本発明の一形態は、セルロース繊維を含み、かつ培養面の算術平均高さ(Sa)が210nm未満である、細胞培養用基材である。本発明の一形態に係る細胞培養用基材によれば、スフェロイドを選択的に形成することができる。
本明細書において、細胞培養用基材を、単に「本発明の基材」または「基材」とも称する。また、算術平均高さ(Sa)を、単に「表面粗さ」または「Sa」とも称する。
付着性細胞をin vitroで培養するのに従来一般的に用いられている基材はプラズマ処理ポリスチレンである。しかし、このようなプラズマ処理ポリスチレンを使用した場合には、付着性細胞は基材に1層の状態で付着して増殖する(2次元培養)。2次元培養では細胞の増殖は良好であるが、細胞の様々な機能が低下し、生体内の機能をin vitroで再現できない問題があった。本問題点を解決するために、近年、細胞の凝集体(スフェロイド)を形成して培養することで、細胞の機能低下を抑制する方法が検討されている。特表2013−541956号公報(米国特許出願公開第2013/330379号明細書、米国特許出願公開第2013/344036号明細書、米国特許出願公開第2014/010790号明細書、米国特許第9631177号明細書に対応)では、組成物を膜の形態にする場合には、CNF水分散液を真空濾過することによって、または濾過膜を重りの下で乾燥することによって、不透明な膜を調製している(段落「0071」)。このような方法によって得られた膜は、真空濾過時に使用される濾過膜を介するため、表面が非常に粗く(Saが210nm以上に)、かつ細胞観察が困難な不透明な膜となり、明瞭な細胞観察が必要となるin vitro試験等での利用は困難となる。また、このようなCNF膜上で細胞を培養すると、下記比較例で示されるように、スフェロイドに加えて、2次元的に生育する(伸展した)細胞が混在する、またはスフェロイドが形成されず、細胞が平面的に広がって、2次元的な培養になる。事実、特表2013−541956号公報(米国特許出願公開第2013/330379号明細書、米国特許出願公開第2013/344036号明細書、米国特許出願公開第2014/010790号明細書、米国特許第9631177号明細書に対応)の実施例では、ヒドロゲルは3次元培養に使用されているが、CNF膜は2次元培養にのみ使用されている(特に段落「0100」の実施例5参照)。
これに対して、本発明に係る、特定の表面粗さを有する、セルロース繊維を含む細胞培養用基材(例えば、セルロース繊維膜)の培養面上で細胞を培養することにより、スフェロイドを選択的に形成でき、さらに、スフェロイドを選択的にかつ(浮遊することなく)基材上に付着した状態で形成できる。そのメカニズムは依然として明確ではないが、以下のように推測される。すなわち、本発明の基材は、培養面が特定の表面粗さ(0nm<Sa<210nm)を有するセルロース繊維膜である。このような適度な凹凸を有するセルロース繊維膜は表面が適度な親水性および疎水性のバランスを有する。このため、上記膜(培養面)上で細胞を培養すると、細胞は培養面の凹凸により適度な強度で基材に接着する。このため、細胞は、平面的によりも3次元的に増殖する。ゆえに、本発明の基材を用いることにより、スフェロイドを選択的に形成できる。一方、培養面の表面粗さ(Sa)が210nm以上であると、粗さ(凹凸)が大きくなりすぎて、細胞の基材への接着が強いため、細胞が平面的に広がって増殖しやすくなるか、または播種した細胞が強固に基材に接着するため、細胞が遊走できず細胞凝集体を形成できなくなる。ゆえに、このような基材で培養すると、3次元培養細胞のみを取得することは困難となる。
したがって、本発明の基材によれば、前処理(例えば、タンパク質付着を抑制する成分のコートや細胞付着を促進または抑制するようなタンパク質のコート)を必要とせずに、基材表面(培養面)に直接細胞を培養して、スフェロイドを選択的に形成できる。また、細胞は適度な接着力で基材の培養面に浮遊することなく付着するため、スフェロイドの大きさを制御できる。このため、スフェロイド中心部の壊死、ゆえに細胞の機能低下を抑制・防止できる。したがって、本発明の基材を用いると、機能の高い細胞(スフェロイド)が得られる。ゆえに、本発明の基材を用いて培養される細胞(スフェロイド)は、再生医療用途や医薬品開発時の薬効試験や毒性試験等のin vitro試験にも好適に使用できる。
加えて、上述したように、本発明の基材を用いて培養した細胞は、基材に適度に接着する。このため、細胞培養中に培地交換する際でも、細胞が培地と一緒に除去されることが少なくまたはなく、ゆえに細胞ロスを低減でき、例えば1週間以上の長期間の培養が可能となる。また、細胞の凝集を抑制するため、均一な大きさの細胞(スフェロイド)を形成でき、細胞の機能を高く維持できる。また、特にヘーズが40%以下である基材で細胞を培養すると、細胞観察がし易くかつ、J. Biomater. Sci. Polymer Edn, Vol. 17, No. 8, pp. 859−873 (2006)に記載のような意図的な凹凸加工を施さなくとも膜上でスフェロイド形成が可能となるため、様々な培養に伴う細胞の形態変化等を明瞭に観察することが可能となる。これにより、医薬品の薬効試験や毒性試験を実施する際に医薬品による細胞増殖への影響を画像解析によるスフェロイドの大きさの変化で測定するようなin vitro試験でも好適に利用することができる。ゆえに、このような基材を用いることによって、スフェロイドを選択的に形成でき、かつin vitro試験で画像解析等を実施する際に必要となる細胞観察性を向上できる(より容易に細胞を観察できる)。したがって、本発明の基材を用いて培養される細胞(スフェロイド)は、再生医療用途や医薬品開発時の薬効試験や毒性試験等のin vitro試験により好適に使用できる。
さらに、特表2013−541956号公報(米国特許出願公開第2013/330379号明細書、米国特許出願公開第2013/344036号明細書、米国特許出願公開第2014/010790号明細書、米国特許第9631177号明細書に対応)に記載のヒドロゲルを使用する場合には、水を含んだ状態で輸送することになるが、輸送工程で水が培養容器の壁面や蓋等に付着し、微生物混入のリスクが高くなる。これに対して、本発明の基材は、乾燥状態で輸送できるため微生物混入のリスクを低減でき、かつγ線滅菌等の滅菌処理がし易い利点もある。また、本発明の基材はタンパク質のコーティング等の前処理無でも利用できる(スフェロイドを選択的に形成できる)ため、試験実施に掛かる時間や手間を削減できる。
また、培養細胞によっては3次元化しやすい細胞(HepG2、ラット初代肝細胞等)と3次元化しにくい細胞(MCF−7等)とが存在することが知られているが、本発明の基材を利用することで、3次元化し易い細胞はもちろん、3次元化しにくい細胞でも基材を細胞毎に変更することなく、容易に3次元化培養細胞を取得することが可能である。さらに、細胞毒性の低いセルロースを利用し、かつ異種タンパク質を利用することなくスフェロイド形成が可能なため、安全で高機能なスフェロイドが取得でき、再生医療用途でも好適に使用できる。
なお、以上のメカニズムは推測であり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で行われる。
本発明の細胞培養用基材は、培養面の算術平均高さ(Sa)が210nm未満である。ここで、培養面のSaが210nm以上であると、表面粗さ(凹凸)が大きくなりすぎて、細胞が平面的に広がって増殖しやすくなるか、または播種した細胞が強固に基材に接着するため、細胞が遊走できず細胞凝集体を形成できなくなる。ゆえに、3次元培養細胞のみを選択的に取得することは困難となる。スフェロイド形成の選択性のさらなる向上効果を考慮すると、培養面の算術平均高さ(Sa)は、好ましくは200nm未満であり、より好ましくは150nm以下であり、特に好ましくは130nm未満である。なお、培養面の算術平均高さ(Sa)の下限は、特に制限されないが、0nm超であるが、好ましくは5nm以上であり、より好ましくは10nm以上であり、さらに好ましくは15nm超であり、さらにより好ましくは60nm超であり、特に好ましくは90nm以上である。このようなSaの培養面で培養することにより、スフェロイドをさらに選択的に形成できると共に、基材の透明性をさらに向上(特にヘーズをさらに低減)できるため、細胞の状態を目視によりより容易に観察できる。なお、本発明では、基材の少なくとも培養面となる面の算術平均高さ(Sa)が210nm未満であれば、他方の面のSaは特に限定されず、210nm以上であってもよい。すなわち、本発明は、基材の一方の面(培養面)の算術平均高さ(Sa)が210nm未満でありかつ他方の面の算術平均高さ(Sa)が210nm以上である形態、ならびに基材の双方の面の算術平均高さ(Sa)が210nm未満である形態の双方を包含する。さらに、Saは実質的に細胞が付着する箇所の値であり、細胞が付着しない箇所のSaはどんな値でも良い。すなわち、本発明の基材は、培養面のうち少なくとも実質的に細胞が付着する面のSaが210nm未満であればよい。
本明細書において、「算術平均高さ(Sa)」は、JIS B0601(2001年)で定義されている中心平均粗さ(Ra)を面に拡張したパラメーターである。本明細書において、「算術平均高さ(Sa)」は、サンプル(基材または支持体)の所定の面の235.3μm×470.6μmの範囲について、共焦点レーザー顕微鏡(菱化システム社製、商品名:Vert Scan 2.0)によって測定した値の平均値を採用する。
上述したように、細胞培養用基材の培養面は、適度なバランスで親水性および疎水性(親疎水性)を発揮することが好ましい。これにより、基材上でのスフェロイド形成をより促進できる。ここで、培養面の親疎水性は、静的水接触角によって定義される。具体的には、細胞培養用基材の培養面の静的水接触角は、30°以上であり、好ましくは40°以上であり、より好ましくは45°超である。このような接触角を有する培養面を備える基材を用いることにより、基材上でのスフェロイド形成がより一層促進される。静的水接触角の上限は、特に制限されないが、例えば70°未満、好ましくは65°未満、より好ましくは60°未満、さらにより好ましくは55°未満である。なお、上記静的水接触角は、下記実施例に記載される方法で測定される値である。
また、細胞培養用基材は、透明であることが好ましい。これにより、培養中の細胞を目視により容易に観察できる。ここで、透明性は、全光線透過率およびヘーズ(濁度)によって評価できる。例えば、全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上(上限:100%)である。また、ヘーズ(濁度)は、40%以下であることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、細胞培養用基材のヘーズが40%以下である。細胞培養用基材のヘーズは、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは16%未満であり、さらにより好ましくは12%以下であり、特に好ましくは10%未満である。このような全光線透過率および/またはヘーズ(濁度)であれば、培養中の細胞をより容易に目視できる。なお、細胞培養用基材のヘーズは低いほど好ましいため、下限は特に限定されないが、通常、0.1%以上であり、1%以上であれば十分である。なお、上記全光線透過率またはヘーズは、下記実施例に記載される方法で測定される値である。
本発明において、細胞培養用基材は、セルロース繊維を含む膜であり、好ましくはセルロース繊維のみから構成される膜である。セルロース繊維は高い安全性を有しているため、例えば、体内に埋め込まれても安全である。また、セルロース繊維上で培養した細胞を体内に移植する際に、仮に微量のセルロース繊維が含まれていたとしても安全性を確保することができる。本発明の細胞培養基材を用いて培養することにより、細胞は基材と共に体内に適用できる。ここで、セルロース繊維の平均径(直径)は、特に制限されないが、例えば、2〜20nmである。このようなセルロース繊維を用いて作製された基材は、透明性に優れ、ヘーズ(Haze)も低いため、培養中の細胞の視認性をより向上できる。本明細書において、セルロース繊維の平均径(直径)及び平均長さは、下記方法に従って測定された値を採用する。
(セルロース繊維の平均径(直径)及び平均長さの測定方法)
1.0重量%のセルロース繊維を含む水溶液をアクリル板上に膜厚(乾燥膜厚)が20〜50nmになるように塗布し、乾燥して、塗膜を作製する。次に、得られた塗膜について、2000倍の倍率で電子顕微鏡(SEM)画像による観察を行い、横:1280pixel、縦:800pixelの視野に存在するセルロース繊維について、直径及び長さを測り、これらの平均を求め、得られた値を、それぞれ、セルロース繊維の平均径(直径)及び平均長さとする。なお、セルロース繊維の断面が不定形である場合には、最大径を上記直径とする。なお、本明細書において、セルロース繊維とは、アスペクト比(平均長さ/平均径(平均直径))が1を超える長尺状のセルロースをいう。
基材の透明性を考慮すると、直径が1μm以上の太いセルロース繊維の含有量が少ないことが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、(基材に対する)1μm以上の直径を有するセルロース繊維の含有率が10%未満である。より好ましくは、直径が1μm以上のセルロース繊維の含有率は、より好ましくは5%以下、特に好ましくは1%未満(下限:0%)である。太いセルロース繊維の含有量が上記範囲であれば、基材は透明性にさらに優れ(特に基材のヘーズを有意に低減でき)、培養中の細胞をより容易に目視でき、例えば、医薬品の薬効試験や毒性試験を実施する際に、医薬品による細胞増殖への影響を画像解析によるスフェロイドの大きさの変化で測定するようなin vitro試験で好適に利用することができる。本明細書において、直径が1μm以上のセルロース繊維の含有率は、下記方法に従って測定された値を採用する。
(直径が1μm以上のセルロース繊維の含有率の測定方法)
各基材(大きさ:1.5cm×1.5cm、面積:Y(cm2))を走査型電子顕微鏡で撮像(倍率:2000倍)し、得られた画像を画像解析ソフト(WinROOF2015(三谷商事株式会社))を用い、下記条件で太さ(直径)が1μm以上の繊維が占める面積(X(cm2))を求める。当該面積(X(cm2))を基材面積(Y(cm2))で除して、基材面積に占める太さ(直径)が1μm以上の繊維の面積の割合[=(X/Y)×100(%)]を算出し、これを直径が1μm以上のセルロース繊維の含有率(%)とする。なお、本明細書では、直径が1μm以上のセルロース繊維の含有率(%)を「太繊維含有率(%)」とも称する。また、太さ(直径)が1μm以上の繊維の面積を「太繊維が占める面積(cm2)」とも称する。なお、繊維(セルロース繊維)の太さが均一でない場合には、繊維全長の60%以上にわたって太さ(直径)が1μm以上では、その繊維は太さ(直径)が1μm以上の繊維であるとみなす。また、繊維の断面が不定形である場合には、最大径を「太さ(直径)」とみなす。
細胞培養用基材の厚みは、特に制限されないが、細胞培養用基材の厚み(乾燥膜厚)は、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜60μmである。
上述したように、本発明の基材は、少なくとも培養面となる面が特定の表面粗さ(Sa)を有することを特徴とする。このような面の形成方法は、特に制限されないが、セルロース繊維分散液を塗布する支持体の塗布面の表面粗さによって制御することが好ましい。すなわち、セルロースを含む塗布液を支持体に塗布・乾燥して塗膜を形成すると、支持体面側の塗膜表面は、支持体の塗布面の表面粗さの影響を受ける。このため、本発明者らは、支持体の表面粗さを適切に調節することによって、簡便に本発明の基材を得ることができるのではないかと考えた。上記推測に基づいて、さらに鋭意検討を行った結果、セルロース繊維を塗布する側の面(塗布面)の算術平均高さ(Sa)が30nm未満である支持体を使用することにより、本発明の基材を簡便に得ることができることを見出した。したがって、本発明は、培養面の算術平均高さ(Sa)が30nm未満である支持体上にセルロース繊維を含む塗布液を塗布することを有する、細胞培養用基材の製造方法をも提供する。
以下、上記好ましい細胞培養用基材の製造方法について説明する。なお、下記説明は、本発明の細胞培養用基材が他の方法によって製造されることを排除するものではない。
まず、セルロース繊維を含む塗布液(以下、単に「塗布液」とも称する)を調製する。
ここで、セルロース繊維の製造方法は特に制限されず、セルロース(セルロース繊維原料)を機械解繊する方法などが使用できる。なお、セルロース繊維の製造には、例えば、特開2016−87877号公報、特開2015−218299号公報、特開2015−140403号公報等に記載の方法などの公知の方法を同様にしてまたは適宜改変して使用できる。以下、セルロース繊維の製造方法の好ましい形態を説明するが、本発明は下記形態に限定されない。
セルロース(セルロース繊維原料)は、特に制限されず、植物由来または細菌由来のセルロースであってもよいが、入手容易性、コスト等の観点から、植物由来のセルロースをセルロース繊維原料として使用することが好ましい。例えば、カラマツ、スギ、アブラヤシ、ヒノキ等から得られる各種木材;パルプ類;新聞紙、ダンボール、雑誌、上質紙などの紙類;籾殻、パーム殻、ココナッツ殻などの植物殻類をセルロース繊維原料として使用してもよい。ここで、パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプから選ばれる。ここで、木材パルプとしては、以下に制限されないが、広葉樹漂白クラフトパルプ、広葉樹未漂白クラフトパルプ、針葉樹漂白クラフトパルプ、針葉樹未漂白クラフトパルプ、亜硫酸木材パルプ、ソーダパルプ、未晒しクラフトパルプ、酸素漂白クラフトパルプ、加水分解クラフトパルプ等の化学修飾パルプ等;セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ;砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプなどが挙げられる。また、非木材パルプとしては、以下に制限されないが、コットンリンター、コットンリント等の綿系パルプ(綿セルロース)、麻(麻セルロース)、麦わら(麦わらセルロース)、バガス(サトウキビの搾りかす)、空果房(EFB)、稲わら、とうもろこし茎等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロースなどが挙げられる。脱墨パルプとしては、以下に制限されないが、古紙を原料とする脱墨パルプなどが挙げられる。上記セルロース繊維原料は、1種を単独で使用しても、または2種以上の混合物の形態で使用してもよい。これらのうち、入手容易性、繊維径の制御しやすさ、繊維微細化(解繊)等の観点から、セルロースを含む木材パルプ、化学修飾パルプが好ましい。または、セルロース繊維原料は市販品を使用してよい。
セルロース繊維原料は、機械解繊前に予め物理的または化学的処理されてもよい。具体的には、脱脂処理、脱リグニン処理(ホロセルロース化)、アルカリ処理、酸化処理などが挙げられる。上記処理は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ここで、脱脂処理方法は、特に制限されず、公知の方法が使用できる。具体的には、セルロース繊維原料を脱脂用溶液中に浸漬することによって行われ得る。ここで、脱脂用溶液の調製に使用される溶媒は、特に制限されず、使用するセルロース繊維原料の種類によって適宜選択すればよい。例えば、水、アセトン、アルコールなどが挙げられる。上記溶媒は、1種を単独で使用してもまたは2種以上の混合溶液の形態で使用してもよい。また、脱脂条件は、特に制限されず、使用するセルロース繊維原料の種類によって適宜選択すればよい。例えば、脱脂処理温度は、通常、10〜100℃、好ましくは15〜50℃である。また、脱脂処理時間は、通常、1〜30時間、好ましくは15〜20時間である。また、上記脱脂処理は、撹拌下で行われてもよい。
脱リグニン処理(ホロセルロース化)方法は、特に制限されず、公知の方法が使用できる。具体的には、セルロース繊維原料を、酸(例えば、硫酸、塩酸、酢酸、無水酢酸)および酸化剤(漂白剤)(例えば、亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素)を含む脱リグニン用溶液に添加し、これを加熱する方法が好ましく使用できる。ここで、加熱条件は、特に制限されず、使用するセルロース繊維原料の種類、ならびに酸や酸化剤の種類によって適宜選択すればよい。例えば、加熱温度は、通常、50〜120℃、好ましくは60〜100℃である。また、加熱時間は、通常、0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間である。
アルカリ処理方法は、特に制限されず、公知の方法が使用できる。具体的には、セルロース繊維原料をアルカリ溶液中に浸漬することによって行われ得る。ここで、アルカリ溶液の調製に使用されるアルカリは、特に制限されず、無機物でも有機物でもよい。例えば、無機物(無機アルカリ)としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸3ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等の、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の、水酸化物、炭酸塩およびリン酸塩などが挙げられる。また、有機物(有機アルカリ)としては、例えば、アンモニア;ヒドラジン、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、シクロヘキシルアミン、アニリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム等の、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物、ならびにこれらの水酸化物、炭酸塩およびリン酸塩などが挙げられる。また、アルカリ溶液の調製に使用される溶媒は、アルカリを溶解できるものであれば特に限定されず、水やメタノール、エタノール等の低級アルコールを用いることができる。好ましくは、水を含むことが好ましい、すなわち、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液をアルカリ溶液として好ましく使用できる。ここで、アルカリ溶液におけるアルカリ濃度は、特に制限されないが、例えば、1〜15重量%、好ましくは3〜7重量%である。また、アルカリ処理条件は、特に制限されず、使用するセルロース原料やアルカリの種類によって適宜選択すればよい。例えば、アルカリ処理温度は、通常、10〜50℃、好ましくは15〜40℃である。また、アルカリ処理時間は、通常、0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間である。また、上記アルカリ処理は、撹拌下で行われてもよい。なお、アルカリ処理を行う場合には、アルカリ処理後のセルロースを洗浄して余分なアルカリを除去してもよい。ここで、洗浄に使用できる洗浄液としては、特に制限されないが、上記アルカリ溶液に使用したのと同様の溶媒を使用できる。
酸化処理方法は、特に制限されず、公知の方法が使用できる。具体的には、N−オキシル化合物を酸化触媒として用いる方法などがある。これにより、セルロース表面を選択的に酸化でき、また、セルロースを容易に微細化することができる。また、上記酸化反応は水系で、比較的緩やかな条件(室温付近で常圧で)行うことができる。また、木材中のセルロースに対しても、酸化反応は、結晶内部より結晶表面で選択的に進行し、セルロース分子鎖が持つアルコール性1級炭素を選択的にカルボキシル基に変換できる。このため、次工程の機械解繊によって、セルロース繊維を水系溶媒中で一本ずつ分散できる。ゆえに、本形態によって得られるセルロース繊維の水分散液は高い透明性を有する。このため、基材の透明性のさらなる向上効果の観点からは、酸化処理(カルボキシル化)セルロースをセルロース繊維原料として使用することが好ましい。ここで、N−オキシル化合物としては、特に制限されず、セルロースの酸化に使用される公知の触媒が使用できる。具体的には、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(TEMPO)、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−カルボキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ホスホノオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルなどが挙げられる。これらのうち、セルロースの酸化効率の観点から、TEMPO、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルが好ましく、TEMPOがより好ましい。また、N−オキシル化合物の使用量は、セルロース酸化を進行できる量であれば、特に限定されない。例えば、触媒の使用量は、セルロース繊維原料に対して、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.5〜3重量%程度である。
酸化処理は、酸化剤の共存下で行ってもよい。酸化剤を併用することによって、カルボキシ基の導入効率をさらに向上できる。また、温和な条件で酸化反応できるため、セルロースの結晶構造を維持しやすい。ここで、酸化剤としては、特に制限されないが、例えば、ハロゲン(塩素、臭素、ヨウ素など)、次亜ハロゲン酸またはそれらの塩(次亜塩素酸またはその塩、次亜臭素酸またはその塩、次亜ヨウ素酸またはその塩など)、亜ハロゲン酸またはそれらの塩(亜塩素酸またはその塩、亜臭素酸またはその塩、亜ヨウ素酸またはその塩など)、過ハロゲン酸またはそれらの塩(過塩素酸またはその塩、過ヨウ素酸またはその塩など)、ハロゲン酸化物(ClO、ClO2、Cl2O6、BrO2、Br3O7など)、窒素酸化物(NO、NO2、N2O2など)、過酸化物(過酸化水素、過酢酸、過硫酸、過安息香酸など)などが挙げられる。セルロースの酸化効率などの観点から、次亜ハロゲン酸および次亜ハロゲン酸塩が好ましく、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)がより好ましい。上記酸化剤は、単独で使用されてもまたは2種以上を併用してもよい。また、酸化剤は、そのままの形態で添加されても、または適当な溶媒(例えば、水)に溶解した溶液形態で添加されてもよい。酸化剤の使用量は、酸化反応を促進できる量であれば特に制限されないが、例えば、セルロース繊維原料1gに対して、好ましくは1〜30ミリモル、より好ましくは5〜20ミリモル程度である。
また、酸化処理を上記酸化剤の存在下で行う場合には、酸化処理をさらに臭化物および/またはヨウ化物の共存下で行ってもよい。これにより、酸化反応をさらに円滑に進行できる。ここで、臭化物としては、以下に制限されないが、臭化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化リチウムなどが挙げられる。同様にして、ヨウ化物としては、以下に制限されないが、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウムなどが挙げられる。これらうち、コストや安定性の観点から、臭化ナトリウム(NaBr)が好ましい。上記臭化物およびヨウ化物は、それぞれ、単独で使用されてもまたは2種以上を併用してもよい。また、臭化物およびヨウ化物を併用してもよい。臭化物および/またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる量であれば特に制限されないが、例えば、セルロース繊維原料に対して、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%程度である。
酸化処理条件は、特に制限されず、使用するセルロース繊維原料ならびに酸化触媒および使用する場合には酸化剤や(使用する場合には)臭化物/ヨウ化物の種類によって適宜選択すればよい。例えば、酸化処理温度は、通常、10〜50℃、好ましくは15〜40℃である。また、酸化処理時間は、通常、0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間である。また、上記酸化処理は、撹拌下で行われてもよい。
なお、上記酸化後、必要であれば、還元反応を行ってもよい。ここで、還元剤としては、特に制限されず、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)等の公知の還元剤が使用できる。ここで、還元剤の使用量は、所望の程度に還元を進行できる量であれば特に制限されないが、例えば、セルロース繊維原料の初期仕込み量に対して、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは5〜20重量%程度である。還元反応条件は、特に制限されず、使用するセルロース繊維原料ならびに還元剤の種類によって適宜選択すればよい。例えば、還元反応温度は、通常、10〜50℃、好ましくは15〜40℃である。また、酸化処理時間は、通常、0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間である。また、上記還元処理は、撹拌下で行われてもよい。
上記反応により、カルボキシレート含有量が0.1〜3.0mmol/g、好ましくは0.2〜2.0mmol/gの酸化セルロースが得られる。このようなカルボキシレート含有量の酸化セルロースは、セルロース間の静電反発により、微細化して均一に分散できる。
上記のようにして得られたセルロースを機械解繊する。これにより、セルロースがさらに微細化して、セルロース繊維が得られる。ここで、セルロースの機械解繊(微細化)方法としては、特に制限されず、公知の方法が使用できる。具体的には、セルロースの水性分散液を解繊処理装置を用いて微細化(解繊)処理する方法が使用できる。ここで、水性分散液を得るために使用される水性媒体としては、水、低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)などが挙げられる。上記水性媒体は、単独で使用されてもまたは2種以上の混合液の形態で使用されてもよい。これらのうち、水が好ましい。ここで、水性分散液におけるセルロース濃度は、特に制限されないが、機械解繊(微細化)効率などの観点から、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.3〜10重量%程度である。必要に応じて、セルロースの分散性向上のために、分散液のpHを調整してもよい。次に、この水性分散液に機械解繊処理を施して、セルロースを微細化する。ここで、機械解繊処理としては、以下に制限されないが、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナーなどの機械的処理などが挙げられる。また、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーター等、湿式粉砕する装置等を適宜使用することができる。このような機械解繊処理を行うことにより、分散液中のセルロースが微細化され、セルロース繊維分散液を得ることができる。
このようにして得られたセルロース繊維分散液をそのままセルロース繊維を含む塗布液(塗布液)として使用してもよい。または、上記のようにして得られたセルロース繊維分散液からセルロース繊維を分離した後、適当な溶媒に分散させて、塗布液としてもよい。後者の場合に使用できる溶媒としては、特に制限されないが、細胞培養に悪影響を及ぼさないものであることが好ましい。上記点を考慮すると、例えば、水、低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)などが挙げられる。上記溶媒は、単独で使用されてもまたは2種以上の混合液の形態で使用されてもよい。これらのうち、水が好ましい。ここで、塗布液におけるセルロース繊維濃度は、特に制限されないが、塗布しやすさ、目視容易性などの観点から、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.5〜10重量%程度である。当該濃度範囲となるよう、上記で得られたセルロース繊維分散液を濃縮してもよい。必要に応じて、セルロースの分散性向上のために、分散液のpHを調整してもよい。
塗布液は、セルロース繊維のみを含んでも(即ち、基材がセルロース繊維のみから構成されても)、または他の成分を含んでも(即ち、基材がセルロース繊維に加えて他の成分を含んでも)よい。後者の場合の他の成分としては、特に制限されないが、細胞培養に使用される成分(例えば、血清、各種成長因子、分化誘導因子、抗生物質、ホルモン、アミノ酸、糖、塩類等など)などが挙げられる。また、塗布液が他の成分を含む場合の、他の成分の添加量は、培養細胞に悪影響を及ぼさない量であれば特に制限されないが、例えば、セルロース繊維に対して、0.01〜100重量%である。
次に、上記したようにして調製された塗布液を、支持体のSaが30nm未満である面(培養面または塗布面)に塗布する。ここで、算術平均高さ(Sa)が30nm以上の支持体面にセルロース繊維を含む塗布液を塗布すると、得られる基材の支持体側の算術平均高さ(Sa)が210nm以上となってしまう(下記比較例1参照)。支持体のセルロース繊維塗布面の算術平均高さ(Sa)は、スフェロイドをより選択的に形成できる基材を得る観点から、5nm以上であることが好ましい。中でも、さらに好ましくは5〜25nm、さらにより好ましくは8〜20nm、特に好ましくは10〜20nmである。このようなSaの面を有する支持体を用いることによって、基材の培養面のSaを上記したような好ましい範囲に制御できる。なお、支持体の少なくとも塗布面(塗布液を塗布する綿)の算術平均高さ(Sa)が30nm未満であれば、他方の面のSaは特に限定されず、30nm以上であってもよい。すなわち、本発明は、支持体の一方の面(塗布面)の算術平均高さ(Sa)が30nm未満でありかつ他方の面の算術平均高さ(Sa)が30nm以上である形態、ならびに支持体の双方の面の算術平均高さ(Sa)が30nm未満である形態の双方を包含する。
支持体の材質は、Saが30nm未満となる面を形成できるものであれば特に制限されない。具体的には、無機ガラス;カーボン;シリコン等の金属;ポリエチレン、ポリプロピレン、環状オレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;エポキシ樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ビニルエーテル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアリールエーテル、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン、フェノール樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂(含フッ素ポリイミド樹脂)、フッ素樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリジメチルシロキサン等が例示できる。支持体の厚みは特に制限されないが、通常、1〜10mm、好ましくは1.5mm以上5mm未満である。なお、支持体は、所定のSa値の表面粗さを有するものを購入しても、または支持体表面のSa値が所定の値になるように、研磨機などによって支持体表面を研磨してもよい。
塗布方法としては、特に制限されないが、ナチュラルコーター、ナイフベルトコーター、フローティングナイフ、ロールコート、エアーナイフコート、ナイフオーバーロール、ナイフオンブランケット、スプレー、ディップ、キスロール、スクイーズロール、リバースロール、エアブレード、カーテンフローコーター、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、スピンコーター、アプリケーター、ベーカーアプリケーターおよびグラビアコーター、スクリーン印刷機等の装置を用いる種々の塗布方法が挙げられる。塗布は、数回から十数回繰り返し行ってもよい。また、塗布液の支持体への塗布量は、特に制限されないが、上記したような基材の厚みとなるような量であることが好ましい。また、上述したように、基材の少なくとも培養面となる面の算術平均高さ(Sa)が210nm未満であれば、他方の面のSaは特に限定されず、210nm以上であってもよい。このため、算術平均高さ(Sa)が210nm以上であるセルロース繊維製フィルムを、支持体上の塗布液の上にさらに積層してもよい。
塗布後の乾燥条件も特に制限されず、主に溶媒の沸点等を考慮して適宜選択することができる。例えば、乾燥温度は、好ましくは20〜100℃、より好ましくは40〜70℃である。また、乾燥時間は、好ましくは10〜30時間、好ましくは15〜20時間である。
このような方法に形成された塗膜を支持体から剥離することによって、本発明の細胞培養用基材が得られる。
上記した方法において、支持体の特定の粗さ(Sa)を有する面上に塗布液を塗布・乾燥して基材を作製する場合には、基材の一方の面(即ち、支持体への塗布面)のみが本発明で規定される表面粗さ(Sa)となる。一方、支持体の特定の粗さ(Sa)を有する面上に塗布液を塗布した後、(支持体が設置されていない)塗膜面に特定の粗さ(Sa)を有する支持体を載置することによって、両面が本発明で規定される表面粗さ(Sa)を有する基材を作製することができる。
上述したように、本発明の細胞培養用基材は、培養面、特に実質的に細胞が付着する部分の算術平均高さ(Sa)が210nm未満であるセルロース繊維を含む膜である。本発明の基材によれば、前処理(例えば、タンパク質付着を抑制する成分のコート)を必要とせずに、基材表面(培養面)に直接スフェロイドを選択的にかつ基材に付着した状態で形成できる。このため、本発明の基材を用いると、機能性の高い細胞塊(スフェロイド)が得られる。
本発明の細胞培養基材は、好ましくは培養に使用する前に滅菌処理を行ってから培養に使用する。細胞培養用器具類の滅菌処理としては、オートクレーブ滅菌、乾熱滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、ガンマ線滅菌、電子線滅菌などの公知の滅菌方法が利用可能である。これらのうち、耐熱耐圧性の低い器具類の滅菌にも適用でき、かつエチレンオキサイドガスのような残留ガスの問題も無い点で、ガンマ線滅菌が好ましい。
基材へのタンパク質の付着量と細胞の付着・形態は密接に関連していることが知られており、本発明の細胞培養用基材においても、タンパク質の基材への吸着量をコントロールすることでより好適に3次元培養細胞を取得することができる。具体的には、基材のアルブミンの吸着量が1000ng/cm2以上であることが好ましい。なお、アルブミンの吸着量の上限は特に制限されないが、スフェロイドの形成がより良好であるという観点から、好ましくは2000ng/cm2以下であることが好ましく、1500ng/cm2以下であることがより好ましい。上記アルブミンの吸着量に代えて、または、に加えて、基材のプロテオグリカンの吸着量が160ng/cm2以上であることが好ましい。プロテオグリカンの吸着量の上限は特に制限されないが、スフェロイド形成がより良好であるという観点から、好ましくは300ng/cm2以下であることが好ましく、200ng/cm2以下であることがより好ましい。なお、上記アルブミンの吸着量およびプロテオグリカンの吸着量は、下記実施例に記載される方法で測定される値である。
したがって、本発明の細胞培養用基材は培養容器に好適に使用できる。すなわち、本発明の一実施形態では、本発明の細胞培養用基材を有する培養容器が提供される。本発明の培養容器(細胞培養容器)は、本発明の基材上で細胞を培養する限り、本発明の細胞培養用基材と他の部材とが組み合わされて構成されていてもよいし、本発明の細胞培養用基材と他の部材とが一体化されて構成されていてもよいし、本発明の細胞培養用基材のみにより構成されていてもよい。本発明の細胞培養用基材がフィルム状等の柔軟な基材である場合は、剛性を有する適当な支持部材と組みあわせて形成してもよい。
図4に、本発明にかかる細胞培養容器の一実施形態を例示する。細胞培養容器は、図4(A)のように細胞培養用基材1からなるものでもよく、あるいは、図4(B)や(C)のように細胞培養用基材1と支持部材20とからなるものであってもよい。図4では、細胞培養容器を、開口した側から平面視したときの内郭形状及び外郭形状は、それぞれ例えば円、多角形(四角形、三角形等)などの任意の形状であることができる。支持部材20を構成する材料としては、例えば、無機ガラス;カーボン;シリコン等の金属;ポリエチレン、ポリプロピレン、環状オレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;エポキシ樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ビニルエーテル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアリールエーテル、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリールエーテルケトン、フェノール樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)等が例示できる。または、上記支持体を支持部材として使用してもよい。
本発明の細胞培養容器は、本発明の細胞培養用基材を備えていればよく、全体としてどのような形状であってもよい。例えば、シングル若しくはマルチウェルプレートなどの培養用のプレート、シャーレ、ディッシュ、フラスコ、バッグ等の各種容器の形状であることができる。本発明の細胞培養容器はまた、大量培養装置や潅流培養装置などの培養装置における細胞培養容器の形態であってもよい。
本発明の一実施形態では、本発明の細胞培養用基材の培養面上で細胞(接着性細胞)を培養することを有する、細胞の培養方法が提供される。上記の細胞培養用基材は、その表面粗さ(Sa)により、培養面上で細胞を培養することによりスフェロイドを選択的に形成することができる。また、細胞は適度な接着力で基材の培養面に付着するため、スフェロイドの大きさを制御できる。このため、中心部の壊死、ゆえに細胞の機能低下を抑制・防止できる。また、本発明の基材を用いて培養した細胞は基材に適度に接着するため、細胞培養中に培地交換する際でも、細胞が培地と一緒に除去されることが少なくまたはなく、ゆえに細胞ロスを低減できる。また、細胞の凝集を抑制するため、均一な大きさの細胞(スフェロイド)を形成でき、細胞の機能を高く維持できる。本発明のさらなる実施形態では、上記培養する工程において、細胞(特に接着性細胞)を3次元培養する、細胞培養方法が提供される。すなわち、本発明の一形態では、培養が3次元培養である。
本発明の細胞培養方法で培養される細胞の種類は特に限定されず、正常細胞、がん細胞、幹細胞、およびハイブリドーマ等の融合細胞等が使用でき、遺伝子導入等の人工的処理がされた細胞であってもよい。特に限定されないが、例えば、人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cells:iPS細胞)、胚性幹細胞(Embryonic stem cells:ES細胞)、間葉系幹細胞等の一般的に3次元培養を行うことが求められている細胞や、各種前駆細胞及び幹細胞を含む、脂肪細胞、肝細胞、腎細胞、膵臓細胞、乳腺細胞、内皮細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、筋芽細胞、心筋細胞、神経細胞、グリア細胞、樹状細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞、線維芽細胞、各種血液系細胞、網膜細胞、角膜由来細胞、生殖腺由来細胞、各種線細胞、その他間葉系前駆細胞、各種癌細胞等の細胞が挙げられる。これらの細胞が由来する生物種も特に制限されず、ヒトおよび非ヒト動物由来の各種細胞を用いることができる。細胞が由来する生物種としては、例えば、ヒト、アカゲザル、ミドリザル、カニクイザル、チンパンジー、タマリンおよびマーモセット等の霊長類、マウス、ラット、ハムスターおよびモルモット等の齧歯類、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ニワトリ、ウズラ、ミンク、ツパイ、ならびにゼブラフィッシュ等が例示できる。
細胞培養に用いる培地は、細胞に合わせて適宜選択すればよい。培地の種類は特に限定されないが、例えば、任意の細胞培養基本培地や分化培地、初代培養専用培地等を用いることができる。具体的には、イーグル最小必須培地(EMEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、α−MEM、グラスゴーMEM(GMEM)、IMDM、RPMI1640、ハムF−12、MCDB培地、ウィリアムス培地E、およびこれらの混合培地等が挙げられるが、これらには限定されず、細胞が増殖や分化に必要な成分が含まれる培地であれば利用可能である。さらに、血清、各種成長因子、分化誘導因子、抗生物質、ホルモン、アミノ酸、糖、塩類等を添加した培地を使用してもよい。培養温度も特に制限されないが、通常は25〜40℃程度で行う。
3次元培養により形成される組織としては、スフェロイドや、3次元細胞集合体が挙げられる。スフェロイド又は3次元細胞集合体は肝細胞のような単一な細胞で形成されたスフェロイド又は3次元細胞集合体でも、各種線維芽細胞や血管内皮細胞等と肝細胞のような2種以上の異なる細胞種が混在したスフェロイド又は3次元細胞集合体でも良い。使用できる細胞としては、上記の各種細胞が挙げられる。一実施形態では、上記の細胞培養用基材であって、前記細胞培養面にスフェロイドが選択的に接着した、細胞培養用基材が提供される。他の実施形態では、当該前記細胞培養面にスフェロイドが選択的に接着した細胞培養用基材を有する、細胞培養容器が提供される。
本発明の基材を利用することで、生体に近い機能をもった3次元培養細胞を取得することができる。理由は明らかではないが、下記[アルブミン定量]にて示すように、本発明の基材で培養される3次元培養細胞は、従来の培養プレートに比して高い機能を発揮でき、従来の培養基材で培養される3次元培養細胞とは異なる。したがって、本発明は、本発明の細胞培養用基材上に形成されてなる(培養される)3次元培養細胞をも提供する。3次元培養細胞(スフェロイド)は直径200μmを超える大きさになると、スフェロイド中央部まで培地中の栄養や酸素が行き渡らなくなり、中央部の細胞が壊死することが知られているが、本発明の基材を利用してスフェロイドを形成することで、直径200μm以下のスフェロイドを容易に多数取得することが可能となる。したがって、本発明の基材を利用してスフェロイドを形成することにより、培養細胞の機能を向上することができる。なお、本発明に係る細胞培養用基材上に形成されてなる3次元培養細胞の有用性は実施例に示す通りであるが、従来の培養基材で培養される3次元培養細胞との比較においてその構造や特性上の特徴点を特定することは非常に困難である。
本発明の細胞培養用基材を利用して取得した3次元培養細胞を用いて、医薬品開発時の薬効試験や毒性試験等を実施することも可能である。すなわち、本発明は、本発明の3次元培養細胞を用いることを有する、in vitroでの薬剤の試験方法をも提供する。具体的には、抗癌剤の開発において、ガン細胞に対する薬効試験をin vitroで実施することで、ハイスループットに有効な抗癌剤をスクリーニングすることが求められているが、本発明の基材を利用して取得したガン細胞(3次元培養細胞)は、生体内に近い抗癌剤への抵抗性を有するため、生体で実施した試験に近い抗癌剤の薬効データを取得することができる。また、本特許記載の細胞培養基材を利用して取得した3次元培養細胞を用いて、PLoS One. 2013 Oct 24;8(10)に記載のような抗癌剤の濃度を適時変更して、各抗癌剤濃度におけるガン細胞の生存率を測定するドーズレスポンスカーブのデータ取得も可能であり、より正確な抗癌剤の薬効データを得ることができる。生存率の測定方法には、公知の方法が利用可能であり、具体的には、MultiTox−Fluor Multiplex Cytotoxicity Assay kit (Promega社)のようなプロテアーゼ活性を指標として生存率を測定する方法や、RubyGlowTM Luminescent Cell Viability Assay Kit(コスモ・バイオ株式会社)のようなATPを指標とする方法、Cytotoxic Fluoro−test wako(和光純薬)を用いた蛍光試薬で核酸染色する方法、トリパンブルーを用いたトリパンブルー色素排除試験法等のような細胞の生存率を測定する方法が利用可能である。さらにcell3 imager(株式会社SCREENホールディングス)のようなイメージング装置を利用して抗癌剤添加後のスフェロイドの直径の変化を測定することで、抗癌剤による細胞増殖抑制効果を測定することも可能であり、MultiTox−Fluor Multiplex Cytotoxicity Assay kit (Promega社)のようなプロテアーゼ活性を指標として生存率を測定する他の細胞の生存率を測定する方法よりも、よりハイスループットに抗癌剤の薬効を評価できるためイメージング装置を利用した方法がより好適である。特に、本発明の基材が透明性に優れる場合には、イメージング装置等を利用した画像解析による細胞機能評価をより好適に(より簡便に)実施することが可能となる。
また、本発明の基材を利用することで、生体に近い機能をもった3次元培養細胞を取得することができるため、本明細書に記載の基材を利用して取得した3次元培養細胞を、例えば心疾患、肝臓疾患、加齢黄斑変性等の眼科領域の疾患等の様々な疾患に対する再生医療用途で利用することも可能である。本発明では細胞培養基材として生体に安全なセルロースを利用しているため、より安全な3次元培養細胞を取得することができ、再生医療用途での利用に好適である。すなわち、本発明は、本発明の3次元培養細胞を含む再生医療材料をも提供する。また、本発明は、本発明の3次元培養細胞を用いた心疾患、肝臓疾患または眼科領域の疾患の治療方法をも提供する。
さらに、本明細書に記載の基材および当該基材上に形成された3次元培養細胞の両者を患部に移植することも、セルロースという生体に安全な材を利用しているため、可能である。このように基材と基材上の3次元培養細胞の両者を患部に移植することで、細胞を基材から回収せずに患部に容易に移植することができ、かつ患部に細胞を長く留めさせることや、細胞の生存率を高く維持できる効果が期待できる。すなわち、本発明は、本発明の細胞培養用基材および前記基材上に形成されてなる3次元培養細胞を含む細胞送達材料をも提供する。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
実施例1
スギウッドチップ(40g)を、まず、室温(25℃)で一晩(15時間)、アセトンと水との混合液(900mL:100mL(アセトン:水))中で撹拌することによって脱脂処理を行った。次に、この脱脂したウッドチップを、90℃で2時間、無水酢酸と過酸化水素との混合液(500mL:500mL(無水酢酸:過酸化水素))中で加熱することによって脱リグニンして、ホロセルロースパルプを得た。最後に、このホロセルロースパルプを、20℃で2時間、5重量%水酸化カリウム(KOH)水溶液に浸漬して、アルカリ処理ホロセルロースパルプ懸濁液を得た。
このようにして得られたアルカリ処理ホロセルロースパルプ懸濁液(固形分0.5重量%)2000mLをball−collisionチャンバーを備えた高圧ウォータージェットシステム(Star Burst, HJP−25005 E、Sugino Machine Co., Ltd.)を用いて、高圧ホモジネート(機械解繊)して、ホモジネート化スラリーを得た。このホモジネート化スラリーを、245MPaの圧力で直径0.17mmの小ノズルから押し出した。上記押し出しを50回繰り返し、0.3重量%濃度の高圧ホモジネート化セルロース繊維懸濁液を取得し、塗布液1(セルロース繊維/水分散液)とした。
この塗布液1(高圧ホモジネート化セルロース繊維濃度:0.3重量%)を0.8重量%濃度になるまで濃縮し、塗布液1’を調製した。別途、支持体としてのガラス板1(松浪硝子工業社製、Sa値:11.23nm、厚さ:2mm)の一方の面に7cm×7cmの穴の開いた金属製の枠材を載せたものを用意した(これを塗布板1と以下称する)。
上記にて調製した塗布液1’を上記塗布板1の穴に40mL/穴の量で流し込んだ。ガラス棒で塗布液1’を穴の中全体に伸ばした。枠材を外し、50℃で一晩(15時間)オーブンで乾燥した後、塗膜を塗布板1から回収して、30μm厚の基材1を作製した。この基材1のガラス板1’面側のSa値を測定したところ、125.7nm(培養面)であった。
実施例2
実施例1において、ガラス板1の代わりに、アクリル板2(日本テストパネル社製、Sa値:8.30nm、厚さ:2mm)を支持体として使用する以外は、実施例1と同様にして、30μm厚の基材2を作製した。
このようにして得られた基材2のアクリル板2面側のSa値を測定したところ、86.5nm(培養面)であった。また、アクリル板2側面の二乗平均面粗さ(RMS値)を原子間力顕微鏡によって測定したところ、12.35nm(培養面)であった。
実施例3
実施例1において、ガラス板1の代わりに、アクリル板3(日本テストパネル社製、Sa値:8.17nm、厚さ:2mm)を支持体として使用する以外は、実施例1と同様にして、30μm厚の基材3を作製した。
このようにして得られた基材3のアクリル板3面側のSa値を測定したところ、66.5nm(培養面)であった。
比較例1
実施例1において、ガラス板1の代わりに、アクリル板4(日本テストパネル社製、Sa値:30.53nm、厚さ:2mm)を支持体として使用する以外は、実施例1と同様にして、30μm厚の比較基材4を作製した。
このようにして得られた比較基材4のアクリル板4面側のSa値を測定したところ、210.7nm(培養面)であった。
比較例2
湿潤状態の針葉樹溶解サルファイトパルプ(乾燥重量:20g)を、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(TEMPO)(0.16g)及びNaBr(1.0g)を含む蒸留水(1500mL)中に懸濁して、セルローススラリー1を調製した。このセルローススラリー1に、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)水溶液(4w/v%)を、撹拌しながら、10mmol/gセルロース濃度となるように、室温(25℃)で添加し、1M水酸化ナトリウムでpH10を維持しながら室温(25℃)で2時間撹拌して、TEMPO酸化セルロースを含むパルプを得た。
このようにして得られたTEMPO酸化セルロース懸濁液(固形分0.5重量%) 2000gを、ball−collisionチャンバーを備えた高圧ウォータージェットシステム(Star Burst, HJP−25005 E、Sugino Machine Co., Ltd.)を用いて、高圧ホモジネート(機械解繊)して、ホモジネート化スラリーを得た。このホモジネート化スラリーを、245MPaの圧力で直径0.17mmの小ノズルから押し出した。上記押し出しを20回繰り返し、0.3重量%濃度となる塗布液2(セルロース繊維/水分散液)を調製した。
この塗布液2(高圧ホモジネート化セルロース繊維濃度:0.3重量%)を0.8重量%濃度になるまで濃縮し、塗布液2’を調製した。
比較例1において、塗布液1’の代わりに、上記にて調製された塗布液2’を使用する以外は、比較例1と同様にして、30μm厚の比較基材5を作製した。
このようにして得られた比較基材5のアクリル板4(Sa値:30.53nm)面側のSa値を測定したところ、249.1nm(培養面)であった。
[性能評価]
上記実施例1〜3で得られた基材1〜3および比較例1〜2で得られた比較基材4〜5について、下記方法に従って、全光線透過率(%)、ヘーズ(Haze)(%)、静的水接触角(°)および細胞付着挙動を評価した。
1.全光線透過率(%)の測定
JIS規格K7361−1:1997に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、「HZ−V3」)を用いて全光線透過率を測定した。
2.ヘーズ(Haze)(%)の測定
JIS規格K7136:2000に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製「HZ−V3」)を用いてヘーズを測定した。
3.静的水接触角(°)の測定
自動接触角計(協和界面科学製:DM−500)を用いて、各基材のSa値を測定した面(培養面)上に水2μlの滴下した直後の液滴の付着角度を測定した(測定温度:25℃)。なお、下記表1では、「接触角」と記載する。
4.HepG2細胞付着挙動の評価
HepG2(ヒト肝癌細胞)はDSファーマバイオメディカル株式会社より購入した。終濃度10(v/v)%ウシ胎児血清(FBS)(DSファーマバイオメディカル株式会社製)、培地の1/100量(体積比)の100×MEM用非必須アミノ酸(DSファーマバイオメディカル株式会社製)、および終濃度 2mMグルタミン溶液(DSファーマバイオメディカル株式会社製)を添加したEMEM培地(DSファーマバイオメディカル株式会社製)(血清添加EMEM培地)を用いて、HepG2の培養を行った。HepG2を、2.0×104cells/cm2となるように、100mmセルカルチャーディッシュ(BD Falcon社)に播種し、37℃で5体積%CO2条件下で培養した。100mmセルカルチャーディッシュで70%コンフルエントの状態まで培養したHepG2を、0.25%トリプシン/50mM EDTA溶液で処理した後、上記と同様の血清添加EMEM培地を添加してトリプシン反応を停止させ、HepG2の浮遊細胞懸濁液を得た。0.4(w/v)% トリパンブルー溶液(和光純薬株式会社製)を用いてHepG2の浮遊細胞懸濁液中の生細胞数を測定し、3.13×104cells/cm2となるように、マルチウェルセルカルチャープレート 24well(BD Falcon社、ポリスチレン製)、NanoCulture(登録商標) Plate MSパターン/低接着/24ウェル(ORGANOGENIX社)、ならびに各基材に播種し、37℃で5体積%CO2条件下で培養した。培養4日目に培地全量を除去した後、上記と同様の血清添加EMEM培地1mLを添加して培地交換を行った。培養は計7日間実施した。なお、各基材は予めγ線滅菌処理または乾熱滅菌処理(160℃×2時間)した後、上記細胞培養に使用した。
また、NanoCulture(登録商標) Plate MSパターン/低接着/24ウェル(ORGANOGENIX社)にはナノインプリントされた微細な凹凸が存在する。このため、細胞懸濁液を播種する前に以下の脱気作業を実施して、凹凸内の気泡を除去した。詳細には、上記と同様の血清添加EMEM培地を1wellあたり500μLずつ分注した。これを、300〜500×gで3分間遠心分離した後、室温(25℃)で30分間静置した。
培養7日目に、HepG2を0.25%トリプシン/50mM EDTA溶液で処理した後、0.4w/v%トリパンブルー溶液(和光純薬株式会社)および血球計算盤を用いて総細胞数の測定を行った。また、培養7日目の培養液をサンプリングし、−20℃で保存した。
培養7日目の基材1、比較基材4、比較基材5、マルチウェルセルカルチャープレートおよびNanoCulture(登録商標) Plateでの細胞の生育状態(顕微鏡写真)を図1に示す。
一例として、培養7日目の基材1での細胞の生育状態(顕微鏡写真)を図1に示しているが、他の基材2、3も同様の結果であった。基材1〜3(それぞれ、Sa値=125.7nm(基材1)、86.5nm(基材2)、66.5nm(基材3))上では、適度な大きさのスフェロイド(細胞凝集塊)が基材に付着した状態でウェル全体に均一に分布して形成され、伸展した細胞はほとんど観察されなかった。
これに対して、比較基材4(Sa値=210.7nm)上では、スフェロイドと伸展した細胞が混在した培養挙動を示した。また、比較基材5(Sa値=249.1nm)上では、スフェロイドの形成も細胞の伸展も確認されなかった。
また、一般的に付着細胞の培養で使用されるマルチウェルセルカルチャープレート 24well(BD Falcon社)(図1中のマルチウェルセルカルチャープレート)では、HepG2細胞が単層状に増殖し、スフェロイド(細胞凝集塊)の形成は見られなかった。また、NanoCulture(登録商標) Plate MSパターン/低接着/24ウェル(ORGANOGENIX社)(図1中のNanoCulture Plate)では、スフェロイド(細胞凝集塊)は形成されたが、大半の細胞凝集塊は基材には付着せずに培地中に浮遊しており、浮遊した細胞凝集塊同士がさらに大きな塊を形成していた。さらに、基材に付着した細胞凝集塊も会合して大きなスフェロイドを形成していた。
5.MCF−7細胞付着挙動の評価
MCF−7(ヒト乳腺癌細胞)はDSファーマバイオメディカル株式会社より購入した。終濃度10(v/v)%ウシ胎児血清(FBS)(DSファーマバイオメディカル株式会社製)、培地の1/100量(体積比)の100×MEM用非必須アミノ酸(DSファーマバイオメディカル株式会社製)、および終濃度 2mMグルタミン溶液(DSファーマバイオメディカル株式会社製)を添加したEMEM培地(DSファーマバイオメディカル株式会社製)(血清添加EMEM培地)を用いて、MCF−7の培養を行った。MCF−7を、2.0×104cells/cm2となるように、100mmセルカルチャーディッシュ(BD Falcon社)に播種し、37℃で5体積%CO2条件下で培養した。100mmセルカルチャーディッシュで70%コンフルエントの状態まで培養したMCF−7を、0.25%トリプシン/50mM EDTA溶液で処理した後、上記と同様の血清添加EMEM培地を添加してトリプシン反応を停止させ、MCF−7の浮遊細胞懸濁液を得た。0.4(w/v)% トリパンブルー溶液(和光純薬株式会社製)を用いてMCF−7の浮遊細胞懸濁液中の生細胞数を測定し、3.13×104cells/cm2となるように、マルチウェルセルカルチャープレート 24well(BD Falcon社、ポリスチレン製)、NanoCulture(登録商標) Plate MSパターン/低接着/24ウェル(ORGANOGENIX社)、ならびに各基材に播種し、37℃で5体積%CO2条件下で培養した。培養4日目に培地全量を除去した後、上記と同様の血清添加EMEM培地1mLを添加して培地交換を行った。培養は計7日間実施した。なお、下記基材は予めγ線滅菌処理または乾熱滅菌処理(160℃×2時間)した後、上記細胞培養に使用した。
また、NanoCulture(登録商標) Plate MSパターン/低接着/24ウェル(ORGANOGENIX社)にはナノインプリントされた微細な凹凸が存在する。このため、細胞懸濁液を播種する前に以下の脱気作業を実施して、凹凸内の気泡を除去した。詳細には、上記と同様の血清添加EMEM培地を1wellあたり500μLずつ分注した。これを、300〜500×gで3分間遠心分離した後、室温(25℃)で30分間静置した。
培養7日目の基材1、比較基材4、比較基材5、マルチウェルセルカルチャープレートおよびNanoCulture(登録商標) Plateでの細胞の生育状態(顕微鏡写真)を図2に示す。
一例として、培養7日目の基材1での細胞の生育状態(顕微鏡写真)を図2に示しているが、他の基材2、3も同様の結果であった。基材1〜3(それぞれ、Sa値=125.7nm(基材1)、86.5nm(基材2)、66.5nm(基材3))上では、適度な大きさのスフェロイド(細胞凝集塊)が基材に付着した状態でウェル全体に均一に分布して形成され、伸展した細胞はほとんど観察されなかった。ここで使用したMCF−7細胞は、上記「4.HepG2細胞付着挙動の評価」にて使用したHepG2細胞に比して、3次元化しにくいが、このような3次元化しにくい細胞に対しても、本発明の基材上で培養することによって、適度な大きさのスフェロイド(細胞凝集塊)を基材に付着した状態で形成できることが考察される。
これに対して、比較基材4(Sa値=210.7nm)上では、スフェロイドの形成はほとんど確認されず、大半が伸展した細胞であった。また、比較基材5(Sa値=249.1nm)上では、スフェロイドの形成も細胞の伸展も確認されなかった。
また、一般的に付着細胞の培養で使用されるマルチウェルセルカルチャープレート 24well(BD Falcon社)(図2中のマルチウェルセルカルチャープレート)では、MCF−7細胞が単層状に増殖し、スフェロイド(細胞凝集塊)の形成は見られなかった。また、NanoCulture(登録商標) Plate MSパターン/低接着/24ウェル(ORGANOGENIX社)(図2中のNanoCulture Plate)では、スフェロイド(細胞凝集塊)は形成されたが、基材に付着して伸展した細胞も多数観察された。
これらの結果を下記表1に要約する。
上記表1の結果から、実施例1〜3の基材1〜3上で細胞を培養することによって、スフェロイドを選択的にかつ基材に付着した状態で形成することができることが示される。これに対して、培養面のSa値が本発明の数値範囲から外れる比較例1〜2の比較基材4〜5上で細胞を培養すると、スフェロイドを選択的に形成することができない。
6.アルブミン定量
上記実施例1で得られた基材1、ならびに市販のマルチウェルセルカルチャープレート 24well(BD Falcon社)およびNanoCulture(登録商標) Plate MSパターン/低接着/24ウェル(ORGANOGENIX社)について、下記方法に従って、アルブミン生成量を測定した。
詳細には、上記「4.HepG2細胞付着挙動の評価」におけるのと同様にして培養を7日間行った。培養7日目のマルチウェルセルカルチャープレート 24well(BD Falcon社)、NanoCulture(登録商標) Plate MSパターン/低接着/24ウェル(ORGANOGENIX社)、ならびに基材1(Sa値=125.7nm)で培養した培養液を用いて、アルブミンの生成量(μg/106細胞)を測定した。なお、アルブミンの定量にはRat Albumin ELISA Quantitation Set (Bethyl Laboratories社)を使用し、添付されているプロトコールに従って2重測定でアルブミンの定量実験を行った。
結果を図3に示す。図3から、基材1(Sa値=125.7nm)で培養した培養液では、マルチウェルセルカルチャープレートおよびNanoCulture(登録商標) Plateで培養した培養液に比して、有意に高いアルブミン生成量が確認されたことが分かる。上記結果および上記4.HepG2細胞付着挙動の評価結果から、本発明の基材上で適切な大きさの細胞凝集塊が形成されたことによって、効率的に培地成分や酸素が細胞に供給され、高い細胞機能が維持できたと考察される。これらの結果から、本発明の基材で細胞を培養することで、細胞は高い機能を発現できることが期待される。
7.直径が1μm以上のセルロース繊維の含有率と透明性(ヘーズ)との関係の検討
本実験では、直径が1μm以上のセルロース繊維の含有率(%)と透明性(ヘーズ)との関係を検討した。
まず、下記のようにして作製した基材A〜Cについて、上述した方法により直径が1μm以上のセルロース繊維の含有率を測定した。
(基材Aの作製)
針葉樹溶解サルファイトパルプ/水懸濁液(固形分0.5wt%)を、ball−collisionチャンバーを備えた高圧ウォータージェットシステム(Star Burst, HJP−25005 E、Sugino Machine Co., Ltd.)を用いて、高圧ホモジネート(機械解繊)して、ホモジネート化スラリーを得た。このホモジネート化スラリーを、245MPaの圧力で直径0.17mmの小ノズルから押し出した。上記押し出し(解繊処理)を50回繰り返し、ナノファイバー懸濁液Aを得た。そのナノファイバー水懸濁液Aを吸引濾過、乾燥して、厚み40μmの基板Aを作製した。
このようにして得られた基材Aについて、ヘーズを測定したところ、38.3%であった。また、この基材Aについて、直径が1μm以上のセルロース繊維の含有率を測定したところ、0.28%であった。
(基材Bの作製)
実施例1と同様にして、アルカリ処理ホロセルロースパルプ懸濁液を作製した。このようにして得られた懸濁液からアルカリ処理ホロセルロースを分離し、0.5重量%濃度となるように水に懸濁して、アルカリ処理ホロセルロース/水懸濁液(固形分0.5重量%)を調製した。
このアルカリ処理ホロセルロース/水懸濁液(固形分0.5重量%)を、ball−collisionチャンバーを備えた高圧ウォータージェットシステム(Star Burst, HJP−25005 E、Sugino Machine Co., Ltd.)を用いて、高圧ホモジネート(機械解繊)して、ホモジネート化スラリーを得た。このホモジネート化スラリーを、245MPaの圧力で直径0.17mmの小ノズルから押し出した。上記押し出し(解繊処理)を50回繰り返し、ナノファイバー懸濁液Bを得た。そのナノファイバー水懸濁液Bを吸引濾過、乾燥して、厚み40μmの基板Bを作製した。
このようにして得られた基材Bについて、ヘーズを測定したところ、5.5%であった。また、この基材Bについて、直径が1μm以上のセルロース繊維の含有率を測定したところ、0.05%であった。
(基材Cの作製)
セルロース粉末/水懸濁液(固形分0.5wt%)を、ball−collisionチャンバーを備えた高圧ウォータージェットシステム(Star Burst, HJP−25005 E、Sugino Machine Co., Ltd.)を用いて、高圧ホモジネート(機械解繊)して、ホモジネート化スラリーを得た。このホモジネート化スラリーを、245MPaの圧力で直径0.17mmの小ノズルから押し出した。上記押し出し(解繊処理)を50回繰り返し、ナノファイバー懸濁液Cを得た。そのナノファイバー水懸濁液Cを吸引濾過、乾燥して、厚み40μmの基板Cを作製した。なお、セルロース粉末として、KCフロック(登録商標)W100−GK(日本製紙グループ)使用した。
このようにして得られた基材Cについて、ヘーズを測定したところ、86.6%であった。また、この基材Cについて、直径が1μm以上のセルロース繊維の含有率を測定したところ、10.19%であった。
結果を下記表2に要約する。下記表2から、直径が1μm以上のセルロース繊維の含有率とヘーズとは正の相関が認められる。以上の結果から、直径が1μm以上のセルロース繊維が基材に占める割合を低減することによって、基材の透明性を有意に向上できると考察される。
8.直径が1μm以上のセルロース繊維の含有率と細胞培養物目視容易性との関係の検討
本実験では、直径が1μm以上のセルロース繊維の含有率(%)と細胞培養物目視容易性との関係を検討した。
まず、上記「7.直径が1μm以上のセルロース繊維の含有率と透明性(ヘーズ)との関係の検討」と同様にして、基材A〜Cを作製した。
次に、上記「4.HepG2細胞付着挙動の評価」と同様にして、上記基材A〜C上でHepG2細胞を7日間、培養した。所定期間培養した後のHepG2細胞培養物を顕微鏡(倍率:40倍)下で観察した。その結果、基材A及びBは透明性に優れているため、HepG2細胞の生育状態などを容易に目視にて観察できたものの、基材Cは透明性に劣り、観察像が不明瞭で、HepG2細胞の生育状態などの観察が困難であった。以上の結果から、直径が1μm以上のセルロース繊維が基材に占める割合を低減することによって、細胞を目視する際の容易性を有意に向上できると考察される。
9.アルブミンの吸着量の測定
実施例1と同様にして作製した基材1について、以下記載の方法に従って、アルブミンの吸着量を測定した。
ウシ血清アルブミン(シグマ社;A8022−10G)をDulbecco’s PBS(−)(Wako社;041−20211)でアルブミン濃度が20μg/mLとなるように溶解し、アルブミン溶液を得た。シャーレの上の台座に上記の基材1を直径14mmの円形に切断したフィルムをセットし、当該フィルム上にアルブミン溶液を300μLマウントした。
同じ種類のフィルム(直径14mmの円形)を、アルブミン溶液にさらに1枚被せてアルブミン溶液を2枚のフィルムで挟み、フィルムとアルブミン溶液とが接触する面積が一定になるようにセットし、ユニットを得た。これを、水を入れたバットを収容して加湿した37℃の5体積%CO2インキュベーター内に静置した。7時間後にユニットを取り出し、アルブミン溶液を回収した。回収した溶液は測定まで−20℃で保管した。
回収したアルブミン溶液中のアルブミン濃度を測定した。濃度の測定は、Albmin,Bovine,ELISA Quantitation kit(Bethyl Laboratories社)を用いて行い、測定プロトコルは添付のマニュアルに準拠した。初期濃度(20μg/mL)と7時間後のアルブミン濃度との差およびフィルムの面積(1枚片面当たり1.54cm2×2枚分で3.08cm2)から、単位面積当たりのアルブミン吸着量(ng/cm2)を算出したところ、1037ng/cm2であった。
10.プロテオグリカンの吸着量の測定
実施例1と同様にして作製した基材1について、以下記載の方法に従って、プロテオグリカンの吸着量を測定した。
ヘパラン硫酸プロテオグリカン(シグマ社;H4777)をDulbecco’s PBS(−)(Wako社;041−20211)でプロテオグリカン濃度が5μg/mLとなるように溶解し、プロテオグリカン溶液を得た。シャーレの上の台座に上記の基材1を直径14mmの円形に切断したフィルムをセットし、当該フィルム上にプロテオグリカン溶液を300μLマウントした。
同じ種類のフィルム(直径14mmの円形)を、プロテオグリカン溶液にさらに1枚被せてプロテオグリカン溶液を2枚のフィルムで挟み、フィルムとプロテオグリカン溶液とが接触する面積が一定になるようにセットし、ユニットを得た。これを、水を入れたバットを収容して加湿した37℃の5体積%CO2インキュベーター内に静置した。20時間後にユニットを取り出し、プロテオグリカン溶液を回収した。回収した溶液は測定まで−20℃で保管した。
回収したプロテオグリカン溶液中のプロテオグリカン濃度を測定した。濃度の測定は、Glycosaminoglycan Sulpated Alcian Blue Binding Assay(Euro Diagnostica)を用いて行い、測定プロトコルは添付のマニュアルに準拠した。初期濃度(5μg/mL)と20時間後のプロテオグリカン濃度との差およびフィルムの面積(1枚片面当たり1.54cm2×2枚分で3.08cm2)から、単位面積当たりのプロテオグリカン吸着量(ng/cm2)を算出したところ、162.6ng/cm2であった。
11.ラット初代肝細胞付着挙動の評価
Specific viral pathogen freeのWistarラット、オス、9週齢、体重200gを日本エスエルシー株式会社より購入した。ラット初代肝細胞の取得は培養細胞実験ハンドブック(羊土社)第10章、「肝細胞」に記載の方法を参考に行った。具体的には、Wistarラットをイソフルラン麻酔下で開腹し、門脈にカテーテルを挿入して表3に記載の組成の前かん流液を注入した。次に胸腔を開き、右心房に入る下大静脈を切開し、血液を放出させた。肝臓からの脱血が十分になされたことを確認した後にかん流を止め、かん流液を表3に記載の組成のコラゲナーゼ溶液に換えて、かん流を行った。細胞間組織がコラゲナーゼにより消化されたことを確認した後、かん流を止めた。肝臓を切り離し、ガラスシャーレに移した後、冷したEMEM High Glucose培地(Wako社)を添加して、ピペッティングにより細胞を分散させた。次に150mm濾過器により未消化の組織を除去した。細胞懸濁液は、50G、1分の遠心分離を数回繰り返して非実質細胞を除去した。得られた肝細胞の生存率はトリパンブルー排除法で計測し、生存率85%以上の肝細胞をラット初代肝細胞として培養試験に使用した。
前述の方法で取得したラット初代肝細胞を、以下記載の組成の血清培地で懸濁し、1.33×104cells/cm2となるように、ガンマ線滅菌処理した上記実施例1で得られた基材1に播種し、37℃、5% CO2条件下で培養を行った。培地交換は播種後4時間、培養1日目、3日目、5日目に培地を全量除去後、血清培地を0.4mL添加して行った。培養5日目にスフェロイド形成および伸展細胞の有無の確認を行った。培養5日目の基材1での細胞の生育状態(顕微鏡写真)を図5に示す。基材1において、伸展細胞はほとんど観察されず、直径200μm以下のスフェロイド(細胞凝集塊)が基材に付着した状態でウェル全体に均一に分布して形成されていることを確認した。
(血清培地の組成)
William’s E medium(和光純薬)、10%(w/v)FBS(和光純薬)、8.6nM インスリン、255nM デキサメサゾン、50ng/mL EGF、5KIU/mL アプロチニン、抗生物質(ペニシリン(100unit/mL)/ストレプトマイシン(100μg/mL)/アムホテリシンB(0.25μg/mL))。
本出願は、2016年10月17日に出願された日本特許出願番号2016−203818号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。