JP6770277B2 - 熱電変換モジュールおよびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電変換モジュールの構造に係り、特に熱電変換素子と電極部材とを接合する導電性の接合層が複合銀ナノ粒子の焼結体で構成された熱電変換モジュールおよびその製造方法に関する。
近年、深刻化しつつあるエネルギー資源の枯渇や地球温暖化などの環境問題を軽減する方法のひとつとして、排熱を直接電気エネルギーに変換することができる熱電発電が知られている。
熱電発電に使用される熱電変換材料は、熱を直接、電気に変換することのできる材料として知られている。例えば、熱電変換材料の一端を高温として、他端を低温とすると、高温部と低温部の温度差に応じて端部の間に起電力が発生する。この材料の端部の間に発生した起電力を熱起電力と呼び、このような効果はゼーベック効果といわれる。ゼーベック効果は、熱電変換素子の接合層を高温にしたり低温にしたりすることで電流の方向は逆になる。また、熱電変換材料の他端から電流を流すと、両端に温度差が生じる現象はペルチェ効果といわれており、これらの効果を持つ素子を熱電変換素子と呼ばれる。熱電変換材料は、一般的に、熱によって励起されるキャリアが電子であるn型半導体と、ホールであるp型半導体が知られており、これらの熱電変換素子を、電極を介して交互に接合してπ型の熱電変換モジュールとする構成がよく知られている。このπ型熱電変換モジュールは、p型半導体の一端とn型半導体の一端とを電極により接合して構成され、この接合層を高温として、p型半導体及びn型半導体の他端を低温にすると、高温部と低温部の温度差に応じてp型半導体及びn型半導体の端部の間に発生する起電力が効率よく取り出すことができる。
前記のような熱電変換モジュールは、駆動部がない、構造が単純、メンテナンスフリー等の特長を有する特徴から、例えば、溶鉱炉、焼却炉等の工業炉、自動車関連製品等への展開が検討されており、これらの製品に取り付けた場合、熱電変換モジュールは300〜600℃の高温環境下で発電を行うことが想定される。
しかしながら、前記高温環境下では、熱電変換モジュールにおいて熱電変換素子と電極部材間の熱膨張差により、熱電変換素子と電極部材とを接合している接合層に応力が発生し、前記接合層が破壊されることが懸念される。また、前記接合層に発生する応力は、使用環境温度が高いほど、または熱電変換素子と接合材、電極の線膨張係数差が大きいほど高くなる傾向にあり、モジュール設置箇所によっては、振動や衝撃を伴う可能性もあり、モジュールに生じる熱応力に振動や衝撃が加わることで接合層の破壊を助長することが懸念される。
したがって、前記接合層には、前記300〜600℃の高温環境下でも、接合強度が高く(接合信頼性)、導電性や熱伝導性に悪影響が出ないことが必要である。
前記接合層の構成については、例えば、電極面にスクリーン印刷でクリーム半田を塗布し、このクリーム半田で電極と熱電変換素子とを接合する方法(特許文献1)、熱電変換素子の接合面に予め導電性被膜(無電解Niメッキ層等)を形成し、この導電性被膜を介して電極と半田接合する方法(特許文献2)などが記載されている。
しかしながら、特許文献1、2に記載されている半田付けでは、高温熱源を利用する熱電変換モジュールに求められる耐熱性を満足させることができず、その結果として熱電変換素子と電極との間の接合層の接合信頼性等が低下する懸念がある。
また、前記結合層を構成する材料としては、銀ろうなどの金属ろう材が知られている。銀ろうの主成分である銀は、導電性や熱伝導性に優れるという特性がある一方で、接合処理に780℃を超えた高温に加熱する必要があり、この高温により、熱電変換材料の種類によってはダメージを受けてしまう懸念がある。
また、銀ろう以外にも、Ag及びCuの二元素系合金を主成分とし、Ti、Zr及びHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の活性金属を0.1〜10質量%含有する活性金属ろう材(特許文献3)、主成分として銀および銅を含むとともに、インジウム,亜鉛および錫から選択される少なくとも1種の元素Aと、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選択される少なくとも1種の元素Bと、モリブデン,オスミウム,レニウムおよびタングステンから選択される少なくとも1種の元素Cとを含み、接合層を構成する全成分100質量%のうち、前記銅の含有量が35質量%以上50質量%以下であるろう材(特許文献4)なども知られている。
これらのろう材は、銀ろうの場合と比べて、接合時の処理温度を低く抑えることが可能になるものの、銀よりも導電性や熱伝導性が低い材料が使用されているため、導電性や熱伝導性の点で劣る懸念がある。
また、前記熱電変換素子や電極部材には、耐久性を高めるために、表面に金属コーティングが施されることが知られており、中でも、ニッケルを含有するニッケルコーティングが保護性と導電性に優れることが知られている。
しかしながら、ニッケルに対する銀の接合強度は低く、例えば、銀ろうを用いて前記ニッケルコーティングを表面に有する熱電変換素子と電極部材との間に接合層を形成はできたとしても、軽い衝撃を加えると接合層が破損してしまう問題があった。
このように、熱電変換モジュールにおいて、表面にニッケル含有層を有する熱電変換素子と電極部材と間に設ける接合層として、構成材料に銀が含有されている場合には、その接合強度が高く、かつ導電性および熱伝導性にも優れた熱電変換モジュールを得るまでには至っていなかった。
特開2001−168402公報 特開2001−352107公報 特開2016−157749号公報 特開2012−119379号公報
本発明の目的は、熱電変換素子と電極部材とを接合する接合層の接合強度が高く、且つ導電性および熱伝導性に優れた熱電変換モジュールおよびその製造方法を提供することにある。
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、表面にニッケル含有層が設けられている熱電変換素子と電極部材との間を接合する接合層として、銀原子の集合体からなる平均粒径が1〜20nmの範囲にある銀核の周囲に、炭素数が1〜12のアルコール分子誘導体、アルコール分子残基、又はアルコール分子の一種以上からなる有機被覆層を有する複合銀ナノ粒子の焼結体を採用し、その焼結温度を350〜450℃の範囲に調整した場合に、熱電変換素子および/または電極部材の表面に設けたニッケル含有層に対する接合強度が顕著に向上するという現象を初めて見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は、
(1)温度差を電力に変換するための熱電変換素子と、
前記熱電変換素子により変換された電力を取り出すための電極部材と、
前記熱電変換素子と前記電極部材とを接合する導電性の接合層と、を有する熱電変換モジュールであって、
前記接合層と接触する前記熱電変換素子および/または前記電極部材の表面にニッケル含有層が設けられており、
前記接合層が、銀原子の集合体からなる平均粒径が1〜20nmの範囲にある銀核の周囲に、炭素数が1〜12のアルコール分子誘導体、アルコール分子残基、又はアルコール分子の一種以上からなる有機被覆層を有する複合銀ナノ粒子の焼結体であり、
前記接合層による接合強度が20MPa以上であることを特徴とする熱電変換モジュール、
(2)温度差を電力に変換するための熱電変換素子と、
前記熱電変換素子により変換された電力を取り出すための電極部材と、
前記熱電変換素子と前記電極部材とを接合する導電性の接合層と、を有する熱電変換モジュールの製造方法であって、
前記熱電変換素子と前記電極部材との間に、複合銀ナノ粒子及び揮発性溶媒からなるナノ銀ペーストを塗布した後、350〜450℃で焼結処理する工程を有し、
前記接合層と接触する熱電変換素子および/または前記電極部材の表面にニッケル含有層が設けられており、
前記複合銀ナノ粒子が、銀原子の集合体からなる平均粒径が1〜20nmの範囲にある銀核の周囲に、炭素数が1〜12のアルコール分子誘導体、アルコール分子残基、又はアルコール分子の一種以上からなる有機被覆層を有する複合銀ナノ粒子であることを特徴とする熱電変換モジュールの製造方法、
に関する。
本発明の熱電変換モジュールによれば、表面にニッケル含有層を有する熱電変換素子と電極部材とを接合している接合層が高い接合強度を有し、かつ優れた導電性および熱伝導性を有するため、溶鉱炉、焼却炉等の工業炉、自動車関連製品等、様々な部材に設置することができ、前記部材から排出される排熱を効率よく電気に変換することが可能になる。
本発明の一実施形態による熱電変換モジュール1の構造を模式的に示す断面図である。 試験例1で行った、接着層の接合強度の測定結果を示すグラフである。
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。なお、以下では本発明の実施形態を図面に基づいて説明するが、それらの図面は図解のために提供されるものであり、本発明はそれらの図面に限定されるものではない。
図1は本発明の一実施形態による熱電変換モジュールの構造を示す断面図である。同図に示す熱電変換モジュール1は、複数のp型熱電変換素子2と複数のn型熱電変換素子3とを有している。これらp型熱電変換素子2とn型熱電変換素子3は同一平面上に交互に配列されており、モジュール全体としてはマトリックス状に配置されて熱電変換素子群を構成している。1つのp型熱電変換素子2にはn型熱電変換素子3が隣接している。
p型熱電変換素子2およびn型熱電変換素子3は、温度差を電力に変換することができる。前記熱電変換素子の材料としては、様々なものがあり、シリサイド系材料、酸化物系材料、スクッテルダイト(遷移金属とプニクトゲンの金属間化合物)、ハーフホイッスラー等を用いることができる。中でも、MnSi1.73、Mg2Siなどのシリサイド系材料、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、コバルト酸ナトリウム(NaCo24)などの酸化物系材料は、300〜600℃の高温条件下でも高い熱電性能が発揮できる。
1つのp型熱電変換素子2とこれに隣接する1つのn型熱電変換素子3の上部には、これら素子間を接続する第1の電極部材4が配置されている。他方、1つのp型熱電変換素子2とこれに隣接する1つのn型熱電変換素子3の下部には、これら素子間を接続する第2の電極部材5が配置されている。また、第1の電極部材4と第2の電極部材5は素子1個分だけずれた状態で配置されており、このような配置にすることで、p型熱電変換素子2、n型熱電変換素子3、p型熱電変換素子2、n型熱電変換素子3…の順に直流電流が流れるようになっている。
第1および第2の電極部材4、5を構成する材料としては、Cu、Ag、FeおよびNiから選ばれる少なくとも1種を主成分とする金属材料が好ましい。これらの金属材料は、熱電変換素子2、3と接合した際に、熱応力を緩和する働きを示すことで、第1および第2の電極部材4、5と熱電変換素子2、3との接合部の熱応力に対する信頼性、例えば熱サイクル特性を高めることが可能となり、さらに、Cu、Ag、Fe、Niを主成分とする金属材料は導電性に優れることから、例えば熱電変換モジュール1で発電した電力を効率よく取り出すことができる。
p型およびn型熱電変換素子2、3と第1および第2の電極部材4、5とは、それぞれ接合層6を介して接合されている。このため、p型およびn型熱電変換素子2、3は接合層6を介して第1および第2の電極部材4、5に対して電気的および機械的に接続されている。
前記接合層6と接触する熱電変換素子2、3および/または電極部材4、5の表面にはニッケル含有層7が設けられている。ニッケル含有層7は、図1に示すように、前記熱電変換素子2、3および電極部材4、5の表面すべてに設けられていてもよいし、図示しないが、前記熱電変換素子2、3または電極部材4、5の表面のいずれかに設けられていてもよい。
ニッケル含有層7を構成する材料としては、ニッケル、Ni−P合金、Ni−B合金、Ni−W合金、Ni−Fe合金などが挙げられる。
ニッケル含有層7は、前記熱電変換素子2、3の表面または電極部材4、5の表面にいわゆるメッキ処理を施すことで設けることができる。
前記メッキ処理の方法としては、公知の方法であればよく、特に限定はない。
また、前記熱電変換素子2、3または電極部材4、5の表面自体にニッケルが含有されている場合には、その表面もニッケル含有層7に含まれる。
前記接合層6は、銀原子の集合体からなる平均粒径が1〜20nmの範囲にある銀核の周囲に、炭素数が1〜12のアルコール分子誘導体、アルコール分子残基、又はアルコール分子の一種以上からなる有機被覆層を有する複合銀ナノ粒子の焼結体で構成される。かかる構成により、前記接合層6の接合強度が高くなり、かつ優れた導電性および熱伝導性を有するものとなる。
前記複合銀ナノ粒子の銀核粒径は1〜20nmであり、複合銀ナノ粒子自体の粒径はアルコール有機被覆層の厚み分だけ増大するが、炭素数が1〜12に制限されるから、その厚みはそれほど大きくない。炭素数が小さくなるほどその厚みも小さくなり、同時に銀核重量比が増大し、接合強度も強くなる性質を有する。
前記複合銀ナノ粒子の銀核粒径は、複合銀ナノ粒を高分解能透過型電子顕微鏡で観察することで確認できる。例えば、国際公開第2009/090846号に記載の複合銀ナノ粒子では、京都大学に設置されている加速電圧200kVの透過型電子顕微鏡JEM−2000FXにより撮影すると、単分散した状態にある複合銀ナノ粒子の銀核に格子像が確認されており、その銀核直径は1〜20nmの範囲にあり、格子間隔は0.24nmとなり、バルク銀の(111)面の面間隔と一致することが確認され、この結果から、銀核は多結晶ではなく、銀の単結晶であるか、単結晶に近い状態にあることが分かっている。従って、アルコール由来物質により銀核が被覆されている複合銀ナノ粒子は、格子像が観察される程度に結晶性が高く、その結果、銀核内部に粒界が殆んど無いため、電子散乱性や熱散乱性が小さく、高電気伝導性と高熱伝導性を有する。
前記複合銀ナノ粒子では、前記銀核の周囲に、有機被覆層を有しており、前記有機被膜層が炭素数(C数)が1〜12のアルコールで構成されているため、C14以上と比較してアルコール分子量が従来よりも比較的小さく、焼成時の排ガス量が少ないだけにボイド発生量が少なくなり、接合強度が高く且つ銀核重量比が増大する利点がある。前記有機被覆層はアルコール由来成分から構成されるので、手肌に付着しても安全であり、焼成によりCO2とH2Oが気散するだけであるから極めて安全で、環境保全に有効である。アルコール分子誘導体とはアルコール分子から誘導生成されるアルコール誘導物質全般であり、カルボン酸やカルボン酸基、アルコキシドやアルコキシド基などが含まれる。アルコール分子残基とはアルコール分子の一部成分が分離された残基であり、アルコキシドやアルコキシド基も含まれ、その他の切断残基も含まれる。アルコール分子とはアルコール分子自体である。
前記有機被覆層において、アルコールの分子式をCn2n+1OHとしたとき、そのアルコキシド基とはCn2n+1Oであり、更に低級のアルコキシド基でも、前記アルコキシド基に相当する。アルコキシド基はアルコール分子残基といってもよいが、アルコール分子誘導体といっても構わない。また、アルコールの分子式をCn2n+1OHとしたとき、そのカルボン酸基とはCn-12n-1COOであるが、更に低級のカルボン酸基でも構わない。このカルボン酸基はアルコール分子誘導体に含まれる。
前記有機被覆層がカルボン酸基やアルコキシド基を含む場合には、複合銀ナノ粒子が極めて安全である。また、生成後の有機被覆層が時間的に変化して、カルボン酸基になったり、アルコキシド基になったり、それらの混合層に変化することもある。Cn2n+1Oは狭義のアルコキシド基であるが、本発明でアルコキシド被覆複合銀ナノ粒子と称する場合は広義の意味で使用され、前記アルコール由来有機被覆層を有した複合銀ナノ粒子を意味する。有機被覆層の材料は全てアルコール由来であり、アルコールの安全性は他の有機物と比較して極めて高いから、本発明で使用する複合銀ナノ粒子は、安全性、環境保全性、取扱容易性において保証される。
前記複合銀ナノ粒子は、国際公開第2009/090846号に記載の方法で作製することができる。
例えば、銀塩微粒子を炭素数1〜12のアルコール溶媒中に混合してアルコール溶液を調製し、前記アルコール溶液を反応室中で所定の生成温度PTで所定の生成時間だけ加熱して、前記アルコール溶媒により前記銀塩微粒子を還元して平均粒径が1〜20nmの銀核を形成し、この銀核の周囲に前記アルコール溶媒のアルコール分子誘導体、アルコール分子残基、又はアルコール分子の一種以上からなる有機被覆層を形成する複合銀ナノ粒子の製法が提供される。
前記銀塩としては、無機銀塩と有機銀塩が使用でき、無機銀塩には炭酸銀、塩化銀、硝酸銀、リン酸銀、硫酸銀、ほう酸銀、フッ化銀などがあり、また有機銀塩にはギ酸銀、酢酸銀などの脂肪酸塩、スルホ酸塩、ヒドロキシ基・チオール基・エノール基の銀塩などがある。この中でもC、H、OとAgからなる銀塩又はC、OとAgからなる銀塩が好ましく、炭酸銀(Ag2CO3)が好適である。
アルコールを溶媒として用いるから、アルコールの還元力により、無機銀塩でも有機銀塩でも比較的低温で本発明の複合銀ナノ粒子が生成できる。無機銀塩はアルコールに難溶性であるが、有機銀塩はアルコールに溶解するものと難溶性のものがある。アルコール溶解性有機銀塩としてはアビチエン酸銀など極めて少数であり、無機銀塩と多くの有機銀塩はアルコール難溶性と考えてよい。
前記アルコール溶液とは、銀塩とアルコールの混合液であり、アルコール量を増加させて、生成された複合銀ナノ粒子がアルコール中を浮遊する状態にすれば、相互の衝突確率が低減し、複合銀ナノ粒子の会合が阻止できる。また、大量のアルコール分子を前記銀塩微粒子の表面に吸着させ、表面反応を促進させる。アルコールの一般式はRnOH(Rnは炭化水素基)であり、Rnは疎水基で、OHは親水基であるから、考え方を変えればアルコールは界面活性作用を有した界面活性剤である。銀塩の多くはアルコール難溶性であるが、銀塩微粒子表面はアルコールのOH基が結合しやすい性質を有している。従って、銀塩微粒子はアルコールで取り囲まれ、銀塩微粒子の粒径が小さくなると安定な単分散コロイドになると云っても良い。銀塩微粒子の粒径が大きくなると、アルコール中を沈殿する可能性があるが、混合攪拌して一定時間分散状態にある場合には、その間に反応を完了させればよい。
また、アルコール自体でも還元作用を有するが、アルコールは200℃以下の生成温度でもアルデヒドに容易に変化し、このアルデヒドは強力な還元作用を有する。つまり、前記銀塩微粒子の表面にアルコール及び/又はアルデヒドが作用して次第に銀が析出し、最終的には銀塩微粒子の全領域が還元されて銀核へと転化する。この銀核の周囲に、アルコールに由来するアルコール分子誘導体、アルコール分子残基、又はアルコール分子の一種以上からなる有機被覆層が形成されて複合銀ナノ粒子が生成される。生成温度PTを例えば200℃以下に設定すれば、金属化温度T3の低い複合銀ナノ粒子を生成できる。本発明では、生成温度PTを金属化温度T3(≦200℃)より低く設定して、低温焼成用の複合銀ナノ粒子を生成する。銀核の平均粒径は1〜20nmであるが、銀塩微粒子の微細化処理を徹底的に行えば、より小さな粒径の複合銀ナノ粒子を製造することができる。
前記複合銀ナノ粒子は、CnAgALとも表現される。n=1〜12に対応して、C1AgAL、C2AgAL、C3AgAL、C4AgAL、C5AgAL、C6AgAL、C7AgAL、C8AgAL、C9AgAL、C10AgAL、C11AgAL、C12AgALが存在する。その意味は、炭素数n=1〜12のアルコールから生成された複合銀ナノ粒子である。従って、C1はメタノール、C2はエタノール、C3はプロパノール、C4はブタノール、C5はペンタノール、C6はヘキサノール、C7はヘプタノール、C8はオクタノール、C9はノナノール、C10はデカノール、C11はウンデカノール、C12はドデカノールを意味している。n=偶数のアルコールは天然植物由来のアルコールであり、他方、n=奇数は化学合成アルコールであるから、n=偶数のアルコールは比較的安価であり、安価な複合銀ナノ粒子を提供できる。また、炭素数nが少なくなるに応じて銀核の重量比が高くなり、銀量の多い複合銀ナノ粒子を提供できる。
前記複合銀ナノ粒子としては、国際公開第2009/090846号に記載の方法以外にも、国際公開第2009/116136号、国際公開第2009/116185号に記載の製造方法に準じて作製された複合銀ナノ粒子も好適に使用することができる。
本発明において、前記複合銀ナノ粒子の焼結体とは、前記複合銀ナノ粒子が350〜450℃の温度で焼結処理されたものをいう。例えば、前記複合銀ナノ粒子の焼結体は、電極部材4、5上に複合銀ナノ粒子及び揮発説溶媒からなるナノ銀ペーストを塗布し、さらにその上に熱電変換素子2、3を配置した後、これらを真空中や不活性雰囲気中で熱処理することにより、複合銀ナノ粒子中の銀の超粒子を溶融させて、一体化した金属の状態にし(金属化)、次いで、冷却して前記熱電変換素子2、3と前記電極部材4、5との間で焼結体とすることで、前記熱電変換素子2、3と前記電極部材4、5との間を電気的、機械的に接合することが可能になる。
前記焼結処理としては、接合層6の接合強度が顕著に高くなるという観点から、350〜450℃に加熱する焼結処理を行うことが好ましい。
前記焼結処理は、最終的に350〜450℃の温度範囲で一定時間加熱できればよい。例えば、350℃よりも低い温度から昇温していき、350〜450℃の範囲に維持して焼結処理を行ってもよい。
また、前記焼結処理においては、接合強度を向上する観点から、加熱時に圧力を加えてもよい。加圧する圧力としては、0.1〜40.0MPaの範囲であればよい。
前記ナノ銀ペーストに使用される揮発性溶媒としては、疎水性非水系溶媒が挙げられ、例えば、トルエン、キシレン、ケロシン、シクロヘキサン等の石油系炭化水素類、及びテレピン油、ターピネオール等のテルペン類等の有機溶媒がある。また、親水性非水系溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類等がよく利用される。
更に、本発明で用いられる揮発性溶媒は、前記疎水性非水系溶媒でも親水性非水系溶媒でもよい。
なお、本発明では、揮発性溶媒として水は排除される。例えば、複合銀ナノ粒子の中に水が入ると、銀原子を含む金属部分が空気と触れた時に酸化して金属酸化物に変質する。これらの理由から、本発明では、水は揮発性溶媒として排除される。
また、前記ナノ銀ペーストは、粘性付与剤を含有していてもよい。前記粘性付与剤は前記溶液に添加して塗着し易い粘性を付与する材料であり、例えばテレピンオイル、ターピネオール、メチルセルロース、エチルセルロース、ブチラール、各種テルペン誘導体、IBCH(イソボルニルシクロヘキサノール)、グリセリン、C14以上の常温で固形のアルコールなどが利用できる。テルペン誘導体としては1,8−テルピンモノアセテート、1,8−テルピンジアセテートなどがある。IBCHは松脂状、グリセリンはシロップ状、C14以上のアルコールは固液変化する性質を有し、10℃以下では非流動性を有する。前記非流動性粘性付与剤に本発明の複合銀ナノ粒子を混合分散させて非流動性ペーストにすれば、10℃以下の低温では複合銀ナノ粒子が分散状に固定されているから、複合銀ナノ粒子同士の凝集が生起しない。使用する直前に前記非流動性ペーストを加熱すれば流動化してペーストとして塗着可能になり、ペーストとしての機能を発揮できる。また、使用直前に前記非流動性ペーストに溶剤を添加すれば、加熱しなくても流動性ペーストになり、ペーストとしての機能を発揮できる。
また、前記ナノ銀ペーストには、前記複合銀ナノ粒子の特性に悪影響を与えない範囲で、他の金属微粒子を含んでいてもよい。
前記複合銀ナノ粒子の焼結体では、前記揮発性溶媒が揮発して、実質的に銀を主成分とする金属化物となっており、銀の溶融温度である960℃以上に加熱しないと再溶融しないことから、前記接合層6は耐熱性が非常に優れたものとなる。
前記複合銀ナノ粒子の焼結体からなる接合層6による接合強度としては、20MPa以上であり、40MPa以上がより好ましい。
本発明において、接合層6の接合強度は、φ5mm銅継手試験片を用いた「JIS Z 3198−5」に準じて測定したせん断強度で表すことができる。前記接合強度(せん断強度)は、具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
前記のような構成の接合層6を備えた熱電変換モジュール1では、熱電変換素子2、3を接合部6、ひいては電極部材4、5と強固に接合できることで、電気的、熱伝導的にも良好に接続することが可能となり、熱電変換素子2、3と電極部材4、5との間の熱抵抗や電気的接触抵抗の低減等に基づいて、電力を得るための熱(温度差)を熱電変換素子2、3に効率よく伝えることができる。これらによって、熱電変換モジュール1の熱電変換効率を向上させることが可能となる。
また、前記構成を有する熱電変換モジュール1は、スケルトンタイプのままで使用してもよいし、前記電極部材4、5のうち、高温側または低温側の片方だけ絶縁性導熱板に固定されたハーフスケルトンタイプにしてもよいし、図1に示すように、電極部材4、5の両側が絶縁性導熱板などに固定されているタイプの熱電変換モジュールにしてもよい。
例えば、図1に示すタイプの熱電変換モジュールは、第1の電極部材4の外側(熱電変換素子2、3と接合される面とは反対側の面)には、これら電極部材4に共通に接合された上部絶縁性導熱板8が配置されている。他方、第2の電極部材5の外側にも、これら電極部材5に共通に接合された下部絶縁性導熱板9が配置されている。すなわち、第1および第2の電極部材4、5はそれぞれ絶縁性導熱板8、9で支持されており、これらによってモジュール構造が維持されている。
絶縁性導熱板8、9は、絶縁性セラミックス板で構成することが好ましい。例えば、絶縁性導熱板8、9には熱伝導性に優れる窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、アルミナおよびマグネシアから選ばれる少なくとも1種を主成分とする焼結体からなるセラミックス板を使用することが望ましい。
第1および第2の電極部材4、5はそれぞれ接合部10を介して上部および下部絶縁性導熱板8、9に接合されている。前記絶縁性導熱板8、9と、前記電極部材4、5との接合には、熱伝導性のある接合材を用いればよいが、前記複合銀ナノ粒子の焼結体を用いれば電極部材4、5と絶縁性導熱板8、9との接合強度や接合信頼性を高めることができると共に、熱抵抗を低減することが可能となる。これらも熱電変換モジュール10のモジュール性能の向上に寄与する。
図1に示した熱電変換モジュール1は、例えば上下の絶縁性導熱板8、9間に温度差を与えるように、上部絶縁性導熱板8を低温側(L)に配置し、かつ下部絶縁性導熱板9を高温側(H)に配置して使用される。この温度差に基づいて第1の電極部材4と第2の電極部材5との間に電位差が生じ、電極の終端に負荷を接続すると電力を取り出すことができる。このように、熱電変換モジュール1は発電モジュールとして有効に利用されるものである。この際、300〜600℃の高温で使用可能であり、かつ高い熱電変換性能を有するため、高温の熱源を利用した高効率の発電装置を実現することが可能となる。
なお、熱電変換モジュール1は熱を電力に変換する発電用途に限らず、電気を熱に変換する加熱もしくは冷却用途に使用することも可能である。すなわち、直列接続されたp型熱電変換素子2およびn型熱電変換素子3に対して直流電流を流すと、一方の絶縁性導熱板側では放熱が起こり、他方の絶縁性導熱板側では吸熱が起こる。従って、放熱側の絶縁性導熱板上に被処理体を配置することによって、被処理体を加熱することができる。あるいは、吸熱側の絶縁性導熱板上に被処理体を配置することによって、被処理体から熱を奪って冷却することができる。例えば、半導体製造装置では半導体ウエハの温度制御を実施しており、このような温度制御に熱電変換モジュール1を適用することができる。
次に、図1に記載の熱電変換モジュール1の製造方法について説明する。
まず、表面にニッケルコーティングを施した、熱電変換素子2、3と電極部材4、5を用意する。
次いで、電極部材5の表面の、熱電変換素子2、3との接合する部分に、ナノ銀ペースト(6)を適量、塗布する。
ナノ銀ペースト(6)の量は、350〜450℃の加熱を伴う焼結処理により金属化した銀接着層の厚さとして、15μm以上が好ましく、更に20μm〜50μmとなるよう調整する。
次いで、p型及びn型熱電変換素子2、3を各1個ずつ、一定の間隔をあけて1枚の電極部材5ごとに、ナノ銀ペースト(6)の塗布面に配置する。
ナノ銀ペースト(6)により一体となった、電極部材5とp型及びn型熱電変換素子2,3を、電気炉に入れ、350〜450℃の加熱を伴う焼結処理を施してナノ銀ペーストを金属化する。焼結処理時間は、前記ナノ銀ペースト中の複合銀ナノ粒子の焼結が完了するまでの時間であればよいが、電極部材5、熱電変換素子2、3への熱による影響を抑える観点から、10〜60分程度が好ましい。
次いで、上記工程でナノ銀ペーストを金属化して得られた接着層6により強固に固着一体となった、p型及びn型熱電変換素子2,3と電極部材5を、熱電変換モジュールの形状となるよう、図1に示すように、一定の方向で、一定の間隔に配置し、各p型及びn型熱電変換素子2,3の上に、ナノ銀ペースト(6)を塗布する。ナノ銀ペーストの量は、前記工程と同様である。
その後、熱電変換モジュールの最終形態である、p型熱電変換素子2、n型熱電変換素子3が交互に直列に接続するよう、熱電変換素子に塗布したナノ銀ペースト(6)の上に電極部材4を設置する。
次いで、p型熱電変換素子2、n型熱電変換素子3がナノ銀ペースト(6)を介して、電極部材4で交互に固着され、一体となったものを、電気炉に入れ、350〜450℃の加熱を伴う焼結処理を施し、ナノ銀ペースト(6)を金属化せしめ、熱電変換素子2、3を電極部材4と強固に固着して熱電変換モジュール1を得る。ナノ銀ペーストの特性として、金属化する温度は、該ナノ銀ペーストを加熱処理して得られる焼結体の融点よりはるかに低いため、この焼結処理により、先に固着した接合層6に悪影響を与えない。
次いで、熱電変換素子2、3と接合していない側の電極部材4、5の表面に、前記ナノ銀ペーストを滴下または塗布し、この塗布したナノ銀ペーストの表面に絶縁性導熱板8、9を設置し、該ナノ銀ペーストを上記と同様にして乾燥固化及び焼結処理により金属化して接合部10を形成して、図1に示す熱電変換モジュール1を製造することができる。
以上説明した実施形態では、電極部材を片側ずつ加熱接合させていたが、両面を同時に加熱接合することも可能である。
次に、本発明の熱電円環モジュール1を備えた熱交換器の実施形態について説明する。前記熱交換器は、上述した実施形態による熱電変換モジュール1を具備する。熱交換器は基本的には熱電変換モジュール1の片側に加熱面(吸熱面)が配置され、その反対側に冷却面(放熱面)が配置された構造を有する。例えば、吸熱面は熱源からの高熱の媒体が通過する通路を備え、その反対側の放熱面は冷却水や空気等の低温の熱媒が通過する通路を備える。熱媒が通過する通路やその外側には、フィンや邪魔板(バッフル)等が配置されていてもよい。水通路やガス通路に代えて、放熱板、フィン、吸熱板等を使用してもよい。
前記熱交換器は熱電変換モジュール1の片側の面に接触するようにガス通路が配置されており、その反対側の面には水流路が接触するように配置されている。ガス通路内には例えばごみ焼却炉からの高温の排ガスが導入される。他方、水流路内には冷却水が導入される。熱電変換モジュール1の片側の面はガス通路内を流れる高温排ガスにより高温側となり、他方は水流路内を流通する冷却水により低温側となる。
このようにして、熱電変換モジュール1の両端に温度差を生じさせることによって、熱交換器を構成する熱電変換モジュール1から電力が取り出される。吸熱面については燃焼炉からの高温排ガスに限らず、例えば自動車エンジンの排気ガス、ボイラー内水管等を適用するとこができ、さらには各種燃料を燃焼させる燃焼部自体であってもよい。
(試験例1:接着層の接合強度の測定)
図1に示す熱電変換モジュールと同様の金属組成を用いた試験片を準備し、国際公開第2009/090846号記載の複合銀ナノ粒子を含有したナノ銀ペースト(アルコナノ(登録商標)銀ペースト)を用いて接合し、得られた接合体テストピースを用いて、JIS Z 3198−5に準じてせん断強度を測定した。
なお、テストピースの材料は以下のものを用いた。
銅試験片(φ10mm,t=5mm)
ニッケル試験片(φ5mm,t=2mm)
ナノ銀ペースト(商品名「ANP−4」:株式会社日本スペリア社製)
テストピース作製条件は、以下のとおり。
φ10mm銅試験片上にステンシルを用いて、ナノ銀ペーストを50μmの膜厚になるように塗布する。
次に、ナノ銀ペーストを塗布した銅試験片を以下の手順と条件にて焼結処理を行いテストピースとした。
焼結処理前にテストピースを予め130℃で1分間加熱し、次いで、窒素雰囲気下にて10MPaで加圧をかけながら、昇温させ所定温度に達した後、3分間その温度を維持して焼結処理を行った。所定温度は、300℃、350℃、400℃、450℃の4点に調整した。
得られたせん断強度の結果を図2に示す。なお、テストピースは4つを用意し、平均値を結果とした。
図2に示されるように、せん断強度は、300℃の焼結処理では11MPa付近であったが、350℃の焼結処理では51MPa付近に上昇し、400℃の焼結処理では90MPa、450℃の焼結処理では測定限界を超える高さの強度となった。
なお、せん断強度の測定はエーアンドディ社製テンシロン万能試験機にて実施した。
また、テストピース熱電変換モジュールにおいて、p型またはn型の熱電変換素子と電極部材との間に設けた接合層が20MPaを超える接合強度を有していれば、排熱を利用するために様々な部材に設置しても十分な接合強度を有しており、合格品に相当すると予想される。したがって、350〜450℃の焼結処理を行うことで、前記接合層の結合強度が十分な高さを有する熱電変換モジュールを得られることがわかる。
1 熱電変換モジュール
2 熱電変換素子(p型)
3 熱電変換素子(n型)
4、5 電極部材
6 接合層
7 ニッケル含有層
8、9 絶縁性導熱板
10 接合部

Claims (2)

  1. 温度差を電力に変換するための熱電変換素子と、
    前記熱電変換素子により変換された電力を取り出すための電極部材と、
    前記熱電変換素子と前記電極部材とを接合する導電性の接合層と、を有する熱電変換モジュールであって、
    前記接合層と接触する前記熱電変換素子および/または前記電極部材の表面にニッケル含有層が設けられており、
    前記接合層が、銀原子の集合体からなる平均粒径が1〜20nmの範囲にある銀核の周囲に、炭素数が1〜12のアルコール分子誘導体、アルコール分子残基、又はアルコール分子の一種以上からなる有機被覆層を有する複合銀ナノ粒子の焼結体であり、
    前記接合層による接合強度が20MPa以上であることを特徴とする熱電変換モジュール。
  2. 温度差を電力に変換するための熱電変換素子と、
    前記熱電変換素子により変換された電力を取り出すための電極部材と、
    前記熱電変換素子と前記電極部材とを接合する導電性の接合層と、を有する熱電変換モジュールの製造方法であって、
    前記熱電変換素子と前記電極部材との間に、複合銀ナノ粒子及び揮発性溶媒からなるナノ銀ペーストを塗布した後、350〜450℃で焼結処理する工程を有し、
    前記接合層と接触する熱電変換素子および/または前記電極部材の表面にニッケル含有層が設けられており、
    前記複合銀ナノ粒子が、銀原子の集合体からなる平均粒径が1〜20nmの範囲にある銀核の周囲に、炭素数が1〜12のアルコール分子誘導体、アルコール分子残基、又はアルコール分子の一種以上からなる有機被覆層を有する複合銀ナノ粒子であることを特徴とする熱電変換モジュールの製造方法。
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