WO2021125139A1

WO2021125139A1 - 嗅覚感受性の向上方法

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Publication number: WO2021125139A1
Application number: PCT/JP2020/046586
Authority: WO
Inventors: 鍛高瀬; 敬一吉川; 正俊大橋
Original assignee: 花王株式会社
Priority date: 2019-12-19
Filing date: 2020-12-14
Publication date: 2021-06-24
Also published as: US20230321462A1; JP2021099326A; EP4079282A1; EP4079282A4

Abstract

嗅覚感受性の向上。体臭を低減させることを含む嗅覚感受性の向上方法。

Description

嗅覚感受性の向上方法

　本発明は、嗅覚感受性の向上方法に関する。

　匂いは、日常生活を豊かに過ごすために重要な役割を担っている。例えば、匂いは料理に豊かな味わいをもたらし、日用製品に賦香される匂いは清潔感など様々な快さを提供している。一方で、不快な匂いも重要である。健康や衛生状態が損なわれていることを一早く知らせるためにも、匂いは大きな役割を担っている。これら匂いの重要さは、風邪など呼吸器系の疾患が生じた際に食事の味わいが損なわれることや、嗅覚が低下した高齢者がガスに賦香された匂いに気づけずに危険を被ることからも想像できる。

　ヒト等の哺乳動物においては、匂いは、鼻腔内最深部に広がる嗅上皮に存在する嗅神経細胞の嗅覚受容体によって受容される。鼻腔内に取り込まれた匂い物質は、嗅覚受容体に作用して活性化させ、活性化した嗅覚受容体に引き起こされた嗅神経細胞からのシグナルが中枢神経系へと伝達されることにより、匂いが知覚される。嗅覚受容体をコードする遺伝子はヒトの場合４００種以上存在することが予想されている。特定の匂い物質に対して我々が知覚する匂いの質は、該匂い物質によって上記４００種以上の嗅覚受容体のうちのどの組み合わせが活性化されたかによって決定されると考えられている。すなわち、個々の嗅覚受容体は構造の類似した複数の匂い物質を異なる親和性で受容し、一方で、個々の匂い物質は複数の嗅覚受容体によって受容される。さらに、ある嗅覚受容体を活性化する匂い物質が、別の嗅覚受容体の活性化を阻害することも報告されている。これら複数の嗅覚受容体の応答の組み合わせが、個々の匂いの認識をもたらしている。

　ある匂いを嗅ぎ続けていると、その匂いに対する感受性が低下する。この現象を匂いの順応と呼ぶ。匂いの順応は、短期的な順応と長期的な順応の二つに分類され、それぞれの順応を引き起こす分子メカニズムは異なると考えられている。短期的な順応では、匂い感受性は、数秒から数分の匂い物質への曝露により低下し、該匂い物質がなくなれば速やかに回復する。短期的な順応の原因としては、匂いに応答した嗅覚受容体がリン酸化することで応答性を失うメカニズムなど、嗅神経細胞の一過的な変化が示唆されている（非特許文献１）。匂い物質が消失すれば、嗅覚受容体は脱リン酸化されてその応答性を回復する。一方、長期的な順応は数週間の単位で起こり、その回復にも同等の時間がかかる（非特許文献２）。非特許文献３、４には、匂いに暴露され続けた嗅覚受容体のｍＲＮＡの発現量の減少が長期的な順応を起こしていることが示唆されている。

　さらに、ある匂いを嗅ぎ続けることで、別の匂いに対する感受性が低下することがある。このような現象を匂いの交差順応と呼ぶ。特許文献１には、匂いの交差順応に嗅覚受容体の活性が関与していること、同じ嗅覚受容体に受容される匂い物質の間で交差順応が見られることが開示されている。すなわち、嗅覚受容体がある匂い物質に曝されて応答性を低下させたとき、別の匂い物質に対する応答性も低下し、このことが匂いの交差順応を起こしていると考えられる。非特許文献５には、コーヒー様の匂いを有する２－ｆｕｒｆｕｒｙｌｔｈｉｏｌの匂いへの知覚が、その代謝物ｆｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｔｈｙｌｓｕｌｆｉｄｅの匂いを予め嗅ぐことによって低減又は変調すること、この交差順応に、両化合物に共に応答する嗅覚受容体が関与していることが開示されている。

（特許文献１）国際公開公報第２０１６／１９４７８８号
（非特許文献１）Chem Senses, 2014, 39:771-80
（非特許文献２）Percept Psychophys, 1996, 58:781-792
（非特許文献３）Elife, 2017, e21476
（非特許文献４）Nat Commun, 2018, 9:5081
（非特許文献５）Chem Senses, 2019, doi:10.1093/chemse/bjz041

　本発明は、被験者の体臭を低減させることを含む、即時性に該被験者の嗅覚感受性を向上させる方法を提供する。
　また本発明は、体臭原因物質を除去する物質を特定することを含む、即時性の嗅覚感受性向上剤の選択方法を提供する。
　また本発明は、口腔内から口臭原因物質を除去するための物質を有効成分とする、即時性の嗅覚感受性向上剤を提供する。
　また本発明は、被験者の嗅覚感受性を測定することを含む、体臭評価方法を提供する。
　また本発明は、被験者の嗅覚感受性を測定する手段を含む、体臭評価用キットを提供する。

Ｅｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎ及びＧｕａｉａｃｏｌに対するＯＲ１０Ｇ４の応答。横軸はそれぞれの試験物質。縦軸は嗅覚受容体の応答強度を示す。Ｍｏｃｋ：嗅覚受容体を発現していない細胞、１０Ｇ４：ＯＲ１０Ｇ４発現細胞。Ｅｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎ含有／非含有タブレットを舐めた際のＥｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎ（左図）及びＧｕａｉａｃｏｌ（右図）の匂い感覚強度の経時変化。横軸はタブレットを舐めて始めてからの経過時間（分）、縦軸はタブレットを舐める直前の匂い物質の匂い感覚強度を１００とした場合の相対感覚強度（％）を示す。０．５％ＥＶ：０．５％Ｅｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎ含有タブレット、０％ＥＶ：Ｅｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎ非含有タブレット。それぞれｎ＝３、エラーバー＝±ＳＥ。*：ｐ＜０．０５、**：ｐ＜０．０１（Ｓｉｄａｋ法による多重比較検定、０．５％ＥＶｖｓ０％ＥＶ）。着衣腋部に３Ｍ３ＳＨを塗布したときの、３Ｍ３ＳＨに対する匂い感覚強度の経時変化。横軸ははじめて３Ｍ３ＳＨを着衣両脇部に塗布してからの経過時間（分）、縦軸は３Ｍ３ＳＨサンプルに対して感じた匂い感覚強度スコア（被験者２名の平均値）を示す。ただし横軸０分は、３Ｍ３ＳＨ塗布直前の感覚強度スコアを表す。図中の斜線部は３Ｍ３ＳＨが腋部に存在する時間帯を示す。種々の濃度のインドールに対する嗅覚受容体ＯＲ４Ｓ２の応答。それぞれｎ＝３、エラーバー＝±ＳＥ。Ｍｕｓｃｏｎｅ、Ｉｎｄｏｌｅ及びＦｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎに対するＯＲ４Ｓ２の応答。横軸はそれぞれの試験物質。縦軸は嗅覚受容体の応答強度を示す。Ｍｏｃｋ：嗅覚受容体を発現していない細胞。４Ｓ２：ＯＲ４Ｓ２発現細胞。Ａ：実施例３の実験スキーム。Ｂ：口腔ケア前後の呼気内Ｉｎｄｏｌｅ濃度変化。縦軸は呼気内Ｉｎｄｏｌｅ濃度（ｐｍｏｌ／Ｌ）：Ｂｅｆｏｒｅ）口腔ケア前（試験開始時）、Ａｆｔｅｒ）口腔ケア１時間後。線でつないだ２つのプロットは同一被験者からのデータを示す。ｎ＝１４。***：ｐ＜０．００１（Ｗｉｌｃｏｘｏｎ　ｓｉｇｎｅｄ－ｒａｎｋ　ｔｅｓｔ）。口腔ケア前後（Ａ：口腔ケア１時間後、Ｂ：口腔ケア１０分後）での匂い物質に対する嗅覚感受性の変動。横軸は、Ｂｅｆｏｒｅ）口腔ケア前（試験開始時）、Ａｆｔｅｒ）口腔ケア後。縦軸は匂い物質の検知閾値濃度（最大濃度からの２倍希釈回数）。線でつないだ２つのプロットは同一被験者からのデータを示す。Ａ：Ｍｕｓｃｏｎｅに関してｎ＝９、Ｉｎｄｏｌｅに関してｎ＝８、Ｆｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎに関してｎ＝６。*：ｐ＜０．０５、**：ｐ＜０．０１（Ｗｉｌｃｏｘｏｎ　ｓｉｇｎｅｄ－ｒａｎｋ　ｔｅｓｔ）。口腔ケアによるコーヒー風味感受性の向上。横軸は官能評価の評価項目を示す。縦軸は官能評価スコアを示す（１；感じない、２；あまり感じない、３；感じる、４；強く感じる、５；非常に強く感じる）。ｎ＝３、エラーバー＝ＳＥ。Ｉｎｄｏｌｅ受容体のリガンドスペクトル。Ｉｎｄｏｌｅ受容体ＯＲ４Ｓ２、ＯＲ５Ｐ３、ＯＲ２Ｗ１及びＯＲ１Ａ１が応答する匂い物質の化学構造的分類を示す。黒丸：この分類に含まれる３つ以上の匂い物質で活性化する、黒三角：この分類に含まれる１～２個の匂い物質で活性化する、－：この分類中に受容体を活性化する匂い物質が見つかっていない。

発明の詳細な説明

　本明細書において、標的匂いに関する「匂いの交差順応」とは、当該標的匂いの原因物質とは別の物質の匂いを予め受容し、その匂いに慣れることによって、該標的匂いに対する嗅覚感受性が低下又は変化する現象を指す。特許文献１には、「匂いの交差順応」が、嗅覚受容体アゴニズムに基づく現象であることが明らかにされている。すなわち、標的匂いの原因物質に対する嗅覚受容体が、該標的匂いの原因物質への応答に先だって異なる匂いの原因物質に応答し、その後応答性が低下することにより、後から該標的匂いの原因物質に曝されても低い応答しかできず、その結果、個体に認識される標的匂いの強度の低下又は変質が生じる。

　本明細書において、「嗅覚感受性の向上」とは、標的の匂いに対する検出可能強度が増加すること、又は標的の匂いに対する検知閾値が低下することをいう。

　本明細書における嗅覚受容体の名称は、Ｇｅｎｂａｎｋ（/www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/）に登録されている名称に従う。

　本明細書において、体臭とは、個体の身体又は身に着ける衣服等から発せられる、個体に恒常的に存在する匂いをいう。体臭の例としては、特に限定されないが、頭皮臭、口臭、足臭、皮脂臭、腋臭、汗臭、加齢臭などが挙げられる。

　ヒトが最も高頻度に曝され続ける匂いは、自らの体臭であり得る。体臭は、当人の嗅覚に作用し続けて匂いの順応を起こしているはずである。実際、ヒトが自らの体臭を感知しにくいことは経験的に周知の事実である。さらに、これまで立証されていないものの、体臭への順応が生じている際には前述の交差順応が同時に生じており、当該体臭に対する感受性のみならず体臭以外の物質群に対する嗅覚が鈍麻していることが推測される。

　嗅神経細胞は体臭に常に曝され続けていることから、従来、上記のような体臭に起因する匂いの順応及び交差順応は長期的な順応によるものであると推測され、したがって、これら順応及び交差順応からの回復には、長時間を要すると予測されていた。これに対し、本発明者は、個体の体臭を減少させることにより、比較的短時間のうちに該個体を体臭に起因する匂いの順応及び交差順応から回復させ、その嗅覚感受性を向上させられることを見出した。

　さらに、上記体臭との交差順応は、該体臭に応答する嗅覚受容体と同じ受容体を活性化する匂い物質に対して生じることが見出された。したがって、本発明によれば、体臭の減少により、比較的短時間のうちに、該体臭に応答する嗅覚受容体と同じ受容体を活性化する他の匂い物質に対する嗅覚感受性を向上させることができる。

　上記の結果は、一時的な体臭ケアが個体の嗅覚感受性を向上させることを表す。このような嗅覚感受性向上の技術は、嗅覚感受性の向上を要する者、好ましくは体臭の低減により嗅覚感受性を向上させることを要する者、例えば、一般に体臭が強くなることに加えて嗅覚が低下しがちな中高年（但し彼らに限定されないが）にとって好適であろう。

　また上記の結果は、たとえ一時的にでも体臭ケアに資する物質又は手段（例えば、洗浄又は体臭用デオドラント剤）が、嗅覚感受性の向上に有効であることを表す。該体臭ケアに資する物質又は手段を個体に適用することで、該個体の嗅覚感受性を向上させることができる。

　また上記の結果は、体臭の強さが個体の嗅覚感受性に反映されていることを表す。言い換えると、嗅覚感受性を指標に個体の体臭を評価することが可能である。すなわち、嗅覚感受性を指標に用いれば、順応のため自身の嗅覚では感知困難な体臭の強さを、自身で評価することが可能である。

　本発明は、個体の嗅覚感受性を向上させる方法に関する。本発明者は、体臭が、それに応答する嗅覚受容体を介して、同じ嗅覚受容体を活性化する他の物質に対する嗅覚感受性に影響を及ぼしていることを見出した。

　本発明は、体臭を制御することで個体の嗅覚感受性を向上する方法を提供する。また本発明は、体臭を制御し、ひいては個体の嗅覚感受性を向上させることができる各種手段や物質を提供する。また本発明は、嗅覚感受性を指標に個体の体臭を評価する方法、及びそのためのキットを提供する。

　したがって、一態様として本発明は、被験者の体臭を低減させることを含む、被験者の嗅覚感受性の向上方法を提供する。

　被験者の体臭を低減させる手段としては、該被験者の身体や、身に着ける衣服などからの体臭原因物質の除去が挙げられる。体臭原因物質の除去の手段としては、体臭原因物質の洗浄、吸着、発生抑制、揮発抑制、分解などが挙げられる。該体臭原因物質の洗浄には、水、又は身体もしくは衣類用の洗剤を用いた、身体又は衣類からの体臭原因物質の洗浄が包含され得る。該体臭原因物質の吸着、発生抑制、揮発抑制、又は分解には、活性炭、殺菌剤、抗菌剤、体臭発生原因菌に対する代謝抑制剤もしくは酵素阻害剤、抗酸化剤、環状デキストリン、化学中和剤、デオドラント剤などの、身体又は衣類への適用などが包含され得る。

　該体臭原因物質としては、頭皮臭については、ジアセチル、イソ吉草酸などが挙げられ；口臭については、インドール、スカトール等の後述する表３記載の物質などが挙げられ；足臭については、イソ吉草酸などが挙げられ；皮脂臭については２，４－ヘプタジエナール、２－オクテナール、２－ノネナール、２－デセナール、２，４－デカジエナール等の炭素数７～１０の不飽和脂肪族アルデヒドなどが挙げられ；腋臭については、３－メチル－２－ヘキセン酸、３－ヒドロキシ－３－メチルヘキサン酸、３－メチル－３－スルファニルヘキサン－１－オール（３Ｍ３ＳＨ）などが挙げられ；汗臭については、４－メチルペンタン酸、４－メチル－２－ペンテン酸、４－メチル－３－ペンテン酸、４－メチル－４－ペンテン酸などが挙げられ；加齢臭については２－ノネナール、ｎ－オクタナール、ｎ－ノナナール、ｎ－デカナールなどが挙げられる。

　該体臭の低減により、被験者において、該体臭と順応又は交差順応する匂い物質に対する嗅覚感受性が向上する。より詳細には、本発明においては、体臭の低減により、被験者において、該体臭の原因物質に応答する嗅覚受容体を活性化させる匂い物質に対する嗅覚感受性が向上する。好ましくは、本発明において嗅覚感受性が向上する匂い物質は、該体臭原因物質以外の匂い物質である。本発明において、被験者における該匂い物質に対する嗅覚感受性の向上は、該体臭の低減処置を実施してから比較的短時間のうちに達成される。したがって、本発明による嗅覚感受性の向上は、即時性の向上であり得る。本発明における「即時性の」嗅覚感受性の向上とは、好ましくは、体臭の低減処置から１時間以内、より好ましくは１０分以内に嗅覚感受性の向上が起こることをいう。

　好ましい実施形態において、該体臭は口臭である。該口臭を低減させる手段としては、水、又は歯磨き剤、洗口剤、口腔タブレット、口腔スプレーなどのオーラルケア製品を用いた、口腔内からの口臭原因物質の洗浄、口臭原因物質の吸着又は分解、口臭原因菌の殺菌、口臭原因菌に対する代謝抑制もしくは酵素阻害、口臭原因菌を含むバイオフィルムの形成抑制もしくは分解；ならびに、入れ歯の洗浄もしくは殺菌、などが挙げられる。後述の実施例（表３参照）に示すとおり、口臭原因物質としては様々な物質が存在し、またそれぞれに応答する嗅覚受容体が存在する。口臭原因物質に対する嗅覚受容体の例としては、ＯＲ４Ｓ２、ＯＲ５Ｐ３、ＯＲ２Ｗ１、ＯＲ１Ａ１、ＯＲ２Ｔ１１、ＯＲ８Ｈ１、ＯＲ５Ｋ１、ＯＲ５１Ｅ１、ＯＲ５１Ｅ２、ＯＲ５１Ｉ２、ＯＲ５２Ｎ２、ＯＲ１１Ｇ２、ＯＲ５ＡＣ２、ＯＲ１１Ｈ６、ＯＲ１１Ｈ４、ＯＲ４Ｃ１５、ＯＲ８Ｓ１、ＯＲ１Ｅ１、ＯＲ８Ｕ８、ＯＲ５１Ｄ１、ＯＲ５１Ｄ１４、ＯＲ２Ｔ１、ＯＲ５ＡＩ１、ＯＲ７Ｇ２、ＯＲ１１Ｈ７Ｐ、及びＴＡＡＲ５が挙げられる。本発明において、口臭の低減により嗅覚感受性が向上する匂い物質としては、上記に挙げた口臭原因物質に対する嗅覚受容体を活性化する匂い物質が挙げられる。好ましくは、該嗅覚感受性が向上する匂い物質は、該口臭原因物質以外の匂い物質である。

　好ましい一実施形態において、該口臭原因物質はインドール（Ｉｎｄｏｌｅ）であり、嗅覚感受性が向上する匂い物質としてはＩｎｄｏｌｅ受容体を活性化する、Ｉｎｄｏｌｅ以外の匂い物質が挙げられる。Ｉｎｄｏｌｅ受容体としては、ＯＲ４Ｓ２、ＯＲ５Ｐ３、ＯＲ２Ｗ１、及びＯＲ１Ａ１が挙げられる。後述の実施例に示すとおり、個体の口臭を低減させた後、即時性に、好ましくは１時間以内、より好ましくは１０分から１時間以内に、Ｉｎｄｏｌｅ受容体ＯＲ４Ｓ２を活性化させるフルフリルメルカプタン（Ｆｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎ）、及びこれを主成分とするコーヒー風味に対する該個体の嗅覚感受性が向上する。

　別の好ましい実施形態において、該体臭は脇臭である。該脇臭を低減させる手段としては、身体（脇部）又は衣類（特に脇部）の洗浄による、該身体又は衣服から脇臭原因物質の除去が挙げられる。本発明において、脇臭の低減により嗅覚感受性が向上する匂い物質としては、脇臭受容体、例えばＯＲ１Ａ１、ＯＲ２Ｗ１、ＯＲ２Ｊ３、ＯＲ１０Ａ６、ＯＲ５１Ｂ２、ＯＲ５１Ｅ１、又はＯＲ５１Ｉ２を活性化する、脇臭原因物質以外の匂い物質が挙げられる。

　別の一態様として、本発明は、被験者の嗅覚感受性を向上させるための手段を提供する。好ましくは、該嗅覚感受性を向上させるための手段は、体臭原因物質を除去する手段、例えば、体臭原因物質の洗浄、吸着、発生抑制、揮発抑制又は分解のための手段であり得る。該体臭原因物質を除去する手段のより詳細な例としては、水、又は身体もしくは衣類用の洗剤を用いた、身体又は衣類からの体臭原因物質の洗浄、体臭原因物質の吸着、発生抑制、揮発抑制及び分解のための身体又は衣類への活性炭、殺菌剤、抗菌剤、体臭発生原因菌に対する代謝抑制剤又は酵素阻害剤、抗酸化剤、環状デキストリン、化学中和剤、デオドラント剤などの適用、が包含され得る。これら体臭原因物質を除去する手段は、被験者の体臭を除去することで、即時性に該被験者の嗅覚感受性を向上させる。

　一実施形態において、本発明は、口腔内から口臭原因物質を除去するための物質を有効成分とする嗅覚感受性向上剤を提供する。好ましくは、該向上剤は、該口臭原因物質に対する嗅覚受容体を活性化する匂い物質に対する嗅覚感受性の向上剤である。好ましくは、該嗅覚感受性の向上剤は、即時性の嗅覚感受性の向上剤であり得る。好ましくは、該有効成分は、口臭原因物質を洗浄、吸着、発生抑制、揮発抑制又は分解する物質である。好ましくは、該口臭原因物質はＩｎｄｏｌｅであり、該口臭原因物質に対する嗅覚受容体を活性化する匂い物質の例としては、Ｉｎｄｏｌｅ受容体ＯＲ４Ｓ２、ＯＲ５Ｐ３、ＯＲ２Ｗ１又はＯＲ１Ａ１を活性化する匂い物質が挙げられ、より好ましい例としては、Ｆｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎ、及びこれを主成分とするコーヒー風味が挙げられる。

　別の一実施形態において、本発明は、身体（主に脇部）から脇臭原因物質を除去するための物質を有効成分とする嗅覚感受性向上剤を提供する。好ましくは、該向上剤は、該脇臭原因物質に対する嗅覚受容体を活性化する匂い物質に対する嗅覚感受性の向上剤である。好ましくは、該嗅覚感受性の向上剤は、即時性の嗅覚感受性の向上剤であり得る。好ましくは、該有効成分は、脇臭原因物質を洗浄、吸着、発生抑制、揮発抑制又は分解する物質である。好ましくは、該脇臭原因物質は３－メチル－２－ヘキセン酸、３－ヒドロキシ－３－メチルヘキサン酸、又は３－メチル－３－スルファニルヘキサン－１－オール（３Ｍ３ＳＨ）であり、該脇臭原因物質に対する嗅覚受容体を活性化する匂い物質の例としては、脇臭受容体（例えばＯＲ１Ａ１、ＯＲ２Ｗ１、ＯＲ２Ｊ３、ＯＲ１０Ａ６、ＯＲ５１Ｂ２、ＯＲ５１Ｅ１、又はＯＲ５１Ｉ２）を活性化する匂い物質が挙げられる。

　口腔内から口臭原因物質を除去するための物質としては、歯磨き剤、洗口剤、口腔タブレット、口腔スプレーなどのオーラルケア製品や、入れ歯洗浄剤などが挙げられる。該オーラルケア製品は、限定ではないが、例えば以下の成分を任意に含んでいてもよい：水、ソルビトール、プロピレングリコール、グリセリン、エタノールなどの基剤又は湿潤剤；フッ素（フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム等）；塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、トリクロサンなどの殺菌剤；グルコン酸銅、クエン酸銅、硫酸銅、塩化銅、銅クロロフィリンナトリウム、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、乳酸アルミニウムなどの銅、亜鉛又はアルミニウムの塩；無水ケイ酸（増粘性シリカ等）、カルボキシメチルセルロース、カラギーナン、キサンタンガム、ポリアクリル酸などの増粘剤；無水ケイ酸（研磨性シリカ等）、炭酸カルシウムなどの研磨剤；ラウリル硫酸Ｎａ、ラウロイルメチルタウリンＮａ、ラウロイルグルタミン酸Ｎａ、ミリストイルグルタミン酸Ｎａ、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどの活性剤；メントール、サッカリンＮａなどの香料又は甘味料；パラベンなどの防腐剤；シクロデキストリン；ゼオライト。

　さらに、オーラルケア製品に使用可能な口臭防止成分は、それ自体が、嗅覚感受性向上方法に用いる体臭原因物質を除去する手段、又は嗅覚感受性向上剤の有効成分として、本発明において使用され得る。該オーラルケア製品に使用可能な口臭防止成分の例としては、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、トリクロサンなどの殺菌剤；グルコン酸銅、クエン酸銅、硫酸銅、塩化銅、銅クロロフィリンナトリウム、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、乳酸アルミニウムなどの銅、亜鉛又はアルミニウムの塩；ラウリル硫酸Ｎａ、ラウロイルメチルタウリンＮａ、ラウロイルグルタミン酸Ｎａ、ミリストイルグルタミン酸Ｎａ、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどの活性剤；シクロデキストリン；ゼオライト、などが挙げられる。これらの口臭防止成分は、いずれか単独で又は適宜組み合わせて、本発明の嗅覚感受性向上剤の有効成分に使用され得る。

　さらに別の一態様として、本発明は、嗅覚感受性向上剤の選択方法を提供する。上述したとおり、被験者の体臭原因物質を除去することにより、即時性に該被験者の嗅覚感受性を向上させることができる。したがって、体臭原因物質を除去する物質は、嗅覚感受性向上剤として特定され得る。好ましくは、体臭原因物質を除去する物質は、該体臭原因物質に対する嗅覚受容体を活性化する匂い物質に対する嗅覚感受性の向上剤である。好ましくは、該嗅覚感受性の向上剤は、即時性の嗅覚感受性の向上剤であり得る。

　一実施形態において、本発明の嗅覚感受性向上剤の選択方法は、試験物質による、標的とする体臭原因物質の除去作用を調べることを含む。例えば、本方法においては、該試験物質による該体臭原因物質の洗浄、吸着、発生抑制、揮発抑制又は分解作用を調べる。当該作用を有する試験物質を、嗅覚感受性の向上剤として特定することができる。体臭原因物質を除去する効果が強い物質ほど、より強力な嗅覚感受性の向上剤として機能し得る。該試験物質の種類は、嗅覚感受性の向上剤として使用することを所望する物質であれば、特に制限されない。例えば、該試験物質は、体臭原因物質の洗浄、吸着、発生抑制、揮発抑制又は分解作用が期待される物質であり得る。該試験物質は、天然に存在する物質であっても、化学的もしくは生物学的方法等で人工的に合成した物質であってもよく、又は化合物であっても、組成物もしくは混合物であってもよい。また該試験物質は、嗅覚感受性向上作用、又は体臭原因物質の洗浄、吸着、発生抑制、揮発抑制もしくは分解の作用がこれまでに評価又は特定されている物質であってもよい。
　別の一実施形態において、本発明の嗅覚感受性向上剤の選択方法は、体臭原因物質の除去作用を有するものとして特定されている物質について、その嗅覚感受性向上作用を官能評価することを含む。例えば、前述のように試験物質のなかから体臭原因物質を除去する物質を特定した後、該物質の嗅覚感受性向上作用を官能評価してもよい。あるいは、体臭原因物質を除去するものとして既に特定されている物質について、その嗅覚感受性向上作用を官能評価してもよい。

　さらに別の一態様として、本発明は、被験者の嗅覚感受性を測定することを含む、体臭評価方法を提供する。さらに別の一態様として、本発明は、被験者の嗅覚感受性を測定する手段を含む、体臭評価用キットを提供する。後述の実施例に示したとおり、個体の体臭はその嗅覚感受性に影響する。したがって、嗅覚感受性を指標に個体の体臭を評価することが可能である。

　本発明による体臭評価においては、評価対象とする体臭の原因物質に応答する嗅覚受容体を活性化する匂い物質（以下、試験匂い物質という）に対する、被験者の嗅覚感受性を測定する。該試験匂い物質は、好ましくは該評価対象とする体臭の原因物質以外の匂い物質である。例えば、口臭を評価したい場合、代表的な口臭原因物質Ｉｎｄｏｌｅの受容体を活性化するＦｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎ、又はこれを主成分とするコーヒー風味が、試験匂い物質として使用され得る。また例えば、脇臭を評価したい場合、脇臭受容体（例えばＯＲ１Ａ１、ＯＲ２Ｗ１、ＯＲ２Ｊ３、ＯＲ１０Ａ６、ＯＲ５１Ｂ２、ＯＲ５１Ｅ１、又はＯＲ５１Ｉ２）を活性化する匂い物質が、試験匂い物質として使用され得る。

　本発明による体臭評価の一実施形態においては、所定の濃度で試験匂い物質を含むサンプルの匂いを被験者に嗅がせて、匂いを感じるか否かを判定させる。該サンプルの試験匂い物質の濃度は、被験者の年齢、性別等に合わせて適宜調整することができる。被験者が該サンプルから該試験匂い物質の匂いを感じることができない場合、該被験者は体臭あり（陽性）と評価され得る。一方、被験者が該サンプルから該試験匂い物質の匂いを感じることができる場合、該被験者は体臭に問題なし（陰性）と評価され得る。

　本発明による体臭評価の別の一実施形態においては、段階的に異なる濃度で試験匂い物質を含むサンプルの匂いを被験者に嗅がせて、匂いを感じるサンプルを選択させる。各サンプルの試験匂い物質の濃度は、被験者の年齢、性別等に合わせて適宜調整することができる。被験者が選択したサンプルにおける該試験匂い物質の濃度を基準に、該被験者の体臭の度合いを評価することができる。

　本発明による体臭評価用キットは、上述した本発明による体臭評価方法を実施するためのキットである。該キットは、該試験匂い物質を含むサンプルを含有する。好ましくは、該サンプルは、含有する試験匂い物質の揮発を防止するように、使用時まで密封又はコーティングされていることが好ましい。例えば、該サンプルは、該試験匂い物質を含むカードであり、その表面には該試験匂い物質の揮発防止用のコーティングが施されている。体臭評価の際には、該サンプルは、そのコーティングを剥がして使用される。好ましくは、該キットは口臭評価用キットであり、該試験匂い物質としてＦｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎ、又はこれを主成分とするコーヒー風味を含むサンプルを含有する。別の例として、該キットは脇臭評価用キットであり、該試験匂い物質として、脇臭受容体（例えばＯＲ１Ａ１、ＯＲ２Ｗ１、ＯＲ２Ｊ３、ＯＲ１０Ａ６、ＯＲ５１Ｂ２、ＯＲ５１Ｅ１、又はＯＲ５１Ｉ２）を活性化する匂い物質を含むサンプルを含有する。

　該体臭評価用キットはさらに、該試験匂い物質に対する被験者の嗅覚感受性に基づいて該被験者の体臭を評価するためのガイダンスを備えていてもよい。一例において、該ガイダンスは、被験者が該試験匂い物質の匂いを感じることができた場合に該被験者は体臭ありと評価され、一方、被験者が該サンプルから該試験匂い物質の匂いを感じることができる場合に該被験者は体臭に問題なしと評価されることを指示する。別の一例において、該ガイダンスは、被験者が感じることができた該試験匂い物質の濃度に基づいて該被験者の体臭の度合いを評価するための基準を提供する。該ガイダンスは、紙、磁気ディスク、USBメモリなどのなどの記録媒体に含まれていることができる。

　本発明による体臭評価方法及び体臭評価キットによれば、順応のため自身の嗅覚では感知困難な自身の体臭の強さを、個々人が自分自身で評価することができる。

　本発明の例示的実施形態として、さらに以下の組成物、製造方法、用途あるいは方法を本明細書に開示する。ただし、本発明はこれらの実施形態に限定されない。

〔１〕被験者の体臭を低減させることを含む、即時性に該被験者の嗅覚感受性を向上させる方法。
〔２〕好ましくは、前記被験者の身体又は衣服から体臭の原因物質を除去することを含む、〔１〕記載の方法。
〔３〕前記体臭が、
　好ましくは、頭皮臭、口臭、足臭、皮脂臭、腋臭、汗臭、又は加齢臭であり、
　より好ましくは口臭又は脇臭であり、
　さらに好ましくは口臭である、
〔１〕又は〔２〕記載の方法。
〔４〕前記体臭を低減させることが、
　好ましくは、前記被験者の身体又は衣類からの体臭原因物質の洗浄、ならびに、身体又は衣類における体臭原因物質の吸着、発生抑制、揮発抑制又は分解を含み、
　より好ましくは、活性炭、殺菌剤、抗菌剤、体臭発生原因菌に対する代謝抑制剤もしくは酵素阻害剤、抗酸化剤、環状デキストリン、化学中和剤、又はデオドラント剤の、身体又は衣類への適用を含み、
　さらに好ましくは、身体脇部又は衣類（好ましくは脇部）の洗浄を含むか、あるいは口腔内の洗浄、口臭原因物質の吸着又は分解、口臭原因菌の殺菌、口臭原因菌に対する代謝抑制もしくは酵素阻害、口臭原因菌を含むバイオフィルムの形成抑制もしくは分解、入れ歯の洗浄もしくは殺菌を含み、
　さらに好ましくは、オーラルケア製品に使用可能な口臭防止成分を口腔内に適用することを含み、ここで、
　　該口臭防止成分が、オーラルケア製品に使用可能な殺菌剤、銅、亜鉛又はアルミニウムの塩、活性剤、シクロデキストリン及びゼオライトからなる群より選択される少なくとも１種を含み、
　　該殺菌剤が、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、及びトリクロサンからなる群より選択される少なくとも１種を含み、
　　該銅、亜鉛又はアルミニウムの塩が、グルコン酸銅、クエン酸銅、硫酸銅、塩化銅、銅クロロフィリンナトリウム、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、及び乳酸アルミニウムからなる群より選択される少なくとも１種を含み、
　　該活性剤が、ラウリル硫酸Ｎａ、ラウロイルメチルタウリンＮａ、ラウロイルグルタミン酸Ｎａ、ミリストイルグルタミン酸Ｎａ、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンステアリルエーテルからなる群より選択される少なくとも１種を含む、
〔３〕記載の方法。
〔５〕好ましくは、前記嗅覚感受性がＦｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎ又はコーヒー風味感受性である、〔１〕～〔４〕のいずれか１項記載の方法。
〔６〕体臭原因物質を除去する物質を特定することを含む、即時性の嗅覚感受性向上剤の選択方法。
〔７〕体臭原因物質を除去する物質として特定されている物質の嗅覚感受性向上作用を官能評価することを含む、即時性の嗅覚感受性向上剤の選択方法。
〔８〕好ましくは、前記体臭原因物質を除去する物質が、該体臭原因物質の洗浄、吸着、発生抑制、揮発抑制又は分解作用を有する物質である、〔６〕又は〔７〕記載の方法。
〔９〕前記体臭が、
　好ましくは、頭皮臭、口臭、足臭、皮脂臭、腋臭、汗臭、又は加齢臭であり、
　より好ましくは口臭又は脇臭であり、
　さらに好ましくは口臭である、
〔６〕～〔８〕のいずれか１項記載の方法。
〔１０〕口腔内から口臭原因物質を除去するための物質を有効成分とする、即時性の嗅覚感受性向上剤。
〔１１〕好ましくは、前記口臭原因物質を除去するための物質が、該口臭原因物質を洗浄、吸着、発生抑制、揮発抑制又は分解する物質である、〔１０〕記載の剤。
〔１２〕好ましくは、前記口臭原因物質がＩｎｄｏｌｅである、〔１０〕又は〔１１〕記載の剤。
〔１３〕前記口臭原因物質を除去するための物質が、
　好ましくは、オーラルケア製品に使用可能な口臭防止成分であり、
　　該口臭防止成分が、オーラルケア製品に使用可能な殺菌剤、銅、亜鉛又はアルミニウムの塩、活性剤、シクロデキストリン及びゼオライトからなる群より選択される少なくとも１種を含み、
　　該殺菌剤が、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、及びトリクロサンからなる群より選択される少なくとも１種を含み、
　　該銅、亜鉛又はアルミニウムの塩が、グルコン酸銅、クエン酸銅、硫酸銅、塩化銅、銅クロロフィリンナトリウム、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、及び乳酸アルミニウムからなる群より選択される少なくとも１種を含み、
　　該活性剤が、ラウリル硫酸Ｎａ、ラウロイルメチルタウリンＮａ、ラウロイルグルタミン酸Ｎａ、ミリストイルグルタミン酸Ｎａ、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンステアリルエーテルからなる群より選択される少なくとも１種を含む、
〔１０〕～〔１２〕のいずれか１項記載の剤。
〔１４〕口腔内から口臭原因物質を除去するための物質の、即時性の嗅覚感受性向上のための使用。
〔１５〕口腔内から口臭原因物質を除去するための物質の、即時性の嗅覚感受性向上剤の製造における使用。
〔１６〕好ましくは、前記口臭原因物質を除去するための物質が、該口臭原因物質を洗浄、吸着、発生抑制、揮発抑制又は分解する物質である、〔１４〕又は〔１５〕記載の使用。
〔１７〕好ましくは、前記口臭原因物質がＩｎｄｏｌｅである、〔１４〕～〔１６〕のいずれか１項記載の使用。
〔１８〕前記口臭原因物質を除去するための物質が、
　好ましくは、オーラルケア製品に使用可能な口臭防止成分であり、
　　該口臭防止成分が、オーラルケア製品に使用可能な殺菌剤、銅、亜鉛又はアルミニウムの塩、活性剤、シクロデキストリン及びゼオライトからなる群より選択される少なくとも１種を含み、
　　該殺菌剤が、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、及びトリクロサンからなる群より選択される少なくとも１種を含み、
　　該銅、亜鉛又はアルミニウムの塩が、グルコン酸銅、クエン酸銅、硫酸銅、塩化銅、銅クロロフィリンナトリウム、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、及び乳酸アルミニウムからなる群より選択される少なくとも１種を含み、
　　該活性剤が、ラウリル硫酸Ｎａ、ラウロイルメチルタウリンＮａ、ラウロイルグルタミン酸Ｎａ、ミリストイルグルタミン酸Ｎａ、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンステアリルエーテルからなる群より選択される少なくとも１種を含む、
〔１４〕～〔１７〕のいずれか１項記載の使用。
〔１９〕身体から脇臭原因物質を除去するための物質を有効成分とする、即時性の嗅覚感受性向上剤。
〔２０〕好ましくは、前記脇臭原因物質を除去するための物質が、該脇臭原因物質を洗浄、吸着、発生抑制、揮発抑制又は分解する物質である、〔１９〕記載の剤。
〔２１〕好ましくは、前記脇臭原因物質が３－メチル－２－ヘキセン酸、３－ヒドロキシ－３－メチルヘキサン酸、又は３－メチル－３－スルファニルヘキサン－１－オールである、〔１９〕又は〔２０〕記載の剤。
〔２２〕身体から脇臭原因物質を除去するための物質の、即時性の嗅覚感受性向上のための使用。
〔２３〕身体から脇臭原因物質を除去するための物質の、即時性の嗅覚感受性向上剤の製造における使用。
〔２４〕好ましくは、前記脇臭原因物質を除去するための物質が、該脇臭原因物質を洗浄、吸着、発生抑制、揮発抑制又は分解する物質である、〔２２〕又は〔２３〕記載の使用。
〔２５〕好ましくは、前記脇臭原因物質が３－メチル－２－ヘキセン酸、３－ヒドロキシ－３－メチルヘキサン酸、又は３－メチル－３－スルファニルヘキサン－１－オールである、〔２２〕～〔２４〕のいずれか１項記載の使用。
〔２６〕被験者の嗅覚感受性を測定することを含む、体臭評価方法。
〔２７〕前記体臭が、
　好ましくは、頭皮臭、口臭、足臭、皮脂臭、腋臭、汗臭、又は加齢臭であり、
　より好ましくは口臭又は脇臭であり、
　さらに好ましくは口臭である、
〔２６〕記載の方法。
〔２８〕好ましくは、前記嗅覚感受性がＦｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎ又はコーヒー風味感受性である、〔２６〕又は〔２７〕記載の方法。
〔２９〕被験者の嗅覚感受性を測定する手段を含む、体臭評価用キット。
〔３０〕前記体臭が、
　好ましくは、頭皮臭、口臭、足臭、皮脂臭、腋臭、汗臭、又は加齢臭であり、
　より好ましくは口臭又は脇臭であり、
　さらに好ましくは口臭である、
〔２９〕記載のキット。
〔３１〕好ましくは、前記嗅覚感受性がＦｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎ又はコーヒー風味感受性である、〔２９〕又は〔３０〕記載のキット。
〔３２〕好ましくは、評価対象とする体臭の原因物質に応答する嗅覚受容体を活性化する匂い物質を含むサンプルを含有し、該匂い物質が、好ましくはＦｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎ又はコーヒー風味である、〔２９〕～〔３１〕のいずれか１項記載のキット。
〔３３〕好ましくは、前記匂い物質に対する被験者の嗅覚感受性に基づいて該被験者の体臭を評価するためのガイダンスを備える、〔３２〕記載のキット。
〔３４〕Ｆｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎ又はコーヒー風味の口臭評価のための使用。

　以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。以下の実施例で用いた匂い物質を表１に示す。

参考例１　ヒト嗅覚受容体発現細胞の作製
１）ヒト嗅覚受容体遺伝子のクローニング
　ヒト嗅覚受容体ＯＲ１０Ｇ４、ＯＲ４Ｓ２、ＯＲ５Ｐ３、ＯＲ２Ｗ１、及びＯＲ１Ａ１をコードする遺伝子（それぞれ、配列番号１、２、３、４及び５）をクローニングした。各遺伝子は、ＧｅｎＢａｎｋに登録されている配列情報を基に、ｈｕｍａｎ　ｇｅｎｏｍｉｃ　ＤＮＡ　ｆｅｍａｌｅ（Ｇ１５２１：Ｐｒｏｍｅｇａ）を鋳型としたＰＣＲによりクローニングした。ＰＣＲにより増幅した各遺伝子をｐＥＮＴＲベクター（Ｉｎｖｉｔｒｏｇｅｎ）にマニュアルに従って組み込み、ｐＥＮＴＲベクター上に存在するＮｏｔＩ／ＡｓｃＩサイトを利用して、ｐＭＥ１８Ｓベクター上のＦｌａｇ－Ｒｈｏタグ配列の下流に作製したＮｏｔＩ／ＡｓｃＩサイトへと組換えた。

２）ｐＭＥ１８Ｓ－ヒトＲＴＰ１Ｓベクターの作製
　ＲＴＰ１ＳをコードするＲＴＰ１Ｓ遺伝子を、ｐＭＥ１８ＳベクターのＥｃｏＲＩ／ＸｈｏＩサイトへ組み込んだ。

３）嗅覚受容体発現細胞の作製
　上記のヒト嗅覚受容体のいずれか１種を発現させたＨＥＫ２９３細胞を作製した。表２に示す組成の反応液を調製しクリーンベンチ内で１５分静置した後、９６ウェルプレート（ＢＤ）の各ウェルに添加した。次いで、ＨＥＫ２９３細胞（３×１０⁵細胞／ｃｍ²）を９０μＬずつ各ウェルに播種し、３７℃、５％ＣＯ₂を保持したインキュベータ内で２４時間培養した。対照として、同様の手順でヒト嗅覚受容体遺伝子を含まないｐＭＥ１８Ｓベクターを組み込んだ嗅覚受容体を発現していない細胞（Ｍｏｃｋ）を用意し、同様に培養した。

参考例２　ルシフェラーゼアッセイ
　ＨＥＫ２９３細胞に発現させた嗅覚受容体は、細胞内在性のＧαｓと共役しアデニル酸シクラーゼを活性化することで、細胞内ｃＡＭＰ量を増加させる。本研究での受容体応答測定には、細胞内ｃＡＭＰ量の増加をホタルルシフェラーゼ遺伝子（ｆｌｕｃ２Ｐ－ＣＲＥ－ｈｙｇｒｏ）由来の発光値としてモニターするルシフェラーゼレポータージーンアッセイを用いた。また、ＣＭＶプロモータ下流にウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を融合させたもの（ｈＲｌｕｃ－ＣＭＶ）を同時に遺伝子導入し、遺伝子導入効率や細胞数の誤差を補正する内部標準として用いた。

　上記３）で作製した培養物から培地を取り除き、匂い物質溶液を添加した。匂い物質溶液は、ＤＭＥＭ（ナカライテスク）又は塩化銅３００μＭを含むＤＭＥＭ（ナカライテスク）で調製した。細胞をＣＯ₂インキュベータ内で４時間培養し、ルシフェラーゼ遺伝子を細胞内で十分に発現させた。ルシフェラーゼの活性は、Ｄｕａｌ－Ｇｌｏ^TMｌｕｃｉｆｅｒａｓｅ　ａｓｓａｙ　ｓｙｓｔｅｍ（Ｐｒｏｍｅｇａ）を用い、製品の操作マニュアルに従って測定した。ホタルルシフェラーゼ由来の発光値をウミシイタケルシフェラーゼ由来の発光値で除した値ｆＬｕｃ／ｈＲｌｕｃを算出した。匂い物質刺激を与えた細胞で誘導されたｆＬｕｃ／ｈＲｌｕｃを、匂い物質刺激を与えなかった細胞でのｆＬｕｃ／ｈＲｌｕｃで割った値をｆｏｌｄ　ｉｎｃｒｅａｓｅとして算出し、応答強度の指標とした。

参考例３　匂い物質に対するＯＲ１０Ｇ４の応答
　参考例１、２記載の方法に従って匂い物質に対するＯＲ１０Ｇ４の応答を測定した。その結果、Ｅｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎ及びＧｕａｉａｃｏｌがどちらもＯＲ１０Ｇ４を活性化することを確認した（図１）。この結果は特許文献１における報告と一致する。

実施例１　口腔内の匂いによる嗅覚感受性の変動
　特許文献１には、Ｅｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎを予め嗅ぐことにより、その後に嗅いだＥｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎへの嗅覚感受性が鈍麻するだけでなく、交差順応によりＧｕａｉａｃｏｌへの嗅覚感受性も鈍麻することが報告されている。本実施例では、口臭、すなわち口腔内の匂いによって嗅覚に順応及び交差順応が引き起こされるのかを検証した。具体的には、口腔内にＥｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎを添加したときに、Ｅｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎやＧｕａｉａｃｏｌに対する嗅覚感受性が低下するのかを調べた。

１）方法
　０．５％（ｗ／ｗ）Ｅｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎ含有タブレット（０．５％ＥＶタブレット）を口に含み、舐め続けている状況下での嗅覚感受性の変動を調べた。嗅覚感受性を評価するための匂い物質には、Ｅｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎ、及びＥｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎと交差順応を引き起こすことが知られているＧｕａｉａｃｏｌを用いた。

（試験サンプルの調製）
　ガラス瓶（マルエムＮｏ．６）にＥｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎ（≧９８％、シグマアルドリッチ）２．０ｍｇを入れた。これをＥｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎ評価用試験サンプルとして用いた。また、Ｇｕａｉａｃｏｌ（＞９８％、東京化成工業株式会社）をミネラルオイルで希釈して１０ｐｐｍｖＧｕａｉａｃｏｌ溶液を調製し、この溶液２０μＬを直径約１０ｍｍの綿球（白十字株式会社、Ｎｏ．１０）に染み込ませ、ガラス瓶（マルエムＮｏ．６）に入れた。これをＧｕａｉａｃｏｌ評価用試験サンプルとして用いた。

（官能試験）
　官能試験は被験者３名で行った。試験では、被験者はまず、いずれかの試験サンプルを呈示され、該サンプルへの匂い感覚強度を評価した。次いで被験者は０．５％ＥＶタブレット５粒を舐め、その１分、３分、及び５分後の時点にそれぞれ再度同じ試験サンプルを呈示され、該サンプルへの匂い感覚強度を評価した。以上の手順を試験の１セットとした。２種類の試験サンプルについてそれぞれ１セットの試験を行った。対照として、被験者にＥｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎ非含有タブレット（０％ＥＶタブレット）を与えた以外は同様の手順で、２種類の試験サンプルへの匂い感覚強度を評価した。すなわち各被験者は計４セットの試験を実施した。セット間には少なくとも１５分のインターバルを設けた。匂い感覚強度の評価には、Ｖｉｓｕａｌ　ａｎａｌｏｇｕｅ　ｓｃａｌｅ（ＶＡＳ）を用いた。

　各試験サンプルについて、タブレット服用前の匂い感覚強度（ＶＡＳ値）を１００％としたときに対する、タブレット摂取後の１分、３分、及び５分後における匂い感覚強度（ＶＡＳ値）の相対値を求めた。各時点（摂取前、１、３、５分）における試験（０．５％ＥＶタブレット）条件と対照（０％ＥＶタブレット）条件との間の相対感覚強度の差を、２－ｗａｙ　ＡＮＯＶＡの後にＳｉｄａｋ法による多重比較検定により比較し、多重性調整済みｐ値を算出した。統計解析はＧｒａｐｈＰａｄ　ｐｒｉｓｍ　６（（有）エムデーエフ）を用いて行った。

２）結果
　官能試験の結果を図２に示す。Ｅｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎ含有タブレットを舐めることにより、Ｅｔｈｙｌｖａｎｉｌｌｉｎ非含有タブレットの条件と比べて統計学上有意なＥｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎへの匂い感覚強度の低下が認められた。さらにＥｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎとの交差順応を示す物質であるＧｕａｉａｃｏｌに対しても、Ｅｔｈｙｌ　ｖａｎｉｌｌｉｎ含有タブレットを舐めることによる匂い感覚強度の低下が認められた。これらの結果からは、外界からの鼻孔経由の匂いだけでなく、自身の口腔内に発生する匂いも、嗅上皮に到達して嗅覚に作用することができ、順応及び交差順応を引き起こして嗅覚感受性を低下させることが示唆された。

実施例２　腋臭による嗅覚感受性の変動
　本実施例では、腋臭によって嗅覚に順応が引き起こされるのかを検証した。具体的には、代表的な腋臭原因物質の一つである３－Ｍｅｔｈｙｌ－３－ｓｕｌｆａｎｙｌｈｅｘａｎ－１－ｏｌ（３Ｍ３ＳＨ）を着衣上の腋部に塗布し、その後取り除いたときの、３Ｍ３ＳＨに対する経時的な嗅覚感受性の変動を調べた。

１）方法
（サンプル調製）
　腋臭原因物質として３Ｍ３ＳＨを用いた。官能評価サンプルは、１３．５ｍＬ容バイアル瓶（マルエムＮｏ.５）に綿球（白十字株式会社、Ｎｏ．１０）を一つ入れ、そこに各希釈濃度の３Ｍ３ＳＨ溶液を１０μＬ添加することで準備した。３Ｍ３ＳＨ溶液は、溶媒はミネラルオイル（シグマアルドリッチ）を用い、濃度は０μＭ、１μＭ、３μＭ、１０μＭ、３０μＭ、１００μＭ、３００μＭを用意した。

（官能試験）
　官能試験は被験者２名で行った。被験者は市販の白衣（材質：ポリエステル６５％、綿３５％）を着用した。被験者は、まず低濃度サンプルから高濃度サンプルの順番で上記サンプルをそれぞれ嗅ぎ、感じられた匂い感覚強度を評価した。評価は「０：わからない」から「４：耐えられないほど強く感じる」まで、０．５刻み９段階にて評価した。その後、３Ｍ３ＳＨエタノール溶液（３μｇ/ｍＬ）を被験者の着衣（白衣）上の両脇部に１０μＬずつ添加した。この溶液添加１５分後に、上記官能評価を再度実施した。再度の官能評価直後に、再度３Ｍ３ＳＨエタノール溶液を上記と同様に着衣両脇部に添加し、この後１５分ごとに３Ｍ３ＳＨ溶液の着衣両脇部への添加を行い、３０分ごとに官能評価を行った。３Ｍ３ＳＨ溶液の添加時間が官能評価と重なるときは、官能評価直後に３Ｍ３ＳＨ溶液を着衣両脇部に添加した。試験開始９０分後に白衣を脱ぎ、３Ｍ３ＳＨ溶液添加を止めた。その後、試験開始１６５分後の回まで官能評価を実施して、試験を終了した。なお、着衣に塗布する３Ｍ３ＳＨ量は一時間あたり２４０ｎｇに設定した。先行研究（J Invest Dermatol.2010,130(2):529-40）では、３０分間に両腋から捕集された３Ｍ３ＳＨ前駆体の最大値は０．０５１μｍｏｌと示されている。別の先行研究（FEMS Microbiol Lett. 2015,362(16):fnv111）には、Ｉｎ　ｖｉｔｒｏの結果ではあるが、２４時間あたりの３Ｍ３ＳＨ前駆体から３Ｍ３ＳＨへの代謝効率の最大値は４４．６％であることが示されている。上記の情報から計算すると、最大で一時間あたり約２８１ｎｇの３Ｍ３ＳＨが両腋から産生されると見積もることができた。したがって本実施例では、一時間あたり２４０ｎｇの３Ｍ３ＳＨを腋部に塗布することで、実生活場面とかけ離れることのない実験条件に設定した。

２）結果
　３Ｍ３ＳＨの匂い感覚強度の経時変化を図３に示す。３Ｍ３ＳＨの脇部への塗布１５分後には、サンプルから感じられる３Ｍ３ＳＨの匂い強度が低下した。さらに、３Ｍ３ＳＨサンプルに対して低下した嗅覚は、腋部の３Ｍ３ＳＨを取り除くと少なくとも１５分から４５分で回復した。以上より、口臭だけでなく、腋臭を含めた体臭によって特定の匂い物質に対する嗅覚感受性が調節されること、そして腋臭をはじめとする体臭を取り除くことによって該特定の匂い物質に対する嗅覚感受性が向上することが示唆された。

実施例３　口臭物質を認識する嗅覚受容体とそのリガンド選択性
　実施例１に示されるとおり、口腔内の匂い物質は、嗅上皮に作用して嗅覚感受性を低下させる。一方で、口腔内には多様な口臭物質が存在している。表３には、先行研究で報告されている口臭物質（J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci, 2007, 853(1-2):54-61）と、それらに対する先行研究（US9914760B2、J Neurosci, 2009, 29(1):153-158、Sci Data, 2015, 2:150002、PLoS Biol, 2007, 30, 5(11):e284、PLoS One, 2013, 8(2):e54950）及び本研究（図４）により見出されたヒトの嗅覚受容体を示す。

実施例４　口腔ケアによる嗅覚感受性の回復
１）口臭物質に対する受容体応答
　本実施例では、口腔ケアにより口臭物質を減少させた後、口臭物質及び口臭物質ではない他の匂い物質に対して嗅覚感受性が回復するかを調べた。代表的な口臭物質としてＩｎｄｏｌｅ（J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci, 2007, 853(1-2):54-61）を、口臭物質ではない他の匂い物質としてＦｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎとＭｕｓｃｏｎｅを用いた。参考例１、２記載の方法に従いこれらの匂い物質に対する嗅覚受容体応答を測定した結果、Ｉｎｄｏｌｅ受容体ＯＲ４Ｓ２は、Ｆｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎによって活性化されるが、Ｍｕｓｃｏｎｅによって活性化されないことが判明した（図５）。

　Ｍｕｓｃｏｎｅは、主にＯＲ５ＡＮ１を介して認識される（特許文献１）が、一方ＯＲ５ＡＮ１を活性化する口臭物質は現在のところ見出されていない（表３）。したがって、口腔ケア後の口腔内でＩｎｄｏｌｅを含む口臭物質が減少した場合、ＯＲ５ＡＮ１の応答性には変化が起こらないがＯＲ４Ｓ２の応答性は回復し、それによりＭｕｓｃｏｎｅに対する嗅覚感受性は変化せず、Ｉｎｄｏｌｅ及びＦｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎに対する嗅覚感受性が上昇することが予測された。

２）嗅覚感受性の評価
　官能試験により口腔ケア前後の嗅覚感受性を評価した。実験スキームを図６Ａに示すとともに、以下詳細に記述する。官能試験は被験者１４名で行った。当日、被験者に起床後一切の飲食を制限し、歯磨きを含む口腔ケアを禁止した。試験は午前８時から９時３０分の間に開始した。初めに被験者から呼気を捕集した。次いで官能試験により、各匂い物質の検知閾値濃度を測定した。その後、被験者は指定の朝食を摂り、その後、口腔ケア（市販の歯ブラシと歯磨剤を用いた５分間の歯磨き、及び市販の洗口液を用いた３０秒間の洗口）を実施した。該口腔ケア後１０分及び１時間それぞれの時点で、被験者の呼気の捕集、及び各匂い物質の検知閾値濃度を測定した。

（呼気内物質測定）
　被験者は大気捕集用サンプリングバッグ（ジーエルサイエンス株式会社、ＰＡ　ＡＡ－２）に呼気を封入した。呼気サンプルは室温にて保存し、その日のうちに分析に供した。サンプリングバッグ内にＳｏｌｉｄ　Ｐｈａｓｅ　Ｍｉｃｒｏ　Ｅｘｔｒａｃｔｉｏｎ（ＳＰＭＥ）ファイバー（ＳＰＥＬＣＯ、ＰＤＭＳ／ＤＶＢ）を露出させ呼気物質を１時間捕集した。ＳＰＭＥ－ＧＣ／ＭＳにて呼気内Ｉｎｄｏｌｅ濃度を算出した。口腔ケア前後におけるＩｎｄｏｌｅ濃度をＷｉｌｃｏｘｏｎ　ｓｉｇｎｅｄ－ｒａｎｋ　ｔｅｓｔにより比較し、ｐ値を算出した。統計解析はＲソフトウェア（Ｖｅｒ．３．６．０）を用いて行った。
＜ＧＣ／ＭＳ条件＞
　ＧＣ　　　　　　　：７８９０Ａ（アジレント・テクノロジー株式会社）
　注入条件　　　　　：Ｓｐｌｉｔｌｅｓｓ
　カラム　　　　　　：ＶＦ－ＷＡＸｍｓ
　キャリアガス　　　：ヘリウム
　Ｏｖｅｎ　ｔｅｍｐ：４０℃（４ｍｉｎ　ｈｏｌｄ）→６℃／ｍｉｎ．で昇温→２４０℃（２ｍｉｎ　ｈｏｌｄ）
　ＭＳ　　　　　　　：５９７５Ｃ（アジレント・テクノロジー株式会社）

（匂いサンプル）
　バイアル瓶（マルエム、Ｎｏ．２）に入れた１ｍＬの匂い物質溶液を匂いサンプルとして用いた。匂い物質溶液には、Ｍｕｓｃｏｎｅ、Ｉｎｄｏｌｅ、及びＦｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎについてそれぞれ１０００ｐｐｍ、１ｍＭ、及び１０ｐｐｂを最高濃度とした２０段階の２倍希釈系列を調製した。溶媒はいずれもミネラルオイル（シグマアルドリッチ）を用いた。ブランクにはミネラルオイルを１ｍＬ入れたバイアルを用いた。

（検知閾値濃度の測定）
　一回の試験は、Ｍｕｓｃｏｎｅ、Ｉｎｄｏｌｅ、及びＦｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎのうち２種類の匂い物質について実施した。被験者にブランクバイアル２つと、匂いサンプルのバイアル１つ、計３つのバイアルを呈示した。試験参加者はバイアルの匂いを嗅ぎ、匂い溶液の入ったバイアルを選択した。試験は３番目に低濃度の匂いサンプルから開始した。一度でも選択が不正解又は選択できなかった場合は、一段階高濃度の匂いサンプルで同様の試行を行い、二回連続で正解した場合は、一段階低濃度の匂いサンプルで同様の試行を行った。新たな濃度の匂いサンプルで二回連続正解した場合は、さらに一段階低濃度の匂いサンプルにて試験し、一度でも正解できなかった場合は、その濃度より一段階高濃度の匂いサンプルにて試験した。高濃度から低濃度、及び低濃度から高濃度への切り替えを計７回記録した後、後半４回の濃度の平均値を検知閾値濃度とした。口腔ケア前後における各匂い物質の検知閾値濃度をＷｉｌｃｏｘｏｎ　ｓｉｇｎｅｄ－ｒａｎｋ　ｔｅｓｔにより比較し、ｐ値を算出した。統計解析はＲソフトウェア（Ｖｅｒ．３．６．０）を用いて行った。

３）結果
（呼気内物質濃度）
　呼気中Ｉｎｄｏｌｅ濃度を図６Ｂに示す。Ｉｎｄｏｌｅは全ての被験者から検出され、口腔ケア前と比較して口腔ケア１時間後ではＩｎｄｏｌｅ濃度が有意に低下していた。この結果は口腔ケアにより呼気中の口臭物質が取り除かれたことを表す。なおＭｕｓｃｏｎｅ及びＦｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎは、口腔ケア前後において非検出であり、この結果は、口臭物質を分析した従来の多数の研究におけるＭｕｓｃｏｎｅとＦｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎが検出されていないという報告と合致した。

（嗅覚感受性の変動）
　口腔ケア前後での官能評価による検知閾値濃度測定の結果を図７に示す。Ｍｕｓｃｏｎｅに対する嗅覚感受性は口腔ケア前及び１時間後において統計学上有意な差はなかった（図７Ａ左）。これは、Ｍｕｓｃｏｎｅ、及びＭｕｓｃｏｎｅ受容体ＯＲ５ＡＮ１を活性化する物質の両者がそもそも口臭物質に含まれていないため、口腔ケアにより口臭物質が減少してもＯＲ５ＡＮ１の応答性に変化が生じないためと考えられた。一方で、口臭物質であるＩｎｄｏｌｅに対する嗅覚感受性は、口腔ケア前と比較して口腔ケア１時間後で統計学上有意に向上した（図７Ａ中）。Ｉｎｄｏｌｅ感受性の上昇は被験者全員に認められた。なおＩｎｄｏｌｅ検知閾値濃度は、口腔ケア前と比べて、平均として口腔ケア１時間後には１／８倍（図７Ａ中）、口腔ケア１０分後には１／１６倍に低下した（図７Ｂ）。また、Ｉｎｄｏｌｅ嗅覚受容体ＯＲ４Ｓ２を活性化するＦｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎは、口臭物質ではないにもかかわらず、口腔ケア前と比較し口腔ケア１時間後は統計学上有意に感受性が向上し、この感受性向上は被験者全員に認められた（図７Ａ右）。したがって、口腔内のＩｎｄｏｌｅの減少に伴いＯＲ４Ｓ２の応答性が回復し、ＯＲ４Ｓ２を活性化するＩｎｄｏｌｅとＦｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎ双方に対する嗅覚感受性が向上したと考えられた。

　口臭は口腔内に常に存在することから、これまで、個体の嗅覚は口臭に対して長期的な順応を起こしていることが推測されていた。長期的な順応からの回復には順応期間と同等の長時間を要するため（非特許文献２～４）、口臭を取り除いてからそれに対する嗅覚感受性が回復するまでには長時間を要することが予測されていた。これに対し、本実施例の結果は、口臭という最も身近な匂いへの順応が、わずか１０分又は１時間の非曝露時間のうちに明確なレベルで回復することを初めて示した。これは、長期的な匂いの曝露による順応から回復するためには長時間の非曝露時間が必要であるという理解に基づく、上記従来の予測に反する発見である。さらに、本実施例の結果から、どのような匂い物質に対して口腔ケア後短時間で嗅覚感受性が上昇するかは、「口臭物質に応答する嗅覚受容体が認識する物質」という観点から予測できることが判明した。

実施例５　口腔ケアによるコーヒー風味感受性の向上
　Ｆｕｒｆｕｒｙｌ　ｍｅｒｃａｐｔａｎはコーヒーの主要な香気成分である。口腔ケアによって口臭を減らした場合に、コーヒー風味をより豊かに感じるようになるのかを検証した。

１）方法
　官能試験は被験者３名で行った。試験は連続した二日間に実施し、両日とも午前８時４０分から開始した。試験当日、被験者に起床後一切の飲食を制限し、歯磨きを含む口腔ケアを禁止した。一日目は、被験者に約８０℃に調整した市販のインスタントコーヒー約１５０ｍＬを呈示し、官能評価させた。二日目は、コーヒー官能評価前に、被験者は２分間市販の歯ブラシと歯磨剤を用いた口腔ケアを行った後、５分間休憩をとった。次いで一日目と同様に、被験者に約８０℃に調整した市販のインスタントコーヒー約１５０ｍＬを呈示し、官能評価させた。一日目と二日目のスコアを比較した。

（官能評価）
　コーヒーは風味を損なわないように官能評価直前に調製した。コーヒーの官能評価前に被験者はまず一口の水を飲み、その後、コーヒーを試飲し、官能評価アンケートに回答した。官能評価アンケートでは、被験者は、コーヒーの「香りの強さ」、「苦味の強さ」、「酸味の強さ」、「甘味の強さ」、「コクの強さ」、「後味の強さ」及び「コーヒー感の強さ」について、５件法（１；感じない、２；あまり感じない、３；感じる、４；強く感じる、５；非常に強く感じる）を用いて評価した。３名の評価の平均値を求めた。

２）結果
　官能評価の結果を図８に示す。口腔ケアなしの場合に対して口腔ケアありの場合のほうがコーヒー風味を強く感じている傾向が見出された。したがって、口臭を減少させることによる嗅覚感受性の向上は、日常生活における香りの印象に明確に影響するほど顕著なものであることが示された。

実施例６　口臭物質とそれに応答する嗅覚受容体群
　表３に示したとおり、口腔内には多様な口臭物質が存在し、またそれらに応答する嗅覚受容体も数多く存在する。例えば、表３の＃２２　Ｂｕｔｙｒｉｃ　ａｃｉｄは、肝機能障害に伴い増加する口臭物質として考えられており、かつＯＲ５１Ｄ１、ＯＲ５１Ｄ１４、ＯＲ２Ｔ１、ＯＲ５Ａｌ１、及びＯＲ７Ｇ２によって認識される。したがって、口腔内の口臭物質を減少させることは、これら嗅覚受容体の感受性を短時間で向上させる結果をもたらすと考えられる。

　さらに実施例３～４で示したように、口臭受容体群の応答性向上は、口臭物質以外の様々な匂い物質への感受性向上につながる。例えば、図９に、参考例１、２記載の方法に従い調べた、４つのＩｎｄｏｌｅ受容体ＯＲ４Ｓ２、ＯＲ５Ｐ３、ＯＲ２Ｗ１及びＯＲ１Ａ１についてのリガンドスペクトルを示す。ＯＲ４Ｓ２は化学構造的にスルフィド類とチオール類に分類される匂い物質で活性化することから、口腔ケアによるＯＲ４Ｓ２応答性の向上はこれら分類の匂い物質に対する感受性を鋭敏にすることにつながると考えられる。また、ＯＲ２Ｗ１はスルフィド類を除く幅広い匂い物質の認識に関わり得るものであることから、口腔ケアによりＯＲ２Ｗ１の感受性が向上することは、それら幅広い匂い物質の感受性に関与するものと思われる。口臭以外の体臭についても同様に、体臭ケアによって該体臭に応答する嗅覚受容体の応答性を向上させることで、それら嗅覚受容体が応答する幅広い匂い物質に対する嗅覚感受性の向上をもたらすと考えられる。

Claims

　被験者の体臭を低減させることを含む、即時性に該被験者の嗅覚感受性を向上させる方法。
　前記被験者の身体又は衣服から体臭の原因物質を除去することを含む、請求項１記載の方法。
　前記体臭が口臭である、請求項１又は２記載の方法。
　口腔内を洗浄することを含む、請求項３記載の方法。
　前記嗅覚感受性がコーヒー風味感受性である、請求項３又は４記載の方法。
　前記体臭が脇臭である、請求項１又は２記載の方法。
　脇部を洗浄することを含む、請求項６記載の方法。
　体臭原因物質を除去する物質を特定することを含む、即時性の嗅覚感受性向上剤の選択方法。
　前記特定された体臭原因物質を除去する物質の嗅覚感受性向上作用を官能評価することをさらに含む、請求項８記載の方法。
　被験者の嗅覚感受性を測定することを含む、体臭評価方法。
　前記体臭が口臭である、請求項１０記載の方法。
　前記嗅覚感受性がフルフリルメルカプタン又はコーヒー風味感受性である、請求項１１記載の方法。
　前記体臭が脇臭である、請求項１０記載の方法。
　被験者の嗅覚感受性を測定する手段を含む、体臭評価用キット。
　前記体臭が口臭である、請求項１４記載のキット。
　前記嗅覚感受性がフルフリルメルカプタン又はコーヒー風味感受性である、請求項１５記載のキット。
　前記体臭が口臭である、請求項１４記載のキット。
　口腔内から口臭原因物質を除去するための物質の、即時性の嗅覚感受性向上のための使用。
　前記嗅覚感受性がコーヒー風味感受性である、請求項１８記載の使用。
　フルフリルメルカプタン又はコーヒー風味の口臭評価のための使用。
　身体から脇臭原因物質を除去するための物質の、即時性の嗅覚感受性向上のための使用。