JP6823654B2 - ポリ塩化ビニル系人工毛髪繊維の製造方法 - Google Patents

ポリ塩化ビニル系人工毛髪繊維の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ポリ塩化ビニル特有の触感を有したまま、低光沢であり、編み込み性、ギア加工性及び紡糸性に優れたポリ塩化ビニル系人工毛髪用繊維の製造方法に関するものである。
ポリ塩化ビニル系繊維は、優れた強度、伸度などを有しており、頭髪装飾品を構成する人工毛髪用繊維として、多く使用されている。しかしながら、低光沢性、編み込み性、ギア加工性及び紡糸性に関しては、未だに満足のいく設計が無く試行錯誤を繰り返している(特許文献1〜3)。
実公昭60−14729号公報 特開2000−191871号公報 WO2006/093009号公報
特許文献1では、断面の各辺にくぼみをつけて低光沢化を行なっているがそれだけでは不十分である。
特許文献2では、塩化ビニル系樹脂に低光沢性を付与するため架橋塩化ビニル系樹脂、紡糸性を改善するためメタアクリル酸アルキルエステルを加えているが、この組み合わせでは、低光沢性が不十分であり、また塩化ビニル系樹脂特有の触感が失われる問題がある。
また、頭髪装飾品の中にブレイドといわれるスタイルがあり、捲縮加工を行なっているが糸の断面形状によっては捲縮が付き難い課題がある。
更に、捲縮加工をした糸を編み込んで、三つ網状やツイスト状等に加工しているが、その際、繊維が滑りやすいと編み込み性が悪くなり、生産性が低下してしまう問題があった。
特許文献3では、塩化ビニル系樹脂と粒度平均分子量を規定した架橋塩化ビニル系樹脂の樹脂組成物からなり、かつ、断面形状が円、放物線、楕円からなる形状を提案しているが、断面形状の特定のみでは、捲縮加工が付き難く、また編み込み性が不十分であった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、架橋塩化ビニル系樹脂を含有するポリ塩化ビニル系樹脂繊維からなる繊維の触感を保持しつつ、低光沢性、編み込み性、ギア加工性及び紡糸性を向上させたポリ塩化ビニル系人工毛髪繊維の製造方法を提供するものである。
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)ポリ塩化ビニル系樹脂を含む樹脂組成物をノズル孔から紡糸する工程を備え、前記樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル系樹脂を含み、前記ポリ塩化ビニル系樹脂は、粘度平均重合度が450〜1700であるポリ塩化ビニル系樹脂(A)90〜99質量部と、テトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度が1800〜2300である架橋塩化ビニル系樹脂(B)10〜1質量部を含有し、前記ポリ塩化ビニル系樹脂(A)の粘度平均重合度と、前記架橋塩化ビニル系樹脂(B)のテトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度の差が600〜1850であり、前記ノズル孔は、前記ノズル孔の断面の図心を通る軸に関する断面二次モーメントの最小値(Imin)が1×10-4mm〜15×10-4mmである、ポリ塩化ビニル系人工毛髪繊維の製造方法。
(2)前記樹脂組成物が帯電防止剤を0.01質量部〜1質量部含有することを特徴とする上記(1)に記載のポリ塩化ビニル系人工毛髪繊維の製造方法。
(3)前記樹脂組成物が錫系熱安定剤、Ca−Zn系熱安定剤、ハイドロタルサイト系熱安定剤、エポキシ系熱安定剤及びβ−ジケトン系熱安定剤から選択される少なくとも一種以上の熱安定剤を0.1〜5質量部含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のポリ塩化ビニル系人工毛髪繊維の製造方法。
本発明者らは鋭意研究の結果、特定の樹脂組成物を特定の断面2次モーメントを有するノズル孔から紡糸することによって得られるポリ塩化ビニル系人工毛髪繊維が、ポリ塩化ビニル系人工毛髪繊維の特有の触感を持ちながら、低光沢性、編み込み性、ギア加工性及び紡糸性に優れることを見出した。
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。
なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
本発明は、ポリ塩化ビニル系樹脂を含む樹脂組成物をノズル孔から紡糸する工程を備え、前記樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル系樹脂を含み、前記ポリ塩化ビニル系樹脂は、粘度平均重合度が450〜1700であるポリ塩化ビニル系樹脂(A)90〜99質量部と、テトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度が1800〜2300である架橋塩化ビニル系樹脂(B)10〜1質量部を含有し、前記ポリ塩化ビニル系樹脂(A)の粘度平均重合度と、前記架橋塩化ビニル系樹脂(B)のテトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度の差が600〜1850であり、前記ノズル孔は、前記ノズル孔の断面の図心を通る軸に関する断面二次モーメントの最小値(Imin)が1×10-4mm〜15×10-4mmである、ポリ塩化ビニル系人工毛髪繊維の製造方法である。
<樹脂組成物>
本発明に使用する樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル系樹脂を含む。この樹脂組成物は、帯電防止剤、熱安定剤、滑剤などの添加剤を含んでもよい。
<ポリ塩化ビニル系樹脂>
本発明に使用する塩化ビニル系樹脂は、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)90〜99質量部と、架橋塩化ビニル系樹脂(B)10〜1質量部を含有する。
(ポリ塩化ビニル系樹脂(A))
本発明に使用するポリ塩化ビニル系樹脂(A)は、従来公知の塩化ビニルの単独重合物であるホモポリマー樹脂、または従来公知の各種のコポリマー樹脂であり、特に限定されるものではない。該コポリマー樹脂としては、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー樹脂、塩化ビニル−プロピオン酸ビニルコポリマー樹脂などの塩化ビニルとビニルエステル類とのコポリマー樹脂、塩化ビニル−アクリル酸ブチルコポリマー樹脂、塩化ビニル−アクリル酸2エチルヘキシルコポリマー樹脂などの塩化ビニルとアクリル酸エステル類とのコポリマー樹脂、塩化ビニル−エチレンコポリマー樹脂、塩化ビニル−プロピレンコポリマー樹脂などの塩化ビニルとオレフィン類とのコポリマー樹脂、塩化ビニル−アクリロニトリルコポリマー樹脂などが代表的に例示される。好ましい塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルの単独重合物であるホモポリマー樹脂、塩化ビニル−エチレンコポリマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー樹脂などがあげられる。該コポリマー樹脂において、コモノマーの含有量は特に限定されず、繊維への成型加工性、繊維の特性などに応じて決めることができる。
本発明に使用するポリ塩化ビニル系樹脂(A)の粘度平均重合度は、繊維としての十分な強度、耐熱性を得るためには、450〜1700の範囲である。450未満であると樹脂の絡み合いが少なく強度が弱くなる。また、1700を超過するとゲル化が起こらず、繊維が切れやすくなり、生産性が低下する。これら成型加工性と繊維特性を達成するために、ポリ塩化ビニルのホモポリマー樹脂を使用する場合、好ましくは、粘度平均重合度が650〜1450の領域である。コポリマーを使用する場合は、コモノマーの含有量にも依存するが、好ましくは、粘度平均重合度が1000〜1700の領域である。前記粘度平均重合度は、樹脂200mgをニトロベンゼン50mlに溶解させ、このポリマー溶液を30℃恒温槽中、ウベローデ型粘度計を用いて比粘度を測定し、JIS−K6721により算出したものである。
本発明に使用する塩化ビニル系樹脂(A)は、乳化重合、塊状重合または懸濁重合などによって製造することができる。繊維の初期着色性などを勘案して、懸濁重合によって製造した重合体が好ましい。
(架橋塩化ビニル系樹脂(B))
本発明で使用する架橋塩化ビニル系樹脂(B)は、水性媒体中で塩化ビニルを懸濁重合、ミクロ懸濁重合あるいは乳化重合する際に多官能性モノマーを添加して重合することにより容易に得られる。この際、使用される多官能性モノマーとしては、ポリエチレングリコールジアクリレート、ビスフェノールA変性ジアクリレートなどのジアクリレート化合物が特に好ましい。該樹脂は、架橋構造を有し、テトラヒドロフランに不溶な塩化ビニルを主成分とするゲル分とテトラヒドロフランに可溶なポリ塩化ビニル成分の混合物である。
本発明では、テトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度は、糸の編み込み性や紡糸性を考慮すると1800〜2300であり、さらに好ましくは1900〜2200である。1800未満であると、編み込み性が十分ではない。逆に2300を超過すると、紡糸時に糸切れが発生しやすくなる。
架橋塩化ビニル系樹脂(B)のテトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度は次のように測定される。架橋塩化ビニル系樹脂(B)1gをテトラヒドロフラン60mlに添加し約24時間静置する。その後超音波洗浄機を用いて樹脂を十分に溶解させる。テトラヒドロフラン溶液中の不溶分を、超遠心分離機(3万rpm×1時間)を用いて分離し、上澄みのTHF溶媒を採取する。その後、THF溶媒を揮発させ、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)と同様な方法で粘度平均重合度を測定した。
架橋塩化ビニル系樹脂(B)は、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)90〜99質量部に対して、10〜1質量部であり、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)95〜97質量部に対して架橋塩化ビニル系樹脂(B)5〜3質量部添加するのが好ましい。架橋塩化ビニル系樹脂(B)が1質量部未満であると、得られる繊維の光沢性と編み込み性が低下し、10質量部を超過すると、紡糸性が低下し、好ましくない。
ポリ塩化ビニル系樹脂(A)の粘度平均重合度と架橋塩化ビニル系樹脂(B)のテトラヒドロフランに溶解する成分の重合度の差は、十分な低光沢性を得るために、600〜1850である。好ましくは、800〜1500である。600未満であると光沢性が十分でなく、逆に1500を超過すると紡糸時に糸切れが発生しやすくなる。
<添加剤>
(帯電防止剤)
本発明に使用する帯電防止剤には非イオン性(ノニオン系)、カチオン系、アニオン系、両性系のものを使用することができ、好ましくは、0.01質量部〜1質量部の範囲で使用できる。0.01質量部未満であると静電気が発生しやすく糸が纏まり難くなり、巻き取られる過程で絡まりやすくなり糸切れが発生し易くなり、1質量部を超過すると経済的に不利である。
(熱安定剤)
本発明に使用する熱安定剤には従来公知のものが使用できる。中でも、Ca−Zn系熱安定剤、ハイドロタルサイト系熱安定剤、錫系熱安定剤、ゼオライト系熱安定剤から選択される1種又は2種以上を使用するのが望ましい。熱安定剤は、成形時の熱分解、ロングラン性、フィラメントの色調を改良するために使用するもので、特に好ましくは、成形加工性、糸特性のバランスが優れている、Ca−Zn系熱安定剤とハイドロタルサイト系熱安定剤の併用が好ましい。これらの熱安定剤は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜5.0質量部である。0.1質量部未満であるとポリ塩化ビニル系樹脂が熱劣化し、黄変する場合がある。また、5.0質量部を超過すると経済的に不利である。ハイドロタルサイト系熱安定剤は、具体的にはハイドロタルサイト化合物であり、さらに具体的には、マグネシウム及び/又はアルカリ金属とアルミニウムあるいは亜鉛、マグネシウム及びアルミニウムからなる複合塩化合物であり、結晶水を脱水したものがある。又、ハイドロタルサイト化合物は、天然物であっても合成品であってもよく、合成品の合成方法は、従来公知の方法でよい。
熱安定剤の中で、Ca−Zn系熱安定剤としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウムなどがある。ハイドロタルサイト系熱安定剤としては、例えば協和化学工業株式会社製のアルカマイザーなどがある。錫系安定剤としては、ジメチルスズメルカプト、ジメチルスズメルカプタイド、ジブチルスズメルカプト、ジオクチルスズメルカプト、ジオクチルスズメルカプトポリマー、ジオクチルスズメルカプトアセテートなどのメルカプト錫系熱安定剤、ジメチルスズマレエート、ジブチルスズマレエート、ジオクチルスズマレエート、ジオクチルスズマレエートポリマーなどのマレエート錫系熱安定剤、ジメチルスズラウレート、ジブチルスズラウレート、ジオクチルスズラウレートなどのラウレート錫系熱安定剤がある。エポキシ系熱安定剤としては、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油などがある。βジケトン系熱安定剤としては、例えば、ステアロイルベンゾイルメタン(SBM)、ジベンゾイルメタン(DBM)などがある。
(滑剤)
本発明には、適宜、滑剤を添加することができ、使用される滑剤は、従来公知のものを用いることができるが、特に金属石鹸系滑剤、ポリエチレン系滑剤、高級脂肪酸系滑剤、エステル系滑剤、高級アルコール系滑剤からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。該滑剤は、加工機の金属面との摩擦や樹脂間の摩擦を減少させ、流動性を良くし、加工性を改良させることが出来る。好ましくは、滑剤を塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.2〜5.0質量部が好ましい。0.2質量部未満であると流動性が悪く加工性が悪化する。また、5.0質量部を超過すると加工機の金属面との摩擦が少なくなり、安定的に樹脂を押し出すことができない。
金属石鹸系滑剤としては、例えば、Na、Mg、Al、Ca、Baなどのステアレート、ラウレート、パルミテート、オレエートなどの金属石鹸が例示される。高級脂肪酸系滑剤としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、カプリン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸、またはこれらの混合物などが例示される。高級アルコール系滑剤としては、ステアリルアルコール、パルミチルアルコール、ミリスチルアルコール、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどが例示される。エステル系滑剤としては、アルコールと脂肪酸からなるエステル系滑剤やペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールと高級脂肪酸とのモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、またはこれらの混合物などのペンタエリスリトール系滑剤
やモンタン酸とステアリルアルコール、パルミチルアルコール、ミリスチルアルコール、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの高級アルコールとのエステル類のモンタン酸ワックス系滑剤が例示される。
本発明においては、目的に応じて塩化ビニル系組成物に使用される公知の配合剤を本発明の効果を阻害しない範囲で添加できる。該配合剤の例としては、加工助剤、可塑剤、強化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、難燃剤、顔料、初期着色改善剤、導電性付与剤、香料等がある。
<製造方法>
本発明のポリ塩化ビニル系繊維は、好ましくは全ての原料を混ぜ、一度ペレットコンパウンドにしてから公知の溶融紡糸により製造される。以下、製造条件の一例を示すが、製造条件は、適宜変更可能である。
(混合〜ペレット)
塩化ビニル系樹脂(A)、架橋塩化ビニル系樹脂(B)に適宜、帯電防止剤、熱安定剤及び滑剤を所定の割合で混合し、ヘンシェルミキサーなどで攪拌混合した後、押出機でペレットコンパウンドにする。従来公知の混合機、例えばヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、リボンブレンダーなどを使用して混合してなるパウダーコンパウンドを溶融混合してなるペレットコンパウンドとして使用することができる。該パウダーコンパウンドの製造は、ホットブレンドでもコールドブレンドでも製造でき、製造条件として通常の条件を使用できる。好ましくは、組成物中の揮発分を減少するために、ブレンド時のカット温度を105〜155℃迄上げてなるホットブレンドを使用するのが良い。該ペレットコンパウンドは、通常の塩化ビニル系ペレットコンパウンドの製造と同様にして製造できる。例えば、単軸押出し機、異方向2軸押出し機、コニカル2軸押出し機、同方向2軸押出し機、コニーダー、プラネタリーギアー押出し機、ロール混練り機などの混練り機を使用してペレットコンパウンドとすることができる。該ペレットコンパウンドを製造する際の条件は、特に限定はされないが、塩化ビニル系樹脂の熱劣化を防ぐため樹脂温度を185℃以下になるように設定することが好ましい。また該ペレットコンパウンド中に少量混入しうるスクリューの金属片や保護手袋についている繊維を取り除くため、スクリューの先端付近にメッシュを設置できる。
ペレットの製造にはコールドカット法を採用できる。コールドカットの際に混入し得る「切り粉」(ペレット製造時に生じる微粉)などを除去する手段を採用することが可能である。また、長時間使用しているとカッターが刃こぼれをおこし、切り粉が発生しやすくなるため、適宜交換することが好ましい。
(紡糸)
ペレットコンパウンドした原料をノズル孔断面の弱軸の断面2次モーメントが所定の範囲にあるノズルを用いて、シリンダー温度150〜190℃、ノズル温度180±15℃の範囲で、紡糸性の良い条件で樹脂を押出し、溶融紡糸する。
ノズル孔から溶融紡糸された未延伸の糸(ポリ塩化ビニル樹脂組成物の繊維)は、加熱円筒(加熱円筒温度250℃)に導入されて瞬間的に熱処理され、例えばノズル直下約4.5mの位置に設置した引取機にて巻き取られる。該ストランドは、未延伸糸のままである。この巻き取りの際、該未延伸糸の繊度が好ましくは120〜250デニール(さらに好ましくは150〜220デニール、さらに好ましくは175〜185デニール)になる様に引取速度を調節する。
なお、前記塩化ビニル系樹脂組成物を未延伸の糸にする際には、従来公知の押出し機を使用できる。例えば単軸押出し機、異方向2軸押出し機、コニカル2軸押出し機などを使用できるが、特に好ましくは、口径が35〜85mmφ程度の単軸押出し機または口径が35〜50mmφ程度のコニカル押出し機を使用するのが良い。口径が過大であると、押出し量が多くなり、またノズル圧力が過大になり、樹脂の温度が高くなり劣化しやすくなるため好ましくない。
(ノズル孔形状)
本発明に使用するノズル孔は、前記ノズル孔の断面の図心を通る軸に関する断面二次モーメントの最小値(Imin)が1×10-4mm〜15×10-4mmである。ここで、前記ノズル孔の断面の図心を通る軸に関する断面二次モーメントの最小値(Imin)とは、該図心を通る2つの主軸(短軸、長軸)に関する断面二次モーメントの最小値(Imin)をいう。例えば、前記ノズル孔の断面が単純な幾何学図形である、長径2a、短径2bの楕円のときは断面二次モーメントの最小値(Imin)はπab/4で求められる。
断面2次モーメントの最小値(Imin)が1×10-4mm〜15×10-4mmであることが好ましい。1×10-4mm以下であるとギア加工時に糸が柔らかすぎて形状が付き難い。逆に15×10-4mmを超えると糸が硬すぎて形状が付き難い。さらに好ましくは、2×10-4mm〜13×10-4mmの範囲である。
本発明におけるノズル孔断面の断面2次モーメントの最小値(Imin)は下記の方法で測定される。
1:ノズル孔断面を、キーエンス社製のデジタルマイクロスコープ VH−6300Cを用いて、ノズル孔を400倍に拡大してノズル孔の寸法を測定する。
2:アンドール社製のCADSUPERを用いて測定した寸法を図面化し、CADSUPER上で計算を行い、断面二次モーメントを算出する。
(延伸〜熱処理)
次に、該未延伸糸を延伸機( 空気雰囲気下105℃)で2〜5倍(例えば3倍)に延伸後、熱処理機(空気雰囲気下110℃)を用いて、繊維長が0.5〜0.9倍(例えば0.75倍)になるように熱処理を施し、繊度が40〜80デニール(好ましくは、50〜70デニール、例えば58〜62デニール)になるようにし、ポリ塩化ビニル系人工毛髪繊維を作製する。
(ギア加工)
作製したポリ塩化ビニル系人工毛髪繊維に捲縮を施すためギア加工を行なう。
ギア加工とは、2つの噛み合う高温のギアの間に繊維束を通すことによって捲縮を施す方法であり、使用するギアの材質、ギアの波の形、ギアの端数などは特に限定されない。繊維材質、繊度、ギア間の圧力条件等によってクリンプの波形状は変化しうるが、本発明においては、ギア波形の溝の深さ、ギアの表面温度、加工速度によってクリンプの波形状をコントロールできる。これらの加工条件に特に制限はないが、好ましくは、ギア波形の溝の深さは0.2mm〜6mm、より好ましくは0.5mm〜5mm、ギアの表面温度は30〜100℃、より好ましくは40〜80℃、加工速度は0.5〜10m/分、より好ましくは1.0〜8.0m/分である。
ギア加工する際の繊維束の総繊度は、特に限定はないが、10万〜200万デシテックス、より好ましくは50万〜150万デシテックスである。繊維束の総繊度が、10万デシテックス未満であると、ギア加工の生産性が悪くなり、さらにギア−クリンプ加工をする際に糸切れを起こす場合がある。一方、繊維束の総繊度が、200万デシテックスを超えると、均一な波形状を得にくくなる場合がある。
上記のようにして得られる本発明のポリ塩化ビニル系繊維は、従来の塩化ビニル系繊維の特徴である触感を有しながら、紡糸性、低光沢性を向上させ、新たに編み込み性、ギア加工性という特性を付与することが可能である。紡糸性が向上した理由は、架橋塩化ビニル系樹脂(B)の配合量を適切にしたためである。低光沢性は、架橋塩化ビニル系樹脂(B)の配合量を適切にし、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)の粘度平均重合度と架橋塩化ビニル系樹脂(B)のテトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度の差をコントロールしたためである。また、編み込み性が付与できた理由は、架橋塩化ビニル系樹脂(B)のテトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度が高いものを配合したためである。最後に、ギア加工性が付与できた理由は、ギア加工性が向上する断面形状になるノズルを使用したためである。
以下に実施例及び比較例を示して、本発明の具体的な実施態様をより詳細に説明するが、本発明は、この実施例のみに限定されるものではない。
<実施例1>
ポリ塩化ビニル系樹脂(A)(大洋塩ビ株式会社製、TH−500)90質量部、架橋塩化ビニル系樹脂(B)(信越化学株式会社製、GR−2500S)10質量部、帯電防止剤(日油株式会社製、ニューエレガンASK)0.5質量部、ハイドロタルサイト系複合熱安定剤(日産化学工業株式会社製、CP−410A)3質量部、エポキシ化大豆油(旭電化工業株式会社O−130P)0.5質量部、エステル系滑剤(理研ビタミン社製EW−100)0.8質量部を配合した塩化ビニル系樹脂組成物をリボンブレンダーで混合し、シリンダー温度130〜170℃の範囲において、直径40mmの押出機を使用し、コンパウンドを行い、ペレットを作製した。前記ペレットを弱軸の断面2次モーメントが5.0×10−4mm、孔数120個のX型のノズルを用いて、シリンダー温度140〜190℃、ノズル温度180±15℃の範囲において、押出し量10kg/時間で直径30mmの押出機で溶融紡糸した。その後、ノズル直下に設けた加熱円筒(200〜300℃雰囲気で紡糸性の良い条件)で約0.5〜1.5秒熱処理し、150デシテックスの繊維とした。次に、前記溶融紡糸した繊維を100℃の空気雰囲気下で300%に延伸する工程、そして、前記延伸した繊維に120℃の空気雰囲気下で繊維全長が処理前の75%の長さに収縮するまで熱収縮する工程を順次経て、67デシテックスの人工毛髪用繊維を得た。
加工性および得られた人工毛髪用繊維について、後述する評価方法及び基準に従って、紡糸性、低光沢性、編み込み性、ギア加工性及び触感の評価を行った。表1に結果を示す。
<実施例2〜17、比較例1〜7>
実施例2〜17、比較例1〜7の配合等、評価結果を表1〜3にまとめる。
表1〜3にある素材は、以下のものを採用した。
ポリ塩化ビニル系樹脂(A)
粘度平均重合度:500(大洋塩ビ株式会社製、TH−500)
粘度平均重合度:1100(大洋塩ビ株式会社製、TH−1000)
粘度平均重合度:1350(大洋塩ビ株式会社製、TH−1400)
粘度平均重合度:2000(大洋塩ビ株式会社製、TH−2800)
架橋塩化ビニル系樹脂(B)
THF可溶分の粘度平均重合度:1600(信越化学株式会社製、GR−1300T)
THF可溶分の粘度平均重合度:2020(信越化学株式会社製、GR−2500S)
THF可溶分の粘度平均重合度:2280(カネカ株式会社製、K25S)
表1〜3中の各評価項目についての評価方法とその基準は、以下の通りである。
(1)紡糸性
溶融紡糸し、未延伸糸ができる間で、糸切れの発生状況を目視観察し、次のように4段階評価した。
1:糸切れが7〜15回/1時間。
2:糸切れが4〜6回/1時間。
3:糸切れが2〜3回/1時間。
4:糸切れが1回以下/1時間。
(2)低光沢性
繊維の毛束を観察し、次のように4段階評価した。低光沢性の判定の際、デンカ社製の塩化ビニル系繊維M−TYPEをランク1(光沢がある)とした。
1:光沢がある。
2:やや光沢がある。
3:艶が消えている。
4:非常に艶が消えている。
(3)編み込み性
30cm×0.5gの繊維の毛束を3セット作製し、それら上部2cmを固定し、三つ網加工後の長さが20〜25cmの範囲になるように編み込み、4段階評価を行なった。この際、デンカ社製の塩化ビニル系繊維M−TYPEをランク2(やや滑る)とした。
1:滑る。
2:やや滑る。
3:滑らない。
4:非常に滑らない。
(4)ギア加工性
繊維にギア加工を行い、次のように4段階評価した。この際、ギア波形の溝の深さは2.5mm、ギアの表面温度は70〜80℃、加工速度は2m/分でギア加工を行なった。ギア加工には触感の判定の際、デンカ社製の塩化ビニル系繊維M−TYPEをランク3(捲縮が良く付く)とした。
1:捲縮がほとんど付かない。
2:捲縮が付き難い。
3:捲縮が良く付く
4:捲縮が非常に良く付く。
(5)触感
溶融紡糸後の繊維の毛束を触覚で判断し、次のように4段階評価した。触感の判定の際、デンカ社製の塩化ビニル系繊維M−TYPEをランク4(非常に柔らかく、しなやかである)とした。
1:非常に硬い。
2:やや硬い。
3:柔らかく、しなやかである。
4:非常に柔らかく、しなやかである。
全ての実施例では、全ての評価項目について良好な結果が得られた。
比較例1は、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)が99質量部より多く、架橋塩化ビニル系樹脂(B)が1質量部より少ないため、糸の表面の凹凸形状が小さくなり、低光沢性、編み込み性が大きく悪化した。
比較例2は、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)が90質量部より少なく、架橋塩化ビニル系樹脂(B)が10質量部より多いため、非相溶成分が大きくなり、紡糸性が大きく悪化した。
比較例3は、架橋塩化ビニル系樹脂(B)のテトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度が1800以下の場合であり、糸の表面の凹凸が少なくなるため、編み込み性が悪化した。
比較例4は、ポリ塩化ビニル系樹脂(A)と架橋塩化ビニル系樹脂(B)のテトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度の差が20となり、600より小さいため低光沢性が悪化した。
比較例5は、断面2次モーメントの最小値(Imin)が1×10-4mmより小さいノズルを使用したことにより、糸が柔らかくなり過ぎてしまい、ギアの形状が付き難くなるため、ギア加工性が悪化した。
比較例6は、断面2次モーメントの最小値(Imin)が15×10-4mmより大きいノズルを使用したことにより、糸が硬くなり過ぎてしまい、ギアの形状が付き難くなるため、ギア加工性が悪化した。
比較例7は、架橋塩化ビニル系樹脂(B)のテトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度が1800以下であるため、糸の表面の凹凸が少なくなるため、編み込み性が悪化した。また、帯電防止剤が少ないため静電気により糸が絡まりやすくなり、糸切れが発生しやすかった。
本発明の製造方法で作られた人工毛髪繊維は、従来の塩化ビニル系繊維の特徴である触感や紡糸性を損なうことなく、低光沢性を向上させ、さらに編み込み性を付与することが可能である。また、本発明の繊維は安定的に溶融紡糸によって製造することが可能であることから、工業的にも有利である。

Claims (3)

  1. ポリ塩化ビニル系樹脂を含む樹脂組成物をノズル孔から紡糸する工程を備え、
    前記樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル系樹脂を含み、
    前記ポリ塩化ビニル系樹脂は、粘度平均重合度が450〜1700であるポリ塩化ビニル系樹脂(A)90〜99質量部と、テトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度が1800〜2300である架橋塩化ビニル系樹脂(B)10〜1質量部を含有し、
    前記ポリ塩化ビニル系樹脂(A)の粘度平均重合度と、前記架橋塩化ビニル系樹脂(B)のテトラヒドロフランに溶解する成分の粘度平均重合度の差が600〜1850であり、
    前記ノズル孔は、前記ノズル孔の断面の図心を通る軸に関する断面二次モーメントの最小値(Imin)が1×10-4mm〜15×10-4mmである、ポリ塩化ビニル系人工毛髪繊維の製造方法。
  2. 前記樹脂組成物が帯電防止剤を0.01質量部〜1質量部含有することを特徴とする、請求項1に記載のポリ塩化ビニル系人工毛髪繊維の製造方法。
  3. 前記樹脂組成物が錫系熱安定剤、Ca−Zn系熱安定剤、ハイドロタルサイト系熱安定剤、エポキシ系熱安定剤及びβ−ジケトン系熱安定剤から選択される少なくとも一種以上の熱安定剤を0.1〜5質量部含有することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のポリ塩化ビニル系人工毛髪繊維の製造方法。
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