しかしながら、上述の従来の成膜ローラーは、外側の円筒状のステンレス鋼板の内面全体に冷却水による圧力が加わる構造を有するため、真空中でビア樽形に変形してしまい、フィルムの表面が湾曲してしまうだけでなく、フィルムの搬送を円滑に行うことができないという欠点があった。
そこで、この発明が解決しようとする課題は、スパッタリング装置や真空蒸着装置などの各種の成膜装置においてロール・ツー・ロール方式でフィルム、より一般的には被処理体上に成膜を行う場合、さらには、ロール・ツー・ロール方式で、被処理体上に成膜した薄膜にプラズマエッチングなどのドライエッチング、プラズマによる表面処理、冷却などの各種の処理を行う場合にフィルムなどの被処理体の表面を平坦に維持しながら円滑に搬送することができるとともに、被処理体の温度を迅速かつ正確に制御することができ、成膜、エッチングなどの各種の処理を良好に行うことができる処理ローラーおよびその製造方法ならびにそのような処理ローラーを有する処理装置を提供することである。
この発明が解決しようとする他の課題は、円筒状のスパッタリングターゲットなどの円筒状体に接触させて用いることにより、円筒状体の温度を迅速かつ正確に制御することができるバッキングプレートおよびその製造方法を提供することである。
前記課題を解決するために、この発明は、
ロール・ツー・ロール方式で処理を行う被処理体が巻き付けられる処理ローラーであって、
流路を内蔵する銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒部を少なくとも有効部に有することを特徴とするものである。
処理ローラーの有効部とは、処理を行う被処理体が巻き付けられ、接触する部分のことをいう。ここで、処理には、成膜、ドライエッチング(プラズマエッチングなど)、プラズマによる表面処理(密着性向上、表面改質、親水性向上、還元処理、撥水処理などを目的とするもの)のほか、冷却処理などの各種のものが含まれる。被処理体は、処理ローラーの有効部に巻き付けることができる限り、基本的にはどのようなものであってもよく、特に限定されないが、具体的には、例えば、フィルム、薄板、繊維からなる布状体、線状体などであり、材質も樹脂、単体金属や合金などの金属材料(鉄系材料および非鉄材料)などの各種のものであってよい。円筒部が銅または銅合金により構成される場合、熱伝導性および加工性を最重要視するときには、好適には、熱伝導率が高く展延性にも優れた銅(純銅)(例えば、無酸素銅、タフピッチ銅、リン脱酸銅など)により構成され、最も好適には無酸素銅により構成される。一方、円筒部は、銅では得られない特性(例えば、銅より高い機械的強度)が必要とされる場合には、銅合金により構成される。銅合金としては、例えば、銅−スズ系合金、銅−亜鉛系合金、銅−ニッケル系合金、銅−アルミニウム系合金、銅−ベリリウム系合金などが挙げられ、これらの中から、円筒部に要求される特性を満たす合金および組成が選ばれる。また、円筒部がアルミニウムまたはアルミニウム合金により構成される場合、熱伝導性および加工性を最重要視するときには、好適には、熱伝導率が高く展延性にも優れたアルミニウム(純アルミニウム)により構成される。一方、円筒部は、アルミニウムでは得られない特性(例えば、アルミニウムより高い機械的強度)が必要とされる場合には、アルミニウム合金により構成される。アルミニウム合金としては、例えば、アルミニウム−銅−マグネシウム系合金、アルミニウム−マンガン系合金、アルミニウム−シリコン系合金、アルミニウム−マグネシウム系合金、アルミニウム−マグネシウム−シリコン系合金、アルミニウム−亜鉛−マグネシウム系合金などが挙げられ、これらの中から、円筒部に要求される特性を満たす合金および組成が選ばれる。このように円筒部が銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金により構成されることにより、少なくともステンレス鋼に比べて高い熱伝導率を得ることができる。例えば、ステンレス鋼の熱伝導率はSUS304およびSUS316では16.7W/(m・K)、SUS444では26.0W/(m・K)であるのに対し、銅の熱伝導率は無酸素銅(C1020)およびタフピッチ銅(C1100)では391W/(m・K)、リン脱酸銅(C1220)では339W/(m・K)、銅合金の熱伝導率は、銅−亜鉛系合金である黄銅1種では121W/(m・K)、銅−ニッケル系合金である洋白2種では33W/(m・K)、銅−スズ系合金であるリン青銅1種では84W/(m・K)、銅−ニッケル系合金である銅−ニッケル−シリコン合金(コルソン合金)、例えばEFTEC23Zでは210W/(m・K)、アルミニウムの熱伝導率はA1100では220W/(m・K)、アルミニウム合金の熱伝導率は、アルミニウム−銅−マグネシウム系合金であるA2017では190W/(m・K)、アルミニウム−マンガン系合金であるA3003では190W/(m・K)、アルミニウム−シリコン系合金であるA4032では150W/(m・K)、アルミニウム−マグネシウム系合金であるA5005では200W/(m・K)、アルミニウム−マグネシウム−シリコン系合金であるA6063では220W/(m・K)、アルミニウム−亜鉛−マグネシウム系合金であるA7075では130W/(m・K)であり、いずれもステンレス鋼に比べて高い。
銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒部の少なくとも外周面には、処理ローラーの使用中に傷が付いたり摩耗したりするのを防止するために、好適には、この円筒部を構成する銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金よりも硬度が高い材料からなるコーティング層が形成される。例えば、円筒部の表面に銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金よりも硬度が高い材料のメッキ、好適には硬質クロムメッキが施される。コーティング層あるいはメッキ層の厚さは、円筒部の表面の熱伝導性を損なわないように選ばれる。
円筒部が内蔵する流路には、液体や気体などの流体が流され、どのような流体を流すかは、処理ローラーにより行う処理や円筒部を構成する材料の種類などに応じて適宜決められる。流体としては、水、油、代替フロン(ハイドロフルオロカーボン(HFC))、空気などが挙げられる。円筒部が内蔵する流路は、典型的には、円筒部の円周方向に直線状に延在する部分(円筒部を平面に展開した時には直線部)と折り返し部とを有するジグザグ状に折れ曲がった形状を有する。流路の横断面形状は特に限定されず、必要に応じて選ばれるが、好適には、円筒部の中心軸に平行な長方形の横断面形状を有する。円筒部は、より詳細には、好適には、例えば、円筒部を平面に展開した時の流路と同一の平面形状を有する下部溝とこの下部溝とほぼ相似な平面形状を有し、この下部溝より大きい上部溝とからなる溝が一方の主面に設けられた、円筒部を平面に展開した時の平面形状と同一の長方形または正方形の平面形状を有する第1平板と、この第1平板の溝の上部溝に嵌められた第2平板とからなり、第1平板と第2平板との境界部が摩擦攪拌接合により接合された長方形または正方形の平面形状を有する平板をその一辺に平行な方向(円筒部を平面に展開した時の流路の直線部に平行な方向またはこの直線部に垂直な方向)に円筒状に丸め、この丸めた板の一端と他端とを接合したものからなる。この平板をその一辺に平行な方向に円筒状に丸める際には、第1平板と第2平板との境界部が摩擦攪拌接合により接合された側の表面が外側になるようにしてもよいし、内側になるようにしてもよい。この平板を円筒状に丸める加工に際しては、最終的に流路となる下部溝が変形し、設計通りの横断面形状の流路が得られなくなるのを防止するために、第1平板の溝の上部溝に嵌められた第2平板を支えるための支柱をこの下部溝の内部に設けておくようにしてもよい。こうすることで、この平板を円筒状に丸める際に、この支柱が下部溝に対して第2平板を支えることにより、下部溝が変形することを防止することができる。この支柱は、下部溝の延在方向の少なくとも一箇所、典型的には複数箇所、場合によっては全体に例えば線状または点状に設けられ、好適には、下部溝の横断面の面積があまり減少し過ぎないように下部溝の幅に対して十分に小さい幅に設けられる。この支柱は、第1平板または第2平板と一体に設けてもよいし、第1平板および第2平板と別に作製してもよい。摩擦攪拌接合は、接合ツールを回転させながら、材料に挿入し、接合線に沿って接合ツールを移動させることで、接合ツールと材料との間に発生する摩擦熱により材料が軟化し、接合ツールにより攪拌され接合される摩擦熱と塑性流動とを利用した固相接合である(例えば、特許文献1および非特許文献2参照。)。この摩擦攪拌接合により接合された結晶組織は接合前と比べて微細化するため、接合線に沿う方向の延伸性が向上するという特徴を有する。従って、第1平板と第2平板との境界部が摩擦攪拌接合により接合された長方形または正方形の平面形状を有する平板はその境界部の方向の延伸性が良好であることから、その平板を第1平板と第2平板との境界部が摩擦攪拌接合により接合された側の表面が外側になるようにその境界部の方向に円筒状に丸める加工を、第1平板と第2平板との境界部の破壊や損傷を生じたりすることなく、容易に行うことができる。円筒部が内蔵する流路は、円筒部の円周方向に直線状に延在する部分と折り返し部とを有するジグザグ状に折れ曲がった形状を有する前記のものに限定されず、例えば、円筒部の中心軸に平行な方向に延在する部分と折り返し部とを有するジグザグ状に折れ曲がった形状を有するものであってもよい。さらに、円筒部が内蔵する流路は、円筒部の両端面間に円筒部の中心軸に平行に、かつ円筒部の円周方向に例えば等間隔に複数設けられたものであってもよい。このような流路は、例えば、円筒部を平面に展開した時の平面形状と同一の長方形または正方形の平面形状を有する平板をその一辺に平行な方向に円筒状に丸め、この丸めた板の一端と他端とを接合した後、円筒部の一方の端面から他方の端面に達する貫通孔を形成することにより形成することができる。この場合の流路の横断面形状は特に限定されないが、貫通孔を例えばガンドリル加工により形成する場合には円形である。
典型的には、円筒部の両端にこの円筒部を閉塞するようにそれぞれ円板が設けられ、これらの円板は円筒部の内部と外部とを連通する貫通孔を有する。これによって、この処理ローラーを例えばスパッタリング装置や真空蒸着装置などの成膜装置の成膜室内に成膜ローラーとして設置し、成膜室内を真空に排気した時、円筒部の内外の圧力を等しくすることができることにより、円筒部に外力が加わって変形することを防止することができる。これらの円板を構成する材料は必要に応じて選ばれるが、例えばステンレス鋼である。処理ローラーの中心軸の周りの重量分布の対称性を確保し、処理ローラーの回転を円滑に行うことができるようにするために、これらの円板の貫通孔は、好適には、円板の中心軸の周りに対称的に配置される。典型的には、それぞれの円板の外側に、処理ローラー、従って円筒部の中心軸上に回転軸が取り付けられる。円筒部が内蔵する流路への流体の供給は、例えば、次のようにして行うことができる。すなわち、一方の回転軸の中心軸上にこの回転軸および一方の円板を貫通する第1貫通孔を設け、他方の回転軸の中心軸上にこの回転軸および他方の円板を貫通する第2貫通孔を設け、円筒部の内部において第1貫通孔と連通して第1配管の一端を気密性を持って固定し、この第1配管の他端を円筒部が内蔵する流路の一方の円板側の一端部に流路と連通するように設けた穴に気密性を持って接続し、円筒部の内部において第2貫通孔と連通して第2配管の一端を気密性を持って固定し、この第2配管の他端を円筒部が内蔵する流路の他方の円板側の他端部に流路と連通するように設けた穴に気密性を持って接続する。そして、外部から、一方の回転軸の第1貫通孔から流体を供給し、第1配管を経由してこの流体を円筒部が内蔵する流路の一端部に供給し、この流路の他端部からこの他端部に接続された第2配管を経由して他方の回転軸の貫通孔から外部に排出することで、流路に流体を循環させる。あるいは、一方の回転軸の中心軸上にこの回転軸を貫通する第3貫通孔を設け、他方の回転軸の中心軸上にこの回転軸を貫通する第4貫通孔を設け、一方の円板の内部に第3貫通孔と連通する流路を設け、この流路を円筒部が内蔵する流路の一方の円板側の一端部と連通させ、他方の円板の内部に第4貫通孔と連通する流路を設け、この流路を円筒部が内蔵する流路の他方の円板側の他端部と連通させる。そして、外部から、一方の回転軸の貫通孔から流体を供給し、この流体を一方の円板が内蔵する流路を経由して円筒部が内蔵する流路の一端部に供給し、この流路の他端部からこの他端部に接続された、他方の円板が内蔵する流路を経由して他方の回転軸の貫通孔から外部に排出することで、流路に流体を循環させる。
円筒部の外径および内径、長さ、円筒部が内蔵する流路の断面形状、断面寸法、間隔などは、処理ローラーの使用目的などに応じて適宜選択される。
この処理ローラーは、典型的には、ロール・ツー・ロール方式で被処理体上に成膜を行うスパッタリング装置、真空蒸着装置、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition )装置などの各種の成膜装置、さらには、ロール・ツー・ロール方式で、被処理体上に成膜された薄膜のドライエッチング(プラズマエッチングなど)やプラズマによる表面処理を行うドライエッチング装置やプラズマ処理装置などの各種の処理装置(成膜装置を除く)に用いられる。この処理ローラーのうち特に成膜装置において成膜を行う部位に用いられるものを成膜ローラーという。
また、この発明は、
ロール・ツー・ロール方式で処理を行う被処理体が巻き付けられる、流路を内蔵する銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒部を少なくとも有効部に有する処理ローラーの製造方法であって、
前記円筒部を平面に展開した時の前記流路と同一の平面形状を有する下部溝とこの下部溝とほぼ相似な平面形状を有し、前記下部溝より大きい上部溝とからなる溝が一方の主面に設けられた、前記円筒部を平面に展開した時の平面形状と同一の長方形または正方形の平面形状を有する第1平板の前記溝の前記上部溝に第2平板を嵌める工程と、
前記第1平板と前記第2平板との境界部を摩擦攪拌接合により接合する工程と、
前記第1平板と前記第2平板との境界部を前記摩擦攪拌接合により接合した前記第1平板と前記第2平板とからなる長方形または正方形の平面形状を有する平板をその一辺に平行な方向に円筒状に丸め、この丸めた板の一端と他端とを接合する工程と、
を有することを特徴とするものである。
また、この発明は、
ロール・ツー・ロール方式で処理を行う被処理体が巻き付けられる、流路を内蔵する銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒部を少なくとも有効部に有する処理ローラーの製造方法であって、
前記円筒部を平面に展開した時の平面形状と同一の平面形状を有する長方形または正方形の平板をその一辺に平行な方向に円筒状に丸め、この丸めた板の一端と他端とを接合する工程と、
前記丸めた板の一方の端面から他方の端面に達する貫通孔を前記丸めた板の中心軸に平行にかつ前記丸めた板の円周方向の等間隔の複数箇所に形成することにより前記流路を形成する工程と、
を有することを特徴とするものである。
第1平板および第2平板は、円筒部を構成する銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金と同一の材料からなるものが用いられる。これらの処理ローラーの製造方法の発明においては、前記以外のことについては、その性質に反しない限り、前記の処理ローラーの発明に関連して説明したことが成立する。
また、この発明は、
ロール・ツー・ロール方式で処理を行う被処理体が巻き付けられる処理ローラーを有する処理装置であって、
前記処理ローラーが流路を内蔵する銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒部を少なくとも有効部に有することを特徴とするものである。
この処理装置には、ロール・ツー・ロール方式で被処理体上に成膜を行うスパッタリング装置、真空蒸着装置、プラズマCVD装置などの成膜装置や、ロール・ツー・ロール方式で、被処理体上に成膜された薄膜のドライエッチング(プラズマエッチングなど)やプラズマによる表面処理を行うドライエッチング装置やプラズマ処理装置などの各種の処理装置(成膜装置を除く)が含まれる。この処理装置の発明においては、その性質に反しない限り、前記の処理ローラーの発明に関連して説明したことが成立する。
特に前記の成膜装置がスパッタリング装置である場合、このスパッタリング装置は、好適には、横断面形状が互いに対向する一対の長辺部を有する管状の形状を有し、エロージョン面が内側を向いているスパッタリングターゲットを有するスパッタリングカソードを成膜室内に有する。このようにスパッタリングカソードのスパッタリングターゲットが横断面形状が互いに対向する一対の長辺部を有する管状の形状、すなわち四方が囲まれた形状を有し、エロージョン面が内側を向いていることにより、スパッタリング装置にこのスパッタリングカソードを取り付けて放電を行ったとき、スパッタリングターゲットのエロージョン面側にスパッタリングターゲットの内面を周回するプラズマを発生させることができる。このため、プラズマ密度を高くすることができることにより、成膜速度を十分に高くすることができる。また、プラズマが多く生成される場所はスパッタリングターゲットの表面近傍に限定されるため、プラズマから発光する光がフィルムに照射されることにより損傷が生じるおそれを最小限にすることができる。典型的には、スパッタリングターゲットの互いに対向する一対の長辺部の間の距離は、スパッタリングカソードをスパッタリング装置に取り付けて使用するときに、スパッタリングターゲットの上方の空間に向かうスパッタ粒子の数を十分に確保するとともに、スパッタリングターゲットの表面近傍に発生するプラズマから発生する光がスパッタリングターゲットの上方の空間を搬送される被処理体に照射されるのを防止する観点より、好適には、50mm以上150mm以下であり、より好適には、60mm以上100mm以下、最も好適には70mm以上90mm以下である。また、スパッタリングターゲットの一対の長辺部の間の距離に対する長辺部の長さの比は典型的には2以上、好適には5以上である。この比の上限は特に存在しないが、一般的には40以下である。スパッタリングターゲットの一対の長辺部は、典型的には互いに平行であるが、これに限定されるものではなく、互いに傾斜してもよい。スパッタリングターゲットの横断面形状は、典型的には、一対の長辺部が互いに平行であり、これらの長辺部に垂直な互いに対向する一対の短辺部を有する。この場合、スパッタリングターゲットは、横断面形状が矩形の角管状の形状を有する。スパッタリングターゲットの横断面形状は、例えば、長辺部に平行な方向の両端部が外側に向かって凸の互いに対向する一対の曲面部(例えば、半円形部)からなるものであってもよい。横断面形状が矩形の角管状の形状を有するスパッタリングターゲットは、典型的には、一対の長辺部を構成する第1平板および第2平板と、長辺部に垂直な互いに対向する一対の短辺部を構成する第3平板および第4平板とからなる。この場合、これらの第1平板〜第4平板を別々に作製し、これらを角管状に配置することによりスパッタリングターゲットを組み立てることができる。一対の長辺部を構成する第1平板および第2平板は、一般的には、成膜を行う材料と同じ組成の材料により構成されるが、互いに異なる材料により構成されたものであってもよい。例えば、第1平板を材料Aにより構成し、第2平板を材料Bにより構成し、第1平板からのスパッタ粒子束と第2平板からのスパッタ粒子束とをフィルムに入射させることにより、AとBとからなる薄膜を成膜することができ、必要に応じて材料A、Bとして二元以上の材料を用いることにより、多元系材料からなる薄膜を成膜することができる。より具体的には、例えば、第1平板を単一元素からなる金属M1 により構成し、第2平板を単一元素からなる金属M2 により構成することにより、M1 とM2 とからなる二元合金薄膜を成膜することが可能である。これは、真空蒸着法における二元蒸着法と同様な成膜法をスパッタリング装置で実現することができることを意味する。
一般的には、スパッタリングターゲットの一対の長辺部以外の部分からのスパッタ粒子束は成膜に積極的に使用しないが、意図しない元素の混入を防止するため、典型的には、スパッタリングターゲットの一対の長辺部以外の部分は長辺部と同種の材料により構成される。しかしながら、スパッタリングターゲットの一対の長辺部以外の部分からのスパッタ粒子束を成膜に積極的に使用する場合には、スパッタリングターゲットの一対の長辺部以外の部分は一対の長辺部と異なる材料により構成されることもある。
また、この発明は、
流路を内蔵する銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒部を有するバッキングプレートである。
このバッキングプレートの発明においては、その性質に反しない限り、前記の処理ローラーの発明に関連して説明したことが成立する。
また、この発明は、
流路を内蔵する銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒部を有するバッキングプレートの製造方法であって、
前記円筒部を平面に展開した時の前記流路と同一の平面形状を有する下部溝とこの下部溝とほぼ相似な平面形状を有し、前記下部溝より大きい上部溝とからなる溝が一方の主面に設けられた、前記円筒部を平面に展開した時の平面形状と同一の長方形または正方形の平面形状を有する第1平板の前記溝の前記上部溝に第2平板を嵌める工程と、
前記第1平板と前記第2平板との境界部を摩擦攪拌接合により接合する工程と、
前記第1平板と前記第2平板との境界部を前記摩擦攪拌接合により接合した前記第1平板と前記第2平板とからなる長方形または正方形の平面形状を有する平板をその一辺に平行な方向に円筒状に丸め、この丸めた板の一端と他端とを接合する工程と、
を有することを特徴とするものである。
また、この発明は、
流路を内蔵する銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒部を有するバッキングプレートの製造方法であって、
前記円筒部を平面に展開した時の平面形状と同一の長方形または正方形の平面形状を有する平板をその一辺に平行な方向に円筒状に丸め、この丸めた板の一端と他端とを接合する工程と、
前記丸めた板の一方の端面から他方の端面に達する貫通孔を前記丸めた板の中心軸に平行にかつ前記丸めた板の円周方向の等間隔の複数箇所に形成することにより前記流路を形成する工程と、
を有することを特徴とするものである。
これらのバッキングプレートの製造方法の発明においては、その性質に反しない限り、前記の処理ローラーの製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
この発明によれば、処理ローラーの円筒部が熱伝導性に優れた銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるので、円筒部が内蔵する流路に例えば冷却水または温水を流すことにより、円筒部を迅速かつ効率的に冷却または加熱することができるとともに、非特許文献1に記載された従来の成膜ローラーのように、真空中でビア樽形に変形してしまう問題が発生しない。このため、スパッタリング装置などの成膜装置においてロール・ツー・ロール方式でフィルムなどの被処理体上に成膜を行ったり、ドライエッチング装置やプラズマ処理装置などにおいてフィルムなどの被処理体上に成膜された薄膜のエッチングやプラズマによる表面処理などを行ったり、フィルムなどの被処理体の冷却を行ったりする場合にその被処理体の表面を平坦に維持しながら円滑に搬送することができる。また、熱伝導性に優れた銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒部は熱応答性が良好であるので、流路に流す例えば冷却水または温水の温度や流量などにより温度を迅速かつ正確に制御することができ、ひいては円筒部に巻き付けられる被処理体の温度を迅速かつ正確に制御することができる。また、この発明のバッキングプレートによれば、円筒状のスパッタリングターゲットなどの円筒状体に接触させて用いることにより、円筒状体の温度を迅速かつ正確に制御することができる。
以下、発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)について図面を参照しながら説明する。
〈第1の実施の形態〉
[処理ローラー]
図1A、B、CおよびDは第1の実施の形態による処理ローラーを示し、図1Aは正面図、図1Bは左側面図、図1Cは右側面図、図1Dは縦断面図である。
図1A、B、CおよびDに示すように、この処理ローラーは、円筒部10と、この円筒部10の両端にこの円筒部10を閉塞するように設けられた円板20、30と、これらの円板20、30の外側にこの処理ローラー、従って円筒部10の中心軸上に設けられた回転軸40とを有する。
円筒部10は、この円筒部10の中心軸に平行な長方形の横断面形状の流路11を内蔵している。すなわち、円筒部10に流路11が埋設されている。図2AおよびBはこの円筒部10を平面に展開した状態の平面図を示す。図2AおよびBに示すように、この例では、円筒部10を平面に展開した時の形状は長方形であり、流路11は、この長方形の長辺に平行に延在する直線部11aとこの直線部11aに対して垂直に折れ曲がった折り返し部11bとが交互に設けられ、ジグザグ状に折れ曲がった形状を有する。流路11の一端には冷却水などの流体の入口となる穴12が設けられ、他端には流体の出口となる穴13が設けられている。円筒部10は銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、好適には、これらの材料の中で熱伝導率が最も高い無酸素銅からなる。無酸素銅は、例えばステンレス鋼(SUS304)と比べて熱伝導率が約23倍も高い。図示は省略するが、円筒部10の少なくとも外周面、典型的には外周面および内周面に硬質クロムメッキが施されている。この硬質クロムメッキ層は、厚すぎると円筒部10の熱伝導性を低下させ、薄すぎると円筒部10の表面硬化の効果が少ないことから、この硬質クロムメッキ層の厚さは一般には20μm以上40μm以下に選ばれ、例えば30μmに選ばれる。この硬質クロムメッキ層の硬度は、例えば、ビッカース硬度で500以上とすることができる。必要に応じて、この硬質クロムメッキ層の表面は研磨により平坦化され、それによって表面粗さRa を例えば10nm程度と極めて小さくすることができる。
円板20、30は円筒部10の両端面にボルト締め、溶接などにより固定されている。円板20には、中心軸の周りに90°間隔で合計4つの円形の貫通孔21〜24が設けられている。同様に、円板30には、円板20の貫通孔21〜24に対応する位置に、中心軸の周りに90°間隔で合計4つの円形の貫通孔31〜34が設けられている。これらの貫通孔21〜24、31〜34は、この処理ローラーを例えばスパッタリング装置や真空蒸着装置などの成膜室内に成膜ローラーとして設置し、成膜室内を真空排気した時に円筒部10の内外の圧力差をなくすことで、円筒部10および円板20、30に圧力差による外力が加わらないようにするためのものである。これらの貫通孔21〜24、31〜34の直径は、円板20、30の機械的強度を確保することができる範囲で必要に応じて選ばれる。円板20、30は、例えば、ステンレス鋼などにより構成される。
円板20に固定された回転軸40の中心軸上には横断面形状が円形の貫通孔41が設けられている。貫通孔41は、回転軸40の先端から途中の深さまでの直径d1 の部分41aとそこから円板20までの部分のd1 より小さい直径d2 の部分41bとからなる。円板20には、回転軸40の中心軸上にこの部分41bと連通する貫通孔25が設けられている。この貫通孔25と連通して配管51の一端が気密性を持って固定されている。この配管51の他端は、流路11の円板20側の一端部に設けられた穴12に気密性を持って接続されている。同様に、円板30に固定された回転軸40の中心軸上には横断面形状が円形の貫通孔42が設けられている。貫通孔42は、回転軸40の先端から途中の深さまでの直径d1 の部分42aとそこから円板30までの部分のd1 より小さい直径d2 の部分42bとからなる。円板20にはこの部分42bと連通する貫通孔26が設けられている。この貫通孔26と連通して配管52の一端が気密性を持って固定されている。この配管52の他端は、流路11の円板30側の一端部に設けられた穴13に気密性を持って接続されている。これらの配管50、51としては、好適には、フレキシブルな金属配管、例えば蛇腹管が用いられる。流体は、図示省略した流体循環機構により、例えば、円板20に固定された回転軸40の貫通孔41から供給され、配管51を経由して円筒部10の穴12から流路11に入り、この流路11を通って穴13から出て、配管52を経由して、円板30に固定された回転軸40の貫通孔42から出て行き、この経路で循環するようになっている。
この処理ローラーの各部の寸法は必要に応じて選ばれるが、一例を挙げると、全長が500mm、直径が400mm、円筒部10の厚さが10mm、流路11の断面は35mm×5mm、流路11の間隔は15mmである。
[処理ローラーの製造方法]
図3AおよびBに示すように、図2に示す円筒部10の展開図に示すものと同様な平面形状を有する長方形の平板60を用意する。ここで、図3Aは平面図、図3Bは図3AのB−B線に沿っての断面図である。この平板60の厚さは円筒部10の厚さと同一である。この平板60の一方の主面に、段差の付いた横断面形状を有する溝61が設けられている。この溝61の下部溝61aは、円筒部10を平面に展開した時の流路11と同じ平面形状および同じ深さを有する。この溝61の上部溝61bは下部溝61aと相似で一回り大きい平面形状を有する。
次に、図4AおよびBに示すように、平板60の溝61の上部溝61bと同一の平面形状および上部溝61bの深さと同一の厚さを有する平板70を用意する。ここで、図4Aは平面図、図4Bは図4AのB−B線に沿っての断面図である。この平板70には、溝61の下部溝61aの一端部の底部に穴12が設けられ、他端部の底部に穴13が設けられている。
次に、図5AおよびBに示すように、平板60の溝61の上部溝61bに平板70を嵌める。ここで、図5Aは平面図、図5Bは図5AのB−B線に沿っての断面図である。
次に、図5AおよびBに示す平板60と平板70との間の境界部(直線部および折り返し部)を摩擦攪拌接合により接合する。こうして、平板60と平板70との間に、流路11となる、溝61の下部溝61aが設けられた長方形の平板80が得られる。
次に、この平板80を摩擦攪拌接合が行われた側の表面が外側になるように長手方向に円筒状に丸め、この円筒状に丸めた板の一方の短辺と他方の短辺とを突き合わせ、摩擦攪拌接合により接合する。こうして、平板60の溝61の下部溝61aからなる流路11を内蔵する円筒部10が製造される。
この後、円筒部10の両端に円板20、30および回転軸40を固定する。
以上により、図1に示す目的とする処理ローラーが製造される。
以上のように、この第1の実施の形態によれば、処理ローラーの円筒部10が熱伝導性に優れた銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるので、円筒部10が内蔵する流路11に冷却水や温水などの流体を流すことにより、成膜あるいはエッチングなどの処理を行うフィルムなどの被処理体が巻き付けられる円筒部10を迅速かつ効率的に冷却または加熱することができるとともに、非特許文献1に示す成膜ローラーのように真空中でビア樽形に変形してしまう問題が発生しない。このため、例えば、スパッタリング装置などの成膜装置においてロール・ツー・ロール方式でフィルム上に成膜を行う場合あるいはドライエッチング装置やプラズマ処理装置などにおいてロール・ツー・ロール方式で、フィルム上に成膜された薄膜のエッチングやプラズマによる表面処理などを行う場合にフィルムの表面を平坦に維持しながら円滑に搬送することができる。また、熱伝導性に優れた銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる円筒部10は熱応答性が良好であるので、流路11に流す冷却水や温水などの流体の温度や流量などにより温度を迅速かつ正確に制御することができ、ひいては円筒部10に巻き付けられる被処理体の温度を迅速かつ正確に制御することができ、成膜、エッチング、プラズマによる表面処理などの各種の処理を良好に行うことができる。
〈第2の実施の形態〉
[スパッタリング装置]
図6および図7は第2の実施の形態によるスパッタリング装置を示す。ここで、図6はこのスパッタリング装置の真空容器の内部を成膜ローラーに平行な方向から見た略線図、図7はこのスパッタリング装置の真空容器の内部を成膜ローラーに垂直な方向から見た略線図である。
図6および図7に示すように、このスパッタリング装置は、真空容器90の内部が仕切り板91により上下に仕切られている。真空容器90の内部の仕切り板91の下側の空間は成膜室C1 、上側の空間はフィルム搬送室C2 である。成膜室C1 の内部に、第1の実施の形態による処理ローラーからなる成膜ローラーR1 が水平に設置されている。成膜ローラーR1 の円筒部10の両端の回転軸40の両端部は、成膜室C1 の両側壁に固定された支持板92、93に設けられた円形の穴および成膜室C1 の両側壁に設けられた円形の穴を通され、これらの穴により回転自在に支持されている。成膜室C1 の内壁には、例えば3個のスパッタリングカソードK1 、K2 、K3 が設置されている。このうちスパッタリングカソードK1 は成膜室C1 の底部に絶縁部材94を介して設置され、真空容器90と電気的に絶縁されている。スパッタリングカソードK2 、K3 は成膜室C1 の互いに対向する側壁にそれぞれ絶縁部材94を介して設置されている。成膜ローラーR1 の円筒部10の周囲には、フィルム上に成膜を行う際に、スパッタリングカソードK1 、K2 、K3 から発生し、フィルムに入射するスパッタリング粒子束を制限するための遮蔽板95が設けられている。一方、フィルム搬送室C2 には、巻き出し/巻き取り用のローラーR2 、R3 および搬送ローラー(あるいはガイドローラー)R4 、R5 、R6 、R7 が設置されている。巻き出し/巻き取り用のローラーR2 、R3 の軸(図7にはローラーR3 の軸S3 のみ図示されている)は、成膜室C1 の両側壁に固定された支持板92、93に設けられた円形の穴および成膜室C1 の両側壁に設けられた円形の穴を通され、これらの穴により回転自在に支持されている。搬送ローラーR4 、R5 、R6 、R7 の軸(図7には搬送ローラーR6 、R7 の軸S6 、S7 のみ図示されている)は支持板92、93に設けられた円形の穴により回転自在に支持されている。そして、巻き出し/巻き取り用のローラーR2 、搬送ローラーR4 、R5 、成膜ローラーR1 、搬送ローラーR6 、R7 および巻き出し/巻き取り用のローラーR3 によりフィルムFが搬送されるようになっている。フィルムFは、ローラーR2 、R3 の回転軸S2 、S3 に固定された図示省略した回転機構によりこれらのローラーR2 、R3 を回転させることにより、搬送することができるようになっている。この場合、ローラーR2 、R3 を図6中、反時計方向に回転させることにより、ローラーR2 からフィルムFを巻き出し、搬送ローラーR4 、R5 、成膜ローラーR1 および搬送ローラーR6 、R7 を経由して搬送し、ローラーR3 によりフィルムFを巻き取ることができる。逆に、ローラーR2 、R3 を図6中、時計方向に回転させることにより、ローラーR3 からフィルムFを巻き出し、搬送ローラーR7 、R6 、成膜ローラーR1 および搬送ローラーR5 、R4 を経由して搬送し、ローラーR2 によりフィルムFを巻き取ることができる。すなわち、フィルムFは互いに逆方向に搬送することができるようになっている。これによって、例えば、まずローラーR2 、R3 を図6中、反時計方向に回転させてフィルムFを搬送しながら、成膜ローラーR1 上で成膜を行った後、ローラーR2 、R3 を図6中、時計方向に回転させてフィルムFを逆方向に搬送しながら、成膜ローラーR1 上で成膜を行い、これを複数回繰り返すことにより、フィルムF上に薄膜を多層に形成することができる。必要に応じて、搬送ローラーR4 〜R7 の少なくとも一つを第1の実施の形態による処理ローラーと同様に構成して冷却ローラーとして用いてもよい。こうすることで、成膜ローラーR1 上で成膜を行う際に加熱されたフィルムFをローラーR2 またはローラーR3 に巻き取られる前に搬送中に冷却ローラーにより冷却することができるので、フィルムFの温度が高いままローラーR2 またはローラーR3 に巻き取られた後に冷えて収縮する際にフィルムF同士がこすれることにより発生するフィルムFの傷の問題の発生を防止することができる。仕切り板91には、フィルムFを通すためのスリット状の穴91a、91bが設けられている。
スパッタリングカソードK1 、K2 、K3 の詳細について説明する。これらのスパッタリングカソードK1 、K2 、K3 は同様な構成を有してもよいし、互いに異なる構成を有してもよい。ここでは、一例として、スパッタリングカソードK1 について説明する。図8に示すように、スパッタリングカソードK1 は、横断面形状が矩形の角管状の形状を有し、エロージョン面が内側を向いているスパッタリングターゲット110と、このスパッタリングターゲット110の外側に設けられた永久磁石120と、この永久磁石120の外側に設けられたヨーク130とを有する。また、永久磁石120およびヨーク130により磁気回路が形成されている。永久磁石120の極性は図8に示す通りであるが、各々が全く逆の極性でも何ら差し支えない。スパッタリングターゲット110と永久磁石120との間には、好適には冷却用のバッキングプレートが設けられ、このバッキングプレートの内部に設けられた流路に例えば冷却水が流される。スパッタリングターゲット110により囲まれた直方体状の空間の下端の近傍に、スパッタリングターゲット110のエロージョン面が露出するようにL字型の断面形状を有するアノード140が設けられている。このアノード140は、一般的には、接地された真空容器90に接続される。また、スパッタリングターゲット110により囲まれた直方体状の空間の上端の近傍に、スパッタリングターゲット110のエロージョン面が露出するようにL字型の断面形状を有する光線遮断シールド150が設けられている。光線遮断シールド150は導電体、典型的には金属により形成される。光線遮断シールド150はアノードを兼用し、アノード140と同様に、一般的には、接地された真空容器90に接続される。
図9に示すように、スパッタリングターゲット110の互いに対向する一対の長辺部の間の距離をa、スパッタリングターゲット110の互いに対向する一対の短辺部の間の距離をbとすると、b/aは2以上に選ばれ、一般的には40以下に選ばれる。aは一般的には50mm以上150mm以下に選ばれる。
このスパッタリング装置においては、スパッタリングターゲット110により囲まれた空間の上方において、成膜ローラーR1 の円筒部10に巻き付けられたフィルムFを搬送しながら成膜を行うようになっている。この時、フィルムFは、スパッタリングターゲット110に対し、スパッタリングターゲット110の長辺部を横断する方向に搬送されるようになっている。スパッタリングターゲット110の長辺部に平行な方向のフィルムFの成膜領域の幅は、bより小さく選ばれ、成膜時にはスパッタリングターゲット110の内側の互いに対向する一対の短辺部の間に収まるようになっている。フィルムFの成膜領域の幅はフィルムFの全面に成膜を行う場合はフィルムFの幅と一致する。
[スパッタリング装置による成膜方法]
スパッタリングカソードK1 、K2 、K3 の二つ以上を使って成膜を行うことも可能であるが、ここでは、スパッタリングカソードK1 だけを使用して成膜を行う場合について説明する。
成膜ローラーR1 の円筒部10の流路11を通して水を循環させ、円筒部10の温度をフィルムF上に成膜を行う温度に設定する。流路11に循環させる水には、必要に応じて、不凍液としてエチレングリコールなどを含ませる。流路11に循環させる水の温度の制御範囲の一例を挙げると、−10℃〜80℃である。
真空容器90を真空ポンプにより高真空に排気した後、スパッタリングターゲット110により囲まれた空間にスパッタリングガスとしてArガスを導入し、アノード140とスパッタリングカソードK1 との間に、所定の電源によりプラズマ発生に必要な、一般的には直流の高電圧を印加する。一般的には、アノード140が接地され、スパッタリングカソードK1 に負の高電圧(例えば、−400V)が印加される。これによって、図10および図11に示すように、スパッタリングターゲット110の表面近傍にこのスパッタリングターゲット110の内面に沿って周回するプラズマ160が発生する。
スパッタリングターゲット110の内面に沿って周回するプラズマ160中のArイオンによりスパッタリングターゲット110がスパッタリングされる結果、スパッタリングターゲット110を構成する原子がスパッタリングターゲット110により囲まれた空間から上方に飛び出す。このとき、スパッタリングターゲット110のエロージョン面のうちプラズマ160の近傍の部分の至る所から原子が飛び出すが、スパッタリングターゲット110の内側の短辺部のエロージョン面から飛び出す原子は、基本的には成膜に使用しない。このためには、スパッタリングターゲット110の長辺方向の両端部を遮蔽するようにスパッタリングターゲット110の上方に水平遮蔽板を設けることにより、スパッタリングターゲット110の短辺部のエロージョン面から飛び出す原子が成膜時に基板Sに到達しないようにすればよい。あるいは、スパッタリングターゲット110の長手方向の幅bをフィルムFの幅より十分に大きくすることにより、スパッタリングターゲット110の短辺部のエロージョン面から飛び出す原子が成膜時にフィルムFに到達しないようにしてもよい。スパッタリングターゲット110から飛び出る原子の一部は光線遮断シールド150により遮られる結果、スパッタリングターゲット10の長辺部のエロージョン面から、図12に示すようなスパッタ粒子束170、180が得られる。スパッタ粒子束170、180は、スパッタリングターゲット110の長手方向にほぼ均一な強度分布を有する。
安定なスパッタ粒子束170、180が得られるようになった時点で、フィルムFの巻き出し/巻き取り用のローラーR2 、R3 を図6中、例えば反時計方向に回転させ、フィルムFを搬送ローラーR4 、R5 、成膜ローラーR1 および搬送ローラーR6 、R7 を介して一定速度で搬送しながら、成膜ローラーR1 に巻き付けられたフィルムFに対して下方からスパッタ粒子束170、180により成膜を行う。このとき、フィルムFに掛かる張力は、例えば、10〜100Nを目安に一定値となるように制御される。
[スパッタリング装置のスパッタリングカソードおよびアノードの実施例]
図13に示すように、スパッタリングターゲット110を四つの板状のスパッタリングターゲット110a、110b、110c、110dにより形成し、永久磁石120を四つの板状あるいは棒状の永久磁石120a、120b、120c、120dにより形成し、ヨーク130を四つの板状のヨーク130a、130b、130c、130dにより形成する。また、スパッタリングターゲット110a、110b、110c、110dと永久磁石120a、120b、120c、120dとの間にそれぞれバッキングプレート190a、190b、190c、190dを挿入する。スパッタリングターゲット110aとスパッタリングターゲット110cとの間の距離は80mm、スパッタリングターゲット110bとスパッタリングターゲット110dとの間の距離は200mm、スパッタリングターゲット110a、110b、110c、110dの高さは80mmとする。
ヨーク130a、130b、130c、130dの外側には四つの板状のアノード200a、200b、200c、200dを設ける。これらのアノード200a、200b、200c、200dはアノード140とともに、接地された真空容器90に接続される。
この第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点に加えて、次のような利点を得ることができる。すなわち、スパッタリングカソードK1 、K2 、K3 が、横断面形状が矩形の角管状の形状を有し、エロージョン面が内側を向いているスパッタリングターゲット110を有することにより、次のような種々の利点を得ることができる。すなわち、スパッタリングターゲット110のエロージョン面側にこのスパッタリングターゲット110の内面を周回するプラズマ160を発生させることができる。このため、プラズマ160の密度を高くすることができることにより、成膜速度を十分に高くすることができる。また、プラズマ160が多く生成される場所はスパッタリングターゲット110の表面近傍に限定されるため、光線遮断シールド150が設けられていることと相まって、プラズマ160から発光する光がフィルムFに照射されることにより損傷が生じるおそれを最小限に抑えることができる。また、永久磁石120およびヨーク130により形成される磁気回路により発生する磁力線はスパッタリングカソードに拘束され、フィルムFに向かわないため、プラズマ160や電子線によりフィルムFに損傷が生じるおそれがない。また、スパッタリングターゲット110の互いに対向する一対の長辺部から得られるスパッタ粒子束170、180を用いて成膜を行うので、反射スパッタ中性ガスのエネルギーの高い粒子によりフィルムFが衝撃され、損傷が生じるのを最小限に抑えることができる。さらに、スパッタリングターゲット110の互いに対向する一対の長辺部から得られるスパッタ粒子束170、180はこの長辺部に平行な方向に均一な強度分布を有するため、フィルムFをこの長辺部を横断する方向、例えばこの長辺部に垂直な方向に一定速度で搬送しながら成膜を行うことと相まって、フィルムF上に成膜される薄膜の膜厚のばらつきを小さくすることができ、例えば膜厚分布を±5%以下にすることができる。このスパッタリング装置は、例えば、半導体デバイス、太陽電池、液晶ディスプレイ、有機ELなどの各種のデバイスにおいて電極材料の成膜に適用して好適なものである。
〈第3の実施の形態〉
[スパッタリング装置]
第3の実施の形態によるスパッタリング装置は、スパッタリングターゲット110として図14に示すようなものを用いる点が、第2の実施の形態によるスパッタリング装置と異なる。すなわち、図14に示すように、スパッタリングターゲット110は、互いに平行に対向する一対の長辺部とこれらの長辺部に連結した半円形部とからなる。スパッタリングターゲット110の外側に設けられた永久磁石120も、この永久磁石120の外側に設けられたヨーク130も、スパッタリングターゲット110と同様な形状を有する。このスパッタリング装置のその他の構成は第2の実施の形態によるスパッタリング装置と同様である。
[スパッタリング装置による成膜方法]
このスパッタリング装置による成膜方法は第2の実施の形態と同様である。
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、材料、構造、形状などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、材料、構造、形状などを用いてもよい。
また、第2および第3の実施の形態によるスパッタリング装置において、スパッタリングカソードK1 、K2 、K3 として上述と異なる構成のものを用いてもよい。