以下、本発明の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10A(10B)について図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る正四角形の主共振器11aと、当該主共振器11aに形状が相似する副共振器12aと、をそれぞれ示した図である。
ここでは、前記主共振器11aと、副共振器12aと、を別個に示すが、当該主共振器11a上に副共振器12aを重ねて配置することで図3にて後述する電磁界バンドストップフィルタ10Aが構成される。なお、具体的な副共振器12aの配置方法については別途述べる。
図1(a)は、主共振器11aを示す平面図である。
前記主共振器11aは、正四角形の単位セル1(点線で囲まれた部分が1つの共振器)を、4個二次元的に周期配置して構成した周期構造体である。前記周期構造体を構成する各単位セル1は、その各頂点である四隅に導電性の幾何学パターンP1(以下、パッチP1と呼ぶ)がPET(ポリエチレンテレフタレート)やエポキシ基板上に設けられたパッチ付リング共振器である。
また、図1(a’)は、前記主共振器11aの中央部(以下、第1領域と呼ぶ)を示した拡大図である。第1領域は、4個の単位セル1の各頂点が向かい合い、かつ当該単位セル1の各頂点に設けられたパッチP1を含む領域である。
図示するように、各単位セル1の各頂点を構成する2辺(S1〜S8)が互いに平行となるように単位セル1同士を近づける。なお、前記各頂点に設けられた前記パッチP1の一辺の長さをlaとする。
すると、第1領域における構造は、図1(b)に示すようにインダクタンスLとキャパシタンスCからなる直列回路として等価的に扱うことができる。
これは、例えば図1(a)に示す矢印方向の入射電界によって導体内の電子が動くことで電流が発生し、この発生した電流が導体部分を移動するときに自身が作る磁界によって逆方向の電流が作られるため、当該電流の位相が遅れる。この現象が、電気回路における自己インダクタンスLの動作を表すことから、導体部分はインダクタンスLと等価的に表現することができる。
また、主共振器11aのパッチP1間のギャップについては電流が直接移動することはないが、代わりにギャップ間に電界(電圧)が掛ることから、当該ギャップの向こう側に電界(電圧)が伝わるため、パッチP1に電流が流れ出す。このように、ギャップ間にも等価的に電流(変位電流)があると考え、これをキャパシタンスCと等価的に表現することができる。
なお、ここでは、1個の電磁界バンドストップフィルタ10Aを示しているが、シミュレーション上では当該電磁界バンドストップフィルタ10Aが無数に周期配列された構造を想定している。このため、前記インダクタンスLとキャパシタンスCからなる等価回路が無限に接続されることとなるが、この場合でも共振周波数は変わらないため、代表して単位構造の等価回路のみで表現している。
図1(c)は、副共振器12aとして機能するパッチP2を示す。この副共振器12aは、単位セル1同士を電気回路的に連結させる機能を有する。なお、パッチP2の面積は、前記パッチP1の面積よりも小さく、例えば、前記パッチP1の面積が27[mm2]に対し、16[mm2]である。
図2は、第1の実施形態に係る正三角形の単位セル2からなる主共振器11bと、当該主共振器11bに形状が相似する副共振器12bと、をそれぞれ示した図である。
ここでは、前記主共振器11bと、副共振器12bと、を別個に示すが、当該主共振器11b上に副共振器12bを重ねて配置することで図4にて後述する電磁界バンドストップフィルタ10Bが構成される。なお、具体的な副共振器12bの配置方法については別途述べる。
前記主共振器11bは、各々が正三角形の単位セル2(点線で囲まれた部分が共振器)を、二次元的に6個配置して構成される。これら各単位セル2についても、その頂点に導電性の幾何学パターンP3(以下、パッチP3と呼ぶ)が前記基板上に設けられたパッチ付リング共振器である。
また、図2(a’)に前記主共振器11bの中央部(以下、第2領域と呼ぶ)の拡大図を示す。第2領域は、6個の単位セル2の各頂点が向かい合い、かつ当該単位セル2の各頂点に設けられたパッチP3を含む領域であり、また前記第1領域に相当する領域である。
図示するように、各単位セル2の各頂点を構成する2辺(S9〜S20)が互いに平行となるように前記単位セル2同士を近づける。なお、前記各頂点に設けられた前記パッチP3の一辺の長さをlbとする。ここで、前記laとlbとは同じ長さでも良いし、異なっていてもよい。
すると、主共振器11bについても、図2(b)に示すようにインダクタンスLとキャパシタンスCからなる直列回路として等価的に扱うことができる。
図2(c)は、副共振器12bとして機能するパッチP4を示す。この副共振器12bは、単位セル2同士を電気回路的に連結させる機能を有する。なお、パッチP4の面積は、前記パッチP3の面積より小さい。
図1および図2に示すように正三角形、正四角形であれば、同じ形状の単位セルで、例えばモバイル通信端末のディスプレイ裏を埋めることができる。しかし単位セルの形状はこれに限定されるものではない。例えば、正六角形でもよく、更には正八角形と正四角形との組み合わせも考え得るし、あるいは長方形を縦横に並べて配列しても良い。
図3は、前記電磁界バンドストップフィルタ10Aであって、前記主共振器11aに前記副共振器12aを搭載した場合を示した図である。
図3(a)は、主共振器11aを構成する単位セル1の四隅に配置された各パッチP1上に前記副共振器12aとして機能する前記パッチP2を重ね合わせることで構成される電磁界バンドストップフィルタ10Aの平面図を示した図である。
図3(a’)は、前記図3(a)に示す電磁界バンドストップフィルタ10Aの第1領域を示す拡大図である。
図3(a’)に示すように、前記第1領域の中心、すなわち4個のパッチP1を配置した正四角形の領域に対し、その四辺のそれぞれから均等な距離l1となる位置に前記パッチP2を配置する。またこの際、図3(b)に示すように、パッチP1の表面および裏面とであって当該パッチP1の法線方向(複数の単位セル1が二次元に配列された面に対して垂直方向)に向かって、当該パッチP1から距離d1だけ離した位置にパッチP2sとパッチP2bとを配置する。ここで距離d1とは、パッチP1の一辺の長さlaに対して5%未満であって、かつ当該パッチP1とパッチP2とが接しない距離である。
すると、前記電磁界バンドストップフィルタ10Aを、図3(c)に示すインダクタンスL、キャパシタンスC、およびキャパシタンスC’とから構成される、等価回路として扱うことが出来る。
この図3(c)に示す回路による合成インピーダンスZは[jwL+1/jw(C+C’)]であるが、パッチP1とパッチP2との距離d1が小さく、当該パッチP1とパッチP2とで構成されるキャパシタンスC’がキャパシタンスCに比して支配的となることから、前記合成インピーダンスZを[jwL+1/jwC’]と近似することが出来る。
したがって、共振周波数を、[1/2πLC’]とすることができる。
なお、パッチP1とパッチP2sとで構成される合成インピーダンスZと、パッチP1とパッチP2bとで構成される合成インピーダンスZと、はそれぞれ同じ値で、[jwL+1/jwC’]であるため、共振周波数においても1/2πLC’である。
このように、パッチP2を設けることで電磁界バンドストップフィルタ10Aは、パッチP1の表面および裏面ともに大きな電気容量を有するため、共振周波数を低周波帯域にシフトさせることができる。
この結果、共振周波数に対応する波長λを長くできることがわかる。
換言すれば、パッチP1とパッチP2との間隔を距離d1とすることで、従来と同じ大きさの主共振器11aに対して対応する波長λを長くできるため、当該波長λからみると、電磁界バンドストップフィルタ10Aを従来よりも小型化できる。
図4は、前記電磁界バンドストップフィルタ10Bであって、前記主共振器11bに前記副共振器12を搭載した場合を示した図である。
図4(a)は、前記電磁界バンドストップフィルタ10Bの平面図である。
図4(a’)は、前記図4(a)に示す電磁界バンドストップフィルタ10Bの前記第2領域を示した拡大図である。
図4(a’)に示すように、前記第2領域の中心、すなわち6個のパッチP3を配置した正六角形の領域に対して、その六辺のそれぞれから均等な距離l2となる位置に前記パッチP4を配置する。
この際、図4(b)に示すように、パッチP3の表面および裏面とであって、当該パッチP3の法線方向(複数の単位セル2が二次元に配列された面に対して垂直方向)に向かって当該パッチP2から距離d2だけ離した位置にパッチP4sとパッチP4bとを配置する。ここで距離d2とは、パッチP3の一辺の長さlbに対して5%未満であって、かつ前記パッチP3とパッチP4とが接しない距離である。
すると電磁界バンドストップフィルタ10Bの合成インピーダンスZを、図2(b)に示す前記インダクタンスL、前記キャパシタンスCの他、パッチP3とパッチP4とから構成される複数のキャパシタンスC’を含む値として定性的に直列共振回路として表現することが出来る。
ここで、電磁界バンドストップフィルタ10BにおいてもキャパシタンスCに比べてキャパシタンスC’の方が支配的であるため、当該電磁界バンドストップフィルタ10Bにおける合成インピーダンスZについても、大きな電気容量を有する。この結果、共振周波数を低周波帯域にシフトさせることができ、電磁界バンドストップフィルタ10Bを小型化することができる。
なお、前記電磁界バンドストップフィルタ10Aと、電磁界バンドストップフィルタ10Aと、におけるそれぞれの共振周波数は異なる値であっても良いし、同じであっても良い。
なお、パッチP2sとパッチP2b、およびパッチP4sとパッチP4bを区別しない場合には、単にそれぞれをパッチP2、パッチP4と呼ぶ。
また、主共振器11aと主共振器11bとを区別しない場合には、単に主共振器11と呼び、副共振器12aと副共振器12bとを区別しない場合には、単に副共振器12と呼ぶ。
さらに、電磁界バンドストップフィルタ10Aと電磁界バンドストップフィルタ10Bとを区別しない場合には、単に電磁界バンドストップフィルタ10と呼ぶ。
図5は、共振周波数[GHz]−透過特性S21[dB]を示す図であって、同図(a)は、主共振器11単体(図1(a)参照)での共振周波数[GHz]−透過特性S21[dB]を示し、同図(b)は、前記電磁界バンドストップフィルタ10A(図3(a)参照)での共振周波数−透過特性S21[dB]を示す。
図5(a)に示すように、主共振器11単体での共振周波数は2.85[GHz]である。
これに対し、図5(b)では共振周波数は0.7[GHz]である。このように、電磁界バンドストップフィルタ10Aを採用することで共振周波数を低周波帯域にシフトさせることができる。
なお、図5では、電磁界バンドストップフィルタ10Aにおける共振周波数[GHz]−透過特性(S21)[dB]について説明したが、上述の通り、電磁界バンドストップフィルタ10Bも同様に共振周波数を低周波帯域にシフトさせることができる。
したがって、前記構成の電磁界バンドストップフィルタ10によれば、正三角形または正四角形の単位セルの各頂点部位に、一辺が第1長さを有するパッチP1、P3をそれぞれ設けた単位セル1、2を、二次元的に周期配列することで構成される正四角形または正六角形の電磁界バンドストップフィルタ10(周期構造体)と、複数の単位セル1の互いに向き合う位置に配置された4個または6個の第1導体を含む第1領域の表面及び裏面に対し、前記第1長さの5%未満の間隔だけ単位セル1、2の法線方向に離した位置に配置され、前記電磁界バンドストップフィルタ10(周期構造体)の外形と相似する副共振器12として機能するパッチP2と、を備える。
このように、主共振器11から法線方向に向かって前記5%未満の距離d(d1、d2)に副共振器12を配置した場合は、前記パッチP1とパッチP2とで大きな電気容量を持つキャパシタンスC’を構成する。このことから、キャパシタンスC’がキャパシタンスCよりも支配的となる結果、主共振器11の寸法を変えずとも共振周波数を低周波化させることができる。したがって対応する波長λが主共振器11単独の場合に比べて十分長くなる。
つまり、電磁界バンドストップフィルタ10における構造の電気的特性を従来のような「分布定数的」ではなく、「集中定数的」に設計できるようになる。具体的には、図3(a)および図4(a)のように、主共振器11と副共振器12とで形成されるインダクタンスLの値とキャパシタンスC’との値だけに基づいて無限配列される電磁界バンドストップフィルタ10の共振周波数を簡単に決定することが可能になる。
従って、電磁界バンドストップフィルタの設計に際して不確定要素を取り除くことができ、ひいては、周波数特性を簡易に設計することが可能になる。
また、低周波数化できることから、同じサイズの単位セル1、2を用いても、より低い周波数の電磁波を反射することができる。従って、反射すべき周波数が同じであれば、単位セル1、2のスケールを、反射すべき帯域の電磁波の波長λに比べて、従来よりも十分に短くすることができる。
これらのことから第1の実施形態によれば、周波数特性を簡易に設計可能な電磁界バンドストップフィルタ10を、より縮小した寸法で提供することができる。よって、例えばモバイル通信端末などの小型の電子デバイスからの漏えい電磁波の放射抑制と、通信周波数での電磁波の送受信の保護を両立する、小型の電磁界バンドストップフィルタ10を実現できるなどの効果を得ることができる。
また、電磁界バンドストップフィルタ10を小型化することができるため、モバイル通信端末などが無線通信に用いる周波数よりも低い周波数帯(例えば、700[MHz]以下)のノイズが、当該モバイル通信端末から放射されているといった問題に対しても、これに対応するFSSを限られた空間内で十分な数で配列でき、所望の周波数特性が発揮できるようになる。
更に、FSSを用いることで、周波数(波長λ)に対して十分小さい構造を用いることができるため、限られた空間に有限個の共振器の配列で構成されたFSSの配列数をより増やすことで周波数特性の精度の向上を見込むことができる。
また更に、無線環境の整備が進み、例えば、モバイル通信端末の無線基地局の数が増えることで一つあたりの基地局用のアンテナやその反射板の所要スペースの効率化が問題となっているが、反射板の占める所要スペースの割合が比較的大きいことから、前記無線基地局で用いられる反射板(FSSの場合)を十分に小さくすることができ、これまで配置が困難であった場所にも無線基地局を配置できるようにすることができる。
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10では、前記副共振器12として機能するパッチP2(パッチP4)の寸法を前記第1の実施形態に比べて縮小した構成とする。
また、第2の実施形態においても主共振器11を構成する単位セル1(または単位セル2)が周期配列された構造である。
なお、電磁界バンドストップフィルタ10BについてもパッチP4の寸法を縮小する点で同様であることから説明を省略し、ここでは代表して電磁界バンドストップフィルタ10Aに係る前記第1領域の平面図のみ示すこととする。
図6は、第2の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aであって、前記主共振器11aが有するパッチP1上に、寸法を縮小した前記副共振器12a(パッチP2)を配置した場合の拡大図を一例として示す。
ここで、副共振器12a(パッチP2)の一辺の縮尺を、第1の実施形態における副共振器12aの、例えば1/2とする。なお、縮尺はこれに限られず、例えばパッチP2の面積が10[mm2]や5[mm2]となるような種々の寸法のパッチP2が用意されてよい。
このように、副共振器12a(パッチP2)の寸法を変えることで、パッチP1とパッチP2とで構成されるキャパシタンスC’の大きさが変化するため、共振周波数を変化させることができる。すなわち副共振器12aの大きさによって共振周波数を選択することが可能となる。
なお、電磁界バンドストップフィルタ10Bであっても、同様の効果を得ることができる。
したがって、前記構成の第2の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10A(10B)によれば、種々の寸法の副共振器12aを用意し、当該副共振器12aの中から特定の寸法を選択し、これを実装することで前記第1の実施形態におけるキャパシタンスC’の値を変えて共振周波数を選択することができる。
また、前記電磁界バンドストップフィルタ10Aの組み立て前の段階では、主共振器11aおよび副共振器12aをそれぞれ別々に持ち運ぶことができるため、目的とする共振周波数の変更に応じて、電磁界バンドストップフィルタ10Aの副共振器12aを選択することができる。
なお、以降の第3の実施形態〜第7の実施形態では、電磁界バンドストップフィルタ10Aのみに着目して説明する。
[第3の実施形態]
第2の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aでは、縮尺を、例えば1/2とした副共振器12a(パッチP2)を実装することで、キャパシタンスC’の値を変えて共振周波数を選択可能とした。
これに対して、第3の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aでは、副共振器12aを構成する前記パッチP2sおよびパッチP2bのそれぞれを任意の方向に変位させることで共振周波数を選択可能にした構成とする。
図7は、第3の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aの第1領域を拡大した図である。
具体的には、図7(a)は、副共振器12aとして機能する表面側のパッチP2sを中心点(x=y=0[mm])からx軸およびy軸方向にx=−1[mm]、y=1[mm]だけ変位させた場合を示し、図7(b)は、副共振器12aとして機能する裏面側のパッチP2bを中心点(x=y=0[mm])からx軸方向にx=1[mm]だけ変位させた場合を示す。
ここで、主共振器11aとして機能するパッチP1と、副共振器12aとして機能する表面側のパッチP2sと、が重なり合う領域をそれぞれパッチp21s、パッチp22s、パッチp23sおよびパッチp24sとする。
そして、この4つの領域(パッチp21、パッチp22、パッチp23、パッチp24)の縦、横の長さをそれぞれ‘a’とする。
したがって、この場合におけるこれらパッチp21s〜パッチp24sの面積Sは、それぞれa2である。
また、パッチP2bについても同様であり、パッチP1と、パッチP2bと、が重なり合う領域を、それぞれ面積S=a2(一辺=‘a’)を有したパッチp21b〜パッチp24bとする。
よって、図7(a)、および図7(b)に示すように表面および裏面のパッチP2sおよびパッチP2bの位置をパッチP1に対して変位させると、主共振器11aとして機能するパッチP1と前記キャパシタンスC’を形成するパッチp21〜パッチp24の面積Sが変化する。
具体的には、図7(a)であれば、パッチp21sおよびパッチp23sの面積Sは[(a−1)(a+1)]、パッチp22sの面積Sは[(a−1)2]、およびパッチp24sの面積Sは[(a+1)2]となり、図7(b)であれば、パッチp21bおよびパッチp22bの面積Sは[a(a+1)]、パッチp23bおよびパッチp24bの面積Sは[a(a−1)]となる。
したがって、前記構成の第3の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aによれば、主共振器11aの表面および裏面に配置されるパッチP2sおよびパッチP2bの位置を任意に変位させ、パッチP1と前記キャパシタンスC’を構成するパッチp21〜パッチp24の面積Sを変化させる。これにより、当該電磁界バンドストップフィルタ10Aの前記合成容量を可変とすることが出来る。
つまり、パッチP2sおよびパッチP2bの位置を変位させて主共振器11aとの重ね合わせ方を変えるだけで、電磁界バンドストップフィルタ10Aの合成容量が変化するため、主共振器11aの寸法を変えることなく共振周波数をフレキシブルに変化させることが出来る。
よって、反射したい目的の共振周波数を容易に設定することができる。
[第4の実施形態]
第3の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aでは、表面側および裏面側に配置したパッチP2sおよびパッチP2bの位置を任意の方向へ変位させ、当該パッチP2sおよびパッチP2bと、パッチP1と、の重ね合わせ方を変えることで共振周波数を変化させる構成とした。しかし、この構成では、垂直偏波と水平偏波との場合で共振周波数が一致しないことから、実用の観点からは不十分であるといった問題がある。
これに対して、第4の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aでは、主共振器11aの中心からパッチP2sおよびパッチP2bをそれぞれ相異なる方向に同じ距離だけ変位させる構成をとる。換言すれば、パッチP2sおよびパッチP2bを点対称に同じ距離だけ変位させる構成をとる。
図8は、前記電磁界バンドストップフィルタ10Aの第1領域を拡大した図である。
図8(a)は、副共振器12として機能する表面側のパッチP2sを中心点(x=y=0[mm])からx軸およびy軸方向にそれぞれ‘x’だけ変位させた場合を示し、図8(b)は、前記副共振器12として機能する裏面側のパッチP2bを中心点(x=y=0[mm])から前記表面側のパッチP2sとは点対称となるx軸およびy軸方向にそれぞれ‘x’だけ変位させた場合を示す。
また、図9および図10は、前記副共振器12aとして機能するパッチP2sおよびパッチP2bの変位量としてx軸およびy軸方向にそれぞれ‘x’(0[mm]、1[mm]、2[mm]、3[mm])ずつ移動させた際の、共振周波数[GHz]−透過特性(S21)を示した図である。
表面側のパッチP2sの4つの領域(パッチp21s、パッチp22s、パッチp23s、パッチp24s)の縦、横の長さはそれぞれ‘a’であるため、‘x’だけ変位させると、パッチp21sおよびパッチP23sの面積Sは(a+x)(a−x)、パッチp22sの面積Sは(a−x)2、パッチp24sの面積Sは(a+x)2となる。
同様に、裏面側の前記パッチP2bの4つの領域(パッチp21b、パッチp22b、パッチp23b、パッチp24b)の縦、横の長さもそれぞれ‘a’であるため、‘x’だけ変位させると、パッチp21bおよびパッチP23bの面積Sは(a+x)(a−x)、パッチp22bの面積Sは(a+x)2、パッチp24bの面積Sは(a−x)2となる。
したがって、主共振器11aとパッチp24sとで形成されるキャパシタンスC’1は、(ε/d)(a+x)2となる。また、主共振器11aとパッチp21sおよび主共振器11aとパッチp23sで形成されるキャパシタンスC’2は、(ε/d)(a+x)(a−x)となる。さらに、主共振器11aとパッチP22sとで形成されるキャパシタンスC’3は、(ε/d)(a−x)2となる。
同様に、主共振器11aとパッチp24bとで形成されるキャパシタンスC’1は、(ε/d)(a−x)2となる。また、主共振器11aとパッチp21bおよび主共振器11aとパッチp23bで形成されるキャパシタンスC’2は、(ε/d)(a+x)(a−x)となる。さらに、主共振器11aとパッチP22bとで形成されるキャパシタンスC’3は、(ε/d)(a+x)2となる。
なお、主共振器11aと副共振器12aとの間の誘電率をεと仮定する。
そして、前記図3(c)に示す等価回路に、前記キャパシタンスC’1、C’2、およびC’3の値を代入して算出すると合成容量Ctotalは、[C0+(ε/d)(a2−x2)]となる。ここでC0は、隣接する主共振器11a間に生じる電気容量である。
この値は、図8(b)に示すようにどの方向から(矢印1〜4)の入射電界であっても等しい。つまり、垂直偏波および水平偏波いずれの場合であっても共振周波数が一致することになる。
具体的には、垂直偏波および水平偏波のどちらの場合に対しても、変位量xに対して合成容量は、[(ε/d1)x2]だけ減少または増加する。
つまり、表面および裏面に重ね合わせたパッチP2sおよびパッチP2bを中心点(x=y=0[mm])から点対称にx軸およびy軸方向に同一の距離だけ変位させることで、垂直・水平偏波の共振周波数を等しく保った状態で共振周波数を変化させることができ、共振器の再設計が不要になる。
図9、図10に示すように、x軸およびy軸のそれぞれでパッチP2およびパッチP2bを点対称に変位させていくと、共振周波数が0.7[GHz]、0.8[GHz]、0.9[GHz]および1.05[GHz]へとフレキシブルにシフトさせることが出来る。
したがって、前記構成の電磁界バンドストップフィルタ10Aによれば、副共振器12aとして機能する表面および裏面のパッチP2sおよびパッチP2bを点対称に同一の距離だけ変位させる。
これにより、垂直・水平偏波の共振周波数を等しく保った状態で共振周波数を変化させることができ、共振器の再設計が不要になる。
[第5の実施形態]
第2の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10では、一辺の縮尺を、例えば1/2とした副共振器12aを実装することで、前記キャパシタンスC’の値を変えて共振周波数を選択可能とした。
また、第4の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aでは、主共振器11aの中心点(x=y=0[mm])から表面および裏面に配置された副共振器12aとして機能するパッチP2sおよびパッチP2bをそれぞれ点対称に同一の距離だけ変位させて共振周波数を選択可能な構成とした。
これに対して、第5の実施形態の電磁界バンドストップフィルタ10Aでは、前記第2の実施形態および第4の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aを組み合わせた構成とする。
図11は、例えば一辺の縮尺を1/2とした副共振器12aとして機能するパッチP2sおよびパッチP2bを、前記第4の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aのように主共振器11aの中心点([x=y=0[mm]])から点対称に‘x’(0[mm]、1[mm]、2[mm]、3[mm])だけ変位させた場合の平面図を示す図である。
図12〜図13は、パッチP2sおよびパッチP2bのそれぞれを点対称にx軸およびy軸方向に同一の距離だけ変位させた際の、共振周波数[GHz]−透過特性(S21)[dB]を示した図である。
前記パッチP2sおよびパッチP2bの変位量としてx軸およびy軸のそれぞれに対して‘x’(0[mm]、1[mm]、2[mm]、3[mm])ずつ移動させると、共振周波数が1.1[GHz]、1.15[GHz]、1.2[GHz]、および1.55[GHz]へとフレキシブルにシフトさせることが出来る。
したがって、前記構成の第5の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aによれば、一辺が縮尺されたパッチP2sおよびパッチP2bを点対称に同一の距離だけ変位させ、当該パッチP2sおよびパッチP2bとパッチP1とで構成されるキャパシタンスC’を可変させることで、水平・垂直偏波いずれの偏波にも対応させた状態で共振周波数をシフトさせる。
副共振器12の一辺の縮尺を一例としてlaの1/2としたが、例えば、1つの主共振器11aで構成されたパターンに対して異なる寸法の副共振器12aを複数種類用意し、その組み合わせと重ね合わせ方を変えるだけで主共振器11aの共振周波数帯を広帯域かつ高精度でフレキシブルにチューニングすることが可能となり、主共振器11aの再設計とパターンの寸法の変更が不要となる。
[第6の実施形態]
第5の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aでは、第2の実施形態および第4の実施形態を組み合わせた構成とした。
図14は、第6の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aであり、パターンAおよびパターンBのパッチP2をそれぞれ主共振器11aの第1領域上に配置した場合における、共振周波数[GHz]−透過特性(S21)[dB]を示す図である。
この第6の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aは、図14(a)に示す一辺がlAの副共振器12aとして機能するパッチP2(S=10[mm2])を4個のパッチP1が向かい合う第1領域上に配置したパターンAの電磁界バンドストップフィルタ10Aと、図14(c)に示す一辺がlBの副共振器12aとして機能するパッチP2(S=8[mm2])を4個のパッチP1が向かい合う第1領域上に配置したパターンBの電磁界バンドストップフィルタ10Aと、を交互に配置して構成する。
図15は、図14(a)および図14(c)に示す前記パターンAおよび前記パターンBの副共振器12aとして機能するパッチP2を第1領域上に交互に周期配列した場合を示した平面図である。図16は、前記周期配列に応じた周波数[GHz]−透過特性(S21)[dB]を示した図である。
ここで、パターンBのパッチP2の一辺の長さlBは、パターンAのパッチP2の一辺の長さlAに対して10%以上短いものとする。
図14(b)に示すように、パターンAでは、その共振周波数はfA[GHz]である。
また、図14(d)に示すように、パターンBでは、その共振周波数はfB[GHz]である。なお、共振周波数fA≠共振周波数fBである。
そして、図15に示すように、前記パターンAおよび前記パターンBとなる副共振器12aとして機能するパッチP2を交互に周期配列すると、電磁界バンドストップフィルタ10Aでの共振周波数[GHz]−透過特性(S21)[dB]は、図16に示すように前記共振周波数fA(=1.15[GHz])と共振周波数fB(=2.55[GHz])との2箇所にて減衰した透過特性(S21)が得られる。
したがって、前記構成の第6の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aによれば、各々の単位セル1を周期配列することで構成される4個のパッチP1が向かい合う第1領域の表面および裏面に、副共振器12aとして機能するパターンAのパッチP2と、このパターンAのパッチP2の一辺に対して10%以上の長さだけ短い一辺を有するパターンBのパッチP2とを交互に配置することで異なる共振周波数を得ることができる。
これにより、パターンAのパッチP2の一辺の長さlAおよびパターンBのパッチP2の一辺の長さlBをそれぞれ可変とすることで異なる共振周波数fAおよび共振周波数fBを自由にシフトさせることができることから、容易に目的とする放射ノイズの周波数を反射することができる。
なお、パターンAまたはパターンBの2つに限らず、例えばパターンが3つや4つであってもよい。これにより、共振周波数帯を3つや4つに増やすこともできる。
さらに、第6の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aに、前記第4の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aを組み合わせることで、水平・垂直偏波いずれの偏波にも対応させた状態で共振周波数を変化させることができる。
つまり、第6の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10AのパターンAとパターンBの副共振器12aとして機能するパッチP2のそれぞれを、x軸、y軸に対して点対称に、例えば‘x’[mm]ずつ変位させることで、水平・垂直偏波いずれの偏波にも対応させた状態でよりフレキシブルに共振周波数帯を変化させることができる。なお、この場合では主共振器11aと副共振器12aとの配列周期が等しい状態を満たすことを条件とする。
[第7の実施形態]
第6の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aでは、一辺の長さがlAのパターンAの副共振器12と、この一辺の長さlAに対して10%以上短くしたパターンB(一辺がlB)の副共振器12と、を主共振器11aの第1領域上に交互に配置することで、例えば2つの共振周波数帯を得る構成とした。
これに対して、第7の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aでは、前記パターンBに代えて、一辺をlAに対して10%未満で短くしたlCとする副共振器12aとして機能するパッチP2(S=9.3[mm2])を、4個のパッチP1が向かい合う第1領域上に配置したパターンCの電磁界バンドストップフィルタ10Aと、前記パターンAの電磁界バンドストップフィルタ10Aと、を交互に配列して、共振周波数を広帯域化する構成とする。
すなわち、前記パターンAおよびパターンCの副共振器12aとして機能するパッチP2の一辺の長さlAおよびlCの差を近づけることで、両者の共振周波数を近づけ、広帯域化させる構成とする。
図17は、第7の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aであり、前記パターンAおよびパターンCの副共振器12aとして機能するパッチP2をそれぞれ主共振器11aの第1領域上に配置した場合における、共振周波数[GHz]−透過特性(S21)[dB]を示す図である。
具体的には、図17(a)および図17(c)に示すように、前記パターンAおよび前記パターンCの副共振器12aとして機能するパッチP2をそれぞれ交互に周期配置することで、図17(b)および図17(d)に示すような、これらパターンAおよびパターンCのそれぞれに対応した共振周波数−透過特性(S21)[dB]を得ることが出来る。
また図17(e)は、前記パターンAおよびパターンCの副共振器12aとして機能するパッチP2を第1領域上に交互に周期配列した場合に想定される共振周波数−透過特性(S21)[dB]を示す。
図18は、前記パターンAおよび前記パターンCの副共振器12a機能するパッチP2を主共振器11aの第1領域上に交互に周期配列した様子を示す平面図である。
図19は、前記周期配列に応じた共振周波数[GHz]−透過特性(S21)[dB]特性を示した図である。
まず、図17(b)に示すように、パターンAのパッチP2を配置した場合における共振周波数は、fA[GHz]である。
また、図17(d)に示すように、パターンCのパッチP2を配置した場合における共振周波数は、fC[GHz]である。
したがって、前記第6の実施形態と同様に、パターンAおよびパターンCの副共振器12aとして機能するパッチP2を交互に周期配置すれば、図17(e)に示すように、それぞれ共振周波数fAおよびfCが重ね合わせされ、共振周波数帯が広帯域化することが考えられる。
その結果、図18に示すように、前記パターンAおよび前記パターンCの副共振器12a機能するパッチP2を交互に配列すると、図19(a)に示すように前記共振周波数fAと共振周波数fCとの重ね合わせることによって共振周波数を広帯域化できる。
具体的には、パターンAとパターンCとを組み合わせて配置した場合における−20[dB]での周波数の帯域幅はw1=0.45[GHz]に対して、図19(b)に示すようにパターンAのみであると、前記−20[dB]での帯域幅はw2=0.4[GHz]である。このように、パターンAおよびパターンCの副共振器12aとして機能するパッチP2を組み合わせることにより帯域幅が広帯域化していることが分かる。
したがって、前記構成の第7の実施形態に係る電磁界バンドストップフィルタ10Aによれば、各々の単位セル1を周期配列することで構成された4個のパッチP1が向かい合う第1領域の表面および裏面に、副共振器12aとして機能するパターンAのパッチP2と、このパターンAの一辺に対して一辺が10%以内の長さを有するパターンCのパッチP2と、を交互に配置することで共振周波数帯を広域化することができ、容易に目的とする放射ノイズの周波数を反射することができる。
また、前記パターンAに対して、パターンBおよびパターンCの副共振器12を用意することで、例えば、最大2〜3[GHz]の周波数範囲内であれば、電磁界バンドストップフィルタ10Aの寸法を変えずに共振周波数をコントロールすることができる。
なお、前記各実施形態にて説明した副共振器12の種類(例えば正四角形などの形状)、配列パターン、およびその重ね合わせ方を組み合わせた複数種類の電磁界バンドストップフィルタ10を予め設計して、データベース化しておくことで、詳細なアンテナ設計技術に精通していない者でも、目的の共振周波数を有するFSSを簡単に作製することができる。
すなわち、放射ノイズや無線干渉による故障・誤動作や通信障害の対応を行う現場作業者が、現場で電波強度を測定しその状態を把握したときに、その状態に合わせた電磁界バンドストップフィルタ10をその場で作製し即時対応することが可能となる。
よって従来の現場調査と故障対応までのラグを解消し、故障対応に用意する周波数帯ごとの対策品のコストを大幅に削減することができる。
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。さらに、前記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されたり、幾つかの構成要件が異なる形態にして組み合わされても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除されたり組み合わされた構成が発明として抽出され得るものである。