JP6807764B2 - 匂い増強剤 - Google Patents

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Description

本発明は、新規な匂いの認識機構に基づいて様々な匂いを増強する素材に関する。
香りは、日常生活を豊かに過ごすために重要な役割を担っている。例えば、香りは料理に豊かな風味をもたらし、日用製品に賦香される香りは清潔感など様々な快さを提供している。一方で、不快な香りも重要である。健康や衛生状態が損なわれていることを一早く知らせるためにも、臭気は大きな役割を担っている。これら香りの重要さは、風邪など呼吸器系の疾患が生じた際に食事の味わいが損なわれることや、嗅覚感度を低下した高齢者がガスに賦香された匂いに気づけずに危険を被ることからも想像できる。人々に豊かな生活を提供するために、香りをより明確に感じさせる技術が構築されれば、賦香する香料の量を削減しながらも十分な効果をもたらすことができる。
香りの原因となる匂い物質の多くは、分子量約30〜300の揮発性の低分子有機化合物である。それら匂い物質は、匂いの質と共に化学構造にも多様性があり、分子生物学的見地からの研究においては、しばしば化学構造に基づく分類がなされる。例えば非特許文献1においては、125種類の匂い物質を、アミン類、チオール類、アルコール類、エステル類、エーテル類、アルデヒド類、環状アルカン類、テルペン類、バニリン類、カンファー類、アジン類、ムスク類、ならびにケトン類およびその他、の13グループに分類している。また特許文献1では、匂い物質をアミン類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、酸、エステル類、ベンゼン類、バニリン様化合物、およびラクトン類、の9つに分類している。
これら匂い物質は、鼻腔内最深部に広がる嗅神経細胞が有している嗅覚受容体によって認識される。嗅覚受容体は匂い物質を結合して活性化し、嗅神経細胞に電気的興奮を引き起こす。この電気的興奮が神経接続を介して高次脳へと伝達されることにより匂いが知覚される。嗅覚受容体をコードする遺伝子は、ヒトの場合約400種類が存在する。この大きな受容体数が、上記の様々な匂いの検知を可能にする分子基盤である。これら約400の嗅覚受容体それぞれは、異なる嗅神経細胞で発現する。一方、同じ嗅覚受容体を発現する嗅神経細胞は、嗅球における軸索の投射先において特有の同領域に収束する。このために、鼻腔内でどの嗅覚受容体が活性化されたかという情報は、発火する嗅球の領域という幾何学的な情報に反映され、失われることなく高次脳領域に伝達される。このように、個々の匂い物質に対して活性化される嗅覚受容体の組み合わせの情報が高次脳領域に伝わり、匂いの質の違いを生させるのだと考えられている。
匂いとその認識に関わる嗅覚受容体との関係については知見が蓄積されてきている。それらによると、概して嗅覚受容体は、構造的に類似した匂い物質を選択的に認識する。例えば、非特許文献1では、マウスの約一千の嗅覚受容体のうち約45%が、化学構造的に13グループに分類される匂い物質のうち、ただ1グループのみを認識することが示唆されている。特許文献1では、マウスの嗅覚受容体の一つMOR215−1が、上記9グループに分類されるいずれの匂い物質も認識せず、ムスクの香りを呈する大環ケトン構造を選択的に認識することが示されている。対照的に、非特許文献1では、13.4%の嗅覚受容体は5〜9グループの匂い物質を認識し、特に1.8%は10〜12グループという、構造的に極めて幅広い匂い物質を認識することが示唆されている。これら嗅覚受容体はBroadly Tuned嗅覚受容体と記述されている。代表的なBroadly Tuned嗅覚受容体として、非特許文献1ではマウスOlfr42が挙げられている。またそのヒトの相同遺伝子であるOR2W1も、非特許文献2によりBroadly Tuned嗅覚受容体として挙げられている。
Broadly Tuned嗅覚受容体という幅広い匂い物質を区別なく認識する受容体を備えることに、生物にとってどのような意義があるのだろうか。非特許文献2では、次のような仮説が提唱されている:すなわち、Broadly Tuned嗅覚受容体は、(1)検知できる匂い物質の種類を増やすためにある、(2)一つの匂い物質に対して活性化される嗅覚受容体の組み合わせパターンを増やすことに寄与し、匂い間の識別に役立っている、(3)匂いの質を伝えるのではなく、何らかの匂いが存在しているということに気付かせる役割をもつ、(4)匂いの質を伝えるのではなく、匂い物質の総合濃度を認識し知覚強度に変換する、という4つの仮説である。しかし、今のところ、Broadly Tuned嗅覚受容体の役割は定かでない。
特許文献2〜13には、OR2W1を活性化させる化合物が開示されている。しかし、これらの化合物はOR2W1と共に他の嗅覚受容体の活性も変化させるため、該化合物の匂いの受容にOR2W1がどのような機序で寄与しているのかは明らかでない。
国際公開公報第2015/020158号 特許第5798382号公報 特許第5593271号公報 特許第5982044号公報 特許第5646255号公報 特許第5697383号公報 国際公開公報第2012/029922号 特開2015−91802号公報 特開2015−202075号公報 特開2015−211667号公報 特開2015−202077号公報 特許5520173号公報 特開2016−008955号公報
Nara K et al, J Neurosci, 31:9179-91, 2011 Yu Y et al, Proc Natl Acad Sci USA, 112:14966-71, 2015
従来、Broadly Tuned嗅覚受容体の役割に関して、匂いの質を伝達するのではなく、匂いの総合的な濃度を認識して知覚強度を制御しているという仮説が提唱されていた(非特許文献2)。しかし、この仮説とともに異なる複数の仮説も提唱されており、それら仮説の検証はなされていなかった。さらに、嗅覚受容体は400種類以上と数が多いこと、およびBroadly Tuned嗅覚受容体が幅広い匂い物質応答性を有することから、Broadly Tuned嗅覚受容体のみを活性化させて、そのときに起こる匂い感覚への影響を評価することは困難であった。そのため、従来、Broadly Tuned嗅覚受容体の役割については、信頼できる検証結果は得られていなかった。
逆説的であるが、上記の非特許文献2の仮説(4)が提示されているということは、匂いの知覚強度がどのように生み出されているのかが現在のところ不明であることを意味する。もし、Broadly Tuned嗅覚受容体が匂いの質ではなく強度を制御しているのであれば、その活性を制御することは、香りを、その種類に関わらず、より明確に感じさせる技術として有用である。
本発明者らは、異なる構造的分類に属する様々な種類の匂い物質に対して応答するヒトのBroadly Tuned嗅覚受容体を同定した。さらに本発明者らは、1種類のBroadly Tuned嗅覚受容体のみを選択的に活性化させる物質を見出し、これを用いたBroadly Tuned嗅覚受容体単独応答モデルを構築することによって、Broadly Tuned嗅覚受容体の役割を検証することに初めて成功した。その結果、本発明者らは、Broadly Tuned嗅覚受容体の活性を増強させることで、各種匂い物質の匂いを鋭敏に、もしくはより強く感じられるようになることを見出した。これらの結果をもとに、本発明者らは、Broadly Tuned嗅覚受容体を選択的に活性化する物質が、各種匂い物質の匂いの増強に使用できることを見出した。
本発明は、Broadly Tuned嗅覚受容体の応答を制御することによって、匂いの種類に関わらず匂い感覚の増強を引き起こす物質を提供する。
したがって、本発明は、アルギニンを有効成分とする、匂い増強剤を提供する。
本発明の匂い増強剤は、Broadly Tuned嗅覚受容体に対する活性化作用に基づいて、様々な匂いを増強することができる。
化学構造の異なる物質群に対するヒト嗅覚受容体OR2W1の応答性。 A:l−アルギニン(上)およびl−ヒスチジン(下)に対する嗅覚受容体の応答。左:化学構造。中央:OR2W1発現細胞の応答。右:427種類のヒト嗅覚受容体の応答。B:d−アルギニンに対するOR2W1の応答。データは独立した3回の実験からの平均値および標準誤差を表す。MockはOR2W1を発現させない細胞の応答を示す。 l−アルギニンによる、PEAの匂いの検出閾値の上昇効果。左:検出閾値。図中、実線で繋がる二つの点は、生理食塩水またはそれを溶媒とする10mM l−アルギニンもしくは10mM l−ヒスチジンを点鼻する前後での個々の被験者のPEA検知閾値濃度を表す。図中の“×2”は、そのデータを示す被験者が二人いたことを表す。右:閾値変化率。図中のバーは平均値を表す。:P<0.05(Kruskal−WallisANOVAおよびDunn testによる事後検定;生理食塩水とl−アルギニン、もしくは生理食塩水とl−ヒスチジン、の間の比較)。 l−アルギニンによるPEAおよびHCAの匂いの検出強度の上昇効果。左:生理食塩水、ならびにl−アルギニンおよびl−ヒスチジンの生理食塩水溶液の単独噴霧に対する匂い強度評価。中央:l−アルギニンまたはl−ヒスチジン存在下および非存在下でのPEAの匂い強度評価。(+);l−アルギニンまたはl−ヒスチジンとPEAの併用、(−);PEA単独。右:l−アルギニンまたはl−ヒスチジン存在下および非存在下でのHCAの匂い強度評価。(+);l−アルギニンまたはl−ヒスチジンとHCAの併用、(−);HCA単独。データは平均値を表す(左図および右図はn=8、中央図はn=10)。エラーバー=標準誤差。:P<0.05、**:P<0.001(Two−way repeated−measure ANOVA with Sidak’s post−hoc test)。 OR2W1のPEAおよびHCAに対する応答性。独立した3回の実験からのデータを示す。PEAに対するMock細胞の応答のみ、独立した2回の実験からのデータを示す。データはすべて、平均値および標準誤差を示す。MockはOR2W1を発現させない細胞の応答を示す。 OR2W1活性化物質による匂い増強作用。左:化合物AおよびBの匂い強度、中央〜右:化合物AおよびBによるPEA(中央)およびHC(右)の匂いの増強効果。各図のバーは左端から(−);匂い物質単独(1回目)、(A);匂い物質+化合物A、(B);匂い物質+化合物B、(−);匂い物質単独(2回目)における匂い物質の匂い強度を表す。各図のバーとエラーバーは、それぞれ平均値と標準誤差(n=5)を表す。:P<0.05、Non−parametric one−way ANOVA(Friedman test)およびDunn’s post−test。 OR2W1アンタゴニスト化合物によるOR2W1活性化作用およびスカトール臭抑制作用。各図の横軸は、OR2W1アンタゴニスト化合物を表す。左図の縦軸は、各アンタゴニスト化合物存在下でのOR2W1のスカトール応答(匂い応答(%))を示す。右図の縦軸は、官能試験における各アンタゴニストのスカトール臭抑制効果(4〜8名による官能評価の平均値)を表す。
本明細書において、「嗅覚受容体ポリペプチド」とは、嗅覚受容体またはそれと同等の機能を有するポリペプチドをいい、「嗅覚受容体と同等の機能を有するポリペプチド」とは、嗅覚受容体と同様に、細胞膜上に発現することができ、匂い分子の結合によって活性化し、かつ活性化されると、細胞内のGαsもしくはGαolfと共役してアデニル酸シクラーゼを活性化することで細胞内cAMP量を増加させる機能を有するポリペプチドをいう。
本明細書において、「Broadly Tuned嗅覚受容体」とは、嗅覚受容体ポリペプチドのうち、異なる匂いを有する複数種の匂い物質に応答する嗅覚受容体をいい、より詳細には、異なる構造的分類に属する複数の匂い物質に応答する嗅覚受容体をいう。匂い物質の構造的分類の例としては、アミン類、チオール類、アルコール類、エステル類、エーテル類、アルデヒド類、環状アルカン類、テルペン類、バニリン類、カンファー類、アジン類、ムスク類、ケトン類、酸類、ベンゼン類、ラクトン類、スルフィド類などが挙げられる。本明細書におけるBroadly Tuned嗅覚受容体は、上記構造的分類のうちの、好ましくは9群以上、より好ましくは11群以上、さらに好ましくは13群以上について、それらに対する応答を調べたときに、好ましくは38%以上の群、より好ましくは77%以上の群に対して応答する嗅覚受容体である。なお、嗅覚受容体に関する「ある構造的分類の群に対して応答する」とは、嗅覚受容体が、当該構造的分類の群に属する少なくとも1種以上、好ましくは3種以上、より好ましくは4種以上の匂い物質に応答することを意味する。
本明細書において、ある物質による「匂いの増強」および「匂いの抑制」とはそれぞれ、個体における該物質存在下での匂いに対する感受性が、該物質の非存在下での感受性と比べて強くなる現象および弱くなる現象をいう。匂いに対する感受性の強弱は、匂いに対する検出強度または検知閾値(感度)を基準に評価することができる。例えば、標的の匂いに対する検出強度が増加、または検知閾値が低下(もしくは検出感度が増加)した場合、該標的の匂いに対する感受性は増強した、すなわち該標的の匂いは増強した、と判断される。また例えば、標的の匂いに対する検出強度が低下、または検知閾値が上昇(もしくは検出感度が低下)した場合、該標的の匂いに対する感受性は抑制された、すなわち該標的の匂いは抑制された、と判断される。
本明細書において、「匂いの増強を引き起こす物質」(いわゆる匂い増強剤)および「匂いの抑制を引き起こす物質」(いわゆる匂い抑制剤)とはそれぞれ、その物質を匂いの原因物質と併用(例えば匂いの原因物質と同時にまたは先だって使用)したときに、該匂いの原因物質の匂いを増強させる物質および抑制する物質である。匂い増強剤および匂い抑制剤は、それ自身に匂いを有していてもよい。
OR2W1(olfactory receptor family 2 subfamily W member 1)は、ヒト嗅覚受容体ポリペプチドである。OR2W1のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の情報は、NCBI(National Center for Biotechnology Information;[www.ncbi.nlm.nih.gov])に登録されている(GeneID:26692、protein_id:NP_112165.1)。OR2W1は、アルコール類、アルデヒド類、エステル類、ケトン類、酸類、テルペン類、バニリン類、ベンゼン類およびラクトン類に属する匂い分子の結合によって活性化する、Broadly Tuned嗅覚受容体である。
後述の実施例に示すとおり、本発明者らは、アルギニンが、Broadly Tuned嗅覚受容体OR2W1を選択的に活性化させる一方で、それ自体は匂いを呈しないことを見出した。また本発明者らは、OR2W1の活性の高さと匂いの強さとの間に関連性があることを見出した。これらの結果は、Broadly Tuned嗅覚受容体OR2W1が匂いの質(特定の匂い)の知覚に関与しない一方、匂いの強さの知覚に関与することを示している。さらに本発明者らは、アルギニンを匂い物質と同時にもしくは該匂い物質に先立って提示すると、該匂い物質に対する検出強度または検知感度を高めることができることを確認した。したがって、アルギニンが、Broadly Tuned嗅覚受容体OR2W1の制御を介して様々な種類の匂いを増強することができる物質であることが見出された。
したがって本発明は、アルギニンを有効成分とする匂い増強剤を提供する。また本発明は、匂い増強剤の製造のためのアルギニンの使用を提供する。また本発明は、匂い増強のためのアルギニンの使用を提供する。また本発明は、対象にアルギニンを有効量で投与することを含む、匂い増強方法を提供する。
本発明において使用されるアルギニンとしては、l−アルギニンおよびd−アルギニンが挙げられ、これらは、いずれか一方のみが使用されても、両方組み合わせて使用されてもよい。あるいは、本発明において使用されるアルギニンは、嗅覚受容体に接触する際に遊離形態をとり得るものである限りにおいて、塩、エステル等の形態であってもよい。
アルギニンの塩の例としては、酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等が挙げられる。当該酸付加塩の例としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、および酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、α−ケトグルタル酸塩、グルコン酸塩、カプリル酸塩等の有機酸塩が挙げられる。当該金属塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。当該アンモニウム塩の例としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩が挙げられる。当該有機アミン付加塩の例としては、モルホリン、ピペリジン等の塩が挙げられる。アルギニンエステルの例としては、アルギニンエチルエステルなどが挙げられる。したがって、本発明において使用されるアルギニンは、l−アルギニン、d−アルギニン、およびこれらの塩もしくはエステルからなる群より選択される少なくとも1種であればよく、好ましくはl−アルギニンおよびその塩もしくはエステルからなる群より選択される少なくとも1種である。
一実施形態において、本発明の匂い増強剤は、アルギニンから本質的に構成され得る。別の一実施形態において、本発明の匂い増強剤は、アルギニンを匂い増強のための有効成分として含有する組成物である。
本発明により増強される標的の匂いの種類としては、特に限定されず、一般的に知られる悪臭または不快臭(例えば、体臭、腋臭、口臭、糞便臭、尿臭、タバコ臭、カビ臭、生乾き臭、腐敗臭、生ごみ臭、汚水臭、排気臭、ダクト臭、排ガス臭、など);一般的に用いられる香料(例えば、ムスク、シベット、カストリウム、アンバーグリス等の動物性香料;植物由来の精油;ローズ、ジャスミン、ネロリ、ラベンダー、クローブ、ペパーミント、サンダルウッド、シナモン、レモン、オレンジ、ベルガモット等の植物性香料、など)の香り;食品またはその材料の匂い;ならびに、その他匂いを有する物質(例えば化粧品、医薬品、洗浄剤、日用品、など)の匂いなどが挙げられる。好ましい例としては、バラの香りが挙げられ、より詳細な例としては、フェニルエチルアルコール(PEA)によるバラの香り、が挙げられる。別の好ましい例としては、ヘキシルシンナミックアルデヒド(HCA)の匂いが挙げられる。
本発明において、アルギニンが使用される対象としては、上述した標的の匂いの増強を求めるかまたは必要とする哺乳動物が挙げられる。哺乳動物の例としては、ヒト、チンパンジー、サルなどの霊長類、ならびにマウス、ラットなどのげっ歯類が挙げられ、好ましくはヒト、マウスおよびラットが挙げられ、より好ましくはヒトが挙げられる。
本発明においてアルギニンを使用する場合の一実施形態は、以下のとおりである:まず、標的の匂いの増強を求めるかまたは必要とする対象に対し、該標的の匂いへの曝露の前もしくはそれと一緒に、アルギニンを投与して、その嗅細胞上のOR2W1に適用する。このことが、該対象の該標的の匂いに対する感受性の上昇をもたらし、その結果、該対象者が標的の匂いに曝露されると、該標的の匂いを強く感じるか、より低濃度(より高感度)で感知できるようになる。
ただし、アルギニンは揮発性をもたないため、対象に投与する場合は、アルギニンが対象の嗅細胞に到達するように、鼻腔内投与することが望ましい。鼻腔内投与の手段としては、例えば、アルギニンを含む液体を鼻腔内へスプレーまたは点鼻する方法、アルギニンを含む液体、ゲル、クリーム、軟膏などを鼻腔内へ塗布する方法、アルギニンを含む液体を微粒子化して噴霧し、対象に吸引させる方法、などが挙げられる。
したがって、本発明による匂い増強のためのアルギニンの使用の一実施形態としては、アルギニンを含有する液体の、匂い増強のための点鼻用スプレー、点鼻液もしくは吸引用の噴霧剤などにおける使用、ならびに、アルギニンを含有する、匂い増強のための鼻腔内用のゲル、クリームもしくは軟膏などが挙げられる。あるいは、対象に対する、鼻腔内のアルギニンを増加させるようなサプリメントまたは薬剤の投与もまた、本発明による匂い増強のためのアルギニンの使用の一実施形態である。
本発明で使用されるアルギニンの有効量は、対象による標的の匂いの感受性を高めることができる限り、特に限定されない。有効量は、対象や、該対象が知覚したい匂いの強度や感度に合わせて適宜調整することができる。例えば、本発明で使用されるアルギニンを含有する液体、ゲル、クリーム、軟膏等におけるアルギニン濃度は、好ましくは0.3mM以上、より好ましくは10mM以上である。一方で、経済性の観点からは、該アルギニンを含有する液体、ゲル、クリーム、軟膏等におけるアルギニン濃度は、30mM以下が好ましい。したがって、本発明で使用されるアルギニンを含有する液体、ゲル、クリーム、軟膏等におけるアルギニン濃度は、好ましくは0.3mM〜30mM、より好ましくは10mM〜30mMである。
本発明の例示的実施形態として、さらに以下の物質、製造方法、用途、方法等を本明細書に開示する。ただし、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
〔1〕アルギニンを有効成分とする匂い増強剤。
〔2〕匂い増強剤の製造のためのアルギニンの使用。
〔3〕匂い増強のためのアルギニンの使用。
〔4〕対象の匂い増強方法であって、それを必要とする対象にアルギニンを有効量で投与することを含む、方法。
〔5〕前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項において、前記アルギニンは、l−アルギニン、d−アルギニン、およびこれらの塩もしくはエステルからなる群より選択される少なくとも1種である。
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
参考例
1)試験物質
フェニルエチルアルコール(PEA)(2−Phenylethanol;Sigma−Aldrich社)
ヘキシルシンナムアルデヒド(HCA)(2−(phenylmethylidene)octanal)(花王株式会社)
l−アルギニン(Wako社)
d−アルギニン(東京化成工業社)
l−ヒスチジン(Wako社)
2)ヒト嗅覚受容体遺伝子のクローニング
GenBankに登録されている配列情報を基に、バリアントを含む427種のヒト嗅覚受容体それぞれをコードする遺伝子をクローニングした。各遺伝子は、human genomic DNA female(G1521:Promega)を鋳型としたPCR法によりクローニングした。PCR法により増幅した各遺伝子をpME18Sベクター上のFlag−Rhoタグ配列の下流に組換えた。
3)pME18S−ヒトRTP1Sベクターの作製
ヒトRTP1Sをコードする遺伝子をpME18SベクターのEcoRI、XhoIサイトへ組み込んだ。
4)嗅覚受容体発現細胞の作製
ヒト嗅覚受容体427種をそれぞれ発現させたHEK293細胞を作製した。表1に示す組成の反応液を調製し、クリーンベンチ内で15分静置した。マルチウェルプレート(384または96ウェルプレート、BioCoat)の各ウェルに、反応液を添加し、次いでHEK293細胞を播種した。384ウェルプレートには、反応液4.4μL、HEK293細胞(20×104細胞/cm2)40μLを添加した。96ウェルプレートには、反応液10μL、HEK293細胞(3×105細胞/cm2)90μLを添加した。細胞を、37℃、5%CO2を保持したインキュベータ内で24時間培養した。対照として、嗅覚受容体を発現させない細胞(mock)を用意した。
5)嗅覚受容体のルシフェラーゼアッセイ
HEK293細胞に発現させた嗅覚受容体は、細胞内在性のGαsと共役しアデニル酸シクラーゼを活性化することで、細胞内cAMP量を増加させる。本発明での匂い物質、試験物質、またはアンタゴニストに対する細胞の応答測定には、細胞内cAMP量の増加をホタルルシフェラーゼ遺伝子(fluc2P−CRE−hygro)由来の発光値としてモニターするルシフェラーゼレポータージーンアッセイを用いた。また、CMVプロモータ下流にウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を融合させたもの(hRluc−CMV)を同時に遺伝子導入し、遺伝子導入効率または細胞数の誤差を補正する内部標準として用いた。ルシフェラーゼの活性測定には、Dual−GloTMluciferase assay system(Promega)を用い、匂い物質または試験物質の刺激後2.5〜4時間後に製品の操作マニュアルに従って測定を行った。ホタルルシフェラーゼ由来の発光値をウミシイタケルシフェラーゼ由来の発光値で除した値fLuc/hRlucを算出した。下記式に従って、試験物質刺激に対する嗅覚受容体の応答性の指標としてFold increaseを、また嗅覚受容体に対するアンタゴニスト活性レベルの指標として匂い応答(%)を算出した。
Fold increase=X/Y
X:試験物質単独刺激により誘導されたfLuc/hRluc
Y:試験物質刺激なしの場合のfLuc/hRluc
匂い応答(%)=(Z’−Y’)/(X’−Y’)×100
X’:匂い物質単独刺激により誘導されたfLuc/hRluc
Y’:匂い物質刺激なしの場合のfLuc/hRluc
Z’:匂い物質とアンタゴニストとの共刺激により誘導されたfLuc/hRluc
実施例1 Broadly Tuned嗅覚受容体OR2W1の応答
構造的分類の異なる様々な匂い物質に対する嗅覚受容体の応答選択性を調べた。本実施例では、化学構造の共通性に基づく11群(アルコール類、アルデヒド類、エステル類、ケトン類、酸類、テルペン類、バニリン類、ベンゼン類、ムスク類、環状アルカン類、ラクトン類、各群はそれぞれ3種類の匂い物質を含む)からの33種類の化合物を匂い物質として用いた。
各匂い物質のDMEM溶液(Nacalai)を、匂い物質の溶解度と細胞毒性を考慮して、可能な限り高い濃度で調製した(30μMから3000μM)。参考例2)〜4)に従って作製した嗅覚受容体発現細胞の培養物から培地を取り除き、各ウェルに該匂い物質溶液を30μLずつ添加して、参考例5)と同様の手順でルシフェラーゼアッセイを行った。細胞をCOインキュベータ内で2.5〜4時間培養し、ルシフェラーゼ遺伝子を細胞内で十分に発現させた後、その発現量を発光量を指標に測定した。
結果を図1に示す。図1は、ヒト嗅覚受容体OR2W1を発現させた細胞が応答を示した匂い物質の群を示し、嗅覚受容体が群内の3種類の物質の全てに応答を示した群を「活性あり」(黒丸)、群内のいずれか1つ以上の物質に応答を示さなかった群を「活性なし」(−)で示す。OR2W1は、調べた匂い物質群のうちの約80%(11群の匂い物質グループのうち9群)に応答した。この結果から、OR2W1が、様々な匂い物質の群を認識できるBroadly Tuned嗅覚受容体であることが確認された。
実施例2 Broadly Tuned嗅覚受容体選択的リガンド
試験物質として、l−アルギニンおよびl−ヒスチジンを使用した。これらの試験物質をリンガー液(140mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl2、2mM CaCl2、10mM HEPES、5mM Glucose、pH7.4(NaOH))に溶解させて試験物質溶液を調製した。この試験物質溶液を用いて、参考例2)〜5)の手順に従って、OR2W1発現細胞でルシフェラーゼアッセイを行った。結果を図2Aに示す。OR2W1は、l−アルギニンに対して濃度依存的な応答を示した(図2A中央上)。一方、l−ヒスチジンに対しては、OR2W1発現細胞は応答を示さなかった(図2A中央下)。
さらに、427種類の嗅覚受容体について、参考例2)〜5)の手順に従って、l−アルギニンおよびl−ヒスチジン(10mM)に対する応答を調べた。その結果、OR2W1以外にl−アルギニンに応答する嗅覚受容体は認められなかった(図2A右上)。なお、調べたいずれの嗅覚受容体もl−ヒスチジンには応答しなかった(図2A右下)。したがって、l−アルギニンがOR2W1を選択的に活性化する物質であることが示された。
同様の手順で、d−アルギニンに対するOR2W1応答を調べた。すなわち、OR2W1発現細胞にd−アルギニンを投与し、4時間後にルシフェラーゼの発現を評価した。その結果、図2Bに示すとおり、d−アルギニンもOR2W1を活性化した。
実施例3 l−アルギニンの点鼻による嗅覚への影響
1)匂いの検出閾値(感度)への効果
OR2W1選択的リガンドであるアルギニンの嗅覚に対する作用を、官能試験によって評価した。生理食塩水(大塚製薬)、l−アルギニン10mM生理食塩水溶液、およびl−ヒスチジン10mM生理食塩水溶液の3サンプルを、点鼻スプレー(KT110−102、アズワン株式会社)に調製した。匂い物質としては、三叉神経系を活性化しないものとして官能試験に広く用いられバラの匂いを呈するフェニルエチルアルコール(PEA)を選択した。0.001から100μMまでの11段階の濃度のPEA水溶液を試験液として用意し、3mLずつ20mL容のガラスバイアル(マルエム)に入れた。
実験は、投与者と被験者の双方にブラインドをかけて行われた。投与者は、被験者の鼻腔内のできる限り深部にスプレーの噴出口をセットし、一度スプレーをした。これにより噴出される液量はおよそ100〜200μLである。スプレー前およびスプレー後1分後に、被験者に水溶液のみが入ったバイアル2本と、試験液のバイアル1本の計3本を提示し、どのバイアルに匂いが入っているかを質問した。試験液のバイアルを正答できた場合は一段階低い濃度、誤答した場合は一段階高い濃度の試験液を用いて再試験した。誤答を挟んで3度連続で正答した濃度を検知閾値とした。スプレー後に再度行う閾値試験は、スプレー前の閾値濃度の10倍濃度より始めた。生理食塩水、アルギニン、ヒスチジンいずれかを点鼻し閾値試験を行った後、2時間半以上の間隔を空けてから他のサンプルを点鼻し、閾値試験を行った。サンプル点鼻前後で、被験者のPEAに対する検知閾値を測定した。サンプル点鼻前の閾値濃度/サンプル点鼻後の閾値濃度を計算することにより、閾値変化率を求めた。
その結果、l−アルギニンの点鼻後の被験者で、PEA検知閾値が統計学的に有意に低下した(図3)。このような効果は、OR2W1を活性化しない生理食塩水およびl−ヒスチジンを点鼻した場合には認められなかった。これらの結果から、l−アルギニンがPEAの匂いに対する人の検知閾値(感度)を上昇させることが明らかになり、またl−アルギニンにより唯一活性化されるOR2W1がその効果をもたらしていることが示唆された。
2)匂いの検出強度への効果
匂い物質およびl−アルギニンに同時曝露した場合と、匂い物質単独曝露の場合とを比べて、匂い物質の匂いが増強されるかを調べた。匂い物質は、PEAまたはヘキシルシンナミックアルデヒド(HCA)を用いた。匂い物質を終濃度0.1mM濃度となるように、l−アルギニン生理食塩水溶液および対照であるl−ヒスチジン生理食塩水溶液(いずれも10mM)にそれぞれ添加した。得られた溶液を、超音波式ネブライザ(NE―U07;オムロン 霧化粒子径1〜8μm(全体積粒子径分布の80%))を用いて噴霧量最大で約170μL(約20秒間)で噴霧し、被験者に吸引させ、匂い強度を評価した。
匂いの強度は、Green et al(Chemical senses,1996,21:323−34)の方法に従って、下記に示すLabeled Magnitude Scale(LMS)により評価した。すなわち、スケール全長を100%として、各ラベルを次の位置に設定した:Barely detectable,1.4%;Weak,6.1%;Moderate,17.2%;Strong,35.4%;Very strong,53.3%;Strongest imaginable,100%。
結果、l−アルギニンとの併用により、PEAおよびHCAの両匂い物質の匂い強度が統計学的に有意に増強された(図4)。一方、l−ヒスチジンとの併用では、いずれの匂い物質でも匂い強度の増強効果は認められなかった。これらの結果から、l−アルギニンが匂いに対する人の検出強度を上昇させることが明らかになり、またl−アルギニンにより唯一活性化されるOR2W1がその効果をもたらしていることが示唆された。
3)匂いの質への効果
もし、Broadly Tuned嗅覚受容体が匂いの質ではなく強度のみを制御するのであれば、OR2W1単独での活性化は匂いの質(特定の匂い)を呈さないはずである。そこでl−アルギニンを用いて約400の嗅覚受容体のうちOR2W1だけを活性化したときに、人に匂いの感覚が生じるのかを調べた。l−アルギニンは揮発性をもたないため、生理食塩水に溶かしたl−アルギニンを、点鼻スプレーを使用して、5名の被験者の鼻腔内に投与した。その結果、l−アルギニンの点鼻は匂いの感覚を生じさせなかった。なお、別の物質を同様の手法で点鼻した場合には5名中3名で匂いの感覚が生じたことから、本手法で点鼻した物質が嗅上皮に到達することは確認された。これらの結果は、OR2W1の活性化が、匂いの質(特定の匂い)の発生に関与しないことを示唆している。さらにこの実験結果は、Broadly Tuned嗅覚受容体が、匂いの質(特定の匂い)を生み出すのではないという仮説(非特許文献2参照)を支持している。
実施例4 PEA、HCAのOR2W1への作用
PEAおよびHCAに対するOR2W1発現細胞の応答を調べた。結果、OR2W1はPEAに応答し、HCAには応答しなかった(図5)。このことから、図4で示されたl−アルギニンによる匂い増強作用は、PEAなどOR2W1が応答する匂い物質に限られるのではなく、HCAなどOR2W1が応答しない匂いにも適用できることが示された。
実施例5 OR2W1活性化が匂い強度に与える影響
1)図1に示すように、OR2W1は11群の匂い物質グループのうちの80%に応答した。一方、香りが弱い微香性香料に絞ってOR2W1の応答性を調べた結果、明確な応答を示したものは68種類のうち10%に満たなかった。これらの結果から、香料のOR2W1活性化能の強さと匂い強度との関係性が示唆された。
2)OR2W1に対する活性化作用の異なる香料による、他の香料の匂いの増強作用を調べた。試験物質として、1)においてOR2W1に対する活性化作用が確認されなかった微香性香料(化合物A)および最も高い活性化作用が確認された微香性香料(化合物B)を用いて、PEAまたはヒドロキシシトロネラール(HC)の匂いの増強効果を調べた。
二つの綿球を用意し、一方には試験物質(化合物AまたはB)、もう一方には匂い物質(PEAまたはHC)を染み込ませ、それぞれをガラスバイアルに入れ、サンプルとした。5人の被験者が、匂い物質単独、匂い物質+化合物A、匂い物質+化合物B、匂い物質単独、の順にサンプルを提示されて、それぞれについて匂い物質の匂い強度を評価した。また、化合物AおよびB単独での匂い強度を評価した。匂いの強度の評価は、実施例3と同様の手順で行った。結果を図6に示す。
3)さらに、10種類のOR2W1アンタゴニスト化合物について、スカトール臭の抑制作用およびスカトール受容体活性抑制作用を調べた。スカトール受容体としては、OR2W1、OR5K1、OR5P3およびOR8H1(特許第5593271号公報)が知られているが、これらのうちOR2W1によってスカトール臭強度が制御されている可能性を検証した。参考例2)〜5)と同様の手順で、該アンタゴニスト化合物存在下での匂い応答(%)を測定した。
アンタゴニスト化合物のスカトール臭の抑制作用は以下の手順で調べた。ガラス瓶(柏洋硝子No.11、容量110mL)に綿球を入れ、この綿球に、悪臭としてプロピレングリコールで105倍に希釈したスカトール、およびアンタゴニスト化合物を各々20μL滴下した。ガラス瓶を一晩室温で静置し、匂い分子をガラス瓶中に十分揮発させた後、官能試験によりスカトール臭の匂いを評価した。官能試験ではスカトール臭単独での匂いの強さを5とし、アンタゴニスト化合物を混合した場合の悪臭の強さを0から10(0.5刻み)の20段階で評価した。小さい値ほどスカトール臭が弱いことを表す。官能試験は4〜8名で行い、結果の平均値を求めた。
結果を図7に示す。図7の各図の横軸は、アンタゴニスト化合物を表し、左図の縦軸は、各アンタゴニスト化合物存在下でのスカトールに対するOR2W1活性(匂い応答(%))を表す。匂い応答(%)が高いほどアンタゴニスト化合物のアンタゴニスト活性が低いことを意味する。右図の縦軸は、アンタゴニスト化合物のスカトール臭抑制作用の強さを示す(4〜8名による官能評価の平均値)。受容体アッセイにおいてOR2W1のスカトール認識を抑制した化合物はすべて、官能試験においてスカトール臭を抑制した。これは、OR2W1の活性が匂いの強さの認識に強く貢献していることを示唆する。
上記1)〜3)の結果からは、実施例3〜4の結果を踏まえると、Broadly Tuned嗅覚受容体OR2W1が、様々な匂い物質についての、匂いの質ではなく、匂いの強さの情報を伝達している嗅覚受容体であることが示唆される。アルギニンは、このOR2W1を活性化させることによって、それ自身の匂いを発生させることなく、様々な匂いの増強をもたらすことができる。

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  1. アルギニンを有効成分とする、鼻腔内投与される匂い増強剤。
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