以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
<装置の概要>
図1は、本発明の実施形態における空気調和機用圧縮機駆動ユニット10の回路構成例を示す図である。本実施形態は、インバータ回路を用いて電気モータの駆動制御を行うモータ制御装置および空気調和機に適用した例である。特に圧縮機における電気モータの逆転防止のための技術に関する。
図1に示すように、空気調和機用圧縮機駆動ユニット10は、例えばルームエアコンのような空気調和機に用いられる圧縮機を駆動するために用いることができる。すなわち、この空気調和機用圧縮機駆動ユニット10は、圧縮機の駆動力を発生するための電気モータ15を制御する装置である。
本実施形態では、電気モータ15として3相の交流電動機を用いている。電気モータ15の電機子には、U相−V相−W相の3相の電気コイル15u、15v、および15wが備わっている。また、固定磁界を発生するために図示しない永久磁石も電気モータ15に備わっている。
<基本的な回路構成の説明>
図1に示した空気調和機用圧縮機駆動ユニット10は、コンバータ部13、平滑コンデンサ14、電力変換装置11、電流センサ20、および電気モータ15を備える。また、電力変換装置11は、電力変換回路16および制御装置17(停止制御部,故障検知制御部)を備える。電力変換回路16は、電力変換主回路16a、およびゲート・ドライバ16bを備える。制御装置17は、インバータ制御部18、およびパルス制御部19を備えている。
コンバータ部13の入力には、商用交流電源のような交流電源12から、例えばAC200[V]のような交流電力が供給される。コンバータ部13は、交流電源12から供給される交流電力を整流して直流電力を生成する。平滑コンデンサ14は、大容量の電解コンデンサなどで構成されており、コンバータ部13から出力される脈流状態の直流電力を平滑する機能を有している。
コンバータ部13は、入力される交流電力の波形に同期して制御されるトランジスタのような複数のスイッチング素子(図示せず)を内蔵している。これらのスイッチング素子を交流波形に同期して制御することで交流の整流動作を行うことができる。また、精密なスイッチング制御を行うことにより、コンバータ部13が出力する電圧を調整することもできるし、電圧の出力を停止することもできる。
電力変換装置11は、インバータ、すなわち直流電力を交流電力に変換する機能を有している。電流センサ20は、電気モータ15の電気コイル15u、15v、15wに流れる電流の大きさを検知する。図1に示した構成においては、電流センサ20は低電位側直流電源ライン22の電流経路中に挿入された抵抗器であり、低電位側直流電源ライン22に流れる電流により生じる抵抗器の電圧降下に基づいて、電流の大きさを計測することができる。
電力変換装置11に内蔵されている制御装置17は、電流センサ20が検知した電気モータ15の電流値、すなわち電流センサ20が出力する電流検出信号31に基づいて、電力変換回路16のインバータ制御に必要なパルス信号19Aを生成する。このパルス信号19A、はPWM(Pulse Width Modulation)信号である。
制御装置17は、所定の停止指令に従って、電気モータ15の駆動を停止すると共に、高電位側スイッチング素子または低電位側スイッチング素子を、複数相について同時にオンにするブレーキ制御を行う停止制御部としての機能を備える。
制御装置17は、高電位側スイッチング素子および低電位側スイッチング素子のうち、一方に相当する第1アームを全相について同時にオンに制御し、他方の第2アームを全相について同時にオフに制御した状態で、第2アームの故障に起因する過電流の有無を識別し、過電流の発生を検知した場合には、第1アームおよび第2アームを全相についてオフに制御した後で、故障が発生した第2アーム内のスイッチング素子を複数相について同時にオン状態に制御してブレーキ制御を行う故障検知制御部としての機能を備える。
制御装置17内のインバータ制御部18は、マイクロコンピュータを主体とする制御用の電気回路であり、電気モータ15に流れる電流に基づいて印加電圧指令18Aを算出する。また、インバータ制御部18は、コンバータ制御信号32を用いてコンバータ部13を制御することができる。制御装置17内のパルス制御部19は、印加電圧指令18Aに従って、パルス信号19Aを生成する。このパルス信号19Aは、少なくとも6系統のスイッチング素子を個別にオンオフするための信号を含んでいる。
電力変換回路16内の電力変換主回路16aは、電気モータ15の各相の電気コイル15u、15v、および15wに供給する電圧および電流を個別にスイッチングするために、3系統に分岐した回路支脈(レッグ:leg)23u、23v、および23wを備えている。
3系統の回路支脈23u、23v、および23wの各々は、直列に接続された上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25を備えている。上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25の各々は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)などの半導体スイッチング素子により構成される。他のデバイスを採用することもできるが、以下においては、上アーム側スイッチング素子24、および下アーム側スイッチング素子25の各々がn型のMOSFETで構成される場合を想定して説明する。
なお、図1においては省略してあるが、実際には各回路支脈23u、23v、および23wの上アーム側スイッチング素子24のオンオフに必要な電圧を生成するブートストラップ回路が、各回路支脈23u、23v、および23wの入力側に接続されている。このブートストラップ回路については後で説明する。
図1に示した構成において、回路支脈23u、23v、および23wのいずれも、上アーム側スイッチング素子24のドレイン端子は高電位側直流電源ライン21と接続されている。また、上アーム側スイッチング素子24のソース端子は、下アーム側スイッチング素子25のドレイン端子、および電力変換主回路16aの1つの出力端子と接続されている。また、下アーム側スイッチング素子25のソース端子は、低電位側直流電源ライン22と接続されている。また、上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25の各ゲート端子は、ゲート・ドライバ16bの出力端子とそれぞれ接続されている。
電力変換主回路16aの3つの出力端子のそれぞれは、3本の電線で構成されるモータ接続用配線26を経由して、電気モータ15の電気コイル15u、15v、および15wの一端とそれぞれ接続されている。また、電気コイル15u、15v、および15wの他端は互いに接続され、3相のコイル全体でスター型の接続状態を形成している。
例えば、回路支脈23uにおいて、上アーム側スイッチング素子24をオン(導通)に制御し、下アーム側スイッチング素子25をオフ(非導通)に制御することで、高電位側直流電源ライン21を上アーム側スイッチング素子24およびモータ接続用配線26を経由して、電気コイル15uの一端と接続することができる。
また、回路支脈23uにおいて、上アーム側スイッチング素子24をオフに制御し、下アーム側スイッチング素子25をオンに制御することで、電気コイル15uの一端を、モータ接続用配線26および下アーム側スイッチング素子25を経由して、低電位側直流電源ライン22と接続することができる。
同様に、回路支脈23vの上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25を制御することで、電気コイル15vの一端を高電位側直流電源ライン21または低電位側直流電源ライン22と接続することができる。また、回路支脈23wの上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25を制御することで、電気コイル15wの一端を高電位側直流電源ライン21または低電位側直流電源ライン22と接続することができる。
電力変換回路16内のゲート・ドライバ16bは、パルス制御部19から出力されるパルス信号19Aに基づいて、電力変換主回路16aの各上アーム側スイッチング素子24、および各下アーム側スイッチング素子25のゲート端子に印加される各ゲート信号を生成する。このゲート信号により、上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25の各々を個別にオンオフ制御することができる。
<インバータの基本的な動作の説明>
図1に示した空気調和機用圧縮機駆動ユニット10の電力変換回路16、すなわちインバータの基本的な動作について以下に説明する。
(1)回路支脈23uの上アーム側スイッチング素子24と、回路支脈23vの下アーム側スイッチング素子25とを同時にオンにして、他の上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25を全てオフにする。これにより、コンバータ部13が出力する直流電力に基づき、2相の電気コイル15u、15vの直列回路に電流を流すことができる。
(2)回路支脈23uの上アーム側スイッチング素子24と、回路支脈23wの下アーム側スイッチング素子25とを同時にオンにして、他の上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25を全てオフにする。これにより、コンバータ部13が出力する直流電力に基づき、2相の電気コイル15u、15wの直列回路に電流を流すことができる。
(3)回路支脈23vの上アーム側スイッチング素子24と、回路支脈23wの下アーム側スイッチング素子25とを同時にオンにして、他の上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25を全てオフにする。これにより、コンバータ部13が出力する直流電力に基づき、2相の電気コイル15v、15wの直列回路に電流を流すことができる。
(4)回路支脈23uの下アーム側スイッチング素子25と、回路支脈23vの上アーム側スイッチング素子24とを同時にオンにして、他の上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25を全てオフにする。これにより、2相の電気コイル15u、15vの直列回路に、上記(1)の場合と逆の方向に電流を流すことができる。
(5)回路支脈23uの下アーム側スイッチング素子25と、回路支脈23wの上アーム側スイッチング素子24とを同時にオンにして、他の上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25を全てオフにする。これにより、コンバータ部13が出力する直流電力に基づき、2相の電気コイル15u、15wの直列回路に、上記(2)の場合と逆の方向に電流を流すことができる。
(6)回路支脈23vの下アーム側スイッチング素子25と、回路支脈23wの上アーム側スイッチング素子24とを同時にオンにして、他の上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25を全てオフにする。これにより、コンバータ部13が出力する直流電力に基づき、2相の電気コイル15v、15wの直列回路に、上記(3)の場合と逆の方向に電流を流すことができる。
したがって、制御装置17は、例えば上記(1)〜(6)のいずれかの状態を順番に選択し、電気モータ15の通電状態を周期的に切り替えることにより、電気モータ15の駆動状態、すなわち回転速度、回転方向などを制御することができる。また、各上アーム側スイッチング素子24および各下アーム側スイッチング素子25のゲート端子に印加する制御信号にパルス信号を用いて、各電気コイル15u、15v、15wの通電時間をPWM制御することにより、電気モータ15の駆動電力を調整できる。
<ブレーキ制御が必要な理由>
図1に示した空気調和機用圧縮機駆動ユニット10を用いて電気モータ15で空気調和機の圧縮機を駆動する場合には、以下に説明するような問題が生じる可能性がある。
制御装置17が所定の停止指令に従って圧縮機を通常運転状態から停止状態に移行する際には、通常は電気モータ15および圧縮機の回転速度をある程度減速してからインバータの出力を停止する。この場合、インバータ出力の停止後に電気モータ15は順方向に惰性で回転しながら自然に減速し、ある程度の時間が経過すると回転速度がゼロになる。
一方、上記のような停止時には、圧縮機の吐出側の圧力が吸い込み側の圧力より高く、圧力差が大きくなっているためその圧力バランスが平衡になろうとして冷媒が逆流して圧縮機が逆回転してしまう。この時、圧縮機の電気モータ15が逆回転するため、圧縮機から異音が発生したり、逆回転による回生電流が発生してしまう。
このような電気モータ15の逆回転動作を防止するために、圧縮機の吐出側あるいは吸い込み側に逆止弁を設ける場合がある。この逆止弁により、冷媒の逆流が防止され、圧縮機の電気モータ15の逆回転が生じなくなるので、特別な制御は不要である。しかし、逆止弁を設けると、冷媒流路の阻害による性能の低下、逆止弁設置スペースの確保による吐出形状と吸い込み形状の制約、部品点数が増えることによるコストアップ、等の問題がある。したがって、逆止弁を設けなくても、電気モータ15の逆回転を防止できることが重要になる。
<逆止弁がない圧縮機の電気モータ15を停止する場合の制動動作の例>
電気モータ15の駆動に用いる電力変換装置11を利用して、電気モータ15に制動をかけることにより、圧縮機に逆止弁が存在しない場合であっても、停止時の逆回転を防止できる。
具体的には、電気モータ15の停止時に、電力変換主回路16aにおいて、例えば3つの回路支脈23u、23v、および23wの全ての下アーム側スイッチング素子25を同時に連続してオン状態に制御し、全ての上アーム側スイッチング素子24はオフに制御する。この場合の空気調和機用圧縮機駆動ユニット10の実質的な構成を図2に示す。すなわち、図2に示すように全相の上アーム側スイッチング素子24は存在しない場合と同様であり、全相の下アーム側スイッチング素子25が同時に導通状態になる。
この状態では、オン状態になった3個の下アーム側スイッチング素子25を介して、電気コイル15u、15v、15wの回路が短絡される。したがって、電気モータ15の回転速度がゼロになった後、圧縮機の影響で瞬間的に逆回転方向の力が電気モータ15の駆動軸に加わると、短絡された電気コイル15u、15v、15wの回路に発生する誘起電圧により流れる電流によって、逆回転を阻止する方向のブレーキトルクが電気モータ15に発生する。したがって、電気モータ15の逆回転が抑制される。この動作をここでは「ブレーキ制御」と称する。
あるいは、上記「ブレーキ制御」として、電気モータ15の停止時に、電力変換主回路16aにおいて、3つの回路支脈23u、23v、および23wの全ての上アーム側スイッチング素子24を同時に連続してオン状態に制御し、全ての下アーム側スイッチング素子25はオフに制御する。これにより、オン状態になった3個の上アーム側スイッチング素子24を介して、電気コイル15u、15v、15wが短絡される。
この場合も、上記と同様に、電気モータ15の回転速度がゼロになった後、圧縮機の影響で瞬間的に逆回転方向の力が電気モータ15の駆動軸に加わると、短絡された電気コイル15u、15v、15wの回路に発生する誘起電圧により流れる電流により、逆回転を阻止する方向のブレーキトルクが電気モータ15に発生する。したがって、電気モータ15の逆回転が抑制される。
<「ブレーキ制御」を行う場合の課題>
半導体などの各種部品には故障が発生する場合がある。例えば、図1に示した電力変換主回路16a内の各上アーム側スイッチング素子24や、各下アーム側スイッチング素子25などの半導体デバイスには、オン状態に固定されオフに変化しなくなる「短絡の故障」が生じたり、オフ状態に固定されオンに変化しなくなる「開放の故障」が生じる可能性がある。
空気調和機用圧縮機駆動ユニット10において、V相の上アーム側スイッチング素子24に「短絡の故障」が生じた状況における実質的な回路構成を図3に示す。つまり、図3に示すように回路支脈23vにおいて上アーム側スイッチング素子24のドレイン−ソース端子間が常時短絡状態であるので、回路支脈23vの下アーム側スイッチング素子25のドレイン端子が高電位側直流電源ライン21と直結されている状態になる。
図3に示した故障状態において、「ブレーキ制御」を行う場合を想定する。例えば、全相の回路支脈23u、23v、23wに備わっている下アーム側スイッチング素子25を同時にオンにしてブレーキをかける場合には、V相の上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25の両方が同時に短絡状態になる。したがって、高電位側直流電源ライン21と低電位側直流電源ライン22の間が下アーム側スイッチング素子25を介して直結され、これらの間を貫通する貫通電流、すなわち非常に大きな過電流が流れる。
この過電流により、例えば電気モータ15における永久磁石の磁力低下(減磁)、コンバータ部13内における部品の破壊、圧縮機振動などの問題が発生する可能性がある。したがって、貫通電流の発生を防止する必要があり、かつ、このような故障の場合であってもブレーキ機能が働くことが望ましい場合もある。
<故障発生時の「ブレーキ制御」の概要>
そこで、制御装置17は、「ブレーキ制御」を行った際にスイッチング素子の故障に起因すると考えられる非常に大きな過電流を検出した場合には、ブレーキ制御の動作を一旦停止させた後、次のように制御する。すなわち、故障により短絡しているスイッチング素子を検出し、故障したスイッチング素子と同じアーム側で、短絡していない複数のスイッチング素子を同時にオン状態に制御してブレーキをかける。
V相の上アーム側スイッチング素子24に短絡の故障が生じた状況でブレーキをかける際の実質的な回路構成を図4に示す。図4に示した状況は、全相、すなわち回路支脈23u、23v、および23のw全ての下アーム側スイッチング素子25をオフにして、故障しているV相以外の複数の回路支脈23u、23wの上アーム側スイッチング素子24を同時にオン状態にする場合を想定している。
図4に示した状況においては、回路支脈23u、23wの2つの上アーム側スイッチング素子24を経由して、電気コイル15u、15wの直列回路が短絡される。したがって、電気モータ15の逆回転時に電気コイル15u、15wに発生する回生電流を短絡し、ブレーキトルクを発生させることができる。また、実際には故障しているV相の上アーム側スイッチング素子24が短絡状態であるので、電気コイル15vを含む回路も短絡することができ、より大きなブレーキトルクが発生する。
また、U相、W相のいずれかの上アーム側スイッチング素子24に「短絡の故障」が発生した場合にも、上記と同様に特別な「ブレーキ制御」を行うことができる。また、U相、V相、W相のいずれかの下アーム側スイッチング素子25に「短絡の故障」が発生した場合にも、上記と同様に特別な「ブレーキ制御」を行うことができる。具体的な制御の内容については後述する。
<ブートストラップ回路の制御>
1相の上アーム側スイッチング素子24に短絡の故障が生じた状況でブレーキをかける際に上アームおよび下アームの各スイッチング素子の各々に印加する制御信号の例を図5に示す。図5において、横軸は時間tを表し、縦軸は信号のレベル「1」、「0」を表す。信号のレベル「1」は該当するスイッチング素子のオン(導通)に対応し、信号のレベル「0」は該当するスイッチング素子のオフ(非導通)に対応する。また、ブートストラップ回路40の構成例を図6に示す。
図1に示した電力変換主回路16aのような構成においては、各回路支脈23u、23v、23wの上アーム側スイッチング素子24のゲート端子に印加する電圧をソース端子よりも十分に高くする必要がある。特に、下アーム側スイッチング素子25がオフの時には上アーム側スイッチング素子24のソース端子の電位が高電位側直流電源ライン21と同等になるので、電源よりも高い電位を生成するために特別な工夫が必要になる。そこでブートストラップ回路40を利用する。
しかし、前記「ブレーキ制御」を行う際に、下アーム側スイッチング素子25を長い時間にわたってオフ状態に維持すると、ブートストラップ回路40内の電解コンデンサ43を充電することができず、ブートストラップ回路40が機能しなくなる。
そこで、前記「ブレーキ制御」を行う際に、複数相の上アーム側スイッチング素子24を同時にオンにする場合には、制御装置17は、例えば図5に示したような上アーム制御信号SGU、および下アーム制御信号SGLが、それぞれ上アーム側スイッチング素子24、および下アーム側スイッチング素子25のゲート端子に印加されるように制御する。
つまり、上アーム制御信号SGUを用いて、上アーム側スイッチング素子24が一定の周期T0でオン状態とオフ状態とを交互に繰り返すように制御する。そして、信号レベル「1」、「0」が上アーム制御信号SGUと反対の下アーム制御信号SGLを用いて、上アーム側スイッチング素子24がオフの時に下アーム側スイッチング素子25をオンにする。上アーム側スイッチング素子24がオンの時には下アーム側スイッチング素子25をオフにする。下アーム側スイッチング素子25がオンになる区間T1で、ブートストラップ回路40内の電解コンデンサ43を充電することができる。
図6に示したブートストラップ回路40は、ダイオード41、抵抗器42、および電解コンデンサ43を備えている。なお、図6に示した構成において、駆動回路44および45は図1に示したゲート・ドライバ16bの一部分に相当し、直流電源46はコンバータ部13および平滑コンデンサ14に相当する。
図6に示すように、各回路支脈23u、23v、23wにおいて、上アーム側スイッチング素子24のドレイン端子24dは高電位側直流電源ライン21と接続され、下アーム側スイッチング素子25のソース端子25sは低電位側直流電源ライン22と接続されている。また、上アーム側スイッチング素子24のソース端子24sと下アーム側スイッチング素子25のドレイン端子25dとが接続されている。また、上アーム側スイッチング素子24のゲート端子24gおよび下アーム側スイッチング素子25のゲート端子25gは、それぞれ駆動回路44および45の出力と接続されている。
ブートストラップ回路40内の電解コンデンサ43は、「+」印で示す正極側の端子がダイオード41および抵抗器42の直列回路を経由して高電位側直流電源ライン21と接続されている。また、電解コンデンサ43の負極側の端子は上アーム側スイッチング素子24のソース端子24sおよび下アーム側スイッチング素子25のドレイン端子25dと接続されている。
したがって、下アーム側スイッチング素子25がオンになると、ダイオード41、抵抗器42、および下アーム側スイッチング素子25を介して、直流電源46の電源電圧により電解コンデンサ43が充電される。
一方、下アーム側スイッチング素子25がオフになり上アーム側スイッチング素子24がオンになる場合には、上アーム側スイッチング素子24のソース端子24sが高電位側直流電源ライン21と同等の高い電位になる。したがって、その場合は高電位側直流電源ライン21よりも高い電位を上アーム側スイッチング素子24のゲート端子24gに印加しないと、上アーム側スイッチング素子24をオンに制御できない。
しかし、電解コンデンサ43が十分に充電されている場合には、直流電源46の出力電圧と同等の電解コンデンサ43の端子間電圧をソース端子24sの電圧に加算した結果が駆動回路44の入力に印加されるので、駆動回路44は上アーム側スイッチング素子24のオンオフを制御するための高いゲート電位を生成できる。
ただし、前記「ブレーキ制御」によって下アーム側スイッチング素子25がオフの状態が長く継続すると、電解コンデンサ43を充電できないので、ブートストラップ回路40の機能が停止して、上アーム側スイッチング素子24を制御できなくなる。そこで、「ブレーキ制御」を実行している場合であっても、図5に示した下アーム制御信号SGLを用いて下アーム側スイッチング素子25のオンオフを交互に周期的に切り替えることにより、ブートストラップ回路40の機能を維持できる。また、上アーム側スイッチング素子24がオフのタイミングでのみ下アーム側スイッチング素子25をオンにするので、貫通電流の発生を防止できる。
一方、前記「ブレーキ制御」によって、複数の上アーム側スイッチング素子24が同時にオンになり、電気コイル15u、15v、15wの回路が短絡されてこの回路に電流が流れている状態で、状態が急激に変化すると非常に大きな過電流が流れる可能性がある。このような過電流により、電気モータ15の永久磁石に減磁の影響が生じる虞がある。そこで、制御装置17は永久磁石に減磁が生じないように、電気モータ15の電気コイル15u、15v、15wの回路に流れる電流の増大を抑制する。
具体的には、図5中に示した区間T2のように、下アーム制御信号SGLによって下アーム側スイッチング素子25がオンになる時間の長さを短く制限するか、あるいは各区間T0、T1、T2の長さの比率「T2/T0」または「T2/T1」を小さく制限する。これにより、過電流の発生を防止し、電気モータ15における永久磁石の減磁を避けることができる。
<ブレーキ開始時処理の手順>
故障の発生に対応したブレーキ開始時処理の具体的な手順の例を図7に示す。すなわち、全相の下アーム側スイッチング素子25を同時にオンにして電気コイル15u、15v、15wの回路を短絡し、前述の「ブレーキ制御」を行う場合に、いずれか1つの上アーム側スイッチング素子24に「短絡の故障」が生じている状況でも、制御装置17が図7に示した手順で処理を実行することにより、適切なブレーキ制御を実現できる。
図7のステップS51では、ブレーキ開始条件が成立したか否かを制御装置17が識別し、成立した場合は次のステップS52に進む。例えば、ルームエアコンに対するユーザのボタン操作に対応して、圧縮機の運転を停止するための停止指令が制御装置17の内部で発生した場合には、圧縮機の回転速度を低下させるための減速運転を行い、圧縮機の回転速度が所定以下に低下した後で、制御装置17がブレーキ開始条件の成立を認識し、ステップS52に進む。
ステップS52では、負荷が小さくなってコンバータ部13の出力電圧が異常に上昇するのを防止するために、ブレーキ制御を開始する前に、制御装置17がコンバータ制御信号32を制御してコンバータ部13の動作を停止する。
ステップS53では、制御装置17が電流検出信号31を利用して、電気モータ15に流れる電流の電流値i#motを計測する。制御装置17は電流値i#motの計測を繰り返し行い、常時最新の値を取得して現在の状態を把握する。
ステップS54では、制御装置17が通常時の「ブレーキ制御」を開始する。すなわち、回路支脈23u、23v、23wの全相の上アーム側スイッチング素子24をオフ状態に制御し、全相の下アーム側スイッチング素子25をオン状態に制御する。
なお、この「ブレーキ制御」において、必ずしも連続的に全相の下アーム側スイッチング素子25をオンにする必要はない。例えば、図5に示した上アーム制御信号SGUおよび下アーム制御信号SGLを用いて、下アーム側スイッチング素子25がオンオフを交互に繰り返すように周期的に制御することもできる。この制御により、ブートストラップ回路40が機能しなくなるのを防止できるし、発生するブレーキトルクを調整することも可能になる。
ステップS55では、制御装置17が検出した電気モータ15の最新の電流値i#motを予め定めた閾値ib#maxと比較して、全相の上アーム側スイッチング素子24が正常か否かを識別する。比較結果が「OK」、すなわち「i#mot≦ib#max」の条件を満たす場合は正常なので次にステップS56に進む。この場合の「正常」は、「短絡の故障」状態の上アーム側スイッチング素子24が存在しないことを意味する。ステップS55の比較結果が「NG」、すなわち「i#mot≦ib#max」の条件を満たさない場合は異常なので次にステップS57に進む。この場合は、過電流を阻止するために直ちに全ての相の上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25をオフにする。
ステップS56では、制御装置17は「故障なし」を認識し、ステップS54で開始したブレーキ制御をそのまま継続する。
ステップS57に進む場合には、回路支脈23u、23v、23wのいずれか1つまたは複数の上アーム側スイッチング素子24に「短絡の故障」が発生していることが想定される。したがって、回路支脈23u、23v、23wのいずれの相の上アーム側スイッチング素子24が故障しているのかを特定するために、ステップS57以降の処理を実行する。
ステップS57では、制御装置17は、いずれか1つの上アーム側スイッチング素子24が故障していることを認識し、次の動作を行う。まず、U相およびV相の下アーム側スイッチング素子25をオンに制御する。また、W相の下アーム側スイッチング素子25はオフにする。
上記ステップS57を実行した後で、制御装置17は最新の電流値i#motを計測して取得し、この電流値i#motを次のステップS58で閾値ib#maxと比較する。ステップS58の比較結果が「OK」、すなわち「i#mot≦ib#max」の条件を満たす場合は、少なくともU相、V相の2相の上アーム側スイッチング素子24は正常、すなわち短絡していないとみなし、ステップS59に進む。
ステップS58の比較結果が「NG」、すなわち「i#mot≦ib#max」の条件を満たさない場合は、U相、V相の2相の上アーム側スイッチング素子24の中に「短絡の故障」状態のものが含まれているので、正常な複数の上アーム側スイッチング素子24を探索するためにステップS60に進む。
ステップS59では、制御装置17は、ステップS58で正常であることが認識されたU相、V相の2相の上アーム側スイッチング素子24を利用して、ブレーキ制御を開始する。具体的には、U相、V相、W相の全相の下アーム側スイッチング素子25をオフ状態に制御し、U相、V相の2相の上アーム側スイッチング素子24を同時にオン状態に制御し、W相の上アーム側スイッチング素子24はオフに制御する。
なお、この場合はW相の上アーム側スイッチング素子24は故障しているので、必ずしもW相の上アーム側スイッチング素子24をオフに制御する必要はない。また、ステップS59の制御においても、図5に示した上アーム制御信号SGUおよび下アーム制御信号SGLを用いて上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25のオンオフを交互に繰り返すことができる。
ステップS60では、制御装置17は、V相およびW相の下アーム側スイッチング素子25をオンに制御する。また、U相の下アーム側スイッチング素子25はオフにする。このステップS60を実行した後で、制御装置17は最新の電流値i#motを計測して取得し、この電流値i#motを次のステップS61で閾値ib#maxと比較する。ステップS61の比較結果が「OK」、すなわち「i#mot≦ib#max」の条件を満たす場合は、少なくともV相、W相の2相の上アーム側スイッチング素子24は正常、すなわち短絡していないとみなし、ステップS62に進む。
ステップS61の比較結果が「NG」、すなわち「i#mot≦ib#max」の条件を満たさない場合は、V相、W相の2相の上アーム側スイッチング素子24の中に「短絡の故障」状態のものが含まれているので、正常な複数の上アーム側スイッチング素子24を探索するために更にステップS63に進む。
ステップS62では、制御装置17は、ステップS61で正常であることが認識されたV相、W相の2相の上アーム側スイッチング素子24を利用して、ブレーキ制御を開始する。具体的には、U相、V相、W相の全相の下アーム側スイッチング素子25をオフ状態に制御し、V相、W相の2相の上アーム側スイッチング素子24を同時にオン状態に制御し、U相の上アーム側スイッチング素子24はオフに制御する。
なお、この場合はU相の上アーム側スイッチング素子24は故障しているので、必ずしもU相の上アーム側スイッチング素子24をオフに制御する必要はない。また、ステップS62の制御においても、図5に示した上アーム制御信号SGUおよび下アーム制御信号SGLを用いて上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25のオンオフを交互に繰り返すことができる。
ステップS63では、制御装置17は、U相およびW相の下アーム側スイッチング素子25をオンに制御する。また、V相の下アーム側スイッチング素子25はオフにする。このステップS63を実行した後で、制御装置17は最新の電流値i#motを計測して取得し、この電流値i#motを次のステップS64で閾値ib#maxと比較する。ステップS64の比較結果が「OK」、すなわち「i#mot≦ib#max」の条件を満たす場合は、少なくともU相、W相の2相の上アーム側スイッチング素子24は正常、すなわち短絡していないとみなし、ステップS65に進む。
ステップS64の比較結果が「NG」、すなわち「i#mot≦ib#max」の条件を満たさない場合は、正常な複数の上アーム側スイッチング素子24が見つからないので、次のステップS66に進み、ブレーキ制御を中止する。つまり、制御装置17はステップS66で全相の上アーム側スイッチング素子24および全相の下アーム側スイッチング素子25をオフ状態に制御する。
ステップS65では、制御装置17は、ステップS64で正常であることが認識されたU相、W相の2相の上アーム側スイッチング素子24を利用して、ブレーキ制御を開始する。具体的には、U相、V相、W相の全相の下アーム側スイッチング素子25をオフ状態に制御し、U相、W相の2相の上アーム側スイッチング素子24を同時にオン状態に制御し、V相の上アーム側スイッチング素子24はオフに制御する。
なお、この場合はV相の上アーム側スイッチング素子24は故障しているので、必ずしもV相の上アーム側スイッチング素子24をオフに制御する必要はない。また、ステップS65の制御においても、図5に示した上アーム制御信号SGUおよび下アーム制御信号SGLを用いて上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25のオンオフを交互に繰り返すことができる。
また、図7に示したブレーキ開始時処理においては、制御装置17がステップS55で上アームにおける故障の発生を認識した場合に、ブレーキ制御に利用可能な2つのスイッチング素子をステップS57以降で上アームの中から探索しているが、この探索を省略してもよい。例えば、ステップS55で「NG」の場合には、直ちにステップS66に進んでブレーキ制御を中止してもよい。
<ブレーキ開始時処理の変形例>
図7に示した手順の変形例を図8に示す。すなわち、全相の下アーム側スイッチング素子25を同時にオンにして電気コイル15u、15v、15wの回路を短絡し、前述の「ブレーキ制御」を行う場合に、いずれか1つの上アーム側スイッチング素子24に「短絡の故障」が生じている状況でも、制御装置17が図8に示した手順で処理を実行することにより、適切なブレーキ制御を実現できる。
なお、図8に示した手順において、各ステップS54B、S56B、S57B、S59B、S60B、S62B、S63B、S65B以外は図7に示した処理と同一である。図8中で図7と異なる上記各処理ステップについて以下に説明する。
ステップS54Bでは、制御装置17が通常時の「ブレーキ制御」を開始する。すなわち、回路支脈23u、23v、23wの全相の下アーム側スイッチング素子25をオフ状態に制御し、全相の上アーム側スイッチング素子24をオン状態に制御する。
なお、この「ブレーキ制御」において、必ずしも連続的に全相の上アーム側スイッチング素子24をオンにする必要はない。例えば、図5に示した上アーム制御信号SGUおよび下アーム制御信号SGLを用いて、下アーム側スイッチング素子25がオンオフを交互に繰り返すように周期的に制御することもできる。この制御により、ブートストラップ回路40が機能しなくなるのを防止できるし、発生するブレーキトルクを調整することも可能になる。
ステップS56Bでは、制御装置17は「故障なし」を認識し、ステップS54Bで開始したブレーキ制御をそのまま継続する。
ステップS57Bでは、制御装置17は、いずれか1つの下アーム側スイッチング素子25が故障していることを認識し、次の動作を行う。まず、U相およびV相の上アーム側スイッチング素子24をオンに制御する。また、W相の上アーム側スイッチング素子24はオフにする。
ステップS59Bでは、制御装置17は、ステップS58で正常であることが認識されたU相、V相の2相の下アーム側スイッチング素子25を利用して、ブレーキ制御を開始する。具体的には、U相、V相、W相の全相の上アーム側スイッチング素子24をオフ状態に制御し、U相、V相の2相の下アーム側スイッチング素子25を同時にオン状態に制御し、W相の下アーム側スイッチング素子25はオフに制御する。
なお、この場合はW相の下アーム側スイッチング素子25は故障しているので、必ずしもW相の下アーム側スイッチング素子25をオフに制御する必要はない。また、ステップS59Bの制御においても、図5に示した上アーム制御信号SGUおよび下アーム制御信号SGLを用いて上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25のオンオフを交互に繰り返すことができる。
ステップS60Bでは、制御装置17は、V相およびW相の上アーム側スイッチング素子24をオンに制御する。また、U相の上アーム側スイッチング素子24はオフにする。このステップS60Bを実行した後で、制御装置17は最新の電流値i#motを計測して取得し、この電流値i#motを次のステップS61で閾値ib#maxと比較する。ステップS61の比較結果が「OK」、すなわち「i#mot≦ib#max」の条件を満たす場合は、少なくともV相、W相の2相の下アーム側スイッチング素子25は正常、すなわち短絡していないとみなし、ステップS62Bに進む。
ステップS62Bでは、制御装置17は、ステップS61で正常であることが認識されたV相、W相の2相の下アーム側スイッチング素子25を利用して、ブレーキ制御を開始する。具体的には、U相、V相、W相の全相の上アーム側スイッチング素子24をオフ状態に制御し、V相、W相の2相の下アーム側スイッチング素子25を同時にオン状態に制御し、U相の下アーム側スイッチング素子25はオフに制御する。
なお、この場合はU相の下アーム側スイッチング素子25は故障しているので、必ずしもU相の下アーム側スイッチング素子25をオフに制御する必要はない。また、ステップS62Bの制御においても、図5に示した上アーム制御信号SGUおよび下アーム制御信号SGLを用いて上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25のオンオフを交互に繰り返すことができる。
ステップS63Bでは、制御装置17は、U相およびW相の上アーム側スイッチング素子24をオンに制御する。また、V相の上アーム側スイッチング素子24はオフにする。このステップS63Bを実行した後で、制御装置17は最新の電流値i#motを計測して取得し、この電流値i#motを次のステップS64で閾値ib#maxと比較する。ステップS64の比較結果が「OK」、すなわち「i#mot≦ib#max」の条件を満たす場合は、少なくともU相、W相の2相の下アーム側スイッチング素子25は正常、すなわち短絡していないとみなし、ステップS65Bに進む。
ステップS65Bでは、制御装置17は、ステップS64で正常であることが認識されたU相、W相の2相の下アーム側スイッチング素子25を利用して、ブレーキ制御を開始する。具体的には、U相、V相、W相の全相の上アーム側スイッチング素子24をオフ状態に制御し、U相、W相の2相の下アーム側スイッチング素子25を同時にオン状態に制御し、V相の下アーム側スイッチング素子25はオフに制御する。
なお、この場合はV相の下アーム側スイッチング素子25は故障しているので、必ずしもV相の下アーム側スイッチング素子25をオフに制御する必要はない。また、ステップS65Bの制御においても、図5に示した上アーム制御信号SGUおよび下アーム制御信号SGLを用いて上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25のオンオフを交互に繰り返すことができる。
また、図8に示したブレーキ開始時処理においては、制御装置17がステップS55で下アームにおける故障の発生を認識した場合に、ブレーキ制御に利用可能な2つのスイッチング素子をステップS57以降で下アームの中から探索しているが、この探索を省略してもよい。例えば、ステップS55で「NG」の場合には、直ちにステップS66に進んでブレーキ制御を中止してもよい。
<空気調和機の構成例>
空気調和機200の構成例を図9に示す。図9に示した空気調和機200は、2つの熱交換器201、202、2つのファン203、204、圧縮機205、配管206、三相同期モータ130、およびモータ制御装置100を備えている。
モータ制御装置100は、図1に示した空気調和機用圧縮機駆動ユニット10と同様に、交流電源を直流に変換するコンバータ部13の機能や、インバータとして動作する電力変換装置11の機能を内蔵している。したがって、モータ制御装置100は三相同期モータ130や、ファン203、204を駆動するモータを制御することができる。
また、モータ制御装置100は図1に示した制御装置17を内蔵しているので、三相同期モータ130が駆動する圧縮機205の運転を停止する際に、図7および図8に示したようなブレーキ開始時処理を行うことができる。
したがって、圧縮機205または配管206に逆止弁を備えていない場合であっても、圧縮機205の運転停止時に発生する圧力差の影響で三相同期モータ130が逆転するのを前記ブレーキ制御により防止できる。しかも、いずれか1相の上アーム側スイッチング素子24または下アーム側スイッチング素子25が故障している場合であっても、ブレーキ制御を行うことができる。また、故障したスイッチング素子と故障していないスイッチング素子とを区別することができる。
<モータ制御装置の利点>
(1)図1に示した制御装置17は、所定の停止指令に従って、前記電気モータの駆動を停止すると共に、例えば図7のステップS54で上アーム側スイッチング素子24または下アーム側スイッチング素子25を複数相について同時にオンにするブレーキ制御を行う。また、このブレーキ制御を行っている時にステップS55で上アーム側スイッチング素子24または下アーム側スイッチング素子25の故障に起因する過電流の有無を識別し、前記過電流の発生を検知した場合には、ステップS59、S62、またはS65において、故障が発生したアーム内で、正常なスイッチング素子を複数相について同時にオン状態に制御して前記ブレーキ制御を行う。したがって、1個のスイッチング素子が故障した場合であっても、ブレーキ制御を実行することができ、圧縮機の停止時に電気モータ15の逆回転を抑制できる。
圧縮機205に逆止弁を設けることなくインバータの制御により電気モータの逆回転を抑制できる。しかも、インバータ回路を構成する1つのスイッチング素子に故障が発生した場合であっても、ブレーキ制御の際に過電流を検知した場合には特別な制御を行うので、過電流が継続的に流れるのを防止して故障の拡大を避けることができる。
(2)また、図1に示した制御装置17は、複数の上アーム側スイッチング素子24をオンにしてブレーキ制御を行う際に、ブートストラップ回路40が所定の機能を果たすように、例えば図5に示した上アーム制御信号SGUおよび下アーム制御信号SGLを用いて複数の上アーム側スイッチング素子24をオンにする動作とオフにする動作とを周期的に交互に繰り返す。また、複数の上アーム側スイッチング素子24がオフ状態の時に、複数の下アーム側スイッチング素子25をオンに制御する。したがって、ブレーキ制御を行う区間においても、上アーム側スイッチング素子24に対して十分に高い制御電圧を印加することができ、誤動作の発生を防止できる。
(3)また、図1に示した制御装置17は、複数の下アーム側スイッチング素子25を同時にオンにする際に、電気モータ15の電気コイルに流れる電流を電気モータ15の永久磁石の劣化の要因にならない所定電流以下に制限するように、オン状態が継続する時間の長さまたはオンオフの比率を制限する。したがって、ブレーキ制御を行う際に、電気コイルに過大な電流が流れるのを防止して、電気モータ15の永久磁石の減磁を避けることができる。
(4)また、図1に示した制御装置17は、短絡の故障が発生している上アーム側スイッチング素子24または下アーム側スイッチング素子25が存在する場合に、例えば図7に示したステップS57〜S64の処理を実行することにより、ブレーキ制御に利用可能な複数の正常な上アーム側スイッチング素子24または下アーム側スイッチング素子25の組み合わせを特定する。したがって、1個のスイッチング素子が故障した場合であっても、ブレーキ制御を行うことができ、圧縮機の停止時に電気モータ15の逆回転を抑制できる。
(5)また、図1に示した制御装置17は、ブレーキ制御を行う場合に、上アームまたは下アームの故障に起因する過電流の発生を検知した場合には、例えば図7のステップS66で、上アーム側スイッチング素子24および下アーム側スイッチング素子25を全相についてオフ状態に制御する。これにより、高電位側直流電源ライン21と低電位側直流電源ライン22との間が短絡して貫通電流が流れるのを阻止できる。
(6)また、図1に示した制御装置17は、ブレーキ制御を開始する前に、例えば図7のステップS52でインバータに直流電力を供給するコンバータ部13の動作を停止する。これにより、コンバータ部13の負荷が小さくなって出力電圧が異常に上昇するのを避けることができ、故障の発生を未然に防止できる。
(7)また、図1に示した制御装置17を有するモータ制御装置を用いて空気調和機200を構成する場合には、逆止弁を設けなくても圧力差による電気モータ15の逆回転を防止できる。しかも、故障したスイッチング素子が存在する場合であっても、故障していない残りのスイッチング素子を利用してブレーキ制御を行うことができる。