まず、図1を用いて本発明の実施の形態に係る一例としての動力伝達装置の全体的な構成を説明する。
図1に示すように、動力伝達装置1は、デフケース3と、ピニオン組5と、一対のサイドギヤ7,9とからなる差動機構11を備え、この差動機構11の差動を断続する断続機構13を有するデファレンシャル装置となっている。
デフケース3は、軸方向両側に形成されたボス部15,17でそれぞれベアリング19(片側のベアリングは不図示)を介してキャリアなどの静止系部材(不図示)に回転可能に支持されている。
このデフケース3には、リングギヤ(不図示)が固定されるフランジ部21が形成され、リングギヤが駆動力を伝達する、例えば、プロペラシャフトなどの入力側の機構に一体回転可能に連結された動力伝達ギヤ(不図示)と噛み合い、駆動力が伝達されてデフケース3を回転駆動させる。
このようなデフケース3内には、軸方向に設けられたピニオン収容孔23,25にピニオン27,29が収容され、中央部に一対のサイドギヤ7,9が収容され、側壁側に断続機構13の断続部材31が収容され、デフケース3に伝達された駆動力が各収容部材に伝達される。
ピニオン27,29は、円筒状に形成されたヘリカルギヤからなり、長短2つのピニオン27,29でピニオン組5を構成し、複数のピニオン組5がデフケース3の複数のピニオン収容孔23,25にそれぞれ収容されている。
ピニオン組5のうち短いピニオン27は、第1ギヤ部33と第2ギヤ部35とからなる。第1ギヤ部33は、サイドギヤ7と噛み合う。第2ギヤ部35は、サイドギヤ7のボス部の外径側に位置され、ピニオン29の第3ギヤ部37と噛み合う。
ピニオン組5のうち長いピニオン29は、第3ギヤ部37と軸部39と第4ギヤ部41とからなる。第3ギヤ部37は、ピニオン27の第2ギヤ部35と噛み合う。軸部39は、第3ギヤ部37と第4ギヤ部41との間に第3ギヤ部37及び第4ギヤ部41よりも小径に形成され、サイドギヤ7との干渉を防止する。第4ギヤ部41は、サイドギヤ9と噛み合う。
このピニオン組5を構成するピニオン27,29は、デフケース3のピニオン収容孔23,25にそれぞれ収容されてデフケース3の回転によって公転する。
このようなピニオン組5は、一対のサイドギヤ7,9に駆動力を伝達すると共に、噛み合っている一対のサイドギヤ7,9に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオン収容孔23,25に自転可能にそれぞれの歯先面をピニオン収容孔23,25の内壁面に摩擦摺動させるように収容されている。
すなわち、デフケース3に入力する駆動トルクの大きさによって、ピニオン組5と一対のサイドギヤ7,9との噛み合い反力の大きさが変化し、ピニオン組5の歯先面とデフケース3のピニオン収容孔23,25の内壁面との間には摩擦力の大きさが変化するトルク感応型の差動制限機能を生じる。
一対のサイドギヤ7,9は、デフケース3内にそれぞれのボス部で相対回転可能に支持され、ピニオン組5と噛み合っている。また、サイドギヤ7とデフケース3との軸方向間、一対のサイドギヤ7,9間及びサイドギヤ9とデフケース3との軸方向間には、サイドギヤ7,9とピニオン組5との噛み合い反力によって発生するサイドギヤ7,9の軸方向への移動を受けるスラストワッシャ43,45,47が配置されている。
これらのスラストワッシャ43,45,47は、サイドギヤ7,9に生じるスラスト力(噛み合い反力)によって摩擦力が生じ、トルク感応型の差動制限機能を増大させている。
この一対のサイドギヤ7,9は、内周側にスプライン形状の連結部49,51が設けられ、例えば、左右の車輪などの出力側の機構に連結された駆動軸(不図示)がサイドギヤ7,9と一体回転可能に連結され、デフケース3に入力された駆動力を左右の出力側の機構に出力する。
このような一対のサイドギヤ7,9における差動は、断続機構13の接続によってロック状態とされ、一対のサイドギヤ7,9に伝達された駆動力が左右の出力側の機構に均一に出力される。
このように差動機構11の差動を断続する断続機構13を有する動力伝達装置1は、いわゆるデフロック機能を有するデファレンシャル装置となっている。この断続機構13は、断続部材31と、断続部53と、可動部材55と、電磁石57とを備えている。
断続部材31は、デフケース3の内部に収容される基部59が環状に形成され、この基部59の外周面がデフケース3の側壁の凹部に形成された内周支持面に対して径方向に支持されている。
この断続部材31は、サイドギヤ9の側面側にサイドギヤ9と一体回転可能に固定されたクラッチ部61とデフケース3の側壁との軸方向の間に軸方向移動可能に配置されている。
このような断続部材31は、周方向に複数の係合凸部63が設けられ、デフケース3の側壁の回転方向間で軸方向外方に向けて開口して設けられた複数の係合部65に係合して断続部材31がデフケース3に回り止めされ、デフケース3と一体回転可能に配置されている。
なお、係合凸部63と係合部65の回転方向の対向面には同一傾斜のカム面が形成されており、断続部材31が断続部53の接続方向に移動されたときに断続部53の接続が強化されている。
この断続部材31とサイドギヤ9の側面側に設けられたクラッチ部61との間には、互いに軸方向に対向して設けられた噛み合い歯を備えた断続部53が設けられている。
断続部53は、断続部材31に形成された噛み合い歯と、サイドギヤ9の側面側に設けられたクラッチ部61に形成された噛み合い歯とで構成されている。
この断続部53が噛み合うと、断続部53が接続状態となり、断続部材31とサイドギヤ9とが一体回転可能に接続、すなわちデフケース3とサイドギヤ9とが一体回転可能に接続され、差動機構11がデフロック状態となる。
一方、断続部材31とクラッチ部61との軸方向間で断続部53の径方向内側には、リターンスプリング67が設けられ、断続部材31を断続部53の接続解除方向に付勢している。
このリターンスプリング67によって、断続部53の噛み合いが解除され、断続部53の接続が解除状態となり、デフケース3とサイドギヤ9とが相対回転可能とされ、差動機構11のデフロック状態が解除される。
このような断続部53の断続状態は、リターンスプリング67に加えて、可動部材55と、可動部材55を移動操作する電磁石57とによって断続操作される。
可動部材55は、電磁石57の内径側で電磁石57と一体的に設けられた非磁性材料からなる環状の支持部69の外周に軸方向移動可能に配置されると共に、径方向の移動が規制されるように支持部69に支持され、環状の磁束透過部71と、環状の移動操作部73とを備えている。
磁束透過部71は、磁性材料から環状に形成され、磁束が透過可能に設定された微小隙間であるエアギャップをもって電磁石57の内径側に配置されている。この磁束透過部71の内周には、移動操作部73が一体に固定されている。
移動操作部73は、非磁性材料から環状に形成され、磁束透過部71の内周側からデフケース3側に磁束が漏れることを防止している。この移動操作部73は、非磁性材料からなる支持部69の外周上に軸方向移動可能に配置され、さらにデフケース3側へ磁束が漏れることを防止している。
このような移動操作部73の断続部材31側の端面は、断続部材31の係合凸部63に固定された連動部材75と当接可能に配置され、磁束透過部71の軸方向への移動により連動部材75を押圧し、連動部材75を介してリターンスプリング67の付勢力に抗して断続部材31を押圧操作する。この可動部材55は、電磁石57によって移動操作される。
電磁石57は、内径側に一体に設けられた非磁性材料からなる環状の支持部69の内周面がデフケース3のボス部17の外周面と摺動することによってデフケース3に対して径方向に支持され、電磁コイル77と、コア79とを備えている。
ここで、電磁石57とは、電磁コイル77とコア79だけでなく、コア79の内径側に一体に設けられた支持部69も含み、以下では電磁コイル77とコア79と支持部69とを合わせて電磁石57と称するものとする。
電磁コイル77は、環状に所定巻き数巻回されて樹脂でモールド成形されている。また、電磁コイル77には、リード線(不図示)が接続され、このリード線を介して通電を制御するコントローラ(不図示)に接続されている。
コア79は、電磁コイル77への通電により磁界が形成されるように磁性材料から形成され、所定の磁路断面積を有している。このコア79は、内径側で可動部材55の磁束透過部71との間で磁束の受け渡しが可能なように電磁コイル77の周囲を覆っている。
この電磁石57は、電磁コイル77への通電によりコア79と可動部材55の磁束透過部71とを磁束が透過することによって自己完結型の磁束ループを形成し、可動部材55を断続部53の接続方向へ移動させる。
このような電磁石57は、コア79の軸方向の端面に一体に設けられた回り止め部材(不図示)がキャリアなどの静止系部材に係合することにより、静止系部材に対して回り止めされている。
ここで、電磁石57は、支持部69のデフケース3側の軸方向端面がデフケース3のボス部17に形成された段差部に当接可能に配置され、軸方向の一方側(ここでは、デフケース3側に向かう方向)への移動が規制されるように位置決めされている。
一方、電磁石57は、支持部69のベアリング19側の軸方向端面がベアリング19のインナレースに当接可能に配置され、軸方向の他方側(ここでは、ベアリング19側に向かう方向)への移動が規制されるように位置決めされている。
このように構成された動力伝達装置1では、電磁石57の励磁によりコア79と磁束透過部71とを透過する磁束で形成される自己完結型の最短の磁束ループを有効に用いることによって、磁束透過部71が断続部材31側に移動操作され、移動操作部73の端面が断続部材31と連動する連動部材75を押圧する。
この可動部材55による断続部材31の押圧操作により、断続部材31がリターンスプリング67の付勢力に抗して断続部53の接続方向に移動され、断続部53が接続される。この断続部53の接続により、デフケース3とサイドギヤ9とが接続されて差動機構11がデフロック状態となる。
なお、連動部材75の外径側には、断続部53の断続状況を検出するポジションスイッチ(不図示)をON/OFF操作する操作部(不図示)が配置されており、この操作部に連動部材75の外径側が係合されている。
このように連動部材75をポジションスイッチの操作部に係合させることにより、連動部材75の軸方向移動によって操作部がON/OFF操作され、このポジションスイッチの断続状況を検出することにより、断続部53の断続状況、すなわち動力伝達装置1における差動機構11がデフロック状態であるか否かを検出することができる。
このような動力伝達装置1において、電磁石57は、デフケース3がベアリング19によって支持されている場合、このベアリング19によって軸方向の他方側(デフケース3から脱落する方向)への移動が規制されている。
しかしながら、例えば、デフケース3に電磁石57が組付けられて搬送されるときのようなデフケース3がベアリング19によって支持されていない場合、電磁石57は、軸方向の他方側へ移動することができ、搬送時などに電磁石57がデフケース3から脱落してしまう恐れがあった。
そこで、デフケース3と電磁石57との間には、電磁石57の軸方向移動を規制する規制部材85が配置されている。以下、図1〜図10を用いて規制部材85を含めた動力伝達装置について詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1〜図8を用いて第1実施形態について説明する。
本実施の形態に係る動力伝達装置1は、上述したように、相対回転可能に配置された一対の回転部材としてのデフケース3とサイドギヤ9と、一方の回転部材としてのデフケース3に軸方向移動可能で一体回転可能に連結された断続部材31と、この断続部材31と他方の回転部材としてのサイドギヤ9との間に設けられデフケース3とサイドギヤ9との動力伝達を断続する断続部53と、デフケース3の外周に配置され断続部材31の軸方向移動を操作する電磁石57とを備えている。
そして、デフケース3と電磁石57との径方向間には、電磁石57の軸方向の範囲内で電磁石57の軸方向移動を規制する規制部材85が配置されている。
また、規制部材85は、電磁石57との軸方向間に隙間をもって配置されている。
さらに、規制部材85は、電磁石57との径方向間に隙間をもって配置されている。
また、デフケース3は、第1ベアリングとしてのベアリング19により径方向に支持され、電磁石57は、デフケース3とベアリング19とにより軸方向両方向への移動が規制されている。
図1,図2に示すように、電磁石57は、上述したように、支持部69の軸方向両端面がそれぞれデフケース3のボス部17に形成された段差部と、ベアリング19のインナレースとに当接可能に配置され、軸方向両方向への移動が規制されるように位置決めされている。
このようにデフケース3とベアリング19とによって電磁石57の軸方向両方向への移動を規制することにより、デフケース3に対して電磁石57を安定して配置させることができ、断続部53の断続特性を安定化することができる。
このような電磁石57は、搬送時などのデフケース3がベアリング19によって支持されていない状態で、規制部材85によってデフケース3からの脱落が防止されている。
規制部材85は、スナップリング機能を有するように環状に形成され、デフケース3のボス部17の外周に形成された係合凹部87に内周側が係合されている。この規制部材85と係合凹部87とは、電磁石57の軸方向の範囲内に位置している。
ここで、電磁石57の軸方向の範囲内とは、コア79と一体に形成された支持部69を含めた軸方向の範囲内を意味しており、ここでは、規制部材85と係合凹部87とが支持部69の軸方向の範囲内に位置されている。
このように規制部材85と係合凹部87とを電磁石57の軸方向の範囲内に配置させることにより、規制部材85が係合される係合凹部87が電磁石57から軸方向に張り出すことがなく、デフケース3が大型化することがない。
加えて、電磁石57のベアリング19側の端面に当接するワッシャなどをデフケース3のボス部17に圧入させる必要がなく、ワッシャなどを設けるためのスペースや圧入のようなシビアな設定をする必要がない。
このような電磁石57の軸方向の範囲内に形成された係合凹部87に係合された規制部材85は、外周側が電磁石57の内周側に係合される。
電磁石57の支持部69の規制部材85と径方向に対向する部分には、支持部69の軸方向の端面に向けて開口された溝部89が設けられている。
溝部89は、電磁石57がデフケース3のボス部17上に配置され、電磁石57にベアリング19が当接した状態で、規制部材85の外周側との軸方向間に隙間をもって配置されると共に、規制部材85の外周側との径方向間にも隙間をもって配置されている。
このため、動力伝達装置1が車両に搭載され、デフケース3が回転している状態では、規制部材85が電磁石57の軸方向移動を規制することがなく、デフケース3の回転に伴う電磁石57の荷重が規制部材85に入力されることがない。
従って、電磁石57の軸方向の位置がデフケース3とベアリング19とで位置決めされている場合には、規制部材85に荷重が入力されることがないので、規制部材85の材質や形状をシビアに設定する必要がなく、規制部材85を低コスト化することができる。
一方、溝部89は、搬送時などの電磁石57にベアリング19が当接していない場合、電磁石57がデフケース3から脱落する方向に軸方向移動しようとしたとき、規制部材85の外周側と当接し、電磁石57の軸方向移動を規制してデフケース3からの電磁石57の脱落を防止する。
ここで、溝部89の規制部材85と当接する底部側には、電磁石57のデフケース3から脱落する方向に向けてテーパ部91が設けられている。
このテーパ部91は、搬送時などにおける規制部材85の外周側との当接では規制部材85を変形させることがないが、電磁石57をデフケース3から取り外すときのような所定以上の力が加わったときに、規制部材85の外周側を内周側に向けて縮径させるように規制部材85を変形させ、電磁石57のデフケース3からの取り外しを容易にさせて組付性を向上させる。
このような規制部材85が組付けられたデフケース3への電磁石57の組付けは、デフケース3のボス部17に対して電磁石57の支持部69を挿入し、支持部69の内周で規制部材85を係合凹部87内に収容するように縮径させる。
そして、電磁石57の支持部69がデフケース3のボス部17の段差部に当接するまで電磁石57を挿入することにより、規制部材85が復元し、規制部材85の外周側が溝部89内に配置される。
このように規制部材85を溝部89内に配置させることにより、搬送時などの電磁石57にベアリング19が当接していない場合には、規制部材85と溝部89の底部側とが当接することによって、電磁石57の軸方向移動を規制することができ、デフケース3からの電磁石57の脱落を防止することができる。
ここで、図3,図4に示すように、規制部材85が配置される電磁石57の支持部69に形成された溝部89は、支持部69の軸方向の端面に向けて開口させずに設けた溝部89aとしてもよい。
溝部89aは、電磁石57がデフケース3のボス部17上に配置され、電磁石57にベアリング19が当接した状態で、規制部材85の外周側との軸方向間にそれぞれ隙間をもって配置されると共に、規制部材85の外周側との径方向間にも隙間をもって配置されている。
このため、このような溝部89aであっても、電磁石57の軸方向の位置がデフケース3とベアリング19とで位置決めされている場合には、規制部材85に荷重が入力されることがなく、規制部材85を低コスト化することができる。
加えて、溝部89aは、支持部69のベアリング19側の端面に向けて開口されていないので、ベアリング19側の肉部によって電磁石57をデフケース3のボス部17上に径方向に支持することができ、電磁石57の支持を安定化することができる。
ここで、図5,図6に示すように、電磁石57の支持部69とベアリング19のインナレースとの軸方向間にフローティングワッシャ93を配置させ、電磁石57の軸方向のベアリング19側への移動を規制してもよい。
このフローティングワッシャ93は、デフケース3のボス部17の外周にベアリング19を配置させる前に、デフケース3のボス部17の外周に隙間バメによって挿通して支持部69と当接して配置された後、ベアリング19が配置されることにより電磁石57とベアリング19との軸方向間に配置される。
このように電磁石57とベアリング19との軸方向間にフローティングワッシャ93を配置することにより、電磁石57とベアリング19とが、直接、摺動することを防止でき、ベアリング19の耐久性を向上することができる。
加えて、フローティングワッシャ93は、デフケース3のボス部17の外周に隙間バメによって配置されるので、圧入のようなシビアな設定をする必要がなく、容易にフローティングワッシャ93を配置することができる。
一方、図7,図8に示すように、フローティングワッシャ93aを電磁石57の支持部69とベアリング19のインナレースとの軸方向間に位置するように、電磁石57の支持部69に溶接などによって一体に設けてもよい。
このようにフローティングワッシャ93aと電磁石57とを一体に設けることにより、部品点数を削減することができると共に、フローティングワッシャ93aを組付ける工数も削減でき、組付性を向上することができる。
このような動力伝達装置1では、デフケース3と電磁石57との径方向間に、電磁石57の軸方向の範囲内で電磁石57の軸方向移動を規制する規制部材85が配置されているので、規制部材85が電磁石57の軸方向の端面から軸方向外方に向けて張り出すことがなく、デフケース3の電磁石57の軸方向外方に規制部材85を配置させるための部分を設ける必要がない。
従って、このような動力伝達装置1では、電磁石57の軸方向移動を規制する規制部材85が電磁石57の軸方向の範囲内に配置されているので、大型化することなく、電磁石57の脱落を防止することができる。
また、規制部材85は、電磁石57との軸方向間に隙間をもって配置されているので、デフケース3が回転しているときに、電磁石57の軸方向移動による荷重が規制部材85に入力されることがなく、規制部材85によって搬送時における電磁石57の軸方向移動を安定して規制することができる。
さらに、規制部材85は、電磁石57との径方向間に隙間をもって配置されているので、規制部材85と電磁石57とが摺動することがなく、規制部材85の耐久性を向上することができる。
また、電磁石57は、デフケース3とベアリング19とにより軸方向両方向への移動が規制されているので、デフケース3がベアリング19によって支持されている場合、規制部材85が電磁石57の軸方向移動を規制することがなく、規制部材85の剛性を低減するなどして規制部材85を低コスト化することができる。
(第2実施形態)
図9,図10を用いて第2実施形態について説明する。
本実施の形態に係る動力伝達装置101は、規制部材85が、一方の回転部材としてのデフケース3に設けられた油路103の開口に配置されている。
また、電磁石57は、デフケース3の外周に支持される支持部107を有し、支持部107は、磁性材料からなりデフケース3の外周側に配置され軸方向に延設された軸方向部109と、この軸方向部109から径方向に突設された径方向部111とを有する。
さらに、支持部107とベアリング19との軸方向間には、磁性材料からなるソレノイドワッシャ113が配置されている。
そして、支持部107の径方向部111には、径方向部111を軸方向に貫通するスリット115が設けられ、ソレノイドワッシャ113は、外径がスリット115の内径より径方向内側に配置されている。
なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して構成及び機能説明は第1実施形態を参照するものとし省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、得られる効果は同一である。
図9,図10に示すように、デフケース3のボス部17には、周方向等間隔にボス部17の内周と外周とを連通する複数の油路103が設けられている。
油路103は、デフケース3の内部に流入された潤滑油をデフケース3の回転によりボス部17の外周に配置された電磁石57側に向けて流出させる。
この油路103の電磁石57側の開口には、規制部材85の内周側が係合されており、この規制部材85と油路103とは、電磁石57の軸方向の範囲内に位置している。
このような規制部材85と径方向に対向する電磁石57の支持部69には、周方向に連続して溝部105が設けられている。
溝部105は、電磁石57がデフケース3のボス部17上に配置され、電磁石57にベアリング19(図1参照)が当接した状態で、規制部材85の外周側との軸方向間に隙間をもって配置されている。なお、溝部105と規制部材85の外周側との径方向間に隙間を形成させてもよい。
このため、電磁石57の軸方向の位置がデフケース3とベアリング19とで位置決めされている場合には、電磁石57の軸方向移動による荷重が規制部材85に入力されることがなく、規制部材85を低コスト化することができる。
このような規制部材85が配置された電磁石57は、コア79と一体に設けられた支持部107が磁性材料から形成され、軸方向部109と径方向部111とを備えている。
支持部107の軸方向部109は、軸方向に筒状に延設され、内周面がデフケース3のボス部17の外周面上に配置され、電磁石57をデフケース3に径方向に支持している。この軸方向部109の端部には、径方向部111が一体に設けられている。
支持部107の径方向部111は、軸方向部109の端部から連続する一部材で径方向の外側に向けて突設されている。この径方向部111の径方向外側の端部は、コア79の内径に対して圧入した後に加締められる、或いは溶接などの固定手段によってコア79と一体に設けられている。
この支持部107の径方向部111とベアリング19との軸方向間には、磁性材料からなるソレノイドワッシャ113が配置されており、電磁石57の支持部107とベアリング19のインナレースとが、直接、摺動することを防止している。
ここで、電磁石57とベアリング19との軸方向間に配置されるフローティングワッシャ93(図5参照)は、フローティングワッシャ93を介して磁束が漏れることを防止するために非磁性材料で形成されている。
ところで、非磁性材料は、磁性材料よりも高価であるので、ソレノイドワッシャ113は磁性材料で形成されており、フローティングワッシャ93よりも低コスト化することができる。
しかしながら、ソレノイドワッシャ113に加えて支持部107も磁性材料からなるので、ソレノイドワッシャ113からだけでなく、支持部107からデフケース3側に磁束漏れが発生する恐れがある。
そこで、支持部107の径方向部111には、径方向部111を軸方向に貫通するスリット115が設けられている。
スリット115は、支持部107の径方向部111の周方向等間隔に複数(ここでは3つ〜6つ)設けられ、周方向に沿って延設された長孔となっている。
このようにスリット115を設けることにより、コア79と支持部107との径方向間に磁束を受け渡し不能とさせる空間部を設けることができ、支持部107が磁性材料で形成されていても、磁束漏れを防止することができる。
なお、径方向部111のスリット115より径方向外側の部分が、コア79の内径に固定手段を介して一体に固定される固定部となっており、コア79と支持部107とを安定して一体化することができる。
このようなスリット115に対して軸方向にオーバーラップするようにソレノイドワッシャ113を配置させてしまうと、コア79とソレノイドワッシャ113との間で磁束の受け渡しが可能となり、磁束漏れが発生する恐れがある。
このため、ソレノイドワッシャ113は、スリット115と軸方向にオーバーラップしないように、外径がスリット115の内径より径方向内側に配置されている。
このようにスリット115に対してソレノイドワッシャ113を配置させることにより、コア79とソレノイドワッシャ113との磁束の受け渡しを防止することができ、ソレノイドワッシャ113が磁性材料で形成されていても、磁束漏れを防止することができる。
なお、コア79と支持部107とは、コア79の内径と径方向部111の径方向外側の端部とが一体に設けられているが、これに限らず、コア79と径方向部111との軸方向のそれぞれの対向面を固定手段を介して一体に固定してもよい。
このような動力伝達装置101では、規制部材85が、デフケース3に設けられた油路103の開口に配置されているので、電磁石57とデフケース3との摺動部に十分な潤滑油を供給することができ、電磁石57近傍の潤滑性を向上することができる。
また、支持部107とソレノイドワッシャ113とは、磁性材料からなるので、支持部107とソレノイドワッシャ113とを非磁性材料で形成したときよりも低コスト化することができる。
さらに、支持部107の径方向部111には、径方向部111を軸方向に貫通するスリット115が設けられ、ソレノイドワッシャ113は、外径がスリット115の内径より径方向内側に配置されているので、支持部107とソレノイドワッシャ113とを磁性材料で形成しても、磁束漏れを防止することができる。
まず、図11を用いて本発明の実施の形態に係る他例としての動力伝達装置の全体的な構成を説明する。
図11に示すように、動力伝達装置201は、アウタケース203と、インナケース205と、ピニオンシャフト207と、ピニオン209と、一対のサイドギヤ211,213とを備え、アウタケース203とインナケース205との動力伝達を断続する断続機構215を有するデファレンシャル装置となっている。
アウタケース203は、軸方向の両側に設けられたボス部217,219の外周でそれぞれベアリング19(片側のベアリングは不図示であるが、もう一方は図1参照)を介してキャリアなどの静止系部材(不図示)に回転可能に支持されている。
このアウタケース203には、リングギヤ(不図示)が固定されるフランジ部221が設けられ、リングギヤが駆動力を伝達する、例えば、プロペラシャフトなどの入力側の機構に一体回転可能に連結された動力伝達ギヤ(不図示)と噛み合い、断続部235を介して内部に収容されたインナケース205に駆動力が伝達される。
インナケース205は、回転軸心がアウタケース203と平行に配置され、アウタケース203内にアウタケース203と相対回転可能に収容されている。
このインナケース205には、ピニオンシャフト207と、ピニオン209と、一対のサイドギヤ211,213とが収容され、インナケース205に入力された駆動力が伝達される。
ピニオンシャフト207は、端部をインナケース205に係合してピンで抜け止めされインナケース205と一体に回転駆動される長短2種類の複数がインナケース205に収容されている。このピニオンシャフト207には、ピニオン209が支承されている。
ピニオン209は、インナケース205の周方向等間隔に複数配置され、それぞれ短尺の2つのピニオンシャフト207の外端側と長尺のピニオンシャフト207の両端側に支承されてインナケース205の回転によって公転する。
このピニオン209の背面側とインナケース205との径方向間には、ピニオン209の公転時に発生する径方向への移動を受ける球面ワッシャ223が配置されている。
このようなピニオン209は、一対のサイドギヤ211,213に駆動力を伝達すると共に、噛み合っている一対のサイドギヤ211,213に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオンシャフト207に自転可能に支持されている。
一対のサイドギヤ211,213は、それぞれに形成されたボス部でアウタケース203に相対回転可能に支持され、ピニオン209と噛み合っている。
この一対のサイドギヤ211,213とアウタケース203との軸方向間には、ピニオン209との噛み合い反力によるサイドギヤ211,213の軸方向への移動を受けるスラストワッシャ225,227がそれぞれ配置されている。
このような一対のサイドギヤ211,213は、内周側にスプライン形状の連結部229,231が設けられ、例えば、左右の車輪などの出力側の機構に連結された駆動軸(不図示)がサイドギヤ211,213と一体回転可能に連結され、インナケース205に入力された駆動力を駆動軸を介して出力側の機構に出力する。
このようなインナケース205側に伝達される駆動力は、アウタケース203とインナケース205との間に設けられた断続機構215によって断続され、断続機構215が接続状態であると、アウタケース203からインナケース205に駆動力が伝達される。
このようにアウタケース203とインナケース205との動力伝達を断続する断続機構215を有する動力伝達装置201は、いわゆるフリーランニングデフとなっている。この断続機構215は、断続部材233と、断続部235と、可動部材237と、電磁石239とを備えている。
断続部材233は、環状に形成され、周方向に連続する一部材で形成された基部241がアウタケース203の壁部とインナケース205との軸方向間に軸方向移動可能に配置されている。
この断続部材233のアウタケース203の壁部側には、アウタケース203と一体回転可能に係合する係合部243が設けられ、断続部材233のインナケース205側には、断続部235が設けられている。
係合部243は、断続部材233の基部241に周方向等間隔に設けられた複数の凸部245と、アウタケース203の壁部に周方向等間隔に貫通して設けられた孔部247とからなる。
この凸部245と孔部247とが回転方向に係合することにより、断続部材233がアウタケース203に回り止めされ、断続部材233とアウタケース203とが一体回転可能となる。
この係合部243には、断続部材233を断続部235の接続方向に移動させるカムが設けられている。詳細には、凸部245と孔部247との周方向両側の対向面には、同一傾斜のカム面がそれぞれ形成されている。
このため、断続部材233が断続部235の接続方向に移動され、アウタケース203とインナケース205との間の断続部235に回転方向の噛み合い作用が生じたときに、アウタケース203の回転によってそれぞれのカム面が係合することにより、断続部材233をさらに断続部235の噛み合い方向に移動させ、断続部235の接続を強化させる。
断続部235は、断続部材233の基部241の係合部243と軸方向反対側の側面で断続部材233とインナケース205との軸方向間に設けられ、断続部材233とインナケース205とにそれぞれ周方向に複数形成されて互いに噛み合う噛み合い歯となっている。
この断続部235は、互いの噛み合い歯が噛み合うことにより、断続部材233とインナケース205とが一体可能に接続、すなわちアウタケース203とインナケース205とが一体回転可能に接続され、アウタケース203とインナケース205との間の動力伝達が可能となる。
このようなアウタケース203とインナケース205との間の動力伝達を断続する断続部235を構成する断続部材233には、凸部245の軸方向端面に断続部材233と一体に軸方向移動される連動部材249がボルトを介して固定されている。
連動部材249とアウタケース203の壁部との軸方向間には、連動部材249を断続部235の接続解除方向へ付勢し、断続部材233を、常時、断続部235の接続解除方向へ付勢するリターンスプリング251が配置されている。
リターンスプリング251は、断続部材233を断続部235の接続解除方向へ付勢することにより、電磁石239の励磁により可動部材237が移動されたときに、連動部材249を介して断続部材233を断続部235の接続解除方向へ移動させ、断続部235を接続解除状態とさせる。
可動部材237は、電磁石239の内径側で電磁石239と一体的に設けられた非磁性材料からなる環状の支持部253の外周に軸方向移動可能に配置されると共に、径方向の移動が規制されるように支持部253に支持され、環状の磁束透過部255と、環状の移動操作部257とを備えている。
磁束透過部255は、磁性材料から環状に形成され、磁束が透過可能に設定された微小隙間であるエアギャップをもって電磁石239の内径側に配置されている。この磁束透過部255の内周には、移動操作部257が一体に固定されている。
移動操作部257は、非磁性材料から環状に形成され、磁束透過部255の内周側からアウタケース203側に磁束が漏れることを防止している。この移動操作部257は、非磁性材料からなる支持部253の外周上に軸方向移動可能に配置され、さらにアウタケース203側へ磁束が漏れることを防止している。
このような移動操作部257の断続部材233側の端面は、連動部材249と当接可能に配置されており、移動操作部257と支持部253との軸方向間には、可動部材237を、常時、断続部235の接続方向へ付勢する付勢部材259が配置されている。
付勢部材259は、その付勢力がリターンスプリング251よりも大きく設定されており、電磁石239が励磁されていない状態で、可動部材237をリターンスプリング251の付勢力に抗して断続部235の断続方向へ移動させ、連動部材249を介して断続部材233を断続部235の接続方向へ移動させ、断続部235を接続状態とさせる。
この付勢部材259による断続部235の接続状態は、電磁石239の励磁による付勢部材259の付勢力に抗した可動部材237の断続部235の接続解除方向への移動によって解除される。
電磁石239は、内径側に一体に設けられた非磁性材料からなる環状の支持部253の内周面がアウタケース203のボス部219の外周面と摺動することによってアウタケース203に対して径方向に支持され、電磁コイル261と、コア263とを備えている。
ここで、電磁石239とは、電磁コイル261とコア263だけでなく、コア263の内径側に一体に設けられた支持部253も含み、以下では電磁コイル261とコア263と支持部253とを合わせて電磁石239と称するものとする。
電磁コイル261は、環状に所定巻き数巻回されて樹脂でモールド成形されている。また、電磁コイル261には、リード線(不図示)が接続され、このリード線を介して通電を制御するコントローラ(不図示)に接続されている。
コア263は、電磁コイル261への通電により磁界が形成されるように磁性材料から形成され、所定の磁路断面積を有している。このコア263は、内径側で可動部材237の磁束透過部255との間で磁束の受け渡しが可能なように電磁コイル261の周囲を覆っている。
この電磁石239は、電磁コイル261への通電によりコア263と可動部材237の磁束透過部255とを磁束が透過することによって自己完結型の磁束ループを形成し、可動部材237を断続部235の接続方向へ移動させる。
このような電磁石239は、コア263の軸方向の端面に一体に設けられた回り止め部材(不図示)がキャリアなどの静止系部材に係合することにより、静止系部材に対して回り止めされている。
なお、電磁石239のコア263の断続部材233側の軸方向端面には、溶接や接着などによって非磁性材料からなる抜止部265が電磁石239と一体に設けられている。
この抜止部265は、可動部材237の磁束透過部255と軸方向に対向して配置されており、電磁石239をアウタケース203から取り外した状態で、付勢部材259の付勢力によって移動する可動部材237の磁束透過部255と当接し、電磁石239からの可動部材237の脱落を防止する。
ここで、電磁石239は、支持部253のアウタケース203側の軸方向端面がアウタケース203のボス部219に形成された段差部に当接可能に配置され、軸方向の一方側(ここでは、アウタケース203側に向かう方向)への移動が規制されるように位置決めされている。
一方、電磁石239は、支持部253のベアリング19(図1参照)側の軸方向端面がベアリング19のインナレースに当接可能に配置され、軸方向の他方側(ここでは、ベアリング19側に向かう方向)への移動が規制されるように位置決めされている。
このように構成された動力伝達装置201では、電磁石239の電磁コイル261に通電されていない状態で、可動部材237が付勢部材259によって断続部235の接続方向へ移動され、連動部材249を介して断続部材233をリターンスプリング251の付勢力に抗して断続部235の接続方向へ移動させる。
この断続部材233の断続部235の接続方向への移動により、断続部235が接続され、アウタケース203とインナケース205との間の動力伝達が可能となる。
一方、動力伝達装置201では、電磁石239の電磁コイル261への通電により、可動部材237が付勢部材259の付勢力に抗して断続部235の接続解除方向へ移動され、リターンスプリング251によって連動部材249を介して断続部材233が断続部235の接続解除方向へ移動される。
この断続部材233の断続部235の接続解除方向への移動により、断続部235の接続が解除され、アウタケース203とインナケース205との間の動力伝達が遮断される。
なお、連動部材249の外径側には、断続部235の断続状況を検出するポジションスイッチ(不図示)をON/OFF操作する操作部(不図示)が配置されており、この操作部に連動部材249の外径側が係合され、断続部235の断続状況、すなわち動力伝達装置201におけるアウタケース203とインナケース205との間の動力伝達の状況を検出することができる。
このような動力伝達装置201において、電磁石239は、アウタケース203がベアリング19(図1参照)によって支持されている場合、このベアリング19によって軸方向の他方側(アウタケース203から脱落する方向)への移動が規制されている。
しかしながら、例えば、アウタケース203に電磁石239が組付けられて搬送されるときのようなアウタケース203がベアリング19によって支持されていない場合、電磁石239は、軸方向の他方側へ移動することができ、搬送時などに電磁石239がアウタケース203から脱落してしまう恐れがあった。
そこで、アウタケース203と電磁石239との間には、電磁石239の軸方向移動を規制する規制部材267が配置されている。以下、図11を用いて規制部材267を含めた動力伝達装置について詳細に説明する。
(第3実施形態)
図11を用いて第3実施形態について説明する。
本実施の形態に係る動力伝達装置201は、上述したように、相対回転可能に配置された一対の回転部材としてのアウタケース203とインナケース205と、一方の回転部材としてのアウタケース203に軸方向移動可能で一体回転可能に連結された断続部材233と、この断続部材233と他方の回転部材としてのインナケース205との間に設けられアウタケース203とインナケース205との動力伝達を断続する断続部235と、アウタケース203の外周に配置され断続部材233の軸方向移動を操作する電磁石239とを備えている。
そして、アウタケース203と電磁石239との径方向間には、電磁石239の軸方向の範囲内で電磁石239の軸方向移動を規制する規制部材267が配置されている。
また、規制部材267は、電磁石239との軸方向間に隙間をもって配置されている。
さらに、規制部材267は、電磁石239を径方向に支持している。
また、アウタケース203は、第1ベアリングとしてのベアリング19により径方向に支持され、電磁石239は、アウタケース203とベアリング19とにより軸方向両方向への移動が規制されている。
図11に示すように、電磁石239は、上述したように、支持部253の軸方向両端面がそれぞれアウタケース203のボス部219に形成された段差部と、ベアリング19(図1参照)のインナレースとに当接可能に配置され、軸方向両方向への移動が規制されるように位置決めされている。
このようにアウタケース203とベアリング19とによって電磁石239の軸方向両方向への移動を規制することにより、アウタケース203に対して電磁石239を安定して配置させることができ、断続部235の断続特性を安定化することができる。
このような電磁石239は、搬送時などのアウタケース203がベアリング19によって支持されていない状態で、規制部材267によってアウタケース203からの脱落が防止されている。
規制部材267は、ブッシュなどの摺動部材からなり、環状に形成され、アウタケース203のボス部219の外周に圧入などによって固定されている。この規制部材267は、電磁石239の軸方向の範囲内に位置している。
ここで、電磁石239の軸方向の範囲内とは、コア263と一体に形成された支持部253を含めた軸方向の範囲内を意味しており、ここでは、規制部材267が支持部253の軸方向の範囲内に位置されている。
このように規制部材267を電磁石239の軸方向の範囲内に配置させることにより、規制部材267が電磁石239から軸方向に張り出すことがなく、規制部材267が配置されるアウタケース203が大型化することがない。
この規制部材267は、電磁石239の支持部253の内周と摺動し、アウタケース203のボス部219に対して電磁石239を径方向に支持する支持部材となっており、電磁石239の支持安定性が向上されている。
このような電磁石239の軸方向の範囲内に配置され、電磁石239を径方向に支持する規制部材267の断続部材233側の軸方向端面には、電磁石239の支持部253に設けられた突部269が対向して配置されている。
突部269は、電磁石239の支持部253の内周からアウタケース203のボス部219に向けて突設され、電磁石239がアウタケース203のボス部219上に配置され、電磁石239にベアリング19が当接した状態で、規制部材267との軸方向間に隙間をもって配置されている。
このため、動力伝達装置201が車両に搭載され、アウタケース203が回転している状態では、規制部材267が電磁石239の軸方向移動を規制することがなく、電磁石239の軸方向移動による荷重が規制部材267に入力されることがない。
従って、電磁石239の軸方向の位置がアウタケース203とベアリング19とで位置決めされている場合には、電磁石239の軸方向移動による荷重が規制部材267に入力されることがないので、既存の摺動部材を規制部材267として用いることができ、規制部材267が高コスト化することがない。
一方、突部269は、搬送時などの電磁石239にベアリング19が当接していない場合、電磁石239がアウタケース203から脱落する方向に軸方向移動しようとしたとき、規制部材267の軸方向端面と当接し、電磁石239の軸方向移動を規制してアウタケース203からの電磁石239の脱落を防止する。
このような動力伝達装置201では、アウタケース203と電磁石239との径方向間に、電磁石239の軸方向の範囲内で電磁石239の軸方向移動を規制する規制部材267が配置されているので、規制部材267が電磁石239の軸方向の端面から軸方向外方に向けて張り出すことがなく、アウタケース203の電磁石239の軸方向外方に規制部材267を配置させるための部分を設ける必要がない。
従って、このような動力伝達装置201では、電磁石239の軸方向移動を規制する規制部材267が電磁石239の軸方向の範囲内に配置されているので、大型化することなく、電磁石239の脱落を防止することができる。
また、規制部材267は、電磁石239との軸方向間に隙間をもって配置されているので、アウタケース203が回転しているときに、電磁石239の軸方向移動による荷重が規制部材267に入力されることがなく、規制部材267によって搬送時における電磁石239の軸方向移動を安定して規制することができる。
さらに、規制部材267は、電磁石239を径方向に支持しているので、電磁石239の支持安定性を向上することができ、断続部235の断続特性を安定化することができる。
また、電磁石239は、アウタケース203とベアリング19とにより軸方向両方向への移動が規制されているので、アウタケース203がベアリング19によって支持されている場合、規制部材267が電磁石239の軸方向移動を規制することがなく、規制部材267の剛性を低減するなどして規制部材267を低コスト化することができる。
なお、本発明の実施の形態に係る動力伝達装置では、電磁石のコアと一体に設けられた支持部に規制部材と係合する溝部や突部を設けているが、これに限らず、電磁石のコアに規制部材と係合する溝部や突部などを設けてもよい。
また、動力伝達装置は、デフロック機能を有するデファレンシャル装置やフリーランニングデフとなっているが、これに限らず、一対の回転部材の動力伝達を断続する断続部を有する動力伝達装置であれば、どのような構造であってもよく、一対の回転部材の入出力の関係は、駆動力を入出力できる関係であればどちらであってもよい。
さらに、断続部は、軸方向に対向する対向歯の噛み合いクラッチとなっているが、これに限らず、軸方向移動可能なスリーブを有し、このスリーブとの径方向間に対向する対向歯の噛み合いクラッチ、或いは多板クラッチや単板クラッチなどからなる摩擦クラッチなど、一対の回転部材間の動力伝達を断続できるものであれば、断続部の形態はどのようなものであってもよい。