[ゴルフボール用樹脂組成物]
ゴルフボール用樹脂組成物は、樹脂成分として、アイオノマー樹脂を含有し、温度可変スピンプローブ法電子スピン共鳴により測定されるイオン会合体の拘束層の平均厚さが3.0Å〜9.0Åであることを特徴とする。
アイオノマー樹脂は、高分子鎖にイオン基が導入されたイオン性高分子である。図1はアイオノマー樹脂の内部構造の模式図である。図2は、イオン会合体の模式図である。アイオノマー樹脂は、図1に示すように、高分子鎖のマトリックス11の中で、イオン基が凝集し、イオン会合体12を形成している。図2に示すように、個々のイオン会合体12は、イオン基が静電的引力により凝集することで形成されている(図2では、イオン基としてカルボキシ基、金属イオンとしてナトリウムイオンを図示している。)。このイオン会合体12の周囲には、高分子鎖13の運動が拘束された領域(いわゆる拘束層14)が存在する。そして、この拘束層14の厚さ(d−R1)が薄い程、アイオノマー樹脂の反発性が高くなる。よって、アイオノマー樹脂を含有するゴルフボール用樹脂組成物において、温度可変スピンプローブ法電子スピン共鳴により測定されるイオン会合体の拘束層の平均厚さが3.0Å〜9.0Åであれば、ゴルフボール用樹脂組成物の反発性が向上する。
前記イオン会合体の平均厚さは、温度可変スピンプローブ法電子スピン共鳴により測定する。スピンプローブ法電子スピン共鳴とは、電子スピンを有さない反磁性物質の性質を分析するために、系中に電子スピンを導入して、電子スピン共鳴を行う方法である。スピンプローブ法では、スピンプローブ剤の種類を変えることによって、アイオノマー樹脂中のイオン会合体周辺の拘束層またはマトリックス領域の任意の位置について、分子の運動性をプローブできる。そして、電子スピン共鳴(ESR)スペクトルから運動性パラメーター(2A’zz)を求めることで、プローブ位置の分子拘束性を評価できる。また、温度可変スピンプローブ法電子スピン共鳴では、任意の試料温度において、電子スピン共鳴を行うことができる。よって、試料温度を変えて電子スピン共鳴を行うことで、プローブ位置における分子の拘束性が無くなる温度を測定できる。なお、本発明では、運動性パラメーター(2A’zz)が5mT(50G)となる温度(T5mT)を、分子の拘束性が無くなる温度と定義する。
ここで、拘束層における分子の拘束性は、イオン会合体表面からの距離が遠くなるほど小さくなる。そのため、拘束層では、イオン会合体表面からの距離に比例して、温度(T5mT)が低くなると考えられる。よって、この温度(T5mT)を、イオン会合体表面からの距離に対してプロットすると、このプロットは直線で近似できる。また、温度(T5mT)は、イオン会合体表面からの距離が遠くなる程低くなり、マトリックス領域に達すると最低値を示すようになる。よって、前記近似直線の外挿線において、マトリックス領域の温度(T5mT)に対応するイオン会合体表面からの距離が、拘束層の厚さとなる。
本発明では、下記(i)〜(iii)の手順により拘束層の厚さを測定する。
(i)ゴルフボール用樹脂組成物について、X線小角散乱測定を行い、liquid−like modelに従い、イオン会合体半径(R1)を求める。
(ii)ゴルフボール用樹脂組成物について、温度可変スピンプローブ法電子スピン共鳴測定(拘束層用スピンプローブ剤;5−ドキシルステアリン酸、7−ドキシルステアリン酸、10−ドキシルステアリン酸、12−ドキシルステアリン酸、マトリックス領域用スピンプローブ剤;10−ドキシルノナデカン)を行い、各プローブ位置について温度(T5mT)を求める。
(iii)拘束層用スピンプローブ剤で得られた温度(T5mT)を、イオン会合体表面からの距離(d−R1)に対してプロットし、最小二乗法により線形回帰式を求める。前記線形回帰式を用いて、マトリックス領域用スピンプローブ剤で得られた温度(T5mT)に対応する距離(d−R1)を算出し、これを拘束層厚さとする。
前記イオン会合体の半径は、X線小角散乱により測定する。具体的には、X線小角散乱により得られる散乱強度パターン(SAXSパターン)について、YarussoとCooperによって提案されたliquid−like model(D. J. Yarusso, S. L. Cooper, Macromolecules, 16, 1871-1880(1983))に従い、イオン会合体半径(R1)を求める。
前記温度可変スピンプローブ法電子スピン共鳴では、スピンプローブ剤として、5−ドキシルステアリン酸(5DSA)、7−ドキシルステアリン酸(7DSA)、10−ドキシルステアリン酸(10DSA)、12−ドキシルステアリン酸(12DSA)および10−ドキシルノナデカン(10DND)を使用する。前記5DSA、7DSA、10DSAおよび12DSAは、ステアリン酸骨格を有し、それぞれ5位、7位、10位、12位の位置にドキシルニトロキシドがラベルされている。前記10DNDは、ナノデカン骨格を有し、10位の位置にドキシルニトロキシドがラベルされている。
図3は、スピンプローブ剤のプローブ位置を示す模式図である。図3中、「○」はカルボキシ基を表し、「■」はドキシルニトロキシドを表す。前記5DSA(31)、7DSA(32)、10DSA(33)および12DSA(34)は、ゴルフボール用樹脂組成物中において、ステアリン酸骨格のカルボキシ基部分がアイオノマー樹脂のイオン会合体内に取り込まれ、炭化水素鎖部分がイオン会合体の径方向外方に延出する。そのため、図3に示すように、これらの5DSA、7DSA、10DSAおよび12DSAは、イオン会合体周辺に存在する拘束層について、厚さ方向に異なる位置をプローブする。前記10DND(35)は、カルボキシ基を有さないため、イオン会合体に取り込まれずマトリックス領域11をプローブする。
前記分子の拘束性が無くなる温度は、運動性パラメーター(2A’zz)が5mT(50G)となる温度と定義する。前記運動性パラメーター(2A’zz)は、ニトロキシドラジカルにおいて、N−Oの2Pz方向に磁場がかかった場合の窒素の超微細構造を表す超微細結合定数(Azz)の2倍となる。この運動性パラメーター(2A’zz)の値が大きい程、ドキシルニトロキシドの拘束性が高いといえる。
前記5mT(50G)は、アイオノマー樹脂の内部構造のうち、高分子鎖のマトリックス11部分の運動性を示すスピンプローブ剤(10DND)の測定結果から決めたものである。図3に示すとおり、10DNDはイオン会合体部分の状態に関わらず、必ず、イオン会合体よりも外側の高分子鎖のマトリックス11部分の運動性を示す。そして、温度を上げながら運動性パラメーター(2A’zz)を測定すると、50G付近を境にして、10DNDの運動性パラメーター(2A’zz)が急激な低下を示す(図6参照)。これはマトリックス中のポリエチレン結晶部位の融解に由来し、マトリックスの拘束性が無くなったことを示す。よって、マトリックスの拘束性が無くなる運動性パラメーターの値(2A’zz=50G)を、各プローブ位置の分子の拘束性が無くなる温度(T5mT)とした。
前記イオン会合体表面からの距離は、スピンプローブ剤分子のカルボキシ基側末端からドキシルニトロキシドが結合している炭素までの距離(d)から、イオン会合体の半径(R1)を減じることで求められる。前記カルボキシ基側末端からドキシルニトロキシドが結合している炭素までの距離(d)は、分子構造から求めることができる。
前記拘束層の平均厚さは、3.0Å以上が好ましく、より好ましくは3.3Å以上、さらに好ましくは3.6Å以上であり、9.0Å以下が好ましく、より好ましくは8.9Å以下、さらに好ましくは8.8Å以下である。拘束層の平均厚さが3.0Å以上であればイオン会合体周辺の分子運動の拘束性が高くなり、変形時に分子運動に由来するエネルギーロスが抑えられる。また、拘束層の平均厚さが9.0Å以下であれば拘束層の堅牢さが確保されて、変形時、拘束層周辺の破壊によるエネルギーロスが抑えられる。よって、拘束層の平均厚さが上記範囲内であれば、ゴルフボール用樹脂組成物の反発性が向上する。
前記ゴルフボール用樹脂組成物のスラブ硬度は、ショアC硬度で、50以上が好ましく、より好ましくは65以上、さらに好ましくは75以上であり、99以下が好ましく、より好ましくは95以下、さらに好ましくは90以下である。スラブ硬度がショアC硬度で50以上であれば、外力を負荷した際の変形が小さくなり、変形によるエネルギーロスが抑制されるため、ゴルフボール用樹脂組成物の反発性がより向上し、99以下であれば、打撃時の衝撃が抑えられるため、打感が良いゴルフボールが製造できる。
前記ゴルフボール用樹脂組成物のメルトフローレイト(MFR)(190℃、2.16kg)は、0.1g/10min以上が好ましく、より好ましくは0.6g/10min以上、さらに好ましくは1.5g/10min以上であり、200g/10min以下が好ましく、より好ましくは60g/10min以下、さらに好ましくは20g/10min以下である。MFRが0.1g/10min以上であれば、プレス成型、インジェクション成型などにおいて、成形性が向上し、200g/10min以下であれば、ゴルフボール成型時、製造バッチ間の流動性のばらつきが抑えられて、成形不良を低減できる。
前記ゴルフボール用樹脂組成物の反発弾性率は大きいほどよく、その上限に制限は無いが、50%以上が好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上である。反発弾性率が50%以上であれば、得られるゴルフボールの飛距離性能がより向上する。
前記ゴルフボール用樹脂組成物は、樹脂成分として、アイオノマー樹脂を含有する。前記アイオノマー樹脂としては、オレフィン系アイオノマー樹脂、ウレタン系アイオノマー樹脂、スチレン系アイオノマー樹脂、またはこれらの混合物が挙げられる。前記アイオノマー樹脂としては、オレフィン系アイオノマー樹脂が好ましい。
前記オレフィン系アイオノマー樹脂としては、(A1)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物(以下、「(A1)二元系アイオノマー樹脂」と称する場合がある。)、および/または、(A2)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物(以下、「(A2)三元系アイオノマー樹脂」と称する場合がある。)が好ましい。前記(A1)二元系アイオノマー樹脂および(A2)三元系アイオノマー樹脂は、共重合体が有するカルボキシ基を金属イオンにより中和したアイオノマー樹脂である。
前記オレフィンとしては、炭素数が2〜8個のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテンなどが挙げられ、エチレンが好ましい。前記炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸などが挙げられ、アクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。
α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、炭素数が3〜8個α,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステルが好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸またはマレイン酸のアルキルエステルがより好ましく、特にアクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。エステルを構成するアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステルなどが挙げられる。
前記(A1)二元系アイオノマー樹脂としては、エチレン−(メタ)アクリル酸二元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。前記(A2)三元系アイオノマー樹脂としては、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
前記(A1)二元系アイオノマー樹脂を構成する二元共重合体、および、(A2)三元系アイオノマー樹脂を構成する三元共重合体は、共重合体中の炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率が、4質量%以上が好ましく、より好ましくは6質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上であり、50質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは15質量%以下である。炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率が、4質量%以上であれば二元系アイオノマー樹脂がより高反発となり、50質量%以下であれば二元系アイオノマー樹脂の柔軟性が向上する。
前記(A1)二元系アイオノマー樹脂、および/または、(A2)三元系アイオノマー樹脂のカルボキシル基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。前記(A1)二元系アイオノマー樹脂、および、(A2)三元系アイオノマー樹脂は、Na+、Mg2+、Ca2+、および、Zn2+よりなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンにより中和されていることが好ましい。
前記樹脂成分は、前記アイオノマー樹脂以外の他の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。この場合、前記樹脂成分中のアイオノマー樹脂の含有率は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。前記樹脂成分として前記アイオノマー樹脂のみを含有することも好ましく、特に、樹脂成分として前記(A1)二元系アイオノマー樹脂、および/または、(A2)三元系アイオノマー樹脂のみを含有することも好ましい。
前記他の熱可塑性樹脂としては、例えば、熱可塑性オレフィン共重合体、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリアミド、熱可塑性スチレン系樹脂、熱可塑性ポリエステル、熱可塑性アクリル樹脂、熱可塑性ポリオレフィン、熱可塑性ポリジエン、熱可塑性ポリエーテルなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。
前記ゴルフボール用樹脂組成物は、さらに、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料などの顔料成分、重量調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、ゴルフボールの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
前記白色顔料(例えば、酸化チタン)の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。白色顔料の含有量が0.5質量部以上であれば、得られるゴルフボール構成部材に隠蔽性を付与することができる。また、白色顔料の含有量が10質量部以下であれば、得られるゴルフボールの耐久性の低下を抑制できる。
前記ゴルフボール用樹脂組成物は、共重合体組成物と(c)金属化合物とを混合することにより得られたものが好ましい。前記共重合体組成物は、樹脂成分として、分子中にカルボキシ基またはスルホ基を有する共重合体および/またはその金属イオン中和物を含有し、さらに、(b1)ベタイン型両性界面活性剤、(b2)飽和脂肪酸、および、(b3)不飽和脂肪酸よりなる群から選択される少なくとも1種とを含有する。(b1)成分、(b2)成分および(b3)成分の少なくとも1種と樹脂成分とを含有する共重合体組成物と、(c)金属化合物とを混合することで、イオン会合体に(b1)成分、(b2)成分および/または(b3)成分が取り込まれた構造を有するアイオノマー樹脂が得られる。
前記分子中にカルボキシ基またはスルホ基を有する共重合体および/またはその金属イオン中和物としては、(a1−1)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体、(a1−2)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物、(a2−1)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、および、(a2−2)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物よりなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
前記(a1−1)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体(以下、「(a1−1)二元共重合体」と称する場合がある。)、および/または、(a2−1)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体(以下、「(a2−1)三元共重合体」と称する場合がある。)は、共重合体中のカルボキシル基が中和されていない非イオン性の共重合体である。
前記オレフィンとしては、炭素数が2〜8個のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等を挙げることができ、特にエチレンであることが好ましい。前記炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。
前記(a1−1)二元共重合体としては、エチレンと(メタ)アクリル酸との二元共重合体が好ましく、前記(a2−1)三元共重合体としては、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの三元共重合体が好ましい。
前記(a1−1)二元共重合体、および、(a2−1)三元共重合体は、共重合体中の炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率が、4質量%以上が好ましく、より好ましくは6質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上であり、50質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは15質量%以下である。
前記(a1−1)二元共重合体、および、(a2−1)三元共重合体のMFR(190℃、2.16kg荷重)は、5g/10min以上が好ましく、より好ましくは10g/10min以上、さらに好ましくは15g/10min以上であり、1700g/10min以下が好ましく、より好ましくは1500g/10min以下、さらに好ましくは1300g/10min以下である。
前記(a1−1)二元共重合体としては、ニュクレル(登録商標)N1050H、N1560、N2050H、N2060、N1108C、N0908C,N1110H、N0200H(三井・デュポン・ポリケミカル社製);プリマコール(登録商標)5980I(ダウ・ケミカル社製)などが挙げられる。前記(a2−1)三元共重合体としては、ニュクレルAN4318、AN4319(三井・デュポン・ポリケミカル社製)、プリマコールAT310、AT320(ダウ・ケミカル社製)などが挙げられる。前記(a1−1)二元共重合体および(a2−1)三元共重合体は、単独または二種以上を組み合わせて使用しても良い。
前記(a1−2)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物(以下、「(a1−2)二元系アイオノマー樹脂」と称する場合がある。)、および、(a2−2)オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物(以下、「(a2−2)三元系アイオノマー樹脂」と称する場合がある。)としては、前記(a1−1)二元共重合体または(a2−1)三元共重合体が有するカルボキシ基を金属イオンで中和したものが挙げられる。
前記金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。前記(a1−2)二元系アイオノマー樹脂、および、(a2−2)三元系アイオノマー樹脂は、Na+、Mg2+、Ca2+、および、Zn2+よりなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンにより中和されていることが好ましい。
前記(a1−2)二元系アイオノマー樹脂、および、(a2−2)三元系アイオノマー樹脂のカルボキシル基の中和度は、10モル%以上が好ましく、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは18モル%以上である。中和度が10モル%以上であれば、得られるゴルフボール用樹脂組成物の反発性がより向上する。前記中和度の上限は特に限定されないが、100モル%、好ましくは80モル%、より好ましくは60モル%である。なお、アイオノマー樹脂のカルボキシル基の中和度は、下記式で求めることができる。
アイオノマー樹脂の中和度(モル%)=100×共重合体中の中和されているカルボキシル基のモル数/共重合体中のカルボキシル基の総モル数
前記(a1−2)二元系アイオノマー樹脂としては、ハイミラン(登録商標)1555(Na)、1557(Zn)、1605(Na)、1706(Zn)、1707(Na)、AM7311(Mg)、AM7329(Zn)(三井・デュポン・ポリケミカル社製);サーリン(登録商標)8945(Na)、9945(Zn)、8140(Na)、8150(Na)、9120(Zn)、9150(Zn)、6910(Mg)、6120(Mg)、7930(Li)、7940(Li)、AD8546(Li)(デュポン社製);アイオテック(登録商標)8000(Na)、8030(Na)、7010(Zn)、7030(Zn)(エクソンモービル化学社製)などが挙げられる。
前記(a2−2)三元系アイオノマー樹脂としては、ハイミランAM7327(Zn)、1855(Zn)、1856(Na)、AM7331(Na)(三井・デュポン・ポリケミカル社製);サーリン6320(Mg)、8120(Na)、8320(Na)、9320(Zn)、9320W(Zn)、HPF1000(Mg)、HPF2000(Mg)(デュポン社製);アイオテック7510(Zn)、7520(Zn)(エクソンモービル化学社製)などが挙げられる。
前記共重合体組成物の樹脂成分は、(a1−1)二元共重合体、(a1−2)二元系アイオノマー樹脂、(a2−1)三元共重合体、および、(a2−2)三元系アイオノマー樹脂以外の他の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。この場合、前記樹脂成分中の(a1−1)二元共重合体、(a1−2)二元系アイオノマー樹脂、(a2−1)三元共重合体および(a2−2)三元系アイオノマー樹脂の合計含有率は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。前記樹脂成分として、前記(a1−1)二元共重合体、(a1−2)二元系アイオノマー樹脂、(a2−1)三元共重合体、および/または、(a2−2)三元系アイオノマー樹脂のみを含有することも好ましく、前記(a1−1)二元共重合体、および/または、(a2−1)三元共重合体のみを含有することも好ましい。
前記他の熱可塑性樹脂としては、例えば、熱可塑性オレフィン共重合体、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリアミド、熱可塑性スチレン系樹脂、熱可塑性ポリエステル、熱可塑性アクリル樹脂、熱可塑性ポリオレフィン、熱可塑性ポリジエン、熱可塑性ポリエーテルなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。
前記共重合体組成物は、さらに、(b1)ベタイン型両性界面活性剤、(b2)飽和脂肪酸、および、(b3)不飽和脂肪酸よりなる群から選択される少なくとも1種とを含有する。これらの(b1)成分、(b2)成分および(b3)成分は、カルボキシル基やベタイン型両性基といった極性基部位の作用で、ゴルフボール用樹脂組成物中のイオン会合体部位(ないしはその周辺)に集まり、イオン会合体の体積を大きくする(イオン会合体部位を膨らませる)。これにより、イオン会合体の周辺で拘束されているポリオレフィン成分からなる拘束層の厚さが薄くなる。
前記(b1)ベタイン型両性界面活性剤の具体例としては、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン(一般式(1))、アルキルジヒドロキシアルキルアミノ酢酸ベタイン(一般式(2))、アルキルアミドアルキルベタイン(一般式(3))、アルキルヒドロキシスルホベタイン(一般式(4))、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン(一般式(5))などが挙げられる。
式(1)中、R1は炭素数8〜24のアルキル基または炭素数8〜24のアルケニル基を表す。式(2)中、R21は炭素数8〜24のアルキル基または炭素数8〜24のアルケニル基、R22およびR23はそれぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキレン基を表す。式(3)中、R31は炭素数8〜24のアルキル基または炭素数8〜24のアルケニル基、R32は炭素数1〜5のアルキレン基を表す。式(4)中、R4は炭素数8〜24のアルキル基または炭素数8〜24のアルケニル基を表す。式(5)中、R5は炭素数8〜24のアルキル基または炭素数8〜24のアルケニル基を表す。
炭素数8〜24のアルキル基は、直鎖状、分岐状のものが挙げられる。炭素数8〜24のアルキル基としては、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基などが挙げられる。前記炭素数8〜24のアルキル基が分岐状である場合、分岐数が3以下であるものが好ましい。前記炭素数8〜24のアルキル基は直鎖状が好ましい。
炭素数8〜24のアルケニル基は、直鎖状、分岐状のものが挙げられる。炭素数8〜24のアルケニル基としては、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基などが挙げられる。炭素数1〜3のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などが挙げられる。炭素数1〜5のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基が挙げられる。
前記アルキルジメチルアミノ酢酸ベタインとしては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、オレイルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどが挙げられる。
前記アルキルジヒドロキシアルキルアミノ酢酸ベタインとしては、ステアリルジヒドロキシメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジヒドロキシエチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジヒドロキシメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルアミノ酢酸ベタイン、ミリスチルジヒドロキシメチルアミノ酢酸ベタイン、ベヘニルジヒドロキシメチルアミノ酢酸ベタイン、パルミチルジヒドロキシエチルアミノ酢酸ベタイン、オレイルジヒドロキシメチルアミノ酢酸ベタインなどが挙げられる。
前記アルキルアミドアルキルベタインとしては、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルアミノ酢酸ベタインなどが挙げられる。前記アルキルヒドロキシスルホベタインとしては、ラウリン酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドジアルキルヒドロキシアルキルスルホベタインなどが挙げられる。前記アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインとしては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインなどが挙げられる。
前記(b1)ベタイン型両性界面活性剤を配合する場合、共重合体組成物中の(b1)成分の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上であり、80質量部以下が好ましく、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下である。(b1)成分の含有量が、1質量部以上であればゴルフボール用樹脂組成物の反発性がより向上し、80質量部以下であれば外力を負荷した際の変形が小さくなり、過度の変形によるエネルギーロスが抑えられ、ゴルフボール用樹脂組成物の反発性がより向上する。
前記(b2)飽和脂肪酸は、炭化水素部分に不飽和結合を有さない脂肪酸であれば、特に限定されない。飽和脂肪酸は、直鎖飽和脂肪酸、分岐飽和脂肪酸のいずれであってもよいが、基材樹脂である樹脂成分のポリオレフィン鎖部位との親和性を高くするために、直鎖飽和脂肪酸が好ましい。また、分岐飽和脂肪酸の場合は、その分岐数が3以下であるものが好ましい。
前記(b2)飽和脂肪酸は、特に限定されないが、炭素数が4〜30の飽和脂肪酸であることが好ましく、炭素数が12〜30の飽和脂肪酸であることがより好ましく、炭素数が16〜30の飽和脂肪酸であることがより好ましい。
前記(b2)飽和脂肪酸の具体例(IUPAC名)としては、ブタン酸(C4)、ペンタン酸(C5)、ヘキサン酸(C6)、ヘプタン酸(C7)、オクタン酸(C8)、ノナン酸(C9)、デカン酸(C10)、ウンデカン酸(C11)、ドデカン酸(C12)、トリデカン酸(C13)、テトラデカン酸(C14)、ペンタデカン酸(C15)、ヘキサデカン酸(C16)、ヘプタデカン酸(C17)、オクタデカン酸(C18)、ノナデカン酸(C19)、イコサン酸(C20)、ヘンイコサン酸(C21)、ドコサン酸(C22)、トリコサン酸(C23)、テトラコサン酸(C24)、ペンタコサン酸(C25)、ヘキサコサン酸(C26)、ヘプタコサン酸(C27)、オクタコサン酸(C28)、ノナコサン酸(C29)、トリアコンタン酸(C30)などが挙げられる。
前記(b2)飽和脂肪酸の具体例(慣用名)としては、例えば、酪酸(C4)、吉草酸(C5)、カプロン酸(C6)、エナント酸(C7)、カプリル酸(C8)、ペラルゴン酸(C9)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、ペンタデシル酸(C15)、パルミチン酸(C16)、マルガリン酸(C17)、ステアリン酸(C18)、アラキジン酸(C20)、ベヘン酸(C22)、リグノセリン酸(C24)、セロチン酸(C26)、モンタン酸(C28)、メリシン酸(C30)などが挙げられる。
前記(b2)飽和脂肪酸は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。これらの中でも、前記(b1)飽和脂肪酸として好ましいのは、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、または、モンタン酸である。
前記(b2)飽和脂肪酸を配合する場合、共重合体組成物中の(b2)成分の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、より好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上であり、150質量部以下が好ましく、より好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは90質量部以下である。(b2)成分の含有量が、10質量部以上であればゴルフボール用樹脂組成物の反発性がより向上し、150質量部以下であればゴルフボール用樹脂組成物から形成される構成部位の耐久性が良好となる。
前記(b3)不飽和脂肪酸は、炭化水素鎖に不飽和結合を少なくとも一つ有する脂肪酸であれば、特に限定されない。前記不飽和結合としては、炭素−炭素二重結合および炭素−炭素三重結合が挙げられるが、分子鎖が屈曲しやすいという観点から、炭素−炭素二重結合が好ましい。また、炭素−炭素二重結合としては、シス−二重結合と、トランス二重結合が挙げられ、シス−二重結合がより好ましい。
前記(b3)不飽和脂肪酸は、特に限定されないが、炭素数が4〜30の不飽和脂肪酸であることが好ましく、12〜30の不飽和脂肪酸が好ましい。
前記(b3)不飽和脂肪酸の具体例(IUPAC名)としては、ブテン酸(C4)、ペンテン酸(C5)、ヘキセン酸(C6)、ヘプテン酸(C7)、オクテン酸(C8)、ノネン酸(C9)、デセン酸(C10)、ウンデセン酸(C11)、ドデセン酸(C12)、トリデセン酸(C13)、テトラデセン酸(C14)、ペンタデセン酸(C15)、ヘキサデセン酸(C16)、ヘプタデセン酸(C17)、オクタデセン酸(C18)、ノナデセン酸(C19)、イコセン酸(C20)、ヘンイコセン酸(C21)、ドコセン酸(C22)、トリコセン酸(C23)、テトラコセン酸(C24)、ペンタコセン酸(C25)、ヘキサコセン酸(C26)、ヘプタコセン酸(C27)、オクタコセン酸(C28)、ノナコセン酸(C29)、トリアコンテン酸(C30)などを挙げられる。
前記(b3)不飽和脂肪酸の具体例(慣用名)としては、例えば、ミリストレイン酸(C14)、パルミトレイン酸(C16)、ステアリドン酸(C18)、エライジン酸(C18)、バクセン酸(C18)、オレイン酸(C18)、リノール酸(C18)、リノレン酸(C18)、エライジン酸(C18)、ガドレイン酸(C20)、アラキドン酸(C20)、エイコセン酸(C20)、エイコサペンタエン酸(C20)、エイコサジエン酸(C20)、ドコサヘキサエン酸(C22)、エルカ酸(C22)、ネルボン酸(C24)などを挙げられる。
前記不飽和脂肪酸は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。これらの中でも、(C)前記不飽和脂肪酸として好ましいのは、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、または、アラキドン酸である。
前記(b3)不飽和脂肪酸を配合する場合、共重合体組成物中の(b3)成分の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上であり、200質量部以下が好ましく、より好ましくは130質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下である。(b3)成分の含有量が、10質量部以上であればゴルフボール用樹脂組成物の反発性がより向上し、200質量部以下であればゴルフボール用樹脂組成物から形成される構成部位の耐久性が良好となる。
前記共重合体組成物としては、樹脂成分と(b1)成分とを含有し、(b2)成分と(b3)成分とを含有しない態様;樹脂成分と(b2)成分とを含有し、(b1)成分と(b3)成分とを含有しない態様;樹脂成分と(b3)成分とを含有し、(b1)成分と(b2)成分とを含有しない態様;樹脂成分と(b1)成分と(b2)成分とを含有し、(b3)成分を含有しない態様;樹脂成分と(b1)成分と(b3)成分とを含有し、(b2)成分を含有しない態様;樹脂成分と(b2)成分と(b3)成分とを含有し、(b1)成分を含有しない態様;樹脂成分と(b1)成分と(b2)成分と(b3)成分とを含有する態様が挙げられる。
前記共重合体組成物が、(b2)飽和脂肪酸および(b3)不飽和脂肪酸を含有する場合、これらの合計含有量は、樹脂成分100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上であり、200質量部以下が好ましく、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは130質量部以下である。合計含有量が、10質量部以上であればゴルフボール用樹脂組成物の反発性がより向上し、200質量部以下であればゴルフボール用樹脂組成物から形成される構成部位の耐久性が良好となる。
前記共重合体組成物が、(b2)飽和脂肪酸および(b3)不飽和脂肪酸を含有する場合、これらの質量比((b2)/(b3))は、0.03以上が好ましく、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.25以上であり、4.0以下が好ましく、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.0以下である。質量比((b2)/(b3))0.03以上であれば(b3)不飽和脂肪酸に由来する柔軟性向上効果と、(b2)飽和脂肪酸に由来するイオン会合体周辺の拘束領域の硬さ向上効果とを、バランスよく両立でき、4.0以下であれば(b3)不飽和脂肪酸に由来する柔軟性向上効果がより大きくなる。
前記(c)金属化合物は、ゴルフボール用樹脂組成物の未中和のカルボキシル基を中和するために必要に応じて添加される。前記(c)金属化合物に含まれる金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。これらの中でも、1価または2価の金属イオンが好ましい。
前記(c)金属化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化銅などの金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅などの金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムなどの金属炭酸化物が挙げられる。これらの(c)金属化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記(c)金属化合物の配合量は、所望とするゴルフボール用樹脂組成物の総中和度に応じて適宜調節すればよい。総中和度は、下記式で定義される。
式中、Σ(樹脂組成物が有する陽イオン成分のモル数×陽イオン成分の価数)は、(b1)ベタイン型両性界面活性剤の陽イオン形成基と陽イオン形成基の価数との積、(c)金属化合物の金属成分のモル数と金属成分の価数との積の合計である。Σ(樹脂組成物が有する陰イオン成分のモル数×陰イオン成分の価数)は、(b1)両性界面活性剤の陰イオン形成基のモル数と陰イオン形成基の価数との積、(a1−1)成分、(a1−2)成分、(a2−1)成分および(a2−2)成分のカルボキシル基のモル数、(b2)飽和脂肪酸のカルボキシル基のモル数、(b3)不飽和脂肪酸のカルボキシル基のモル数、の合計である。なお、陽イオン形成基、金属成分、カルボキシル基及び陰イオン形成基には、イオン化していない前駆体を含めるものとする。陽イオン成分量、陽イオン形成基量、陰イオン形成基は、例えば、中和滴定により求めることができる。
前記ゴルフボール用樹脂組成物の総中和度は、50モル%以上が好ましく、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは100モル%以上であり、200モル%以下が好ましく、より好ましくは160モル%以下、さらに好ましくは140モル%以下である。総中和度が50モル%以上であればイオン会合体の量が多くなり、ゴルフボール用樹脂組成物の反発性がより向上し、200モル%以下であればイオン会合体に関与しない金属の存在量が少なく、反発への悪影響が小さくなり、ゴルフボール用樹脂組成物がより高反発となる。
前記組成を有するゴルフボール用樹脂組成物は、(a1−1)成分、(a1−2)成分、(a2−1)成分および/または(a2−2)成分を含有する樹脂成分と、(b1)成分、(b2)成分および(b3)成分の少なくとも1種の成分とを溶融混合し、共重合体組成物を調製する工程;得られた共重合体組成物と(c)成分とを溶融混合し、ゴルフボール用樹脂組成物を調製する工程とを有する方法により作製する。なお、全ての成分を同時に混合した場合や(b1)成分、(b2)成分および(b3)成分の少なくとも1種の成分と(c)成分とを混合した後、この混合物と樹脂成分とを混合した場合には、(b1)成分、(b2)成分および(b3)成分が、アイオノマー樹脂のイオン会合体中に取り込まれず、拘束層の厚さを薄くできない。また、このような混合手順で作製されたゴルフボール用樹脂組成物は、スラブ硬度が高く、反発弾性が低いものとなる。
前記共重合体組成物を調製する工程において、溶融混合は、ニーダー、押出機(一軸押出機、二軸押出機、二軸一軸押出機など)を使用することができる。共重合体組成物を調製する際の混合温度(材料温度)は、140℃以上が好ましく、より好ましくは160℃以上であり、220℃以下が好ましく、より好ましくは200℃以下である。
前記ゴルフボール用樹脂組成物を調製する工程において、溶融混合は、ニーダー、押出機(一軸押出機、二軸押出機、二軸一軸押出機など)を使用することができる。共重合体組成物を調製する際の混合温度(材料温度)は、170℃以上が好ましく、より好ましくは200℃以上であり、260℃以下が好ましく、より好ましくは240℃以下である。
[ゴルフボール]
ゴルフボールは、前記ゴルフボール用樹脂組成物から形成された構成部材を有する。ゴルフボールの構造は、特に限定されず、例えば、単層コアと、前記コアを被覆するカバーとを有するツーピースゴルフボール;コアと前記コアを被覆する一以上の中間層と、前記中間層を被覆するカバーを有するマルチピースゴルフボール(スリーピースゴルフボール、フォーピースゴルフボール、ファイブピースゴルフボールなど)などが挙げられる。
前記ゴルフボール用樹脂組成物から形成される部材としては、コア、中間層、カバーのいずれでもよいが、中間層が好ましい。なお、前記ゴルフボールは、前記ゴルフボール用樹脂組成物から成形された構成部材以外の部分は、従来公知の材料を用いることができる。
前記コアは、単層構造でもよいし、多層構造でもよい。前記コアには、公知のゴム組成物(以下、単に「コア用ゴム組成物」という場合がある)を用いることができ、例えば、基材ゴム、共架橋剤および架橋開始剤を含むゴム組成物を加熱プレスして成形することができる。
前記基材ゴムとしては、特に、反発に有利なシス結合が40質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。前記共架橋剤としては、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸またはその金属塩が好ましく、アクリル酸の金属塩またはメタクリル酸の金属塩がより好ましい。金属塩の金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムが好ましく、より好ましくは亜鉛である。共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して20質量部以上50質量部以下が好ましい。前記共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸を使用する場合、金属化合物(例えば、酸化マグネシウム)を配合することが好ましい。架橋開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。架橋開始剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、5質量部以下が好ましく、より好ましくは3質量部以下である。
また、前記コア用ゴム組成物は、さらに、有機硫黄化合物を含有してもよい。前記有機硫黄化合物としては、ジフェニルジスルフィド類、チオフェノール類、チオナフトール類を好適に使用することができる。有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.0質量部以下である。前記コア用ゴム組成物は、さらにカルボン酸および/またはその塩を含有してもよい。カルボン酸および/またはその塩としては、炭素数が1〜30のカルボン酸および/またはその塩が好ましい。前記カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸(安息香酸など)のいずれも使用できる。カルボン酸および/またはその塩の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上、40質量部以下である。
前記コア用ゴム組成物には、基材ゴム、共架橋剤、架橋開始剤、有機硫黄化合物に加えて、さらに、酸化亜鉛や硫酸バリウムなどの重量調整剤、老化防止剤、色粉などを適宜配合することができる。前記コア用ゴム組成物の加熱プレス成型条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、130℃〜200℃で10分間〜60分間加熱するか、あるいは130℃〜150℃で20分間〜40分間加熱した後、160℃〜180℃で5分間〜15分間と2段階加熱することが好ましい。
中間層材料としては、例えば、ポリウレタン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂;スチレンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマーなどの熱可塑性エラストマー;ゴム組成物の硬化物などが挙げられる。ここで、アイオノマー樹脂としては、例えば、エチレンとα,β−不飽和カルボン酸との共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、またはエチレンとα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したものが挙げられる。前記中間層には、さらに、硫酸バリウム、タングステンなどの比重調整剤、老化防止剤、顔料などが配合されていてもよい。
中間層を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、中間層用組成物を予め半球殻状のハーフシェルに成形し、それを2枚用いて球体を包み、加圧成形する方法、または、中間層用組成物を直接球体上に射出成形して球体を包み込む方法などを挙げることができる。
中間層用組成物を球体上に射出成形して中間層を成形する場合、成形用上下金型としては、半球状キャビティを有しているものを使用することが好ましい。射出成形による中間層の成形は、ホールドピンを突き出し、被覆球体を投入してホールドさせた後、加熱溶融された中間層用組成物を注入して、冷却することにより中間層を成形することができる。
圧縮成形法により中間層を成形する場合、ハーフシェルの成形は、圧縮成形法または射出成形法のいずれの方法によっても行うことができるが、圧縮成形法が好適である。中間層用組成物を圧縮成形してハーフシェルに成形する条件としては、例えば、1MPa以上、20MPa以下の圧力で、中間層用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、+70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みをもつハーフシェルを成形できる。ハーフシェルを用いて中間層を成形する方法としては、例えば、球体を2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法を挙げることができる。ハーフシェルを圧縮成形して中間層に成形する条件としては、例えば、0.5MPa以上、25MPa以下の成形圧力で、中間層用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、+70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みを有する中間層を成形できる。
なお、成形温度とは、型締めから型開きの間に、下型の凹部の表面が到達する最高温度を意味する。また組成物の流動開始温度は、島津製作所の「フローテスター CFT−500」を用いて、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、プランジャー面積:1cm2、DIE LENGTH:1mm、DIE DIA:1mm、荷重:588.399N、開始温度:30℃、昇温速度:3℃/分の条件で測定することができる。
前記中間層の厚みは、0.3mm以上が好ましく、より好ましくは0.4mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上であり、2.5mm以下が好ましく、より好ましくは2.4mm以下、さらに好ましくは2.3mm以下である。複数の中間層の場合は、複数の中間層の合計厚みが上記範囲であることが好ましい。
前記カバーは、ゴルフボール本体の最外層である。前記カバーは、樹脂成分を含有するカバー用組成物から形成される。カバー材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、アイオノマー樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレンなどが挙げられ、ポリウレタン、アイオノマー樹脂が好ましい。
前記カバー材料の具体例を商品名で例示すると、三井・デュポン・ポリケミカル(株)から商品名「ハイミラン(Himilan)(登録商標)」で市販されている」アイオノマー樹脂、BASFジャパン(株)から商品名「エラストラン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性スチレンエラストマーまたは商品名「プリマロイ」で市販されている熱可塑性ポリエステル系エラストマーなどを挙げることができる。前記カバー材料は、単独であるいは2種以上を混合して使用してもよい。
前記カバーは、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料、赤色顔料などの顔料成分、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの比重調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
カバー用組成物を用いてカバーを成形する態様は、特に限定されないが、カバー用組成物をコア上に直接射出成形する態様、あるいは、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する態様(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)を挙げることができる。カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、マークを形成することもできる。
前記カバーの厚みは、4.0mm以下が好ましく、より好ましくは3.0mm以下、さらに好ましくは2.0mm以下である。カバーの厚みが4.0mm以下であれば、得られるゴルフボールの反発性や打球感がより良好となる。前記カバーの厚みは、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、さらに好ましくは0.8mm以上、特に好ましくは1.0mm以上である。カバーの厚みが0.3mm未満では、カバーの耐久性や耐摩耗性が低下する場合がある。
カバーに形成されるディンプルの総数は、200個以上500個以下が好ましい。ディンプルの総数が200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、ディンプルの総数が500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
カバーが成形されたゴルフボールは、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、塗膜やマークを形成することもできる。前記塗膜の膜厚は、特に限定されないが、5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。膜厚が5μm未満になると継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなり、膜厚が50μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下するからである。
本発明のゴルフボールの直径は、40mmから45mmが好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。また、ゴルフボールの質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
本発明のゴルフボールは、直径40mm〜45mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量(圧縮方向にゴルフボールの縮む量)は、2.0mm以上であることが好ましく、より好ましくは2.4mm以上であり、さらに好ましくは2.5mm以上であり、最も好ましくは2.8mm以上であり、5.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは4.5mm以下である。前記圧縮変形量が2.0mm以上のゴルフボールは、硬くなり過ぎず、打球感が良い。一方、圧縮変形量を5.0mm以下にすることにより、反発性が高くなる。
図4は、本発明の一実施形態に係るゴルフボール1が示された一部切り欠き断面図である。ゴルフボール1は、球状コア2と、この球状コア2の外側に配設された中間層3と、この中間層3の外側に配設されたカバー4とを有する。前記カバー4の表面には、多数のディンプル41が形成されている。このカバー4の表面のうち、ディンプル41以外の部分は、ランド42である。そして、前記中間層3が前記ゴルフボール用樹脂組成物から形成されている。
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
[評価方法]
(1)拘束層の厚さ
(1−1)X線小角散乱測定
測定は、小角散乱測定装置(リガク社製、型式NANO−Viewr、CuKα線(λ=0.154nm))を用いて行った。測定試料は、調製後、室温にて4週間以上保管したものを用いた。測定条件は、以下のとおりとした。
[測定条件]
スリット:1st slit=0.4mm、2nd slit=0.2mm、3rd slit=0.45mm
カメラ長:197mm
測定方法:透過法
露光時間:上、中、下の順に各5分露光
試料厚さ:1mm
角度範囲:0.3°≦2θ≦10°(0.2≦q(nm−1)≦7)
測定結果に基づいて、下記式により、イオン会合体の半径(R1)を算出した。具体的には、まず、測定結果から、q値(測定範囲:0.2≦q(nm−1)≦7)と、それらに対するピーク強度I(q)値(=Ie(q)・V・ρ1 2)のデータを得た。次に、q値に対してピーク強度I(q)値のプロットを行い、実験結果の曲線を得た。この曲線へのフィッティング解析を行うことで、R1を算出した。
R
1:イオン会合体の半径(Å)
R
ca:イオンクラスターの半径(Å)
I(q):散乱強度
I
e(q):電子1個による散乱強度
V:X線が照射されている試料の体積
N:照射試料体積中の会合体の数
ρ
1:イオン会合体の電子密度
q:散乱ベクトル(nm
−1)
ε:常温・常圧での気体の比誘電率(ε=1)
λ:X線の波長(nm)
2θ:回折角
測定されるピーク強度I(q)値の最大値は、そのときの電子1個による散乱強度(Ie)、試料の体積(V)、および試料中のイオン会合体の密度(ρ1)により決まる。よって、式1中の「Ie(q)・V・ρ1 2」の部分が、ある試料を測定したときのピーク強度の最大値となる。
式2より、Φ(qR1)、Φ(qRca)は、それぞれ式3、式4となる。よって、R1とRcaにより、q値に相当するΦ(qR1)およびΦ(qRca)が定まる。また、v1はR1により定まる値、VcaはRcaにより定まる値である。従って、式1より、q値に相当するピーク強度I(q)値は、そのときの実験結果から得られるピーク強度最大値(=Ie(q)・V・ρ1 2)、R1、Rcaおよびvp値の4つの定数により定めることができる。
よって、実験結果の各q値と、上記4定数を式1に代入して算出されるI(q)値が同じ値となるように、R1、Rcaおよびvp値の3つの値をフィッティングすることで、R1を算出できる。
フィッティングは、表計算ソフトウェア(マイクロソフト社、エクセル(登録商標)2010)のソルバーアドイン機能を使用して、以下の条件で行った。
[ソルバーアドインの条件]
解決の方法:GRG非線形、微分係数中央
反復回数:10,000回
最大時間:100秒
収量:0.0001
初期条件:Vp=1,000、R1=2、Rca=4
その他の設定条件はデフォルト条件で実施した。
(1−2)温度可変スピンプローブ法電子スピン共鳴
測定は、電子スピン共鳴(ESR)装置(JEОL社製、型式JES−TE 200)を用いて、スピンプローブ法により行った。拘束層用スピンプローブ剤として、5−ドキシルステアリン酸(5DSA)(アルドリッチケミカル社製)、7−ドキシルステアリン酸(7DSA)(ナード研究所製)、10−ドキシルステアリン酸(10DSA)(ナード研究所製)および12−ドキシルステアリン酸(12DSA)(アルドリッチケミカル社製)、マトリックス領域用スピンプローブ剤として10−ドキシルノナデカン(10DND)(Avanti Pola lipids社製)を用いた。
測定に使用するゴルフボール用樹脂組成物は、調製後、室温にて4週間以上保管した。ゴルフボール用樹脂組成物を、いずれかのスピンプローブ剤の水溶液(濃度:1.26×10−4mol/L)に、常温で7日間浸した後、常温、100Paで7日間乾燥させた。さらに、このゴルフボール用樹脂組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムで挟み、6.3MPaでプレスして、厚さ約250μmのシート状に成形した。このシートから、幅1mm程度の短冊を切出し、測定試料を作製した。
測定試料は、直径5mmの石英製試料管に入れ、試料管内部を100Pa未満まで減圧した後に溶封した。この試料管を装置に設置し、測定を行った。測定条件は、マイクロ波周波数:Xバンド、変調磁場の大きさ:0.1mT、チャートの掃引時間:4minとした。測定は、初めに液体窒素を用いて試料温度を−196℃まで冷却した後、昇温速度1.5℃/分で試料温度を上げていき、−120℃から130℃までの範囲において、10℃毎に測定を行った。
なお、試料温度が低下すると、スピン−格子緩和時間が長くなりESR信号が飽和することがある。そのため、このようなESR信号が飽和することを防止するため、マイクロ波の出力は測定温度に応じて調整した。マイクロ波の出力は、試料温度−196℃以上、−120℃未満では0.02mW、試料温度−120℃以上、−70℃未満では0.05mW、試料温度−70℃以上、−50℃未満では0.1mW、試料温度−50℃以上、−10℃未満では0.2mW、試料温度−10℃以上、10℃未満では0.5mW、および試料温度10℃以上では1.0mWとした。
各スピンプローブ剤を用いたESRスペクトルから、各温度における運動性パラメーター(2A’zz)を求めた。前記運動性パラメーター(2A’zz)は、最も低磁場側に現れている凸ピークのピークトップにおける磁場と最も高磁場側に現れている凹ピークのピークトップにおける磁場との差である。次に、各プローブ位置の温度(T5mT)(運動性パラメーター(2A’zz)が5mT(50G)となる温度)を求めた。各スピンプローブ剤について、得られた運動性パラメーター(2A’zz)を、測定温度に対してプロットし、各プロットを直線で結んだ。そして、この直線と、横軸に平行な直線(2A’zz=50G)が交差する点における温度を求め、これを温度(T5mT)とした。
(1−3)拘束層厚さ
各プローブ位置(5DSA、7DSA、10DSA、12DSA)の温度(T5mT)を、イオン会合体表面からの距離(d−R1)に対してプロットし、最小二乗法により線形回帰式を求めた。前記線形回帰式を用いて、プローブ位置(10DND)の温度(T5mT)における距離(d−R1)を算出し、これを拘束層厚さとした。なお、この計算で、イオン会合体間の最近接距離からX線小角散乱測定でR1を求めているため、R1が実際の値より大きくなり、(d−R1)値が負の値となる場合がある。このようにd<R1となる場合は、「(d−R1)=0」とした。
なお、各スピンプローブ剤のプローブ位置は、スピンプローブ剤の分子中のカルボキシ基側末端からドキシルニトロキシドが結合している炭素までの距離(d)から、上記(1−1)で求めたイオン会合体の半径(R1)を減じることで求めた。各スピンプローブ剤の距離(d)は、5DSA=5Å、7DSA=8Å、10DSA=12Å、12DSA=14Åとした。
(2)スラブ硬度
樹脂組成物を用いて、射出成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートを、測定基板などの影響が出ないように3枚以上重ねた状態で、自動硬度計(H.バーレイス社製、デジテストII)を用いて硬度を測定した。検出器は、「Shore C」を用いた。
(3)メルトフローレイト(MFR)(g/10min)
MFRは、フローテスター(島津製作所社製、島津フローテスターCFT−100C)を用いて、JIS K7210(1999)に準じて測定した。なお、測定は、測定温度190℃、荷重2.16kgの条件で行った。
(4)反発弾性(%)
反発弾性試験は、JIS K6255(2013)に準じて行った。樹脂組成物を用いて、熱プレス成形(170℃、10分間)により、厚み約2mmのシートを作製し、当該シートから直径28mmの円形状に打抜いたものを6枚重ねることにより、厚さ約12mm、直径28mmの円柱状試験片を作製した。この試験片を、温度23±2℃、相対湿度50±5%で、12時間保存した。作製した試験片について、リュプケ式反発弾性試験測定装置(株式会社上島製作所製)を用いて、反発弾性率を測定した。上記重ね合わせた試験片の平面部分を機械的固定法で支持し、測定条件は、温度23℃、相対湿度50%、打撃端直径12.50±0.05mm、打撃質量0.35±0.01kg、打撃速度1.4±0.01m/sとした。
(5)圧縮変形量(mm)
コアまたはゴルフボールに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向にコアまたはゴルフボールが縮む量)を測定した。
(6)コア硬度(ショアC硬度)
コアの表面部において測定した硬度をコア表面硬度とした。また、コアを半球状に切断し、切断面の中心において測定した硬度をコア中心硬度とした。硬度は、自動硬度計(H.バーレイス社製、デジテストII)を用いて測定した。検出器は、「Shore C」を用いた。
(7)反発係数
各ゴルフボールに198.4gの金属製円筒物を40m/秒の速度で衝突させ、衝突前後の円筒物およびゴルフボールの速度を測定し、それぞれの速度および重量から各ゴルフボールの反発係数を算出した。測定は各ゴルフボールについて12個ずつ行って、その平均値を各ゴルフボールの反発係数とした。
[ゴルフボール用樹脂組成物の作製]
ゴルフボール用樹脂組成物No.1〜23、26
表1、2に示した配合となるように、(a1−1)成分、(a1−2)成分または(a2−1)成分、ならびに、(b1)成分、(b2)成分および/または(b3)成分をニーダーに入れて、180℃、30分間混練した。その後、(c)成分を投入し、さらに220℃、40分間混練してゴルフボール用樹脂組成物を調製し、押出機を用いてペレット化した。
ゴルフボール用樹脂組成物No.24、25
表2に示した配合となるように、(a2−1)成分および(c)成分を投入し、220℃、60分間混練してゴルフボール用樹脂組成物を調製し、押出機を用いてペレット化した。
ゴルフボール用樹脂組成物No.27〜31
表3に示した配合となるように、全ての原料を同時にニーダーに入れて、220℃、60分間混練してゴルフボール用樹脂組成物を調製し、押出機を用いてペレット化した。なお、ゴルフボールNo.27〜31の中間層の配合は、それぞれゴルフボール用樹脂組成物No.2、8、10、15または22の配合と同様とした。
ゴルフボール用樹脂組成物No.32〜36
表3に示した配合となるように、(b1)成分、(b2)成分および/または(b3)成分、ならびに、(c)成分をニーダーに入れて、140℃、30分間混練し、得られた固形物を乳鉢で粉砕した後、(a1−1)成分または(a2−1)成分を投入し、220℃、40分間混練してゴルフボール用樹脂組成物を調製し、押出機を用いてペレット化した。なお、ゴルフボール用樹脂組成物No.32〜36の配合は、それぞれゴルフボール用樹脂組成物No.2、8、10、15または22の配合と同様とした。
各ゴルフボール用樹脂組成物の評価結果を表1〜3に示した。一例としてゴルフボール用樹脂組成物No.3について、ESRスペクトル(スピンプローブ剤:10DND、測定温度:120℃)を図5に示し、運動性パラメーター(2A’zz)と温度との関係を図6に示し、温度(T5mT)と距離(d−R1)との関係を図7に示した。図5に示すように、ESRスペクトルから運動性パラメーター(2A’zz)が求められる。各測定温度における運動性パラメーター(2A’zz)を温度に対してプロットしたものが図6である。図6に示すように、10DNDでは、50G付近を境にして、運動性パラメーター(2A’zz)が急激な低下を示している。図6では、各プローブ位置の温度(T5mT)は、5DSA=118.0℃、7DSA=82.3℃、10DSA=70.8℃、12DSA=58.0℃、10DND=51.3℃となる。各プローブ位置(5DSA、7DSA、10DSA、12DSA)の温度(T5mT)を、イオン会合体表面からの距離(d−R1)に対してプロットしたものが図7である。この図7において、各プローブ位置(5DSA、7DSA、10DSA、12DSA)のプロットから最小二乗法により得られる線形近似曲線が、プローブ位置(10DND)の温度(T5mT)と一致する距離(d−R1)(図7では8.3Å)が拘束層厚さとなる。各ゴルフボール用樹脂組成物の拘束層厚さと反発弾性率との関係を図8に示した。
ニュクレルAN4319:三井・デュポン・ポリケミカル社製、エチレン−メタクリル酸−メタクリル酸ブチル共重合体(メタクリル酸の含有率:8質量%、MFR(190℃、2.16kg):55g)
ニュクレルN1560:三井・デュポン・ポリケミカル社製、エチレン−メタクリル酸共重合体(メタクリル酸の含有率:15質量%、MFR(190℃、2.16kg):60g)
ハイミラン(登録商標)AM7311:三井・デュポン・ポリケミカル社製、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体のマグネシウムイオン中和物(共重合体の酸含量15質量%、中和度50モル%)
オレイン酸:東京化成工業社製
リノール酸:東京化成工業社製
ラウリン酸:東京化成工業社製
パルミチン酸:東京化成工業社製
ステアリン酸:東京化成工業社製
ベヘン酸:東京化成工業社製
オレイルベタイン:ルーブリゾール社製、「Chembetaine OL」(オレイルジメチルアミノ酢酸ベタイン)の精製品(水分と塩分を除去)
イソステアリン酸:東京化成工業社製(2,2,4,8,10,10−ヘキサメチルウンデカン−5−カルボン酸(C18))
炭酸ナトリウム:東京化成工業社製
水酸化マグネシウム:和光純薬工業社製
ゴルフボール用樹脂組成物No.1〜23は、樹脂成分としてアイオノマー樹脂(エチレン−メタクリル酸−メタクリル酸ブチル共重合体のマグネシウムイオンイオン中和物、エチレン−メタクリル酸共重合体のマグネシウムイオン中和物、エチレン−メタクリル酸共重合体のナトリウムイオン中和物)を含有し、温度可変スピンプローブ法電子スピン共鳴により測定されるイオン会合体の拘束層の平均厚さが3.0Å〜9.0Åである。これらのゴルフボール用樹脂組成物は、反発弾性が高い。
ゴルフボール用樹脂組成物No.24〜36は、温度可変スピンプローブ法電子スピン共鳴により測定されるイオン会合体の拘束層の平均厚さが9.0Å超であり、反発弾性が劣る。なお、ゴルフボール用樹脂組成物No.27〜36は、配合がゴルフボールNo.2、8、10、15または22と同様であるが、製造過程が異なるため、拘束層の平均厚さの値が異なる結果となっている。
[ゴルフボールの作製]
(1)球状コアの作製
表4に示す配合のコア用ゴム組成物を混練ロールにより混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で170℃、20分間加熱プレスすることにより球状コアを得た。なお、硫酸バリウムは、得られるゴルフボールの質量が45.4gとなるように適量加えた。
ポリブタジエンゴム:JSR社製、「BR730(シス結合含有率:95質量%)」
アクリル酸亜鉛:シグマ・アルドリッチ社製
ジクミルパーオキサイド:東京化成工業社製
2−チオナフトール:東京化成工業社製
(2)中間層の作製
球状コア上に前記ゴルフボール用樹脂組成物を射出成形することにより、コアを被覆する中間層(厚さ1mm)を形成した。ゴルフボール用樹脂組成物は、射出装置のシリンダー部分で200℃〜260℃に加熱され、15MPaの圧力で型締めした金型に射出され、30秒間冷却して型開きして中間層が形成された球体を取り出した。
(3)カバーの作製
表5に示した配合材料を用いて、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状のカバー用組成物を調製した。カバー用組成物の押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で160〜230℃に加熱された。
熱可塑性ポリウレタン:BASFジャパン社製、エラストラン(登録商標) XNY85A
酸化チタン:石原産業社製、A220
カバー成形時には、ホールドピンを突き出し、中間層が形成された球体を投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に260℃に加熱したカバー用組成物を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きしてゴルフボールを取り出した。得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、クリアーペイントを塗布し、40℃のオーブンで塗料を乾燥させ、直径42.7mm、質量45.4gのゴルフボールを得た。得られたゴルフボールの評価結果を表1〜3に示した。
ゴルフボールNo.1〜23は、中間層が、アイオノマー樹脂(エチレン−メタクリル酸−メタクリル酸ブチル共重合体のマグネシウムイオンイオン中和物、エチレン−メタクリル酸共重合体のマグネシウムイオン中和物、エチレン−メタクリル酸共重合体のナトリウムイオン中和物)を含有し、イオン会合体の拘束層の平均厚さが3.0Å〜9.0Åであるゴルフボール用樹脂組成物から形成されている。これらのゴルフボールは、反発性に優れている。
ゴルフボールNo.27〜36は、中間層を構成するゴルフボール用樹脂組成物のイオン会合体の拘束層の平均厚さが9.0Å超であり、反発性が劣る。