JP6809155B2 - 摺動部材ならびにその製造方法および使用方法 - Google Patents

摺動部材ならびにその製造方法および使用方法 Download PDF

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本発明は、摺動部材ならびにその製造方法および使用方法に係り、特に、摩擦低減とスラッジ発生の抑制とを両立可能な摺動部材ならびにその製造方法および使用方法に関する。
自動車のクランクシャフト等で使用される摺動部材には、耐摩耗性に加えて、低燃費化の観点から優れた摺動特性が要求されており、特に部材表面における摩擦の低減が求められている。
さらに近年、エンジンオイル等において、燃費向上のため、オイルの低粘度化が進んでおり、部材間で焼付きが発生し易い傾向にある。なお、焼付きとは、部材間の潤滑油膜等が一瞬でもなくなること等により、部材間で過剰な摩擦熱が発生し、部材同士が溶着することをいう。溶着部分が剥がれると、部材に疵が入ってしまうため、部材同士の焼付きを抑制することが望まれる。
従来、摩擦低減の実現のため、摺動部材の表面に層状化合物であるMoSからなる皮膜をコーティングする技術が用いられてきた(例えば、特許文献1を参照。)。しかしながら、MoSの皮膜は摩耗によって剥離しやすいため、スラッジとして潤滑油中に分散し、潤滑油を劣化させるという問題がある。
上記の問題を解決するため、例えば、特許文献2には、潤滑剤中に有機モリブデン化合物を含有させ、摺動時に二硫化モリブデンを生成させることで、潤滑効果を得る技術が開示されている。
特開2009−68390号公報 特開2009−114311号公報
潤滑剤中に有機モリブデン化合物を含有させ、摺動時にのみ二硫化モリブデンを生成させれば、スラッジの発生は大幅に低減できる。しかしながら、有機モリブデン化合物を含む潤滑剤は高価であるだけでなく、好適な使用温度域が限られているため、汎用性に欠けるという問題が残されている。
また、本発明者らが種々の検討を行ったところ、有機モリブデン化合物を含む潤滑剤を用いた場合であっても、摩擦の低減効果が十分でないことが分かった。その原因についてさらに検討を重ね、摺動によって生成した二硫化モリブデンからなる皮膜の成分を詳細に分析したところ、上記皮膜中にFe等の基材由来の成分が混入していることが明らかになった。この結果から、基材由来成分の混入によって、二硫化モリブデンの層構造が乱されて、それによって摩擦の低減効果が十分に発揮されなかったものと推察される。
本発明は上記の問題を解決し、スラッジ発生による潤滑剤の汚染を抑制しつつ、表面における摩擦を低減することが可能な摺動部材ならびにその製造方法および使用方法を提供することを目的とする。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記の摺動部材ならびにその製造方法および使用方法を要旨とする。
(1)基材と、
前記基材の表面に形成された、Moおよび/またはWからなる金属皮膜と、
前記金属皮膜上に形成された、MoSおよび/またはWSからなる金属硫化物皮膜と、を備える、
摺動部材。
(2)摺動部材の表面にSを含有する潤滑剤を塗布した状態で、前記摺動部材の表面を他の部材に接触させて使用される摺動部材であって、
前記摺動部材は、基材と、前記基材の表面に形成された、Moおよび/またはWからなる金属皮膜とを備える、
摺動部材。
(3)前記金属皮膜は、Moからなる皮膜、Wからなる皮膜、ならびに、MoおよびWからなる皮膜から選択される1種が、複数積層されてなる、
上記(1)に記載の摺動部材。
(4)前記金属皮膜は、Moからなる皮膜、Wからなる皮膜、ならびに、MoおよびWからなる皮膜から選択される2種以上が、複数積層されてなり、
前記金属硫化物皮膜は、MoSおよびWSからなる、
上記(1)に記載の摺動部材。
(5)前記金属皮膜は、Moからなる皮膜、Wからなる皮膜、ならびに、MoおよびWからなる皮膜から選択される1種以上が、複数積層されてなる、
上記(2)に記載の摺動部材。
(6)前記金属皮膜の表面における算術平均粗さRaが20nm以下である、
上記(2)または(5)に記載の摺動部材。
(7)前記金属皮膜の膜厚が5〜200nmである、
上記(1)から(6)までのいずれかに記載の摺動部材。
(8)前記基材が炭素鋼である、
上記(1)から(7)までのいずれかに記載の摺動部材。
(9)基材の表面に、Moおよび/またはWからなる金属皮膜を形成する工程と、
前記金属皮膜上に、Sを含有する潤滑剤を塗布する工程と、
前記潤滑剤が塗布された面を他の部材と接触させることによって、前記金属皮膜上に、MoSおよび/またはWSからなる金属硫化物皮膜を形成する工程と、を備える、
摺動部材の製造方法。
(10)前記金属皮膜を形成する工程において、Moからなる皮膜、Wからなる皮膜、ならびに、MoおよびWからなる皮膜から選択される1種以上を、複数積層させる、
上記(9)に記載の摺動部材の製造方法。
(11)前記金属皮膜を形成する工程において、前記金属皮膜の表面における算術平均粗さRaを20nm以下とする、
上記(9)または(10)に記載の摺動部材の製造方法。
(12)前記金属皮膜の膜厚を5〜200nmとする、
上記(9)から(11)までのいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
(13)前記金属皮膜をPVD法によって形成する、
上記(9)から(12)までのいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
(14)前記潤滑剤が硫黄系極圧添加剤を含む、
上記(9)から(13)までのいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
(15)前記硫黄系極圧添加剤がポリサルファイドである、
上記(14)に記載の摺動部材の製造方法。
(16)前記基材が炭素鋼である、
上記(9)から(15)までのいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
(17)摺動部材の表面にSを含有する潤滑剤を塗布した状態で、前記摺動部材の表面を他の部材に接触させて使用する摺動部材の使用方法であって、
前記摺動部材は、基材と、前記基材の表面に形成された、Moおよび/またはWからなる金属皮膜とを備える、摺動部材の使用方法。
本発明によれば、スラッジの発生を抑制することが可能であり、かつ、耐摩耗性および摺動特性に優れる摺動部材を得ることが可能である。したがって、本発明に係る摺動部材は、自動車、船舶等の輸送機械、一般産業機械等に使用される摺動部材として好適に用いることができる。
本発明の一実施形態に係る摺動部材は、基材、金属皮膜および金属硫化物皮膜を備える。基材の種類については特に制限はないが、例えば、炭素鋼を用いることができる。金属皮膜は、基材の表面に形成され、Moおよび/またはWの金属元素からなるものである。すなわち、金属皮膜はMo単体またはW単体でもよく、Mo−W合金でもよい。
また、金属皮膜は単層膜であってもよいが、複数積層させた多層膜であってもよい。金属皮膜が単層膜であると、部材表面に大きな荷重が付与された際に、金属皮膜と基材との境界部分で剥離し、基材が露出することによって、焼付きが発生するおそれがある。しかし、多層膜である場合には、皮膜同士の間で生じる結合は、皮膜と基材との間で生じる共有結合より弱くなる。その結果、部材表面に大きな荷重が付与された場合であっても、剥離は皮膜と皮膜との境界部分で生じるため、基材が露出して焼付きが発生するのを抑制することができる。
金属皮膜は、Moからなる皮膜、Wからなる皮膜、ならびに、MoおよびWからなる皮膜から選択される1種が複数積層された構造であってもよいし、2種以上が複数積層された構造であってもよい。前者の場合には、同一の皮膜を複数形成するため、積層が容易であり、経済的に優れるという利点がある。
一方、後者の場合には、異なる皮膜を順に積層するため、作業が複雑になるものの、皮膜同士の間でMoW共晶物が薄く形成され、結合力が強まり耐久性が向上するという利点がある。ただし、その場合であっても、皮膜同士の間の結合は、皮膜と基材との間で生じる共有結合よりは弱いため、皮膜と皮膜との境界で剥離が生じる結果となる。
なお、1種の皮膜が複数積層されている場合であっても、透過型電子顕微鏡(TEM)等を用いて皮膜断面を観察することによって、層構造を確認することができる。したがって、金属皮膜が単層膜であるか多層膜であるかを判別することは可能である。
金属硫化物皮膜は、前記した金属皮膜上に形成され、MoSおよび/またはWSからなるものである。すなわち、MoS単体またはWS単体でもよく、固溶体としての(Mo,W)Sでもよい。なかでもMoSとWSとの両方の特性を具備する(Mo,W)Sが形成されていることが好ましい。なお、上記金属皮膜中または金属硫化物皮膜中においては、それぞれ、MoおよびW、または、MoSおよびWS以外の成分であっても、不純物レベルでの混入は許容される。
上記のような構成を有することによって、層状の金属硫化物皮膜が潤滑剤としての役割を果たし、摩擦低減を実現することが可能になる。
前記のMoSおよび/またはWSからなる金属硫化物皮膜は、金属皮膜上に直接コーティングすることで形成させてもよい。しかし、金属硫化物皮膜のコーティング厚さが過剰になると摩耗により剥離が生じ、スラッジ発生の要因となる。
そのため、摺動部材の表面にMoおよび/またはWからなる金属皮膜を形成させ、該金属皮膜上にSを含有する潤滑剤を塗布した状態で、潤滑剤が塗布された面を他の部材に接触させることによって、金属皮膜中の金属元素と潤滑剤中の硫黄元素とを反応させ、金属硫化物皮膜を形成させることが好ましい。
すなわち、上述した摺動部材は、例えば、基材の表面に、Moおよび/またはWからなる金属皮膜を形成する工程と、該金属皮膜上に、Sを含有する潤滑剤を塗布する工程と、該潤滑剤が塗布された面を他の部材と接触させることによって、前記した金属皮膜上に、MoSおよび/またはWSからなる金属硫化物皮膜を形成する工程と、を備える方法によって製造することができる。
金属皮膜中の金属元素と潤滑剤中の硫黄元素との反応による金属硫化物皮膜の形成は、実環境での使用前に行ってもよいが、経済性の観点からは実環境での使用時に行うことが好ましい。
このような構成であれば、摩耗によって金属硫化物皮膜が消費され、金属皮膜が露出しても、直ちに新たな金属硫化物皮膜が金属皮膜上に形成される。また、金属硫化物皮膜の金属元素は全て金属皮膜から供給されるため、基材由来の成分が混入することがない。そのため、層構造が保たれた金属硫化物皮膜を形成させることが可能となり、摺動特性が劣化することもない。
すなわち、本発明の他の一実施形態に係る摺動部材は、摺動部材の表面にSを含有する潤滑剤を塗布した状態で、前記摺動部材の表面を他の部材に接触させて使用される場合には、基材と、前記基材の表面に形成された、Moおよび/またはWからなる金属皮膜とを備えていればよい。
表面に金属硫化物皮膜が形成される前の金属皮膜の表面粗さについて、特に制限は設けない。しかし、摩擦の低減および摩擦によるスラッジの発生を抑制するため、金属皮膜の表面粗さは、算術平均粗さRaで20nm以下にすることが望ましい。表面粗さは低ければ低い方が好ましいが、表面粗さを過剰に低くするためにはコストがかかるため経済性が低下するおそれがある。したがって、金属皮膜の表面粗さは、2nm以上とすることが好ましい。
金属皮膜の膜厚についても特に制限は設けない。金属皮膜の膜厚が5nm未満では、金属硫化物皮膜への金属元素の供給に伴い、金属皮膜が消費され、基材が露出するおそれがある。一方、金属皮膜の構成元素となるMoおよび/またはWは、高価な元素であることから、膜厚が過剰となり、例えば200nmを超えると経済性が悪化する。また、摺動部材の厚みが増加することで、部材間の隙間が減少して接触が起こりやすくなる。したがって、金属皮膜の膜厚は、5〜200nmとすることが好ましい。
基材表面に金属皮膜を形成する方法についても特に制限はないが、上述した表面粗さおよび膜厚の条件を達成するためには、PVD法を用いることが好ましい。PVD法には、具体的には、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等が含まれるが、その中でも、試料への付着性または成膜の均一性を確保しながら金属の皮膜を形成することが可能であり、また高融点材料(W)の成膜に適したスパッタリング法を用いることが望ましい。純Mo、純WまたはMo−W合金をターゲット材として用いることにより、Moおよび/またはWからなる金属皮膜を形成することが可能となる。
基材表面に上述した多層膜を形成する場合には、例えば、スパッタリングを複数回に分けて行えばよい。また、複数のターゲット材を交互に用いて、スパッタリングを行うことにより、異なる種類の皮膜を交互に形成することが可能になる。層数の上限については特に制限は設けないが、経済性の観点から20層以下とすることが好ましい。また、多層膜を形成する場合も、全ての層の合計の厚さを5〜200nmとすることが好ましい。
金属皮膜中の金属元素と潤滑剤中の硫黄元素とを反応させて、金属硫化物皮膜を形成させる場合において、金属皮膜上に塗布する潤滑剤の種類については、Sを含有している限り特に制限はない。そのため、使用環境に応じた潤滑剤を選択することができる。
また、経済性の観点からは安価な硫黄系極圧添加剤を含む潤滑剤を用いることができる。硫黄系極圧添加剤としては、安全性の観点から、例えば、ポリサルファイドを用いることが好ましい。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
直径15mm、厚さ3mmの円盤状の炭素鋼試料(試験No.1〜10、13〜17)および銅試料(試験No.11、12)を用意した。そして、試験No.1〜13に対しては、MoもしくはWまたはMo−W合金をターゲット材としたスパッタ成膜装置を用いることで、MoもしくはWまたはMo−W合金からなる金属皮膜を形成させた。試験No.15については、大気圧雰囲気での溶射によって表面にMoOを形成させた。試験No.16については、スプレーにより表面にMoSを塗布した。なお、試験No.14および17に関しては、何の成膜処理も施さなかった。
それぞれの試料に形成された皮膜の厚さおよび算術平均粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。その後、Ball−on−Disk摩擦試験器を用いて、ボール:SUJ−2(直径6.35mm)、荷重:10N、試験温度:150℃、回転直径:6mm、摩擦距離12m、摩擦速度:10mm/sの条件で摺動試験を行った。
摩擦試験後の各試料について、ラマン分光法を用いて硫化物皮膜について調査を行った。さらに、各試料の皮膜の耐久性および摺動特性の評価を行った。皮膜の耐久性に関しては、目視観察の結果、皮膜の剥離が認められなかったものを○、皮膜が剥離して基材が露出したものを×とした。また、摺動特性の評価においては、摩擦係数が0.10未満のものを◎、0.10以上0.15未満のものを○、0.15以上0.5未満のものを△、0.5以上のものを×とした。
それらの結果を表1にまとめて示す。
Figure 0006809155
表1の結果を参照して、本発明の規定を満足する試験No.1〜12においては、耐久性および摺動特性の評価においてともに優れた結果となった。ただし、モノサルファイドを含有する潤滑剤を使用した試験No.8および12では、モノサルファイドの反応性が低く、二硫化モリブデンが迅速に生成されなかったことに起因して、また、基材が銅試料である試験No.11および12では、素材が柔らかいことに起因して、摩擦係数がわずかに上昇した。
また、基材上に形成した金属皮膜の膜厚が400nmであった試験No.9は、二硫化モリブデンの生成量が多くなったため、スラッジがわずかに発生する結果となった。一方、金属皮膜の膜厚が3nmである試験No.10は、二硫化モリブデンの生成が十分とはいえず、摩擦係数がわずかに上昇する結果となった。
これらに対して、基材上にMoからなる金属皮膜を形成したものの、硫黄系極圧添加剤を含まない潤滑剤を用いた試験No.13では、Sの供給がないために二硫化モリブデンからなる金属硫化物皮膜が形成されず、摺動特性が劣る結果となった。また、基材上に金属皮膜を形成しなかった試験No.14では、二硫化鉄のみが生成し、摺動特性が悪化する結果となった。
溶射によりMoOの皮膜を形成した試験No.15および塗装によりMoSの皮膜を形成した試験No.16では、皮膜が過剰に厚く、密着性も悪いため、剥離が生じやすく、また摺動特性も悪い結果となった。さらに、基材上に皮膜を形成せずに、有機モリブデン化合物(MoDTC)を含む潤滑剤を用いた試験No.17では、基材表面に形成された皮膜中に、二硫化モリブデン以外に二硫化鉄が生成したため、摩擦係数が高くなり、摺動特性が悪化する結果となった。
直径15mm、厚さ3mmの円盤状の炭素鋼試料(試験No.18〜26)を用意した。そして、試験No.18〜24に対しては、MoおよびWをターゲット材としたスパッタ成膜装置を用いることで、Moからなる皮膜が最下層(基材直上)となり、表2に示す層数となるように、MoおよびWからなる金属皮膜を交互に形成させた。また、試験No.25および26に対しては、それぞれ、Moからなる皮膜およびWからなる皮膜を単層で形成させた。
それぞれの試料に形成された皮膜の厚さおよび算術平均粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。その後、Ball−on−Disk摩擦試験器を用いて、ボール:SUJ−2(直径6.35mm)、荷重:10Nおよび30N、試験温度:150℃、回転直径:6mm、摩擦距離12m、摩擦速度:10mm/sの条件で摺動試験を行った。
荷重10Nでの摩擦試験後の各試料について、ラマン分光法を用いて硫化物皮膜について調査を行った。さらに、各試料の皮膜の耐久性および摺動特性の評価を行った。皮膜の耐久性に関しては、目視観察の結果、皮膜の剥離が認められなかったものを○、皮膜が剥離して基材が露出したものを×とした。また、摺動特性の評価においては、摩擦係数が0.10未満のものを◎、0.10以上0.15未満のものを○、0.15以上0.5未満のものを△、0.5以上のものを×とした。
そして、荷重30Nでの摩擦試験後の各試料について、耐焼付き性の評価を行った。耐焼付き性に関しては、目視観察の結果、焼付きが認められなかったものを○、焼付きが認められたものを×とした。
それらの結果を表2にまとめて示す。
Figure 0006809155
表2の結果を参照して、多層の金属皮膜を形成させた試験No.18〜24では、摩擦試験前の最上層皮膜がMoまたはWのいずれである場合も、摩擦試験後には、金属皮膜の表面に(Mo,W)Sからなる金属硫化物皮膜が形成された。そして、単層膜を形成した試験No.25および26では、30Nという高い荷重が付与された場合には、基材が露出し、焼付きが生じたのに対して、多層膜を形成した試験No.18〜24では、焼付きを抑制することが可能であった。
直径15mm、厚さ3mmの円盤状の炭素鋼試料(試験No.27〜32)を用意した。そして、試験No.27〜30に対しては、MoまたはWをターゲット材としたスパッタ成膜装置を用い、同一のターゲット材を用いて複数回に分けてスパッタリングを行うことにより、表3に示す層数を有するMoまたはWからなる金属皮膜を形成させた。また、試験No.31および32に対しては、それぞれ、Moからなる皮膜およびWからなる皮膜を単層で形成させた。
それぞれの試料に形成された皮膜の厚さおよび算術平均粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。その後、Ball−on−Disk摩擦試験器を用いて、ボール:SUJ−2(直径6.35mm)、荷重:10Nおよび20N、試験温度:150℃、回転直径:6mm、摩擦距離12m、摩擦速度:10mm/sの条件で摺動試験を行った。
荷重10Nでの摩擦試験後の各試料について、ラマン分光法を用いて硫化物皮膜について調査を行った。さらに、各試料の皮膜の耐久性および摺動特性の評価を行った。皮膜の耐久性に関しては、目視観察の結果、皮膜の剥離が認められなかったものを○、皮膜が剥離して基材が露出したものを×とした。また、摺動特性の評価においては、摩擦係数が0.10未満のものを◎、0.10以上0.15未満のものを○、0.15以上0.5未満のものを△、0.5以上のものを×とした。
そして、荷重20Nでの摩擦試験後の各試料について、耐焼付き性の評価を行った。耐焼付き性に関しては、目視観察の結果、焼付きが認められなかったものを○、焼付きが認められたものを×とした。
それらの結果を表3にまとめて示す。
Figure 0006809155
表3の結果を参照して、単層膜を形成した試験No.31および32では、20Nという高い荷重が付与された場合には、基材が露出し、焼付きが生じたのに対して、多層の金属皮膜を形成させた試験No.27〜30では、焼付きを抑制することが可能であった。
本発明によれば、スラッジの発生を抑制することが可能であり、かつ、耐摩耗性および摺動特性に優れる摺動部材を得ることが可能である。したがって、本発明に係る摺動部材は、自動車、船舶等の輸送機械、一般産業機械等に使用される摺動部材として好適に用いることができる。

Claims (13)

  1. 基材と、
    前記基材の表面に形成された、Moおよび/またはWからなる金属皮膜と、
    前記金属皮膜上に形成された、MoSおよび/またはWSからなる金属硫化物皮膜と、を備え
    前記金属皮膜の膜厚が5〜200nmである、
    摺動部材。
  2. 基材と、前記基材の表面に形成された、Moおよび/またはWからなる金属皮膜とを備え、
    前記金属皮膜の表面における算術平均粗さRaが20nm以下であり、
    前記金属皮膜の膜厚が5〜200nmであり、
    前記金属皮膜の表面にSを含有する潤滑剤を塗布した状態で、前記金属皮膜の表面を他の部材に接触させて使用される
    摺動部材。
  3. 前記金属皮膜は、Moからなる皮膜、Wからなる皮膜、ならびに、MoおよびWからなる皮膜から選択される1種が、複数積層されてなる、
    請求項1に記載の摺動部材。
  4. 前記金属皮膜は、Moからなる皮膜、Wからなる皮膜、ならびに、MoおよびWからなる皮膜から選択される2種以上が、複数積層されてなり、
    前記金属硫化物皮膜は、MoSおよびWSからなる、
    請求項1に記載の摺動部材。
  5. 前記金属皮膜は、Moからなる皮膜、Wからなる皮膜、ならびに、MoおよびWからなる皮膜から選択される1種以上が、複数積層されてなる、
    請求項2に記載の摺動部材。
  6. 前記基材が炭素鋼である、
    請求項1から請求項までのいずれかに記載の摺動部材。
  7. 基材の表面に、Moおよび/またはWからなる金属皮膜を形成し、前記金属皮膜の表面における算術平均粗さRaを20nm以下とする工程と、
    前記金属皮膜上に、Sを含有する潤滑剤を塗布する工程と、
    前記潤滑剤が塗布された面を他の部材と接触させることによって、前記金属皮膜上に、MoSおよび/またはWSからなる金属硫化物皮膜を形成する工程と、を備え
    前記金属皮膜の膜厚を5〜200nmとする、
    摺動部材の製造方法。
  8. 前記金属皮膜を形成する工程において、Moからなる皮膜、Wからなる皮膜、ならびに、MoおよびWからなる皮膜から選択される1種以上を、複数積層させる、
    請求項に記載の摺動部材の製造方法。
  9. 前記金属皮膜をPVD法によって形成する、
    請求項7または請求項に記載の摺動部材の製造方法。
  10. 前記潤滑剤が硫黄系極圧添加剤を含む、
    請求項から請求項までのいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
  11. 前記硫黄系極圧添加剤がポリサルファイドである、
    請求項10に記載の摺動部材の製造方法。
  12. 前記基材が炭素鋼である、
    請求項から請求項11までのいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
  13. 動部材の使用方法であって、
    前記摺動部材は、基材と、前記基材の表面に形成された、Moおよび/またはWからなる金属皮膜とを備え
    前記金属皮膜の表面における算術平均粗さRaが20nm以下であり、
    前記金属皮膜の膜厚が5〜200nmであり、
    前記金属皮膜の表面にSを含有する潤滑剤を塗布した状態で、前記金属皮膜の表面を他の部材に接触させて使用する、
    摺動部材の使用方法。
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