JP6814523B2 - パンタグラフ異常検知方法及び検知装置 - Google Patents

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Description

本発明は、カテナリ式電車線からパンタグラフを介して車両に集電する電気鉄道においてパンタグラフの異常を検知する方法及び装置に関する。特には、パンタグラフすり板に発生する段付摩耗やすり板の脱落などの異常を、異常検知対象の車両の速度が高速から低速まで異なる場合においても、洩れなく、高い精度で検知できるパンタグラフ異常検知方法等に関する。
パンタグラフの異常の一つに、すり板の段付摩耗がある。段付摩耗は、すり板や舟体の割損、ひいてはパンタグラフ全体の破損の原因にもなり得る。パンタグラフに重大な異常が生じると、広範囲にわたって電車線設備が損傷する可能性があり、損傷の程度が大きい場合は長時間の運転阻害が発生する。
ここで、図2(A)、図14及び図15を参照しつつ、カテナリ式電車線とパンタグラフの概要を説明する。図2(A)は、トロリ線Tの架設状態を模式的に示す平面図である。図14は、シンプルカテナリ式の電車線1及びその支持構造物の一部を示す斜視図である。図15は、パンタグラフPの上部(舟体付近)の構造の例を示す正面図である。
図14においては、レール長手方向に延びるトロリ線Tが示されている。トロリ線Tは銅製などの棒状のものであって、図15に示すパンタグラフすり板11としゅう動し、車両(図示されず)に給電する。トロリ線Tは、上下に延びるハンガー3を介して、レール長手方向に延びる山なりのちょう架線2によって、極力水平となるように支持されている。これらのトロリ線T・ハンガー3・ちょう架線2などを電車線1と総称している。
電車線1を支持する支持構造物5は、例えば、図14に示される電柱50や、電柱50に支持された水平パイプ51などを含む。支持構造物5は、ちょう架線2を上下方向に支える他に、トロリ線Tをまくらぎ方向(軌道面におけるレール長手方向の直角方向)に引っ張る曲線引金具45を有する(本明細書では「曲線引金具」は「振止金具」を含む意味で用いる)。
曲線引金具45は、トロリ線Tの左右偏位の屈曲点9(図2を参照しつつ後述)や、電車線中心線の屈曲点(カーブや分岐・合流)にも設けられている。曲線引金具45は、上記水平パイプ51に取り付けられるものの他、電柱50に鋼線(図示されず)を介して取り付けられたり、下束(図示されず)に取り付けられたりする。このような曲線引金具45は、トロリ線Tの横張力やトロリ線Tに作用する風圧荷重などの引張力に耐えうる強度を有する。
次に図2(A)を参照しつつ、トロリ線Tの水平面(軌道面の平行面)における架設状況を説明する。図2(A)に示すように、トロリ線Tは、平面視で、軌道軌道中心線Cをあるピッチで繰り返し横切るようにジグザグに架設されている(左右偏位という)。これにより、パンタグラフすり板11とトロリ線Tとのしゅう動位置が、まくらぎ方向に分散されて、すり板11の摩耗が平均化されるようになっている。
左右偏位の具体例は、±250mm、周期100mである。この図の電車線の場合、左右偏位の周期100mは、支持構造物5のピッチ50mの倍である。なお、支持構造物5の存在する位置のことを「支持点5」といい、そのピッチのことを「径間」ともいう。トロリ線Tの左右偏位の屈曲点9には、上述の曲線引金具(あるいは振止金具)45が配置されており、トロリ線Tをレール直角方向に引っ張るようになっている。
図15は、パンタグラフの上部(舟体付近)の構造の例を示す正面図である。
このパンタグラフPは、トロリ線Tとしゅう動するすり板11を保持する舟体10を備える。舟体10は、電気鉄道車両の屋根に起立倒伏可能に設置された枠組(図示されず)に支持されている。
舟体10は、車体の幅方向(まくらぎ方向)に沿って延びる細長い箱状体である。舟体10の上面には、すり板11(この例では三枚に分割されている)が取り付けられている。すり板11は、一例で鉄系や銅系の焼結合金、あるいは、カーボン系材料等で作製される。このすり板11がトロリ線Tに直接接触する。舟体10は、両端付近で左右の舟支え13に支持されているものや、中央付近で支持されているもの(図示されず)がある。左右方向を外下方向に延びるホーン14は、トロリ線Tが舟体10の下に入り込むことを防止している。ホーン14は、舟支え13に取り付けられているものや、舟体10に取り付けられているもの(図示されず)がある。
次に、図16を参照しつつ、パンタグラフすり板11のしゅう動面摩耗の形態について説明する。図16(A)に示すように、すり板11の上面(トロリ線しゅう動面)11bは、列車走行に伴い、徐々にかつなだらかに摩耗するのが一般的である。すなわち、摩耗した部分11dは、まくらぎ方向の中央部が、摩耗深さが比較的大きい(深い)幅広の底となり、左右端に向かって摩耗深さが小さく(浅く)なるのが一般的である。そして、例えば、残存すり板厚2mm程度ですり板の交換を行う。
しかしながら、稀に、局所的かつ急峻な段差状の摩耗が生じることがある。これを一般的に「段付摩耗」(符号11x)と呼んでいる(図16(B)及び(C)参照)。特に図16(C)のように、段付摩耗11xが対向して二箇所存在し、その間が溝状になっているものを「溝摩耗」(符号11y)と呼ぶ。
段付摩耗11xの発生は、直流区間において多くみられるが、交流区間でも報告されている。また、特定のパンタグラフやすり板で発生しているわけでなく、パンタグラフ種別(シングルアーム、ひし形)やすり板種別(金属系すり板、カーボン系すり板)によらず発生が報告されている。さらに、段付摩耗11xの傾斜や摩耗深さ(数mm〜10mm前後)には様々なものがある。なお、発生位置は舟体中央付近や、主すり板11gと補助すり板11hとの境界付近などにおいて多く発生する傾向があるものの、その他の位置における発生も報告されている。また、段付摩耗11xが発生した電車のパンタグラフ搭載数や走行速度も様々である。
段付摩耗11xが生じると、段付摩耗11xの肩部においてトロリ線Tがすり板11に拘束されて(図2(B)参照)、トロリ線Tがすり板11上をまくらぎ方向に左右変位(スライド)しにくくなる。そのため、段付摩耗11xの底の部分でトロリ線Tが長くしゅう動することとなる(トロリ線とのしゅう動頻度が高くなる)。その結果、段付摩耗部の摩耗がさらに進展し、場合によってはすり板11や舟体10(図15参照)の割損、ならびにこれに伴う電車線の破損に至る可能性がある。ところで、パンタグラフすり板は、レール直角方向に複数枚に分割されているのが一般的であるが、分割されたすり板のうちの一枚が脱落すると、上記の段付摩耗に類似の事態になりうる。
このような事故を防ぐために、鉄道事業者では定期検査の際にすり板の目視検査を実施するとともに、車両基地の入り口にパンタグラフすり板測定装置を設置して段付摩耗の有無を判断し、段付摩耗が認められるすり板については適宜交換がなされている。しかし、段付摩耗の進展速度が速い場合は、次のこれらの検査までの間に段付摩耗が発生・成長し、すり板や舟体の割損が生じる可能性がある。そのため、これらの検査の周期よりも短い周期で段付摩耗の有無を自動で検知することが求められている。
ここで、段付摩耗は特定のすり板種別や特定の部位において発生するわけではないこと
から、その検知には以下の事項が要求される。
ア)高速走行時から低速走行時まで、電車走行速度に依存せず、段付摩耗を洩れなく検知可能であること。
イ)段付摩耗の発生位置(舟体中央や、主すり板と補助すり板の境界付近など)によらず検知可能であること。
ウ)パンタグラフ種別、すり板種別、パンタグラフの搭載位置及び搭載数などに依存せず検知可能であること。
エ)摩耗形態には様々なものがあるが、このうち摩耗速度が急速に成長する可能性が高い形態のもののみを段付摩耗と判定すること。
オ)高頻度で検査可能であること。
検知手法としては、パンタグラフ、あるいは電車線等の地上設備のいずれかにセンサなどを実装する手法が考えられる。しかし、前者については、パンタグラフの常時監視が可能であるものの、全ての車両の全てのパンタグラフに検知システムを実装することが必要となるため、導入コストが高い。後者については、(1)加速度計などのセンサにより検知する方法と、(2)ビデオカメラ等により撮影した画像から検知する方法が考えられる。しかし、トロリ線が引っ掛かる摩耗形状をあらかじめ予測しておくことは困難であるため、(2)により段付摩耗を検知することは難しい。そこで、本発明者らは、加速度計あるいは歪ゲージ等のセンサをある区間の地上設備に設置し、当該区間を通過する全ての車両に搭載されている全てのパンタグラフを監視する手法に主に着目し開発してきた。
本発明者らは、トロリ線がパンタグラフ段付摩耗部を通過する際のトロリ線の振動を検知することにより、段付摩耗の早期発見を可能とする手法を開発している(非特許文献1)。しかし、この手法は、線条にセンサを設置するための施工が容易ではないこと、トロリ線の振動を検知する多数のセンサが必要であるなど、いくつかの問題があった。そこで、施工が容易で、少ないセンサにより効果的に段付摩耗を検知可能な新しい手法を開発した(特許文献1、非特許文献2)。この新しい手法の基本的な考え方(段付摩耗検知アルゴリズム)は、トロリ線をレール直角方向に支持する曲線引金具にかかる荷重を測定し、該荷重の絶対値が所定の閾値を超えた場合に、パンタグラフに異常可能性有りと判定するものである。
特許文献1 特許公開2015-150997「パンタグラフ異常検知方法及び検知装置」
非特許文献1 臼田隆之、池田充、「トロリ線の振動測定によるすり板段付き摩耗の検出」、鉄道総研報告、Vol.25、No.4、2011年4月
非特許文献2 小山達弥、臼田隆之、「曲線引金具の応力測定によるパンタグラフの異常検知手法」、Dynamics and Design Conference 2015 USB論文集、日本機械学会、2015年8月
上記特許文献1・非特許文献2の手法は、異常検知対象の車両の速度が著しく異なる場合には、検知に限界があることが、その後の研究により判明した。
図8は、曲線引金具に作用するまくらぎ方向の力(横張力)の時間変化(横張力波形)を示すグラフである。上段の左右二個のグラフ(H)及び(L)は、バンドパスフィルタを通す前の波形である。左の(H)は、段付摩耗なしのパンタグラフが高速(130km/h)で検知部を通過したときの波形であり、右の(L)は、段付摩耗ありのパンタグラフが低速(5km/h)で検知部を通過したときの波形である。なお、下段の左右二個のグラフ(H´)及び(L´)は、本件特許発明の一つの参考例に係る波形処理を行った(バンドパスフィルタを通した)後の波形であるが、これについては、後述する。
図8上段の左右二つの図においては、左(H)の「段付摩耗なし・高速」の波形にも、右(L)の「段付摩耗あり・低速」の波形にも、いずれも、20N以上のスパイク状のピークが存在する。このうち、右の「段付摩耗あり・低速」の波形のピークは、段付摩耗にトロリ線が拘束されることにより曲線引金具に作用する横張力変化によるものと解することができるが(そのとおりであることは後述する)、左側の「段付摩耗なし・高速」の波形のピークは、トロリ線の自由振動に起因するものである。なお、「段付摩耗あり・高速(130km/h)」の場合には、波形のピークは100N以上に達する(図7参照、後述)。
このように、「高速の段付摩耗なし」と「低速の段付摩耗あり」の波形において、同程度の横張力変化のピークが存在するため、車両速度を問わず一定の閾値により「段付摩耗発生」と判断すると、高速走行する車両のパンタグラフの場合に誤検知(実際は段付摩耗なしなのに段付摩耗ありと判定)が頻発するか、低速走行する車両のパンタグラフの段付摩耗検知がほとんどできない可能性がある。
本発明は、パンタグラフすり板に発生する段付摩耗やすり板の脱落などの異常を、検知対象車両の速度が大きく異なる場合にも、洩れなく高い精度で検知できるパンタグラフ異常検知方法等を提供することを目的とする。
本発明のパンタグラフ異常検知方法は、 前記パンタグラフとしゅう動するトロリ線を
レール直角方向に支持する曲線引金具又は振止金具に作用する横張力変化、並びに、前記パンタグラフの速度を測定し、 前記速度と関連させて、前記横張力についての複数の閾値を前記速度の増加に応じて増加するよう設定しておき、 前記横張力の絶対値が、前記横張力を測定した時点の前記速度に対応した閾値を超える場合に、パンタグラフに異常可能性有りと判定することを特徴とする。
トロリ線の曲線引金具には、前述のように、正常な(段付摩耗などのない)パンタグラフの高速通過時に、トロリ線の固有振動数(例えば1Hz)近辺の自由振動に起因する卓越した横張力変化が生じることを、本発明者らは確認した。この卓越した横張力変化の振動成分により誤導されない異常判定を行うため、本発明では、パンタグラフ通過速度と関連させて複数の横張力変化の閾値を速度の増加に応じて増加するよう設定しておき、速度を踏まえた判定を行うことにより、高速時の卓越した横張力の振動成分により誤導されない異常判定を行うことができる。
本発明のパンタグラフの異常検知装置は、 前記パンタグラフPとしゅう動するトロリ線Tをレール直角方向に支持する曲線引金具45又は振止金具に作用する横張力を測定する横張力測定手段(歪ゲージ61等)と、前記パンタグラフの速度を測定する速度計67と、 前記速度と関連させて、前記横張力についての複数の閾値を前記速度の増加に応じて増加するよう設定しておき、前記横張力の絶対値が、前記横張力を測定した時点の前記速度に対応した閾値を超える場合に、パンタグラフに異常可能性有りと判定する異常判定手段(段付摩耗判定部93)と、を備えることを特徴とする。
本発明においては、前記曲線引金具又は振止金具に作用する横張力の変化を、近接する3箇所の支持点において測定し、 該3箇所の支持点のうちの、第一支持点と第二支持点における横張力を合算して一二支持点合算横張力を得るとともに、第二支持点と第三支持点における横張力を合算して二三支持点合算横張力を得、 両合算横張力のいずれか一方でも所定の閾値を超えた場合に、前記パンタグラフに異常可能性有りと判定することが好ましい。
本発明によれば、パンタグラフすり板に発生する段付摩耗やすり板の脱落などの異常を、検知対象車両の速度が大きく異なる場合にも、洩れなく高い精度で検知できるパンタグラフ異常検知方法等を提供できる。これにより、段付摩耗のあるパンタグラフを搭載した電車を抑止し、パンタグラフおよび電車線の大きな破損を未然に防ぐことで、列車の安定輸送に寄与できる。
以下、本発明のパンタグラフ異常の検知方法及び検知装置の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
本発明の参考例に係るパンタグラフ異常検知装置の構成を示す図であって、(A)は曲線引金具の構成や、歪ゲージ61・信号伝送系統(FMテレメータ65など)の配置状態を示す正面図であり、(B)は、検知装置全体の概要を示すブロック図である。 (A)はトロリ線Tの架設状態と、トロリ線Tに沿ってレール長手方向に走行する車両のパンタグラフすり板11(段付摩耗11x付き)を模式的に示す平面図である。図2(B)は、パンタグラフすり板11の段付摩耗11x部分を、トロリ線Tが左右偏位しながらしゅう動する様子(段付摩耗11x近傍のトロリ線Tの挙動)を模式的に示す正面図である。 段付摩耗11xの生じたパンタグラフすり板11が通過する際に、曲線引金具45に作用する力を説明するための模式的平面図である。 トロリ線にまくらぎ方向の静荷重を作用させたときに、隣接する複数の支持点5-1・2・3における曲線引金具45に作用する横張力変化、及び、隣接する二個の曲線引金具45に作用する横張力変化を合算したものを模式的に示すグラフである。 本発明の参考例に係るパンタグラフの異常検知方法における段付摩耗判定アルゴリズムの前半部分を説明するフローチャートである。 図5に続く、参考例の判定アルゴリズムの後半部分を説明するフローチャートである。 高速走行(130km/h)時の曲線引金具単体にかかる横張力(縦軸)の波形である。 曲線引金具にかかるまくらぎ方向の力(横張力、縦軸)の時間変化(横張力波形)を示すグラフである。横軸は、パンタグラフ通過前後数十秒の時間である。 参考例のS5(ローパスフィルタ通過前、図5参照)の判定における、異なる車両速度と横張力変化の和との関係をまとめたグラフである。横軸はパンタグラフ通過速度であり、縦軸は隣接する複数の曲線引金具に作用する横張力変化の和である。 参考例のS10(ローパスフィルタ通過後、図6参照)の判定における、異なる車両速度と横張力変化の和との関係をまとめたグラフである。横軸はパンタグラフ通過速度であり、縦軸は隣接する複数の曲線引金具に作用する横張力変化の和である。 本発明の実施形態に係るパンタグラフ異常検知装置の概要を示すブロック図である。 本発明の実施形態に係るパンタグラフの異常検知方法における段付摩耗判定アルゴリズムを説明するフローチャートである。 実施形態のS25(図12参照)の判定における、異なる車両速度と横張力変化の和との関係をまとめたグラフである。横軸はパンタグラフ通過速度であり、縦軸は隣接する複数の曲線引金具に作用する横張力変化の和である。 シンプルカテナリ式の電車線1及びその支持構造物5の一部を示す斜視図である。 パンタグラフPの上部(舟体付近)の構造の例を示す正面図である。 パンタグラフすり板11のしゅう動面摩耗の形態を説明するための模式的正面図である。
T;トロリ線、C;軌道(電車線)長手方向中心線、P;パンタグラフ
1;電車線、2;ちょう架線、3;ハンガー、5;支持構造物、9;屈曲点
10;舟体、11;すり板、13;舟支え、14;ホーン
43;信号線、45・45−1・2・3;曲線引金具
50;電柱、51;水平パイプ、52;支持金具、53;イヤー、54;アーム
57;電車運行指令、59;引手アイ金具
61;歪ゲージ、65;FMテレメータ
71;受信機、72;波形処理部、73;段付摩耗判定部
92;波形処理部、93;段付摩耗判定部
まず、図2を参照しつつ段付摩耗発生時におけるトロリ線Tの挙動及び曲線引金具45に作用する横張力変化について説明する。図2(A)はトロリ線Tの架設状態と、トロリ線Tに沿ってレール長手方向に走行する車両のパンタグラフすり板11(段付摩耗11x付き)を模式的に示す平面図である。図2(B)は、図2(A)の段付摩耗11x部分を、トロリ線Tが左右偏位しながらしゅう動する様子(段付摩耗11x近傍のトロリ線Tの挙動)を模式的に示す正面図である。
図2には、太い実線で示すトロリ線Tが、基本的にはレール長手方向に延びるように、そして一定周期でまくらぎ方向にジグザグに偏位するように配設されている。トロリ線Tは、図の左側から右側に向かって、支持点5-1・支持点5-2・支持点5-3において、曲線引金具45-1・45-2・45-3により、まくらぎ方向に引っ張られて保持されている。曲線引金具45の保持は、図中で3箇所のトロリ線屈曲点9-1・9-2・9-3となっている。
図2(A)には、走行するパンタグラフすり板11が、8箇所((ア)〜(ク))において示されている。すり板11には、軌道中心線Cの図の下側に対向する二箇所の段付摩耗11x、11x´が示されている。図2(B)において、左上の(ア)・(オ)の図は、トロリ線Tが、すり板上面11bの通常部11t(段差のほとんど無いなだらかな部分)をしゅう動しながら、段付摩耗11x部に近づくように左右偏位している状況である。このときは、トロリ線Tは、引っ掛からずにスムーズに変位運動している。なお、(ア)と(オ)は、図2(A)の(ア)あるいは(オ)に対応しているが、トロリ線Tの実際の左右偏位方向は逆である((イ)や(カ)なども同様)。
図2(B)における右上の(イ)・(カ)の図は、トロリ線Tが、段付摩耗11xから滑り落ちて、段付摩耗底11zに入った状況である。このときも、トロリ線Tは、引っ掛からずにスムーズに変位運動している。
次に、図2(B)における左下の(ウ)・(キ)の図は、トロリ線Tが、段付摩耗底11zを図の右に進んで右側の段付摩耗11x´(急峻な摩耗部)に当たっている状況である。このときは、トロリ線Tの左右偏位は、段付摩耗11x´に拘束されており、トロリ線Tは、段付摩耗11x´の上の面11bに移行することができない。しかし、その間にもすり板11(車両・パンタグラフ)は進行し、レール長手方向のトロリ線Tとすり板11とのしゅう動は続く。その間、段付摩耗11x´によって阻害されている左右偏位の量(寸法)は増える。そして、トロリ線Tが段付摩耗11x´に拘束されている間、左右偏位の強制停止に起因するトロリ線Tへの弾性押し付け力Fが図の左方向にかかる。
すなわち、図3に示すように、すり板11の段付摩耗11x´に拘束されたトロリ線T2(破線)は、すり板11に引かれて図の下方に撓んでいる。そして、すり板11からトロリ線T2に、黒矢印で示す力Fがかかっている。この力Fは、トロリ線T2をまくらぎ方向に位置決めする曲線引金具45-2・45-3によって受け持たれ、夫々の金具に、白抜き矢印で示す横荷重f・f´がかかる。このときに曲線引金具45にかかる荷重(横張力)を計測して段付摩耗11x´の発生を検知するのが、本発明の基本発想である。
再び図2にもどって説明する。図2(B)における右下の(エ)・(ク)の図は、(ウ)・(キ)の状況で拘束されていた左右偏位が蓄積して力Fが増して拘束の限界を超え、トロリ線Tが、図の右側の段付摩耗11x´を乗り越えた状況である。そして、トロリ線Tが段付摩耗底11zから脱して、すり板上面11bに登った状況である。このとき、トロリ線Tは、あたかも弾かれた弦のように自由振動する。この振動を検知して段付摩耗11x´の発生を検知しようというのが、非特許文献1などに記載されている方法である。
上述のように、すり板11の段付摩耗11x´にトロリ線Tが拘束されたときに、すり板11からトロリ線Tに働く作用力F(図3参照)は、列車の進行に伴い徐々に増加し、段付摩耗底部11zからトロリ線が抜け出た瞬間に急激に減少するため、全体としてみれば鋸歯状の波形となる。そして、この力Fを受け持つ曲線引金具の荷重(横張力)f・f´も鋸歯状のものとなる。
次に、図1を参照しつつ、本発明の参考例に係るパンタグラフ異常検知装置の構成を説明する。図1において、図1(A)は曲線引金具45の構成や歪ゲージ61・信号伝送系統(FMテレメータ65など)の配置状態を示す正面図である。図1(B)は、検知装置全体の概要を示すブロック図である。
図1(A)の上部には、支持構造物5(図14参照)の一部である水平パイプ51が示されている。水平パイプ51の下方には、支持金具52を介して、曲線引金具45が取り付けられている。曲線引金具45は、支持金具52に支持されている端部から先に向かって、引手金具部59・アーム54・イヤー53などの部分を有する。曲線引金具45は、支持金具52に対して鉛直平面上で回動可能に支持されている。アーム54の先端にはイヤー53が接続されており、このイヤー53によってトロリ線Tが把持される。このような曲線引金具45によって、トロリ線Tは、水平方向には固定されている。なお、トロリ線Tは、鉛直方向にはハンガー3・ちょう架線2(図14参照)により吊下げられており、上下動が可能である。このトロリ線Tの上下動に合わせて、曲線引金具45は、上下方向に傾く。
本参考例において、曲線引金具45のアーム54の曲線部54bには、横張力(荷重)センサとしての歪ゲージ61が貼られている。横張力センサは、歪ゲージの他に、ロードセルやFBGセンサなどを用いることができる。横張力センサは、曲線引金具45のアーム54の直線部54aやイヤー部53、引手金具部59などに取り付けることもできる。
歪ゲージ61には信号線(有線)43が接続されており、同信号線43は曲線引金具45近くのFMテレメータ65まで延びている。FMテレメータ65は、図1に示す水平パイプ51あるいは電柱50(図14参照)の上などに固定されている。
図1(B)のブロック図に示すように、パンタグラフ異常検知装置は、上述の歪ゲージ61及びFMテレメータ65の他に、受信機71や段付摩耗判定部73、波形処理部72を含んでいる。FMテレメータ65は、無線で歪信号を近くの受信機71まで送信する。受信機71は、電柱50の近くなどに配置されている。波形処理部72は、歪信号に定数を乗じて横張力に換算する校正手段や、ローパスフィルタ・ハイパスフィルタなどからなる。各フィルタの通過させる周波数帯域や、フィルタの作用については後述する。
波形処理された横張力信号は、段付摩耗判定部73に送られ、同部73は段付摩耗(異常可能性)の有無を判定する(詳細後述)。段付摩耗判定部73の機能は、一例として、コンピュータ装置(図示されず)のプロセッサーにおいて、記憶媒体(図示されず)に記憶されたプログラムをロードして実行することにより、実現される。段付摩耗の有無の判定結果は、電車運行指令57などに送られる。
次に、隣接する複数の支持点5において荷重測定する形態について、図4を参照しつつ説明する。図4は、トロリ線にまくらぎ方向の静荷重を作用させたときに、隣接する複数の支持点5-1〜5-3における曲線引金具45に作用する横張力変化、及び、隣接する二個の曲線引金具45に作用する横張力変化の合算値を模式的に示すグラフである。
図4では、支持点5(図2参照)からレール方向の荷重位置までの距離(横軸)の地点のトロリ線Tにまくらぎ方向の静荷重が作用したときにおける、各支持点5-1〜5-3の曲線引金具45に作用する横張力(反力)の実荷重との比(縦軸)、並びに、隣接する曲線引金具45の横張力の合算値「f1−f2」、及び、「f2−f3」の実荷重との比(縦軸)をグラフで示してある。ここで実荷重とは、まくらぎ方向の静荷重のことである。
各個別の横張力f1〜f3の実荷重比は、パンタグラフの位置が、その曲線引金具45の存在する支持点5の位置をちょうど通過しているときに「1.0」であり、そこから遠ざかるにつれて下がり、隣の支持点5に至ったとき「0」となる。
隣接する曲線引金具45の横張力の合算値「f1−f2」、及び、「f2−f3」の実荷重との比(破線)は、各支持点5で「1.0」であり、隣り合う支持点の中央部で「約0.8」である。すなわち、図4より、隣接する支持点5の曲線引金具45の横張力を合算することで、実荷重の80%程度の力を把握することができることが分かる。
この程度のトロリ線Tのまくらぎ方向荷重を捉えることができれば、曲線引金具45に作用する横張力の変化を測定することにより、段付摩耗の有無を十分に判別することが可能である。つまり、隣接する支持点5の曲線引金具45に作用する横張力の変化を測定して合算することで、パンタグラフすり板の段付摩耗のまくらぎ方向位置がどこであっても、その段付摩耗により拘束されるトロリ線に作用する横荷重(すり板11からトロリ線Tに働く作用力F(図3参照))を十分に測定できるので、パンタグラフすり板のどこに段付摩耗が生じても、その段付摩耗を検知可能である。
隣接する複数の支持点における曲線引金具に作用する横張力変化を測定して段付摩耗検知を行う態様においては、図16(B)のようにパンタグラフすり板に1箇所にしか段付摩耗がない場合を考慮しても、段付摩耗検知が可能である。したがって、非特許文献1のトロリ線T振動を検知する手法に比べて、少ないセンサ数で段付摩耗を検知可能である。さらに、振動検知手法では支持点から離れた位置にセンサを設置するため、有線のセンサを使用する場合はちょう架線にセンサ用ケーブルを配線する必要があったが、新手法では支持点のみで測定するためセンサの設置が従来手法に比べて極めて容易である。
次に、本発明の最大の特徴ポイントである、列車速度の横張力への影響を勘案した、段付摩耗検知アルゴリズムについて説明する。まず、図5〜図10を参照しつつ、列車速度計測や「速度に対応した閾値」を必要としない参考例について説明する(「速度に対応した閾値」を設定する実施形態については、図11〜図13を参照しつつ後述する)。
この参考例によるパンタグラフの異常を検知する基本的な方法は、曲線引金具45-1〜45-3にかかる横張力を測定し、以下の少なくとも一つが成立する場合に、パンタグラフに異常可能性有りと判定するものである。
(A)測定した横張力から高周波の振動成分を取り除く前、参考例においては図1の波形処理部72のローパスフィルタ(LPF)に横張力波形を通す前の、横張力変化の絶対値が閾値tv11を超える場合、
(B)測定した前記横張力の変化から高周波の振動成分を取り除いた後、参考例においては図1の波形処理部72のローパスフィルタ(LPF)に横張力波形を通した後の横張力変化の絶対値が閾値tv12(前記閾値tv11よりも小さい)を超える場合。
以下、参考例における段付摩耗判定アルゴリズムを、図5及び図6のフローチャートを参照しつつ説明する。この参考例の手法は、上記の基本的方法に加えて、曲線引金具45-1・2・3にかかる横張力F11・F21・F31(Fi1)を、近接する3箇所の支持点5-1・2・3(図4参照)において測定し、第一支持点5-1と第二支持点5-2における曲線引金具に作用する横張力変化の最小値又は最大値を合算して一二支持点合算横張力F121を得るとともに、第二支持点と第三支持点における曲線引金具に作用する横張力変化の最小値又は最大値を合算して二三支持点合算横張力F231を得、 両合算横張力のいずれか一方でも所定の閾値tv21を超えた場合にも、パンタグラフに異常可能性有り(「段付摩耗あり」など)と判定するものである。
まず、事前に、以下の各閾値を定めておく(S0)。
tv11;LPFを通す前における、各々の(単体の)曲線引金具に作用する横張力変化の最大値(絶対値)の判定で使用する閾値(例えば90N)。
tv21;LPFを通す前における、隣接する二個の曲線引金具に作用する横張力変化の合算値の最大値(絶対値)の判定で使用する閾値(例えば90N)。
tv12;LPFを通した後における、各々の(単体の)曲線引金具に作用する横張力変化の最大値(絶対値)の判定で使用する閾値(例えば4N)。
tv22;LPFを通した後における、隣接する二個の曲線引金具作用する横張力変化の合算値の絶対値の最大値の判定で使用する閾値(例えば4N)。
各曲線引金具45-1・2・3(曲線引金具1などと略記することもある)の横張力測定値(波形)を、S1において、ハイパスフィルタ処理(例えば周波数0.1Hz以下カット)を施し、温度ドリフトや風荷重の影響を除去する。
次に、S2において、各曲線引金具1〜3の横張力の最大値Fi1max、最小値Fi1min(i=1、2、3)を算出する。
次に、S3において、各曲線引金具1〜3の横張力の最大値と最小値の絶対値をそれぞれ計算し、tv11(例えば90N)と比較する。絶対値がtv11以上(Yes)である場合には、図5の丸2から図6の「段付摩耗あり」に至り、ここで処理を終了する。
S3において、各曲線引金具1〜3の横張力の最大値と最小値の絶対値がtv11(例えば90N)未満(No)の場合には、S4に進んで、F121=−F11min+F21max、F231=−F21min+F31maxを算出する。
次に、S5において、F121とF231のどちらか一つ以上がtv21(例えば90N)以上(Yes)であれば「段付摩耗あり」と判定し、処理を終了する。なお、ここまでの処理においては、S3・S5の閾値tv11・tv21は、列車速度が高いときに段付摩耗で生じる横荷重に対応した値として、高速時のパンタグラフ異常判定を行うことが可能である。
次に、S5において横張力の絶対値がtv21未満(No)の場合の処理について、図6を参照しつつ説明する。
まず、S6において、低速に生じる鋸歯状の波形(図8(L´)参照)を抽出するために、横張力波形にローパスフィルタ(LPF)をかける。このとき、カットオフ周波数は、電車線の固有振動数より若干低い周波数(例えば0.8Hz)とする。
次に、S7において、LPFを掛けた波形から曲線引金具1〜3のそれぞれの最大値Fi2max、最小値Fi2min(i=1、2、3)を算出する。
次に、S8において、最大値Fi2max、最小値Fi2min(i=1、2、3)の絶対値をそれぞれ計算し、tv12(例えば4N)と比較する。絶対値のいずれか1以上がtv12以上である場合(Yes)は、「段付摩耗あり」と判定し、処理を終了する。
次に、S8が(No)の場合には、S9に進んで、F122=−F12min+F22max、F232=−F22min+F32maxを算出する。
次に、S10において、F122もしくはF232がtv22(例えば4N)以上(Yes)であれば、「段付摩耗あり」と判定し、処理を終了する。S10(No)の場合は、当該列車に段付摩耗がないものと判定し、処理を終了する。なお、このS10やS8においては、tv12やtv22は、列車速度が高いときに段付摩耗で生じる横荷重に対応した値として、高速時のパンタグラフ異常判定を行うことが可能である。なお、S8やS10の処理においては、閾値tv12・tv22は、列車速度が低いときに段付摩耗で生じる横荷重の鋸歯状の波形に対応した値(例えば4N)として、低速時のパンタグラフ異常判定を行うことが可能である。
この参考例では、横張力波形の処理が複数回行われるため、判定するまでに時間を要するが、車両の速度を計測する必要がない(速度計不要の)ため、簡素化されたシステムを構築することが可能である。
ここまで説明した参考例を適用して判定する横張力波形の具体例を説明する。
図7は、高速走行(130km/h)時の曲線引金具単体にかかる横張力(縦軸)の波形である(0.1Hz以上を通過させるハイパスフィルタ通過後)。太線は段付摩耗「あり」の波形であり、細線は段付摩耗「なし」の波形である。横軸は、パンタグラフ通過前後数秒の時間である。
段付摩耗なしの細線は、ピーク値が20N程度以下のピークが連なった波形である。一方、段付摩耗ありの太線は、ピーク値が100Nあるいは150Nを超えるピークが数箇所ある波形である。前述のS2〜S5の処理では、閾値tv11やtv21を、例えば100N程度とすれば、高速走行車両についてのパンタグラフ異常検知を行うことができることが分かる。
次に、主に低速走行車両についてのパンタグラフ異常検知のステップ(図6のS6〜S10)における波形の実例について、図8を参照しつつ説明する。
図8は、曲線引金具に作用する横張力(縦軸)の時間変化を示すグラフである。横軸は、パンタグラフ通過前後数秒の時間である。
図8において、左の(H)及び(H´)は、段付摩耗なしのパンタグラフが高速(130km/h)で検知部を通過したときの波形であり、右の(L)及び(L´)は、段付摩耗ありのパンタグラフが低速(5km/h)で検知部を通過したときの波形である。上段の左右二個のグラフ(H)及び(L)は、ローパスフィルタ(周波数0.8以上をカット)を通す前の波形であり、下段の左右二個のグラフ(H´)及び(L´)は、ローパスフィルタを通した後の波形である。
左上の「段付摩耗なし・高速」の波形にも、右上の「段付摩耗あり・低速」の波形にも、いずれも、20N以上のスパイク状のピークが存在する。このうち、右の「段付摩耗あり・低速」の波形のピークは、段付摩耗にトロリ線が引っ掛かって曲線引金具が無理に引っ張られて生じた横張力によるものと解することができるが(そのとおりであることは後述する)、左側の「段付摩耗なし・高速」の波形のピークは、トロリ線の自由振動に起因するものである。なお、「段付摩耗あり・高速(130km/h)」の場合には、前述のとおり、波形のピークは100N以上に達する(図7参照)。
図8の下段左側の、ローパスフィルタ通過後の高速走行の横張力波形(H´)は、上段のグラフ(H)にあったスパイク状の波形は除かれており、ピークが2N程度で、周期1秒程度の正弦波状の波形が残っている。
一方、図8の下段右側の、ローパスフィルタ通過後の低速走行の横張力波形(L´)は、ピークが20Nを超える鋸歯状の波形が明瞭に観測されており、上段右側の(L)に見られる、鋭い高周波の重畳ノイズは除かれている。
ここで、S10の閾値tv22を、例えば4Nとすれば、ローパスフィルタ通過前の高速走行時のスパイク状ピークが「段付摩耗」と判定されることはなくなり、高い信頼性で、低速走行車両パンタグラフの段付摩耗発生を検知できる。
次に、図9を参照しつつ、参考例のS5(LPF通過前)の判定における、異なる車両速度と横張力との関係をまとめて説明する。図9においては、横軸は車両速度(パンタグラフ通過速度)であり、縦軸は隣接する複数の曲線引金具に作用する横張力変化の和(図4及びその説明参照)である。図中の△印及び○印は、横張力最大値・最小値の合算値(F121=−F11min+F21max、又は、F231=−F21min+F31max)と、車両速度とをプロットした位置を表す。△印は、実際は「段付摩耗あり」のパンタグラフが、段付摩耗検知装置を通過した場合に測定されたものであり、○印は、実際は「段付摩耗なし」のパンタグラフが、段付摩耗検知装置を通過した場合に測定されたものである。図中で横張力90Nの高さに真横に引かれた直線は、この場合の判定閾値tv21である。
△印のグループ及び○印のグループともに、各々、やや右上がりの分布になっており、速度が速いほど横張力変化が大きいことが分かる。○印のグループは、ほぼ40km/h
までは、横張力40N以下であるが、速度130km/hでは、70Nほどになっている。△印(段付摩耗あり)のグループは、速度40km/h程度を超えると、横張力は90N以上となっている。そこで、この場合の閾値tv11を90Nとし、速度40km/hを超える場合については、このS5で「段付摩耗あり」と判定できる。ただし、速度40km/h以下では、段付摩耗ありの場合も横張力が90N以下であるので、このS5では「段付摩耗なし」判定となり、その後のステップに進み、LPF波形処理後に再度判定を行って検知することになる。
次に、図10を参照しつつ、参考例のS10(LPF通過後)の判定における、異なる車両速度と横張力との関係をまとめて説明する。図10においても、図9同様に、横軸は車両速度、縦軸は隣接する複数の曲線引金具に作用する横張力変化の和(図4及びその説明参照)である。図中の△印及び○印は、横張力最大値・最小値の合算値(F122=−F12min+F22max、又は、F232=−F22min+F32max)と、車両速度とをプロットした位置を表す。△印は「段付摩耗あり」、○印は「段付摩耗なし」のパンタグラフについてのものである。図中で横張力4Nの高さに真横に引かれた直線は、この場合の判定閾値tv22である。
△印のグループは、図9の左下の速度40km/h以下の△印のグループが、LPF通過した、鋸歯状のピーク(図8の右下(L´)参照)のものである。このグループは、速度にあまり関係なく、15N程度〜30N程度の横張力である。○印のグループは、図9の○印のグループが、LPF通過した、小さい正弦波状のピーク(図8の左下(H´)参照)のものである。このグループも、速度にあまり関係なく、3N程度以下の横張力である。そこで、このS10の場合の閾値tv22を4Nとして、△印のグループについて「段付摩耗あり」と判定できる。このように、参考例のようにLPF(カットオフ周波数0.8Hz)を施すことで低速時の鋸歯状の波形を抽出することができ、低速域での段付摩耗検知が可能となる。
結局、図5のS5と図6のS10で順次判定を行うことにより、速度の大きい差に係わりなく、幅広い速度範囲の全範囲について、段付摩耗を検知できる。この参考例は、LPFでの波形処理と、その後の判定のステップを含むので、判定処理時間がかかるが、次に説明する実施形態のような車両速度検出は不要でシステムが簡素になる。
なお、S3・S5の両ステップを順次行うことにより、異常の見逃しを極力少なくできる。同様に、S8・S10の両ステップを順次行うことにより、異常の見逃しを極力少なくできる。
次に、図11を参照しつつ、本発明の実施形態に係るパンタグラフ異常検知装置の構成を説明する。この検知装置は、既に説明済みの図1の検知装置と類似の構成を有し、主な違いは、車両の速度計が追加されていることと、計測した車両の速度に応じた閾値を用いて段付摩耗判定することである。図11において図1と同じ符合で示す部分は、同じ構成・機能の部分を示す。
図11のブロック図に示すように、このパンタグラフ異常検知装置は、図1の実施形態と同様に、歪ゲージ61及びFMテレメータ65に、受信機71などを有している。さらに、異常検知対象のパンタグラフが、検知装置を通過する際の速度を検出する速度計67を有している。速度計67からの速度信号は、段付摩耗判定部93に送られる。
この実施形態の波形処理部92は、歪信号に定数を乗じて横張力に換算する校正手段や、定常的な引っ張り力や風荷重に起因する横張力、温度ドリフトなどをキャンセルするハイパスフィルタを有している。しかし、図1の実施形態のものとは異なり、この実施形態の波形処理部92は、ローパスフィルタを有していない。
次に、列車速度の横張力への影響を勘案した、段付摩耗検知アルゴリズムの実施形態、すなわち、「速度に対応した閾値」を設定する手法については、図12及び図13を参照しつつ説明する。
この実施形態によるパンタグラフの異常を検知する基本的な方法は、曲線引金具45-1・2・3に作用する横張力変化、及び、パンタグラフ走行速度を測定し、以下のように設定した速度を勘案した閾値を横張力変化が超える場合に、パンタグラフに異常可能性有りと判定するものである。ここで、閾値は、パンタグラフ通過速度と関連させて、横張力変化についての複数の閾値を設定しておく。
以下、実施形態における段付摩耗判定アルゴリズムを、図12のフローチャートを参照しつつ説明する。この実施形態の手法は、上記の基本的方法に加えて、曲線引金具45-1・2・3にかかる横張力F1・F2・F3(Fi)を、近接する3箇所の支持点5-1・2・3(図4参照)において測定し、第一支持点5-1と第二支持点5-2における曲線引金具横張力の最小値又は最大値を合算して一二支持点合算横張力F12を得るとともに、第二支持点と第三支持点における曲線引金具横張力の最小値又は最大値を合算して二三支持点合算横張力F23を得、 両合算横張力のいずれか一方でも所定の閾値を超えた場合にも、パンタグラフに異常可能性有り(「段付摩耗あり」など)と判定するものである。
まず、事前に、パンタグラフ通過速度に対応させた以下の複数の閾値を、データベース、若しくは、閾値と速度の関係式から、定めておく(S20)
tv11;各々の曲線引金具にかかる横張力の最大値(絶対値)の判定で使用する、速度に応じた閾値(図12参照)。
tv21;隣接する二個の曲線引金具にかかる横張力の合算値の最大値(絶対値)の判定で使用する、速度に応じた閾値(図12参照)。
各曲線引金具45-1・2・3(曲線引金具1などと略記することもある)の横張力測定値(波形)を、S21において、ハイパスフィルタ処理(例えば周波数0.1Kz以下カット)を施し、風荷重の影響を除去する。
次に、S22において、各曲線引金具1〜3の横張力の最大値Fimax、最小値Fimin(i=1、2、3)を算出する。
次に、S23において、各曲線引金具1〜3の横張力の最大値と最小値の絶対値をそれぞれ計算し、速度に応じたtv11と比較する。いずれかの値がtv11以上(Yes)である場合には、「段付摩耗あり」と判定し、処理を終了する。
S23において、各曲線引金具1〜3の横張力の最大値と最小値の絶対値が、速度に応じたtv11未満(No)の場合には、S24に進んで、F12=−F1min+F2max、F23=−F2min+F3maxを算出する。
次に、S25において、F12とF23のどちらか一つ以上がtv21以上(Yes)であれば「段付摩耗あり」と判定し、処理を終了する。
次に、図13を参照しつつ、参考例のS25の判定における、異なる車両速度と横張力との関係をまとめて説明する。図13においては、横軸はパンタグラフ通過速度であり、縦軸は隣接する複数の曲線引金具に作用する横張力変化の和(図4及びその説明参照)である。図中の△印及び○印は、横張力最大値・最小値の合算値(F12=−F1min+F2max、又は、F23=−F2min+F3max)と、車両速度とをプロットした位置を表す。△印は、「段付摩耗あり」のパンタグラフが、段付摩耗検知装置を通過した際に測定されたものであり、○印は、「段付摩耗なし」のパンタグラフが、段付摩耗検知装置を通過した際に測定されたものである。図中に階段状に引かれた直線は、この場合の速度に応じた判定閾値tv21である。
△印のグループ及び○印のグループともに、各々、やや右上がりの分布になっており、速度が速いほど横張力が大きいことが分かる。○印のグループは、ほぼ20km/hまでは横張力30N以下、20〜40km/hでは横張力50N以下、40〜100km/hでは、横張力70N以下、100〜130km/hでは、横張力50〜70Nである。
△印(段付摩耗あり)のグループは、速度20km/h程度までは40〜60N、20〜40km/hでは横張力約80N、40〜100km/hでは横張力100〜150N、100〜130km/hでは、横張力140〜180Nである。
そこで、この場合の閾値tv21を、速度20km/hまでは30N、20〜40km/hでは50N、40〜100km/hでは70N、100〜130km/hでは100Nとすることにより、速度0〜130km/hの間で段付摩耗を判定できる。

Claims (3)

  1. パンタグラフの異常を検知する方法であって、
    前記パンタグラフとしゅう動するトロリ線をレール直角方向に支持する曲線引金具又は振止金具に作用する横張力の変化、並びに、前記パンタグラフの速度を測定し、
    前記速度と関連させて、前記横張力についての複数の閾値を前記速度の増加に応じて増加するよう設定しておき、
    前記横張力の絶対値が、前記横張力を測定した時点の前記速度に対応した閾値を超える場合に、パンタグラフに異常可能性有りと判定することを特徴とするパンタグラフ異常検知方法。
  2. 前記曲線引金具又は振止金具に作用する横張力の変化を、近接する3箇所の支持点において測定し、
    該3箇所の支持点のうちの、第一支持点と第二支持点における横張力を合算して一二支持点合算横張力を得るとともに、第二支持点と第三支持点における横張力を合算して二三支持点合算横張力を得、
    両合算横張力のいずれか一方でも所定の閾値を超えた場合に、前記パンタグラフに異常可能性有りと判定することを特徴とする請求項1記載のパンタグラフ異常検知方法。
  3. パンタグラフの異常を検知する装置であって、
    前記パンタグラフとしゅう動するトロリ線をレール直角方向に支持する曲線引金具又は振止金具に作用する横張力の変化を測定する横張力測定手段と、
    前記パンタグラフの速度を測定する速度計と、
    前記速度と関連させて、前記横張力についての複数の閾値を前記速度の増加に応じて増加するよう設定しておき、前記横張力の絶対値が、前記横張力を測定した時点の前記速度に対応した閾値を超える場合に、パンタグラフに異常可能性有りと判定する異常判定手段と、
    を備えることを特徴とするパンタグラフ異常検知装置。
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