JP6771918B2 - 超音波ツールおよびその製作方法 - Google Patents

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Description

本発明は、超音波ツール及びその製作方法に係り、特にセラミックやサファイア、CFRP等の難削材の研削加工に好適な超音波ツールおよびその製作方法に関する。
セラミックやサファイア、CFRP等の難削材の切削や研削に、超音波ツールを使用することが知られている。例えば、特許文献1では、発生した超音波のエネルギーを有効に利用した、超音波を用いる切削加工が開示されている。その際使用する超音波切削または超音波研削装置は、交換可能な切削用もしくは研削用のロッドと、このロッドを把持するチャックと、回転軸を備えるモータと、チャックとモータの回転軸を接続する伝達軸を有している。さらに、ロッドの先端部とチャックの接触部の間の領域に、超音波トランスデューサを設けている。
また、ウェーハのような難削材を加工することが、特許文献2に記載されている。この公報に記載の加工方法においては、ウェーハの加工位置に対し、初めにレーザ光線を照射してウェーハ表面を改質し、次いで、超音波振動を砥石に付加しながら、改質されたウェーハの裏面側を研削砥石で研削している。これにより、ウェーハを研削しながら超音波振動による外力を改質層に加えて、改質層を起点とするウェーハの厚さ方向の割れを十分に進行させている。
上記各特許文献に記載の超音波研削装置に使用可能な研削用砥石の例が、特許文献3に記載されている。この公報に記載の研削用砥石では、発生する廃棄物を少なくすることができるレジノイド砥石を得るために、金属のコアの周りにレジノイド砥石を固着し、金属コアの外周に固着されたレジノイド砥石内に、レジノイド砥石を径方向に補強する円管状の補強リングを設けている。これにより、砥石は消耗品であるが、金属コアを再使用でき、廃棄物が少なくなるとともに、研削中の砥石の飛散を補強リングが低減している。
特表2008−535667号公報 特開2015−220383号公報 特開2003−80463号公報
ウェーハに代表される難削材の研削では、一般に垂直に配置される研削スピンドルの回転軸を高速で回転させ、回転軸の先端部に取り付けた砥石で加工対象の難削材を加工する。この研削加工においては、回転軸を回転させるとともに、超音波加振手段を用いて、高周波数、例えば、数10kHzで、回転軸の軸方向に砥石を加振している。これにより、難削材を損傷することなく、定められた形状に精度高く加工することを可能にしている。
このように、超音波加工を併用する研削スピンドルでは、使用中は、加工具である砥石に常時高周波の軸方向に繰り返す荷重が、加わっている。そのため、接着剤で砥粒が締結された砥石を用いると、繰り返し荷重による摩擦が砥石内部または砥石と砥石の取付け部材間で発生する。この繰り返し荷重による摩擦は、最終的には摩擦熱となり、発熱部での砥石の微小変形や、砥石の強度の低下を引き起こす。
一方、難削材の加工に使用する砥石は、砥粒を樹脂系または軟金属の接着成分に分散させているので、砥石を研削スピンドルの回転軸に取り付ける際に用いる、砥石用金属取付け材に砥石を固定するときは、砥石が軟化または変形するので、ロー付等の金属材料一般で使用可能な高温の加工ができない。そのため、焼成等で形成された砥石を用いたときでも、研削スピンドルの回転軸に、使用中でも安定してしっかりと砥石を保持することが強く求められている。さらに、砥石が樹脂系の接着成分を含むときは、砥石が超音波による繰り返し荷重により発生する摩擦熱で軟化し、研削スピンドルの回転軸への取付け部で隙間を生じて砥石がアンバランスになったり、砥粒を砥石に保持する強度が低下したりして、早期に損耗するので、この改善も求められている。
上記特許文献1では、超音波切削装置に使用する超音波発生装置の出力を効果的に加工具に導くことが記載されている。しかしながら、この公報では、超音波発生装置から加工具に導かれた超音波エネルギーで、加工部そのものが損傷することについては、考慮されていない。なお、被削材が難削材の場合についても、考慮されていない。また、上記特許文献2では、レーザ照射と超音波研削の併用で、分割予定ラインに沿ったウェーハの分割加工が記載されている。この特許文献2でも超音波研削において、研削具である砥石が運転中に超音波による摩擦熱で劣化することについては、考慮されていない。
さらに、上記特許文献3では、研削用の砥石を、スピンドルの回転軸に取り付けられる鋼製の金属コアと、このコアの外周部に形成した砥石と、砥石を径方向に補強する補強リングとで構成している。しかしながら、この特許文献3でも、砥石の使用中、断続的な超音波振動が樹脂系接着剤の内部で摩擦熱を発生し、接着剤の組成が変化し、接着剤の砥粒保持能力及び金属コアとの接着力が低下することについては、十分には考慮されていない。砥石の接着剤の接着能力が低下すると、最悪の場合には、加工中に砥石が研削スピンドルから脱落する。
本発明は上記従来の技術の不具合を鑑みなされたものであり、その目的は、高速に回転する研削スピンドルに取り付けられ、超音波振動がスピンドルの回転軸の軸方向に加えられる超音波ツールにおいて、超音波加振により、砥石がスピンドルの回転軸から脱落するのを防止することにある。本発明の他の目的は、上記目的に加え、長寿命で砥石を使用可能にすることにある。
上記目的を達成するための本発明の特徴は、回転駆動されるスピンドルと、このスピンドルに取り付けられた超音波を発生する手段とを有する超音波加工機の前記スピンドルの先端部に取り付けられ、回転運動しながら、回転運動に直交する方向の超音波振動を受ける超音波ツールにおいて、前記超音波ツールは、金属製のクイルとこのクイルに一端部が嵌合する砥石とから構成され、前記クイルと前記砥石のそれぞれの嵌合部に溝部を形成し、前記溝部を、金属を含む接着剤で接着し、前記接着剤の固化後は前記砥石と前記クイルは分離不可能に形成されていることにある。
そしてこの特徴において、前記クイルは円筒形に構成され、前記クイルの溝部は、前記クイルの内周面に形成されており、前記砥石に形成する溝部は前記砥石の外周面に形成されており、前記クイルの溝部と前記砥石の溝部は、前記砥石と前記クイルの双方を嵌合して軸方向に当接させた時に、対向する位置にあるのが望ましい。また、前記クイルに形成する溝部は、前記クイルの外周面に形成した半径方向貫通穴に連通していてもよく、前記砥石に形成する溝部は、複数条の螺旋溝または円周方向にほぼ等間隔に設けられた複数個所の切り欠きを有しており、前記クイルに形成する溝部は、環状溝または複数条の螺旋溝を有し、前記クイルの溝部と前記砥石の溝部にくさび形状または引っ掛かり形状を形成してもよい。
また上記特徴において、前記砥石は、砥粒を結合剤に分散させたメタルボンドで構成されており、前記砥石の溝部はワイヤ放電加工で形成されてもよく、前記砥石は、砥粒をレジンまたはビトリファイド内に分散させて形成されており、前記砥石の溝部は研削加工で形成されてもよい。
上記目的を達成する本発明の他の特徴は、超音波加工機に用いる超音波ツールの製作方法であって、砥粒が分散された結合剤液を心金上に施して砥石を成形するステップと、前記砥石がメタルボンドで製作されているときは前記砥石の一方の端部に、周方向にほぼ等ピッチで間隔が置かれた切り落とし、または複数条の螺旋溝をワイヤ放電により加工して溝部を形成するステップと、前記砥石に嵌合する円筒状のクイルの内面に溝加工して溝部を形成するステップと、前記砥石と前記クイルをすきま嵌めして前記砥石を前記クイルに端面で当接するステップと、前記クイルに径方向に貫通して設けた貫通穴を介して、前記砥石と前記クイルの双方に形成した溝部間に接着剤を注入するステップと、前記砥石と前記クイルの双方の溝部間の接着剤を常温で固化させるステップとを含むことにある。そしてこの特徴において、前記砥石と前記クイルの嵌合時には、前記砥石と前記クイルの双方の溝部間の隙間とそれに充填した接着剤を調心に用いて、前記砥石と前記クイルを同心に組み立てるものであってもよい。
本発明によれば、超音波ツールにおいて、砥石を研削スピンドルに取り付けるためのクイルの内周面と、砥石の外周面に軸方向に変化する全周または部分周の溝を設けるとともに、砥石とクイル間に金属含有冷間接着剤を用いているので、超音波加振により、砥石がスピンドルの回転軸から脱落するのを防止できる。また金属含有冷間接着剤は、一旦固化すると摩擦熱は接着剤の金属成分を通して伝熱し外部に放熱され、砥石内部の温度上昇が低減され、長寿命で砥石を使用可能になる。
本発明に係る超音波加工機の一実施例の主要部の模式正面図である。 図1に示した超音波加工機が有する超音波ツールの一実施例の縦断面図である。 図2に示した超音波ツールが備える砥石の斜視図である。 図2に示した超音波ツールの断面斜視図およびクイルの斜視図と縦断面図である。 図2に示した超音波ツールで使用される接着剤の固化後形状である。 図2に示した超音波ツールの他の実施例の断面図およびそれを形成するクイルと砥石の斜視図である。 図2に示した超音波ツールのさらに他の実施例の断面図およびクイルの斜視図と斜視断面図である。 図7に示した超音波ツールの変形例の断面斜視図およびクイルの斜視図と縦断面図である。 超音波ツールの製作過程を示すフローチャートである。
以下、本発明に係る超音波加工機及びそれに用いる超音波ツールについて、図面を用いて説明する。図1は、本発明に係る超音波加工機100の模式正面図であり、ケース19の一部を取り去って示した図である。超音波加工機100は、ツールがスピンドルに取り付けられる、砥石を用いる縦軸の研削装置である。
超音波加工機100は、縦軸に延びた形状をしており、上部にはサーボ・ユニット13で回転を制御されるサーボ・モータ10が配置されている。サーボ・モータ10の回転軸12は、いわゆるスピンドルを構成するスリップリング24とブースタ34とコーン本体38に接続されている。スリップリング24にはカーボン製のブラシ22が当接し、ブラシ22は超音波発生装置30に接続されている。超音波発生装置30で発生した超音波加振用信号を、ブラシ22を介して受け取るために、スリップリング24は設けられている。スリップリング24の下方には、超音波振動子32が設けられている。超音波発生装置30で発生した超音波加振用信号を、超音波振動子32で数10kHzの超音波振動に変換する。
超音波振動子32の下部には、超音波振動子32で生成した超音波振動を受け取るブースタ34が設けられており、このブースタ34の下部に設けた先窄まりの円錐型のコーン本体38を介して、超音波ツール50に超音波振動が伝達される。回転軸12の下部に設けたスリップリング24、ブースタ34、コーン本体38の各部品は、連結されて一体化されており、全体として縦に延びた円筒形をしている。そして、その縦方向中間部の2か所で、軸受16、17により、ケース19に回転可能に支承されている。ケース19は、スリップリング24、ブースタ34、及びコーン本体38の一部を収容する。なお、上部軸受16からコーン本体38までは、超音波ホーン40を構成する。
このように構成した超音波加工機100では、初めに、砥石54とクイル56が一体化した超音波ツール50をコーン本体38の下端部へ、下方から矢印P方向に取り付ける。次いで、超音波加工機100を駆動すると、サーボ・ユニット13がサーボ・モータ10を回転駆動し、これにより、回転軸12が図で矢印Rに示した方向に回転する。したがって、砥石54も矢印R方向に回転する。その際、超音波発生装置30で発生した超音波信号が、ブラシ22とスリップリング24の回転接続を介して、超音波振動子32に伝達され、超音波加工機100の軸方向、すなわち回転軸12の回転方向に直交する方向(Z方向)の超音波振動が生成される。超音波振動子32で生成した軸方向の超音波振動は、ブースタ34で増幅されたのち、コーン本体38で集中されて、最終的にクイル56を介して砥石54に伝達される。したがって、砥石54は、方向Rに回転しながら、Z方向に微小振幅の超音波周波数(約数10kHz)で振動する。
超音波加工機100において、通常の回転運動による研削効果に加え、超音波振動の微小上下動を加えることにより、セラミックやサファイア、CFRP等の難削材を研削しながら切断する等の加工が可能になる。例えば、カバーガラスの面取り加工や、穴加工、トリミング等を、難削材であっても実現できる。
超音波加工機100は、上述の利点を有するが、砥石54には通常の回転力、回転方向の摩擦力となる研削抵抗の外に、超音波振動子32で生成したZ方向、すなわち上下方向動による力が運転中に常時加わる。一方、このような超音波加工機100に用いる砥石54は、ファイン加工も可能なものが要求されるので、一般的には、ダイヤモンド等の砥粒を結合剤中に分散させた砥石が用いられる。したがって通常の研削時に砥石54に働く回転方向の力に付加される、上記超音波による上下方向の力は、砥石54の負荷の増大となり、砥石寿命の低下や超音波ツールでの強度低下に起因する不具合を発生する恐れがある。特に、クイルと砥石間の保持力が低下すると、砥石は健全であるにもかかわらず、砥石がクイルから脱落する事態が生じる。
そこで、砥石54とクイル56間の保持力の経年変化による保持力低下を防止する、本発明による超音波ツール50の一実施例および変形例を、図2以下により説明する。図2は、本発明による超音波ツール50の一実施例の縦断面図である。図3は、図2に示した超音波ツール50に用いる砥石54の一実施例の斜視図である。図4は、図2に示した超音波ツール50の断面斜視図(a)と、それに用いるクイル56の外観斜視図(b)、縦断面図(c)である。図5は、詳細を後述する固化して形成される接着剤の斜視図である。
砥石54はほぼ円筒形状をしており、内面545は砥石成形時には、心金に当接していたので、高精度に円形が保たれている。砥石54は、単層であってもよいし、同心円筒状の多層に形成されていてもよい。砥石54の一端部側、すなわち加工側端面541とは反対側の端面544近くには、図3に示すように周方向4か所に、90°ピッチで、切り取り面(切り欠き、または切り欠き形状とも称する)である溝部543が形成されている。溝部543は円周方向に、90°よりは狭い範囲、好ましくは、45°〜60°の範囲で形成されている。
砥石54は、砥粒を結合剤に分散させたメタルボンドで構成されたものを好適に用いることができ、この場合は、溝部543は、ワイヤ放電加工で形成することが望ましい。また、砥石54は、砥粒をレジンまたはビトリファイド内に分散させて形成したものも好適に用いることができ、この場合は、溝部543は、研削加工で形成することが望ましい。
一方、クイル56は図4に詳細を示すように、軸方向に延びる円筒状部材である本体部562と、この本体部562の一方端側に形成された中空の第1、第2の取付け部564、566を有しており、第1の取付け部564の外径は、第2の取付け部566の外径より小さい。第2の取付け部566の外周面には、周方向に複数個所の面取り575が形成されており、レンチ等の工具を用いる際に使用される。
第2の取付け部566から第1の取付け部564の軸方向中間部まで、クイル56の内面側には砥石54と嵌合するために、嵌合面である第1の内面567が形成されている。そして、ほぼ第2の取付け部566の内面領域に、第1の内面567よりも大径の円周方向に延びる溝部569(図2参照)が形成されている。クイル56の砥石側端面561と溝部569の間には、段差部563を形成する。すなわち、溝部569は、砥石側端面561までは延びていない。
次に、このように各々形成した砥石54がクイル56に嵌合する部分の外周面と、クイル56が砥石54に嵌合する部分の内周面とを、それぞれすきま嵌めになる程度まで同心加工し、互いに嵌合する。嵌合時には、砥石54の外周面に形成した溝部543と、クイル56の内周面に形成した溝部569が対向するように、砥石54の溝部543とクイルの溝部569の軸方向位置を予め定めて加工する。
クイル56には、周方向複数個所、本実施例では4か所に90°ピッチで貫通穴573が形成されているので、この貫通穴573から接着剤60を注入する。貫通穴573は、砥石54の溝部543とクイル56の溝部569で形成される溝部に連通しているので、接着剤60は、貫通穴573を介して両溝部543、569間に充填される。接着剤60の注入後は、室温で接着剤60を固化させる。
固化した接着剤部分のみを取り出して示したのが、図5である。固化した接着剤60の形状は、砥石54の溝部543とクイル56の溝部569に対応するリング状の係止・接着部610と、それに接続する放射状に延びる90°ピッチで4個の注入部612とからなる。リング状の係止・接着部610は、外周面でクイル56に、内周面で砥石54に接着するが、リングの内周形状が角部の取れた四角形状であるので、係止・接着部610の側面でも砥石54に接着する。したがって、接着剤60の砥石接着隙間614の形状が、同心円形状の場合に比べて、接着剤60の側面が抵抗になり、砥石54の軸方向への脱落をより確実に防止できる。
用いる接着剤60は、例えば、ベロメタルジャパン社から販売されている2液混合系のベロメタル(商品名)のような金属粉を含む接着剤であり、冷間溶接的効果を有する。このような接着剤60を砥石54とクイル56の双方に処理すると、固化後に、内部に含まれる鉄、アルミニウム、チタン、ニッケル等の金属成分が、耐熱性及び接着強度を担保する。
なお、嵌合時には、砥石54の端面544とクイル56の端面568とが当接するように、砥石54をクイル56内に押し込む。また、砥石54の溝部543とクイルの溝部569が対向する部分は、接着剤60が固化後にも空所が形成されない充填部604となるよう、必要に応じて嵌合時等に加圧手段を用いて強制的に接着剤60を注入する。さらに、接着剤60の充填の不足は、貫通穴573内に残る溢れ部602でも判断できる。
上記のように構成した本実施例の超音波ツール50では、砥石54の溝部543とクイル56の溝部569間の充填部604に充填した接着剤60が、固化後には砥石54とクイル56とを一体化して、分離不可能にする。さらに、接着剤60が金属粉を含有しているので、超音波振動による微小変位の繰り返し荷重に起因して発生する摩擦熱が、接着剤中の金属粉を介して容易に放熱されるので、接着剤が軟化する例えば300℃という高温までの温度上昇が防止され、接着剤の強度低下を防止できる。したがって、超音波ツール50を使用中に、クイル56から砥石54が脱落するのを防止できる。また、摩擦熱に起因する接着剤の軟化にともなう砥石の変位もなく、砥石の変位に起因する砥石のアンバランスの発生を防止でき、高速回転する砥石の損傷を防止できる。
また、砥石54の溝部543を周方向全体にわたってではなく、周方向の一部にのみ、ほぼ等ピッチで形成したので、接着剤60が固化した後は、図5に示すように、接着剤60が楔として作用して、砥石54の軸方向の変位を防止し、砥石54がクイル56から脱落するのを回避できる。この楔効果を発揮させるためにも、砥石54の溝部543とクイル56の溝部569は、嵌合時に対向する位置にあることが望ましい。そのため、クイル56に砥石54を嵌合させるときは、クイル56内部の端面561に、砥石54の端面544を当接させて、溝部543、569の軸方向位置を合わせる。なお、砥石54とクイル56の嵌合端部には、必ず軸方向に段差部548、563を設けることで、砥石54のクイル56からの抜けを防止できることを、本発明者は確認している。
また、本実施例によれば、処理中の接着剤60の粘度が高くて、砥石54の溝部543とクイル56の溝部569間に形成される隙間に、接着剤60が回り込まない、または一旦塗布した接着剤60が嵌合動作中に取れて、当該隙間に空隙ができる恐れがあるときに、貫通穴573から加圧して接着剤60を注入し、溢れ部602を形成させることが可能になる。これにより、溝部543、569間の隙間を確実に接着剤で充填した充填部604を形成できる。また、固化時に体積を減ずる接着剤を使用する場合には、固化前のペースト状の接着剤溜りとして利用できる。
さらに、接着剤60の量は、注入過程で砥石54とクイル56の両溝部543、569間に形成される隙間に空隙なく充填させる量以上を、注入する。そして、注入時に貫通穴573内または貫通穴573をあふれ出る溢れ部602が生じるようにして、固化しても両溝部543、569間に空隙が生じる接着欠陥を生じさせないようにする。
図6に、本発明の超音波ツール50の他の実施例を示す。図6(a)は、超音波ツール50の縦断面図であり、図6(b)は図6(a)の超音波ツール50が有するクイル56の外観斜視図、図6(c)は砥石54の斜視図である。レンチ等を使用する大径の第2の取付け部566先端側に、この第2の取付け部566よりは小径の第3の取付け部582を設けている。そして、第3の取付け部582には、周方向複数個所に、ほぼ等ピッチで、切り欠き状の溝部569を形成している。
一方、砥石54の一端側の外周部には、周方向複数個所に溝部543aを形成する。溝部543aは、周方向には連続させずに間欠的に設ける。砥石54は、厚さが均一なほぼ円筒状であり、本体部546の外面が、クイル56の第3の取付け部582にすきま嵌めされる。その際、砥石54の端面541がクイル56の第2の取付け部の端面561に当接する。当接した時に、クイル56の溝部569が砥石54の溝部543aに対向するよう、予め位置を定めておく。クイル56に砥石54を嵌合後、砥石54の外周部から接着剤60を注入する。本実施例の場合には、砥石54とクイル56の双方の溝部569、543aが形成する溝部間に確実に接着剤60が充填されるのを、容易に目視で確認できる。また、砥石54の加工が簡単な形状の加工であり、クイル56の加工が金属加工であるから、全体の加工に要する時間および組立に要する時間を低減できる。なお、第1の取付け部には、スピンドル等への取付けのため、ネジ部562aが形成されている。
図7に本発明の超音波ツール50のさらに他の実施例を示す。本発明が上記各実施例と異なるのは、砥石54とクイル56の嵌合部の隙間が、上記各実施例では、ミクロンオーダの微小な隙間であったのに対し、本実施例では相当の隙間を設け、この嵌合部分に予め接着剤を塗布できるようにしたことにある。そのため、嵌合時には、砥石54とクイル56の双方の同心を正確にとる必要があるが、各溝部543、569間に確実に接着剤を充填することで同心を確保するようにする。
砥石54の一端部側、すなわち加工側端面541とは反対側の端面544近くには、周方向4か所に、90°ピッチで、切り取り面である溝部543が形成されている。溝部543は円周方向に、90°よりは狭い範囲、好ましくは、45°〜60°の範囲で形成されている。
クイル56は、軸方向に延びる円筒状部材である本体部562と、この本体部562の一方端側に形成された中空の第1、第2の取付け部564、566を有しており、第1の取付け部564の外径は、第2の取付け部566の外径より小さい。第2の取付け部566の外周面には、周方向に複数個所の面取り575が形成されており、レンチ等の工具を用いる際に使用される。
第2の取付け部566から第1の取付け部564の軸方向中間部まで、クイル56の内面側には砥石54と嵌合するために、嵌合面である第1の内面567が形成されている。そして、ほぼ第2の取付け部566の内面領域に、第1の内面567よりも大径の円周方向に延びる溝部569が形成されている。クイル56の砥石側端面561と溝部569の間には、段差部563を形成する。すなわち、溝部569は、砥石側端面561までは延びていない。
次に、このように各々形成した砥石54がクイル56に嵌合する部分の外周面と、クイル56が砥石54に嵌合する部分の内周面とに、それぞれ接着剤60を塗布して、互いに嵌合する。嵌合後は、室温で接着剤60を固化させる。嵌合時には、砥石54に形成した溝部543と、クイル56に形成した溝部569が対向するように、砥石54の溝部543とクイル56の溝部569の軸方向位置を予め定めて加工する。
なお、嵌合時には、砥石54の端面544とクイル56の端面568とが当接するように、砥石54をクイル56内に押し込む。また、クイル56と砥石54との嵌合部に、接着剤60が充填されて、クイル56の端面561から接着剤が溢れて溢れ部602を形成する程度まで、十分な量の接着剤60を予め砥石54とクイル56の双方に塗布しておく。さらに、砥石54の溝部543とクイル56の溝部569が対向する部分は、接着剤60が固化後にも空所が形成されない充填部604となるよう、必要に応じて嵌合時等に加圧手段を用いて強制的に接着剤60を注入する。
図7に示した本発明の超音波ツール50の変形例を、図8を用いて説明する。図8(a)は、超音波ツール50の部分断面斜視図であり、図8(b)は図8(a)の超音波ツール50が有するクイル56の外観斜視図、図8(c)はクイル56の縦断面図である。本変形例が上記実施例と異なるのは、砥石54が備える溝部543とクイル56が備える溝部569を、それぞれ複数条の螺旋溝532、572から構成したことにある。その他の部分は、上記実施例と同様である。クイル56の内面567に螺旋溝572を形成するため、嵌合時の砥石54の当接面568近傍には、逃げ部578を形成する。螺旋溝532、572とすることにより、くさび部の長さが上記実施例よりも長くなり、接着剤60が硬化した後にさらなる楔効果が期待できる。なお、螺旋溝は複数条、可能ならば3〜4条以上が好ましいが、砥石54の螺旋溝532は長くなりすぎると、砥石54の強度低下を招く恐れもあるので、それほど長くはしない。なお、クイル56側だけを螺旋溝とし、砥石54側は図2に示した切り欠き形状としてもよいことは言うまでもない。
次に、上記実施例および変形例による超音波ツール50の製作方法を、図9に示したフローチャートを用いて説明する。初めに円筒状の砥石54を作成するため、円柱または円筒で形成された心金の表面に、ダイヤモンド等の砥粒が分散された結合剤で所定厚さまで単層または複数層の砥石層を形成し、所定の外径に仕上げる(ステップS110)。砥粒の結合がメタルボンドか否かを判定(ステップS120)し、メタルボンドの場合には、ワイヤ放電加工が可能なので、砥石54の溝部543を所定形状(上記において説明した螺旋溝、切り欠き形状等)に加工する(ステップS130)。ワイヤ放電加工を使用するので、図3に示したような矩形の切り欠き形状や図5に示した螺旋溝等が溝部543の加工に適している。結合剤がメタル系ではない場合、例えばレジンやビトリファイドの場合には、ステップS140に進み、砥石54の外面に研削加工して、溝部543を形成する。
一方、クイル56も、ミクロンオーダのすきま嵌めである嵌合部を含めて所定形状に機械加工する(ステップS210)。クイル56は鋼製であるから、一般の機械加工が可能である。この加工においては、図6の変形例で示した径方向の貫通穴573も加工する。次に、嵌合時に砥石54に形成する溝部543に対向する位置に、内面溝部569を加工する(ステップS220)。なお、このステップS220は、ステップS210の加工の前でも、同一工程でもよい。次いで、不要となった口金を再利用のため、取り外す(ステップS150)。
砥石54およびクイル56の双方の嵌合の準備ができたので、砥石54をクイル56に嵌合する(ステップS300)。接着剤60の粘度が高いので、溝部543、569間の隙間に接着剤60を十分に回り込ませるため、貫通穴573を介して接着剤を加圧注入して、貫通穴573内または貫通穴573からあふれて溢れ部602が形成されるのを確認する(ステップS310)。
また、砥石54の溝部543とクイル56の溝部569間の隙間及びこの隙間に充填した接着剤60の粘性等を利用して調心させ、砥石54とクイル56を同心させる。同心が取れた状態で、接着剤60を常温で固化させる(ステップS320)。数時間経過すると接着剤は固化する。このように嵌合中に接着剤と隙間を利用して、砥石54とクイル56を同心させるので、接着剤60の固化後に、砥石54の偏心部分を研磨して同心を調整する作業が不要になる。
上記したように本発明の実施例および変形例によれば、超音波加工機に用いる超音波ツールにおいて、研削用砥石とこの砥石を保持するクイル間の接着剤による結合において、砥石とクイルの双方の嵌合部に溝部を設け、しかも砥石側の溝部が必ずしも周方向には一様でないので、砥石とクイル間に形成される隙間に充填された接着剤が固化した後は、この接着剤が楔効果を発揮して、砥石のクイルからの脱落を防止する。また、接着剤に金属粉を含む接着剤を用いているので、超音波加振により発生する砥石部の微小振動に起因する摩擦熱を効果的に外部に放熱でき、固化した接着剤の温度上昇による強度低下を防止できる。
10…サーボ・モータ、12…回転軸、13…サーボ・ユニット、16、17…軸受、19…ケース、22…ブラシ、24…スリップリング、30…超音波発生装置、32…超音波振動子、34…ブースタ、38…コーン本体、40…超音波ホーン、50…超音波ツール、54…砥石、56…クイル、60…接着剤、100…超音波加工機、532…螺旋溝、541…(加工側)端面、543、543a…溝部、544…(嵌合側)端面、545…内面、546…本体部、548…段差部、561…(砥石側)端面、562…本体部、562a…ネジ部、563…段差部、564…(第1の)取付け部、566…(第2の)取付け部、567…(第1の)内面、568…端面(当接面)、569…溝部、572…螺旋溝、573…(径方向)貫通穴、575…面取り、578…逃げ部、582…(第3の)取付け部、602…溢れ部、604…充填部、610…係止・接着部、612…注入部、614…砥石接着隙間、P…押し込み方向、R…回転方向

Claims (6)

  1. 回転駆動されるスピンドルと、このスピンドルに取り付けられた超音波を発生する手段と、を有する超音波加工機の前記スピンドルの先端部に取り付けられ、回転運動しながら、回転軸の軸方向の超音波振動を受ける超音波ツールにおいて、
    前記超音波ツールは、金属製のクイルとこのクイルに一端部が嵌合する砥石とから構成され、前記クイルと前記砥石のそれぞれの嵌合部に前記クイルにはクイル溝部を、前記砥石には砥石溝部を形成し、前記クイル溝部と前記砥石溝部とを、金属を含む接着剤で接着し、前記接着剤の固化後は前記砥石と前記クイルは分離不可能に形成されており、
    前記砥石溝部は、前記砥石の外周面に形成され、前記クイル溝部は、前記クイルの内周面に形成され、
    前記砥石溝部は複数条の螺旋溝または円周方向にほぼ等間隔に設けられた複数個所の切り取り面のいずれかであり、
    前記砥石溝部が、複数条の螺旋溝であるとき、前記クイル溝部は、複数条の螺旋溝であり、
    前記砥石溝部が、円周方向にほぼ等間隔に設けられた複数個所の切り取り面であるとき、前記クイル溝部は、複数条の螺旋溝または環状溝であり、
    前記クイル溝部と前記砥石溝部にくさび形状または引っ掛かり形状を形成したことを特徴とする超音波ツール。
  2. 前記クイルは円筒形に構成され、前記クイル溝部と前記砥石溝部は、前記砥石と前記クイルの双方を嵌合して軸方向に当接させた時に、対向する位置にあることを特徴とする請求項1に記載の超音波ツール。
  3. 前記クイル溝部は、前記クイルの外周面に形成した半径方向貫通穴に連通していることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波ツール。
  4. 前記砥石は、砥粒を結合剤に分散させたメタルボンドで構成されており、前記砥石溝部はワイヤ放電加工で形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の超音波ツール。
  5. 前記砥石は、砥粒をレジンまたはビトリファイド内に分散させて形成されており、前記砥石溝部は研削加工で形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の超音波ツール。
  6. 超音波加工機に用いる超音波ツールの製作方法であって、
    砥粒が分散された結合剤液を心金上に施して砥石を成形するステップと、
    前記砥石がメタルボンドで製作されているときは前記砥石の一方の端部の外面に、周方向にほぼ等ピッチで間隔が置かれた切り取り面、または複数条の螺旋溝をワイヤ放電により加工して溝部を形成し、前記砥石がメタルボンドではなく、レジンまたはビトリファイドで製作されているときは、前記砥石の外面に研削加工により溝部を形成するステップと、
    前記砥石に嵌合する円筒状のクイルの内面に溝加工して溝部を形成するステップと、
    前記砥石と前記クイルをすきま嵌めして前記砥石を前記クイルに端面で当接するステップと、
    前記クイルに径方向に貫通して設けた貫通穴を介して、前記砥石と前記クイルの双方に形成した溝部間に接着剤を注入するステップと、
    前記砥石と前記クイルの双方の溝部間の接着剤を常温で固化させるステップとを含む、超音波ツールの製作方法。
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