《実施例》
[画像形成装置]
図12は本実施例における画像形成装置の概略断面図である。この画像形成装置100は、装置本体101の上部にリーダ部102が搭載されている、タンデム方式−中間転写方式のフルカラー電子写真複写機である。
リーダ部102は原稿台ガラス103と、これに載置された原稿を走査して画像を光電読取りするCCDセンサユニット104を有している。このユニット104により得られた画像信号はリーダ画像処理部201からプリンタ制御部200に送られ、装置本体101側の画像形成部に合わせた画像処理がなされる。制御部200には操作部202からも各種の情報が入力される。
装置本体101は、それぞれ、イエロー(Y)色、マゼンタ(M)色、シアン(C)色、ブラック(Bk)色のトナー像を形成する4つの作像部UY、UM、UC、UKを有する。各作像部は、それぞれ、感光ドラム105、帯電器106、レーザスキャナ107、現像器108、一次転写ローラ109、ドラムクリーナ110を有する。なお、図の煩雑を避けるため作像部UY以外の作像部UM、UC、UKにおけるこれらの機器に対する符号の記入は省略した。また、これら作像部の電子写真プロセスや作像動作は公知であるからその説明は割愛する。
各作像部のドラム105から回動する中間転写ベルト111に対して各色のトナー像が所定に重畳されて一次転写される。これによりベルト111上に4色重畳のトナー像が形成される。一方、カセット112又は113から記録材(シート:以下、用紙あるいは紙と記す)Pが一枚宛給送される。その用紙Pが搬送路114を通ってレジストローラ対115により所定の制御タイミングでベルト111と二次転写ローラ116との圧接部である二次転写ニップ部に導入される。これにより、用紙Pに対してベルト111上の4色重畳のトナー像が一括して二次転写される。
その用紙Pが像加熱装置である定着装置300に導入されて加熱・加圧されることで未定着のトナー像が溶融軟化して固着像として定着(熱定着)される。定着装置300を出た用紙Pは排出トレイ117上に排出される。ここで、本実施例の画像形成装置においては大小各種幅サイズの用紙の搬送は用紙幅中心の所謂中央基準にてなされる。
[定着装置]
ここで、以下で説明する定着装置300に関し、正面とは装置を用紙入口側からみた面、背面とはその反対側の面(用紙出口側)、左右とは装置を正面から見て左または右である。本実施例においては右側を一端側R、左側を他端側Fとする。上下とは重力方向において上または下である。上流側と下流側とは用紙搬送方向(記録材搬送方向)に関して上流側と下流側である。また、定着装置またはこれを構成している部材の長手方向(もしくは幅方向)とは用紙搬送路面内において用紙搬送方向に直交する方向である。短手方向とは用紙搬送方向に平行な方向である。
図1は本実施例の定着装置300の要部の横断右側面模式図である。図2は同装置300の要部の正面模式図である。この定着装置300は、IH(誘導加熱)方式−ベルト加熱方式の画像加熱装置であり、大別して、下記のような部材や機構を有している。
a:用紙Pのトナー像担持面と接触する回転体(定着回転体、像加熱部材)としての可撓性を有する無端状ベルト(エンドレスベルト、ベルト部材:以下、定着ベルトあるいはベルトと記す)11を有するベルトユニット1
b:ベルト11を加熱するための加熱器(加熱手段)としてのコイルユニット(誘導加熱装置、磁束発生手段)2
c:ベルト11と共にニップ部Nを形成する回転体(加圧回転体、加圧部材)としての弾性を有する加圧ローラ3
d:加圧ローラ3との当接により加圧ローラ3から吸熱する吸熱回転体としての均熱ローラ4
e:加圧ローラ3の長手中央部(幅方向中央部)を冷却する冷却手段としての冷却ファン5
f:上記の部材や機構を収容している装置枠体(シャーシ、ハウジング)6
(1)ベルトユニット1
ベルトユニット1は、磁束が通過することにより発熱する金属層を有するベルト11の内部に内部アセンブリを有する。このアセンブリは、定着パッド12を有する圧力付与部材としてのパッド部材13、該パッド部材13を保持する横断面下向きコの字形の金属製のステー14、該ステー14を覆う内コア(磁性体コア)15等の組み立て体である。図3の(b)はこの内部アセンブリの斜視模式図である。
パッド12、パッド部材13、ステー14、内側コア15は何れもベルト11の長手方向(幅方向)に長い部材である。ステー14は一端部と他端部がそれぞれベルト11の両端部から外方に突出しており、その突出部に対してそれぞれ一端側と他端側のフランジ部材16R・16Fが嵌着されている(図2)。図4の(a)と(b)はそれぞれ一端側と他端側のフランジ部材16R・16Fおよびこれらが嵌着されるステー14の一端部と他端部の斜視図である。ベルト11はこの両フランジ部材16R・16Fのフランジ面16a・16a間において内部アセンブリ12〜15の外側にルーズに外嵌されている。
パッド部材13の内側(パッド12の側とは反対側)においてパッド部材13の長手中央部と一端部側にはそれぞれ温度センサ取り付け部(不図示)が配設されている。その各取り付け部にそれぞれ弾性支持部材17を介して第1温度センサ(第1の温度検知手段、第一検知部材:メインサーミスタ)TH1と第2温度センサ(第2の温度検知手段、第二検知部材:サブサーミスタ)TH2が設けられている。
第1温度センサTH1の弾性支持部材17はステー14の上面の長手中央部に設けられている透穴14aとこの透穴14aに対応する内コア位置に設けられている透穴15aを通って内コア15の外側に突き出ている。そして、この支持部材17の先端部に支持された第1温度センサTH1がベルト11の長手中央部の内面に対して弾性的に当接している。これにより、回転されるベルト11のセンサ当接面が波打つなどの位置変動が生じたとしてもセンサTH1がこれに追従してベルト11の内面との良好な接触状態が維持される。
第2温度センサTH2の弾性支持部材17もステー14の上面の一端部側に設けられている透穴14bとこの透穴14bに対応する内コア位置に設けられている透穴15bを通って内コア15の外側に突き出ている。そして、この支持部材17の先端部に支持された第2温度センサTH2がベルト11の一端部側の内面に弾性的に当接している。これにより、回転されるベルト11のセンサ当接面が波打つなどの位置変動が生じたとしてもセンサTH2がこれに追従してベルト11の内面との良好な接触状態が維持される。
ベルト11について図5を用いて説明する。本実施例において、ベルト11は内径が30mm、長さ390mmで、電気鋳造法によって製造したニッケルの基層(磁束が通過することにより発熱する金属層)11aを有している。基層11aの厚みは40μmである。ベルト11の長さ(幅)L11(図7)はこの基層11aの長さ390mmに対応している。
基層11aの外周には弾性層11bとして耐熱性シリコーンゴム層が設けられている。シリコーンゴム層の厚さは100〜1000μmの範囲内で設定するのが好ましい。本実施例では、ベルト11の熱容量を小さくしてウォーミングアップタイムを短縮し、かつカラー画像を定着するときに好適な定着画像を得ることを考慮して、シリコーンゴム層11bの厚みは300μmとされている。このシリコーンゴムは、JIS−A20度の硬度を持ち、熱伝導率は0.8W/mKである。
弾性層11bの外周には、表面離型層11cとしてフッ素樹脂層(例えばPFAやPTFE)が30μmの厚みで設けられている。基層1aの内面側には、ベルト内面と前記温度センサTH1・TH2との摺動摩擦を低下させるために、フッ素樹脂やポリイミドなどの樹脂層(滑性層)11dを10〜50μm設けても良い。本実施例では、この層11dとしてポリイミドを20μm設けた。
なお、ベルト11の基層11aとしては、ニッケルのほかに鉄合金や銅、銀などを適宜選択可能である。また、樹脂基層にそれら金属を積層させるなどの構成でも良い。基層11aの厚みは、後述するコイルユニット2の励磁コイル21に流す高周波電流の周波数と金属層11aの透磁率・導電率に応じて調整して良く、5〜200μm程度の間で設定すると良い。
パッド12を有するパッド部材13がベルト11と加圧ローラ3との間に押圧力を作用させてニップ部Nを形成する。パッド12はステンレスなどの金属やセラミックス等の硬度の高い材質からなり、厚さ1mm程度で長手方向に伸びた形状である。パッド部材13の材質はPPSやLCP等の耐熱性の樹脂からなる。
パッド部材13を保持するステー14はニップ部Nに圧力を加えるために剛性が必要であるため金属製の剛性部材である。ステー14の材質としては、コイルユニット2によってベルト11のみが発熱することが望ましく、誘導加熱の影響を受けにくいステンレス等の非磁性の材質が望ましい。
ステー14のコイルユニット2側には、誘導加熱をより効果的に行うために内コア15が設けられている。内コア15は、図3の(b)に示すように、長手方向に複数に分割して、コイルユニット2の後述する励磁コイル21との距離を漸次変化させるように配置されている。内コア15はコイル21に高周波電流を印加することにより発生した磁束がより効率的にベルト11の加熱に用いられるように、磁束を遮蔽するフェライト等の高透磁率の材質からできている。
ベルトユニット1は一端側と他端側のフランジ部材16R・16Fをそれぞれ装置枠体6の一端側と他端側の側板61R・61Fに形成されている縦方向のガイドスリット部(不図示)に係合させて配設されている。これにより、ベルトユニット1は全体に側板16R・16F間においてガイドスリット部に沿って上下方向に所定の範囲で移動可能な自由度を有する。
(2)加圧ローラ
本実施例における加圧ローラ3は、長手中央部の径が20mmで両端部の径が19mmである鉄合金製の芯金に、弾性層としてシリコーンゴム層を設けた、外径が30mmの弾性ローラである。弾性層の長さは370mmとしてある。この弾性層の長さ部分が加圧ローラ3の長さ(幅)L3である。弾性層の表面には、離型層としてフッ素樹脂層(例えばPFAやPTFE)が30μmの厚みで設けられる。加圧ローラ2の長手中央部における硬度は、ASK−C70℃である。
加圧ローラ2は、図6に誇張して示すように、端部の外径が中央の外径より大きい、逆クラウン形状としている。クラウン量は加圧ローラ3の中央と端部で200μmとしている。なお、加圧ローラ2の外径形状は、このような逆クラウン形状以外に、例えば、中央と端部との径がほぼ同じとなるストレート形状としても良い。
加圧ローラ3はユニット1の下側において、軸線方向をベルトユニット1の長手方向にほぼ平行にして、芯金の一端側と他端側をそれぞれ装置枠体6の一端側と他端側の側板61R・61F間にそれぞれ軸受(不図示)を介して回転可能に配設されている。
加圧ローラ2は、制御部200の駆動制御回路部207(図8)で制御される駆動機構208により回転駆動される。駆動機構208の具体的な構成は図には省略したけれども、モータとギアトレインなどにより構成されている。
(3)圧力付与機構
ベルトユニット1の一端側と他端側のフランジ部材16R・16Fはそれぞれ装置枠体6の一端側と他端側の側板61R・61Fに対して加圧ローラ2に対して近寄る方向と遠のく方向とにスライド移動可能に係合されている。
そして、図2のように、一端側のフランジ部材16Rにおけるバネ受け部16bと装置枠体6の一端側の固定のバネ受け部材62Rとの間には加圧バネ63Rが縮設されている。同様に、他端側のフランジ部材16Fにおけるバネ受け部16bと装置枠体6の一端側の固定のバネ受け部材62Fとの間には加圧バネ63Fが縮設されている。
上記の加圧バネ63R・63Fの縮設反力によりベルトユニット1のステー14にはフランジ部材16R・16Fを介して常時押し下げ力が作用している。これにより、パッド12を有するパッド部材13と加圧ローラ3とがベルト11を挟んで所定の加圧力をもって圧接して、ベルト11と加圧ローラ3との間に用紙搬送方向aに関して所定幅のニップ部Nが形成される。パッド部材13は、長手中央が端部よりも加圧ローラ3側に突出するようなクラウンが付けてあり、クラウン量はパッド部材13の長手中央と端部で1.4mmとしている。
(4)コイルユニット
コイルユニット2は、ベルトユニット1の上側に配設されている。なお、図2においては、便宜上、コイルユニット2は省かれている。コイルユニット2はベルト11の長手方向に沿って長いハウジング23の内部に励磁コイル(磁束を生ずるコイル)21、外コア(外側磁性体コア)22等を組み付けたものである。図3の(a)はコイルユニット2の斜視模式図である。
ハウジング23は横長箱型で耐熱樹脂製の成型品(電気絶縁性樹脂の肉厚2mm程度のモールド部材)である。ハウジング23の底板23a側がベルト11に対する対向面である。底板23aは横断面においてベルト11の外周面の略半周範囲に沿うようにハウジング23の内側に湾曲している。
コイルユニット2はハウジング23の両端部がベルトユニット1の一端側と他端側のフランジ部材16R・16Fに受け止められている。これにより、ハウジング23の底板23aがベルト11の上面に対して所定のギャップ(隙間)αを存して対面している。コイルユニット2はハウジング23の一端側と他端側の側板がそれぞれの側のフランジ部材16R・16Fにワイヤーバネ(不図示)で括りつけられている。つまり、コイルユニット2はベルトユニット1と一体化されている。
コイル21は、電線として例えばリッツ線を用い、これを横長・船底状にしてベルト11の周面と側面の一部に対向するように巻回してなる。そして、ハウジング内側に湾曲している底板23aの内面に当てがわれてハウジング内部に収められている。コイル21には、制御部200の駆動制御回路部207により制御される電源装置(励磁回路:図8)211から20〜50kHzの高周波電流が印加される。この電流印加によりコイル21によって発生した磁界によりベルト11の金属層(導電層)11aが誘導発熱する。
外コア22は、コイル21によって発生した磁界がベルト11の金属層以外に実質漏れないようにコイル21を覆わせた外側の磁性体コアである。そして、外コア22は、図3の(a)のように、長手方向に沿って複数に分割されて並んで配置されている。
(5)均熱ローラ
均熱ローラ4は加圧ローラ3との当接により加圧ローラ3から吸熱する吸熱回転体であり、制御部200の駆動制御回路部207により制御される接離機構210により加圧ローラ3に対して接離可能(着脱可能)に配置されている。接離機構210の具体的な構成は図には省略したけれども、モータとカムを有するシフト機構、ソレノイドとレバーを有するシフト機構などの適宜の移動機構を用い得る。
均熱ローラ4は、ベルト11の通紙部以外の異常昇温を加圧ローラ3で吸熱し、その吸熱した加圧ローラ3の熱を分散し、ベルト11の異常昇温を抑制するために備えられている。即ち、均熱ローラ4は加圧ローラ3における熱の移動を促進させる機能を有する。
このような均熱ローラ4は、熱伝導率が100〜250℃で100W/m・K以上であり、且つ熱容量が100〜250℃で3.0kJ/m3・K以下の材料からなることが好ましい。前記材料はアルミニウム及び銅などであることが好ましい。均熱ローラ4の軸径は8[mm]であり、均熱ローラ4の直径はφ20[mm]、長さL4(図7)は3800[mm]、前記材料で内部が埋まっている中実構成である。均熱ローラ4は芯金にトナー離型層が被覆されたローラを用い得る。
図7は本実施例の定着装置300の主要構成部材の長さ寸法と第1と第2の温度センサTH1、TH2の位置関係を示した図である。L11はベルト11の長さ寸法であり、本実施例においては390mmである。W11はベルト11の最大発熱幅である。最大発熱幅とはトナーが用紙に定着できる温度を保っているベルト幅方向の最大幅のことを意味する。本実施例においてはこの最大発熱幅W11は330mmである。
L3は加圧ローラ3の長さ寸法であり、本実施例においては370mmである。従って、ベルト11と加圧ローラ3との当接で形成されるニップ部Nの長手幅は加圧ローラ3の長さL3と同じ370mmである。L4は均熱ローラ4の長さ寸法であり、本実施例においては380mmである。Oは用紙搬送の中央基準線(仮想線)である。WPmaxは装置に使用可能な最大幅用紙の通紙幅(最大通紙幅)である。本実施例では装置に使用可能な最大幅用紙の幅寸法は330mmである。
第1温度センサTH1は用紙搬送の中央基準線Oの位置にほぼ対応して配設されていて、ベルト11の長手中央部の温度を検知する。即ち、第1温度センサTH1は、大小各種幅サイズの用紙の何れもが通過する通紙部となるベルト部分の温度を検知する。温度センサTH1により検知された検知温度情報は、制御部200にフィードバックされる。
制御部200は、この温度センサTH1から入力する検知温度が所定の目標温度(定着温度)に維持されるように電源装置211からコイル21に入力する電力を制御している。即ち、ベルト11の検知温度が目標温度に昇温した場合、コイル21への通電が遮断される。本実施例では、電源の立ち上げ中はベルト11の目標温度で一定になるように、第1温度センサTH1の検出温度に基づいて高周波電流の周波数を変化させてコイル21に入力する電力を制御して温度調節(温調)を行っている。
第2温度センサTH2は、ベルト11の長手中央から例えば158mmの位置に配置されている。第2温度センサTH2は、通紙する最大幅サイズの用紙の端部近傍にあることが望ましく、ベルト11の幅方向中央から150〜165mmの範囲にあることが好ましい。
(6)冷却ファン
冷却ファン(シロッコファン)5は加圧ローラ3の長手中間部(中央から±50mmの範囲)を冷却する。このような冷却ファン5は、均熱ローラ4に対向する位置に配置され、均熱ローラ4及び加圧ローラ3を冷却する。配置上、冷却ファン5からの風は加圧ローラ3と均熱ローラ5の両方を冷却するが、加圧ローラ3だけを冷却すれば良い。均熱ローラ5のみを冷却することも構成上は可能であるが、熱伝達が均熱ローラ5を経由する分、加圧ローラ3の冷却に時間を有してしまう。
冷却ファン5は、制御部200の画像形成ジョブの受け付け時、ジョブ中の第1温度センサTH1、第2温度センサTH2の温度情報やジョブ中の換算枚数に基づいてオンされる。冷却ファン5は24V電源を受けて駆動する。
(6)定着動作
画像形成装置100のスタンバイ状態において、定着装置300の加圧ローラ3は回転が停止されている。コイル21に対する通電、冷却ファン5に対する通電はオフにされている。
制御部200は、プリントジョブ開始信号(画像形成ジョブ開始信号)の入力に基づいて画像形成シーケンス制御を行う。定着装置300については、加圧ローラ駆動機構208をオンにして加圧ローラ3を図1の矢印R3の反時計方向に回転駆動させる。
この加圧ローラ3の回転により、ニップ部Nにおける加圧ローラ3の表面とベルト11の表面との摩擦力でベルト11に回転力が作用する。ベルト11はその内面がパッド12に密着して摺動しながら内部アセンブリ12〜15の外周りを図1において矢印R11の時計方向に加圧ローラ3の回転速度と同じ速度で従動回転する。ベルト11の回転に伴うスラスト方向への移動はフランジ部材16R・16Fのフランジ面12a・12aにより規制される。
なお、回転するベルト11は、基層11aが金属で構成されているので、回転状態にあっても幅方向への寄りを規制するための手段としては、ベルト11の端部を単純に受け止めるだけのフランジ部材16R・16Fを設ければ十分である。これにより、定着装置300の構成を簡略化できるという利点がある。
また、制御部200は電源装置211からコイル21に対して高周波電流を印加する。コイル21は高周波電流の供給により交番磁束(磁場)を発生する。その交番磁束がコア22により回転しているベルト11の上面側においてベルト11の金属層11aに導かれる。そうすると、金属層11aに渦電流が発生して、その渦電流によるジュール熱により金属層11aが自己発熱(電磁誘導発熱)してベルト11が昇温していく。
即ち、回転するベルト11はコイルユニット2から発生される磁界が存在する領域を通過したときに金属層11aが電磁誘導発熱して全周的に加熱されて昇温する。このベルト11の温度が第1温度センサTH1により検知され、その検知温度情報が制御部200にフィードバックされる。制御部200はこのセンサTH1から入力する検知温度(検知される温度に関する情報)が所定の目標温度(定着温度:所定の温度に対応する情報)に維持されるように電源装置211からコイル21に対する供給電力を制御している。
本実施例では、ベルト11の目標温度である180℃で一定になるように、第1温度センサTH1の検出値に基づいて高周波電流の周波数を変化させてコイル21に入力する電力を制御して温度調節を行っている。
上記のように加圧ローラ3が駆動され、ベルト11が所定の定着温度に立ち上がって温調された状態において、ニップ部Nに未定着のトナー像tを担持した用紙Pがトナー像担持面側をベルト11側に向けてガイド部材18で案内されて導入される。用紙Pはニップ部Nにおいてベルト11の外周面に密着し、ベルト11と一緒にニップ部Nを挟持搬送されていく。
これにより、主にベルト11の熱が付与され、またニップ部Nの圧力を受けて未定着トナー像tが用紙Pの表面に熱圧定着(熱定着)される。ニップ部Nを通った用紙Pはベルト11の外周面からベルト11の表面がニップ部Nの出口部分の変形によって自己分離(曲率分離)して、更には分離ガイド19aで分離補助を受けて、ガイド部材19bにより定着装置300から排出搬送されていく。本実施例の場合はベルト11の表面回転速度が330mm/secで回転し、カラー画像を1分間にA4サイズ用紙で80枚、A4Rサイズで58枚、定着処理することが可能である。
(7)温調温度
ベルト11の温調温度(目標温度)は、画像形成装置100が置かれている環境により変更している。即ち、画像形成装置本体101内に配置された環境センサ212(図12、図8)により、装置本体内の温度や湿度を測定し、その測定結果に基づいて、制御部200がベルト11の温調温度を設定している。
また、制御部200は、紙種、例えば、薄紙と普通紙1と再生紙1でも温調温度を変更している。ここで、薄紙とは、紙の坪量が52〜64[g/m2]未満の用紙である。普通紙1とは、坪量が64〜82[g/m2]未満の用紙である。再生紙1とは、再生紙(リサイクルペーパ)であり、坪量が64〜82[g/m2]未満の用紙である。このような紙種の設定は、例えば、ユーザが操作部202により行う。
紙種に応じた温調温度の設定値としては、例えば、薄紙の場合には、低温環境15℃では温調温度が185℃、高温環境30℃では温調温度が170℃に設定している。普通紙1の場合には、低温環境15℃では温調温度は200℃、高温環境30℃では温調温度は185℃に設定している。再生紙1の場合には、低温環境15℃では温調温度は195℃、高温環境30℃では温調温度は180℃に設定している。
(8)装置の電源投入時又は画像形成ジョブの開始時の制御
本実施例の定着装置300では、画像形成装置100の電源投入時又は画像形成ジョブの開始時で、ニップ部Nに用紙が進入する前に、制御部200は、ベルト11を加熱するべくコイル21に投入する電流を制御する。最大発熱幅では、幅方向の長さが330mmとなる。また、最大発熱幅内の温度差は±15℃以内に収まっている。最大発熱幅とは、トナーが記録材に定着できる温度を保っている定着ベルト1の長手の最大幅のことを示している。
このようにベルト11を加熱した際に、前述したように、コイル21の端部で長手中央部に対して発熱効率が低下するため、ベルト11の温度が長手中央部よりも端部が低下してしまう。加圧ローラ3はベルト11のニップ部Nでの熱伝導により温度上昇するため、加圧ローラ3の長手に沿う温度分布はベルト11と同様、端部で低くなり、用紙を搬送する速度が長手中間部よりも端部で遅くなる。そして、用紙端部が中央部に引っ張られて、用紙にしわが発生する可能性がある。
そこで、本実施例では、冷却ファン5を駆動させることにより、加圧ローラ3の長手中央部と端部との温度差を低減して、紙しわの発生を抑えるようにしている。即ち、制御部200は、装置の電源投入時又は画像形成ジョブの開始時で、ニップ部Nに用紙が進入する前に、ベルト11を最大発熱幅にすると共に、冷却ファン5により加圧ローラ3の長手中央部を冷却するようにしている。
ここで、冷却ファン5のみを作動した場合、ファンにより加圧ローラ3の温度が局所的に低下することによって、加圧ローラ3の温度勾配が急嵯になってしまう。この状態で通紙を行った場合、特に用紙の幅方向中央部のみにベタ画像があるような画像(以下、帯画像)において、紙シワやグロスムラ(ナメクジ)になるリスクがある。
すなわち、トナーが存在する箇所と存在しない箇所とで、ニップ部Nでの用紙の縮み方と搬送速度が異なるため、長手方向に急嵯な温度分布が存在した場合、面内で均一な画像を通紙した時のようにはいかない場合がある。
そのため、本実施例では図1の実線示のように、均熱ローラ4を加圧ローラ3に当接させつつ、冷却ファン5を駆動している。加圧ローラ3に当接させた均熱ローラ4は加圧ローラ3の回転に従動して回転する。
さらに、第1温度センサTH1によって検知した温度Tcと第2温度センサTH2によって検知した温度Teの温度差をモニタリングしている。そして、その両検知温度の温度差(Tc−Te)が所定値(所定温度)になるまで均熱ローラ4を加圧ローラ3に当接させた状態(以下、均熱ローラ−着と記す)にして冷却ファン5を吹きつつ温調を行う。本実施例では温度差(Tc−Te)の所定値を5℃としている。
この時の温度分布を図9に示す。ニップ部Nに用紙が導入される直前の均熱ローラ4の加圧ローラ3に対する着、脱での温度分布差を比べると、均熱ローラ4を着している時の方が脱している時に比べ、中央端部の温度差は維持しつつ、温度勾配の急嵯な部分が減少している。
このような本実施例の制御について、図8の制御系統系のブロック図を用いて説明する。制御部200は、CPU203、記録材情報処理部205、カウンタ206、メモリ204、駆動制御回路部207を備える。記録材情報処理部205は、操作部202又はPC等の外部端末400から、ユーザが出力する記録材種の情報(用紙サイズおよび用紙種類)が送られる。カウンタ206は、画像形成枚数(印字枚数)をカウントする。
駆動制御回路部207は、加圧ローラ駆動機構208、均熱ローラ接離機構210、冷却ファン5、電源装置211等の駆動及び非駆動を制御する。メモリ204には、CPU203が各制御部に指令を送るための各種データが保存されている。
CPU203は、記録材情報処理部205の情報により、メモリ204を参照し、冷却ファン5を駆動する紙種か否かを判断する。駆動制御回路部207は、CPU203からの指令に基づき、冷却ファン5の駆動、非駆動を制御する。
更に、カウンタ206の情報が、CPU203に転送される。CPU203では、その情報より、メモリ204を参照し、冷却ファン5のオフ(非駆動)条件を判断する。CPU203は、冷却ファン5をオフする条件になったと判断したら、駆動制御回路部207に指令を出し、冷却ファン5を停止させる。
次に、このような制御を図10のタイミングチャートを使って説明する。画像形成装置100の電源が投入されるか、画像形成ジョブが開始されると、制御部200は、加圧ローラ駆動機構209をオンにして加圧ローラ3を回転駆動させる。これによりベルト11も従動して回転する。
次いで、制御部200は、電源装置211からコイル21に電圧を印加し、ベルト11の温調を開始する。この温調開始とほぼ同じタイミングにおいて、冷却ファン5を駆動させ、また均熱ローラ接離機構210を動作させて均熱ローラ4を加圧ローラ3に加圧(着動作)させる。
本実施例では冷却ファン5は主に加圧ローラ3を冷却しているため均熱ローラ4の着動作よりも冷却ファン5のONタイミングが早く設定されている。そのまま温調動作を行うことで、加圧ローラ3の長手中央部を冷却しているため第1温度センサTH1が検知するベルト11の長手中央部の温度Tcと第2温度センサTH2が検知するベルト端部の温度Teの温度差が少なくなってくる。初期は前述した温度の端部ダレによって、ベルト11の端部の温度が中央部に比べて低い状態であるが、中央部を冷却することによって端部の温度が相対的に高くなるためである。
温度差(Tc−Te)が所定値になると、画像形成が開始される。なお、通紙中は、非通紙部昇温が生じるため、温度差(Tc−Te)は小さくなっていく。通紙が完了すると、冷却ファン5が停止し、均熱ローラ4が脱し、温調動作を停止し、加圧ローラ3の駆動が停止状態になる。
次に、このような本実施例の制御の流れについて図11を用いて説明する。まず、画像形成装置100の電源が投入(電源ON)されるか、又は、画像形成ジョブが開始(プリント信号ON)される(S1)。制御部200は、定着装置300の立ち上げを開始する(S2)。制御部200は、定着装置300の立ち上げにおいて、加圧ローラ駆動機構208をONにして加圧ローラ3の回転駆動を開始させる(S3)。また、コイル21に対する通電を開始して、ベルト11の加熱と温調制御を行う(S4)。
また、制御部200は、画像形成ジョブで通紙する記録材情報が薄紙か再生紙か、を判断し、薄紙または再生紙以外の用紙においては、ベルト11の温度が180℃に達したら画像形成ジョブを開始する(S5→S10→S11)。
一方、薄紙や再生紙といった用紙の剛性が低く、シワが生じやすい紙が選択されている場合は、制御部200は、さらに環境センサ212の検知結果を参照する(S5→S6)。このとき、環境センサ212の検知結果から画像形成装置100が置かれている環境の水分量(絶対水分量)を検知し、それが18g/kg以上か、または相対湿度80%以上か否かを判断する(S6)。
そして、絶対水分量が18g/kg以上(所定水分量以上)、または相対湿度80%以上(所定値以上)であれば、制御部200は、均熱ローラ接離機構210を着動作させて均熱ローラ4を加圧ローラ3に当接させ(S7)、また、冷却ファン5を吹く(冷却ファン5:ON)(S8)。このまま温調動作を行い、第1温度センサTH1と第2温度センサTH1でそれぞれ検知されるベルト11の長手中央部と端部の温度差(Tc−Te)が5℃以内になると、制御部200は、画像形成ジョブを開始する(S9→S10→S11)。
制御部200は、画像形成ジョブが終了したら(S12)、冷却ファン5をOFFにし(S13)、均熱ローラ接離機構210を脱動作させ(S14)、コイル21に対する通電をOFFにする(S15)。そして、加圧ローラ駆動機構208をOFFにして加圧ローラ3の回転駆動を停止させる(S16)。この状態において、装置100・300は次の画像形成ジョブが投入されるまで待機状態に保持される。
このように、本実施例の場合、画像形成ジョブの開始時に、均熱ローラ4を加圧ローラ3に対して当接するとともに、冷却ファン5により加圧ローラ3および均熱ローラ4の長手中間部を冷却している。
即ち、制御部200は、定着装置300を立ち上げる際に、均熱ローラ接離機構209を作動させて均熱ローラ4を加圧ローラ3に当接しつつ、冷却ファン5を作動させて加圧ローラ3を冷却する制御モードを実行する。また、環境センサ212を備え、制御部200は上記の制御モードにおいて、環境センサ212により検知される相対湿度もしくは水分に応じて、前記の温度差(Tc−Te)前記所定値になるまで定着装置に対する用紙の導入を禁止する。
特に、画像形成ジョブ開始の最初の1枚或いは数枚の画像形成において、定着装置300が冷えている状態から立ち上げた場合、加圧ローラ3の長手中間部と端部との温度差が大きくなり易いく、用紙にしわが生じ易い。そこで、本実施例では、ベルト11における長手中央部の温度と端部の温度の温度差が所定になるまで均熱ローラ4を加圧ローラ4に着して冷却ファン5を吹き、しわを防止している。
上述したように、定着装置300の立ち上がり時や電源ON時がしわに厳しいため、均熱ローラ4を加圧ローラ3に着して冷却ファン5を吹いた場合であっても、画像形成ジョブが開始されたのちは冷却ファン5を停止しても良い。通紙中は非通紙部昇温効果により端部の温度が中央部に比べて上昇するため、冷却ファン5を吹かなくても端部の温度が上昇していく。あまりにも端部の温度が中央部に対して上がりすぎると、用紙の後端ハネ等の別の画像不良が生じる可能性もある。
本実施例では特定の紙種、特定の環境のみで均熱ローラ4を着して冷却ファン5を吹く構成とした。しかし、が、しわに対してより緩い条件(例えば絶対水分量が10〜18g/kg、相対湿度60〜80%など)においては、定着装置300の立ち上げ時に均熱ローラ4を着せずに冷却ファン5のみを吹き、そのまま通紙しても良い。
なお、本実施例のように、定着装置300の温調中に冷却ファン5を吹かなくても、用紙にしわが発生しないように、端部の紙の搬送速度を上げる構成にしておくことも考えられる。端部の紙の搬送速度を上げるためには定着装置300のニップ部Nの圧分布、ニップ幅を中央より端部の方を大きくすればよい。
しかし紙の端部の速度を上げ過ぎると、紙の後端がばたついたり、跳ねたりする後端ハネ画像・チリメン画像(紙端部の濃度斑・グロス斑)が発生することがある。また、連続通紙して非通紙部昇温してくると、非通紙部昇温している加圧ローラ3の端部の箇所の径が膨張して、端部のニップが大きくなり、紙の端部の速度が上がってしまう。そうするとより顕著に後端ハネ・チリメンが発生してしまうことがある。そこで、本実施例では、上述のように冷却ファン5を用いて、用紙のしわの発生を防止している。
上述の本実施例では、冷却ファン5は薄紙、再生紙のみ駆動させた。但し、画像形成装置100の置かれている環境、紙の放置状態、ジョブを受け付けた時のベルト温度、加圧ローラ温度等の条件により、他の紙種で冷却ファン5を駆動させても良い。また、用紙のサイズが長く、幅が広い方がしわが発生しやすいことから、用紙のサイズを限定的にして制御を行っても良い。
[実験1]
本実施例の効果を調べるために行った実験について説明する。実験では、上述の実施例の構成で、最大発熱幅(330mm)と発熱幅を狭くした場合(300mm)とで、冷却ファン5の駆動時と非駆動時とで、用紙をニップ部Nに通した場合のしわ発生を調べた。
この実験は温度25℃、相対湿度70%の環境下において行った。使用した用紙は、CS−520 A3サイズ T目(キヤノン株式会社製)、CS−814 A3サイズ(キヤノン株式会社製)、GF−R70 A3サイズ(キヤノン株式会社製)である。そして、それぞれを1晩放置した後に本実施例の画像形成装置100で画像形成を行った。
なお、CS−520は薄紙、CS−680は普通紙1、GF−R70は再生紙1に相当する。また、形成した画像は、用紙上にマゼンタとシアンのトナー載り量1.0[mg/cm2]に設定した、ブルーの150mm帯画像とし、実験では、その画像を10枚連続して通紙した。この実験結果を表1に示す。表1では、10枚中全ての用紙でしわが発生しなかった場合を○、1枚でもしわが発生した場合を×とした。
表1から明らかなように、帯画像においては、均熱ローラ4を加圧ローラ3に当接させつつ冷却ファン5を駆動しないと用紙にしわが発生した。以上説明したように、本実施例によれば、用紙のしわの発生を防止することができる。
[その他の事項]
1)実施例の定着装置300において、ベルトユニット1と加圧ローラ2とで形成されるニップ部Nのニップを解除可能な加圧解除機構を具備させて、定着装置300のスタンバイ時にはニップ解除状態に保持する構成、制御にすることもできる。これにより、加圧ローラ2に対するニップ跡の係止を抑制できる。
2)実施例においては、均熱ローラ4を、定着処理(ニップ部を形成する)を行う一対の回転体のうち、一方の回転体である加圧ローラ3に接離可能に設けた構成であるが、他方の回転体であるベルト11に接離可能に設けた構成とすることも出来る。従って、請求項に記載の第1及び第2の回転体における第1の回転体は実施例のように加圧ローラ3である場合とベルト11である場合の両方が含まれる。
3)ベルト11は複数の張架部材間に懸回張設して循環移動させる可撓性を有するエンドレスベルト部材にすることも出来る。また、回転体であるベルト11をローラ体にすることも出来る。
4)回転体である加圧ローラ3をエンドレスベルト体にした構成にすることも出来る。
5)定着処理(ニップ部を形成する)を行う一対の回転体11と3は共に加熱される回転体とすることも出来る。
6)回転体11、または回転体11と回転体3を加熱する加熱機構としては、上述した電磁誘導加熱機構に限られない。ハロゲンヒータ、赤外線ランプ、セラミックヒータなど他の加熱機構を使用する構成とすることも出来る。
7)本発明に係る定着装置300として、次のような形態としても使用することができる。具体的には、記録材に定着された画像を再加熱することにより画像の光沢度を向上させる光沢付与装置(この場合も定着装置と呼ぶ)としても有効に使用することが出来る。