JP6777306B2 - ヘム鉄含有食品素材の製造方法 - Google Patents
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しかしながら、特許文献1に記載のヘム鉄含有食品素材の製造方法においては、魚節を流体抽出して得られた抽出残を効率よく酵素分解するために、非常に硬い性質を持つ抽出残の粒度を細かくする必要があった。そのため、一般的には抽出残を一度乾燥し、ハンマーミルなどの乾式粉砕機で粉砕する必要があるといった問題があり、生産効率の点で未だ十分ではなかった。
本発明のヘム鉄含有食品素材の製造方法は、魚節を流体抽出して得られた抽出残を粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程後の抽出残を、プロテアーゼを用いて酵素分解する酵素分解工程と、前記酵素分解工程後の抽出残から液体成分を分離して分解残を得る分解残分離工程と、を備え、前記粉砕工程の前後の少なくともいずれかに、前記抽出残を、pHが8以上である水溶液中で温度80℃以上に加熱するアルカリ加熱処理工程を備えることを特徴とするものである。
本発明のヘム鉄含有食品素材の製造方法においては、前記粉砕工程においては、前記抽出残を湿式粉砕により粉砕することが好ましい。
以下、本発明について実施形態を例に挙げて説明する。
本実施形態のヘム鉄含有食品素材の製造方法は、以下説明する粉砕工程、アルカリ加熱処理工程、酵素分解工程および分解残分離工程を備える方法である。
本実施形態における粉砕工程においては、魚節を流体抽出して得られた抽出残を粉砕する。
魚節に用いる魚類としては、例えば、鰹、鯖、秋刀魚、鰯、鰤などの青魚が挙げられる。これらの中でも、入手しやすく、また得られる食品素材のヘム鉄含有量を高くできるという観点から、鰹、鯖、鰯が好ましく、鰹、鯖がより好ましい。これらの魚類は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
乾式粉砕としては、カッターミル、ハンマーミル、ビーズミル、ジェットミル、またはボールミルなどを用いる方法が好ましく挙げられる。これらの方法は任意に組み合わせて用いてもよい。
湿式粉砕としては、ボールミル、ビーズミル、または石臼式摩砕機などを用いる方法が好ましく挙げられる。これらの方法は任意に組み合わせて用いてもよい。
これらの
本実施形態において平均粒子径は、50%質量粒子径のことをいう。そして、50%質量粒子径とは、測定対象の粉体の集団の全質量を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブの質量の値が50%となる点の粒子径のことをいう。このような平均粒子径は、光散乱法により測定することができる。
本実施形態におけるアルカリ加熱処理工程においては、前記粉砕工程後の抽出残を、pHが8以上であるアルカリ性の水溶液中に分散してスラリーとし、このスラリーを温度80℃以上に加熱する。
ここで、水溶液のpHは、アルカリ加熱処理工程前のpHのことである。このpHは、8以上であることが必要である。このpHが8未満であると、加熱による抽出残組織の変性が不十分となり、酵素分解の効率を向上させることができない。また、このpHは、9以上12以下であることが好ましく、9以上11以下であることがより好ましく、10以上11以下であることが特に好ましい。pHが前記下限未満の場合には、組織のアルカリ変性が十分に行えず、酵素分解反応が促進されにくくなる傾向にある。また、pHが前記上限を超えると、その後の酵素分解反応を阻害するおそれがある。pHが前記範囲内であれば、抽出残組織の変性を十分行うことができ、かつ反応終了後に後述の酵素分解工程に至適の範囲に自動的に調整される可能性が高く、次の酵素分解工程において効率よく酵素分解を行うことができる。
アルカリ加熱処理工程後のスラリーのpHは、6以上9以下であることが好ましく、7以上9以下であることがより好ましく、7以上8以下であることが特に好ましい。これは、pHが前記範囲内であれば、酵素分解工程において効率よく酵素分解を行うことができるからである。そして、pHが前記範囲を外れた場合には、酸またはアルカリ水溶液で調整されることが好ましい。
アルカリ加熱処理工程における処理時間は前記加熱温度とも連動するが10分間以上10時間以下であることが好ましく、15分間以上5時間以下であることがより好ましく、20分間以上2時間以下であることが特に好ましい。
本実施形態におけるアルカリ加熱処理工程においては、前記粉砕工程および前記アルカリ加熱処理工程後の抽出残を、プロテアーゼを用いて酵素分解する。
プロテアーゼは、特に限定されず、アルカリ性プロテアーゼであってもよく、酸性プロテアーゼであってもよい。ただし、アルカリ加熱処理工程後の抽出残をより効率よく酵素分解できるという観点から、アルカリ性プロテアーゼが好ましい。
アルカリ性プロテアーゼとしては、例えば、ナガセケムテックス社製の「ビオプラーゼ SP−20FG」、および「ビオプラーゼ OP」などが挙げられる。
中性プロテアーゼとしては、例えば、ナガセケムテックス社製の「デナチーム」などが挙げられる。
酸性プロテアーゼとしては、例えば、エイチビィアイ社製の「オリエンターゼAY」、または天野エンザイム社製の「ニューラーゼF3G」などが挙げられる。
プロテアーゼの添加量は、前記抽出残100質量部に対して、0.05質量部以上2質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上1質量部以下であることがより好ましく、0.2質量部以上0.5質量部以下であることが特に好ましい。添加量が前記下限値以上であれば、十分な酵素分解ができる。また、添加量が前記上限値以下であれば、製造コストを十分に抑制できる。
本実施形態における分解残分離工程においては、前記酵素分解工程後の抽出残から液体成分を分離して分解残を得る。
抽出残から液体成分を分離する方法としては、例えば、遠心機を用いる方法を採用できる。遠心機としては、ボトル型遠心機、スクリュー型遠心機、およびディスク型遠心機などが好ましく挙げられる。これらの遠心機であれば、非常に微細な粒子である酵素分解工程後の抽出残と、液体成分とを、精度よく分離できる。
以上説明した本実施形態のヘム鉄含有食品素材の製造方法によれば、生産効率が優れるので、ヘム鉄含有量が十分に高いヘム鉄含有食品素材を効率よく製造できる。
ヘム鉄含有食品素材中のヘム鉄含有量は、乾燥物金属鉄換算で、50mg/100g以上であることが好ましく、100mg/100g以上であることがより好ましい。なお、このようなヘム鉄含有量は、前記ヘム鉄含有食品素材中の水分量を0質量%に換算して求めたものである。
ヘム鉄含有食品素材の平均粒子径は、食品素材としてのハンドリング性の観点から、1μm以上1000μm以下であることが好ましく、10μm以上500μm以下であることがより好ましく、20μm以上300μm以下であることが特に好ましい。このような平均粒子径は、光散乱法により測定することができる。
また、ヘム鉄含有食品素材中の水分量(質量基準)は、ヘム鉄含有食品素材を腐敗しにくくするという観点から、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましい。
本実施形態によれば、次のような作用効果を奏することができる。
(1)アルカリ加熱処理工程後の抽出残を、プロテアーゼを用いて酵素分解しているため、抽出残の酵素分解の効率が高まる。その結果として、ヘム鉄含有食品素材の生産効率が向上する。
(2)プロテアーゼとして、アルカリ性プロテアーゼを用いた場合には、アルカリ加熱処理工程後の抽出残をより効率よく酵素分解できる。
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本発明の第2実施形態は、前記第1実施形態における粉砕工程およびアルカリ加熱処理工程の順序が反対となる以外は、前記第1実施形態と実質的に同様である。
すなわち、本実施形態のヘム鉄含有食品素材の製造方法は、前記アルカリ加熱処理工程、前記粉砕工程、前記酵素分解工程および前記分解残分離工程を備える方法である。
なお、本実施形態におけるアルカリ加熱処理工程および粉砕工程は、順序が反対となる以外は、前記第1実施形態と実質的に同様であるから、その詳細な説明は簡略化する。また、本実施形態における酵素分解工程および分解残分離工程については、前記第1実施形態と同様であるから、その詳細な説明は省略する。
本実施形態におけるアルカリ加熱処理工程においては、魚節を流体抽出して得られた抽出残を、pHが8以上である水溶液中に分散してスラリーとし、このスラリーを温度80℃以上に加熱する。
魚節、および、魚節を流体抽出する場合に用いる流体については、前記第1実施形態における粉砕工程で用いたものと同様である。
水溶液およびスラリーのpH、加熱の温度、並びに、アルカリ加熱処理工程における処理時間については、前記第1実施形態におけるアルカリ加熱処理工程の条件と同様である。
本実施形態における粉砕工程においては、アルカリ加熱処理工程後の抽出残を粉砕する。
抽出残を粉砕する方法については、前記第1実施形態における抽出残を粉砕する方法と同様である。ただし、アルカリ加熱処理を経て抽出残が変性し軟化しているため、比較的容易に粉砕できるという観点や、乾燥処理を省略できるという観点から、湿式粉砕を採用することが好ましい。
本実施形態によれば、前記第1実施形態の作用効果(1)および(2)の他に、次のような作用効果を奏することができる。
(3)本実施形態においては、粉砕工程の前に、アルカリ加熱処理工程が行われている。このような場合、粉砕工程において、前記抽出残をより効率よく粉砕できる。
(4)粉砕工程においては、湿式粉砕を採用する場合には、乾式粉砕を採用する場合と異なり、乾燥処理を必要としないため、生産効率を向上できる。
本発明は前述の実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれる。
例えば、前述の実施形態では、アルカリ加熱処理工程は、粉砕工程の前後のいずれかに1回行っていたが、これに限定されない。すなわち、粉砕工程の前に、1回目のアルカリ加熱処理工程を行い、粉砕工程の後に、2回目のアルカリ加熱処理工程を行ってもよい。このような場合にも、前述の実施形態の作用効果を奏することができる。
(実施例1)
乾式粉砕(ピン型ミル、(株)奈良機械製)により粉砕された抽出残(鰹節の抽出残、平均粒子径:500μm以下)を準備した。この抽出残3.00gおよび水をフラスコに加え150mLとし、2Nの水酸化ナトリウム水溶液でpH9に調整し、スラリーとした。このフラスコを、オートクレーブ(平山製作所製)に投入し、121℃15分の加熱処理を行った。アルカリ加熱処理および冷却後のスラリーのpHは7.8であった。これに2Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8に調整し、その後、フラスコにアルカリ性プロテアーゼ(ナガセケムテックス社製の「ビオプラーゼ SP−20FG」)を150mg投入し、振とう機(TAITEC社製の「EP−1」)にて120rpm、45℃、48時間の酵素反応を行った。ボトル型高冷却遠心機(トミー精工社製の「Suprema23」)を用いて、酵素分解後の抽出残から液体成分を分離して分解残を得た。また、得られた分解残を100℃20時間乾燥し1.59gのヘム鉄含有食品素材を得た。
また、得られた分解残中のヘム鉄含有量は、乾燥物金属鉄換算で、38mg/100gであった。
実施例1におけるアルカリ加熱処理に代えて、水200mLを用いた熱水加熱処理を行い、冷却後、pH5.5のスラリーに2Nの水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH8に調整した以外は、実施例1と同様にして、分解残および2.05gのヘム鉄含有食品素材を得た。
また、得られた分解残中のヘム鉄含有濃度は、乾燥物金属鉄換算で、28mg/100gであった。
実施例1および比較例1の結果を比較すると、アルカリ加熱処理工程を行っている実施例1は、アルカリ加熱処理工程を行っていない比較例1と比較して、同一反応時間における固形分の重量減少量が1.5倍、ヘム鉄含有濃度は1.4倍となっており、生産効率を向上できることが確認された。
乾式粉砕(ピン型ミル、(株)奈良機械製)により粉砕された抽出残(鰹節の抽出残、平均粒子径:500μm以下)を準備した。この抽出残500g、消泡剤1.5g(信越シリコーン社製の「KM−72」)および水をジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ(株)製の「20L型」)に投入し10Lとし、2Nの水酸化ナトリウム水溶液250mLでpH10.5に調整し、スラリーとした。このジャーファーメンターで、スラリー温度95℃以上で2時間のアルカリ加熱処理を行った。アルカリ加熱処理後のスラリーのpHは7.6であった。その後、ジャーファーメンターにアルカリ性プロテアーゼ(ナガセケムテックス社製の「ビオプラーゼ SP−20FG」)を1g投入し、2Nの水酸化ナトリウム水溶液を適宜加えpH8を維持しながら50℃で48時間の酵素反応を行った。このときの酵素反応速度(アルカリ消費量(2Nの水酸化ナトリウム水溶液の消費量))を測定したところ、270mlであった。そして、ボトル型遠心機を用いて、酵素分解後の抽出残から液体成分を分離して分解残を得た。また、得られた分解残を100℃20時間乾燥して、ヘム鉄含有食品素材を得た。
アルカリ性プロテアーゼに代えて、中性プロテアーゼ(ナガセケムテックス社製の「デナチーム」)を用い、酵素反応時のpHを7とした以外は、実施例2と同様にして、分解残およびヘム鉄含有食品素材を得た。
なお、酵素反応速度(アルカリ消費量(2Nの水酸化ナトリウム水溶液の消費量))は、170mLであった。
実施例2におけるアルカリ加熱処理に代えて、水10Lを用いた熱水加熱処理を行い、冷却後、pH5.5のスラリーに2Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えて、pH8に調整した以外は、実施例1と同様にして、分解残およびヘム鉄含有食品素材を得た。
なお、酵素反応速度(アルカリ消費量(2Nの水酸化ナトリウム水溶液の消費量))は、130mLであった。
実施例2および比較例2の結果を比較すると、アルカリ加熱処理工程を行っている実施例2は、アルカリ加熱処理工程を行っていない比較例2と比較して、アルカリ消費量から推定される酵素反応速度が2倍程度となり、生産効率を向上できることが確認された。
実施例2および3の結果を比較すると、アルカリ性プロテアーゼを用いている実施例2は、中性プロテアーゼを用いている実施例3と比較して、酵素反応速度が1.6倍程度となり、生産効率を向上できることが確認された。
抽出残(鰹節の抽出残、3mm〜5mmの粒子状)を準備した。この抽出残15gおよび水をフラスコに加え150mLとし、2Nの水酸化ナトリウム水溶液でpH10.5に調整し、スラリーとした。このフラスコを、オートクレーブ処理し、スラリー温度121℃で15分間のアルカリ加熱処理を行った。アルカリ加熱処理後の抽出残を、湿式粉砕機(象印(株)製の「BM−RS08−GAミキサー」)により90秒間粉砕し、1mm角のステンレスザルで漉した。このステンレスザル上の固形分を乾燥して粉砕乾燥物を得た。得られた粉砕乾燥物の質量を測定したところ、3.8gであった。
試験例1におけるアルカリ加熱処理に代えて、水を用いた熱水加熱処理を行った以外は、試験例1と同様にして粉砕乾燥物を得た。
なお、粉砕乾燥物の質量は、12.1gであった。
試験例1および2の結果を比較すると、アルカリ加熱処理工程を行っている試験例1は、アルカリ加熱処理工程を行っていない試験例2と比較して、ステンレスザル上に残るほど粒子径の大きい粉砕乾燥物が少なくなることが確認された。つまり、アルカリ加熱処理を行うことにより、抽出残を湿式粉砕によって粉砕しやすくなることが分かった。
抽出残(鰹節の抽出残、3mm〜5mmの粒子状)を準備した。この抽出残15gおよび水をフラスコに加え150mLとし、2Nの水酸化ナトリウム水溶液でpH10.5に調整し、スラリーとした。このフラスコを、オートクレーブ処理し、水溶液温度121℃で15分間のアルカリ加熱処理を行った。アルカリ加熱処理後の抽出残をろ紙でろ過後、乾燥し、その後、乾式粉砕(象印(株)製の「BM−RS08−GAミル」)により粉砕し、0.5mm角のステンレス篩で篩い分けし、粉砕乾燥物を得た。篩上に残った粉砕乾燥物の質量を測定したところ、0.5gであった。
試験例3におけるアルカリ加熱処理に代えて、水を用いた熱水加熱処理を行った以外は、試験例3と同様にして粉砕乾燥物を得た。
なお、粉砕乾燥物の質量は、2.4gであった。
試験例3および4の結果を比較すると、アルカリ加熱処理工程を行っている試験例3は、アルカリ加熱処理工程を行っていない試験例4と比較して、ステンレスザル上に残るほど粒子径の大きい粉砕乾燥物が少なくなることが確認された。つまり、アルカリ加熱処理を行うことにより、抽出残を乾式粉砕によって粉砕しやすくなることが分かった。
抽出残(鰹節の抽出残、3mm〜5mmの粒子状)を準備した。この抽出残7.5kg、消泡剤7.5g(信越シリコーン社製の「KM−72」)および水をジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ(株)製の「90L型」)に投入し50Lとし、2Nの水酸化ナトリウム水溶液でpH10.5に調整し、スラリーとした。このスラリーに温度約98℃で120分間のアルカリ加熱処理を行った。アルカリ加熱処理後の抽出残を1mm角のステンレスザル上で12時間漉した。ざる上のアルカリ処理抽出物(wet)の摩砕は、湿式粉砕機(石臼式摩砕機、増幸産業社製の「スーパーマスコロイダー」)をクリアランス0.1mmにセットし処理を行い、アルカリ処理抽出残摩砕物を得た。処理時間は10分間であった。
試験例5におけるアルカリ加熱処理に代えて、抽出残をpH調整を行わず水道水のみを用いた熱水加熱処理を行った以外は、試験例5と同様にして、粉砕工程を行った。ざる上の熱水加熱処理抽出物(wet)の摩砕は、同じ湿式粉砕機(石臼式摩砕機、増幸産業社製の「スーパーマスコロイダー」)をクリアランス0.1mmにセットし処理を行ったが、噛みこみができずに処理が進まなかったため、初めにクリアランス0.5mmにセットし摩砕処理後、再度0.1mmにセットして処理を行い、熱水加熱処理抽出残摩砕物を得た。処理時間は、1段階目の摩砕処理が10分間で、2段階目の摩砕処理が20分間であった。
試験例5および6の結果を比較すると、アルカリ加熱処理工程を行っている試験例5は、アルカリ加熱処理工程を行っていない試験例6と比較して、摩砕所要時間が短くなり、0.1mmでの摩砕についても1段階で進むことが確認された。つまり、アルカリ加熱処理を行うことにより、抽出残を石臼式摩砕機によって粉砕しやすくなることが分かった。なお、石臼式摩砕機は、量産に適する装置である。
抽出残(鰹節の抽出残、3mm〜5mmの粒子状)を準備した。この抽出残15gおよび水をフラスコに加え150mLとし、2Nの水酸化ナトリウム水溶液でpH10.5に調整し、スラリーとした。このフラスコを、オートクレーブ処理し、スラリー温度121℃で15分間のアルカリ加熱処理を行った。アルカリ加熱処理後の抽出残を、湿式粉砕機(象印(株)製の「BM−RS08−GAミキサー」)により90秒間粉砕し、フラスコに投入した。アルカリ加熱処理および粉砕後のスラリーのpHは8であった。フラスコにアルカリ性プロテアーゼ(ナガセケムテックス社製の「ビオプラーゼ SP−20FG」)を150mg投入し、振とう機(TAITEC社製の「EP−1」)にて120rpm、45℃、48時間の酵素反応を行った。ボトル型高冷却遠心機を用いて、酵素分解後の抽出残から液体成分を分離して分解残を得た。また、得られた分解残を100℃20時間乾燥して、1.48gのヘム鉄含有食品素材を得た。
また、得られた分解残中のヘム鉄含有量は、乾燥物金属鉄換算で、41mg/100gであった。
実施例4におけるアルカリ加熱処理に代えて、水200mLを用いた熱水加熱処理を行い、冷却後、pH5.5のスラリーに2Nの水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH8に調整した以外は、実施例4と同様にして、分解残および2.15gのヘム鉄含有食品素材を得た。
また、得られた分解残中のヘム鉄含有濃度は、乾燥物金属鉄換算で、26mg/100gであった。
実施例4および比較例3の結果を比較すると、アルカリ加熱処理工程を行っている実施例4は、アルカリ加熱処理工程を行っていない比較例3と比較して、同一反応時間における固形分の重量減少量が1.8倍、ヘム鉄含有濃度は1.6倍となっており、生産効率を向上できることが確認された。
試験例5で得られたアルカリ処理抽出残摩砕物を固形分換算で500g、消泡剤1.5g(信越シリコーン社製の「KM−72」)および水をジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ(株)製の「20L型」)に投入し10Lとし、滅菌のため95℃120分保持し、冷却した。その後、ジャーファーメンターにアルカリ性プロテアーゼ(ナガセケムテックス社製の「ビオプラーゼ SP−20FG」)を1g投入し、2Nの水酸化ナトリウム水溶液を適宜加えpH8を維持しながら50℃で48時間の酵素反応を行った。このときの酵素反応速度(アルカリ消費量(2Nの水酸化ナトリウム水溶液の消費量))を測定したところ、320mlであった。そして、ボトル型遠心機を用いて、酵素分解後の抽出残から液体成分を分離して分解残を得た。また、得られた分解残を100℃20時間乾燥して、ヘム鉄含有食品素材を得た。
また、得られた分解残中のヘム鉄含有量は、乾燥物金属鉄換算で、41mg/100gであった。
実施例5で使用したアルカリ処理抽出残摩砕物に代えて、試験例6で得られた熱水加熱処理抽出残摩砕物を用いた以外は、実施例5と同様にして、分解残およびヘム鉄含有食品素材を得た。
このときの酵素反応速度(アルカリ消費量(2Nの水酸化ナトリウム水溶液の消費量))を測定したところ、170mlであった。
実施例5および比較例4の結果を比較すると、アルカリ加熱処理工程を行っている実施例5は、アルカリ加熱処理工程を行っていない比較例4と比較して、酵素反応速度が1.9倍程度となり、生産効率を向上できることが確認された。
酵素反応の時間を下記のように変更した以外は、実施例5と同様にして、分解残およびヘム鉄含有食品素材を得た。
実施例6−1:72時間
実施例6−2:96時間
実施例6−3:120時間
また、得られた分解残中の乾燥物金属鉄換算でのヘム鉄含有量を測定し、得られた結果を表1に示す。また、実施例5で得られた分解残中の乾燥物金属鉄換算でのヘム鉄含有量を表1に示す。さらに、各実施例における酵素反応の時間を表1に示す。
実施例5で用いたボトル型遠心機に代えて、ディスク型遠心機ラボテスト装置(アルファラバル社製ディスクセパレーター)を用いた以外は、実施例5と同様にして、分解残およびヘム鉄含有食品素材を得た。
このように、ディスク型遠心機を用いた場合にも、酵素分解後の抽出残から液体成分を分離して分解残を得られることが確認された。なお、ディスク型遠心機は、量産に適する装置である。
Claims (3)
- 魚節を流体抽出して得られた抽出残を粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程後の抽出残を、アルカリ性プロテアーゼを用いて酵素分解する酵素分解工程と、
前記酵素分解工程後の抽出残から液体成分を分離して分解残を得る分解残分離工程と、を備え、
前記粉砕工程の前後の少なくともいずれかに、前記抽出残を、pHが8以上である水溶液中で温度80℃以上に加熱するアルカリ加熱処理工程を備える
ことを特徴とするヘム鉄含有食品素材の製造方法。 - 請求項1に記載のヘム鉄含有食品素材の製造方法において、
前記アルカリ加熱処理工程では、前記抽出残を、pHが9以上である水溶液中で温度90℃以上に加熱する
ことを特徴とするヘム鉄含有食品素材の製造方法。 - 請求項1または請求項2に記載のヘム鉄含有食品素材の製造方法において、
前記粉砕工程においては、前記抽出残を湿式粉砕により粉砕する
ことを特徴とするヘム鉄含有食品素材の製造方法。
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