以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1を参照して、本発明の一実施の形態に係る磁気センサ装置の概略の構成について説明する。本実施の形態に係る磁気センサ装置1は、外部磁界の、互いに直交する3方向の成分を検出する装置である。
磁気センサ装置1は、3つの磁気センサ10,20,30と、軟磁性材料よりなる軟磁性構造体40と、支持部50とを備えている。磁気センサ10,20,30の各々は、少なくとも1つの磁気検出素子を含んでいる。支持部50は、磁気センサ10,20,30と軟磁性構造体40を支持する構造体である。支持部50は、互いに反対側に位置する下面と上面51aとを有する基板51を含んでいる。
ここで、図1に示したように、X方向、Y方向、Z方向を定義する。X方向、Y方向、Z方向は、互いに直交している。X方向とY方向は基板51の上面51aに平行な方向である。Z方向は、基板51の上面51aに垂直な方向であって、基板51の下面から上面51aに向かう方向である。また、X方向とは反対の方向を−X方向とし、Y方向とは反対の方向を−Y方向とし、Z方向とは反対の方向を−Z方向とする。以下、基準の位置に対してZ方向の先にある位置を「上方」と言い、基準の位置に対して「上方」とは反対側にある位置を「下方」と言う。また、磁気センサ装置1の構成要素に関して、Z方向の端に位置する面を「上面」と言い、−Z方向の端に位置する面を「下面」と言う。
磁気センサ10は、検出対象磁界Hxを検出して、検出対象磁界Hxに対応した検出値Sxを生成する。検出対象磁界Hxは、所定の方向に平行な方向を有する。本実施の形態では特に、検出対象磁界Hxは、外部磁界のX方向に平行な方向の成分である。X方向は、本発明における第1の方向に対応する。検出対象磁界Hxは、本発明における第1の検出対象磁界に対応する。本実施の形態では、検出対象磁界Hxの強度を、検出対象磁界Hxの方向がX方向のときは正の値で表し、検出対象磁界Hxの方向が−X方向のときは負の値で表す。検出値Sxは、本発明における第1の検出値に対応する。
磁気センサ20は、検出対象磁界Hyを検出して、検出対象磁界Hyに対応した検出値Syを生成する。検出対象磁界Hyは、外部磁界のY方向に平行な方向の成分である。Y方向は、本発明における第3の方向に対応する。検出対象磁界Hyは、本発明における第3の検出対象磁界に対応する。本実施の形態では、検出対象磁界Hyの強度を、検出対象磁界Hyの方向がY方向のときは正の値で表し、検出対象磁界Hyの方向が−Y方向のときは負の値で表す。検出値Syは、本発明における第3の検出値に対応する。
磁気センサ30は、検出対象磁界Hzを検出して、検出対象磁界Hzに対応した検出値Szを生成する。検出対象磁界Hzは、外部磁界のZ方向に平行な方向の成分である。Z方向は、本発明における第2の方向に対応する。検出対象磁界Hzは、本発明における第2の検出対象磁界に対応する。本実施の形態では、検出対象磁界Hzの強度を、検出対象磁界Hzの方向がZ方向のときは正の値で表し、検出対象磁界Hzの方向が−Z方向のときは負の値で表す。検出値Szは、本発明における第2の検出値に対応する。
軟磁性構造体40は、磁界変換部42と、少なくとも1つの軟磁性層を含んでいる。なお、磁界変換部42は、後で説明する図5および図6に示されている。磁界変換部42は、検出対象磁界Hzを受けてZ方向に垂直な方向の出力磁界成分を出力する。出力磁界成分の強度は、検出対象磁界Hzの強度と対応関係を有する。磁気センサ30は、出力磁界成分の強度を検出することによって、検出対象磁界Hzの強度を検出する。軟磁性構造体40については、後で詳しく説明する。
磁気センサ10,20,30と軟磁性構造体40は、基板51の上面51aの上または上方に配置されている。Z方向に平行な方向に見たとき、例えば上方から見たときに、軟磁性構造体40は、磁気センサ10,20とは重ならずに、磁気センサ30と重なるように配置されている。
支持部50は、X方向およびY方向に平行な基準平面RPを有している。基準平面RPは、Z方向に直交する。本実施の形態では特に、基準平面RPは、基板51の上面51aである。
基準平面RPは、互いに異なる3つの領域A10,A20,A40を含んでいる。領域A10は、基準平面RPに磁気センサ10を垂直投影してできる領域である。領域A20は、基準平面RPに磁気センサ20を垂直投影してできる領域である。領域A40は、基準平面RPに軟磁性構造体40を垂直投影してできる領域である。なお、基準平面RPに磁気センサ30を垂直投影してできる領域は、領域A40と一致するかほぼ一致する。
ここで、基準平面RP内に位置して、領域A40の重心C40を通り互いに直交する2つの直線を第1の直線L1と第2の直線L2とする。本実施の形態では特に、第1の直線L1はX方向に平行であり、第2の直線L2はY方向に平行である。
本実施の形態では、磁気センサ10は、互いに異なる位置に配置された第1の部分11と第2の部分12を含んでいる。領域A10は、基準平面RPに第1の部分11を垂直投影してできる部分領域A11と、基準平面RPに第2の部分12を垂直投影してできる部分領域A12を含んでいる。部分領域A11,A12は、第1の直線L1に平行な方向における領域A40の両側に位置している。
また、磁気センサ20は、互いに異なる位置に配置された第1の部分21と第2の部分22を含んでいる。領域A20は、基準平面RPに第1の部分21を垂直投影してできる部分領域A21と、基準平面RPに第2の部分22を垂直投影してできる部分領域A22を含んでいる。部分領域A21,A22は、第2の直線L2に平行な方向における領域A40の両側に位置している。
本実施の形態では、部分領域A11,A12は、いずれも第1の直線L1と交差する位置にある。また、部分領域A21,A22は、いずれも第2の直線L2と交差する位置にある。
領域A10のいかなる部分も第2の直線L2とは交差しないことが好ましい。同様に、領域A20のいかなる部分も第1の直線L1とは交差しないことが好ましい。
本実施の形態では特に、領域A10と領域A20は、上方から見て、領域A40の重心C40を中心として領域A10を90°回転すると領域A20に重なる位置関係である。図1において、重心C40を中心として反時計回り方向に部分領域A11,A12を90°回転すると、部分領域A11,A12はそれぞれ部分領域A21,A22に重なる。
図1に示したように、磁気センサ装置1は、更に、基板51の上面51aの上または上方に配置された複数の端子を備えている。この複数の端子は、磁気センサ10に対応する電源端子Vxおよび出力端子Vx+,Vx−と、磁気センサ20に対応する電源端子Vyおよび出力端子Vy+,Vy−と、磁気センサ30に対応する電源端子Vzおよび出力端子Vz+,Vz−と、磁気センサ10,20,30で共通に使用されるグランド端子Gとを含んでいる。
次に、図2を参照して、磁気センサ装置1の回路構成の一例について説明する。この例では、磁気センサ10は、ホイートストンブリッジ回路を構成する4つの抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4を含んでいる。抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4の各々は、検出対象磁界Hxに応じて変化する抵抗値を有する。抵抗部Rx1は、電源端子Vxと出力端子Vx+との間に設けられている。抵抗部Rx2は、出力端子Vx+とグランド端子Gとの間に設けられている。抵抗部Rx3は、電源端子Vxと出力端子Vx−との間に設けられている。抵抗部Rx4は、出力端子Vx−とグランド端子Gとの間に設けられている。
磁気センサ20は、ホイートストンブリッジ回路を構成する4つの抵抗部Ry1,Ry2,Ry3,Ry4を含んでいる。抵抗部Ry1,Ry2,Ry3,Ry4の各々は、検出対象磁界Hyに応じて変化する抵抗値を有する。抵抗部Ry1は、電源端子Vyと出力端子Vy+との間に設けられている。抵抗部Ry2は、出力端子Vy+とグランド端子Gとの間に設けられている。抵抗部Ry3は、電源端子Vyと出力端子Vy−との間に設けられている。抵抗部Ry4は、出力端子Vy−とグランド端子Gとの間に設けられている。
磁気センサ30は、ホイートストンブリッジ回路を構成する4つの抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4を含んでいる。抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4の各々は、磁界変換部42から出力される出力磁界成分に応じて変化する抵抗値を有する。抵抗部Rz1は、電源端子Vzと出力端子Vz+との間に設けられている。抵抗部Rz2は、出力端子Vz+とグランド端子Gとの間に設けられている。抵抗部Rz3は、電源端子Vzと出力端子Vz−との間に設けられている。抵抗部Rz4は、出力端子Vz−とグランド端子Gとの間に設けられている。
以下、抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4,Ry1,Ry2,Ry3,Ry4,Rz1,Rz2,Rz3,Rz4のうちの任意の1つを抵抗部Rと言う。抵抗部Rは、少なくとも1つの磁気検出素子を含んでいる。本実施の形態では特に、少なくとも1つの磁気検出素子は、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子である。以下、磁気抵抗効果素子をMR素子と記す。
本実施の形態では特に、MR素子は、スピンバルブ型のMR素子である。このスピンバルブ型のMR素子は、方向が固定された磁化を有する磁性層である磁化固定層と、印加磁界の方向に応じて方向が変化可能な磁化を有する磁性層である自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置されたギャップ層とを有している。スピンバルブ型のMR素子は、TMR(トンネル磁気抵抗効果)素子でもよいし、GMR(巨大磁気抵抗効果)素子でもよい。TMR素子では、ギャップ層はトンネルバリア層である。GMR素子では、ギャップ層は非磁性導電層である。スピンバルブ型のMR素子では、自由層の磁化の方向が磁化固定層の磁化の方向に対してなす角度に応じて抵抗値が変化し、この角度が0°のときに抵抗値は最小値となり、角度が180°のときに抵抗値は最大値となる。各MR素子において、自由層は、磁化容易軸方向が、磁化固定層の磁化の方向に直交する方向となる形状異方性を有している。
図2において、塗りつぶした矢印は、MR素子における磁化固定層の磁化の方向を表している。図2に示した例では、抵抗部Rx1,Rx4の各々におけるMR素子の磁化固定層の磁化の方向はX方向である。抵抗部Rx2,Rx3の各々におけるMR素子の磁化固定層の磁化の方向は−X方向である。
また、抵抗部Ry1,Ry4の各々におけるMR素子の磁化固定層の磁化の方向はY方向である。抵抗部Ry2,Ry3の各々におけるMR素子の磁化固定層の磁化の方向は−Y方向である。抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4の各々におけるMR素子の磁化固定層の磁化の方向については、後で説明する。
出力端子Vx+と出力端子Vx−との間の電位差は、検出対象磁界Hxと対応関係を有する。磁気センサ10は、出力端子Vx+と出力端子Vx−との間の電位差に対応する検出値Sxを生成する。検出値Sxは、出力端子Vx+と出力端子Vx−との間の電位差に対して振幅やオフセットの調整を施したものであってもよい。また、検出値Sxは、出力端子Vx+と出力端子Vx−との間の電位差を、磁界の強度を表す数値に換算したものであってもよい。
出力端子Vy+と出力端子Vy−との間の電位差は、検出対象磁界Hyと対応関係を有する。磁気センサ20は、出力端子Vy+と出力端子Vy−との間の電位差に対応する検出値Syを生成する。検出値Syは、出力端子Vy+と出力端子Vy−との間の電位差に対して振幅やオフセットの調整を施したものであってもよい。また、検出値Syは、出力端子Vy+と出力端子Vy−との間の電位差を、磁界の強度を表す数値に換算したものであってもよい。
出力端子Vz+と出力端子Vz−との間の電位差は、検出対象磁界Hzと対応関係を有する。磁気センサ30は、出力端子Vz+と出力端子Vz−との間の電位差に対応する検出値Szを生成する。検出値Szは、出力端子Vz+と出力端子Vz−との間の電位差に対して振幅やオフセットの調整を施したものであってもよい。また、検出値Szは、出力端子Vz+と出力端子Vz−との間の電位差を、磁界の強度を表す数値に換算したものであってもよい。
ここで、図1を参照して、抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4,Ry1,Ry2,Ry3,Ry4の配置の一例について説明する。この例では、磁気センサ10の第1の部分11は抵抗部Rx1,Rx4を含み、磁気センサ10の第2の部分12は抵抗部Rx2,Rx3を含んでいる。また、磁気センサ20の第1の部分21は抵抗部Ry1,Ry4を含み、磁気センサ20の第2の部分22は抵抗部Ry2,Ry3を含んでいる。
図1において、塗りつぶした矢印は、MR素子における磁化固定層の磁化の方向を表している。図1に示した例では、磁気センサ10の第1の部分11と、磁気センサ10の第2の部分12と、磁気センサ20の第1の部分21と、磁気センサ20の第2の部分22の各々において、そこに含まれる複数のMR素子の磁化固定層の磁化の方向が同じ方向になる。そのため、この例によれば、複数のMR素子の磁化固定層の磁化の方向の設定が容易になる。
次に、図3を参照して、MR素子の構成の一例について説明する。図3に示したMR素子100は、基板51側から順に積層された反強磁性層101、磁化固定層102、ギャップ層103および自由層104を含んでいる。反強磁性層101は、反強磁性材料よりなり、磁化固定層102との間で交換結合を生じさせて、磁化固定層102の磁化の方向を固定する。
なお、MR素子100における層101〜104の配置は、図3に示した配置とは上下が反対でもよい。また、磁化固定層102は、単一の強磁性層ではなく、2つの強磁性層とこの2つの強磁性層の間に配置された非磁性金属層とを含む人工反強磁性構造であってもよい。また、MR素子100は、反強磁性層101を含まない構成であってもよい。また、磁気検出素子は、ホール素子、磁気インピーダンス素子等、MR素子以外の磁界を検出する素子であってもよい。
次に、図4を参照して、抵抗部Rの構成の一例について説明する。この例では、抵抗部Rは、直列に接続された複数のMR素子100を含んでいる。抵抗部Rは、更に、複数のMR素子100が直列に接続されるように、回路構成上隣接する2つのMR素子100を電気的に接続する1つ以上の接続層を含んでいる。図4に示した例では、抵抗部Rは、1つ以上の接続層として、1つ以上の下部接続層111と、1つ以上の上部接続層112とを含んでいる。下部接続層111は、回路構成上隣接する2つのMR素子100の下面に接し、この2つのMR素子100を電気的に接続する。上部接続層112は、回路構成上隣接する2つのMR素子100の上面に接し、この2つのMR素子100を電気的に接続する。
次に、図5を参照して、軟磁性構造体40の磁界変換部42の構成の一例について説明する。この例では、磁界変換部42は、抵抗部Rz1に対応する下部ヨーク42B1および上部ヨーク42T1と、抵抗部Rz2に対応する下部ヨーク42B2および上部ヨーク42T2と、抵抗部Rz3に対応する下部ヨーク42B3および上部ヨーク42T3と、抵抗部Rz4に対応する下部ヨーク42B4および上部ヨーク42T4とを含んでいる。
下部ヨーク42B1,42B2,42B3,42B4および上部ヨーク42T1,42T2,42T3,42T4の各々は、Z方向に垂直な方向に長い直方体形状を有している。
下部ヨーク42B1および上部ヨーク42T1は、抵抗部Rz1の近傍に配置されている。下部ヨーク42B1は、抵抗部Rz1よりも、基板51の上面51aにより近い位置に配置されている。上部ヨーク42T1は、抵抗部Rz1よりも、基板51の上面51aからより遠い位置に配置されている。上方から見たときに、抵抗部Rz1は、下部ヨーク42B1と上部ヨーク42T1の間に位置している。
下部ヨーク42B2および上部ヨーク42T2は、抵抗部Rz2の近傍に配置されている。下部ヨーク42B2は、抵抗部Rz2よりも、基板51の上面51aにより近い位置に配置されている。上部ヨーク42T2は、抵抗部Rz2よりも、基板51の上面51aからより遠い位置に配置されている。上方から見たときに、抵抗部Rz2は、下部ヨーク42B2と上部ヨーク42T2の間に位置している。
下部ヨーク42B3および上部ヨーク42T3は、抵抗部Rz3の近傍に配置されている。下部ヨーク42B3は、抵抗部Rz3よりも、基板51の上面51aにより近い位置に配置されている。上部ヨーク42T3は、抵抗部Rz3よりも、基板51の上面51aからより遠い位置に配置されている。上方から見たときに、抵抗部Rz3は、下部ヨーク42B3と上部ヨーク42T3の間に位置している。
下部ヨーク42B4および上部ヨーク42T4は、抵抗部Rz4の近傍に配置されている。下部ヨーク42B4は、抵抗部Rz4よりも、基板51の上面51aにより近い位置に配置されている。上部ヨーク42T4は、抵抗部Rz4よりも、基板51の上面51aからより遠い位置に配置されている。上方から見たときに、抵抗部Rz4は、下部ヨーク42B4と上部ヨーク42T4の間に位置している。
磁界変換部42が出力する出力磁界成分は、下部ヨーク42B1および上部ヨーク42T1によって生成されて抵抗部Rz1に印加される磁界成分と、下部ヨーク42B2および上部ヨーク42T2によって生成されて抵抗部Rz2に印加される磁界成分と、下部ヨーク42B3および上部ヨーク42T3によって生成されて抵抗部Rz3に印加される磁界成分と、下部ヨーク42B4および上部ヨーク42T4によって生成されて抵抗部Rz4に印加される磁界成分を含んでいる。
図5において、4つの白抜きの矢印は、それぞれ、検出対象磁界Hzの方向がZ方向であるときに、抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4に印加される磁界成分の方向を表している。また、図5において、4つの塗りつぶした矢印は、それぞれ、抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4のMR素子100の磁化固定層102の磁化の方向を表している。抵抗部Rz1,Rz4のMR素子100の磁化固定層102の磁化の方向は、それぞれ、検出対象磁界Hzの方向がZ方向であるときに抵抗部Rz1,Rz4に印加される磁界成分の方向と同じ方向である。抵抗部Rz2,Rz3のMR素子100の磁化固定層102の磁化の方向は、それぞれ、検出対象磁界Hzの方向がZ方向であるときに抵抗部Rz2,Rz3に印加される磁界成分の方向とは反対方向である。
ここで、磁気センサ30の作用について説明する。検出対象磁界Hzが存在しない状態では、抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4のMR素子100の自由層104の磁化の方向は、磁化固定層102の磁化の方向に対して垂直である。
検出対象磁界Hzの方向がZ方向であるときには、抵抗部Rz1,Rz4のMR素子100では、自由層104の磁化の方向は、磁化固定層102の磁化の方向に対して垂直な方向から、磁化固定層102の磁化の方向に向かって傾く。このとき、抵抗部Rz2,Rz3のMR素子100では、自由層104の磁化の方向は、磁化固定層102の磁化の方向に対して垂直な方向から、磁化固定層102の磁化の方向とは反対方向に向かって傾く。その結果、検出対象磁界Hzが存在しない状態と比べて、抵抗部Rz1,Rz4の抵抗値は減少し、抵抗部Rz2,Rz3の抵抗値は増加する。
検出対象磁界Hzの方向が−Z方向の場合は、上述の場合とは逆に、検出対象磁界Hzが存在しない状態と比べて、抵抗部Rz1,Rz4の抵抗値は増加し、抵抗部Rz2,Rz3の抵抗値は減少する。
抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4の抵抗値の変化量は、検出対象磁界Hzの強度に依存する。
検出対象磁界Hzの方向と強度が変化すると、抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4のそれぞれの抵抗値は、抵抗部Rz1,Rz4の抵抗値が増加すると共に抵抗部Rz2,Rz3の抵抗値が減少するか、抵抗部Rz1,Rz4の抵抗値が減少すると共に抵抗部Rz2,Rz3の抵抗値が増加するように変化する。これにより、出力端子Vz+と出力端子Vz−との間の電位差が変化する。従って、この電位差に基づいて、検出対象磁界Hzを検出することができる。
次に、図6を参照して、磁気センサ10,20,30と軟磁性構造体40の構造の一例について説明する。図6は、磁気センサ10,20,30と軟磁性構造体40のそれぞれの一部を示している。この例では、磁気センサ10,20,30と軟磁性構造体40は、基板51の上に配置されている。基板51は、上面51aと下面51bを有している。
磁気センサ10は、抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4の他に、それぞれ絶縁材料よりなる絶縁層66A,67A,68Aを含んでいる。絶縁層66Aは、基板51の上面51aの上に配置されている。抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4は、絶縁層66Aの上に配置されている。図6には、抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4に含まれる複数のMR素子100のうちの1つと、それに接続された下部接続層111および上部接続層112を示している。絶縁層67Aは、基板51の上面51aの上において抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4の周囲に配置されている。絶縁層68Aは、抵抗部Rx1,Rx2,Rx3,Rx4および絶縁層67Aを覆っている。
磁気センサ20の構造は、磁気センサ10と同様である。すなわち、磁気センサ20は、抵抗部Ry1,Ry2,Ry3,Ry4の他に、それぞれ絶縁材料よりなる絶縁層66B,67B,68Bを含んでいる。絶縁層66Bは、基板51の上面51aの上に配置されている。抵抗部Ry1,Ry2,Ry3,Ry4は、絶縁層66Bの上に配置されている。図6には、抵抗部Ry1,Ry2,Ry3,Ry4に含まれる複数のMR素子100のうちの1つと、それに接続された下部接続層111および上部接続層112を示している。絶縁層67Bは、基板51の上面51aの上において抵抗部Ry1,Ry2,Ry3,Ry4の周囲に配置されている。絶縁層68Bは、抵抗部Ry1,Ry2,Ry3,Ry4および絶縁層67Bを覆っている。
磁気センサ30は、抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4の他に、それぞれ絶縁材料よりなる絶縁層61,62,63,64を含んでいる。図6に示した例では、軟磁性構造体40は、磁界変換部42と、2つの軟磁性層41,43を含んでいる。
磁界変換部42は、図5に示した下部ヨーク42B1,42B2,42B3,42B4および上部ヨーク42T1,42T2,42T3,42T4を含んでいる。図6では、下部ヨーク42B1,42B2,42B3,42B4のうちの1つを符号42Bで示し、それに対応する上部ヨーク42T1,42T2,42T3,42T4のうちの1つを符号42Tで示している。
軟磁性層41は、基板51の上面51aの上に配置されている。下部ヨーク42B1,42B2,42B3,42B4は、軟磁性層41の上に配置されている。絶縁層61は、軟磁性層41の上において下部ヨーク42B1,42B2,42B3,42B4の周囲に配置されている。
抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4は、絶縁層61の上に配置されている。図6には、抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4に含まれる複数のMR素子100のうちの1つと、それに接続された下部接続層111および上部接続層112を示している。絶縁層62は、下部ヨーク42B1,42B2,42B3,42B4および絶縁層61の上において抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4の周囲に配置されている。
上部ヨーク42T1,42T2,42T3,42T4は、絶縁層62の上に配置されている。絶縁層63は、抵抗部Rz1,Rz2,Rz3,Rz4および絶縁層62の上において上部ヨーク42T1,42T2,42T3,42T4の周囲に配置されている。
軟磁性層43は、上部ヨーク42T1,42T2,42T3,42T4および絶縁層63の上に配置されている。絶縁層64は、軟磁性層43を覆っている。
軟磁性層41,43は、磁界変換部42から出力される出力磁界成分以外の磁界に対応する磁束を吸収して、この磁界が磁気センサ30に印加されることを抑制する機能を有する。
上方から見たときに、軟磁性層41,43は、磁気センサ30の全域またはほぼ全域にわたって存在する。基板51の上面51aすなわち基準平面RPに軟磁性層41を垂直投影してできる領域と、基準平面RPに軟磁性層43を垂直投影してできる領域は、いずれも、領域A40と一致する。基準平面RPに磁気センサ30を垂直投影してできる領域は、領域A40と一致するかほぼ一致する。
図6に示した例では、磁気センサ10,20,30に含まれる全ての磁気検出素子すなわちMR素子100は、基板51の上面51aすなわち基準平面RPから等しい距離の位置に配置されている。
なお、磁界変換部42は、下部ヨーク42B1,42B2,42B3,42B4と、上部ヨーク42T1,42T2,42T3,42T4の一方のみを含んでいてもよい。また、軟磁性構造体40は、軟磁性層41,43の一方のみを含んでいてもよい。
本実施の形態では、軟磁性構造体40は、磁気センサ10,20の近傍に配置されている。磁気センサ10,20と軟磁性構造体40は、磁気センサ10に検出対象磁界Hxを含む外部磁界が印加されるときには軟磁性構造体40にも外部磁界が印加され、磁気センサ20に検出対象磁界Hyを含む外部磁界が印加されるときには軟磁性構造体40にも外部磁界が印加され、軟磁性構造体40が磁化を有するときには軟磁性構造体40の磁化に基づく磁界が磁気センサ10,20に印加されるように構成されている。また、軟磁性構造体40の少なくとも一部は、縞状磁区構造を有している。
縞状磁区構造とは、一方向から見たときに、いずれも細長く且つ交互に並んでいる第1の種類の磁区と第2の種類の磁区を含む磁区構造である。縞状磁区構造を有する磁性膜では、磁界が印加されていない状態において、第1の種類の磁区の自発磁化と、第2の種類の磁区の自発磁化は、互いに反対方向の成分を含む。
以下、軟磁性構造体40の少なくとも一部が有する縞状磁区構造を、軟磁性構造体40の縞状磁区構造と言う。軟磁性構造体40の縞状磁区構造は、特に、Z方向に平行な方向に見たとき、例えば上方から見たときに、いずれも細長く且つ交互に並んでいる第1の種類の磁区と第2の種類の磁区を含む磁区構造である。以下、軟磁性構造体40の縞状磁区構造に関して、上方から見たときに第1の種類の磁区と第2の種類の磁区が延びる方向を縞の方向と言う。軟磁性構造体40に磁界が印加されていない状態において、第1の種類の磁区の自発磁化は縞の方向の成分とZ方向の成分とを含み、第2の種類の磁区の自発磁化は縞の方向の成分と−Z方向の成分とを含む。以下、軟磁性構造体40の縞状磁区構造に関して、第1の種類の磁区を第1磁区と言い、第1磁区の磁化を第1磁化と言い、第2の種類の磁区を第2磁区と言い、第2磁区の磁化を第2磁化と言う。
軟磁性構造体40は、互いに縞の方向が異なる縞状磁区構造を有する複数の部分を含んでいてもよい。また、軟磁性構造体40は、縞状磁区構造を有する部分と、縞状磁区構造ではない部分とを含んでいてもよい。この場合、軟磁性構造体40全体の体積に対する、縞状磁区構造を有する部分の体積の比率は、50%以上であることが好ましい。
以下、図7を参照して、軟磁性構造体40の履歴曲線の特徴と縞状磁区構造の挙動を定性的に説明する。まず、軟磁性構造体40に印加される所定の方向に平行な方向の磁界の強度を印加磁界強度とし、軟磁性構造体40の磁化の所定の方向に平行な方向の成分に対応する値を磁化対応値とする。また、印加磁界強度と磁化対応値を直交する2軸で表した直交座標系において、印加磁界強度を変化させたときに印加磁界強度と磁化対応値を表す座標の軌跡が描くループのうち、そのループで囲まれた領域の面積が最も大きいループをメジャーループとする。
本実施の形態では、軟磁性構造体40の全体または一部を磁化評価対象部分とし、磁化評価対象部分の体積磁化の所定の方向に平行な方向の成分と磁化評価対象部分の体積との積を磁化対応値としている。本実施の形態では特に、磁化評価対象部分の体積磁化のX方向に平行な方向の成分と磁化評価対象部分の体積との積を、X方向磁化対応値Mxとし、磁化評価対象部分の体積磁化のY方向に平行な方向の成分と磁化評価対象部分の体積との積を、Y方向磁化対応値Myとする。
図7は、軟磁性構造体40のメジャーループの一例を示している。この例では、軟磁性構造体40の縞状磁区構造における縞の方向をX方向に平行な方向とし、軟磁性構造体40に印加される磁界の方向もX方向に平行な方向としている。以下、軟磁性構造体40に印加されるX方向に平行な方向の磁界の強度を、X方向印加磁界強度AHxとする。図7は、X方向印加磁界強度AHxとX方向磁化対応値Mxを直交する2軸で表した直交座標系を示している。以下、この直交座標系において、X方向印加磁界強度AHxとX方向磁化対応値Mxを表す座標を、座標(AHx,Mx)と言う。図7において、横軸はX方向印加磁界強度AHx(Oe)を示し、縦軸はX方向磁化対応値Mx(emu)を示している。また、図7において、符号MALXで示した曲線がメジャーループである。図7におけるX方向印加磁界強度AHxは、軟磁性構造体40に印加される磁界の方向がX方向のときは正の値で表し、軟磁性構造体40に印加される磁界の方向が−X方向のときは負の値で表している。また、図7におけるX方向磁化対応値Mxは、軟磁性構造体40の磁化の方向がX方向のときは正の値で表し、軟磁性構造体40の磁化の方向が−X方向のときは負の値で表している。メジャーループMALXの近傍に付加された矢印は、メジャーループMALX上の座標(AHx,Mx)の移動方向を表している。
図7において、メジャーループMALX上の点A1は、X方向磁化対応値Mxが正の値で飽和している状態に対応する。点A1の状態から、X方向印加磁界強度AHxを減少させてゆくと、メジャーループMALX上の座標(AHx,Mx)は、点A2、A3、A4、A5、A6を順に経由して点A7に達する。点A2は、X方向磁化対応値Mxが正の値でほぼ飽和している状態に対応する。点A4は、X方向印加磁界強度AHxが0の状態に対応する。点A6は、X方向磁化対応値Mxが負の値でほぼ飽和している状態に対応する。点A7は、X方向磁化対応値Mxが負の値で飽和している状態に対応する。
図7において、点B1は点A7と同じである。点B1の状態から、X方向印加磁界強度AHxを増加させてゆくと、メジャーループMALX上の座標(AHx,Mx)は、点B2、B3、B4、B5、B6を順に経由して点B7に達する。点B2は点A6と同じである。点B3は点A5と同じである。点B4は、X方向印加磁界強度AHxが0の状態に対応する。点B5は点A3と同じである。点B6は点A2と同じである。点B7は点A1と同じである。
図7において、符号A12T,A23T,A34T,A45T,A56T,A67Tは、上方から見た縞状磁区構造の一部の模式図を示している。また、符号A12S,A23S,A34S,A45S,A56S,A67Sは、Y方向に見た縞状磁区構造の一部の模式図を示している。模式図A12T,A12Sは点A1,A2間の状態に対応している。模式図A23T,A23Sは点A2,A3間の状態に対応している。模式図A34T,A34Sは点A3,A4間の状態に対応している。模式図A45T,A45Sは点A4,A5間の状態に対応している。模式図A56T,A56Sは点A5,A6間の状態に対応している。模式図A67T,A67Sは点A6,A7間の状態に対応している。
模式図A12T,A23T,A34T,A45T,A56T,A67Tにおいて、実線の矢印を含む矩形は第1磁区を表し、破線の矢印を含む矩形は第2磁区を表している。また、全ての模式図において、実線の矢印は第1磁化の方向を表し、破線の矢印は第2磁化の方向を表している。
点A1,A2間では、第1磁化と第2磁化は、いずれも、ほぼX方向に向いている。
点A2,A4間では、第1磁化はX方向の成分とZ方向の成分を含み、第2磁化はX方向の成分と−Z方向の成分を含む。また、点A2,A4間では、X方向印加磁界強度AHxが減少するに従って、第1磁化のX方向の成分と第2磁化のX方向の成分は減少し、第1磁化のZ方向の成分と第2磁化の−Z方向の成分は増加する。点A2,A4間では、上述のような第1磁化と第2磁化の挙動により、X方向印加磁界強度AHxが減少するに従って、X方向磁化対応値Mxが減少する。点A4において、X方向磁化対応値Mxは正の値である。
点A4,A5間では、一部の第1磁区が、第1磁化がX方向の成分とZ方向の成分を含む状態から、第1磁化が−X方向の成分とZ方向の成分を含む状態に変化したり、−X方向の成分と−Z方向の成分を含む第2磁化を有する第2磁区に変化したりする。また、点A4,A5間では、一部の第2磁区が、第2磁化がX方向の成分と−Z方向の成分を含む状態から、第2磁化が−X方向の成分と−Z方向の成分を含む状態に変化したり、−X方向の成分とZ方向の成分を含む第1磁化を有する第1磁区に変化したりする。上述の変化が生じる第1磁区の数と第2磁区の数は、X方向印加磁界強度AHxが減少するに従って増加する。点A5の時点では、点A4の時点における第1磁区および第2磁区の全てあるいはほぼ全てに関して上述の変化が完了している。点A4,A5間では、上述のような縞状磁区構造の挙動により、X方向印加磁界強度AHxが減少するに従って、X方向磁化対応値Mxが減少する。また、点A4,A5間では、点A2,A4間に比べて、X方向印加磁界強度AHxの変化量に対するX方向磁化対応値Mxの変化量の比率の絶対値が大きい。
点A5,A6間では、第1磁化は−X方向の成分とZ方向の成分を含み、第2磁化は−X方向の成分と−Z方向の成分を含む。また、点A5,A6間では、X方向印加磁界強度AHxが減少するに従って、第1磁化の−X方向の成分と第2磁化の−X方向の成分は増加し、第1磁化のZ方向の成分と第2磁化の−Z方向の成分は減少する。点A5,A6間では、上述のような第1磁化と第2磁化の挙動により、X方向印加磁界強度AHxが減少するに従って、X方向磁化対応値Mxが減少する。点A5,A6間では、点A4,A5間に比べて、X方向印加磁界強度AHxの変化量に対するX方向磁化対応値Mxの変化量の比率の絶対値が小さい。
点A6,A7間ならびに点B1,B2間では、第1磁化と第2磁化は、いずれも、ほぼ−X方向に向いている。
点B2,B4間では、第1磁化は−X方向の成分とZ方向の成分を含み、第2磁化は−X方向の成分と−Z方向の成分を含む。また、点B2,B4間では、X方向印加磁界強度AHxが増加するに従って、第1磁化の−X方向の成分と第2磁化の−X方向の成分は減少し、第1磁化のZ方向の成分と第2磁化の−Z方向の成分は増加する。点B2,B4間では、上述のような第1磁化と第2磁化の挙動により、X方向印加磁界強度AHxが増加するに従って、X方向磁化対応値Mxが増加する。点B4において、X方向磁化対応値Mxは負の値である。
点B4,B5間では、一部の第1磁区が、第1磁化が−X方向の成分とZ方向の成分を含む状態から、第1磁化がX方向の成分とZ方向の成分を含む状態に変化したり、X方向の成分と−Z方向の成分を含む第2磁化を有する第2磁区に変化したりする。また、点B4,B5間では、一部の第2磁区が、第2磁化が−X方向の成分と−Z方向の成分を含む状態から、第2磁化がX方向の成分と−Z方向の成分を含む状態に変化したり、X方向の成分とZ方向の成分を含む第1磁化を有する第1磁区に変化したりする。上述の変化が生じる第1磁区の数と第2磁区の数は、X方向印加磁界強度AHxが増加するに従って増加する。点B5の時点では、点B4の時点における第1磁区および第2磁区の全てあるいはほぼ全てに関して上述の変化が完了している。点B4,B5間では、上述のような縞状磁区構造の挙動により、X方向印加磁界強度AHxが増加するに従って、X方向磁化対応値Mxが増加する。また、点B4,B5間では、点B2,B4間に比べて、X方向印加磁界強度AHxの変化量に対するX方向磁化対応値Mxの変化量の比率の絶対値が大きい。
点B4,B5間においてX方向磁化対応値Mxが0になるときのX方向印加磁界強度AHxの値は、保磁力Hcである。
点B5,B6間では、第1磁化はX方向の成分とZ方向の成分を含み、第2磁化はX方向の成分と−Z方向の成分を含む。また、点B5,B6間では、X方向印加磁界強度AHxが増加するに従って、第1磁化のX方向の成分と第2磁化のX方向の成分は増加し、第1磁化のZ方向の成分と第2磁化の−Z方向の成分は減少する。点B5,B6間では、上述のような第1磁化と第2磁化の挙動により、X方向印加磁界強度AHxが増加するに従って、X方向磁化対応値Mxが増加する。点B5,B6間では、点B4,B5間に比べて、X方向印加磁界強度AHxの変化量に対するX方向磁化対応値Mxの変化量の比率の絶対値が小さい。
点B6,B7間では、第1磁化と第2磁化は、いずれも、ほぼX方向に向いている。
ここまでは、軟磁性構造体40の縞状磁区構造における縞の方向をX方向に平行な方向とし、軟磁性構造体40に印加される磁界の方向もX方向に平行な方向とした場合において、X方向印加磁界強度AHxを変化させたときの、X方向磁化対応値Mxの変化と、縞状磁区構造の挙動について説明してきた。上記の一連の説明は、縞の方向をY方向に平行な方向とし、軟磁性構造体40に印加される磁界の方向もY方向に平行な方向とした場合にも当てはまる。ここで、軟磁性構造体40に印加されるY方向に平行な方向の磁界の強度を、Y方向印加磁界強度AHyとする。上記の一連の説明中の、X方向、−X方向、X方向印加磁界強度AHxおよびX方向磁化対応値Mxを、それぞれ、Y方向、−Y方向、Y方向印加磁界強度AHyおよびY方向磁化対応値Myに置き換えれば、縞の方向をY方向に平行な方向とし、軟磁性構造体40に印加される磁界の方向もY方向に平行な方向とした場合において、Y方向印加磁界強度AHyを変化させたときの、Y方向磁化対応値Myの変化と、縞状磁区構造の挙動の説明になる。以下、Y方向印加磁界強度AHyとY方向磁化対応値Myを直交する2軸で表した直交座標系に描かれるメジャーループを符号MALYで表す。この直交座標系において、Y方向印加磁界強度AHyとY方向磁化対応値Myを表す座標を、座標(AHy,My)と言う。
本実施の形態では、外部磁界の強度は所定の可変範囲内で変化する。外部磁界の強度が可変範囲内で変化するとき、検出対象磁界Hx,Hy,Hzの強度は、いずれも、外部磁界の強度の可変範囲を超えない可変範囲内で変化する。また、外部磁界の強度が可変範囲内で変化するとき、印加磁界強度と磁化対応値を直交する2軸で表した直交座標系において、印加磁界強度と磁化対応値を表す座標は、メジャーループで囲まれた領域内で移動することが好ましい。
外部磁界が検出対象磁界Hxのみからなる場合すなわち外部磁界の方向がX方向に平行な方向である場合には、外部磁界の強度が可変範囲内で変化するとき、図7に示した直交座標系において、座標(AHx,Mx)は、メジャーループMALXで囲まれた領域内で移動することが好ましい。
また、外部磁界が検出対象磁界Hyのみからなる場合すなわち外部磁界の方向がY方向に平行な方向である場合には、外部磁界の強度が可変範囲内で変化するとき、Y方向印加磁界強度AHyとY方向磁化対応値Myを直交する2軸で表した直交座標系において、座標(AHy,My)は、メジャーループMALYで囲まれた領域内で移動することが好ましい。
なお、外部磁界の方向は、X方向に平行な方向およびY方向に平行な方向以外の方向であってもよい。この場合にも、外部磁界の強度が可変範囲内で変化するとき、印加磁界強度と磁化対応値を直交する2軸で表した直交座標系において、印加磁界強度と磁化対応値を表す座標は、メジャーループで囲まれた領域内で移動することが好ましい。
次に、少なくとも一部が縞状磁区構造を有する軟磁性構造体40の形成方法について簡単に説明する。軟磁性構造体40の材料としては、例えばNiFeが用いられる。この場合、NiFeの組成としては、Niの比率が82〜87重量%であるものが好ましい。
軟磁性構造体40を構成する複数の要素、すなわち軟磁性層41,43、複数の下部ヨークおよび複数の上部ヨークの各々の厚みは、500nm〜10μmの範囲内であることが好ましい。
軟磁性構造体40は、例えば、めっき法によって形成してもよい。また、軟磁性構造体40に対して、交流消磁を行ってもよい。交流消磁は、軟磁性構造体40に対して、方向が交互に切り替わり且つ強度の絶対値が徐々に小さくなる磁界である交流磁界を印加することによって行われる。
交流消磁を行わなくても、少なくとも一部が縞状磁区構造を有する軟磁性構造体40を形成することができる。この場合、形成当初の軟磁性構造体40は、互いに縞の方向が異なる縞状磁区構造を有する複数の部分を含み得る。形成後の軟磁性構造体40に磁界が印加されると、縞状磁区構造の縞の方向は、印加磁界の方向に平行な方向に変化し得る。磁化が印加磁界の方向の成分を含む磁区と、磁化が印加磁界の方向とは反対方向の成分を含む磁区の、上方から見たときの面積の比率は、印加磁界の強度に依存する。
軟磁性構造体40に対して交流消磁を行うことにより、軟磁性構造体40の大部分において、縞状磁区構造の縞の方向を揃えることができると共に、磁化が所定の方向の成分を含む磁区と、磁化が所定の方向とは反対方向の成分を含む磁区の、上方から見たときの面積の比率を等しくすることができる。
例えば、方向がX方向と−X方向に交互に切り替わる交流磁界を用いて交流消磁を行うと、縞状磁区構造の縞の方向はX方向に平行な方向になる。以下、この場合の交流消磁を、X方向の交流消磁と言う。また、方向がY方向と−Y方向に交互に切り替わる交流磁界を用いて交流消磁を行うと、縞状磁区構造の縞の方向はY方向に平行な方向になる。以下、この場合の交流消磁を、Y方向の交流消磁と言う。また、交流消磁直後の縞状磁区構造を初期縞状磁区構造と言う。
また、本実施の形態では、交流消磁後の軟磁性構造体40において、印加磁界強度を0から変化させたときの印加磁界強度と磁化対応値を表す座標の軌跡を初磁化曲線と言う。本実施の形態では、外部磁界の強度が可変範囲内で変化するとき、印加磁界強度と磁化対応値を直交する2軸で表した直交座標系において、印加磁界強度と磁化対応値を表す座標は、例えば、メジャーループで囲まれた領域内に形成される、メジャーループに接しないマイナーループ上を移動する。このマイナーループは、初磁化曲線上の点を起点としていてもよい。
外部磁界が検出対象磁界Hxのみからなる場合には、外部磁界の強度が可変範囲内で変化するとき、図7に示した直交座標系において、座標(AHx,Mx)は、例えば、メジャーループMALXで囲まれた領域内に形成される、メジャーループMALXに接しないマイナーループ上を移動する。このマイナーループは、初磁化曲線上の点を起点としていてもよい。また、外部磁界が検出対象磁界Hyのみからなる場合には、外部磁界の強度が可変範囲内で変化するとき、Y方向印加磁界強度AHyとY方向磁化対応値Myを直交する2軸で表した直交座標系において、座標(AHy,My)は、例えば、この直交座標系におけるメジャーループMALYで囲まれた領域内に形成される、メジャーループMALYに接しないマイナーループ上を移動する。このマイナーループは、初磁化曲線上の点を起点としていてもよい。
なお、初期縞状磁区構造における縞の方向にかかわらず、メジャーループMALXとメジャーループMALYは、形状がほぼ等しい。その理由は、以下の通りである。メジャーループMALXまたはMALYが測定される際には、軟磁性構造体40の磁化が飽和するような強度の、所定の方向の磁界が軟磁性構造体40に印加される。この時点で、初期縞状磁区構造における縞の方向にかかわらずに、軟磁性構造体40の縞状磁区構造における縞の方向は上記の所定の方向に平行な方向になっている。所定の方向は、X方向に平行な方向またはY方向に平行な方向である。その後、所定の方向に平行な方向の磁界の強度を変化させても、縞の方向は変化しない。これは、上記の所定の方向がX方向に平行な方向であってもY方向に平行な方向であっても同じである。そのため、メジャーループMALXとメジャーループMALYは、形状がほぼ等しくなる。
軟磁性構造体40の縞状磁区構造は、交流消磁後に軟磁性構造体40に印加される磁界の方向および強度によって変化する場合がある。以下、これについて詳しく説明する。ここでは、第1のケースと第2のケースと第3のケースと第4のケースについて説明する。
第1のケースは、X方向の交流消磁によって形成された軟磁性構造体40に、X方向に平行な方向の磁界が印加される場合である。第2のケースは、Y方向の交流消磁によって形成された軟磁性構造体40に、Y方向に平行な方向の磁界が印加される場合である。第3のケースは、Y方向の交流消磁によって形成された軟磁性構造体40に、X方向に平行な方向の磁界が印加される場合である。第4のケースは、X方向の交流消磁によって形成された軟磁性構造体40に、Y方向に平行な方向の磁界が印加される場合である。
始めに、X方向の交流消磁とY方向の交流消磁のそれぞれの具体的方法の一例について説明する。まず、X方向の交流消磁の具体的方法の一例では、軟磁性構造体40に対して、方向がX方向と−X方向に交互に切り替わり且つ強度の絶対値が徐々に小さくなる磁界である交流磁界を印加する。交流磁界は、方向が切り替わる毎に強度の絶対値が80%に小さくなる磁界とする。交流磁界の最初の方向はX方向で強度の絶対値は100Oeである。Y方向の交流消磁の具体的方法の一例は、X方向と−X方向がそれぞれY方向と−Y方向に変わる点を除いて、X方向の交流消磁の具体的方法の一例と同じである。
次に、第1のケースについて説明する。図示しないが、第1のケースでは、初期縞状磁区構造の縞の方向は、X方向に平行な方向になり、各磁区のXY平面に平行な磁化の成分の方向は、X方向または−X方向になる。以下、XY平面に平行な磁化の成分を磁化面内成分と言い、XY平面に垂直な磁化の成分を磁化垂直成分と言う。
第1のケースの初期縞状磁区構造では、第1磁区と第2磁区がY方向に交互に並んでいる。ここで、磁化面内成分の方向が同じである複数本の磁区の束を磁区束と言う。第1のケースの初期縞状磁区構造では、Y方向に交互に並ぶ第1の磁区束と第2の磁区束が形成されている。第1の磁区束は、磁化面内成分の方向がX方向である複数本の磁区の束である。第2の磁区束は、磁化面内成分の方向が−X方向である複数本の磁区の束である。また、第1のケースの初期縞状磁区構造では、隣り合う第1の磁区束と第2の磁区束の間に、X方向に延びる磁壁が形成されている。
第1のケースでは、X方向の交流消磁によって形成された軟磁性構造体40にX方向に平行な方向の磁界が印加されても、縞状磁区構造の縞の方向は変わらない。X方向印加磁界強度AHxを変化させたときの縞状磁区構造は、図7を用いて説明した通りの挙動を示す。
次に、第1のケースにおけるメジャーループとマイナーループについて説明する。図8は、第1のケースにおけるメジャーループとマイナーループの一例を示す特性図である。図9は、図8の一部を拡大して示す特性図である。図8および図9において、横軸はX方向印加磁界強度AHx(Oe)を示し、縦軸はX方向磁化対応値Mx(emu)を示している。
ここで、本実施の形態におけるメジャーループとマイナーループの測定方法について、簡単に説明する。この測定方法において、試料は、X方向とY方向にそれぞれ複数個ずつ並ぶように配列された複数の要素を含んでいる。上方から見たときの1つの要素の形状は、一辺の長さが約260μmの正方形である。1つの要素の厚みは約2μmである。試料では、隣り合う2つの要素の間隔を100μm以上とすることで隣り合う要素間の磁気結合を抑制している。上方から見たときの試料全体の形状は、一辺の長さが約10mmの正方形である。試料に印加される磁界は、ヘルムホルツコイルを用いて発生させた。試料の磁化対応値は、振動試料型磁力計を用いて測定した。
図8および図9において、符号MALXを付した曲線は、メジャーループMALXである。このメジャーループMALXは、X方向印加磁界強度AHxを、250Oeにした後、−250Oeまで徐々に減少させ、その後、250Oeまで徐々に増加させたときの座標(AHx,Mx)の軌跡である。
図8および図9において、符号73を付した履歴曲線は、マイナーループの一例である。この履歴曲線73は、X方向印加磁界強度AHxを、21.6Oeにした後、−21.6Oeまで徐々に減少させ、その後、21.6Oeまで徐々に増加させたときの座標(AHx,Mx)の軌跡である。履歴曲線73は、メジャーループMALXで囲まれた領域内に形成される、メジャーループMALXに接しないマイナーループであって、初磁化曲線上の点を起点としたマイナーループである。
次に、第2のケースについて説明する。図示しないが、第2のケースでは、初期縞状磁区構造の縞の方向は、Y方向に平行な方向になり、各磁区の磁化面内成分の方向は、Y方向または−Y方向になる。
第2のケースの初期縞状磁区構造では、第1磁区と第2磁区がX方向に交互に並んでいる。また、第2のケースの初期縞状磁区構造では、X方向に交互に並ぶ第3の磁区束と第4の磁区束が形成されている。第3の磁区束は、磁化面内成分の方向がY方向である複数本の磁区の束である。第4の磁区束は、磁化面内成分の方向が−Y方向である複数本の磁区の束である。また、第2のケースの初期縞状磁区構造では、隣り合う第3の磁区束と第4の磁区束の間に、Y方向に延びる磁壁が形成されている。
第2のケースでは、Y方向の交流消磁によって形成された軟磁性構造体40にY方向に平行な方向の磁界が印加されても、縞状磁区構造の縞の方向は変わらない。Y方向印加磁界強度AHyを変化させたときの縞状磁区構造は、X方向印加磁界強度AHxを変化させたときの縞状磁区構造の挙動と同様の挙動を示す。
次に、第2のケースにおけるメジャーループとマイナーループについて説明する。図10は、第2のケースにおけるメジャーループとマイナーループの一例を示す特性図である。図11は、図10の一部を拡大して示す特性図である。図10および図11において、横軸はY方向印加磁界強度AHy(Oe)を示し、縦軸はY方向磁化対応値My(emu)を示している。図10および図11におけるY方向印加磁界強度AHyは、軟磁性構造体40に印加される磁界の方向がY方向のときは正の値で表し、軟磁性構造体40に印加される磁界の方向が−Y方向のときは負の値で表している。また、図10および図11におけるY方向磁化対応値Myは、軟磁性構造体40の磁化の方向がY方向のときは正の値で表し、軟磁性構造体40の磁化の方向が−Y方向のときは負の値で表している。
図10および図11において、符号MALYを付した曲線は、メジャーループMALYである。このメジャーループMALYは、Y方向印加磁界強度AHyを、250Oeにした後、−250Oeまで徐々に減少させ、その後、250Oeまで徐々に増加させたときの座標(AHy,My)の軌跡である。
図10および図11において、符号83を付した履歴曲線は、マイナーループの一例である。この履歴曲線83は、Y方向印加磁界強度AHyを、21.6Oeにした後、−21.6Oeまで徐々に減少させ、その後、21.6Oeまで徐々に増加させたときの座標(AHy,My)の軌跡である。履歴曲線83は、メジャーループMALYで囲まれた領域内に形成される、メジャーループMALYに接しないマイナーループであって、初磁化曲線上の点を起点としたマイナーループである。
次に、第3のケースについて説明する。図示しないが、第3のケースの初期縞状磁区構造は、第2のケースの初期縞状磁区構造と同じであり、初期縞状磁区構造の縞の方向は、Y方向に平行な方向になる。第3のケースの初期縞状磁区構造については、後で詳しく説明する。
第3のケースでは、Y方向の交流消磁によって形成された軟磁性構造体40にX方向に平行な方向の磁界を印加すると共に、X方向印加磁界強度AHxを0から大きくしていくと、X方向印加磁界強度AHxがある強度以上になると、縞状磁区構造の縞の方向がY方向に平行な方向からX方向に平行な方向に回転する。この縞の方向の回転が生じるときの磁界の強度を、臨界強度と言う。
第3のケースにおいて軟磁性構造体40にX方向に平行な方向の磁界が印加されたときの縞状磁区構造の挙動については、後で詳しく説明する。
次に、第3のケースにおけるメジャーループとマイナーループについて説明する。図12は、第3のケースにおけるメジャーループとマイナーループの一例を示す特性図である。図13は、図12の一部を拡大して示す特性図である。図12および図13において、横軸はX方向印加磁界強度AHx(Oe)を示し、縦軸はX方向磁化対応値Mx(emu)を示している。
図12および図13において、符号MALXを付した曲線は、メジャーループMALXである。このメジャーループMALXは、X方向印加磁界強度AHxを、250Oeにした後、−250Oeまで徐々に減少させ、その後、250Oeまで徐々に増加させたときの座標(AHx,Mx)の軌跡である。
図12および図13において、符号93を付した履歴曲線は、マイナーループの一例である。この履歴曲線93は、X方向印加磁界強度AHxを、21.6Oeにした後、−21.6Oeまで徐々に減少させ、その後、21.6Oeまで徐々に増加させたときの座標(AHx,Mx)の軌跡である。履歴曲線93は、メジャーループMALXで囲まれた領域内に形成される、メジャーループMALXに接しないマイナーループであって、初磁化曲線上の点を起点としたマイナーループである。
次に、図14を参照して、第3のケースにおける初期縞状磁区構造について説明する。図14は、第3のケースにおける初期縞状磁区構造を示している。図14では、第1磁区と第2磁区を白黒の濃淡で模式的に表している。図14において、濃淡の中間値よりも白に近い領域は第1磁区に対応し、濃淡の中間値よりも黒に近い領域は第2磁区に対応する。
1つの磁区は、スピン磁気モーメントの方向が同じである複数の磁気双極子を含んでいる。ここで、スピン磁気モーメントのXY平面に平行な成分をスピン面内成分と言い、スピン磁気モーメントのXY平面に垂直な成分をスピン垂直成分と言う。1つの磁区において、磁化面内成分の方向は、その磁区内の複数の磁気双極子のスピン面内成分の方向と同じ方向になり、磁化垂直成分の方向は、その磁区内の複数の磁気双極子のスピン垂直成分の方向と同じ方向になる。
図14では、各磁区内のスピン垂直成分の方向と大きさを白黒の濃淡で模式的に表している。図14において、濃淡の中間値よりも白に近い領域はスピン垂直成分の方向がZ方向であることを表し、白に近いほどスピン垂直成分が大きいことを表している。また、濃淡の中間値よりも黒に近い領域はスピン垂直成分の方向が−Z方向であることを表し、黒に近いほどスピン垂直成分が大きいことを表している。
また、図14では、各磁気双極子のスピン面内成分とスピン垂直成分の方向を矢印で表している。図14において、矢印の方向はスピン面内成分の方向を表し、黒色の矢印はスピン垂直成分の方向がZ方向であることを表し、白色の矢印はスピン垂直成分の方向が−Z方向であることを表している。
図14に示したように、第3のケースでは、初期縞状磁区構造の縞の方向は、Y方向に平行な方向になり、各磁区の磁化面内成分の方向および各磁気双極子のスピン面内成分の方向は、Y方向または−Y方向になる。また、第3のケースの初期縞状磁区構造では、第1磁区と第2磁区がX方向に交互に並んでいる。また、第3のケースの初期縞状磁区構造では、第2のケースで説明した第3の磁区束と第4の磁区束が、X方向に交互に並ぶように形成されている。以下、第3の磁区束を符号203で表し、第4の磁区束を符号204で表す。隣り合う第3の磁区束203と第4の磁区束204の間には、Y方向に延びる磁壁Wが形成されている。磁壁Wの内部では、スピン磁気モーメントの方向が大きく変化している。
なお、これ以降の説明で使用する図14と同様の図においても、第1磁区、第2磁区、スピン磁気モーメントおよび磁壁については、図14と同様の表し方を用いる。
また、第3のケースの初期縞状磁区構造では、スピン面内成分の方向がY方向の磁気双極子の数とスピン面内成分の方向が−Y方向の磁気双極子の数は、ほぼ等しくなっている。また、第3のケースの初期縞状磁区構造では、スピン垂直成分の方向がZ方向の磁気双極子の数とスピン垂直成分の方向が−Z方向の磁気双極子の数は、ほぼ等しくなっている。また、第3のケースの初期縞状磁区構造では、スピン面内成分の方向がX方向または−X方向の磁気双極子は、全くまたはほぼ存在しない。以上のことから、軟磁性構造体40全体の磁化のX方向に平行な成分は、0またはほぼ0になる。
次に、図15ないし図17を参照して、第3のケースにおいて、軟磁性構造体40にX方向に平行な方向の磁界が印加されたときの縞状磁区構造の挙動について説明する。ここでは、軟磁性構造体40にX方向の磁界を印加すると共に、X方向印加磁界強度AHxを0から大きくしていく場合を例にとって説明する。
図15は、X方向印加磁界強度AHxが0のときの縞状磁区構造を示している。図15は、図14の一部を拡大して示しているが、図15に示した縞状磁区構造は、図14に示した初期縞状磁区構造と同じである。
X方向印加磁界強度AHxを0から大きくしていくと、まず、スピン面内成分の方向が、Y方向または−Y方向からX方向に向かって傾く。スピン面内成分の方向の傾き量は、X方向印加磁界強度AHxが大きくなるに従って大きくなる。そして、X方向印加磁界強度AHxが臨界強度以上になると、静磁エネルギーを小さくするために磁壁Wが移動する。それに伴って、磁気双極子の再配列が速やかに生じて、縞の方向がY方向に平行な方向からX方向に平行な方向に回転する。
図16は、X方向印加磁界強度AHxが0よりも大きく臨界強度未満のときの縞状磁区構造を示している。図16ならびに他の同様の複数の図において、AHxを付した矢印の長さは、X方向印加磁界強度AHxを模式的に表している。図16に示したように、X方向印加磁界強度AHxが0よりも大きく臨界強度未満のときには、スピン面内成分の方向は、Y方向または−Y方向からX方向に向かって傾いている。なお、図16に示した状態では、磁壁Wは移動しておらず、縞の方向はY方向に平行な方向のままである。
図17は、X方向印加磁界強度AHxが臨界強度以上のときの縞状磁区構造を示している。図17に示したように、X方向印加磁界強度AHxが臨界強度以上になると、磁壁Wが移動し、スピン面内成分の方向はX方向になり、縞の方向はX方向に平行な方向になる。また、図17に示した状態では、第1磁区と第2磁区がY方向に交互に並んでいる。また、磁化面内成分の方向は、全て、X方向になっている。
その後、軟磁性構造体40のX方向磁化対応値Mxが飽和するまで、X方向印加磁界強度AHxを大きくすると、スピン磁気モーメントの方向は、X方向またはほぼX方向になる。
図18は、第3のケースにおけるメジャーループと初磁化曲線を示す特性図である。図18において、横軸はX方向印加磁界強度AHx(Oe)を示し、縦軸はX方向磁化対応値Mx(emu)を示している。また、図18において、符号MALXで示した曲線がメジャーループであり、符号MCiを付した曲線が初磁化曲線である。図18に示したメジャーループMALXは、図12に示したメジャーループMALXと同じである。
図18において、初磁化曲線MCi上の点C1は、Y方向の交流消磁を行った後の、X方向印加磁界強度AHxが0の状態に対応する。初磁化曲線MCi上の点C2は、X方向印加磁界強度AHxが0よりも大きく臨界強度未満の状態に対応する。初磁化曲線MCi上の点C3は、X方向印加磁界強度AHxが臨界強度以上の状態に対応する。初磁化曲線MCi上の点C4は、X方向印加磁界強度AHxが臨界強度より十分に大きい状態に対応する。縞の方向がX方向に平行な方向になると、初磁化曲線MCiは、メジャーループMALXに合流する。
点C2と点C4の間の初磁化曲線MCi上の範囲(点C2と点C4は含まない)に対応するX方向印加磁界強度AHxの範囲では、同じX方向印加磁界強度AHxで比較すると、初磁化曲線MCiにおけるX方向磁化対応値MxがメジャーループMALXにおけるX方向磁化対応値Mxよりも小さくなる。それは、この範囲では、縞の方向が完全にX方向に平行な方向に向いていないためである。上記の範囲では、初磁化曲線MCiは、メジャーループMALXの外側にはみ出す。
次に、第4のケースについて説明する。図示しないが、第4のケースの初期縞状磁区構造は、第1のケースの初期縞状磁区構造と同じであり、初期縞状磁区構造の縞の方向は、X方向に平行な方向になる。第4のケースでは、X方向の交流消磁によって形成された軟磁性構造体40にY方向に平行な方向の磁界を印加すると共に、Y方向印加磁界強度AHyを0から大きくしていくと、Y方向印加磁界強度AHyが臨界強度以上になると、縞状磁区構造の縞の方向がX方向に平行な方向からY方向に平行な方向に回転する。
次に、第1および第3のケースについて、軟磁性構造体40の磁気ヒステリシス特性について調べた第1の実験の結果について説明する。ここで、軟磁性構造体40の磁気ヒステリシス特性を定量的に評価することを可能にするために、軟磁性構造体40の磁気ヒステリシスパラメータを以下のように定義する。磁気ヒステリシスパラメータは、軟磁性構造体40に印加される磁界の方向がX方向に平行な方向である場合と、軟磁性構造体40に印加される磁界の方向がY方向に平行な方向である場合について別々に定義される。以下、軟磁性構造体40に印加される磁界の方向がX方向に平行な方向である場合における磁気ヒステリシスパラメータをX方向磁気ヒステリシスパラメータHPHxと言い、軟磁性構造体40に印加される磁界の方向がY方向に平行な方向である場合における磁気ヒステリシスパラメータをY方向磁気ヒステリシスパラメータHPHyと言う。
X方向磁気ヒステリシスパラメータHPHxは、交流消磁後の軟磁性構造体40においてX方向印加磁界強度AHxを変化させたときのX方向磁化対応値Mxから得られる。本実施の形態では、X方向磁気ヒステリシスパラメータHPHxは、X方向印加磁界強度AHxを0よりも大きい所定値MHxにした後、X方向印加磁界強度AHxを−MHxに減少させ、その後、X方向印加磁界強度AHxを所定値MHxにしたときに、X方向印加磁界強度AHxが減少過程で0になったときのX方向磁化対応値Mxから、X方向印加磁界強度AHxが増加過程で0になったときのX方向磁化対応値Mxを引いた値である。
同様に、Y方向磁気ヒステリシスパラメータHPHyは、交流消磁後の軟磁性構造体40においてY方向印加磁界強度AHyを変化させたときのY方向磁化対応値Myから得られる。本実施の形態では、Y方向磁気ヒステリシスパラメータHPHyは、Y方向印加磁界強度AHyを0よりも大きい所定値MHyにした後、Y方向印加磁界強度AHyを−MHyに減少させ、その後、Y方向印加磁界強度AHyを所定値MHyにしたときに、Y方向印加磁界強度AHyが減少過程で0になったときのY方向磁化対応値Myから、Y方向印加磁界強度AHyが増加過程で0になったときのY方向磁化対応値Myを引いた値である。
また、磁気センサ10,20の検出値のヒステリシス特性を定量的に評価することを可能にするために、磁気センサ10,20毎のヒステリシスパラメータを以下のように定義する。磁気センサ10のヒステリシスパラメータは、軟磁性構造体40に対して交流消磁を行った後に検出対象磁界Hxの強度を変化させたときの検出値Sxから得られる。具体的には、磁気センサ10のヒステリシスパラメータは、検出対象磁界Hxの強度を0よりも大きい所定値Pxにした後、検出対象磁界Hxの強度を−Pxに減少させ、その後、検出対象磁界Hxの強度を0にしたときに、検出対象磁界Hxの強度が減少過程で0になったときの検出値Sxから、検出対象磁界Hxの強度が増加過程で0になったときの検出値Sxを引いた値である。
同様に、磁気センサ20のヒステリシスパラメータは、軟磁性構造体40に対して交流消磁を行った後に検出対象磁界Hyの強度を変化させたときの検出値Syから得られる。具体的には、磁気センサ20のヒステリシスパラメータは、検出対象磁界Hyの強度を0よりも大きい所定値Pyにした後、検出対象磁界Hyの強度を−Pyに減少させ、その後、検出対象磁界Hyの強度を0にしたときに、検出対象磁界Hyの強度が減少過程で0になったときの検出値Syから、検出対象磁界Hyの強度が増加過程で0になったときの検出値Syを引いた値である。
X方向磁気ヒステリシスパラメータHPHxの値が大きいほど、磁気センサ10のヒステリシスパラメータの値が大きくなる。磁気センサ10のヒステリシスパラメータの値が大きいほど、磁気センサ10の検出精度の低下が大きいと言える。同様に、Y方向磁気ヒステリシスパラメータHPHyの値が大きいほど、磁気センサ20のヒステリシスパラメータの値が大きくなる。磁気センサ20のヒステリシスパラメータの値が大きいほど、磁気センサ20の検出精度の低下が大きいと言える。従って、軟磁性構造体40の磁気ヒステリシス特性に起因した磁気センサ10,20の検出精度の低下を抑制するためには、X方向磁気ヒステリシスパラメータHPHxの値とY方向磁気ヒステリシスパラメータHPHyの値は、小さいほど好ましい。
第1および第3のケースについての実験では、X方向印加磁界強度AHxを変化させたときの初磁化曲線上の点を起点とした履歴曲線を求め、この履歴曲線から、X方向磁気ヒステリシスパラメータHPHxを求めた。実験では、履歴曲線を求める際のX方向印加磁界強度AHxの絶対値の最大値となるMHxの値を変化させて、MHxの値毎に履歴曲線を求め、MHxと磁気ヒステリシスパラメータHPHxとの関係を求めた。
第2のケースについての実験では、Y方向印加磁界強度AHyを変化させたときの初磁化曲線上の点を起点とした履歴曲線を求め、この履歴曲線から、Y方向磁気ヒステリシスパラメータHPHyを求めた。実験では、履歴曲線を求める際のY方向印加磁界強度AHyの絶対値の最大値となるMHyの値を変化させて、MHyの値毎に履歴曲線を求め、MHyと磁気ヒステリシスパラメータHPHyとの関係を求めた。
図19ないし図24は、第1のケースにおける履歴曲線の例を示す特性図である。図19ないし図24において、横軸はX方向印加磁界強度AHx(Oe)を示し、縦軸はX方向磁化対応値Mx(emu)を示している。図19ないし図24において、符号MALXを付した曲線は、メジャーループMALXである。このメジャーループMALXは、図8および図9に示したメジャーループMALXと同じである。
図19には、MHxが10.2Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号71を付して示している。図20には、MHxが17.4Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号72を付して示している。図21には、MHxが21.6Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号73を付して示している。この履歴曲線73は、図8および図9に示した履歴曲線73と同じである。図22には、MHxが23.6Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号74を付して示している。図23には、MHxが31.6Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号75を付して示している。図24には、MHxが42.3Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号76を付して示している。
図25ないし図30は、第2のケースにおける履歴曲線の例を示す特性図である。図25ないし図30において、横軸はY方向印加磁界強度AHy(Oe)を示し、縦軸はY方向磁化対応値My(emu)を示している。図25ないし図30において、符号MALYを付した曲線は、メジャーループMALYである。このメジャーループMALYは、図10および図11に示したメジャーループMALYと同じである。
図25には、MHyが10.2Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号81を付して示している。図26には、MHyが17.4Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号82を付して示している。図27には、MHyが21.6Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号83を付して示している。この履歴曲線83は、図10および図11に示した履歴曲線83と同じである。図28には、MHyが23.6Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号84を付して示している。図29には、MHyが31.6Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号85を付して示している。図30には、MHyが42.1Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号86を付して示している。
図31ないし図36は、第3のケースにおける履歴曲線の例を示す特性図である。図31ないし図36において、横軸はX方向印加磁界強度AHx(Oe)を示し、縦軸はX方向磁化対応値Mx(emu)を示している。図31ないし図36において、符号MALXを付した曲線は、メジャーループMALXである。このメジャーループMALXは、図12および図13に示したメジャーループMALXと同じである。
図31には、MHxが10.3Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号91を付して示している。図32には、MHxが17.5Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号92を付して示している。図33には、MHxが21.6Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号93を付して示している。この履歴曲線93は、図12および図13に示した履歴曲線93と同じである。図34には、MHxが23.7Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号94を付して示している。図35には、MHxが31.6Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号95を付して示している。図36には、MHxが42.1Oeであるときの履歴曲線の一例を、符号96を付して示している。
図37は、第1のケースにおけるMHxと磁気ヒステリシスパラメータHPHxとの関係を示す特性図である。図37において、横軸はMHx(Oe)を示し、縦軸は磁気ヒステリシスパラメータHPHx(emu)を示している。図37では、MHxが17.4Oeの位置を符号77で示した破線で表し、MHxが21.6Oeの位置を符号78で示した破線で表している。
図38は、第2のケースにおけるMHyと磁気ヒステリシスパラメータHPHyとの関係を示す特性図である。図38において、横軸はMHy(Oe)を示し、縦軸は磁気ヒステリシスパラメータHPHy(emu)を示している。図38では、MHyが17.4Oeの位置を符号87で示した破線で表し、MHyが21.6Oeの位置を符号88で示した破線で表している。
図39は、第3のケースにおけるMHxと磁気ヒステリシスパラメータHPHxとの関係を示す特性図である。図39において、横軸はMHx(Oe)を示し、縦軸は磁気ヒステリシスパラメータHPHx(emu)を示している。図39では、MHxが21.6Oeの位置を符号97で示した破線で表している。
以下、MHxとMHyを、印加磁界強度の上限値と言う。図37ないし図39に示したように、第1ないし第3のケースのいずれにおいても、印加磁界強度の上限値が大きくなるほど、磁気ヒステリシスパラメータの値が大きくなる傾向がある。また、第1ないし第3のケースのいずれにおいても、印加磁界強度の上限値が21.6Oeを超えると、印加磁界強度の上限値の変化に対する磁気ヒステリシスパラメータの値の変化の傾きが大きくなった。また、第3のケースでは、図31ないし図33に示したように、印加磁界強度の上限値が21.6Oeに達するまでは、初磁化曲線上の点を起点とした履歴曲線がメジャーループMALXに接することはないが、図34ないし図36に示したように、印加磁界強度の上限値が21.6Oeを超えると、初磁化曲線上の点を起点とした履歴曲線がメジャーループMALXの外側にはみ出している。なお、図示しないが、第4のケースでも、印加磁界強度の上限値が21.6Oeに達するまでは、初磁化曲線上の点を起点とした履歴曲線がメジャーループMALYに接することはないが、印加磁界強度の上限値が21.6Oeを超えると、初磁化曲線上の点を起点とした履歴曲線がメジャーループMALYの外側にはみ出す。また、第1および第2のケースでも、印加磁界強度の上限値が21.6Oeに達するまでは、初磁化曲線上の点を起点とした履歴曲線がメジャーループに接することはない。
これらのことから、印加磁界強度の上限値が、第3および第4のケースにおいて、初磁化曲線上の点を起点とした履歴曲線がメジャーループに接したりメジャーループの外側にはみ出したりするような大きさになると、第1ないし第4のケースのいずれにおいても、磁気ヒステリシスパラメータの値が特に大きくなると考えられる。
そのため、第1ないし第4のケースのいずれにおいても磁気ヒステリシスパラメータの値が小さくなるようにするためには、印加磁界強度の上限値は、第3および第4のケースにおいて、初磁化曲線上の点を起点とした履歴曲線がメジャーループに接しない大きさであることが好ましい。具体的には、印加磁界強度の上限値は21.6Oe以下であることが好ましい。
また、図37および図38から、印加磁界強度の上限値が17.4Oe以下であれば、磁気ヒステリシスパラメータの値は特に小さくなることが分かる。そのため、印加磁界強度の上限値は17.4Oe以下であることがより好ましい。
本実施の形態では、印加磁界強度の上限値は、外部磁界の強度の可変範囲の上限値に相当する。可変範囲の上限値は、第3および第4のケースにおいて、初磁化曲線上の点を起点とした履歴曲線がメジャーループに接しない大きさであることが好ましい。具体的には、可変範囲の上限値は、21.6Oe以下であることが好ましく、17.4Oe以下であることがより好ましい。言い換えると、可変範囲は、絶対値が21.6Oe以下の範囲であることが好ましく、17.4Oe以下の範囲であることがより好ましい。
外部磁界が検出対象磁界Hxのみからなる場合において、可変範囲が上記の好ましい要件を満たす場合には、座標(AHx,Mx)は、メジャーループMALXで囲まれた領域内において、メジャーループMALXに接しないマイナーループ上を移動する。また、外部磁界が検出対象磁界Hyのみからなる場合において、可変範囲が上記の好ましい要件を満たす場合には、座標(AHy,My)は、メジャーループMALYで囲まれた領域内において、メジャーループMALYに接しないマイナーループ上を移動する。
外部磁界の強度の可変範囲の上限値は、以下の第1の方法または第2の方法によって決定してもよい。始めに、図40を参照して、第1の方法について説明する。図40において、横軸はX方向印加磁界強度AHx(Oe)を示し、縦軸はX方向磁化対応値Mx(emu)を示している。X方向印加磁界強度AHxの正負の定義と、X方向磁化対応値Mxの正負の定義は、図7と同じである。また、図40において、符号MALXで示した曲線はメジャーループを示し、符号MCiを付した曲線は第1のケースにおける初磁化曲線を示している。
第1の方法では、X方向印加磁界強度AHxを変化させて、初磁化曲線MCiとメジャーループMALXを得る。そして、原点における初磁化曲線MCiの接線を求めて、この接線とメジャーループMALXとの交点を求める。図40において、記号Lを付した破線の直線が原点における初磁化曲線MCiの接線であり、記号Pを付した点が接線LとメジャーループMALXとの交点である。第1の方法では、交点PにおけるX方向印加磁界強度AHxを、可変範囲の上限値とする。図40に示したように、第1の方法によって決定される上限値は、第1の実験から得られた印加磁界強度の上限値の好ましい値(21.6Oe)に近い値になる。
次に、図40を参照して、第2の方法について説明する。第2の方法では、メジャーループMALXから求まる保磁力Hcを、可変範囲の上限値とする。図40に示したように、第2の方法によって決定される上限値は、第1の実験から得られた印加磁界強度の上限値のより好ましい値(17.4Oe)に近い値になる。
次に、本実施の形態に係る磁気センサ装置1の効果について説明する。本実施の形態に係る磁気センサ装置1では、磁気センサ10に検出対象磁界Hxを含む外部磁界が印加されるときには軟磁性構造体40にも外部磁界が印加され、磁気センサ20に検出対象磁界Hyを含む外部磁界が印加されるときには軟磁性構造体40にも外部磁界が印加され、軟磁性構造体40が磁化を有するときには軟磁性構造体40の磁化に基づく磁界が磁気センサ10,20に印加される。
本実施の形態では、軟磁性構造体40が磁気ヒステリシス特性を有していると、この磁気ヒステリシス特性に起因して、磁気センサ10,20の検出値がヒステリシス特性を有し、その結果、磁気センサ10,20の検出精度が低下するおそれがある。前述の通り、軟磁性構造体40の磁気ヒステリシス特性に起因した磁気センサ10,20の検出精度の低下を抑制するためには、磁気ヒステリシスパラメータHPHx,HPHyの値は小さいほど好ましい。
本実施の形態では、軟磁性構造体40の少なくとも一部は縞状磁区構造を有している。外部磁界の強度の可変範囲が前述の好ましい範囲である場合には、軟磁性構造体40が縞状磁区を有さず、軟磁性構造体40のほぼ全体が還流磁区構造を有すると仮定した場合と比べて、磁気ヒステリシスパラメータHPHx,HPHyの値は小さくなる。それは、縞状磁区構造では、印加磁界強度がある程度小さければ、印加磁界強度の変化に伴う磁化対応値の変化が、磁壁Wの移動と縞の回転を伴わずに生じるためである。
以上のことから、本実施の形態によれば、軟磁性構造体40が縞状磁区を有さず、軟磁性構造体40のほぼ全体が還流磁区構造を有する場合と比べて、軟磁性構造体40の磁気ヒステリシス特性に起因した磁気センサ10,20の検出精度の低下を抑制することができる。以下、この効果を、磁気センサ装置1の第1の効果と言う。この第1の効果は、外部磁界の強度の可変範囲が前述の好ましい範囲である場合に顕著に発揮される。
次に、磁気センサ装置1の第2の効果について説明する。始めに、磁気センサ10,20の感度を以下のように定義する。磁気センサ10の感度は、検出対象磁界Hxの強度の微小変化に対する検出値Sxの変化の比率である。磁気センサ20の感度は、検出対象磁界Hyの強度の微小変化に対する検出値Syの変化の比率である。磁気センサ10の感度は、検出対象磁界Hxの強度によって変化し得る。検出対象磁界Hxの強度の変化に伴う磁気センサ10の感度の変化は小さいことが好ましい。同様に、磁気センサ20の感度は、検出対象磁界Hyの強度によって変化し得る。検出対象磁界Hyの強度の変化に伴う磁気センサ20の感度の変化は小さいことが好ましい。
本実施の形態では、外部磁界の強度の可変範囲が前述の好ましい範囲である場合には、検出対象磁界Hxの強度の変化に伴う磁気センサ10の感度の変化を小さくすることができると共に、検出対象磁界Hyの強度の変化に伴う磁気センサ20の感度の変化を小さくすることができる。これが、磁気センサ装置1の第2の効果である。以下、この第2の効果が得られる理由について、定性的に説明する。
前述の通り、外部磁界の強度の可変範囲が前述の好ましい範囲である場合には、X方向印加磁界強度AHxとX方向磁化対応値Mxを直交する2軸で表した直交座標系において、座標(AHx,Mx)は、メジャーループMALXに接しないマイナーループ上を移動する。ここで、X方向印加磁界強度AHxの微小変化に対するX方向磁化対応値Mxの変化の比率を、dMx/dAHxと表す。比率dMx/dAHxは、マイナーループ上のある点におけるマイナーループに対する接線の傾きに相当する。
本実施の形態では、軟磁性構造体40が磁化を有するときには軟磁性構造体40の磁化に基づく磁界が磁気センサ10に印加される。そのため、比率dMx/dAHxの変化は、磁気センサ10の感度に影響を与える。具体的には、検出対象磁界Hxの強度の変化に伴う比率dMx/dAHxの変化が大きいほど、検出対象磁界Hxの強度の変化に伴う磁気センサ10の感度の変化が大きくなる。
本実施の形態では、上記マイナーループは、全体的に、メジャーループMALXに比べて直線に近い。そのため、上記マイナーループ上の点が移動したときの、その点におけるマイナーループに対する接線の傾きの変化は小さい。すなわち、座標(AHx,Mx)が上記マイナーループ上を移動する場合には、検出対象磁界Hxの強度の変化に伴う比率dMx/dAHxの変化は小さい。そのため、外部磁界の強度の可変範囲が前述の好ましい範囲である場合には、座標(AHx,Mx)がメジャーループMALX上を移動する場合に比べて、検出対象磁界Hxの強度の変化に伴う磁気センサ10の感度の変化が小さくなる。
また、外部磁界の強度の可変範囲が前述の好ましい範囲である場合には、座標(AHy,My)がメジャーループMALY上を移動する場合に比べて、検出対象磁界Hyの強度の変化に伴う磁気センサ20の感度の変化が小さくなる。
次に、前述の第1の実験で得られた第1のケースについてのデータに基づいて、X方向印加磁界強度AHxの絶対値の最大値MHxとX方向感度変化パラメータとの関係を調べた結果について説明する。以下、X方向感度変化パラメータを、パラメータSVPxと言う。パラメータSVPxは、座標(AHx,Mx)が1つのマイナーループ上を移動する場合における比率dMx/dAHxの変化の大きさを表すものである。
パラメータSVPxの値は、第1の実験におけるMHxの値毎に、以下のようにして求めた。まず、MHxの値毎の履歴曲線のデータから、AHxがnOeである座標(AHx,Mx)のデータを抽出した。nは、−MHxより大きくMHxより小さい整数である。次に、nの値が1だけ異なり履歴曲線上で隣接する2つの座標の全ての組について、Mxの差の絶対値を求めた。このMxの差の絶対値は、比率dMx/dAHxに相当する。次に、上記の全ての組についてのMxの差の絶対値の中から最大値と最小値を抽出し、この最大値と最小値の差を求め、これをパラメータSVPxの値とした。
図41は、MHxとパラメータSVPxとの関係を示す特性図である。図41において、横軸はMHx(Oe)を示し、縦軸はパラメータSVPx(×10-3emu/Oe)を示している。図41では、MHxが17.4Oeの位置を符号77で示した破線で表し、MHxが21.6Oeの位置を符号78で示した破線で表している。
図41には示していないが、MHxが250OeのときのパラメータSVPxの値は、約0.51×10-3emu/Oeである。MHxが21.6OeのときのパラメータSVPxの値は、MHxが250OeのときのパラメータSVPxの値の約32%である。MHxが17.4OeのときのパラメータSVPxの値は、MHxが250OeのときのパラメータSVPxの値の約11%である。
以上の結果から、外部磁界の強度の可変範囲が前述の好ましい範囲である場合には、座標(AHx,Mx)がメジャーループMALX上を移動する場合に比べて、パラメータSVPxの値が十分に小さくなることが分かる。また、図41から、MHxが17.4Oe以下であれば、パラメータSVPxの値が特に小さくなることが分かる。
Y方向感度変化パラメータをX方向感度変化パラメータと同様に定義すると、第2のケースにおけるMHyとY方向感度変化パラメータとの関係は、第1のケースと同様になることは明らかである。また、図31ないし図36に示したマイナーループの形状から、第3のケースでは、同じMHxの値に対するX方向感度変化パラメータの値は、第1のケースに比べて小さくなることは明らかである。同様に、第4のケースでは、同じMHyの値に対するY方向感度変化パラメータの値は、第2のケースに比べて小さくなることは明らかである。
次に、本実施の形態に係る磁気センサ装置1の第1の効果を確認するために行った第2の実験の結果について説明する。第2の実験では、比較例の試料と第1ないし第3の実施例の試料を、それぞれ複数作製した。これらの試料は、いずれも、磁気センサ装置1の試料である。第1ないし第3の実施例における軟磁性構造体40は、軟磁性層41を含んでいるが、軟磁性層43を含んでいない。第1ないし第3の実施例における軟磁性構造体40では、軟磁性層41の平面形状(上方から見た形状)を正方形とした。
また、第1ないし第3の実施例の試料では、軟磁性層41の材料として、NiFeを用いた。Niの比率は、縞状磁区構造が形成されるような比率とし、第1の実施例の試料、第2の実施例の試料および第3の実施例の試料の順にNiの比率を大きくした。また、第1ないし第3の実施例の試料では、X方向の交流消磁によって、縞状磁区構造の縞の方向を、X方向に平行な方向とした。
比較例の試料は、軟磁性構造体40の代わりに、比較例の軟磁性構造体を含んでいる。比較例の軟磁性構造体の構成は、軟磁性層41のNiの比率を除いて、第1ないし第3の実施例の試料における軟磁性構造体40と同じである。比較例の試料における軟磁性層41では、外部磁界が印加されていない状態において全体的に環流磁区構造が形成されるように、Niの比率を、第1ないし第3の実施例の試料よりも小さくした。また、比較例の試料における軟磁性層41は、その形成方法に起因して、磁化容易軸方向がX方向に平行な方向となる誘導磁気異方性を有していた。
第2の実験では、前述のように定義された磁気センサ10,20のヒステリシスパラメータと、磁気センサ30のヒステリシスパラメータを求めた。第2の実験では特に、磁気センサ10のヒステリシスパラメータは、軟磁性構造体40に対してX方向の交流消磁を行った後に検出対象磁界Hxの強度を変化させたときの検出値Sxから求めた。また、磁気センサ20のヒステリシスパラメータは、軟磁性構造体40に対してY方向の交流消磁を行った後に検出対象磁界Hyの強度を変化させたときの検出値Syから求めた。
磁気センサ30のヒステリシスパラメータは、軟磁性構造体40に対して交流消磁を行った後に検出対象磁界Hzの強度を変化させたときの検出値Szから得られる。具体的には、磁気センサ30のヒステリシスパラメータは、検出対象磁界Hzの強度を0よりも大きい所定値Pzにした後、検出対象磁界Hzの強度を−Pzに減少させ、その後、検出対象磁界Hzの強度を0にしたときに、検出対象磁界Hzの強度が減少過程で0になったときの検出値Szから、検出対象磁界Hzの強度が増加過程で0になったときの検出値Szを引いた値である。第2の実験では、磁気センサ30のヒステリシスパラメータを測定する際の交流消磁の方向を、出力磁界成分の方向に平行な方向とした。
以下、磁気センサ10のヒステリシスパラメータを記号HPSxで表し、磁気センサ20のヒステリシスパラメータを記号HPSyで表し、磁気センサ30のヒステリシスパラメータを記号HPSzで表す。
第2の実験では、外部磁界ならびに検出対象磁界Hx,Hy,Hzの強度を、いずれも、外部磁界の強度の好ましい可変範囲を超えない範囲内で変化させた。具体的には、第2の実験では、ヒステリシスパラメータHPSxを求める際の検出対象磁界Hxの強度の絶対値の最大値となるPxを2Oeとしたとき、すなわち、検出対象磁界Hxの強度を−2Oe〜2Oeの範囲内で変化させたときのヒステリシスパラメータHPSxを求めた。また、第2の実験では、検出値Sxは、出力端子Vx+と出力端子Vx−との間の電位差を、磁界の強度を表す数値に換算したものを用いた。以下、ヒステリシスパラメータHPSxの単位としてOeを用いる。
また、第2の実験では、ヒステリシスパラメータHPSyを求める際の検出対象磁界Hyの強度の絶対値の最大値となるPyを2Oeとしたとき、すなわち、検出対象磁界Hyの強度を−2Oe〜2Oeの範囲内で変化させたときのヒステリシスパラメータHPSyを求めた。また、第2の実験では、検出値Syは、出力端子Vy+と出力端子Vy−との間の電位差を、磁界の強度を表す数値に換算したものを用いた。以下、ヒステリシスパラメータHPSyの単位としてOeを用いる。
また、第2の実験では、ヒステリシスパラメータHPSzを求める際の検出対象磁界Hzの強度の絶対値の最大値となるPzを2Oeとしたとき、すなわち、検出対象磁界Hzの強度を−2Oe〜2Oeの範囲内で変化させたときのヒステリシスパラメータHPSzを求めた。また、第2の実験では、検出値Szは、出力端子Vz+と出力端子Vz−との間の電位差を、磁界の強度を表す数値に換算したものを用いた。以下、ヒステリシスパラメータHPSzの単位としてOeを用いる。
図42ないし図44は、実験結果を示す特性図である。図42における縦軸は、ヒステリシスパラメータHPSx(Oe)を示している。図43における縦軸は、ヒステリシスパラメータHPSy(Oe)を示している。図44における縦軸は、ヒステリシスパラメータHPSz(Oe)を示している。また、図42ないし図44において、記号CPは比較例の試料を表し、記号EX1,EX2,EX3はそれぞれ第1ないし第3の実施例の試料を表している。
図42に示したように、第1ないし第3の実施例の試料EX1,EX2,EX3のヒステリシスパラメータHPSxの分布は、比較例の試料CPのヒステリシスパラメータHPSxの分布に比べて、0に近づいている。このことから、本実施の形態によれば、軟磁性構造体40の全体が還流磁区構造を有する場合と比べて、磁気センサ10の検出精度の低下を抑制できることが分かる。
また、図43に示したように、第1ないし第3の実施例の試料EX1,EX2,EX3のヒステリシスパラメータHPSyの分布は、比較例の試料CPのヒステリシスパラメータHPSyの分布に比べて、0に近づいている。このことから、本実施の形態によれば、軟磁性構造体40の全体が還流磁区構造を有する場合と比べて、磁気センサ20の検出精度の低下を抑制できることが分かる。
なお、図44に示したように、第1ないし第3の実施例の試料EX1,EX2,EX3のヒステリシスパラメータHPSzの分布と比較例の試料CPのヒステリシスパラメータHPSzの分布には、顕著な違いはなかった。
図42および図43に示したように、比較例の試料CPでは、ヒステリシスパラメータHPSyの分布は、ヒステリシスパラメータHPSxの分布に比べて、0に近づいている。これは、比較例の試料CPでは、磁化困難軸方向すなわちY方向に平行な方向についての磁気ヒステリシスパラメータの値が小さくなるためである。このように、軟磁性構造体40が全体的に還流磁区構造を有し、且つ一軸磁気異方性を有する場合には、磁化困難軸方向についての軟磁性構造体40の磁気ヒステリシスパラメータが小さくなる。しかし、磁化容易軸方向についての軟磁性構造体40の磁気ヒステリシスパラメータの値は大きくなる。そのため、図42に示したように、比較例の試料CPでは、ヒステリシスパラメータHPSxは大きくなっている。従って、軟磁性構造体40の全体が還流磁区構造を有する場合には、軟磁性構造体40に一軸磁気異方性を付与する方法では、磁気センサ10,20の両方の検出精度の低下を抑制することはできない。
これに対し、第1ないし第3の実施例EX1,EX2,EX3では、ヒステリシスパラメータHPSx,HPSyの両方とも小さくなっている。この結果から、本実施の形態によれば、軟磁性構造体40が縞状磁区構造を有することによって、磁気センサ10,20の両方の検出精度の低下を抑制することができることが分かる。
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。本発明における第1の磁気センサと軟磁性構造体は、特許請求の範囲の要件を満たすものであればよい。例えば、軟磁性構造体は、実施の形態における磁界変換部42および軟磁性層41,43のように、磁気センサ30に関連する機能を有するものに限らず、他の機能を有するものであってもよいし、単に特許請求の範囲の要件を満たすだけの構造体であってもよい。