以下、実施形態の加速器制御装置、加速器制御方法、および粒子線治療装置を、図面を参照して説明する。実施形態の加速器制御装置は、粒子線治療装置に適用できる他、荷電粒子ビームを利用する種々の装置に適用可能である。例えば、荷電粒子ビームを照射することにより対象物を加工するエッチング装置等にも適用することができる。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る粒子線治療装置10の全体構成を示すブロック図である。粒子線治療装置10は、荷電粒子ビームを所望のエネルギーまで加速し、加速した荷電粒子ビームを腫瘍等の患部に照射する装置である。粒子線治療装置10は、加速器100と、照射装置200と、加速器制御装置300と、信号増幅回路400と、振幅検出回路500とを備える。
加速器100は、入射器110と、複数の四極電磁石120aから120hと、複数の偏向電磁石130aから130dと、高周波加速空洞140と、出射器150とを備える。入射器110は、荷電粒子ビームを加速器100内の周回軌道に入射させる。四極電磁石120aから120hは、荷電粒子ビームが周回軌道を安定して周回するように、荷電粒子ビームを収束または発散させる電磁石である。偏向電磁石130aから130dは、荷電粒子ビームを偏向することにより、荷電粒子ビームを加速器100内で周回させる電磁石である。
高周波加速空洞140は、真空ダクト内を通過する荷電粒子ビームを加速する。高周波加速空洞140の詳細については後述する。出射器150は、加速器100に設けられた出射用電極に高周波電場を印加することにより、加速器100内の周回軌道を周回する荷電粒子ビームの一部を照射装置200に向けて出射する。
加速器100から照射装置200までの経路には、複数の四極電磁石160aから160dと、複数の補正電磁石170aから170dと、偏向電磁石180とが設けられている。四極電磁石160aから160dは、荷電粒子ビームが、加速器100から照射装置200までの経路を安定して通過し、照射位置において荷電粒子ビームが目的のビーム径になるように、荷電粒子ビームを収束または発散させる電磁石である。偏向電磁石180は、荷電粒子ビームを偏向し、該荷電粒子ビームを加速器100から照射装置200まで導くための電磁石である。補正電磁石170aから170dは、加速器100から照射装置200までの荷電粒子ビームの軌道を補正するための電磁石である。
照射装置200は、治療室に設置され、加速器100によって加速された荷電粒子ビームを腫瘍等の患部に照射する装置である。照射装置200は、線量モニタ210を備える。線量モニタ210は、患部に照射される荷電粒子ビームの強度を検出する。
加速器制御装置300は、加速器100内を周回する荷電粒子ビームのエネルギーを制御する装置である。詳細は後述するが、信号増幅回路400は、加速器制御装置300によって生成された高周波信号を増幅する回路である。また、振幅検出回路500は、高周波加速空洞140に備える複数の電極のうちの少なくとも一つの電極に印加された電圧の振幅を検出する回路である。
図2は、第1の実施形態に係る加速器制御装置300、信号増幅回路400、振幅検出回路500、および高周波加速空洞140の詳細構成を示すブロック図である。加速器100の高周波加速空洞140には、複数の電極が設けられている。ここでは、図2に示すように、4つの電極141aから141dが設けられている形態を例として説明する。荷電粒子ビームBは、複数の電極141aから141dに電圧が印加されることによって加速される。
電極141aおよび電極141bは対になっており、電極141bに印加される電圧の位相は、電極141aに印加される電圧の位相に対して180°遅れている。また、電極141cおよび電極141dは対になっており、電極141dに印加される電圧の位相は、電極141cに印加される電圧の位相に対して180°遅れている。電極141aおよび電極141bの電位差と、電極141cおよび電極141dの電位差によって、荷電粒子にエネルギーが供給される。これによって、荷電粒子ビームBは、電極141aと電極141bとの間で加速されるとともに、電極141cと電極141dとの間で加速される。
例えば、電極141aには1[kVp−p]の交流電圧Vaが印加されており、電極141bには交流電圧Vaとは逆位相の1[kVp−p]の交流電圧Vbが印加されている。また、電極141cには1[kVp−p]の交流電圧Vcが印加されており、電極141dには交流電圧Vcとは逆位相の1[kVp−p]の交流電圧Vdが印加されている。このため、電極141aから141dの全体に印加される電圧(空洞電圧)は、4[kVp−p]となる。また、交流電圧VaからVdの各々の振幅は500[V]であるため、電極141aから141dの全体に印加される電圧(空洞電圧)の振幅は、2000[V]となる。
高周波加速空洞140には、電極141aに印加された電圧を検出する電圧検出部142が設けられている。電圧検出部142は、検出した電圧を示す電圧検出信号S13を振幅検出回路500に出力する。
例えば、電圧検出部142は、電極141aに印加された電圧の1000分の1の値を、電圧検出信号S13として検出する。具体的に、電極141aに1[kVp−p]の交流電圧Vaが印加されている場合、電圧検出部142は、1[Vp−p]の交流電圧を電圧検出信号S13として検出する。交流電圧Vaの振幅は500[V]であるため、検出した電圧検出信号S13の振幅は0.5[V]である。
振幅検出回路500は、振幅検出部510を備える。振幅検出部510は、電圧検出部142から電圧検出信号S13が入力されると、入力された電圧検出信号S13に基づき、電極141aに印加された電圧の振幅を検出する。振幅検出部510は、検出した電圧の振幅を示す振幅検出信号S14を信号補正部330に出力する。なお、本実施形態では、振幅検出回路500を低コスト化するために、電極141bから141dに印加された電圧の振幅を検出する振幅検出部を設けないこととしている。
加速器制御装置300は、タイミング制御部310と、信号生成部320と、信号補正部330とを備える。タイミング制御部310、信号生成部320、および信号補正部330は、従来公知のハードウェアにより実現される。かかるハードウェアとして、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、LSI(Large Scale Integration)、およびASIC(Application Specific Integrated Circuit)等が挙げられる。
なお、加速器制御装置300は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと、プロセッサが実行するプログラムを格納するプログラムメモリとを備えてもよい。この場合、プロセッサがプログラムメモリに記憶されたプログラムを実行することで、タイミング制御部310、信号生成部320、および信号補正部330を実現してもよい。
タイミング制御部310は、加速器100に荷電粒子ビームBを入射するタイミングを制御するとともに、加速器100から荷電粒子ビームBを出射するタイミングを制御する。
図2に示されるように、タイミング制御部310は、荷電粒子ビームBを加速器100内の周回軌道に入射する場合には、ビーム入射信号S16を入射器110に出力する。入射器110は、ビーム入射信号S16がタイミング制御部310から入力されると、荷電粒子ビームBを加速器100内の周回軌道に入射する。
また、タイミング制御部310は、荷電粒子ビームBを加速器100内の周回軌道から出射する場合には、ビーム出射信号S17を出射器150に出力する。出射器150は、ビーム出射信号S17がタイミング制御部310から入力されると、荷電粒子ビームBを加速器100内の周回軌道から照射装置200に向けて出射する。
信号生成部320は、振幅指令パターン記憶部321と、周波数指令パターン記憶部322とを備える。操作者が振幅指令パターンS3および周波数指令パターンS4を計算機600に入力すると、計算機600は、入力された振幅指令パターンS3および周波数指令パターンS4を信号生成部320に送信する。信号生成部320は、計算機600から振幅指令パターンS3および周波数指令パターンS4を受信すると、受信した振幅指令パターンS3を振幅指令パターン記憶部321に記憶するとともに、受信した周波数指令パターンS4を周波数指令パターン記憶部322に記憶する。
ここで、振幅指令パターンS3は、高周波加速空洞140に設けられた複数の電極141aから141dに印加する電圧の振幅を制御するための振幅指令パターンを示すデータである。即ち、振幅指令パターンS3は、電極141aから電極141dに印加される電圧の振幅を指令する振幅指令値の集合であり、特定の順序で実行(出力)される(振幅指令信号S6として読み出される)。周波数指令パターンS4は、高周波加速空洞140に設けられた複数の電極141aから141dに印加する電圧の周波数を制御するための周波数指令パターンを示すデータである。即ち、周波数指令パターンS4は、電極141aから電極141dに印加される電圧の周波数を指令する周波数指令値の集合であり、特定の順序で実行(出力)される(周波数指令信号S7として読み出される)。
タイミング制御部310は、リセット信号S1とクロック信号S2とを、振幅指令パターン記憶部321に出力する。リセット信号S1は、振幅指令信号S6を振幅指令パターンS3の最初のデータから生成するよう(最初のデータから読み出すよう)にリセットするための信号である。クロック信号S2は、振幅指令信号S6を振幅指令パターンS3の次のデータから生成されるよう(次のデータから読み出すよう)に更新する際に用いられる同期信号である。また、タイミング制御部310は、リセット信号S1とクロック信号S2とを、周波数指令パターン記憶部322にも出力する。
図3は、第1の実施形態に係る振幅指令パターンS3の一例を示す図である。図3に示される振幅指令パターンS3において、横軸は時間を示し、縦軸は電極141aから141dに印加する電圧を制御するための振幅指令値を示す。即ち、図3に示す振幅指令パターンS3は、図中最左の振幅指令値(最初の振幅指令値)から実行され、クロック信号が入力される度に次の(右隣の)振幅指令値が順に実行される。なお、振幅指令値が増大すると、電極141aから141dに印加される電圧の振幅を増大させることができ、振幅指令値が減少すると、電極141aから141dに印加される電圧の振幅を減弱させることができる。
詳細は後述するが、図3に示される振幅指令パターンS3は、振幅指令値が振幅指令値A1まで増大し、その後、振幅指令値A2、振幅指令値A3、・・・、振幅指令値Anへと減少するパターンを備える。ここで、リセット信号S1が振幅指令パターン記憶部321に入力されると、振幅指令パターンS3の最初の振幅指令値(図3の最左の振幅指令値)から順に実行するよう強制される。
信号生成部320は、振幅指令パターン記憶部321に記憶された振幅指令パターンS3を参照し、タイミング制御部310から入力されたクロック信号S2に応じて振幅指令信号S6を生成する。言い換えると、信号生成部320は、タイミング制御部310から入力されるクロック信号S2に応じて振幅指令パターン記憶部321から振幅指令値を読み出すことで、振幅指令信号S6を生成する。
具体的に、信号生成部320は、クロック信号S2の入力回数をカウントし、カウント値に対応する振幅指令値を振幅指令パターン記憶部321から読み出すことにより、振幅指令信号S6を生成する。信号生成部320は、クロック信号S2がタイミング制御部310から入力される度に、この動作を繰り返す。信号生成部320は、生成した振幅指令信号S6を信号補正部330に出力する。
一方、周波数指令パターン記憶部322には、周波数指令パターンS4が記憶されている。周波数指令パターンS4は、クロック信号S2に応じて変化する。ここで、リセット信号S1が周波数指令パターン記憶部322に入力されると、周波数指令パターンS4の最初の周波数指令値から順に実行するよう強制される。信号生成部320は、周波数指令パターン記憶部322に記憶された周波数指令パターンを参照し、タイミング制御部310から入力されたクロック信号S2に応じた周波数指令信号S7を生成する。また、信号生成部320は、生成した周波数指令信号S7を信号補正部330に出力する。
なお、タイミング制御部310は、振幅指令パターン記憶部321および周波数指令パターン記憶部322にリセット信号S1を出力した場合、信号補正部330にもリセット信号S1を出力する。また、詳細は後述するが、タイミング制御部310は、加速器100を周回する荷電粒子ビームBを所望のエネルギーに保持する場合には、信号生成部320へのクロック信号S2の出力を停止する。その後、タイミング制御部310は、クロック信号S2の出力を停止したことを示すクロック停止信号S15を、信号補正部330に出力する。
信号補正部330は、フィードバック制御部331と、デジタルシンセサイザー332とを備える。計算機600は、フィードバック制御部331によって行われるフィードバック演算に用いられる、比例ゲインや積分ゲインなどの演算設定値S5を信号補正部330に出力する。また、振幅検出部510は、高周波加速空洞140の電極141aに印加された電圧の振幅の検出値を示す振幅検出信号S14を、フィードバック制御部331に出力する。
フィードバック制御部331は、計算機600から入力された演算設定値S5と、振幅検出部510から入力された振幅検出信号S14とを用いて、信号生成部320によって生成された振幅指令信号S6を補正する。これによって、フィードバック制御部331は、補正後振幅指令信号S8を生成する。フィードバック制御部331は、生成した補正後振幅指令信号S8を、デジタルシンセサイザー332に出力する。
また、フィードバック制御部331は、信号生成部320によって生成された周波数指令信号S7についても補正し、補正後周波数指令信号S9を生成する。フィードバック制御部331は、加速器100を周回する荷電粒子ビームBの位相と高周波加速空洞140の電圧位相の差の検出値を用いて周波数指令信号S7を補正してもよいし、周波数指令信号S7を補正しないでそのまま出力してもよい。フィードバック制御部331は、生成した補正後周波数指令信号S9を、デジタルシンセサイザー332に出力する。
デジタルシンセサイザー332は、フィードバック制御部331から入力された補正後振幅指令信号S8および補正後周波数指令信号S9に基づき、正弦波の高周波信号S10を生成する。高周波信号S10は、高周波加速空洞140の複数の電極141aから141dに出力される信号である。デジタルシンセサイザー332は、生成した高周波信号S10を信号増幅回路400に出力する。
信号増幅回路400は、信号分配部410と、複数の増幅器420aから420dとを備える。信号分配部410は、デジタルシンセサイザー332から高周波信号S10が入力されると、入力された高周波信号S10を増幅器420aから420dに分配する。具体的に、信号分配部410は、入力された高周波信号S10を4つの高周波信号S11に分割し、分割した高周波信号S11を増幅器420aから420dの各々に出力する。
ここで、増幅器420aおよび増幅器420bは対になっており、増幅器420cおよび増幅器420dは対になっている。信号分配部410は、増幅器420bに出力される高周波信号S11の位相を、増幅器420aに出力される高周波信号S11の位相に対して180°遅らせる。また、信号分配部410は、増幅器420dに出力される高周波信号S11の位相を、増幅器420cに出力される高周波信号S11の位相に対して180°遅らせる。
増幅器420aから420dの各々は、信号分配部410から入力された高周波信号S11を増幅することで、高周波信号S12を生成する。また、増幅器420aから420dは、それぞれ、生成した高周波信号S12を高周波加速空洞140に設けられた電極141aから141dに出力する。これによって、荷電粒子ビームBは、高周波加速空洞140内で加速される。
図4は、第1の実施形態に係るフィードバック制御部331の詳細構成を示す図である。フィードバック制御部331は、減算部360と、第1保持部361と、第1乗算部362と、加算部363と、積分停止部364と、積分部365と、第2保持部366と、第2乗算部367と、初期化部368とを備える。
まず、クロック停止信号S15がタイミング制御部310からフィードバック制御部331に入力されていない場合における、フィードバック制御部331の処理について説明する。減算部360は、信号生成部320から入力された振幅指令信号S6と、振幅検出部510から入力された振幅検出信号S14との差分Dを算出し、算出した差分Dを第1保持部361および積分部365に出力する。第1保持部361は、減算部360から入力された差分Dを第1乗算部362に出力する。
フィードバック制御部331には、計算機600から出力された演算設定値S5に基づき、比例ゲインKPが予め設定されている。第1乗算部362は、第1保持部361から入力された差分Dに比例ゲインKPを乗算し、乗算値を加算部363に出力する。
一方、積分部365は、減算部360から入力された差分Dを積分することによって積分値を算出し、算出した積分値を第2保持部366に出力する。第2保持部366は、積分部365から入力された積分値を第2乗算部367に出力する。
フィードバック制御部331には、計算機600から出力された演算設定値S5に基づき、積分ゲインKIが予め設定されている。第2乗算部367は、第2保持部366から入力された積分値に積分ゲインKIを乗算し、乗算値を加算部363に出力する。
加算部363は、第1乗算部362から入力された乗算値に、第2乗算部367から入力された乗算値を加算することで、補正後振幅指令信号S8を生成する。加算部363は、生成した補正後振幅指令信号S8をデジタルシンセサイザー332に出力する。
次に、クロック停止信号S15がタイミング制御部310からフィードバック制御部331に入力された場合における、フィードバック制御部331の処理について説明する。タイミング制御部310は、加速器100を周回する荷電粒子ビームBを所望のエネルギーに保持する場合には、クロック信号S2を停止する。タイミング制御部310は、クロック信号S2を停止した場合、フィードバック制御部331にクロック停止信号S15を出力する。タイミング制御部310から出力されたクロック停止信号S15は、フィードバック制御部331の第1保持部361、積分停止部364、および第2保持部366に入力される。
減算部360は、信号生成部320から入力された振幅指令信号S6と、振幅検出部510から入力された振幅検出信号S14との差分Dを算出し、算出した差分Dを第1保持部361および積分部365に出力する。
第1保持部361は、クロック停止信号S15が入力されると、クロック停止信号S15が入力される直前の差分Dを保持し、保持した差分Dを第1乗算部362に出力する。第1保持部361は、クロック停止信号S15が入力されなくなるまで、差分Dを一定に保持し続ける。第1乗算部362は、第1保持部361から入力された差分Dに比例ゲインKPを乗算し、乗算値を加算部363に出力する。
積分停止部364は、クロック停止信号S15が入力されると、積分停止信号を積分部365に出力する。積分部365は、積分停止部364から積分停止信号が入力されると、差分Dを積分する積分処理を停止する。
一方、第2保持部366は、クロック停止信号S15が入力されると、クロック停止信号S15が入力される直前の積分値を保持し、保持した積分値を第2乗算部367に出力する。第2保持部366は、クロック停止信号S15が入力されなくなるまで、積分値を一定に保持し続ける。第2乗算部367は、第2保持部366から入力された積分値に積分ゲインKIを乗算し、乗算値を加算部363に出力する。
加算部363は、第1乗算部362から入力された乗算値に、第2乗算部367から入力された乗算値を加算することで、補正後振幅指令信号S8を生成する。加算部363は、生成した補正後振幅指令信号S8をデジタルシンセサイザー332に出力する。
このように、加速器100を周回する荷電粒子ビームBを所望のエネルギーに保持する場合には、第1保持部361は減算部360から入力された差分Dを一定に保持するとともに、第2保持部366は積分部365から入力された積分値を一定に保持する。これによって、補正後振幅指令信号S8が一定に保持される。
なお、初期化部368は、タイミング制御部310からリセット信号S1が入力されると、初期化指令信号を積分部365に出力する。積分部365は、初期化部368から初期化指令信号が入力されると、算出した積分値を0にする。これによって、初期化部368は、積分部365によって算出された積分値を初期化することができる。
次に、加速器制御装置300によって行われる処理について具体的に説明する。振幅指令パターン記憶部321には、図3に示される振幅指令パターンS3が記憶されている。
タイミング制御部310は、荷電粒子ビームBを加速する際には、リセット信号S1を信号生成部320の振幅指令パターン記憶部321に出力する。振幅指令パターン記憶部321は、タイミング制御部310からリセット信号S1が入力されると、振幅指令パターンS3の最初のデータから順に出力を開始する。これによって、信号生成部320から振幅指令信号S6が出力される。振幅指令信号S6は、クロック信号S2に応じて更新されていく。
リセット信号S1が出力されるタイミング付近において、信号増幅回路400から各電極141aから141dに出力される高周波信号S12の電力は、荷電粒子ビームBの入射レベルのエネルギーに相当する電力となっている。この状態で、タイミング制御部310がビーム入射信号S16を入射器110に出力すると、入射器110は、荷電粒子ビームBを加速器100内の周回軌道に入射させる。その後、振幅指令信号S6および周波数指令信号S7に応じて荷電粒子ビームBにエネルギーが与えられ、荷電粒子ビームBは加速する。
なお、信号生成部320は、振幅指令パターンS3および周波数指令パターンS4に加えて、四極電磁石120aから120hに供給する電流の電流値指令パターンと、偏向電磁石130aから130dに供給する電流の電流値指令パターンについても記憶している。信号生成部320は、これらの電流値指令パターンに基づいて、四極電磁石120aから120hに供給する電流および偏向電磁石130aから130dに供給する電流を制御する。これによって、加速器制御装置300は、加速器100内の荷電粒子ビームBに対して、リセット、入射、加速、減速を繰り返す。
図5は、第1の実施形態に係る振幅指令信号S6の一例を示す図である。図5に示される振幅指令信号S6において、横軸は時間を示し、縦軸は電極141aから141dに印加する電圧の振幅指令値を示す。出射器150から荷電粒子ビームBを出射させる際には、タイミング制御部310は、振幅指令信号S6が荷電粒子ビームBの出射に必要な振幅を指令する振幅指令値になるまで待つ。例えば、タイミング制御部310は、荷電粒子ビームBのエネルギーを計測する計測回路を用いて、振幅指令信号S6が荷電粒子ビームBの出射に必要な振幅を指令する振幅指令値になったか否かを判定する。
例えば、タイミング制御部310は、振幅指令値A1で荷電粒子ビームBを出射させる場合、振幅指令信号S6が振幅指令値A1に到達したタイミングでクロック信号S2を停止する。これによって、振幅指令信号S6は一定値(振幅指令値A1)に保持される。また、タイミング制御部310は、クロック信号S2を停止すると、信号補正部330にクロック停止信号S15を出力する。前述したように、信号補正部330は、タイミング制御部310からクロック停止信号S15が入力されると、補正後振幅指令信号S8を一定に保持するとともに、補正後周波数指令信号S9を一定に保持する。これによって、信号補正部330は、正弦波である高周波信号S10の振幅を一定に保持する。
タイミング制御部310は、クロック信号S2を停止している間において、ビーム出射信号S17を出射器150に出力する。出射器150は、ビーム出射信号S17がタイミング制御部310から入力されると、荷電粒子ビームBを加速器100内の周回軌道から照射装置200に向けて出射する。これによって、振幅指令値A1で荷電粒子ビームBを出射させることができる。その後、タイミング制御部310は、信号生成部320へのクロック信号S2の出力を再開するとともに、信号補正部330へのクロック停止信号S15の出力を停止する。
次に、タイミング制御部310は、振幅指令値A2で荷電粒子ビームBを出射させる場合、振幅指令信号S6が振幅指令値A2に到達したタイミングでクロック信号S2を停止する。これによって、振幅指令信号S6は一定値(振幅指令値A2)に保持される。また、タイミング制御部310は、クロック信号S2を停止すると、信号補正部330にクロック停止信号S15を出力する。前述したように、クロック停止信号S15が信号補正部330に入力されると、信号補正部330は補正後振幅指令信号S8を一定に保持する。
タイミング制御部310は、クロック信号S2を停止している間において、ビーム出射信号S17を出射器150に出力する。出射器150は、ビーム出射信号S17がタイミング制御部310から入力されると、荷電粒子ビームBを加速器100内の周回軌道から照射装置200に向けて出射する。これによって、振幅指令値A2で荷電粒子ビームBを出射させることができる。その後、タイミング制御部310は、信号生成部320へのクロック信号S2の出力を再開するとともに、信号補正部330へのクロック停止信号S15の出力を停止する。
以上の処理を繰り返すことにより、加速器制御装置300は、電極141aから141dに所望の振幅の電圧を印加しながら、荷電粒子ビームBを加速器100から照射装置200に向けて出射させることができる。また、加速器制御装置300は、補正後振幅指令信号S8を一定に保持した状態で加速器100から荷電粒子ビームBを出射させることで、荷電粒子ビームBの強度を安定化することができる。
クロック停止信号S15がフィードバック制御部331に入力されていない場合、フィードバック制御部331は、振幅検出部510から入力された振幅検出信号S14(電極141aに印加された電圧の振幅)に基づき、比例・積分フィードバック演算を常時行う。これによって、フィードバック制御部331は、振幅検出信号S14が振幅指令信号S6に近づくように補正後振幅指令信号S8を変動させる。
フィードバック演算によって補正後振幅指令信号S8が変動すると、電極141aから141dの全体に印加される電圧(空洞電圧)の振幅も変動する。このため、荷電粒子ビームBの強度が不安定となる。
荷電粒子ビームBの強度が不安定となるのは、電極141aから141dが個体差を有するとともに、増幅器420aから増幅器420dも個体差を有するためである。このため、フィードバック制御部331は、電極141aに印加された電圧の振幅が一定値となるように制御したとしても、他の電極141bから141dに印加された電圧の振幅が一定値となるように制御できるとは限らない。したがって、フィードバック制御部331は、電極141aに印加された電圧の振幅を示す振幅検出信号S14のみに基づいて、他の電極141bから141dに印加された電圧の振幅を正確に制御することは困難である。
図6は、第1の実施形態を適用しない場合の、線量モニタ210の測定値の一例を示す図である。図6において、横軸は時間を示し、縦軸は荷電粒子ビームBの強度を示す。図6に示される例においては、補正後振幅指令信号S8を一定に保持することなく、フィードバック制御部331がフィードバック演算を行いながら、出射器150が荷電粒子ビームBを出射している。この場合、補正後振幅指令信号S8が変動するため、荷電粒子ビームBの強度が不安定となる。
一方で、本実施形態において、信号補正部330は、加速器100から荷電粒子ビームBを出射させる際には、補正後振幅指令信号S8を一定に保持する。これによって、信号補正部330は、各電極141aから141dに出力される高周波信号の振幅を一定に保持することができるため、電極141aから141dの全体に印加される電圧(空洞電圧)の振幅を一定に保持することができる。
図7は、第1の実施形態を適用した場合の、線量モニタ210の測定値の一例を示す図である。図7に示されるように、本実施形態によれば、荷電粒子ビームBの強度の変動を抑制することができ、荷電粒子ビームBの強度を安定化することができる。
図8は、第1の実施形態に係る加速器制御装置300、信号増幅回路400、および振幅検出回路500の動作を示すフローチャートである。まず、信号生成部320は、振幅指令パターン記憶部321に記憶された振幅指令パターンS3を参照し、クロック信号S2に応じた振幅指令信号S6を生成する(S101)。また、信号生成部320は、周波数指令パターン記憶部322に記憶された周波数指令パターンS4を参照し、クロック信号S2に応じた周波数指令信号S7を生成する。
S101と並行して、振幅検出部510は、電極141aに印加された電圧の振幅を検出し、振幅検出信号S14を信号補正部330に出力する(S102)。信号補正部330は、振幅検出部510から入力された振幅検出信号S14に基づいて、信号生成部320から出力された振幅指令信号S6を補正する(S103)。また、信号補正部330は、信号生成部320から出力された周波数指令信号S7についても補正する。
信号補正部330は、補正後振幅指令信号S8および補正後周波数指令信号S9に基づき、高周波信号S10を生成する(S104)。信号増幅回路400は、信号補正部330によって生成された高周波信号S10を増幅器420aから420dに分配する(S105)。その後、信号増幅回路400は、分配された高周波信号S11を増幅する(S106)。増幅された高周波信号S12は、各電極141aから141dに出力される。その後、加速器制御装置300は、前述のS100に処理を戻す。
一方、タイミング制御部310は、前述した計測回路を用いて、加速器100を周回する荷電粒子ビームBが所望のエネルギーに達したか否かを判定する(S100)。加速器100を周回する荷電粒子ビームBが所望のエネルギーに達していないとタイミング制御部310によって判定された場合、前述のS103に処理が進められる。
一方、加速器100を周回する荷電粒子ビームBが所望のエネルギーに達したとタイミング制御部310によって判定された場合、信号補正部330は、高周波信号S10の振幅を一定に保持する(S107)。高周波信号S10の振幅を一定に保持することで、荷電粒子ビームBの強度を安定化することができる。その後、前述のS103に処理が進められる。
以上説明したように、第1の実施形態において、信号生成部320は、複数の電極141aから141dに印加する電圧の振幅を制御するための振幅指令信号S6を生成する。振幅検出部510は、1の電極141aに印加された電圧の振幅を検出する。信号補正部330は、振幅検出部510によって検出された振幅に基づいて振幅指令信号S6を補正し、補正後振幅指令信号S8を用いて電極141aから141dに出力される高周波信号S10を生成する。信号補正部330は、加速器100を周回する荷電粒子ビームBを所望のエネルギーに保持する場合には、高周波信号S10の振幅を一定に保持する。これによって、荷電粒子ビームBの強度を安定化することができる。
(第2の実施形態)
第1の実施形態において、フィードバック制御部331は、電極141aに印加された電圧の振幅のみに基づいて、フィードバック演算を行うこととした。これに対し、第2の実施形態において、フィードバック制御部331は、複数の電極に印加された電圧の振幅のそれぞれに基づいて、フィードバック演算を行うこととする。ここで、電極数を特に限定するものではないが、以下の説明では4つの電極141aから141dに印加された電圧の振幅に基づいてフィードバック演算をする場合を例として説明する。即ち、本実施形態において、フィードバック制御部331は、電極141aに印加された電圧の振幅と、電極141bに印加された電圧の振幅と、電極141cに印加された電圧の振幅と、電極141dに印加された電圧の振幅とに基づいて、フィードバック演算を行うこととする。これによって、信号補正部330は、荷電粒子ビームBの強度をより安定化することができる。以下、第2の実施形態について詳細に説明する。
図9は、第2の実施形態に係る加速器制御装置300、信号増幅回路400、振幅検出回路500、および高周波加速空洞140の詳細構成を示すブロック図である。図9において、図2の各部に対応する部分には同一の符号を付し、説明を省略する。
高周波加速空洞140には、電圧検出部142aから142dが設けられている。電圧検出部142aから142dは、それぞれ、電極141aから141dに印加された電圧を検出する。電圧検出部142aから142dは、それぞれ、検出した電圧を示す電圧検出信号S13を振幅検出回路500に出力する。
振幅検出回路500は、振幅検出部510aから510dを備える。振幅検出部510aから510dは、それぞれ、電圧検出信号S13が入力されると、入力された電圧検出信号S13に基づき、電圧検出部142aから142dに印加された電圧の振幅を検出する。振幅検出部510aから510dは、それぞれ、検出した電圧の振幅を示す振幅検出信号S14を信号補正部330に出力する。
図10は、第2の実施形態に係るフィードバック制御部331の詳細構成を示す図である。図10において、図4の各部に対応する部分には同一の符号を付し、説明を省略する。フィードバック制御部331は、減算部360と、第1保持部361と、第1乗算部362と、加算部363と、積分停止部364と、積分部365と、第2保持部366と、第2乗算部367と、初期化部368と、平均演算部369とを備える。
まず、クロック停止信号S15がタイミング制御部310からフィードバック制御部331に入力されていない場合における、フィードバック制御部331の処理について説明する。平均演算部369は、振幅検出部510aから510dから入力された振幅検出信号S14の平均値を算出し、算出した平均値を減算部360に出力する。
減算部360は、信号生成部320から入力された振幅指令信号S6と、平均演算部369から入力された平均値との差分Dを算出し、算出した差分Dを第1保持部361および積分部365に出力する。
第1保持部361は、減算部360から入力された差分Dを第1乗算部362に出力する。第1乗算部362は、第1保持部361から入力された差分Dに比例ゲインKPを乗算し、乗算値を加算部363に出力する。
一方、積分部365は、減算部360から入力された差分Dを積分し、積分値を第2保持部366に出力する。第2保持部366は、積分部365から入力された積分値を第2乗算部367に出力する。第2乗算部367は、第2保持部366から入力された積分値に積分ゲインKIを乗算し、乗算値を加算部363に出力する。
加算部363は、第1乗算部362から入力された乗算値に第2乗算部367から入力された乗算値を加算することで、補正後振幅指令信号S8を生成する。加算部363は、生成した補正後振幅指令信号S8をデジタルシンセサイザー332に出力する。
次に、クロック停止信号S15がタイミング制御部310からフィードバック制御部331に入力された場合における、フィードバック制御部331の処理について説明する。タイミング制御部310は、加速器100を周回する荷電粒子ビームBを所望のエネルギーに保持する場合には、クロック信号S2を停止する。タイミング制御部310は、クロック信号S2を停止した場合、フィードバック制御部331にクロック停止信号S15を出力する。タイミング制御部310から出力されたクロック停止信号S15は、フィードバック制御部331の第1保持部361、積分停止部364、および第2保持部366に入力される。
減算部360は、信号生成部320から入力された振幅指令信号S6と、平均演算部369から入力された平均値との差分Dを算出し、算出した差分Dを第1保持部361および積分部365に出力する。
第1保持部361は、クロック停止信号S15が入力されると、クロック停止信号S15が入力される直前の差分Dを保持し、保持した差分Dを第1乗算部362に出力する。第1保持部361は、クロック停止信号S15が入力されなくなるまで、差分Dを一定に保持し続ける。第1乗算部362は、第1保持部361から入力された差分Dに比例ゲインKPを乗算し、乗算値を加算部363に出力する。
積分停止部364は、クロック停止信号S15が入力されると、積分停止信号を積分部365に出力する。積分部365は、積分停止部364から積分停止信号が入力されると、差分Dを積分する積分処理を停止する。
一方、第2保持部366は、クロック停止信号S15が入力されると、クロック停止信号S15が入力される直前の積分値を保持し、保持した積分値を第2乗算部367に出力する。第2保持部366は、クロック停止信号S15が入力されなくなるまで、積分値を一定に保持し続ける。第2乗算部367は、第2保持部366から入力された積分値に積分ゲインKIを乗算し、乗算値を加算部363に出力する。
加算部363は、第1乗算部362から入力された乗算値に、第2乗算部367から入力された乗算値を加算することで、補正後振幅指令信号S8を生成する。加算部363は、生成した補正後振幅指令信号S8をデジタルシンセサイザー332に出力する。
このように、加速器100を周回する荷電粒子ビームBを所望のエネルギーに保持する場合には、第1保持部361は減算部360から入力された差分Dを一定に保持するとともに、第2保持部366は積分部365から入力された積分値を一定に保持する。これによって、補正後振幅指令信号S8が一定に保持される。
複数の電極141aから141dのそれぞれに印加された電圧の振幅は、常時一致していることが理想的である。しかしながら、電極141aから141dは個体差を有するとともに、増幅器420aから増幅器420dも個体差を有する。このため、複数の電極141aから141dのそれぞれに印加された電圧の振幅を、常時一致させることは難しい。
本実施形態の信号補正部330は、複数の電極141aから141dのそれぞれに印加された電圧の振幅が一致していない場合であっても、複数の電極141aから141dのそれぞれに印加された電圧の振幅の平均値に基づいて、振幅指令信号S6を補正する。これによって、複数の電極141aから141dのそれぞれに印加された電圧の振幅が常時一致しない場合であっても、荷電粒子ビームBに与えられるエネルギーを一定にすることができ、荷電粒子ビームBの強度をより安定化することができる。
以上説明したように、第2の実施形態において、振幅検出部510aから510dは、複数の電極141aから141dのそれぞれに印加された電圧の振幅を検出する。信号補正部330は、振幅検出部510aから510dによって検出された振幅の平均値を算出し、算出した平均値に基づいて信号生成部320によって生成された振幅指令信号S6を補正する。これによって、荷電粒子ビームBの強度をより安定化することができる。
(第3の実施形態)
第1および第2の実施形態において、信号補正部330は、荷電粒子ビームBを出射させる際には、高周波信号S10の振幅を一定に保持し続けることとした。これに対し、第3の実施形態において、信号補正部330は、一定に保持した高周波信号S10の振幅を一定時間強制的に減弱させることで、荷電粒子ビームBのバンチ状態を抑制することとする。ここで、バンチ状態とは、荷電粒子が集まって塊になった状態を意味する。以下、第3の実施形態について詳細に説明する。
図11は、第3の実施形態に係るフィードバック制御部331の詳細構成を示す図である。図11において、図4の各部に対応する部分には同一の符号を付し、説明を省略する。フィードバック制御部331は、減算部360と、第1保持部361と、第1乗算部362と、加算部363と、積分停止部364と、積分部365と、第2保持部366と、第2乗算部367と、初期化部368と、デバンチ部370とを備える。
第3の実施形態は、フィードバック制御部331にデバンチ部370が設けられている点で第1の実施形態とは異なる。デバンチ部370には、計算機600から出力された演算設定値S5に基づき、待ち時間T1と、デバンチ時間T2と、リキャプチャ時間T3とが予め設定されている。
まず、クロック停止信号S15がタイミング制御部310からフィードバック制御部331に入力されていない場合、デバンチ部370は、加算部363からの出力信号を、補正後振幅指令信号S8としてデジタルシンセサイザー332に出力する。
一方、クロック停止信号S15がタイミング制御部310からフィードバック制御部331に入力された場合、デバンチ部370は、荷電粒子ビームBのバンチ状態を抑制するデバンチ処理を行う。デバンチ処理は、一定に保持した高周波信号S10を、一定時間強制的に下げる処理である。
荷電粒子ビームBがバンチ状態(荷電粒子の塊の状態)となっている場合、荷電粒子ビームBが加速器100を周回している間、荷電粒子ビームBにコヒーレントシンクロトロン振動が発生する。コヒーレントシンクロトロン振動の影響によって、荷電粒子ビームBが進行方向に振動すると、荷電粒子ビームBの強度が不安定になる。本実施形態のデバンチ部370は、デバンチ処理を行うことにより荷電粒子ビームBのバンチ状態を抑制する。これによって、コヒーレントシンクロトロン振動を抑制し、荷電粒子ビームBの強度を安定化することができる。
図12は、第3の実施形態に係る補正後振幅指令信号S8の一例を示す図である。図12は、補正後振幅指令信号S8の経時変化と、リセット信号S1、クロック信号S2およびクロック停止信号S15がタイミング制御部310から出力されるタイミングとを、時間軸を揃えて示す。即ち、図12において横軸は時間を示し、縦軸はそれぞれ補正後振幅指令信号S8、リセット信号S1、クロック信号S2、および、クロック停止信号S15の信号強度を示す。出射器150から荷電粒子ビームBを出射させる際には、タイミング制御部310は、振幅指令信号S6が荷電粒子ビームBの出射に必要な振幅を指令する振幅指令値になるまで待つ。例えば、タイミング制御部310は、荷電粒子ビームBのエネルギーを計測する計測回路を用いて、振幅指令信号S6が荷電粒子ビームBの出射に必要な振幅を指令する振幅指令値になったか否かを判定する。
例えば、タイミング制御部310は、振幅指令値A1で荷電粒子ビームBを出射させる場合、振幅指令信号S6が振幅指令値A1に到達したタイミングでクロック信号S2を停止する。これによって、振幅指令信号S6は一定値(振幅指令値A1)に保持される。また、タイミング制御部310は、クロック信号S2を停止すると、信号補正部330にクロック停止信号S15を出力する。前述したように、クロック停止信号S15が信号補正部330に入力されると、信号補正部330は補正後振幅指令信号S8を一定に保持する。このとき、クロック停止信号S15はデバンチ部370にも入力される。
デバンチ部370は、クロック停止信号S15が入力されてから待ち時間T1が経過するまで待機する。待ち時間T1が経過するまでの間、デバンチ部370は、加算部363からの出力信号を、補正後振幅指令信号S8としてデジタルシンセサイザー332に出力する。即ち、デバンチ部370は、待ち時間T1が経過するまでの間、信号補正部330から出力される補正後振幅指令信号S8を一定に保持する。クロック停止信号S15が入力されてから待ち時間T1が経過すると、デバンチ部370は、デバンチ時間T2が経過するまで補正後振幅指令信号S8を所定値(例えば、待ち時間T1における補正後振幅指令信号S8の5%以下、典型的には1%以下、好ましくは0%)まで強制的に下げる。
デバンチ部370が補正後振幅指令信号S8を強制的に下げることで、一定に保持した高周波信号S10が強制的に下げられる。高周波信号S10が下げられると、複数の電極141aから141dのそれぞれに印加される電圧が小さくなる。複数の電極141aから141dのそれぞれに印加される電圧が小さくなると、荷電粒子ビームBはバンチ状態から解放され、荷電粒子が加速器100内に一様に分布する。これによって、荷電粒子ビームBのバンチ状態を抑制することができる。
その後、デバンチ部370は、リキャプチャ時間T3が経過するまで補正後振幅指令信号S8を直線的に振幅指令値A1まで増加させるリキャプチャ処理を行う。補正後振幅指令信号S8を振幅指令値A1まで徐々に増加させることによって、荷電粒子ビームBは若干バンチ状態になる。しかしながら、デバンチ処理を行う前の荷電粒子ビームBと比較して、コヒーレントシンクロトロン振動は抑制される。
本実施形態において、デバンチ部370は、補正後振幅指令信号S8を振幅指令値A1まで急激に増加させるのではなく、リキャプチャ時間T3の間徐々に増加させる。これによって、荷電粒子ビームBに対してスムーズにリキャプチャ処理を行うことができる。
なお、デバンチ部370は、信号補正部330(フィードバック制御部331)にリセット信号入力後にクロック停止信号S15が最初に入力されたときにだけ、デバンチ処理を行う。すなわち、図12の例において、デバンチ部370は、振幅指令値A1に対してのみデバンチ処理を行い、振幅指令値A2からAnに対してはデバンチ処理を行わない。デバンチ部370は、荷電粒子ビームBが加速された後、デバンチ処理を1回実施すればコヒーレントシンクロトロン振動を十分抑制できる。逆に、デバンチ部370がデバンチ処理を複数回行うと、加速器100を周回する荷電粒子の量が減ってしまう。このため、デバンチ部370は、クロック停止信号S15が入力された後、1回だけデバンチ処理を行う。これによって、加速器100を周回する荷電粒子の量が大幅に減少するのを防止できるとともに、コヒーレントシンクロトロン振動を抑制することができる。
以上説明したように、第3の実施形態において、信号補正部330は、一定に保持した高周波信号S10を一定時間強制的に下げることで、荷電粒子ビームBのバンチ状態を抑制する。これによって、荷電粒子ビームBの強度をより安定化することができる。
なお、第3の実施形態において、フィードバック制御部331は、電極141aに印加された電圧の振幅のみに基づいて、フィードバック演算を行うこととしたが、これに限られない。例えば、フィードバック制御部331は、第2の実施形態と同様に、複数の電極に印加された電圧の振幅のそれぞれに基づいて、フィードバック演算を行ってもよい。
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、加速器制御装置300は、信号生成部320と、信号補正部330とを持つ。加速器制御装置300は、複数の電極141aから141dを有する高周波加速空洞140を用いて荷電粒子ビームBを加速する加速器100を制御する。信号生成部320は、複数の電極141aから141dに印加する電圧の振幅を制御するための振幅指令信号S6を生成する。信号補正部330は、複数の電極141aから141dのうちの少なくとも一つの電極に印加された電圧の振幅に基づいて、信号生成部320によって生成された振幅指令信号S6を補正することにより、複数の電極141aから141dに出力される高周波信号S10を生成する。信号補正部330は、荷電粒子ビームBを所望のエネルギーに保持する場合には、高周波信号S10の振幅を一定に保持する。これによって、荷電粒子ビームBの強度を安定化することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。