大きくなるほど走行抵抗の値が大きくなっている。
余裕駆動力とは、車両10が目標走路を走行する際の、車両10の内燃機関(つまり動力源)による最大駆動力と、車両10に働く走行抵抗との差の絶対値、のことである。図2に示される例では、車両10が目標走路を走行する際において、車速がV10であり且つギヤ段が「2速」であるときには、最大駆動力はFP2となっており、走行抵抗はFRとなっている。このため、このときの余裕駆動力は、FP2からFRを差し引いた値の絶対値となる。図2では、このように算出された余裕駆動力がΔFP2として示されている。
同様に、車速がV10であり且つギヤ段が「3速」であるときには、最大駆動力はFP3となっており、走行抵抗はFRとなっている。このため、このときの余裕駆動力は、FP3からFRを差し引いた値の絶対値となる。図2では、このように算出された余裕駆動力がΔFP3として示されている。ギヤ段が「3速」であるときの余裕駆動力ΔFP3は、ギヤ段が「2速」であるときの余裕駆動力ΔFP2よりも小さな値となっている。
ここで、「減速力」及び「最大減速力」について定義する。「減速力」とは、内燃機関による制動力、すなわち所謂エンジンブレーキによって生じる制動力のことである。最大減速力とは、スロットル開度が全閉となっているときにおける最大の減速力のことである。
図2に示される最大駆動力と同様に、ギヤ段が大きくなるほど、すなわち変速比が小さくなるほど、それぞれギヤ段に対応する最大減速力の絶対値は小さくなる傾向がある。減速力及び最大減速力の符号は、最大駆動力の場合と同様に、車両10が走行している方向に力が働くときを正とする。つまり、減速力及び最大減速力の値は負値として表現される。
余裕減速力とは、車両10が目標走路を走行する際の、車両10の内燃機関(つまり動力源)による最大減速力と、車両10に働く走行抵抗との差の絶対値、のことである。例えば目標走路が下り斜面となっており、上記の走行抵抗が負値となっているときには、目標走路が平坦であるときに比べて余裕減速力は小さな値となる。
それぞれのギヤ段に対応する、車速と最大減速力との関係をグラフに描くと、図2に示されるそれぞれの線を、横軸について概ね上下反転させたようなグラフとなる。具体的な図示は省略するが、例えばギヤ段が「3速」であるときの余裕減速力は、ギヤ段が「2速」であるときの余裕減速力よりも小さな値となる。
図3の線L11に示されるのは、変速段(横軸)を変化させて行った場合における最大駆動力の変化である。図3では、右側に行くほど変速段が大きくなっている。すなわち、右側に行くほど変速比が小さくなっている。図3の線L12に示されるのは、変速段を変化させて行った場合における最大減速力の変化である。図3の線L13に示されるのは走行抵抗である。走行抵抗の大きさは、当然ながら変速段によって変化しない。図3の例では、走行抵抗は常にFRとなっている。
図3の例では、変速段が「3速」となっているときの最大駆動力がFP3となっており、このときの余裕駆動力がΔFP3(=|FP3−FR|)となっている。また、変速段が「4速」となっているときの最大駆動力がFP4となっており、このときの余裕駆動力がΔFP4(=|FP4−FR|)となっている。図3に示されるように、ギヤ段が高くなり変速比が小さくなるほど、余裕駆動力は小さくなる傾向がある。
また、図3の例では、変速段が「3速」となっているときの最大減速力がFM3となっており、このときの余裕減速力がΔFM3(=|FM3−FR|)となっている。また、変速段が「4速」となっているときの最大減速力がFM4となっており、このときの余裕減速力がΔFM4(=|FM4−FR|)となっている。図3に示されるように、ギヤ段が高くなり変速比が小さくなるほど、余裕減速力は小さくなる傾向がある。
図1に示される余裕代算出部150は、以上に述べたような余裕駆動力及び余裕減速力を算出し、これを変速比調整部142に送信する。余裕代算出部150による余裕駆動力及び余裕減速力の算出は、走路情報、目標車速、現在のギヤ段(変速比)、及び車両情報に基づいて行われる。「車両情報」とは、例えば車両10の重量や形状等、車両10が受ける走行抵抗の大きさに影響を及ぼす各種のパラメータのことである。
図4を参照しながら、余裕代算出部150の機能について更に説明する。余裕代算出部150は、駆動算出部151と、走路抵抗算出部152と、加算器153、154とを有している。
駆動算出部151は、現在のギヤ段とエンジン回転数とに基づいて、車両10が目標走路を走行する際の最大駆動力FP及び最大減速力FMをそれぞれ算出する部分である。最大駆動力FP及び最大減速力FMの算出にあたっては、エンジン回転数に対応する車速が用いられる。
制御装置100の記憶装置(不図示)には、図2に示される車速と最大駆動力との関係や、車速と最大減速力との関係が、予めマップとして記憶されている。駆動算出部151は、当該マップを参照することにより、最大駆動力FP及び最大減速力FMをそれぞれ算出する。駆動算出部151によって算出された最大駆動力FPは、加算器153に送信される。駆動算出部151によって算出された最大減速力FMは、加算器154に送信される。
走路抵抗算出部152は、現在の車速と、走路情報(具体的には目標走路の勾配)と、車両情報とに基づいて、目標走路において車両10に働く走路抵抗FRを算出する部分である。本実施形態では、車速、走路情報、及び車両情報と、走路抵抗FRとの対応関係が、制御装置100の記憶装置に予めマップとして記憶されている。走路抵抗算出部152は、当該マップを参照することにより走路抵抗FRを算出する。走路抵抗算出部152によって算出された走路抵抗FRは、加算器153、154のそれぞれに送信される。
加算器153では、最大駆動力FPから走路抵抗FRを差し引いた後にその絶対値をとることにより、余裕駆動力ΔFPを算出する。また、加算器154では、最大減速力FMから走路抵抗FRを差し引いた後にその絶対値をとることにより、余裕減速力ΔFMを算出する。算出された余裕駆動力ΔFP及び余裕減速力ΔFMは、余裕代算出部150から変速比調整部142へと送信される
図5を参照しながら、制御装置100によって実行される処理の流れについて説明する。図5に示される一連の処理は、所定の制御周期が経過する毎に繰り返し実行されるものである。
最初のステップS01では、自動運転モードが実行中であるか否かが判定される。当該判定は、モード切り換えスイッチ12の状態を参照することによって行われる。自動運転モードが実行中である場合にはステップS02に移行する。ステップS02では、自動運転モード用の変速制御が行われる。その具体的な態様については後に説明する。
ステップS01において、自動運転モードが実行中でなかった場合、すなわち手動運転モードが実行中であった場合には、ステップS03に移行する。ステップS03では、手動運転モード用の変速制御が行われる。既に述べたように、手動運転モードの実行時においては、変速比設定部141で設定された変速比に対応する制御信号がそのままECU15に送信されることにより、一般的な車両と同様の態様で変速比の制御が行われる。この手動運転モード用の変速制御の態様は、次に説明する自動運転モード用の変速制御の態様とは異なっている。
図6を参照しながら、自動運転モード用の変速制御について概要を説明する。図6(A)には、自動運転モードの車両10が走路を走行している状態が模式的に示されている。図6の例では、時刻t10よりも前の時刻においては、車両10が登り斜面の走路を走行している。また、時刻t10以降においては、車両10が下り斜面の走路を走行している。
図6(B)の線L21に示されるのは、車両10の最大駆動力の時間変化である。図6(B)の線L22に示されるのは、車両10の最大減速力の時間変化である。図6(B)の線L23に示されるのは、車両10が受ける走路抵抗の時間変化である。
線L23に示されるように、時刻t10よりも前における走路抵抗は、登り斜面における重力の影響によって正値(FR1)となっている。一方、時刻t10よりも後における走路抵抗は、下り斜面における重力の影響によって負値(FR2)となっている。尚、実際の走路抵抗は、時刻t10の前後において連続的に変化するのであるが、簡単のために、図6(B)では線L22が時刻t10において不連続に変化するように描かれている。最大駆動力を示す線L21、及び最大減速力を示す線L22についても同様である。
図6の例では、時刻t10において変速機16のギヤ段が「3速」から「2速」に切り換えられている。これに伴い、時刻t10よりも前にはFP3であった最大駆動力は、それよりも大きなFP2へと変化している。また、時刻t10よりも前にはFM3であった最大減速力は、それよりも絶対値の大きなFM2へと変化している。
仮に、時刻t10以降においても変速機16のギヤ段が「3速」のままであった場合には、時刻t10以降の余裕駆動力はΔFP3(=|FP3−FR2|)となる。しかしながら、実際には変速機16のギヤ段が「3速」から「2速」に切り換えられたことにより、時刻t10以降の余裕駆動力はΔFP2(=|FP2−FR2|)となっている。この余裕駆動力ΔFP2は、「3速」のままであった場合における余裕駆動力ΔFP3よりも大きい。
同様に、仮に、時刻t10以降においても変速機16のギヤ段が「3速」のままであった場合には、時刻t10以降の余裕減速力はΔFM3(=|FM3−FR2|)となる。しかしながら、実際には変速機16のギヤ段が「3速」から「2速」に切り換えられたことにより、時刻t10以降の余裕減速力はΔFM2(=|FM2−FR2|)となっている。この余裕減速力ΔFM2は、「3速」のままであった場合における余裕減速力ΔFM3よりも大きい。
このように、自動運転モードの実行時においては、車両10が下り斜面に差し掛かると、比較的早い段階でギヤ段が低くなるように(変速比が大きくなるように)に切り換えられる。これにより、運転者には十分なエンジンブレーキの効き感が感じられる。
自動運転モードの実行時において、仮に、ギヤ段が「2速」に切り換えられるタイミングが時刻t10よりもずっと後のタイミングであった場合には、下り斜面において車両10が加速し過ぎるような不安感を運転者が感じてしまう傾向がある。これは、自動運転モードの実行時においては、運転者が制動力の調整(つまりブレーキの操作)を自分で行わないためと考えられる。本実施形態に係る制御装置100は、自動運転モードの実行時においては早めのシフトダウンを行うようにすることで、運転者が感じる上記のような不安感を抑制している。
尚、図6に示されるのは、制御装置100によって行われる制御の一例に過ぎない。自動運転モードの実行中においてギヤ段を低くするタイミングは、車両10が登り斜面の頂上に到達したタイミング(時刻t10)とは異なるタイミングであってもよい。
手動運転モードの実行時においては、余裕駆動力等の算出や、余裕駆動力等に基づいた変速機の制御は行われない。このため、図6(A)に示されるような走路を車両10が走行する場合には、時刻t10よりも後の時刻(つまり、車両10が下り斜面を走行し始めてからしばらく経った後)において、例えば運転者のブレーキ操作等に応じて変速機16のギヤ段が「3速」から「2速」へと切り換えられることとなる。
手動運転モードの実行時には、運転者は制動力の調整を自分で行っている。このため、変速機16のギヤ段が「3速」から「2速」へと切り換えられるタイミングが、上記のように時刻t10よりも後のタイミングであっても、運転者は不安感を感じることが無い。
このように、適切なシフトチェンジのタイミングは、自動運転モードの実行時と、手動運転モードの実行時とで異なるものとなる。同様のことは、車両10がカーブの手前で減速する際のシフトチェンジや、車両10がカーブを抜けて加速する際のシフトチェンジについてもいうことができる。例えば、自動運転モードの実行時において車両がカーブを抜けて加速する際には、手動運転モードの実行時に比べて早いタイミングでシフトチェンジを行わないと、運転者はメリハリ感が不足していると感じてしまう傾向がある。これは、自動運転モードの実行中においては、運転者が駆動力の調整(つまりアクセルの操作)を自分で行わないためと考えられる。
そこで、本実施形態に係る制御装置100は、自動運転モードの実行時における変速比の制御を、手動運転モードの実行時における変速比の制御とは異なる態様で行うように構成されている。具体的には、自動運転モードの実行時において変速比を大きな値に変化させる制御(つまりシフトダウン)を、手動運転モードの実行時に比べて早いタイミングで行うように構成されている。これにより、自動運転モードの実行時において、運転者等の乗員が感じる不安感等の違和感を抑制している。
図5のステップS02において行われる処理、すなわち、自動運転モード用の変速制御において行われる具体的な処理の内容について、図7を参照しながら説明する。最初のステップS11では、余裕代算出部150によって余裕駆動力ΔFP及び余裕減速力ΔFMが算出される。その算出方法は、図4を参照しながら説明したとおりである。
ステップS11に続くステップS12では、余裕駆動力ΔFPが第1上限値ULPよりも大きく、且つ、余裕減速力ΔFMが第2上限値ULMよりもよりも大きいか否か、が判定される。当該判定は、変速比調整部142において行われる。第1上限値ULPとは、自動運転モードの実行時において余裕駆動力ΔFPを概ね維持すべき範囲(以下、「第1範囲」とも称する)の上限値として、予め設定された値である。また、第2上限値ULMとは、自動運転モードの実行時において余裕減速力ΔFMを概ね維持すべき範囲(以下、「第2範囲」とも称する)の上限値として、予め設定された値である。
ステップS12の判定が肯定である場合には、ステップS17に移行する。ステップS17に移行したということは、余裕駆動力ΔFP及び余裕減速力ΔFMの両方が大きくなり過ぎており、現在の変速比が大きすぎるということである。そこで、ステップS17では、ギヤ段を1段上げる(変速比を下げる)ための条件であるアップシフト許可条件が成立しているか否かが判定される。アップシフト許可条件とは、ギヤ段を上げる動作を変速機16に行わせるために必要な条件として、予め設定されている条件である。アップシフト許可条件としては、例えばATFの圧力が上昇し過ぎていないこと、等が挙げられる。アップシフト許可条件は変速比設定部141において設定されており、ステップS17の判定は変速比設定部141によって行われる。
アップシフト許可条件が成立している場合には、ステップS18に移行する。ステップS18では、変速比調整部142が、変速比設定部141で現在設定されているギヤ段を1段上げる処理を行う。その結果として、ここではギヤ段を1段上げるための制御指令がECU15に送信される。これに応じて、変速機16はギヤ段を1段上げる動作を行う。
ステップS17において、アップシフト許可条件が成立していなかった場合には、ステップS14に移行する。ステップS14に移行した場合には、変速機16のギヤ段は変更されず、それまでと同じ状態が維持される。
ステップS12の判定が否定であった場合には、ステップS13に移行する。ステップS13では、余裕駆動力ΔFPが第1下限値LLP以下であるか、又は、余裕減速力ΔFMが第2下限値LLM以下であるか否か、が判定される。当該判定は、変速比調整部142において行われる。第1下限値LLPとは、先に述べた第1範囲の下限値として予め設定された値である。また、第2下限値LLMとは、先に述べた第2範囲の下限値として予め設定された値である。
ステップS13の判定が肯定であった場合には、ステップS15に移行する。ステップS15に移行したということは、余裕駆動力ΔFP及び余裕減速力ΔFMのうち少なくとも一方小さくなり過ぎているということである。そこで、ステップS15では、ギヤ段を1段下げる(変速比を上げる)ための条件であるダウンシフト許可条件が成立しているか否かが判定される。ダウンシフト許可条件とは、ギヤ段を下げる動作を変速機16に行わせるために必要な条件として、予め設定されている条件である。アップシフト許可条件としては、例えばATFの圧力が上昇し過ぎていないこと、等が挙げられる。ダウンシフト許可条件は変速比設定部141において設定されており、ステップS15の判定は変速比設定部141によって行われる。
ダウンシフト許可条件が成立している場合には、ステップS16に移行する。ステップS16では、変速比調整部142が、変速比設定部141で現在設定されているギヤ段を1段下げる処理を行う。その結果として、ここではギヤ段を1段下げるための制御指令がECU15に送信される。これに応じて、変速機16はギヤ段を1段下げる動作を行う。
ステップS16で行われる処理により、余裕駆動力ΔFP及び余裕減速力ΔFMのそれぞれの値は大きくなる。このような処理が繰り返されると、その後において余裕駆動力ΔFPは第1下限値LLPよりも大きくなり、余裕減速力ΔFMは第2下限値LLMよりも大きくなる。
ステップS15において、ダウンシフト許可条件が成立していなかった場合には、ステップS14に移行する。既に述べたように、ステップS14に移行した場合には、変速機16のギヤ段は変更されず、それまでと同じ状態が維持される。
以上のように、自動運転モードの実行時において、変速比制御部140は、余裕駆動力ΔFPが所定の第1下限値LLPよりも大きくなり、且つ、余裕減速力ΔFMが所定の第2下限値LLMよりも大きくなるように、変速機16における変速比の制御を行う。
このため、上記のような制御を行わない手動運転モードの実行時に比べると、変速比を大きな値に変化させる制御が、自動運転モードにおいては早いタイミングで実行されることとなる。これにより、本実施形態では運転者等の乗員が感じる違和感(メリハリ感の不足や不安感)が抑制される。
第2実施形態について説明する。本実施形態は、余裕代算出部150で実行される処理の態様においてのみ第1実施形態と異なっており、その他の点については第1実施形態と同じである。
本実施形態における余裕代算出部150の機能について、図8を参照しながら説明する。本実施形態における余裕代算出部150は、第1実施形態における余裕代算出部150(図4)に対し、曲率補正部155、及び乗算器156、157を追加した構成となっている。
曲率補正部155は、走路情報に含まれる目標走路の曲率に基づいて、補正係数を算出する部分である。図9には、目標走路の曲率(横軸)と、算出される補正係数(縦軸)との対応関係が示されている。この対応関係は、制御装置100の記憶装置に予めマップとして記憶されている。
図9に示されるように、曲率がφ1以下である場合、すなわち、目標走路が概ね直線に近い場合には、算出される補正係数は1となる。また、曲率がφ2よりも大きい場合には、算出される補正係数は0.1となる。曲率がφ1からφ2までの範囲である場合には、算出される補正係数は1から0.1までの範囲内の値となる。この場合、曲率が大きくなるほど、算出される補正係数は小さくなる。
図8に戻って説明を続ける。曲率補正部155によって算出された補正係数は、乗算器156及び乗算器157のそれぞれに送信される。
乗算器156では、加算器153で算出された余裕駆動力ΔFPに対し、上記の補正係数を掛けることによって得られた値が、あらためて余裕駆動力ΔFPとして算出される。余裕代算出部150から変速比調整部142へと出力される余裕駆動力ΔFPは、乗算器156において上記演算が行われた後の余裕駆動力ΔFPである。
また、乗算器157では、加算器154で算出された余裕減速力ΔFMに対し、上記の補正係数を掛けることによって得られた値が、あらためて余裕減速力ΔFMとして算出される。余裕代算出部150から変速比調整部142へと出力される余裕減速力ΔFMは、乗算器157において上記演算が行われた後の余裕減速力ΔFMである。
以上のような処理が行われることにより、目標走路の曲率が大きいときには、余裕代算出部150から出力される余裕駆動力ΔFP及び余裕減速力ΔFMは、いずれも第1実施形態の場合よりも小さな値となる。また、目標走路の曲率が大きくなるほど、出力される余裕駆動力ΔFP及び余裕減速力ΔFMはいずれも小さな値となる。その結果、図7のステップS13における判定が肯定となりやすくなるので、第1実施形態の場合よりも更に早いタイミングで、ギヤ段を1段下げる処理が行われることとなる。
このように、本実施形態の変速比制御部140は、変速比を大きな値に変化させる制御を、走路情報に基づいて行うように構成されている。具体的には、走路情報に含まれる目標走路の曲率が大きい程、変速比制御部140は変速比を大きな値に変化させやすくなる。これにより、車両10がカーブに差し掛かる際には、当該カーブの曲率が大きくなるほど、早いタイミングでギヤ段を1段下げる処理が行われることとなる。その結果、乗員が感じる違和感を更に抑制することができる。
第3実施形態について説明する。図示は省略するが、本実施形態に係る制御装置100は、図1に示される第1実施形態の構成から、余裕代算出部150を除いた構成となっている。
図10に示されるのは、手動運転モードの実行時において用いられる変速スケジュールである。図10の横軸に示されるのは車両10の車速であり、縦軸に示されるのは車両10のスロットル開度である。尚、縦軸を車両10のアクセル開度とした場合にも、図10と同様の図となる。
線L31は、変速機16の変速比が「1速」とされる領域と、変速比が「2速」とされる領域との境界を示す線である。線L32は、変速機16の変速比が「2速」とされる領域と、変速比が「3速」とされる領域との境界を示す線である。線L33は、変速機16の変速比が「3速」とされる領域と、変速比が「4速」とされる領域との境界を示す線である。線L34は、変速機16の変速比が「4速」とされる領域と、変速比が「5速」とされる領域との境界を示す線である。線L35は、変速機16の変速比が「5速」とされる領域と、変速比が「6速」とされる領域との境界を示す線である。
この変速スケジュールに基づいて変速比の制御が行われる場合には、一般的な車両の場合と同様に、車速が大きくなるほどギヤ段が上げられて、変速比が小さくされる。また、スロットル開度が大きくなると、車両10を加速するためにギヤ段が下げられて、変速比が大きくされる。図10に示される変速スケジュールは、手動運転モードのための変速スケジュールとして予め設定されており、制御装置100の記憶装置に記憶されている。
図11に示されるのは、自動運転モードの実行時において用いられる変速スケジュールである。図11の横軸及び縦軸は、それぞれ図10の横軸及び縦軸と同じである。
また、図11の線L31から線L35までの線が意味するところは、図10線L31から線L35までの線が意味するところと同じである。ただし、図11における線L31等の形状は、図10における線L31等の形状とは異なっている。図11には、図10における線L31等が参考のために点線で示されている。図11に示される変速スケジュールは、自動運転モードのための変速スケジュールとして予め設定されており、制御装置100の記憶装置に記憶されている。
図11における線L31は、図10における線L31を右側に(つまり車速が大きい側に)シフトさせたような形状となっている。その他の線L32等についても同様である。
手動運転モードの実行時には、変速比設定部141は、図10の変速スケジュールに基づいて変速機16の変速比を制御する。
一方、自動運転モードの実行時には、変速比設定部141が参照する変速スケジュールが、変速比調整部142によって図11に示される変速スケジュールに置き換えられる。このため、自動運転モードの実行時における変速比設定部141は、図11の変速スケジュールに基づいて変速機16の変速比を制御する。
図11の変速スケジュールは、上記の線L31等を右側にシフトさせたものである。このため、自動運転モードの実行時には、手動運転モードの実行時に比べて、減速時等において変速比を大きくする制御(ギヤ段を下げる制御)がより早いタイミングで行われるようになる。このような態様であっても、第1実施形態について説明したものと同様の効果を奏する。
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。