(第1実施形態)
以下、本発明に係る制御装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態において、制御装置の制御対象となる同期モータは、例えば、車載の電動ファン用モータとして用いられる。
図1に示すように、制御システムは、モータ10、電力変換回路としてのインバータ20、及びモータ10を制御対象とする制御装置30を備えている。モータ10としては、例えば、非突極機であるSPMSM又は突極機であるIPMSMが用いられればよい。
モータ10は、インバータ20を介して、直流電源としてのバッテリ21に接続されている。なお、バッテリ21及びインバータ20の間には、平滑コンデンサ22が設けられている。
インバータ20は、上アームスイッチSup,Svp,Swpと下アームスイッチSun,Svn,Swnとの直列接続体を3つ備えている。U相上,下アームスイッチSup,Sunの接続点には、モータ10のU相巻線の第1端が接続されている。V相上,下アームスイッチSvp,Svnの接続点には、モータ10のV相巻線の第1端が接続されている。W相上,下アームスイッチSwp,Swnの接続点には、モータ10のW相巻線の第1端が接続されている。U,V,W相巻線それぞれの第2端は、中性点で接続されている。
本実施形態では、各スイッチSup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnとして、電圧制御形の半導体スイッチング素子が用いられ、より具体的にはIGBTが用いられている。各スイッチSup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnには、各フリーホイールダイオードDup,Dun,Dvp,Dvn,Dwp,Dwnが逆並列に接続されている。なお、各スイッチSup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnとしては、IGBTに限らず、例えばNチャネルMOSFETが用いられてもよい。
制御システムは、相電流検出部23と、電圧検出部24とを備えている。相電流検出部23は、モータ10に流れる各相電流のうち、少なくとも2相分の電流を検出する。電圧検出部24は、バッテリ21から出力された直流電圧をインバータ20の電源電圧VINVとして検出する。
制御装置30は、マイコンを主体として構成され、モータ10の制御量をその指令値に制御すべくインバータ20を操作する。本実施形態において、制御量は回転速度であり、制御量の指令値は速度指令値ω*である。
制御装置30は、インバータ20を構成する各スイッチSup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnをオンオフ操作すべく、上記各種検出部の検出値に基づいて、各操作信号gup,gun,gvp,gvn,gwp,gwnを生成する。制御装置30は、生成した各操作信号gup,gun,gvp,gvn,gwp,gwnを各スイッチに対応する各駆動回路Drに対して出力する。ここで、上アーム側の操作信号gup,gvp,gwpと、対応する下アーム側の操作信号gun,gvn,gwnとは、互いに相補的な信号となっている。すなわち、上アームスイッチと、対応する下アームスイッチとは、交互にオン操作される。
続いて、図2を用いて、制御装置30によって実行されるモータ10の回転速度制御について説明する。図2は、モータ10の電気角速度を速度指令値ω*に制御する制御系を示すブロック図である。本実施形態に係る回転速度制御は、電気角を直接検出するレゾルバ等の角度検出器の検出値を用いない位置センサレス制御である。
2相変換部30aは、相電流検出部23により検出された相電流と、後述する位相算出部30pにより算出された電気角θvとに基づいて、3相固定座標系におけるU相電流IU,V相電流IV,W相電流IWを、γδ座標系におけるγ軸電流Iγr及びδ軸電流Iδrに変換する。電気角θvは、図3(a)に示すように、モータ10の2相固定座標系であるαβ座標系のα軸とγ軸とがなす角度である。δ軸は、原点Oから、インバータ20からモータ10に印加される電圧ベクトルVrの方向に延びる座標軸であり、γ軸は、δ軸と直交する方向に原点Oから延びる座標軸である。γ軸は、モータ10の磁極方向に延びるd軸の推定軸である。なお本実施形態では、α軸と、3相固定座標系のU軸とを一致させている。
先の図2の説明に戻り、振幅FF制御部30bは、速度指令値ω*に基づいて、電圧ベクトルVrの大きさの指令値である振幅指令値V*を設定する。なお、振幅指令値V*は、例えば、速度指令値ω*及び振幅指令値V*が関係付けられて振幅指令値V*が規定されたマップ情報に基づいて設定されればよい。また本実施形態において、振幅FF制御部30bが「状態量算出部」に相当する。
電流振幅算出部30cは、2相変換部30aにより変換されたγ軸電流Iγr及びδ軸電流Iδrに基づいて、モータ10に流れる電流ベクトルの大きさである電流振幅Iampを算出する。電流振幅Iampのγ軸成分がγ軸電流Iγrとなり、電流振幅Iampのδ軸成分がδ軸電流Iδrとなる。
γ軸指令電流算出部30dは、速度指令値ω*と、電流振幅算出部30cにより算出された電流振幅Iampとに基づいて、γ軸指令電流Iγ*を算出する。なお、γ軸指令電流Iγ*は、例えば、速度指令値ω*及び電流振幅Iampと関係付けられてγ軸指令電流Iγ*が規定されたマップ情報に基づいて算出されればよい。
電流偏差算出部30eは、γ軸指令電流算出部30dにより算出されたγ軸指令電流Iγ*からγ軸電流Iγrを減算することにより、γ軸電流偏差ΔIγを算出する。
振幅FB制御部30fは、γ軸電流偏差ΔIγを0にフィードバック制御するための操作量として、第1振幅補正値ΔV1を算出する。なお、振幅FB制御部30fで用いられるフィードバック制御は、例えば比例積分制御であればよい。
振幅加算部30gは、振幅FF制御部30bにより設定された振幅指令値V*に、振幅FB制御部30fにより算出された第1振幅補正値ΔV1を加算して出力する。
電圧ゲイン乗算部30hは、δ軸電流Iδr及び電圧ゲインKvm(>0)に基づいて、第2振幅補正値ΔV2を算出する。具体的には、電圧ゲイン乗算部30hは、δ軸電流Iδrの変化量に電圧ゲインKvmを乗算することにより、第2振幅補正値ΔV2を算出する。第2振幅補正値ΔV2は、モータ10の負荷変動に対する回転速度制御の安定性を高めるために算出される。なお、δ軸電流Iδrの変化量は、δ軸電流Iδrの高周波成分である。電圧ゲイン乗算部30hは、例えば、δ軸電流Iδrにハイパスフィルタ処理等の高周波抽出処理を施すことによりδ軸電流Iδrの変化量を算出すればよい。
振幅補正部30jは、振幅加算部30gの出力値「V*+ΔV1」に電圧ゲイン乗算部30hにより算出された第2振幅補正値ΔV2を加算することにより、補正振幅指令値Vmを算出する。
振幅外乱重畳部30kは、振幅補正部30jにより算出された補正振幅指令値Vmに、後述する振幅外乱部41から出力された振幅外乱値VZを加算して出力する。
速度ゲイン乗算部30mは、δ軸電流Iδr及び速度ゲインKω(>0)に基づいて、速度補正値Δωを算出する。具体的には、速度ゲイン乗算部30mは、δ軸電流Iδrの変化量に速度ゲインKωを乗算することにより、速度補正値Δωを算出する。なお、δ軸電流の変化量は、δ軸電流Iδrの高周波成分である。速度ゲイン乗算部30mは、例えば、δ軸電流Iδrにハイパスフィルタ処理等の高周波抽出処理を施すことによりδ軸電流Iδrの変化量を算出すればよい。
速度補正部30nは、速度指令値ω*から、速度ゲイン乗算部30mにより算出された速度補正値Δωを減算することにより、補正速度値ωcを算出する。
位相算出部30pは、速度補正部30nにより算出された補正速度値ωcに基づいて、電気角θvを算出する。なお、位相算出部30pは、例えば積分器で構成されていればよい。
3相変換部30qは、振幅外乱重畳部30kの出力値「Vm+VZ」と、位相算出部30pにより算出された電気角θvとに基づいて、3相固定座標系におけるU,V,W相指令電圧VU,VV,VWを算出する。これら指令電圧VU,VV,VWは、位相が電気角で互いに120°ずれた正弦波状の信号となる。なお、3相変換部30qは、電気角θvに90度加算した値を、電圧ベクトルVrの位相である電圧位相として把握することができる。
PWM変調器30rは、3相変換部30qにより算出されたU,V,W相指令電圧VU,VV,VWと、電圧検出部24により検出された電源電圧VINVとに基づいて、各操作信号gup,gun,gvp,gvn,gwp,gwnを生成して各駆動回路Drに出力する。具体的には例えば、PWM変調器30rは、電源電圧VINVでU,V,W相指令電圧VU,VV,VWを規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、各操作信号gup,gun,gvp,gvn,gwp,gwnを生成すればよい。ちなみに本実施形態において、3相変換部30q及びPWM変調器30rが「操作部」に相当する。
λ設定部30sは、規定角λを設定する。規定角λは、図3(b)に示すように、速度指令値ω*の微小変化に伴ってモータ10に流れるγ,δ軸電流が微小変化する場合において、γδ座標系にγ,δ軸電流の軌跡として描かれてかつ原点Oから延びる電流変化ベクトルΔIrと、δ軸とのなす角度として定義されている。特に本実施形態では、γ,δ軸電流の軌跡のうち電流変化ベクトルΔIrの大きさが最大となる点P1と原点Oとを通る軸線とδ軸とのなす角度が規定角λとして定義されている。図3(b)の電流の挙動の欄には、速度指令値ω*が微小変化する場合におけるγ,δ軸電流の微小変化量ΔIγ,ΔIδを示した。また、図3(b)の電流の挙動の欄において一点鎖線にて示した範囲のγ,δ軸電流の軌跡を、図3(b)の電流変化ベクトルの軌跡の欄に示した。
図3(a),(b)に示すように、δ軸から規定角λずれた座標軸がY軸として定義され、Y軸と直交する方向に延びる座標軸がM軸として定義されている。
規定角λは回転速度に依存する。これは、規定角λが下式(eq1)で表されるためである。
上式(eq1)において、Rはモータ10の巻線抵抗を示し、Lはモータ10の巻線インダクタンスを示し、ωはモータ10の電気角速度を示す。λ設定部30sは、速度指令値ω*が低いほど、規定角λを大きく設定する。本実施形態において、λ設定部30sは、0度から90度までの電気角範囲内において規定角λを設定する。
先の図2の説明に戻り、制御装置30は、判定部40及び振幅外乱部41を備えている。判定部40は、モータ10に脱調が生じているか否かを判定する脱調判定処理を行う。本実施形態において脱調とは、モータ10を構成するロータの回転が停止し、モータ10の推定回転位置(推定電気角)と真の回転位置(真の電気角)とがずれている状態のことをいう。判定部40は、脱調判定のために補正振幅指令値Vmを一時的に変化させるべく、振幅外乱値VZの出力を振幅外乱部41に対して指示する。本実施形態において、振幅外乱部41及び振幅外乱重畳部30kが「変化部」に相当する。
以下、図4及び図5を用いて、本実施形態に係る脱調判定手法について説明する。図4は、dq軸座標系における電圧ベクトル及びモータ10に流れる電流ベクトルを示し、図5は、γδ座標系における電圧ベクトル及び電流ベクトルを示す。図4及び図5において、Vm1は振幅外乱値VZを重畳する前の電圧ベクトルを示し、I1は振幅外乱値VZを重畳する前の電流ベクトルを示す。また、図4及び図5において、Vm2は振幅外乱値VZを重畳した後の電圧ベクトルを示し、I2は振幅外乱値VZを重畳した後の電流ベクトルを示す。また、図4及び図5に示す例では、モータ10に作用するトルクが一定とされている。
図4(a)に示すように、脱調が生じていない正常時においては、補正振幅指令値Vmに振幅外乱値VZが加算されると、Vm1からVm2へと電圧ベクトルが遅角方向に動く。この場合、定トルク線に沿って電流ベクトルがI1からI2へと遅角方向に動き、電流ベクトルの電流振幅が増加する。なお本実施形態において、ベクトルが遅角方向に動くとは、座標系においてベクトルが時計回りに動くことを意味し、ベクトルが進角方向に動くとは、座標系においてベクトルが反時計回りに動くことを意味する。
正常時において電圧ベクトルがVm1からVm2へと動くと、図5(a)に示すように、電流ベクトルのY軸成分であるY軸電流がY軸負方向に変化し、Y軸電流が減少する。図5(a)には、Y軸電流の変化量をΔIYにて示す。
これに対し、脱調が生じている場合においては、モータ10の等価回路がRL直列回路となる。また、ロータが完全に停止しているため、図4(b)に示すように、電流ベクトルに対して電圧ベクトルが一定角度進角した状態で、電圧ベクトル及び電流ベクトルがdq座標系上で常に回転し続けることとなる。そして脱調が生じている場合においては、振幅外乱値VZが重畳されたとしても、電圧ベクトル及び電流ベクトルのそれぞれは、その延長線上に延びるだけである。このため、図5(b)に示すように、Y軸電流がY軸正方向に変化し、Y軸電流が増加する。
このように、正常時と脱調時とでは、振幅外乱値VZが補正振幅指令値Vmに重畳された場合におけるY軸電流の変化方向が変化する。したがって、この変化方向に基づいて、モータ10の脱調が生じているか否かを判定することができる。
本実施形態において、振幅外乱部41は、図6に示すように、振幅外乱値VZを0からその最大値Vmaxに向かって徐々に増加させて振幅外乱重畳部30kに出力する。図6において、MODE0は、振幅外乱値VZが0とされている状態を示し、MODE1は、振幅外乱値VZが漸増している状態を示し、MODE2は、振幅外乱値VZが最大値Vmaxとされている状態を示す。
図7に、判定部40により実行される脱調判定処理の手順を示す。この処理は、例えば所定周期毎に繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS10において、振幅外乱部41からの振幅外乱値VZの出力態様がMODE0であるか否かを判定する。
ステップS10においてMODE0であると判定した場合には、ステップS11に進み、λ設定部30sにより設定された規定角λと、γ,δ軸電流Iγr,Iδrとに基づいて、現在のY軸電流IYrを算出する。そして算出したY軸電流IYrをY軸初期値IYbとして保持する。
一方、ステップS10においてMODE0でないと判定した場合には、ステップS12に進み、振幅外乱部41からの振幅外乱値VZの出力態様がMODE1であるか否かを判定する。
ステップS12においてMODE1であると判定した場合には、ステップS13に進み、λ設定部30sにより設定された規定角λと、γ,δ軸電流Iγr,Iδrとに基づいて、現在のY軸電流IYrを算出する。そして算出したY軸電流IYrからY軸初期値IYbを減算することにより、Y軸電流変化量ΔIYを算出する。
ステップS12において否定判定した場合には、MODE2であると判定し、ステップS14に進む。ステップS14では、ステップS13で算出したY軸電流変化量ΔIYがY軸閾値ΔYth以上になっている状態が所定時間Tα継続されているか否かを判定する。Y軸閾値ΔYthは、図8に示すように、モータ10に脱調が生じているか否かを判別できる値に設定されている。なお図8は、モータ10の各回転速度及び各トルクにおける脱調の有無を調べた結果を示す図である。
ステップS14において否定判定した場合には、モータ10に脱調が生じていないと判定する。一方、ステップS14において肯定判定した場合には、ステップS15に進み、モータ10に脱調が生じていると判定する。そして、モータ10の運転を停止させるべく、インバータ20の動作を停止させてモータ10への通電を停止させる。
ちなみに、MODE2になることを待つことなく、MODE1とされている途中において、Y軸電流変化量ΔIYがY軸閾値ΔYth以上になっている状態が所定時間Tα継続されていると判定した場合、脱調が生じていると判定してもよい。
また、振幅外乱値VZの重畳タイミングは、1回であってもよいし、複数回であってもよい。また、振幅外乱値VZの重畳タイミングは、周期的であってもよいし、非周期的であってもよい。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
電圧ベクトルVrの大きさである電圧振幅に振幅外乱値VZが重畳される。この構成によれば、速度指令値ω*に外乱が重畳される構成と比較して、モータ10の回転速度の変動を抑制することができる。
判定部40は、脱調が生じている場合と生じていない場合とで振幅外乱値VZの重畳時におけるY軸電流IYrの変化方向が異なることを利用した脱調判定処理を行う。変化方向が異なることを判別すればよいため、脱調が生じているか否かを簡易かつ的確に判定することができる。
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、Y軸電流変化量ΔIYに代えて、Y軸電流IYrを用いて脱調が生じているか否かを判定する。
図9に、本実施形態に係る脱調判定処理の手順を示す。この処理は、判定部40により例えば所定周期毎に繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS20において、振幅外乱部41からの振幅外乱値VZの出力態様がMODE0であるか否かを判定する。
ステップS20においてMODE0であると判定した場合には、一連の処理を一旦終了する。一方、ステップS20においてMODE1又はMODE2であると判定した場合には、ステップS21に進む。ステップS21では、λ設定部30sにより設定された規定角λと、γ,δ軸電流Iγr,Iδrとに基づいて、現在のY軸電流IYrを算出する。そして算出したY軸電流IYrが電流閾値IYth以上になっている状態が所定時間Tα継続されているか否かを判定する。先の図5に示したように、正常時においてはY軸電流がY軸負方向に変化してY軸電流が減少するのに対し、脱調時においてはY軸電流がY軸正方向に変化してY軸電流が増加する。このことを利用して、ステップS21では、脱調が生じているか否かを判定する。
電流閾値IYthは、モータ10に脱調が生じているか否かを判別できる値に設定されている。電流閾値IYthは、固定値であってもよいし、MODE0とされている場合に算出されたY軸電流IYrに基づいて可変設定されてもよい。可変設定される構成が用いられる場合、例えば、MODE0とされている場合に算出されたY軸電流IYrが大きいほど、電流閾値IYthが大きく設定されてもよい。
ステップS21において否定判定した場合には、脱調が生じていないと判定する。一方、ステップS21において肯定判定した場合には、ステップS15に進み、脱調が生じていると判定する。
以上説明した本実施形態によれば、上記第1実施形態の効果と同様の効果を奏することができる。
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図10に示すように、脱調判定のために、位相算出部30pにより算出された電気角θvに位相外乱値θZを重畳する。なお図10において、先の図2に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
位相外乱重畳部30tは、位相算出部30pにより算出された電気角θvに、位相外乱部42から出力された位相外乱値θZを加算して出力する。なお本実施形態において、位相算出部30pが「状態量算出部」に相当する。
ちなみに本実施形態において、3相変換部30qは、位相外乱重畳部30tの出力値「θv+θZ」と、振幅補正部30jから出力された補正振幅指令値Vmとに基づいて、U,V,W相指令電圧VU,VV,VWを算出する。また、2相変換部30aは、相電流検出部23により検出された相電流と、位相外乱重畳部30tの出力値「θv+θZ」とに基づいて、U,V,W相電流IU,IV,IWをγ,δ軸電流Iγr,Iδrに変換する。
判定部40は、脱調判定のために電圧位相を一時的に変化させるべく、位相外乱値θZの出力を位相外乱部42に対して指示する。本実施形態において、位相外乱部42及び位相外乱重畳部30tが「変化部」に相当する。
以下、図11及び図12を用いて、本実施形態に係る脱調判定手法について説明する。なお、図11,図12は、先の図4,図5に対応している。
図11(a)に示すように、脱調が生じていない正常時においては、位相外乱値θZが電気角θvに加算されると、Vm1からVm2へと電圧ベクトルが遅角方向に動く。この場合、定トルク線に沿って電流ベクトルがI1からI2へと遅角方向に動き、電流ベクトルの電流振幅が増加する。正常時において電圧ベクトルがVm1からVm2へと動くと、図12(a)に示すように、Y軸電流がY軸負方向に変化し、Y軸電流が減少する。
これに対し、脱調が生じている場合においては、図11(b)に示すように、電流ベクトルに対して電圧ベクトルが一定角度進角した状態で、電圧ベクトル及び電流ベクトルがdq座標系上で常に回転し続けることとなる。そして脱調が生じている場合においては、位相外乱値θZが重畳されたとしても、ロータの回転が停止しているため、図12(b)に示すように、電圧ベクトル及び電流ベクトルは変化しない。このため、位相外乱値θZの重畳前後においてY軸電流は変化しない。
このように、位相外乱値θZが電気角θvに重畳された場合において、正常時にはY軸電流が変化するものの、脱調時にはY軸電流は変化しない。このため、Y軸電流に基づいて、モータ10の脱調が生じているか否かを判定することができる。
本実施形態において、位相外乱部42は、先の図6に示した手法と同様に、位相外乱値θZを0からその最大値θmaxに向かって徐々に増加させて位相外乱重畳部30tに出力する。本実施形態において、MODE0は、位相外乱値θZが0とされている状態を示し、MODE1は、位相外乱値θZが漸増している状態を示し、MODE2は、位相外乱値θZが最大値θmaxとされている状態を示す。
判定部40は、脱調判定処理を行う。本実施形態に係る脱調判定処理では、先の図7に示した処理のうち、ステップS14の処理が、Y軸電流変化量ΔIYが閾値ΔK未満になっている状態が所定時間Tα継続されているか否かを判定する処理に置き換えられている。閾値ΔKは、図13に示すように、モータ10に脱調が生じているか否かを判別できる値に設定されている。なお図13は、モータ10の各回転速度及び各トルクにおける脱調の有無を調べた結果を示す図である。
ちなみに、閾値ΔKは、固定値であってもよいし、可変設定される値であってもよい。ここで閾値ΔKが可変設定される場合、例えば、モータ10の回転速度に基づいて可変設定されてもよい。
図14に、位相外乱値θZを重畳した場合のモータ10のY軸電流IYr及び相電流の推移を示す。
図14(a)に示すように、正常時においては、位相外乱値θZが重畳された場合に各相電流IU,IV,IWが変化する。このため、Y軸電流変化量ΔIYが閾値ΔK以上になる。これに対し、図14(b)に示すように、脱調時においては、位相外乱値θZが重畳された場合であっても各相電流IU,IV,IWは変化しない。このため、Y軸電流変化量ΔIYが閾値ΔK未満となる。
以上説明した本実施形態によれば、上記第1実施形態の効果と同様の効果を奏することができる。
(第4実施形態)
以下、第4実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図15に示すように、脱調判定用の外乱重畳対象をγ軸指令電流Iγ*に変更する。なお図15において、先の図2に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
電流偏差算出部30eは、γ軸指令電流Iγ*に、指令値外乱部43から出力されたγ軸指令外乱値IγZを加算する。電流偏差算出部30eは、γ軸指令電流Iγ*及びγ軸指令外乱値IγZの加算値からγ軸電流Iγrを減算することにより、γ軸電流偏差ΔIγを算出する。
なお本実施形態において、3相変換部30qは、位相算出部30pから出力された電気角θvと、振幅補正部30jから出力された補正振幅指令値Vmとに基づいて、U,V,W相指令電圧VU,VV,VWを算出する。また本実施形態において、γ軸指令電流算出部30dが「状態量算出部」に相当する。
判定部40は、脱調判定のためにγ軸指令電流Iγ*を一時的に変化させるべく、γ軸指令外乱値IγZの出力を指令値外乱部43に対して指示する。なお本実施形態において、指令値外乱部43及び電流偏差算出部30eが「変化部」に相当する。
本実施形態において、指令値外乱部43は、先の図6に示した手法と同様に、γ軸指令外乱値IγZを0からその最大値γmaxに向かって徐々に増加させて電流偏差算出部30eに出力する。本実施形態において、MODE0は、γ軸指令外乱値IγZが0とされている状態を示し、MODE1は、γ軸指令外乱値IγZが漸増している状態を示し、MODE2は、γ軸指令外乱値IγZが最大値γmaxとされている状態を示す。
本実施形態において、判定部40は、先の図7に示した処理と同様の脱調判定処理を行う。以下、図16を用いて、この処理について説明する。
図16(a)には、脱調が生じていない正常時における各波形を示す。図示される例では、時刻t1において、MODE0からMODE1に切り替えられ、γ軸指令外乱値IγZが漸増し始める。γ軸指令外乱値IγZの漸増に伴い、Y軸電流IYrが減少する。
その後時刻t2において、MODE1からMODE2に切り替えられる。ここで、Y軸電流IYrからY軸初期値IYbを減算した値であるY軸電流変化量ΔIYがY軸閾値ΔYth未満であると判定部40により判定される。このため、判定部40により脱調が生じていると判定されない。
なお図16(a)には、MODE2の後、時刻t3〜t4においてMODE3が実施されることを示した。MODE3は、γ軸指令外乱値IγZが最大値γmaxから0に向かって漸減している状態を示す。
続いて図16(b)には、脱調が生じている場合の各波形を示す。図示される例では、時刻t1において、MODE0からMODE1に切り替えられ、γ軸指令外乱値IγZが漸増し始める。ただし、脱調が生じているため、γ軸指令外乱値IγZの漸増に伴い、Y軸電流IYrが増加する。
その後時刻t2において、MODE1からMODE2に切り替えられる。その後、判定部40により、Y軸電流変化量ΔIYがY軸閾値ΔYth以上になっている状態が所定時間Tα継続されていると判定される。このため、判定部40により脱調が生じていると判定され、モータ10の運転が停止される。
以上説明した本実施形態によれば、上記第1実施形態の効果と同様の効果を奏することができる。
(第5実施形態)
以下、第5実施形態について、上記第4実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図17示すように、γ軸指令電流Iγ*に代えて、Y軸指令電流IY*が設定される。そして、脱調判定用の外乱重畳対象を、γ軸指令電流Iγ*からY軸指令電流IY*に変更する。なお図17において、先の図15に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
Y軸指令電流算出部30uは、速度指令値ω*と、電流振幅算出部30cにより算出された電流振幅Iampとに基づいて、Y軸指令電流IY*を設定する。なお、Y軸指令電流IY*は、例えば、速度指令値ω*及び電流振幅Iampと関係付けられてY軸指令電流IY*が規定されたマップ情報に基づいて算出されればよい。また本実施形態において、Y軸指令電流算出部30uが「状態量算出部」に相当する。
Y軸電流算出部30vは、λ設定部30sにより設定された規定角λ、γ軸電流Iγr及びδ軸電流Iδrに基づいて、Y軸電流IYrを算出する。
Y軸電流偏差算出部30wは、Y軸指令電流IY*に、指令値外乱部44から出力されたY軸指令外乱値IYZを加算する。Y軸電流偏差算出部30wは、Y軸指令電流IY*及びY軸指令外乱値IYZの加算値からY軸電流IYrを減算することにより、Y軸電流偏差ΔIYaを算出する。
振幅FB制御部30xは、Y軸電流偏差ΔIYaを0にフィードバック制御するための操作量として、第1振幅補正値ΔV1を算出する。なお、振幅FB制御部30xで用いられるフィードバック制御は、例えば比例積分制御であればよい。
判定部40は、脱調判定のためにY軸指令電流IY*を一時的に変化させるべく、Y軸指令外乱値IYZの出力を指令値外乱部44に対して指示する。なお本実施形態において、指令値外乱部44及びY軸電流偏差算出部30wが「変化部」に相当する。
本実施形態において、指令値外乱部44は、先の図6に示した手法と同様に、Y軸指令外乱値IYZを0からその最大値Ymaxに向かって徐々に増加させてY軸電流偏差算出部30wに出力する。本実施形態において、MODE0は、Y軸指令外乱値IYZが0とされている状態を示し、MODE1は、Y軸指令外乱値IYZが最大値Ymaxに向かって漸増している状態を示し、MODE2は、Y軸指令外乱値IYZが最大値Ymaxとされている状態を示し、MODE3は、Y軸指令外乱値IYZが0に向かって漸減している状態を示す。
本実施形態において、判定部40は、MODE2におけるγ軸電流Iγrに基づいて脱調の有無を判定する脱調判定処理を行う。つまり、脱調が生じていない正常時においては、Y軸指令外乱値IYZの重畳に伴ってγ軸電流Iγrが増加する。一方、脱調が生じている場合においては、Y軸指令外乱値IYZの重畳に伴ってγ軸電流Iγrが増加するとともに、その増加量は正常時における増加量よりも大きくなる。このため、γ軸電流Iγrを、脱調が生じているか否かを判定するためのパラメータとして用いることができる。なお、判定部40は、例えば、γ軸電流Iγrが所定の閾値以上であると判定した場合に脱調が生じていると判定すればよい。
以上説明した本実施形態によれば、上記第4実施形態の効果と同様の効果を奏することができる。
(第6実施形態)
以下、第6実施形態について、上記第4実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、図18示すように、γ軸指令電流Iγ*に代えて、力率角の指令値θa*が設定される。本実施形態において、力率角とは、電圧ベクトルと電流ベクトルとのなす角度のことである。そして、脱調判定用の外乱重畳対象を、γ軸指令電流Iγ*から力率角の指令値θa*に変更する。なお図18において、先の図15に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
指令値算出部31aは、速度指令値ω*と、電流振幅算出部30cにより算出された電流振幅Iampとに基づいて、力率角の指令値θa*を算出する。なお、この指令値θa*は、例えば、速度指令値ω*及び電流振幅Iampと関係付けられて力率角の指令値θa*が規定されたマップ情報に基づいて算出されればよい。また本実施形態において、指令値算出部31aが「状態量算出部」に相当する。
力率角算出部31bは、位相算出部30pにより算出された電気角θvと、相電流検出部23により検出された相電流とに基づいて、力率角θarを算出する。
角度偏差算出部31cは、力率角の指令値θa*に、指令値外乱部45から出力された角度指令外乱値θaZを加算する。角度偏差算出部31cは、力率角の指令値θa*及び角度指令外乱値θaZの加算値から力率角θarを減算することにより、角度偏差Δθを算出する。
振幅FB制御部31dは、角度偏差Δθを0にフィードバック制御するための操作量として、第1振幅補正値ΔV1を算出する。なお、振幅FB制御部31dで用いられるフィードバック制御は、例えば比例積分制御であればよい。
判定部40は、脱調判定のために力率角の指令値θa*を一時的に変化させるべく、角度指令外乱値θaZの出力を指令値外乱部45に対して指示する。なお本実施形態において、指令値外乱部45及び角度偏差算出部31cが「変化部」に相当する。
本実施形態において、指令値外乱部45は、先の図6に示した手法と同様に、角度指令外乱値θaZを0からその最大値θmaxに向かって徐々に増加させて角度偏差算出部31cに出力する。本実施形態において、MODE0は、角度指令外乱値θaZが0とされている状態を示し、MODE1は、角度指令外乱値θaZが最大値θmaxに向かって漸増している状態を示し、MODE2は、角度指令外乱値θaZが最大値θmaxとされている状態を示し、MODE3は、角度指令外乱値θaZが0に向かって漸減している状態を示す。
本実施形態において、判定部40は、先の図7に示した手法により脱調判定処理を行う。
以上説明した本実施形態によれば、上記第4実施形態の効果と同様の効果を奏することができる。
(第7実施形態)
以下、第7実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態において、判定部40は、モータ10に脱調が生じていると判定した場合であっても、所定の条件が成立していると判定した場合には、脱調判定を無効化する。
図19に、本実施形態に係る脱調判定処理の手順を示す。この処理は、例えば所定周期毎に繰り返し実行される。なお図19において、先の図7に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一のステップ番号を付している。
ステップS15の処理の完了後、ステップS30に進み、モータ10の回転速度の変化量ΔNmが所定速度変化量ΔNth以上であるとの条件、モータ10の回転速度Nmrが所定速度Nmth以上であるとの条件、モータ10に流れる電流変化量ΔImが所定電流変化量ΔIth以上であるとの条件、及びモータ10のトルク変化量ΔTrが所定トルク変化量ΔTth以上であるとの条件の論理和が真であるか否かを判定する。
なお、回転速度Nmrは、例えば速度指令値ω*に基づいて算出されればよく、電流変化量ΔImは、例えば相電流検出部23の検出値に基づいて算出されればよく、トルク変化量ΔTrは、例えば相電流検出部23の検出値及び速度指令値ω*に基づいて算出されればよい。ここで電流変化量ΔImとしては、例えば、δ軸電流の変化量が用いられればよい。
ステップS30において否定判定した場合には、ステップS15の脱調判定が有効なものとして取り扱われる。このため、その後モータ10の運転が停止される。一方、ステップS30において肯定判定した場合には、ステップS31に進み、ステップS15の脱調判定が無効化される。このため、モータ10の運転が継続される。
以上説明した本実施形態では、脱調が生じていると判定された場合であっても、その判定結果が無効化される。つまり、脱調判定処理の実行中にモータ10の動作状態が変化すると、モータ10に流れる電流が変動し、脱調判定精度が低下し得る。この場合、判定結果が無効化されることにより、モータ10の運転が誤って停止されることを抑制できる。
(第8実施形態)
以下、第8実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態において、判定部40は、所定の条件が成立していると判定した場合に脱調判定処理の実行を禁止する。
図20に、本実施形態に係る脱調判定処理の手順を示す。この処理は、例えば所定周期毎に繰り返し実行される。なお図20において、先の図7に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一のステップ番号を付している。
この一連の処理では、まずステップS40において、モータ10の回転速度の変化量ΔNmが所定速度変化量ΔNth以上であるとの条件、モータ10の回転速度Nmrが所定速度Nmth以上であるとの条件、モータ10に流れる電流変化量ΔImが所定電流変化量ΔIth以上であるとの条件、及びモータ10のトルク変化量ΔTrが所定トルク変化量ΔTth以上であるとの条件の論理和が真であるか否かを判定する。
ステップS40において否定判定した場合には、脱調判定処理の実行が許可され、ステップS10に進む。一方、ステップS40において肯定判定した場合には、ステップS41に進み、脱調判定処理の実行が禁止される。
以上説明した本実施形態によれば、脱調判定精度が低下する状況において脱調判定処理が禁止される。このため、脱調が生じていないにもかかわらず脱調が生じていると誤判定されることを抑制しつつ、制御装置30の処理負荷を低減することができる。
(第9実施形態)
以下、第9実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態において、判定部40は、上記第1実施形態で説明した脱調判定処理に先立ち、特開2010−213518号公報に記載された電圧振幅に基づく脱調判定処理を行う。
図21に、本実施形態に係る脱調判定処理の手順を示す。この処理は、例えば所定周期毎に繰り返し実行される。なお図21において、先の図7に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一のステップ番号を付している。
この一連の処理では、まずステップS50において、補正振幅指令値Vmを取得する。そして取得した補正振幅指令値Vmが判定閾値Vjth以下であるか否かを判定する。この処理は、脱調が生じているか否かを判定するための処理である。本実施形態では、図22に実線にて示すように、速度指令値ω*が高いほど、判定閾値Vjthが大きく設定される。
ステップS50において否定判定した場合には、脱調が生じていないと判定し、この一連の処理を一旦終了する。一方、ステップS50において肯定判定した場合には、ステップS51に進み、脱調が生じていると判定する。その後、ステップS10に進む。そして、ステップS11,S13の処理の完了した場合には、ステップS10に移行する。なお本実施形態において、ステップS50,S51の処理が「第1判定部」に相当する。
ステップS14において肯定判定した場合には、ステップS52に進み、ステップS51での判定結果を維持する。このため、その後モータ10の運転が停止される。なお本実施形態において、ステップS10〜S14の処理が「第2判定部」に相当する。
一方、ステップS14において否定判定した場合には、ステップS53に進み、ステップS51での判定結果を取り消す。このため、モータ10の運転は継続される。
またステップS53では、図22に破線にて示すように、判定閾値Vjthを低下させる処理を行う。これにより、その後ステップS50の処理が行われる場合には、低下させられた判定閾値Vjthが用いられる。なお本実施形態において、ステップS53の処理が「閾値低下部」に相当する。
本実施形態では、まずステップS50の脱調判定処理が行われる。これは、ステップS50の処理が外乱を重畳しないものであるため、外乱が重畳されるステップS10〜S14の脱調判定処理と比較して、モータ10の効率を低下させないようにするためである。ただし、ステップS50の処理は、モータ10の低回転領域において脱調判定精度が低下しやすい。これは、低回転領域において、正常時の補正振幅指令値Vmと脱調時の補正振幅指令値Vmとの差が小さくなりやすいためである。一方、ステップS10〜S14の脱調判定処理は、外乱を重畳するものであるため、ステップS50の脱調判定処理と比較して、脱調判定精度が高い。
そこで本実施形態では、ステップS50の処理で脱調が生じていると判定された場合であっても、ステップS14の処理で脱調が生じていないと判定されたときには、脱調が生じているとの判定結果が取り消されるとともに、判定閾値Vjthが低下させられる。このため、その後、低回転領域におけるステップS50の処理による脱調判定精度を高めることができる。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記第1実施形態では、脱調判定用のパラメータとしてY軸電流IYrが用いられたがこれに限らない。例えば、図23(a)〜(e)に示すように、電流ベクトルのM軸成分であるM軸電流IMr、δ軸電流Iδr、モータ10に流れる相電流、電流ベクトルのα軸成分であるα軸電流Iα、電流ベクトルのβ軸成分であるβ軸電流Iβ、又は電流振幅Iampが判定用パラメータとして用いられてもよい。これらパラメータは、正常時においては、振幅外乱値VZの重畳に伴って増加する。一方、これらパラメータは、脱調時においては、振幅外乱値VZの重畳に伴って増加するとともに、その増加量は正常時における増加量よりも大きくなる。このため、判定部40は、上記第5実施形態で説明した判定手法と同様の手法により脱調判定処理を行えばよい。なお、M軸電流IMrは、規定角λと、γ,δ軸電流Iγr,Iδrと基づいて算出されればよい。
・上記第3実施形態では、脱調判定用のパラメータとしてY軸電流IYrが用いられたがこれに限らない。例えば、図24(a)〜(e)に示すように、M軸電流IMr、δ軸電流Iδr、モータ10に流れる相電流、α軸電流Iα、β軸電流Iβ、又は電流振幅Iampが判定用パラメータとして用いられてもよい。これらパラメータは、正常時においては、位相外乱値θZの重畳に伴って増加する。一方、これらパラメータは、脱調時においては、位相外乱値θZが重畳された場合であっても値が変化しない。このため、判定部40は、上記第3実施形態で説明した判定手法と同様の手法により脱調判定処理を行えばよい。
・上記第4実施形態では、脱調判定用のパラメータとしてY軸電流IYrが用いられたがこれに限らない。例えば、図25(a)〜(e)に示すように、M軸電流IMr、δ軸電流Iδr、モータ10に流れる相電流、α軸電流Iα、β軸電流Iβ、又は電流振幅Iampが判定用パラメータとして用いられてもよい。これらパラメータは、正常時においては、γ軸指令外乱値IγZの重畳に伴って増加する。一方、これらパラメータは、脱調時においては、γ軸指令外乱値IγZの重畳に伴って増加するとともに、その増加量は正常時における増加量よりも大きくなる。このため、判定部40は、上記第5実施形態で説明した判定手法と同様の手法により脱調判定処理を行えばよい。
・上記第5実施形態では、脱調判定用のパラメータとしてγ軸電流Iγrが用いられたがこれに限らない。例えば、図26(a)〜(e)に示すように、M軸電流IMr、δ軸電流Iδr、モータ10に流れる相電流、α軸電流Iα、β軸電流Iβ、又は電流振幅Iampが判定用パラメータとして用いられてもよい。これらパラメータは、正常時においては、Y軸指令外乱値IYZの重畳に伴って増加する。一方、これらパラメータは、脱調時においては、Y軸指令外乱値IYZの重畳に伴って増加するとともに、その増加量は正常時における増加量よりも大きくなる。このため、判定部40は、上記第5実施形態で説明した判定手法と同様の手法により脱調判定処理を行えばよい。
・上記第5実施形態では、外乱重畳対象がY軸指令電流IY*とされたがこれに限らない。例えば、上記第1実施形態の図2に示したように、外乱重畳対象が補正振幅指令値Vmとされていてもよい。この場合、図26(f)〜(k)に示すように、脱調判定用のパラメータとして、γ軸電流Iγr、M軸電流IMr、δ軸電流Iδr、モータ10に流れる相電流、α軸電流Iα、β軸電流Iβ、又は電流振幅Iampが用いられてもよい。これらパラメータは、正常時においては、振幅外乱値VZの重畳に伴って増加する。一方、これらパラメータは、脱調時においては、振幅外乱値VZの重畳に伴って増加するとともに、その増加量は正常時における増加量よりも大きくなる。このため、判定部40は、上記第5実施形態で説明した判定手法と同様の手法により脱調判定処理を行えばよい。
また上記第5実施形態において、外乱重畳対象が、上記第3実施形態の図10に示したように電気角θvとされていてもよい。この場合、図26(l)〜(q)に示すように、脱調判定用のパラメータとして、γ軸電流Iγr、M軸電流IMr、δ軸電流Iδr、モータ10に流れる相電流、α軸電流Iα、β軸電流Iβ、又は電流振幅Iampが用いられてもよい。これらパラメータは、正常時においては、位相外乱値θZの重畳に伴って増加する。一方、これらパラメータは、脱調時においては、位相外乱値θZが重畳されたとしても値が変化しない。このため、判定部40は、上記第3実施形態で説明した判定手法と同様の手法により脱調判定処理を行えばよい。
・上記第6実施形態では、脱調判定用のパラメータとしてY軸電流IYrが用いられたがこれに限らない。例えば、図27(a)〜(f)に示すように、M軸電流IMr、γ軸電流Iγr、δ軸電流Iδr、モータ10に流れる相電流、α軸電流Iα、β軸電流Iβ、又は電流振幅Iampが判定用パラメータとして用いられてもよい。これらパラメータは、正常時においては、角度指令外乱値θaZの重畳に伴って増加する。一方、これらパラメータは、脱調時においては、角度指令外乱値θaZの重畳に伴って増加するとともに、その増加量は正常時における増加量よりも大きくなる。このため、判定部40は、上記第5実施形態で説明した判定手法と同様の手法により脱調判定処理を行えばよい。
・上記第6実施形態では、外乱重畳対象が力率角の指令値θa*とされたがこれに限らない。例えば、上記第1実施形態の図2に示したように、外乱重畳対象が補正振幅指令値Vmとされていてもよい。この場合、例えば、図27(g)に示すように、脱調判定用のパラメータとしてY軸電流IYrが用いられてもよい。また例えば、図27(h)〜(m)に示すように、脱調判定用のパラメータとして、M軸電流IMr、γ軸電流Iγr、δ軸電流Iδr、モータ10に流れる相電流、α軸電流Iα、β軸電流Iβ、又は電流振幅Iampが用いられてもよい。この場合、判定部40は、上記第5実施形態で説明した判定手法と同様の手法により脱調判定処理を行えばよい。
また上記第6実施形態において、外乱重畳対象が、上記第3実施形態の図10に示したように電気角θvとされていてもよい。この場合、図27(n)〜(t)に示すように、脱調判定用のパラメータとして、Y軸電流IYr、M軸電流IMr、γ軸電流Iγr、δ軸電流Iδr、モータ10に流れる相電流、α軸電流Iα、β軸電流Iβ、又は電流振幅Iampが用いられてもよい。また、この場合、判定部40は、上記第3実施形態で説明した判定手法と同様の手法により脱調判定処理を行えばよい。
・上記第1実施形態において、MODE0とされている場合において算出された複数のY軸電流IYrの平均値がY軸初期値IYbとして保持されてもよい。
・上記第1実施形態の図6において、MODE1を無くし、振幅外乱値VZを0から最大値Vmaxへとステップ状に変化させてもよい。なお、上記第1実施形態以外の実施形態における外乱も、ステップ状に変化させてもよい。
・図7に示したステップS14の処理を、Y軸電流変化量ΔIYがY軸閾値ΔYth以上であるか否かを判定する処理に置き換えてもよい。また、図9に示したステップS21の処理を、Y軸電流IYrが電流閾値IYth以上であるか否かを判定する処理に置き換えてもよい。
・上記第1実施形態において、脱調判定に用いられるパラメータとして、Y軸電流IYrにハイパスフィルタ処理等の高周波抽出処理が施された値が用いられてもよい。
・上記第1実施形態の図7に示したY軸閾値ΔYth、又は上記第2実施形態の図9に示した電流閾値IYthが、モータ10の回転速度以外の動作状態に基づいて可変設定されてもよい。ここで、回転速度以外の動作状態としては、例えば、モータ10のトルク、モータ10の温度が挙げられる。
・上記第7実施形態の図19のステップS30における4つの条件を、モータ10の回転速度の変化量ΔNmが所定速度変化量ΔNth以上であるとの条件、モータ10の回転速度Nmrが所定速度Nmth以上であるとの条件、モータ10に流れる電流変化量ΔImが所定電流変化量ΔIth以上であるとの条件、及びモータ10のトルク変化量ΔTrが所定トルク変化量ΔTth以上であるとの条件のうち、一部であってかつ少なくとも1つの条件に減らしてもよい。なお、上記第8実施形態の図20のステップS40についても同様である。
・上記第1実施形態の図2に示す構成において、速度補正部30n及び速度ゲイン乗算部30mは必須ではない。また、図2に示す構成において、振幅補正部30j及び電圧ゲイン乗算部30hも必須ではない。
・上記第1実施形態の図1に示す構成から電圧検出部24を除去してもよい。この構成は、例えば、バッテリ21の出力電圧の変化量が小さいものとして、電源電圧VINVが固定値に設定される場合に採用される構成である。
・モータの制御量は、回転速度に限らず、例えばトルクであってもよい。
・モータとしては、3相のものに限らず、3相以外のものであってもよい。また、モータとしては、電動ファン等の補機用モータに限らず、例えば、電気自動車やハイブリッド車に搭載される車載主機としてのモータであってもよい。