以下、本発明の実施形態に係る電子写真感光体およびこれを備えた画像形成装置について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の内容は、本発明の実施形態を例示するものであって、本発明はこれらの実施形態の例に限定されるものではない。
(電子写真感光体)
本発明の実施形態に係る電子写真感光体について、図1を用いて説明する。
図1に示した電子写真感光体1は、円筒状基体10の外表面(基体外周面10a)に、電荷注入阻止層11aおよび光導電層11bを順次形成した感光層11を有しており、感光層11の外表面上には表面保護層12が形成されている。なお、ここで、表面層13は、感光層11および表面保護層12を含む。
円筒状基体10は、感光層11の支持体となるものであり、少なくとも円筒状基体10の表面は導電性を有する。
この円筒状基体10は、例えばアルミニウム(Al)、ステンレス(SUS)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、スズ(Sn)、金(Au)、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)およびマンガン(Mn)などの金属材料あるいはこれら例示した金属材料を含む合金材料によって、全体が導電性を有するものとして形成されている。また、円筒状基体10は、樹脂、ガラスあるいはセラミックスなどの表面に、例示した金属材料ならびにITO(Indium Tin Oxide)あるいはSnO2(二酸化すず)などの透明導電性材料による導電性膜を被着したものであってもよい。これらの例示した材料のうち、円筒状基体10を形成するための材料としては、アルミニウム(Al)系材料を用いればよく、円筒状基体10の全体をアルミニウム(Al)系材料で形成すればよい。そうすれば、電子写真感光体1を軽量かつ低コストで製造可能であり、その上、電荷注入阻止層11aおよび光導電層11bをアモルファスシリコン(a−Si)系材料で形成する場合には、それらの層と円筒状基体10との間の密着性が高くなって信頼性を向上させることができる。
円筒状基体10の表面は、粗面化されていてもよい。円筒状基体10の表面粗さは、粗面化後で、例えば、50nm<Sa<140nmとすればよい。また、粗面化を行なう方法としては、例えば、ウェットブラスト、スパッタエッチング、ガスエッチング、研磨、旋削加工、ウェットエッチング、ガルバニック電喰などを用いればよい。上記表面粗さを満たす抽伸管であれば、表面形状を調整するための表面処理をせずにそのまま用いることもできる。なお、本発明においては、表面の算術平均高さSaが25nm以上の部位(面領域)を「粗面」と呼ぶ。
また、円筒状基体10の表面は、上述の粗面化の前に、鏡面加工を行なってもよいが、その場合には鏡面加工の後で粗面化の前に油分除去を行なうようにすればよい。さらに、円筒状基体10の表面粗さは、鏡面加工後で、例えば、Sa<25nmとすればよい。なお、本発明においては、表面の算術平均高さSaが25nm未満の部位(面領域)を「鏡面」という。
なお、本明細書において、Sa(算術平均粗さ)とは、ISO25178によって定義される三次元の表面性状を表すパラメータの一つであって、測定対象領域中の表面の平均面からの高さの絶対値の算術平均粗さ(nm)を示す。また、当該測定は、後記のオリンパス株式会社製3次元測定レーザ顕微鏡OLS4100により、ISO25178に準拠した3次元粗さパラメータにて表面形状を計測した。なお、電子写真感光体(表面層)の測定は、そのまま製品表面を計測し、表面層下の円筒状基体の外表面(外周面)の測定は、電子写真感光体の製品からClF3やCF4等を用いたドライエッチングで表面層を除去した後、計測を行った。
なお、電子写真感光体1の表面性状は、必ずしも表面保護層12の全面において、所定の範囲を満たす必要はない。例えば、クリーニングブレード116Aに接触しない、円筒状基体10の軸方向両端部等においては、表面性状が範囲外の値となってもよい。このことは、以下に記載される表面性状の全てのパラメータについて同様である。
電荷注入阻止層11aは、円筒状基体10からのキャリア(電子)の注入を阻止する役割を有するものである。この電荷注入阻止層11aは、例えばアモルファスシリコン(a−Si)系材料で形成されている。この電荷注入阻止層11aは、例えばアモルファスシリコン(a−Si)に、ドーパントとしてホウ素(B)と場合により窒素(N)か酸素(O)またはその両方を含有させたもの、あるいはリン(P)と場合により窒素(N)か酸素(O)またはその両方を含有させたものを用いることができ、その厚みは2μm以上10μm以下とされている。
光導電層11bは、レーザ光などの光照射によってキャリアを発生させる役割を有するものである。この光導電層11bは、例えばアモルファスシリコン(a−Si)系材料ならびにSe−TeあるいはAs2Se3などのアモルファスセレン(a−Se)系材料で形成されている。本例の光導電層11bは、アモルファスシリコン(a−Si)ならびにアモルファスシリコン(a−Si)に炭素(C)、窒素(N)および酸素(O)などを加えたアモルファスシリコン(a−Si)系材料で形成されており、ドーパントとしてホウ素(B)あるいはリン(P)が含有される。
また、光導電層11bの厚みは、使用する光導電性材料および所望の電子写真特性に応じて適宜設定すればよく、アモルファスシリコン(a−Si)系材料を用いて光導電層11bを形成する場合には、光導電層11bの厚みは、例えば5μm以上100μm以下、より具体的には10μm以上80μm以下に設定すればよい。
表面保護層12は、感光層11の表面を保護する役割を有するものである。表面保護層12は、例えばアモルファス炭化シリコン(a−SiC)あるいはアモルファス窒化シリコン(a−SiN)などのアモルファスシリコン(a−Si)系材料または、アモルファスカーボン(a−C)を用いるか、あるいはそれらの多層構造とすればよい。本例では、表面保護層12を3層構造とし、最表面となる表面保護層12の第3層は、画像形成装置内での摺擦に対する耐摩耗性の観点から、耐性の高いアモルファスカーボン(a−C)を採用している。
表面保護層12の厚みは、例えば、電子写真感光体の必要耐久枚数に合わせて調整すればよく、必要以上に厚くする必要は無い。例えば、0.1μm以上2μm以下、より具体的には0.5μm以上、1.5μm以下に設定すればよい。
本実施形態において、表面保護層12の表面粗さは、Str≧0.67に設定すればよく、より具体的にはStr≧0.79に設定すればよい。これによれば、優れた耐久特性および画像異常の低減を発揮することができる。すなわち、初期におけるクリーニングブレードなどの電子写真感光体クリーニング用の周辺部材との摩擦抵抗を抑制することができるとともに、耐久使用時において、表面が徐々に磨耗しても表面粗さを一定範囲内に維持し続けることが可能である。その結果、表面保護層と、クリーニングブレードとの間の摩擦抵抗の増大を効果的に抑制し続けることができることから、印画した画像に異常スジなどの画像異常の発生を低減することが可能となる。
また、表面保護層12の表面粗さは、Sal≦10.3μmに設定すればよい。さらに、表面保護層12の表面粗さは、Sal≧0.9μmに設定すればよく、より具体的にはSal≧1.6μmに設定すればよい。これによれば、上述のような優れた耐久特性および画像異常の低減をより効果的に発揮することができる。すなわち、表面保護層の表面の面方向において、上記数値で規定される狭いピッチで凹凸が存在することによって、初期不良の低減および耐久使用時の摩擦抵抗増大の抑制を実現することができる。
なお、本明細書において、Str(表面性状のアスペクト比)とは、ISO25178によって定義される三次元の表面性状を表すパラメータの一つであって、表面性状のアスペクト比を示す。すなわち、表面性状の均一性を表す尺度であり、表面の自己相関が相関値0.2に減衰する最も遠い横方向の距離とSalとの比で定義される。Strは0〜1の範囲の値を有し、値が大きければ大きいほど強い等方性を示し、低ければ低いほど強い異方性を示す。また、本明細書において、Sal(最短自己相関距離)とは、ISO25178によって定義される三次元の表面性状を表すパラメータの一つであって、最短の自己相関距離(μm)を示す。表面の自己相関が相関値0.2に減衰する最も近い横方向の距離を表す。すなわち、横方向の支配的な最小凹凸ピッチを示す。
ここで、SalおよびStrは、初期状態の電子写真感光体1、すなわち画像形成装置において多数回繰り返して使用される前の電子写真感光体1の表面保護層12の表面性状を示す値である。これは、市場製品の電子写真感光体1について、工場出荷時の表面性状を示す値であることを意味する。
なお、この表面保護層12は、電子写真感光体1に照射されるレーザ光などの光が吸収されたり、反射されたりすることのないように透過性に優れており、また、画像形成における静電潜像を保持でき得る表面抵抗値(一般的には10 11 Ω・cm以上)を有するものを用いればよい。
以上のような、電子写真感光体1における表面層13を構成する、電荷注入阻止層11a、光導電層11bおよび表面保護層12は、例えば図2に示したプラズマCVD(化学気相成長:Chemical Vapor Deposition)装置2を用いて形成される。
(プラズマCVD装置)
プラズマCVD装置2は、支持体3を真空反応室4に収容したものであり、回転手段5、原料ガス供給手段6および排気手段7をさらに備えている。
支持体3は、円筒状基体10を支持する役割を有するものである。この支持体3は、フランジ部30を有する中空状に形成されているとともに、円筒状基体10と同様な導電性材料で全体が導体として形成されている。
導電性支柱31は、円筒状基体10と同様な導電性材料で全体が導体として形成されており、真空反応室4(後述する円筒状電極40)の中心において、後述するプレート42に対して絶縁材32を介して固定されている。導電性支柱31には、導板33を介して直流電源34が接続されている。制御部35は、直流電源34を制御することにより、導電性支柱31を介して、支持体3にパルス状の直流電圧を供給させるように構成されている。
導電性支柱31の内部には、セラミックパイプ36を介してヒータ37が収容されている。
ここで、支持体3の温度は、ヒータ37をオン・オフさせることによって、例えば200℃以上400℃以下から選択される一定の範囲に維持される。
真空反応室4は、円筒状基体10に対して堆積膜を形成するための空間であり、円筒状電極40および絶縁部材43,44を介して接合された一対のプレート41,42によって規定されている。
円筒状電極40は、支持体3に支持させた円筒状基体10と円筒状電極40との間の距離D1が10mm以上100mm以下となるような大きさに形成されている。
円筒状電極40は、ガス導入口45a,45bおよび複数のガス吹き出し孔46が設けられているとともに、その一端において接地されていてもよく、接地されていない場合は、直流電源34とは別の基準電源に接続してもよい。
ガス導入口45aは、真空反応室4に供給すべき光導電層11bのドーパント専用の原料ガスを導入する役割を有するものであり、ガス導入口45bは、真空反応室4に供給すべき原料ガスを導入する役割を有するものであり、いずれのガス導入口45a,45bも原料ガス供給手段6に接続されている。
複数のガス吹き出し孔46は、円筒状電極40の内部に導入された原料ガスを円筒状基体10に向けて吹き出す役割を有するものであり、図の上下方向に等間隔になるように配置されているとともに、周方向にも等間隔で配置されている。
プレート41を開閉することによって真空反応室4に対する支持体3の出し入れが可能とされている。プレート41は、下面側に防着板47が取着され、プレート41に対して堆積膜が形成されるのを防止している。
プレート42は、真空反応室4のベースとなるものである。プレート42と円筒状電極40との間に介在する絶縁部材44は、円筒状電極40とプレート42との間にアーク放電が発生するのを抑える役割を有するものである。
プレート42および絶縁部材44には、ガス排出口42A,44Aおよび圧力計49が設けられている。ガス排出口42A,44Aは、真空反応室4の内部の気体を排出する役割を有するものであり、排気手段7に接続されている、圧力計49は、真空反応室4の圧力をモニタリングする役割を有するものであり、公知の種々のものを使用することができる。
図2に示したように、回転手段5は、支持体3を回転させる役割を有するものであり、回転モータ50および回転力伝達機構51を有している。
回転モータ50は、円筒状基体10に回転力を付与するものである。回転モータ50としては、公知の種々のものを使用することができる。
回転力伝達機構51は、回転モータ50からの回転力を円筒状基体10に伝達・入力する役割を有するものであり、回転導入端子52、絶縁軸部材53および絶縁平板54を有している。
回転導入端子52は、真空反応室4内の真空を保ちながら回転力を伝達する役割を有するものである。
絶縁軸部材53および絶縁平板54は、支持体3とプレート41との間の絶縁状態を維持しつつ、回転モータ50からの回転力を支持体3に入力する役割を有するものであり、例えば絶縁部材44などの同様な絶縁材料で形成されている。
絶縁平板54は、プレート41を取り外しするときに上方から落下するゴミや粉塵などの異物が円筒状基体10へ付着するのを防止する役割を有するものである。
図2に示したように、原料ガス供給手段6は、複数の原料ガスタンク60,61,62,63、光導電層11bのドーパント専用ガスタンク64、複数の配管60A,61A,62A,63A,64A、バルブ60B,61B,62B,63B,64B,60C,61C,62C,63C,64Cおよび複数のマスフローコントローラ60D,61D,62D,63D,64Dを備えたものであり、配管65a,65bおよびガス導入口45a,45bを介して円筒状電極40に接続されている。各原料ガスタンク60〜64は、例えばB2H6(またはPH3)、H2(またはHe)、CH4あるいはSiH4が充填されたものである。バルブ60B〜64B,60C〜64Cおよびマスフローコントローラ60D〜64Dは、真空反応室4に導入する各原料ガス成分または光導電層11bのドーパント専用ガス成分の流量、組成およびガス圧を調整する役割を有するものである。
排気手段7は、真空反応室4のガスをガス排出口42A,44Aを介して外部に排出する役割を有するものであり、メカニカルブースタポンプ71およびロータリーポンプ72を備えている。これらのポンプ71,72は、圧力計49でのモニタリング結果に応じて動作制御されるものである。
このようなプラズマCVD装置2は、上記のとおり、一つの装置にて真空反応室4内の真空状態を維持したまま連続的に粗面化、感光層11および表面保護層12の形成処理を行なうことが可能であり、粗面化部と、電荷注入阻止層形成部と、光導電層形成部と、表面保護層形成部と、を備える電子写真感光体の製造装置の一例である。
(堆積膜の形成方法)
次に、プラズマCVD装置2を用いた堆積膜の形成方法について、円筒状基体10に感光層11としてアモルファスシリコン(a−Si)膜が、表面保護層12としてアモルファス炭化シリコン(a−SiC)膜とアモルファスカーボン(a−C)膜とが積層された電子写真感光体1(図1を参照)を作製する場合を例にとって説明する。
まず、円筒状基体10に堆積膜(a−Si膜)を形成するにあたっては、プラズマCVD装置2のプレート41を取り外した上で、複数の円筒状基体10(図面上は2つ)を支持した支持体3を真空反応室4の内部にセットし、再びプレート41を取り付ける。
支持体3に対する2つの円筒状基体10の支持にあたっては、フランジ部30上に、支持体3の主要部を覆って下ダミー基体38A、円筒状基体10、中間ダミー基体38B、円筒状基体10および上ダミー基体38Cが順次積み上げられる。
各ダミー基体38A〜38Cとしては、製品の用途に応じて、導電性または絶縁性基体の表面に導電処理を施したものが選択されるが、通常は、円筒状基体10と同様な材料で円筒状に形成されたものが使用される。
ここで、下ダミー基体38Aは、円筒状基体10の高さ位置を調整する役割を有するものである。中間ダミー基体38Bは、隣接する円筒状基体10の端部間で生じるアーク放電に起因する円筒状基体10に成膜不良が発生するのを抑制する役割を有するものである。上ダミー基体38Cは、支持体3に堆積膜が形成されるのを防止し、成膜中に一旦被着した成膜体の剥離に起因する成膜不良の発生を抑制する役割を有するものである。
次いで、真空反応室4を密閉状態とし、回転手段5によって支持体3を介して円筒状基体10を回転させるとともに、円筒状基体10を加熱し、排気手段7によって真空反応室4を減圧する。
円筒状基体10の加熱は、例えばヒータ37に対して外部から電力を供給してヒータ37を発熱させることによって行なわれる。円筒状基体10の温度は、例えばアモルファスシリコン(a−Si)膜を形成する場合には250℃以上300℃以下の範囲に設定される。
一方、真空反応室4の減圧は、排気手段7によってガス排出口42A,44Aを介して真空反応室4からガスを排出させることによって行なわれる。真空反応室4の減圧の程度は、圧力計49(図2を参照)でモニタリングしつつ、例えば10−3Pa程度とすればよい。
次いで、円筒状基体10の温度が所望温度となり、真空反応室4の圧力が所望圧力となった場合には、原料ガス供給手段6によって真空反応室4に原料ガスを供給するとともに、円筒状電極40と支持体3との間にパルス状の直流電圧を印加する。これにより、円筒状電極40と支持体3(円筒状基体10)との間にグロー放電が起こり、原料ガス成分が分解され、原料ガスの分解成分が円筒状基体10の表面に堆積する。
一方、排気手段7においては、真空反応室4におけるガス圧を目的範囲に維持する。真空反応室4におけるガス圧は、例えば1Pa以上100Pa以下とすればよい。
真空反応室4への原料ガスの供給は、バルブ60B〜64B,60C〜64Cの開閉状態を適宜制御しつつ、マスフローコントローラ60D〜64Dを制御することにより、原料ガスタンク60〜64の原料ガスを所望の組成および流量で配管60A〜64A,65a,65bおよびガス導入口45a,45bを介して円筒状電極40の内部に導入することによって行なわれる。そして、原料ガスの組成を適宜切り替えることによって、円筒状基体10の表面には、電荷注入阻止層11a、光導電層11bおよび表面保護層12が順次積層形成される。
円筒状電極40と支持体3との間へのパルス状の直流電圧の印加は、制御部35によって直流電源34を制御することによって行なわれる。
円筒状基体10側が正負いずれかの極性になるようなパルス状の直流電圧を印加してカチオンを加速させて円筒状基体10に衝突させ、その衝撃によって表面の微細な凹凸をスパッタリングしながらアモルファスシリコン(a−Si)の成膜を行なった場合には、大きな突起状の成長が抑制された均一性の高い凹凸を有する表面を備えるアモルファスシリコン(a−Si)が得られる。この現象を以下においてイオンスパッタリング効果と言う場合がある。
このようなプラズマCVD法において効率よくイオンスパッタリング効果を得るには、極性の連続的な反転を避けるような電力を印加することが必要であり、前記パルス状の矩形波の他には、三角波、極性の反転しない直流電圧が有用である。また、全ての電圧が正負いずれかの極性になるように調整された交流電圧などでも同様の効果が得られる。
ここで、パルス状電圧によって効率よくイオンスパッタリング効果を得るには、支持体3(円筒状基体10)と円筒状電極40との間の電位差は、例えば50V以上3000V以下の範囲内とされ、成膜レートを考慮した場合には、より具体的には500V以上3000V以下の範囲内とすればよい。
制御部35はまた、直流電圧の周波数(1/T(sec))が300kHz以下に、Duty比(T1/T)が20%以上90%以下になるように直流電源34を制御する。
なお、本実施形態におけるDuty比とは、パルス状の直流電圧の1周期(T)(円筒状基体10と円筒状電極40との間に電位差が生じた瞬間から、次に電位差が生じた瞬間までの時間)における電位差発生時間T1が占める時間割合と定義される。
このイオンスパッタリング効果を利用して得られたアモルファスシリコン(a−Si)の光導電層11bは、その厚みが10μm以上となっても、表面には上述のような大きな突起状の成長が抑制された均一性の高い凹凸が存在する。そのため、光導電層11bの外表面上に、表面保護層12であるアモルファス炭化シリコン(a−SiC)とアモルファスカーボン(a−C)とを計1μm程度積層すればよい。この場合の表面保護層12の表面形状は、光導電層11bの表面形状を反映した面とすることが可能となる。すなわち、光導電層11b上に表面保護層12を積層する場合においても、イオンスパッタリング効果を利用することにより、表面保護層12を大きな突起状の成長が抑制された均一性の高い凹凸を有する膜として形成することができる。
例えば、電荷注入阻止層11aをアモルファスシリコン(a−Si)系の堆積膜として形成する場合には、原料ガスとして、SiH4(シランガス)などのシリコン(Si)含有ガス、B2H6やPH3などのドーパント含有ガスおよび水素(H2)あるいはヘリウム(He)などの希釈ガスの混合ガスが用いられる。ドーパント含有ガスとしては、ホウ素(B)含有ガスと場合により窒素(N)含有ガスか酸素(O)含有ガスまたはその両方を含有させたもの、あるいはリン(P)含有ガスと場合により窒素(N)含有ガスか酸素(O)含有ガスまたはその両方を含有させたものを用いることもできる。
光導電層11bをアモルファスシリコン(a−Si)系の堆積膜として形成する場合には、原料ガスとして、SiH4(シランガス)などのシリコン(Si)含有ガスおよび水素(H2)あるいはヘリウム(He)などの希釈ガスの混合ガスが用いられる。光導電層11bにおいては、ダングリングボンド終端用に水素(H)あるいはハロゲン元素(フッ素(F)、塩素(Cl))を膜中に1原子%以上40原子%以下含有させるように、希釈ガスとして水素ガスを用い、あるいは原料ガス中にハロゲン化合物を含ませておいてもよい。
表面保護層12は、上述のようにa−SiC層とa−C層との多層構造として形成する。この場合、原料ガスとしては、SiH4(シランガス)などのシリコン(Si)含有ガスおよびC2H2(アセチレンガス)あるいはCH4(メタンガス)などのC含有ガスが用いられる。ここで、表面保護層12の第3層であるa−C層は、その膜厚が、通常0.01μm以上2μm以下、具体的には0.02μm以上1μm以下、より具体的には0.03μm以上0.8μm以下に設定すればよい。また、表面保護層12は、その膜厚が、通常0.1μm以上6μm以下、具体的には0.25μm以上3μm以下、より具体的には0.4μm以上2.5μm以下に設定すればよい。
以上のようにして、円筒状基体10に対する膜形成が終了した場合には、支持体3から円筒状基体10を抜き取ることにより、図1に示した電子写真感光体1を得ることができる。
(画像形成装置)
本発明の実施形態に係る画像形成装置について、図3を用いて説明する。
図3に示す画像形成装置は、画像形成方式としてカールソン法を採用したものであり、電子写真感光体1、帯電ローラ111を含む帯電器、非接触の露光器112、現像ローラ113Aおよび未使用トナーT1撹拌用のトナー搬送スクリュー113Cを含む現像器113、転写器114、定着器115(115Aおよび115B)と、電子写真感光体に接触するクリーニングローラ116Bとクリーニングブレード116Aと残留トナーT2排出用のトナー搬送スクリュー116Cとを含むクリーニング器116、および、非接触の除電器117を備えている。なお、図中の矢印xは、記録媒体Pである用紙の移動方向を示す。
帯電器(帯電ローラ)111は、電子写真感光体1の表面を正負いずれかの極性に帯電する役割を有するものである。本実施形態において帯電器111は、例えば芯金を導電性ゴムあるいはPVDF(ポリフッ化ビニリデン)によって被覆して構成される接触型帯電器が採用されている。
露光器112は、電子写真感光体1に静電潜像を形成する役割を有するものである。露光器112としては、例えば複数のLED素子(波長:680nm)を配列させてなるLED(発光ダイオード:Light Emitting Diode)ヘッドを採用することができる。
現像器113は、電子写真感光体1の静電潜像を現像してトナー像を形成する役割を有するものである。本例における現像器113は、現像剤(トナー)Tを磁気的に保持する磁気ローラ113Aを備えている。
現像剤(トナー)Tは、電子写真感光体1の表面上に形成されるトナー像を構成するものであり、現像器113において摩擦帯電する。現像剤Tとしては、例えば、磁性キャリアおよび絶縁性トナーを含んでなる2成分系現像剤と、磁性トナーを含んでなる1成分系現像剤とが挙げられる。なお、現像器113内の未使用トナーをT1で、クリーニング器116内の残留(使用済み)トナーをT2で表示する。
磁気ローラ113Aは、電子写真感光体1の表面(現像領域)に現像剤を搬送する役割を有するものである。磁気ローラ113Aは、現像器113において摩擦帯電した現像剤Tを一定の穂長に調整された磁気ブラシの形で搬送する。この搬送された現像剤Tは、電子写真感光体1の現像領域において、静電潜像との静電引力によって電子写真感光体1の表面に付着してトナー像を形成する(静電潜像を可視化する)。
なお、現像器113は、本例においては乾式現像方式を採用しているが、液体現像剤を用いた湿式現像方式を採用してもよい。また、現像器113内には、未使用トナーT1撹拌用の搬送スクリュー113C(スパイラル形)が配設される場合もある。
転写器114は、電子写真感光体1と転写器114との間の転写領域に供給された記録媒体Pに、電子写真感光体1のトナー像を転写する役割を有するものである。本例における転写器114は、転写用チャージャ114Aおよび分離用チャージャ114Bを備えている。
転写器114としては、電子写真感光体1の回転に従動し、かつ、電子写真感光体1とは微小間隙(例えば0.5mm以下)を介して配置された転写ローラを用いることも可能である。この転写ローラは、例えば直流電源により、電子写真感光体1上のトナー像を記録媒体P上に引きつけるような転写電圧を印加するように構成される。
定着器115は、記録媒体Pに転写されたトナー像を記録媒体Pに定着させる役割を有するものであり、一対の定着ローラ115A、115Bを備えている。定着ローラ115A、115Bは、例えば金属ローラ上に四フッ化エチレンなどで表面被覆したものである。
クリーニング器116は、電子写真感光体1の表面に残存するトナーを除去する役割を有するものであり、クリーニングローラ116Bおよびクリーニングブレード116Aを備えている。クリーニングローラ116Bは、中央部が太径となるクラウン状であり、電子写真感光体1の外周に摺接して、これらの間に、残留トナーからなる表面掃除用のトナー膜を形成する。クリーニングブレード116Aは、電子写真感光体1の表面から残留トナーを掻きとる役割を有するものである。クリーニングブレード116Aは、例えばポリウレタン樹脂を主成分としたゴム材料で形成されている。
除電器117は、電子写真感光体1の表面電荷を除去する役割を有するものであり、特定波長(例えば630nm以上)の光を出射可能とされている。除電器117は、例えばLEDなどの光源によって電子写真感光体1の表面の軸方向全体を光照射することにより、電子写真感光体1の表面電荷(残余の静電潜像)を除去するように構成されている。
本実施形態の画像形成装置100では、電子写真感光体1の有する上述の効果を奏することができる。
(実施例1)
本発明の実施形態に係る電子写真感光体1について、次の通り評価を行なった。
電子写真感光体1の作製について
<円筒状基体10>
円筒状基体10は、アルミニウム合金の素管(外径:30mm、長さ360mm)を用いて作製した。円筒状基体10の外表面に対して、鏡面加工、およびウェットブラスト加工を行ない、洗浄した。
まず、円筒状基体10の表面の鏡面加工として、円筒状基体10を両端保持し、1500〜8000rpmにて高速回転させた状態で、ダイヤモンドバイトを押し当てて、送り0.08〜0.5mmにてバニシング(Vanishing)加工した。すなわち、バイトの仕上げ面に、ワーク回転方向に奥行きを持たせたダイヤモンドバイトを円筒状基体10の表面に押し当てることで、滑らかな仕上げ面を得た。
このような鏡面加工の後、円筒状基体10に対して脱脂洗浄を行なった。
次に、ウェットブラスト加工として、アルミナなどの高硬度な研磨材と水とを攪拌し、圧縮空気と混合・加速させて、鏡面加工された円筒状基体10の表面に投射することによって粗面化を行なった。これによれば、円筒状基体10を回転させながら加工処理することによって、短時間で均一性に優れた加工面を形成することができる。本実施例のように、ウェットブラスト加工によれば、他の加工方法と比べて、粒径の小さい研磨材を一様に投射することを比較的容易に行なうことが可能であることから、均一性に優れた加工面を得ることができる。
具体的には、ウェットブラスト加工の条件として、次のパラメータを調整することによって、後記の表2に示す15種類の異なる表面を有する円筒状基体10のサンプルを用意した(実施例1)。
研磨材材質・粒径:A(アランダム(褐色溶解アルミナ))#320〜#4000
研磨材濃度:10〜18%
投射エア圧:0.10〜0.35MPa
投射距離(ワーク中心とブラストヘッド間距離):20〜300mm
投射時間:1〜60秒間
ワーク回転数:120〜180rpm
なお、異なる研磨材材質・粒径を用いることによってSalの値を調整するとともに、投射エア圧、投射距離および投射時間(1〜60秒間)を変化させることによって、Strの値を調整した。
また、ウェットブラスト加工においては、使用された研磨材は、水洗(粗水洗)によりワークの表面から洗い流して回収され、遠心分離等により分級されて、再使用される。すなわち、ウェットブラスト加工においては、ブラスト投射流内の研磨材濃度を極力変動させないために、ブラスト装置内で粗水洗を行なっている。この粗水洗工程では、新たな水を使って洗浄するのではなく、ブラスト加工に用いられた研磨材を含んだ水から、遠心分離により比較的大径の研磨材を分級した後の残り水(小径の研磨材を含む。以下「分級水」と呼ぶ。)を、ブラスト直後の基体(素管)に投射して洗浄し、表面に付着した研磨材を研磨材タンクへ戻すことで、研磨材の投射流内濃度を維持している。
次に、表面に付着した研磨材等の大きな残渣が粗水洗工程によって洗い流されたワークに対して、表面に残存している小さな残渣を洗浄する1次残渣洗浄が施される。この1次残渣洗浄工程は、実施例1では、ワークに純水をシャワー状に投射するシャワー洗浄、ワーク浸漬による超音波洗浄、圧縮空気吹き付け(ブロー)による水分除去、ヒータ乾燥、の順に実施される。シャワー洗浄の洗浄水として純水を用いると、洗浄中に、ワークに異物が再付着することを抑制できるという利点がある。
また、1次残渣洗浄工程のシャワー洗浄の洗浄水として、先に述べた分級水と同一、あるいはより小径の研磨材を含むものを使用することができる。ここで、粗水洗工程で用いる分級水と1次残渣洗浄工程のシャワー洗浄で用いる分級水とを同一とした場合、両工程を連続して一つの工程として実施することもできる。なお、後記の実施例2において、分級水であってより小径の研磨材を含むものをシャワー洗浄の洗浄水として用いた例について説明する。
1次残渣洗浄後の円筒状基体10は、クリーンルーム内に搬送され、油分等を取り除く精密洗浄を経た後、図2に示すプラズマCVD装置にセットされ、表1に示す条件で、円筒状基体10の表面に、電荷注入阻止層11a、光導電層11b、および表面保護層12からなる表面層13が形成される。
表1におけるB2H6およびNOの流量は、SiH4の流量に対する比で表している。なお、プラズマCVD装置の電源としては、直流パルス電源(パルス周波数:50kHz、Duty比:70%)を使用した。また、膜厚の測定は、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)およびXMA(X線マイクロアナライザ)で分析することにより行なった。各層の具体的な構成は次の通りである。
<電荷注入阻止層>
電荷注入阻止層11aは、アモルファスシリコン(a−Si)に窒素(N)および酸素(O)を加えたアモルファスシリコン(a−Si)系材料に、ドーパントとしてホウ素(B)を含有させたものである。
電荷注入阻止層11aの膜厚は5μmとした。
<光導電層>
光導電層11bは、アモルファスシリコン(a−Si)に炭素(C)、窒素(N)および酸素(O)などを加えたアモルファスシリコン(a−Si)系材料に、ドーパントとしてホウ素(B)を含有させたものである。
光導電層11bの膜厚は14μmとした。
<表面保護層>
表面保護層12は、アモルファス炭化シリコン(a−SiC)とアモルファスカーボン(a−C)とを積層した構成である。
表面保護層12の膜厚は計1.2μmとし、表面保護層第3層の膜厚は0.2μmとした。
ここで、表面保護層12の表面粗さを変更させることによって、電子写真感光体1のサンプル1〜15を作製した。
以上のようにして得られた電子写真感光体1のサンプル1〜15について、表面保護層12の表面性状を測定した。
当該測定は、オリンパス株式会社製3次元測定レーザ顕微鏡OLS4100により、ISO25178に準拠した3次元粗さパラメータにて表面形状の評価を実施した。測定条件として、倍率50倍のレンズを使用し、260μm×261μmの範囲を高速測定モードにて測定した。測定対象が円筒形状であるため、補正はXY方向曲率補正を実施した。それに加えて、旋削加工の周期スジ影響を消すために、中心波長λc=0.080mmのフィルタ補正を展開し、各パラメータを算出した。なお、ここでの測定結果は、電子写真感光体1の、円筒状基体10の軸方向中央部において、100mmの範囲内の5箇所の測定結果の算術平均である。
各サンプルのStrおよびSalについては、後述する表2に示す通りである。
次いで、作製した電子写真感光体1の各サンプルを、京セラドキュメントソリューションズ株式会社製のカラー複合機TASKalfa 3550ci改造装置に組み込み、それぞれのサンプルについて、60万枚(600K)連続印刷時における電子写真感光体1の表面保護層12のSa減少率(%)、電子写真感光体1の周辺部材であるクリーニングブレード116Aの傷の評価、帯電ローラの表面汚染状態の観察による画像特性の評価を行なった。そして、それらの個別特性を踏まえた総合的な評価である総合評価を行なった。
上述のそれぞれの個別特性の評価は次の条件にて行なった。すなわち、室温23℃および相対湿度60%の評価環境下において、20万枚連続印刷を行なった時点、40万枚連続印刷した時点、および60万枚連続印刷した各時点において、電子写真感光体1の表面性状の上記レーザ顕微鏡による測定、クリーニングブレード116Aのエッジ部の傷の有無、帯電ローラの表面汚染状態の拡大鏡(20倍)による観察、を行なった。
ここで、Sa減少率(%)とは、電子写真感光体1の表面保護層のSaの値が印刷を行う前の初期値から減少した割合を示すものであって、例えば70%と記載している場合には印刷前の状態に対してSaの値が30%になっていることを意味する。なお、Sa減少率(%)のデータにおいて、※印を付している値は、20万枚(200K)連続印刷時における電子写真感光体1の表面保護層12のSa減少率(%)を示している。
また、クリーニングブレード116Aの破損モードについては次の通りである。評価Aは、20万枚(200K)連続印刷の結果、クリーニングブレード116Aに多少の破損が見られたことを示す。評価Bとは、1000枚以下の少数印刷の時点で、クリーニングブレード116Aに明らかな破損が見られたことを示す。
評価結果について、表2に示す。
表2において、◎は優れた特性を有する、○は好ましい特性を有する、△は要求レベルの特性を有する、×は要求レベルの特性を充足しない、ことを示す。
すなわち、表2の結果から次のことが分かった。
電子写真感光体1は、Salの値に起因して初期不良が生じた場合(サンプル14および15)を除き、Strの値が0.67以上の場合(サンプル2,3,5,6,8,9,11および12)には、優れた効果を奏することが分かった。その中でも、Strの値が0.79以上の場合(サンプル3,6,9および12)には、より優れた効果を奏することが分かった。
これらの実験データによると、Strの値が所定以上であれば、表面保護層12の表面形状は均一性の高い凹凸を備えることによって、耐久使用時において、表面が徐々に磨耗しても表面粗さを一定範囲内に維持し続けることが可能である。その結果、表面保護層12と、クリーニングローラ116Bまたはクリーニングブレード116Aとの間の摩擦抵抗の増大を効果的に抑制し続けることができる。これにより、印画した画像の異常スジなどの画像異常を低減することができたものと考えられる。なお、サンプル14および15において初期不良が生じた原因としては、Salの値が大きい場合には、周辺部材であるクリーニングローラやクリーニングブレードなどとの摩擦抵抗が大きく、クリーニングブレード116Aの欠損が生じたものと考えられる。
また、Strの値が0.67以上の条件下において、さらに次のことが分かった。すなわち、Salの値が10.3μm以下の場合(サンプル2,3,5,6,8,9,11および12)には、優れた効果を奏することが分かった。これらの実験データによると、Salが所定値よりも小さい場合には、電子写真感光体1の表面保護層12と、クリーニングローラ116Bまたはクリーニングブレード116Aとの間の摩擦抵抗を低減することができ、優れた耐久特性を得ることができたと考えられる。
また、Salの値が0.9μm以上の場合には(サンプル2,3,5,6,8,9,11および12)、優れた効果を奏することが分かった。さらに、Salの値が1.6μm以上の場合(サンプル5,6,8,9,11および12)には、より優れた効果を奏することが分かった。これらの実験データによると、Salが所定値よりも大きい場合には、電子写真感光体1の表面保護層12の磨耗が低減され、優れた耐久特性を得ることができたと考えられる。
(実施例2)
次に、ウェットブラスト加工後の、1次残渣洗浄工程のシャワー洗浄の洗浄水として、先に述べた分級水であってより小径の研磨材を含むものを使用した実施形態について説明する。本実施例では、基体の外表面に、粒径0.2μm以下の小さい粒子(微小粒子)を付着させる観点から、当該微小粒子と同等の粒径を有する研磨材を含む分級水を、用いることにした。
図4は、電子写真感光体の円筒状基体の外表面の状態を示すモデル図であり、表面凹部の中に微小粒子Qが存在している。なお、図4は微小粒子Qが分かり易いように描画しているため、凹部の深さや各層(膜)の厚みは、実際のものとは異なる。また、図中のVは円筒状基体表面の比較的深い第1凹凸部を示し、図中のUは表面層表面の比較的浅い第2凹凸部を示す。
以下の実施例2のサンプル5’,6’,8’,9’,11’,12’は、評価結果を表す前出の「表2」において、総合評価の高かったサンプル5,6,8,9,11,12について、ウェットブラスト加工後の1次残渣洗浄工程の洗浄条件を変えて、電子写真感光体の表面に存在する、画像異常の原因となり得る深い凹部を緩和することができないかどうかを検討したものである。
すなわち、ブラスト後の基体(素管)の表面形状の一例として、基体外周の表面(外表面)には、表面粗さを表すパラメータのうち、最大谷深さSvが1μm以下で、粗さ曲線要素の平均長さRSmが8μm程度の凹部が存在することが確認されている。そこで、このような大きな凹部内に、蓄積されやすいと考えられる「粒径0.2μm以下の小さい粒子(微小粒子)」を、なるべく多く滞留・付着させること(図4を参照)を検討した。なお、微小粒子の粒径は、基体外周表面の凸部分に付着しても画像異常を発生させることのない大きさに設定すればよい。
そして、その具体的な方法として、ウェットブラスト加工後に基体の表面に付着しているブラスト残渣の除去を目的として行っている、1次残渣洗浄工程のシャワー洗浄において、洗浄水を、通常の純水から分級水に代えた。また、基体の表面凹部に付着した残渣(微小粒子)が全て洗い落とされるのを抑制するため、その後の超音波洗浄やブロー条件を緩和した供試品(サンプル5’,6’,8’,9’,11’,12’)を作製した。
得られたサンプル5’,6’,8’,9’,11’,12’について、洗浄水として純水を用いた通常品(前記サンプル5,6,8,9,11,12)を対象(コントロール)として、10万枚連続印刷後の帯電ローラの表面汚染状態の評価を調査した。
表面性状の評価は、前述の実施例1と同様、オリンパス株式会社製3次元測定レーザ顕微鏡OLS4100により、同条件で測定した算術平均値である。帯電ローラ汚染の評価は、京セラドキュメントソリューションズ株式会社製のカラー複合機TASKalfa 3550ci改造装置に組み込み、それぞれのサンプルについて、10万枚(100K)連続印刷時における電子写真感光体の周辺部材である帯電ローラ(図3における符号113A)の表面汚染状態の評価を行なった。
なお、帯電ローラの表面汚染状態の評価は、拡大鏡(20倍)による目視観察により行い、評価は、◎は優れた特性を有する、○は好ましい特性を有する、△は要求レベルの特性を有する、×は要求レベルの特性を充足しないことを表す。評価結果を表3に示す。
前述の実施例1では、1次残渣洗浄工程のシャワー洗浄の洗浄水として純水を用いたが、本実施例2では、先に述べた分級水であってより小径の研磨材を含むものを用いることによって、所望の大きさの微小粒子を基体外表面の凹凸部に付着させることを検討したものである。
評価結果を表す表3から、1次残渣洗浄工程(シャワー洗浄)を分級水で実施した場合(表の右欄)は、純水でシャワー洗浄した場合(表の左欄)と比較して、表面層を成膜した後の電子写真感光体表面(最外表面)のSv(最大谷深さ)の値が小さくなり、これにより、帯電ローラの汚染状況が改善することが分かった。
特に、Svの値が0.60μm以下の場合(サンプル5’,6’,8’,9’,11’,12’およびコントロールとしてのサンプル5,6)は、耐帯電ローラ汚染を抑制する優れた性能を有することが分かった。その中でも、Strの値が0.79以上の場合(実施例であるサンプル5’,6’,8’,9’,11’,12’全種)は、より優れた性能を発揮することが分かった。
これらの実験データによると、1次残渣洗浄工程のシャワー洗浄水に分級水を使用し、基体上に微小粒子が残りやすい洗浄条件でその後の洗浄を行った結果、凹部が埋められてSvが小さくなり、帯電ローラの汚染が改善されたと考えられる。なお、表3においては、Svが小さくなったことにより、電子写真感光体表面層のStr,Salが、コントロール品より若干変動しているものがある。しかしながら、これらStr,Salの変動による、電子写真感光体の他の性能への影響は、軽微である。
なお、実施例2において、表3のStrは、電子写真感光体の外周面表面(最外表面)の表面粗さを、レーザ顕微鏡により非接触で計測したものである。また、表3のSalは、電子写真感光体の外周面表面(最外表面)の表面粗さを、レーザ顕微鏡により非接触で計測したものである。
また、実施例2において、Sv(最大谷深さ)とは、ISO25178によって定義される三次元の表面性状を表すパラメータの一つであって、測定対象領域における凹部の基準表面からの谷深さ(最大値)を示す。なお、表3のSvは、電子写真感光体の外周面表面(最外表面)の表面粗さを、レーザ顕微鏡により非接触で計測したものである。
また、実施例2において、RSm(粗さ曲線要素の平均長さ)とは、JIS B 0601−2001によって定義される二次元の横方向表面性状を表すパラメータの一つであって、基準長さにおいて、輪郭曲線要素の長さXsの平均値を示す。なお、表3のRSmは、電子写真感光体の外周面表面(最外表面)の表面粗さを、レーザ顕微鏡により非接触で計測したものである。
なお、本発明の実施形態に係る円筒状基体の表面性状は、必ずしも全面において、所定の範囲を満たす必要はない。例えば、円筒状基体10の軸方向両端部等においては、表面性状が範囲外の値となってもよい。このことは、上記記載される表面性状の全てについて同様である。
また、本発明は上述の実施形態に示したものだけに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で改良や変更ができることは言うまでもない。
例えば、上述の実施形態において、円筒状基体10と、電荷注入阻止層11aと、光導電層11bと、を別々の構成要素として説明したが、これに代えて、円筒状基体10の少なくとも表面が電荷注入阻止特性を備えるようにしてもよい。これによれば、別途電荷注入阻止層11aを設けることなく、円筒状基体10それ自体によって、円筒状基体10から光導電層11bへのキャリア(電子)の注入を阻止する役割を有することができる。