JP6778296B2 - マイクロニードルアレイ - Google Patents

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Description

本発明は、マイクロニードルアレイに関する。
皮膚、粘膜などの生体表面に薬物を投与する方法としては、液状物質又は粉状物質を生体表面に付着させる方法がある。また、近年注目されるバイオ医薬品においては、浸透によるバリア層の突破は非常に困難となるため、注射による投与が選択されている。
さらに、適量の薬物を投与し、かつ十分な薬効を達成するための薬物の投与方法として、薬物を含有する高アスペクト比のマイクロニードル(針状凸部)が形成されたマイクロニードルアレイを用いて、マイクロニードルによって角質バリア層を貫通して、苦痛を伴わずに薬物を皮膚内に注入する方法が注目されている。例えば、生体内溶解性を有する物質を基材とした自己溶解型マイクロニードルアレイが報告されている。自己溶解型マイクロニードルアレイにおいては、その基材に薬物を保持させておき、マイクロニードルが皮膚に挿入された際に基材が自己溶解することにより、薬物を皮内に投与することができる。
特許文献1には、シート部の表面に、薬物が含有された針状凸部が形成されたポリマー製の経皮吸収シートにおいて、針状凸部に含有される薬物の濃度が、針状凸部の先端から根元に向かって連続的に減少して成ることを特徴とする経皮吸収シート及びその製造方法が記載されている。
特許文献2には、角錐状若しくは角柱状、または、円錐状若しくは円柱状の細針であって、細針は、主成分材質がマルトースとデキストランの混合物若しくはトレハロースで、皮膚に作用する機能性物質を含有しており、細針が皮膚に差し込まれることにより、主成分材料が溶解し、機能性物質が皮膚に供給されることを特徴とするマイクロニードルが記載されている。
特許文献3には、マイクロニードルシートの製造方法であって、スタンパの第1の表面から、第1の表面に対向する第2の表面に向かって、第1の所定長だけ先細りに延在する錐状の凹部に、第1のマイクロニードル原料を充填する工程と、凹部に充填された第1のマイクロニードル原料を、所定の相対湿度の環境下で静置乾燥させて、第1の所定長より短い第2の所定長だけ延在するニードル先端層を形成する工程とを備え、所定の相対湿度が60%以上99%以下であり、凹部内壁における第1のマイクロニードル原料の凝固速度を抑制することを特徴とするマイクロニードルシートの製造方法が記載されている。
特開2011−224332号公報 特開2005−154321号公報 特許5587647号公報
液状物質又は粉状物質である薬物を生体表面に付着させる方法においては、薬物の付着領域が皮膚の表面に限られていたため、発汗、異物の接触などによって、付着している薬物が除去される場合があり、適量の薬物を投与することは困難である。また、このような薬物の拡散による浸透を利用した方法では、角質のバリア層により薬物の浸透が阻まれることから、充分な薬効を得ることは困難であった。また、注射による投与は、医療従事者の手が必要で、更に苦痛や感染リスクも伴う。
注射による投与の代替として、マイクロニードルアレイを用いて薬物を皮膚内に注入する方法が近年注目されているが、マイクロニードルアレイを用いて注射と同等の薬効を得ることは困難であった。特にヒトを想定した大型動物の場合には、マウスやラットのような小動物と比較して皮膚は厚く、安定的に所定量を投与し、十分な薬効を得ることは困難であった。特許文献1から3においては、針部に含有される薬物の分布と、穿刺性、溶解性及び薬効との関係については記載がない。
本発明は、シート部及び針部から構成されるマイクロニードルアレイであって、高い薬効を達成できるマイクロニードルアレイを提供することを解決すべき課題とした。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、シート部及びシート部の上面に存在する複数の針部を有するマイクロニードルアレイであって、針部の先端部に高濃度に薬物を担持させ、かつ針部の水溶性高分子比率を、皮膚への穿刺性が良好となるように設定したマイクロニードルアレイを投与することにより、皮下注射と同等の薬効が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) シート部、及び、シート部の上面に存在する複数の針部、を有するマイクロニードルアレイであって、
針部が、水溶性高分子及び薬物を含み、
針部の全固形分の50質量%以上が水溶性高分子であり、
針部先端を含む領域であって、針部全体の高さの20%の長さに相当する高さを有する針部先端領域において、水溶性高分子と薬物とが、下記式1の質量比率で存在し、
シート部が、水溶性高分子を含む、
マイクロニードルアレイ。
式1; 水溶性高分子:薬物=0.05〜0.9:1
(2) 針部が、水溶性高分子、二糖類及び薬物を含み、
針部先端を含む領域であって、針部全体の高さの20%の長さに相当する高さを有する針部先端領域において、水溶性高分子、二糖類及び薬物が、下記式2の質量比率で存在する、
(1)に記載のマイクロニードルアレイ。
式2; 水溶性高分子 + 二糖類:薬物=0.05〜5:1
(3) 二糖類が、スクロース、マルトース及びトレハロースからなる群より選択される少なくとも1種である、(1)又は(2)に記載のマイクロニードルアレイ。
(4) 針部の水溶性高分子が、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デキストラン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、プルランからなる群より選択される少なくとも1種である、(1)から(3)の何れか一に記載のマイクロニードルアレイ。
(5) シート部の水溶性高分子が、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デキストラン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、プルランからなる群より選択される少なくとも1種である、(1)から(4)の何れか一に記載のマイクロニードルアレイ。
(6) 薬物が、ペプチドホルモン、ワクチン及びアジュバントからなる群より選択される少なくとも1種である、(1)から(5)の何れか一に記載のマイクロニードルアレイ。
(7) 針部が、二種以上の水溶性高分子、二糖類、及び薬物を含む、(1)から(6)の何れか一に記載のマイクロニードルアレイ。
(8)薬物を含む第一の水溶性高分子溶解液を充填した針部形成用モールドを、乾燥することによって針部の一部を形成する工程;及び第二の水溶性高分子溶解液を、上記で形成された針部の一部の上面に充填して乾燥する工程を含む、(1)から(7)の何れか一に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
(9)薬物を含む第一の水溶性高分子溶解液を充填した針部形成用モールドを、乾燥開始後30分から300分経過してから、第一の水溶性高分子溶解液の含水率が20%以下に到達する条件下において、乾燥する、(8)に記載の方法。
(10)薬物を含む第一の水溶性高分子溶解液を充填した針部形成用モールドを、容器を被せた状態又は容器に収容した状態で、乾燥する、(8)又は(9)に記載の方法。
(11)薬物を含む第一の水溶性高分子溶解液を充填した針部形成用モールドを、温度1〜40℃、相対湿度30〜95%の条件下で乾燥する、(7)から(9)の何れか一に記載の方法。
本発明によれば、シート部、及び、シート部の上面に存在する複数の針部、を有するマイクロニードルアレイにおいて、高い薬効を達成することができる。
図1は、針部先端を含む領域であって、針部全体の高さの20%の長さに相当する高さを有する針部先端領域を説明する図である。 図2Aは、円錐状のマイクロニードルの斜視図であり、図2Bは、角錐状のマイクロニードルの斜視図であり、図2Cは、円錐状及び角錐状のマイクロニードルの断面図である。 図3は、別の形状のマイクロニードルの斜視図である。 図4は、別の形状のマイクロニードルの斜視図である。 図5は、図3、図4に示すマイクロニードルの断面図である。 図6は、別の形状のマイクロニードルの斜視図である。 図7は、別の形状のマイクロニードルの斜視図である。 図8は、図6、図7に示すマイクロニードルの断面図である。 図9は、針部側面の傾き(角度)が連続的に変化した別の形状のマイクロニードルの断面図である。 図10A〜Cは、モールドの製造方法の工程図である。 図11は、モールドの拡大図である。 図12は、別の形態のモールドを示す断面図である。 図13A〜Cは、薬物を含む高分子溶解液をモールドに充填する工程を示す概略図である。 図14は、ノズルの先端を示す斜視図である。 図15は、充填中のノズルの先端とモールドとの部分拡大図である。 図16は、移動中のノズルの先端とモールドとの部分拡大図である。 図17A〜Dは、別のマイクロニードルアレイの形成工程を示す説明図である。 図18A〜Cは、別のマイクロニードルアレイの形成工程を示す説明図である。 図19は、剥離工程を示す説明図である。 図20は、別の剥離工程を示す説明図である。 図21は、マイクロニードルアレイを示す説明図である。 図22の(A)及び(B)は、原版の平面図及び側面図である。 図23は、実施例で使用した充填装置の模式図である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本明細書において、「所定量の薬物を含む」とは、体表に穿刺する際に、薬効が発揮される量の薬物を含むことを意味する。「所定の量の薬物を含まない」とは、薬効が発揮される量の薬物を含んでいないことを意味し、薬物の量の範囲が、薬物を全く含まない場合から、薬効が発揮されない量までの範囲を含む。
以下、「所定量の薬物を含む」を「薬物を含む」と、「所定量の薬物を含まない」を「薬物を含まない」と称する。
本発明のマイクロニードルアレイにおいては、針部の水溶性高分子の比率を高くすることにより穿刺性が高められ、かつ針部先端を含む針部先端領域の薬物比率を高くすることによって薬効が向上する。上記の構成を有する本発明のマイクロニードルアレイによれば、皮下注射と同等の薬効を達成することができる。穿刺性を高めるためには、一般的には、針部の水溶性高分子の比率を高めればよい。しかし、針部の水溶性高分子の比率を高めると、薬物の比率が低下し、十分な薬効を達成できなくなる。本発明においては、針部を、針部の先端を含み、かつ針部全体の高さの20%の長さに相当する高さを有する針部先端領域と、上記以外の領域とに分けて、薬物の分布を検討した。そして、本発明においては、上記の針部先端領域における薬物比率を高くしつつ、針部全体の水溶性高分子の比率を高くすることによって、良好な穿刺性と高い薬効の両立を図ることに成功した。また、本明細書中の比較例に示す通り、穿刺性及び溶解性は良好であっても、良好な薬効を達成できない事例が存在する。即ち、良好な薬効の発現には、穿刺性及び溶解性以外の要因の存在が示唆され、例えば、十分量の薬物が血中に移行しないなどの事情が存在する場合には高い薬効は発現しなくなることが予想される。
上記した本発明の構成により、良好な穿刺性及び良好な溶解性とともに、高い薬効を達成できることは、従来からは全く予想できない効果である。
[マイクロニードルアレイの構成]
本発明のマイクロニードルアレイは、シート部、及び、シート部の上面に存在する複数の針部、を有するマイクロニードルアレイであって、
針部が、水溶性高分子及び薬物を含み、
針部の全固形分の50質量%以上が水溶性高分子であり、
針部先端を含む領域であって、針部全体の高さの20%の長さに相当する高さを有する針部先端領域において、水溶性高分子と薬物とが、下記式1の質量比率で存在し、
シート部が、水溶性高分子を含む、
マイクロニードルアレイ。
式1; 水溶性高分子:薬物=0.05〜0.9:1
本発明において複数とは、1つ以上のことを意味する。
本発明のマイクロニードルアレイは、薬物を効率的に皮膚中に投与するために、シート部及び針部を少なくとも含み、針部に薬物を担持させている。
本発明のマイクロニードルアレイとは、シート部の上面側に、複数の針部がアレイ状に配置されているデバイスである。針部は、シート部の上面側に配置されていることが好ましい。針部は、シート部の上面に直接配置されていてもよいし、あるいは針部は、シート部の上面に配置された錐台部の上面に配置されていてもよい。
シート部は、針部を支持するための土台であり、図1〜9に示すシート部116のような平面状の形状を有する。このとき、シート部の上面とは、面上に複数の針部がアレイ状に配置された面を指す。
シート部の面積は、特に限定されないが、0.005〜1000mmであることが好ましく、0.05〜500mmであることがより好ましく、0.1〜400mmであることがさらに好ましい。
シート部の厚さは、錐台部又は針部と接している面と、反対側の面の間の距離で表す。シート部の厚さとしては、1μm以上2000μm以下であることが好ましく、3μm以上1500μm以下であることがより好ましく、5μm以上1000μm以下であることがさらに好ましい。
シート部は、水溶性高分子を含む。シート部は、水溶性高分子から構成されていてもよいし、それ以外の添加物(例えば、二糖類など)を含んでいてもよい。なお、シート部には薬物を含まないことが好ましい。
シート部に含まれる水溶性高分子としては、特に限定されないが、多糖類(例えば、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、プルラン、デキストラン、デキストリン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アラビアゴム等)、タンパク質(例えば、ゼラチンなど)を挙げることができる。上記の成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。上記の中でも多糖類が好ましく、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プルラン、デキストラン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールがさらに好ましく、コンドロイチン硫酸が特に好ましい。
シート部には、二糖類を添加してもよく、二糖類としては、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハース又はセロビオースなどが挙げられ、特にスクロース、マルトース、トレハロースが好ましい。
マイクロニードルアレイは、シート部の上面側に、アレイ状に配置された複数の針部から構成される。針部は、先端を有する凸状構造物であって、鋭い先端を有する針形状に限定されるものではなく、先の尖っていない形状でもよい。
針部の形状の例としては、円錐状、多角錐状(四角錐状など)、又は紡錘状などが挙げられる。例えば、図1〜9に示す針部112のような形状を有し、針部の全体の形状が、円錐状又は多角錐状(四角錐状など)であってもよいし、針部側面の傾き(角度)を連続的に変化させた構造であってもよい。また、針部側面の傾き(角度)が非連続的に変化する、二層又はそれ以上の多層構造をとることもできる。
本発明のマイクロニードルアレイを皮膚に適用した場合、針部が皮膚に挿入され、シート部の上面又はその一部が皮膚に接するようになることが好ましい。
針部の高さ(長さ)は、針部の先端から、錐台部又はシート部(錐台部が存在しない場合)へ下ろした垂線の長さで表す。針部の高さ(長さ)は特に限定されないが、好ましくは50μm以上3000μm以下であり、より好ましくは100μm以上1500μm以下であり、より好ましくは100μm以上1000μm以下である。針部の長さが50μm以上であれば、薬物の経皮投与を行うことができ、また針部の長さが3000μm以下とすることで、針部が神経に接触することによる痛みの発生を防止し、また出血を回避できるため、好ましい。
錐台部(ただし、錐台部が存在しない場合には針部)とシート部の界面を基底部と呼ぶ。1つの針部の基底における最も遠い点間の距離が、50μm以上2000μm以下であることが好ましく、100μm以上1500μm以下であることがより好ましく、200μm以上1000μm以下であることがさらに好ましい。
針部は、1つのマイクロニードルアレイにあたり1〜2000本配置されることが好ましく、3〜1000本配置されることがより好ましく、5〜500本配置されることがさらに好ましい。1つのマイクロニードルアレイあたり2本の針部を含む場合、針部の間隔は、針部の先端から錐台部又はシート部(錐台部が存在しない場合)へ下ろした垂線の足の間の距離で表す。1つのマイクロニードルあたり3本以上の針部を含む場合、配列される針部の間隔は、全ての針部においてそれぞれ最も近接した針部に対して先端から錐台部又はシート部(錐台部が存在しない場合)へ下ろした垂線の足の間の距離を求め、その平均値で表す。針部の間隔は、0.1mm以上10mm以下であることが好ましく、0.2mm以上5mm以下であることがより好ましく、0.3mm以上3mm以下であることがさらに好ましい。
針部は、水溶性高分子及び薬物を含む。
針部が皮膚内に残留しても人体に支障が生じないように、水溶性高分子は生体溶解性物質であることが好ましい。
針部に含まれる水溶性高分子としては、特に限定されないが、多糖類(例えば、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、プルラン、デキストラン、デキストリン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アラビアゴム等)、タンパク質(例えば、ゼラチンなど)を挙げることができる。上記の成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。上記の中でも多糖類が好ましく、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プルラン、デキストラン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ヒドロキシエチルスターチが特に好ましい。更に、薬物との混合時に凝集しにくくするため、一般的に電荷を持たない多糖類がより好ましい。針部に含まれる水溶性高分子は、シート部に含まれる水溶性高分子と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
針部には、二糖類を添加してもよく、二糖類としては、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハース又はセロビオースなどが挙げられ、特にスクロース、マルトース、トレハロースが好ましい。
針部としては、二種以上の水溶性高分子、二糖類、及び薬物を含む構成とすることが好ましい。二種以上の水溶性高分子としては、特に限定されないが、ヒドロキシエチルスターチと他の水溶性高分子の組み合わせが好ましい。
本発明においては、針部の全固形分の50質量%以上が水溶性高分子である。好ましくは針部の全固形分の55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上が水溶性高分子である。
上限は特に限定されないが、好ましくは、針部の全固形分の99質量%以下が水溶性高分子であり、より好ましくは、針部の全固形分の95質量%以下が水溶性高分子であり、さらに好ましくは、針部の全固形分の90質量%以下が水溶性高分子である。
針部の全固形分の50質量%以上を水溶性高分子とすることによって、良好な穿刺性及び良好な薬効を達成することができる。
針部の全固形分における水溶性高分子の比率は、以下の方法により測定することができるが、特に限定されない。測定方法としては、たとえば、作製したマイクロニードルアレイの針部を切断し、針部を緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)など、針部を構成する水溶性高分子を溶解するのに適した緩衝液)中に溶解させ、溶解液中の水溶性高分子の量を高速液体クロマトグラフィ法にて測定することができる。
本発明においては、針部先端を含む領域であって、針部全体の高さの20%の長さに相当する高さを有する針部先端領域において、水溶性高分子と薬物とが、下記式1の質量比率で存在する。
式1; 水溶性高分子:薬物=0.05〜0.9:1
針部先端領域とは、針部先端を含む針部の部分領域である。図1に示す通り、針部先端領域は、針部全体の高さの20%の長さに相当する高さを有する領域である。
図1の左図は、シート部116の表面に針部112が形成されている場合を示し、図1の右図は、シート部116の表面に錐台部113が形成され、錐台部113の上面に針部112が形成されている場合を示す。針部112の高さをH(針部全体の高さ)。図1において、針部先端を含み、針部全体の高さの20%の長さに相当する高さを有する領域を「20%」で表示した。
針部先端領域において、水溶性高分子と薬物とが、上記式1の質量比率で存在することによって、良好な薬効を発揮することができるようになる。
針部先端領域において、水溶性高分子と薬物とは、好ましくは下記式1Aの質量比率で存在し、より好ましくは下記式1Bの質量比率で存在し、より好ましくは下記式1Cの質量比率で存在し、さらに好ましくは下記式1Dの質量比率で存在する。
式1A; 水溶性高分子:薬物=0.1〜0.8:1
式1B; 水溶性高分子:薬物=0.1〜0.7:1
式1C; 水溶性高分子:薬物=0.2〜0.7:1
式1D; 水溶性高分子:薬物=0.3〜0.6:1
また、針部が、水溶性高分子、二糖類及び薬物を含む場合には、針部先端を含む領域であって、針部全体の高さの20%の長さに相当する高さを有する針部先端領域において、水溶性高分子、二糖類及び薬物が、下記式2の質量比率で存在することが好ましい。
式2; 水溶性高分子 + 二糖類:薬物=0.05〜5:1
針部先端領域において、水溶性高分子、二糖類及び薬物が、上記式2の質量比率で存在することによって、良好な穿刺性及び良好な溶解性を通じて良好な薬効を達成することができる。
針部先端領域において、水溶性高分子、二糖類及び薬物は、より好ましくは下記式2Aの質量比率で存在し、より好ましくは下記式2Bの質量比率で存在し、さらに好ましくは下記式2Cの質量比率で存在し、特に好ましくは下記式2Dの質量比率で存在する。
式2A; 水溶性高分子 + 二糖類:薬物=0.1〜5:1
式2B; 水溶性高分子 + 二糖類:薬物=0.1〜4:1
式2C; 水溶性高分子 + 二糖類:薬物=0.2〜4:1
式2D; 水溶性高分子 + 二糖類:薬物=0.3〜3:1
針部先端領域における水溶性高分子と薬物の質量比率、並びに針部先端領域における水溶性高分子、二糖類及び薬物の質量比率は、以下の方法で測定することができるが、特に限定されない。
質量比の測定方法としては、たとえば、針部先端を含む領域であって、針部全体の高さの20%の長さに相当する高さを有する針部先端領域を、シート部と並行に切断し、切断した針部先端領域を、緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)など、針部を構成する水溶性高分子及び薬物を溶解するのに適した緩衝液)中に溶解させる。溶解液中の薬物量をELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法などにより測定し、水溶性高分子及び二糖類の量をそれぞれ高速液体クロマトグラフィ法にて測定することができる。
薬物とは、人体に対して作用を及ぼす効能を有する物質である。薬物は、ペプチド(ペプチドホルモンなどを含む)又はその誘導体、タンパク質、核酸、多糖類、ワクチン、アジュバント、水溶性低分子化合物に属する医薬化合物、又は化粧品成分から選択することが好ましい。薬物の分子量は特には限定されないが、タンパク質の場合には分子量500以上のものが好ましい。
ペプチド又はその誘導体及びタンパク質としては、例えば、カルシトニン、副腎皮質刺激ホルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)、ヒトPTH(1→34)、インスリン、エキセンディン、セクレチン、オキシトシン、アンギオテンシン、β−エンドルフィン、グルカゴン、バソプレッシン、ソマトスタチン、ガストリン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、エンケファリン、ニューロテンシン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、ブラジキニン、サブスタンスP、ダイノルフィン、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン、インターフェロン、インターロイキン、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、グルタチオンパーオキシダーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ、デスモプレシン、ソマトメジン、エンドセリン、及びこれらの塩等が挙げられる。
ワクチンとしては、インフルエンザ抗原(インフルエンザワクチン)、HBs抗原(B型肝炎ウイルス表面抗原)、HBe抗原(Hepatitis Be抗原)、BCG(Bacille de Calmette et Guerin)抗原、麻疹抗原、風疹抗原、水痘抗原、黄熱抗原、帯状疱疹抗原、ロタウイルス抗原、Hib(インフルエンザ桿菌b型)抗原、狂犬病抗原、コレラ抗原、ジフテリア抗原、百日咳抗原、破傷風抗原、不活化ポリオ抗原、日本脳炎抗原、ヒトパピローマ抗原、あるいはこれらの2〜4種の混合抗原等が挙げられる。
アジュバントとしては、リン酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム塩、MF59、AS03などのエマルジョン、あるいは、リポソーム、植物由来成分、核酸、バイオポリマー、サイトカイン、ペプチド、タンパク、糖鎖等があげられる。
上記の中でも、薬物としては、ペプチドホルモン、ワクチン及びアジュバントからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。ペプチドホルモンとしては成長ホルモンが特に好ましく、ワクチンとしてはインフルエンザワクチンが特に好ましい。
針部全体における薬物の含有量は、特に限定されないが、針部の固形分質量に対して、好ましくは1〜60質量%であり、より好ましくは1〜50質量%であり、特に好ましくは1〜45質量%である。
以下、添付の図面に従って、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
図2〜図9は、マイクロニードルアレイの一部拡大図であるマイクロニードル110を示している。本発明のマイクロニードルアレイは、シート部116の表面に複数個の針部112が形成されることで、構成される(図においては、シート部116上に1つの針部112のみ、あるいは1つの錘台部113と1つの針部112を表示し、これをマイクロニードル110と称する)。
図2Aにおいて、針部112は円錐状の形状を有し、図2Bにおいて、針部112は四角錐状の形状を有している。図2Cにおいて、Hは針部112の高さを、Wは針部112の直径(幅)を、Tはシート部116の高さ(厚み)を示す。
図3及び図4は、シート部116の表面に、錐台部113及び針部112が形成された別の形状を有するマイクロニードル110を示している。図3において、錐台部113は、円錐台の形状を有し、針部112は円錐の形状を有している。また、図4において、錐台部113は、四角錐台の形状を有し、針部112は四角錐の形状を有している。ただし、針部の形状は、これらの形状に限定されるものではない。
図5は、図3及び図4に示されるマイクロニードル110の断面図である。図5において、Hは針部112の高さを、Wは基底部の直径(幅)を、Tはシート部116の高さ(厚み)を示す。
本発明のマイクロニードルアレイは、図2Cのマイクロニードル110の形状より、図5のマイクロニードル110の形状とすることが好ましい。このような構造をとることで、針部全体の体積が大きくなり、マイクロニードルアレイの製造時において、より多くの薬物を針部の上端に集中させることができる。
図6及び図7は、さらに別の形状を有するマイクロニードル110を示している。
図6に示される針部第1層112Aは円錐状の形状を有し、針部第2層112Bは円柱状の形状を有している。図7に示される針部第1層112Aは四角錐状の形状を有し、針部第2層112Bは四角柱状の形状を有している。ただし、針部の形状は、これらの形状に限定されるものではない。
図8は、図6及び図7に示されるマイクロニードル110の断面図である。図8において、Hは針部112の高さを、Wは基底部の直径(幅)を、Tはシート部116の高さ(厚み)を示す。
図9は、針部112の側面の傾き(角度)が連続的に変化した別の形状のマイクロニードルの断面図である。図9において、Hは針部112の高さを、Tはシート部116の高さ(厚み)を示す。
本発明のマイクロニードルアレイにおいて、針部は、横列について1mm当たり約0.1〜10本の間隔で配置されていることが好ましい。マイクロニードルアレイは、1cm当たり1〜10000本のマイクロニードルを有することがより好ましい。マイクロニードルの密度を1本/cm以上とすることにより効率良く皮膚を穿孔することができ、またマイクロニードルの密度を10000本/cm以下とすることにより、マイクロニードルアレイが十分に穿刺することが可能になる。針部の密度は、好ましくは10〜5000本/cmであり、さらに好ましくは25〜1000本/cmであり、特に好ましくは25〜400本/cmである。
本発明のマイクロニードルアレイは、乾燥剤と一緒に密閉保存されている形態で供給することができる。乾燥剤としては、公知の乾燥剤(例えば、シリカゲル、生石灰、塩化カルシウム、シリカアルミナ、シート状乾燥剤など)を使用することができる。
[マイクロニードルアレイの製造方法]
本発明のマイクロニードルアレイは、例えば、特開2013−153866号公報又は国際公開WO2014/077242号公報に記載の方法に準じて以下の方法により製造することができる。
(モールドの作製)
図10Aから10Cは、モールド(型)の作製の工程図である。図10Aに示すように、モールドを作製するための原版を先ず作製する。この原版11の作製方法は2種類ある。
1番目の方法は、Si基板上にフォトレジストを塗布した後、露光、現像を行う。そして、RIE(リアクティブイオンエッチング)等によるエッチングを行うことにより、原版11の表面に円錐の形状部(凸部)12のアレイを作製する。尚、原版11の表面に円錐の形状部を形成するようにRIE等のエッチングを行う際には、Si基板を回転させながら斜め方向からのエッチングを行うことにより、円錐の形状を形成することが可能である。2番目の方法は、Ni等の金属基板に、ダイヤモンドバイト等の切削工具を用いた加工により、原版11の表面に四角錘などの形状部12のアレイを形成する方法がある。
次に、モールドの作製を行う。具体的には、図10Bに示すように、原版11よりモールド13を作製する。方法としては以下の4つの方法が考えられる。
1番目の方法は、原版11にPDMS(ポリジメチルシロキサン、例えば、ダウコーニング社製のシルガード184(登録商標))に硬化剤を添加したシリコーン樹脂を流し込み、100℃で加熱処理し硬化した後に、原版11より剥離する方法である。2番目の方法は、紫外線を照射することにより硬化するUV(Ultraviolet)硬化樹脂を原版11に流し込み、窒素雰囲気中で紫外線を照射した後に、原版11より剥離する方法である。3番目の方法は、ポリスチレンやPMMA(ポリメチルメタクリレート)等のプラスチック樹脂を有機溶剤に溶解させた溶液を剥離剤の塗布された原版11に流し込み、乾燥させることにより有機溶剤を揮発させて硬化させた後に、原版11より剥離する方法である。4番目の方法は、Ni電鋳により反転品を作成する方法である。
これにより、原版11の円錐形又は角錐形の反転形状である針状凹部15が2次元配列で配列されたモールド13が作製される。このようにして作製されたモールド13を図10Cに示す。
図11は他の好ましいモールド13の態様を示したものである。針状凹部15は、モールド13の表面から深さ方向に狭くなるテーパ状の入口部15Aと、深さ方向に先細りの先端凹部15Bとを備えている。入口部15Aをテーパ形状とすることで、水溶性高分子溶解液を針状凹部15に充填しやすくなる。
図12は、マイクロニードルアレイの製造を行う上で、より好ましいモールド複合体18の態様を示したものである。図12中、(A)部はモールド複合体18を示す。図12中、(B)部は、(A)部のうち、円で囲まれた部分の拡大図である。
図12の(A)部に示すように、モールド複合体18は、針状凹部15の先端(底)に空気抜き孔15Cが形成されたモールド13、及び、モールド13の裏面に貼り合わされ、気体は透過するが液体は透過しない材料で形成された気体透過シート19と、を備える。空気抜き孔15Cは、モールド13の裏面を貫通する貫通孔として形成される。ここで、モールド13の裏面とは、空気抜き孔15Cが形成された側の面を言う。これにより、針状凹部15の先端は空気抜き孔15C、及び気体透過シート19を介して大気と連通する。
このようなモールド複合体18を使用することで、針状凹部15に充填される高分子溶解液は透過せず、針状凹部15に存在する空気のみを針状凹部15から追い出すことができる。これにより、針状凹部15の形状を高分子に転写する転写性が良くなり、よりシャープな針部を形成することができる。
空気抜き孔15Cの径D(直径)としては、1〜50μmの範囲が好ましい。空気抜き孔15Cの径Dが1μm未満の場合、空気抜き孔としての役目を十分に果たせない。また、空気抜き孔15Cの径Dが50μmを超える場合、成形されたマイクロニードルの先端部のシャープ性が損なわれる。
気体は透過するが液体は透過しない材料で形成された気体透過シート19としては、例えば気体透過性フィルム(住友電気工業社製、ポアフロン(登録商標)、FP−010)を好適に使用できる。
モールド13に用いる材料としては、弾性素材又は金属製素材を用いることができ、弾性素材が好ましく、気体透過性の高い素材が更に好ましい。気体透過性の代表である酸素透過性は、1×10−12(mL/s・m・Pa)以上が好ましく、1×10−10(mL/s・m・Pa)以上がさらに好ましい。なお、1mLは、10−6である。気体透過性を上記範囲とすることにより、モールド13の凹部に存在する空気を型側から追い出すことができ、欠陥の少ないマイクロニードルアレイを製造することができる。このような材料として、具体的には、シリコーン樹脂(例えば、ダウコーニング社製のシルガード184(登録商標)、信越化学工業株式会社のKE−1310ST(品番))、紫外線硬化樹脂、プラスチック樹脂(例えば、ポリスチレン、PMMA(ポリメチルメタクリレート))を溶融、又は溶剤に溶解させたものなどを挙げることができる。これらの中でもシリコーンゴム系の素材は、繰り返し加圧による転写に耐久性があり、かつ素材との剥離性がよいため好ましい。また、金属製素材としては、Ni、Cu、Cr、Mo、W、Ir、Tr、Fe、Co、MgO、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、α−酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム、ステンレス(例えば、ボーラー・ウッデホルム社(Bohler-Uddeholm KK)のスタバックス材(STAVAX)(商標))などやその合金を挙げることができる。枠14の材質としては、モールド13の材質と同様の材質のものを用いることができる。
(水溶性高分子溶解液)
本発明においては、針部の少なくとも一部を形成するための薬物を含む水溶性高分子溶解液、及び、シート部を形成するための水溶性高分子溶解液、を準備することが好ましい。
水溶性高分子の種類は、本明細書上記した通りである。
上記のいずれの水溶性高分子溶解液には、二糖類を混合してもよく、二糖類の種類は、本明細書中上記した通りである。
水溶性高分子溶解液中の水溶性高分子の濃度は、使用する水溶性高分子の種類によっても異なるが、一般的には1〜50質量%であることが好ましい。また、溶解に用いる溶媒は、温水以外であっても揮発性を有するものであればよく、メチルエチルケトン(MEK)、アルコールなどを用いることができる。
(針部の形成)
図13Aに示すように、2次元配列された針状凹部15を有するモールド13が、基台20の上に配置される。モールド13には、5×5の2次元配列された、2組の複数の針状凹部15が形成されている。薬物を含む水溶性高分子溶解液22を収容するタンク30、タンクに接続される配管32、及び、配管32の先端に接続されたノズル34、を有する液供給装置36が準備される。なお、本例では、針状凹部15が5×5で2次元配列されている場合を例示しているが、針状凹部15の個数は5×5に限定されるものではなく、M×N(M及びNはそれぞれ独立に1以上の任意の整数を示し、好ましくは2〜30、より好ましくは3〜25、さらに好ましくは3〜20である)で2次元配列されていればよい。
図14はノズルの先端部の概略斜視図を示している。図14に示すように、ノズル34の先端には平坦面であるリップ部34A及びスリット形状の開口部34Bを備えている。スリット形状の開口部34Bにより、例えば、1列を構成する複数の針状凹部15に同時に、薬物を含む水溶性高分子溶解液22を充填することが可能となる。開口部34Bの大きさ(長さと幅)は、一度に充填すべき針状凹部15の数に応じて適宜選択される。開口部34Bの長さを長くすることで、より多くの針状凹部15に一度に薬物を含む高分子溶解液22を充填することができる。これにより、生産性を向上させることが可能となる。
ノズル34に用いる材料としては、弾性素材又は金属製素材を用いることができる。例えば、テフロン(登録商標)、ステンレス鋼(SUS(Steel Special Use Stainless))、チタン等が挙げられる。
図13Bに示すように、ノズル34の開口部34Bが針状凹部15の上に位置調整される。ノズル34のリップ部34Aとモールド13の表面とは接触している。液供給装置36から薬物を含む水溶性高分子溶解液22がモールド13に供給され、ノズル34の開口部34Bから薬物を含む水溶性高分子溶解液22が針状凹部15に充填される。本実施形態では、1列を構成する複数の針状凹部15に薬物を含む高分子溶解液22が同時に充填される。ただし、これに限定されず、針状凹部15に一つずつ充填するようにすることもできる。
モールド13が気体透過性を有する素材で構成される場合、モールド13の裏面から吸引することで薬物を含む溶解液22を吸引でき、針状凹部15内への薬物を含む高分子溶解液22の充填を促進させることができる。
図13Bを参照して充填工程に次いで、図13Cに示すように、ノズル34のリップ部34Aとモールド13の表面とを接触させながら、開口部34Bの長さ方向と垂直方向に液供給装置36を相対的に移動し、ノズル34を、薬物を含む水溶性高分子溶解液22が充填されていない針状凹部15に移動する。ノズル34の開口部34Bが針状凹部15の上に位置調整される。本実施の形態では、ノズル34を移動させる例で説明したが、モールド13を移動させてもよい。
ノズル34のリップ部34Aとモールド13の表面とを接触させて移動しているので、ノズル34がモールド13の針状凹部15以外の表面に残る薬物を含む水溶性高分子溶解液22を掻き取ることができる。薬物を含む高分子溶解液22をモールド13の針状凹部15以外に残らないようにすることができる。
モールド13へのダメージを減らすことと、モールド13の圧縮による変形をできるだけ抑制するため、移動する際のノズル34のモールド13への押付け圧はできる限り小さい方が好ましい。また、薬物を含む高分子溶解液22がモールド13の針状凹部15以外に残らないようにするため、モールド13もしくはノズル34の少なくとも一方がフレキシブルな弾性変形する素材であることが望ましい。
図13Bの充填工程と、図13Cの移動工程とを繰り返すことで、5×5の2次元配列された針状凹部15に薬物を含む水溶性高分子溶解液22が充填される。5×5の2次元配列された針状凹部15に薬物を含む水溶性高分子溶解液22が充填されると、隣接する5×5の2次元配列された針状凹部15に液供給装置36を移動し、図13Bの充填工程と、図13Cの移動工程とを繰り返す。隣接する5×5の2次元配列された針状凹部15にも薬物を含む水溶性高分子溶解液22が充填される。
上述の充填工程と移動工程について、(1)ノズル34を移動しながら薬物を含む水溶性高分子溶解液22を針状凹部15に充填する態様でもよいし、(2)ノズル34の移動中に針状凹部15の上でノズル34を一旦静止して薬物を含む高分子溶解液22を充填し、充填後にノズル34を再度移動させる態様でもよい。充填工程と移動工程との間、ノズル34のリップ部34Aがモールド13の表面に接触している。
図15は、薬物を含む水溶性高分子溶解液22を針状凹部15に充填中におけるノズル34の先端とモールド13との部分拡大図である。図15に示すように、ノズル34内に加圧力P1を加えることで、針状凹部15内へ薬物を含む水溶性高分子溶解液22を充填するのを促進することができる。さらに、針状凹部15内へ薬物を含む水溶性高分子溶解液22を充填する際、ノズル34をモールド13の表面に接触させる押付け力P2を、ノズル34内の加圧力P1以上とすることが好ましい。押付け力P2≧加圧力P1とすることにより、薬物を含む水溶性高分子溶解液22が針状凹部15からモールド13の表面に漏れ出すのを抑制することができる。
図16は、ノズル34の移動中における、ノズル34の先端とモールド13との部分拡大図である。ノズル34をモールド13に対して相対的に移動する際、ノズル34をモールド13の表面に接触させる押付け力P3を、充填中のノズル34をモールド13の表面に接触させる押付け力P2より小さくすることが好ましい。モールド13へのダメージを減らし、モールド13の圧縮による変形を抑制するためである。
5×5で構成される複数の針状凹部15への充填が完了すると、ノズル34は、隣接する5×5で構成される複数の針状凹部15へ移動される。液供給に関して、隣接する5×5で構成される複数の針状凹部15へ移動する際、薬物を含む水溶性高分子溶解液22の供給を停止するのが好ましい。5列目の針状凹部15から次の1列目の針状凹部15までは距離がある。その間をノズル34が移動する間、薬物を含む水溶性高分子溶解液22を供給し続けると、ノズル34内の液圧が高くなりすぎる場合がある。その結果、ノズル34から薬物を含む高分子溶解液22がモールド13の針状凹部15以外に流れ出る場合があり、これを抑制するため、ノズル34内の液圧を検出し、液圧が高くなりすぎると判定した際には薬物を含む高分子溶解液22の供給を停止するのが好ましい。
なお、上記においてはノズルを有するディスペンサーを用いて薬物を含む高分子溶解液を供給する方法を説明したが、ディスペンサーによる塗布に加えて、バー塗布、スピン塗布、スプレーなどによる塗布などを適用することもできる。
本発明においては、薬物を含む水溶性高分子溶解液を針状凹部に供給した後、乾燥処理を実施することが好ましい。
好ましくは、本発明マイクロニードルアレイは、薬物を含む第一の水溶性高分子溶解液を充填した針部形成用モールドを、乾燥することによって針部の一部を形成する工程;及び第二の水溶性高分子溶解液を、上記で形成された針部の一部の上面に充填して乾燥する工程によって製造することができる。
薬物を含む第一の水溶性高分子溶解液を充填した針部形成用モールドを乾燥する際の条件としては、乾燥開始後30分から300分間経過してから、第一の水溶性高分子溶解液の含水率が20%以下に到達する条件であることが好ましい。上記の条件で乾燥を行うことによって、「針部先端領域において水溶性高分子と薬物とが式1の質量比率で存在する」という構成を達成することの一助となる場合がある。
特に好ましくは、上記の乾燥は、薬物が失効しない温度以下に保ち、かつ乾燥開始後60分以上経過してから、水溶性高分子溶解液の含水率が20%以下に到達するように制御すること。
上記した乾燥速度の制御の方法としては、例えば、温度、湿度、乾燥風量、容器の使用、容器の容積及び/又は形状など、乾燥を遅らすことが可能な任意の手段を取ることができる。
乾燥は、好ましくは、薬物を含む第一の水溶性高分子溶解液を充填した針部形成用モールドを、容器を被せた状態又は容器に収容した状態で、行うことができる。
乾燥の際の温度は、好ましくは1〜45℃であり、より好ましくは1〜40℃である。
乾燥の際の相対湿度は、好ましくは10〜95%であり、より好ましくは20〜95%であり、より好ましくは30〜95%である。
(シート部の形成)
シート部を形成する工程について、いくつかの態様を説明する。
シート部を形成する工程について、第1の態様について図17Aから17Dを参照して説明する。モールド13の針状凹部15に薬物を含む水溶性高分子溶解液22をノズル34から充填する。次いで、図17Bに示すように、薬物を含む高分子溶解液22を乾燥固化させることで、針状凹部15内に薬物を含む層120が形成される。次いで、図17Cに示すように、薬物を含む層120が形成されたモールド13に、水溶性高分子溶解液24をディスペンサーにより塗布する。ディスペンサーによる塗布に加えて、バー塗布、スピン塗布、スプレーなどによる塗布などを適用することができる。薬物を含む層120は固化されているので、薬物が、水溶性高分子溶解液24に拡散するのを抑制することができる。次いで、図17Dに示すように、水溶性高分子溶解液24を乾燥固化させることで、複数の針部112、錐台部113及び、シート部116から構成されるマイクロニードルアレイ1が形成される。
第1の態様において、薬物を含む水溶性高分子溶解液22、及び水溶性高分子溶解液24の針状凹部15内への充填を促進させるために、モールド13の表面からの加圧、及び、モールド13の裏面からの減圧吸引を行うことも好ましい。
次に、第2の態様について図18Aから18Dを参照して説明する。図18Aに示すように、モールド13の針状凹部15に薬物を含む高分子溶解液22をノズル34から充填する。次いで、図17Bと同様に、薬物を含む水溶性高分子溶解液22を乾燥固化させることで、薬物を含む層120が針状凹部15内に形成される。次に、図18Bに示すように、別の支持体29の上に、水溶性高分子溶解液24を塗布する。支持体29は限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース、ガラス等を使用することができる。次に、図18Cに示すように、針状凹部15に薬物を含む層120が形成されたモールド13に、支持体29の上に形成された水溶性高分子溶解液24を重ねる。これにより、水溶性高分子溶解液24を針状凹部15の内部に充填させる。薬物を含む層は固化されているので、薬物が、水溶性高分子溶解液24に拡散するのを抑制することができる。次に、水溶性高分子溶解液24、を乾燥固化させることで、複数の針部112、錐台部113及びシート部116から構成されるマイクロニードルアレイ1が形成される。
第2の態様において、水溶性高分子溶解液24の針状凹部15内への充填を促進させるために、モールド13の表面からの加圧及びモールド13の裏面からの減圧吸引を行うことも好ましい。
水溶性高分子溶解液24を乾燥させる方法として、高分子溶解液中の溶媒を揮発させる工程であればよい。その方法は特に限定するものではなく、例えば加熱、送風、減圧等の方法が用いられる。乾燥処理は、1〜50℃で1〜72時間の条件で行うことができる。送風の場合には、0.1〜10m/秒の温風を吹き付ける方法が挙げられる。乾燥温度は、薬物を含む高分子溶解液22内の薬物を熱劣化させない温度であることが好ましい。
(剥離)
マイクロニードルアレイをモールド13から剥離する方法は特に限定されない。剥離の際に針状凸部が曲がったり折れたりしないことが好ましい。具体的には、図19に示すように、マイクロニードルアレイの上に、粘着性の粘着層が形成されているシート状の基材40を付着させた後、端部から基材40をめくるように剥離を行うことができる。ただし、この方法では針状凸部が曲がる可能性がある。そのため、図20に示すように、マイクロニードルアレイの上の基材40に吸盤(図示せず)を設置し、エアーで吸引しながら垂直に引き上げる方法を適用することができる。なお、基材40として支持体29を使用してもよい。
図21はモールド13から剥離されたマイクロニードルアレイ2を示している。マイクロニードルアレイ2は、基材40、基材40の上に形成された針部112、錐台部113及びシート部116で構成される。針部112は、円錐形状又は多角錐形状を少なくとも先端に有しているが、針部112はこの形状に限定されるものではない。
以下に、本発明の実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例に示される材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
本発明のマイクロニードルアレイの製造法としては、特に限定されないが、(1)モールドの製造工程、(2)薬物及び水溶性高分子を調製する工程、(3)(2)で得た液をモールドに充填し、針部の上端部を形成する工程、(4)水溶性高分子をモールドに充填し、針部の下端部およびシート部を形成する工程、(5)モールドから剥離する工程、を含む製造法によって得ることが好ましい。
ヒト成長ホルモン(hGH)内包マイクロニードルアレイの作製
(モールドの製造)
一辺40mmの平滑なNi板の表面に、図22に示すような、底面が500μmの直径D1で、150μmの高さH1の円錐台50上に、300μmの直径D2で、500μmの高さH2の円錐52が形成された針状構造の形状部12を、1000μmのピッチL1にて四角形状に100本の針を2次元正方配列に研削加工することで、原版11を作製した。この原版11の上に、シリコンゴム(ダウ・コーニング社製SILASTIC MDX4-4210)を0.6mmの厚みで膜を形成し、膜面から原版11の円錐先端部50μmを突出させた状態で熱硬化させ、剥離した。これにより、約30μmの直径の貫通孔を有するシリコンゴムの反転品を作製した。このシリコンゴム反転品の、中央部に10列×10行の2次元配列された針状凹部が形成された、一辺30mmの平面部外を切り落としたものをモールドとして用いた。針状凹部の開口部が広い方をモールドの表面とし、30μmの直径の貫通孔(空気抜き孔)を有する面をモールドの裏面とした。
(ヒト成長ホルモン(hGH)を含む水溶性高分子溶解液の調製)
ヒト成長ホルモン(Pfizer社、ジェノトロピン(登録商標))を遠心限外濾過法によって濃縮した後、ヒドロキシエチルスターチ(HES) (Fresenius Kabi) 、スクロース(Suc) (日本薬局方グレード 和光純薬)と混合した水溶液を調製し、薬物を含む水溶性高分子溶解液とした。各溶解液については、下記表に記載した通りである。
(シート部を形成する水溶性高分子溶解液の調製)
コンドロイチン硫酸(マルハニチロ食品社製)と、二糖類(スクロース)を、マイクロニードルアレイ成形時に表2の組成となるように任意の濃度比率で水に溶解し、シート部を形成する水溶性高分子溶解液を調製した。
(薬物を含む高分子溶解液の充填及び乾燥)
図23に示す充填装置を使用した。充填装置は、モールドとノズルの相対位置座標を制御するX軸駆動部61及びZ軸駆動部62、ノズル63を取り付け可能な液供給装置64(武蔵エンジニアリング社製超微量定量ディスペンサーSMP-III)、モールド69を固定する吸引台65、モールド表面形状を測定するレーザー変位計66(パナソニック社製HL−C201A)、ノズル押し込み圧力を測定するロードセル67(共和電業製LCX−A−500N)、及び表面形状及び押し付け圧力の測定値のデータを基にZ軸を制御する制御機構68を備える。
水平な吸引台上に一辺15mmの気体透過性フィルム(住友電気工業社製、ポアフロン(登録商標)、FP−010)を置き、その上に表面が上になるようにモールドを設置した。モールド裏面方向からゲージ圧90kPaの吸引圧で減圧して、気体透過性フィルムとモールドをバキューム台に固定した。
図14に示すような形状のSUS製(ステンレス鋼)のノズルを準備し、長さ20mm、幅2mmのリップ部の中央に、長さ12mm、幅0.2mmのスリット状の開口部を形成した。このノズルを液供給装置に接続した。3mLの薬物を含む水溶性高分子溶解液を、液供給装置とノズル内部に装填した。開口部を、モールドの表面に形成された複数の針状凹部で構成される1列目と平行となるようにノズルを調整した。1列目に対して2列目と反対方向に2mmの間隔をおいた位置で、ノズルを1.372×10Pa(0.14kgf/cm)の圧力でモールドに押し付けた。ノズルを押し付けたまま、押し付け圧の変動が±0.490×10Pa(0.05kgf/cm)に収まるようにZ軸を制御しつつ、0.5mm/秒で開口部の長さ方向と垂直方向に移動させながら、液供給装置にて、薬物を含む溶解液を、0.15μL/秒で20秒間、開口部から放出した。2次元配列された複数の針状凹部の孔パターンを通過して、2mm間隔を置いた位置でノズルの移動を停止し、ノズルをモールドから離した。
薬物を含む水溶性高分子溶解液を充填したモールドを、温度23℃、相対湿度45%の環境下で、容器を被せた状態で静置し、乾燥した。このとき、薬物を含む水溶性高分子溶解液は、徐々に乾燥され、60分以上経過した後に、含水率が20%以下となるようにした。
(シート部の形成及び乾燥)
シート部を形成する支持体としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート(175μm)をクラウドリムーバー(Victor jvc社)を用いて、以下条件(使用ガス:O、ガス圧:13Pa、高周波(RF)電力:100W、照射時間:3分、O流量:SV250、目標真空度(CCG):2.0×10-4Pa)にて親水化プラズマ処理したものを用いる。処理を施したPET上に、水溶性高分子溶解液を、表裏面を75μmの膜厚で塗布した。一方で、薬物を含む高分子溶解液を充填したモールドを吸引台に吸引固定した。水溶性高分子溶解液を塗布したPETの表面側を、モールド表面を向かい合わせに配置し、更にPETとモールド間の空隙、また、PETのモールドと反対側の空間を2分間減圧した。減圧後、PETのモールドと反対側の空間のみ大気圧開放することで、水溶性高分子溶解液を塗布したPETと、モールドを貼り合せた。10分間接触状態を維持した後、PETとモールドが貼り合わさって一体となったものを乾燥させた。
(剥離)
乾燥固化したマイクロニードルアレイをモールドから慎重に剥離することで、ヒト成長ホルモンを内包したマイクロニードルアレイが形成された。本マイクロニードルは、錘台部と針部から構成されており、針部が、高さ:約460μm、基底部の幅:約270μm、錘台部が、高さ約130μm、上底面直径約270μm、下底面直径約460μmの円錐台構造であり、シート部厚さ約205μm(このうちポリエチレンテレフタラート約175μm)針本数100本、針の間隔約1mmで正方配置されている。
ヒト成長ホルモン(hGH)内包マイクロニードルアレイの針部分布
作製したマイクロニードルアレイの針部と錘台部の界面をシート部と並行に切断し、針部を緩衝液中に浸漬させ、溶解させた。溶解液中のhGH 量をELISA (Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法にて測定し、HES量、Suc量、コンドロイチン硫酸(CS)量を高速液体クロマトグラフィ法にて測定した。
次いで、針部先端を含む領域であって、針部全体の高さの20%の長さに相当する高さを有する針部先端領域を、シート部と並行に切断し、切断した針部先端領域を、Buffer液中に溶解させた。溶解液中のhGH量をELISA (Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法にて測定し、HES量、Suc量、CS量をそれぞれ高速液体クロマトグラフィ法にて測定した。これより、表2のマイクロニードルアレイを得たことを確認した。
ヒト成長ホルモン(hGH)内包マイクロニードルアレイの穿刺性評価
摘出したブタ皮膚(Yucatan Micropig Skin Set、Sinclair Bio Resources LLC)を購入し、解凍後、ハサミで脂肪を取り除いた脂肪除去摘出ブタ皮膚を用意した。作製したマイクロニードルを乾燥剤と共に3日以上密封乾燥した後、25℃、相対湿度60%の環境下で開封し、開封後5分以内に脂肪除去摘出ブタ皮膚に穿刺した。このときに穿刺できた針の本数を計数し、以下の基準で評価した結果を表2に示す。
マイクロニードルアレイの全針の80%以上の針が穿刺された場合:A
マイクロニードルアレイの全針の60%以上80%未満の針が穿刺された場合:B
マイクロニードルアレイの全針の60%未満の針が穿刺された場合:C
ヒト成長ホルモン(hGH)内包マイクロニードルアレイの溶解性評価
作製したマイクロニードルアレイを、上記緩衝液に溶解し、ELISA法にて測定した。マイクロニードルアレイ中の実測されたhGH 定量値の理論値に対する回収率を溶解性の指標として、以下の基準で評価した結果を表2に示す。
回収率が95%以上のもの:A
回収率が70%以上95%未満のもの:B
回収率が70%未満のもの:C
ミニ豚へのマイクロニードルアレイによる血中動態試験
本例の効果を、血中動態試験により評価した。ミニ豚(Gottingen mini-pig、オス、5週齢、約10kg)を購入し、hGHの投与試験を行った。麻酔下でミニ豚の背面を除毛した後、マイクロニードルアレイを10分間穿刺した。皮下注射(S.C.)に対する相対的バイオアベイラビリティー(BA)を評価するため、同様の条件のミニ豚に対して、対象となるマイクロニードルと同量のhGHを皮下注射にて投与した。
投与前および投与後、5、15、20、30、45分、1、2、4、6時間後の各時点で、カテーテルを介して0.5mLずつ経時採血を実施した。採取した血液から血漿液を回収し、血漿中のhGH量をELISA法にて測定した。血中のhGH量をグラフ化してAUC(血中濃度−時間曲線下面積、area under the blood concentration-time curve)を算出し、皮下注射に対する相対的BAを算出し、以下の基準で評価した結果を示す。
皮下注射に対する相対的BAが70%以上のもの:A
皮下注射に対する相対的BAが70%未満のもの:C
インフルエンザワクチン(Flu)内包マイクロニードルアレイの作製
(モールドの製造)
ヒト成長ホルモン(hGH)内包マイクロニードルアレイと同様の方法で作製した。
(インフルエンザワクチンを含む水溶性高分子溶解液の調製)
季節性3種混合インフルエンザワクチン(デンカ生研)(Flu)を遠心限外濾過法によって濃縮した後、ヒドロキシエチルスターチ(HES) (Fresenius Kabi) と、スクロース(Suc) (日本薬局方グレード 和光純薬)を混合した水溶液を調製した。各水溶液については、下記表に記載した通りである。
(シート部を形成する水溶性高分子溶解液の調製)
コンドロイチン硫酸(マルハニチロ食品社製)と、二糖類(スクロース)を、マイクロニードルアレイ成形時に表4の組成となるように任意の濃度比率で水に溶解し、シート部を形成する水溶性高分子溶解液を調製した。
(薬物を含む高分子溶解液の充填及び乾燥)
ヒト成長ホルモン(hGH)内包マイクロニードルアレイと同様の方法で作製した。
(シート部の形成及び乾燥)
ヒト成長ホルモン(hGH)内包マイクロニードルアレイと同様の方法で作製した。
(剥離)
ヒト成長ホルモン(hGH)内包マイクロニードルアレイと同様の方法で作製した。
インフルエンザワクチン(Flu)内包マイクロニードルアレイの針部分布
ヒト成長ホルモン(hGH)内包マイクロニードルアレイと同様の方法で評価した。
インフルエンザワクチン(Flu)内包マイクロニードルアレイの穿刺性評価
ヒト成長ホルモン(hGH)内包マイクロニードルアレイと同様の方法で評価した。
インフルエンザワクチン(Flu)内包マイクロニードルアレイの溶解性評価
ヒト成長ホルモン(hGH)内包マイクロニードルアレイと同様の方法で評価した。
インフルエンザワクチン(Flu)内包マイクロニードルアレイによるワクチン投与試験
マウス(Balb/c(日本クレア社)、メス、7週齢)を購入し、1週間の馴化の後、インフルエンザワクチンの投与試験を行った。麻酔下でマウスの背面を除毛した後、皮膚を引き伸ばした状態でマイクロニードルアレイを穿刺した。皮下注射(S.C.)に対する抗体産生量を評価するため、同様の条件のマウスに対して、対象となるマイクロニードルと同量のワクチンを皮下注射にて投与した。
マウスの血清中における抗体産生量の評価
投与後、4週間飼育したマウスを麻酔下で開腹し、後部大静脈より採血を行った。室温で静置した血液を遠心分離にかけ、上清を採取することで血清を得た。得られた血清中に含まれるインフルエンザに特異的な抗体(IgG:免疫グロブリンG)の量を、下記の手法で測定した。
(IgG抗体産生量の測定)
NUNC immunoplate maxisorp(C bottom,96well)に、投与した3種混合ワクチンを50μL/well分注し、シールにて4℃で終夜静置した。静置後、PBST(Gibco リン酸緩衝生理食塩水(PBS)+0.1% Tween(登録商標))で4回洗浄した。その後、ブロッキング液(50mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)(pH8.0),1%ウシ血清アルブミン(BSA))を200μL/well滴下し、室温で30分静置した。静置後、PBST(Gibco PBS+0.1% Tween(登録商標))で4回洗浄した。洗浄後、希釈液(50mM Tris(pH8.0),1%BSA,0.1%Tween)で約10,000倍に希釈したサンプルを100μL/well滴下し、室温で1時間静置した。静置後、同様にPBST(Gibco PBS+0.1% Tween)で4回洗浄した。
次に、希釈液(50mM Tris(pH8.0),1%BSA,0.1%Tween)で希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗mouse IgG抗体(500倍)を100μL/well滴下し、室温で1時間静置した。静置後、同様にPBST(Gibco PBS+0.1% Tween)で4回洗浄した。
さらに、基質反応として、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)100μL/well滴下し、遮光下室温で15分間静置した。その後、ストップ液(1mol/L HCl)100μL/wellを滴下した。
滴下後、λ=450nmの吸光度(リファレンス620nm)を測定することにより、吸光度の大きさでIgG抗体産生量を、以下の基準で相対評価した結果を表4に示す。
皮下注射でのIgG抗体産生量に対してIgG抗体産生量が90%以上:A
皮下注射でのIgG抗体産生量に対してIgG抗体産生量が70%以上90%未満:B
皮下注射でのIgG抗体産生量に対してIgG抗体産生量が70%未満:C
上記の結果より、実施例の各マイクロニードルアレイの組成では、比較例の各群に対し、薬効が優れていることが判った。特に実施例4、5、10、11のように二糖類を添加すると、針の溶解性が予想外に向上し、より優位に薬物をマイクロニードルアレイの針中から放出することが可能となった。ただし、実施例6、12のように、二糖類の添加比率が多すぎると、湿度による吸湿の影響が大きくなり先端部が次第に柔らかくなってしまい、穿刺性が僅かに低下してしまう。また、本実施例では二糖類にスクロースを挙げているが、マルトース、トレハロースでも同様の効果を期待できる。比較例1、4、6、9では、針部の水溶性高分子が少ないため、針全体の強度が保てず、柔らかい針となってしまう。また、比較例2、7では、先端部の水溶性高分子の比率が薬物濃度に近くなるため、相分離様となり、先端部が脆くなる。一方で、比較例3、8では、基材に水溶性高分子が含まれないため、薬物が過密に凝縮され、溶解性が著しく低下してしまう。更に比較例5のように、針先端部の水溶性高分子が過剰な場合は、薬効を示すのに十分な量の薬物が針の先端部分のみに集中することができず、投与時の血中への移行量が低下する。このように、十分な薬効を得るためには、針部全体及び先端部にしなやかな強度を保ちつつ、穿刺後に皮膚内で十分に針が溶解し、薬物を放出可能な本願組成のマイクロニードルアレイが至適となる。
1 マイクロニードルアレイ
2 マイクロニードルアレイ
110 マイクロニードル
112 針部
113 錐台部
116 シート部
120 薬物を含む層
122 薬物を含まない層
W 直径(幅)
H 高さ
T 高さ(厚み)
11 原版
12 形状部
13 モールド
15 針状凹部
D 径(直径)
18 モールド複合体
19 気体透過シート
20 基台
22 薬物を含む水溶性高分子溶解液
24 水溶性高分子溶解液
29 支持体
30 タンク
32 配管
34 ノズル
34A リップ部
34B 開口部
36 液供給装置
P1 加圧力
P2 押付け力
P3 押付け力
40 基材
50 円錐台
52 円錐
D1 直径
D2 直径
L1 ピッチ
H1 高さ
H2 高さ
61 X軸駆動部
62 Z軸駆動部
63 ノズル
64 液供給装置
65 吸引台
66 レーザー変位計
67 ロードセル
68 制御機構
69 モールド

Claims (7)

  1. シート部、及び、シート部の上面に存在する複数の針部、を有するマイクロニードルアレイの製造方法であって、
    針部が、水溶性高分子及び薬物を含み、
    針部の全固形分の50質量%以上が水溶性高分子であり、
    針部先端を含む領域であって、針部全体の高さの20%の長さに相当する高さを有する針部先端領域において、水溶性高分子と薬物とが、下記式1の質量比率で存在し、
    シート部が、水溶性高分子を含み、
    薬物を含む第一の水溶性高分子溶解液を充填した針部形成用モールドを、乾燥開始後30分から300分経過すると第一の水溶性高分子溶解液の含水率が20%以下に到達する条件下において、乾燥することによって針部の一部を形成する工程;及び第二の水溶性高分子溶解液を、上記で形成された針部の一部の上面に充填して乾燥する工程を含む、マイクロニードルアレイの製造方法。
    式1; 水溶性高分子:薬物=0.05〜0.9:1
  2. 針部が、水溶性高分子、二糖類及び薬物を含み、
    針部先端を含む領域であって、針部全体の高さの20%の長さに相当する高さを有する針部先端領域において、水溶性高分子、二糖類及び薬物が、下記式2の質量比率で存在する、
    請求項1に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
    式2; 水溶性高分子 + 二糖類:薬物=0.05〜5:1
  3. 薬物を含む第一の水溶性高分子溶解液を充填した針部形成用モールドを、容器を被せた状態又は容器に収容した状態で、乾燥する、請求項1又は2に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
  4. 薬物を含む第一の水溶性高分子溶解液を充填した針部形成用モールドを、温度1〜40℃、相対湿度30〜95%の条件下で乾燥する、請求項1からの何れか一項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
  5. 二糖類が、スクロース、マルトース及びトレハロースからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2からの何れか一項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
  6. 針部の水溶性高分子が、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルスターチ、プルラン、デキストラン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1からの何れか一項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
  7. シート部の水溶性高分子が、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルスターチ、プルラン、デキストラン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1からの何れか一項に記載のマイクロニードルアレイの製造方法。
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