JP6766404B2 - 4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管 - Google Patents

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Description

石油・ガス等のエネルギー輸送に用いられるラインパイプに用いられる外面ポリオレフィン樹脂被覆鋼管がある。ポリオレフィン樹脂被覆鋼管は世界の標準として使用されており、特に長期の防食性と施工時の耐疵性が要求される場合には3層被覆鋼管が用いられる。その構成は防食性の高いエポキシ樹脂プライマー層、接着剤層、ポリオレフィン樹脂層からなる3層構造が用いられる。被覆されるポリオレフィン樹脂には、ポリエチレン樹脂とポリプロピレン樹脂があるが、安価で信頼性が高いことから、一般的にはポリエチレン樹脂が使用される。4層以上の被覆鋼管は、ポリエチレン樹脂表面に発泡樹脂を被覆した断熱を目的とする場合や、海底ラインパイプでの重りとしてコンクリートをコーティングする場合が殆どであるが、疵防止を目的として3層ポリエチレン樹脂構造の表面に、硬いポリプロピレン樹脂被覆を行った4層被覆鋼管も提案されている。本発明は疵防止を目的とした4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管において、耐久性と低温衝撃での被覆の耐割れ防止に優れた被覆構成を提供するものである。
従来の3層ポリオレフィン樹脂鋼管の外面被覆はISO21809−1で規定されており、温度領域として−40〜80℃の領域ではポリエチレン樹脂、−20〜110℃の領域ではポリプロピレン樹脂が使用できるとある。一般には安価なポリエチレン樹脂が使用される。厚膜の樹脂を被覆する本方法では、鋼管面に達する疵が無い限り、鋼管の外面が腐食することはまずない。従って、逆に被覆に疵が生じると、防食性が大きく低下するため、疵防止が重要となる。疵を防止するため、ポリエチレン樹脂の膜厚化や強度を高める方法が用いられるが、特に高温用途でなくとも樹脂の強度が高いポリプロピレン樹脂が使用される場合もある。
しかしながら、ポリプロピレン樹脂を高温用途以外に使用した場合には2つの問題があることが報告されている。一つは低温領域での割れである。ISOの規定では−20℃まで使用可能となっているが、実際の被覆鋼管では0℃でも衝撃で割れることが報告されており、評価方法の変更が提案されている。2つ目はポリプロピレン樹脂被覆の耐久性である。ポリプロピレン樹脂は分子の構造上、酸化劣化がポリエチレン樹脂よりも生じやすく、紫外線にも弱い。
紫外線劣化防止にはカーボンブラック添加が最も効果的である。しかしながら、ポリプロピレン樹脂の場合、カーボンブラックを添加すると、高温では酸化防止剤を失活させて酸化劣化が生じやすくなる。このため、鋼管被覆用のポリプロピレン樹脂にはカーボンブラックを添加しないこともあって、紫外線の耐劣化性能はポリエチレン樹脂に大きく劣る。パイプラインは埋設が主となるために大きな問題とはなっていないが、ポンプステーション周辺などで空中配管が露出する場合は、長期耐久性に問題がある。
また、現地溶接継ぎ手部にはポリエチレン樹脂の熱収縮チューブまたはシートが用いられる。ポリプロピレン樹脂は非常に硬いこともあり基材として用いることができず、継ぎ手部はポリエチレン樹脂を基材としたものしか無い。このため、鋼管部のポリプロピレン樹脂被覆と継ぎ手部のポリエチレン樹脂被覆部は異樹脂となり、互いに接着しないという問題があった。
低温におけるポリプロピレン樹脂被覆の割れを改善する方法として、特許文献1に示すように特性の異なるポリプロピレン樹脂を多層で被覆する方法が提案されている。また、特許文献2には、ポリエチレン樹脂被覆の上層にポリプロピレン樹脂を疵防止層として設ける方法が提案されている。しかしながら、いずれの方法もポリプロピレン樹脂が外表層あるため、低温での表面の衝撃割れ、紫外線による劣化、継ぎ手部の現地ポリエチレン樹脂被覆との接着性といった全ての課題を満足するには至っていない。
特開平8−300562号公報 特許第5187455号公報
本発明の目的は、従来のポリエチレン樹脂被覆と同等の使いやすさ、耐久性を保持しながら、ポリエチレン樹脂被覆における疵の課題を解決した4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管を提供するものである。
本発明の課題を解決する方法として、従来の耐疵の保護層を表面に設けるという考え方とは逆の方法を用いた。すなわち、被覆自体は耐疵性に優れるポリプロピレン樹脂に変更し、その一方で、硬いポリプロピレン樹脂被覆の欠点である耐低温衝撃の割れ、耐紫外線耐久性、現地被覆との接着性の課題を解決するために、表面に軟らかいポリエチレン樹脂被覆を設けた。また、ポリエチレン樹脂とポリプロピレン樹脂は分子構造の違いから化学的に接着しないことからポリプロピレン樹脂被覆上には機械的な凹凸を設けてポリエチレン樹脂層とのずれを防止する。更に継ぎ手部の防食性を高める方法として、鋼管の被覆端部ではポリエチレン樹脂が直接、鋼材と接着する構造とすることで管端部のシール性を高める方法を含めて提案するものである。
発明の要旨は次のとおりである。本発明の4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管を製造するため、まず3層ポリプロピレン樹脂被覆鋼管を製造する。ポリプロピレン樹脂被覆は従来のポリエチレン樹脂よりも機械的特性に優れるため、耐疵性を向上させることができる。3層ポリオレフィン樹脂被覆の防食性は最下層に防食性の高いエポキシ樹脂プライマー層を200μm以上の厚膜で設けることが好ましい。これにより仮に疵が発生しても、疵は鋼面に到達せず、鋼面に達しない疵で防食性を大きく損なうことは無い。耐疵性の観点からポリプロピレン樹脂の厚みは2mm以上とすることが好ましい。一方、厚膜にすると被膜の内部応力増加によって割れが発生しやすくなることから、5mm以下が好ましい。
3層ポリプロピレン樹脂被覆鋼管は従来公知の方法で製造する。例えば、鋼管外面の錆除去にブラスト処理、洗浄処理を行った後、鋼管を加熱し、粉体状のエポキシ樹脂を静電粉体塗装して200μm以上の厚膜プライマー層を形成する。その後、Tダイスを介して溶融押し出しした変性ポリオレフィン樹脂接着剤のフィルムと、ポリプロピレン樹脂被覆フィルムを回転巻き付けしてポリプロピレン樹脂被覆層を形成する。その後、水冷を行って3層ポリプロピレン樹脂被覆鋼管を得る。但し、通常のTダイス被覆方法ではポリプロピレン樹脂外面は平滑面しか形成されないため、水冷前にラフコート(溶融ポリプロピレン樹脂の表面に同種ペレットをふりかける)等の方法で、表面に突起を設ける。以上の方法により、まず表面突起を有する3層ポリプロピレン樹脂被覆鋼管を製造する。
次に、本発明の4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管の端部の形成方法について説明する。通常、樹脂被覆鋼管端部は溶接の熱影響を避けるために、管端部から100mm以上カットバック生成して溶接用に鋼材露出部を設ける。本発明の4層被覆鋼管を製造するための3層被覆鋼管ではカットバックを通常の仕様よりも50mm以上多く設けることが好ましい。その後再度、塗装被覆ラインに3層被覆鋼管を戻して、カットバックされた鋼材露出部のみを高周波加熱し、その部分のみに再度粉体エポキシ樹脂を塗装し、直後に変性ポリエチレン樹脂接着剤の粉体を塗装して、鋼管の両間端部分にプライマーと変性ポリエチレン樹脂接着剤の2層を設ける。その後、Tダイスを介して溶融押し出ししたフィルム状のポリエチレン樹脂を、両端部を含めた鋼管全体に回転被覆して保護層を形成し、その後水冷を行う。鋼管両端部では、ポリプロピレン樹脂層の無い3層被覆構造であるが、ポリエチレン樹脂保護層が鋼管全体に被覆されることでシール性を有した4層被覆鋼管を得ることができる。
硬いポリプロピレン樹脂層に柔らかいポリエチレン樹脂層を組み合わせることで、低温衝撃時でも表面クラックの発生が抑制される。表層のポリエチレン樹脂と内部のポリプロピレン樹脂は化学的に接着していないため、ポリエチレン樹脂は拘束されていないことから容易に変形し、低温の割れ特性はポリエチレンの3層被覆の場合よりも有利になる。また、接着していないことから割れを誘発するような引き裂き剪断力は界面を越えて伝播しないことから、たとえ硬い内層のポリプロピレンが先に割れても、表層のポリエチレンには影響しないため、鋼面が露出するような事故の発生を抑制出来る。
更には、鋼管外面被覆が紫外線に曝される場合、ポリプロピレン樹脂では耐久性に限界があったのに対して、紫外線酸化劣化の少ない黒色ポリエチレン樹脂では40年以上の耐候性が期待できる。更に管端部のポリエチレン樹脂層を、変性ポリエチレン接着剤層を介して鋼管に直接接着させてシールする構造とすることで、管端部からポリエチレン樹脂層が剥離しない。また、管端部の構造は3層ポリエチレン樹脂被覆鋼管と同じであることから、溶接継ぎ手部の現場被覆には、従来の3層ポリエチレン樹脂被覆鋼管用のものが、そのまま使用できる。
鋼管内部流体が高温であった場合、防食被覆にも高温での防食特性が要求されるが、鋼管と接する部分を高温仕様のポリプロピレン樹脂としたまま、ポリプロピレンでは課題となる耐候性や低温衝撃性、現地継ぎ手仕様との親和性といった問題を、ポリエチレン樹脂を外層に設けた4層被覆とすることで解決することができる。
図1は本発明の4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管の基本的な積層構成を示す断面図である。 図2は本発明の4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管の管端シール構造を含めた断面図である。 図3は本発明の4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管に用いる表面凹凸を有する3層ポリプロピレン樹脂被覆鋼管の製造方法の一例を示す。 図4は本発明の4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管の管端シール構造を形成するための被覆除去プロセスを示す。 図5は本発明の4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管の管端シール構造を形成するために加熱プロセスを示す。 図6は本発明の4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管の管端シール構造を形成するための粉体エポキシ樹脂によるプライマー塗装を示す。 図7は本発明の4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管の管端シール構造を形成するための粉体接着剤塗装を示す。 図8は本発明の4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管の4層目のポリエチレン樹脂を被覆する製造方法の一例を示す。
以下、本発明につき詳細に説明を行なう。
本発明に使用する鋼管は普通鋼、あるいは高合金鋼など、どのような鋼種でも適用可能である。また、サイズ、厚みの制約は設備に起因するだけである。
本発明の4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管は化成処理を行う前に、鋼管表面の錆や汚れを除去するだけでなく、接着に必要な粗度を確保するために、ブラスト処理を行う。ブラスト処理に用いる研掃材としては、一般的には鋼製グリッド・ショット粒を用いる。更に清浄な表面が要求される場合には、アルミナ等のセラミック素材を用いても良い。また、サンドを用いることもできる。ブラスト処理後の表面に、鉄粉等の汚れが付着している場合、ブラシ、吸引、液体による洗浄等の処理を行うことができる。特に高い防食性能が要求される場合には、例えば日本パーカーライジング社製のパルクロム100などを用いて塗布型クロメート処理、あるいは、各種化成処理被膜が使用可能である。
次に、エポキシ樹脂プライマー層について説明する。プライマー層には100μm以上の膜厚を容易に確保することができる粉体エポキシ樹脂を粉体塗装して形成する。粉体エポキシ紛体樹脂塗料は、主成分のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を単独、もしくは混合し、更に多官能性のフェノールノボラック型エポキシ樹脂やハロゲン化エポキシ樹脂を組み合わせたものに、フェノール系硬化剤を組み合わせたものが一般的である。硬化速度はアミン系硬化剤やイミダゾール化合物硬化剤、ジシアンジアミド硬化剤等を添加して調整されている。さらにエポキシ樹脂紛体塗料として、無機顔料が20〜50重量%で配合されたものが市販されており、これを用いることができる。無機顔料はシリカ、酸化チタン、ウォラストナイト、マイカ、タルク、カオリン、酸化クロム、硼酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、燐酸亜鉛等の顔料、もしくは亜鉛、Al等の金属粉、あるいはセラミック粉等、その他にバナジウムリン系化合物等の防錆顔料を適宜用いることができる。粉体エポキシ樹脂塗料は、国内では日本ペイント株式会社、もしくは関西ペイント株式会社から入手できる。海外では、JOUTAN、KCC、Arsonnsisi、3M Co.,等のメーカーで鋼管被覆用として販売されている銘柄を適宜用いる。被覆層に高い耐熱性能が要求される場合には高ガラス転移温度のものを選んで使用することができる。
図3〜図8に示すプロセスで、本発明の4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管を製造することができる。加熱装置(8)で160〜260℃に加熱した鋼管の外面に静電粉体塗装機(9)を用いて塗布すると溶融後に反応硬化してプライマー層が形成できる。プライマー層の厚みは、通常150μm〜400μmである。
粉体エポキシ樹脂プライマー層を形成後に、変性ポリプロピレン樹脂接着剤を介してポリプロピレン樹脂被膜を積層する。変性ポリプロピレン接着剤は、ポリプロピレン樹脂を無水マレイン酸で変性したもの、あるいはポリプロピレンと無水マレイン酸との共重合体、ポリプロピレンとアクリル酸エステルと、無水マレイン酸との共重合体を用いることができる。
熱可塑性樹脂の変性接着剤は、ペレットで供給される場合、接着剤押出機(10)を用いて加熱溶融した樹脂を、Tダイスを用いてプライマー塗布後の鋼管外面に被覆する。中小径鋼管では丸ダイスを用いる場合もある。その他の方法としては、変性ポリオレフィン樹脂接着剤を粉砕して粉体化し、この粉体塗布する方法もある。これらの方法により、0.1〜0.4mmの接着剤層を形成する。この粉体接着剤を静電粉体塗装機にて塗装する方法を用いても良い。
変性ポリプロピレン接着剤層の上に被覆するポリプロピレン樹脂は、鋼管被覆用として市販されているものを使用することができる。一般的にはホモポリマーよりも低温特性に優れる共重合体が使用され、耐熱性と耐候性対策として、着色顔料、充填強化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系の耐候剤等が添加されたもので、低温靭性と高温使用での耐酸化劣化性を兼ね備えたものであることが好ましい。ポリプロピレン樹脂の着色顔料としてカーボンブラックを用いると、高温で酸化防止剤の効果が消失するため、高性能の被覆鋼管品では用いられない。このため、着色顔料の色としては白色が一般的である。ポリプロピレン樹脂とその接着剤は、例えば、BOREALIS社製のBorcoat BB108E-1199と接着剤:Borcoat BB127E、LyondellBasell社製のMoplen Coat EP60R/BIANCOと接着剤:Hifax adhesive EP2 015/60もしくは Hifax EPR 60(M)/Bianco、Poliecp-mpb社のPROCOAT H.08.HTと接着剤:PROESIVE RG.10の様に、同一メーカーのものを組み合わせることができる。使用する接着剤とポリプロピレン樹脂は異なるメーカーであっても良く、ポリプロピレン樹脂が日本ポリプロピレンのTX1843B、接着剤が三菱化学のAP−P501といった組み合わせで使用可能である。
ポリプロピレン樹脂被覆層は取り扱い時の疵発生を抑制するため、2mm以上被覆することが好ましい。ポリオレフィン樹脂層は厚い程、耐疵性と防食性に優れるが、厚膜になると内部応力が大きくなるため、5mm以下が望ましい。
通常の被覆を行ったままではポリプロピレン樹脂表面は平滑であるため、ポリエチレン樹脂から成る第4層面との間の剪断接着性を確保する目的で、ポリプロピレン樹脂被覆が溶融状態の時に、表面に凹凸を作製する目的でポリプロピレン樹脂粉を散布する。ラフコートに使用する粉としては、BOREALIS社製のBorcoat BB108E-1199 POWDERや、Poliecp-mpb社製のPROESIVE RS.10 B P-Rough Coatなどを用いることができる。
以上の方法により、通常のパイプラインの被覆に用いられるラフコートを実施した3層ポリプロピレン樹脂被覆鋼管を得ることができる。
次に第4層のポリエチレン樹脂被覆を行う。ポリエチレン樹脂としては鋼管被覆用に用いられる銘柄を使用することができる。例えば、BOREALIS社製のBorcoat HE3450、Lyondell Basell社製のLupolen 4552D、Poliecp-mpb社製のLUXENE HDPE2050、日本ポリエチレン社製のNOVATEC ER002Sなどの、鋼管被覆に要求される長期耐久性を有し、カーボンブラックを添加したものを使用することができる。
管端部のシール接着の接着剤には変性ポリエチレン樹脂接着剤を用いる。押出被覆を行う場合にはペレットで供給されるタイプ、例えば三井化学社製のNE060,NE065,NE080、BOREALIS社製のBorcoat ME0420、Lyondell Basell社製のLucalen G3710E、Poliecp-mpb社製のCOESIVE L8.92.8(u)等が使用できる。また、管端シール部のみに接着剤を塗布する場合には粉体接着剤を用いると良く、市販の粉体としては例えばBorcoat ME0433 powder、COESIVE L8.92.8(u)Pがある。
第4層目のポリエチレン樹脂を被覆する方法としては、前述のポリプロピレン樹脂を被覆するのと同じ装置を用い、Tダイスまたは丸ダイスを用いて、溶融押出被覆した後、外面のみを水冷して製造する。この時、第3層目のポリプロピレン樹脂と第4層目のポリエチレン樹脂は化学的には接着しないことから、鋼管を全体的に加熱する必要は無い。但し、水などの腐食因子に対するシール構造を設けるために、3層ポリエチレン樹脂被覆構造とする管端部の場合、3層構造となる部分のみを高周波加熱によって部分加熱し、接着剤を介して被覆する。
以下に図2に示す管端部シール構造の形成方法を述べる。図3に示すように3層ポリプロピレン樹脂被覆鋼管を製造した後、図4に示すように両管端を通常のカットバックと同様に被覆を外面被覆研削除去装置(14)で除去して鋼材を露出させる。鋼材露出面はワイヤーブラシ、あるいはエアーブラスト等によって清浄な状態にする。その後、図5に示すように、被覆を除去した部分のみを160〜260℃に高周波加熱する。その後、図6に示すように加熱した鋼材露出部分に、再度粉体エポキシ樹脂を、硬化後に150〜400μmの厚みとなるように粉体塗装してプライマー層を形成する。また、シール部でのエポキシ樹脂プライマー層とポリエチレン樹脂保護層との接着性を確実にする場合には、図7に示す様に、プライマー層形成直後に表面に粉体ポリエチレン樹脂接着剤を塗布しておくと良い。その後、管端部の温度が低下しないうちに再度、図8に示すように変性ポリエチレン接着剤を、押出機(10)を用いて加熱溶融して、0.1〜0.4mm狙いで被覆し、同様にポリエチレン樹脂をTダイスまたは丸ダイスで2〜5mmの膜厚で被覆する。但し、耐候性と接着性のみを付与したい場合、ポリエチレン樹脂の厚みは2mmより薄膜でも問題無い。また、シール部分に既に変性ポリエチレン樹脂接着剤を粉体で塗布している場合には、押出機を用いた変性ポリエチレン樹脂接着剤被覆層は省略して良い。
実施例1
以下、本発明の実施例1を具体的に説明する。
鋼管は200AのJIS G3452の配管用炭素鋼管5.5m長を用いた。鋼管外面にIKK社製のTGD−70番のグリッドブラスト処理を行って除錆したものを用意した。その後。鋼管の表面洗浄処理を行って汚れや鉄粉等を除去した。
鋼管を加熱装置で200℃に加温後、粉体エポキシ樹脂プライマー(BASEPOX(登録商標) PE50-1120、Arsonsisi社製)を、目標膜厚200μmで静電粉体塗装を実施した。15秒後にBOREALIS社製の変性ポリプロピレン接着剤:Borcoat BB127Eと、ポリプロピレン樹脂(BOREALIS社製のBorcoat BB108E-1199)のペレットを、押出機とTダイスを用いてシート状の半溶融状態成形して巻き付け被覆を行った。変性ポリプロピレン接着剤膜厚は200μm、ポリプロピレン樹脂被覆は2mmになるように調整した。その後、半溶融状態のポリプロピレン樹脂層表面に、ラフコートとして、BOREALIS社製のBorcoat BB108E-1199 POWDERを塗布して、表面に凹凸を形成した後、水冷を行って3層ポリプロピレン樹脂被覆鋼管を製造した。
作製した3層ポリプロピレン樹脂被覆鋼管を、両管端部から50cmまでの被覆を除去して、筒状に鋼面50cmを露出させた。露出部にはTGD−70番のグリッドを用いたエアーブラスト処理を実施した。その後、鋼管端部の鋼材が露出している部分の温度を200℃にまで誘導加熱して、粉体エポキシ樹脂プライマー(BASEPOX(登録商標) PE50-1120、Arsonsisi社製、Tg2=118℃)を、厚み200μm狙いで静電粉体塗布した。その直後に、変性ポリエチレン樹脂の粉体接着剤(BOREALIS社製のBorcoat ME0433 powder)を厚み200μm狙いで粉体塗装し、第4層目のポリエチレン樹脂被覆を行う際に、直接鋼管と接着するシール接着部を形成した。
前述の管端部を処理した鋼管を管端部の温度が接着剤の融点(約120℃)以下に低下する前に、3層被覆を行ったのと同じ被覆工程にて、ポリエチレン樹脂(BOREALIS社製のBorcoat HE3450)のペレットを押出機とTダイスを用いてシート状の半溶融状態で成形して巻き付け被覆を行い、外面水冷を行って本発明の4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管の端部シール構造を持つ実施例1を製造した。
実施例2
以下、本発明の実施例2を具体的に説明する。
被覆材料及び鋼管については実施例1と同じ材料を用いた。実施例1と同じ方法で、ラフコートにより表面に凹凸のある3層ポリプロピレン樹脂被覆鋼管を製造した。この後、管端部のカットバックは行わないで、そのまま、第4層目のポリエチレン樹脂被覆をポリエチレン樹脂(BOREALIS社製のBorcoat HE3450)のペレットを押出機とTダイスを用いてシート状の半溶融状態で成形して巻き付け被覆を行い、外面水冷を行って本発明の4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管を製造した。
比較例1
鋼管については実施例1と同じ材料を用いた。実施例1の3層ポリプロピレン樹脂被覆鋼管を製造するのと同じ方法で、ラフコートを施さない3層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管を製造した。比較例1として、実施例1と同様の下地処理を行った鋼管を、200℃に加熱後に、粉体エポキシ樹脂プライマー(BASEPOX(登録商標) PE50-1081、Arsonsisi社製、Tg2=100℃)を、厚み200μm狙いで静電粉体塗布した。15秒後にBOREALIS社製の変性ポリエチレン樹脂接着剤:Borcoat ME0420と、ポリエチレン樹脂(BOREALIS社製のBorcoat HE3450)のペレットを押出機とTダイスを用いてシート状の半溶融状態成形して巻き付け被覆を行った。接着剤膜厚は200μm、ポリエチレン樹脂被覆は4mmになるように調整した。最後に水冷を行って比較例1の3層ポリエチレン樹脂被覆鋼管を製造した。
比較例2
鋼管については実施例1と同じ材料を用いた。実施例1の3層ポリプロピレン樹脂被覆鋼管製造と同じ方法で、ラフコートを施さない4mm厚みの3層ポリプロピレン樹脂被覆鋼管を製造した。
比較例3
本発明と同じ4層構造の被覆であるが、特許文献2と同じく、ポリエチレン樹脂被覆層の上にポリプロピレン樹脂保護層を積層した比較例3を製造した。
実施例1と同じ配管用炭素鋼管5.5m長を用い、同じ下地処理を行った。鋼管は加熱装置で200℃に加温後、粉体エポキシ樹脂プライマー(BASEPOX(登録商標) PE50-1081、Arsonsisi社製)を、目標膜厚200μmで静電粉体塗装を実施した。15秒後にBOREALIS社製の接着剤Borcoat ME0420と、ポリエチレン樹脂(BOREALIS社製のBorcoat HE3450)のペレットを、押出機とTダイスを用いてシート状の半溶融状態成形して巻き付け被覆を行った。接着剤膜厚は200μm、ポリエチレン樹脂被覆は2mmになるように調整した。その後、半溶融状態のポリエチレン樹脂表面にラフコートとして、BOREALIS社製のBorcoat HE7405を塗布して表面に凹凸を形成した後、水冷を行って3層ポリエチレン樹脂被覆鋼管を製造した。
作製した3層ポリエチレン樹脂被覆鋼管に、ポリプロピレン樹脂(BOREALIS社製のBB108E-1199)のペレットを押出機とTダイスを用いてシート状の半溶融状態成形して巻き付け被覆を行い、外面水冷を行って比較例3の4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管を製造した。
前記方法で製造した実施例及び比較例の鋼管を切断して評価を行った。本体部分からは低温衝撃と屋外曝露試験後の衝撃試験用に50cm長さで輪切りしたものを用いた。
また、実施例におけるシール構造有無の効果と従来被覆の比較例との比較を行うため、被覆管端部から15cmの範囲の被覆を除去して溶接部を作製後、管端部から1mの長さで切断した。同種の被覆の組み合わせで付き合わせ溶接を行った後、2液硬化型のエポキシ樹脂を鋼面に塗布して硬化させた後、DENSO製のポリエチレン樹脂のヒートシュリンクチューブにて被覆を実施して、腐食評価用の模擬現地継ぎ手部を作製した。
低温衝撃試験では通常ASTM G14の方法が用いられるが、被覆と衝突する先端部分が球状になっているため、実使用でのハンドリングで生じる衝突などによる衝撃を再現できていない。これに対しては衝撃部分を球状から平面状にすると良いことが報告されていることから、16mmΦの衝撃先端部分を平面状に加工し、12kgの重りを1mの高さから落下させて衝撃試験を行って割れの有無を評価した。また、紫外線による劣化の影響については、屋外に3年間曝露し、外観を観察した後に前述の衝撃試験を常温で実施して割れ発生の有無を調査した。また、継ぎ手部の防食性については、80℃の温水に180日間作製した試験体を浸漬した後、継ぎ手部の被覆を除去して鋼管と接着している被覆の端部からの剥離距離を調査した。試験結果を表1にまとめた。
−20℃の低温衝撃では、硬いポリプロピレン樹脂が表面にある比較例2や比較例3では割れが発生した。但し、比較例3では下層にポリエチレン樹脂被覆があるため、割れが鋼材面までの伝播が無いために貫通疵の発生が抑制された。比較例1の3層ポリエチレン樹脂被覆では−20℃では被覆の割れは生じておらず良好であった。また、本発明の実施例1及び2では、表面のポリエチレン樹脂の変形で衝撃が吸収され、被覆の割れが発生することは無く良好であった。
常温の衝撃試験では、初期状態ではポリプロピレン樹脂を用いた方が耐衝撃力は向上する。しかしながら、屋外に曝露された後で衝撃試験を実施するとポリプロピレン樹脂が脆くなることから低温衝撃と同様に、ポリプロピレン樹脂を最外被覆に使用した比較例では割れ発生する。この結果、低温衝撃とほぼ同様の結果が見られ、実施例1及び2では良好であるのに対し、比較例2及び3では割れが発生した。また、比較例1では割れは発生しないが、ポリエチレン樹脂の耐衝撃強度が低いために、貫通疵が発生した。
また継ぎ手部の浸漬試験の結果では、溶接部の現地ポリエチレン樹脂被覆と同じ被覆を行った実施例1及び2、また比較例1の端部の剥離が小さいことがわかる。特に端部にシール構造を有する本発明の4層構造の実施例1が効果的である。
以上の本発明の実施例の結果からも明らかな様に、硬く耐熱性の高いポリプロピレン樹脂被覆の低温衝撃性、耐候性、継ぎ手部のポリエチレン樹脂被覆との相性といった問題に対して、本発明の4層被覆構造を用い、更に端部シール構造を付加することによって、パイプライン被覆に要求される耐疵性や耐剥離性を高次元でバランスさせる事ができる。
1 鋼管
2 粉体エポキシ樹脂塗装によるプライマー層
3 変性ポリプロピレン樹脂接着剤層
4 表面凹凸を有するポリプロピレン樹脂層
5 ポリエチレン樹脂層
6 粉体エポキシ樹脂の再塗装によるプライマー層
7 変性ポリエチレン樹脂接着剤層
8 加熱装置
9 粉体エポキシ樹脂塗装機
10 接着剤押出機
11 ポリプロピレン樹脂押出機
12 ラフコート装置
13 水冷ゾーン
14 外面被覆研削除去装置
15 粉体接着剤塗布装置

Claims (1)

  1. 下地処理を施した鋼管の上に、順に、エポキシ樹脂から成るプライマー層、変性ポリプロピレン接着剤層、ポリプロピレン樹脂層、ポリエチレン樹脂から成る保護層を有する4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管であって、
    前記4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管の両端部の被覆構造が、下地処理を施した鋼管の上に、順に、エポキシ樹脂から成るプライマー層、変性ポリエチレン接着剤層、ポリエチレン樹脂から成る保護層を有することを特徴とする4層ポリオレフィン樹脂被覆鋼管
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