以下、各実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない場合がある。
以下では、まず、本願発明者によるこれまでの特許出願と本開示との相違点について説明する。これにより、本開示の課題がより明確になるであろう。次に、本開示で用いる主な用語について説明する。その後、実施の形態1として本開示の信号処理装置および信号処理方法の基本概念について説明する。実施の形態2では、本開示の信号処理装置および信号処理方法を電力系統の電力動揺波形の解析に適用した例について説明する。
<本願発明者のこれまでの特許出願と本開示との相違点>
本願発明者は、電力系統の交流電圧の対称性を利用して交流電圧の周波数および振幅などを測定する手法として、ゲージ電圧群およびゲージ差分電圧群を利用する方法を提案してきた。ゲージ電圧群とは、交流電圧を複素平面上での回転ベクトルとして表示した場合において、時間的にTg(ゲージサンプリング周期と称する)だけ相互に隔てた3つの回転ベクトルをいう。ゲージ差分電圧群とは、時間的にTgだけ相互に隔てた4つの回転ベクトルにおいて、隣接する回転ベクトル同士の差分をとることによって得られる3つの差分ベクトルをいう。電力系統の交流電流についても同様にゲージ電流群およびゲージ差分電流群を定義することができる。なお、複素平面上での交流電圧または交流電流の回転ベクトルを同期フェーザとも称し、ゲージ電圧/電流群およびゲージ差分電圧/電流群をゲージ同期フェーザ群およびゲージ差分同期フェーザ群とも称する。
本願発明者は、さらに、未公開の先行出願(特願2016−115217)において、ゲージ同期フェーザ群およびゲージ差分同期フェーザ群を利用して、同期フェーザの振幅および周波数だけでなく、位相を解析的に計算する手法を開示した。ただし、上記の未公開の特許出願では、時間窓の範囲内では振幅が変化しない場合を取り扱っている。
本開示は、上記の未公開の特許出願の技術を拡張したものであり、振幅が変化する場合、すなわち、上記の同期フェーザ(もしくは、回転ベクトル)が減衰率λで時間変化する項exp(λt)を含む場合に向けられている(expは指数関数を表す)。このように振幅が時間的に変化する回転ベクトルは、スパイラルベクトル(以後、SVと略記する場合がある)と称される。特に本開示は、ゲージSV群およびゲージ差分SV群を用いて減衰率および振動周波数を解析的に求める手法を提供する。
本願発明者による特許文献1(特許第5538203号公報)も、本開示のゲージSV群およびゲージ差分SV群に相当する対称群を用いて、基本波であるスパイラルベクトルの減衰率および振動周波数の計算手法を開示している。しかし、この特許文献1では、最小二乗法を用いて演算を行っているため、計算される減衰率および振動周波数は近似解である。さらに、最小二乗法による信号処理は暗黙に直流成分は零であることを想定している。このため、電力系統の電力動揺波形のようにベース潮流に小さな減衰振動(または増幅振動)が重畳した波形に対しては、特許文献1に開示された方法を適用することができない。
これに対して本開示の信号処理装置および信号処理方法は、ゲージSV群およびゲージ差分SV群を用いて、スパイラルベクトルの減衰率、振動周波数、および位相角の解析解を求める手法を提供するものである。さらに、本開示の信号処理装置および信号処理方法は、信号波形に含まれる交流成分の最大振幅よりも直流成分が大きい場合にも適用可能である。
さらに、前述したように、本開示による信号処理装置および信号処理方法よれば、DFTまたは最小二乗法などを用いる従来の解析手法に比べて高速かつ高精度に減衰率、振動周波数、および直流レベルなどの信号波形の特徴量を抽出することができる。
以下の表1に、対称性の原理に基づく本開示の信号処理方法と従来の信号処理方法との比較を示す。表1に示す本開示の信号処理方法の特徴については、実施の形態1の基本概念の説明において順次明らかにする。
<用語の定義>
次に、本開示で用いる主な用語について説明する。
[1] 複素数:実数a,bと虚数単位jを用いてa+jbの形で表される数である。電気工学ではiが電流符号であるため、虚数単位はj=√(−1)で表す。なお、√()は()の中の平方根を表す。本開示では複素数を用いることにより回転ベクトルを表現する。
[2] 複素平面:複素数を2次元平面上の点とし、実部(Re)を横軸に、虚部(Im)を縦軸にとった直角座標で複素数を表すための平面である。
[3] スパイラルベクトル: 図1は、複素平面上のスパイラルベクトルを説明するための図である。この明細書では、スパイラルベクトルをSVと略記する場合がある。
図1を参照して、スパイラルベクトルとは、複素平面上で減衰あるいは増幅している回転ベクトルであり、次式(A1)のように定義される。本開示ではスパイラルベクトルを状態変数とする。
ここに、expを指数関数とすると、V・exp(λt)は現時点スパイラルベクトルの振幅を表す。λは減衰率を表し、ωは回転角速度(単位:ラジアン毎秒[rad/s])を表し、φ1はスパイラルベクトルの初期位相角を表す。
式(A1)中の回転角速度ωは、実周波数(または振動周波数)fを用いて次式(A2)のように表される。ただし、πは円周率である。
式(A1)のスパイラルベクトルvの実数部vreおよび虚数部vimは次式(A3)のように表される。
上式(A1)および(A3)において、減衰率λが零である場合、スパイラルベクトルは円ベクトルとなる。この場合、スパイラスベクトルは、本願発明者による未公開の先行出願(特願2016−115217)における同期フェーザと同じになる。本願発明者がこれまで提案した対称性原理測定法は、本開示においても適用できる。
なお、スパイラルベクトルv(t)に関して、次式(A4)に示す波動方程式が成立する。
上式(A4)のスパイラルベクトルの波動方程式を満たす角周波数ωと位相角φとを同時に確定することはできない。したがって、高速かつ高精度の測定のためには、スパイラルベクトの位相角の測定とスパイラルベクトルの角周波数の測定とを別々に同時に行わなければならないことが示唆される。
[4] 群論(group theory):対称性(symmetry)を研究する数学理論を包含する。
[5] 対称群(symmetry group):複素平面上で回転している対称性を有する複数のベクトルによって構成したグループ(group)をいう。
[6] 群表:群の積の規則を一覧表にしたものである。本明細書では、ゲージスパイラルベクトル群およびゲージ差分スパイラルベクトル群の群表を提示する。
[7] 不変量(invariant):不変量は、対称群が有している、ある変換の下で変化しない系の性質である。本開示における不変量としては、これらには限られないが、ゲージスパイラルベクトル、ゲージ差分スパイラルベクトル、周波数係数などがある。なお、不変量が分かれば、対称群の特性も分かる。
[8] ベクトル乗積表/加算表/減算表:対称群のメンバーであるベクトル変数同士の掛け算/加算/減算の結果を表示したテーブルである。これらのテーブルは、対称群の不変量を調べるためのロードマップになる。
[9] 実数乗積表/加算表/減算表:対称群のメンバーである実数変数同士の掛け算/加算/減算の結果を表示したテーブルである。これらのテーブルは、対称群の不変量を調べるためのロードマップになる。
[10] 周波数:ある1つスケール(以下の[19]の説明を参照)のゲージ対称群の周波数係数から計算された周波数を意味する。測定対象に高調波成分が含まれている場合、異なるスケールの瞬時周波数の計算結果は互いに異なる。
[11] 実周波数:現実の電力系統における周波数を実周波数という。実周波数は定格周波数付近で頻繁に変動している。実周波数を符号fで表現する。その単位はヘルツ[Hz]である。また、実周期を符号Tで表現する。その単位は秒[s]である。実周期Tは実周波数fの逆数、すなわち1/fに等しい。また、電気回路における実際の角周波数は、符号ωで表記する。その単位はラジアン毎秒[rad/s]である。
[12] 振動周波数:電力動揺などの周波数を意味する。上記実周波数と同じように符号fで表記する。振動角周波数も上記角周波数と同じ符号ωで表記する。
[13] 減衰率:上式(A1)のスパイラルベクトルの表式におけるλを減衰率または対数減衰率(logarithmic decrement)と称する。減衰率の単位は1/秒である。減衰率λが正の場合にスパイラルベクトルの振幅は増加し、減衰率λが負の場合にスパイラスベクトルの振幅は減少する。
後述するように、ある1つスケールにおける減衰率は、ゲージサンプリング周期だけ時間の隔てた2つのゲージSV群において、各々のゲージスパイラルベクトルの比の自然対数をサンプリング周期で除算することによって求めることができる。あるいは、減衰率は、ゲージサンプリング周期だけ時間の隔てた2つのゲージ差分SV群において、各々のゲージ差分スパイラルベクトルの比の自然対数をゲージサンプリング周期で除算することによって求めることができる。
[14] ゲージサンプリング周波数(gauge sampling frequency):ゲージ対称群の計算に使用されているサンプリング周波数である。符号fgで表記する。ゲージサンプリング周期はTgで表記するが、式展開などでは簡単のために単にTと表記する。ゲージサンプリング周期の単位は秒[s]である。ゲージサンプリング周波数fgは、ゲージサンプリング周期Tgの逆数、すなわち、1/Tgに等しい。
[15] データ収集サンプリング周波数(data collecting rate):データ収集のサンプリング速度であり、符号f1で表記する。データ収集サンプリング周波数は、高いほうが精度がよい。データ収集サンプリング周期はT1で表記し、その単位は秒である。データ収集サンプリング周波数f1は、データ収集サンプリング周期T1の逆数、すなわち、1/T1に等しい。
[16] ゲージ回転位相角:状態変数であるスパイラルベクトルにおいて、ゲージサンプリング周期に対応した位相角をゲージ回転位相角といい、符号αgで表記する。ゲージ回転位相角の値域は正の値であり、上限はないものとする。単位はラジアン[rad]である。式展開などでは簡単のために、ゲージ回転位相角を単にαと表記する。簡単のために、ゲージ回転位相角を回転位相角と称する場合がある。
[17] 測定回転位相角:次式(A5)で示すように、周波数係数fC(以下の[18]を参照)の逆余弦関数により計算された回転位相角であり、符号αで表記する。単位はラジアンである。
ゲージ回転位相角が180度以下である場合、測定回転位相角とゲージ回転位相角は等しくなる。簡単のために測定回転位相角を回転位相角と称する場合がある。
[18] 測定周波数係数:ゲージ回転位相角の余弦関数値である。簡単のために、測定周波数係数を単に周波数係数と称する。本開示における全てのゲージ対称群に対して、周波数係数の計算式が定義される。
[19] ゲージサンプリング点数(「スケール」とも称する):ゲージ回転位相角に対応するデータ収集サンプリングのデータ点数(正の整数)を意味し、符号Ngで表記する。
[20] ゲージSV(スパイラルベクトル)群:ゲージサンプリング周期Tgの時間間隔をあけて連続する3つのスパイラルベクトルにより構成した対称群をゲージSV群と称する。実波形の瞬時値はスパイラルベクトルの実数部に相当する。減衰率が零である場合、ゲージSV群はゲージ電圧群になる。
[21] ゲージ差分SV(スパイラルベクトル)群:ゲージサンプリング周期Tgの時間間隔をあけて連続する3つの差分スパイラルベクトルにより構成した対称群をゲージ差分SV群と称する。ゲージ差分SV群は、ゲージサンプリング周期Tgの時間間隔をあけて連続する4つのスパイラルベクトルにおいて、隣接するスパイラルベクトル同士の差分をとることによって得られる。減衰率が零である場合、ゲージ差分SV群はゲージ差分電圧群となる。
[22] ゲージSV(スパイラルベクトル):ゲージサンプリング周期Tgずつ時間を隔てた3つのスパイラルベクトルの瞬時値v11,v12,v13を用いて、次式(A6)で示す不変量Vg(t)が計算できる。この不変量をゲージSVと称する。
上式(A6)において、V0(t)は中心ベクトルの振幅であり、αはゲージ回転位相角である。なお、この明細書では電圧、電流、および電力についてのゲージSVを、それぞれゲージSV電圧、ゲージSV電流、およびゲージSV電力と称する場合がある。
[23] ゲージ差分SV(スパイラルベクトル):ゲージサンプリング周期Tgずつ時間を隔てた3つの差分スパイラルベクトルの瞬時値v21,v22,v23を用いて、次式(A7)で示す不変量Vgd(t)が計算できる。この不変量をゲージ差分SVまたはゲージ差分中心SVと称する。
なお、上式(A7)において、V0(t)はゲージ差分SV群の中心スパイラルベクトルの振幅であり、αはゲージ回転位相角であり、Tはゲージサンプリング周期である。この明細書では電圧、電流、および電力についてのゲージ差分SVを、それぞれゲージ差分SV電圧、ゲージ差分SV電流、およびゲージ差分SV電力と称する場合がある。
[24] ベクトル乗積:ベクトル演算とも称し、電気量を複素数表示(複素指数関数表示ともいう)した場合の2つの電気量の積をいう。本明細書のベクトル乗積表では、2つの電気量の振幅が乗算され、2つの電気量の位相角が加算される。ベクトル乗積表を利用することによって対称群の不変量を調べることができる。
[25] 電力系統の長周期動揺測定装置:電力系統は広域に連系された巨大システムである。このため、長周期の電力動揺、局所的な発電機の動揺、系統間の周波数制御に伴う動揺など長短様々な周期の複雑な系統動揺が発生することが知られている。電力系統の安定化のためには、迅速にこれらの動揺を測定することが重要である。一般に電力動揺波形は大きな直流成分(すなわち、ベース潮流)と動揺波形との合成となるので、動揺波形の減衰率および周波数などを検出するためには、直流成分の影響を受けないゲージ差分SV群を適用することが望ましい。さらにゲージSV群を組み合わせることによって、直流成分(ベース潮流)も同時に高精度に測定することができる。
[26] 多重スケール法(multiscale method):多重スケール法は、本願発明者による特許文献2(特開2016−24168号公報)において詳しく説明されている。簡単に要約すると、多重スケール法は、周波数計算参照表法とも呼ぶべきものであり、複数のゲージサンプリング周波数を用いて、同時に電気量を測定する手法に向けられる。ゲージサンプリング周波数の下限は存在しない。設定したデータ収集サンプリング周波数(例えば、4800Hz)と系統定格周波数(例えば、60Hz)とから、周波数計算参照表を予め生成する。そして、測定処理においては、複数のゲージサンプリング周波数を選択し、実周波数が系統定格周波数であると仮定し、周波数計算参照表から対応する係数を取得して、実周波数を計算する。また、不特定基本波の測定では、複数の周波数計算参照表を用いて同時計算し、異なるスケールで得られた最も近い基本波測定値を利用する。本明細書では、ある特定のゲージサンプリング点数を「スケール」と称す。
[27] 周波数計算参照表:主として、高速フーリエ変換(DFT)により生じるエイリアシング現象の影響を避けるため、多重スケール法が採用する係数テーブルを意味する。典型的には、データ収集サンプリング周波数と予め決めた基本波周波数(例えば電力系統定格周波数)とを関連付けて、各係数が予め計算される。周波数計算参照表は、信号処理装置内に格納され、適宜参照される。
[28] 相差角:複素平面上のスパイラルベクトルの位相角と仮想基準ベクトルの位相角との差分である。相差角の取り得る値は、−180度以上かつ+180度以下である。
実施の形態1.
以下、この開示の信号処理装置および信号処理方法の基本概念について説明する。以下では、電気量として主として電圧を例に挙げて説明するが、以下の基本概念は電流または電力などその他の電気量についても成立する。
[複素平面上のゲージSV群について]
図2は、複素平面上のゲージスパイラルベクトル群について説明するための図である。
図2を参照して、互いにゲージサンプリング周期Tだけ時間的に隔てて時系列に連続する複素平面上の3個のスパイラルベクトル電圧を次式(B1)で表す。
上式(B1)において、v10(t)は中心ベクトル、λは減衰率、φ0は中心ベクトルの位相角、V0(t)は中心ベクトルの振幅、ωは回転角速度、Tはゲージサンプリング周期、αはゲージサンプリング周期Tに対応する回転位相角である。
ここで、中心ベクトルv10(t)とは、ゲージSV群を構成する3つのスパイラルベクトルv1(t),v1(t−T),v1(t−2T)のうち中央のスパイラルベクトルv1(t−T)をいう。中心ベクトルv10(t)の振幅V0は、後述する式(B7)に従って、ゲージSV電圧Vg(t)をsinαで除算することによって得られる。中心ベクトルv10(t)の位相角φ0は、後述する式(B35)に従って計算することができる。本明細書では、中心ベクトルの位相角φ0をゲージSV群の中心角φ0とも称する。
ゲージSV群の対称性を明確化するために、上式(B1)の第1式にexp(−λT)を乗算し、第3式にexp(λT)を乗算することによって、上式(B1)を変形する(expは指数関数を表す)。この結果、次式(B2)で表される変形されたゲージSV群が得られる。
上記の変形されたゲージSV群はゲージ電圧群と等価なものである。
[ゲージSV群の対称性について]
図3は、ゲージSV群の鏡映対称性を説明するための図である。以下では、図3(A)を参照して鏡映対称性(reflection symmetry)について説明する。図3(B)に群表を示す。
図3(A)を参照して、上式(B2)に示す変形されたゲージSV群(すなわち、ゲージ電圧群)のうち第1式をベクトルOAで表し、第2式をベクトルOBで表し、第3式をベクトルOCで表す。ベクトルOA,OB,OCの全体を構造体OABCと呼ぶことにする。
構造体OABCを鏡映対称軸(RSA:reflection symmetry axis)に関して鏡写しに反転する操作を鏡映操作σとし、構造体を何も移動させない操作を恒等操作eとする。構造体OABCに対して鏡映操作σを施して得られる新しい構造体OCBAは、元の構造体OABCとぴたりと重なる。鏡映操作σと恒等操作eとによって次式(B3)に示すように群が構成される。
上記のように、変形されたゲージSV群(すなわち、ゲージ電圧群)は鏡映対称性を有しており、以下の表2に示すように群表を構築することができる。
以下、ゲージSV群の乗積表、加算表、および減算表に基づいて、ゲージSV群の具体的な不変量について説明する。さらに不変量を用いて、スパイラルベクトルの諸量を求める手順について説明する。たとえば、後述するように、ゲージ不変量の1つであるゲージSV電圧から減衰率λを求めることができる。
[ゲージSV群のベクトル乗積表の構築]
ゲージSV群の不変量を導出するために、前述の式(B2)に示す変形されたゲージSV群(すなわち、ゲージ電圧群)を構成する3つのベクトルから、以下の表3に示すようにベクトル乗積表を作成する。
上記の表3のベクトル乗積表において、スパイラルベクトルは複素数状態変数である。表3の左上欄の“×”は掛け算を表す。
表3に示すゲージSV群のベクトル乗積表の各乗積結果は、前述の式(B1)を代入することにより以下の式(B4)のように計算される。
図4は、ゲージSV群のベクトル乗積空間図である。2つのベクトルの乗積によって生成された空間をベクトル乗積空間と呼ぶ。図4では表3の各ベクトル乗積が複素平面上に図示されている。図4のベクトル乗積空間図を利用することによって、スパイラルベクトルに内在する対称性が明瞭になる。図2に示すゲージSV群を構成する各スパイラルベクトルの回転角周波数をωとすると、図4の各ベクトル乗積は回転角周波数2ωで反時計回りに回転する。
[ゲージSV群の実数乗積表の構築]
以下、ゲージSV群の実数乗積表を作成し、作成した実数乗積表を利用して不変量の具体的な計算式を導く。
ゲージSV群を構成するスパイラルベクトルv1(t),v1(t−T),v1(t−2T)の実数瞬時値をそれぞれv11、v12、v13とする。実数瞬時値v11、v12、v13は実測された時系列データである。これらの電圧瞬時値を用いて作成した、表3のベクトル乗積表に対応する実数乗積表を以下の表4に示す。実数乗積表は、ゲージSV群の不変量を求めるために利用される。
上記の表4の実数乗積表の電圧瞬時値はそれぞれスパイラルベクトルの実数部あるいは虚数部である。本明細書では、電圧瞬時値として実数部を利用して計算を行う。
まず、スパイラルベクトルの実数部の瞬時値は以下の式(B5)のように定義される。
ここに、Reは複素数の実数部を示す。
上式(B5)より、表4のゲージSV群の実数乗積表の各乗積結果は以下の式(B6)のように計算される。
[ゲージSV電圧の計算式]
以下、上記のゲージSV群の実数乗積表の各乗積結果を利用することにより、ゲージSV群の第1の不変量であるゲージSV電圧の計算式を示す。ゲージSV電圧は、本願発明者が前述の図4のゲージSV群のベクトル乗積空間図から知見したものである。
具体的に、ゲージスパイラルベクトル電圧Vgは、次式(B7)に示すように、ゲージスパイラルベクトル群を構成する時系列順の3つスパイラルベクトルの電圧瞬時値v11、v12、v13を用いて、第2の電圧瞬時値v12の2乗から第3の電圧瞬時値v13および第1の電圧瞬時値v11の積を減算した減算結果の平方根として定義される。
上式(B7)の電圧瞬時値に式(B6)の値を代入して計算を行うと、ゲージSV電圧Vg(t)の表式として以下の式(B8)が得られる。
ここで、V0(t)はゲージSV群の中心ベクトルの電圧振幅を表し、αは回転位相角を表す。
ゲージSV群を構成するスパイラルベクトルの減衰率λを0とすれば、上式(B8)は次式(B9)のように書き直される。
上式(B9)では、式(B8)の中心ベクトルの電圧振幅V0(t)は時間ともに変化しない電圧振幅Vに置換され、式(B8)のゲージSV電圧Vg(t)は時間とともに変化しないゲージ電圧Vgに置換される。したがって、ゲージSV群を構成するスパイラルベクトルの減衰率λが0である場合、ゲージSV群は、本願発明者による未公開の先行出願(特願2016−115217)におけるゲージ電圧群と同じになる。
[減衰率λの表式(ゲージSV群に基づく場合)]
図2および式(B1)に基づくと、現時点tにおけるゲージSV群の中心ベクトルの振幅V0(t)は、現時点tよりもゲージサンプリング周期Tだけ前の時刻t−TにおけるゲージSV群の中心ベクトルの振幅V0(t−T)のexp(λT)倍に等しい。したがって、現時点tのゲージSV群のゲージSV電圧Vg(t)と、現時点tよりもゲージサンプリング周期Tだけ前の時刻t−TにおけるゲージSV群のゲージSV電圧Vg(t−T)とは、次式(B10)のように表される。
上式(B10)から、現時点tのゲージSV群のゲージSV電圧Vg(t)と、現時点tよりもゲージサンプリング周期Tだけ前の時刻t−TにおけるゲージSV群のゲージSV電圧Vg(t−T)との比を求めると、次式(B11)が得られる。
上式(B11)の両辺の自然対数を計算することによって、次式(B12)に示すように減衰率λの解析式が得られる。
上式(B12)に示すように減衰率λの表式には自然対数が含まれているので、減衰率λを対数減衰率とも称する。
なお、上式(B12)のゲージサンプリング周期Tを任意の時間τに変更した場合も同様に減衰率λを計算することができる。したがって、一般的には、ある時刻tのゲージスパイラルベクトルVg(t)とその時刻tよりも時間τだけ前のゲージスパイラルベクトルVg(t−τ)との比Vg(t)/Vg(t−τ)の自然対数を時間τで除算することによって、対数減衰率λを計算することができる。
このように、実測時系列データであるスパイラルベクトルの瞬時値を用いて、スパイラルベクトルの減衰率を解析的に表すことができる。上式(B12)の対数関数は、テイラー展開を用いることにより高速かつ精度良く計算することができる。以下、テイラー展開を用いた上式(B12)の計算手法について説明する。
[テイラー展開による対数関数の計算]
上式(B12)の対数減衰率λを求めるとき、対数関数の計算が必要となる。この計算を高速に実現するための手法として、テイラー展開を用いた手法を以下に示す。
まず、対数関数をテイラー展開すると次式(B13)が得られる。
現時点tのゲージSV電圧Vg(t)と、現時点tよりもゲージサンプリング周期Tだけ前の時刻t−TにおけるゲージSV電圧Vg(t−T)とから得られる下式(B14)を、上式(B13)のxに代入する。
さらに、上式(B14)を代入後の式(B13)の両辺をゲージサンプリング周期Tで割ることによって、次式(B15)で示すように対数減衰率λの計算式が得られる。
このように、対数関数をテイラー展開で近似することによって、高速かつ精度良く対数減衰率を計算することができる。なお、上式(B13)で示した対数関数のテイラー展開式は、本開示の他の対数関数の計算においても用いることができる。
[現時点のスパイラルベクトルの振幅の計算式]
上記のようにして計算された対数減衰率λを用いることによって、現時点のスパイラルベクトルの振幅を求めることができる。なお、中心ベクトルの振幅V0(t)は、ゲージSV電圧Vg(t)をゲージ回転位相角αの正弦(sinα)で割ることによって得られる。
図2および式(B1)に基づくと、現時点のスパイラルベクトルの振幅V1(t)は、現時点の中心ベクトルの振幅V0(t)にexp(λT)を乗算することによって下式(B16)のように表される。
ここに、αはゲージ回転位相角であり、Tはゲージサンプリング周期である。
[テイラー展開による指数関数の計算]
上式(B16)の振幅V1(t)を求めるとき、指数関数の計算が必要となる。この計算を高速に実現するための手法として、テイラー展開を用いた手法を以下に示す。
まず、指数関数をテイラー展開すると次式(B17)が得られる。
対数減衰率λとゲージサンプリング周期Tとの積である次式(B18)を、上式(B17)のxに代入する。
さらに、上式(B18)を代入後の式(B17)の両辺にVg(t)/sinαを乗算することによって、次式(B19)に示すように現時点のスパイラルベクトルの振幅V1(t)の計算式が得られる。
このように、指数関数をテイラー展開で近似することによって、高速かつ精度良く現時点のスパイラルベクトルの振幅V1(t)を計算することができる。なお、上式(B17)で示した指数関数のテイラー展開式は、本開示の他の指数関数の計算においても用いることができる。
[ゲージSV群の対称性指標−その1]
本開示において、対称性の破れとは、入力信号の振幅急変、位相急変、または周波数急変などにより、ゲージSV群の対称性が崩れることをいう。対称性が破れているか否かを判別するための判別式を対称性指標という。実系統には種々の擾乱が存在するので、ゲージSV群の対称性が破れることがある。
本開示では、ゲージSV群の対称性指標として下式(B20)の判別式を用いる。
上式(B20)の判別式VgBRK<0が満たされる場合、前述の式(B7)に従ってゲージスパイラルベクトルを計算することができない。したがって、現時点tにおけるゲージスパイラルベクトルの計算を中止し、現時点tよりもデータ収集サンプリング周期T1だけ前の時点t−T1におけるゲージスパイラスベクトルの値を保持して現時点tにおけるゲージスパイラルベクトルの値として使用する。上式(B20)の判別式が満たされる場合にはさらに、スパイラルベクトルの減衰率λについても、現時点tよりもデータ収集サンプリング周期T1だけ前の時点t−T1における減衰率の値を保持して現時点tにおける減衰率の値として使用する。
[周波数係数およびスパイラルベクトルの振動周波数の計算式]
スパイラルベクトルの振動周波数fの計算式の導出に先立って、ゲージSV群の周波数係数fCの計算法について説明する。周波数係数fCは、ゲージ回転位相角αの余弦として定義される。
図2に示した複素平面上のゲージSV群および式(B5)によると、周波数係数fCは次式(B21)のように求められる。
振動周波数fは、ゲージサンプリング周波数fgを用いて次式(B22)のように計算することができる。
[ゲージSV群対称性指標−その2]
数学的に余弦関数値の絶対値は1より小さいことを利用して、次式(B23)に示すような周波数係数に基づく判別式を、対称性指標として用いることができる。
上式(B23)の判別式fCBRK>1が満たされる場合、前述の式(B21)を満たすゲージ回転位相角αが存在しない。したがって、現時点tにおける周波数係数fCの計算を中止し、現時点tよりもデータ収集サンプリング周期T1だけ前の時点t−T1における周波数係数fCの値を保持して現時点tにおける周波数係数fCの値として使用する。さらに、スパイラルベクトルの振動周波数fについても、現時点tよりもデータ収集サンプリング周期T1だけ前の時点t−T1における振動周波数fの値を保持して現時点tにおける振動周波数fの値として使用する。
[ゲージSV群のベクトル加算表の構築]
ゲージSV群の中心ベクトルの位相角φ0を計算するため、前述の式(B2)に示す変形されたゲージSV群を構成する3つのベクトルから、以下の表5に示すゲージSV群のベクトル加算表を構築する。ベクトル加算表を構築することによって、対称性を見出すための対称操作が明瞭になる。
上記の表5に示すベクトル加算表において、スパイラルベクトルは複素数状態変数である。表5の左上欄の“+”は加算を表す。
表5に示すゲージSV群のベクトル加算表における各ベクトル加算結果は次式(B24)によって示される。
図5は、ゲージSV群のベクトル加算空間図である。2つのベクトルの加算によって生成された空間をベクトル加算空間と呼ぶ。図5では表5の各ベクトル加算の結果が複素平面上に図示されている。図5に示すベクトル加算空間において各ベクトル加算結果を表すベクトルは回転角周波数ωで反時計回りに回転する。図5のベクトル加算空間図を利用することによって、スパイラルベクトルに内在する対称性が明瞭になる。
[ゲージSV群の実数加算表の構築]
次に、ゲージSV群を構成するスパイラルベクトルv1(t),v1(t−T),v1(t−2T)の各々の実数瞬時値v11、v12、v13を用いてゲージSV群の実数加算表を生成する。ここで、実数加算表は、前述の式(B2)に示す変形されたゲージSV群に基づくものである。中心ベクトルの位相角φ0の計算を目的としている場合には、変形されたゲージSV群を用いることによって計算を簡単化できる。
具体的に、実数加算表を以下の表6に示す。
上記表6のゲージSV群の実数加算表において、電圧瞬時値はスパイラルベクトルの実数部とする。表6の各欄の具体的な加算結果は下式(B25)によって示される。
[ゲージSV群の中心角の計算式(ゲージSV群加算表による)]
以下、上記のゲージSV群の実数加算表の各加算結果に基づいて、ゲージSV群の不変量の1つである中心角φ0の計算式を示す。
まず、前述の式(B25)から次式(B26)が成立する。
ゲージSV群の中心角φ0は、上式(B26)から次式(B27)のように求められる。
ゲージSV群の中心ベクトルv10(t)は、実際のゲージSV群と同じように複素平面上で常に反時計まわりで回転している。したがって、上式(B27)で示されるゲージSV群の中心角φ0(すなわち、中心ベクトルv10(t)の位相角φ0)は、−180度から+180度まで変化する。
図2を参照すると、現時点のスパイラルベクトルv1(t)の位相角φ1は、ゲージSV群の中心角φ0にゲージ回転位相角αを加算した値に等しい。したがって、現時点のスパイラルベクトルv1(t)の位相角φ1は、次式(B28)によって表される。
上式(B28)において、ゲージ回転位相角αは、式(B21)に従って計算される周波数係数fCのアークコサインとして求められる。さらに、式(B21)中の減衰率λは式(B12)に従って計算できる。
以上により、現時点のスパイラルベクトルv1(t)の位相角φ1が明らかとなったので、現時点のスパイラルベクトルv1(t)を計算することができる。具体的には、まず現時点のスパイラルベクトルは、実数部vreと虚数部vimによって次式(B29)のように定義される。
上式(B29)の実数部vreおよび虚数部vimは次式(B30)のように表される。
上式(B30)において、中心ベクトルの振幅V0は、式(B8)を用いてVg(t)/sinαとして計算できる。ここで、ゲージスパイラルベクトルVg(t)は式(B7)に従って計算することができる。sinαは、周波数係数fCを用いて1−fC 2の平方根によって計算できる。上式(B30)の減衰率λは式(B12)に従って計算できる。また、上式(B30)のTはゲージサンプリング周期である。
[ゲージSV群のベクトル減算表の構築]
これまでゲージSV群の加算表に基づくゲージSV群の中心角φ0の計算式を示したが、ゲージSV群の減算表を利用してもゲージSV群の中心角φ0を計算することができる。以下、具体的に説明する。
まず、前述の式(B2)に示す変形されたゲージSV群を構成する3つのベクトルから、以下の表7に示すゲージSV群のベクトル減算表を構築する。ベクトル減算表を構築することによって、対称性を見出すための対称操作が明瞭になる。
上記の表7に示すベクトル減算表において、スパイラルベクトルは複素数状態変数である。表7の左上欄の“−”は減算を表す。
表7に示すゲージSV群のベクトル減算表における各ベクトル減算の結果は以下の式(B31)によって示される。
図6は、ゲージSV群のベクトル減算空間図である。2つのベクトルの減算によって生成された空間をベクトル減算空間と呼ぶ。図6では表7の各ベクトル減算の結果が複素平面上に図示されている。図6に示すベクトル減算空間において各ベクトル減算結果を表すベクトルは回転角周波数ωで反時計回りに回転する。図6のベクトル減算空間図を利用することによって、スパイラルベクトルに内在する対称性が明瞭になる。
[ゲージSV群の実数減算表の構築]
次に、ゲージSV群を構成するスパイラルベクトルv1(t),v1(t−T),v1(t−2T)の各々の実数瞬時値v11、v12、v13を用いてゲージSV群の実数減算表を生成する。ここで、実数減算表は、前述の式(B2)に示す変形されたゲージSV群に基づくものである。中心ベクトルの位相角φ0の計算を目的としている場合には、変形されたゲージSV群を用いることによって計算を簡単化できる。
具体的に、実数減算表を以下の表8に示す。
上記の表8のゲージSV群の実数減算表において、電圧瞬時値はスパイラルベクトルの実数部とする。表8の各欄の具体的な減算結果は下式(B32)に示される。
[ゲージSV群の中心角の計算式(ゲージSV群減算表による)]
以下、上記のゲージSV群の実数減算表の各減算結果に基づいて、ゲージSV群の不変量の1つである中心角φ0の計算方法を示す。
まず、前述の式(B32)から下式(B33)が成立する。
ゲージSV群の中心角φ0は、上式(B33)から次式(B34)のように求められる。
ゲージSV群の中心ベクトルv10(t)は、実際のゲージSV群と同じように複素平面上で常に反時計まわりで回転している。したがって、上式(B34)で示されるゲージSV群の中心角φ0(すなわち、中心ベクトルv10(t)の位相角φ0)は、−180度から+180度まで変化する。
[ゲージSV群の中心角の計算式(平均化計算法による)]
上述のゲージSV群の中心角φ0の計算式(B27)および(B34)の両方を用いて両者の平均を計算することによって、次式(B35)で表されるゲージSV群の中心角φ0の計算式が得られる。
上式(B35)では、tan関数とcot関数に対称性がある。このため、ゲージ回転位相角αとしてリアルタイム周波数に対応するものでなく、定格周波数に対応するものを用いることができる。なぜなら、定格周波数に対応するゲージ回転位相角αを用いると誤差が生じるが、この誤差の多くはtan関数とcot関数の対称性によって打ち消されるからである。たとえば、定格周波数に対応するゲージ回転位相角αとしてα=90°を採用すれば、tan(α/2)およびcot(α/2)はそれぞれ1になるので計算過程を大幅に簡略化することができる。
さらに、現時点のスパイラルベクトルの位相角φ1は、上式(B35)のゲージSV群の中心角φ0を用いて、前述の式(B28)に従って計算できる。さらに、前述の式(B30)に従って現時点のスパイラルベクトルの実数部vreおよび虚数部vimを計算する際にも、上式(B35)で表される中心角φ0を用いることができる。
[複素平面上のゲージ差分SV群について]
次に、ゲージ差分SV群を用いた計算手法について説明する。ゲージSV群の場合と同様に、不変量である差分スパイラルベクトルおよび周波数係数を計算し、これらの不変量に基づいて、スパイラルベクトルの減衰率、振動周波数、および位相角を計算する。ゲージ差分SV群を用いることによって、直流成分の影響を受けないというメリットがある。以下、具体的に説明する。
図7は、複素平面上のゲージ差分SV群について説明するための図である。ただし、図7に示されている差分スパイラルベクトルv2(t),v2(t−T),v2(t−2T)は、後述する仮想差分SV群を構成する仮想差分スパイラルベクトルv2(t),v2(t−T),v2(t−2T)であることに注意されたい。なお、仮想差分スパイラルベクトルとの区別を明確化するために、本来のゲージ差分SV群を構成する差分スパイラルベクトルを実差分スパイラルベクトルと称する場合がある。
図7を参照して、ゲージ差分SV群は、互いにゲージサンプリング周期Tでけ隔てて時系列的に連続する3つの差分スパイラルベクトルv2(t),v2(t−T),v2(t−2T)によって構成される。この3つの差分スパイラルベクトルv2(t),v2(t−T),v2(t−2T)は、ゲージサンプリング周波数fgで抽出された、時系列的に連続した4つのスパイラルベクトルv1(t),v1(t−T),v1(t−2T),v1(t−3T)の隣接する2点間の差分を算出することによって得られる。
具体的に、互いにゲージサンプリング周期Tだけ隔てて時系列的に連続する3つの差分スパイラルベクトルv2(t),v2(t−T),v2(t−2T)は、次式(C1)で表すことができる。
上式(C1)において、v20(t)は中心ベクトル、λは減衰率、φ0は中心ベクトルの位相角、V0(t)は中心ベクトルの振幅、ωは回転角速度、Tはゲージサンプリング周期、αはゲージサンプリング周期Tに対応する回転位相角である。
ここで、ゲージSV群の中心ベクトルv20(t)の振幅は、後述する式(C12)に従って、ゲージ差分SV電圧Vgd(t)をsinα・√(exp(-λT)+exp(λT)−2cosα)で除算することによって得られる。中心ベクトルv20(t)の位相角φ0は、後述する式(C38)に従って計算することができる。本明細書では、中心ベクトルの位相角φ0をゲージ差分SV群の中心角φ0とも称する。
ゲージ差分SV群の中心ベクトルv20(t)は、次式(C2)で表される。
上式(C1)に対応するゲージ差分SV群の実数表現式は次式(C3)で表される。
上式(C3)において、ゲージ差分SV群を構成する3つの差分スパイラルベクトルv2(t),v2(t−T),v2(t−2T)の電圧瞬時値をそれぞれv21、v22、v23とする。ゲージ差分SV群の基となる4つのスパイラルベクトルv1(t),v1(t−T),v1(t−2T),v1(t−3T)の電圧瞬時値(実測値に相当する)をそれぞれv11、v12、v13、v14とする。
[仮想差分SV群について]
ゲージ差分SV群の対称性を明確にするため、次式(C4)で示される仮想差分SV群を定義する。
なお、簡単のために仮想差分SV群を構成する仮想差分スパイラルベクトルの参照符号を、ゲージ差分SV群を構成する実差分スパイラルベクトルの参照符号v2(t),v2(t−T),v2(t−2T)と同じにしている。
上式(C4)に示すように、ゲージ差分SV群の基となる4つのスパイラルベクトルv1(t),v1(t−T),v1(t−2T),v1(t−3T)にそれぞれexp(−3λT/2)、exp(−λT/2)、exp(λT/2)、exp(3λT/2)を乗算することによって、これら4つのスパイラルベクトルを変形する。この変形された4つのスパイラルベクトルの隣接する2点間の差分を算出することによって仮想差分SV群が得られる。図7に示すように、上記の変形された4つのスパイラルベクトルの振幅は、ゲージ差分SV群の中心ベクトルv20(t)の振幅V0に等しい。上記の変形された4つのスパイラルベクトルの鏡映対称軸上に中心ベクトルv20(t)は存在する。
上式(C4)に対応する仮想差分SV群の実数表現式は次式(C5)で表される。
上式(C5)において、仮想差分SV群を構成する3つの仮想差分スパイラルベクトルv2(t),v2(t−T),v2(t−2T)の電圧瞬時値をそれぞれv21、v22、v23とする。ゲージ差分SV群の基となる4つのスパイラルベクトルv1(t),v1(t−T),v1(t−2T),v1(t−3T)の電圧瞬時値(実測値に相当する)をそれぞれv11、v12、v13、v14とする。
[ゲージ差分SV群の対称性について]
図8は、ゲージ差分SV群の鏡映対称性を説明するための図である。以下では、図8(A)を参照して鏡映対称性(reflection symmetry)について説明する。図8(B)に群表を示す。
図8(A)を参照して、上式(C4)に示す仮想差分SV群の基となる変形された4つのスパイラルベクトルをそれぞれベクトルOA,OB,OC,ODで表すものとする。ベクトルOA,OB,OC,ODの全体を構造体OABCDと呼ぶことにする。
構造体OABCDを鏡映対称軸RSAに関して鏡写しに反転する操作を鏡映操作σとし、構造体を何も移動させない操作を恒等操作eとする。構造体OABCDに対して鏡映操作σを施して得られる新しい構造体ODCBAは、元の構造体OABCDとぴたりと重なる。鏡映操作σと恒等操作eとによって次式(C6)に示すように群が構成される。
上記のように、仮想差分SV群は鏡映対称性を有しており、以下の表9に示すように群表を構築することができる。
表9の群表は、表2に示した変形されたゲージSV群に対する群表と同じものである。
以下、ゲージ差分SV群の乗積表と仮想差分SV群の加算表および減算表とに基づいて、ゲージ差分SV群の具体的な不変量について説明する。さらに不変量を用いて、スパイラルベクトルの諸量を求める手順について説明する。
[ゲージ差分SV群のベクトル乗積表の構築]
ゲージSV群の不変量を導出するために、前述の式(C1)に示されたゲージ差分SV群を構成する3つの差分スパイラルベクトルv2(t),v2(t−T),v2(t−2T)から、以下の表10に示すようにベクトル乗積表を作成する。
上記の表10のベクトル乗積表においてスパイラルベクトルは複素数状態変数である。
表10に示す差分スパイラルベクトルは実差分スパイラルベクトルであるとして前述の式(C1)を代入することにより、表10のゲージSV群のベクトル乗積表の各乗積結果が以下の式(C7)のように得られる。
図9は、ゲージ差分SV群のベクトル乗積空間図である。図9では、表10の各差分スパイラルベクトルが仮想差分スパイラルベクトルであるとした場合において、各ベクトル乗積が複素平面上に図示されている。図9のベクトル乗積空間図を利用することによって、仮想差分スパイラルベクトルv2(t),v2(t−T),v2(t−2T)に内在する対称性が明瞭になる。図7に示す仮想差分SV群を構成する各仮想差分スパイラルベクトルの回転角周波数をωとすると、図9の各ベクトル乗積は回転角周波数2ωで反時計回りに回転する。
[ゲージ差分SV群の実数乗積表の構築]
以下、ゲージ差分SV群の実数乗積表を作成し、作成した実数乗積表を利用して不変量の具体的な計算式を導く。以下の計算では、差分スパイラルベクトルとして実差分スパイラルベクトルを利用する。
ゲージ差分SV群を構成するスパイラルベクトルv2(t),v2(t−T),v2(t−2T)の実数瞬時値をそれぞれv21、v22、v23とする。これらの電圧瞬時値を用いて作成した、表10のベクトル乗積表に対応する実数乗積表を以下の表11に示す。実数乗積表は、ゲージ差分SV群の不変量を求めるために利用される。
まず、実差分スパイラルベクトルの実数部の瞬時値は以下の式(C8)のように表される。
ここに、Reは複素数の実数部を示す。
[ゲージ差分SV電圧の計算式]
以下、上記のゲージ差分SV群の実数乗積表の各乗積結果を利用することにより、ゲージ差分SV群の第1の不変量であるゲージ差分SV電圧の計算式を示す。ゲージ差分SV電圧は、本願発明者が前述の図9のゲージ差分SV群のベクトル乗積空間図から知見したものである。
ゲージ差分スパイラルベクトル電圧Vgdは、後述する式(C13)に示すように、ゲージ差分スパイラルベクトル群を構成する時系列順の3つ差分スパイラルベクトルの電圧瞬時値v21、v22、v23を用いて、第2の電圧瞬時値v22の2乗から第1電圧瞬時値v23および第3の電圧瞬時値v21の積を減算した減算結果の平方根として定義される。以下、このゲージ差分SV電圧とスパイラルベクトルの諸量との間の関係を表す式を導出する。
まず、表11に示す実差分スパイラルベクトルの実数部の各乗積のうちv21v23の計算結果を示すと以下の式(C9)のようになる。
また、v22 2の計算結果を示すと以下の式(C10)のようになる。
上式(C10)から上式(C9)を減算することによって、v22 2−v21v23を計算すると以下の式(C11)のように表される。
したがって、ゲージ差分SV電圧Vgdは次の式(C12)のように表される。
ゲージ差分SV群の基となるスパイラルベクトルの減衰率λを0とすれば、上式(C12)は次式(C13)のように書き直される。
上式(C13)において、式(C12)の中心ベクトルの電圧振幅V0(t)は時間ともに変化しない電圧振幅Vに置換され、式(C12)のゲージ差分SV電圧Vgd(t)は時間とともに変化しないゲージ差分電圧Vgdに置換される。したがって、ゲージ差分SV群の基となるスパイラルベクトルの減衰率λが0である場合、ゲージ差分SV群は、本願発明者による未公開の先行出願(特願2016−115217)におけるゲージ差分電圧群と同じになる。
[減衰率λの表式(ゲージ差分SV群に基づく場合)]
図7および式(C1)に基づくと、現時点tにおけるゲージ差分SV群の中心ベクトルの振幅V0(t)は、現時点tよりもゲージサンプリング周期Tだけ前の時刻t−Tにおけるゲージ差分SV群の中心ベクトルの振幅V0(t−T)のexp(λT)倍に等しい。したがって、現時点tのゲージ差分SV群のゲージ差分SV電圧Vgd(t)と、現時点tよりもゲージサンプリング周期Tだけ前の時刻t−Tにおけるゲージ差分SV群のゲージ差分SV電圧Vgd(t−T)は、次式(C14)に示す関係を有する。
上式(C14)の両辺の自然対数を計算することによって、次式(C15)に示すように減衰率λの解析式が得られる。
上式(C15)に示すように減衰率λの表式には自然対数が含まれているため、減衰率λを対数減衰率とも称する。
なお、上式(C15)のゲージサンプリング周期Tに代えて任意の時間τとしても減衰率λを計算することができる。したがって、一般的には、ある時刻tのゲージ差分スパイラルベクトルVgd(t)とその時刻tよりも時間τだけ前のゲージ差分スパイラルベクトルVgd(t−τ)との比Vgd(t)/Vgd(t−τ)の自然対数を時間τで除算することによって、対数減衰率λを計算することができる。
このように、実測時系列データであるスパイラルベクトルの瞬時値に基づいた差分スパイラルベクトルの瞬時値を用いることにより、減衰率を解析的に表すことができる。ここで、式(C15)に示すゲージ差分SV群に基づく減衰率λの表式は、式(B12)に示したゲージSV群に基づく減衰率λの表式と形式的には同じであり、対称性原理(symmetry principles)の1つの現れを示している。式(C15)に含まれる自然対数は、式(B12)の場合と同様にテイラー展開を用いて高速かつ精度良く計算することができる。
[ゲージ差分SV群の中心ベクトルの振幅の計算式]
前述の式(C12)から、ゲージ差分SV群の中心ベクトルの振幅V0(t)は、次の式(C16)ように計算することができる。
[ゲージ差分SV群の対称性指標−その1]
ゲージSV群の場合と同様に、ゲージ差分SV群の場合も対称性が破れているか否かを判別するための対称性指標として次の式(C17)の判別式を用いる。
上式(C17)の判別式VgdBRK<0が満たされている場合、前述の式(C12)に従ってゲージ差分スパイラルベクトルを計算することができない。したがって、現時点tにおけるゲージ差分スパイラルベクトルの計算を中止し、現時点tよりもデータ収集サンプリング周期T1だけ前の時点t−T1におけるゲージ差分スパイラスベクトルの値を保持して現時点tにおけるゲージ差分スパイラルベクトルの値として使用する。上式(C17)の判別式が満たされる場合にはさらに、スパイラルベクトルの減衰率λについても、現時点tよりもデータ収集サンプリング周期T1だけ前の時点t−T1における減衰率の値を保持して現時点tにおける減衰率の値として使用する。
[周波数係数およびスパイラルベクトルの振動周波数の計算式]
スパイラルベクトルの振動周波数fの計算式の導出に先立って、ゲージ差分SV群の周波数係数fCの計算法について説明する。周波数係数fCは、ゲージ回転位相角αの余弦として与えられる。なお、ゲージ差分SV群によるゲージ回転位相角とリアルタイム周波数との関係は、ゲージSV群の場合と同じである。
まず、前述の式(C8)の第1式および第3式によると以下の式(C18)が成立する。
上式(C18)に前述の式(C8)の第2式を代入することによって、周波数係数fCの計算式は、次式(C19)のように得られる。
ここで、式(C19)に示すゲージ差分SV群に基づく周波数係数fCの表式は、式(B21)に示したゲージSV群に基づく減衰率λの表式と形式的には同じである。同様に、前述したゲージ差分SV電圧VgdとゲージSV電圧Vgも同じ形式を有しており、後述する中心ベクトルの位相角についてもゲージ差分SV群とゲージSV群とで同じ形式を有している。したがって、ゲージ差分SV群とゲージSV群とは類似の対称性を有していることがわかる。
振動周波数fは、ゲージサンプリング周波数fgを用いて次式(C20)のように計算することができる。
[ゲージSV群対称性指標−その2]
数学的に余弦関数値の絶対値は1より小さいことを利用して、次式(C21)に示すような周波数係数に基づく判別式を、対称性指標として用いることができる。
上式(C21)の判別式fCBRK>1が満たされる場合、前述の式(C19)を満たすゲージ回転位相角αが存在しない。したがって、現時点tにおける周波数係数fCの計算を中止し、現時点tよりもデータ収集サンプリング周期T1だけ前の時点t−T1における周波数係数fCの値を保持して現時点tにおける周波数係数fCの値として使用する。さらに、スパイラルベクトルの振動周波数fについても、現時点tよりもデータ収集サンプリング周期T1だけ前の時点t−T1における振動周波数fの値を保持して現時点tにおける振動周波数fの値として使用する。
[現時点のスパイラルベクトルの振幅の計算式]
図7および式(C1)に基づくと、現時点のスパイラルベクトルの振幅V1(t)は、現時点の中心ベクトルの振幅V0(t)にexp(3λT/2)を乗算することによって下式(C22)のように求めることができる。
上式(C22)において、λ、α、Vgd(t)はそれぞれスパイラルベクトルの減衰率、ゲージ回転位相角、ゲージ差分スパイラルベクトル電圧である。これらの導出方法は、式(C15)、式(C19)、式(C13)で既に説明した。なお、上式(C22)に含まれる指数関数は、ゲージSV群で説明したようにテイラー展開を用いることによって高速かつ高精度に計算することができる。
[ゲージ差分SV群のベクトル加算表の構築]
ゲージ差分SV群の中心ベクトルの位相角φ0を計算するため、前述の式(C4)に示す仮想差分SV群を構成する3つの仮想差分スパイラルベクトルから、以下の表12に示すゲージ差分SV群のベクトル加算表を構築する。ベクトル加算表を構築することによって、対称性を見出すための対称操作が明瞭になる。
上記の表12に示すベクトル加算表において、差分スパイラルベクトルは仮想差分スパイラルベクトルであり、複素数状態変数である。
上記の表12の各ベクトル加算を計算するにあたり、簡単のために次式(C23)に示すように中心ベクトルの振幅を単にVと記載する。
表12に示すゲージ差分SV群のベクトル加算表における各ベクトル加算結果は次式(C24)によって示される。
上式(C24)は、さらに下式(C25)のように簡単化できる。
図10は、ゲージ差分SV群のベクトル加算空間図である。図10では表12の各ベクトル加算の結果が複素平面上に図示されている。図10に示すベクトル加算空間において各ベクトル加算結果を表すベクトルは回転角周波数ωで反時計回りに回転する。図10のベクトル加算空間図を利用することによって、仮想差分スパイラルベクトルに内在する対称性が明瞭になる。
[ゲージ差分SV群の実数加算表の構築]
次に、ゲージ差分SV群を構成するスパイラルベクトルv2(t),v2(t−T),v2(t−2T)の各々の実数瞬時値v21、v22、v23を用いてゲージ差分SV群の実数加算表を生成する。ここで、実数加算表は、前述の式(C4)および(C5)に示す仮想差分SV群に基づくものである。中心ベクトルの位相角φ0の計算を目的としている場合には、仮想差分SV群を用いることによって計算を簡単化できる。
具体的に、実数加算表を以下の表13に示す。
上記の表13の各欄の加算を行うために、まず、前述の式(C8)で示した実差分スパイラルベクトルの実数部瞬時値に対応する、仮想差分スパイラルベクトルの実数部瞬時値を計算すると、次式(C26)のように求められる。
ここに、Reは複素数の実数部を示す。
上式(C26)に基づいて、表13の各欄の加算を実際に行うと、下式(C27)が得られる。
[ゲージ差分SV群の中心角の計算式(ゲージ差分SV群加算表による)]
以下、上記のゲージ差分SV群の実数加算表の各加算結果に基づいて、ゲージ差分SV群の不変量の1つである中心角φ0の計算式を示す。
まず、前述の式(C27)から次式(C28)が成立する。
ゲージ差分SV群の中心角φ0は、上式(C28)から次式(C29)のように求められる。
ゲージ差分SV群の中心ベクトルv20(t)は、実際のゲージ差分SV群と同じように複素平面上で常に反時計まわりで回転している。したがって、上式(C29)で示されるゲージ差分SV群の中心角φ0(すなわち、中心ベクトルv20(t)の位相角φ0)は、−180度から+180度まで変化する。
図7を参照すると、現時点のスパイラルベクトルv1(t)の位相角φ1は、ゲージ差分SV群の中心角φ0にゲージ回転位相角αの3/2倍を加算した値に等しい。したがって、現時点のスパイラルベクトルv1(t)の位相角φ1は、次式(C30)によって表される。
上式(C30)において、φ0はゲージ差分SV群の中心角であり、式(C29)によって与えられる。また、ゲージ回転位相角αは、式(C19)に従って計算される周波数係数fCのアークコサインとして求められる。式(C19)中の減衰率λは式(C15)に従って計算できる。
以上により、現時点のスパイラルベクトルv1(t)の位相角φ1が明らかとなったので、現時点のスパイラルベクトルv1(t)を計算することができる。具体的には、まず現時点のスパイラルベクトルは、実数部vreと虚数部vimによって次式(C31)のように定義される。
上式(C31)の実数部vreと虚数部vimは次式(C32)のように表される。
上式(C32)において、中心ベクトルの振幅V0は、前述の式(C16)に従って計算できる。式(C16)中のゲージ差分スパイラルベクトルVgd(t)は式(C12)に従って電圧瞬時値から計算することができる。また、上式(C32)の減衰率λは式(C15)に従って計算できる。上式(C32)のTはゲージサンプリング周期である。
[ゲージ差分SV群のベクトル減算表の構築]
これまでゲージ差分SV群の加算表に基づくゲージ差分SV群の中心角φ0の計算式を示したが、ゲージ差分SV群の減算表を利用してもゲージ差分SV群の中心角φ0を計算することができる。以下、具体的に説明する。
前述の式(C4)に示す仮想差分SV群を構成する3つの仮想差分スパイラルベクトルから、以下の表14に示すゲージ差分SV群のベクトル減算表を構築する。ベクトル減算表を構築することによって、対称性を見出すための対称操作が明瞭になる。
上記の表14に示すベクトル減算表において、差分スパイラルベクトルは仮想差分スパイラルベクトルであり、複素数状態変数である。
表14に示すゲージ差分SV群のベクトル減算表における各ベクトル減算の結果は次式(C33)によって示される。
上式(C33)では、中心ベクトルの振幅をVと簡単化して記載している。
上式(C33)は、さらに下式(C34)のように簡単化できる。
図11は、ゲージ差分SV群のベクトル減算空間図である。図11では表14の各ベクトル減算の結果が複素平面上に図示されている。図11に示すベクトル減算空間において、各ベクトル減算結果を表すベクトルは回転角周波数ωで反時計回りに回転する。図10のベクトル減算空間図を利用することによって、仮想差分スパイラルベクトルに内在する対称性が明瞭になる。
[ゲージ差分SV群の実数減算表の構築]
次に、ゲージ差分SV群を構成するスパイラルベクトルv2(t),v2(t−T),v2(t−2T)の各々の実数瞬時値v21、v22、v23を用いてゲージ差分SV群の実数減算表を生成する。ここで、実数減算表は、前述の式(C4)および(C5)に示す仮想差分SV群に基づくものである。中心ベクトルの位相角φ0の計算を目的としている場合には、仮想差分SV群を用いることによって計算を簡単化できる。
具体的に、実数減算表を以下の表15に示す。
前述の式(C26)で示した実数部瞬時値v21、v22、v23を用いて、表15の各欄の減算を実際に行うと、次式(C35)が得られる。
[ゲージ差分SV群の中心角の計算式(ゲージ差分SV群減算表による)]
以下、上記のゲージ差分SV群の実数減算表の各減算結果に基づいて、ゲージ差分SV群の不変量の1つである中心角φ0の計算式を示す。
まず、前述の式(C35)から次式(C36)が成立する。
ゲージ差分SV群の中心角φ0は、上式(C36)から次式(C37)のように求められる。
ゲージ差分SV群の中心ベクトルv20(t)は、実際のゲージ差分SV群と同じように複素平面上で常に反時計まわりで回転している。したがって、上式(C37)で示されるゲージ差分SV群の中心角φ0(すなわち、中心ベクトルv20(t)の位相角φ0)は、−180度から+180度まで変化する。なお、逆正接関数によって得られる位相は、複素平面上で順時計回りに変化することに注意すべきである。
[ゲージ差分SV群の中心角の計算式(平均化計算法による)]
上記したゲージ差分SV群の中心角φ0の計算式(C29)および(C37)の両方を用いて両者の平均を計算することによって、次式(C38)で表されるゲージ差分SV群の中心角φ0の計算式が得られる。
上式(C38)では、tan関数とcot関数に対称性がある。このため、ゲージ回転位相角αとしてリアルタイム周波数に対応するものでなく、定格周波数に対応するものを用いることができる。なぜなら、定格周波数に対応するゲージ回転位相角αを用いると誤差が生じるが、この誤差の多くはtan関数とcot関数の対称性によって打ち消されるからである。たとえば、定格周波数に対応するゲージ回転位相角αとしてα=90°を採用すれば、tan(α/2)およびcot(α/2)はそれぞれ1になるので計算過程を大幅に簡略化することができる。
さらに、現時点のスパイラルベクトルの位相角φ1は、上式(C38)のゲージ差分SV群の中心角φ0を用いて、前述の式(C30)に従って計算できる。さらに、前述の式(C32)に従って現時点のスパイラルベクトルの実数部vreおよび虚数部vimを計算する際にも、上式(C38)で表される中心角φ0を用いることができる。
[ゲージSV群による直流成分の計算式]
図12は、複素平面上のゲージSV群およびゲージ差分SV群を利用して、入力波形に含まれる直流成分を計算する方法を説明するための図である。図12では、入力信号に直流電圧成分vDCが含まれている場合のゲージSV群v1(t),v1(t−T),v1(t−2T)が示されている。
計算の手順としては、まず直流成分の影響を受けないゲージ差分SV群を利用して、減衰率λおよび周波数係数fCを計算する。周波数係数fCは、回転位相角αの余弦に等しい。次に、ゲージSV群を利用して直流電圧成分vDCを計算する。
図12を参照して、ゲージSV群を構成する3つのスパイラルベクトルv1(t),v1(t−T),v1(t−2T)の電圧瞬時値v11、v12、v13は、次式(D1)で与えられる。
上式(D1)を、ゲージSV群の周波数係数の関係式である式(B21)に代入することにより、次式(D2)が得られる。
上式(D2)から直流電圧成分vDCを以下の式(D3)のように求めることができる。
上式(D3)において、減衰率λおよび周波数係数fCはゲージ差分SV群を利用して計算したものである。Tはゲージサンプリング周期である。
[相差角の定義と計算式]
複素平面上のスパイラルベクトルの位相角と仮想基準ベクトルの位相角との差分を相差角と称する。仮想基準ベクトルは、振幅として1を有し、複素平面上で一定の基準周波数(たとえば、定格周波数)で回転する回転ベクトルである。相差角の取り得る値は、−180度から+180度までである。
図13は、定格周波数を有する仮想基準ベクトルに対する相差角の計算方法の概念図である。
図13(A)を参照して、複素平面上を一定の速度(定格周波数f0、定格角周波数ω0)で回転している仮想基準ベクトルv0(t)を想定する。仮想基準ベクトルv0(t)の振幅は1であり、初期位相角はφ0であるとする。したがって、仮想基準ベクトルv0(t)の実数部はcos(ω0t+φ0)であり、虚数部はsin(ω0t+φ0)である。
現時点におけるスパイラルベクトルv1(t)の振幅をV1とし、位相角をφ1(t)とし、実数部をv1reとし、虚数部をv1imとする。
スパイラルベクトルv1(t)の相差角φdは、現時点におけるスパイラルベクトルv1(t)の位相角φ1(t)と仮想基準ベクトルv0(t)の位相角(ω0t+φ0)との位相差を意味している。実際の相差角φdは、図23(A)に示すスパイラルベクトルv1(t)と仮想基準ベクトルv0(t)とによって構成される三角形についての余弦定理を用いて規定される。
具体的に、スパイラルベクトルv1(t)と仮想基準ベクトルv0(t)との差分ベクトルの長さをV10とすると、相差角φdは次式(D4)で与えられる。
上式(D4)において、差分ベクトルの長さV10の2乗は、三平方の定理を用いて次式(D5)のように計算することができる。
次に、図13(B)を参照して、仮想基準ベクトルv0(t)の初期位相角φ0の決定方法について説明する。初期位相角φ0は、現時点tよりも時間Td(指定時間と称する)だけ前において、スパイラルベクトルv1(t−Td)の位相角φ1(t−Td)と一致するように定められる。
具体的に式で表すと、仮想基準ベクトルv0(t)の初期位相角φ0は、次式(D6)によって規定される。
式(D6)においてargは位相角を表す。
高調波の影響などによって、相差角φdの計算結果は振動している場合が多い。そこで、高調波の影響を除去するために移動平均処理が一般に用いられる。制御保護装置での必要性に応じて、複数の指定時間Tdを指定して相差角φdの計算を行うこともできる。たとえば、入力信号の周波数が高速に変化している場合には比較的小さな値の指定時間Tdを用いて相差角φdの計算が行われ、入力信号の周波数がほとんど変化していない場合には比較的大きな値の指定時間Tdを用いて相差角φdの計算が行われる。
[周波数変化量および周波数の計算法]
相差角−時間曲線を用いることによって基準周波数f0に対する基本波周波数の変化量Δfを計算することができる。以下、図面を参照して具体的に説明する。
図14は、相差角と時間との関係を模式的に示す図である。図14に示すように、初期状態において相差角が0であり、指定時間Tdが経過したときの相差角がφdであったとする。
時間軸と相差角曲線とで囲まれた面積をSとすると、面積Sは次式(D7)で表される。
上式(D7)において、Δfは基本波周波数の変化量である。上式(D7)から基本波周波数の変化量Δfの絶対値は、次式(D8)によって表される。
現時点の基本波周波数fは、基準周波数f0に変化量Δfを加算または減算することによって次式(D9)のように求められる。
上記の周波数計算方法のメリットは次のとおりである。一般に、入力信号の瞬時値波形は基本波と複数の高調波成分(ノイズ)とによって構成される。高調波成分を完全にカットしてから基本波を計算することは現在主流の方法であり、たとえば、DFTまたはプローニー法を例示することができる。しかし、これらの方法では、計算時間が長くなり、計算量が多くなり、計算時間窓を大きくする必要があるので、オンラインでの計算には向いていない。
これに対して、本開示による上記計算方法は、フィルターを用いずに高調波成分を含めてスパイラルベクトルの瞬時位相角φ1を計算し、この瞬時位相角φ1と仮想基準ベクトルの位相角との差分を時系列データとして計算する。そして、時系列データとして得られた位相角の差分を積分(面積計算)することによって周波数変化量Δfを計算するので、高調波成分の影響を大幅に低減することができる。
[多重スケール法について]
図15は、多重スケール法の概念について説明するための図である。
図15を参照して、ゲージサンプリング点数Ngが2の場合のゲージSV群を構成する3個のスパイラルベクトルは、以下の(D10)のとおりである。
また、ゲージサンプリング点数Ngが4の場合のゲージSV群を構成する3個のスパイラルベクトルは、以下の(D11)のとおりである。
ただし、上記では、前述の式(B2)で説明した変形されたゲージSV群(すなわち、ゲージ電圧群と等価なもの)としてゲージSV群を表現している。ゲージサンプリング点数(すなわち、スケール)が大きくなるにつれて、測定点が増えるのでノイズの影響を低減することができるが、スパイラルベクトルの諸量の検出に要する時間が長くなるというディメリットがある。
[実施の形態1のまとめ]
以下、これまで説明を総括するために、上記の信号処理方法を組み込んだ信号処理装置の概略構成について説明する。信号処理装置には、振幅が時間的に増加または減少する周期信号が入力される。周期信号として、たとえば、電力系統の電流または電圧を例示することができ、さらには、電力系統の周期的な電力動揺を例示することができる。もっとも、本開示による信号処理装置は、電力系統に限らず、より一般的な信号処理にも適用することができる。
図16は、ゲージSV群を利用した信号処理装置の概略構成を示すブロック図である。図16を参照して、信号処理装置200は、第1の不変量算出手段201と、減衰率算出手段202と、第2の不変量算出手段203と、振動周波数算出手段204と、振幅算出手段205と、位相角算出手段206とを備える。
第1の不変量算出手段201には、振幅が時間的に増加または減少する周期信号を第1の周波数(すなわち、データ収集サンプリング周波数f1)でサンプリングした瞬時値データが入力される。第1の不変量算出手段201は、この瞬時値の時系列データからゲージSV群を利用して第1の不変量であるゲージスパイラルベクトルVgを算出する。
より詳細には、第1の不変量算出手段201は、第1の周波数よりも小さい第2の周波数(すなわち、ゲージサンプリング周波数fg)で瞬時値データの中から抽出した時系列に連続する3点の抽出データに基づいてゲージスパイラルベクトルVgを算出する。具体的に、この3点の抽出データを時間的に後のほうからx1、x2、x3としたとき、第1の不変量算出手段201は、x2の2乗からx1とx3の積を減算した減算結果の平方根、すなわち、√(x2 2−x3・x1)によってゲージスパイラルベクトルVgを算出する(式(B7)を参照)。
なお、式(B5)に示したように、上記の3点の抽出データは、ゲージSV群を構成する3つのスパイラルベクトルの実数部に対応するものである。
減衰率算出手段202は、異なる2時点で算出されたゲージスパイラルベクトルVg(t)およびVg(t−T)の比に基づいて、前述の式(B12)に従って周期信号の対数減衰率λを計算する。上記のTは第2の周波数fgの逆数であるゲージサンプリング周期である。
第2の不変量算出手段203は、対数減衰率λ、ゲージサンプリング周期T、および上記の3点の抽出データx1、x2、x3を用いて、x1・exp(−λT)+x3・exp(λT)を2・x2で除算することによって第2の不変量である周波数係数fCを算出する(式(B21)参照)。
振動周波数算出手段204は、周波数係数fCおよびゲージサンプリング周波数fgを用いて、前述の式(B22)に従って周期信号の周波数である振動周波数fを算出する。
振幅算出手段205は、周期信号の瞬時値データを複素平面上でのスパイラルベクトルの実数部として表した場合に、上記のゲージスパイラルベクトルVgと、周波数係数fCのアークコサインである回転位相角αと、対数減衰率λとに基づいて、前述の式(B16)に従ってスパイラルベクトルの振幅V1(t)を算出する。
位相角算出手段206は、3点の抽出データx1、x2、x3と、周波数係数fCのアークコサインである回転位相角αと、対数減衰率λとに基づいて、前述の式(B28)および(B35)に従ってスパイラルベクトルの位相角φ1(t)を算出する。
図17は、ゲージ差分SV群を利用した信号処理装置の概略構成を示すブロック図である。図17を参照して、信号処理装置210は、第1の不変量算出手段211と、減衰率算出手段212と、第2の不変量算出手段213と、振動周波数算出手段214と、振幅算出手段215と、位相角算出手段216と、周波数変化量算出手段217と、直流成分算出手段218とを備える。
第1の不変量算出手段211には、振幅が時間的に増加または減少する周期信号を第1の周波数(すなわち、データ収集サンプリング周波数f1)でサンプリングした瞬時値データが入力される。第1の不変量算出手段211は、この瞬時値の時系列データからゲージ差分SV群を利用して第1の不変量であるゲージ差分スパイラルベクトルVgdを算出する。
より詳細には、第1の不変量算出手段211は、第1の周波数よりも小さい第2の周波数(すなわち、ゲージサンプリング周波数fg)で瞬時値データの中から時系列に連続する4点の抽出データを抽出し、4点の抽出データの隣接する2点間の差分である3点の差分データに基づいてゲージ差分スパイラルベクトルVgdを算出する。具体的に、この3点の差分データを時間的に後のほうからy1、y2、y3としたとき、第1の不変量算出手段211は、y2の2乗からy1とy3の積を減算した減算結果の平方根、すなわち、√(y2 2−y3・y1)によってゲージ差分スパイラルベクトルVgdを算出する(式(C12)を参照)。
なお、式(C3)に示したように、上記の3点の差分データは、ゲージ差分SV群を構成する3つのスパイラルベクトルの実数部に対応するものである。
減衰率算出手段212は、異なる2時点で算出されたゲージ差分スパイラルベクトルVgd(t)およびVgd(t−T)の比に基づいて、前述の式(C15)に従って周期信号の対数減衰率λを計算する。上記のTは第2の周波数fgの逆数であるゲージサンプリング周期である。
第2の不変量算出手段213は、対数減衰率λ、ゲージサンプリング周期T、および上記の3点の差分データy1、y2、y3を用いて、y1・exp(−λT)+y3・exp(λT)を2・y2で除算することによって第2の不変量である周波数係数fCを算出する(式(C19)参照)。
振動周波数算出手段214は、周波数係数fCおよびゲージサンプリング周波数fgを用いて、前述の式(C20)に従って周期信号の周波数である振動周波数fを算出する。
振幅算出手段215は、周期信号の瞬時値データを複素平面上でのスパイラルベクトルの実数部として表した場合に、上記のゲージ差分スパイラルベクトルVgdと、周波数係数fCのアークコサインである回転位相角αと、対数減衰率λとに基づいて、前述の式(C22)に従ってスパイラルベクトルの振幅V1(t)を算出する。
位相角算出手段216は、3点の差分データy1、y2、y3と、周波数係数fCのアークコサインである回転位相角αと、対数減衰率λとに基づいて、前述の式(C30)および(C38)に従ってスパイラルベクトルの位相角φ1(t)を算出する。
周波数変化量算出手段217は、前述の式(D4)に従って、スパイラルベクトルの現時点の位相角と複素平面上を基準周波数f0で回転する振幅一定の基準ベクトルの位相角との差分を相差角φdとして算出し、相差角φdの時間変化曲線の面積Sを算出する。さらに、周波数変化量算出手段217は、前述の式(D8)に従って、上記の面積Sに基づいて基準周波数f0に対する周期信号の周波数fの変化量Δfを算出する。
直流成分算出手段218は、上記の4点の抽出データのうち時間的に後の3点の抽出データx1、x2、x3と周波数係数fCと対数減衰率λとに基づいて、前述の式(D3)に従って周期信号に含まれる直流成分vDCの大きさを算出する。
上記の信号処理装置200,210は、CPU(Central Processing Unit)およびメモリ等を含むマイクロコンピュータに基づいて構成することができる。もしくは、信号処理装置は、CPUに代えてFPGA(Field Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの回路によって同様の演算処理を行うように構成されていてもよい。
[実施の形態1の効果]
上記の信号処理装置200,210によれば、振幅が時間的に増加または減少する周期信号を複素平面上で回転するスパイラルベクトルとして表した場合に、スパイラルベクトルの減衰率、振動周波数、振幅の瞬時値、および位相角の瞬時値について解析解を得ることができる。さらに、ゲージ差分SV群を利用した信号処理装置210によれば、交流最大振幅よりも大きな直流成分が周期信号に含まれている場合でも、スパイラルベクトルの減衰率、振動周波数、振幅の瞬時値、および位相角の瞬時値について解析解を得ることができる。また、直流成分の大きさを解析的に求めることもできるきる。このようにスパイラルベクトルの基本波成分の解析解を得ることができるので、上記の信号処理装置200,210は高精度のリアルタイムの信号処理に好適に用いることができる。
実施の形態2.
実施の形態2では、実施の形態1で説明したゲージSV群およびゲージ差分SV群を用いて送電線電力潮流の長周期動揺をリアルタイムで検出する測定装置および方法について説明する。
[長周期動揺測定装置の構成]
図18は、長周期動揺測定装置の構成を示すブロック図である。図18を参照して、長周期動揺測定装置101は、瞬時値データ入力手段102と、演算処理手段120と、通信手段114と、記憶手段115と、インターフェース116とを備える。
瞬時値データ入力手段102は、電圧変成器PTおよび電流変成器CTと接続され、電力系統130の母線132の電圧を表す電圧信号および送電線131を流れる電流を表す電流信号を連続的に受信する。受信した電圧信号および電流信号は、内蔵のA/D変換器によってデジタル変換される。この結果、データ収集サンプリング周期T1ごとにサンプリングされた時系列の電圧データおよび電流データが得られる。
演算処理手段120は、たとえば、CPUなどによって構成され、記憶手段115に格納されたプログラムに従って動作することによって、種々の演算処理を行う。演算処理手段120は、CPUに代えてFPGAまたはASICなどの回路によって同様の演算処理を行うように構成されていてもよい。
機能的に見ると、演算処理手段120は、電力潮流算出手段103、ゲージ差分SV電力算出手段104、減衰率算出手段105、減衰率ラッチ手段106、周波数係数算出手段107、振動周波数算出手段108、振動周波数ラッチ手段109、位相角算出手段110、位相角推定手段111、振幅算出手段112、およびベース潮流算出手段113を備える。これらの各手段の動作については、次の図19のフローチャートとともに説明する。
通信手段114は、通信回線(不図示)を介して他の装置との間で通信を行う。記憶手段115は、取得した電圧瞬時値データおよび電流瞬時値データを格納したり、演算処理手段120の計算結果を格納したりする。インターフェース116は、ユーザインターフェースまたは外部装置との間の接続のために用いられる。
図19は、送電線の電力潮流の長周期動揺を測定する手順を示すフローチャートである。以下、図18および図19を参照して、長周期動揺測定装置101による送電線131の電力潮流の振動成分の測定手順について説明する。
まず、ステップS101において、瞬時値データ入力手段102は、電圧変成器PTにから入力された電圧瞬時値データおよび電流変成器CTから入力された電流瞬時値データに基づいて、データ収集サンプリング周期T1ごとにサンプリングされた時系列の電圧データおよび時系列の電流データを生成する。
次のステップS102において、電力潮流算出手段103は、3相の各相の電圧および電流の時系列データに基づいて、データ収集サンプリング周期T1ごとに各相の有効電力および各相の無効電力を計算する。これによって、データ収集サンプリング周波数f1を有する有効電力の時系列データおよび無効電力の時系列データが各相ごとに得られる。この計算には、ゲージ電圧群およびゲージ電流群を利用する。ここで、ゲージ電圧群およびゲージ電流群は、ゲージSV群で減衰率λを0としたものに相当する。
一般に、電気系(たとえば、電流および電圧)の減衰率および周波数と、力学系(たとえば、長周期動揺)の減衰率および周波数とは100倍以上の違いがある。したがって、長周期動揺の減衰率と振動周波数を求めるとき、電流振幅の減衰率および電圧振幅の減衰率を零として計算しても長周期動揺の計算結果にはほとんど影響を与えない。以下、各相の有効電力および無効電力の具体的な計算手順について説明する。
A相の場合について説明すると、まず電力潮流算出手段103は、A相のゲージ電圧群を用いて式(B7)に従ってゲージ電圧Vg(ゲージSV電圧に相当する)を算出し、式(B21)に従って周波数係数を算出する。ただし、λ=0とする。この結果、中心ベクトルの大きさV0をVg/sinαによって求めることができる。さらに、電力潮流算出手段103は、式(B35)に従って中心角φ0を算出し、算出した中心角φ0を式(B28)に代入することによって現時点の位相角φ1を求める。ただし、λ=0とする。
A相のゲージ電流群を用いて同様の計算を行うことによって、最終的に次式(E1)に示すように、A相の電圧同期フェーザvA(t)およびA相の電流同期フェーザiA(t)を計算できる。
上式(E1)において、VAはA相の電圧振幅であり、IAはA相の電流振幅である。vAreはA相電圧の実数部であり、vAimはA相電圧の虚数部である。iAreはA相電流の実数部であり、iAimはA相電流の虚数部である。B相、C相についても同様に計算できる。
次に、電力潮流算出手段103は、上式(E1)を用いて、下式(E2)に示すようにA相の有効電力PA(t)およびA相の無効電力QA(t)を算出する。
上式(E2)において、iA(t)*は、iA(t)の複素共役を表す。なお、上式(E2)の電力の計算式は、スパイラルベクトル理論の基本定理である。
電力潮流算出手段103は、同様に、B相の有効電力PB(t)およびB相の無効電力QB(t)を算出し、C相の有効電力PC(t)およびC相の無効電力QC(t)を算出する。
次に、電力潮流算出手段103は、次式(E3)に示すように、時刻tおいて得られた各相の有効電力を加算し、各相の無効電力を加算する。
この結果、データ収集サンプリング周波数f1を有する有効電力P(t)の時系列データおよび無効電力Q(t)の時系列データが得られる。有効電力P(t)の時系列データおよび無効電力Q(t)の時系列データ、ゲージ差分SV電力算出手段104に入力される。
ゲージ差分SV電力算出手段104は、データ収集サンプリング周波数f1を有する有効電力P(t)の時系列データに基づいてゲージ差分SV群を生成する。ここで、ゲージ差分SV群を構成する電力瞬時値を時間的に後からp21,p22,p23とする。
ステップS103において、ゲージ差分SV電力算出手段104は、次式(E4)で示す判別式PgdBRK<0が成立するか否かを判定する。
上式(E4)は前述の式(C17)に対応する。
上式(E4)の判別式が成り立たない場合(ステップS103でNO)、ゲージ差分SV電力算出手段104は、次式(E5)に従ってゲージ差分SV電力Pgd(t)を算出する。
上式(E5)は、前述の式(C12)に対応する。
次のステップS104において、減衰率算出手段105は、上式(E5)で示されるゲージ差分SV電力Pgd(t)を用いることにより、次式(E6)に従って長周期動揺の減衰率λを算出する。
上式(E6)は、前述の式(C15)に対応するものである。上式(E6)において、Tはゲージサンプリング周期である。
一方、前述の式(E4)の判別式PgdBRK<0が成立する場合には(ステップS103でYES)、対称性が破れているために前述の式(E5)に従ってゲージ差分SV電力Pgd(t)を計算することができない。したがって、この場合にはステップS105において、減衰率ラッチ手段106は、データ収集サンプリング周期T1だけ前における減衰率λを現時刻tにおける減衰率として保持する(すなわち、ラッチする)。
次のステップS106において、周波数係数算出手段107は、次式(E7)で示す判別式fCBK>1が成立するか否かを判定する。
上式(E7)は、前述の式(C21)に対応する。
上式(E7)の判別式が成り立たない場合(ステップS106でNO)、周波数係数算出手段107は、次式(E8)に従って周波数係数fCを算出する。
上式(E8)は、前述の式(C19)に対応する。
次のステップS107において、振動周波数算出手段108は、ゲージサンプリング周波数fgおよび上式(E8)の周波数係数fCを用いて、次式(E9)に従って長周期動揺の周波数fを算出する。
上式(E9)は、前述の式(C20)に対応する。
次のステップS108において、位相角算出手段110は、式(E8)の周波数係数に対応するゲージ回転位相角αを用いて、ゲージ差分SV群の中心角φ0を次式(E10)に従って算出する。さらに、位相角算出手段110は、次式(E10)の中心角φ0に基づいて現時点のスパイラルベクトルの位相角φ1を次式(E11)に従って算出する。
上式(E10)および(E11)は、前述の式(C38)および(C30)にそれぞれ対応するものである。
一方、前述の式(E7)の判別式fCBK>1が成立する場合(ステップS106でYES)、すなわち、対称性が破れていると判定された場合には、前述の式(E8)に従って周波数係数fCを算出することができない。
したがって、この場合にはステップS109において、振動周波数ラッチ手段109は、現時点よりもデータ収集サンプリング周期T1だけ前における振動周波数fを、現時刻tにおける振動周波数として保持する(すなわち、ラッチする)。これにより、次式(E12)で示すように、f(t−T1)がf(t)に代入される。
前述の式(E7)の判別式fCBK>1が成立している場合には、さらに、次のステップS110において、位相角推定手段111は、現在の長周期動揺の位相角φ1(t)を推定する。具体的には、まず、位相角推定手段111は、上式(E12)に示す現時点の振動周波数f(t)を用いて、次式(E13)に従ってデータ取集サンプリング周期T1に対応する位相角α1を算出する。
次に、位相角推定手段111は、次式(E14)に従って、現時点よりもデータ収集サンプリング周期T1だけ前の長周期動揺の位相角φ1(t−T1)に、上式(E13)で計算された位相角α1を加算することによって、現在の長周期動揺の位相角φ1(t)を推定する。
次のステップS111において、振幅算出手段112は、次式(E15)に従って現時点における長周期動揺の振幅を算出する。
上式(E15)は前述の式(C22)に対応するものである。上式(E15)において、λは長周期動揺の減衰率を表し、αはゲージ回転位相角を表し、Pgd(t)はゲージ差分SV電力を表す。
次のステップS112において、ベース潮流算出手段113は、次式(E16)に従って電力潮流から長周期動揺(すなわち、振動成分)を除いた直流成分(この明細書では、ベース潮流Pbaseと称する)を算出する。
上式(E16)は前述の式(D3)に対応するものである。
次のステップS113において、演算処理手段120は、上記の計測および演算結果を記憶手段115に出力する。もしくは、演算処理手段120は、通信手段114を介して計測結果を他の装置に伝送してもよいし、インターフェース116を介してディスプレイなどに表示したり、プリンタに出力したりしてもよい。
処理を終了しない場合には(ステップS114でNO)、次のサンプリング時刻、すなわち、現時点tよりもデータ収集サンプリング周期T1だけ時間を進めて、上記の各ステップが繰り返される。
[シミュレーション実施例]
以下、上記で説明した電力潮流の長周期動揺測定装置101を用いたシミュレーションの実施結果について説明する。
表16は、シミュレーションの実施例のパラメータを示す。
表16のパラメータを満たす入力波形は、次式(F1)で表される。
以下、シミュレーション結果を示す。
図20は、本シミュレーションにおいて、入力信号波形と振動成分の振幅の計算結果を示す図である。図20では有効電力が入力された場合が示されており、入力信号波形を細い実線で示し、振動成分をスパイラルベクトルで表した場合の振幅の計算結果が太い実線で示されている。
入力波形は、0秒から5秒までが直流成分のみを有する。5秒以降には振幅が次第に増大する正弦波の波形が直流成分に重畳されることによって入力波形が構成されている。ゲージサンプリング周波数fgを2[Hz](すなわち、ゲージサンプリング周期Tgを0.5秒)としたので、ゲージ差分SV群を利用した振幅の計算は7秒以降で行われている。このように、スパイラルベクトルの振動周波数の1サイクルの時間で、スパイラルベクトルの振幅の解析解を得ることができた(基本波のみの計算であるため、解析解となる点に注意)。
上記の結果を、非特許文献3の83頁に記載されている脱調予測分離の方法と比較する。従来の方法は測定精度上の問題から、振動振幅の増加が3サイクル以上継続した場合に脱調と判定していた。これに対して、本実施の形態の測定方法を脱調予測分離装置に適用すれば、より早く正確に脱調を予測することができる。
なお、本実施形態による振動波形の検出方法によれば、減衰率だけでなく、振動波形の振幅の時間変化も検出できることに注目すべきである。この振幅変化を観察することによって、電力の動揺が増大していることを直感的に確認することができる。
図21は、本シミュレーションにおいて、複素平面上のスパイラルベクトルを示す図である。本シミュレーションのパラメータとして減衰率の設定値は0.2であり、0より大きい。このため、図21に示すように、スパイラルベクトルは複素平面上において反時計回りに回転しながら、その振幅が増大していく。このように複素平面上のスパイラルベクトルによって観測している電力を表示することによって、従来理論と異なり、電力の動揺を直感的に認識することができる。
図22は、本シミュレーションにおいて、減衰率の測定値と理論値との比較結果を示す図である。減衰率の理論値(シミュレーションパラメータの設定値)を細い実線で示し、ゲージ差分SV群を用いた減衰率の測定結果を太い実線で示す。
図22の理論値のグラフを参照して、5秒までは入力信号は直流成分のみを有し、減衰率は0[1/s]に設定されている。5秒以降の減衰率は0.2[1/s]に設定されている。
図22の測定値のグラフを参照して、ゲージサンプリング周波数fgを2[Hz](すなわち、ゲージサンプリング周期Tgを0.5秒)としたので、ゲージ差分SV群を利用した減衰率の計算は7秒以降で行われている。減衰率が0.2と計測された7秒の時点で電力の振動成分が増大していることが分かるので、直ちに電力系統が脱調傾向にあると判定して異常区間を電力系統から分離することができる。
図23は、本シミュレーションにおいて、振動周波数の測定値と理論値との比較結果を示す図である。振動周波数の理論値(シミュレーションパラメータの設定値)を細い実線で示し、ゲージ差分SV群を用いた振動周波数の測定結果を太い実線で示す。
図23の理論値のグラフを参照して、5秒までは入力信号は直流成分のみを有し、振動周波数は0に設定されておいる。5秒以降の振動周波数は0.5[Hz]に設定されている。
図23の測定値のグラフを参照して、ゲージサンプリング周波数fgを2[Hz](すなわち、ゲージサンプリング周期Tgを0.5秒)としたので、ゲージ差分SV群を利用した振動周波数の計算は7秒以降で行われている。図23に示すように理論値である0.5Hzに等しい振動周波数の解析解が得られている。
電力系統では多数の動揺モードが存在し得る。本実施の形態によれば、予め知見した各動揺モードの周波数に検出した周波数を照合することによって電力系統をより的確に制御することができる。さらに、複数の動揺モード間の協調制御を行うことができる。
図24は、本シミュレーションにおいて、スパイラルベクトルの位相角の測定値と理論値との比較結果を示す図である。位相角の理論値(シミュレーションパラメータの設定値)を細い実線で示し、ゲージ差分SV群を用いた位相角の測定結果を太い実線で示す。
図24の理論値のグラフを参照して、5秒の時点での初期位相の設定値が−89°であり、その後、2秒周期で位相角は−180°から+180°まで変化している。
図24の測定値のグラフを参照して、ゲージサンプリング周波数fgを2[Hz](すなわち、ゲージサンプリング周期Tgを0.5秒)としたので、ゲージ差分SV群を利用した位相角の計算は7秒以降で行われている。図24に示すように理論値に等しい位相角の解析解が得られている。
図25は、本シミュレーションにおいて、有効電力のベース潮流の測定値と理論値との比較結果を示す図である。有効電力のベース潮流の理論値(シミュレーションパラメータの設定値)を細い実線で示し、ゲージ差分SV群を用いたベース潮流の測定結果を太い実線で示す。ここで、ベース潮流とは、有効電力のうち動揺成分を除いた直流成分をいう。
図25の理論値のグラフを参照して、各時点での直流成分の設定値は4[PU]である。図25の測定値のグラフを参照して、ゲージサンプリング周波数fgを2[Hz](すなわち、ゲージサンプリング周期Tgを0.5秒)としたので、ゲージ差分SV群を利用した直流成分の計算は7秒以降で行われている。図25に示すように理論値に等しい直流成分の解析解が得られている。
一般に、電力系統の送電線におけるベース潮流(すなわち、本開示の場合の直流成分)は振動成分の振幅より大きい値を有する。本実施の形態によれば、このように直流成分の大きさが振動成分よりも大きい場合においても、直流成分(すなわち、ベース潮流)の大きさと共に振動成分の減衰率等の値を正確に測定できることがわかる。
前述の非特許文献2の77〜78頁には、直流成分が零であり、振動周波数が2[Hz]であり、減衰率が1[1/s]である場合の減衰振動のシミュレーション結果が示されている。非特許文献2では最小二乗法を用いた計算であるために減衰率の値は近似解として1.01[1/s]が得られている。これに対して、本開示によれば減衰率の解析解として厳密に1[1/s]を得ることができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。