[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、図1乃至図7を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
(差動装置の全体構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る車両用の差動装置の構成例を示す断面図である。図2は、差動装置の分解斜視図である。図3は、差動装置のデフケース内部の構造を示す分解斜視図である。図4(a)及び(b)は、断続部材を示す斜視図である。図5(a)及び(b)は、差動装置の一部を拡大して示す断面図である。
この差動装置1は、エンジンや電動モータからなる車両の走行用の駆動源の駆動力を一対の出力軸に差動を許容して配分するために用いられる。より具体的には、本実施の形態に係る差動装置1は、例えば駆動源の駆動力を左右の車輪に配分するディファレンシャル装置として用いられ、入力された駆動力を一対の出力軸としての左右のドライブシャフトに配分する。
差動装置1は、支持体としてのデフキャリア100に支持されて回転するデフケース2と、デフケース2に収容された第1サイドギヤ31及び第2サイドギヤ32と、第1ピニオンギヤ41及び第2ピニオンギヤ42を互いに噛み合せてなる複数(本実施の形態では5組)のピニオンギヤ組40と、デフケース2と第1サイドギヤ31との間の駆動力伝達を断続することが可能な断続部材5と、断続部材5を移動させるアクチュエータ10とを備える。断続部材5及びアクチュエータ10は、デフケース2と第1サイドギヤ31との間の駆動力伝達を断続する断続装置11を構成する。
断続装置11は、コントローラ104によって制御され、デフケース2と第1サイドギヤ31との連結を断続する。デフケース2と第1サイドギヤ31とが断続装置11によって連結されたとき、デフケース2と第1サイドギヤ31とが一体に回転し、この連結が解除されたとき、第1サイドギヤ31のデフケース2に対する相対回転が許容される。
第1サイドギヤ31及び第2サイドギヤ32は筒状であり、第1サイドギヤ31の内周面には一方の出力軸が相対回転不能に連結されるスプライン嵌合部310が形成されている。第2サイドギヤ32の内周面には他方の出力軸が相対回転不能に連結されるスプライン嵌合部320が形成されている。
デフケース2は、車体に固定されたデフキャリア100に一対の軸受101,102を介して回転可能に支持されている。デフキャリア100には、図1に示すように、アクチュエータ10の動作状態を示す電気信号を出力するポジションセンサ103を取り付けるための取付孔100aが設けられている。また、デフキャリア100には、ギヤの潤滑に適した粘度のギヤオイルが封入され、差動装置1はこのギヤオイルによる潤滑環境下で使用される。
デフケース2、第1サイドギヤ31、及び第2サイドギヤ32は、共通の回転軸線Oを中心として、互いに相対回転可能に配置されている。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。断続部材5は、アクチュエータ10に押圧されて軸方向に移動する。
デフケース2には、各ピニオンギヤ組40の第1ピニオンギヤ41及び第2ピニオンギヤ42を回転可能に保持する複数の保持孔20が形成されている。第1ピニオンギヤ41及び第2ピニオンギヤ42は、回転軸線Oを中心として公転すると共に、それぞれの中心軸を回転軸として保持孔20内で自転可能である。
第1サイドギヤ31及び第2サイドギヤ32は、共通の外径を有し、外周面には複数の斜歯からなる歯車部311,321がそれぞれ形成されている。第1サイドギヤ31と第2サイドギヤ32との間には、センタワッシャ121が配置されている。また、第1サイドギヤ31の側方には第1サイドワッシャ122が配置され、第2サイドギヤ32の側方には第2サイドワッシャ123が配置されている。
第1ピニオンギヤ41は、長歯車部411と、短歯車部412と、長歯車部411と短歯車部412とを軸方向に連結する連結部413とを一体に有している。同様に、第2ピニオンギヤ42は、長歯車部421と、短歯車部422と、長歯車部421と短歯車部422とを軸方向に連結する連結部423とを一体に有している。
第1ピニオンギヤ41は、長歯車部411が第1サイドギヤ31の歯車部311及び第2ピニオンギヤ42の短歯車部422と噛み合い、短歯車部412が第2ピニオンギヤ42の長歯車部421と噛み合っている。第2ピニオンギヤ42は、長歯車部421が第2サイドギヤ32の歯車部321及び第1ピニオンギヤ41の短歯車部412と噛み合い、短歯車部422が第1ピニオンギヤ41の長歯車部411と噛み合っている。なお、図3では、これら各歯車部の斜歯の図示を省略している。
第1サイドギヤ31及び第2サイドギヤ32が同じ速度で回転する場合、第1ピニオンギヤ41及び第2ピニオンギヤ42は、保持孔20内で自転することなくデフケース2と共に公転する。また、例えば車両の旋回時等において第1サイドギヤ31及び第2サイドギヤ32の回転速度が異なると、第1ピニオンギヤ41及び第2ピニオンギヤ42が保持孔20内で自転しながら公転する。これにより、デフケース2に入力された駆動力が第1サイドギヤ31及び第2サイドギヤ32に差動を許容して配分される。なお、デフケース2が本発明の「第1の回転部材」に、第1サイドギヤ31が本発明の「第2の回転部材」に、第2サイドギヤ32が本発明の「第3の回転部材」に、それぞれ相当する。
断続部材5は、デフケース2と第1サイドギヤ31とを相対回転不能に連結する連結位置、及びデフケース2と第1サイドギヤ31との相対回転を許容する非連結位置との間を軸方向に移動可能である。図5(a)では断続部材5が非連結位置にある状態を示し、図5(b)では断続部材5が連結位置にある状態を示している。
断続部材5が連結位置にあるとき、デフケース2と第1サイドギヤ31との差動が規制されることにより、第1ピニオンギヤ41及び第2ピニオンギヤ42が自転不能となり、デフケース2と第2サイドギヤ32との差動も規制される。断続部材5は、第1サイドギヤ31との間に配置された復帰バネ13によって、非連結位置に向かって付勢されている。断続部材5の構成の詳細については後述する。
アクチュエータ10は、通電により磁束を発生させるコイル611を有する円環状の電磁石61と、電磁石61の磁束の磁路G(図5(b)参照)の一部を構成するヨーク62と、ヨーク62と共に磁路Gを構成して断続部材5と共に軸方向に移動する軟磁性体からなるプランジャ7と、プランジャ7の移動力を断続部材5に伝達する伝達部材70と、ヨーク62に対してプランジャ7を軸方向移動可能に支持する非磁性体からなる支持部材8とを有している。
電磁石61は、エナメル線を巻き回してなるコイル611と、コイル611をモールドするモールド樹脂部612とを有している。コイル611は、コントローラ104から励磁電流が供給されることにより、磁束を発生させる。本実施の形態では、電磁石61が断面矩形状であり、その中心部にコイル611が配置されている。電磁石61の外周面61a、内周面61b、及び軸方向の両端面61c,61dは、モールド樹脂部612によって形成されている。また、電磁石61には、図2に示すように、軸方向の一端面から突出するボス部613が設けられ、このボス部613からコイル611に励磁電流を供給する電線614が導出されている。
ヨーク62は、低炭素鋼等の軟磁性金属からなり、電磁石61の内側に挿通された円筒状の筒部621と、筒部621の軸方向の一端部から径方向外方に張り出した鍔部622とを一体に有している。ヨーク62は、デフケース2の外側に配置され、デフケース2の外周面に向かい合う部分の筒部621の内径は、筒部621の内周面621aに対向する部分のデフケース2の外径よりも僅かに大きく形成されている。
筒部621の内周面621aには、圧入ピン141によってデフケース2に固定された非磁性体からなる複数(本実施の形態では3つ)のプレート142が嵌合する環状凹部621bが形成されている。ヨーク62は、環状凹部621bにプレート142が嵌合することで、デフケース2に対する軸方向移動が規制されている。環状凹部621bの軸方向幅は、デフケース2が回転する際にヨーク62との間で回転抵抗が発生しないように、プレート142の厚みよりも大きく形成されている。
プランジャ7は、低炭素鋼等の軟磁性金属からなり、電磁石61の外周面61aと隙間を介して径方向に対向する円筒状の円筒部71と、円筒部71の軸方向一端部から径方向内方に向かって延在して形成された側板部72とを一体に有している。電磁石61及び支持部材8は、差動装置1の軸方向において、ヨーク62の鍔部622とプランジャ7の側板部72との間に配置されている。側板部72には、前述のギヤオイルを流動される複数(図2に示す例では10個)の油孔720、電磁石61のボス部613を挿通させる第1貫通孔721、及び後述する第1の非磁性リング81の一対の突起部812をそれぞれ挿通させる2つの第2貫通孔722が形成されている。側板部72の内周側の端部には、伝達部材70が当接する。
伝達部材70は、例えばオーステナイト系ステンレス等の非磁性金属からなる板材をプレス成形してなり、プランジャ7の側板部72に当接するリング状の環状部701と、環状部701から軸方向に延びる3つの延在部702と、延在部702の先端部から内方に突出して断続部材5に固定される固定部703とを一体に有している。伝達部材70は、環状部701がプランジャ7の側板部72と摺動してデフケース2と共に回転する。固定部703には、断続部材5との固定のための圧入ピン15を挿通させる挿通孔703aが形成されている。
デフケース2は、複数のネジ200によって互いに固定された第1ケース部材21及び第2ケース部材22とを有している。第1ケース部材21は、軸受101によってデフキャリア100に回転可能に支持され、第2ケース部材22は、軸受102によってデフキャリア100に回転可能に支持されている。
第1ケース部材21は、複数のピニオンギヤ組40を回転可能に保持する円筒状の円筒部211と、円筒部211の一端部から内方に延在する底部212と、第2ケース部材22に突き当てられるフランジ部213とを一体に有している。円筒部211と底部212との間の角部には、電磁石61及びヨーク62が配置される環状凹部210が形成されている。
第1サイドギヤ31及び第2サイドギヤ32は、円筒部211の内側に配置されている。また、第1ケース部材21は、ヨーク62よりも透磁率が低い金属からなり、フランジ部213には図略のリングギヤが固定される。デフケース2は、リングギヤに伝達される駆動力により回転軸線Oを中心として回転する。
第1ケース部材21の底部212には、図2及び図3に示すように、伝達部材70の延在部702及び固定部703が挿入される複数の挿通孔212aが形成されている。挿通孔212aは、底部212を軸方向に貫通している。また、挿通孔212aには、後述する断続部材5の突部53が挿入される。断続部材5は、突部53が挿通孔212aに挿入されることで、デフケース2との相対回転が規制される。本実施の形態では、3つの挿通孔212aが、底部212の周方向に沿って等間隔に形成されている。
電磁石61に励磁電流が供給されると、図5(b)に示す磁路Gに磁束が発生し、プランジャ7の側板部72がヨーク62における筒部621の軸方向端面621d側に吸引される。これにより、プランジャ7が軸方向に移動する。このプランジャ7の軸方向移動により、プランジャ7と伝達部材70によって連結された断続部材5が軸方向に移動する。
断続部材5は、その外径がヨーク62の内径よりも小さく、ヨーク62の内側に配置されている。また、断続部材5は、図4に示すように、一方の軸方向端面51aに複数の椀状凹部510が形成された円環板状の円板部51と、第1サイドギヤ31と軸方向に対向する円板部51の他方の軸方向端面51bに形成された噛み合い部52と、円板部51の一方の軸方向端面51aから軸方向に突出して形成された台形柱状の突部53とを一体に有している。
円板部51の一方の軸方向端面51aは、第1ケース部材21の底部212と軸方向に対向する。突部53は、第1ケース部材21の底部212に形成された挿通孔212aに一部が挿入されている。噛み合い部52には、軸方向に突出する複数の噛み合い歯521が形成されている。複数の噛み合い歯521は、円板部51の他方の軸方向端面51bの外周側の一部に形成され、噛み合い部52よりも径方向内側の軸方向端面51bは、復帰バネ13が当接して非連結位置への付勢力を受ける平坦な受け面として形成されている。
第1サイドギヤ31には、図1に示すように、歯車部311よりも外周側に突出して設けられた環状壁部312に、断続部材5の複数の噛み合い歯521が噛み合う複数の噛み合い歯313が形成されている。換言すれば、断続部材5は、第1サイドギヤ31に噛み合い可能な噛み合い歯521を有している。
断続部材5は、伝達部材70を介してプランジャ7に押圧されて連結位置に移動することで、噛み合い部52の複数の噛み合い歯521が第1サイドギヤ31の複数の噛み合い歯313に噛み合う。つまり、断続部材5と第1サイドギヤ31とは、断続部材5が第1サイドギヤ31側に移動したとき、複数の噛み合い歯521,313同士の噛み合いによって相対回転不能に連結される。一方、断続部材5が復帰バネ13の付勢力によって非連結位置に移動すると、噛み合い歯521,313が噛み合わなくなり、断続部材5と第1サイドギヤ31とが相対回転可能となる。
第1ケース部材21は、断続部材5の突部53が周方向に係合する被係合部が、挿通孔212aによって形成されている。断続部材5の突部53は、挿通孔212aの内面212b(図2,3参照)に当接して第1ケース部材21からの駆動力を受ける当接面53aを有している。当接面53aは、突部53における周方向の端面である。突部53の当接面53a、及びこの当接面53aが当接する挿通孔212aの内面212bは、回転軸線Oと平行な平坦面である。断続部材5が第1ケース部材21からの駆動力を受けるとき、突部53の当接面53aは、挿通孔212aの内面212bに面接触する。
また、突部53の先端面53bには、圧入ピン15が圧入される圧入孔530が形成されている。断続部材5は、伝達部材70の固定部703に形成された挿通孔703aを挿通した圧入ピン15が圧入孔530に圧入されることで、伝達部材70と一体に軸方向移動するように固定される。なお、圧入ピン15に替えて、伝達部材70の固定部703と断続部材5の突部53とをボルトによって締結してもよい。この場合、伝達部材70の固定部703には、圧入孔530に替えてねじ穴が形成される。
椀状凹部510の内面510aは、第1ケース部材21との相対回転によって軸方向のカム推力を発生させるカム面として形成されている。換言すれば、断続部材5は、円板部51における第1ケース部材21の底部212との対向面(一方の軸方向端面51a)の一部がカム面として形成されている。
図1に示すように、第1ケース部材21の底部212には、椀状凹部510の内面510aに当接する突起212cが軸方向に突出して設けられている。本実施の形態では、この突起212cが、底部212に固定された球体23によって形成されている。球体23は、その一部が底部212に設けられた軸方向の窪み212dに収容されて、第1ケース部材21に保持されている。ただし、突起212cを、底部212の一部として一体に形成してもよい。
底部212の挿通孔212aは、周方向の幅が断続部材5の突部53の周方向の幅よりも広く、デフケース2と断続部材5とは、挿通孔212aの周方向幅と突部53の周方向幅との差に応じた所定の角度範囲で相対回転可能である。断続部材5には、この所定の角度範囲よりも大きい角度範囲に亘って、椀状凹部510の内面510aが形成されている。これにより、断続部材5がデフケース2に対して相対回転しても、突起212c(球体23)の先端部が常に椀状凹部510に収容されて内面510aと軸方向に向かい合う。
第1ケース部材21の底部212の突起212cと断続部材5の円板部51の椀状凹部510とは、断続部材5を底部212から離間させる軸方向の推力を発生させるカム機構16を構成する。次に、図6を参照して、このカム機構16の動作について説明する。
図6(a)〜(c)は、カム機構16の動作を、断続部材5、第1ケース部材21の底部212、及び第1サイドギヤ31の環状壁部312の周方向断面で模式的に示す説明図である。図6(a)及び(b)では、デフケース2(第1ケース部材21)に対する第1サイドギヤ31の回転方向を矢印Aで示している。
図6(a)に示すように、椀状凹部510の内面510aは、断続部材5の周方向に対して一方に傾斜した第1傾斜面510bと他方に傾斜した第2傾斜面510cとからなる。断続部材5の周方向に対する第1傾斜面510bの傾斜角と第2傾斜面510cの傾斜角とは同じである。
電磁石61に通電されていないとき、断続部材5は、復帰バネ13の付勢力によって第1ケース部材21の底部212側に押し付けられている。この状態を図6(a)に示す。図6(a)に示すように、底部212の突起212cは、椀状凹部510の最奥部に当接し、断続部材5の噛み合い歯521と第1サイドギヤ31の噛み合い歯313とは噛み合わない。電磁石61に通電されると、断続部材5が伝達部材70を介してプランジャ7に押圧され、断続部材5が第1サイドギヤ31に噛み合う。図6(b)は、この噛み合いの開始時の状態を示し、図6(c)は、噛み合いが完了した状態を示している。
図6(b)に示すように、電磁石61に通電されて断続部材5が押圧されると、まず断続部材5の噛み合い歯521及び第1サイドギヤ31の噛み合い歯313の先端部同士が噛み合う。この噛み合いにより、断続部材5が第1サイドギヤ31に連れ回りしてデフケース2と相対回転し、底部212の突起212cが椀状凹部510の第1傾斜面510b又は第2傾斜面510cを摺動する。図6(b)では、底部212の突起212cが椀状凹部510の第1傾斜面510bを摺動する場合を示している。この摺動により、底部212の突起212cが当接する部分が徐々に椀状凹部510の浅い部分に移動し、断続部材5がカム推力によって第1サイドギヤ31側に移動する。
デフケース2に対する断続部材5の相対回転は、断続部材5の突部53の当接面53aが、第1ケース部材21における挿通孔212aの内面212bに接触することで規制される。つまり、図6(c)に示すように断続部材5の突部53の当接面53aが挿通孔212aの内面212bに当接すると、デフケース2に対する断続部材5の相対回転が停止し、断続部材5のデフケース2に対する軸方向移動も停止する。
断続部材5の噛み合い歯521と第1サイドギヤ31の噛み合い歯313との噛み合いが完了した状態では、断続部材5の突部53が第1ケース部材21の挿通孔212aに係合してデフケース2と断続部材5との相対回転が規制され、かつ断続部材5の噛み合い歯521と第1サイドギヤ31の噛み合い歯313との噛み合いにより断続部材5と第1サイドギヤ31との相対回転が規制される。これにより、デフケース2と第1サイドギヤ31との相対回転が規制され、デフケース2から断続部材5を介して第1サイドギヤ31に駆動力が伝達される。
また、デフケース2と第1サイドギヤ31との差動が規制されることによって第1ピニオンギヤ41及び第2ピニオンギヤ42が自転不能となり、デフケース2と第2サイドギヤ32との差動も規制される。これにより、差動装置1は、断続部材5の噛み合い歯521が第1サイドギヤ31の噛み合い歯313に噛み合うことにより、デフケース2と第1サイドギヤ31及び第2サイドギヤ32との差動が制限される。一方、断続部材5の噛み合い歯521が第1サイドギヤ31の噛み合い歯313に噛み合わない状態では、デフケース2に入力された駆動力が第1サイドギヤ31及び第2サイドギヤ32に差動を許容して配分される。
アクチュエータ10の動作は、ポジションセンサ103によって検出される。ポジションセンサ103は、プランジャ7の軸方向位置に応じて電気信号をコントローラ104に出力する。ポジションセンサ103は、デフキャリア100に固定された本体部103aと、プランジャ7の側板部72に弾性的に接触する接触子103bとを有している。本体部103aには、接触子103bを側板部72に向かって突出させる方向に付勢するバネと、本体部103aに対する接触子103bの変位によってオン・オフ状態が切り替わるスイッチとが収容されている。
(プランジャの支持構造)
プランジャ7を支持する支持部材8は、電磁石61を軸方向に挟む一対の非磁性リング81,82からなる。一対の非磁性リング81,82は、例えばオーステナイト系ステンレス等の非磁性金属からなる環状の部材である。以下、一対の非磁性リング81,82のうち、電磁石61のプランジャ7の側板部72側に配置された非磁性リング81を第1の非磁性リング81とし、電磁石61のヨーク62の鍔部622側に配置された非磁性リング82を第2の非磁性リング82という。
第1の非磁性リング81は、ヨーク62における鍔部622の反対側で筒部621に固定されている。また、第1の非磁性リング81は、ヨーク62の筒部621に外嵌された環状の本体部811と、周方向の2箇所において本体部811から軸方向に突出する一対の突起部812と、突起部812に設けられ、プランジャ7の側板部72を係止する係止部としての突片とを一体に有している。第1の非磁性リング81は、突起部812の先端側の一部が813デフキャリア100に設けられた係合部100bに係合することにより、デフキャリア100に対して回り止めされている。
突起部812は、本体部811の径方向略中央部から軸方向に突出し、側板部72の第2貫通孔722に挿通されている。突片813は、側板部72よりも突起部812の先端側に設けられている。側板部72が電磁石61から離間する方向にプランジャ7が軸方向に移動すると、突片813が側板部72に当接し、プランジャ7の軸方向移動が規制される。
本実施の形態では、第1の非磁性リング81の本体部811が溶接によってヨーク62の筒部621の外周面621cに固定されている。ただし、第1の非磁性リング81のヨーク62への固定手段としては溶接に限らず、例えば接着や加締め固定を固定手段として用いることも可能である。電磁石61は、第1の非磁性リング81によってヨーク62から抜け止めされている。
図7(a)及び(b)は、図5(a)の一部をさらに拡大して示す部分断面図である。図7(a)は、第2の非磁性リング82及びその周辺部を示し、図7(b)は、第1の非磁性リング81及びその周辺部を示している。
第2の非磁性リング82は、平坦な円環板状であり、電磁石61とヨーク62の鍔部622との間に挟持されている。第2の非磁性リング82の外径は、第1の非磁性リング81の外径(本体部811の外径)と同一である。第1及び第2の非磁性リング81,82の外径は、電磁石61の外径よりも大きく、またヨーク62の鍔部622の外径よりも大きい。これにより、電磁石61の外周面61aとプランジャ7の円筒部71の内周面71aとの間に環状の隙間Sが形成され、電磁石61のモールド樹脂部612とプランジャ7とが非接触となる。
隙間Sの径方向幅dは、例えば常温(25℃)において0.5mm以上であることが望ましい。径方向幅dが0.5mm未満であると、モールド樹脂部612とプランジャ7との熱膨張率の違いにより、高温時にモールド樹脂部612とプランジャ7の円筒部71とが接触してしまうおそれがある。また、プランジャ7に作用する電磁力を確保するためには、モールド樹脂部612とプランジャ7とを接触させない範囲で径方向幅dを小さくすることが望ましく、具体的には径方向幅dが常温において1.0mm以下であることが望ましい。
また、第1及び第2の非磁性リング81,82の外径がヨーク62の鍔部622の外径よりも大きいことにより、プランジャ7の円筒部71とヨーク62の鍔部622とが干渉することなく、プランジャ7の円筒部71の端部における内周面71aが鍔部622の外周面622aと径方向に隙間を介して向かい合う。なお、鍔部622の外径は、常温において電磁石61の外径よりも大きい。これは、ヨーク62の熱膨張率がモールド樹脂部612の熱膨張率よりも小さいことを考慮して、プランジャ7の円筒部71の内周面71aとヨーク62の鍔部622の外周面622aとの間の隙間(エアギャップ)を小さくし、磁路Gにおける磁気抵抗を低減し得るように配慮されたものである。
プランジャ7は、円筒部71の内周面71aが第1及び第2の非磁性リング81,82のそれぞれの外周面81a,82aに向かい合う。第1及び第2の非磁性リング81,82は、コイル611に励磁電流が供給されてプランジャ7が軸方向に移動するとき、それぞれの外周面81a,82aがプランジャ7の円筒部71の内周面71aに摺接する。なお、円筒部71の内周面71aに摺接する第1の非磁性リング81の外周面81aは、具体的には本体部811の外周面である。また、摺接とは、摺れながら接触することをいう。
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、電磁石61を保持するヨーク62と共に磁束の磁路Gを構成するプランジャ7が第1及び第2の非磁性リング81,82からなる支持部材8によって軸方向移動可能に支持されるので、磁路Gを構成する部材を簡素に構成することができ、製造コストを抑制することが可能となる。また、第1の非磁性リング81と第2の非磁性リング82とは、電磁石61を軸方向に挟んで軸方向に離間して配置され、円筒部71の内周面71aが第1及び第2の非磁性リング81,82のそれぞれの外周面81a,82aに向かい合うので、プランジャ7を安定的に支持することができる。またさらに、第1の非磁性リング81は、電磁石61の抜け止め及びプランジャ7の軸方向移動を規制する機能を有しているので、アクチュエータ10及び断続装置11の部品点数及び組み立て工数を削減することが可能となる。
[第1の実施の形態の変形例]
次に、本発明の第1の実施の形態の変形例について図8を参照して説明する。当該変形例は、主として支持部材8の第2の非磁性リング82の形状が第1の実施の形態と異なり、その他の構成は第1の実施の形態と同様であるので、この違いの部分について説明する。
図8は、第1の実施の形態の変形例の要部を示す断面図である。図8において、第1の実施の形態について説明したものと共通する構成要素については、図7等に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
第1の実施の形態では、第2の非磁性リング82がヨーク62の筒部621に外嵌された平坦な円環板状であったが、本変形例では、第2の非磁性リング82がヨーク62の鍔部622の外周面622aに外嵌された円筒状である。第2の非磁性リング82は、第1の実施の形態と同様にオーステナイト系ステンレス等の非磁性金属からなり、例えば溶接によってヨーク62の鍔部622に固定されている。なお、第2の非磁性リング82とヨーク62の鍔部622とを圧入嵌合によって固定してもよい。
第2の非磁性リング82の厚みtは、例えば0.2〜0.5mmであることが望ましい。第2の非磁性リング82の厚みtが0.5mmを超えると磁路Gにおける磁気抵抗が大きくなりすぎ、厚みtが0.2mm未満であると強度が不足するおそれがあるためである。第2の非磁性リング82の外周面82aは、プランジャ7の円筒部71の内周面71aに摺接する。第2の非磁性リング82の内周面82bは、鍔部622の外周面622aに密着している。第2の非磁性リング82は電磁石61よりも外径が大きく、電磁石61の外周面61aとプランジャ7の円筒部71の内周面71aとの間には環状の隙間Sが形成される。
本変形例によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。また、電磁石61の軸方向端面61dとヨーク62の鍔部622との間に第2の非磁性リング82が介在しないので、第1の実施の形態に比較して、さらに小型化を図ることが可能となる。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、図9及び図10を参照して説明する。図9は、本発明の第2の実施の形態に係る車両用の差動装置1Aの構成例を示す断面図である。図10(a)は、アクチュエータ10の非作動状態を示す部分拡大図であり、図10(b)は、アクチュエータ10の作動状態を示す部分拡大図である。
差動装置1Aは、第1の回転部材としての一対のピニオンシャフト33に入力された駆動力を一対の出力部材としてのサイドギヤ34,35に差動を許容して配分する差動機構3と、差動機構3を収容する第2の回転部材としてのデフケース24と、デフケース24の内部で差動機構3に対して軸方向移動可能に配置された断続部材9と、断続部材9を軸方向に移動させるアクチュエータ10とを有している。
差動機構3は、一対のピニオンシャフト33と、一対のサイドギヤ34,35と、ピニオンシャフト33に軸支されて一対のサイドギヤ34,35に噛み合う複数のピニオンギヤ36と、それぞれのピニオンギヤ36のギヤ背面に対向して配置された複数のワッシャ37とを備えている。ピニオンギヤ36は、一対のサイドギヤ34,35とギヤ軸を直交させて噛み合っている。本実施の形態では、一対のピニオンシャフト33が十字状に交差して配置され、これら一対のピニオンシャフト33それぞれに一対のピニオンギヤ36が軸支されている。すなわち、本実施の形態では、差動機構3が4つのピニオンギヤ36を有しており、図9ではこのうち2つのピニオンギヤ36を図示している。
断続部材9は、4つのピニオンギヤ36及び一対のサイドギヤ34,35を収容する円筒状であり、その一方の軸方向端面には複数の噛み合い歯91からなる噛み合い部92が設けられている。また、断続部材9には、一対のピニオンシャフト33の両端部がそれぞれ係合する4つの係合溝90が形成されている。係合溝90は、断続部材9の軸方向に延在し、内外周面間を貫通している。この構成により、断続部材9は、一対のピニオンシャフト33との相対回転が規制され、かつ一対のピニオンシャフト33に対して軸方向に移動可能である。
デフケース24は、第1ケース部材25及び第2ケース部材26を複数のボルト27によってリングギヤ28と共に結合してなり、デフキャリア100に軸受105,106を介して回転可能に支持されている。第1ケース部材25は、円筒状の円筒部251と、円筒部251の一端部から内方に延在する底部252と、第2ケース部材26に突き当てられるフランジ部253とを一体に有する有底円筒状である。第2ケース部材26は、第1ケース部材25の開口を塞ぐように配置される蓋部261と、第1ケース部材25のフランジ部253に突き当てられるフランジ部262とを一体に有している。第2ケース部材26には、デフケース24の回転軸線Oに平行な軸方向に沿って蓋部261を貫通する複数の挿通孔261aが形成されている。ボルト27は、軸部271が第1ケース部材25のフランジ部253及び第2ケース部材26のフランジ部262を貫通している。
差動機構3及び断続部材9は、第1ケース部材25の底部252と第2ケース部材26の蓋部261との間に配置されている。サイドギヤ34と第2ケース部材26の蓋部261との間、及びサイドギヤ35と第1ケース部材25の底部252との間には、それぞれワッシャ38,39が配置されている。
第1ケース部材25の底部252には、断続部材9の複数の噛み合い部92と軸方向に向かい合う位置に、複数の噛み合い歯254が形成されている。断続部材9の複数の噛み合い歯91は、デフケース24に対する断続部材9の軸方向移動により、第1ケース部材25の複数の噛み合い歯254に噛み合い可能である。断続部材9は、複数の係合溝90のそれぞれにピニオンシャフト33の端部が係合した状態を保ちながら、噛み合い歯91が第1ケース部材25の噛み合い歯254に噛み合う連結位置と、噛み合い歯91が第1ケース部材25の噛み合い歯254に噛み合わない非連結位置との間を軸方向に移動可能である。
差動装置1Aは、断続部材9の噛み合い歯91が第1ケース部材25の噛み合い歯254に噛み合わない状態で、一対のピニオンシャフト33のデフケース24に対する相対回転が許容され、断続部材9の噛み合い歯91が第1ケース部材25の噛み合い歯254に噛み合うことにより、デフケース24に伝達された駆動力が一対のサイドギヤ34,35に差動を許容して配分される。断続部材9の噛み合い歯91が第1ケース部材25の噛み合い歯254に噛み合わない状態では、デフケース24から差動機構3への駆動力の伝達が遮断される。
断続部材9は、第1ケース部材25の底部252との間に配置された復帰バネ17によって、第2ケース部材26の蓋部261側の非連結位置に向かって付勢されている。本実施の形態では、復帰バネ17がウェーブワッシャからなり、第1ケース部材25の底部252に形成された環状溝252aに収容されている。アクチュエータ10は、復帰バネ17の付勢力に抗して断続部材9を第1ケース部材25の底部252側の連結位置に向かって押圧する。アクチュエータ10及び断続部材9は、デフケース24と一対のピニオンシャフト33との間の駆動力伝達を断続する断続装置11を構成する。
アクチュエータ10は、第1の実施の形態と同様に、コイル611及びモールド樹脂部612を有する円環状の電磁石61と、電磁石61の磁束の磁路G(図10(b)参照)の一部を構成するヨーク62と、ヨーク62と共に磁路Gを構成して断続部材9と共に軸方向に移動する軟磁性体からなるプランジャ7と、ヨーク62に対してプランジャ7を軸方向移動可能に支持する非磁性体からなる支持部材8とを有している。電磁石61及びヨーク62は、第2ケース部材26の蓋部261に設けられた環状凹部261bに収容されている。環状凹部261bには、挿通孔261aが連通している。
プランジャ7による移動力は、デフケース24と共に回転する第1及び第2の伝達部材74,75によって断続部材9に伝達される。第1の伝達部材74は、挿通孔261aを挿通する円筒部741と、円筒部741の軸方向一側の端部から外方に突出する外鍔部742と、円筒部741の軸方向他側の端部から内方に突出する内鍔部743とを一体に有している。第2の伝達部材75は、断続部材9の軸方向一端部の外周面に嵌着された環状の嵌合部751と、第1の伝達部材74の内鍔部743に当接する円環板状の当接部752とを一体に有している。第1及び第2の伝達部材74,75は、例えばオーステナイト系ステンレス等の非磁性金属からなる。
支持部材8は、電磁石61を軸方向に挟む第1及び第2の非磁性リング81,82からなる。第1の非磁性リング81は、ヨーク62の筒部621に外嵌された環状の本体部811と、周方向の複数箇所において本体部811から軸方向に突出する一対の突起部812と、突起部812に設けられ、プランジャ7の側板部72を係止する係止部としての突片813とを一体に有している。第1の非磁性リング81の本体部811は、例えば溶接によってヨーク62の筒部621に固定されている。
プランジャ7は、電磁石61及びヨーク62の外周囲に配置される円筒部71、及び円筒部71の軸方向一端部から径方向内方に向かって延在して形成された側板部72に加え、円筒部71における側板部72とは反対側の端部から外方に突出するフランジ部73を一体に有している。フランジ部73には、第1の伝達部材74の外鍔部742が当接する。側板部72には、第1の実施の形態と同様に、第1貫通孔(不図示)、及び複数の第2貫通孔722が形成されている。
第1の非磁性リング81の突起部812は、図9に示すように、プランジャ7の側板部72の第2貫通孔722に挿通されている。突片813は、側板部72よりも突起部812の先端側に設けられている。側板部72が電磁石61から離間する方向にプランジャ7が軸方向移動すると、突片813が側板部72に当接し、プランジャ7の軸方向移動が規制される。また、第1の非磁性リング81は、突起部812の先端側の一部がデフキャリア100に設けられた凹部100cに嵌入することにより、デフキャリア100に対して回り止めされている。これにより、第1の非磁性リング81は、電磁石61の抜け止め及びプランジャ7の軸方向移動を規制する機能を有している。
第1の非磁性リング81の外径(本体部811の外径)と第2の非磁性リング82の外径とは同一である。第1及び第2の非磁性リング81,82の外径は、電磁石61の外径よりも大きく、ヨーク62の鍔部622の外径よりも大きい。これにより、第1の実施の形態と同様に、電磁石61の外周面61aとプランジャ7の円筒部71の内周面71aとの間に環状の隙間が形成され、電磁石61のモールド樹脂部612とプランジャ7とが非接触となる。また、プランジャ7が軸方向に移動するとき、第1及び第2の非磁性リング81,82それぞれの外周面81a,82aがプランジャ7の円筒部71の内周面71aに摺接する。
以上説明した第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、第2の実施の形態に係る差動装置1Aの第2の非磁性リング82を、図8に示す変形例のように構成してもよい。