JP6813833B6 - 多成分混合物の分子構造を近似的に特定する方法及びプログラム(CSA1s) - Google Patents

多成分混合物の分子構造を近似的に特定する方法及びプログラム(CSA1s) Download PDF

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Description

本発明は、コンピュータを用いて、多成分系混合物を構成する各成分の分子構造を特定する方法に関する。さらには、多成分混合物の組成モデルを決定する方法に関する。また、それらの方法を実行させるためのプログラムに関する。
石油精製に関する諸装置の運転においては、通常、比重や粘度、蒸留性状(沸点)というような全体を捉えた物理的性状に基づいて原料油を分析し、過去の類似のデータを持つ油種における運転実績を参考にして運転条件を決めるという手法がとられている。
しかるに、この手法では、現在のように輸入原油種が多様化する時代にあっては、類似する過去のデータを探すことは容易ではなく、さらに運転効率の向上という面から、単純に過去の運転実績を踏襲すればよいというものではなくなっている。
そこで、比重や粘度、蒸留性状というような一括りにした観点で捉えるのではなく、石油を構成している炭化水素分子というレベルでその化学構造や存在割合を把握し、それにより得られた推定物性値等の知見に基づいて運転条件を設定することができれば、より客観性に基づいた効率的な運転ができると考えられてきた。そのため、石油業界においては、石油を分子レベルで把握する技術の出現が待ち望まれてきた。
ところが、石油というものは、膨大数の炭化水素分子からなる混合物であり、特に重質油において、かかる分子の一つ一つについて、化学構造を特定し、それらの存在割合をも特定するというのは、非常に困難なことであった。
これまで、石油を分子レベルで分析し化学構造を解析するにあたっては、高分解能質量分析装置であるフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴方式による質量分析計を用いて高精度に分子量を計測する技術が用いられてきた。例えば、特許文献1又は特許文献2に記載された方法である。
特に、特許文献2には、石油を構成している分子をアルゴン等に衝突させることにより、分子における架橋部分を切断して構成しているコア部分に分解し、それらの化学構造を求め、そののちにそれらを組み合わせて元の分子を再構築するという分子構造の推定方法が記載されている。
特表2014−500506号公報 特表2014−503816号公報
しかしながら、特許文献2に記載の方法は、コアや架橋、側鎖という分子を形成するパーツについて、どのパーツとどのパーツを選択し、組み合わせて分子を構築するかは、確率に基づいて決定されるというものである。それゆえ、ある質量分析データをもとにして、同じ工程にて成分の分子構造の構築作業を行ったとしても、得られる結果は、構築作業の都度、異なるものとなってしまっていたが、これは、分子構造の構築に「確率」という概念を用いる限り避けられないことであった。即ち、特許文献2に記載の方法では、得られる結果の一定性、再現性が担保されず、「装置の運転安定性が確保できない」という致命的な欠陥があった。
従来技術では、分子構造を構築するための系統だった理論及び工夫を案出することができなかったため、確率論という、いわば不確実性が本質的に付きまとう考え方を容認し、用いざるを得なかったのである。即ち、数十万種以上という膨大な種類の数の炭化水素分子の混合物である石油という特殊な対象において、個々の分子の構造及び存在割合を特定するという目的に対し、これを達成できる有効な理論を組み立てることができず、「確率論」を持ち込む以外、取り得る方法がなかったというのが実情であった。
本発明は、かかる状況下においてなされたものであり、コンピュータを用いて多成分混合物を構成する各成分の分子構造を一定の確実さを以て特定する方法を提供することを目的とするものである。また、多成分混合物の組成モデルを決定する方法を提供すること、また、これらの方法を実行させるためのプログラムを提供することを目的とするものである。
さらには、上記の方法により特定された、多成分混合物を構成する各成分の分子構造及びその存在割合に基づいて、多成分混合物の物性値を推定する方法を提供すること、かかる方法により推定された多成分混合物の物性値に基づいて、運転条件を設定することを特徴とする多成分混合物、特に石油に関する装置の運転方法を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するため、本発明者らは、以下の本発明を創出した。即ち、本発明の一つは、コンピュータを用いて、多成分混合物を構成する各成分の分子構造及びその存在割合を特定する方法であって、
前記多成分混合物に対し質量分析を行い、それにより得られたピークの各々について、そのピークに帰属する分子の分子式を特定し、さらにその分子の存在割合を特定するステップ1と、
前記多成分混合物に対し衝突誘起解離を行うステップ2と、
前記ステップ2の衝突誘起解離により生成した各フラグメントイオンについて、質量分析を行い、各フラグメントイオンを構成するコアの構造及び存在割合を特定するステップ3と、
前記ステップ1におけるピークの各々に帰属する分子を、「ヘテロ原子の種類と数(ゼロを含む。)及びDBE値」に基づいて「クラス」に分け、当該各々の「クラス」に属するすべての分子について、その存在態様及び存在割合を推定するステップ4と、
前記ステップ4において存在態様が推定された各分子に対し、それらを構成するコアの構造を決定し、さらに側鎖及び架橋を決定して割り付けるステップ5と、
前記ステップ1において特定された各分子の存在割合を、元の多成分混合物全体を対象とした分析情報を用いて最適化するステップ6と
を含むことを特徴とするものである。
また、他の発明は、多成分混合物の組成モデルを決定する方法であり、これらの方法を実行させるためのプログラムである。
さらに、他の発明は、上記の方法により特定された、多成分混合物を構成する各成分の分子構造及びその存在割合に基づいて、多成分混合物の物性値を推定する方法であり、かかる方法により推定された多成分混合物の物性値に基づいて、運転条件を設定することを特徴とする多成分混合物、好ましくは、石油に関する装置の運転方法である。
本発明は、多成分混合物を構成する各成分の分子構造を特定するにあたり、質量分析に関する巾広い見識に基づいた深い洞察及びさまざまな卓抜した着眼をもとに、新規な画期的な理論を構築したことに基づいてなされたものである。
本発明の方法に含まれる各ステップにおいては、さまざまな独自のルールや仮定が巧みに設定されている。しかし、これらのルールや仮定は、技術的な根拠なく設定したというものではなく、「どういうポイントを押えておけば現実的に必要十分な有効性を担保できるのか」を徹底的に検討した結果、編み出されたものである。
さらにまた、本発明者らは、石油を構成する膨大数の分子の各々に関し、それらの化学構造はどの程度のレベルの詳細さ、正確さが確保されていることが必要なのかということについて、綿密に検討した結果、後述する「JACD」という画期的な表示方式を案出するに至った。この「JACD」は、分子の構造情報を表示するための新規な方式であるが、この方式の創出により、アスファルテン分のような巨大分子についても、構造情報を必要十分なレベルで得ることが可能となった。
このように、本発明の方法は、従来の「確率論」という不確実性を内包する方法ではなく、発明者らが案出した理論及び様々な創作を巧みに融合させることに基づいた、いわば「決定論的」な方法である。
本発明は、「決定論的」なアプローチによる分子構造の特定方法であるので、確実に毎回同一の結果が得られることになる。「決定論」という文言を用いるのはかかる事実に基づくものである。これは、石油精製装置を運転するにあたり、原料の分析において常に同じ結果が得られるということを担保するものであり、安定性確保への貢献は計り知れないものとなる。
また、本発明においては、多成分混合物を構成する各成分について、その分子構造、即ち、分子中に存在する各種の原子団が特定されるので、公知の原子団寄与法を用いれば、その分子が持つ様々な物性値を極めて高い精度で推定することが可能となる。さらに、各成分の存在割合も特定されるので、この存在割合を考慮すれば、各成分の持つ物性値から全体の多成分混合物の物性値を推算することも可能となる。
石油精製装置においては、通常、原料油の諸物性値を直接の指針として又は間接的な指針として最適な条件が設定され、運転が行われているが、本発明の方法で得た精度の高い諸物性値を用いることが可能となり、より一層効率化の向上に寄与することになる。
このように、本発明は、従来技術において本質的に内在している困難な課題を一気に解決する画期的なものであり、現実の石油産業への応用という点において、破格の効果を発揮するものである。
本発明の実施形態による方法を説明するフローチャートである。 衝突誘起解離を説明する模式図である。 FT-ICR-質量分析にて得られた質量スペクトルと、あるピークに帰属する分子のJACD表示例である。 FT-ICR-質量分析にて得られた質量スペクトルのチャートである。 衝突誘起解離後のFT-ICR-質量分析において得られたピークのm/zとコア構造リスト内の精密質量とを比較、照合を説明する模式図である。 上段は、試料である多成分混合物についてのFT-ICR-質量分析にて得られた質量スペクトルのチャートであり、中段及び下段は、得られたピークに帰属される分子式をヘテロ原子の種類と数ごとの「群」に分け、さらに、その「群」においてDBE値によりピーク化しなおしたチャートである マルチコアの存在割合を説明する模式図である。 シングルコアの存在割合を説明する模式図である。 DBE値22に由来するコアの模式図である。 DBE値20に由来するコアの模式図である。 DBE値ごとのコアの「組」分けを説明する模式図である。 DBE値ごとのコアの「組」において、由来する親の質量順に並べたものを示す模式図である。 上記図12において、コアの割り付けを説明する模式図である。 多環芳香族レジン(PA)について、FT-ICR-質量分析にて得られた質量スペクトルのチャートである。 多環芳香族レジン(PA)について、衝突誘起解離後のFT-ICR-質量分析にて得られた質量スペクトルのチャートである。
以下、本発明の実施形態を説明する。
まず、本明細書で用いている用語、表現を説明する。
(1)「多成分混合物」
「多成分混合物」とは、二以上の成分からなるあらゆる混合物を包括する概念である。成分の含有割合は問わない。具体的には、好ましくは、「石油」を意味するものであり、さらに好ましくは、「重質油」を意味するものである。
本発明においては、より詳しくは、「多くの芳香族化合物を主たる成分とする混合物」を意味するものである。
(2)「成分」、「構成する」
「多成分混合物を構成する各成分」における「成分」とは、多成分混合物を構成する一つ一つの構成員であって、「同一の分子種に属すると認められる分子の集合体」と捉えるのが好ましい。ここで、「同一の」とは、「分子構造を完璧に特定し、その上で同一である」という意味と捉えてもよいし、或いは、「分子構造上の異性体(分子式は同じであるが構造が異なるもの)どうしは同一のものとする」という意味と捉えてもよいし、例えば、後述する「JACDのような方式で特定された構造において同一である」という意味と捉えてもよい。さらには、広く「任意に定めた基準に基づいて一括りにした分子の集合体」という意味と捉えてもよい。
また、「構成する」とは、多成分混合物中に存在する100%すべての成分を想定するものでなくてもよい。本発明により特定される各成分の分子構造をどのように利用するかにより、どの程度の詳細さを以て成分としての分子種特定が必要になるかに応じて、「構成する各成分」を適宜決定すればよい。例えば、多成分混合物中において一定の存在量(存在割合)以上を持つ分子種のみを対象として、「構成する成分」と捉えてもよい。石油のような膨大な種類の分子種すべてについて分子構造を同定する必要性は必ずしも高いとは限らず、微量しか存在しない分子種等については、必要に応じて、無視してもよい。例えば、本明細書中、「多成分混合物」として、多環芳香族レジン分(PA)を対象として記述している箇所において、多環芳香族レジン分(PA)を構成する成分として、パラフィン系化合物及びオレフィン系化合物の存在は無視した記載になっているところもある。
(3)「分子構造を特定する」、「分子」
「分子構造を特定する」とは、上記「成分」における「分子」に関し、分子が持つ構造に関する何等かの情報を特定するという行為であれば、あらゆる行為を包含するものである。特定された構造についての理論的な正確さの度合いや表示の仕方は、特に問わない。目的及び必要性に応じて、その度合い、表示の方式を適宜選択すればよい。分子全体の構造を特定するという行為のみならず、分子の一部分についての構造に関する情報を組み込んで特定する行為も含まれる。例えば、コア部分の構造のみを特定し、側鎖部分や架橋部分については構造は特定せず分子式のままにしておくという特定の仕方も該当する。
特定の仕方としては、好ましくは、後述するJACDという表示方式によるものである。本明細書において、「分子構造を特定した」という場合、好ましくは、JACDで特定したことを意味している。「JACD」で構造が特定された分子というのは、後述するアトリビュートの結合位置の違いによる異性体をすべて含む概念である。
本明細書において、「分子」という文言は、異性体をすべて含む概念と捉えてもよい。
(4)「各成分の存在割合を特定する」
「各成分の存在割合を特定する」とは、混合物を構成する各成分について、それらが存在する比率を特定するという行為であれば、精度は問わない。また、混合物を構成するすべての成分種について存在割合が特定されなければならないという意味ではない。即ち、分析技術では検出が困難な程度の量しか存在しないような成分や特定する必要のない成分までを含めたすべての成分の存在割合を特定して初めて、「各成分の存在割合を特定した」とするものではない。かかる微量成分等については、「その他の成分」としてまとめて扱ってもよい。さらには、これらを「混合物を構成する各成分」という範囲から除外し、他の成分の存在割合を算出する上での分母に入れなくてもよい。
(5)「すべての」
本明細書における「すべての」という文言を、文字どおり、「完璧に100%全部の」という意味に捉えると、本発明は技術として有効に効果を奏さないおそれがある。また、本明細書の記載の正確さが担保されないおそれがある。
それゆえ、例えば、質量スペクトルについて「すべてのピーク」という言い方をしている箇所については、文字どおり、「完璧に100%全部のピーク」という意味のみならず、例えば、その場面での検討の目的上必ずしも必要でない分子に関するピークや判別しにくいようなピーク等については、適宜、除外した上で、それ以外のピークを指すという意味と捉えてもよい。また、「すべてのコア」という言い方をしている箇所についても同様で、「完璧に100%全部のコア」という意味のみならず、要求される精度や目的に対応して、適宜、選択又は除外してもよいということを意味している。
(6)「ピーク」
質量分析において得られるピークの横軸は、多成分混合物を構成する各成分の分子イオン又は擬分子イオンについてのm/zである。このm/zが示す数値は、分子イオン又は擬分子イオンの質量に相当する数値であるので、概ね、そのピークに帰属させられる分子の分子量を表している。
なお、m/zの正確な表記は、イタリック体でなされるものであるが、特許出願書類として用いる文字種の制約上、本明細書においては、便宜上、通常の書体で表記する。
本明細書では、この「質量分析において得られた、分子イオン又は擬分子イオンについてのm/zのピーク」を、「質量分析において得られたピーク」、又は単に「ピーク」ということがある。
当該ピークの高さは、そのピークに帰属する分子の相対的な存在割合を示している。
(7)「分子式」
「分子式」とは、分子を構成する元素の種類と数のみを示す式のことであり、構造は特定されていないものを指している。分子を構成する元素の種類と数がわかっているので、分子量及び後述するDBE値等の情報は得ることができる。
本発明において主として用いているフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴方式による質量分析(以下、「FT-ICR-質量分析」ということがある。)においては、m/zの値を小数点第4位まで決定することができる。そのため、原子の同位体の存在をも考慮した精密な質量の数合わせを行うことにより、そのピークに帰属する分子の分子式を決定することができる。分子式というのは、分子を構成する元素の種類と数のみを表すものにすぎないので、上記決定された分子式に該当する分子としては、異性体が複数存在しうるということになる。即ち、1本のピークには、分子式が同一である複数の異性体が帰属することになる。
ただし、FT-ICR-質量分析の特性上、分子式は同一であっても、例えば、その分子イオンに水素イオンが付加している等により、元の分子イオンと質量が異なることになり、そのため別のピークとして現れることがある。よって、測定上は別ピークとして現れたものであっても、分子式を構成する元素の種類と数が同一であるものは「同じ一つの分子式」として捉えてもよい。「その分子式に該当する分子」という文言において、「その分子式」というのは、このような「同じ一つの分子式」という意味で捉えてもよい。また、「あるピーク」という場合、上記の意味で「同じ一つの分子式」を表しているとされた種々のm/zのピークをすべてまとめて捉えた概念と考えてもよい。
(8)「コア」、「シングルコア」、「ダブルコア」
「コア」とは、後述の「JACD (ジャックディー)」の項で記載した「アトリビュート」の一種であって、具体的には、芳香環又はナフテン環そのもの、芳香環とナフテン環が架橋ではなく直接結合しているもの、芳香環又はナフテン環にヘテロ環が架橋ではなく直接結合しているものである。架橋又は側鎖は、コアとは別のアトリビュートであるので、「コア」という文言は、架橋又は側鎖を一切有しないものを意味している。
一方、「シングルコア」とは、上記コアを1個だけ有する分子を指す概念である。分子を指す概念であるので、コアに側鎖が結合しているものも包含している。上記コアの2個以上が架橋してなる分子を「マルチコア」と呼ぶ。「マルチコア」も分子を意味するものであるので、コアに側鎖が結合しているものも包含している。因みに、2個のコアが架橋してなる分子を「ダブルコア」という。
例えば、以下に示すナフタレン分子は、1個の芳香環からなるものであるので「シングルコア」であり、ベンゼン環2個からなるダブルコアではない。
(9)「DBE値」
「DBE値」とは、分子式が、「CcHhNnOoSs」である場合、以下の式(1)にて算出される値である。
DBE = c− h/2 + n/2 + 1 ・・・(1)
(ただし、cは炭素原子の数、hは水素原子の数、nは窒素原子の数、oは酸素原子の数、sはイオウ原子の数を示す。)
この値は、概ね、分子における不飽和性、とりわけ、二重結合及び環の存在の程度を示すものである。
(10)「JACD (ジャックディー)」「Juxtaposed Attributes for Chemical-structure Description)」
「JACD」とは、分子構造に関する新規な表示方式であって、分子の構造を、アトリビュートの種類及びアトリビュートの数により表示するものである。アトリビュートが他のアトリビュートのいずれの位置において結合しているかについては表示しない。
上記において、「アトリビュート」とは、分子を構成している化学構造上の部品(パーツ)を指す概念である。芳香族化合物においては、具体的には、前述の「コア」,「架橋」及び「側鎖」を指す。
この表示方式は、本発明者らが、石油を構成する膨大数の分子の各々に関し、それらの構造は、どの程度の詳細さを以て特定されれば必要かつ十分であるのかということを綿密に検討した結果、案出したものである。
そもそも分子というものを表示する場合、分子式、示性式、構造式という方式があり、この順に化学構造に関する情報量が増えていくが、巨大分子を含む多種多様な分子の混合物である石油の場合、その中に存在している分子1つ1つについて、構造式を正確に同定することは不可能に近い。
そこで、本発明者らは、「JACD」という新規な分子構造の表示方式を案出した。
以下の化学式で表された分子を例にとって説明する。
この化合物をJACDで表すと、以下の表1のようになる。
JACDで表示され、構造が特定された分子というのは、アトリビュートの結合位置の違いによる異性体をすべて含む概念である。
(11)「物性値」
「物性値」とは、具体的には、以下に例示するものであるが、これらに限定されるものではなく、上記の方法により特定された分子構造及びその存在割合に基づいて得られる値であって、物質の物理的又は化学的な性質や性状、特性を表現するものであれば、名称の如何に拘わらず、「物性値」に含まれるものとする。
例えば、生成ギブス自由エネルギー、イオン化ポテンシャル、分極率、誘電率、蒸気圧、液体密度、API度、気体粘度、液体粘度、表面張力、沸点、臨界温度、臨界圧力、臨界体積、生成熱、熱容量、双極子モーメント、エンタルピー、エントロピー等である。
(12)「石油」、「石油に関する装置」
本明細書において、「石油」という文言は、原油はもとより、原油を蒸留して得られる諸留分及び諸留分に改質や分解等の二次装置による処理を加えて得られる留分等をも含む総称的な概念として用いることにする。或いは、原油を蒸留して得られたある留分について、さらに飽和炭化水素や芳香族炭化水素等の成分に分画した分画物をさすこともある。
「石油に関する装置」とは、蒸留装置や抽出装置をはじめ、改質装置、水素添加反応装置、脱硫装置等の化学反応を伴う装置等、石油の処理に関する装置をすべて含むものである。「石油に関する装置」を総じて、「石油精製装置」と呼ぶこともある。
次に、図1のフローチャートを参照して、本実施形態における各ステップを説明する。
(1)ステップ1(質量分析)(図1のS1)
ステップ1は、多成分混合物に対し質量分析を行い、得られたピークの各々について、そのピークに帰属する分子の分子式を特定し、さらにその分子の存在割合を特定するステップである。言い換えれば、多成分混合物に対し質量分析、好ましくは、FT-ICR-質量分析を行い、それにより得られたすべてのピークについて、各ピークに帰属する分子の分子式を特定し、さらにその分子式に該当する分子の存在割合を特定するステップである。即ち、当該多成分混合物を構成する各成分の分子式及びその分子式に該当する分子の存在割合を特定するステップである。
質量分析は、超高分解能の質量分析計を用いるのが好ましい。具体的には、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴方式による質量分析計(以下、「FT-ICR-質量分析計」ということがある。また、FT-ICR-質量分析により得られた質量スペクトルを「FT-ICR-質量スペクトル」ということがある。また、総じて「FT-ICR-質量分析」の文言を適宜用いることがある。さらに、これらの文言は、前記及び図面の簡単な説明においても用いている。)を用いて、公知の方法、即ち、試料をソフトイオン化して分子イオン又は擬分子イオンを形成することにより、高精度な計測を行う。
FT-ICR-質量分析は、m/zの値を小数点第4位まで決定することができる。そのため、原子の同位体の存在をも考慮した精密な質量の数合わせを行うことにより、そのピークに帰属する分子の分子式を決定することができる。1本のピークには、分子式が同一である複数の分子が帰属することになる。
すべてのピークの高さの総和に対するあるピークの高さの比率は、そのピークに帰属する分子の存在割合を表すことになる。
(2)ステップ2(衝突誘起解離)(図1のS2)
ステップ2は、多成分混合物に対し衝突誘起解離を行うステップである。
「衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation、以下、「CID」ということがある。)」とは、分子をイオン化し、これをアルゴン等の不活性ガスに衝突させ、架橋及び側鎖を切断する操作をいう。通常、当該多成分混合物を構成する各成分における架橋及び側鎖が切断されるように、衝突エネルギー、例えば、10〜50kcal/モルを与えることが好ましい。架橋及び側鎖を切断することにより生成するものは、コアごとのフラグメントイオンである。このコアは、衝突誘起解離では切断し得なかった炭素数0〜4程度の脂肪族基を側鎖として有していることがある。
多成分混合物に対しFT-ICR-質量分析を行ったとき、得られるピークのm/zから、多成分混合物を構成する分子の分子式は決定することができるが、その分子がどういう「コア」から構成されているものであるのかという構造に関する情報は得られない。そこで、さらに、衝突誘起解離を行って、多成分混合物を構成する各分子中の架橋及び側鎖を切断してやれば、多成分混合物全体の中に存在するコアの種類を知ることができる。
衝突誘起解離を行う条件としては、分子中の架橋及び側鎖を有効に切断できる衝突エネルギー、例えば、10〜50kcal/モル、好ましくは、20〜40kcal/モルを与えるのが好ましい。
(3)ステップ3(各コアの構造及び存在割合の特定)(図1のS3)
ステップ3は、ステップ2の衝突誘起解離により生成した各フラグメントイオンについて、質量分析、好ましくは、FT-ICR-質量分析を行い、各フラグメントイオンを構成するコアの構造及び存在割合を特定するステップである。
(ア)まず、各フラグメントイオンを構成するコアについて、その構造を特定する方法を説明する。
具体的には、前記ステップ2で得られたコアに関する情報と、予め用意しておいたコア構造リストに記載されているコアに関する情報とを照合し、各コアの構造を特定する方法である。
詳しくは、以下のとおりである。
i.衝突誘起解離後におけるコアに関する情報の取得
衝突誘起解離後の各フラグメントイオンのFT-ICR-質量分析においては、コアの部分は同じであっても、側鎖として炭素数が0〜4程度の脂肪族基を有するフラグメントイオンは、その側鎖の種類に応じて、各々質量が異なるので、別々のピークとして現れる。そこで、コアに側鎖として炭素数が0〜4の脂肪族基を持つものについて、これら各種の質量を予め算出しておき、上記現れた別々のピークを種々比較照合すれば、コアそのものの質量を割り出すことが可能となる。
この方法を用いて、ステップ2において、衝突誘起解離後に得られたピークの各々について、そのピークに帰属されるコアは、質量がいくつで、O,N又はS原子等のヘテロ原子がいくつ存在し、またDBE値から芳香環がいくつ存在しているかという情報を得ることができる。
ii.衝突誘起解離後におけるコアの構造の特定
衝突誘起解離後におけるコアの構造を特定する方法として、予め、多成分混合物の各成分分子を構成すると想定できる各種のコアをモデルとしてリスト化したもの、即ち、「コア構造リスト」を作成しておき、当該リストに格納されているコアの分子量、ヘテロ原子の種類と数等の情報と上記にて得られたコアの情報を照合して、このリストの中から最も妥当と考えられるコアのモデルを選択し、そのコアを当該コアとして該当させるという方法がある。
この方法により、衝突誘起解離後のFT-ICR-質量分析にて得られたすべてのピークに対して、コアが割り付けられ、その構造を知ることが可能となる。
iii.コア構造リスト
上記コア構造リストに格納するコアの種類については、特に限定されるものではなく、いかなるものであってもよいが、格納するコアの選定の妥当性が各コアの構造特定の妥当性に直結することになる。
試料である多成分混合物そのものの内容に応じて、予め「コア構造リスト」を作成しておくのが好ましい。例えば、多成分混合物が石油の場合、これまでの石油に関する幾多の知見をもとにして、予め、「石油の分子構造特定用のコア構造リスト」なるものを作成しておき、それを用いればよい。
リストの作成においては、基本となる芳香環における環数、芳香環に直接結合するナフテン環の種類と数(カタ型かペリ型かという違いも含む)及び直接結合の態様(即ち、基本芳香環のどの位置にどういう形でナフテン環が結合しているのかという態様)等、諸条件を勘案して、適当数のコアを格納するのがよい。
例えば、芳香環の大きさは6環までとするとか、ヘテロ原子はN、O、Sを想定し、ヘテロ環の種類としては10個程度とする等、計算の便宜上を考慮してリストを作成すればよい。
iv.コア構造リストからの選定
コア構造リストには、「分子量、DBE値及びヘテロ原子の種類と数がすべて同じであるが、構造式が異なる」というものが複数存在している場合がある。この場合、それらの複数のうちどれを第一優先として選定するかについては、適宜、ルールを決めておけばよい。例えば、優先性として、次の1〜3が挙げられる。
1.芳香環のみから成るものを優先する。
2.不飽和結合の多いものを優先する。
3.環数の少ないものを優先する。
(イ)次に、各コアの存在割合を特定する方法を説明する。
前述のとおり、ステップ2において衝突誘起解離後に得られた各々のピークの高さから、そのm/z、即ち、その質量を持つコアの存在割合を求めることができる。
このステップ3で得られた衝突誘起解離後の各コアの構造は、後にステップ5にて用いられることになり、また、衝突誘起解離後の各コアの存在割合は、後にステップ4にて用いられることになる。
(4)ステップ4(クラスごとのコアの存在態様及び存在割合の推定)(図1のS4)
ステップ1におけるピークの各々に帰属する分子を、「ヘテロ原子の種類と数(ゼロを含む。)及びDBE値」に基づいて「クラス」に分け、当該各々の「クラス」に属するすべての分子について、その存在態様及び存在割合を推定するステップである。
言い換えれば、ステップ1におけるすべてのピークに帰属する分子について、ステップ1にて特定された各々の分子式における「ヘテロ原子の種類と数(ゼロを含む。)及びDBE値」に基づいて「クラス」に分け、当該各々の「クラス」に属するすべての分子について、その存在態様及び存在割合を推定するステップである。
以下、詳説する。
(ア)上記「「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」に基づいて、「クラス」に分け、」とは、以下の意味である。即ち、ステップ1において、すべてのピークについて分子式が特定されているので、その分子式におけるヘテロ原子の種類とその数及びDBE値が判明することになる。この「ヘテロ原子の種類とその数及びDBE値」に基づいて、すべてのピークに帰属させた分子それぞれを、「ヘテロ原子の種類とその数及びDBE値」ごとに括られたそれぞれの「クラス」の中に編入するという意味である。
「ヘテロ原子の種類と数」とは、詳しくは、「ヘテロ原子の種類ごとのそのヘテロ原子の数」という意味である。本明細書において「ヘテロ原子の種類と数」という文言は、この意味で用いている。ヘテロ原子とは、好ましくは、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子であるので、「ヘテロ原子の種類と数」とは、好ましくは、「窒素原子、硫黄原子及び酸素原子のそれぞれの数」ということもできる。よって、ヘテロ原子に関して言えば、「窒素原子の数、硫黄原子の数及び酸素原子の数のすべてが一致するもの」が同一の「クラス」に入ることになる。
手順を詳細に述べると、以下のとおりである。
もともとステップ1において、FT-ICR-質量スペクトルのピークごとに、相当する分子式が割り付けられた。ここで、分子式が判れば、その分子式で表される分子が持つヘテロ原子の種類と数及びDBE値が判ることになる。そこで、すべてのピークに帰属させた分子のうち、分子式中にヘテロ原子が存在しない分子については、まず「ヘテロ原子ゼロの群」として束ねる。次に、その「ヘテロ原子ゼロの群」に存在することになったすべての分子について、「DBE値」ごとに分けることにする。このように、元のFT-ICR-質量スペクトルにて得られたピークに帰属させたすべての分子が、まずヘテロ原子の種類と数により「群」に分けられ、その「群」に属する分子について「DBE値」ごとに分けられる。こうして新たに再編された単位を「クラス」ということにする。
即ち、上記では「ヘテロ原子ゼロの群」について述べたが、分子式中にヘテロ原子として窒素原子1個のみが存在する分子の場合は、それらについては「N1分子群」として束ね、その「N1分子群」に属しているすべての分子について、「DBE値」ごとに「クラス」として分ければよい。その群の中で、例えばDBE値22のものを集めた「クラス」については、その呼び方は、「N1分子群のDBE値22クラス」ということになる。分子式中にヘテロ原子として窒素原子1個と硫黄原子1個が存在する分子の場合は、それらについては「N1S1分子群」という別の群として束ねられることになる。
「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」が同じ分子は、仮に炭素や水素の数が異なるため分子式が異なっていても「同一のクラス」に入ることになる。
以上により、「クラス」という単位で括られた分子の集まりは、ピークとして表すことが可能となる。
(イ)次に、「当該各々の「クラス」に属するすべての分子について、その存在態様を推定する」とは、上記のように「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」で括られた各クラスにおいて、そのクラスに属する各分子が、どういうシングルコア又はマルチコアであるのかを推定することである。また、「当該各々の「クラス」に属するすべての分子について、存在割合を推定する」とは、それらのシングルコア及びマルチコアは、それぞれどういう割合で存在するのかを推定することである。
これらの推定を行うにあたっては、実際の計算上の便宜から、いくつかの仮定を設けて行うのが好ましい。
ここで、「マルチコア」といえども、どういうコアどうしが架橋して結合しているのかにより、いろいろな組み合わせがありうる。ただし、マルチコアを形成する複数個のコアのDBE値の和及びヘテロ原子の種類に応じた数の和は、そのクラスに属しているものは、皆、同じ値である。
(ウ)「そのクラスに属する各分子が、どういうシングルコア又はマルチコアからなるものであるのか」については、次のようにして推定するのが好ましい。
上記のように、FT-ICR-質量分析にて得られたピークの各々に帰属する分子について、ヘテロ原子の種類と数及びDBE値が同じものからなるクラスごとに括り直したが、そのクラスに属する分子は、シングルコア又はマルチコアである。これらのシングルコア又はマルチコアが、どういうコアをもって構成されるのかを推定する方法について、以下、説明する。
そのクラスに属する分子が、シングルコアである場合は、そのクラスに該当するヘテロ原子の種類と数及びDBE値を持つシングルコアが該当する。そのクラスに属する分子が、マルチコアである場合は、当該マルチコアを構成している複数のコア中に存在する同じ種類のヘテロ原子ごとの数の和及びこれら複数のコアのDBE値の和が、当該クラスのヘテロ原子の種類と数及びDBE値と一致するように、コアを組み合わせたものが該当する。複数のコアのヘテロ原子の種類に応じた数の和及びDBE値の和がそのクラスのヘテロ原子の種類と数及びDBE値に該当すればよいのであるから、マルチコアを構成する複数のコアの組み合わせは、通常、1つとは限らず、数通り存在する。
例を使って説明する。
「ヘテロ原子が存在しない群」を例とする。この群において、例えば、DBE値が22である分子の場合、この分子を形成しているコアとしては、まず、DBE値が22のシングルコアが該当する。そして、マルチコアについては、まず、ダブルコアで考えると、DBE値の和が22となる2個のコアが架橋によって結合することにより構成されているダブルコアが該当する。DBE値の和が22となる2個のコアが架橋によって結合することにより構成されているダブルコアとは、例えば、DBE値12のコアとDBE値10のコアにより構成されているダブルコアや、DBE値11のコアとDBE値11のコア、DBE値13のコアとDBE値9のコアの組み合わせ等である。
ここで、合計が22になるすべての組合わせを考えなければならないということはない。即ち、各コアがとりうるDBE値には、ある範囲があるということである。即ち、ステップ3において、衝突誘起解離後に存在するコアの構造が特定されているので、衝突誘起解離後に存在するコアのDBE値も判明している。即ち、各コアがとりうる可能性のあるDBE値は、衝突誘起解離後に存在するすべてのコアのうち、最大のDBE値と最少のDBE値の範囲内にあることになる。言い換えれば、この範囲外のDBE値を持つコアはその存在を考慮しなくてもよいことになる。この考え方により、DBE値の和が22となる2つのコアの組合せのうち、存在し得ないものが判るので、その組合せについては考慮しなくてもよいことになる。
次の順序としては、トリプルコアで考えるのであるが、この場合も、ダブルコアの場合と同様に、DBE値の和が22となる3個のコアにより構成されているトリプルコアが該当する。
「マルチコア」を構成するコアの数は限定されないが、仮定として、3個以下のコアから構成されるものとするのが好ましい。さらには、2個のコアから構成されるものと仮定するのがより好ましい。理屈の上では、4個以上のコアが架橋して結合しているものも考えられるが、4個以上になると組合せの可能性が膨大になり、計算上、非常に煩雑になる。
今、「ヘテロ原子が存在しない群」を例として説明したが、「ヘテロ原子が存在する群」の場合、マルチコアにおいては、ヘテロ原子がどこに存在するかにより、即ち、コアに存在するのか、側鎖に存在するのか、架橋部に存在するのかにより、とりうる可能性のあるコアの種類数は膨大なものになる。そこで、「ヘテロ原子が存在する群」の場合は、「ヘテロ原子はコアにのみ存在する。即ち、側鎖及び架橋部には存在しないものとする。」という仮定を設けてもよい。また、「ヘテロ原子が複数存在する群」の場合、例えば、「窒素原子1個と硫黄原子1個が存在する群、即ち、N1S1群」の場合は、「架橋により結合している2個のコアのうち、片方に窒素原子が1個存在し、もう片方に硫黄原子が1個存在する。」というような仮定を適宜設けてもよい。
以上のようにして、そのクラスに属する各分子の存在態様、即ち、各分子がどういうシングルコア又はマルチコアからなるものであるのかを推定することができる。
(エ)次に、「そのクラスに属する各分子であるシングルコア及びマルチコアは、それぞれどういう割合で存在するのか」については、以下のようにして仮定を設定し、推定するのが好ましい。
まず、最初の仮定として、マルチコアの存在割合は、そのマルチコアを構成している複数のコアそれぞれの存在割合の積であると仮定し、これを推定値とするということである。
上記の例で言うと、DBE値の和が22となる2個のコアの組合せからダブルコアのうち、例えば、DBE値12のコアとDBE値10のコアからなるダブルコアの存在割合は、「CID後におけるDBE値12のコアの存在割合とDBE値10のコアの存在割合の積」であると仮定し、これを推定値とするということである。
ここで、CID後におけるDBE値12のコアの存在割合というのは、CID後の全ピークの高さの総和に対するCID後におけるDBE値12のピークの高さの比率のことであるので、ステップ2及び3により既に分っている値を用いれば算出することができる。
DBE値10のものの存在割合も同様にして知ることができる。
DBE値の和が22となる他の組合せからなるダブルコア、例えば、DBE値13のコアとDBE値9のコアについても、同様にして、そのダブルコアの存在割合を推定することができる。
このようにして、ヘテロ原子の種類と数及びDBE値が同じ分子からなる「クラス」ごとに括り直したものであっても、そのクラスに属している種々のマルチコアの存在割合を推定することができる。
また、次の仮定として、DBE値が22であるシングルコアの存在割合は、CID後のDBE値22のピークの存在割合をDBE値の「22」で除した値であると仮定し、推定値とするのが好ましい。
以上のように仮定して、DBE値が22となるシングルコア及び種々のマルチコアの存在割合を推定することができる。
(5)ステップ5(コア構造、側鎖及び架橋の決定)(図1のS5)
ステップ5は、ステップ4において存在態様が推定された各分子に対し、それらを構成するコアの構造を決定し、さらに側鎖及び架橋を決定して割り付けるステップである。
(ア)「ステップ4において存在態様が推定された各分子」に対し、「それらを形成するコアの構造を決定する」とは、以下のi〜vの操作により行うものである。
i.ステップ4で存在態様が推定されたマルチコアの場合は、それを構成しているコアごとに分けてとらえることにする。即ち、例えば、DBE値が22のマルチコアについては、DBE値が12のコア1とDBE値が10のコア2の組合せなど、DBE値の和が22になるように2つのコアを組合せたものであったが、これを一旦解除する。すべてのDBE値のものについて、マルチコアを解除し、構成しているコアに分ける。
ii.ステップ4で存在態様がシングルコアであると推定されたもの及び上記iのようにマルチコアを解除して生成したコアのすべてについて、同じ「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」のものごとにそれぞれの「組」に括り直す。因みに、ここでいう「組」は、もともとのシングルコア及びマルチコアを解除して得られたコアに関する概念であり、ステップ4で述べた分子に関する「クラス」とは別のものである。
例えば、「ヘテロ原子なし、DBE値=10」組とか、「N=1、DBE値=10」組というような「組」に括り直す。「ヘテロ原子なし、DBE値=10」組には、「ヘテロ原子なし、DBE値=10」という条件さえ満たせば、どんなコアも入ることができるので、そのコアが由来する親のマルチコア、即ち、解除される前のマルチコアがどんなものであろうと関係なく、またシングルコアに由来するものでもよい。
iii.上記iiで括られた「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」のすべての「組」に関し、その「組」に存在しているコアのすべてについて、具体的な構造を割り付ける。
「割り付けられる構造」の出所は、ステップ3で特定されたコアの構造である。即ち、ステップ3において、CID後のすべてのピークについて、帰属するコアの構造、分子量、ヘテロ原子の種類と数及びDBE値が特定されているので、ある「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」の「組」には、CID後のすべてのピークのうち「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」が一致するピークに帰属しているコアの構造が割り付けられる。この場合、「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」が一致するということのみが条件であるので、これが一致していれば、該当するピークは複数個存在する場合がある。その場合には、分子量の異なる複数の構造が一つの「組」に割り付けられることになる。
iv.例えば、ある「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」の「組」に属しているすべてのコアに割り付けられる構造として、コアXとコアY(コアYの方がコアXより質量が大きいものとする。)の2種が上記iiiにより割り付けられたとする。
ある「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」の「組」に属しているコアというのは、ある親分子がCIDにより架橋及び側鎖が切断されて生じたものを含め、これらのコアは、それぞれ「由来する親」を持っている。そして、「親」自体、側鎖の有無及びその数の違いにより、コアは同じであっても質量が異なるものが複数存在する。
そこで、まず、ある「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」の「組」に属しているコアについて、各コアが由来する親の質量を基準にして、親の質量が小のものから大のものに順に並べる。次に、コアXとコアYの存在割合は、ステップ3により既知であるので、この並べたものにおいて、コアXとコアYの存在割合のところで線引きして分け、質量小の側にはコアXを割り付け、質量大の側にはコアYを割り付ける。
もし、上記iiiにより、コアX、コアY及びコアZの3つの構造が特定された場合には、2つの場合と同様に、親の質量により3つに分け、それぞれの存在割合のところで線引きして分け、質量小の側から順にコアX、コアY及びコアZを割り付ければよい。4つ以上の場合も同様である。
以上i〜ivにより、ステップ4において存在態様が推定された各シングルコア又はマルチコアを構成するコアの構造が割り付けられたことになる。
v.以上のi〜ivを行なった後、再びもとのマルチコアに戻す。マルチコアが、例えば、コア1とコア2の組合せからなっていたものであるとすると、コア1にはある構造αが特定され、またコア2にはある構造βが特定されたことになるので、結果として、マルチコアにおけるコアの部分の構造が特定されたことになる。
(イ)「さらに側鎖及び架橋を決定して」とは、以下のi〜iiiの操作により行う。
i.上記により、シングルコア又はマルチコアのコアの部分の構造は特定することができたが、コアの部分のみの存在を想定しただけでは、対象とする試料についてFT-ICR-質量分析にて得られたピークのm/zが示す質量に合致しない。即ち、コアの部分に関与している炭素、水素及びヘテロ原子に基づく質量を合計しても、FT-ICR-質量分析にて得られたピークのm/zで示される質量と差が生じる。
そこで、その質量の差分は、コアに結合している側鎖及びコアどうしを結合させている架橋の存在に由来するものと考え、差分が解消するように炭素の数及び水素の数を割り出し、それを側鎖及び架橋としてコアに割り付ける。
例えば、あるm/z=nのピークに対して、上記の手順により、コア1とコア2が架橋してなるあるダブルコアが割り付けられたとする。このとき、
その質量の差分(d)=n−(コア1の質量+コア2の質量)
が、側鎖及び架橋の存在に由来するものとなる。
ii.上記iにおいては、側鎖及び架橋として割り付ける炭素の数及び水素の数は求められるが、まだ、どういう構造の側鎖及び架橋かは決定できていない。そこで、どういう構造の側鎖及び架橋が相当するのかを推定するにあたっては、想定される側鎖及び架橋の組合せの存在確率を考慮して、例えば、以下のようなルールを決めておき、それに従って推定すればよい。ルールとしては、側鎖や架橋を構成する炭素の数の上限や側鎖の本数等の条件を予め定めておけばよい。
iii.上記iにおいて、その質量の差分に相当する側鎖又は架橋が存在しない場合は、コア1とコア2が単に結合しているという構造を当てはめてもよい。
(ウ)上記にて決定した側鎖及び架橋を「コアに割り付ける」とは、どのコアのどの位置に側鎖や架橋が結合しているかを決定することまでを包含する意味ではない。
(エ)このようにして、ステップ5により、ステップ4において存在態様が推定された各シングルコア又はダブルコアに対し、それらを構成するコアの構造を決定し、さらに側鎖及び架橋を決定することができる。
(6)ステップ1〜ステップ5のまとめ
ステップ1により、多成分混合物の質量分析にて得られたすべてのピークについて、分子式が特定され、ステップ2及びステップ3により、CID後の各コアの構造及び存在割合が特定され、ステップ4及びステップ5では、ステップ1にて特定された分子式における「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」ごとにすべてのピークに帰属する分子を「クラス」として再編し、各々の「クラス」に属するすべての分子について、その分子を構成するコアの構造及びコアの存在割合が決定された。また、ステップ5により、架橋及び側鎖についてもコアに割り付けられた。
ここで、ステップ4にて「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」ごとにまとめられた「クラス」に属している分子を「クラス」という括りから解除してやると、既に構造及び存在割合、架橋及び側鎖が特定されている分子の一つ一つは、それぞれ、その質量に相当する元のステップ1でのピークに戻ることになる。分子式が同じものは同じピークに戻ることになるので、一つのピークには、複数の分子の構造が帰属することもありうる。
このようにして、ステップ1の質量分析にて得られたピークの一つ一つに対し、それに帰属する分子の構造及び存在割合が特定されたことになる。
まとめれば、上記のステップ1〜ステップ5により、多成分混合物を構成する各成分について、その分子構造をJACDで特定し、またその存在割合を特定することができたことになる。
(7)ステップ6(分子の存在割合の最適化)(図1のS6)
ステップ6は、ステップ1において特定された各成分の存在割合を、元の多成分混合物全体を対象とした分析情報を用いて最適化するステップである。
「最適化する」とは、文字どおり「最適な値を求める」という意味のみならず、具体的には、多成分混合物全体について測定した平均物性値との乖離が小さくなるように前記ステップ1において特定された各分子の存在割合を調整し、精緻化する行為を広く包含することを意味している。
具体的には多成分混合物、全体について測定した平均物性値の値に合致するよう前記ステップ1において特定された各分子の存在割合を調整する。
(ア)「元の多成分混合物全体を対象とした分析」とは、例えば以下のものをさすが、求める最適化度合いに応じて、考慮すべき情報を適宜、以下のi〜ivから1つ以上選択すればよい。
i.元素分析値
多成分混合物について元素分析を行うことにより、水素/炭素比、窒素/炭素比、イオウ/炭素比、酸素/炭素比がわかる。特に水素/炭素比に着目するのが好ましい。
ii.芳香族性指数(fa)
芳香族性指数(fa)とは、多成分混合物中の炭素原子のうち、芳香族環の形成に関与している炭素の割合をさし、fa=Ca/C で表される。
iii.水素原子分布
多成分混合物中の水素原子に関し、その位置(どういう炭素原子に結合している水素なのか、即ち、芳香族環の炭素に結合している水素なのか、脂肪鎖の炭素に結合している水素なのか、またどういう芳香族環や脂肪鎖におけるどういう位置にある炭素なのか等)についての情報である。
iv.数平均分子量
(イ)「元の多成分混合物全体を対象とした分析情報を用いて最適化する」とは、例えば、以下の方法にて行えばよい。
上記の水素/炭素比、芳香族性指数、水素原子分布、数平均分子量等の値を基に導き出した各分子の存在モル分率と、多成分混合物のFT-ICR質量スペクトルにて得られた各ピークの強度から導き出される各分子のモル分率との乖離が最小になるよう、補正係数を求める方法である。
本発明においては、前記多成分混合物が、ある多成分混合物を2以上の任意の部分に分画することにより得られた一つの分画物であってもよい。即ち、前記における「多成分混合物」を、大きな括りの「多成分混合物A」を分画して得られた一つの分画物Iと捉えた場合、「多成分混合物A」は、分画物I、分画物II・・など、分画の数だけの分画物の混合物と捉えることができる。分画物IIについても、分画物Iで行った方法と同様の方法により、分画物IIを構成する各成分の分子構造を特定することができる。
分画を行うにあたって、分画物の境目とする基準又は分画するための方法は特に問わない。具体的には、以下のような方法で行うのが好ましい。
多成分混合物に対し高精度なタイプ別分離前処理を施し、複数の成分に分画するという方法である。特に重質油の場合、かかる分画を行うことが好ましい。「タイプ別分離前処理」の方法としては、特に限定はされず、任意の基準に従っていくつかの成分に分離させればよいのであるが、カラムクロマト分画方法、ソックスレー抽出法や高速溶媒抽出法等の溶媒抽出法等の公知の方法を用いればよい。重質油の場合は、例えば、特開2011−133363号公報に記載の方法のように、カラムクロマト分画方法を用いるのが好ましい。いくつの成分に分画するかは、目的に応じて、適宜選択すればよい。
具体的には、次の第1〜第3工程を含む方法が挙げられる。
(第1工程)
重質油をn−パラフィンに可溶なマルテン分とそれ以外の不溶分に分離する。
(第2工程)
上記(第1工程)で分離したマルテン分をカラムクロマトグラフィーを用いて飽和分(Sa)、1環芳香族分(1A)、2環芳香族分(2A)、3環以上の芳香族分(3A+)、極性レジン分(Po)及び多環芳香族レジン(PA)の各フラクションに分離する。
(第3工程)
さらに好ましくは、前記第2工程で得られた3環以上の芳香族分フラクション(3A+)を、分取液体クロマトグラフィーを用いて、さらにPeri型4環芳香族分とCata型4環芳香族分のフラクション及び場合によっては5環以上の芳香族分(5A+)に分離してもよい。
次に、コンピュータを用いて、多成分混合物の組成モデルを決定する方法を説明する。
これは、多成分混合物を2以上の任意の部分に分画するステップAと、ステップAで分画された各分画物について、前記の方法により、各分画物を構成する各成分の分子構造及び存在割合を特定するステップBと、ステップAで分画された各分画物の混合比に従って、すべての分画物について得られた全成分の分子構造及び存在割合を統合するステップCとを含むことを特徴とする方法である。
前記のとおり、「多成分混合物A」を、それを分画することにより得られた分画物I、分画物II・・など、分画の数だけの分画物の混合物と捉え、各分画物については、前記の方法にて、その分画物を構成する各成分の分子構造及びその存在割合を特定する。しかる後に、「多成分混合物A」における分画物I、分画物II・・それぞれの混合比、即ち、分画収率に従って、全分画物の全成分を統合すれば、「多成分混合物A」の組成モデル全体について、どういう成分により、どういう割合で構成されているのかを特定することができる。
さらに、本発明はまた、上記の方法により特定された、多成分混合物を構成する各成分の分子構造及びその存在割合に基づいて、多成分混合物の物性値を推定する方法である。
ここでいう「物性値」とは、例えば、次のものが挙げられる。生成ギブス自由エネルギー、イオン化ポテンシャル、分極率、誘電率、蒸気圧、液体密度、API度、気体粘度、液体粘度、表面張力、沸点、臨界温度、臨界圧力、臨界体積、生成熱、熱容量、双極子モーメント、エンタルピー、エントロピー等である。
これらの物性値は、通常、原子団寄与法や分子軌道法を用いて算出される。原子団寄与法とは、ある物質の物性値を求めるにあたり、その物質の化学構造を特定し、存在する各種の原子団、即ち、「基」が持つ固有のパラメータ値をもとに、その物質の物性値を算出するという方法である。即ち、その物質が持つ「基」が特定されることが前提となる。また、分子軌道法においても、まず、その物質が持つ「基」が特定され、それをもとに構造が特定されることが前提となる。
本発明においては、上述のように、多成分混合物を構成する各成分について、存在する各種の原子団が特定されるので、各種の原子団が持つ公知の固有のパラメータ値を用いて、その成分の物性値を算出することができる。さらに、各成分の存在割合も特定されているので、この存在割合を考慮すれば、適宜、各成分の持つ物性値から全体の多成分混合物の物性値を推算することが可能となる。
多成分混合物、特に石油の精製装置の運転においては、通常、原料である石油の物性値を指針として、最適な条件が設定される。
本発明は、上記、推定された多成分混合物の物性値に基づいて、運転条件を設定することを特徴とする多成分混合物、特に石油に関する装置の運転方法である。「物性値に基づいて」とは、上記方法にて推定された物性値そのものを単独で又は複数組み合わせて、直接の因子として運転条件の設定に用いるという場合や、上記方法にて推定された物性値が他の通常の物性値と組合わされて運転条件を決定する因子となるような場合も含まれる。また、上記方法にて推定された物性値は運転条件を決定する直接の因子にはならないが、他の運転因子を決定するためのデータとして用いられるような場合も広く含まれる。
次に、発明の理解を容易にするために便宜的に想定モデルを用いて、前記ステップ1〜5に即し、本発明の実施形態を説明する。「多成分混合物」としては、多環芳香族レジン分(PA)をモデルとしている。
以下は、単に、想定モデルにて模式的に単純化して説明をするものであるので、これをもとに、本発明が限定的に解釈されるということではない。
(本方法の要点)
本発明は、多成分混合物を構成する各成分の分子構造及びその存在割合を特定する方法であるが、具体的には、対象とする多成分混合物に対しFT-ICR-質量分析を行い、得られたピーク一つ一つについて、ピークに帰属する分子(複数の場合もある)の分子構造をJACDにより表示し、特定するものである。
例えば、ある多成分混合物をFT-ICR-質量分析し、質量スペクトルが得られたとする。この質量スペクトルでは多くのピークが計測されるが、そのうちm/zが522.24というピークを例にとると、「このピークに帰属される分子は、分子式がC38H34Sであり、その分子式に該当する一つの分子の構造は、JACDで表すと、図3に示すようなコア1、コア2、架橋、側鎖からなるものである。」ということを特定することである。そして、C38H34Sという分子式に該当する分子が複数存在する場合には、それらのすべてについて、各々の構造をJACDで表示し、特定することである。
図1のフローチャートに示した各ステップを想定モデルに適用して説明する。
(1)ステップ1(質量分析)(図1のS1)
ステップ1においては、多成分混合物に対し質量分析を行い、それにより得られたすべてのピークについて、各ピークに帰属する分子の分子式を特定し、さらにその分子式に該当する分子の存在割合を特定する。言い換えれば、当該多成分混合物を構成する各成分の分子式及びその分子式に該当する分子の存在割合を特定する。
FT-ICR-質量分析にて得られた質量スペクトルでは、質量を極めて精密に測定できるので、各ピークに帰属する分子の分子式を特定することができる。
例えば、図4のチャートを見ると、質量(m/z)が303.2付近には多くのピークが現れているが、その各々について、帰属する分子の分子式を正確に特定することができる。
また、全ピークの高さの総和に対するあるピークの高さの比率は、そのピークに帰属する分子の存在割合を表すことになる。
(2)ステップ2(衝突誘起解離(CID))(図1のS2)
ステップ2においては、多成分混合物に対し衝突誘起解離を行う。
図2に示したように、炭素数40、DBE=17の親イオンを衝突誘起解離により、側鎖、架橋を切断し、二つのフラグメントイオンに解離させる。CID前の分子(親イオン)のDBE値「17」とCID後の2つの分子(フラグメントイオン)のDBE値「10」と「7」の和は等しくなる。
CIDにより、図2に示したように、架橋をもつ分子のほとんどは架橋及び側鎖を切断され、適切な条件下では、コアと炭素数がせいぜい4以下の側鎖からなることになる。
(3)ステップ3(各コアの構造及び存在割合の特定)(図1のS3)
ステップ3では、ステップ2のCIDにより生成した各フラグメントイオンについて、FT-ICR-質量分析を行い、各フラグメントイオンを構成するコアの構造及び存在割合を特定する。即ち、CID後の各フラグメントイオンについてのFT-ICR-質量分析にて得られたピークに対して、それに帰属するコアの構造及び存在割合を特定する。
図5の模式図を参照して、各コアの構造及び存在割合の特定方法を説明する。ここでは、CID後のFT-ICR-質量スペクトルのm/zの値とコア構造リストに格納されているコアの精密質量とを比較、照合することで、各々のピークにコアを帰属させる。その際、ピークのm/zから得られる分子量、分子式、DBE値が一致するように、「コア構造リスト」に収納されているコアを照合し、選択して帰属させる。
ここにおいて、CID後のFT-ICR-質量スペクトルのすべてのピークに対し、帰属させられたコアの構造、分子量、ヘテロ原子の種類と数及びDBE値が特定されることになる。
ピークにそれぞれ帰属させたコアは、その帰属ピークの相対的高さから存在割合も知ることができる。
(4)ステップ4(クラスごとのコアの存在態様及び存在割合の推定)(図1のS4)
ステップ4では、ステップ1におけるピークの各々に帰属する分子を、「ヘテロ原子の種類と数(ゼロを含む。)及びDBE値」に基づいて「クラス」に分け、当該各々の「クラス」に属するすべての分子について、その存在態様及び存在割合を推定する。
(ア)まず、以下のようにして、対象とする多成分混合物のFT-ICR-質量分析にて得られたピークについて、「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」の「クラス」ごとにまとめてピークで表す。
図6を参照して説明する。図6の上段には、「FT-ICR-質量分析にて得られたピークそのもの」を示す。FT-ICR-質量分析にて得られたピークにおいては、そのピークに帰属する分子の分子式、ヘテロ原子の種類と数及びDBE値が判明している。そこで、まず、図6の中段に示すように、すべてのピークに割り付けられたすべての分子のうち、分子式中にヘテロ原子が存在しない分子については、まず「ヘテロ原子ゼロの群」として束ね、次に、その「ヘテロ原子ゼロの群」に存在することになった全分子について、「DBE値」ごとに分けピーク化する。次に、下段に示すように、分子式中に窒素原子が1つ存在する分子については、「N原子=1の群」として束ね、次に、その「N原子=1の群」に存在することになった全分子について、「DBE値」ごとに分けピーク化する。このように、順次、すべての「ヘテロ原子の種類及び数の群」について、該当する分子を束ね、その群に存在する全分子について、「DBE値」ごとに分けピーク化する。
(イ)次に、「ヘテロ原子の種類と数」の群ごとにおける各「DBE値ピーク」に対し、そのピークはどういうコアから構成されているのかを推定する。
この場合、実際の計算上の便宜から、いくつかの仮定を設けて行うのが好ましい。ここでは、「DBE値=22のもの」を例にとって説明する。
DBE値が22の場合、挙げられるコアとしては、DBE値が22のシングルコア、DBE値の和が22となる複数のコアからなるマルチコアである。
ここで、次のように仮定(1)を設定する。
仮定(1):「全てのマルチコアは2つのコアから構成されるものとする。即ち、ダブルコアのみとする。」
よって、DBE=22の場合、シングルコアは、 DBE=22のコア1個から成るものとなり、ダブルコアは、上記仮定(1)に基づき、想定される2つのコア(ここでは「コアAとコアB」とする)の組合せは以下の表2のようになる。
即ち、「DBE値=22」のピークは、以下の表3のようなコアから構成されていることになる。
(ウ)次に、各コアがどういう割合で存在するのかを推定する。
この推定にあたっては、i.ダブルコア(マルチコア)の場合と、ii.シングルコアの場合とに分けて、以下の仮定(2)及び仮定(3)を設定して決定する。
i.ダブルコアの場合、次のように仮定(2)を設定する。
仮定(2):DBE値の和が22となる2つのコアの組合せからなるダブルコアのうち、例えば、「DBE値12のコアとDBE値10のコアからなるダブルコアの存在割合は、CID後のDBE値12のコアの存在割合とDBE値10のコアの存在割合の積である」と仮定し、この値を推定値とする。図7に、仮定(2)に基づくダブルコアの存在割合を模式的に示す。
ここで、CID後におけるDBE値12のコアの存在割合というのは、全DBE値のピークの高さの総和に対するDBE値12のピークの高さの比率のことである。
即ち、DBE値12のピークの存在割合は、(CID後のDBE値12を有する分子についてのピークの高さの総和)/(CID後の全ピークの高さの総和)となる。
DBE値10のものの存在割合も同様である。
DBE値の和が22となる2つのコアの他の組合せからなるダブルコア、例えば、DBE値14のコアとDBE値8のコアについても、同様にして、そのダブルコアの存在割合を推定することができる。
ii.シングルコアの場合、次のように仮定(3)を設定する。
仮定(3): DBE値が22となるシングルコアの存在割合は、「CID後のDBE値22のピ−クの存在割合をDBE値22で除した値」と仮定する。そして、この除した値を推定値とする。図8に、仮定(3)に基づくシングルコアの存在割合を模式的に示す。
以上のようにして、DBE値が22となるシングルコア及び種々のダブルコアの存在割合を推定することができる。
上記では、「ヘテロ原子=ゼロ群におけるDBE値=22」の場合について説明したが、対象とする多成分混合物のうち、ヘテロ原子=ゼロの場合はDBE値=13から32まで存在している(図6の中段)ので、各々のDBE値について、同様に、それに帰属するコアの存在態様を推定する。
さらに、N=1の場合、N=2の場合、・・・と存在するすべての「ヘテロ原子の種類と数」の群ごとに、以上の作業を行う。
(5)ステップ5(コア構造、側鎖、架橋の決定)(図1のS5)
ステップ5では、ステップ4において存在態様が推定された各分子に対し、それらを構成するコアの構造を決定し、さらに側鎖及び架橋を決定して割り付ける。
(ア)まず、ステップ4において存在態様が推定された各分子について、それらを構成するコアの構造を決定して割り付ける。具体的には、以下のとおりである。
(1)「準備」
以下の手順i〜vにより、すべてのコアについて、同じ「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」のものごとにそれぞれの「組」にまとめるという準備作業を行う。
i.ステップ4において存在態様が推定されたダブルコアの場合は、これを一旦解除し、構成しているコアごとに分けて捉えることにする。即ち、もともとのシングルコアは言うまでもなく、ダブルコアを解除して生成したコアのすべてを含めて、すべてのコアをそれぞれ独立したものとして捉えるという意味である。
例えば、前出の例で言えば、図9に示すように、DBE値=22の場合、DBE値が6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、22のコアに分けられることになる。(前出の例では、CID後のFT-ICR-質量分析の結果を見ると、DBE値が1〜5のコアは存在していなかったので、DBE値=1〜5のコアは考慮する必要はなく、除外できる。)
他のDBE値のものについても、ダブルコアを解除し、構成しているコアごとに分ける。
図10に示すように、例えば、DBE値=20の場合、22の場合と同様に、DBE値が6、7、8、9、10、11、12、13、14、20のコアに分けられることになる。
ii.次に、もともとのシングルコア及び解除されたダブルコアから発生したすべてのコアについて、DBE値ごとにまとめる。例えば、DBE値が10のものは、元のダブルコアに関係なく、解除により発生したDBE値=10のものをすべて集める。DBE値が12・・・等、すべて同様にして集める。
このとき、図11に示すように、「DBE値=10」として集められた各々は、その由来により各々の存在量は異なっている。由来する親(即ち、親がDBE値=22のものに由来するDBE値=10のものか、親がDBE値=20のものに由来するDBE値=10のものかということ)の存在量に比例している。
iii.さらに、「ヘテロ原子なし。DBE値=10」であり、しかも「由来している親のDBE値も同じ22」という場合であっても、親のピークの質量が違う場合(即ち、側鎖の有無及びその数の違いにより、コアの部分は同じであっても質量が異なるものが複数存在する)は、別物となり、その存在割合もその親の存在割合に比例する。
iv.このように「ヘテロ原子なし。DBE値=10」の組には、その由来する親が何かによって異なる非常に多くのコアが存在することになる。
そして、これらの多くのコアを、図12に示すように、由来する親の質量に基づいて、親の質量が小のものから大のものへ順に並べる。
v.ヘテロ原子を含んでいるコアは、ヘテロ原子の種類と数ごとに各々別の「組」を形成し、上記と同様に行う。
以上により、すべてのコアについて、同じ「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」のものごとにそれぞれの「組」にまとめ、組に属している各コアが由来する親の質量の順に従って並べたものが作成できた。
(2)「構造を割り付ける作業」
上記により作成された「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」のすべての「組」に関し、その組に存在しているすべてのコアに構造を割り付けていく。
以下、「ヘテロ原子なし。DBE値=10」の組で説明する。
i.「ヘテロ原子なし。DBE値=10」の「組」に存在するすべてのコアの各々に構造を割り付けるのであるが、「割り付けられる構造」の出所は、ステップ3で特定されたコア構造である。
即ち、ステップ3において、CID後のすべてのピークに対し、帰属させたコアの構造、分子量、ヘテロ原子の種類と数及びDBE値が特定されているので、ある「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」の「組」には、CID後のすべてのピークのうち「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」が一致するピークのコアが割り付けられる。
ii.「ヘテロ原子なし。DBE値=10」の組に存在するすべてのコアに対し、ステップ3で特定した「ヘテロ原子なし。DBE値=10」を持つコアを適用する。ステップ3において、「ヘテロ原子なし。DBE値=10」を持つコアとして、コア構造リストから分子量が異なる以下のコアXとコアYの2種のみが特定され、その存在割合は、CID後のピーク高さの比から、コアXが30%、コアYが70%であったとする。
「ヘテロ原子なし。DBE値=10」の組に存在しているコアは、構造としては、この2種のいずれかが割り付けられることになる。
iii.「ヘテロ原子なし。DBE値=10」の組に存在している各々のコアに対し、コアXとコアYをどのように割り付けるのかについては、以下のようにして行う。
前記「準備」において、由来する親の質量に基づいて、質量小から大に順に並べたものを用意したが、この並べたものにおいて、図13に示すように、コアXとコアYの比、30:70のところで線引きし、質量小の側にはコアXを割り付け、質量大の側にはコアYを割り付ける。
以上により、「ヘテロ原子なし。DBE値=10」の組に存在しているすべてのコアに対し、その構造が割り付けられたことになる。
(3)「マルチコアの構造に戻す作業」
上記により、構造及び存在割合が割り付けられたすべてのコアについて、ステップ4で存在態様が推定された本来の解除される前のダブルコアに戻すことにする。
このとき、例えば、DBE値=12のコア1とDBE値=10のコア2からなるダブルコアの場合、上記(2)にて、DBE値=12のコア1にはある構造αが特定され、またDBE値=10のコア2にはある構造βが特定されているので、このダブルコアのコア部分の構造は特定されたことになる。また、構造αのコア及び構造βのコアの存在割合もステップ3においてそれぞれ特定されているので、前記ステップ4の仮定(2)より、DBE値=22のダブルコアの存在割合は、構造αのコアと構造βのコアの存在割合の積で表され、特定されたことになる。
(イ)「側鎖及び架橋を決定してコア種に割り付ける作業」
続いて、以下のi及びiiの手順にて、側鎖及び架橋を決定してコアに割り付ける。
ここで、「コアに割り付ける」とは、どのコアのどの位置に側鎖や架橋が結構しているかを決定することまでを包含する意味ではない。
i.上記において、シングルコア又はダブルコアのコアの部分の構造及びその存在割合は特定することができたが、コアに結合している側鎖やコアどうしを結合させている架橋については、まだ、決定できていない。
ところで、コアの部分のみを想定しただけでは、その分子量は、FT-ICR-質量分析にて得られたピークにおけるm/zの値に合致しない。即ち、コアの形成に関与している炭素、水素及びヘテロ原子に基づく質量を合計しても、FT-ICR-質量分析にて得られたピークにおけるm/zの値と差が生じる。
そこで、その差分は、コアに結合している側鎖とコアどうしを結合させている架橋の存在に由来するものと考え、差分が解消するように炭素及び水素の数を割出し、それを側鎖及び架橋としてコアに割り付ける。
例えば、あるm/z=nのピークに対して、上記の手順により、「コア1−コア2」からなるコア部分の構造が割り付けられたとする。このとき、
その差分(d)=n−(コア1の質量+コア2の質量)
が、側鎖及び架橋の存在に由来するものとなる。
ii.上記iにおいては、側鎖及び架橋として割り付ける炭素及び水素の数は求められるが、まだ、どういう構造の側鎖及び架橋かは決定できていない。
そこで、どういう構造の側鎖及び架橋が相当するのかを推定するにあたっては、想定される側鎖及び架橋の組合せの存在確率を考慮して、例えば、以下のようなルールを決めておき、それに従って推定すればよい。
ルール1:質量の差分(d)がある値Xまでについては、側鎖はなく、架橋のみに由来するものとする。
ルール2:質量の差分(d)がある値Xを超える分については、ルール1にて架橋を割り付けた後に側鎖に割り付ける。側鎖1本当たりとりうる最大の炭素数についてもルールを定めておき、それに従って割り付ければよい。
(ウ)このようにして、ステップ4において存在態様が推定されたすべてのコア種に対し、コア構造を決定し、さらに側鎖及び架橋を決定できた。
まとめれば、上記のステップ1〜ステップ5により、多成分混合物を構成する各成分について、その分子構造をJACDで特定し、またその存在割合を特定することができたことになる。
(6)ステップ6(分子の存在割合の最適化)(図1のS6)
ステップ6では、前記ステップ1において特定された衝突誘起解離前の各成分の存在割合を、元の多成分混合物全体を対象とした分析情報を用いて最適化する。
ここでは、水素/炭素原子比に着目して、m/zピークの強度を補正する方法を示すことにする。
一般に、質量分析におけるピーク感度の低下は、分子量が大きい分子の場合に顕著であり、分子量が大きくなるに従って感度が低下する。具体的には、分画後、分子量が大きい留分においては、高い芳香族性、即ち、高い水素/炭素原子比を持つ分子の存在量が少なく観測される傾向にある。このため、質量分析結果から推定した水素/炭素原子比は、分画成分の元素分析結果による値に比べ、より小さく観測される。
この影響を補正するため、質量分析の感度補正を行うことが必要になってくる。その手順は、概ね、以下のとおりである。
(ア)感度低下の始まる分子量をMc、個々のピークの分子量をMi、そのピークのピーク強度をIi、感度補正係数をbiとする。ここで、全ピーク強度の合計が100%となるようにピーク強度を規格化する。
(イ)Mi≦Mcの分子に対しては、bi=1とする。
また、MiがMcを越える領域では、biは分子量の増加に伴い線形に増加すると仮定する。
以上の仮定は次式のようにまとめられる。
・Mi≦Mc においては、bi=1
・Mi>Mc においては、bi=a・fi・(Mi−Mc)
(aは、biの分子量に対する変化率、fiはピークiのピーク感度である。)
(ウ)上記の感度補正係数を用いると質量分析に用いた試料の炭素数(Cm)および水素数(Hm)が
で計算され、この値から試料のH/C原子比はHm/Cmと計算される。
(エ)質量分析の感度がすべてのピークに対して等しければ、元素分析で測定したH/C原子比と質量分析で計算したHm/Cmは等しくなるはずであるので、両者の差をd とするとき、
(H/Cのバーは、元素分析によって得られた水素/炭素原子を表している。)
が最小となる場合が最適解となる。そこで、d 2が最小となるようa及びMcを決定する。
(オ)a及びMcを決定した後、全ピークの強度につき、biで補正する。
(カ) 補正後、全ピーク強度の合計が100%となるようにピーク強度を再度規格化する。
次に、多成分混合物に対し、タイプ別分離前処理を施した場合の実施例を説明する。
I.タイプ別分画
試料として、常圧残油を減圧蒸留することにより得られた減圧残油(VR)を用いた。減圧残油(VR)は、重質油に相当するものである。減圧残油(VR)に対し、前処理方法(第1〜3工程)を行うことによって得られた飽和分(Sa)、1環芳香族分(1A)、2環芳香族分(2A)、3環以上の芳香族分(3A+)、極性レジン分(Po)及び多環芳香族レジン(PA)の各フラクション、並びに、第1工程でマルテン分と分離したアスファルテン分(As)の各フラクションについて、それぞれの得率を求めた。
なお、前処理方法の第1〜2工程は以下の方法で行った。
<第1工程:マルテン分の分離>
容量500ミリリットルの三角フラスコに試料を7gはかりとり、n−ヘプタンを220ミリリットル加え、空気冷却管をつけてn−ヘプタン不溶解分試験器で混合物を1時間還流煮沸した。
還流煮沸後、放置冷却し、ろ紙を用いてアスファルテン分を分離し、マルテン分を含むフラクションを得た。
<第2工程:マルテン分のカラムクロマトグラフィーによる分離>
第1工程で得たマルテン分を以下の条件にて、カラムクロマトグラフィーで分離した。
(1)カラムクロマトグラフィーのカラム条件
カラム:15mm×600mm(ゲル充填部分、ガラス製)
ゲル:シリカゲル40g+アルミナゲル50g(活性化後)
シリカゲル:Fuji Silysia製、Chromato Gel Grade 923AR
アルミナゲル:MP BiomebicaLs製、MP Alumina,Activated,Neutral,Super I
活性化条件:シリカゲル250℃×20h、アルミナゲル400℃×20h、0.2kg/cm2(N2ガス)加圧
試料量:1.5g(マルテン)
(2)分離方法
以下の溶媒を順次カラムに投入し、溶出溶液を分取した。
(i)n−ヘプタン200ミリリットルを投入し、溶出した試料溶液250ミリリットルまでを飽和分(Fr.Sa)としてカットする。
(ii)n−ヘプタン95%、トルエン5%混合溶媒250ミリリットルを投入し、溶出した試料溶液200ミリリットルまでを1環芳香族分(Fr.1A)としてカットする。
(iii)n−ヘプタン90%、トルエン10%混合溶媒250ミリリットルを投入し、 溶出した試料溶液200ミリリットルまでをカットし、2環芳香族分(Fr.2A)とする。
(iv)トルエン250ミリリットルを投入し、 溶出した試料溶液300ミリリットルをカットし、3環以上芳香族分(Fr.3A+)とする。
(v)エタノール250ミリリットルを投入し、溶出した試料溶液230ミリリットルをカットし、極性レジン(Fr.Po)とする。
(vi)クロロホルム100ミリリットルを投入し、続いて (vii)エタノール100ミリリットルを投入し、再度(vi)、(vii)を繰り返す。(vi)、(vii)は全て1つのフラクションとして分取し、多環芳香族レジン(Fr.PA)とする。
結果は、以下のとおりであった。
飽和分(Sa)10%、1環芳香族分(1A)11%、2環芳香族分(2A)8%、3環以上の芳香族分(3A+)35%、極性レジン分(Po)9%、多環芳香族レジン分(PA)16%、及びアスファルテン分(As)11%。
II.分子構造特定
(1)ステップ1
試料に対しフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴方式による質量分析計による質量分析を行い、それにより得られたすべてのピークについて、各ピークに帰属する分子の分子式を特定し、さらにそのピークに該当するすべての分子の存在割合を特定した。
詳細は、以下のとおりである。
(ア)12T(テスラ)の超伝導マグネットを備えたフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴方式のsolaliX FT-ICR-質量分析計 (Bruker Daltoniks社製)を使用した。
測定条件は以下のとおりである。
・用いた試料: 上記タイプ別分画で得られた多環芳香族レジン(PA)である。
・サンプル調製法: 試料数十ミリグラムをクロロホルムに溶解させ、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)プレートへ1マイクロリットル程度を滴下し、溶媒蒸発後に測定試料とする。
・イオン化法: レーザー脱離イオン化法(LDI法)(ショット数:2000、発振周波数:1000Hz、パワー:23%)にて行った。
測定の結果、図14に示す質量スペクトルが得られた。
(イ)上記質量スペクトルの各ピークに対し、特定した分子式及び存在割合(モル分率で表す)は、以下の表4に示すとおりである。
ピークの数は3030本である。以下にその一部のみ(ピーク番号11〜3022は割愛)を示す。表では、m/z値の小さいピークから順に、ピーク番号を付けている。
(2)ステップ2
試料に対し衝突誘起解離(CID)を行うことにより、当該試料を構成する各成分について、架橋及び側鎖を切断した。
詳細は、以下のとおりである。
上記ステップ1と同じ方法で、サンプルを調製し、イオン化を行った。
衝突誘起条件として、衝突エネルギーは、30eVとした。
得られたCID後の質量スペクトルを図15に示す。
(3)ステップ3
ステップ2のCIDにより生成した各フラグメントイオンについて、FT-ICR-質量分析を行い、各フラグメントイオンを構成するコアの構造及び存在割合を特定した。
上記CID後の質量スペクトルの各ピークに対し、予め作成したコア構造リストに収納されているコアの分子量、分子式、DBE値を照合することにより、各々のコア構造及び存在割合を特定した。
用いたコア構造リストの一部分を以下に示す。
このステップ3は、コア構造リストの情報をコンピュータに組み込んでおくことにより、コンピュータを用いて実行された。
(4)ステップ4
ステップ1においてすべてのピークに帰属させた分子について、各々特定された分子式における「ヘテロ原子の種類と数及びDBE値」に基づいて「クラス」分けし、当該各々の「クラス」に属するすべての分子について、その存在態様及び存在割合を推定した。
ステップ4は、コンピュータによって処理される過程であるので、途中で結果を取り出すことはできない。
(5)ステップ5
ステップ4において存在態様が推定された各分子に対し、それらを構成するコアの構造を決定し、さらに側鎖及び架橋を決定して割り付けた。
ステップ5は、コンピュータによって処理される過程であるので、途中で結果を取り出すことはできない。
(6)ステップ6:試料の質量スペクトルに対する分子構造の特定
上記ステップ1で得られたピークの数は3030本であるが、1本のピーク、即ち、ある分子式を示すピークに対しては、同じ分子式を有する複数の分子が帰属することになる。本実施例では、上記3030種の分子式に対し、構造の異なる38,964個のJACDによって表示された分子を特定した。
結果の一部(ピーク番号4〜3028は割愛)を以下の表6に示す。表の見方は次のとおりである。
(ア)ステップ1で示した表4におけるピーク番号に呼応するように、ピーク番号を付けている。
ピーク番号1は、分子式として「C21H19N」であり、この分子式には、4種類のJACDによって表示された構造の異なる分子が帰属させられたことを示している。
(イ)分子式「C21H19N」の4種類の分子のうち、例えば、「分子種番号1」について説明すると、この分子の構造は、英数字を用いたJACDにより表示されている。
(ウ)上記表において、英数字を用いたJACDによる表示を、コア、架橋及び側鎖の構造に直すには、英数字情報を構造情報に読み直すコード表を作成しておけばよい。例えば、以下のような表である。
(エ)この表を用いると、分子式「C21H19N」の「分子種番号1」の分子の構造は、次のようになる。
i.コア1は「002007」であるので、以下の構造である。
ii.コア2は「004000」であるので、以下の構造である。
iii.架橋1は「0BC003」であるので、以下の構造である。
iv.側鎖はすべて「000000」であるので、存在しないという意味である。
v.このようにして、分子式「C21H19N」の「分子種番号1」の分子について、JACDにより構造を表示し、特定することができた。
(カ)同様にして、すべての分子について、JACDにより構造を表示し、特定することができた。
(7)ステップ6(分子の存在割合の最適化)
上記のように特定された各成分の存在割合について、多成分混合物の元素分析結果及びNMR測定結果をもとに最適化した。
結果を表に示す。
最適化の結果得られた各成分の存在割合は、「モル分率」で示されている。
III.各分画物のデータの統合
(1) 飽和分(Sa)、1環芳香族分(1A)、2環芳香族分(2A)、3環以上の芳香族分(3A+)、極性レジン分(Po)及びアスファルテン分(As)についても、以下を変えた以外は、上記、多環芳香族レジン分で行ったのと同様の方法で分子構造を特定した。
(ア)飽和分、1環芳香族分、2環芳香族分、3環以上芳香族分、極性レジン分のイオン化法については、大気圧光イオン化法(APPI法)(サンプル流速200μL/h、イオン集積時間 0.2sec.、 積算回数 100回)にて行った。
(イ)アスファルテン分のイオン化法については、レーザー脱離イオン化法(LDI法)(ショット数:5000、発振周波数:1000Hz、パワー:17%)にて行った。
(2) すべての分画物の統合:飽和分(Sa)、1環芳香族分(1A)、2環芳香族分(2A)、3環以上の芳香族分(3A+)、極性レジン分(Po)、多環芳香族レジン(PA)及びアスファルテン分(As)について、上記で得られているそれぞれの得率(存在割合)に従って、すべての分画物について全成分の分子構造及び存在割合を統合した。
(3) 以上により、試料である減圧残油(VR)について、減圧残油(VR)を構成している全分子の分子構造及び存在割合を特定することができた。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能である。上述した実施形態では、質量分析として、FT-ICR-質量分析を使用したが、これに限定されるものではない。
本発明によれば、石油について、それを構成する分子の構造を特定することができるので、石油の諸反応等を分子レベルにて解析する等において、広く応用することが可能となる。さらには、かかる分子レベルによる解析を行うことは、石油精製設備の運転の安定性及び運転効率を飛躍的に向上させることに寄与するものである。

Claims (12)

  1. コンピュータを用いて、多成分混合物に対し、それを構成する各成分の分子構造及びその存在割合を特定する方法であって、
    前記多成分混合物に対し質量分析を行い、得られたピークの各々について、そのピークに帰属する分子の分子式を特定し、さらにその分子の存在割合を特定するステップ1と、
    前記多成分混合物に対し衝突誘起解離を行うステップ2と、
    前記ステップ2の衝突誘起解離により生成した各フラグメントイオンについて、質量分析を行い、各フラグメントイオンを構成するコアの構造及び存在割合を特定するステップ3と、
    前記ステップ1におけるピークの各々に帰属する分子を、「ヘテロ原子の種類と数(ゼロを含む。)及びDBE値」に基づいて「クラス」に分け、当該各々の「クラス」に属するすべての分子について、その存在態様及び存在割合を推定するステップ4と、
    前記ステップ4において存在態様が推定された各分子に対し、それらを構成するコアの構造を決定し、さらに側鎖及び架橋を決定して割り付けるステップ5と、
    前記ステップ1において特定された各分子の存在割合を、元の多成分混合物全体を対象とした分析情報を用いて最適化するステップ6と
    を含むことを特徴とする方法。
  2. 前記ステップ3において各コアの構造を特定するにあたり、前記ステップ2で得られた衝突誘起解離後のコアに関する情報と、予め用意したコア構造リストに記載されているコアに関する情報とを照合し、各コアの構造を特定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 前記コア構造リストは、前記多成分混合物を構成する各成分を構成すると想定しうる各種のコアをリスト化したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記多成分混合物を構成する各成分の分子構造は、コア、側鎖及び架橋を含むアトリビュートの種類、及びアトリビュートの数により表されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 前記請求項1のステップ4における「その存在態様」とは、そのクラスに属する分子がマルチコアである場合は、当該マルチコアを構成している複数のコア中に存在する同じ種類のヘテロ原子ごとの数の和及びこれら複数のコアのDBE値の和が、当該クラスのヘテロ原子の種類と数及びDBE値と一致するように、コアを組み合わせてなるものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. 前記請求項1のステップ4における「その存在割合」とは、そのクラスに属する分子がマルチコアである場合、当該マルチコアを構成している複数のコアそれぞれの存在割合の積をそのマルチコアの存在割合とするものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. 前記多成分混合物が、ある多成分混合物を2以上の任意の部分に分画することにより得られた一つの分画物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  8. コンピュータを用いて、多成分混合物の組成モデルを決定する方法であって、
    多成分混合物を2以上の任意の部分に分画するステップAと、
    前記ステップAで分画された各分画物について、請求項1〜7のいずれかに記載の方法により、各分画物を構成する各成分の分子構造及び存在割合を特定するステップBと
    前記ステップAで分画された各分画物の混合比に従って、すべての分画物について得られた全成分の分子構造及び存在割合を統合するステップCと
    を含むことを特徴とする方法。
  9. 請求項1〜7のいずれかに記載の方法により特定された、多成分混合物を構成する各成分の分子構造及びその存在割合に基づいて、多成分混合物の物性値を推定する方法。
  10. 請求項9に記載の方法により推定された多成分混合物の物性値に基づいて、運転条件を設定することを特徴とする多成分混合物に関する装置の運転方法。
  11. 前記多成分混合物が石油であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
  12. 請求項1〜9のいずれかに記載の方法を実行させるためのコンピュータプログラム。
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