(実施形態1)
実施形態1では、本発明の具体的な一実施例として、タイヤの熱流体シミュレーション及びその検証方法への適用例を説明する。
1.構成
1−1.概要
本実施形態に係るタイヤの熱流体シミュレーション及びその検証方法の概要について、図1,2を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るタイヤ1の熱流体シミュレーションを説明するための図である。図2は、タイヤ1のタイヤサイド部10に設けられる種々の立体構造を例示する図である。
図1は、タイヤ1が回転する状態の熱流体シミュレーションの様子を示している。図1において、タイヤ1の回転軸をz軸とし、タイヤ1の回転方向を矢印d1で示している。熱流体シミュレーションによると、図1に示すように、タイヤ1の回転中に、空気等の流体の流れが、タイヤサイド部10等のタイヤ1の周囲に生じる様子を再現できる。タイヤ1は、本実施形態において立体構造が設けられる物体の一例である。
図2(a),(b),(c)は、タイヤ1のタイヤサイド部10に設けられる立体構造として、種々の突起11の構成例を示している。図2(a)では、突起11が矩形状に形成され、タイヤ周方向に周期的に配置されている。図2(b)では、突起11が斜方形状に形成され、タイヤ周方向に対して同じ向きで等間隔に配置されている。図2(c)では、突起11が斜方形状に形成され、タイヤ周方向に対して向き及び間隔が変動しながら配置されている。
本実施形態では、タイヤサイド部10に種々の形状の突起11を設けた際に、突起11が空気流によってタイヤ1を冷却する効果、即ち空冷効果を、熱流体シミュレーションを用いて予測することを想定している。この際、予測された空冷効果を検証するために、風洞試験を行う。なお、タイヤ1上に設ける立体構造は、上記のような突起11に限らず、例えばディンプル、フィンなど種々の立体構造であってもよい。以下、本実施形態に係るシミュレーション装置、及び風洞設備の構成について、それぞれ説明する。
1−2.シミュレーション装置の構成
本実施形態に係るシミュレーション装置の構成を、図3を参照して説明する。図3は、シミュレーション装置2の構成を示すブロック図である。
シミュレーション装置2は、例えばPCなどの情報処理装置で構成される。シミュレーション装置2は、図3に示すように、演算処理部20と、記憶部21と、機器インタフェース22と、ネットワークインタフェース23とを備える(以下、「インタフェース」を「I/F」という。)。また、シミュレーション装置2は、操作部24と、表示部25とを備える。
演算処理部20は、例えばソフトウェアと協働して所定の機能を実現するCPUやMPUを含み、シミュレーション装置2の全体動作を制御する。演算処理部20は、記憶部21に格納されたデータやプログラムを読み出して種々の演算処理を行い、各種の機能を実現する。例えば、演算処理部20は、CFD(数値計算流体力学)に基づく流体シミュレーション或いは熱流体シミュレーションやCAD,CAEに基づく設計シミュレーション等が実現されるプログラムを実行する。上記のプログラムは、ネットワークから提供されてもよいし、可搬性を有する記録媒体に格納されていてもよい。
なお、演算処理部20は、所定の機能を実現するように設計された専用の電子回路や再構成可能な電子回路などのハードウェア回路であってもよい。演算処理部20は、CPU、MPU、GPU、GPGPU、マイコン、DSP、FPGA、ASIC等の種々の半導体集積回路で構成されてもよい。
記憶部21は、シミュレーション装置2の機能を実現するために必要なプログラム及びデータを記憶する記憶媒体である。例えば、記憶部21は、タイヤ1の形状データ(例えばCADデータ)、シミュレーションにおける物理条件やメッシュ条件、境界条件のパラメータなどを記憶する。記憶部21は、図3に示すように、データ格納部21a及び一時記憶部21bを含む。
データ格納部21aは、所定の機能を実現するために必要なパラメータ、データ及び制御プログラム等を記憶し、例えばハードディスク(HDD)や半導体記憶装置(SSD)で構成される。
一時記憶部21bは、例えばDRAMやSRAM等のRAMを構成する半導体デバイスで構成され、データを一時的に記憶(保持)する。また、一時記憶部21bは、演算処理部20の作業エリアとして機能してもよい。
機器I/F22は、シミュレーション装置2に他の機器を接続するための回路(モジュール)である。機器I/F22は、所定の通信規格にしたがい通信を行う。所定の規格には、USB、HDMI、IEEE1395、WiFi、Bluetooth等が含まれる。機器I/F22は、他の機器から諸情報を取得する取得部の一例である。
ネットワークI/F23は、無線または有線の通信回線を介してシミュレーション装置2をネットワークに接続するための回路(モジュール)である。ネットワークI/F23は所定の通信規格に準拠した通信を行う。所定の通信規格には、IEEE802.3,IEEE802.11a/11b/11g/11ac等の通信規格が含まれる。ネットワークI/F23は、ネットワークを介して諸情報を取得する取得部の一例である。
操作部24は、ユーザが操作を行うユーザインタフェースである。操作部24は、例えば、キーボード、タッチパッド、タッチパネル、ボタン、スイッチ、及びこれらの組み合わせで構成される。操作部24は、ユーザによって入力される諸情報を取得する取得部の一例である。
表示部25は、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイで構成される。表示部25は、例えば操作部24から入力された情報など、種々の情報を表示する。
以上の説明では、PCで構成されるシミュレーション装置2の一例を説明した。シミュレーション装置2はこれに限定されず、種々の装置構成を有してもよい。例えば、シミュレーション装置2は、ASPサーバなどの一つ又は複数のサーバ装置であってもよい。また、クラウドコンピューティングにおいて、各種シミュレーションが行われてもよい。
1−3.風洞設備の構成
本実施形態では、風洞設備を用いた風洞試験により、熱流体シミュレーションにおいて予測された空冷効果の検証等の実測評価を行う。以下、図4,5,6を参照して、本実施形態に係る風洞設備の構成を説明する。
図4は、本実施形態に係る風洞設備3の全体構成を示す斜視図である。本実施形態に係る風洞設備3によると、簡易な構成によって上記のような実測評価を簡易に行うことができる。風洞設備3は、図4に示すように、流路30と、送風機31とを備える。
流路30は、空気等の流体が流入するように、トンネル状に構成される。流路30は、トンネル中において流体の効果を観測するための観測部32を含む(図5参照)。流路30は、適宜、流体の流れを整流する整流部などを含んでもよい。
送風機31は、図4に示すように、流路30の一端に設置される。送風機31は、稼働状態において、空気流A1を流路30内に引き込むように送風動作を行う。これにより、流路30内の観測部32において、流体が一様に流れる一様流A2を生じさせることができる。なお、空洞設備3における送風機31の送風動作は引き込みに限らず、例えば、送風機31を流路30の他端に設置して流路30に対して吹き出すように送風してもよい。
図5は、風洞設備3における観測部32を説明するための図である。観測部32は、図5に示すように、風洞試験装置4と、サーモカメラ33と、観測窓30aとを含む。
風洞試験装置4は、風洞試験の対象となる立体構造などの模型を構成する装置である。風洞試験装置4は、図5に示すように、流路30の内部に設置される。風洞試験装置4の構成について、図6を用いて説明する。
図6は、本実施形態に係る風洞試験装置4の構成を示す斜視図である。風洞試験装置4は、図6に示すように、サンプル40と、ヒータ41と、絶縁ゴム42と、土台43とを備える。
サンプル40は、風洞試験による実測評価の対象となる立体構造の模型を構成する部材である。サンプル40は、例えば、シリコンゴムなどの弾性部材で構成される。サンプル40は、タイヤ1の突起11と相似形状を有する突起40aを備える。サンプル40では、例えば平板部材上に突起40aが所定の並び方で配列される。サンプル40の突起40aは、タイヤ1の突起11に対応する模型構造の一例である。
ヒータ41は、例えばラバーヒータやフィルムヒータで構成される。ヒータ41は、サンプル40を加熱するように、サンプル40の底面に設置される。
絶縁ゴム42は、ヒータ41と土台43との間に設置される。絶縁ゴム42は、ヒータ41から土台43への熱伝導を遮断する。なお、絶縁ゴム42は適宜、省略或いは他の部材に置換されてもよい。
土台43は、サンプル40及びヒータ41を、絶縁ゴム42を介して支持する。土台43の主面は、例えば平面であり、例えば水平面を構成する。土台43の主面は、平面でなくてもよく、例えば山形、弓形などの湾曲面であってもよい。これにより、風洞試験装置4において、タイヤサイド部などの表面形状を模し易くすることができる。
図5に戻り、風洞試験装置4は、観測部32において、例えばサンプル40の長手方向が一様流A2の流れの方向と平行になるように設置される。
サーモカメラ33は、温度分布を示す熱画像を撮像する赤外線サーモグラフィカメラである。サーモカメラ33は、観測窓30aから流路30内部を撮像するように設置される。観測部32においては、サーモカメラ33に代えて、又はこれに加えて、種々の温度計測手段を用いてもよい。
観測窓30aは、図5に示すように、流路30における例えば鉛直方向上側の壁面に設けられる。風洞試験装置4の設置位置は、観測窓30aの鉛直方向下側に設定される。これにより、観測部32においてサーモカメラ33から熱画像によるサンプル40の温度分布を観察できる。
2.動作
以上のように構成されたシミュレーション装置2及び風洞設備3による動作について、以下説明する。
2−1.動作の概要
本実施形態に係るシミュレーション装置2及び風洞設備3の動作の概要について説明する。本実施形態では、熱流体シミュレーション等によって予測される空冷効果を検証するために、空洞設備3において、サンプル40上の突起40aに対する空洞試験を行う。ここで、空洞試験の実施中にサンプル40上の突起40aの並び方や形状、向き等を調整することにより、より高い空冷効果を有する突起40aが新たに見つかることが想定される。そこで、本実施形態では、サンプル40上の新たな突起40aに基づいてタイヤ1のデータを更新するように、シミュレーション装置2において、データ上で新たな突起40aをタイヤ1の突起11に変換する。これにより、サンプル40による空冷効果の検証結果に応じて、タイヤ1上の突起11の設計をし易くすることができる。以下、本実施形態に係る動作の詳細を説明する。
2−2.空冷効果の検証について
まず、空冷効果の検証についての本発明者の知見を、図7を用いて説明する。
図7は、タイヤ1の回転中に突起11に流入する空気流A2の様子を示している。シミュレーション装置2の熱流体シミュレーションによると、回転中のタイヤ1上で空気流A2が突起11を介して発達する様子等をシミュレーションできる。例えば、突起11で分断された分流A3a,A3bが層流になるのか乱流になるのか、層流の境界層はどう発達するのか、この際の対流熱伝達がどうなるのか等、種々の物理現象がシミュレーションできる。本発明者は、シミュレーション結果に基づく空冷効果を検証するためには、例えば風洞試験において、突起11に流入する空気流A2の状態を再現する必要があることに着目した。
本実施形態に係る風洞設備3(図4)は、上述のとおり、簡易な構成によって一様流を生じさせる。一方、タイヤ1の回転中の空気流は一様流にならず、風洞試験と不一致がある。本発明者は、鋭意検討を重ね、上記の不一致を解消するための知見を得た。すなわち、図7に示すように、空気流A2はタイヤ1の回転に応じて、回転位置毎に異なる向きで突起11に流入する。ここで、図7の例では、それぞれの突起11がタイヤ周方向に対して同じ向きで配置されている。この場合、それぞれの突起11に対する空気流A2の相対的な向き(後述する向かい角)は、それぞれ一定になっている。換言すると、タイヤ1の回転中に、突起11と空気流A2との相対的な関係は、回転位置に依らず一定とみなすことができる。
以上の知見に基づき、本発明者は、突起11と空気流A2との相対的な関係を再現しながら、一様流を用いて風洞試験を行う方法を想到するに到った。上記の相対的関係を考慮することにより、シミュレーションした種々の物理現象が再現可能になり、空冷効果の検証が可能になる。
2−3.風洞試験方法について
本実施形態に係る風洞試験方法について、図8,9を参照して説明する。図8は、本実施形態に係る風洞試験方法の手順を示すフローチャートである。図9は、風洞試験方法における向かい角を説明するための図である。
図8のフローチャートによる手順は、例えば実測評価を行う評価者が、本実施形態に係るシミュレーション装置2及び風洞設備3を用いることによって行われる。
まず、評価者は、実測評価の対象とするタイヤ1上の突起11に対する流体の流入条件を取得する(S1)。ステップS1の工程は、例えばシミュレーション装置2を用いてCFDに基づく処理を実行することにより、行われる。ステップS1におけるシミュレーション装置2の処理については後述する。
ステップS1における流入条件は、評価対象のタイヤ1の各種環境下で、流体がタイヤ1上の突起11に流入する際の物理的な条件である。流入条件は、流速、及び向かい角を含む。流速は、突起11に流入する流体と、突起11との間の相対速度である。向かい角は、流体が突起11に流入する方向と、所定の基準方向との間の角度(流入角度)である。向かい角について、図9(a)を用いて説明する。
図9(a)は、CFD計算におけるタイヤ1の一部の形状データを示す。図9(a)において、曲線C1は、タイヤ周方向(即ち回転方向)に沿って設定される円弧状の基準曲線である。各突起11の配置は、基準曲線C1を基準として判別できる。矢印d2は、基準曲線C1上の代表点P1に流入する流体の流入方向を示す。向かい角αは、例えば代表点P1における基準曲線C1の接線C2の方向と、流体の流入方向d2との間の角度として規定される。代表点P1は、例えば隣接する突起11の中点に選ばれる。向かい角αは、タイヤ1のタイヤ径および回転速度等に応じて変化し、例えば10°近傍である。
図8に戻り、次に、評価者は、取得した流入条件に基づいて、風洞試験装置4を作製する(S2)。ステップS2では、例えばシミュレーション装置2を用いた演算処理が行われる。ステップS2における演算処理については後述する。図9(b)に、ステップS2で得られる風洞試験装置4のサンプル40のデータを例示する。
図9(b)において、直線C3は、サンプル40上に設定される、図9(a)の基準曲線C1に対応する基準直線である。ステップS2では、タイヤ1における基準曲線C1に沿った突起11の配置が、サンプル40における基準直線C3に沿った突起40aの配置に対応するように、配置変更される。矢印d3は、風洞試験における一様流の流入方向を示す。ステップS2では、基準直線C3の傾きが、一様流の流入方向d3に対して、取得した向かい角α分傾くように設定される(図9(a)参照)。
また、ステップS2において、例えば評価者は、取得した流速に基づき、レイノルズ数を基準としてサンプル40のサイズをスケーリングする(詳細は後述)。スケーリングされたサイズにおいて、例えば図9(b)の例のように設定されたサンプル40が作製される。さらに、風洞試験装置4(図6)が、例えば土台43に絶縁ゴム42を介してヒータ41を固定し、ヒータ41上に作製されたサンプル40を固定することによって作製される。なお、ステップS2の工程において、突起11の配置変更(図9(a),(b))と、スケーリングとを行う順序は特に限定されず、適宜、適切な順序において行われる。
次に、評価者は、風洞設備3において、一様流が向かい角αに応じてサンプル40の突起40aに流入するように、作製した風洞試験装置4を設置する(S3)。具体的に、図5に示すように、風洞設備の観測部32において、サンプル40の長手方向が流体の流入方向に一致するように位置決めして、風洞試験装置4を設置する。これにより、サンプル40上では突起40aが向かい角α分傾いた直線状に配置されているため、一様流が適切に突起40aに流入することとなる。
次に、評価者は、風洞設備3を稼働しながら、サンプル40の温度を計測する(S4)。具体的に、観測部32に設置した風洞試験装置4に対して、送風機31の送風動作を開始させる(図4)。さらに、図5に示すように、観測部32におけるサーモカメラ33から、サンプル40の熱画像を撮像する(図11参照)。
以上の手順により、本フローチャートによる風洞試験方法は終了する。
以上の風洞試験方法によると、評価対象のCFD計算における向かい角αを再現するサンプル40により(図9(a),(b))、シミュレーションした種々の物理現象が再現可能になり、空冷効果の検証等の実測評価が容易に行える。
また、以上の風洞試験装置4によると、サンプル40上の突起40aの配置が向かい角α分の傾きを有するため、風洞試験において向かい角αを再現する位置決めが容易に行える(S3)。
上記のステップS2におけるサンプル40のスケーリングの詳細について、図10を用いて説明する。図10は、風洞試験方法におけるスケーリングの一例を例示する図である。
図10は、評価対象のCFD計算が、特性長さL=0.040m、流速v=19.3m/s、動粘性係数ν=1.51×10^−5に設定して実行された例を示している。サンプル40のサイズは、評価対象のCFD計算と風洞試験のサンプル40との間で、レイノルズ数Reが一致するようにスケーリングされる。レイノルズ数Reは、立体構造の特性長さLと、流速vと、流体の動粘性係数νとによって規定される。図10においては、特性長さLとして突起11,40aのタイヤ径方向における長さを用いている。図10の例では、CFD計算のレイノルズ数Reは、51058になっている。
図10では、風洞試験において実現される流速vが、CFD計算の場合よりも1.74倍小さい11.1m/sであり、それぞれの動粘性係数νは同一である例を示している。このような場合、風洞試験のサンプル40のサイズがCFD計算の場合よりも1.74倍大きくなるようにスケーリングし、風洞試験におけるレイノルズ数ReをCFD計算のレイノルズ数Re=51058に一致させる。これにより、図10に示すように、サンプル40の突起40aの特性長さL=0.069mを求めることができる。この際、突起40aの幅、厚み、間隔なども、同じ倍率においてスケーリングされる。
図10の例に関する上記の風洞試験の実測結果について、図11,12を用いて説明する。
図11は、風洞試験のステップS4における熱画像を説明するための図である。ステップS4によると、図11に示すように、サンプル40上の突起40aが配置された位置及び配置されていない位置を含む領域の熱画像が撮像される。熱画像により、撮像された領域中の温度分布が計測される。本例では、図10の例のようにスケーリングした突起40aを有するサンプル40の熱画像を撮像すると共に、同条件下で突起40aを有しないサンプルの熱画像を撮像した。両者の比較結果を、図12に示す。
図12は、図11の熱画像中の区間[P2,P3]における温度分布のグラフを示している。図12のグラフにおいて、縦軸は温度[℃]であり、横軸は区間[P2,P3]中の位置[mm]である。また、図12では、突起40aがない場合の同区間の温度分布を示している。図12によると、突起40aがある場合の温度分布は、全体的に突起40aがない場合よりも低温になっている。また、突起40aがあるサンプル40上でも、突起40aがある位置が、突起40aがない位置よりも低温になっている。このように、本実施形態に係る風洞試験方法によると、突起40aによる空冷効果を検証することができる。
以上の風洞試験方法の手順(図8)の説明においては、風洞試験における評価対象がCFD計算において設定される例について説明した。風洞試験における評価対象はこれに限らず、例えば実際のタイヤであってもよい。
また、上記のステップS1の説明では、CFD計算において評価対象の突起11に対する流入条件を取得したが、これに限らず、例えば実測によって流入条件を取得してもよい。例えば、実際のタイヤの回転実験において、突起の周囲に紛体を散布したり、或いは旗を設置したりして、突起に流入する空気流を可視化する。これにより、可視化した空気流の画像解析などに基づき流入条件を取得できる。
また、上記のステップS1の説明では、向かい角αの基準方向と基準曲線C1の接線方向(C2)としたが(図9(a))、基準方向はこれに限らず、例えば基準曲線C1の法線方向であってもよい。また、基準方向は基準曲線C1に対して、タイヤ1の回転に応じた突起11の相対的な移動に関する所定の関係を満たす方向であってもよい。
また、上記のステップS2,S3では、突起40aの配置が向かい角α分の傾きを有するサンプル40を用いたが、向かい角α分の傾きを有しないサンプル40を用いてもよい。この場合、風洞試験装置4の設置位置を調整することにより、風洞試験において向かい角αを再現する。
また、上記のステップS4では、風洞試験において温度計測を行ったが、温度計測に限らず、例えばサンプル40における圧力分布及びトルク等の計測、或いは流れの可視化が行われてもよい。また、上記のステップS4では、温度計測のために熱画像を撮像したが、これに限らず、種々の温度計測手段を用いてもよい。
2−4.シミュレーション装置の処理について
2−4−1.ステップS1,S2における処理について
上記の風洞試験方法のステップS1,S2(図8)におけるシミュレーション装置2の処理について、図13,14,15を参照して説明する。図13は、本実施形態に係るシミュレーション装置の処理を示すフローチャートである。
本フローチャートにおける各処理は、シミュレーション装置2の演算処理部20によって実行される。演算処理部20は、適宜、評価者等のユーザの操作を受け付けて各処理を実行してもよい。
まず、シミュレーション装置2の演算処理部20は、タイヤモデルのCFD計算を行う(S11)。本実施形態では、実際のタイヤの形状を簡略化したタイヤモデルを用いてCFD計算を行う。タイヤモデルのCFD計算について、図14(a),(b)を用いて説明する。
図14(a)は、タイヤモデル5のデータ構造を示す。タイヤモデル5は、タイヤ1の全体形状を、所定厚みの中空円筒形状に簡略化した数値計算モデルである。タイヤモデル5は、図14(a)に示すように、トレッド領域R1、ビード領域R2、タイヤサイド領域R3、及びパッド領域R4を有する。トレッド領域R1、ビード領域R2、及びタイヤサイド領域R3は、それぞれ実際のタイヤのトレッド部、ビード部、及びタイヤサイド部に対応する三次元領域である。パッド領域R4は、例えばランフラットタイヤにおける補強ゴムに対応する三次元領域である。
本実施形態に係るタイヤモデル5において、タイヤサイド領域R3及びパッド領域R4は、図14(a)に示すように、タイヤ周方向にわたって隣接する二層構造を構成する。タイヤサイド領域R3は、外面側の形状を立体的に変更可能に構成され、種々の突起11を設定可能である(図14(b)参照)。パッド領域R4は、タイヤサイド領域R3に覆われる熱源として設定される。これにより、例えばランフラットタイヤにおいて補強ゴムが発熱した際の熱流体シミュレーション、及び空冷効果を奏する適切な立体構造の探索などを簡単に行うことができる。
図14(b)は、タイヤモデルのCFD計算におけるアセンブル状態を示す。演算処理部20は、図14(b)に示すように、タイヤ1の周囲に、空気を表す流体6を設定する。本実施形態では、流体6は、例えば静止状態であると設定される。CFD計算において、演算処理部20は、タイヤ1を回転運動させる。この際、例えば時速80kmの走行状態に対応する回転数がタイヤ1に設定される。なお、流体6の設定により、実使用条件における路面移動、向かい風といった現象を反映させてもよい。
図13に戻り、次に、演算処理部20は、シミュレーション結果に基づいて、向かい角αを計算する(S12)。例えば、図9(a)を参照すると、まず、演算処理部20は、タイヤ1におけるタイヤ周方向に沿ってタイヤ1上に基準曲線C1を設定する。基準曲線C1は、例えば突起11の中心位置を通るように設定される。さらに、演算処理部20は、タイヤ1上で基準曲線C1と流体の軌跡の交点P1を抽出し、交点P1における基準曲線C1の接線C2と、流体の軌跡の方向d2との間の角度を、向かい角αとして算出する。
また、演算処理部20は、シミュレーション結果に基づいて流速を計算する(S13)。例えば、演算処理部20は、上記の交点P1における流速を算出する。なお、流速は、タイヤ1上で他の点において算出されてもよいし、複数の点にわたる平均速度で算出されてもよい。また、ステップS12,S13の順序は特に限定されず、逆順であってもよい。
次に、演算処理部20は、タイヤ1全体のデータから、風洞試験の検証対象とするデータ領域を抽出する(S14)。例えば、演算処理部20は、タイヤ全周のタイヤサイド部10を含むデータから、ユーザが指定する領域のデータを切り出すことにより、本処理を実行する。
次に、演算処理部20は、抽出したデータ領域において、変換処理の基準を設定する(S15)。具体的に、まず演算処理部20は、図15(a)に示すように、抽出したデータ領域において回転座標系(r,θ)を定義する。回転座標系(r,θ)において、径方向の座標rはタイヤ1の半径に対応し、周方向の座標θは回転角度に対応する。次に、演算処理部20は、定義した回転座標系(r,θ)において、周方向に沿った基準曲線C1を規定する基準半径値roを算出する。基準半径値roは、例えば突起11の中心位置に対応する。
次に、演算処理部20は、タイヤ1上の突起11を配置変更するための変換処理を行う(S16)。本変換処理は、抽出したデータ領域上で設定した基準曲線C1に沿った突起11の並び方を維持しながら、基準曲線C1を直線状の基準直線C3に変換するように突起11の配置を変更する処理である。
ステップS16の処理において、まず演算処理部20は、変換先の直交座標系(x,y)を定義する(図15(b)参照)。次に、演算処理部20は、例えば変換前の各突起11の基準曲線C1上の代表点の座標に対して次式を演算し、変換後の直交座標系(x,y)における突起11’の位置を算出する。
また、演算処理部20は、突起11の向きに関しても上式(1)を変換式として、例えば基準曲線C1上の代表点の接ベクトルなどを変換することにより、直交座標系(x,y)における向きを算出する。これにより、図15(b)に示すように、基準曲線C1が基準直線C3に変換される配置変換が実現される。
次に、演算処理部20は、変換処理の変換結果に基づいて、サンプル40のデータを生成する(S17)。具体的に、演算処理部20は、算出した向かい角αに基づいて、変換処理後のデータ領域に対して、直交座標系(x,y)のxy平面上で基準直線C3を向かい角α分傾けるように、回転及び並進などの幾何学的変換を行う。これにより、風洞試験装置4を作製するためのサンプル40のデータが得られる(図9(b)参照)。
演算処理部20は、サンプル40のデータを生成し、例えば記憶部21に格納することにより、本フローチャートによる処理を終了する。
以上の処理によると、シミュレーション装置2によって、風洞試験による評価対象の流入条件が取得され、向かい角αを有するサンプル40のデータが得られる。評価者は、サンプル40のデータを用いて、所望のスケーリングにおいて風洞試験装置4を作製できる。
以上の処理に加えて、例えばユーザが風洞試験の流速を示す情報を指定することにより、シミュレーション装置2が、レイノルズ数を一致させるようにサンプル40のスケーリングの演算処理を行ってもよい。本処理は、例えばステップS16の変換処理等とは順不同である。
以上のステップS16の説明において、代表点を用いる変換処理の一例を説明した。変換処理は上記の例に限らず、例えば、変換前のデータ領域中の座標の全ての点を式(1)に基づき変換してもよい。この場合、突起11の形状も変換されることとなる。また、データ領域中の突起11の高さ方向にz座標を定義し、各点のz座標については恒等変換を行うようにしてもよい。
また、以上の処理では、シミュレーション装置2がサンプル40のデータを生成した(S17)。これに限らず、例えばシミュレーション装置2の処理はステップS13で終了してもよい。得られた情報に基づき、ユーザが突起11の配置変更等を行ってもよい。例えば、タイヤ周方向に等間隔に突起11が配置される場合、隣接する突起11間の間隔及び向きを計測し、対応する間隔及び向きにおいてサンプル40上の突起40aを配置することによりサンプル40を作製することができる。この際、サンプル40上の突起40aの間隔は、例えば基準半径値ro及びレイノルズ数を基準とするスケーリングに基づき、適宜、設定されてもよい。
また、ステップS11の処理において、タイヤサイド領域R3において種々の突起11の形状を試行しながらタイヤモデルのCFD計算を繰り返し、評価対象の立体構造を決定するようにしてもよい。
2−4−2.逆変換処理について
以上のように、シミュレーション装置2は、風洞試験方法のステップS1,S2(図8)において、タイヤ1上の突起11に対する変換処理を行う(図13のS16)。本実施形態に係るシミュレーション装置2は、風洞試験時にサンプル40上の突起40aが変更された場合等に、上記の変換処理の逆変換を行う逆変換処理を実行する。以下、シミュレーション装置2による逆変換処理について、図16を参照して説明する。
図16は、シミュレーション装置2による逆変換処理を示すフローチャートである。本フローチャートによる各処理は、シミュレーション装置2の演算処理部20によって実行される。以下、本フローチャートによる処理が、図8のフローチャートの実行時に用いた各種情報が記憶部21に格納された状態において、開始される例を説明する。
まず、演算処理部20は、例えば操作部24を介して、サンプル40のデータを取得する(S21)。例えば、ユーザが操作部24を用いて、記憶部21に記録された元のサンプル40のデータの突起40aの並び方や形状、向き等を変更することにより、新たなサンプル40のデータが取得される。以下、説明の簡単化のため、ステップS21において図9(b)に示すようなサンプル40のデータが得られた場合について説明する。
次に、演算処理部20は、取得したデータに基づき逆変換を実行するための基準を設定する(S22)。例えば、演算処理部20は、まず、逆変換によりタイヤ1上の基準曲線C1に対応させる基準直線C3を、取得したデータ上に設定する(図9(a),(b)参照)。この際、演算処理部20は、基準直線C3が延びる方向がx方向となるように、元の直交座標系(x,y)における幾何学的変換、或いは直交座標系(x,y)の再定義などを行う(図15(b)参照)。さらに、演算処理部20は、逆変換先の基準曲線C1を規定する基準半径値roを設定する。
なお、逆変換先の座標系としては、例えばステップS15の処理(図13)において設定された回転座標系(r,θ)を用いる。また、直交座標系(x,y)や基準直線C3、基準半径値roとしては、ステップS16の変換処理(図13)における設定を用いてもよいし、設定を変更してもよい。例えば、取得したサンプル40のデータにおいて向かい角αが変更された場合等に、演算処理部20は、変更後の向かい角αに対応するタイヤ径などを算出し、新たな基準半径値roを設定してもよい。
次に、演算処理部20は、直交座標系(x,y)から回転座標系(r,θ)への逆変換の演算処理を行う(S23)。例えば、演算処理部20は、逆変換前の各突起11’の基準直線C3上の代表点の座標に対して次式を演算し、逆変換後の回転座標系(r,θ)における突起11の位置を算出する。
また、演算処理部20は、突起11’の向きに関しても上式(2)を変換式として、例えば基準直線C3上の代表点の接ベクトルなどを逆変換することにより、回転座標系(r,θ)における向きを算出する。ステップS23の演算処理により、タイヤ1上の一部に対応する部分的な突起11の配置を表すデータが得られる(図15(a)参照)。
次に、演算処理部20は、新たに得られた突起11の配置を表すデータに基づいて、突起11を有するタイヤ1の形状データを更新する(S24)。具体的に、演算処理部20は、得られた部分的な突起11の配置を表すデータを周方向に展開するようにコピーすることにより、タイヤ1の全周にわたる突起11の配置を表すデータを生成する。
演算処理部20は、ステップS24においてタイヤ全周分のデータを生成し、例えば記憶部21に格納することにより、本フローチャートによる処理を終了する。
以上の処理により、例えば空洞試験中にサンプル40上の突起40aが変更された場合に、変更された突起40aの配置を逆変換することにより、タイヤ1上の突起11を更新することができる。これにより、サンプル40による試験結果に応じて、タイヤ1上の突起11の設計をし易くすることができる。
以上の説明では、図13のフローチャートの実行時の各種データが格納された状態において、逆変換処理が開始される例を説明したが、これに限らず、逆変換処理は、変換処理時の各種情報を用いずに実行されてもよい。演算処理部20は、図16の各ステップにおいて、都度、必要な情報を定義してもよい。
また、上記のステップS21の説明においては、操作部24を介してサンプル40のデータが取得される例について説明した。これに限らず、シミュレーション装置2は、例えばネットワークI/F23、或いは機器I/F22を介して、逆変換の対象とするサンプル40のデータを取得してもよい。
以上のステップS23の説明において、代表点を用いる例を説明したが、これに限らず、例えばサンプル40のデータ中の逆変換前の座標の全ての点を式(2)に基づき逆変換してもよい。また、サンプル40のデータ中の突起40aの高さ方向にz座標を定義し、各点のz座標については恒等変換を行うようにしてもよい。
また、ステップS23では、演算処理部20は式(2)の演算処理に代えて、サンプル40のデータ上で例えば基準直線C3に沿った突起40a間の間隔を取得し、基準曲線C1上で対応する円弧長さにおいて突起11を配置する処理を行ってもよい。この際、演算処理部20は基準半径値ro及びレイノルズ数を基準とするスケーリングに基づいて、対応する円弧長さを算出しても良い。これによっても、サンプル40上の突起40aの配置の逆変換を実現することができる。
3.まとめ
以上のように、本実施形態に係る設計支援方法は、シミュレーション装置2により、立体構造の突起11を有する物体であるタイヤ1の設計を支援する設計支援方法である。シミュレーション装置2の記憶部21には、突起11が配置される基準となる基準曲線C1が規定されるタイヤ1の形状データが格納されている。本方法は、シミュレーション装置2が、突起11に対応する模型構造の突起40aを含むサンプル40の形状データを取得するステップS21を含む。本方法は、シミュレーション装置2が、取得した形状データにおいて突起40aが配置される基準となる基準直線C3を設定するステップS22を含む。本方法は、シミュレーション装置2が、基準直線C3に沿った突起40aの配置に対応するように基準曲線C1に沿ってタイヤ1上の突起11を配置して、格納されたタイヤ1の形状データを更新するステップS23,S24を含む。
また、本実施形態に係るシミュレーション装置2は、突起11を有するタイヤ1の設計を支援する。シミュレーション装置2は、記憶部21と、取得部22〜24と、演算処理部20とを備える。
また、本実施形態に係るプログラムは、上記の設計支援方法をシミュレーション装置2に実行させるためのプログラムである。
以上の設計支援方法、シミュレーション装置2及びプログラムによると、サンプル40上の突起40aが変更された場合に、サンプル40上の変更に応じてタイヤ1上の突起11が更新され、タイヤ1上に突起11を設ける際の設計支援を行うことができる。
また、本実施形態に係る設計支援方法は、シミュレーション装置2が、格納されたタイヤ1の形状データに基づいて、タイヤ1上の基準曲線C1に対応する基準直線C3に沿って、タイヤ1上の突起11に対応する突起40aが配置されるように、突起40aを含むサンプル40の形状データを生成するステップをさらに含む。
これにより、タイヤ1上の突起11からへサンプル40上の突起40aへの変換(順変換)と共にサンプル40上の突起40aからタイヤ1上の突起11への逆変換が行われ、タイヤ1の設計をし易くすることができる。
また、本実施形態において、評価対象の物体であるタイヤ1は、回転体である。基準曲線C1は、回転体の回転方向に沿った円弧である。本方法によると、回転体の回転運動によって生じる空気流を、風洞試験において簡易に再現することができる。
また、本実施形態において、評価対象の立体構造は、複数の突起11を含む。評価対象の立体構造は、複数の突起11に限らず、例えば一つの突起11を含んでもよい。この場合、基準曲線C1を基準とする突起11の向きと、基準直線C3を基準とするサンプル40上の突起40aとを一致させる。
また、本実施形態において、サンプル40の突起40aは、レイノルズ数に基づきタイヤ1上の突起11のサイズに対応するサイズを有する。これにより、レイノルズの相似則によってタイヤ1上の突起11と同様の物理現象を風洞試験において再現できる。なお、本実施形態に係る風洞試験方法は、必ずしもレイノルズ数を一致させるスケーリングで行われなくてもよい。この場合であっても、向かい角αに基づき、流体が突起11によってどのように分断されるか等を確認、評価するために、本方法は有用である。
また、本実施形態におけるシミュレーション方法においては、シミュレーション装置2が、タイヤ1を示すタイヤモデル5のモデルデータに基づく熱流体シミュレーションを行ってもよい(S11)。タイヤモデル5のモデルデータは、基準曲線C1に沿って隣接するタイヤサイド領域R3(第1の領域の一例)及びパッド領域R4(第2の領域の一例)を有する。タイヤサイド領域R3には種々の形状の突起11などの立体構造が設定され、パッド領域R4は熱源に設定される。
これにより、例えばランフラットタイヤにおける補強ゴムなどの発熱に対する突起11の設計など、空冷効果のための立体構造の設計及び空冷効果の検証を、熱流体シミュレーションにおいて簡易に行うことができる。
(実施形態2)
上記の実施形態1では、サンプル40上の突起40aに関する風洞試験を実施した。実施形態2では、サンプル40上の突起40aに関して風洞試験の実施に代えて、熱流体シミュレーションを行う。以下、本実施形態に係るシミュレーション方法について、図17及び図18を参照して説明する。
図17は、実施形態2に係るシミュレーション装置2の処理を示すフローチャートである。本フローチャートにおける各処理は、シミュレーション装置2の演算処理部20によって実行される。
まず、演算処理部20は、サンプル40のデータを生成する(S31)。ステップS31における処理は、演算処理部20が、図13のフローチャートにおけるステップS11〜S17の各処理を実行することによって行われる。これにより、例えば図9(b)に示すようなサンプル40の形状を示すデータが得られる。
次に、演算処理部20は、生成したサンプル40のデータに基づいて、データ上のサンプル40の突起40aに、方向d3から一様流を流入させるように、CFD計算を実行する(S32)。ステップS32において、演算処理部20は、タイヤモデルのCFD計算におけるレイノルズ数を計算し、本処理におけるレイノルズ数が計算したレイノルズ数に一致するように、一様流の流速及び突起40aのサイズを設定して、シミュレーションを実行する。例えば、演算処理部20は、シミュレーション結果に基づいて、サンプル40上の所定領域(図11参照)の温度分布を示す情報を表示部25に表示する。
次に、演算処理部20は、例えば操作部24を介してユーザからの操作を受け付けて、サンプル40のデータが決定されたか否かを判断する(S33)。例えば、ユーザはシミュレーション結果に基づきサンプル40の突起40aを調整するか否かを選択できる。ユーザが突起40aの調整を選択する操作を行った場合、演算処理部20は、ステップS33において「No」に進む。
演算処理部20は、サンプル40のデータが決定されていないと判断した場合(S33でNo)、例えば操作部24を介したユーザの操作に基づき、サンプル40のデータを変更する(S34)。演算処理部20は、変更されたサンプル40のデータに基づき、ステップS32以降の処理を再度、実行する。
一方、演算処理部20は、サンプル40のデータが決定されたと判断した場合(S33でYes)、決定されたサンプル40のデータに対して逆変換処理を実行する(S35)。具体的に、演算処理部20は、図16のステップS21〜S24の各処理を実行する。これにより、タイヤ1上の突起11のデータが、逆変換処理によって生成されるデータに更新される。
ステップS35において、演算処理部20は、タイヤ1上の突起11のデータを更新することにより、本フローチャートによる処理を終了する。
以上の処理によると、サンプル40に対する風洞試験がシミュレーション装置2上で実現され(S32)、評価対象の突起11による影響を簡易に評価することができる。
図18は、本処理による温度分布のグラフの一例を示す。図18の例では、実施形態1に係る図11の例と同じ形状の突起40aに対して、ステップS31〜S33の処理を行った。図18では、図11の熱画像中の区間[P2,P3]と同様の区間におけるデータ上のサンプル40の温度分布を示している。図12のグラフと図18のグラフとを比較すると、互いに酷似した温度分布を有していることが分かる。
以上のように、本実施形態に係るシミュレーション装置2の熱流体シミュレーションを行った際に(S32)、ユーザが突起40aを調整する操作を受け付けることにより、ユーザがより良い空冷効果を奏する突起40aを探索することを容易化できる。また、ユーザが突起40aを有するサンプル40のデータを決定した際には、逆変換処理を行うことにより、探索結果がタイヤ1上のデータに反映され、タイヤ1の設計をし易くすることができる。
以上のように、本実施形態に係る設計支援方法は、シミュレーション装置2が、サンプル40の形状データにおける突起40aの変更を受け付けるステップS33をさらに含む。逆変換処理により更新するステップS35は、変更が為されたサンプル40上の突起40aに対応する突起11を配置して、記憶部21に格納されたタイヤ1の形状データを更新する(S23,S24)。
以上の設計支援方法により、ユーザがデータ上のサンプル40の突起40aを変更しながらタイヤ1上の突起11を設計でき、タイヤ1の設計をし易くすることができる。
また、本実施形態に係る設計支援方法は、シミュレーション装置2が、突起40aを含むサンプル40の形状データに基づいて、流体シミュレーションを行うステップS32をさらに含む。これにより、流体シミュレーション結果を反映させながらタイヤ1の設計支援を行うことができる。
また、本実施形態において、流体シミュレーションを行うステップS32は、所定角度である、ステップS31で算出された向かい角αからサンプル40上の突起40aに流体を流入させるように実行される。ステップS32の流体シミュレーションは、必ずしも算出された向かい角αに基づき行われなくてもよく、例えば種々の流入角度を試しながら流体シミュレーションが行われてもよい。
(他の実施形態)
本発明の具体的な一実施例として、タイヤの熱流体シミュレーション及びその検証方法への適用例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、上記の各実施形態では、対象とする物体がタイヤ1であったが、タイヤ1に限らず、例えばホイール、ファン、プロペラなどの種々の回転体を対象の物体としてもよい。また、対象は回転体に限らず、流体に接触することが想定される動体および静止体を含む種々の物体を対象としてもよい。
また、上記の各実施形態では、流体が空気である場合の熱流体シミュレーション及び風洞試験について説明したが、流体は水であってもよいし、種々の気体及び液体であってもよい。また熱流体シミュレーションにおいて、非物理的な種々の流体を設定してもよい。
また、上記の各実施形態では、タイヤ1のタイヤサイド部10に設けられる突起11を評価対象の立体構造としたが、タイヤサイド部に限らず、例えばトレッド部、ビード部などタイヤ上で任意の場所に設けられる種々の立体構造を評価対象としてもよい。
また、上記の各実施形態では、実際のタイヤ形状を簡略化したタイヤモデルを用いているが、より実際のタイヤ形状に近い形状のタイヤモデルを用いてもよい。また、タイヤ内部の詳細な構造、例えば部位によるゴム物性の違いや、繊維材料等をより詳細に再現してもよい。また、熱源の与え方については、パッド領域に限らず、パッド領域以外の発熱が想定される複数の部位に設定してもよい。また、熱源は部材内に一様に与えるだけでなく、部材内で任意に分布させてもよい。