以下、本発明に係る回転電機の実施形態について図1から図13を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る回転電機を回転軸に沿う方向から見た図である。
図2は、本発明の実施形態に係る回転電機を回転軸に直交する方向から見た図である。
図1および図2に示すように、本実施形態に係る回転電機1は、概略円柱形状の外観を有する。回転電機1は、筒状のステータ2と、ステータ2の軸方向の少なくともいずれか一方に配置され、隙間G1を隔ててステータ2に対面するアキシャルギャップロータ3と、ステータ2の径方向内側または外側に配置され、隙間G2を隔ててステータ2に対面するラジアルギャップロータ5と、を備えている。つまり、回転電機1は、いわゆるアキシャルギャップ型およびラジアルギャップ型の両方の構造を兼ね備えている。
なお、図1は、ステータ2の径方向内側に配置されるラジアルギャップロータ5を備える、いわゆるインナーロータ型の回転電機1の図である。また、図2は、ステータ2の軸方向の両方からステータ2を挟む一対のアキシャルギャップロータ3を備える回転電機1の図である。
また、回転電機1は、ステータ2の中心線に沿って配置される回転軸6を備えている。回転軸6は、ステータ2を挟む一対のアキシャルギャップロータ3を回転一体に支持している。また、回転軸6は、ステータ2の内部にラジアルギャップロータ5を回転一体に支持している。つまり、回転軸6は、アキシャルギャップロータ3およびラジアルギャップロータ5を回転一体に支持している。アキシャルギャップロータ3、ラジアルギャップロータ5、および回転軸6は、ステータ2の中心線を中心に回転する。回転軸6は、ステータ2、またはステータ2、ラジアルギャップロータ5、およびアキシャルギャップロータ3を収容するケーシング7に軸受(図示省略)を介して回転可能に支持されている。
図3は、本発明の実施形態に係る回転電機のステータの斜視図である。
図4は、本発明の実施形態に係る回転電機のステータコアの斜視図である。
図1および図2に加えて図3および図4に示すように、本実施形態に係る回転電機1のステータ2は、円筒形状のステータコア11と、ステータコア11に設けられ、ステータコア11の周方向に等間隔で並ぶ複数のステータティース12と、ステータコア11またはステータティース12に巻かれる電機子コイル13と、を備えている。
ステータコア11は、高透磁率の磁性材料で製作されている。ステータコア11の中心線方向を臨む面、つまり天面および底面をアキシャル面と呼び、ステータコア11の径方向を臨む面、つまり内周面および外周面をラジアル面と呼ぶ。
複数、例えば12のステータティース12は、放射状に配置されている。ステータティース12は、ステータコア11と同じ材料で一体成型されている。隣り合う一対のステータティース12は、ステータスロットを画定している。換言すると、ステータスロットは、隣り合うステータティース12の側面に挟まれる空間である。
それぞれのステータティース12は、ステータコア11の2つのアキシャル面から突出する第一ティース部15と、ステータコア11のラジアル面から突出する第二ティース部16と、を備えている。第一ティース部15は、ステータコア11の厚みの中央部から外側および内側へ向かって狭まる略六角柱状の外観を有している。第二ティース部16は、第一ティース部15の内側の形状に整合してステータコア11の中心線に向かって狭まる台形状を有している。第二ティース部16は、ステータコア11の内周面を長手方向、つまりステータコア11の中心線に平行な方向へ延びている。
電機子コイル13は、三相交流電源(図示省略)に接続される。電機子コイル13は、ステータスロットに配置され、ステータコア11に巻かれている。U相、V相、およびW相のそれぞれに接続される電機子コイル13a、13b、13cが、例えば4極ずつ並列にトロイダル集中巻きされている。各相の電機子コイル13は、ステータティース12を両脇から挟んでいる。なお、電機子コイル13は、ステータティース12に巻かれていても良い。
ステータ2は、電機子コイル13に交流電力が通電することによって磁束を発生させ、その磁束をステータコア11のアキシャル面からアキシャルギャップロータ3に鎖交させ、ステータコア11のラジアル面からラジアルギャップロータ5に鎖交させる。ステータティース12は、電機子コイル13に交流電力が通電することによってラジアルギャップロータ5を回転させる磁束を発生する電磁石として機能する。
図5は、本発明の実施形態に係る回転電機のアキシャルギャップロータを回転軸に沿う方向から見た図である。
図6は、本発明の実施形態に係る回転電機のアキシャルギャップロータを回転軸に直交する方向から見た図である。
図1および図2に加えて図5および図6に示すように、本実施形態に係る回転電機1のアキシャルギャップロータ3は、非磁性部材21と、ステータコア11に対面しアキシャルギャップロータコア21の周方向に等間隔で並ぶ複数のアキシャルギャップロータティース22と、アキシャルギャップロータティース22に巻かれステータ2で発生する磁束に基づいて誘導電流を誘起させる誘導コイル23と、を備えている。
アキシャルギャップロータ3は、非磁性部材21、複数のアキシャルギャップロータティース22、および誘導コイル23を、例えば樹脂を硬化させて一体化したものである。
非磁性部材21は、非磁性金属(例えばアルミニウム)や樹脂のような非磁性材料で製作されている。非磁性部材21には、アキシャルギャップロータティース22が取り付けられ、複数のアキシャルギャップロータティース22の相対的な位置が定められている。非磁性部材21(および樹脂)によって、アキシャルギャップロータ3とラジアルギャップロータとの間、および、複数のアキシャルギャップロータティースの間の磁気抵抗が高められている。
複数、例えば8つのアキシャルギャップロータティース22は、第二次高調波成分を導くため放射状に配置されたセグメント構造を有している。アキシャルギャップロータティース22は、断面が概略台形の短尺な棒体であり、台形の短辺を径方向内側に配置し、台形の長辺を径方向外側に配置している。アキシャルギャップロータティース22は、高透磁率の磁性材料で製作されている。アキシャルギャップロータティース22は、回転軸6の中心線に平行な方向に延びている。
誘導コイル23は、アキシャルギャップロータティース22に集中巻きされている。誘導コイル23は、外部電源に非接続である。アキシャルギャップロータティース22毎に巻かれた誘導コイル23は、アキシャルギャップロータ3全体で直列に接続されている。なお、誘導コイル23は、全てのアキシャルギャップロータティース22に巻かれている必要はなく、アキシャルギャップロータティース22の少なくとも1つに巻かれていれば良い。
回転電機1は、ステータ2のアキシャル面の突極数(すなわち第一ティース部15の数)とアキシャルギャップロータ3の誘導コイル23のコア数との比を3:2に設定し、第二次空間高調波成分を効率的に界磁エネルギー源として活用する。
セグメント構造のアキシャルギャップロータティース22とラジアルギャップロータ5との間に非磁性部材21が介在しているため、第2次空間高調波成分はラジアルギャップロータ5の基本波磁束の磁路には干渉しない。
また、複数のアキシャルキャップロータティース22同士の間にも非磁性部材21および樹脂が介在しているため、基本波磁束の磁路を形成せず、第二次空間高調波成分のみの磁路を形成するため、アキシャル面におけるドラッグトルク(「ブレーキトルク」とも呼ばれる)を大幅に低減する。セグメント構造のアキシャルギャップロータティース22は、磁路を必要最小限にすることで、磁束の鎖交によって生じる鉄損を抑制する。
図7は、本発明の実施形態に係る回転電機の横断面図である。
なお、図7は、回転電機1の1/4周、すなわち90度の領域の横断面図であるが、他の領域も同様の構造を有する。
図1および図2に加えて図7に示すように、本実施形態に係る回転電機1のラジアルギャップロータ5は、ステータコア11に対面するラジアルギャップロータコア31と、ラジアルギャップロータコア31に設けられラジアルギャップロータコア31の周方向に等間隔で並ぶ複数のラジアルギャップロータティース32と、ラジアルギャップロータティース32のそれぞれに設けられる永久磁石33と、ラジアルギャップロータティース32のそれぞれに巻かれ誘導コイル23が誘起させた誘導電流が通電すると磁界を発生させる界磁コイル35と、を備えている。
ラジアルギャップロータ3およびアキシャルギャップロータ5は、一体成形され、または回転軸6を介して組み合わされ、回転一体化されている。
複数、例えば8つのラジアルギャップロータティース32は、放射状に配置されている。ラジアルギャップロータティース32は、ラジアルギャップロータ5の径方向外側に向かって延びている。ラジアルギャップロータティース32は、高透磁率の磁性材料で製作されている。ラジアルギャップロータティース32とステータティース12との数量は異なる。したがって、ステータコア11とラジアルギャップロータ5とが相対的に回転するとき、ラジアルギャップロータティース32の外周面はステータティース12の内周面に適宜、近接し、対面する。
隣り合う一対のラジアルギャップロータティース32は、ロータスロットを画定している。ロータスロットは、隣り合うラジアルギャップロータティース32の側面に挟まれる空間である。
永久磁石33は、ラジアルギャップロータティース32に埋設されている。永久磁石33は、ラジアルギャップロータティース32毎に2つずつ配置されている。2つの永久磁石33は、一文字型に並んでいる。2つの永久磁石33の間には、ブリッジ部36が設けられている。なお、2つの永久磁石33は、V字型に配置されていても良い。
ラジアルギャップロータティース32は、永久磁石33よりもステータ2側に配置される先端部51を有している。先端部51は、永久磁石33と磁路部材38との間、および永久磁石33とステータティース12(第二ティース部16)との間に磁束を通す磁路である。先端部51は、ラジアルギャップロータティース32の突出端に相当する。ラジアルギャップロータティース32のうち、先端部51よりも根元側、つまり先端部51よりもステータ2から遠い側は、実質的に一様な幅寸法で延びている。この実質的に一様な幅寸法でラジアルギャップロータ5の中心側から先端部51まで延びている部分を等幅部52と呼ぶ。先端部51は、ラジアルギャップロータ5の中心からの距離を半径とする円弧状の外周面を有している。また、先端部51は、永久磁石33よりも磁路部材38に向かって突出した形状を有している。具体的には、ラジアルギャップロータティース32の幅寸法よりも拡がってロータスロットに楔状に侵入する突出部51aを有している。
永久磁石33は、隣り合う一対のラジアルギャップロータティース32において磁極(N極、S極)を逆に向けて設置されている。ラジアルギャップロータ5の全周においては、永久磁石33は、ラジアルギャップロータティース32毎に磁極(N極、S極)を交互に逆に向けて設置されている。ある1つのステータティース12(第二ティース部16)に着目すると、ラジアルギャップロータ5とステータ2とが相対回転するとき、永久磁石33のN極およびS極が、交互に繰り返しステータティース12(第二ティース部16)に対面する。
界磁コイル35は、ラジアルギャップロータティース32の先端部51を避け、ラジアルギャップロータティース32の等幅部52に集中巻きされている。界磁コイル35は、ロータスロットを活用してラジアルギャップロータティース32の等幅部52に集中巻きされている。
界磁コイル35は、永久磁石33の磁束を打ち消す方向に磁界を発生させる。換言すると、界磁コイル35は、永久磁石33の磁束を打ち消す磁界を発生させる向きに巻かれている。ラジアルギャップロータ5の全周においては、永久磁石33の磁極(N極、S極)がラジアルギャップロータティース32毎に交互に逆向きに設置されているため、界磁コイル35も、ラジアルギャップロータティース32毎に交互に逆向きに巻かれている。ラジアルギャップロータティース32毎に巻かれた界磁コイル35は、ラジアルギャップロータ5全体で直列に接続されている。なお、界磁コイル35は、並列接続しても良いし、別回路を設ける構造としても良い。
図8は、本発明の実施形態に係る回転電機の誘電コイルおよび界磁コイルの回路図である。
図8に示すように、本実施形態に係る回転電機1は、誘導コイル23で発生する交流の誘導電流を直流の界磁電流にして界磁コイル35に供給する。回転電機1は、界磁コイル35に界磁電流を流し、磁路部材38を電磁石として機能させる。なお、誘導コイル23aは、例えばステータ2の軸方向の一方に配置されるアキシャルギャップロータ3の誘導コイル23であり、誘導コイル23bは、例えばステータ2の軸方向の他方に配置されるアキシャルギャップロータ3の誘導コイル23である。
誘導コイル23および界磁コイル35は、ダイオード71a、71bを介して接続されている。換言すると、誘導コイル23および界磁コイル35は、誘導回路および界磁回路として、外部の電源等の回路に接続されることのない閉回路内にダイオード71a、71bとともに組み込まれている。
この閉回路は、誘導コイル23で発生する交流の誘導電流を、ダイオード71a、71bを介して半波整流させて直流界磁電流に調整し、この後に合流させて界磁コイル35に供給する。
ダイオード71a、71bは、それぞれ180度位相差になるように結線され、誘導コイル23の誘導電流を反転させて半波整流出力する中性点クランプ型の半波整流回路を構成している。
上述したとおり、回転電機1は、トロイダル集中巻されるステータ2と、ステータ2のアキシャル面に配置され誘導コイル23を有するアキシャルギャップロータ3と、ステータ2のラジアル面に配置され界磁コイル35を有するラジアルギャップロータ5と、を備えている。このように構成される回転電機1は、ステータ2の電機子コイル13に通電することにより磁束を発生させる。この磁束は、ステータティース12のラジアル面から対面するラジアルギャップロータティース32の先端部51の外周面に鎖交する。回転電機1は、ステータティース12とラジアルギャップロータティース32との間で鎖交する磁束の磁路を最短にしようとするリラクタンストルク、および永久磁石33の磁気反発力ならびに磁石吸引力によるマグネットトルクによってラジアルギャップロータ5を回転させる。そして、回転電機1は、ラジアルギャップロータ5と一体回転する回転軸6から機械的エネルギーを出力する。
ところで、一般的な固定界磁形の永久磁石同期モータは、高回転で駆動するとき、永久磁石の磁束に起因する逆起電力(ステータ巻線誘導起電力、速度起電力とも言う)が増加する。そこで、逆起電力の電圧が電源電圧を超えないように、インバータを用いた電圧制限制御、いわゆる弱め磁束制御が行われる。この弱め磁束制御は、トルクに寄与しない磁束ベクトル方向に永久磁石の磁束を打ち消すベクトルを発生させる。したがって、弱め磁束制御は、モータの出力に寄与しない無駄なエネルギーを必要とし、効率を低下させる。また、弱め磁束制御は、ステータとロータとのギャップ中の磁束を大きく歪ませ、高調波成分を発生させ、鉄損を増加させ、電磁振動を増加させる。さらに、弱め磁束制御は、永久磁石に対向する逆磁界ベクトルを発生させて永久磁石の磁束を抑え込むため、比較的保磁力の高い磁石を必要とし、コストを増加させる。
本実施形態に係る回転電機1も、ステータティース12からラジアルギャップロータティース32に鎖交する磁束に高調波成分が重畳する。基本周波数の磁束に重畳する高調波成分は、基本周波数と異なる周期で時間的に変化しつつアキシャルギャップロータティース22にも鎖交する。
そこで、回転電機1は、ステータ2からアキシャルギャップロータ3に鎖交する磁束の高調波成分の磁束密度の変化を利用して、アキシャルギャップロータ3の誘導コイル23に誘導電流を発生させる。つまり、誘導コイル23は、第二次高調波成分を利用することによって、外部からの電力等を必要とすることなく、効率よく誘導電流を発生させる。この結果、回転電機1は、鉄損の原因となる高調波成分を自己励磁するためのエネルギーとして回収する。
図9および図10は、本発明の実施形態に係る回転電機の界磁コイルが生じさせる磁束の変化を概略的に示す図である。
なお、図9および図10は、ラジアルギャップロータ5に生じる磁束を矢印で表し、ステータ2に生じる磁束を省略して図示している。
図9は、回転電機1が低速で回転しているときの様子を示し、図10は、回転電機1が高速で回転しているときの様子を示している。
回転電機1は、誘導コイル23が発生させた誘導電流をダイオード71a、71bで整流し、この整流した誘導電流を界磁電流として界磁コイル35に流す。界磁コイル35は、界磁電流が流れることによって自己励磁し、界磁コイル35は、永久磁石33の磁束を打ち消す方向に磁界を発生させる。誘導コイル23に発生する誘導起電力は、ファラデーの法則に基づき、回転電機1の回転速度の増加とともに増加する、つまり正の相関関係を有する。図9は回転電機1が低速で回転し誘導起電力が小さい状態を図示しているため、界磁電流(または界磁コイルの起電力)の図示を省略している。他方、図10は、回転電機1が低速で回転し誘導起電力が大きい状態を図示しているため、界磁電流(または界磁コイルの起電力)を図示している。誘導コイル23に発生する誘導起電力が回転電機1の回転速度の増加とともに増加するため、界磁コイル35は、回転電機1の回転速度の増加とともに永久磁石33の磁束をより強く(大きく)打ち消す。この結果、回転電機1は、回転速度の変化に応じてステータ2に鎖交する磁束量を変化させる。換言すると、回転電機1は、回転速度の変化に応じてステータ2に鎖交する磁束量を可変させる。図9および図10は、磁路部材38の磁力による影響を矢印の太さで表している。回転電機1は、ステータ2に鎖交する磁束量を可変させるため、ステータ2に鎖交する磁束量を「φ」と表すとき、ステータ端子電圧V=電機子コイル巻数N×dφ/dtで表されるステータ端子電圧Vの増加を防ぐことができる。
したがって、回転電機1は、ステータ2に鎖交する磁束量を制御し、ステータ端子電圧Vの増加を防ぎ、ひいては弱め界磁制御を不要にできる。また、回転電機1は、弱め界磁制御に起因するモータ電磁振動を大幅に低減させる。そして、回転電機1は、高回転時における出力を増加させ、効率を向上させる。
また、回転電機1は、回転速度の増加に応じて永久磁石33の磁束をより強く打ち消すため、誘導起電力が増加する高回転域で特に好適である。
なお、アキシャルギャップロータ3およびラジアルギャップロータ5は、誘導コイル23と界磁コイル35とが電気的に接続されている限りにおいて、常に回転一体化されている必要はない。
次いで、本実施形態に係る回転電機1の他の例を説明する。なお、各例で説明する回転電機1A、および1Bにおいて、図1から図10の回転電機1と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図11は、本発明の実施形態に係る回転電機の他の例の横断面図である。
図11に示すように、本実施形態に係る回転電機1Aは、隣り合うラジアルギャップロータティース32の間に配置される磁路部材38を備えている。
界磁コイル35Aは、ラジアルギャップロータティース32とともに、ラジアルギャップロータティース32を挟む一対の磁路部材38に一括して巻かれている。
磁路部材38は、ロータスロットに配置されている。磁路部材38は、高透磁率の磁性材料で製作されている。磁路部材38は、ラジアルギャップロータ5の軸方向において、ラジアルギャップロータ5の回転中心に対して平行に延びている。磁路部材38は、ラジアルギャップロータ5の軸方向に直行する断面視において、ロータスロットの奥側、つまりラジアルギャップロータティース32の根元に近い側から隣り合う一対のラジアルギャップロータティース32のそれぞれの先端部51にむかって延びるV字形状を有している。磁路部材38は、隣り合う一対のラジアルギャップロータティース32の先端部51の間を短絡する磁路(以下、単に「磁路」または「バイパス磁路」と言う)を形成する。
V字に延びる一対の腕部81は、界磁コイル35を巻き付けることが可能な板状の形状を有している。腕部81は、ラジアルギャップロータ5の回転中心に対して平行に延び、かつ隣り合う一対のラジアルギャップロータティース32に対して平行に延びている。
腕部81は、ラジアルギャップロータティース32の根元に近い部分(これを基部82と呼ぶ)からラジアルギャップロータティース32の先端部51へ向かって延びている。
ラジアルギャップロータティース32の先端部51と磁路部材38の腕部81との間には、間隔G3が設けられている。
ラジアルギャップロータティース32と磁路部材38との間隔G3は、ステータティース12とラジアルギャップロータコア31との間隔G4よりも広い。間隔G3は、ラジアルギャップロータティース32の先端部51の突出部51aと、磁路部材38の腕部81との最短距離である。間隔G4は、ステータ2の第二ティース部16の最内周面と、ラジアルギャップロータティース32の先端部51の最外周面との最短距離であり、実質的にステータ2とラジアルギャップロータ5との隙間G2と同じである。
ラジアルギャップロータティース32と磁路部材38との間隔G3を、隙間(空気)で隔てる場合、磁路部材38は、ラジアルギャップロータコア31の軸方向におけるそれぞれの端部でラジアルギャップロータコア31に固定される。ラジアルギャップロータティース32と磁路部材38との間隔G3は、隙間ではなく、非磁性体、例えば樹脂で満たされていても良い。この場合、磁路部材38は、間隔G3を埋める樹脂でラジアルギャップロータコア31に固定される。
磁路部材38は、V字の底、つまり基部82で分割されている。分割部分には間隔G5がある。なお、磁路部材38は、間隔G5のない一体品であってもよい。
回転電機1Aは、誘導コイル23が発生させた誘導電流をダイオード71a、71bで整流し、この整流した誘導電流を界磁電流として界磁コイル35Aに流す。界磁コイル35Aは、界磁電流が流れることによって自己励磁し、永久磁石33の磁束を打ち消す方向に磁界を発生させ、かつ磁路部材38、つまりバイパス磁路に磁極を形成する。誘導コイル23に発生する誘導起電力が回転電機1の回転速度の増加とともに増加するため、界磁コイル35Aは、回転電機1の回転速度の増加とともに磁路部材38の磁力を強め、永久磁石33の磁束を打ち消す方向に磁界を発生させ、かつ隣り合うラジアルギャップロータティース32(32a、32b)に埋設される永久磁石33(33a、33b)の磁束をラジアルギャップロータ5内で短絡させる。この結果、回転電機1Aは、回転速度の変化に応じてステータ2に鎖交する磁束量を変化させる。換言すると、回転電機1Aは、回転速度の変化に応じてステータ2に鎖交する磁束量を可変させる。回転電機1Aは、ステータ2に鎖交する磁束量を可変させるため、ステータ2に鎖交する磁束量を「φ」と表すとき、ステータ端子電圧V=回転数N×dφ/dtで表されるステータ端子電圧Vの増加を防ぐことができる。
回転電機1Aは、永久磁石33の磁気抵抗によって界磁コイル35Aの磁束を永久磁石33に作用させにくい場合であっても、磁路部材38にも界磁コイル35Aの磁束を作用させ、第二次空間高調波成分を効率的に利用できる。
また、回転電機1Aは、ラジアルギャップロータティース32と磁路部材38との間隔G3が、ステータティース12とラジアルギャップロータコア31との間隔G4よりも広いため、ラジアルギャップロータティース32と磁路部材38との間の磁気抵抗が、ステータコア11とラジアルギャップロータコア31との磁気抵抗よりも大きい。このことは、界磁コイル35Aに流れる界磁電流が少ない低回転時において、磁路部材38を介する永久磁石33間の磁束の短絡を減じ、トルクの低下を抑制する。
図12は、本発明の実施形態に係る回転電機の他の例の横断面図である。
図12に示すように、本実施形態に係る回転電機1Bは、ラジアルギャップロータティース32Bを備えている。
ラジアルギャップロータティース32Bは、ステータコア11に向かって凹形状の第一空隙91と、ステータコア11に向かって凹形状かつ第一空隙91よりもステータコア11に近い第二空隙92と、を有している。
第一空隙91は、第二空隙92よりもラジアルギャップロータティース32Bの根元側に近い。第二空隙92は、第一空隙91よりもラジアルギャップロータティース32Bの外周部に近く、実質的に外周縁近傍に配置されている。
永久磁石33は複数あって、第一空隙91および第二空隙92のそれぞれに配置されている。永久磁石33は、第一空隙91のうち、ラジアルギャップロータティース32Bの幅方向中央部に配置されている一対の永久磁石33aと、第二空隙92のうち、ラジアルギャップロータティース32Bの幅方向中央部に配置されている永久磁石33bと、を含んでいる。
ラジアルギャップロータティース32Bは、第一空隙91のうち第一空隙91に配置される永久磁石33よりもステータコア11に近い部位に設けられる一対の第一フラックスバリア95と、第二空隙92のうち第二空隙92に配置される永久磁石33よりもステータコア11に近い部位に設けられる一対の第二フラックスバリア96と、を備えている。 第一フラックスバリア95および第二フラックスバリア96は、単なる隙間(エアギャップ、空間)である。
ラジアルギャップロータティース32Bは、第一空隙91と第二空隙92との間に磁路を形成し、第一空隙91よりもラジアルギャップロータティース32Bの根元側に磁路を形成する。このような多条の磁路は、リラクタンストルクを増加させる。つまり、本実施形態に係る回転電機1Bは、複数の凹形状の隙間(第一空隙91、第二空隙92)でリラクタンストルクを増加させるラジアルギャップロータティース32Bに、永久磁石33の磁束を打ち消す磁界を発生させる界磁コイル35を適用した形態である。
このように構成される本実施形態に係る回転電機1、1A、1Bは、誘導コイル23と界磁コイル35、35Aとを別々のロータ(すなわち、アキシャルギャップロータ3、ラジアルギャップロータ5)に巻いているため、従来の回転電機のように誘導コイル23と界磁コイル35、35Aとを同一のロータに巻く場合に比べてそれぞれのコイルを巻く領域をより大きく確保することができる。このことは、誘導コイル23および界磁コイル35、35Aそれぞれの巻き数を増加させ、空間高調波の利用効率を高める。
一般に、永久磁石同期電動機(Permanent Magnet Synchronous Motor、PMSM)は、回転にともない永久磁石33の磁束によって誘起電圧が発生し、この誘起電圧が電動機の電源電圧を超える電源回路を破損させる虞がある。このため、永久磁石同期電動機は、電源回路の破損を回避するために回転数の上限が設定されている。
そこで、本実施形態に係る回転電機1、1A、1Bは、界磁コイル35、35Aが発生させる磁束で永久磁石33の磁束を打ち消す弱め界磁を行うことで、回転にともなう誘起電圧を下げ、同じ耐性の電源回路で許容可能な回転数の上限を増すことができる。
図13は、本発明の実施形態に係る回転電機の他の例の横断面図である。
なお、本実施形態に係る回転電機1、1A、1Bは、図1から図12のようなステータ2の内側にラジアルギャップロータ5を配置するインナーロータ型に限られず、図13に示すように、ステータ2の外側にラジアルギャップロータ5を配置するアウターロータ型であっても良い。
この場合、回転電機1、1A、1Bは、筒状のステータ2と、ステータ2の軸方向の少なくともいずれか一方に配置され、隙間G1を隔ててステータ2に対面するアキシャルギャップロータ3と、ステータ2の径方向外側に配置され、隙間G2を隔ててステータ2に対面するラジアルギャップロータ5と、を備えることになる。ステータ2の第二ティース部16は、第一ティース部15の外側の形状に整合してステータコア11の中心線に向かって狭まる台形状を有している。第二ティース部16は、ステータコア11の外周面を長手方向、つまりステータコア11の中心線に平行な方向へ延びている。ラジアルギャップロータティース32は、ラジアルギャップロータ5の径方向内側に向かって延びている。
また、本実施形態に係る回転電機1、1A、1Bは、非磁性部材21に代えて、または非磁性部材21とは別に、アキシャルギャップロータティース22と同一材料で形成されるアキシャルギャップロータコアを備えていても良い。この場合、アキシャルギャップロータコアとアキシャルギャップロータティース22とを一体形成でき、製造コストおよび製造工数を低減することができる。
また、本実施形態に係る回転電機1、1A、1Bは、アキシャルギャップロータ3の非磁性部材21および誘導コイル23と、ラジアルギャップロータ5のラジアルギャップロータコア31、界磁コイル35、35A、永久磁石33、および磁路部材34とを入れ替えても良い。つまり、回転電機1のラジアルギャップロータ5は、非磁性部材21、ステータコア11に対面し周方向に等間隔で並ぶ複数のラジアルギャップロータティース32、32Bと、ラジアルギャップロータティース32、32Bに巻かれステータ2で発生する磁束に基づいて誘導電流を誘起させる誘導コイル23と、を有し、アキシャルギャップロータ3は、ステータコア11に対面するアキシャルギャップロータコア21と、アキシャルギャップロータコア21に設けられアキシャルギャップロータコア21の周方向に等間隔で並ぶ複数のアキシャルギャップロータティース22と、アキシャルギャップロータティース22のそれぞれに設けられる永久磁石33と、アキシャルギャップロータティース22のそれぞれに巻かれ誘導コイル23が誘起させた誘導電流が流れると磁界を発生させる界磁コイル35、35Aと、を有するものであっても良い。この場合においても、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、非磁性部材21に代えて、または非磁性部材21とは別に、アキシャルギャップロータティース22と同一材料で形成されるアキシャルギャップロータコアを設けても良い。
さらに、本実施形態に係る回転電機1、1A、1Bは、界磁コイル35、35Aの起磁力を、電機子コイル13および永久磁石33の磁束を弱める方向に利用するものに限られない。インバータの電源電圧に制約がなければ、本実施形態に係る回転電機1、1A、1Bは、従来技術のように、界磁コイル35、35Aの起磁力を、電機子コイル13および永久磁石33の磁束を強める方向に利用しても良い。この場合、界磁コイル35、35Aは、図10の場合の反対方向に巻かれる。
さらにまた、本実施形態に係る回転電機1、1A、1Bは、誘導コイル23と界磁コイル35、35Aとをアキシャルギャップロータ3とラジアルギャップロータ5とに分けて配置するものに限られない。本実施形態に係る回転電機1、1A、1Bは、誘導コイル23と界磁コイル35、35Aとを兼用するコイルを、アキシャルギャップロータ3およびラジアルギャップロータ5のそれぞれに設けても良い。この場合、本実施形態に係る回転電機1、1A、1Bは、誘導コイル23および界磁コイル35、35Aを兼用するコイルを別々のロータ(すなわち、アキシャルギャップロータ3、ラジアルギャップロータ5)に巻いているため、従来の回転電機のように誘導コイル23と界磁コイル35、35Aとを同一のロータに巻く場合に比べてそれぞれのコイルを巻く領域をより大きく確保することができる。
また、本実施形態に係る回転電機1は、外部からアキシャルギャップロータ3およびラジアルギャップロータ5にエネルギーを入力する必要のない構造を有し、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載することが好適な性能を有している。
したがって、本発明に係る回転電機1、1A、1Bによれば、誘導コイル23および界磁コイル35、35Aの巻き数を確保し易く、ひいては空間高調波成分をより効率的に利用することができる。