実施形態に従う核酸検出器を図1を用いて説明する。図1(a)は、核酸検出器の平面図であり、図1(b)は、核酸検出器の線b−bで切断した断面である。核酸検出器1は、検出器本体2と、その内部に形成された流路3と、前記流路内壁に固定化されたプライマーセット832を含む増幅部80と、前記増幅部80の下流の当該流路内壁に固定化された核酸プローブ955を含む検出部90とを備える。流路3の両端部は、検出器本体2の外部に開口している。
このような核酸検出器は、複数種類の核酸を同時または並行して増幅し、得られた増幅産物中の複数種類のターゲット核酸を同時または並行して検出し得る。
例えば、n種類のターゲット核酸を検出するためには、それぞれのターゲット核酸を特異的に増幅するためのプライマーセットが、n種類用意される。n種類のプライマーセット、即ち、プライマーセット832−1、・・・、プライマーセット832−nは、プライマー固定化領域830−1、・・・、プライマー固定化領域830−nにそれぞれ種類毎に固定化されている。核酸プローブは、プライマーセットによる増幅により産生された複数種類の増幅産物またはその一部分とそれぞれ特異的にハイブリダイズできる配列をそれぞれに含むn種類が用意される。それらのn種類の核酸プローブ、即ち、核酸プローブ955−1、・・・、核酸プローブ955−nは、n個の核酸プローブ固定化領域、即ち、核酸プローブ固定化領域950−1、・・・、核酸プローブ固定化領域950−nにそれぞれ種類毎に固定化されている。ここで、nは2以上の整数である。
このような実施形態に従う核酸検出器は、プライマーセットとして、互いに異なる種類の第1〜第nのプライマーセットが種類毎に流路内壁に固定化されており、核酸プローブとして、互いに異なる種類の第1〜第nの核酸プローブが流路内壁に固定化されていることを特徴とする核酸検出器である。
増幅部80は、プライマーセット固定化領域830−1〜830−nまでを全て含む領域である。検出部90は、核酸プローブ固定化領域950−1〜950−nまでを全て含む領域である。
増幅部80においてn種類のプライマーセットによりそれぞれ増幅された増幅産物の全てが、同時または並行して検出されるためには、増幅部80の容積と検出部90の容積の関係は、次のような関係にある。
即ち、増幅部80の容積と検出部90の容積との関係は、増幅部80の容積をVaとし、検出部90の容積をVdとし、増幅部80と検出部90との容積差の標準偏差をσvとし、増幅部80から検出部90への送液量の標準偏差をσQとし、検出部90に連続して上流および下流に延びる当該流路の特定の領域の断面積をBとし、増幅産物の到達限界距離をLとしたときに、以下の式を満たす;
(Vd+ΔV2)>Va>(Vd+ΔV1)
ΔV1=3(2σQ+σV)
ΔV2=2BL-3(2σQ+σV)。
この式の成り立ちについて、下限値および上限値について図2(a)および図2(b)を参照しながら説明する。
図2(a)に示すように、下限値は、増幅部容積(Va)と検出部容積(Vd)とについて、増幅部容積の方が、検出部容積よりも大きいことを1つの条件とした。このとき、増幅部容積と検出部容積の差は、上流側と下流側とにそれぞれΔVuおよびΔVl存在すると仮定する。即ち、
ΔV1=Va−Vd=ΔVu+ΔVl
である。そして理想的には、
ΔVu=ΔVl=ΔV1/2
である。
ここで、容積差の標準偏差をσv、送液量の標準偏差をσQとすると、品質的な観点から次の式が導き出される;
(ΔV1−3σV)/2>3σQ、 即ち、
ΔV1>3(3σQ+σV)。
一方、図2(b)に示すように、上限値は次のように定められる。検出部容積を超えた増幅部容積分の液体は、増幅部に含まれた液体が検出部に送られたときに、検出部よりも上流および下流の特定の範囲、即ち、流路に配置された検出部領域よりも広い範囲の領域に亘って流路内に広がる。このときに、検出部よりも上流または下流に広がった液体が存在する領域は、流路内に設けられた検出部の外側の領域となる。即ち、増幅部に含まれて増幅反応に供された後の液体は、増幅反応後に送液されて検出部に送られたときに、検出部に対応する流路内部に含まれると同時に、過剰分の液体は、検出部から連続する流路内の、検出部の上流および下流の特定の領域(検出部外部の特定の領域)に至る。ここで、増幅産物が送られ得る範囲は、検出部の上流および下流の領域のうち、その領域に送られた増幅産物が、拡散や対流などによって検出部にまで到達可能な範囲である。
そのような範囲に増幅産物が送られることにより、増幅部において産生された増幅産物に関する情報は、検出部において検出され得ることとなる。即ち、検出部外部の領域に送られた増幅産物は、拡散や対流などによって検出部に移動する。
そのような検出部外部の特定の領域は、拡散や対流などによって増幅産物が検出部に到達することができる範囲であればよく、検出部に連続する検出部外部の特定の領域を規定する流路の断面積Bと、到達限界距離Lとにより規定され得る。
従って、上限値は、検出部に連続して上流および下流に延びる流路の断面積をBとし、到達限界距離をLとすると、増幅部容積と検出部容積の差の上限値は、ΔV2であり、ΔV2は2BL−3(2σQ+σV)である。
図2(b)には、増幅部80の容積、検出部90の容積、並びに検出部90よりも上流に延びる流路における検出部90の外側の領域90a、検出部90よりも下流に伸びる流路の検出部90の外側の領域90bの関係を概念図として示した。領域90aおよび領域90bには、増幅部80から検出部90に送られた液体のうち、検出部90に対応する流路に収まりきらない分の液体が収容されている。この部分に含まれる増幅産物は、上記のような条件を満足するように増幅部および検出部が設計されることにより、検出部90によって検出されることが可能となる。
また、上限値および下限値はいずれも、複数の核酸検出器において、正規分布している検出部容積と増幅部容積との差の標準偏差によって表される。図2(b)には、当該正規分布および標準偏差、並びに当該条件を規定する値である3(2σQ+σV)を「a」として示し、増幅部80と検出部90との容積の差を直感的なイメージを表す概念図として表した。
従って、増幅部容積Vaは、最大でも検出部容積Vdよりも2BL−3(2σQ+σV)までで大きい。言い換えれば、増幅部容積Vaは、検出部容積Vdよりも大きく、その差は、2BL−3(2σQ+σV)よりも小さい。
ここで、容積差の標準偏差をσv、送液量の標準偏差をσQとすると、検出部の上流側と下流側とを合わせたときの許容される体積である「2BL」の値と、品質的な観点とから次の式が導き出される;
ΔV2=2BL−3(2σQ+σV)
である。
核酸増幅検出器が、このような式を満たすことにより、増幅部80の容積と検出部90の容積との関係、即ち、体積ついての要素と、更に送液機構の容量、並びに増幅部80および検出部90以外の流路の容量のばらつき、即ち、位置についての要素が制御される。それにより1つのデバイスにおいて核酸増幅とそこにおいて産生された増幅産物の検出とを行うことが可能となる。
このような関係を満たさない範囲において、増幅部80の容積が検出部90の容積よりも小さい場合、複数種類の増幅産物と、それらに対応する全ての核酸プローブとが、検出部90において検出可能に出会うことが妨げられるので好ましくない。また、このような関係を満たさない範囲において、増幅部80の容積が検出部90の容積よりも大きい場合、この場合においても、複数種類の増幅産物と、それらに対応する全ての核酸プローブとが、検出部90において検出可能に出会うことが妨げられるので好ましくない。
また、このような核酸検出器では、製造上のばらつきが生じる、また、送液機構や、増幅部80および検出部90以外の流路における容量のばらつきが個体毎に生じることがある。そのようなばらつきは、増幅部80の容積と検出部90の容積との関係に影響を及ぼし得る。上記の式においては、このような製造上のばらつきや個体毎の流路の容量のばらつきについても考慮している。そのため、上記の式を満たすことにより、そのような核酸検出器の増幅部80において産生された増幅産物は、何れも検出部90での核酸プローブとの反応に供される。
また、送液量の標準偏差を考慮することにより、流路における流れ方向の軸に沿って決定される増幅部の長さ方向の中心と、検出部の長さ方向の中心との関係が規定される。それにより、増幅部の長さ方向の中心に位置していた液体は、送液された後、検出部の長さ方向の中心とほぼ一致する位置に移動する。このとき、増幅部の中心と検出部の中心とは、完全に一致せずに多少のずれが生じ得るが、そのずれの大きさは、検出部に送られる増幅産物が、検出部の全体に亘って総合的に検出されるために許容される範囲内に収まり得る。
好ましい実施形態において、流路内壁に固定化される複数種類のプライマーセットと、複数種類の核酸プローブとは、増幅部80における固定化位置と検出部90における固定化位置とが対応している。即ち、増幅部80の最も上流に固定化された第1のプライマーセットにより産生される第1の増幅産物は、検出部90の最も上流に固定化された第1の核酸プローブによって検出されるように構成されている。そして、増幅部80の最も下流に固定化された第nのプライマーセットにより産生される第nの増幅産物は、検出部90の最も下流に固定化された第nの核酸プローブによって検出されるように構成されている。即ち、増幅部80において固定化されているプライマーセットの上流から下流に向う固定化の順番と、それぞれのプライマーセットにより産生されるそれぞれの増幅産物を検出するための核酸プローブの検出部90における上流から下流に向う固定化の順番は、互いに対応していることが好ましい。更に言い換えれば、特定のターゲット核酸を増幅するためのプライマーセットが増幅部80において固定化されている領域の位置は、増幅部80に固定化されている領域を上流から数えたときの順位で示すことができ、それは、当該特定のターゲット核酸を検出するための核酸プローブが固定化されている領域について、検出部9に固定化されている核酸プローブを上流から数えたときの順位と等しい。
このような構成の核酸検出器において、増幅部80および検出部90の体積の関係および位置にする要件が、上記の式を満たすことにより、増幅部80の特定の位置において特定のプライマーセットにより産生された増幅産物は、検出部90に送られたときに対応する位置にまで、ある程度の精度、即ち、検出されるべきターゲット核酸が検出され得る範囲の精度で到達することが可能である。それにより、増幅部80に固定化された全てのプライマーセットによって増幅されるべきターゲット核酸に基づいて産生された増幅産物は、何れも検出部90において対応する核酸プローブとある程度の精度で反応することが可能となる。
実施形態に係る核酸検出器が備える検出器本体は、そこにおいて増幅反応を行うことが可能な材質により作られてよく、例えば、シリコン、ガラス、樹脂および金属などから任意に選択された材質であってもよい。また、検出器本体は、それらの材質により形成されたほぼ直方体、ほぼ立方体、扁平な直方体、または扁平縦長な直方体などであってもよく、或いは棒形状体、板形状体またはそれらを積層した積層体であってもよい。流路は、そのような基形状の検出器本体の内部にいずれかの方法により形成されればよい。
例えば、実施形態に係る核酸検出器は、検出器本体は、前記流路に加えて更に、サンプル溶液または挿入剤液を貯蔵する複数のシリンジと、複数のシリンジのうち、サンプル溶液が貯蔵されているシリンジと、増幅部と検出部とを接続する第1の流路と、複数のシリンジのうち、挿入剤液が貯蔵されているシリンジと検出部とを接続する第2の流路と備え得る。
実施形態に係る核酸検出器は、検出器本体が、硬質材料で作られる上部プレートと、弾性材料から作られるパッキンと、上部プレートと共にパッキンを密封する硬質材料から作られる下部プレートとを備えた積層構造体であり得る。
更に実施形態に係る核酸検出器において、増幅部は、隣同士をインターバル流路によって接続され、インターバル流路の幅よりも大きい幅を有する複数のウェルを備え、複数種類のプライマーセットが、種類毎に前記ウェル内に固定化され得る。
実施形態に係る核酸検出器は、
サンプル溶液および挿入剤液を貯蔵する複数のシリンジと、
サンプル溶液中の核酸を増幅して増幅産物を生成する増幅部と、
この増幅部から増幅産物を供給するように増幅部に接続され、供給された増幅産物を検出する検出部と、
複数のシリンジのうち、サンプル溶液が貯蔵されているシリンジと増幅部と検出部とを接続する第1の流路と、
複数のシリンジのうち、挿入剤液が貯蔵されているシリンジと検出部とを接続する第2の流路と有し、且つ
増幅部を通過する第1の流路の通過部分に、流路の幅よりも大きい幅を有する複数のウェルを備え、隣り合う当該ウェルは一方のウェル中心から流路の軸を通り他方のウェル中心まで所定間隔を設けられて配設され得る。
実施形態に係る核酸検出器は、流路に所望の液体を送る送液部を備え得る。
以下、更に、実施形態に係る核酸増幅検出器としての核酸検出カセットついて、図面を参照して詳細に説明する。以下の核酸検出カセットにおいても、上述した式が満たされている。
[核酸検査装置の概略構成]
図3は、実施形態に係る核酸検査装置8のブロックを示している。この核酸検査装置8は、サンプルの増幅からサンプルの電気化学反応の検出までを完全に自動化可能に構成されている。核酸検査装置8は、液密に密閉された核酸検出カセット10と、この核酸検出カセット10と電気的に接続される測定部12、核酸検出カセット10内に設けられた流路系を外部から物理的に駆動制御する送液制御機構16および核酸検出カセット10の各部を温度制御する温度制御機構14等を備える。核酸検出カセット10は、後に詳述するように、その内部にDNAチップ6が収納されている。このDNAチップ6上には、後に詳細に説明するように、サンプル等の溶液が流れる検出流路が設けられている。DNAチップ6上の検出流路には、ハイブリダイズ信号を取り出すための複数の電極が配置されている。これらの電極には、検出されるべき塩基配列に相補的な配列を含む核酸プローブが固定化された作用電極、対向電極および参照電極が含まれる。対向電極および参照電極は、作用電極に対向されるような配置でそれぞれ少なくとも1つが設けられている。図3に示す測定部12は、DNAチップ6に接続され、DNAチップ6内の作用電極および対向電極間への入力電圧の印加に応じて参照極の電圧をフィードバック(負帰還)させる3電極方式のポテンシオ・スタットとして構成されている。従って、この測定部12によれば、核酸検出カセット10におけるセル内の電極、或いは、溶液などの各種条件の変動によらずに溶液中に所望の電圧を印加することができ、電気化学的反応による電流(以下において「電気化学的電流」と言う。)を電気化学的に測定することができる。
上述した測定部12、温度制御機構14および送液制御機構16は、装置制御部18に接続され、装置制御部18は、インタフェース(図示せず)を介して核酸検査装置8外のコンピュータ4に接続されている。コンピュータ4からの動作指示等のコマンドに応答して、装置制御部18は、内蔵プログラムに従って測定部12、温度制御機構14および送液制御機構16を制御している。装置制御部18は、送液制御機構16を制御してサンプル等の溶液を送液させ、温度制御機構14を制御してサンプル溶液の温度を制御して、核酸の増幅反応、ハイブリダイズ反応および電気化学反応を生じさせている。また、装置制御部18は、測定部12を制御してハイブリダイズ反応に続く電気化学反応を検出し、得られた検出信号を検出データとしてコンピュータ4に転送している。コンピュータ4では、転送された検出データを解析してサンプル溶液中の核酸の存在を特定している。図3に示される核酸検査装置8は、サンプル溶液中の核酸の増幅からの電気化学反応の検出までを自動化し、サンプルが収納されている核酸検出カセット10の装着のみでサンプル溶液中に含まれる核酸の塩基配列についてのデータを獲得することができる。
[核酸検出カセットの基本構造]
図4に示すように、核酸検出カセット10は、矢印5に示す方向で核酸検査装置8に装着され、また、取り出される矩形カセット形状の外観を有している。ここで、核酸検出カセット10は、核酸検査装置8に装着する際の向きを定める為に、その一部に切欠部22を設けている。図4に示す実施形態では、装置への挿入(装着)方向5を基準に矩形核酸検出カセット10における前方右側のコーナが切欠されて切欠部22が設けられている。ユーザ(オペレータ)は、この切欠部22を先端側として確認することによって核酸検出カセット10を正しく核酸検査装置8に装着することができる。尚、このようにコーナを切欠する形態に限らず、他の箇所が切欠されて矩形核酸検出カセット10の上面が特定され、核酸検出カセット10の装着方向が特定されても良い。以下の説明において、核酸検出カセット10の切欠部22を先端側とする装着方向を基準に、先端側と反対側を後方と称し、核酸検出カセット10にキャップ20が取り付けられた面を上面と称する。
この核酸検出カセット10は、図5に分解して示すように、内部に流路を備える積層構造体である。核酸検出カセット10は、下部プレート30、パッキン40、上部プレート50、カバープレート60およびキャップ20から構成されている。下部プレート30は、硬質材料、例えば、ポリカーボネート等の硬質樹脂材料で作られ、DNAチップ6が収納されるチップ用窪み130が形成され、核酸プローブ固定化領域を含むように流路が形成される領域である流路形成部100Aの面が上面に向けられるようにDNAチップ6がこの窪み130に嵌め込み固定されている。下部プレート30には、DNAチップ6上に形成される検出流路100に連通される送液系の流路チャネルの為のチャネル溝132が形成され、また、送液系を定める為のシリンジ用窪み134およびタンク用窪み136が形成されている。
パッキン40は、弾性材料、例えば、エラストマ等のゴム弾性材料で作られ、下部プレート30上に載置されている。このパッキン40には、下部プレート30の窪み134に対応して送液系を定める為の膨出部144、送液チャネル用貫通孔142および縦長貫通溝146が形成されている。また、このパッキン40には、DNAチップ6上に検出流路100を定める為のチャネル溝111が設けられている。更に、パッキン40には、液注入孔を定める為の開口突起141、143が設けられ、空気抜き孔を定める為の開口突起145、147が形成されている。更にまた、DNAチップ6の電極パッド部を外部からアクセスすることを可能にする為の縦長貫通溝149が形成されている。
上部プレート50は、硬質材料、例えば、ポリカーボネート等の硬質樹脂材料で作られ、パッキン40上に載置され、パッキン40が上部プレート50および下部プレート30間に加圧されて挟み込まれる。より詳細には、上部プレート50の下面には、複数のスタッドピン156、158が突出して設けられ、上部プレート50の周辺に配置されたスタッドピン156は、下部プレート30の周辺に設けた周辺スタッド孔138Aに直接に挿通される。また、パッキン40に対向するように上部プレート50に設けられたスタッドピン158は、パッキン40の中央部に設けられた挿通孔148を通って下部プレート30の上面に設けたスタッド孔138Bに挿通される。これらスタッドピン156、158の先端は、熱カシメされて抜け止めボスに変形されて下部プレート30に固定される。このスタッドピン156、158によって上部プレート50、パッキン40および下部プレート30が一体化されている。この構造においては、上部プレート50がパッキン40を加圧するように下部プレート30に固定されて、上部プレート50およびパッキン40間に液密な送液系が定められ、下部プレート30およびパッキン40間にも同様に液密な送液系が定められる。上部プレート50には、パッキン40に形成された膨出部144、貫通孔142および縦長溝146等に対応して縦長貫通溝154、貫通孔142に連通する溝(図示せず)および縦長貫通溝149に連通する縦長貫通溝159等が形成されている。また、上部プレート50には、パッキン40の開口突起141、143、145、147が挿通される貫通孔151、153、155、157が形成されている(図5)。
上部プレート50は、後方領域150および前方領域152に区分され、後方領域150および前方領域152がステップ169を介して連接されている。上部プレート50の後方領域150には、カバープレート60が取り外し不能に装着されている。カバープレート60は、硬質材料、例えば、ポリカーボネート等の硬質樹脂材料で作られ、キャップ20を嵌め込み可能な切欠部160が形成されている。この切欠部160にキャップ20が取り付けられている。カバープレート60には、上部プレート50の後方領域150に形成されている縦長溝154等に対応し、且つ仕切り165を有する縦長溝164が設けられている。
上部プレート50の後方領域150に対向するカバープレート60の下面周辺には、係合突起162が下方に向けて延出され、この係合突起162は、この係合突起162に対応して設けられた上部プレート50の挿通孔166を通して、下部プレート30に設けられた係合孔131に取り外し不能に係合されている。
[核酸検出カセット内の送液系]
核酸検出カセット内の送液系を図6、図7および図8を参照して説明する。図6は、核酸検出カセット10の内部に設けられる送液系を透視して示している。また、図7および図8は、図6に示す核酸検出カセット10内に形成される送液系の配置を示している。
図6に示すように核酸検出カセット10は、シリンジ部70、増幅部80および検出部90から構成され、その送液系は、シリンジ部70、増幅部80および検出部90を連通するように構成されている。シリンジ部70は、カバープレート60およびキャップ20で覆れ、上部プレート50の後方領域150に対応する核酸検出カセット10中に設けられている。増幅部80および検出部90は、上部プレート50の前方領域152に対応する核酸検出カセット10中に設けられている流路により構成される。
シリンジ部70には、サンプル溶液が入れられたサンプルシリンジ702、第1の洗浄液が充填された第1洗浄液シリンジ704、挿入剤が充填された挿入剤シリンジ706および第2洗浄液シリンジ708が核酸検出カセット10の短辺方向に沿って配置されている。これらシリンジ702、704、706および708は、核酸検出カセット10の長手方向に延出した筒状空間として形成され、この筒状空間は、夫々下部プレート30の窪み134をパッキン40の膨出部144で覆うことにより窪み134と膨出部144と間に定められる。
図6に示すようにサンプルシリンジ702は、サンプル液が流入される流路712を介してサンプル液を注入するサンプル注入孔710に連通され、また、空気抜き用の流路714を介して空気抜き開口716に連通されている。また、流路712は、サンプルシリンジ702の流入側で分岐され、常閉バルブ718に連通されている。第1洗浄液シリンジ704も流路724を介して第1洗浄液供給孔720に連通され、また、常閉バルブ728に連通されている流路722から分岐された流路を介して空気抜き開口726に連通されている。第1洗浄液は、第1洗浄液供給孔720から加圧されて第1洗浄液シリンジ704に供給され、第1洗浄液シリンジ704内の空気は、空気抜き開口726を介して外部に放出される。同様に、挿入剤シリンジ706も流路734を介して挿入剤供給孔730に連通され、また、常閉バルブ738に連通されている流路732から分岐された流路を介して空気抜き開口746に連通されている。挿入剤は、挿入剤供給孔730から加圧されて挿入剤シリンジ706に供給され、挿入剤シリンジ706内の空気は、空気抜き開口736を介して外部に放出される。更に、第2洗浄液シリンジ708も流路724を介して第2洗浄液供給孔740に連通され、また、常閉バルブ748に連通されている流路742から分岐された流路を介して空気抜き開口746に連通されている。第2洗浄液は、第2洗浄液供給孔740から加圧されて第2洗浄液シリンジ708に供給され、第2洗浄液シリンジ708内の空気は、空気抜き開口746を介して外部に放出される。ここで、第2洗浄液は、第1洗浄液と同一組成の洗浄液として用意されている。
ここで、シリンジ702、704、706および708は、その内部に充填されたサンプル溶液、洗浄液或いは試薬を保存するタンクとしての機能を有すると共にその内部に充填されたサンプル溶液、洗浄液或いは試薬を流路712、722、732、742に送り出すポンプの機能を有している。即ち、シリンジ702、704、706および708は、弾性を有する膨出部144によってその内部が空洞に形成され、検査装置8の送液制御機構16に設けられたシリンジロッドによって弾性を有する膨出部144を押し潰すことによって、その内部のサンプル溶液、洗浄液或いは試薬を流路712、722、732、742に送り出すことができる。また、常閉バルブ718、728、738、748は、シリンジ702、704、706および708内にサンプル溶液、洗浄液或いは試薬の保存を維持する機能を有し、検査が開始されると、これらの常閉バルブ718、728、738、748は、検査装置8の送液制御機構16に設けられたバルブロッドによって順次開放され、開放されたままに維持される。供給孔710、720、730、740および空気抜き開口716、726,736、746は、パッキン40に設けられた開口突起141、143、145、147で形成され、サンプル溶液、洗浄液或いは試薬をシリンジ702、704、706および708に外部から注入するために設けられている。供給孔720、730、740および空気抜き開口726、736、746は、洗浄液或いは試薬がシリンジ704、706および708に注入された後に、カバープレート60を上部プレートに取り付けられている。カバープレート60はパッキン40に設けられた開口突起141、147を圧縮変形して閉塞する。従って、洗浄液或いは試薬のシリンジ704、706および708への注入後、洗浄液或いは試薬が核酸検出カセット10外に漏れ出ることが防止される。また、サンプル注入孔710および空気抜き開口716は、サンプル溶液がサンプルシリンジ702に注入された後に、キャップ20によりパッキン40の開口突起143、145を圧縮変形して閉塞する。従って、サンプル溶液のサンプルシリンジ702への注入後、サンプル溶液が核酸検出カセット10外に漏れ出ることが防止される。
増幅部80には、入力ポート側および出力ポート側に常開バルブ810、820が設けられている。入力ポート側の常開バルブ810、820は、互いに直列に連通されている増幅流路812、816のうちの増幅流路812の始端側に接続され、出力ポート側の常開バルブ820は増幅流路816の終端側に接続されている。入力ポート側の常開バルブ810は、シリンジ部70の常閉バルブ718および728に共通に連結された流路802に接続されている。また、出力ポート側の常開バルブ820は、流路806に接続されている。シリンジ部70の常閉バルブ738および748は、流路804に共通に連結されている。更に、流路804および流路806は、共通接続されて検出部90の流路908に連通されている。ここで、出力ポートとは、下部プレートから上部プレートへと出るポートであり、入力ポートとは、上部プレートから出て下部プレートへと戻るポートである。
図6の実施形態の増幅部を図9に拡大して示す。そこに示されるように、各増幅流路812、816のパターンは、流路長を大きくする為のメアンダー流路がU字状に折り返された形態に形成されている。そして、このU字状のメアンダーパターン(meander pattern)を有する増幅流路812、816は、両者間の中心軸818に関して線対称に配置されて両者が一方向流通路を形成するように連通されている。増幅流路812、816が対称パターンを有することから、検査装置8内に設けられた温度制御機構14のヒータは、増幅流路812、816を比較的に均一に加熱するように設計することができる。
各増幅流路812、816には、ウェル830が流路に沿って一定長以上の間隔を空けるように配置されている。図9に示した例では、メアンダー状の増幅流路812、816において、略一定の流路長を空けてウェル830が配置されることから、増幅部80内に複数のウェル830が直線上に点在して配置されている。ウェル830が直線上に点在して配置されることから、同様に、温度制御機構14のヒータは、これらのウェル830を比較的に均一に加熱するように設計することができる。
更に詳しくは、増幅部80に配置された増幅流路812、816は、複数のウェル830と、ウェル間を繋ぐインターバル流路と、増幅部80の外部から最も上流のウェル830へと続く上流流路と、最も下流のウェル830から増幅部80の外部へと続く下流流路とを含む。核酸検出カセットに含まれる流路において、流路の幅とは、流路の軸方向に直交する方向での長さである。ウェルの幅とは、ウェル830を含む増幅流路812、816の軸方向に直交する方向での長さである。ウェル830の幅は、インターバル流路の幅、上流流路および下流流路のそれぞれの幅よりも大きい。インターバル流路の幅、上流流路および下流流路の幅は、例えば、それぞれ約0.05mm〜約1.5mmであってもよく、好ましくは約0.5mmである。ウェル830の幅は、インターバル流路の幅、上流流路および下流流路のそれぞれの幅よりも大きければよく、例えば、約0.2mm〜約3.0mmであってよい。例えば、インターバル流路の幅が約0.5mmである場合、ウェル830の幅は約1mmであることも好ましい。また例えば、ウェル830の幅は、インターバル流路の幅よりも1.5倍〜3.0倍大きくてもよく、好ましくはウェル830の幅は、インターバル流路の幅よりも1.7倍〜2.3倍大きくてもよい。
増幅部80内に設けられた複数のウェル830には、ウェル毎に互いに異なる種類のプライマーセット832が遊離可能に固定されている。増幅部80内に1又は複数のサンプル核酸(塩基配列)を含むサンプル溶液が供給されると、固定されたプライマーセット832がサンプル溶液中に遊離する。そして、この増幅部80が温度制御機構14のヒータによって加熱されると、複数のサンプル核酸は、複数種類のプライマーセット832によりマルチ増幅される。各ウェル830には、目的とする1種類のサンプル核酸を増幅するために必要な複数のプライマーにより構成される1種類のプライマーセットが固定されている。
図9に増幅流路812の一部分を更に拡大して示し、これを参照しながらウェル830の配置について説明する。ウェル8302は、インターバル流路8122と8124との間に形成されている。ウェル8302の下流側には、インターバル流路8124が形成されており、更にインターバル流路8124の下流にはウェル8304が形成されている。ウェル8302を規定するウェル壁面83022、83024は、インターバル流路8122、8124の幅を規定する流路壁よりも外側に向けて突き出している。図9においてウェル壁面83022、83024を上方から見ると、それらは、それぞれ円の一部を直線で切り取ったときに得られる弧である曲線を示す。そして、ウェル壁面83022、83024の両端部は、インターバル流路8122、8124の末端にそれぞれ連結している。ウェル壁面83022、83024の末端と流路8122、8124の末端との連結は、図9に示すような曲線と直線との連結であってもよく、或いはそれらの末端が互いに滑らかに続く曲線によって連結されていてもよい。ここでは、ウェル壁面83022、83024を上方から見た形状が円弧である例を示したが、これに限定するものではない。例えば、ウェル壁面83022、83024の上方から見た形状が、楕円を直線で切断したときに得られる楕円弧であってもよく、また、複数の直線、複数の曲線、または直線と曲線とを組み合わせた形状であってもよい。好ましくは、ウェル壁面の上方から見た形状は、楕円弧または円弧などの略円弧形状である。
ウェル8302、8304の壁面には、増幅されるべき1種類のサンプル核酸を増幅するために必要なプライマーセット832がそれぞれ遊離可能に固定化されている。例えば、増幅方法がPCR法である場合、プライマーセットはフォワードプライマーとリバースプライマーとを含めばよい。例えば、増幅方法がLAMPである場合、プライマーセットは、FIプライマー、BIプライマー、F3プライマーおよびB3プライマーを含めばよい。
ウェル8302、8304内へのプライマーセット832の固定は、プライマーセットを含む溶液をウェル8302、8304内に滴下し、それを乾燥させることによって行われる。流路にではなく、ウェル8302、8304内にプライマーセット溶液が滴下されるので、所望する位置により正確にプライマーセットが固定できる。
増幅流路812、816に形成された2つのウェル830の間隔は、インターバル流路で連結された2つのウェルの一方のウェル中心からインターバル流路の軸を通り他方のウェル中心までの距離(即ち、ピッチ)である。例えば、ウェル8302の中心8304と、ウェル8304の中心8306との距離8304Dがウェル830の間隔である。或いは、インターバル流路で連結され、流路に沿って隣り合うプライマーセットが固定化されている2つのウェルの一方の中心から流路の軸を通り他方の中心までの距離である。この場合、プライマーセットが固定化されており、流路に沿って隣り合う2つのウェルの間にプライマーセットが固定化されていないウェルが存在してもよい。ウェル830の間隔は、約4mm以上、即ち、約4mmピッチであればよく、好ましくは約6mm以上、即ち、約6mmピッチ以上、より好ましくは約8mm以上、即ち、約8mmピッチ以上である。このような間隔で増幅流路812、816にウェル830を配置にすることにより、複数種類のプライマーセットを使用して、サンプル核酸に含まれる複数種類の増幅されるべき塩基配列を同時または並行して増幅することが可能となる。そして、同時または並行して行われる複数の増幅反応は、何れの反応も良好に進むので、得られた増幅産物に含まれる複数のターゲット核酸を何れも検出することが可能となる。これにより、検出結果に偽陰性が発生するのを防止することができる。それによってより正確な検査を行うことが可能となる。ここで、上記ように複数種類の増幅されるべき塩基配列を1つの流路内で同時または並行して増幅することをマルチ増幅という。
増幅流路812、816がこのようなウェル830とインターバル流路とを備えることにより、プライマーセット832の固定、増幅流路812、816への液体の供給、増幅反応後の増幅産物を含むサンプル溶液の検出部への送液、検出流路100での検出反応を何れも良好に行うことが可能である。
このサンプル核酸の増幅に際しては、増幅部80の入力ポート側の常開バルブ810および出力ポート側の常開バルブ820は、検査装置8内に設けられたバルブロッドで閉鎖される。従って、サンプル核酸の増幅時に増幅部80に与えられる熱によって、膨張されるサンプル溶液が増幅部80の入力ポートおよび出力ポートより外側の流路802、806に流出して試薬等に混合されるような事態を防止することができる。
検出部90には、図10に拡大して示すDNAチップ6が配置されている。DNAチップ6には、1対のU字状の流路を連通した検出流路100が設けられている。この検出流路100には、パッキン40に互いに連通する1対のU字状の溝111が設けられている。溝111がDNAチップ6上の検出流路100に重ね合わされ、パッキン40がDNAチップ6に液密に密着されることによって、DNAチップ6とパッキン40との間に検出流路100が定められる。この検出流路100は、DNAチップ6上の入力ポート910および出力ポート914に連結されている。図8に示すように入力ポート910は、流路922を介して出力ポート912に接続され、出力ポート912には、流路908の終端が連結されている。また、出力ポート914は、流路924を介して入力ポート916に接続されて、入力ポート916には流路926の始端が連結されている。従って、増幅部80での増幅反応により生じた増幅産物を含むサンプル溶液は、増幅部80から流路806、908、出力ポート912、流路922および入力ポート910を介してDNAチップ6の検出流路100に流入される。
上述した流路構成において、第1洗浄液シリンジ704に充填された第1洗浄液を増幅流路812、816に送液することにより、増幅産物を含むサンプル溶液が増幅流路812、816から押し出されてDNAチップ6の検出流路100に流入される。図8に示すように、この後、シリンジ706および708に充填された挿入剤および第2洗浄液を夫々流路732および流路742を介して流路804に供給する。流路804に供給された挿入剤或いは第2洗浄液は、流路908、出力ポート912、流路922および入力ポート910を介してDNAチップ6の検出流路100に流入される。
特に、増幅産物を含むサンプル溶液は第1洗浄液の送液で増幅部80の増幅流路812、816を介して流路804が合流される流路908に押し出されてDNAチップ6の検出流路100に流入されている。第1洗浄液の送液は、サンプル溶液を確実に増幅部80の増幅流路812、816からDNAチップ6の検出流路100に送液することができる。しかも、挿入剤および第2洗浄剤が流入する流路804は、増幅流路812、816とは、分離され、流路908で合流されている。従って、挿入剤および第2洗浄剤が増幅流路812、816を介さず検出流路100に流入され、挿入剤が増幅部80のサンプル溶液と混ざることを回避し、同時に増幅部80における残余の熱で加熱されることも防止される。
検出部90には、DNAチップ6からの廃液を溜める廃液タンク930および補助廃液タンク932が設けられている。廃液タンク930は、DNAチップ6の出力ポート914、流路924、入力ポート916および流路926を介して連通されている。また、廃液タンク930は、流路926を介して補助廃液タンク932に連通されている。補助廃液タンク932には、好ましくは、補助廃液タンク932内の空気を排気するための排気孔934が設けられ、DNAチップ6から廃液が廃液タンク930に流入した際に補助廃液タンク932内の空気が排気される。
第2洗浄液が第2洗浄液シリンジ708から送液されると、検出流路100内の未反応サンプルは、この第2洗浄液によって検出流路100から廃液として押し出され、廃液タンク930に流入される。その後、挿入剤が挿入剤シリンジ706からから送液されると、検出流路100内の第2洗浄液は、この挿入剤によって検出流路100から廃液として押し出され、廃液タンク930に同様に流入される。
ここで、一連の検査工程で生ずる廃液は、廃液タンク930に流入されてその内に留められ、補助廃液タンク932には、殆ど流入することがないか、或いは、僅かな廃液が流路926を介して流入するにすぎない。しかも、供給孔710、720、730、740および空気抜き開口716、726、736、746は、サンプル溶液がサンプルシリンジ702に注入された後には、閉塞され、これら供給孔710、720、730、740および空気抜き開口716、726、736、746と補助廃液タンク932の排気孔934との間の送液系は、液密に維持されている。従って、一連の検査工程で送液系が加熱されたとしても、廃液が補助廃液タンク932の排気孔934から漏れ出るような事態を防止することができる。
これら廃液タンク930、932は、下部プレート30に形成された窪み136、パッキン40の縦長溝146および上部プレート50の裏面に形成した窪み136に対応する窪み(図示せず)で定められる縦長の空間として形成される。特に、廃液タンク930は、シリンジ702、704、706および708から押し出されたサンプル溶液、第1洗浄液、挿入剤および第2洗浄液の全てを受け入れることができる容積を有することが好ましい。
上述した送液系における流路712、714、722、724、732、734、742、744、802、804、806、908、926は、下部プレート30に形成された溝132をパッキン40で覆うことによって溝132とパッキン40の平坦な下面との間に定められている流路である。同様に、増幅流路812、816も下部プレート30に形成されたウェル830を有するメアンダー状の溝132をパッキン40で覆うことによって溝132とパッキン40の平坦な下面との間に定められている流路である。DNAチップ6の検出流路100は、ガラス製或いはシリコン製の平坦な基板にU字状流路が電極配列で定められる。この基板上のU字状流路がパッキン40に設けたU字状の溝111に位置合わせされ、平坦な基板をパッキン40で覆うことによって検出流路100がパッキン40のU字状の溝と基板の平坦な上面との間に定められる流路である。
DNAチップ6のポート910および914は、パッキン40に穿けられた貫通孔(符号910および914に相当する。)に対応している。また、流路908の出力ポート912および流路926の入力ポート916もパッキン40に穿けられた貫通孔(符号912および916に相当する。)に対応している。そして、出力ポート912およびポート910間の流路922並びに入力ポート916およびポート914間の流路924は、上部プレート50の下面に形成された溝(図示せず)をパッキン40で覆うことによって、この溝とパッキン40の平坦な上面との間に定められる。従って、DNAチップ6のポート910および914に至る流路は、DNAチップ6の上面側で連通される。DNAチップ6のポート910および914では、上部プレート50が下部プレート30に向けて押し付けられ、パッキン40で両者間が液密とされている。それ故、DNAチップ6が硬質の基板構造であっても、DNAチップ6がパッキン40に密着された状態に維持され、DNAチップ6の検出流路100が下部プレート30とパッキン40との間に形成される送液系流路に確実に連通される。DNAチップ6の検出流路100が加熱されてもDNAチップ6の検出流路100からサンプル溶液等が漏れ出すことが防止される。
[DNAチップ]
DNAチップ6について、図5および図11を参照しながら説明する。図5に示すように、DNAチップ6は、パッキン40の背面の溝111によってガラス製或いはシリコン製の基板の平坦面上の流路形成部100Aを覆うように定められる検出流路100およびこの検出流路100の両側に配置された電極パッド領域110、112を有している。この検出流路100には、図11に示すように、一定間隔で作用電極940が設けられている。また、電極パッド領域110、112には、電極パッド942が配列され、この電極パッド942が夫々対応する作用電極940に電気的に接続されている。また、検出流路100のU字形の頂部には、参照電極944および対向電極946、948が設けられ、夫々対応する電極パッド942に接続されている。図11においては、図を簡略化する目的から、電極パッド942と作用電極940、参照電極944および対向電極946、948との間の結線を省略している。
作用電極940は、検出されるべき核酸の塩基配列に相補的な配列を含む核酸プローブ、例えば、SNP(1)〜SNP(N)(一塩基多型:Single Nucleotide Polymorphism)を検出する為の核酸プローブが、電極、例えば、金電極に種類毎に固定されて構成されている。核酸プローブは、作用電極940毎に種類毎に複数本固定されている。加熱下において、サンプル溶液中に相補的な塩基配列(即ち、ターゲット核酸)があると、それは固定された核酸プローブに対してハイブリダイゼーション反応によって結合される。ハイブリダイゼーション反応によって結合されなかった未反応のサンプル溶液は、上述したように第2の洗浄液によって検出流路100から押し出されて除去され、作用電極940が第2の洗浄液で洗浄される。その後、挿入剤が検出流路100に供給されて第2の洗浄液が除去される。作用電極940が挿入剤中に浸漬された状態で、作用電極940および対向電極946、948間に一定の電圧が印加される。ここで、挿入剤は、作用電極940上にハイブリダイゼーション反応により生じた2本鎖部分を認識してそこに入り込み、電気化学的に活性化する物質を含む。電圧の印加に起因して、ハイブリダイゼーション反応により2本鎖となった核酸プローブの固定されている作用電極940からは、信号電流が検出される。この信号電流は、上述の図3に示す測定部12に含まれる電流プローブが電極パッド942に物理的に接触されて検出される。検出された電流は、増幅されて測定部12のバッファに格納され、外部のコンピュータ4で検出データとして出力される。
ここで、参照電極944は、作用電極940および対向電極946、948間の印加電圧をモニタし、帰還回路を介して作用電極940および対向電極946、948間の印加電圧を一定にする作用を有している。
[核酸検出カセットの上面構造]
再び図4を参照し、また、新たに図11を参照して核酸検出カセット10の上面構造について、より詳細に説明する。図11は、図4に示す核酸検出カセット10からカバープレート60が取り外された外観を示している。
図4および図5を参照して説明したように、核酸検出カセット10の後方領域には、矩形核酸検出カセット10に嵌め込み固定されたカバープレート60が設けられ、このカバープレート60には、キャップ20が装着されている。このキャップ20は、矩形上面平坦部21およびこの上面平坦部21から核酸検出カセット10の後方側面に沿って延出する側部23を有するL字形に形成されている。また、キャップ20を開閉する為の軸部25が平坦部21の側部に設けられ、側部23には、下部プレート30の係合溝(図示せず)に係合固定される係合部27が設けられている。カバープレート60には、キャップ20の平坦部21を受容する切欠部160が形成され、また、キャップ20の軸部25を軸支するための軸支孔(図示せず)が平坦部21の切欠部側面に形成されている。軸部25を支点としてキャップ20が閉じられると、キャップ20の矩形上面平坦部21がカバープレート60の上面に連接して略平坦な面を核酸検出カセット10に与えるようにキャップ20が核酸検出カセット10に嵌め込まれる。この嵌め込みに際しカバープレート60にキャップ20を押し付けると、キャップ20の係合部27が下部プレート30の係合溝(図示せず)に係合される。その結果、キャップ20が下部プレート30に取り外し不能に固定される。サンプル溶液がサンプル注入孔710を介してサンプルシリンジ702内に注入された後に、キャップ20が嵌め込み装着されると、キャップ20の下面でサンプル注入孔710および空気抜き開口716が圧接変形されてサンプル注入孔710および空気抜き開口716が閉塞される。従って、核酸検出カセット10は、液密に密閉され、サンプルの増幅或いはサンプルの電気化学反応の検出において、核酸検出カセット10が加熱されても核酸検出カセット10から外部にサンプルが漏れ出ることが防止される。
このように、核酸検出カセット10にサンプルを充填する前においては、キャップ20は、軸部25でカバープレート60に軸支されたまま、カバープレート60に対して開放され、軸部25の周りに回動可能に維持された状態で取り付けられている。核酸検出カセット10にサンプルが充填された後においては、上述したように、キャップ20が核酸検出カセット10に取り外し不能に固定される。キャップ20の核酸検出カセット10への取り外し不能な固定は、ユーザに対して核酸検出カセット10へのサンプルの収納が成されていること明示することとなり、再度サンプルを誤って核酸検出カセット10へ注入するような事態を防止することができる。
カバープレート60には、核酸検出カセット10の幅方向に沿って縦長溝164が並列して配置され、その内部には、シリンジ702、704、706、708が縦長溝164内に膨出するように設けられている。また、カバープレート60には、核酸検出カセット10の幅方向に沿ってT字形窪み41、42、44、46が設けられ、この窪み41、42、44、46の背後に常閉バルブ718、728、738、748の片持ちはり構造が設けられている(図6)。送液制御機構16のバルブロッドによってカバープレート60背面側からこの片持ちはり構造が開放操作されると、この窪み41、42、44、46の背後の常閉バルブ718、728、738、748が開放される。シリンジ702、704、706、708が配置される縦長溝164は、指が入り込まないような幅を有し、また、縦長長が大きな縦長溝164には、図4に示すように仕切り165が設けられて長手方向における指の進入を防止するようにしている。
尚、図4に示す核酸検出カセット10は、カバープレート60が設けられた上部プレート50および下部プレート30の幅方向の両側面に滑り止め用の凹凸溝139が設けられ、ユーザが確実に核酸検出カセット10を把持することを可能としている。
図4に示す核酸検出カセット10のカバープレート60は、図5に示すようにカバープレート60の上面がこの前方領域152に面一となるように上部プレート50に取り付け固定される。上部プレート50の前方領域152には、増幅部領域を固定する為に矩形状の窪み51が形成され、この窪み51の両側に常開バルブ810、820を操作するロッド穴52、54が設けられている。このロッド穴52、54に送液制御機構16のバルブロッドが挿入されて常開バルブ810、820にその先端が押し付けられることによって常開バルブ810、820が開放される。また、DNAチップ6の電極パッドが配列された電極パッド領域110、112に電流プローブを装着する為の縦長なプローブ孔56、58が上部プレート50の前方領域152に並列して形成されている。
カバープレート60が取り外されて露出される、上部プレート50の後方領域150には、パッキン40に設けられた第1洗浄液供給孔720、挿入剤供給孔730、第2洗浄液供給孔740の為の開口突起141の先端および空気抜き開口726、736、746の為の開口突起147の先端が露出されている。核酸検出カセット10の製造工程では、図11に示すようなカバープレート60が取り外された状態で、第1洗浄液供給孔720を介して第1洗浄液が第1洗浄液シリンジ704に注入され、挿入剤供給孔730を介して挿入剤が挿入剤シリンジ706に注入され、第2洗浄液供給孔740を介して第2洗浄液が第2洗浄液シリンジ708に注入される。その後、カバープレート60が上部プレート50の後方領域150に取り外し不能に取り付け固定される。この取り付け固定に際しては、カバープレート60の下面が開口突起141および開口突起147に押し付けられ、開口突起141および開口突起147がカバープレート60の下面に圧接される。従って、カバープレート60が上部プレート50に取り付けられると、第1洗浄液供給孔720、挿入剤供給孔730、第2洗浄液供給孔740および空気抜き開口726、736、746が閉塞される。
[核酸検出カセットの組み立て]
図12、図13および図14を参照して図4に示す核酸検出カセットの組み立て工程について説明する。
始めに図12に示すように、上部プレート50の下面が上方に向けられて配置され、この上部プレート50の下面に取り付けられるパッキン40が用意される。上部プレート50の下面に設けたスタッドピン158がパッキン40に設けられた挿通孔148に挿入されて図13に示すように上部プレート50の下面にパッキン40が載置される。ここで、上部プレート50の外周に設けられたスタッドピン156は、図13に示すようにパッキン40の周囲に配置される。
次に、図13に示す上部プレート50とパッキン40の組み立て体が裏返されて、図14に示すように、DNAチップ6が載置された下部プレート30の上面上にパッキン40および上部プレート50が載置される。組み立て体のスタッドピン156、158が下部プレート30のスタッド孔138に挿通される。その後、スタッドピン156、158の先端を下部プレート30に熱カシメすることにより上部プレート50、パッキン40および下部プレート30が一体化される。
[常開バルブの構造]
増幅部80には、既に説明したように、増幅流路812、816の入力ポート側及び出力ポート側には、常開バルブ810、820が設けられている。この常開バルブ810、820は、図15及び図16に示すように上部プレート50のロッド穴52、54内に可撓性パッキン40の筒状部55として形成されている。パッキン40には、上部プレート50のロッド穴52、54に一致される窪み57が形成され、その窪み57内に筒状部55が配置されている。筒状部55とこの筒状部55が配置される下部プレート30の上面との間に常開バルブ810、820の為の空洞部が形成され、この空洞部は、流路802及び増幅流路812或いは増幅流路816及び流路806を連通している。この構造から明らかなように、筒状部55は、窪み57内にパッキン40と一体に形成されていることから、パッキン40の膜厚T1よりも十分薄く、より好ましくは、膜厚T2(T1>T2)よりも薄く形成される。ここで、膜厚T1は、凸部領域及び凹部領域で形成されるパッキン40の凸部領域膜厚に相当し、膜厚T2は、凹部領域膜厚に相当している。従って、図17に示すように筒状部55の内部に設けた空洞部を外部から挿入されたロッド59で押し潰すことができ、筒状部55を押し潰すことで空洞部を閉塞することができる。空洞部を閉塞によって、流路802と増幅流路812との間の流路或いは増幅流路816と流路806との間の流路が遮断される。また、筒状部55が可撓性を有することから、増幅部80が加熱されてサンプル内のターゲット核酸が増幅された後に、ロッド59を退避することによって、押し潰された筒状部55を再びその内に空洞が形成させるような原形状の筒状部に戻すことができる。従って、この筒状部55内の空洞を介して流路802及び増幅流路812或いは増幅流路816及び流路806を連通させることができる。
[常閉バルブ構造]
常閉バルブ718、728、738、748は、図17に示される常開バルブがカバープレート60の裏面に設けた突起部43によって閉塞されて構成されている。より詳細には、常閉バルブ718、728、738、748は、突起部43が上部プレート50に設けた貫通孔を介してパッキン40に設けた溝に進入され、この溝内の可撓性筒状部を押し潰して筒状部の流路を閉塞するように構成される。カバープレート60の裏面に設けた突起部43は、基部がカバープレート60に枢支固定され、基部から延びる舌片が可動可能にカバープレート60に切欠支持された片持梁構造に形成される。常閉バルブ718、728、738、748の開放時には、片持梁構造の舌片がロッドで持ち上げられて突起部43が筒状部から取り除かれて筒状部に流路が確保されることによって開放される。
[検査装置]
図18は、図4に示される核酸検出カセット10が装着される検査装置の内部構造を示している。この検査装置内には、装着された核酸検出カセット10の背面側に、増幅部80を加熱する為のヒータ850およびDNAチップ6の検出流路100を反応温度に維持する為のペルチェ素子852が夫々リフト機構854,856によって矢印で示すように上下動可能に設けられている。ヒータ850およびペルチェ素子852並びにリフト機構854,856は、図3に示す温度制御機構14を構成している。
また、核酸検出カセット10の上面側に、DNAチップ6の電極パッド領域110、112内の電極パッド942に電気的に接続されて検出電流を取り出す電流プローブ960が上下動可能に設けられている。この電流プローブ960は、信号処理の為のプロセッサを含む回路基板962に電気的に接続され、図3に示す測定部12を構成している。
更に、核酸検出カセット10の上面側には、シリンジ702、704、706、708からサンプル溶液、洗浄液或いは挿入剤を送り出すためのシリンジロッド750が設けられ、また、常開バルブ52、54を閉じる為の常開バルブロッド59が設けられている。核酸検出カセット10の下面側には、常閉バルブ718、728、738および748を開放する為の常閉バルブロッド752が設けられている。これらシリンジロッド750、常開バルブロッド59および常閉バルブロッド752は、送液制御機構16を構成している。
これら測定部12、温度制御機構14および送液制御機構16を構成する各部は、制御部18に格納されたプログラムによって制御されて図19に示されるサンプルの電気化学的な検査が実行される。
[サンプルの電気化学的検査]
図19に示されるフローチャートおよび図20から図23に示される送液動作を参照して、図3に示される核酸検査装置におけるサンプルの電気化学的検査を説明する。
核酸検出カセット10の製造時に、第1洗浄液シリンジ704に第1洗浄液が充填され、挿入剤シリンジ706に挿入剤が充填され、第2洗浄液シリンジ708に第2洗浄液が充填されて核酸検出カセット10が用意される。その後、ユーザ(オペレータ)がサンプル溶液をサンプルシリンジ702に注入する。その後、核酸検出カセット10が核酸検査装置8に装着されて検査が開始される(ステップS10)。サンプル溶液のサンプルシリンジ702への注入に際しては、ユーザ(オペレータ)が核酸検出カセット10を把持し、マイクロシリンジや医療用シリンジ等を利用してサンプル注入孔710にサンプル溶液が注入される。サンプルシリンジ702へのサンプル溶液の注入が完了すると、核酸検出カセット10にキャップ20が取り付けられる。キャップ20は、核酸検出カセット10に取り外し不能に取り付けることによりサンプル注入孔710および空気抜き開口716が閉塞される。
核酸検出カセット10が検査装置8に装着されると、電流プローブ960が核酸検出カセット10に向けて降下され、DNAチップ6の電極パッド領域110、112内の電極パッド942に電気的に接触され、検出流路100における反応電流の検出が可能になる。
検査が開始されると、始めに、常閉バルブロッド752がサンプルシリンジ702に連通されている常閉バルブ718に押し付けられ、この常閉バルブ718が開放される。その後、サンプルシリンジ702がシリンジロッド750で押し潰され、その内部のサンプル溶液が図20に示されるように、流路802を介して増幅流路812、816に供給される(ステップS12)。増幅流路812、816がサンプル溶液で満たされると、常開バルブロッド59が常開バルブ810、820を押し潰してこのロット孔52、54を閉鎖する。また、ヒータ850が核酸検出カセット10の増幅部80に押し付けられて増幅部80の増幅流路812、816がヒータによって加熱され、一定温度に維持される。従って、閉塞された増幅流路812、816内で、サンプル溶液に含まれる複数種類のターゲット核酸は、増幅流路812、816の壁面から遊離した対応する複数種類のプライマーセットによってマルチ増幅される(ステップS14)。
次に、常開バルブロッド59が常開バルブ810、820から離れて元の位置に戻ることにより、この常開バルブ810、820が再び開放される。つづいて、常閉バルブロッド752が第1洗浄液シリンジ704に連通される常閉バルブ728に押し付けられ、この常閉バルブ728が開放される。その後、第1洗浄液シリンジ704がシリンジロッド750で押し潰されてその内部の第1洗浄液が図21に示されるように、流路802を介して増幅流路812、816に供給される。このとき、増幅流路812、816内の増幅産物を含むサンプル溶液は、流路806、908、922を介して検出部90の検出流路100に供給される(ステップS16)。ここで、第1洗浄液が流路722内の空気を押し出して増幅産物を含むサンプル溶液を増幅流路812、816から検出流路100に送液している。従って、増幅産物を含むサンプル溶液と第1洗浄液とは、空気層を介して接することとなり、互いに混じり合うことなく、流路802、増幅流路812、816内を送液される。
増幅産物を含むサンプル溶液が検出流路100に送液されると、核酸検査装置8のペルチェ素子852が核酸検出カセット10に向けて上昇されて検出部90に接触される。そして、ペルチェ素子852によって検出流路100がハイブリダイゼーション反応に最適な温度に制御される。検出流路100内では、サンプル溶液中の増幅産物に含まれるターゲット核酸が核酸プローブとハイブリダイズにより結合する(ステップS18)。その後、常閉バルブロッド752が第2洗浄液シリンジ708に連通されている常閉バルブ748に押し付けられ、この常閉バルブ748が開放される。その後、第2洗浄液シリンジ708がシリンジロッド750で押し潰され、その内部の第2洗浄液が図21に示されるように、流路804、908、922を介して検出流路100に供給される(ステップS20)。従って、検出流路100内のハイブリダイズされない未反応の核酸を含むサンプル溶液は、検出流路100から流路924、926を介して廃液タンク930に送液される。ここで、ペルチェ素子852によって検出流路100が洗浄に最適な温度に制御され、検出流路100内が洗浄される(ステップS22)。尚、第2洗浄液が流路804に供給されると、第2洗浄液が空気層を介してサンプル溶液を押し出すこととなる。ここで、流路804と流路806とが流路908で連通されているが、流路804および流路908に送液圧力が空気層を介して付加され、流路806には、逆送圧力が空気層を介して付加される。従って、第1洗浄液が第2洗浄液中に混じることがなく、第2洗浄液が検出流路100に供給され、サンプル溶液は、検出流路100から廃液タンク930に送液される。
洗浄が完了すると、常閉バルブロッド752が挿入剤シリンジ706に連通される常閉バルブ738に押し付けられ、この常閉バルブ738が開放される。その後、挿入剤シリンジ706がシリンジロッド750で押し潰され、その内部の挿入剤が図23に示されるように、流路804、908、922を介して検出流路100に供給される(ステップS24)。ここで、流路804および流路908に送液圧力が空気層を介して付加され、流路806には、逆送圧力が空気層を介して付加される。従って、第1洗浄液が挿入剤中に混じることがなく、挿入剤が検出流路100に供給される。また、検出流路100内の第2洗浄液は、検出流路100から流路924、926を介して廃液タンク930に送液される。
挿入剤の検出流路100への供給後、ペルチェ素子852によって検出流路100が挿入剤反応に最適な温度に制御され、検出流路100内で挿入剤反応が生起される(ステップS26)。ここで挿入剤反応においては、例えば、挿入剤により2本鎖部分が認識され、認識された2本鎖部分に挿入剤が入り込み、電気化学的に活性化され、電気信号が発生する。この挿入剤反応は、電圧の印加の下でDNAチップ6の電極パッド領域110、112内の電極パッド942を介して電流プローブ960で検出される(ステップS28)。電流プローブ960で検出された測定電流は、回路基板962のプロセッサで処理されて測定データとしてコンピュータ4に送られ、解析される。
以上のように、実施形態によれば、高集積化され、サンプルの増幅からサンプルの電気化学反応の検出までを完全に自動化されている核酸検査装置に利用可能な核酸検出カセットを提供することができる。
[例]
例1.下限値の算出
(1)体積差の標準偏差
図4に示した実施形態の核酸検出カセットを10個製造した。これらの核酸検出カセットのそれぞれの増幅部の体積とそれぞれの検出部の体積をそれぞれ測定した。
10個の核酸検出カセットのそれぞれについて、それぞれに得られた増幅部の体積と検出部の体積の差を求めた。得られた10個の核酸検出カセットについて、増幅部と検出部との体積差の標準偏差を求めた。
その結果、体積差の標準偏差(σV)は0.8μLであった。
(2)送液量の標準偏差
上記(1)の10個の核酸検出カセットの増幅部および検出部以外の送液量を測定した。10個の核酸検出カセットのそれぞれについて得られた送液量の標準偏差を求めた。
その結果、送液量の標準偏差(σQ)は、1.6μLであった。
(3)増幅部と検出部との容積の関係
上記(1)および(2)の結果を次の式に代入してΔV1を求めた。
(ΔV1−3σv)/2>3σQ
ΔV1>3(2σQ+σV)
ΔV1>3×(2×1.6+0.8)
ΔV1>12。
これらの結果から、図4に示した実施形態として製造した核酸検出カセットにおいては、増幅部の容積は、検出部の容積よりも12μLを超えて大きくする必要があることが明らかとなった。言い換えれば、図4に示した実施形態として製造した核酸検出カセットにおいては、検出部の容積と増幅部の容積との差は、12μLを超えて大きい必要があることが明らかとなった。
例2.上限値の算出
図4に示した実施形態の核酸検出カセットを10個製造した。これらの核酸検出カセットのそれぞれの検出部に連続して上流および下流に伸びる流路の断面積(B)と、到達限界距離(L)とを測定した。
その結果、断面積(B)は、0.49mm2であり、到達限界距離(L)は40mmであった。また、増幅部と検出部との体積差の標準偏差(σv)は、0.8μLであり、送液量の標準偏差(σQ)は、1.6μLであった。
以上の結果を次の式に代入してΔV2を求めた。
ΔV2<2BL-3(2σQ+σV)。
ΔV2<2×0.49×40−3(2×1.6+0.8)
ΔV2<39.2−12
ΔV2<27.2。
これらの結果から、図4に示した実施形態として製造した核酸検出カセットにおいては、増幅部の容積は、検出部の容積よりも27.2μL未満の範囲で大きい必要があることが明らかとなった。言い換えれば、図4に示した実施形態として製造した核酸検出カセットにおいては、検出部の容積と増幅部の容積との差は、27.2μL未満の範囲である必要があることが明らかとなった。
このような核酸検出カセットにより、複数種類の核酸を同時または並行して増幅し、得られた増幅産物中の複数種類のターゲット核酸を同時または並行して検出することが可能となった。
例3.検出されるべきターゲット核酸からの核酸検出カセットの設計
40種類のDNA断片をターゲット核酸として検出することを想定し、図4に示した核酸検出カセットを設計した。このとき、全てのDNA断片を増幅するためには、40対のプライマーセットが必要である。ここで、プライマーセットの相互作用による増幅阻害を防ぐためには、プライマーを配置するスポット間の距離を4mm以上離すように設計した。
ここで、製造された核酸検出カセットの流路の断面は、0.7mm×0.7mmであり、増幅部の体積は約60μLである。増幅部と検出部の容量差の標準偏差σVおよび送液量の標準偏差σQは、それぞれ0.8μLおよび1.6μLである。増幅部の容積は約60μLに設定している。従って、この場合、検出部の体積は、約60μLの増幅部の体積よりも12μLを超えて小さくなるように設計した。
また、上記(1)の核酸検出カセットにおける検出部の上限値は次のように設計した。即ち、断面積は0.49mm2であり、到達限界距離は40mmであり、且つ増幅部と検出部の体積差の標準偏差は0.8μLであり、送液量の標準偏差は1.6μLであるので、ΔV2は27.2μLであった。従って、検出部の体積は、約60μLの増幅部の体積よりも27.2μLを超えて小さくならないように設計した。言い換えれば、増幅部の体積は、検出部の体積よりも大きく、その差は27.2μL未満とした。
このような核酸検出カセットにより、複数種類の核酸を同時または並行して増幅し、得られた増幅産物中の複数種類のターゲット核酸を同時または並行して検出することが可能となった。
例4
図4に示した実施形態の核酸検出カセットを製造した。この核酸検出カセットを使用して核酸検出試験を行った。
1.核酸検出カセットの準備
1−1.DNAチップの準備
まず、互いに塩基配列の異なる9種類の核酸プローブを用意した。これらのプローブ名は、それぞれ核酸プローブA、核酸プローブB、核酸プローブC、核酸プローブD、核酸プローブE、核酸プローブF、核酸プローブG、核酸プローブH、核酸プローブIであり、それらの塩基配列は表1に示す。
核酸を検出するためのDNAチップ用の基板上に配置された各電極に、これらの9種類の核酸プローブを固定化した。具体的には次の通りに行った。核酸プローブA、核酸プローブB、核酸プローブC、核酸プローブD、核酸プローブE、核酸プローブF、核酸プローブG、核酸プローブHおよび核酸プローブIをそれぞれ3μMずつ含むプローブDNA溶液を調製した。これらのプローブDNA溶液をそれぞれ100nLずつ作用極上にスポットした。核酸プローブ毎に3つの作用極を割り当てた(表2参照)。その後、これを40℃にて乾燥した。これにより核酸プローブがチップ基板上の電極に固定され、DNAチップが得られた。ここで、核酸プローブGは、ネガティブコントロール用の核酸プローブである。
1−2.核酸検出カセットの組立て
核酸検出カセットを作るために上部プレート、下部プレートおよびパッキンを用意した。これらの部材を積層し、固定することによって積層構造体を形成した。上部プレート、下部プレートおよびパッキンは、積層構造体の内部に流路、増幅部および1−1.のDNAチップを取り付けて構成する検出部、試薬を封入するシリンジが形成されるように凹部、凸部および溝などの形成や穿孔がなされている。また、流路にサンプルを注入するためのサンプル注入孔を設けるために、流路の一端が積層構造体の外部に開口されている。増幅部の流路には複数のウェルが形成されており、各ウェルの内壁にはプライマーセットが1種類ずつ遊離可能に固定化されている。
固定化された増幅用プライマーセットは、LAMP法による増幅反応用に設計したものである。それぞれのプライマーセットに含まれるプライマーDNAの塩基配列を表3−1および表3−2に示す。
プライマーセットは、セットA、セットB、セットC、セットD、セットE、セットF、セットH、セットIを用意した。各プライマーセットは、それぞれFIプライマー(FIP)、BIプライマー(BIP)、F3プライマー(F3)、B3プライマー(B3)、ループプライマー(LPFまたはLPB)を含むように設計した。各プライマーセットを含むプライマー溶液を調製するために、それぞれ200μMでFIP、BIP、F3およびB3、並びにLPFまたはLPBをそれぞれに含むプライマー溶液を準備した。そのようにして得たFIP溶液、BIP溶液、F3溶液、B3溶液およびLPF溶液(またはLPB)をそれぞれ0.036μL、0.036μL、0.005μL、0.005μLおよび0.018μLずつ混合した。それにより、それぞれ1種類のターゲットDANを増幅するために必要な全てのプライマーを含む、総量0.100μLのプライマーセット溶液を調製した。各プライマーセット溶液を増幅部のウェル内に滴下し、40℃で2分間乾燥することにより、増幅部に固定した。ここで、プライマーセットのウェルへの固定は、2mmピッチ、4mmピッチまたは8mmピッチで行った。2mmピッチを2枚、4mmピッチを2枚および8mmピッチを2枚の計6枚の核酸検出カセットを作成した。
2.核酸の検出
2−1.サンプル溶液の準備
鋳型DNAとして使用する8種類の核酸、即ち、遺伝子A、遺伝子B、遺伝子C、遺伝子D、遺伝子E、遺伝子F、遺伝子Hおよび遺伝子Iを準備した。遺伝子A、遺伝子B、遺伝子C、遺伝子D、遺伝子E、遺伝子F、遺伝子Hおよび遺伝子Iに含まれる鋳型DNAの配列を表4−1および表4−2に示した。鋳型DNAは、上記のプライマーセットによって増幅される配列であり、これらは、遺伝子A、B、C、D、E、F、HおよびIにそれぞれ対応する鋳型A、鋳型B、鋳型C、鋳型D、鋳型E、鋳型F、鋳型Hおよび鋳型Iである。
核酸検出カセットに注入するサンプル溶液として、上記8種類の核酸とBst DNAポリメラーゼ、リアクションミックスを含む溶液を調製した。サンプル溶液の具体的な組成を表4に示した。サンプル溶液は、蒸留水(即ち、DW)を添加して総量を50μLとした。
以下の試験において使用される核酸検出カセットは、次のような反応を進行させるように設計されている。
サンプル溶液中には、鋳型A、鋳型B、鋳型C、鋳型D、鋳型E、鋳型F、鋳型Hおよび鋳型Iが含まれる。このサンプル溶液を核酸検出カセットの流路にサンプル注入孔から添加する。核酸検出カセットの増幅部のウェルには、プライマーセットA、プライマーセットB、プライマーセットC、プライマーセットD、プライマーセットE、プライマーセットF、プライマーセットH、プライマーセットIがセット毎に2つのウェルに遊離可能に固定化されている。即ち、プライマーセットAは、ウェルA1およびウェルA2、プライマーセットBは、ウェルB1およびウェルB2、プライマーセットCは、ウェルC1およびウェルC2、プライマーセットDはウェルD1およびウェルD2、プライマーセットEはウェルE1およびウェルE2、プライマーセットFはウェルF1およびウェルF2、プライマーセットHはウェルH1およびウェルH2、プライマーセットIはウェルI1およびウェルI2にそれぞれ固定化されている。
増幅部に送液されたサンプル溶液により、これらのプライマーセットが遊離する。増幅部の加熱下で、以下のように、それぞれのウェルにおいて対応するプライマーセットによる鋳型DNAの増幅が行われる。ウェルA1およびウェルA2では、プライマーセットAにより鋳型Aが増幅される。ウェルB1およびウェルB2では、プライマーセットBにより鋳型Bが増幅される。ウェルC1およびウェルC2では、プライマーセットCにより鋳型Cが増幅される。ウェルD1およびウェルD2では、プライマーセットDにより鋳型Dが増幅される。ウェルE1およびウェルE2では、プライマーセットEにより鋳型Eが増幅される。ウェルF1およびウェルF2では、プライマーセットFにより鋳型Fが増幅される。ウェルH1およびウェルH2では、プライマーセットHにより鋳型Hが増幅される。ウェルI1およびウェルI2では、プライマーセットIにより鋳型Iが増幅される。このように増幅部で生じた増幅産物を含むサンプル溶液は、検出部に送られる。
検出部には、核酸プローブA、核酸プローブB、核酸プローブC、核酸プローブD、核酸プローブE、核酸プローブF、核酸プローブG、核酸プローブHおよび核酸プローブIが固定化されている。検出部に送液された増幅産物を含むサンプル溶液には、鋳型A、鋳型A、鋳型B、鋳型C、鋳型D、鋳型E、鋳型F、鋳型Hおよび鋳型Iにそれぞれ由来する増幅産物A、増幅産物B、増幅産物C、増幅産物D、増幅産物E、増幅産物F、増幅産物Hおよび増幅産物Iが含まれる。これらの増幅産物は、対応する核酸プローブとハイブリダイズする。核酸検出カセットにおける試験では、このハイブリダイズにより生じたハイブリダイズ信号を検出することにより、サンプル溶液中に対応する遺伝子が存在しているか否かが判定される。具体的には、増幅産物A、増幅産物B、増幅産物C、増幅産物D、増幅産物E、増幅産物F、増幅産物Hおよび増幅産物Iは、核酸プローブA、核酸プローブB、核酸プローブC、核酸プローブD、核酸プローブE、核酸プローブF、核酸プローブHおよび核酸プローブIとそれぞれハイブリダイズするように設計されている。核酸プローブA、核酸プローブB、核酸プローブC、核酸プローブD、核酸プローブE、核酸プローブF、核酸プローブHおよび核酸プローブIが固定されている電極からの信号を検出することにより、遺伝子A、遺伝子B、遺伝子C、遺伝子D、遺伝子E、遺伝子F、遺伝子Hおよび遺伝子Iが試験に供されたサンプル溶液に含まれているか否かが判定できる。
2−2.鋳型溶液の添加
2−1にて準備した50μLの鋳型溶液を反応領域、即ち、増幅部、次いで検出部に送液した。
2−3.核酸の反応
以下の表6に示す条件にて、反応領域を加熱および冷却して各種反応を行った。
2−4.核酸の検出
各プローブ核酸固定化作用極に電位を掃引し、核酸プローブと増幅産物により形成された2本鎖に特異的に結合したヘキスト33258分子の酸化電流を計測した。
結果
図22には、核酸検出カセットの増幅部に対して、2mmピッチ、4mmピッチおよび8mmピッチでプライマーセットを固定化した様子を模式的に示した。この核酸検出カセットにおいてウェルの形成は、基本的に2mmピッチでなされている。従って、2mmピッチの場合には、隣り合うウェルにプライマーセットを固定化している(図24左欄参照)。4mmピッチの場合には、間にプライマーセットを固定化しないウェルを配置させている(図24中央欄参照)。8mmピッチの場合には図24右欄に示すように、ピッチが8mmになるように配置されたウェルにプライマーセットを固定化している。
このような核酸検出カセットにより得られた結果を表7に示す。
ネガティブコントロールと比較して、有意に大きな電流値が得られた核酸プローブを陽性として陽性率を算出した。核酸プローブを2mmピッチで固定化した場合は陽性率が低く、4mmピッチまたは8mmピッチで核酸プローブを固定化することによって陽性率が100%となった。これらの結果から、4mmピッチ以上の間隔でプライマーセットを固定化することにより、複数の異なる鋳型を含むサンプル溶液についてのマルチ増幅を良好に行うことが可能となることが明らかとなった。従って、4mmピッチ以上の間隔でプライマーセットが固定化された核酸検出カセットにより、複数のターゲット核酸を同時により正確に検出できることが証明された。即ち、実施形態の核酸検出カセットによれば、サンプル溶液に含まれる互いに異なる複数の遺伝子を確実に検出できることが証明された。