以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
<第一の実施の形態>
一実施の形態における鉄道車両用制振装置V1は、鉄道車両の車体Bの制振装置として使用され、図1に示すように、車体Bと台車Tとの間に対として介装されるアクチュエータAと、アクチュエータAを制御するコントローラC1とを備えて構成されている。アクチュエータAは、詳細には、鉄道車両の場合、車体Bの下方に垂下されるピンPに連結され、車体Bと台車Tとの間で対を成して並列に介装されている。台車Tは、車輪Wを回転自在に保持しており、車体Bと台車Tとの間には、ばねS,Sが介装され、車体Bが弾性支持されることにより、台車Tに対する車体Bの横方向への移動が許容されている。
そして、これらのアクチュエータAは、基本的には、アクティブ制御で車体Bの車両進行方向に対して水平横方向の振動を抑制するようになっている。コントローラC1は、アクチュエータAを制御して前記車体Bの横方向の振動を抑制するようになっている。
コントローラC1は、本例にあっては、車体Bの振動を抑制する制御を行う際に、車体Bの車両進行方向に対して水平横方向の横方向加速度αを検知する。そして、コントローラC1は、横方向加速度αに基づいて、アクチュエータAが発生すべき制御力Fを求め、各アクチュエータAに制御力F通りの推力を発生させて車体Bの前記横方向の振動を抑制する。
つづいて、アクチュエータAの具体的な構成について説明する。これらアクチュエータAは、共に同じ構成である。なお、図示したところでは、アクチュエータAが台車Tに対して二つずつ設けられているが、一つのみを設けてもよい。また、各アクチュエータAに対して一つずつコントローラC1を設けてもよい。
アクチュエータAは、本例では図2に示すように、鉄道車両の車体Bと台車Tの一方に連結されるシリンダ2と、シリンダ2内に摺動自在に挿入されるピストン3と、シリンダ2内に挿入されてピストン3と、車体Bと台車Tの他方に連結されるロッド4と、シリンダ2内にピストン3で区画したロッド側室5とピストン側室6とを備えて伸縮可能なシリンダ装置Cyに加え、作動油を貯留するタンク7と、タンク7から作動油を吸い上げてロッド側室5へ作動油を供給可能なポンプ12と、ポンプ12を駆動するモータ15と、シリンダ装置Cyの伸縮の切換と推力を制御する液圧回路HCとを備えており、片ロッド型のアクチュエータとして構成されている。
また、前記ロッド側室5とピストン側室6には、本例では、作動液体として作動油が充填されるとともに、タンク7には、作動油の他に気体が充填されている。なお、タンク7内は、特に、気体を圧縮して充填して加圧状態とする必要は無い。また、作動液体は、作動油以外にも他の液体を利用してもよい。
液圧回路HCは、ロッド側室5とピストン側室6とを連通する第一通路8の途中に設けた第一開閉弁9と、ピストン側室6とタンク7とを連通する第二通路10の途中に設けた第二開閉弁11とを備えている。
そして、基本的には、第一開閉弁9で第一通路8を連通状態とし、第二開閉弁11を閉じてポンプ12を駆動すると、シリンダ装置Cyが伸長し、第二開閉弁11で第二通路10を連通状態とし、第一開閉弁9を閉じてポンプ12を駆動すると、シリンダ装置Cyが収縮する。
以下、アクチュエータAの各部について詳細に説明する。シリンダ2は筒状であって、その図2中右端は蓋13によって閉塞され、図2中左端には環状のロッドガイド14が取り付けられている。また、前記ロッドガイド14内には、シリンダ2内に移動自在に挿入されるロッド4が摺動自在に挿入されている。このロッド4は、一端をシリンダ2外へ突出させており、シリンダ2内の他端をシリンダ2内に摺動自在に挿入されるピストン3に連結している。
なお、ロッドガイド14の外周とシリンダ2との間は図示を省略したシール部材によってシールされており、これによりシリンダ2内は密閉状態に維持されている。そして、シリンダ2内にピストン3によって区画されるロッド側室5とピストン側室6には、前述のように作動油が充填されている。
また、このシリンダ装置Cyの場合、ロッド4の断面積をピストン3の断面積の二分の一にして、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積がピストン側室6側の受圧面積の二分の一となるようになっている。よって、伸長作動時と収縮作動時とでロッド側室5の圧力を同じにすると、伸縮の双方で発生される推力が等しくなり、シリンダ装置Cyの変位量に対する作動油量も伸縮両側で同じとなる。
詳しくは、シリンダ装置Cyを伸長作動させる場合、ロッド側室5とピストン側室6を連通させた状態とする。すると、ロッド側室5内とピストン側室6内の圧力が等しくなり、アクチュエータAは、ピストン3におけるロッド側室5側とピストン側室6側の受圧面積差に前記圧力を乗じた推力を発生する。反対に、シリンダ装置Cyを収縮作動させる場合、ロッド側室5とピストン側室6との連通を断ちピストン側室6をタンク7に連通させた状態とする。すると、アクチュエータAは、ロッド側室5内の圧力とピストン3におけるロッド側室5側の受圧面積を乗じた推力を発生する。
要するに、アクチュエータAの発生推力は伸縮の双方でピストン3の断面積の二分の一にロッド側室5の圧力を乗じた値となるのである。したがって、このアクチュエータAの推力を制御する場合、伸長作動、収縮作動共に、ロッド側室5の圧力を制御すればよい。また、本例のアクチュエータAでは、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積をピストン側室6側の受圧面積の二分の一に設定しているので、伸縮両側で同じ推力を発生する場合に伸長側と収縮側でロッド側室5の圧力が同じとなるので制御が簡素となる。加えて、変位量に対する作動油量も同じとなるので伸縮両側で応答性が同じとなる利点がある。なお、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積をピストン側室6側の受圧面積の二分の一に設定しない場合にあっても、ロッド側室5の圧力でアクチュエータAの伸縮両側の推力を制御できる点は変わらない。
戻って、ロッド4の図2中左端とシリンダ2の右端を閉塞する蓋13とには、図示しない取付部を備えており、このアクチュエータAを鉄道車両における車体Bと台車Tとの間に介装できるようになっている。
そして、ロッド側室5とピストン側室6とは、第一通路8によって連通されており、この第一通路8の途中には、第一開閉弁9が設けられている。この第一通路8は、シリンダ2外でロッド側室5とピストン側室6とを連通しているが、ピストン3に設けられてもよい。
第一開閉弁9は、電磁開閉弁とされており、第一通路8を開放してロッド側室5とピストン側室6とを連通する連通ポジションと、第一通路8を遮断してロッド側室5とピストン側室6との連通を断つ遮断ポジションとを備えている。そして、この第一開閉弁9は、通電時に連通ポジションを採り、非通電時に遮断ポジションを採るようになっている。
つづいて、ピストン側室6とタンク7とは、第二通路10によって連通されており、この第二通路10の途中には、第二開閉弁11が設けられている。第二開閉弁11は、電磁開閉弁とされており、第二通路10を開放してピストン側室6とタンク7とを連通する連通ポジションと、第二通路10を遮断してピストン側室6とタンク7との連通を断つ遮断ポジションとを備えている。そして、この第二開閉弁11は、通電時に連通ポジションを採り、非通電時に遮断ポジションを採るようになっている。
ポンプ12は、コントローラC1に制御されて所定の回転数で回転するモータ15によって駆動され、一方向のみに作動油を吐出するポンプとされている。そして、ポンプ12の吐出口は供給通路16によってロッド側室5へ連通されるとともに吸込口はタンク7に通じていて、ポンプ12は、モータ15によって駆動されるとタンク7から作動油を吸込んでロッド側室5へ作動油を供給する。
前述のようにポンプ12は、一方向のみに作動油を吐出するのみで回転方向の切換動作がないので、回転切換時に吐出量が変化するといった問題は皆無であり、安価なギアポンプ等を使用できる。さらに、ポンプ12の回転方向が常に同一方向であるので、ポンプ12を駆動する駆動源であるモータ15にあっても回転切換に対する高い応答性が要求されず、その分、モータ15も安価なものを使用できる。なお、供給通路16の途中には、ロッド側室5からポンプ12への作動油の逆流を阻止する逆止弁17が設けられている。
さらに、本例の液圧回路HCは、前述の構成に加えて、ロッド側室5とタンク7とを接続する排出通路21と、排出通路21の途中に設けた開弁圧を変更可能な可変リリーフ弁22を備えている。
可変リリーフ弁22は、本例では、比例電磁リリーフ弁とされており、供給される電流量に応じて開弁圧を調節でき、前記電流量が最大となると開弁圧を最小とし、電流の供給がないと開弁圧を最大とするようになっている。
このように、排出通路21と可変リリーフ弁22とを設けると、シリンダ装置Cyを伸縮作動させる際に、ロッド側室5内の圧力を可変リリーフ弁22の開弁圧に調節でき、アクチュエータAの推力を可変リリーフ弁22へ供給する電流量で制御できる。排出通路21と可変リリーフ弁22とを設けると、アクチュエータAの推力を調節するために必要なセンサ類が不要となり、ポンプ12の吐出流量の調節のためにモータ15を高度に制御する必要もなくなる。よって、鉄道車両用制振装置V1が安価となり、ハードウェア的にもソフトウェア的にも堅牢なシステムを構築できる。
なお、第一開閉弁9を開いて第二開閉弁11を閉じる場合或いは第一開閉弁9を閉じて第二開閉弁11を開く場合、ポンプ12の駆動状況に関わらず、外力からの振動入力に対して伸長或いは収縮のいずれか一方にのみアクチュエータAが減衰力を発揮できる。よって、たとえば、減衰力を発揮する方向が鉄道車両の台車Tの振動により車体Bを加振する方向である場合、そのような方向には減衰力を出さないようにアクチュエータAを片効きのダンパと機能させ得る。よって、このアクチュエータAは、カルノップのスカイフック理論に基づくセミアクティブ制御を容易に実現できるため、セミアクティブダンパとしても機能できる。
なお、可変リリーフ弁22に与える電流量で開弁圧を比例的に変化させる比例電磁リリーフ弁を用いると開弁圧の制御が簡単となるが、開弁圧を調節できる可変リリーフ弁であれば比例電磁リリーフ弁に限定されない。
そして、可変リリーフ弁22は、第一開閉弁9および第二開閉弁11の開閉状態に関わらず、シリンダ装置Cyに伸縮方向の過大な入力があって、ロッド側室5の圧力が開弁圧を超える状態となると、排出通路21を開放する。このように、可変リリーフ弁22は、ロッド側室5の圧力が開弁圧以上となると、ロッド側室5内の圧力をタンク7へ排出するので、シリンダ2内の圧力が過大となるのを防止してアクチュエータAのシステム全体を保護する。よって、排出通路21と可変リリーフ弁22を設けると、システムの保護も可能となる。
さらに、本例のアクチュエータAにおける液圧回路HCは、ピストン側室6からロッド側室5へ向かう作動油の流れのみを許容する整流通路18と、タンク7からピストン側室6へ向かう作動油の流れのみを許容する吸込通路19を備えている。よって、本例のアクチュエータAでは、第一開閉弁9および第二開閉弁11が閉弁する状態でシリンダ装置Cyが伸縮すると、シリンダ2内から作動油が押し出される。シリンダ2内から排出された作動油の流れに対して可変リリーフ弁22が抵抗を与えるので、第一開閉弁9および第二開閉弁11が閉弁する状態では、本例のアクチュエータAはユニフロー型のダンパとして機能する。
より詳細には、整流通路18は、ピストン側室6とロッド側室5とを連通しており、途中に逆止弁18aが設けられ、ピストン側室6からロッド側室5へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。さらに、吸込通路19は、タンク7とピストン側室6とを連通しており、途中に逆止弁19aが設けられ、タンク7からピストン側室6へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。なお、整流通路18は、第一開閉弁9の遮断ポジションを逆止弁とすると第一通路8に集約でき、吸込通路19についても、第二開閉弁11の遮断ポジションを逆止弁とすると第二通路10に集約できる。
このように構成されたアクチュエータAでは、第一開閉弁9と第二開閉弁11がともに遮断ポジションを採っても、整流通路18、吸込通路19および排出通路21で、ロッド側室5、ピストン側室6およびタンク7を数珠繋ぎに連通させる。また、整流通路18、吸込通路19および排出通路21は、一方通行の通路に設定されている。よって、シリンダ装置Cyが外力によって伸縮すると、シリンダ2から必ず作動油が排出されて排出通路21を介してタンク7へ戻され、シリンダ2で足りなくなる作動油は吸込通路19を介してタンク7からシリンダ2内へ供給される。この作動油の流れに対して前記可変リリーフ弁22が抵抗となってシリンダ2内の圧力を開弁圧に調節するので、アクチュエータAは、パッシブなユニフロー型のダンパとして機能する。
また、アクチュエータAの各機器への通電が不能となるようなフェール時には、第一開閉弁9と第二開閉弁11のそれぞれが遮断ポジションを採り、可変リリーフ弁22は、開弁圧が最大に固定された圧力制御弁として機能する。よって、このようなフェール時には、アクチュエータAは、自動的に、パッシブダンパとして機能する。
つづいて、アクチュエータAに所望の伸長方向の推力を発揮させる場合、コントローラC1は、基本的には、モータ15を回転させてポンプ12からシリンダ2内へ作動油を供給しつつ、第一開閉弁9を連通ポジションとし、第二開閉弁11を遮断ポジションとする。このようにすると、ロッド側室5とピストン側室6とが連通状態におかれて両者にポンプ12から作動油が供給され、ピストン3が図2中左方へ押されアクチュエータAは伸長方向の推力を発揮する。ロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力が可変リリーフ弁22の開弁圧を上回ると、可変リリーフ弁22が開弁して作動油が排出通路21を介してタンク7へ排出される。よって、ロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力は、可変リリーフ弁22に与える電流量で決まる可変リリーフ弁22の開弁圧にコントロールされる。そして、アクチュエータAは、ピストン3におけるピストン側室6側とロッド側室5側の受圧面積差に可変リリーフ弁22によってコントロールされるロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力を乗じた値の伸長方向の推力を発揮する。
これに対して、アクチュエータAに所望の収縮方向の推力を発揮させる場合、コントローラC1は、モータ15を回転させてポンプ12からロッド側室5内へ作動油を供給しつつ、第一開閉弁9を遮断ポジションとし、第二開閉弁11を連通ポジションとする。このようにすると、ピストン側室6とタンク7が連通状態におかれるとともにロッド側室5にポンプ12から作動油が供給されるので、ピストン3が図2中右方へ押されアクチュエータAは収縮方向の推力を発揮する。そして、前述と同様に、可変リリーフ弁22の電流量を調節すると、アクチュエータAは、ピストン3におけるロッド側室5側の受圧面積と可変リリーフ弁22にコントロールされるロッド側室5内の圧力を乗じた収縮方向の推力を発揮する。
ここで、アクチュエータAが外力で伸縮するのではなく、自ら伸縮する場合、ロッド側室5の圧力の上限は、モータ15が駆動するポンプ12の吐出圧に制限される。つまり、アクチュエータAが外力で伸縮するのではなく、自ら伸縮する場合、ロッド側室5の圧力の上限は、モータ15が出力可能な最大トルクに制限される。
また、アクチュエータAにあっては、アクチュエータとして機能するのみならず、モータ15の駆動状況に関わらず、第一開閉弁9と第二開閉弁11の開閉のみでダンパとしても機能できる。また、アクチュエータAをアクチュエータからダンパへ切換える際に、面倒かつ急峻な第一開閉弁9と第二開閉弁11の切換動作を伴わないので、応答性および信頼性が高いシステムを提供できる。
なお、本例のアクチュエータAにあっては、片ロッド型に設定されているので、両ロッド型のアクチュエータに比較してストローク長を確保しやすく、アクチュエータの全長が短くなって、鉄道車両への搭載性が向上する。
また、本例のアクチュエータAにおけるポンプ12からの作動油供給および伸縮作動による作動油の流れは、ロッド側室5、ピストン側室6を順に通過して最終的にタンク7へ還流するようになっている。そのため、ロッド側室5あるいはピストン側室6内に気体が混入しても、シリンダ装置Cyの伸縮作動によって自立的にタンク7へ排出されるので、推力発生の応答性の悪化を阻止できる。したがって、アクチュエータAの製造にあたって、面倒な油中での組立や真空環境下での組立を強いられず、作動油の高度な脱気も不要となるので、生産性が向上するとともに製造コストを低減できる。さらに、ロッド側室5あるいはピストン側室6内に気体が混入しても、気体は、シリンダ装置Cyの伸縮作動によって自立的にタンク7へ排出されるので、性能回復のためのメンテナンスを頻繁に行う必要もなくなり、保守面における労力とコスト負担を軽減できる。
つづいて、コントローラC1は、図3に示すように、車体Bの横方向加速度αを検知する加速度センサ40と、アクチュエータAが出力すべき制御力Fを求める制御演算部42と、制御力Fに基づいてモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11、可変リリーフ弁22を駆動する駆動部43とを備えている。
加速度センサ40は、図1中で右側へ向く方向となる場合に、横方向加速度αを正の値として検知し、反対に図1中左側へ向く方向となる場合に負の値とをして検知する。
制御演算部42は、図4に示すように、車体Bの振動を抑制する抑制力fを求める抑制力演算部421と、車体Bを中立位置へ戻す方向のセンタリング力fnを求めるセンタリング力演算部422と、鉄道車両が曲線区間を走行中であるか否かを判定する曲線区間判定部423と、ゲイン変更部424と、各アクチュエータAが発揮すべき制御力Fを求める制御力演算部425とを備えている。
抑制力演算部421は、図5に示すように、横方向加速度αを濾波する直線区間用バンドパスフィルタ4211と、横方向加速度αを濾波する曲線区間用バンドパスフィルタ4212と、直線区間用制御部4213と、曲線区間用制御部4214と、直線区間用制御部4213が求めた直線区間用の抑制力fsに直線区間用ゲインGsを乗じるゲイン乗算部4215と、曲線区間用制御部4214が求めた曲線区間用の抑制力fcに曲線区間用ゲインGcを乗じるゲイン乗算部4216と、最終的な抑制力fを求める加算部4217とを備えている。
直線区間用バンドパスフィルタ4211は、横方向加速度αにおける鉄道車両が直線区間を走行する際の車体Bの共振周波数帯の成分を抽出する目的で設けられている。台車Tによって弾性支持される車体Bは、直線区間走行時には車体Bの台車Tに対する横方向の移動を制限範囲に規制するストッパ(図示せず)に通常は接触しないので、車体Bの共振周波数は1Hzから1.5Hzまでの間にある。よって、直線区間用バンドパスフィルタ4211は、横方向加速度αを濾波して横方向加速度αに含まれる1Hzから1.5Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
曲線区間用バンドパスフィルタ4212は、横方向加速度αにおける鉄道車両が曲線区間を走行する際の車体Bの共振周波数帯の成分を抽出する目的で設けられている。曲線区間走行時には、車体Bの前記ストッパへの接触が想定され、車体Bの共振周波数は、ストッパに接触する分、直線区間走行時よりも高くなり、2Hzから3Hzまでの間にある。よって、曲線区間用バンドパスフィルタ4212は、横方向加速度αを濾波して横方向加速度αに含まれる2Hzから3Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
直線区間用制御部4213は、H∞制御器とされており、直線区間用バンドパスフィルタ4211が抽出した横方向加速度αの共振周波数帯の成分から車体Bの横方向の振動を抑制する直線区間用の抑制力fsを演算する。直線区間用バンドパスフィルタ4211が抽出した横方向加速度αの共振周波数帯の成分は、直線区間走行時における車体Bの共振周波数帯の振動加速度である。したがって、直線区間用制御部4213が求める直線区間用の抑制力fsは、直線区間走行時における車体Bの横方向の振動の抑制に適する抑制力となる。
曲線区間用制御部4214は、H∞制御器とされており、曲線区間用バンドパスフィルタ4212が抽出した横方向加速度αの共振周波数帯の成分から車体Bの横方向を抑制する曲線区間用の抑制力fcを演算する。曲線区間用バンドパスフィルタ4212が抽出した横方向加速度αの共振周波数帯の成分は、曲線区間走行時における車体Bの横方向の共振周波数帯の振動加速度である。したがって、曲線区間用制御部4214が求める曲線区間用の抑制力fcは、曲線区間走行時における車体Bの横方向の振動の抑制に適する抑制力となる。
ゲイン乗算部4215は、直線区間用制御部4213が求めた直線区間用の抑制力fsに直線区間用ゲインGsを乗じて出力する。ゲイン乗算部4216は、曲線区間用制御部4214が求めた曲線区間用の抑制力fcに曲線区間用ゲインGcを乗じて出力する。
直線区間用ゲインGsは、図6に示すように、曲線区間判定部423が鉄道車両が直線区間を走行中であると判定すると値を1とし、曲線区間判定部423によって鉄道車両が曲線区間を走行中であると判定すると値を0とする。直線区間用ゲインGsの値は、鉄道車両の走行区間が直線区間から曲線区間へ切換わると、時間の経過とともに1から徐々に低下して0へ変更される。直線区間用ゲインGsの値は、図示はしないが鉄道車両の走行区間が曲線区間から直線区間へ切換わると、時間の経過とともに0から徐々に増加して1へ変更される。反対に、曲線区間用ゲインGcは、図6に示すように、曲線区間判定部423が鉄道車両が直線区間を走行中であると判定すると値を0とし、曲線区間判定部423によって鉄道車両が曲線区間を走行中であると判定すると値を1とする。そして、曲線区間用ゲインGcの値は、鉄道車両の走行区間が直線区間から曲線区間へ切換わると、時間の経過とともに0から徐々に増加して1へ変更される。曲線区間用ゲインGcの値は、図示はしないが鉄道車両の走行区間が曲線区間から直線区間へ切換わると、時間の経過とともに1から徐々に低下して0へ変更される。また、直線区間用ゲインGsと曲線区間用ゲインGcの値の合計は、常に1とされており、0から1へ或いは1から0へ変化する途中でも両者の合計値は1となるように設定される。なお、両ゲインGs,Gcの値の前記変化に要する時間は、任意に設定可能である。
そして、加算部4217は、抑制力fsに直線区間用ゲインGsを乗じた値fs・Gsと、曲線区間用ゲインGcを乗じた値fc・Gcとを加算して最終的な抑制力fを求める。よって、抑制力fは、基本的には、鉄道車両が直線区間を走行中の場合には直線区間用の抑制力fsとなり、鉄道車両が曲線区間を走行中の場合には曲線区間用の抑制力fcとなる。つまり、直線区間用ゲインGsと曲線区間用ゲインGcは、直線区間に適する直線区間用の抑制力fsと曲線区間に適する曲線区間用の抑制力fcとのいずれかを抑制力fとして選択するための係数となっている。また、直線区間用の抑制力fsと曲線区間用の抑制力fcの切換えに際して、直線区間用ゲインGsと曲線区間用ゲインGcとの値の合計は常に1となるので、抑制力fが過少や過大とならず、制御が不安定にならずに済む。
センタリング力演算部422は、図7に示すように、横方向加速度αを濾波するローパスフィルタ4221と、濾波された横方向加速度αからセンタリング力fnを求めるセンタリング力算出部4222と、センタリング力fnにセンタリング力ゲインGnを乗じるゲイン乗算部4223とを備えている。センタリング力fnは、車体Bを台車Tの中央である中立位置へ戻す力であり、曲線区間走行時に車体Bに作用する遠心加速度に起因する車体Bの台車Tに対する偏りを抑制する力である。
ローパスフィルタ4221は、横方向加速度αを濾波して横方向加速度αに含まれる定常加速度αcを抽出する。具体的には、ローパスフィルタ4221のカットオフ周波数は0.3Hz程度に設定されており、横方向加速度αに含まれる0.3Hz以下の成分を抽出できる。定常加速度αcは、鉄道車両が曲線区間を走行する際に車体Bに作用する遠心力に起因する横方向の加速度である。よって、ローパスフィルタ4221で横方向加速度αを濾波すれば、定常加速度αcを抽出できる。
ここで、定常加速度をαc、鉄道車両が曲線区間を走行する際に許容される定常加速度の最大値をαcmax、モータ15が定格トルクでポンプ12を駆動する際にアクチュエータAが出力可能な力の最大値をftmaxとする。すると、センタリング力算出部4222は、定常加速度をαcからセンタリング力fnを次式fn=αc×ftmax/αcmaxを演算して求める。なお、定常加速度αcがαcmaxを超える場合、定常加速度αcの値をαcmaxに制限する。よって、センタリング力fnの上限は、モータ15が定格トルクでポンプ12を駆動する際にアクチュエータAが発揮可能な力の最大値とされる。なお、定常加速度αcの最大値αcmaxは、予め決められている値である。
ゲイン乗算部4223は、センタリング力fnにセンタリング力ゲインGnを乗じて出力する。ゲイン乗算部4223は、定常加速度αcの絶対値がセンタリング閾値α1以上であるとセンタリング力ゲインGnを1とし、定常加速度αcの絶対値がセンタリング閾値α1未満であるとセンタリング力ゲインGnを0とする。ゲイン乗算部4223は、定常加速度αcの絶対値がセンタリング閾値α1の値を跨いで上昇する場面においては、時間の経過とともに、センタリング力ゲインGnを0から徐々に増加させて1へ変更する。また、ゲイン乗算部4223は、定常加速度αcの絶対値がセンタリング閾値α1の値を跨いで下降する場面においては、時間の経過とともに、センタリング力ゲインGnを1から徐々に減少させて0へ変更する。このように、ゲイン乗算部4223は、前述のようにセンタリング力ゲインGnの値を変化させてセンタリング力fnに乗じる。
曲線区間判定部423は、ローパスフィルタ4221が出力する定常加速度αcの絶対値と曲線判定閾値α2とを比較して定常加速度αcの絶対値が曲線判定閾値α2以上となると鉄道車両の走行区間を曲線区間と判定する。逆に、曲線区間判定部423は、定常加速度αcの絶対値が曲線判定閾値α2未満となると鉄道車両の走行区間を直線区間と判定する。なお、本例では、曲線判定閾値α2は、センタリング閾値α1よりも大きな値に設定されている。
曲線区間判定部423の判定結果は、ゲイン変更部424に入力され、ゲイン変更部424は、判定結果に基づいて前述の直線区間用ゲインGsと曲線区間用ゲインGcの値を変更する。ゲイン変更部424の各ゲインGs,Gcの変更の仕方は、前述の通りである。つまり、鉄道車両の走行区間が直線区間から曲線区間へ切換わると、時間の経過とともに、直線区間用ゲインGsについては値を1から徐々に低下させて0へ変更し、曲線区間用ゲインGcについては値を0から徐々に増加させて1へ変更する。また、ゲイン変更部424は、鉄道車両の走行区間が曲線区間から直線区間へ切換わると、時間の経過とともに、直線区間用ゲインGsについては値を0から徐々に増加させて1へ変更し、曲線区間用ゲインGcについては値を1から徐々に低下させて0へ変更する。また、ゲイン変更部424は、前述したように各ゲインGs,Gcの総和が常に1となるように変更し、両ゲインGs,Gcの値の前記変化に要する時間は、任意に設定される。
制御力演算部425は、図8に示したように、抑制力fとセンタリング力fnにセンタリング力ゲインGnを乗じた値fn・GnとからアクチュエータAの制御力Fを求める制御力算出部4251と、リミッタ4252とを備えている。
制御力算出部4251は、抑制力fとセンタリング力fnにセンタリング力ゲインGnを乗じた値fn・Gnとを加算してアクチュエータAの制御力Fを求める。このようにして制御力Fが求められると、鉄道車両の走行区間が直線区間から曲線区間に遷移する場合には、ゲインGs,Gcの変化によって、直線区間用の抑制力fsがフェードアウトしつつ曲線区間用の抑制力fcがフェードインして両者が切換わる。また、このようにして制御力Fが求められると、鉄道車両の走行区間が曲線区間から直線区間に遷移する場合には、ゲインGs,Gcの変化によって、曲線区間用の抑制力fcがフェードアウトしつつ直線区間用の抑制力fsがフェードインして両者が切換わる。また、センタリング力fnが必要な際には、センタリング力fnを最終的な制御力Fにフェードインさせ得る。さらに、センタリング力fnが不要な際には、センタリング力fnを最終的な制御力Fからフェードアウトさせ得る。
なお、曲線判定閾値α2は、センタリング閾値α1よりも大きな値に設定されているので、鉄道車両の走行区間が直線区間から曲線区間に遷移すると、直線区間に適した抑制力fsから曲線区間に適した抑制力fcへ切換わる前に、センタリング力fnが制御力Fにフェードインする。そのため、鉄道車両が曲線区間に差し掛かると直ちにセンタリング力fnが発揮されて、車体Bのスエーを抑制でき、車体Bが図示しないストッパを最圧縮させてしまう事態を効果的に防止できる。また、曲線区間の入口では、アクチュエータAに直線区間に適した抑制力fsを発揮した方が乗心地が良となることが分かっている。曲線判定閾値α2をセンタリング閾値α1より大きくして鉄道車両の走行区間が完全に曲線区間であると判定できる値に設定しているので、直線区間に適した抑制力fsを曲線区間の入口で発揮でき、乗心地を向上できる。
また、前述ように制御力Fを求めると、鉄道車両の走行区間が曲線区間から直線区間に遷移すると、センタリング力fnが制御力Fからフェードアウトする。また、制御力Fの内訳の抑制力についても、曲線区間に適した抑制力fcから直線区間に適した抑制力fsに切換わる。前述のように、曲線判定閾値α2は、センタリング閾値α1よりも大きな値に設定されているので、鉄道車両の走行区間が曲線区間から直線区間に遷移すると、曲線区間に適した抑制力fcから直線区間に適した抑制力fsへ切換わった後に、センタリング力fnが制御力Fからフェードアウトする。そのため、鉄道車両が直線区間に完全に入るまではセンタリング力fnの発揮が継続されて、車体Bのスエーを抑制でき、車体Bが図示しないストッパを最圧縮させてしまう事態を効果的に防止できる。また、曲線区間の出口では、アクチュエータAに直線区間に適した抑制力fsを発揮した方が乗心地が良となることが分かっている。曲線判定閾値α2をセンタリング閾値α1より大きくしているので、鉄道車両の走行区間が曲線区間を脱したと判定しやすくなり、直線区間に適した抑制力fsを曲線区間の出口で発揮できる。よって、走行区間に関わらず、乗心地を向上できる。
前述のようにして求められた制御力Fは、リミッタ4252によって上限を超える場合には上限値に制限されて、駆動部43に入力される。
駆動部43は、モータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22を駆動するドライバ回路を備えている。駆動部43は、制御力Fに応じて、アクチュエータAにおけるモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22へ供給する電流量を制御して、制御力F通りにアクチュエータAに推力を発揮させる。
駆動部43は、モータ15の制御に当たり、モータ15を所定の回転速度で等速回転させるようモータ15を制御する。そして、モータ15は、焼損しない範囲で定格トルクを上回るトルクの出力が可能である。よって、制御力Fがモータ15に定格トルクを上回るトルクを出力させる値となっても、焼損しない範囲ではモータ15は定格トルクを上回るトルクを出力可能である。
なお、コントローラC1は、ハードウェア資源としては、図示はしないが具体的にはたとえば、加速度センサ40が出力する信号を取り込むためのA/D変換器と、横方向加速度αを取り込んでアクチュエータAを制御するのに必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、前記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)等の演算装置と、前記CPUに記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えて構成されればよい。そして、コントローラC1の各部の構成は、CPUの前記処理を行うためのプログラムの実行により実現できる。
コントローラC1の処理を図9に示したフローチャートを用いて説明する。まず、コントローラC1は、横方向加速度αを取り込む(ステップF1)。つづいて、コントローラC1は、横方向加速度αから直線区間用の抑制力fs、曲線区間用の抑制力fcを求める(ステップF2)。次に、コントローラC1は、横方向加速度αから定常加速度αcを抽出する(ステップF3)。そして、コントローラC1は、定常加速度αcからセンタリング力fnを求める(ステップF4)。さらに、コントローラC1は、定常加速度αcの絶対値と曲線判定閾値α2から鉄道車両が直線区間を走行しているが曲線区間を走行しているかを判定して各ゲインGs,Gcの値を決定する(ステップF5)。そして、コントローラC1は、ゲインGs,Gc、直線区間用の抑制力fs、曲線区間用の抑制力fcから抑制力fを求める(ステップF6)。つづいて、コントローラC1は、センタリング力fnにセンタリング力ゲインGnを乗じて値fn・Gnを求める(ステップF7)。さらに、コントローラC1は、抑制力fおよびセンタリング力fnにセンタリング力ゲインGnを乗じた値fn・GnとからアクチュエータAの制御力Fを求める(ステップF8)。最後に、コントローラC1は、制御力Fに基づいてアクチュエータAのモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22を駆動して、アクチュエータAに推力を発揮させる(ステップF9)。
以上のように鉄道車両用制振装置V1は、鉄道車両の車体Bと台車Tとの間に介装されて制御力を発揮可能なアクチュエータAと、車体Bの横方向加速度αに基づいて車体Bの振動を抑制する制御力Fを求めるコントローラC1とを備え、定常加速度αcの絶対値がセンタリング閾値α1以上の場合、車体Bの振動を抑制する抑制力fと、定常加速度αcに基づいて求めた車体Bを中立位置へ戻す方向のセンタリング力fnとに基づいて制御力Fを求めるようになっている。
このように構成された鉄道車両用制振装置V1では、センタリング力fnの発揮の要不要の判断を定常加速度αcの値で判定しており、変位センサを必要としない。そして、本発明の鉄道車両用制振装置V1によれば、曲線区間走行時に振動を抑制する抑制力fとセンタリング力fnを発揮でき、車体Bがストッパに接触して最圧縮させるのを抑制できるから、曲線区間走行時において台車T側からの振動が車体Bに伝達するのを抑制できる。
また、鉄道車両用制振装置V1では、定常加速度αcに基づいて車体Bを中立位置へ戻すセンタリング力fnを求めるので、変位フィードバック制御は行われず、車体Bの振動を抑制する制御を邪魔せずに、台車T側からの振動が車体Bに伝達するのも抑制できる。このように、本発明の鉄道車両用制振装置V1では、センタリング力fnの発揮の要不要の判断を定常加速度αcの値で判定しており、変位センサが不要となって、乗心地を阻害する変位フィードバック制御を行わず、定常加速度αcに基づいてセンタリング力fnを求めるので、曲線区間走行時における乗心地を向上できる。
よって、本発明の鉄道車両用制振装置V1によれば、変位センサが不要となってコストを低減できるとともに、曲線区間走行時における乗心地を向上できる。なお、鉄道車両に搭載された車両モニタから入手可能な地点情報から鉄道車両が曲線区間を走行中であるかを判定可能であるが、地点情報には誤差があって、曲線区間でないのにセンタリング力fnを発揮してしまう可能性がある。これに対して、本発明の鉄道車両用制振装置V1では、センタリング力fnの発揮の要不要の判断を定常加速度αcの値で判定しており、センタリング力fnが必要であるか否かを正確に判定でき、センタリング力fnの発揮タイミングが曲線区間とずれてしまって乗心地を阻害してしまう事態も生じさせない。
また、本例の鉄道車両用制振装置V1では、センタリング力fnの上限をモータ15が定格トルクでポンプ12を駆動する際にアクチュエータAが発揮可能な力の最大値としてセンタリング力fnを求めるようになっている。このように構成された鉄道車両用制振装置V1では、アクチュエータAがセンタリング力fnのみを出力しても、モータ15が出力可能な最大トルクまでには余力が残されているので、センタリング力fnを発揮しつつ車体Bの振動抑制のための抑制力fも出力可能となる。よって、本例の鉄道車両用制振装置V1によれば、曲線区間走行時において車体Bを中立位置へ戻すセンタリング力fnを発揮しつつ車体Bの振動を抑制する抑制力fを発揮でき、曲線区間走行中の乗心地をより一層向上できる。
また、本例の鉄道車両用制振装置V1では、抑制力fsを求める直線区間用制御部4213と抑制力fcを求める曲線区間用制御部4214とを有し、定常加速度αcの絶対値が曲線判定閾値α2未満から曲線判定閾値α2以上となると、直線区間用制御部4213が求める抑制力fsから曲線区間用制御部4214が求める抑制力fcへ切換えられ、定常加速度αcの絶対値が曲線判定閾値α2以上から曲線判定閾値α2未満となると、曲線区間用制御部4214が求める抑制力fcから直線区間用制御部4213が求める抑制力fsへ切換えられる。直線区間用制御部4213は、直線区間走行時における車体Bの横方向の振動の抑制に適する抑制力fsを求め、曲線区間用制御部4214は、曲線区間走行時における車体Bの横方向の振動の抑制に適する抑制力fcを求める。よって、本例の鉄道車両用制振装置V1によれば、鉄道車両の走行区間に応じて最適な制御力Fを発揮できるので、走行区間に関わらず高い振動抑制効果が得られる。
さらに、本例の鉄道車両用制振装置V1では、直線区間用制御部4213が求めた抑制力fsと曲線区間用制御部4214が求めた抑制力fcとの切換えに際して、切換前に選択されている抑制力をフェードアウトさせるとともに切換後に選択されるべき抑制力をインフェードインさせる。このように構成された鉄道車両用制振装置V1によれば、直線区間用の抑制力fsと曲線区間用の抑制力fcの切換えに際して、抑制力fの値が急変せずに済むので制御上安定性が向上する。また、直線区間用と曲線区間用の抑制力fs,fcのフェードイン、フェードアウトに際して直線区間用ゲインGsと曲線区間用ゲインGcを用い、両者の和を常に1とすると最終の抑制力fが過少や過大とならず、制御が不安定にならずに済む。
前述したように、曲線判定閾値α2をセンタリング閾値α1より大きな値に設定するのが好ましいが、両者を同じ値に設定することも可能である。その場合、ゲイン乗算部4223では、センタリング力ゲインGnの代わりに曲線区間用ゲインGcをセンタリング力fnに乗じるようにして、センタリング力ゲインGnについては廃止してもよい。
<第二の実施の形態>
第二の実施の形態における鉄道車両用制振装置V2は、鉄道車両の車体Bの制振装置として使用され、図10に示すように、前側の台車Tfと車体Bとの間に対として介装される前側のアクチュエータAfと、後側の台車Trと車体Bとの間に介装される後側のアクチュエータArと、これら両方のアクチュエータAf,Arをアクティブ制御するコントローラC2とを備えて構成されている。
第二の実施の形態における鉄道車両用制振装置V2は、コントローラC2の構成が第一の実施の形態のコントローラC1の構成と異なっており、アクチュエータAf,ArについてはアクチュエータAと同様の構成となっている。よって、異なるコントローラC2についてのみ詳細に説明し、アクチュエータAf,Arについては説明が重複するので、詳細な説明は省略する。
アクチュエータAf,Arは、詳細には、鉄道車両の場合、車体Bの下方に垂下されるピンPに連結され、車体Bと前後の台車Tf,Trとの間で対を成して並列に介装されている。これら前後のアクチュエータAf,Arは、基本的には、アクティブ制御で車体Bの車両進行方向に対して水平横方向の振動を抑制するようになっている。コントローラC2は、前後のアクチュエータAf,Arを制御して前記車体Bの横方向の振動を抑制するようになっている。
コントローラC2は、本例にあっては、車体Bの振動を抑制する制御を行う際に、車体Bの車体前部Bfの車両進行方向に対して水平横方向の横方向加速度αfと、車体Bの車体後部Brの車両進行方向に対して水平横方向の横方向加速度αrとを検知する。コントローラC2は、横方向加速度αf,αrに基づいて前後の台車Tf,Trの直上における車体中心G周りの角加速度であるヨー加速度ωを求めるとともに、車体Bの中心Gの水平横方向の加速度であるスエー加速度βを求める。そして、コントローラC2は、ヨー加速度ωとスエー加速度βに基づいて、各アクチュエータAf,Arで個々に発生すべき制御力Ff,Frを求め、各アクチュエータAf,Arに制御力Ff,Fr通りの推力を発生させて車体Bの前記横方向の振動を抑制する。
つづいて、コントローラC2は、図11に示すように、車体前側としての車体前部Bfの横方向加速度αfを検知する前側加速度センサ41aと、車体後側としての車体後部Brの横方向加速度αrを検知する後側加速度センサ41bと、前後のアクチュエータAf,Arが出力すべき制御力Ff,Frを求める制御演算部44と、制御力Ff,Frに基づいてモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11、可変リリーフ弁22を駆動する駆動部45とを備えている。
前側加速度センサ41aと後側加速度センサ41bは、図10中車体Bの中央を左右に通る軸を基準として上方側へ向く方向となる場合に、横方向加速度αf,αrを正の値として検知し、反対に図10中下方側へ向く方向となる場合に負の値として検知する。
以下、コントローラC2の各部について詳細に説明する。制御演算部44は、図12に示すように、車体Bのヨーを抑制するヨー抑制力fωを求めるヨー抑制力演算部50と、車体Bのスエーを抑制するスエー抑制力fβを求めるスエー抑制力演算部51と、車体Bを中立位置へ戻す方向のセンタリング力fnを求めるセンタリング力演算部52と、鉄道車両が曲線区間を走行中であるか否かを判定する曲線区間判定部53と、ゲイン変更部54と、各アクチュエータAf,Arが発揮すべき制御力Ff,Frを求める制御力演算部55とを備えている。
ヨー抑制力演算部50は、図13に示すように、横方向加速度αf,αrからヨー加速度ωを求めるヨー加速度演算部501と、ヨー加速度ωを濾波する第一直線区間用バンドパスフィルタ502と、ヨー加速度ωを濾波する第一曲線区間用バンドパスフィルタ503と、直線区間用ヨー制御部504と、曲線区間用ヨー制御部505と、直線区間用ヨー制御部504が求めた直線区間用ヨー抑制力fωsに直線区間用ゲインGsを乗じるゲイン乗算部506と、曲線区間用ヨー制御部505が求めた曲線区間用ヨー抑制力fωcに曲線区間用ゲインGcを乗じるゲイン乗算部507と、最終的なヨー抑制力fωを求める加算部508とを備えている。
ヨー加速度演算部501は、前側の横方向加速度αfと後側の横方向加速度αrの差を2で割って前側の台車Tfと後側の台車Trのそれぞれの直上における車体中心G周りのヨー加速度ωを求める。前側加速度センサ41aの設置箇所は、ヨー加速度ωを求める都合上、車体Bの中心Gを含む前後方向または対角方向に沿う線上であって前側アクチュエータAfの近傍に配置されるとよい。また、後側加速度センサ41bの設置箇所は、車体Bの中心Gを含む前後方向または対角方向に沿う線上であって後側アクチュエータArの近傍に配置されるとよい。しかしながら、中心Gと前側加速度センサ41aと後側加速度センサ41bの距離と位置関係と横方向加速度αf,αrとからヨー加速度ωを求められるので前側加速度センサ41aと後側加速度センサ41bを任意に設定してよい。その場合、ヨー加速度ωは、横方向加速度αfと横方向加速度αrの差を2で割って求めるのではなく、前記横方向加速度αfと横方向加速度αrの差と、車体Bの中心Gと各加速度センサ41a,41bとの距離、位置関係からヨー加速度ωを得るようにすればよい。具体的には、前側加速度センサ41aと車体Bの中心Gとの前後方向距離Lfと、前側加速度センサ41bと車体Bの中心Gとの前後方向距離Lrとすると、ヨー加速度ωは、ω=(αf−αr)/(Lf+Lr)で計算できる。本例では、ヨー加速度ωを前側加速度センサ41aと前側加速度センサ41bで加速度を検知して求めているが、ヨー加速度センサを用いて検知するようにしてもよい。
第一直線区間用バンドパスフィルタ502は、ヨー加速度ωにおける鉄道車両が直線区間を走行する際の車体Bの共振周波数帯の成分を抽出する目的で設けられている。よって、第一直線区間用バンドパスフィルタ502は、直線区間用バンドパスフィルタ4211と同様に、直線区間走行時における車体Bの共振周波数帯の成分を抽出する。具体的には、第一直線区間用バンドパスフィルタ502は、ヨー加速度演算部501が求めたヨー加速度ωを濾波してヨー加速度ωに含まれる1Hzから1.5Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
第一曲線区間用バンドパスフィルタ503は、ヨー加速度ωにおける鉄道車両が曲線区間を走行する際の車体Bの共振周波数帯の成分を抽出する目的で設けられている。よって、第一曲線区間用バンドパスフィルタ503は、曲線区間用バンドパスフィルタ4212と同様に、曲線区間走行時の車体Bの共振周波数の周波数帯の成分を抽出する。具体的には、第一曲線区間用バンドパスフィルタ503は、ヨー加速度演算部501が求めたヨー加速度ωを濾波してヨー加速度ωに含まれる2Hzから3Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
直線区間用ヨー制御部504は、H∞制御器とされており、第一直線区間用バンドパスフィルタ502が抽出したヨー加速度ωの共振周波数帯の成分から車体Bのヨーを抑制する直線区間用ヨー抑制力fωsを演算する。第一直線区間用バンドパスフィルタ502が抽出したヨー加速度ωの共振周波数帯の成分は、直線区間走行時における車体Bのヨー方向の共振周波数帯の振動加速度である。したがって、直線区間用ヨー制御部504が求める直線区間用ヨー抑制力fωsは、直線区間走行時における車体Bのヨー方向の振動の抑制に適する抑制力となる。
曲線区間用ヨー制御部505は、H∞制御器とされており、第一曲線区間用バンドパスフィルタ503が抽出したヨー加速度ωの共振周波数帯の成分から車体Bのヨーを抑制する曲線区間用ヨー抑制力fωcを演算する。第一曲線区間用バンドパスフィルタ503が抽出したヨー加速度ωの共振周波数帯の成分は、曲線区間走行時における車体Bのヨー方向の共振周波数帯の振動加速度である。したがって、曲線区間用ヨー制御部505が求める曲線区間用ヨー抑制力fωcは、曲線区間走行時における車体Bのヨー方向の振動の抑制に適する抑制力となる。
ゲイン乗算部506は、直線区間用ヨー制御部504が求めた直線区間用ヨー抑制力fωsに直線区間用ゲインGsを乗じて出力する。ゲイン乗算部507は、曲線区間用ヨー制御部505が求めた曲線区間用ヨー抑制力fωcに曲線区間用ゲインGcを乗じて出力する。
直線区間用ゲインGsおよび曲線区間用ゲインGcは、図6に示すように、第一の実施の形態の各ゲインGs,Gcと同様に設定されており、曲線区間判定部53が鉄道車両の走行区間の判定することによって、値が0から1まで変更される。直線区間用ゲインGsおよび曲線区間用ゲインGcの値の変化の仕方は、第一の実施の形態と同様である。
そして、加算部508は、直線区間用ゲインGsが乗じられた直線区間用ヨー抑制力fωsと、曲線区間用ゲインGcが乗じられた曲線区間用ヨー抑制力fωcを加算して最終的なヨー抑制力fωを求める。よって、ヨー抑制力fωは、基本的には、鉄道車両が直線区間を走行中の場合には直線区間用ヨー抑制力fωsとなり、鉄道車両が曲線区間を走行中の場合には曲線区間用ヨー抑制力fωcとなる。つまり、直線区間用ゲインGsと曲線区間用ゲインGcは、直線区間に適する直線区間用ヨー抑制力fωsと曲線区間に適する曲線区間用ヨー抑制力fωcとのいずれかを、ヨー抑制力fωとして選択するための係数となっている。また、直線区間用ヨー抑制力fωsと曲線区間用ヨー抑制力fωcの切換えに際して、直線区間用ゲインGsと曲線区間用ゲインGcとの値の合計は常に1となるので、ヨー抑制力fωが過少や過大とならず、制御が不安定にならずに済む。このようにしてヨー抑制力fωが求められると、鉄道車両の走行区間が直線区間から曲線区間に遷移する場合には、ゲインGs,Gcの変化によって、直線区間用ヨー抑制力fωsがフェードアウトしつつ曲線区間用ヨー抑制力fωcがフェードインして両者が切換わる。また、このようにしてヨー抑制力fωが求められると、鉄道車両の走行区間が曲線区間から直線区間に遷移する場合には、ゲインGs,Gcの変化によって、曲線区間用ヨー抑制力fωcがフェードアウトしつつ直線区間用ヨー抑制力fωsがフェードインして両者が切換わる。
スエー抑制力演算部51は、図14に示すように、横方向加速度αf,αrからスエー加速度βを求めるスエー加速度演算部511と、スエー加速度βを濾波する第二直線区間用バンドパスフィルタ512と、スエー加速度βを濾波する第二曲線区間用バンドパスフィルタ513と、直線区間用スエー制御部514と、曲線区間用スエー制御部515と、直線区間用スエー制御部514が求めた直線区間用スエー抑制力fβsに直線区間用ゲインGsを乗じるゲイン乗算部516と、曲線区間用スエー制御部515が求めた曲線区間用スエー抑制力fβcに曲線区間用ゲインGcを乗じるゲイン乗算部517と、最終的なスエー抑制力fβを求める加算部518とを備えている。
スエー加速度演算部511は、横方向加速度αfと横方向加速度αrの和を2で割って車体Bの中心Gのスエー加速度βを求める。
第二直線区間用バンドパスフィルタ512は、スエー加速度βにおける鉄道車両が直線区間を走行する際の車体Bの共振周波数帯の成分を抽出する目的で設けられている。第二直線区間用バンドパスフィルタ512が通過を許容する周波数帯は、第一直線区間用バンドパスフィルタ502と同様に1Hzから1.5Hzまでの周波数帯に設定されている。よって、第二直線区間用バンドパスフィルタ512は、スエー加速度演算部511が求めたスエー加速度βを濾波してスエー加速度βに含まれる1Hzから1.5Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
第二曲線区間用バンドパスフィルタ513は、スエー加速度βにおける鉄道車両が曲線区間を走行する際の車体Bの共振周波数帯の成分を抽出する目的で設けられている。第二曲線区間用バンドパスフィルタ513が通過を許容する周波数帯は、第一曲線区間用バンドパスフィルタ503と同様に2Hzから3Hzまでの周波数帯に設定されている。よって、第二曲線区間用バンドパスフィルタ513は、スエー加速度演算部511が求めたスエー加速度βを濾波してスエー加速度βに含まれる2Hzから3Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
直線区間用スエー制御部514は、H∞制御器とされており、第二直線区間用バンドパスフィルタ512が抽出したスエー加速度βの共振周波数帯の成分から車体Bのスエーを抑制する直線区間用スエー抑制力fβsを演算する。第二直線区間用バンドパスフィルタ512が抽出したスエー加速度βの共振周波数帯の成分は、直線区間走行時における車体Bのスエー方向の共振周波数帯の振動加速度である。したがって、直線区間用スエー制御部514が求める直線区間用スエー抑制力fβsは、直線区間走行時における車体Bのスエー方向の振動の抑制に適する抑制力となる。
曲線区間用スエー制御部515は、H∞制御器とされており、第二曲線区間用バンドパスフィルタ513が抽出したスエー加速度βの共振周波数帯の成分から車体Bのスエーを抑制する曲線区間用スエー抑制力fβcを演算する。第二曲線区間用バンドパスフィルタ513が抽出したスエー加速度βの共振周波数帯の成分は、曲線区間走行時における車体Bのスエー方向の共振周波数帯の振動加速度である。したがって、曲線区間用スエー制御部515が求める曲線区間用スエー抑制力fβcは、曲線区間走行時における車体Bのスエー方向の振動の抑制に適する抑制力となる。
ゲイン乗算部516は、直線区間用スエー制御部514が求めた直線区間用スエー抑制力fβsに直線区間用ゲインGsを乗じて出力する。ゲイン乗算部517は、曲線区間用スエー制御部515が求めた曲線区間用スエー抑制力fβcに曲線区間用ゲインGcを乗じて出力する。直線区間用ゲインGsと曲線区間用ゲインGcは、前述したゲインであり、前述同様に値が0から1まで変化するゲインである。
そして、加算部518は、直線区間用ゲインGsが乗じられた直線区間用スエー抑制力fβsと、曲線区間用ゲインGcが乗じられた曲線区間用スエー抑制力fβcを加算して最終的なスエー抑制力fβを求める。よって、スエー抑制力fβは、基本的には、鉄道車両が直線区間を走行中の場合には直線区間用スエー抑制力fβsとなり、鉄道車両が曲線区間を走行中の場合には曲線区間用スエー抑制力fβcとなる。つまり、スエー抑制力演算部51においては、直線区間用ゲインGsと曲線区間用ゲインGcは、直線区間に適する直線区間用スエー抑制力fβsと曲線区間に適する曲線区間用スエー抑制力fβcのいずれかをスエー抑制力fβとして選択するための係数となっている。また、直線区間用スエー抑制力fβsと曲線区間用スエー抑制力fβcの切換えに際して、直線区間用ゲインGsと曲線区間用ゲインGcとの値の合計は常に1となるので、スエー抑制力fβが過少や過大とならず、制御が不安定にならずに済む。このようにしてスエー抑制力fβが求められると、鉄道車両の走行区間が直線区間から曲線区間に遷移する場合には、ゲインGs,Gcの変化によって、直線区間用スエー抑制力fβsがフェードアウトしつつ曲線区間用スエー抑制力fβcがフェードインして両者が切換わる。また、このようにしてスエー抑制力fβが求められると、鉄道車両の走行区間が曲線区間から直線区間に遷移する場合には、ゲインGs,Gcの変化によって、曲線区間用スエー抑制力fβcがフェードアウトしつつ直線区間用スエー抑制力fβsがフェードインして両者が切換わる。
センタリング力演算部52は、図15に示すように、スエー加速度演算部511が出力するスエー加速度βを濾波するローパスフィルタ521と、濾波されたスエー加速度βからセンタリング力fnを求めるセンタリング力算出部522と、センタリング力fnにセンタリング力ゲインGnを乗じるゲイン乗算部523とを備えている。
ローパスフィルタ521は、スエー加速度βを濾波してスエー加速度βに含まれる定常加速度βcを抽出する。具体的には、ローパスフィルタ521のカットオフ周波数は0.3Hz程度に設定されており、スエー加速度βに含まれる0.3Hz以下の成分を抽出できる。定常加速度βcは、鉄道車両が曲線区間を走行する際に車体Bに作用する遠心力に起因する横方向の加速度である。よって、ローパスフィルタ521でスエー加速度βを濾波すれば、定常加速度βcを抽出できる。
ここで、定常加速度をβc、鉄道車両が曲線区間を走行する際に許容される定常加速度の最大値をβcmax、モータ15が定格トルクでポンプ12を駆動する際にアクチュエータAf,Arが出力可能な力の最大値をftmaxとする。すると、センタリング力算出部522は、定常加速度βcからセンタリング力fnを次式fn=βc×ftmax/βcmaxを演算して求める。なお、定常加速度βcがβcmaxを超える場合、定常加速度βcの値をβcmaxに制限する。よって、センタリング力fnの上限は、モータ15が定格トルクでポンプ12を駆動する際にアクチュエータAf,Arが発揮可能な力の最大値とされる。なお、定常加速度βcの最大値βcmaxは、予め決められている値である。
ゲイン乗算部523は、センタリング力fnにセンタリング力ゲインGnを乗じて出力する。センタリング力ゲインGnは、前述したゲインであり、ゲイン乗算部523は、定常加速度βcがセンタリング閾値α1以上となるとセンタリング力ゲインGnを1とし、センタリング閾値α1未満となるとセンタリング力ゲインGnを0とする。センタリング力ゲインGnの時間経過による変化は、前述と同様である。
曲線区間判定部53は、スエー加速度βに基づいて鉄道車両が曲線区間を走行中であるか否かを判定する。具体的には、曲線区間判定部53は、スエー加速度βを濾波するローパスフィルタ521が出力した定常加速度βcの絶対値と曲線判定閾値α2とを比較して定常加速度βcの絶対値が曲線判定閾値α2以上となると鉄道車両の走行区間を曲線区間と判定する。逆に、曲線区間判定部53は、定常加速度βcの絶対値が曲線判定閾値α2未満となると鉄道車両の走行区間を直線区間と判定する。
曲線区間判定部53の判定結果は、ゲイン変更部54に入力され、ゲイン変更部54は、判定結果に基づいて前述の直線区間用ゲインGsと曲線区間用ゲインGcの値を変更する。ゲイン変更部54の各ゲインGs,Gcの変更の仕方は、前述の通りである。つまり、鉄道車両の走行区間が直線区間から曲線区間へ切換わると、時間の経過とともに、直線区間用ゲインGsについては値を1から徐々に低下させて0へ変更し、曲線区間用ゲインGcについては値を0から徐々に増加させて1へ変更する。また、ゲイン変更部54は、鉄道車両の走行区間が曲線区間から直線区間へ切換わると、時間の経過とともに、直線区間用ゲインGsについては値を0から徐々に増加させて1へ変更し、曲線区間用ゲインGcについては値を1から徐々に低下させて0へ変更する。また、ゲイン変更部54は、前述したように各ゲインGs,Gcの総和が常に1となるように変更し、両ゲインGs,Gcの値の前記変化に要する時間は、任意に設定される。
制御力演算部55は、図16に示したように、ヨー抑制力fω、スエー抑制力fβおよびセンタリング力fnにセンタリング力ゲインGnを乗じた値fn・Gnとから前側のアクチュエータAfと後側のアクチュエータArの制御力Ff,Frを求める制御力算出部551と、リミッタ552とを備えている。
制御力算出部551は、ヨー抑制力fωとスエー抑制力fβとを加算した値を2で割って前側のアクチュエータAfの抑制力ffを求め、この抑制力ffとセンタリング力fnにセンタリング力ゲインGnを乗じた値fn・Gnとを加算して前側のアクチュエータAfの制御力Ffを求める。また、制御力算出部551は、スエー抑制力fβからヨー抑制力fωを差し引いた値を2で割って後側のアクチュエータArの抑制力frを求め、この抑制力frにセンタリング力fnにセンタリング力ゲインGnを乗じた値fn・Gnを加算して後側のアクチュエータArの制御力Frを求める。
このように制御力Ff,Frを求めると、鉄道車両の走行区間が直線区間から曲線区間に遷移すると、センタリング力fnが制御力Ff,Frにフェードインする。また、制御力Ff,Frの内訳の抑制力ff,frについても、直線区間に適した直線区間用のヨー抑制力fωsとスエー抑制力fβsから曲線区間に適した曲線区間用のヨー抑制力fωcとスエー抑制力fβcに切換わる。なお、曲線判定閾値α2は、センタリング閾値α1よりも大きな値に設定されているので、鉄道車両の走行区間が直線区間から曲線区間に遷移すると、抑制力ff,frが直線区間に適した抑制力から曲線区間に適した抑制力へ切換わる前に、センタリング力fnが制御力Ff,Frにフェードインする。そのため、鉄道車両が曲線区間に差し掛かると直ちにセンタリング力Fnが発揮されて、車体Bのスエーを抑制でき、車体Bが図示しないストッパを最圧縮させてしまう事態を効果的に防止できる。また、曲線区間の入口では、アクチュエータAf,Arに直線区間用のヨー抑制力fωsとスエー抑制力fβsを発揮した方が乗心地が良となることが分かっている。曲線判定閾値α2をセンタリング閾値α1より大きくして鉄道車両の走行区間が完全に曲線区間であると判定できる値に設定しているので、直線区間用のヨー抑制力fωsとスエー抑制力fβsを曲線区間の入口で発揮でき、乗心地を向上できる。
また、前述ように制御力Ff,Frを求めると、鉄道車両の走行区間が曲線区間から直線区間に遷移すると、センタリング力fnが制御力Ff,Frからフェードアウトする。また、制御力Ff,Frの内訳の抑制力ff,frについても、曲線区間に適した曲線区間用のヨー抑制力fωcとスエー抑制力fβcから直線区間に適した直線区間用のヨー抑制力fωsとスエー抑制力fβsに切換わる。前述のように、曲線判定閾値α2は、センタリング閾値α1よりも大きな値に設定されているので、鉄道車両の走行区間が曲線区間から直線区間に遷移すると、抑制力ff,frが曲線区間に適した抑制力から直線区間に適した抑制力へ切換わった後に、センタリング力fnが制御力Ff,Frからフェードアウトする。そのため、鉄道車両が直線区間に完全に入るまではセンタリング力fnの発揮が継続されて、車体Bのスエーを抑制でき、車体Bが図示しないストッパを最圧縮させてしまう事態を効果的に防止できる。また、曲線区間の出口では、アクチュエータAf,Arに直線区間用のヨー抑制力fωsとスエー抑制力fβsを発揮した方が乗心地が良となることが分かっている。曲線判定閾値α2をセンタリング閾値α1より大きくしているので、鉄道車両の走行区間が曲線区間を脱したと判定しやすくなり、直線区間用のヨー抑制力fωsとスエー抑制力fβsを曲線区間の出口で発揮できる。よって、走行区間に関わらず、乗心地を向上できる。
駆動部45は、モータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22を駆動するドライバ回路を備えている。駆動部45は、制御力Ff,Frに応じて、各アクチュエータAf,Arにおけるモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22へ供給する電流量を制御して、制御力Ff,Fr通りに各アクチュエータAf,Arに推力を発揮させる。
駆動部45は、モータ15の制御に当たり、モータ15を所定の回転速度で等速回転させるようモータ15を制御する。そして、モータ15は、焼損しない範囲で定格トルクを上回るトルクの出力が可能である。よって、制御力Ff,Frがモータ15に定格トルクを上回るトルクを出力させる値となっても、焼損しない範囲ではモータ15は定格トルクを上回るトルクを出力可能である。
なお、コントローラC2は、ハードウェア資源としては、図示はしないが具体的にはたとえば、前側加速度センサ41aと後側加速度センサ41bが出力する信号を取り込むためのA/D変換器と、横方向加速度αfと横方向加速度αrを取り込んでアクチュエータAf,Arを制御するのに必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、前記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)等の演算装置と、前記CPUに記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えて構成されればよい。そして、コントローラC2の各部の構成は、CPUの前記処理を行うためのプログラムの実行により実現できる。
コントローラC2の処理を図17に示したフローチャートを用いて説明する。まず、コントローラC2は、横方向加速度αfと横方向加速度αrを取り込む(ステップF11)。つづいて、コントローラC2は、ヨー加速度ωとスエー加速度βとを求める(ステップF12)。さらに、コントローラC2は、ヨー加速度ωとスエー加速度βとから直線区間用ヨー抑制力fωs、曲線区間用ヨー抑制力fωc、直線区間用スエー抑制力fβsおよび曲線区間用スエー抑制力fβcを求める(ステップF13)。次に、コントローラC2は、スエー加速度βから定常加速度βcを抽出する(ステップF14)。そして、コントローラC2は、定常加速度βcからセンタリング力fnを求める(ステップF15)。さらに、コントローラC2は、定常加速度βcの絶対値と曲線判定閾値α2から鉄道車両が直線区間を走行しているが曲線区間を走行しているかを判定して各ゲインGs,Gcの値を決定する(ステップF16)。そして、コントローラC2は、ゲインGs,Gc、直線区間用ヨー抑制力fωs、曲線区間用ヨー抑制力fωc、直線区間用スエー抑制力fβsおよび曲線区間用スエー抑制力fβcからヨー抑制力fωとスエー抑制力fβを求める(ステップF17)。つづいて、コントローラC2は、センタリング力fnにセンタリング力ゲインGnを乗じた値fn・Gnを求める(ステップF18)。さらに、コントローラC2は、ヨー抑制力fω、スエー抑制力fβおよびセンタリング力fnにセンタリング力ゲインGnを乗じた値fn・Gnとから前後のアクチュエータAf,Arの制御力Ff,Frを求める(ステップF19)。最後に、コントローラC2は、制御力Ff,Frに基づいてアクチュエータAf,Arのモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22を駆動して、各アクチュエータAf,Arに推力を発揮させる(ステップF20)。
以上のように鉄道車両用制振装置V2は、鉄道車両の車体Bと台車Tf,Trとの間に介装されて制御力を発揮可能なアクチュエータAf,Arと、車体Bのヨー加速度ωとスエー加速度βに基づいて車体Bの振動を抑制する制御力Ff,Frを求めるコントローラC2とを備え、定常加速度βcの絶対値がセンタリング閾値α1以上の場合、ヨー加速度ωとスエー加速度βに基づいて求めた車体Bのヨー方向およびスエー方向の振動を抑制する抑制力ff,frと、定常加速度βcに基づいて求めた車体Bを中立位置へ戻す方向のセンタリング力fnとに基づいて制御力Ff,Frを求めるようになっている。
このように構成された鉄道車両用制振装置V2では、センタリング力fnの発揮の要不要の判断を定常加速度βcの値で判定しており、変位センサを必要としない。そして、本発明の鉄道車両用制振装置V2によれば、曲線区間走行時に振動を抑制する抑制力ff,frとセンタリング力fnを発揮でき、車体Bがストッパに接触して最圧縮させるのを抑制できるから、曲線区間走行時において台車T側からの振動が車体Bに伝達するのを抑制できる。
ここで、横方向加速度αf,αrには、車体Bのスエー加速度βとヨー加速度ωが含まれており、曲線区間走行中の車体Bに作用する定常加速度βcは、スエー加速度βのみに含まれる成分である。したがって、鉄道車両用制振装置V2では、スエー加速度βから抽出した定常加速度βcに基づいてセンタリング力fnの要不要を判断しているので、センタリング力fnの要否判定が正確となる。また、鉄道車両用制振装置V2では、スエー加速度βから抽出した定常加速度βcに基づいて車体Bを中立位置へ戻すセンタリング力fnを求めるので、定常加速度の作用による車体Bの中立位置からの偏心のみを抑制するセンタリング力fnを求められる。よって、過不足のないセンタリング力fnの発揮が可能で、車体Bの偏心を効果的に抑制できる。また、また、鉄道車両用制振装置V2では、変位フィードバック制御は行われず、車体Bの振動を抑制する制御を邪魔せずに、台車Tf,Tr側からの振動が車体Bに伝達するのも抑制できる。このように、本発明の鉄道車両用制振装置V2では、曲線区間の走行の判定に変位センサが不要となって、乗心地を阻害する変位フィードバック制御を行わず、定常加速度βcに基づいてセンタリング力fnを求めるので、曲線区間走行時における乗心地を向上できる。
よって、本発明の鉄道車両用制振装置V2によれば、変位センサが不要となってコストを低減できるとともに、曲線区間走行時における乗心地を向上できる。なお、鉄道車両に搭載された車両モニタから入手可能な地点情報から鉄道車両が曲線区間を走行中であるかを判定可能であるが、地点情報には誤差があって、曲線区間でないのにセンタリング力fnを発揮してしまう可能性がある。対して、本発明の鉄道車両用制振装置V2では、スエー加速度βから抽出した定常加速度βcで曲線区間を走行中であるかを判定するため、より一層正確に判定でき、センタリング力fnの発揮タイミングが曲線区間とずれがたく、乗心地をより一層向上できる。
また、本例の鉄道車両用制振装置V2では、センタリング力fnの上限をモータ15が定格トルクでポンプ12を駆動する際にアクチュエータAf,Arが発揮可能な力の最大値としてセンタリング力fnを求めるようになっている。このように構成された鉄道車両用制振装置V2では、アクチュエータAf,Arがセンタリング力fnのみを出力しても、モータ15が出力可能な最大トルクまでには余力が残されているので、センタリング力fnを発揮しつつ車体Bの振動抑制のための抑制力ff,frも出力可能となる。よって、本例の鉄道車両用制振装置V2によれば、曲線区間走行時において車体Bを中立位置へ戻すセンタリング力fnを発揮しつつ車体Bの振動を抑制する抑制力ff,frを発揮でき、曲線区間走行中の乗心地をより一層向上できる。
また、本例の鉄道車両用制振装置V2では、抑制力ff,frを求めるために、直線区間用制御部として直線区間用ヨー制御部504および直線区間用スエー制御部514と、曲線区間用制御部として曲線区間用ヨー制御部505および曲線区間用スエー制御部515とを備えている。そして、抑制力ff,frは、定常加速度βcの絶対値が曲線判定閾値α2未満から曲線判定閾値α2以上となると、直線区間用制御部が求める抑制力ff,frから曲線区間用制御部が求める抑制力ff,frへ切換えられ、定常加速度βcの絶対値が曲線判定閾値α2以上から曲線判定閾値α2未満となると、曲線区間用制御部が求める抑制力ff,frから直線区間用制御部が求める抑制力ff,frへ切換えられる。直線区間用制御部は、直線区間走行時における車体Bの横方向の振動の抑制に適する抑制力ff,frを求め、曲線区間用制御部は、曲線区間走行時における車体Bの横方向の振動の抑制に適する抑制力ff,frを求める。よって、本例の鉄道車両用制振装置V2によれば、鉄道車両の走行区間に応じて最適な制御力Ff,Frを発揮できるので、走行区間に関わらず高い振動抑制効果が得られる。
また、センタリング力fnの出力の可否はセンタリング閾値α1を基準とし、直線区間用の制御と曲線区間用の制御の切換えはセンタリング閾値α1よりも大きな曲線判定閾値α2を基準としている。よって、曲線判定閾値α2をセンタリング閾値α1より大きくして鉄道車両の走行区間が完全に曲線区間であると判定できる値に設定でき、直線区間用のヨー抑制力fωsとスエー抑制力fβsを曲線区間の入口と出口で発揮でき、乗心地を向上できる。
なお、曲線判定閾値α2をセンタリング閾値α1より大きな値に設定するのが好ましいが、両者を同じ値に設定することも可能であり、その場合、ゲイン乗算部523では、センタリング力ゲインGnの代わりに曲線区間用ゲインGcをセンタリング力fnに乗じるようにして、センタリング力ゲインGnについては廃止してもよい。
さらに、本例の鉄道車両用制振装置V2では、直線区間用制御部が求めた抑制力ff,frと曲線区間用制御部が求めた抑制力ff,frとの切換えに際して、切換前に選択されている抑制力ff,frをフェードアウトさせるとともに切換後に選択されるべき抑制力ff,frをインフェードインさせる。このように構成された鉄道車両用制振装置V2によれば、直線区間用の抑制力ff,frと曲線区間用の抑制力ff,frの切換えに際して、抑制力ff,frの値が急変せずに済むので制御上安定性が向上する。また、直線区間用と曲線区間用の抑制力ff,frのフェードイン、フェードアウトに際して直線区間用ゲインGsと曲線区間用ゲインGcを用い、両者の和を常に1とすると最終の抑制力ff,frが過少や過大とならず、制御が不安定にならずに済む。
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。