<第1実施形態>
以下、本発明に係る駆動システムを車両に適用した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、駆動システム100は、回転電機10、インバータ20及びコンデンサ25を備えている。回転電機10は、3相の同期機であり、ステータ巻線としてU,V,W相巻線11U,11V,11Wを備えている。本実施形態では、回転電機10は、車両の動力となる車載主機として用いられる。
インバータ20は、上アームスイッチSUp,SVp,SWpと下アームスイッチSUn,SVn,SWnとの直列接続体を3相分備えている。本実施形態では、各スイッチSUp,SUn,SVp,SVn,SWp,SWnとして、電圧制御形の半導体スイッチング素子が用いられており、より具体的には、IGBTが用いられている。各スイッチSUp,SUn,SVp,SVn,SWp,SWnには、フリーホイールダイオードDUp,DUn,DVp,DVn,DWp,DWnが逆並列に接続されている。
U相上アームスイッチSUpのエミッタには、U相下アームスイッチSUnのコレクタが接続されている。V相上アームスイッチSVpのエミッタには、V相下アームスイッチSVnのコレクタが接続されている。W相上アームスイッチSWpのエミッタには、W相下アームスイッチSWnのコレクタが接続されている。U,V,W相上アームスイッチSUp,SVp,SWpの各コレクタは、インバータ20の第1端子23に繋がる高電圧側ライン21に接続されている。U,V,W相下アームスイッチSUn,SVn,SWpの各エミッタは、インバータ20の第2端子24に繋がる低電圧側ライン22に接続されている。
インバータ20の第1端子23は、直流電源である蓄電池200の正極側端子に接続されており、第2端子24は、蓄電池200の負極側端子に接続されている。
インバータ20の入力側には、コンデンサ25が接続されている。具体的には、コンデンサ25の一方の端子は、第1端子23と蓄電池200の正極側端子とを繋ぐ配線に接続され、他方の端子は、第2端子24と蓄電池200の負極側端子とを繋ぐ配線に接続されている。これにより、コンデンサ25は、インバータ20に並列接続されている。なお、コンデンサ25は、高電圧側ライン21と低電圧側ライン22とを接続することにより、インバータ20に内蔵されていてもよい。
U相上アームスイッチSUpとU相下アームスイッチSUnとの接続点には、U相導電部材21Uの第1端が接続されている。U相導電部材21Uの第2端は、U相巻線11Uの第1端に接続されている。V相上アームスイッチSVpとV相下アームスイッチSVnとの接続点には、V相導電部材21Vの第1端が接続されている。V相導電部材21Vの第2端は、V相巻線11Vの第1端に接続されている。W相上アームスイッチSWpとW相下アームスイッチSWnとの接続点には、W相導電部材21Wの第1端が接続されている。W相導電部材21Wの第2端は、W相巻線11Wの第1端に接続されている。U,V,W相巻線11U,11V,11Wの第2端同士は、中性点で接続されている。
駆動システム100は、第1電流センサ31uと、第2電流センサ31vと、第3電流センサ31wと、回転角センサ32と、電圧センサ33とを備えている。第1電流センサ31uはU相導電部材21Uに流れるU相電流を検出する。第2電流センサ31vはV相導電部材21Vに流れるV相電流を検出する。第3電流センサ31wはW相導電部材21Wに流れるW相電流を検出する。回転角センサ32は回転電機10の回転磁界の角度である電気角θを検出する。電圧センサ33は、インバータ20に入力される蓄電池200からの入力電圧VINVを検出する。なお、本実施形態において、各電流センサは、少なくとも2相分の電流を検出できるように設けられていればよい。
駆動システム100は、制御装置30を備えている。制御装置30は、マイコンを主体として構成され、回転電機10の制御量をその指令値にフィードバック制御すべく、インバータ20を構成する各スイッチをスイッチング操作する。本実施形態において、制御量はトルクである。
制御装置30は、回転電機10の動作点に応じて、PWM制御、過変調制御及び矩形制御のうち、いずれかの制御を選択して実行する。まずは、図2を用いて、回転電機10の動作領域を説明する。
図2は、横軸を回転速度Nmとし、縦軸をトルクTrqとした場合の回転電機10の動作領域を示す。回転電機10では、基底回転速度N1よりも低回転側において、回転速度Nmに依らず回転電機10が出力可能なトルクの上限値が変化しない速度範囲である第1範囲B1が存在する。以下、この第1範囲B1において、出力可能なトルクの上限値である最大トルクTmaxを結んで規定される動作点の範囲を定トルクラインLmaxと称する。回転電機10には、基底回転速度N1よりも高回転側において、回転速度Nmを増加させるほど、回転電機10が出力可能なトルクの上限値が小さくなる速度範囲である第2範囲B2が存在する。
制御装置30は、上位の制御装置から、回転電機10のトルク指令値Trq*及び速度指令値Nm*を取得する。制御装置30は、取得したトルク指令値Trq*及び速度指令値Nm*から定まる動作点に基づいて、PWM制御、過変調制御及び矩形制御のいずれかを選択する。制御装置30は、回転電機10の速度指令値Nm*が低回転側から高回転側に移行するのに従い、PWM制御、過変調制御及び矩形制御の順にインバータ20に対する操作態様を切り換える。
PWM制御は、三角波信号等のキャリア信号(搬送波)と、U,V,W相巻線11U,11V,11Wに印加する相電圧を定めるU,V,W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*との大小比較に基づいて、各上アームスイッチSUp~SWp、及び各下アームスイッチSUn~SWnをオンオフ操作するための操作信号を生成する制御である。各操作信号は、スイッチのオン操作を指示するオン指令及びスイッチのオフ操作を指示するオフ指令からなる。本実施形態において、U,V,W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*は、位相が電気角θで120度ずれた正弦波状の信号である。PWM制御では、キャリア信号の振幅に対するU,V,W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*の振幅の比である変調率aは、1以下とされている。本実施形態では、U,V,W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*が電圧指令値に相当する。
過変調制御は、キャリア信号の振幅よりも大きい振幅を有するU,V,W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*と、キャリア信号との大小比較に基づいて、各操作信号を生成する制御である。過変調制御では、変調率aが1よりも大きくされている。
矩形制御は、各U,V、W相において、上アームスイッチがオン操作されてかつ下アームスイッチがオフ操作される状態と、上アームスイッチがオフ操作されてかつ下アームスイッチがオン操作される状態とのそれぞれが、回転電機10の電気角θの1周期において1回ずつ実現されるように、各操作信号を生成する制御である。矩形制御では、例えば、変調率aが1.2以上とされている。
ここで、制御装置30がPWM制御によりインバータ20の各スイッチSUp~SWp,SUn~SWnを操作する際、コンデンサ25に所定値以上のリップル電流が流れる場合がある。そのため、所定値以上のリップル電流が流れる場合の発熱量を考慮してコンデンサ25の耐熱性を高める必要がある。耐熱性の向上は、コンデンサ25の体格を増加させる要因となる。
コンデンサ25に流れるリップル電流は、PWM制御におけるキャリア信号の2次成分が支配的であることが一般的に知られており、この2次成分G2は下記式(2)により近似される。
Imは、回転電機10の各U,V、W相巻線11U,11V,11Wに流れる各相電流の振幅であり、J1は、1次のベッセル関数である。
1次のベッセル関数は、駆動システム100で取り得る変調率aの範囲において、この変調率aとの間に負の相関があるため、変調率aを大きくすることにより2次成分G2を低下させることができ、ひいてはリップル電流の増加を抑制することができる。そこで、本実施形態では、制御装置30は、PWM制御の実施中であり、かつコンデンサ25に所定値以上のリップル電流が流れる場合に、変調率aを大きくすることにより、リップル電流の増加を抑制する。
次に、制御装置30の機能のうち、PWM制御に係る機能について図3の機能ブロック図を用いて詳しく説明する。制御装置30は、2相変換部40と、指令情報生成部41と、動作点判定部42と、指令値変更部43と、操作部44とを備えている。
2相変換部40は、各電流センサ31u,31v,31wにより検出された各相電流Iu,Iv,Iwと、電気角θとに基づいて、3相固定座標系におけるU,V,W相電流を、2相回転座標系であるdq座標系におけるd軸電流Idr及びq軸電流Iqrに変換する。
指令情報生成部41は、トルク指令値Trq*に応じた、d,q軸指令電流Id*,Iq*を算出する。本実施形態では、指令情報生成部41は、最小電流最大トルク制御により、トルク指令値Trq*を満たしつつ、回転電機10の損失が最小となるd,q軸指令電流Id*,Iq*を算出する。
指令情報生成部41により実施される最小電流最大トルク制御を、図4を用いて説明する。図4に示すように、dq座標系において、d,q軸電流Idr,Iqrを結んで規定される定電流円C1,C2,C3を破線で示している。dq座標系において、回転電機10の出力トルクT1,T2,T3に対応するd,q軸電流Idr,Iqrを結んで規定される等トルク線TL1,TL2,TL3を実線で示している。各出力トルクT1,T2,T3は、T1<T2<T3の関係である。
最小電流最大トルク制御では、トルク指令値Trq*に対応する等トルク線上のd,q軸電流Idr,Iqrのうち、原点0からの距離が最小となる電流が、d,q軸指令電流Id*,Iq*として算出される。例えば、トルク指令値Trq*に対応するトルクがT2である場合、等トルク線TL2と各定電流円C1,C2,C3との交点であるd,q軸電流Idr,Iqrのうち、原点0からの距離が最小となる値が、d,q軸指令電流Id*,Iq*として算出される。最小電流最大トルク制御では、d,q軸指令電流Id*,Iq*として算出されるd,q軸指令電流Id*,Iq*は、下記式(3),(4)を満たす値となる。
βは、q軸を基準とした場合のd,q軸指令電流Id*,Iq*により規定される指令電流ベクトルの位相角である。Ψaは鎖交磁束[wb]であり、Ldはd軸インダクタンス[H]であり、Lqはq軸インダクタンス[H]である。
本実施形態では、制御装置30が備える記憶部には、トルク指令値Trq*と、上記式(3),(4)で示される関係を満たすd,q軸指令電流Id*,Iq*との関係を示すマップが記憶されている。指令情報生成部41は、このマップを参照することで、トルク指令値Trq*に応じた、d,q軸指令電流Id*,Iq*を算出することができる。
動作点判定部42は、トルク指令値Trq*及び速度指令値Nm*に基づいて、回転電機10の動作点がリップル発生範囲に含まれるか否かを判定する。リップル発生範囲は、コンデンサ25に流れるリップル電流が所定値以上となる回転電機10の動作範囲である。
図5を用いて、回転電機10の動作領域と、リップル発生範囲との関係を説明する。コンデンサ25に流れるリップル電流は、回転電機10の出力トルクが最大トルクTmaxとなる場合に最も大きくなり、トルクTrqが小さくなるほど小さくなる。定トルクラインLmaxにおいて、速度判定値N2よりも低回転側に、コンデンサ25に流れるリップル電流が最大となる最大リップル動作点P1が存在する。速度判定値N2は、回転電機10の動作点が定トルクラインLmax上にある場合に、制御装置30がインバータ20に対する操作をPWM制御と過変調制御との間で切り換える際の速度指令値Nm*の判定値である。また、定トルクラインLmaxにおいて、基底回転速度N1により定められる動作点は、インバータ20における許容熱負荷が最大となる最大負荷動作点P2である。そして、最大リップル動作点P1は、定トルクラインLmaxにおいて、最大負荷動作点P2よりも低回転側の動作点となっている。これは、PWM制御では、過変調制御及び矩形制御よりもインバータ20の各スイッチをオンオフ操作する単位時間当たりの回数が多いため、定トルクラインLmaxのうち、PWM制御が実施される動作点においてコンデンサ25に流れる電流に高調波成分が重畳し易くなるためである。
本実施形態では、図5に示す動作領域のうち、トルクTrqが、最大トルクTmaxよりも低いトルク判定値Ts以上かつ最大トルクTmax以下であり、回転速度Nmが0よりも大きくかつ速度判定値N2以下となる範囲をリップル発生範囲として定めている。動作点判定部42は、回転電機10の動作点が、このリップル発生範囲(0<Nm*≦N2、Ts≦Trq*≦Tmax)に含まれか否かを判定する。リップル発生範囲を、定トルクラインLmaxにおいて速度判定値N2以下の動作範囲とすることにより、回転電機10の動作点を最大負荷動作点P2まで変更させることができるため、変調率aの変更幅の自由度を高めることができる。
図3に戻り、指令値変更部43は、動作点判定部42により回転電機10の動作点がリップル発生範囲に含まれると判定されている場合に、指令情報生成部41により生成されたd,q軸指令電流Id*,Iq*から定まる指令電流ベクトルの大きさ|Ia|を増加させ、d軸指令電流Id*の絶対値を小さくするように、d,q軸指令電流Id*,Iq*を変更する。
指令値変更部43によるd,q軸指令電流Id*,Iq*の変更を、図6を用いて説明する。図6では、変更前のd,q軸指令電流Id*,Iq*により定まるd,q軸電流をId1,Iq1により示し、指令値変更部43による変更後のd,q軸指令電流Id*,Iq*により定まるd,q軸電流をId2,Iq2により示している。同一のトルクラインTL11上で、d,q軸指令電流Id*,Iq*により定まる指令電流ベクトルIaの位相角βを小さくする(遅角させる)ことにより、d軸指令電流Id*の絶対値を小さくしつつ、指令電流ベクトルの大きさ|Ia|を大きくする。以下、指令値変更部43によるd,q軸指令電流Id*,Iq*の変更を強め界磁制御と称す。図6では、強め界磁制御により、指令電流ベクトルIa1の位相角をβ1からβ2まで小さくすることにより、指令電流ベクトルがIa1からIa2に変更されている。これにより、d軸指令電流Id*の絶対値が|Id1|から|Id2|へと小さくなっており、指令電流ベクトルの大きさが|Ia1|から|Ia2|へと大きくなっている。
本実施形態では、制御装置30が備える記憶部には、d,q軸指令電流Id*,Iq*と、位相角βの遅角量との関係を示すマップが記憶されている。指令値変更部43は、このマップを参照することで、d,q軸指令電流Id*,Iq*に応じた位相角βの変更量を算出することができる。
図3に戻り、指令値変更部43からのd,q軸指令電流Id*,Iq*は、操作部44に入力される。操作部44は、d,q軸指令電流Id*,Iq*に基づいて、U,V,W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*を算出する。そして、算出したU,V,W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*とキャリア信号とを用いたPWM制御により、インバータ20の各スイッチSUp~SWp,SUn~SWnをオンオフ操作する。
変更後のd,q軸指令電流Id*,Iq*により定められる指令電流ベクトルの大きさ|Ia|が大きくなることにより、操作部44により算出されるU,V,W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*が大きくなる。そのため、操作部44が実施するPWM制御において、キャリア信号に対するU,V、W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*の比である変調率aが大きくなる。
本実施形態では、操作部44は、d軸偏差算出部44aと、q軸偏差算出部44bと、d軸指令電圧算出部44cと、q軸指令電圧算出部44dと、3相変換部44eと、PWM制御部44fとを備えている。
d軸偏差算出部44aは、d軸指令電流Id*からd軸電流Idrを減算した値であるd軸電流偏差ΔIdを算出する。q軸偏差算出部44bは、q軸指令電流Iq*からq軸電流Iqrを減算した値であるq軸電流偏差ΔIqを算出する。
d軸指令電圧算出部44cは、速度指令値Nm*及びd軸電流偏差ΔIdに基づいて、d軸指令電圧Vd*を算出する。具体的には、d軸指令電圧算出部44cは、d軸電流偏差ΔIdをゼロに制御するための操作量として、d軸指令電圧Vd*を算出する。この際、回転電機10の実際の回転速度Nmが速度指令値Nm*からずれないように、速度指令値Nm*を考慮する。
q軸指令電圧算出部44dは、速度指令値Nm*及びq軸電流偏差ΔIqに基づいて、q軸指令電圧Vq*を算出する。具体的には、q軸指令電圧算出部44dは、q軸電流偏差ΔIqをゼロに制御するための操作量として、q軸指令電圧Vq*を算出する。この際、回転電機10の実際の回転速度Nmが速度指令値Nm*からずれないように、速度指令値Nm*を考慮する。
3相変換部44eは、d,q軸指令電圧Vd*,Vq*、入力電圧VINV、及び電気角θに基づいて、d,q軸指令電圧Vd*,Vq*を、3相固定座標系におけるU,V,W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*に変換する。本実施形態において、U,V,W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*は、電気角θで位相が互いに120°ずれた正弦波状の波形となる。
PWM制御部44fは、3相変換部44eから出力されたU,V,W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*に基づいて、各スイッチSUp~SWp,SUn~SWnをオンオフするための各操作信号gUp,gUn,gVp,gVn,gWp,gWnを生成する。各操作信号gUp~gWp,gUn~gWpは、キャリア信号とU,V,W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*との大小比較に基づいて生成される。
次に、インバータ20の各スイッチSUp~SWp,SUn~SWnを操作する手順を、図7を用いて説明する。図7の処理は、制御装置30により所定の制御周期で繰り返し実施される。
ステップS11では、トルク指令値Trq*と速度指令値Nm*とを取得する。ステップS12では、インバータ20に対する操作としてPWM制御を実施しているか否かを判定する。インバータ20に対する操作としてPWM制御を実施している場合、ステップS13に進み、図4等により説明した最小電流最大トルク制御によりd,q軸指令電流Id*,Iq*を算出する。
ステップS14では、ステップS11で取得しているトルク指令値Trq*及び速度指令値Nm*に基づいて、回転電機10の動作点がリップル発生範囲に含まれるか否かを判定する。具体的には、トルク指令値Trq*がトルク判定値Ts以上、最大トルクTmax以下であり、かつ速度指令値Nm*が0よりも大きく、速度判定値N2以下であると判定すると、回転電機10の動作点がリップル発生範囲に含まれると判定する。
ステップS14を肯定判定すると、ステップS15に進み、図5等により説明したように、強め界磁制御によりステップS13で算出したd,q軸指令電流Id*,Iq*を変更する。これにより、d軸指令電流Id*の絶対値を小さくし、かつ指令電流ベクトルの大きさ|Ia|が大きくなるように、d,q軸指令電流Id*,Iq*が変更される。
ステップS16では、ステップS15による変更後のd,q軸指令電流Id*,Iq*を用いてU,V,W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*を算出する。ステップS18では、ステップS16で算出したU,V、W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*を用いたPWM制御により、インバータ20を操作する。これにより、PWM制御での変調率aがd,q軸指令電流Id*,Iq*を変更しない場合よりも増加することにより、コンデンサ25に流れるリップル電流の増加が抑制される。
ステップS14に戻り、回転電機10の動作点がリップル発生範囲に含まれないと判定すると、ステップS17に進み、ステップS13で算出したd,q軸指令電流Id*,Iq*をそのまま用いてU,V、W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*を算出する。ステップS17からステップS18に進む場合、ステップS17で算出したU,V、W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*を用いたPWM制御によりインバータ20を操作する。
なお、ステップS12において否定判定した場合には、ステップS19に進む。ステップS19では、インバータ20の制御として矩形制御又は過変調制御を実施する。そして、図7の処理を一旦終了する。
次に、図8を用いて、本実施形態でのリップル電流の増加を抑制する効果を説明する。
図8(a)~図8(d)は、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4及び本実施例の各値を示している。具体的には、図8(a)は、比較例1~4及び本実施例におけるq軸を基準とする指令電流ベクトルの位相角βを示す。図8(b)は、比較例1~4及び本実施例における各U,V,W相電流Iu,Iv,Iwの実効値を示す。図8(c)は、比較例1~4及び本実施例におけるリップル電流を示す。図8(d)は、比較例1~4及び本実施例におけるシステム損失を示す。
比較例3のd,q軸指令電流Id*,Iq*は、最小電流最大トルク制御(MTPA)により算出されている。そのため、図8(d)に示すように、比較例3は、比較例1~4及び本実施例のうち、システム損失が最も低い値となっている。以下では、比較例3でのd,q軸指令電流Id*,Iq*により定められる指令電流ベクトルの位相角を基準位相角βsと称す。
比較例1,2は、比較例3のd,q軸指令電流Id*,Iq*を弱め界磁側に変更した場合の各値を示している。具体的には、比較例1,2では、指令電流ベクトルの大きさ|Ia|を大きくしつつ、d軸指令電流Id*の絶対値が大きくなるように、比較例3のd,q軸指令電流Id*,Iq*を変更した場合の各値である。なお、比較例1は比較例2よりも、指令電流ベクトルの大きさ|Ia|が大きく、かつd軸指令電流Id*の絶対値が大きくなっている。
比較例1,比較例2では、基準位相角βsよりも位相角βが大きくなっており、比較例1は比較例2よりも、位相角βが大きくなっている。また、比較例1は比較例2よりも、U,V,W相電流Iu,Iv,Iwの実効値が大きくなっている。U,V,W相電流Iu,Iv,Iwの実効値の増加に伴って、比較例1,2では、比較例3よりもリップル電流が大きくなっている。これは、比較例1,2では、比較例3よりも指令電流ベクトルの大きさ|Ia|の増加とともに、d軸指令電流Id*の絶対値が大きくなったことにより、比較例3よりも回転電機10の鎖交磁束による逆起電力が抑制され、変調率aが低下したためである。なお、比較例1,2では、比較例3よりも、U,V,W相電流Iu,Iv,Iwの実効値が大きくなったことに伴いシステム損失が大きくなっている。
本実施例及び比較例4は、比較例3のd,q軸指令電流Id*,Iq*を強め界磁側に変更した場合の各値を示している。具体的には、本実施例及び比較例4は、指令電流ベクトルの大きさ|Ia|を大きくしつつ、d軸指令電流Id*の絶対値が小さくなるように、比較例3のd,q軸指令電流Id*,Iq*を変更した場合の各値である。なお、本実施例は比較例4よりも、指令電流ベクトルの大きさ|Ia|が小さく、かつd軸指令電流Id*の絶対値が小さくなっている。
本実施例及び比較例4では、基準位相角βsよりも位相角βが小さくなっており、比較例4は本実施例よりも、位相角βが小さくなっている。また、本実施例は比較例4よりも、U,V,W相電流Iu,Iv,Iwの実効値が小さくなっている。本実施例では、U,V,W相電流Iu,Iv,Iwの実効値の増加に合わせて、比較例3よりもリップル電流が小さくなっている。これは、本実施例では、指令電流ベクトルの大きさ|Ia|の増加とともに、d軸指令電流Id*の絶対値が小さくなったことにより、比較例3よりも回転電機10の鎖交磁束による逆起電力が増加させられることで、変調率aが増加したためである。なお、本実施例では、比較例3よりもU,V,W相電流Iu,Iv,Iwの実効値が大きくなったことに伴い、比較例3よりもシステム損失が大きくなっている。また、位相角βを小さくしすぎると、比較例4のように、本実施例よりもリップル電流が大きくなっている。
以上説明した本実施形態により以下の効果を奏することができる。
・制御装置30は、インバータ20に対してPWM制御が実施されている期間において、回転電機10の動作点がコンデンサ25に流れるリップル電流が所定値以上となるリップル発生範囲に含まれているか否かを判定する。回転電機10の動作点がリップル発生範囲に含まれていると判定した場合に、d,q軸指令電流Id*,Iq*から定まるd軸電流Idrの絶対値を小さくし、かつ指令電流ベクトルの大きさ|Ia|を大きくするように、d,q軸指令電流Id*,Iq*を変更する。これにより、インバータ20に対するPWM制御での変調率aが増加し、コンデンサ25に電圧を印加するコンバータを用いることなく、リプル電流の増加を抑制することができる。
・制御装置30は、トルク指令値Trq*がトルク判定値Ts以上で、最大トルクTmaxであり、速度指令値Nm*が0よりも大きく、基底回転速度N1よりも小さい速度判定値N2以下である場合に、回転電機10の動作点がリップル発生範囲に含まれると判定する。これにより、リップル電流が発生し易い動作点の範囲において、インバータ20の許容熱負荷を越えない範囲で、リップル電流の増加を抑制することができる。
・制御装置30は、トルク指令値Trq*に基づく最小電流最大トルク制御によりd,q軸指令電流Id*,Iq*を生成する。これにより、駆動システム100の損失を大きく低下させることなく、コンデンサ25に流れるリップル電流の増加を抑制することができる。
・制御装置30は、dq軸座標系において、d,q軸指令電流Id*,Iq*により定められる指令電流ベクトルIaを、トルク指令値Trq*に応じた同一トルクライン上でq軸側に近づけるように、d,q軸指令電流Id*,Iq*を変更する。これにより、回転電機10のトルクをトルク指令値Trq*に維持しつつ、コンデンサ25に流れるリップル電流の増加を抑制することができる。
<第1実施形態の変形例>
リップル電流は、定トルクラインLmax上の最大リップル動作点P1において最も大きくなる。そこで、回転電機10の動作領域のうち、定トルクラインLmaxをリップル発生範囲として定めてもよい。具体的には、回転電機10の動作領域のうち、トルクTrqが最大トルクTmaxであり、回転速度Nmが0よりも大きくかつ速度判定値N2以下となる範囲を、リップル発生範囲として定めればよい。
<第2実施形態>
第2実施形態では、第1実施形態と異なる構成を主に説明する。なお、第1実施形態と同一の符号を付した構成は同一の構成を示し、その説明は繰り返さない。
本実施形態では、コンデンサ25の温度が所定の温度よりも高いことを条件に、強め界磁制御によりd,q軸指令電流Id*,Iq*を変更する。これは、コンデンサ25の温度が低い場合は、高い場合と比べてリップル電流が流れることによるコンデンサ25の発熱の悪影響が小さいためである。
図9に示すように、本実施形態の駆動システム100は、コンデンサ25の温度を検出する温度センサ50を備えている。温度センサ50により検出されたコンデンサ25の温度であるコンデンサ温度Fは、制御装置30に入力される。本実施形態では、制御装置30が温度取得部に相当する。
次に、図10を用いて、本実施形態に係るPWM制御の手順を説明する。図10に示す処理は、制御装置30により所定周期で繰り返し実施される。
ステップS13により、最小電流最大トルク制御により、d,q軸指令電流Id*,Iq*を算出した後、ステップS20では、温度センサ50により検出されたコンデンサ温度Fが温度判定値Tcよりも高いか否かを判定する。温度判定値Tcは、コンデンサ25の信頼性を維持可能なコンデンサ25の許容上限温度(耐熱温度)以下の値に設定され、具体的には例えば、許容上限温度に設定されている。
ステップS20において否定判定した場合、ステップS17に進み、ステップS13で算出したd,q軸指令電流Id*,Iq*をそのまま用いてU,V、W相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*を算出する。一方、ステップS20において肯定判定した場合、ステップS14に進む。
以上説明した本実施形態は、以下の効果を奏することができる。
制御装置30は、コンデンサ25の温度が温度判定値Tcよりも大きく、かつ回転電機10の動作点がリップル発生範囲に含まれると判定した場合に、d,q軸指令電流Id*,Iq*を変更する。そのため、リップル電流によるコンデンサ25の温度上昇における悪影響が大きい場合に限って、リップル電流の増加が抑制される。これにより、変調率aを増加させたことによる駆動システム100の効率低下を極力抑えつつ、リップル電流の増加を抑制することができる。
<その他の実施形態>
・指令情報生成部41は、指令電流ベクトル情報として、d,q軸指令電流Id*,Iq*に代えて、指令電流ベクトルの大きさ及び位相角を算出してもよい。この場合、図3に示す指令値変更部43は、回転電機10の動作点がリップル発生範囲に含まれている場合に、指令電流ベクトルの大きさを大きくし、かつ位相角を小さくする。そして、変更した指令電流ベクトルの大きさ及び位相角に基づいて、d,q軸指令電流Id*,Iq*を算出すればよい。
・制御装置30は、インバータ20に対する操作として過変調制御及び矩形制御を実施せず、PWM制御のみを実施してもよい。