本発明は、ヒト型結核菌免疫優性抗原を融合して発現する組換えセンダイウイルスベクターワクチンを提供する。このワクチンは、治療性と予防性の抗結核ワクチンとして使用することができる。本発明者らは、このワクチンの鼻腔内免疫により、結核菌に対する防御免疫応答を成功かつ効果的に誘導し、免疫による病理学的症状が観察されなかった。このワクチンを予防性抗結核ワクチンとして使用する場合、その鼻腔内接種は、マウスモデルにおいて顕著な抗原特異的細胞性免疫応答を成功に誘導した。結核菌の防御に関する実験から、対照動物に比べて、免疫したマウスの肺臓と脾臓における結核菌の量が顕著に減少し、そのメカニズムが、肺臓で誘導された強い抗原特異的T細胞免疫応答、特にCD8+T細胞免疫反応に関することを見出した。また、このワクチンを治療性抗結核ワクチンとして使用する場合、8週間の鼻腔内免疫治療後に、ヒト型結核菌感染マウスの肺臓と脾臓における細菌の量は、リファンピシン(RFP)治療グループに相当し、また、RFPと併用する場合、RFPの治療効果を著しく高めた。
このワクチンは、少なくとも1種類の結核菌のタンパク質を使用する。本発明によれば、Ag85抗原のみを発現しても効果的な免疫応答を誘導することができる。また、複数のタイプのタンパク質を抗原として使用することにより、より高い免疫性が得られる。使用された結核菌Ag85タンパクでは、結核菌Ag85AとAg85B抗原タンパク質のアミノ酸配列の1〜125位は互いにほとんど差異がないが、アミノ酸配列の125〜282位は大きく異なり、約40のアミノ酸が異なり、このセグメントをコードする両者の核酸配列には90数の塩基が同じではない。このセグメントでは、Ag85Bは、Th1型応答反応サイトカインIFN−γとIL−2を誘導できる重要なエピトープが存在している(S.D’Souza,V.Rosseels M.Romano,A et al;Mapping of Murine Th1 Helper T−Cell Epitopes of Mycolyl Transferases Ag85A,Ag85B,and Ag85C from Mycobacterium tuberculosis. Infection and Immunity, January 2003,71(1):483−493)。
本発明らは、コンピュータソフトウェアサービス会社であるIntenet−Based Applied Bioinformatics CompanyのEpitope Informaticsソフトウェアにより、結核菌構造タンパク質であるAg85Aの遺伝子の抗原エピトープを検索したところ、その抗原エピトープが主にAg85Aのアミノ末端とカルボキシル末端に集まっていることを見出した(S.D’Souza,V.Rosseels,M.Romano,A et al;Mapping of Murine Th1 Helper T−Cell Epitopes of Mycolyl Transferases Ag85A,Ag85B,and Ag85C from Mycobacterium tuberculosis.Infection and Immunity,January 2003,71(1):483−493)。抗原エピトープを含まないAg85A親遺伝子の中間セグメントの第245〜250位はKpn I酵素切断部位(GGTACC)を含み、第430〜435位はAcc I酵素切断部位(GTCTAC)を含むので、そこにAg85Bの125〜282位のアミノ酸をコードする塩基配列断片を挿入するように設計する。
本発明において、センダイウイルスベクターに挿入された結核菌タンパク質コード遺伝子は、Ag85A、Ag85B、それらの断片、またはそれらの任意の組み合わせをコードするポリ塩基配列であってもよく、このポリ塩基配列の誘導体または変異体であってもよい。この誘導体または変異体は、前記塩基配列にコードされるタンパク質がAg85A、Ag85Bタンパク、それらの断片、またはそれらの任意の組み合わせと同じ免疫原性を有する限り、Ag85A、Ag85Bタンパクまたはそれらの断片をコードするポリ塩基配列に対して、少なくとも70%の相同性を有し、好ましくは少なくとも75%の相同性、より好ましくは少なくとも80%の相同性、より好ましくは少なくとも85%の相同性、好ましくは少なくとも90%の相同性、より好ましくは少なくとも95%の相同性、より好ましくは少なくとも96%、97%、98%、99%の相同性を有する。
本発明者らは、組換え型センダイウイルス(Sendai virus, SeV)を用いて、効率的に抗原を発現させる系を確立させた(Kato, A.et al.,1996,Gene Cell Vol 1:p.569−579)。マウスパラインフルエンザウイルス1型であるSeVは、非分節性(non−segmented)ネガティブ鎖RNAゲノムを持つエンベロープウイルスであり、パラミクソウイルス属に属する(Nagai,Y.1999,Rev.Med.Virol.Vol 9:p.83−99)。このウイルスはマウスに対して致命的な呼吸器疾患を引き起こすが、非ヒト霊長類およびヒトに対して病原性がない(Nagai,Y.1999,Rev.Med.Virol.Vol 9:p.83−99;Hurwitz,J.L.et al.,Vaccine,Vol 15:p.533−540,1997)。
センダイウイルスは細胞質内に複製を行うので、抗原タンパク質は、細胞核でなく組換えセンダイウイルスベクターワクチンにより効率的に発現できる。また、センダイウイルスベクターによる感染は細胞分裂を引き起こさないので、外来遺伝子が効率的かつ持続的に発現されることは重要である。例えば、培養上清中に、組換えヒトセンダイウイルスベクターによる1型ヒト免疫不全ウイルス(HIV−1)のEnvタンパクのgp120の発現量は、6μg/ml(106細胞あたり6μg相当)と高く、これは哺乳動物細胞培養系におけるベクターで最も高い(Yu、D.et al.,1997,Gene Cells,Vol.2:p.457−466)。
SeVの複製にエンベロープをプロセシングするプロテアーゼが必要であるので、その複製のトロピズムは気道上皮細胞などの特定の組織に限定される(Nagai,Y.,1993,Trends Microbiol.,Vol. 1:p.81−87)。また、気道以外の他の組織にも広がらないことが予想されるため、SeVベクターはその複製型であっても安全面で利点があることが示唆される。
本発明者らは、F遺伝子欠損SeVをベクターとして用いて、ヒト型結核菌の免疫優性抗原Ag85A及びAg85Bを発現する抗結核組換えセンダイウイルスベクターワクチン(SeV85ABと命名された)を構築した。ウェスタンブロット(Western Blot)により、当該組換えワクチンがこの2種の結核菌タンパク質のキメラタンパク質を発現できることを確認した。
一方、このワクチンが結核菌に対する予防ワクチンとして使用され、マウスモデルにおける結核菌感染に対する予防効果を評価した。具体的に、SPF実験室において、107ClUのSeV85ABを用いて鼻腔内接種または筋肉注射でBalb/cマウス(メス、6〜8週齢)を免疫した。BCG免疫およびPBSを対照とした。免疫してから4週間後、マウスを殺し、肺臓および脾臓の器官を回収し、無菌でホモジナイズした後に単細胞懸濁液に消化した。抗原特異的ペプチドおよびPPDを使用してインビトロ刺激を行い、ELISPOTおよび多色フロー法によって、特異的刺激後のこれらの細胞のサイトカインの分泌能力を評価した。一方、免疫したマウスをP3実験室に送り、ヒト型結核菌H37Rv株のエアロゾル攻撃を行った。攻撃から4週間後、肺臓と脾臓組織を採取してホモジナイズし、CFUコロニーをカウントして、ワクチンの免疫によるマウスへの保護効率を分析した。実験結果から、SeV85ABによる免疫、特に鼻腔内接種は、マウスに対して強い抗原特異的免疫応答を誘導することができ、単回用量の免疫でも、BCGワクチンの免疫と同等のヒト型結核菌攻撃に対する防御効果をもたらすことができ;BCG初回免疫−SeV85AB追加免疫の方法を使用すると、ヒト型結核菌を攻撃した後に、感染されたマウスへの保護効率を著しく改善できることが確認された。
一方、このワクチンが結核菌に対する治療性ワクチンとして使用され、マウスモデルにおける結核菌感染に対する治療効果を評価した。具体的に、P3実験室において、ヒト型結核菌H37Rv株を用いてBalb/cマウス(メス、6〜8週齢)を感染させた(エアロゾル攻撃、100CFU)。感染後4週目、6週目および8週目に、3つの107ClUのSeV85ABで点鼻免疫治療を行い、ブランク対照グループの場合は、PBSで点鼻し、薬物グループの場合は、4週目からマウスの飲料水に10mg/kg/日のリファンピシン(RFP)を加えた。感染後4週目、6週目、8週目および12週目に、それぞれグループ毎に3〜4匹のマウスを殺し、SeV85ABの治療効果を分析した。結果として、SeV85ABで免疫治療してから8週間後、マウスの肺臓、脾臓における細菌の量はRFP薬物治療グループに相当することが判明した。別の独立した試験において、マウスを感染してから3週間後に、マウスの飲料水にRFPを加えて治療するか、またはRFP治療しながら107CIUのSeV85ABを鼻腔内接種して、1週間おきに1回治療を行い、合計3回行った。対照グループはPBSのみを接種した。治療が終了してから1週間後、マウスの肺組織を採取してホモジナイズし、CFUコロニーをカウントし、そして治療効果を分析した。結果として、RFP+SeV85AB併用の治療方案は、RFPのみの治療方案に比べて、マウスの肺臓におけるコロニーの数を著しく減少させ、この組換えウイルスは抗結核ワクチンとして良好な免疫治療効果を有し、また、抗結核医薬品との併用は治療効果がより良くなることを確認した。
鼻腔内接種は、粘膜免疫応答を誘導することができる利点を有する。咽頭後LN(retropharyngeal LN)および顎下LN(submandibular LN)は、鼻腔からのリンパ球が最初に流入するLNである(Suen,J.Y. and Stern,S.J.1996,Cancer of the Neck., 3rd ed.,E.N.Myers and J.Y.Suen,editors. W.B.Saunders Company,Philadelphia,p.462−484,Cancer of the Neck)。これらのLNは、粘膜免疫応答に関与している可能性が高い。研究は、マウスにおいてNALT(nasalassociated lymphoid tissue:鼻関連リンパ系組織)が粘膜免疫応答の重要な構成要素であることが示された(Yangagita,M.et al.,1999,Journal of Immunology,Vol.162、p.3559−3565)。マウスNALTに対応するWaldeyer’s ringから調製した細胞の解析により、組織内にSeVの発現及び免疫応答が存在することを確認することができる。しかしながら、咽頭後LN(retropharyngeal LN)および顎下LN(submandibular LN)におけるSeVの発現の検出では、両方の組織において有意なRNAが検出された。これらのLNにはSeVタンパクのプロセシングに必要なプロテアーゼが存在しないので(Nagai,Y.,1993,Trends Microbiology,Vol.1,p.81−87)、LNにおけるSeVの複製は起こらないと予想され、これらのLNにおけるmRNAは、鼻腔内から流入したSeV感染リンパ球に由来するものである。SeVの鼻腔内接種により、鼻腔内粘膜のみならず局所LNでも効率的な抗原の発現が見られたことから、粘膜免疫応答の誘導におけるSeVの能力が示唆される(Gallichan,W.S. and Rosenthal,K.L.,1996,Journal of Experimental Methods,Vol.184,p.1879〜90)。
細胞性免疫応答は、体がヒト型結核菌の感染および複製を制御するための重要な構成要素である(Nature Reviews Immunology 1,20−30(2001年10月))。したがって、結核菌特異的T細胞免疫応答の誘導はTB感染の防御に極めて重要である。また、結核菌は主に呼吸器および肺臓を介して体内に侵入することを考えると、肺粘膜で抗原特異的免疫応答を誘導することが非常に重要である。本発明者らは、ELISPOT、細胞内因子(intracellular factor)染色および四量体染色などの方法で、SeV85ABでの免疫は、マウスの肺臓において強い抗原特異的T細胞免疫応答を誘導し得ることを検証した。
F遺伝子欠損のセンダイウイルスベクターSeVまたは組換えSeV85ABワクチンを接種した後、マウスはウイルス感染および死亡の症状を示さなかった。また、マウスの体重モニタリングでも、このウイルスベクターまたは組換えワクチンによる接種が、接種されたマウスの体重の異常変化を起こさないことを実証し、したがって、このワクチンの安全性を検証する。
具体的に、本発明は、組換えSeV85ABにより媒介される免疫が、マウスのヒト型結核菌に対する応答を誘導することを初めて開示する。本発明の結果は、抗原に特異的な細胞性免疫応答は、鼻腔内免疫した全てのマウスにおいて効果的に誘導されたことを示している。抗原の発現は局在化され、且つよく制御される。これらの結果は、SeV系が有望な結核ワクチンのベクターとして使用できることを示唆している。
本発明は、結核菌タンパク質をコードするセンダイウイルスベクターを含むワクチンを提供することを目的とする。本発明のワクチンは、結核の予防及び治療に好適に用いることができる。本発明は、このワクチンの接種方法をさらに含む。具体的に、本発明は、以下の内容に関する。
(1)結核菌タンパク質をコードするセンダイウイルスベクターを含むワクチン。
(2)組換えタンパク質が、Ag85Aおよび/またはAg85Bタンパク、および/またはその一部および上記のそれらのキメラ体を含む、(1)に記載のワクチン。
(3)センダイウイルスベクターはF遺伝子欠損のものである、(1)または(2)に記載のワクチン。
(4)結核菌タンパク質をコードするセンダイウイルスベクターを含むワクチンを接種する、接種の方法。
(5)鼻腔内でワクチンを接種する、(4)に記載の方法。
(6)複数のワクチンの接種において、このワクチンを少なくとも1回接種する、(4)または(5)に記載の方法。
(7)(a)結核菌タンパク質をコードするセンダイウイルスベクターを抗原提示細胞に導入する工程、および(b)抗原抗原提示細胞とTヘルパー細胞および細胞傷害性T細胞とを接触させる工程を含む、結核菌タンパク質に対する特異的細胞性免疫応答を誘導する方法。
本発明で用いられる「ワクチン」という用語とは、感染症の予防または治療のための組成物を指す。ワクチンは、抗原を含むか、または抗原を発現可能であり、これにより抗原に対する免疫応答を誘導することができる。本発明のセンダイウイルスベクターを含むワクチンは、所望の形態で病原微生物の感染、伝播および流行の予防または治療のために使用することができる。
「接種」とは、ワクチンを接種することにより、生体または培養系において免疫(体液性免疫性、細胞性免疫性、または両者)を能動的に作らせることを指す。これにより、病原体の感染、増殖、伝播および/または流行を予防や防止することができる。また、病原体感染後の症状の発症および/または進展を抑制することができる。
「抗原」とは、1つ或いはそれ以上のエピトープを含む分子であり、宿主の免疫系を刺激して抗原特異的な免疫応答を誘導することができるタンパク質を指す。免疫応答は、体液性免疫応答および/または細胞性免疫応答であっても良い。3個〜数個のアミノ酸でも1つのエピトープとなり得るが、通常、蛋白質中の1つのエピトープは、約7〜約15アミノ酸を含み、例えば8、9、10、12または14アミノ酸を含む。抗原は免疫原とも呼ばれる。本発明において、抗原タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたはベクターは抗原を発現させる場合、このポリヌクレオチドまたはベクターが抗原を言う。これもワクチンの成分として使用することができる。
「免疫応答」または「免疫学的応答」とは、抗原またはワクチンに対する体液性免疫応答および/または細胞性免疫応答を指す。体液性免疫応答とは、抗体分子により媒介される免疫応答を指す。細胞性免疫応答とは、Tリンパ球および/または他の白血球により媒介される免疫応答を指す。細胞性免疫には、例えば、CTL産生、ヘルパーT細胞の産生または活性化が含まれる。細胞性免疫応答は、例えばCD8+T細胞などの活性化T細胞または他の白血球で産生されるサイトカインまたはケモカインを調べることにより検出することができる。また、既知のリンパ球増殖アッセイ、CTLアッセイ、または抗原特異的T細胞のアッセイにより決定することもできる。
「組換え体」とは、組換えポリヌクレオチドを介して生成した化合物または組成物を指す。 組換えポリヌクレオチドとは、自然の状態と同じようには結合していないポリヌクレオチドを指す。組み換え蛋白質は、組み換えポリヌクレオチドを発現させて得ることができる。また、「組換え」ウイルスベクターとは、遺伝子操作により組換えポリヌクレオチドまたはその増幅産物を介して構築されたウイルスベクターを言う。
本発明において使用する「パラミクソウイルス」という用語は、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)に属するウイルスを言う。パラミクソウイルスとしては、例えば、センダイウイルス(Sendai virus)、ニューカッスル病ウイルス(New castle disease virus)、おたふくかぜウイルス(Mumps virus)、麻疹ウイルス(measles virus)、RSウイルス(Respiratory syncytial virus)、牛疫ウイルス(rinderpest virus)、ジステンパーウイルス(distemper virus)、サルパラインフルエンザウイルス(SV5)、ヒトパラインフルエンザウイルス1,2,3型が挙げられるが、これらに限定されない。センダイウイルスは、野生株、変異株、ラボ継代株、または人為的に構築された株などであっても良い。DI粒子(Virology,1994,Vol.68:p.8413−8417)などの不完全なウイルス、および合成されたオリゴヌクレオチドなども、本発明のワクチンを製造するための物質として使用することができる。
パラミクソウイルスのタンパク質をコードする遺伝子としては、NP、P、M、F、HNおよびL遺伝子が含まれる。本発明において、「NP、P、M、F、HNおよびL遺伝子」とは、それぞれヌクレオキャプシド、ホスホ、マトリックス、フュージョン、ヘマグルチニン・ノイラミニダーゼおよびラージ蛋白質をコードするものを指す。パラミクソウイルス亜科に属する各ウイルスの遺伝子は、一般的に下記のように記載されている。通常、NP遺伝子は「N遺伝子」と表記されることもある。
パラミクソウイルス属 NP P/C/V M F HN − L
ルブラウイルス属 NP P/V M F HN(SH) L
麻疹ウイルス属 NP P/C/V M F H − L
パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)レスピロウイルス属(Respirovirus)に分類されるセンダイウイルスの各遺伝子の塩基配列のデータベースのアクセッション番号は、NP遺伝子については、M29343、M30202、M30203、M30204,M51331、M5565、M69046、およびX17218を参照し;P遺伝子については、M30202、M30203、M30204、M55565、M69046、X00583、X17007、およびX17008を参照し;M遺伝子については、D11446、K02742、M30202、M30203、M30204、M69046、U31956、X00584、X53056を参照し;F遺伝子については、D00152、D11446、D17334、D17335、M30202、M30203、M30204、M69046、X00152、およびX02131を参照し;HN遺伝子については、D26475、M12397、M30202、M30203、M30204、M69046、X00586、X02808、X56131を参照し;L遺伝子については、D00053、M30202、M30203、M30204、M69040、X00587、およびX58886を参照する。
本発明で用いられる用語「遺伝子」とは、RNA、DNAなどの核酸を含む遺伝物質を指す。遺伝子は、天然由来または人為的に設計された配列を持つものであっても良い。本明発明で用いられるパラミクソウイルスベクターは、結核菌のタンパク質またはその一部をコードする外来遺伝子を含む。外来遺伝子は、天然の結核菌に含有される遺伝子またはそれらの断片であっても良い。また、外来遺伝子は例えば欠失体、変異体、不活化蛋白質または他のタンパク質と融合した結核菌タンパク質をコードする核酸を含んでも良い。また、ここで使用される「DNA」とは、一本鎖DNAおよび二本鎖DNAを含む。
本発明で用いられる「ヒト型結核菌」という用語とは、結核病を引き起こす病原体を指す。肺結核が最も一般的な形であり、全身の各器官に侵入することができる。ヒト型結核菌は、ゲノムおよび地域などに応じて様々な株に分けることができる。例えば、中国および東南アジアでは、北京型ファミリーの結核菌が流行している。本発明に使用される株は、結核菌の標準株、すなわちH37Rv株である。
本発明で用いられる「センダイウイルスベクター」という用語とは、センダイウイルスに由来し、遺伝子を宿主細胞に導入するために使用されるベクターを言う。センダイウイルスはリボ核タンパク質(RNP)であっても良く、感染力を持つウイルス粒子であっても良い。ここで、「感染性」とは、組換えセンダイウイルスベクターが細胞への接着能及び膜融合能によって、ベクター内の遺伝子を、ベクターが接着される細胞に導入する能力を言う。本発明のセンダイウイルスベクターは、抗原となる結核菌タンパク質をコードする外来遺伝子を発現することができるように保持する。センダイウイルスベクターは、野生型ベクターと同じ複製能力を有しても良く、また遺伝子変異によって弱くなっても良い。また、本発明のセンダイウイルスベクターは、複製能力を有さない欠損型ベクターであっても良い。「複製能力」とは、感染細胞内でベクターが複製され、感染性ウイルス粒子が産生されることを指す。
本発明は、結核菌タンパク質の遺伝子またはその一部を含むセンダイウイルスベクターのワクチンを提供する。センダイウイルスにコードされる結核菌タンパク質としては、抗原性を有する限り、限定されない。結核菌タンパク質としては、結核菌の構造タンパク質、調節タンパク質およびアクセサリータンパク質が含まれる。これらのタンパク質またはそれらのポリペプチドの一部などは、ワクチンの製造に使用することができる。本発明のワクチンは、上記タンパク質またはその一部を発現するセンダイ発現ベクターを構築することにより製造することができる。これらのタンパク質は、単独でも良く、複数の組み合わせても良い。本発明においては、結核菌の構造蛋白質を発現するSeVを用いることが好ましい。
本発明者らは、鼻腔内接種されたマカクサルにおける組換えSeVベクターの遺伝子発現は、接種後1週間以内にピークに達し、且つ少なくとも13日まで持続することをすでに見出した。また、反復投与は発現を持続することができる。これらの特徴は、組換えSeVベクターを用いて接種する場合、早急かつ持続的な治療効果を得るという利点がある。
安全性の観点から、SeVベクターはヒトへの臨床適用に好適に用いられうる可能性が示唆される。第一に、多くのベクター場合、外来遺伝子の発現は、導入したDNAが核に入ることを必要とし、それは遺伝子導入の成功率を影響する主要な障害である。しかしながら、センダイウイルスの場合、外来遺伝子の発現は、細胞質において細胞性チューブリンおよび自身が持つRNAポリメラーゼ(Lタンパク質)の両方によって駆動される。これは、SeVが宿主細胞のゲノムと相互作用しないことを示し、癌化などの安全性の問題が生じないと考えられる。第二に、SeVは齧歯類にとって病原性で肺炎を引き起こすことが知られているが、ヒトには病原性ではない。これは、野生型SeVの鼻腔内投与によって非ヒト霊長類に厳重な有害作用を示さないという報告によっても支持されている(Burwitz J.L.et al.,Vaccine,1997,Vol.15,p.533−540)。SeVのこれらの特徴は、ヒトに適用される場合、SeVベクターが非常に安全であることを示唆し、且つ抗原タンパク質を発現できるベクターの有望な1つとなることを支持するものである。実際に、本発明では、SeVを接種されたマウスは明確な病理学的症状が見られず、体重の有意な減少も観察されなかった。本発明のワクチンは、特に結核菌を標的とする接種に好ましく用いられる。言い換えれば、本発明のワクチンの接種は、結核菌に対する免疫を誘導して、結核菌の感染および/または増殖を防止することができる。本発明のワクチンは、結核菌感染前の予防および結核菌感染後の治療に使用されることが好ましい。
本発明において、接種に用いられるSeVベクターとしては特に限定されない。例えば、好適なSeVベクターとしては、複製能力を有し、自立的に増殖するベクターであってもよい。例えば、一般的に野生型SeVのゲノムでは、3’ の短いリーダー領域に続き、N(ヌクレオカプシド)、P(ホスホ)、M(マトリックス)、F(フュージョン)、HN(ヘマグルチニン・ノイラミニダーゼ)およびL(ラージ)タンパク質をコードする6つの遺伝子が並んでおり、他端に短い5’トレイラー領域を有する。これと同様の構造を有するゲノムを設計することにより、自律複製可能なベクターを製造することができる。ゲノム内に外来遺伝子を挿入することにより、外来遺伝子を発現するベクターを製造することができる。SeVベクターのウイルス遺伝子は、野生型と異なって配置されてもよい。
本発明の免疫に用いられるSeVベクターとしては、野生型SeVに含まれる遺伝子の一部を欠損したものであってもよい。例えば、SeVベクターを構築して遺伝子を発現させるためには、NP、P/C、およびL遺伝子にコードされるタンパク質が必要と考えられるため、これらのタンパク質をコードする遺伝子がSeVベクターのゲノムに含まれている必要がある。SeVベクターを構築する場合、例えばM、FおよびHNタンパク質などの他の遺伝子は、トランス法(Trans:他の形態)によって供給することができる。また、これらのタンパク質をコードする遺伝子を有する発現ベクターを、SeVベクターゲノムをコードする発現ベクターとともに、宿主細胞にトランスフェクションすることにより、SeVベクターを構築することができる。また、ウイルスゲノムをコードする発現ベクターを、これらのタンパク質をコードする遺伝子を有する宿主細胞に導入し、宿主細胞から提供されるタンパク質を用いてSeVベクターを再構築することができる。核酸の導入における活性が天然型のそれと同等かそれ以上ならば、これらのタンパク質のアミノ酸配列は、ウイルス自体の配列と異なっていても良く、変異を導入したり、あるいは他のウイルスの相同遺伝子で代用してもよい。
SeVベクターをRNPとして調製する場合、SeVベクターの細胞間伝達に必要であると考えられる。M、F及びHN遺伝子にコードされるタンパク質は必要ない。RNPに含まれるゲノムに、M、F、HN遺伝子が含まれていれば、宿主細胞に導入された時に、これらの遺伝子産物が生産され、感染性ウイルス粒子が形成される。感染性ウイルスを産生するRNPベクターとしては、N、P、M、F、HNおよびL遺伝子をコードするゲノムRNAと、Nタンパク質、Pタンパク質およびLタンパク質とを含むRNPであっても良い。このようなRNPを細胞に導入すると、Nタンパク質、Pタンパク質およびLタンパク質の働きにより、ウイルスゲノムが発現、複製され、その結果、感染性ウイルスベクターが増幅する。
RNPを細胞に導入するには、リポフェクトアミン試薬、ポリカチオニックリポソームなどと共に複合体を形成させて導入することが可能である。具体的に、DOTMA(Boehringer)、Superfect(QIAGEN#301305)、DOTAP、DOPE、DOSPER(Boehringer#1811169)などの様々なトランスフェクション試薬を使用することができる。クロロキンを添加してエンドソーム中での分解を防ぐことができる(Calos M.P.,American Academy of Sciences Annual Report,1983,Vol.80,p.3015)。複製型ウイルスの場合、産生されたウイルスは、培養細胞、ニワトリ胚または生物個体(例えば、マウスなどの哺乳動物)に再感染させることによって増殖または継代することができる。
逆に、M、Fおよび/またはHN遺伝子が欠損したSeVベクターも、本発明に使用することができる。これらのベクターは、欠損している遺伝子産物を外来的に供給することにより再構築される。このようなベクターは、野生型ウイルスと同様に、依然として宿主細胞に接着して、細胞融合を起こすが、細胞に導入されたベクターのゲノムには上記のいずれかの遺伝子欠損しているため、最初と同じような感染力を持つ娘ウイルス粒子は形成されない。したがって、これらのベクターは、1回限りの遺伝子導入能を有する非常に安全なウイルスベクターとして使用することができる。ゲノムから欠損させる遺伝子としては、Fおよび/またはHN遺伝子であっても良い。F遺伝子が欠損した組換えパラミクソウイルスのゲノムをコードする発現プラスミド、Fタンパク質の発現ベクターおよびNP、P/C、Lタンパク質の発現ベクターを、宿主細胞にトランスフェクションすることにより、ウイルスベクターを再構築することができる(国際公開番号WO00/70055およびWO00/70070参照)。また、F遺伝子がゲノムに組み込まれた宿主細胞を用いて製造することもできる。これらのタンパク質を外来的に供給する場合、それらのアミノ酸配列は野生型とは異なっていても良く、遺伝子の導入における活性が天然型のそれと同等かそれ以上ならば、変異を導入したり、あるいは他のウイルスの相同遺伝子で代用してもよい。
ウイルスのエンベロープタンパク質に、ウイルスゲノム由来のエンベロープタンパク質とは異なるタンパク質を含んでもよい。これらのタンパク質に特に制限はない。例えば、水疱性口内炎ウイルス(VSV)のGタンパク質(VSV−G)などの他のウイルスのエンベロープタンパク質を含むことができる。したがって、本発明のワクチンを構成するSeVベクターとしては、ゲノムが由来するウイルス以外のウイルスに由来するエンベロープタンパク質を含むシュードタイプウイルスベクターが含まれる。
また、本発明のワクチンに用いられるSeVベクターは、そのエンベロープ表面に特定の細胞を標的とする接着タンパク質、リガンドまたは受容体などのタンパク質を有していてもよく、或いは、細胞外領域にこれらのタンパク質を有し、且つ細胞内領域にウイルスのエンベロープタンパク質に由来するポリペプチドを有する、キメラタンパク質を含有する。これにより、特定の組織を標的とするベクターを作製することができる。これらのタンパク質は、ウイルスゲノムにコードされるか、またはウイルスの再構築の際に、ウイルスゲノム以外の遺伝子(例えば、他の発現ベクター或いは宿主細胞の染色体の遺伝子)の発現により供給されてもよい。
SeVタンパク質に対する抗原性を低下させるために、またはRNAの転写効率および複製効率を高めるために、本発明のワクチンに用いられるSeVベクターに含まれるウイルス遺伝子を改変することができる。具体的に、転写または複製の機能を増強するために、複製因子であるNP遺伝子、P/C遺伝子およびL遺伝子の少なくとも1つの遺伝子を改変することができる。また、構造タンパク質の1つであるHNタンパク質は、ヘマグルチニン(hemagglutinin)活性およびノイラミニダーゼ(neuraminidase)活性を有し、前者の活性を弱めると、血中のウイルスの安定性を高めることが期待でき、後者の活動が変化すると、ウイルスの感染力を調整することが期待できる。また、膜融合に関わるFタンパク質を改変すると、膜融合リポソームの融合能力を調整することが期待できる。また、細胞表面の抗原分子となりうるFタンパク質およびHNタンパク質のエピトープを解析し、それらを用いて抗原発現能を低下させたSeVを調製することも期待できる。
また、本発明のワクチンに用いられるSeVは、アクセサリー遺伝子が欠損したものであってよい。例えば、SeVのアクセサリー遺伝子の1つであるV遺伝子をノックアウトすることにより、培養細胞において遺伝子発現および複製に影響しないが、マウスに対するSeVの病原性を大幅に減少させる(Kato,A.et al.,1997,Journal of Virology,Vol.71,p.7266−7272;Kato,A.et al.,1997,EMBO J.Vol.16,p.578−587;Curran,J.et al.,WO01/04272,EP1067179)。このような弱毒化ベクターは、本発明のワクチンを構成するベクターとして特に好ましい。
本発明のワクチンに使用されるウイルスベクターは、そのゲノムRNAにおいて結核菌タンパク質またはこのタンパク質の一部をコードする。前記SeVベクターのゲノムに外来遺伝子を挿入することにより、外来遺伝子を発現する組換えSeVベクターを得ることができる。外来遺伝子としては、結核菌タンパク質またはこのタンパク質の一部をコードする遺伝子断片であっても良い。このような遺伝子断片は、結核菌タンパク質をコードする天然由来の遺伝子断片であっても良く、また天然型蛋白質と少なくとも部分的に同等の抗原性を有する蛋白質をコードする限り、欠損、置換、或いは挿入等により天然タンパク質をプロセシングして得られるタンパク質をコードする遺伝子であっても良い。
ヒト型結核菌タンパク質とは、結核菌に含まれるタンパク質を指す。研究により、H37Rv株の免疫優性抗原はAg85AおよびAg85Bなどであることが示されている。本発明では、これらのタンパク質のいずれか1つまたはその一部、或いはそれらの混合物を発現するSeVベクターを用いることが好ましい。本発明者らは、これらのタンパク質(プロセシングを受けた蛋白質および受けていない蛋白質を含む)のいずれかの全長またはその一部、或いはそれらの組み合わせを発現するように、SeVベクターを構築した。タンパク質の一部として、抗原の活性を有する限り、その長さおよび部位が限定されない。例えば、1つ以上のエピトープを含むポリペプチドであってもよい。このようなポリペプチドは、通常、結核菌タンパク質のアミノ酸配列において、連続した少なくとも3個〜数個のアミノ酸を含み、結核菌タンパク質のアミノ酸配列において、約7〜約15のアミノ酸、例えば8、9、10、12または14のアミノ酸を含むことが好ましい。
本発明のワクチンは少なくとも1つの結核菌のタンパク質を使用する。本発明によれば、Ag85抗原のみを発現しても効果的な免疫応答を誘導することが可能である。また、複数のタイプのタンパク質を抗原として使用することにより、より高い免疫性が得られる。
また、ワクチンは結核ウイルス由来の1つのタンパク質を用いることができるが、複数のウイルス由来の菌体タンパク質を抗原として用いれば、より広い結核ウイルスに対する免疫を得ることができる。抗原として複数のウイルスを用いる場合、それらの組み合わせは限定されない。例えば、種々の単離されたウイルス由来の遺伝子を用いてワクチンを製造することができる。複数の結核菌遺伝子は、それぞれ別々のSeVベクターゲノムに組み込んでSeVを構築し、それらの組み合わせを使用したり、或いは、複数の遺伝子を同じSeVベクターゲノムに組み込んでこれらの遺伝子を発現させることができる。
結核菌タンパク質を発現するSeVを構築するためには、例えば、標的の結核菌タンパク質をコードする遺伝子を、SeVゲノムをコードするDNA(SeVベクターDNA)に挿入することができる。SeVベクターDNAに外来遺伝子を導入する際に、6の倍数の塩基数を有する配列を、転写終結(E)配列と転写開始(S)配列との間に挿入する必要がある(Calain P.and Roux L.,Journal of Virology、1993,67(8)、p.4822−4830)。外来遺伝子は、各SeV遺伝子(NP、P、M、F、HNおよびL遺伝子)の上流および/または下流に挿入しても良い。上流と下流の遺伝子の発現を妨害しないようにするために、EIS配列を各遺伝子の間に存在するように、外来遺伝子の上流または下流にEIS配列(転写終結配列−介在配列−転写開始配列)或いはその一部を挿入することができる。あるいは、外来遺伝子は、IRESを挿入することによって発現させることができる。
挿入された外来遺伝子の発現量は、これらの遺伝子の上流に付加する転写開始配列のタイプによって調整することができる。また、挿入部位および遺伝子の前後の配列によっても調整することができる。例えば、SeVでは、挿入部位がウイルスゲノムのネガティブ鎖RNAの3’末端(野生型ウイルスゲノムのNP遺伝子に近いほど)に近いほど、挿入された遺伝子の発現量が高い。外来遺伝子の高い発現を得るためには、外来遺伝子を、NP遺伝子の上流(ネガティブ鎖の3’側)またはNP遺伝子とP遺伝子との間など、ネガティブ鎖ゲノムにおいて上流領域に挿入することが好ましい。逆に、挿入部位がネガティブ鎖RNAの5’末端に近いほど(野生型ウイルスゲノムのL遺伝子に近いほど)、挿入された遺伝子の発現量が低くなる。外来遺伝子の発現を減少させるために、それを、ネガティブ鎖の最も5’末端、すなわち野生型ウイルスゲノムのL遺伝子の下流(ネガティブ鎖のL遺伝子の5’側領域)またはL遺伝子の上流(ネガティブ鎖のL遺伝子の3’側領域)に挿入することができる。これより分かるように、外来遺伝子の所望の発現量を得るために、外来遺伝子の挿入部位を適切に調整するか、または前後のウイルスタンパク質をコードする遺伝子の組み合わせにより調整できる。例えば、高力価ウイルスベクターの投与による導入遺伝子の高発現が毒性を示す場合は、適用されるウイルス力価を制御することができる他、外来遺伝子の挿入部位をネガティブ鎖の5’末端領域に近接するように設計したり、効率の低い転写開始配列を使用することにより、制御することができる。
一般に、、細胞毒性を示さないので、抗原タンパク質の高発現は、免疫性を得ることに有利である。したがって、抗原性タンパク質をコードする遺伝子は効率の高い転写開始配列に連結し、ネガティブ鎖ゲノムの3’末端の近傍に挿入することが好ましい。好ましいベクターの例として、結核菌タンパク質が、パラミクソウイルスベクターのネガティブ鎖ゲノムにおいて、パラミクソウイルスのウイルスタンパク質のいずれよりも3’側にあるベクターが挙げられる。例えば、N遺伝子の上流(ネガティブ鎖の3’側)に抗原遺伝子が挿入されたベクターが好ましい。或いはN遺伝子のすぐ下流に挿入してもよい。
外来遺伝子を容易に挿入するために、挿入部位にクローニングサイトを設計することができる。例えば、クローニングサイトは制限酵素の認識配列であってもよい。外来遺伝子を、ウイルスベクターDNAの制限部位に挿入することができる。また、クローニングサイトは複数の制限酵素の認識配列を含むマルチクローニングサイトであっても良い。本発明のワクチンに用いられるベクターは、上記の結核菌タンパク質が挿入された部位以外の部位に、他の外来遺伝子を含んでいても良い。このような外来遺伝子としては制限はなく、免疫誘導に関与するサイトカインやケモカインの遺伝子であっても良く、その他の遺伝子であっても良い。
外来遺伝子を含む組換えセンダイウイルスベクターは、Hasan,M.K.et al.,Journal of Genetic Virology,Vol.78:p.2813−2820,1997;Yu D.et al.,Gene Cells,1997,2,p.457−466の記載により、下記の方法で構築することができる。
まず、所望の外来遺伝子のcDNA配列を含むDNA試料を調製する。度が25ng/ml以上で、電気泳動的に単一のプラスミドと確認できるDNA試料が好ましい。以下の記載は、ウイルスゲノムをコードするDNAのNotI部位に外来遺伝子を挿入する例である。挿入されるcDNA配列にNotI部位が含まれる場合、予め部位特異的変異導入法により、コードする蛋白質のアミノ酸配列を変化させないように塩基配列を改変し、この部位を除去する必要がある。この試料から所望のDNA断片をPCRにより増幅回収する。増幅された断片は両端ともにNotI部位を持たせ、且つ一端に1つのセンダイウイルスの転写終結配列(E)、介在配列(I)及び転写開始配列(S)(EIS配列)のコピーを付加するために、NotI制限部位、転写終結配列(E)、介在配列(I)、転写開始配列(S)、及び目的遺伝子の一部の配列を含むフォワード側プライマー(センス鎖)とリバース側プライマー(アンチセンス鎖)のプライマー対を合成する。
例えば、フォワード側合成DNA配列は、NotIによる切断を確保するために、5’末端に任意の2つ以上のヌクレオチド(好ましくは、GCG及びGCCなどのNotI認識部位由来の配列が含まれない4塩基、さらに好ましくはACTT)を含む。この配列の3’末端に、NotI認識配列GCGGCCGCを付加する。また、3’末端に任意の9または9に6の倍数を加えた数のヌクレオチドがスペーサーとして付加される。また、3’末端に、所望のcDNAの開始コドンATGからORFの約25ヌクレオチドに相当する配列が付加される。フォワード側合成オリゴDNAの3’末端は、所望のcDNAの約25ヌクレオチドを含み、且つ最終のヌクレオチドはGまたはCであることが好ましい。
リバース側合成DNA配列は、5’末端に任意の2つ以上のヌクレオチドを(好ましくは、GCGおよびGCCなどのNotI認識部位由来の配列が含まれない4塩基、さらに好ましくはACTT)含む。この配列の3’末端に、NotI認識配列GCGGCCGCを付加する。さらに、3’末端にスペーサーオリゴDNAを付加してプライマーの長さを調整する。下記のように、NotI認識配列GCGGCCGC、cDNAの相補鎖配列、およびセンダイウイルスゲノム由来のEIS配列を含むオリゴDNAの長さは、そのヌクレオチドの合計が6の倍数になるように設計する(いわゆる「6のルール」;Kolakofski D.et al.,Journal of Virology,1998,Vol.72,p.891〜899;Calain P.and Roux L.,Journal of Virology,1993,vol.67:p.4822−4830)。さらに付加された配列の3’末端に、センダイウイルスのS配列の相補鎖配列、好ましくは5’−CTTTCACCCT−3’、I配列の相補鎖配列、好ましくは5’−AAG−3’、E配列の相補鎖配列、好ましくは5’−TTTTTCTTACTACGG−3’を付加する。さらに、3’末端に、所望のcDNAの終止コドンから逆に数えて約25ヌクレオチドの相補鎖の最後のヌクレオチドがGまたはCになるように配列を付加する。これにより、リバース側合成オリゴDNAの3’末端とする。
PCRは、例えばExTaqポリメラーゼ(TaKaRa)を用いる通常の方法を用いることができる。Ventポリメラーゼ(NEB)を使用し、増幅したDNA断片はNotIで消化した後、プラスミドベクターpBluescriptのNotI部位に挿入することが好ましい。自動DNAシーケンサーにより、得られたPCR産物の塩基配列を測定する。正しい配列を有するプラスミドを選択する。NotI消化により、挿入断片をプラスミドから切り出し、パラミクソウイルスゲノムcDNAを含むプラスミドのNotI部位にサブクローニングする。PCR産物は、pBluescriptプラスミドを介さずに後述のプラスミドのNotI部位に、直接クローニングして、組換えセンダイウイルスcDNAを得ることもできる。
例えば、文献(Yu,D.et al.,Gene Cell,Vol.2:p.457−466,1997; Hasan M.K.et al.,Journal of Genetic Virology,1997,Vol.78:p.2813−2820)に記載した方法により、組換えセンダイウイルスゲノムのcDNAを構築することができる。例えば、NotI部位を有する18bpのスペーサー配列(5’−(G)−CGGCCGCAGATCTTCACG−3’)を、クローニングされたセンダイウイルスゲノムcDNA(pSeV(+))のリーダー配列とNタンパク質をコードする配列の5’末端との間の隣接遺伝子座に挿入し、デルタ肝炎ウイルスのアンチセンス鎖に由来する自己開裂リボザイム部位を含むプラスミドpSeV18 * b(+)を得る(Hasan,M.K.et al.,Journal of Genetic Virology,1997,Vol.78:p.2813−2820)。外来遺伝子断片をpSeV18 * b(+)のNotI部位に挿入し、所望の外来遺伝子が組込まれた組換えセンダイウイルスのcDNAを得る。
このように作製した組換えパラミクソウイルスベクターDNAをインビトロまたは細胞内で転写し、L、PおよびNPタンパク質の存在下でRNPを再構築して、RNPを含有するウイルスベクターを生成することができる。本発明は、結核菌タンパク質をコードするパラミクソウイルスベクターを含むワクチンの製造方法を提供し、この方法は、ウイルスのゲノムDNAを転写させる工程を含む。また、本発明は、このDNAから産生される、本発明のワクチンの成分として用いるパラミクソウイルスベクター製造用DNAを提供する。本発明は、本発明のワクチンの成分となるパラミクソウイルスベクターを製造するための、このベクターのゲノムをコードするDNAの使用に関する。ウイルスは、既知の方法によってウイルスベクターから再構築することができる(WO97/16539;WO97/16538;Durbin A.P.et al.,Virology、1997,Vol.235:p.323−332;Whelan S.P.et al.,American Natural Science Process、1995,Vol.92,p.8388−8392;Schnell M.J.et al.,EMBO J. 1994,Vol.13,p.4195〜4203; Radecke F.et al.,EMBO J.Vol.14,p.5773−5784;Lawson N.D.et al.,American Natural Science Process,1995,Vol.92,p.4477−4481;Garcin D.et al.,EMBO J.,1995,Vol.14,p.6087−6094;Kato A.et al.,Gene Cells,1996,Vol.1,p.569−579;Baron M.D. and Barrett T.,Journal of Virology,1997,Vol.71,p.1265−1271;Bridgen A.and Elliott R.M.,American Academy of Sciences Annual Report 1996,vol.93:p.15400−15404)。これらの方法によれば、パラインフルエンザ、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス、麻疹ウイルス、牛疫ウイルスおよびセンダイウイルスなどを含むパラミクソウイルスベクターを、DNAから再構成させることができる。ウイルスベクターDNAの中にF、HNおよび/またはM遺伝子を欠失させた場合、そのままでは感染性を有するウイルス粒子を形成することができない。これら欠失させた遺伝子、或いは他のウイルス由来のエンベロープタンパク質をコードする遺伝子を、宿主細胞に導入し発現させることにより、感染性ウイルス粒子を形成させることが可能である。
ベクターDNAを細胞内に導入する方法には、(1)目的の細胞に組み込むことができるDNA沈殿物を形成する方法、(2)目的の細胞による取りこみに適し、かつ細胞毒性の少ない陽電荷特性を持つDNAを含む複合体を作る方法、及び(3)目的の細胞膜に、DNA分子が通り抜けられるだけに十分な穴を電気パルスによって瞬間的に開ける方法などがある。
(2)としては、例えばDOTMA(Boehringer)、Superfect(QIAGEN#301305)、DOTAP、DOPE、DOSPER(Boehringer#1811169)などの種々のトランスフェクション試薬を使用することができる。方法(1)において、リン酸カルシウムを用いてトランスフェクションを行うことができる。この方法では、細胞に入ったDNAは貪食小胞に取り込まれるが、核内にも十分な量のDNAが存在することが知られている(Grahm F.L.and van Der Eb J.,Virology,1973,52,456;Wigler M. and Silverstein S.,Cell,1977,Vol.11,p.223)。ChenおよびOkayamaは、ランスファー技術を最適化し、(1)細胞および沈殿の培養条件は、2〜4%のCO2、35℃で15〜24時間であること、(2)環状DNAは線状DNAよりも活性が高いこと;及び(3)混合溶液中のDNA濃度が20〜30mg/mlである場合、最適な沈殿が得られること、を報告した(Chen C.and Okayama H.,Cell Molecular Biology,1987,Vol.7、p.2745)。方法(2)は一過性トランスフェクションに適している。以前の方法は、DEAE−デキストラン(Sigma#D−9885 M.W. 5×105)の溶液とDNAを所望の濃度比で混合してトランスフェクションを行う。ほとんどの複合体は核内で分解されるので、クロロキンの添加によりトランスフェクションの効率を高めることができる(Calos M.P.,American Academy of Sciences,1983,Vol.80,p.3015)。方法(3)は電気穿孔法と呼ばれ、いずれの種類の細胞でも使えるので、方法(1)や(2)に比べて広い適用範囲を有する。パルス電流の持続時間、パルスの形態、電界(電極間のギャップ、電圧)の強さ、バッファーの導電率、DNA濃度および細胞密度の最適条件下で、効率が最大化される。
前記の3つの方法において、方法(2)は、その操作が簡便で大量の細胞を用いて多数の検体を検討することができるため、ベクターを再構成する際に細胞にDNAを導入するのに適する。Superfectトランスフェクション試薬(QIAGEN、#301305)或いはDOSPERリポフェクトアミン試薬(Boeringer Mannheim#1811169)を使用することが好ましい。
具体的に、cDNAからの再構築は次のようにして行うことができる。
24穴−6穴のプラスチックプレート或いは100mmのペトリ皿上で、10%ウシ胎児血清(FCS)と抗生物質(100単位/mlペニシリンGおよび100mg/mlストレプトマイシン)を含む最小必須培地(MEM)の中に、サル腎由来細胞系LLC−MK2を、70〜80%コンフルエントになるまでに培養する。次いで、1mg/mlのソラーレン存在下UV照射を20分間で不活性化した、T7ポリメラーゼを発現するの組換えワクシニアウイルスvTF7−3(Fuerst T.R.et al.,American Natural Science Process,1986,Vol.83,p.8122−8126,Kato.A.et al.,Gene Cells,1996,Vol.1,p.569−579)を2pfu/細胞でを感染させる。ソラーレンの量及びUV照射時間は、適切に調整することができる。感染1時間後に、例えば、Superfect(QIAGEN)を用いて、2〜60mg、より好ましくは3〜5mgの組換えセンダイウイルスcDNA、およびセンダイウイルス全長ゲノムの生成に必要なトランスに作用するウイルスタンパク質を発現するプラスミド(例えば、24〜0.5mgのpGEM−N、12〜0.25mgのpGEM−P、24〜0.5mgのpGEM−L、或いは、より好ましくは1mgのpGEM−N、0.5mgのpGEM−P、および1mgのpGEM−L)(Kato.A.et al.,Gene Cells,1996,Vol.1,p.569−579)を、細胞にトランスフェクションする。トランスフェクションを行った細胞は、必要に応じて100mg/mlのリファンピシン(Sigma)およびシトシンアラビノシド(AraC)(Sigma)を含む、血清を含まないMEM中に培養し、より好ましくは40mg/mlのシトシンアラビノシドのみを含むMEM中に培養する。ワクシニアウイルスによる細胞毒性を最少にとどめ、ウイルスの回収率を最大にするように必要に応じて薬物の濃度を最適に調整する(Kato.A.et al.,Gene Cell,1996,Vol.1:p.569−579)。トランスフェクションから48〜72時間細胞培養した後、細胞を回収し、凍結融解を3回繰り返して細胞を破砕して、LLC−MK2細胞にトランスフェクションする。培養3〜7日後に培養液を回収する。エンベロープタンパク質をコードする遺伝子を欠損した複製能を持たないウイルスベクターを再構築させるために、エンベロープタンパク質を発現するLLC−MK2細胞にベクターをトランスフェクションするか、またはエンベロープタンパク質の発現プラスミドを共にトランスフェクションしてもよい。また、トランスフェクションを行った細胞にエンベロープタンパク質を発現するLLC−MK2細胞に重層して培養することによって欠損型ウイルスベクターを増幅することもできる(WO00/70055およびWO 0070070)。培養液中のウイルス力価は、ヘマグルチニンの活性(HA)を測定することにより確認することができる。また、HAは、「endo−point希釈法」(Kato.A.et al.,Gene Cells,1996,Vol.1,p.569−579;Yonemitsu Y.and Kaneda Y.,Japanese Coagulans−Liposomes Gene transduction,Molecular Biology Of Microtubule Disease,Molecular Medicine Methods,edited by Baker A.H.,Humana,1999,p.295−306)により確認することができる。混入(残存)し得るvTF7−3は、得られた尿膜(allantoic membrane)試料を適切に希釈(例えば、106倍)し、卵で再増幅することによりを除去し得る。再増幅は、3回以上繰り返しても良い。得られたウイルスは−80℃で保存することができる。
ウイルスベクターが細胞内で再構築できれる限り、構築に用いる宿主細胞は、いかなる特定の細胞タイプに限定されない。宿主細胞は、LLC−MK2細胞、サル腎由来のCV−1細胞、ハムスター腎由来のBHK細胞などの培養細胞系を含んでも良く、またはヒト由来の細胞を使用しても良い。大量のセンダイウイルスベクターを得るために、上記の宿主細胞から得られたウイルスベクターを、胚となった鶏卵を感染させてベクターを増幅することができる。鶏卵によってウイルスベクターを作製する方法はすでに開発されている(神経科学研究の先端技術プロトコールIII、分子神経細胞生理学、中西ら編,厚生社、大阪、1993,p.153−172)。具体的に、例えば、受精した鶏卵を培養器に置いて、37〜38℃で9〜12日間培養して胚を成長させる。ウイルスベクターを尿膜腔に接種し、鶏卵を数日間連続培養して、ベクターを増殖させる。培養の時間などの条件は、使用する組換えセンダイウイルスの種類によより変わり得る。その後、ウイルスを含有する尿膜腔液を回収する。常法で尿膜試料からセンダイウイルスベクターを単離、精製する(Tashiro M.,Virus Protocol,edited by Nagai and Ishihama,Medical observation,1995,p.68−73)。
例えば、以下の方法により、Fタンパク質を欠失したセンダイウイルスベクターを構築、調製することができる(WO00/70055およびWO00/70070)。
(1)F遺伝子を欠損したセンダイウイルスゲノムcDNA及びF発現プラスミドの構築
センダイウイルス(SeV)全長ゲノムcDNA−pSeV18(Hasan M.K.et al.,Journal of Genetic Virology, 1997,Vol.78,p.2813−2820)(pSeV18+b(+)はpSeV18(+)ともいう)をSphIとKpnIで消化して、得られた断片(14673bp)を回収し、pUC18にクローニングしてプラスミドpUC18/KSとする。F欠損部位はpUC18/KSを用いて構築される。F遺伝子の欠損はPCR−ライゲーション法により行い、結果としてF遺伝子のORF(1698bp)を除去し、配列5’−atgcatgccggcagatgaで連結してF遺伝子欠損SeVゲノムcDNA(pSeV18+/ΔF)を構築し、EcoT221を用いて、プライマー(フォワード側:5’−gttgagtactgcaagagc;リバース側:5’−tttgccggcatgcatgtttcccaaggggagagttttgcaacc)によって得られたF遺伝子の上流のPCR産物、及ぶプライマー(フォワード側:5’−atgcatgccggcagatga;リバース側:5’−tgggtgaatgagagaatcagc)によって得られたF遺伝子の下流のPCR産物を消化、連結して。そして、SacIおよびSalIで得られたプラスミドを消化し、F遺伝子欠損部位を含む断片(4931bp)を回収し、pUC18にクローニングしてpUC18/dFSSを得る。DraIIIでpUC18/dFSSを消化して断片を回収し、pSeV18+のF遺伝子含有DraIII断片を置換し、連結してpSeV18/ΔFを得る。外来遺伝子は、pUC18/dFSSのF遺伝子欠損部位にあるNsiIまたはNgoMIV部位に挿入することができる。このために、外来遺伝子を含む断片は、NsiI−tailedプライマーおよびNgoMIV−tailedプライマーを用いて増幅することができる。
(2)SeV−Fタンパク質を誘導発現するヘルパー細胞の作製
以下のように、センダイウイルスF遺伝子(SeV−F)を発現するCre/loxP誘導発現可能なプラスミドを構築する。PCRでSeV−F遺伝子を増幅し、pCALNdLwプラスミド(Arai et al.,Journal of Virology,1998,Vol.72,p.1115−1121)のユニークサイトSwaI部位にクローニングする。このプラスミドは、Cre DNAリコンビナーゼの作用により遺伝子産物の発現を誘導されるように設計して、pCALNdLw/Fが得られる。
F遺伝子を欠損したゲノムから感染性ウイルス粒子を得るために、SeV−Fタンパク質を発現するヘルパー細胞系が確立される。一般にSeVの増殖によく用いられているサル腎臓由来細胞株LLC−MK2細胞を使用することができる。37℃、5%CO2で、10%の熱処理した不動化ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリンGナトリウム50単位/mlおよびストレプトマイシン50mg/mlを添加したMEMを用いて、LLC−MK2細胞を培養する。SeV−F遺伝子産物は細胞傷害性を有するので、この遺伝子をpCALNdLwにクローニングする。このプラスミドにおいて、F遺伝子の発現をCre DNAリコンビナーゼにより誘導することができる。標準方法に従って、リン酸カルシウム法(哺乳動物トランスフェクションキット(Stratagene))により前記pCALNdLw/FをLLC−MK2細胞にトランスフェクションする。
10cmのプレートに40%コンフルエントまでに培養したLLC−MK2細胞に10mgのpCALNdLw/Fをトランスフェクションし、LLC−MK2細胞を10mlの10%FBSで37℃の5%CO2下に24時間培養する。その後、細胞を剥離し、10mlの培地に懸濁し、5枚の10cmプレートに接種し、それぞれ1枚のプレートに5mlの細胞懸濁液を接種し、2枚のプレートに2mlを接種し、2枚のプレートに0.2mlを接種する。10%FBSと1200mg/mlのG418(GIBCO−BRL)を含有する10mlのMEM中で14日間培養し、二日毎に培地を交換し、安定なトランスフェクタントを選択する。クローニングリングによって培地上に増殖したG418に耐性を示す細胞を回収する。回収された各コロニーの細胞を、10cmプレート中で100%コンフルエントになるまで培養し続ける。
Fタンパク質の発現を誘導するために、6cmプレートで100%コンフルエントになるまで細胞を培養し、斉藤らの方法(Saito et al.,Nucleic Acid Review,1995,Vol.23,p.3816−3821;Arai T.et al.,Journal of Virology,1998,Vol.72,p.1115−1121)により、moi=3のAxCANCreアデノウイルスにより感染する。
(3)F遺伝子を欠損したSeVウイルスの再構築及び増殖
以下のように、外来遺伝子が挿入されたpSeV18+/ΔFをLLC−MK2細胞にトランスフェクションする。5×106cells/dishでLLC−MK2細胞を100mmのペトリ皿に接種し、24時間培養した後に、ソラーレンおよび20分間のUV(365nm)で処理した、T7RNAポリメラーゼを発現する組換えワクシニアウイルス(Furest T.R.et al.,American Natural Science Process,1986,Vol.83,p.8122〜8126)をさせ、室温下で1時間感染させる(moi=2〜3;好ましくはmoi=2)。ワクシニアウイルスへの紫外線照射は、15ワットの電球を5本装備したUV stratakinker 2400(カタログ番号400676(100V)、Stratagene、La Jolla、CA、USA)によって行う。細胞を3回洗浄した後、それぞれ12mg/プレート、4mg/プレート、2mg/プレートおよび4mg/プレートの量比で、プラスミドpSeV18+/DF−GFP、pGEM/NP、pEGM/PおよびpGEM/L(Kato A.et al.,Gene Cells,1996,Vol.1,p.569−579)をOptiMEM(GIBCO)に懸濁し、SuperFectトランスフェクション試薬(1mgDNA/5mlのSuperFect(QIAGEN)を用いる)と混合した後、室温下で10分間置いて、濃度3%のFBSを含むOptiMEM 3mlに添加して、細胞に加える。培養器の中に3時間培養後、血清を含まないMEMで細胞を2回洗浄し、さらに、40mg/mlのアラビノシド(AraC、Sigma)および7.5mg/mlのトリプトン(GIBCO)を含むMEMの中に70時間培養する。そして、細胞を回収し、107cells/mlで細胞をOptiMEM中に再懸濁する。細胞を3回凍結融解した後、リポフェクトアミン試薬DOSPER(Boehringer mannheim)と混合し(106cells/25ml DOSPER)、室温下で15分間放置し、前記クローニングしたFを発現するヘルパー細胞系、例えばLLC−MK2/F7細胞にトランスフェクション(106cells/well、12well−plate)し、40mg/mlのAracと7.5mg/mlのトリプトンを含む、かつ血清を含まないMEMの中に培養し、上清を回収する。混入する可能性があるワクシニアウイルスは、得られた上清を希釈してLLC−MK2F7細胞に感染させ、上清を回収する操作を数回繰り返すことで除去することができる。
欠損したウイルスベクターを調製する際に、ウイルスゲノム中に欠損しているエンベロープ遺伝子が異なる2種のウイルスベクターを同じ細胞にトランスフェクションすることができる。この場合、それぞれで欠損するエンベロープタンパク質は、もう一方のベクターの発現により提供される。このように互いに相補しあって感染性ウルス粒子が形成され、複製サイクルがまわりウイルスベクターが複製される。言い換えると、2種以上のベクターを、エンベロープタンパク質を相補する組み合わせで接種することにより、それぞれのエンベロープ欠損ウィルスベクターの混合物を安価で大規模に製造することができる。これらのウイルスはエンベロープ遺伝子を欠損しているので、エンベロープ遺伝子を欠損しないウイルスに比べて、ゲノムは小さいため、より長い外来遺伝子を挿入することができる。また、こ元々感染性を有しないこれらのウイルスは、細胞外細胞外で希釈され共感染の維持が困難であることから、不稔化するため、環境管理上の利点がある。
回収されたパラミクソウイルスは実質的に純粋になるよう精製することができる。精製は、ろ過、遠心分離、カラムクロマトグラフィー精製、を含む公知の精製・分離法或いはこれらの方法の組合せを用いて行うことができる。「実質的に純粋」とは、例えば、化合物、ポリペプチド、ウイルスなどの単離した物質は、それが存在する試料中の成分として主要な割合を占めることを言う。一般的に、試料中に存在する実質的に純粋な成分は、他の成分を合わせた試料全体の50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上を占める。この割合は、例えば重量比率(w/w)などで当業者が既知した方法により、算出することができる。この割合を算出する際には、溶媒、塩、添加化合物等を除去する必要がある。具体的に、パラミクソウイルスの精製方法としては、例えばセルロース硫酸または架橋ポリサッカライド硫酸エステルを用いる方法がある(特許出願公開番号:特開昭62−30752号、特開昭62−33879号、特開昭62−30753号)。また、硫酸を含む多糖類および/またはその分解物に吸着させる方法(WO97/32010)などがある。
回収されたSeVベクターは、生組換えワクチンとして使用することができる。ここで、生ワクチンは、投与された個体の細胞において、ベクターゲノムが増幅し、抗原タンパク質を発現させ、免疫性を得ることができる組成物を言う。実施例に示すように、SeVベクターの接種は、マカクサルにおいて免疫性を良く誘導し、顕著な臨床症状を示さないので、生ワクチンとして好適に用いられる。このような生ワクチンを接種する対象には、制限がなく、例えばヒト、サル、ネコ、イヌ、ブタ、ウマ、ウシなどの免疫不全ウイルスに感染する全ての動物が含まれる。また、前記伝播力を欠くSeVベクターを用いることにより、ベクターが伝播しない生ワクチンを製造することができる。
また、発現タンパク質がSeV粒子に組み込まれる場合、SeVベクターを不活性の粒子ワクチンとして使用することができる。或いは、発現タンパク質がSeV粒子に組み込まれる場合、SeVベクターから、発現させた免疫不全ウイルスタンパク質を分離・精製して、ワクチンとして使用することができる。SeVベクターベクターには、限られた種類の蛋白質しか含まれないため、発現ベクター等を用いて細胞内で発現させた免疫不全ウイルスタンパク質を細胞全抽出物から分離するのに比べ、はるかに容易である。例えば、免疫不全ウイルスタンパク質に対する抗体によるイムノアフィニティーカラムクロマトグラフィーなどの公知の単離技術がタンパク質の精製に使用することができる。生ワクチンおよび不活化ワクチンに比べて、精製タンパク質をワクチンとして使用することで、接種後に発生する発熱および局所反応の頻度が抑えられることが期待できる。
必要に応じて、SeVベクターを含むワクチンは、薬学的に許容される所望のキャリアまたは媒介体と結合することができ、或いは所望の薬学的に許容されるキャリアまたは媒介体を含むことができる。ここで、「薬学的に許容されるキャリア」とは、ベクターと共に投与することができ、ベクターによる遺伝子導入を有意に阻害しないものを言う。例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等でSeVベクターを適宜希釈して組成物を調製することができる。
鶏卵内でSeVベクターを増殖する場合、組成物には尿膜液を含んでも良い。また、SeVベクターを含有するワクチン組成物は、脱イオン水または5%のデキストラン水溶液のような媒体を含んでも良い。また、植物油、懸濁化剤、界面活性剤、安定化剤、抗生物質などを含んでも良い。また、保存剤および他の添加剤を添加してもよい。免疫原性を高めるために、サイトカイン、コレラ毒素、サルモネラ毒素などの免疫促進剤を添加することができる。また、ミョウバン、不完全フロイントアジュバント(incomplete Freund’s adjuvant)、MF59(オイルエマルジョン)、MTP−PE(ミコバクテリア細胞壁由来のムラミルトリペプチド)およびQS−21(soapbark tree Quilaja saponaria 由来)をワクチンと組み合わせることができる。好ましい一実施形態では、SeVベクターはアジュバントであるレバミゾールと組み合わせてワクチン組成物を調製する。
本出願のワクチンによる接種は、結核菌の感染の予防および/または感染後の結核菌の排除または結核菌増殖の抑制のために用いられ得る。また、結核の発症の予防または発症後の治療のために用いられ得る。これは、結核菌の感染モデルにおいて予防方法および/または治療方法の開発または評価においても有用である。
本発明のワクチンは、有効量のベクターを対象組織の細胞に導入するのに十分な用量で投与される。本明細書で使用する「有効量」とは、所望の免疫応答を少なくとも部分的にもたらすように対象組織の細胞に遺伝子を導入することができる用量を言う。所望の遺伝子を含む有効量のSeVベクターの投与は、トランスフェクションを行った細胞から遺伝子産物が産生される。所望の遺伝子を含む有効量のSeVの投与は、トランスフェクションを行った遺伝子が投与された組織または血液において有意なレベルの発現が検出されることが好ましい。「有意なレベル」とは、SeVベクターでトランスフェクションを行った遺伝子の発現(転写産物または翻訳産物の量)が検出できることを言う。しかし、トランスフェクションを行った遺伝子の発現量は、その有効レベルおよび毒性レベルを考慮して決定することが必要である。
細胞にトランスフェクションを行った遺伝子の発現量は、当業者に公知の測定方法によって測定することができる。転写産物は、ノーザンハイブリダイゼーション、RT−PCR、RNAプロテクションアッセイなどによって検出、定量することができる。ノーザンハイブリダイゼーション、RT−PCRなどによる検出はin situでも行い得る。翻訳産物を検出するためには、抗体を利用したウェスタンブロット、免疫沈降、RIA、ELISA、プルダウンアッセイなどにより行うことができる。トランスフェクションを行った遺伝子の発現を容易に検出するために、発現させるタンパク質にテールタグ(tail tag)を付加したり、ベクターにレポーター遺伝子を組み込むことができる。レポーター遺伝子は、β−ガラクトシダーゼ、CAT、アルカリホスファターゼ、またはGFPをコードする遺伝子であっても良いが、これらに限定されない。
免疫応答は、抗体または免疫細胞の試験によって検出することができる。例えば、結核菌に対する体液性免疫応答は、様々な病原タンパク質との結合(ELISA、ウェスタンブロッティングなど)、シンシチウム形成の阻害の検出、補体結合反応、抗体依存性細胞傷害(ADCC)能、感染または細胞融合に対する中和能などの試験などの様々な公知の試験方法によって検出することができる。
細胞性免疫応答は、例えば、抗原に特異的なCTL活性、CTL産生、またはヘルパーT細胞の産生と活性などの試験によって検出することができる。また、細胞性免疫応答は、CD8+T細胞などの活性化T細胞、または白血球によって産生される他のサイトカイン或いはケモカインなどを調べることにより検出することもできる。また、それは、公知のリンパ球増殖アッセイ、CTLアッセイ、抗原特異的T細胞のアッセイなどによって検出することができる。
投与用ベクターの投与量は、疾患、患者の体重、年齢、性別、症状、投与の目的、ワクチンの形態及び投与方法等によって異なるが、当業者であれば適宜決定することが可能である。ワクチンに含まれるベクターの投与量は、約105pfu/ml〜1011pfu/mlの範囲内であることが好ましく、約107pfu/ml〜109pfu/mlであることがより好ましい。約1×108pfu/ml〜5×108pfu/mlの範囲内の量を薬学上容認可能なキャリア中で投与することが最も好ましい。ワクチンは、経皮内、経皮下、鼻腔内、経気管支、筋肉内、静脈内、または経口で接種することができる。例えば、上気道付近のワクチン接種、すなわち、鼻腔内粘膜および上気道への接種によって、粘膜免疫を誘導することができる。従って、鼻内噴霧等等によってSeVワクチンを気管内に接種することは非常に有効である。鼻腔内投与は、例えばカテーテルを介した投与などにより行うこともできる。また、Sevが導入された細胞は、ワクチンとして接種することができる。例えば、ワクチンを接種する個体由来の細胞をSeVで感染させた後、インビボ投与によって接種することもできる。
また、単回投与だけでなく、例えば2回以上の接種により十分な免疫を誘導することも有効である。ヒトの場合、複数回接種の間隔は通常2〜4週間である。
複数回接種の場合、SeVを含む本発明のワクチンは、複数回接種しても良いが、SeVワクチンと他のワクチンの組合せを利用することも好ましい。上記のように、ウイルスベクターを基にしたワクチン戦略の欠点の1つは、最終的に、標的抗原でなくベクターウイルスに由来する抗原に対して強い免疫応答が誘導されてしまうことである。この問題は、初回免疫と追加免疫をする時に、2つ以上の異なる種類のウイルスベクターをそれぞれ用いることにより解決することができる。したがって、上記のように、DNAワクチンを基にした初回免疫後に、ウイルスベクターを基にした追加免疫を行うことも、好ましい戦略の1つである。また、同じ組換えウイルスの再接種は、追加的な抗原特異的応答を引き起こすには不十分である可能性がある。したがって、SeVベクターを用いて初回免疫を行い、異なるウイルスベクターまたはDNAワクチンを用いて追加免疫を行うことも有効である。さらに、組換えSeVベクターを用いて複数の抗原を発現することは、防御効率を高めることができる。
したがって、異なる種類のワクチンを用いて初回免疫−追加免疫を行う戦略において、SeVワクチンと組み合わせるワクチンに特に制限はなく、所望のワクチンを使用することができる。例えば、組換えサブユニットワクチン、SeV以外のウイルスまたは微生物による生組換えワクチン、BCG、ポリペプチドワクチン、DNAワクチンなどを含むが、これらに限定されない。サブユニットワクチンとは、標的結核菌の全ての抗原を有さず、1つまたは複数の選択されたタンパク質抗原のみを含むワクチンを言う。このようなワクチンは、結核菌の他の成分または感染細胞に由来する成分から少なくとも部分的に単離される。サブユニットワクチンは、結核菌タンパク質を少なくとも部分的に精製することにより調製することができる。また、サブユニットワクチンは、組換えまたは合成によって調製することもできる。生組換えワクチンの基本成分として使用される微生物の実例としては、ポックスウイルス、アデノウイルス、サルモネラ、ポリオウイルス、マイコバクテリア、インフルエンザウイルス、及びセムリキフォレストウイルス等が挙げられるが、これらに限定されない。SeVワクチンとその他のワクチンとの接種の順番は制限されない。SeVワクチンを接種した後に他のワクチンを接種しても良く、逆に、他のワクチンを接種した後にSeVワクチンを接種しても良い。
例えば、DNAワクチンで初回免疫した後、SeVワクチンで追加免疫を行う。このような接種は、(a)DNAワクチンを投与する工程、その後(b)結核菌タンパク質をコードするパラミクソウイルスを投与する工程を含む方法である。DNAワクチンは、例えば、結核菌のゲノムをコードするDNAを利用することができる。DNAワクチンは、例えば、筋肉内投与および/またはジーンガンによる投与により接種することができる。例えば、DNAワクチンの接種を数回行った後、本発明のSeVによるワクチンを接種する。接種の間隔は通常数日間〜数週間である。
ワクチンを接種できる動物としては、免疫システムを有する、且つ結核菌に感染し得るあらゆる宿主が挙げられ、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、トリなどを含む、全ての哺乳動物等が含まれる。本発明のワクチンを接種する動物は、霊長類であることが好ましい。ヒトに加えて、本発明のワクチンを接種できる霊長類(非ヒト霊長類)の例としては、レムール、ロリス、およびメガネザルなどの原猿;広鼻猿および狭鼻猿などの真猿;ギボン、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、ボノボなどの類人猿が含まれる。狭鼻猿において、特にマカクサル、具体的にはニホンザル、カニクイザル、アカゲザル、ボンネットサル、ブタオザル、ベニガオザル、アッサムサルなどを含む。非ヒト霊長類に対するワクチン接種は、ヒトの臨床適用に向けた結核ワクチンの開発および評価に特に有用である。
結核菌のタンパク質をコードするSeVベクターを含有するワクチンは、宿主の免疫応答を局所および全身で誘導することができる。特に、このベクターを導入した細胞は、抗原特異的免疫応答の刺激細胞として機能し、細胞性免疫応答を誘導する。本発明は、(a)結核菌タンパク質をコードするセンダイウイルスベクターを抗原提示細胞に導入する工程、(b)抗原提示細胞とTヘルパー細胞および細胞傷害性T細胞とを接触させる工程、を含む、結核菌タンパク質に特異的細胞性免疫応答を誘導する方法を提供する。ここで、細胞を「接触させる」とは、とは細胞の接触を許すことも含む。言い換えれば、例えば、ベクター導入細胞を血中に注入したり(体内のTヘルパー細胞および細胞傷害性T細胞と接触することができる);あるいは同じ培地中でベクター導入細胞とTヘルパー細胞および細胞傷害性T細胞とを共培養する等を含む。また、抗原に特異的な「細胞性免疫応答の誘導」とは、この細胞性免疫応答の過程の少なくとも一部の誘導を意味する。例えば、抗原に特異的なCTLの刺激、CTLの頻度および活性(例えば、細胞毒性)の上昇などであってよい。
抗原提示細胞とは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIまたはMHCクラスIIが提示される細胞で、抗原タンパク質のペプチドを各分子に結合できる能力を有する細胞を言う。抗原提示細胞としては、例えば樹状細胞(DC)が挙げられる。MHCクラスI分子とは、抗原ペプチドに結合し、それを細胞傷害性T細胞(CD8+)に提示する分子である。MHCクラスII分子とは、抗原ペプチドに結合し、それを細胞傷害性T細胞(CD4+)に提示する分子である。Tヘルパー細胞とは、MHCクラスII分子に提示された抗原を認識し、免疫応答の一連のシグナル伝達を組織化する、T細胞ファミリーの細胞群を指す。細胞傷害性T細胞とは、MHCクラスI分子に提示される抗原を認識するT細胞ファミリーの細胞群であり、結核菌に感染された細胞、癌細胞、移植片などの細胞を殺す細胞である(Xu M.et al.,Trends of Biotechnology 18(4):167−72,2000)。
例えば、末梢血単核球(PBMC)などに結核菌タンパク質をコードするSeVベクターを導入した後、インビトロでPBMCと共培養することにより、IFM−γ産生の誘導および結核菌タンパク質に特異的なCTLの増殖などの細胞性免疫応答を誘導することができる。また、インビボ投与は、宿主において抗原に特異的な細胞性免疫応答を誘導することができる。
細胞性免疫応答は、IFN−γの量のアッセイ、及びCD8+IFN−γ+T細胞の頻度の測定により確認することができる。また、CTLの活性は、結核菌タンパク質を発現させた細胞を標的細胞として、標的細胞の溶解を測定することにより測定することができる。このような標的細胞は、上記のSeVベクターの導入により作製することができる。例えば、自家ヘルペスウイルス・パピオ(Herpesvirus papio)不死化Bリンパ球系(BLC)に、結核菌タンパク質を発現するSeVを導入して、CTLを含むことが予想される試料と共にインキュベートし、51Crの放出などを指標としてBLCの溶解程度を測定することができる。また、不死化細胞系H9(ヒトT細胞由来)等も例示することができる。
本発明は、結核菌タンパク質に特異的細胞性免疫応答を誘導または検出するための、結核菌タンパク質をコードするSeVベクター或いは本発明のベクターの導入細胞の使用に関する。また、本発明は、結核菌タンパク質をコードするSevベクターを導入した細胞を含む、結核菌タンパク質に特異的細胞性免疫応答の刺激細胞に関する。本発明は、結核菌タンパク質をコードするSevベクターを導入した細胞を含む、結核菌タンパク質に特異的細胞性免疫応答の標的細胞に関する。さらに、本発明は、前記刺激細胞または標的細胞において結核菌タンパク質を発現させるため、結核菌タンパク質をコードするSeVベクターの使用に関する。
SeVベクターにコードされる結核菌タンパク質には限定されない。上記に示したように、それらは、結核菌の構造タンパク質、調節タンパク質、アクセサリータンパク質などであっても良い。構造タンパク質としては、Ag85A、Ag85B等が挙げられる。例えば、結核菌のAg85AタンパクをコードするSeVを用いて、Ag85Aに特異的細胞性免疫応答を誘導することができる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本出願に引用された参考文献の内容すべては、参照により本明細書に組み込まれる。
[実施例1]Ag85ABキメラ遺伝子の単離、増幅及び構築
PCRにより、ヒト型結核菌のゲノムからAg85A遺伝子を増幅した。PCR増幅後に、NheI/BamHIでのダブルダイジェストを行い、pVAX1ベクターに連結した。使用されたプライマーは、この配列の5’末端に対する上流プライマーであるP1配列および3’末端に対する下流プライマーであるP2配列である(5’−ATA GCT AGC ATG GTT TCC CGG CCG GGC TTG C −3’および5’−TAA GGA TCC CTA GGC GCC CTG GGG CGC −3’)。その後、外来DNA断片をAg85A遺伝子に挿入可能な245〜250位のKpn I制限部位または430〜435位のAcc I制限部位を選択し、それぞれエンドヌクレアーゼKpn IまたはエンドヌクレアーゼAcc IでAg85A遺伝子を消化して、アルカリホスファターゼで脱リン酸化を行った。次に、エンドヌクレアーゼKpn I認識配列を有するプライマー対またはエンドヌクレアーゼAcc I認識配列を有するプライマー対を用い、ポリメラーゼ連鎖反応により、ヒト型結核菌のゲノムからAg85Bタンパクの125位〜282位のアミノ酸配列をコードするDNA断片を増幅させた。本発明者らは、この配列の5’末端に対する上流プライマーであるP3配列および3’末端に対する下流プライマーであるP4配列
および
を設計し、両方ともAcc I制限部位(GTCTAC)を有し;或いは、上流プライマーであるP5配列および下流プライマーであるP6配列
および
を設計し、両方ともKpnI制限部位(GGTACC)を有し、それぞれエンドヌクレアーゼKpn IまたはエンドヌクレアーゼAcc IでAg85A遺伝子を消化して、アルカリホスファターゼで脱リン酸化を行った。
そして、消化されたAg85A遺伝子をT4 DNAリガーゼでAg85B断片に連結し、得られたプラスミドを大腸菌に導入した後、カナマイシン耐性培養プレートの中に培養、増殖させて、コロニーとなった。単一のコロニーを選んでそれぞれ試験管の中に培養した後に、それぞれのプラスミドを抽出し、電気泳動で同定を行い、その後、酵素で切断して、電気泳動で同定を行った。最初に正しいものを選択してシークエンシングにより確認して、組換えAg85ABキメラ遺伝子を成功に構築した。
[実施例2]SeV85AB組換えセンダイウイルスベクターの構築
F遺伝子を欠損したSeVベクター(配列番号9)は、DNAVEC Corporation Japan(H. Li.et al.,Journal of Virology,2000,vol.74:p.6564−6569)により構築して提供された。このベクターを用いてヒト型結核菌のAg85ABタンパク質を発現する組換えSeVベクターワクチン(即ちSeV85AB、以下、SeV85ABと略記する)を構築した。具体的に、先行実験は、組換え技術によりSeVフュージョンのF遺伝子をノックアウトすることは培養細胞におけるこのベクターウイルスの複製および遺伝子発現に影響を及ぼさず、且つ感染細胞は感染性ウイルス粒子を生成や放出しないことが検証された。したがって、F遺伝子のノックアウトは、ウイルスの感染と複製の有効性を確保するとともに、このベクターの安全性を高める。本発明者は、上記の論文に記載されている(H.Li.et al.,前文参照)ように、全長のF遺伝子の欠失を有する弱毒化SeVゲノムcDNAプラスミドpSeV(+)18/dFを説明した。
PCR増幅によりAg85AB(Acc Iを挿入部位とする)をコードする遺伝子断片を調製し、pSeV(+)18/dFにクローニングしてpSeV(+)18 dF/Ag85ABを得た。PCRに用いられるプライマーであるP7とP8の配列は、5’−ATT GCG GCC GCG ACA TGG TTT CCC GGC CGG GCT TG−3’;5’−ATT GAT GAA CTT TCA CCC TAA GTT TTT CTT ACT ACG GCT AGG CGC CCT GGG GCG CGG GCC CGG TGT TGG GCG TG−3’である。まず、[実施例1]により上記プライマーを単離して、それを用いてヒト型結核菌の免疫優性遺伝子Ag85ABを増幅させた。その後、N末端コード領域の上流のNotI部位を介してpSeV(+)18/dFベクターに挿入した(図1)。T7 RNAポリメラーゼの作用で、このプラスミドpSeV(+)18 dF/Ag85ABは、全長のSeV85ABのアンチゲノムRNAを生成することができる。続いて、プラスミドpSeV(+)18 dF/Ag85ABをLLC−MK細胞にトランスフェクションし、組換えSeV、即ちSeV85ABを回収した(Kato,A.et al.,Gene Cells,1996,Vol.1、p.569−579)。具体的に、T7 RNAポリメラーゼを発現する組換えワクシニアウイルス(VV)vTF7−3(Fuerst,T.R.et al.,PNAS,1986,Vol.83:p.8122−8126)を用いて、LLC−MK2細胞を感染させた後、pSeV(+)18 dF/Ag85ABをpGEM−N、pGEM−P、およびpGEM−L(Garcin,D.et al.,EMBO J.,1995,Vol.14:p.6087−6094)とともにをこの細胞にトランスフェクションした。細胞培養器で3時間培養した後、細胞培養上清を除去し、血清を含まないDMEM培地で細胞を2回洗浄し、そして40mg/mlのシトシンアラビノシド(AraC、Sigma)と7.5mg/mlのトリプトン(GIBCO)を含むDMEM中で70時間培養した。その後、細胞を回収し、107cells/mlの割合で培地に再懸濁した。細胞を3回繰り返し凍結融解した後、リポフェクトアミン試薬DOSPER(Boehringer mannheim)(106cells/25mlDOSPER)と混合し、室温下で15分間置いて、例えばLLC−MK2/F7細胞(106cells/well、12well−plate)のようなF遺伝子を発現するヘルパー細胞系にトランスフェクションし、40mg/mlのAracと7.5mg/mlのトリプトンを含む、血清を含まないDMEM培地で培養し、上清を回収した。
同じ方法に従って、SeV85ABの対照としてブランクSeVを製造した。LLC−MK2細胞および抗SeV抗体で免疫染色を行って組替えSeVベクターワクチンをスクリーニング、同定した。力価(CIU[細胞感染単位]/ml)の測定は、文献(Kiyotani,K.et al.,Virology,1990,177:p.65−74)のように行った。
本実施例で得られたSeV85AB組換えセンダイウイルスベクターは、中国典型培養物保藏中心(CCTCC、アドレス:武漢市武昌珞珈山、430072)に寄託され、分類はParamyxoviridae/Paramyxovirusesであり、寄託日は2015年4月19日であり、寄託番号はCCTCC V201518である。
[実施例3]Ag85ABを発現するSeV85AB組換えウイルスの同定
SeV85ABで細胞を感染させ、発現されたタンパク質を分析した。具体的には、6穴プレートの中で、1穴あたり4×105個の細胞の密度でLLC−MK2細胞を一晩培養し、その後、感染多重度m.o.i.が1、3、10、30、100であるSeV或いはSeV85ABでこの細胞を感染させた。2日後、細胞を回収し、1XSDS sample bufferで細胞を溶解した。100℃で熱処理した後、10μlの細胞分解物を各レーンに添加してSDS−PAGE電気泳動を行った。抗Ag85Aのマウスモノクローナル抗体を一次抗体として使用し、フルオレセインを結合したヤギ抗マウス免疫グロブリンG(IgG)を二次抗体として使用し、細胞分解物に対してウェスタンブロット分析を行った。データから、SeV85AB感染したLLC−MK2細胞においてAg85ABを発現したことを検証したが、SeVブランクベクター対照は陰性の結果を示した(図2)。
[実施例4]マウスに対するSeV85ABによる鼻腔免疫は、抗原特異的T細胞免疫応答を誘導することができる
特定病原体フリー(SPF)のメスのBALB/cマウス(6〜8週齢)はShanghai SLAC Laboratory Animal Co.,Ltd.(中国上海)から購入した。このマウスを使用してSeV85ABの経鼻免疫がAg85AB特異的免疫応答を誘導できるかどうかを検証した。2×106CIU/動物および107CIU/動物のSeV85AB(20ul、PBS中)でマウスを鼻腔内免疫し、ブランクウイルス(結核抗原を発現しないSeVベクター)およびPBSを接種したマウスを対照として使用した。免疫してから2週間後、マウスを殺し、マウスから肺臓(気管組織を含む)と脾臓を取り出した。
肺リンパ球および脾臓細胞の単細胞懸濁液を以下のように調製した。脾臓を機械的に破砕し、メッシュガーゼ(mesh gauze)で単一の脾臓細胞を濾過させた。RBC溶解バッファー(BD Biosciences)で赤血球(RBC)を溶解した。一方、肺を無菌で摘出して、はさみで砕いて、10mlのR10培地(10%FBS[ウシ胎児血清]と1%ペニシリン+ストレプトマイシンを含有するRPMI−1640培地)中の1mg/mlコラゲナーゼIV(Invitrogen)および10U DNase I(Thermo)とを37℃で30分間培養した。組織を単一細胞に解離するために、コラゲナーゼ処理された肺片を70μm細胞フィルター(Fisher Scientific)で穏やかに濾過し、シリンジのプランジャーで押した。その後、細胞懸濁液を遠心分離して、RBC溶解を行った。洗浄後、単一の肺リンパ球をR10培地に再懸濁し、計数してさらなる分析に供した。
Ag85ABポリペプチドまたはタンパク質(5μg/ml)とPPD(ツベルクリン純タンパク質誘導体、Statens Serum Institute(SSI)から購入し、10μg/ml)の刺激で、ELISPOT法を用いて、IFN−γを特異的に分泌するCD4+TおよびCD8+T細胞の数を検出した。刺激用Ag85ABポリペプチドまたはタンパク質に関する情報は以下の通りであった:Ag85A−CD4ペプチド(ヒト型結核菌タンパク質Ag85A(LTSELPGWLQANRHVKPTGS、MHCクラスII特異的ペプチド)、FUNAKOSHIカタログ番号[ANA]62425)、Ag85A−CD8ペプチド(ヒト型結核菌タンパク質Ag85A−CD8(MPVGGQSST、MHCクラスI特異的ペプチド)、FUNAKOSHIカタログ番号[ASI]62424)、Ag85B−CD4ペプチド(ヒト型結核菌タンパク質Ag85B(240〜254)(FQDAYNAAGGHNAVF、CD4+Tヘルパー細胞(Th)1を誘導できる)、Sigma−Aldrich、カタログ番号[ANA]65391)、rAg85A(組換えAg85Aタンパク、実験室精製、配列は配列番号10に示される)。
このデータは、SeV85ABでの鼻腔免疫が、マウスの肺臓と脾臓において強い抗原特異的T細胞免疫応答を誘導することができるが、陰性対照であるブランクベクターおよびPBSは、対応する免疫応答を誘導できないことを検証した。図3は、肺リンパ球の検出結果を示す。この結果から、Ag85A−CD4ポリペプチド、rAg85AタンパクおよびPPDによる刺激は、免疫したマウスのリンパ球のIFN−γ分泌を誘導できることを確認した。脾臓においても同様の結果が得られた(図4)。投与量の点から、2×106CIUの低投与量免疫群に比べて、107CIUの高投与量免疫群は、抗原特異的T細胞の誘導の効果がより良好であることを示した(図3−4)。これらの結果から、SeV85ABワクチンは、ブランクSevベクターおよびPBSと比較して、鼻腔免疫後、結核抗原Ag85Aに対する局所(肺)および系統性(脾臓)免疫応答を有意に誘導できることが分かった。また、107CIUの免疫群と2×106CIUの免疫群の両方とも、結核抗原の発現の有無に関わらず、体重の有意な減少などの毒性反応が観察されなかった(図5)。
[実施例5]SeV85ABによるマウスの筋肉内免疫は抗原特異的T細胞免疫応答を誘導できる
特定病原体フリー(SPF)のメスのBALB/cマウス(6〜8週齢)はShanghai SLAC Laboratory Animal Co.,Ltd.(中国上海)から購入した。このマウスを使用して、SeV85ABの筋肉内注射による接種がAg85AB特異的免疫応答を誘導できるかどうかを検証した。2×106CIU/動物および107CIU/動物のSeV85AB(20μl、PBS中)でマウスを筋肉内接種させた。対照として、ブランクウイルス(結核抗原を発現しないSeVベクター)およびPBSを接種したマウスを使用した。免疫してから2週間後、マウスを殺し、マウスから肺臓(気管組織を含む)と脾臓を取り出し、実施例4に記載のように、肺リンパ球および脾臓細胞の単一細胞懸濁液を調製した。
Ag85ABポリペプチドまたはタンパク質(5μg/ml)とPPD(ツベルクリン純タンパク質誘導体、Statens Serum Institute(SSI)から購入し、10μg/ml)の刺激で、ELISPOT法を用いて、IFN−γを特異的に分泌するCD4+TおよびCD8+T細胞の数を検出した。刺激用Ag85ABポリペプチドまたはタンパク質に関する情報は以下の通りである:Ag85A−CD4ペプチド(ヒト型結核菌タンパク質Ag85A(LTSELPGWLQANRHVKPTGS、MHCクラスII特異的ペプチド)、FUNAKOSHIカタログ番号[ANA]62425)、Ag85A−CD8ペプチド(ヒト型結核菌タンパク質Ag85A−CD8(MPVGGQSST、MHCクラスI特異的ペプチド)、FUNAKOSHIカタログ番号[ASI]62424)、Ag85B−CD4ペプチド(ヒト型結核菌タンパク質Ag85B(240〜254)(FQDAYNAAGGHNAVF、CD4+Tヘルパー細胞(Th)1を誘導できる)、Sigma−Aldrich、カタログ番号[ANA]65391)、rAg85A(組換えAg85Aタンパク、実験室精製、配列は配列番号10に示される)。
データは、SeV85ABでの筋肉内免疫が、マウスの肺臓と脾臓において抗原特異的T細胞免疫応答を誘導することができるが、ブランクベクターおよびPBSの対照群は、対応する免疫応答を検出しないことを示した。図6は、肺リンパ球の検出結果を示す。この結果から、Ag85A−CD4ポリペプチド、rAg85AタンパクおよびPPDによる刺激が、肺リンパ球のIFN−γ特異的分泌を誘導できることを確認した。脾臓においても同様の結果が得られた(図7)。これらの結果から、SeV85ABワクチンは、ブランクSevベクターおよびPBSと比較して、筋肉内免疫の場合、結核抗原Ag85Aに対する局所(肺)および系統性(脾臓)免疫応答を誘導できることが分かる。また、107CIUの免疫群と2×106CIUの免疫群の両方とも、結核抗原の発現の有無に関わらず、体重の有意な減少などの毒性反応が観察されなかった(図8)。
[実施例6]SeV85AB及びBCGワクチンが多価ワクチンとして併用免疫する場合の追加免疫効果
前記ように、特定病原体フリー(SPF)のメスのBALB/cマウス(6〜8週齢)はShanghai SLAC Laboratory Animal Co.,Ltd.(中国上海)から購入した。このマウスを使用して、BCGワクチン(BCG Danish株、Shanghai Insititue of biologica products Co., Ltd., China National biotec Group Company Limitedから購入し)に対するSeV85ABの追加免疫効果を評価した。マウスをランダムに8グループに分け、それぞれのグループにBCG或いは対照でるるPBSで初回免疫を行い、8週間後、さらにPBS、BCG、SeV/対照あるいはSeV85ABで追加免疫を行い、そして、結核抗原SeV85AB特異的細胞免疫応答を誘導できるかどうかを検出した。実験デザインの詳細は次のとおりである。
PBSで初回免疫を行う場合、100μlを右後肢の鼠径の皮下部位(内側と外側にそれぞれ50μl)に注射した。BCGで初回免疫を行う場合、右後肢の鼠径の皮下部位(内側と外側にそれぞれ50μl)に106コロニー形成単位(CFU)/100μl/動物で注射した。
初回免疫を行ってから8週間後、鼻腔免疫の方法で追加免疫を実施した。PBS追加免疫の用量は20μl/動物、BCGの用量は106CFU/20μl/動物、ブランクSeVベクターの用量は107CIU/20μl/動物であり、SeV85ABベクターの用量は107CIU/20μl/動物であった。追加免疫を行ってから2週間後、マウスから肺(気管組織を含む)と脾臓を取り出し、実施例4に記載のように肺リンパ球および脾臓細胞の単一細胞懸濁液を調製した。
Ag85ABポリペプチドまたはタンパク質(5μg/ml)とPPD(ツベルクリン純タンパク質誘導体、Statens Serum Institute(SSI)から購入し、10μg/ml)の刺激で、ELISPOT法を用いて、IFN−γを特異的に分泌するCD4+TおよびCD8+T細胞の数を検出した。刺激用Ag85ABポリペプチドまたはタンパク質に関する情報は以下の通りであった:Ag85A−CD4ペプチド(ヒト型結核菌タンパク質Ag85A(LTSELPGWLQANRHVKPTGS、MHCクラスII特異的ペプチド)、FUNAKOSHIカタログ番号[ANA]62425)、Ag85A−CD8ペプチド(ヒト型結核菌タンパク質Ag85A−CD8(MPVGGQSST、MHCクラスI特異的ペプチド)、FUNAKOSHIカタログ番号[ASI]62424)、Ag85B−CD4ペプチド(ヒト型結核菌タンパク質Ag85B(240〜254)(FQDAYNAAGGHNAVF、CD4+Tヘルパー細胞(Th)1を誘導できる)、Sigma−Aldrich、カタログ番号[ANA]65391)、rAg85A(組換えAg85Aタンパク、実験室精製、配列は配列番号10に示される)。
肺リンパ球のELISPOT結果を図9に示す。BCG初回免疫−SeV85AB追加免疫を受けたマウスは、BCG追加免疫と比較して、IFN−γを分泌するリンパ球をより良好に誘導することができる。脾臓の結果を図10に示す。BCG初回免疫−SeV85AB追加免疫を受けたマウスは、BCG追加免疫と比較して、IFN−γを分泌するリンパ球を著しく多く誘導することができる。すなわち、第8グループの免疫戦略を受けたマウスは、他の7つのグループより、結核抗原Ag85Aに対する局所(肺)および系統性(脾臓)免疫応答を著しく良好に誘導した。一方、SeV85AB免疫マウスでは、他の試験グループと比較して、有意な体重変化が観察されなかった(図11)。
[実施例7]BCGに比べるヒト型結核菌感染に対するSeV85ABの予防効果
前記ように、特定病原体フリー(SPF)のメスのBALB/cマウス(6〜8週齢)はShanghai SLAC Laboratory Animal Co.,Ltd.(中国上海)から購入した。このマウスを使用して、結核菌感染に対するSeV85ABの予防効果を検出した。
このマウスを4つのグループに分け、ブランクSeVベクター、BCGワクチン(皮下注射で106CFUを1回接種した)、低用量(2×106CIU)のSeV85ABおよび高用量のSeV85AB(107CIU)をそれぞれ用いて1回免疫を行った。4週間後、P3研究室でヒト型結核菌H37Rv株のエアロゾルでマウスを攻撃した(100〜200CFU)。そして、5週間後、マウスを殺し、マウスの肺臓組織と脾臓組織を取り出し、ホモジナイズしてホモジェネートとなり、Middlebrook 7H11寒天プレート上に塗布した。この寒天プレートには、10%のOADCを多く含む、汚染微生物の成長を防止するための4つの抗生物質の混合物(40U/mlのポリマイシンB、4μg/mlのアンフォテリシン、50μg/mlのカルベニシリン、および2μg/mlのトリメトプリム)を添加した。37℃で3週間培養した後、CFUコロニーを計数し、ワクチンの防御効果を評価した。student’s t検定で任意の2つのグループ間の有意性を比較し、図12には*(p<0.05の場合)および***(p<0.01の場合)で示した。図12に示したように、低用量のSeV85ABによる1回経鼻免疫は、少なくともBCGと同等の免疫防御効果を誘導することができ、さらに、高用量のSeV85ABによる効果はBCGよりも優れている。
[実施例8]異なる免疫戦略でのヒト型結核菌感染に対するSeV85ABの予防効果
前記ように、特定病原体フリー(SPF)のメスのBALB/cマウス(6〜8週齢)はShanghai SLAC Laboratory Animal Co.,Ltd.(中国上海)から購入した。このマウスを使用して、結核菌感染に対するSeV85ABの予防効果を検出した。
まず、このマウスを4つのグループに分けた。第1〜第3グループは、それぞれ、PBS(20μl)、BCG(皮下注射で106CFUを1回接種した)、およびBCG(皮下注射で106CFUを1回接種した)で処理した。4週間後、第3グループでは107CIUのSeV85ABを鼻腔内で1回追加接種(追加免疫)し、第4グループでは107CIUのSeV85ABを鼻腔で1回接種した。また、4週間後、P3研究室でヒト型結核菌H37Rv株(100〜200CFU)のエアロゾルでマウスを攻撃した。そして、5週間後、マウスを殺し、マウスの肺臓組織と脾臓組織を取り出し、ホモジナイズしてホモジェネートとなり、Middlebrook 7H11寒天プレート上に塗布した。この寒天プレートには、10%のOADCを多く含む、汚染微生物の成長を防止するための4つの抗生物質の混合物(40U/mlのポリマイシンB、4μg/mlのアンフォテリシン、50μg/mlのカルベニシリン、および2μg/mlのトリメトプリム)を添加した。37℃で3週間培養した後、CFUコロニーを計数し、ワクチンの防御効果を評価した。student’s t検定で任意の2つのグループ間の有意性を比較し、図13には*(p<0.05の場合)および***(p<0.01の場合)で示した。図13に示したように、肺では、SeV85ABのみによる1回経鼻免疫は、BCGのみの場合と同等の免疫防御効果を誘導することができ、さらに、SeV85ABをBCGの追加ワクチンとして使用すると、防御効果を著しく向上させる(図13の右側);脾臓では、SeV85ABのみによる経鼻免疫は、BCGのみの場合と同等の免疫防御効果を誘導することができ、さらに、SeV85ABをBCGの追加ワクチンとして使用すると、その効果は、BCGのみ、またはSeV85ABのみの場合より著しく優れている(図13の左側)。
[実施例9]リファンピシンに比べる結核菌を感染したマウス体内の結核菌に対するSeV85ABの抑制効果
前記ように、特定病原体フリー(SPF)のメスのBALB/cマウス(6〜8週齢)はShanghai SLAC Laboratory Animal Co.,Ltd.(中国上海)から購入した。このマウスを使用して、体内の結核菌に対するSeV85ABの抑制効果を検出した。
まず、100〜200CFUのH37Rv MTB株のエアロゾルでこのマウスを攻撃した。感染されてから4週間後、マウスを3つのグループに分け、各グループには20匹のマウスがあった。第1グループでは、マウスの飲料水にリファンピシン(RFP)を添加して治療し(用量は10mg/kg/日);第2グループでは、107CIUのSeV85ABを鼻腔内で接種し(1週間おきに1回、合計3回);対照グループでは、点鼻でPBS(20μl)のみを接種した。感染後1日目と感染後4、6、8および12週目に、各時点で各グループから3〜4匹のマウスを採取し、殺して、マウスの肺臓と脾臓を取り出し、ホモジナイズしてホモジェネートとなり、Middlebrook 7H11寒天プレート上に塗布した。この寒天プレートには、10%のOADCを多く含む、汚染微生物の成長を防止するための4つの抗生物質の混合物(40U/mlのポリマイシンB、4μg/mlのアンフォテリシン、50μg/mlのカルベニシリン、および2μg/mlのトリメトプリム)を添加した。37℃で3週間培養した後、CFUコロニーを計数し、ワクチンの防御効果を評価した。その結果から、SeV85ABで4週間治療した後の細菌の数は、PBSグループと比較して著しく減少し、8週間治療した後の治療効果はRFPグループと同等であった(図14)。
[実施例10]結核菌を感染したマウス体内の結核菌に対するSeV85ABとリファンピシンとの併用投与による抑制効果
前記ように、特定病原体フリー(SPF)のメスのBALB/cマウス(6〜8週齢)はShanghai SLAC Laboratory Animal Co.,Ltd.(中国上海)から購入した。このマウスを使用して、体内の結核菌に対するSeV85ABの抑制効果を検出した。
まず、100〜200CFUのH37Rv MTB株のエアロゾルでこのマウスを攻撃した。感染されてから3週間後、マウスを3つのグループに分けた。第1グループでは、マウスの飲料水にリファンピシン(RFP)を添加して治療し(用量は10mg/kg/日);第2グループでは、リファンピシンを投与して治療しながら、107CIUのSeV85ABを鼻腔内で接種し(治療は毎週1回、合計3回);対照グループでは、点鼻でPBS(20μl)のみを接種した。感染されてから6週間後、マウスを殺して、マウスの肺臓と脾臓を取り出し、ホモジナイズしてホモジェネートとなり、Middlebrook 7H11寒天プレート上に塗布した。この寒天プレートには、10%のOADCを多く含む、汚染微生物の成長を防止するための4つの抗生物質の混合物(40U/mlのポリマイシンB、4μg/mlのアンフォテリシン、50μg/mlのカルベニシリン、および2μg/mlのトリメトプリム)を添加した。37℃で3週間培養した後、CFUコロニーを計数し、その治療効果を分析した。図15に示したように、肺における結果から、リファンピシンとSeV85ABの併用投与は、PBS対照およびリファンピシンのみの場合に比べて、マウスの肺臓に存在する細菌量を著しく減少させることができる(図15)。