JP6772815B2 - サイジング剤、ガラスストランド、及びセメント複合材 - Google Patents

サイジング剤、ガラスストランド、及びセメント複合材 Download PDF

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Description

本発明は、ガラス繊維の表面に塗布されるサイジング剤、当該サイジング剤を塗布したガラスストランド、及び当該ガラスストランドを使用したセメント複合材に関する。
モルタルにガラス繊維を混合したガラス繊維強化コンクリート(Glassfiber Reinforced Concrete:GRC)は、建築物の耐震性や耐久性を向上させる建築資材として知られている。GRCの製造方法として、例えば、予め混合されたセメント、骨材、水、及び混和剤等からなるモルタルに、所定の長さに切断されたガラス繊維ストランド(ガラスチョップドストランド)を吹き付ける方法(ダイレクト法)が知られている。ガラスストランドは、多数のノズルを有するブッシングから溶融ガラスを引き出して得られるガラス繊維(モノフィラメント)にサイジング剤を塗布した後、これらを集束することにより作製される。
ガラスストランドを切断してガラスチョップドストランドを生成する方法には、ダイレクト法と、インダイレクト法とがある。ダイレクト法は、サイジング剤を用いて複数本のガラス繊維を集束したガラスストランドを直接切断し、これを乾燥させてガラスチョップドストランドとする方法である。
他方、インダイレクト法は、サイジング剤を用いて複数本のガラス繊維を集束して引き揃えたガラスストランドを、コレットに巻き取って巻回体であるガラス繊維ケーキを形成し、このガラス繊維ケーキを乾燥させた後、巻回体からガラスストランドを解舒しながら切断してガラスチョップドストランドを生成する方法である。
サイジング剤の塗布によって形成されるガラス繊維表面の被膜は、ガラス繊維に傷が入るのを防止する機能、ガラス繊維の毛羽の発生や糸切れを防止する機能、及びガラス繊維に結束性を付与し、GRCの成型時における作業性、強度特性を向上させる機能等を有している。
このようなガラス繊維表面に被膜を形成するサイジング剤として、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂を含むサイジング剤が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、エチレンの含有率が5質量%以上のエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂を含むサイジング剤は、ストランドの結束性の向上等に有効であると説明されている。
特開2002−60251号公報
ところが、特許文献1に開示されるサイジング剤を、ガラス繊維の表面に処理すると、サイジング剤中の成分とガラス繊維に含まれるアルカリ成分とが反応する虞があり、その場合、ガラス繊維表面の被膜の機能が劣化しガラス繊維の集束性を十分に維持することができなくなる可能性がある。そのため、特許文献1に記載のガラスストランドは、モルタルと混合するとガラスストランドが解繊したり、ガラスストランドに割れが発生し、その結果、モルタル中にガラスストランドが均一に分散しにくくなり、GRCの曲げ強度が低下したり、製品の外観が悪くなるという問題も懸念される。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、セメント複合材に使用するガラスストランドの集束性を向上させ、かつモルタルとの親和性及び含浸性に優れたサイジング剤、及びそれを用いたガラスストランド、並びに当該ガラスストランドを使用したセメント複合材を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための本発明に係るサイジング剤の特徴構成は、
セメント複合材用のガラス繊維の表面被膜形成用のサイジング剤であって、
水を含む溶媒と、前記被膜となる固形成分とを含み、前記固形成分の濃度が10質量%となるように濃度調整したときに、pHが3.5〜5.5を示すことにある。
本構成のサイジング剤によれば、固形成分の濃度が10質量%となるように濃度調整したときのpHが3.5〜5.5を示すことにより、ガラス繊維の表面に対するサイジング剤の付着性が優れたものとなり、サイジング剤自体の化学的安定性も向上する。その結果、ガラスストランドの良好な集束状態を長期に亘って維持することが可能となる。また、本発明のサイジング剤をガラスストランドに適用すると、ガラスストランドの糸質が硬くならず、巻回体からのガラスストランドの解舒が容易なものとなる。
なお、サイジング剤中の固形成分の濃度が10質量%より高いときは、サイジング剤中に水を添加することにより、10質量%より低いときは、サイジング剤を加熱して水分を蒸発させて減らすことにより固形成分の濃度を調整する。
本発明に係るサイジング剤において、
ポリ酢酸ビニルと、ポリウレタンと、アミン化合物とを含有することが好ましい。
本構成のサイジング剤によれば、成分の一つとしてアルカリ性のアミン化合物を含有しているため、サイジング剤はガラス繊維に含まれるアルカリ成分と反応し難い。そのため、ガラス繊維からアルカリ成分が表面に溶出しても、被膜の機能が損なわれ難い。また、ポリ酢酸ビニルと、ポリウレタンとを含有しているため、纏まり難い繊維径が比較的大きいガラス繊維の表面に塗布した場合でも、ガラスストランドの集束性は十分なものとなる。
本発明に係るサイジング剤において、
前記ポリウレタンは、ヘキサメチレンジイソシアネートとポリテトラメチレンエーテルグリコールとの反応物であることが好ましい。
本構成のサイジング剤によれば、成分の一つであるポリウレタンは、ヘキサメチレンジイソシアネートとポリテトラメチレンエーテルグリコールとの反応物であり、このサイジング剤をガラス繊維に適用すると、特に集束性に優れたガラスストランドが得られる。
本発明に係るサイジング剤において、
前記ポリ酢酸ビニルの重量平均分子量が100000〜300000であり、前記ポリウレタンの重量平均分子量が50000〜100000であることが好ましい。
本構成のサイジング剤によれば、ポリ酢酸ビニル及びポリウレタンの重量平均分子量が夫々適切な範囲にあり、このサイジング剤をガラス繊維に適用すると、化学的安定性が高く、且つ集束性に優れたガラスストランドが得られる。また、本発明のサイジングを使用したガラス繊維は、ガラスストランドの解繊やガラスストランド割れが起こり難く、分散性に優れている。そのため、ガラスストランドをセメント(モルタル)に混合しても、モルタルの流動性を低下させ難い。また、セメント系材料の機械的強度を高めることができる。
本発明に係るサイジング剤において、
前記アミン化合物が第4級アミンであることが好ましい。
本構成のサイジング剤によれば、アミン化合物である第4級アミンは正に帯電しており、pH変化の影響を受け難い。そのため、本発明のサイジング剤をガラス繊維に適用すると、高い帯電防止効果が発揮される。また、第4級アミンは抗菌作用を有するため、サイジング剤の化学的安定性をより高めることができる。
本発明に係るサイジング剤において、
前記ポリ酢酸ビニルの含有量が3〜30質量%であり、前記ポリウレタンの含有量が2〜20質量%であり、前記アミン化合物の含有量が0.6〜3.0質量%であることが好ましい。
本構成のサイジング剤によれば、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、及びアミン化合物の含有量が夫々適切な範囲にあり、ガラス繊維に含まれるアルカリ成分と反応し難い組成となっている。そのため、ガラス繊維から表面にアルカリ成分が溶出しても、被膜の機能が損なわれ難い。
上記課題を解決するための本発明に係るガラスストランドの特徴構成は、
上記の何れか一つのサイジング剤中の前記固形成分からなる被膜が表面に形成されたガラス繊維の集合体である。
本構成のガラスストランドによれば、上記の付着性及び安定性に優れたサイジング剤によりガラス繊維の表面が被膜されているため、ガラスストランドの集束性を向上させ、かつガラスストランドの糸質が硬くならない。その結果、巻回体からガラスストランドを解舒し易く、モルタルとの親和性及び含浸性に優れたガラスストランドを得ることできる。
本発明に係るガラスストランドにおいて、
前記ガラス繊維がZrOを12質量%以上、及びRO(Rは、Li、Na、及びKからなる群から選択される少なくとも一種である。)を10質量%以上含有するガラスからなることが好ましい。
本構成のガラスストランドによれば、ZrOを12質量%以上含有するガラス繊維を使用するので、特に優れた耐アルカリ性が得られる。一方で、ZrOは溶融性を低下させる成分であるが、溶融性が高いRO(Rは、Li、Na、及びKからなる群から選択される少なくとも一種である。)を10質量%以上含有することで、溶融性の低下を抑制することができる。そのため、本発明のガラス繊維ストランドをセメント系材料の補強材として用いた場合、セメント中のアルカリ成分によってガラスストランドが浸食され難い。従って、ガラス繊維の機械的強度の低下を抑制することができる。
本発明に係るガラスストランドにおいて、
前記ガラス繊維の繊維径が13〜30μmであり、ストランド番手が80〜90texであり、ケーキ番手が560〜630texであることが好ましい。
本構成のガラスストランドによれば、ガラス繊維の各形態において適切な状態にされているため、十分な強度を維持しながら軽量性にも優れており、使い勝手が良好なガラスストランドとなる。
上記課題を解決するための本発明に係るガラスストランドの特徴構成は、
サイジング剤中の固形成分からなる被膜が表面に形成されたセメント複合材用のガラスストランドであって、
糸硬度が160〜200gfであることにある。
本構成のガラスストランドによれば、糸硬度が160〜200gfであることにより、耐久性、及び曲げ強度に優れ、さらには、良好な集束状態を長期に亘って維持することが可能となる。また、ガラス繊維の糸質が硬くならないため、巻回体からのガラスストランドの解舒が容易なものとなる。
上記課題を解決するための本発明に係るセメント複合材の特徴構成は、
上記の何れか一つのガラスストランドを含むことにある。
本構成のセメント複合材によれば、本発明のガラスストランドを含んでいるため、セメント複合材の製造時において、ガラスストランドとセメント(モルタル)との間で摩擦が生じ難く、モルタルの流動性が維持される。従って、良好な施工性が得られ、当該ガラスストランドを含むセメント複合材は、耐震性や耐久性に優れる。
以下、本発明のサイジング剤、ガラスストランド、及びセメント複合材に関する実施形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態に記載される構成に限定されることを意図しない。
<サイジング剤>
本発明のサイジング剤は、ガラス繊維に適用されるものであり、特に、セメント複合材用のガラス繊維の表面に塗布して使用される。サイジング剤は、固形成分中の主成分として、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、及びアミン化合物を含有する。以下、サイジング剤の各成分について、詳しく説明する。
〔ポリ酢酸ビニル〕
ポリ酢酸ビニルは、水溶性の熱可塑性樹脂であり、酸やアルカリに対して溶解又は軟化するという特徴を有しており、接着性、酸素バリア性、耐薬品性等に優れている。そのため、ガラス繊維のサイジング剤にポリ酢酸ビニルを配合すると、ガラス繊維の表面に耐久性の高い被膜を形成することができる。また、ポリ酢酸ビニルは、セメント系材料との親和性が高いため、セメント系材料の補強効果を高めることができる。ポリ酢酸ビニルの重量平均分子量は、好ましくは100000〜300000であり、より好ましくは、120000〜300000である。重量平均分子量が100000未満の場合、ガラス繊維の被膜としての強度が低下し、十分な耐久性が得られない虞がある。一方、重量平均分子量が300000を超える場合、ポリ酢酸ビニルがサイジング剤中に十分に溶解できないため、ガラス繊維に塗布した際に均等な被膜を形成することが困難となる虞がある。サイジング剤中のポリ酢酸ビニルの含有量は、好ましくは3〜30質量%、より好ましくは15〜30質量%である。ポリ酢酸ビニルの含有量が3質量%未満の場合、被膜強度やセメント系材料との親和性が低下し、補強効果が低下する虞がある。一方、ポリ酢酸ビニルの含有量が30質量%を超えても、被膜強度やセメント系材料との親和性は大きく向上せず、経済性に不利となる。
〔ポリウレタン〕
ポリウレタンは、イソシアネート基と水酸基とを有する化合物の重付加により得られる重合体である。ポリウレタンは、様々な材料に対して高い接着性を有し、耐久性、防水性、耐薬品性等にも優れている。ポリウレタンを得るためのイソシアネート成分としては、比較的安価で且つ生成したポリウレタンの反応性が低いという観点から、ジシクロヘキサンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネートが好ましい。ポリウレタンを得るためのポリオール成分としては、比較的安価で且つ強靭な被膜を得ることができるという観点から、ポリテトラメチレンエーテルグリコールが好ましい。例えば、脂肪族イソシアネートであるヘキサメチレンジイソシアネートと、ポリオール成分であるポリテトラメチレンエーテルグリコールとの反応物は、本発明のサイジング剤のポリウレタン成分として好ましいものである。ヘキサメチレンジイソシアネートとポリテトラメチレンエーテルグリコールとの反応物は、ガラスストランドの集束性を高めるのに効果があり、また、ガラス繊維からアルカリ成分が溶出したとしてもアルカリ成分との反応性が低いため、ガラスストランドの高い集束性を維持することができる。さらに、ヘキサメチレンジイソシアネートとポリテトラメチレンエーテルグリコールとの反応物をサイジング剤に用いると、低摩擦性の被膜が得られ、ガラスストランドの滑性をより一層向上させることができる。従って、サイジング剤を塗布したガラスストランドとモルタルとを混合すると、ガラスストランドの滑性により、GRCの流動性をより一層向上させることができる。ポリウレタンの重量平均分子量は、好ましくは50000〜100000であり、より好ましくは80000〜100000である。重量平均分子量が50000未満の場合、サイジング剤の接着性が低下するため、それに伴って、ガラス繊維の耐久性、防水性、耐薬品性が低下する虞がある。一方、重量平均分子量が100000を超える場合、ポリウレタンがサイジング剤中において十分に溶解できないため、ガラス繊維にサイジング剤を均等に塗布することが困難となる虞がある。サイジング剤中のポリウレタンの含有量は、好ましくは2〜20質量%であり、より好ましくは10〜20質量%である。ポリウレタンの含有量が2質量%未満の場合、ガラス繊維の表面に均等な被膜を形成することができず、強靱な被膜を得ることが困難となる虞がある。一方、ポリウレタンの含有量が20質量%を超えると、例えば、カッターによりガラスストランドが切断され難くなり、ガラスチョップドストランドへの加工性が低下する虞がある。
〔アミン化合物〕
アミン化合物は、サイジング剤の塗布によってガラス繊維の表面に形成される被膜を保護する機能を有する。アミン化合物はアルカリ性であるため、ガラス繊維に含まれるアルカリ成分と反応し難く、ガラス繊維からアルカリ成分が表面に溶出しても、被膜の機能が損なわれ難い。サイジング剤中のアミン化合物の含有量は、好ましくは0.6〜3.0質量%であり、より好ましくは1.0〜3.0質量%である。アミン化合物の含有量が0.6質量%未満の場合、ガラスストランドの糸質が硬くなり、モルタルとの含浸性が悪くなるため、加工性や外観が低下する虞がある。一方、アミン化合物の含有量が3.0質量%を超えると、ガラスストランドの集束性が低下する虞がある。アミン化合物としては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、第4級アミンの何れも使用可能であるが、第4級アミンが好ましい。第4級アミンとしては、ラウリルエチルジメチルアンモニウムサルフェート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等が例示される。第4級アミンは、ガラス繊維から溶出したアルカリ成分と反応し難い効果をサイジング剤に与えるとともに、帯電防止効果も与えることができる。そのため、サイジング剤の長期安定性をより高めることが可能となる。
サイジング剤には、上記の主成分に加えて、シランカップリング剤、潤滑剤、ノニオン系の界面活性剤、帯電防止剤等をさらに含有してもよい。例えば、シランカップリング剤は、有機物と無機物との親和性の向上に寄与するため、サイジング剤とガラス繊維とをより強固に結合させることが可能となる。シランカップリング剤としては、アミノシラン、エポキシシラン、ビニルシラン、アクリルシラン、クロルシラン、メルカプトシラン、ウレイドシランなどが挙げられる。サイジング剤にシランカップリング剤を配合することで、ガラス繊維とサイジング剤との反応性を改善でき、引張強度等の機械的強度をさらに向上させることができる。
本発明のサイジング剤は、固形成分の濃度が10質量%となるように濃度調整したときのpHが3.5〜5.5を示すように、各成分(固形成分)の配合が調整される。ここで、pHを測定する際、サイジング剤の固形成分の濃度が10質量%より高い場合、サイジング剤に水を加えて濃度調整を行い、サイジング剤の固形成分の濃度が10質量%未満である場合、サイジング剤に含まれる水分を蒸発させることで濃度調整される。なお、固形成分の溶解性が高い場合は水溶液として濃度調整され、溶解性が低い場合は水分散液として濃度調整される。水溶液又は水分散液の何れにおいても、pHの測定は可能である。水溶液又は水分散液のpHの測定は、液を撹拌しながらpHメータによって行うことができる。サイジング剤を、固形成分の濃度が10質量%となるように濃度調整したときのpHが3.5〜5.5の範囲であれば、ガラス繊維の表面に対するサイジング剤の付着性が優れたものとなり、サイジング剤自体の安定性も向上する。その結果、ガラスストランドの良好な集束状態を長期に亘って維持することが可能となる。また、このようなサイジング剤をガラス繊維に適用すると、ガラスストランドの糸質が硬くならず、巻回体からのガラスストランドの解舒が容易なものとなる。なお、固形成分の濃度が10質量%となるように濃度調整したときのpHが3.5未満の場合、サイジング剤がガラス繊維から溶出したアルカリ成分と反応し易くなり、GRCの外観が低下する虞がある。一方、固形成分の濃度が10質量%となるように濃度調整したときのpHが5.5を超えると、ガラス繊維からアルカリ成分が過剰に溶け出し、ガラス繊維が白く変色するとともに劣化し易くなり、十分な強度が得られなくなる。なお、固形成分とは、サイジング剤に含まれる水を120℃で蒸発させた際に残留する成分をいう。
本発明のサイジング剤は、固形成分の濃度が2〜50質量%の水溶液または水分散液として調整され、ガラス繊維に塗布される。固形成分の濃度が2質量%未満であると、ガラスストランドの集束性が不十分となる虞がある。一方、固形成分の濃度が50質量%を超えると、集束剤の成分がガラス繊維の表面に均一に付着しない虞がある。
<ガラスストランド繊維>
ガラス繊維を構成するガラスモノフィラメントの本数は、例えば、数十本から数百本程度とすることができる。ガラス繊維は、例えば、以下の方法により製造される。先ず、ガラス溶融炉にガラス原料を投入し、ガラスの融点以上に加熱して溶融ガラスを得る。この溶融ガラスを清澄槽で清澄化・均質化し、ブッシングを用いて繊維状のモノフィラメントに成形(紡糸)する。モノフィラメントは、表面にサイジング剤が塗布され、サイジング剤に含まれる固形成分に由来する被膜が形成され、これを複数本束ねて集束したものがガラスストランドとなる。ガラスストランドは、所定のカット長に切断され、ガラスチョップドストランドに加工される。ガラスストランドの切断は、ダイレクト法による直接カットでもよいが、本実施形態では、以下のインダイレクト法が用いられる。
インダイレクト法による製造方法では、まず、サイジング剤を塗布したガラス繊維を集束し、これを引き揃えたガラスストランドをコレットに巻き取ってガラスケーキ(巻回体)を形成する。続いて、ガラスケーキを加熱してサイジング剤を乾燥し、ガラス繊維の表面に被膜が形成する。なお、数個のケーキから解舒されたガラスストランドを一緒に束ねて巻き取ることによりガラスロービングを形成してもよい。このようにして形成されたガラスロービングは、その形状でストックされ、必要に応じて使用することができる。ガラスロービングは、防塵や汚れの防止や、繊維表面の保護などの目的のため、有機フィルム材、例えばシュリンク包装やストレッチフィルム等の用途に応じた包装を施し、複数段に積層した状態で出荷される。
ガラスロービングは、巻回されているガラスストランドが解舒されながら切断され、ガラスチョップドストランドとして使用される。ガラス繊維の表面には本発明のサイジング剤による被膜が形成されているため、解舒の際にガラスストランドの集束性が低下せず、ガラスロービングからガラスストランドを解舒し易い。ガラスストランドを切断して得られるガラスチョップドストランドのカット長は、3〜40mmが好ましい。カット長が3mm未満である場合、モルタルの流動性が改善される一方、セメント系材料の機械的強度が発現されない虞がある。他方、カット長が40mmより大きいと、嵩高くなるためモルタルの流動性が低下する虞がある。ガラス繊維(ガラスチョップドストランド)の強熱減量は、0.5〜2.0質量%であることが好ましい。強熱減量は、JIS R 3420:2013に従う方法により測定することができる。強熱減量が0.5質量%未満である場合はサイジング剤の使用量が不足している状態であるため、ガラスストランドをモルタルに混練する際に物理的摩擦によってガラスチョップドストランドの集束が乱れ、モノフィラメント化してしまう虞がある。その結果、ガラスストランドを添加したモルタルの流動性が著しく低下する虞がある。また、強熱減量が2.0質量%を越える場合はサイジング剤の使用量が過剰であるため、ガラスストランドの表面が粘着性を持ってガラスロービングからの解舒が困難となり、解舒の際に多大な力が必要となってモノフィラメント切れを起こす虞がある。このように、ガラス繊維(ガラスチョップドストランド)の強熱減量が適正な範囲にない場合、ガラス繊維の加工性が低下する。
ガラス繊維の組成は、金属酸化物換算として、SiOが54〜65質量%、ZrOが12質量%以上、及びRO(Rは、Li、Na、及びKからなる群から選択される少なくとも一種である。)が10質量%以上であることが好ましく、SiOが57〜64質量%、ZrOが12〜25質量%、LiOが0〜5質量%、NaOが10〜17質量%、KOが0〜8質量%であることがより好ましく、SiOが57〜64質量%、ZrOが14〜24質量%、LiOが0.5〜3質量%、NaOが11〜15質量%、KOが1〜5質量%であることがさらに好ましい。また、ガラス繊維には、上記の各成分に加えて、R´O(R´は、Mg、Ca、Sr、Ba、及びZnからなる群から選択される少なくとも一種である。)、TiO、Alをさらに含有してもよく、その含有量は、R´Oが0〜10質量%、TiOが0〜7質量%、Alが0〜2質量%であることが好ましく、R´Oが0.2〜8質量%、TiOが0.5〜5質量%、Alが0〜1質量%であることがより好ましい。
ガラス繊維の繊維径は、セメント複合材用として使用することを考慮すると、モノフィラメントとしての繊維径が13〜30μmであることが好ましく、15〜25μmであることがより好ましい。繊維径が13μm未満の場合、サイジング剤を塗布可能なガラス繊維の面積が小さくなり、その結果、ガラスストランドの集束性や強度が不十分となる虞がある。また、繊維径が30μmを超える場合は、モルタルの流動性が低下する虞がある。ガラスストランドのストランド番手は、ガラスストランドを添加したモルタルの流動性や機械的強度を考慮すると、80〜90texであることが好ましく、82〜88texであることがより好ましい。ストランド番手が80tex未満の場合、ガラス繊維の表面積が必要以上に大きくなり、ガラスストランドとモルタルとの摩擦によってセメント系材料の流動性が低下する虞がある。一方、ストランド番手が90texを超えると、ガラス繊維の表面積が小さくなり、ガラス繊維とモルタルとの接着面積が減少し、セメント系材料の機械的強度が低下する虞がある。また、ケーキ番手は、560〜630texであることが好ましく、580〜610texであることがより好ましい。ケーキ番手が560tex未満の場合、ガラス繊維そのものの強度が低下し、セメント系材料の機械的強度が低下する虞がある。一方、ケーキ番手が630texを超えると、ガラス繊維の柔軟性が得られなくなり、ガラス繊維が切れ易くなって、セメント系材料の機械的強度が低下する虞がある。なお、ケーキ番手とは、複数本のガラスストランドが巻き取られたケーキにおける、各々のガラスストランドのストランド番手の総和である。
ガラス繊維は、硬度が160〜200gfであることが好ましく、170〜185gfであることがより好ましい。硬度が160gf未満であると、ガラスストランドの良好な集束状態を長期に亘って維持すること困難となる虞がある。一方、モノフィラメント表面の硬度が200gfを超えると、ガラス繊維の糸質が硬くなり過ぎて、巻回体からのガラスストランドの解舒が困難となる虞がある。また、カッターによりガラスストランドが切断され難くなり、ガラスチョップドストランドへの加工性が低下したり、ガラスチョップドストランドがモルタル内で均一に分散せず、外観が悪くなる虞がある。
<セメント複合材>
セメント複合材は、本発明のサイジング剤の塗布による被膜が形成されたガラス繊維からなるガラスストランドを切断して得られたガラスチョップドストランドを原材料の一つとして使用するものである。例えば、オムニミキサーで混合したセメント、珪砂、及び水を含むモルタルに対し、上記のガラスチョップドストランドを混入し、これを再度オムニミキサーで混練すると、本発明のセメント複合材が得られる。本発明のセメント複合材によれば、本発明のガラス繊維を含んでいるため、ガラス繊維とセメント(モルタル)との間で摩擦が生じ難く、モルタルの流動性が維持される。従って、良好な施工性が得られる。
本発明のサイジング剤を塗布したガラス繊維の性能について評価を行った。以下、実施例として説明する。
〔実施例1〕
(サイジング剤の調製)
15質量%ポリ酢酸ビニルA(重量平均分子量120000)、15質量%ポリウレタンA(重量平均分子量80000)、3.0質量%第4級アンモニウム塩(第4級アミン)、0.5質量%アミノシランカップリング剤、0.5質量%パラフィンワックスからなる固形成分に、水を均質混合して、サイジング剤を調製した。ポリウレタンAは、ヘキサメチレンジイソシアネートとポリテトラメチレンエーテルグリコールとの反応物である。第4級アンモニウム塩として、ラウリルエチルジメチルアンモニウムサルフェートを用いた。アミノシランカップリング剤としては、γアミノプロピルトリエトキシシラン(サイラエースS330:チッソ株式会社製)を用いた。パラフィンワックスは、糸質を調整するために添加した。得られたサイジング剤を固形成分の濃度が10質量%となるように水を加えて水分散液として濃度調整したときのpHは、5.0であった。
(ガラス繊維の作製)
溶融ガラス(組成:SiO58.3質量%、ZrO17.7質量%、LiO0.5質量%、NaO14.3質量%、KO2.0質量%、CaO0.7質量%、TiO6.5質量%)をブッシングから引き出してガラス繊維を得た。次に、得られたガラス繊維の表面にアプリケーターを用いて上記サイジング剤を塗布し、このガラス繊維を集束して番手が85texのガラスストランドとし、このガラスストランドをコレットに巻き取ってケーキを作製した。次に、ケーキを130℃、10時間の加熱条件で乾燥させてからガラスストランドを解舒しながら25mmのカット長に切断し、ガラスチョップドストランドに加工した。なお、得られたガラスチョップドストランドの強熱減量は、1.0質量%であった。
〔実施例2〕
30質量%ポリ酢酸ビニルA、15質量%ポリウレタンA、3.0質量%第4級アンモニウム塩を用いたこと以外は、実施例1と同様にサイジング剤を調製し、さらに同様の手順によりガラス繊維(ガラスチョップドストランド)を作製した。なお、サイジング剤の10質量%水分散液のpHは、5.0であった。
〔実施例3〕
20質量%ポリ酢酸ビニルA、10質量%ポリウレタンA、3.0質量%第4級アンモニウム塩を用いたこと以外は、実施例1と同様にサイジング剤を調製し、さらに同様の手順によりガラス繊維(ガラスチョップドストランド)を作製した。なお、サイジング剤の10質量%水分散液のpHは、5.0であった。
〔実施例4〕
20質量%ポリ酢酸ビニルA、20質量%ポリウレタンA、3.0質量%第4級アンモニウム塩を用いたこと以外は、実施例1と同様にサイジング剤を調製し、さらに同様の手順によりガラス繊維(ガラスチョップドストランド)を作製した。なお、サイジング剤の10質量%水分散液のpHは、5.0であった。
〔実施例5〕
20質量%ポリ酢酸ビニルA、15質量%ポリウレタンA、1.0質量%第4級アンモニウム塩を用いたこと以外は、実施例1と同様にサイジング剤を調製し、さらに同様の手順によりガラス繊維(ガラスチョップドストランド)を作製した。なお、サイジング剤の10質量%水分散液のpHは、4.0であった。
〔実施例6〕
20質量%ポリ酢酸ビニルB(重量平均分子量300000)、15質量%ポリウレタンA、3.0質量%第4級アンモニウム塩を用いたこと以外は、実施例1と同様にサイジング剤を調製し、さらに同様の手順によりガラス繊維(ガラスチョップドストランド)を作製した。なお、サイジング剤の10質量%水分散液のpHは、5.0であった。
〔比較例1〕
20質量%ポリ酢酸ビニルA、15質量%ポリウレタンB(重量平均分子量100000)、20.0質量%第4級アンモニウム塩を用いたこと以外は、実施例1と同様にサイジング剤を調製し、さらに同様の手順によりガラス繊維(ガラスチョップドストランド)を作製した。ポリウレタンBは、ヘキサメチレンジイソシアネートとポリエチレングリコールとの反応物である。なお、サイジング剤の10質量%水分散液のpHは、7.0であった。
〔比較例2〕
20質量%ポリ酢酸ビニルA、15質量%ポリウレタンA、0.5質量%第4級アンモニウム塩を用いたこと以外は、実施例1と同様にサイジング剤を調製し、さらに同様の手順によりガラス繊維(ガラスチョップドストランド)を作製した。なお、サイジング剤の10質量%水分散液のpHは、3.0であった。
〔比較例3〕
20質量%ポリ酢酸ビニルA、15質量%ポリウレタンA、10.0質量%第4級アンモニウム塩を用いたこと以外は、実施例1と同様にサイジング剤を調製し、さらに同様の手順によりガラス繊維(ガラスチョップドストランド)を作製した。なお、サイジング剤の10質量%水分散液のpHは、6.0であった。
<ガラス繊維の性能評価>
ガラス繊維の性能評価を、モルタル成形品の曲げ強度測定、糸硬度測定、及び外観評価により行った。
〔曲げ強度測定〕
実施例1〜6及び比較例1〜3の各ガラスチョップドストランドを用いてGRC(モルタル成形品)を作製し、その曲げ強度を測定した。GRCは、以下の手順で作製した。初めに、セメント10kg、珪砂5kg、及び水4.2kgをミキサーで混合してモルタルを調製し、次いで、実施例1〜6及び比較例1〜3の各ガラスチョップドストランドを混合物全体に占める割合が3質量%となるように添加し、混合物をミキサーでさらに混練し、所定の形状に成形した後、乾燥させてモルタル成形品であるGRCを得た。GRCの機械的強度は曲げ強度によって評価した。GRCの曲げ強度測定は、モルタル成形体を作製してから4週間経過したGRCを試験体(275mm×50mm×15mm)とし、実施例1〜6及び比較例1〜3の試験体について、3点載荷方式にて、スパン225mm、テストスピード2mm/分の条件で実施した。
〔糸硬度測定〕
ケーキから、3mのガラスストランドを切り出し、ガラスストランドを通す穴を有し、5cm間隔で配置された2つのガイド部材にガラスストランドを通す。次に、ガイド部材の間に配されたばねばかりのフックにガラスストランドを引っかける。その後、両方のガイド部材を1cm下方に移動させる。その際に、ばねばかりには荷重が加わるので、荷重値(gf)を記録する。ガイド部材を元の位置に戻した後、ガラスストランドを一方のガイド部材の方向に1cm移動させ、同様の測定を行う。この測定を、計42回測定し、21番目に大きな値の荷重値を糸硬度とする。糸の硬度が高いほど、大きな荷重値を示す。
〔外観評価〕
GRCの表面からガラス繊維がはね出ているかの確認を目視で行い、モルタル成形品の外観評価を5段階評価にて行った。評価基準は以下のとおりである。
・レベル1:ガラス繊維がGRC表面からはね出ている箇所がモルタル体積4500cmあたり21箇所以上である。
・レベル2:ガラス繊維がGRC表面からはね出ている箇所がモルタル体積4500cmあたり10〜20箇所である。
・レベル3:ガラス繊維がGRC表面からはね出ている箇所がモルタル体積4500cmあたり5〜9箇所である。
・レベル4:ガラス繊維がGRC表面からはね出ている箇所がモルタル体積4500cmあたり4箇所以下である。
・レベル5:ガラス繊維がGRC表面から全くはね出ていない。
ガラス繊維の性能評価(曲げ強度測定、糸硬度測定、及び製品の外観評価)の結果を以下の表1に示す。
Figure 0006772815
実施例1〜6のガラスチョップドストランドを用いたGRCは、ガラス繊維に塗布されるサイジング剤の10質量%水分散液のpHが本発明の範囲(pH3.5〜5.5)内に調整されているため、曲げ強度、糸硬度、並びに製品の外観とも良好であった。一方、比較例1〜3のガラスチョップドストランドを用いたGRCは、ガラス繊維に塗布されるサイジング剤の10質量%水分散液のpHが本発明の範囲外であったため、実用上において問題があった。サイジング剤の10質量%水分散液のpHが7.0である比較例1では、曲げ強度、糸硬度、並びに製品の外観とも十分ではなかった。サイジング剤の10質量%水分散液のpHが3.0である比較例2では、曲げ強度は良好であったが、糸硬度が高過ぎるとともに、製品の外観が悪い結果となった。サイジング剤の10質量%水分散液のpHが6.0である比較例3では、製品の外観は良好であったが、曲げ強度、並びに糸硬度が十分得られない結果となった。
本発明のサイジング剤を使用したガラスストランドは、セメント系材料の補強材として利用することが可能である。また、本発明のセメント複合材は、建築物の他、土木工事において利用されるものであり、例えば、耐震強度が求められる家屋等の外壁、柱、基礎となる土台の他、トンネル、橋梁、高架等にも利用される。

Claims (9)

  1. セメント複合材用のガラス繊維の表面被膜形成用のサイジング剤であって、
    水を含む溶媒と、前記被膜となる固形成分とを含み、
    前記固形成分は、ポリ酢酸ビニルと、ポリウレタンと、アミン化合物とを含有し、
    サイジング剤中の前記ポリ酢酸ビニルの含有量が3〜30質量%であり、サイジング剤中の前記ポリウレタンの含有量が2〜20質量%であり、サイジング剤中の前記アミン化合物の含有量が0.6〜3.0質量%であり、
    前記固形成分の濃度が10質量%となるように濃度調整したときに、pHが3.5〜5.5を示すサイジング剤。
  2. 前記ポリウレタンは、ヘキサメチレンジイソシアネートとポリテトラメチレンエーテルグリコールとの反応物である請求項1に記載のサイジング剤。
  3. 前記ポリ酢酸ビニルの重量平均分子量が100000〜300000であり、前記ポリウレタンの重量平均分子量が50000〜100000である請求項1又は2に記載のサイジング剤。
  4. 前記アミン化合物が第4級アミンである請求項1〜3の何れか一項に記載のサイジング剤。
  5. 請求項1〜4の何れか一項に記載のサイジング剤中の前記固形成分からなる被膜が表面に形成されたガラス繊維の集合体であるガラスストランド。
  6. 前記ガラス繊維がZrOを12質量%以上、及びRO(Rは、Li、Na、及びKからなる群から選択される少なくとも一種である。)を10質量%以上含有するガラスからなる請求項5に記載のガラスストランド。
  7. 前記ガラス繊維の繊維径が13〜30μmであり、ストランド番手が80〜90texであり、ケーキ番手が560〜630texである請求項5又は6に記載のガラスストランド。
  8. 請求項1〜4の何れか一項に記載のサイジング剤中の前記固形成分からなる被膜が表面に形成されたセメント複合材料用のガラスストランドであって、
    糸硬度が160〜200gfであるに記載のガラスストランド。
  9. 請求項5〜8の何れか一項に記載のガラスストランドを含むセメント複合材。
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