以下、本発明のスチールコード−ゴム複合体について、図面を用いて詳細に説明する。
本発明のスチールコード−ゴム複合体は、銅、亜鉛およびコバルトを含むめっき層(3元めっき層)が形成された、1本または複数本スチールフィラメントを有するスチールコードとゴムとが接着されてなるスチールコード−ゴム複合体である。図1に、ゴムに埋設したスチールフィラメントの幅方向断面図を示す。上述のとおり、ゴム1と、スチールコードを構成するスチールフィラメント2の表面のめっき層3と、が接着されると、めっき層3の銅とゴム中の硫黄とが反応して接着層が形成される。これにより、ゴム1とめっき層3とが接着されることになる。
本発明のスチールコード−ゴム複合体においては、接着層の硫黄含量を、めっき層3の内側からゴム1に向かって、スチールフィラメント2の長手方向に対して垂直方向に分析し、硫黄含量が増加する変曲点の位置を接着層最下部4とし、スチールフィラメント2の長手方向において等間隔に6点、この接着層最下部4から、スチールフィラメント2の長手方向に対して垂直方向に内側に向かって100nm、コバルトの原子%を分析する。ここで、めっき層全体のコバルトの原子%よりもコバルトの原子%が高い部分をコバルトリッチ領域(nm)としたとき、本発明のスチールコード−ゴム複合体においては、6点のコバルトリッチ領域の合計(nm)が、6点の分析範囲の合計(nm)の40%以上である。すなわち、コバルトの原子%を測定した全距離600nmに対して、コバルトリッチ領域の距離の合計が240nm以上である。
このように、本発明のスチールコード−ゴム複合体は、ゴム1とスチールフィラメント2との接着層にコバルトリッチ領域が形成されているため、ゴムとスチールコードの接着性を良好に向上させることができる。かかる効果を良好に得るためには、コバルトリッチ領域は、好ましくは60%以上である。また、本発明のスチールコード−ゴム複合体においては、コバルト原子源として、ゴムに対して有機コバルト塩を少量添加してもよく、または添加しなくてもよい。このため、ゴムの劣化を防止することができ、さらに、ゴムの練り時間を長くする必要もなくなり、生産性を悪化させることもない。
コバルトリッチ領域は、3元めっき層を有するスチールフィラメントの3元めっき層の極表面のみを強加工することで形成することができる。3元めっき層の極表面の強加工は、例えば、ダイスによる伸線加工により行う。伸線加工で潤滑性を下げた場合、スチールフィラメント材とダイスとが直接あるいは不完全な被膜を介して接触すると、3元めっき層の極表面が掻き乱されるため、結晶の微細化とともに、3元めっき層中のコバルトの分布に変化が生じるためであると考えられる。その結果、3元めっき層の表面にコバルトリッチ領域が形成される。
例えば、液体潤滑液を用いた湿式伸線によって潤滑性をある程度下げた状態での伸線加工を行うには、潤滑液中の潤滑成分の濃度を、通常の伸線に用いる時の濃度よりも下げて伸線加工を施したり、潤滑液の温度を潤滑剤の使用推奨温度よりも下げて伸線加工を施す。どの程度に潤滑性を下げた状態で伸線するかについては、製造するスチールフィラメントの強度や線径にもよるが、例えば、潤滑成分の濃度を下げる場合、スチールフィラメントの伸線作業で通常使用する潤滑液の濃度の80%〜20%の濃度とすればよい。潤滑性を下げ過ぎると、3元めっき層の脱落、スチールフィラメント質の劣化、あるいは、断線やダイス摩耗をもたらす。逆に、潤滑性の下げ方が足りないと、コバルトリッチ領域の割合が少なくなるので、ゴムとスチールコードとの接着性を十分に向上させることはできない。
また、伸線加工中の発熱が大きすぎると、温度上昇による3元めっき層の格子欠陥密度の減少の可能性や、スチールフィラメントの延性劣化の可能性があるので、例えば下記(1)〜(5)のような、発熱が小さくなる伸線条件を設定し、ダイスからの出線温度を接触式温度計で測定したときに、150℃以下とすることが好ましい。
(1)1ダイス当たりの減面率を低めに設定する。
(2)伸線速度を低めに設定する。
(3)ダイスを冷却して温度上昇を抑制する。
(4)ダイスに入線するスチールフィラメント材および/またはダイスから出線するスールフィラメントを冷却する。
(5)複数のダイスを使用する連続伸線工程において、最下流に位置する3つのダイスのうち、1つ以上ダイスの摩擦係数を0.18以上とする。
このとき、コバルトリッチ領域を形成するには、3元めっき層の厚さは厚めにしたほうがよい。また、湿式連続伸線にて製造する場合には、仕上げダイス、または、仕上げダイスを含む伸線下流の数ダイスにおける伸線を、上記したような潤滑性をある程度下げた状態で行い、他のダイスでは良好な潤滑条件で行うようにすれば、内部が結晶質で表面にコバルトリッチ領域が形成された3元めっき層を確実に製造することができる。
なお、本発明に係るスチールコードを構成するスチールフィラメントの表面に形成された3元めっき層については特に制限はなく、既知の方法で形成することができる。例えば、伸線加工前のスチールフィラメント材に、銅、コバルト、亜鉛の順、または銅、亜鉛、コバルトの順、または銅、亜鉛とコバルトの合金の順でめっきを行い、その後、例えば、温度500〜650℃、時間5〜25秒の熱処理によって熱拡散させて、3元めっき層を形成することができる。本発明のスチールコード−ゴム複合体においては、3元めっき層全体としての組成は特に制限はないが、例えば、銅の含有量を64〜69原子%、コバルトの含有量1〜10原子%とすればよい。
本発明のスチールコード−ゴム複合体においては、ゴム中に、加硫促進剤として、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NS)、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンイミド(TBSI)、N−エチル−N−t−ブチルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド(ETZ)、およびN,N−ジ(2−エチルヘキシル)−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(BEHZ)からなる群から選ばれる少なくとも一種が含有されてなることが好ましい。従来用いられてきた加硫促進剤DZは、監視化学物質に指定されており、将来、規制がかかる可能性があるからである。本発明のスチールコード−ゴム複合体においては、加硫促進剤の配合量は、特に限定されるものではないが、ゴム成分100質量部あたり0.5質量部以上3質量部以下の範囲が好ましい。より好適には、0.5質量部以上1.2質量部以下である。
また、本発明のスチールコード−ゴム複合体においては、ゴム中に、下記式(1)で表されるp−tert−ブチルフェノール由来の構成単位、下記式(2)で表されるo−フェニルフェノール由来の構成単位、および下記式(3)で表されるレゾルシン由来の構成単位を含み、軟化点が150℃以下である共縮合物を含有していることが好ましい。これにより、ゴムとスチールコードとの接着性をさらに向上させることができる。
上記(1)〜(3)の構成単位は、通常、共縮合物の主鎖中に含まれるが、側鎖中に含まれていてもよい。これら構成単位のうち、o−フェニルフェノール由来の構成単位(2)が含まれていない場合、ゴムの軟化点が高くなり、混練時にゴムに配合した際に分散不良が発生するおそれがあり、その結果、混練時にゴムに配合して使用するゴムとスチールコードとの接着剤として好ましくない。また、レゾルシン由来の構成単位(3)が含まれていない場合、混練時にゴムに配合して使用するゴムとスチールコードとの接着剤としての能力を十分に発揮しない場合がある。さらには、p−tert−ブチルフェノール由来の構成単位(1)を含まない場合、共縮合物としての価格が非常に高くなり、工業的に好ましくない。
これら構成単位の含有比率は、p−tert−ブチルフェノール由来の構成単位(1)の1モルに対し、o−フェニルフェノール由来の構成単位(2)を0.5〜6倍モルとすることが好ましく、好適には1.5〜6倍モルである。0.5倍モルより少ない場合、軟化点が高くなりすぎて前述のような問題が発生する場合があり、6倍モルより多い場合、共縮合物の原料コストが高くなり工業上有利に本発明に係る共縮合物を製造することができなくなる場合がある。
レゾルシン由来の構成単位(3)は、p−tert−ブチルフェノール由来の構成単位(1)およびo−フェニルフェノール由来の構成単位(2)の合計量1モルに対して、0.5〜2.0倍モルが好ましい。0.5倍モルより少ないと、混練時にゴムに配合して使用するゴムとスチールコードとの接着剤としての能力を十分に発揮しない場合があり、2.0倍モルより多く含まれるものは工業上製造が困難である場合があるからである。
これら構成単位は、通常、反応で使用するアルデヒド由来のアルキル基および/またはアルキルエーテル基のような結合基によって結合される。中でも結合基は、ホルムアルデヒド由来のメチレン基および/またはジメチレンエーテル基であることが好ましい。結合基は、p−tert−ブチルフェノール由来の構成単位(1)およびo−フェニルフェノール由来の構成単位(2)の合計量1モルに対して、1〜2倍モルとすればよい。
これら構成単位や結合基の比率は、例えば、共縮合物を1H−NMRを用い分析することにより決定可能である。具体的には、共縮合物を1H−NMRにて分析し、得られた分析結果のうち、各構成単位や結合基に由来するプロトン積分値からその比率を決定する方法が例示される。
本発明に係る共縮合物は、必要に応じて、p−tert−ブチルフェノール、o−フェニルフェノールおよびレゾルシン由来の構成単位以外の構成単位を含んでいてもよい。このような構成単位の例として、一般的にゴムの加工工程において使用される接着剤として用いられる共縮合物の原料として用いられる各種アルキルフェノール由来の構成単位を例として挙げることができる。
本発明に係る共縮合物の軟化点は、150℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以上150℃以下であり、さらに好ましくは80℃以上140℃以下、特に好ましくは90℃以上120℃以下である。共縮合物の軟化点が150℃より高いと、タイヤ用ゴム組成物中において、混練時にタイヤ用ゴム組成物に配合した際に、分散性不良の問題が発生する場合があり、その結果、混練時にゴムに配合して使用する、ゴムと補強材との接着剤として不適となる場合がある。一方、軟化点が80℃より低いと保存中にブロッキングをおこしてしまう場合がある。
本発明のスチールコード−ゴム複合体においては、本発明に係る共縮合物は、ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下とすることが好ましい。共縮合物の配合量が、ゴム成分100質量部に対して0.1質量部未満であると、十分な接着性(湿熱接着性)が得られない場合があり、一方、共縮合物の配合量が、ゴム成分100質量部に対して、10質量部を超えると、加硫中の接着反応が過剰に進むことで接着性(湿熱接着性)が低下する場合がある。かかる観点から、共縮合物は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは、0.2質量部以上8質量部以下であり、より好ましくは、0.5質量部以上6質量部以下である。
なお、本発明に係る共縮合物に含まれる未反応モノマー(遊離p−tert−ブチルフェノール、o−フェニルフェノールおよびレゾルシン)および残存溶媒の総量は、15質量%以下であることが好ましい。これにより混練り作業中における臭気を低減することができ、環境上好ましい。特に好ましくは12質量%以下である。中でも遊離レゾルシンの含量を12質量%以下とすれば、本発明に係る共縮合物をゴムへ添加する際、ゴムへの混練中に生じるレゾルシンの蒸散が改善されるため、作業環境が大きく改善される。本発明に係る共縮合物に含まれる、遊離レゾルシン以外の未反応モノマーであるp−tert−ブチルフェノールおよびo−フェニルフェノール、並びに反応で使用することがある残存溶媒量の総量は、5質量%以下であることが好ましい。これにより、臭気が低減されるとともに、揮発性有機化合物が低減され、環境上好ましく、特に好ましくは3質量%以下である。かかる観点から、本発明のスチールコード−ゴム複合体に係るゴムに含まれる遊離レゾルシン以外の未反応モノマーおよび残存溶媒の総量は、ゴム成分に対して、0.20質量%以下が好ましく、好ましくは0.17質量%以下である。
本発明に係る共縮合物の製造方法は、(a)アルカリ存在下、p−tert−ブチルフェノールとo−フェニルフェノールの混合物をホルムアルデヒドと反応させて、レゾール型縮合物を得る工程と、(b)p−tert−ブチルフェノールとo−フェニルフェノールの総量に対して0.8倍モル以上のレゾルシンをさらに反応させる工程と、を経て製造することができる。
工程(a)で用いるp−tert−ブチルフェノールとo−フェニルフェノールの混合物(以下、これら2種のフェノール類を総称して「フェノール誘導体」とも称する)におけるo−フェニルフェノールの比率は特に限定されないが、フェノール誘導体の総量に対して35モル%〜85モル%であることが好ましく、より好ましくは40モル%〜85モル%であり、さらに好ましくは60モル%〜85モル%である。35モル%より少ないと、得られる共縮合物の軟化点が高くなり、ゴム成分と混練するときに分散不良となる場合がある。一方、85モル%より多いと、高価なo−フェニルフェノールが多量に必要となり、工業上有利に共縮合物を製造できなくなる場合がある。なお、本発明におけるp−tert−ブチルフェノールとo−フェニルフェノールの混合物とは、反応器に投入する前に事前に混合したものの他、それぞれ別個に反応器に投入し、結果として反応器内で混合物となったものも含まれる。
工程(a)で用いるホルムアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド自体のほか、水溶液であるホルマリン、またはパラホルムアルデヒドやトリオキサンのような、容易にホルムアルデヒドを発生する化合物を使用することができる。ホルムアルデヒドの仕込みモル比は特に限定されないが、フェノール誘導体の総量に対して1〜3倍モルであることが好ましく、その中でも1.5〜2.5倍モルの範囲が特に好ましい。1倍モルより少ない場合、未反応モノマーが多くなり臭気や揮発性有機化合物が増加する場合がある。また、3倍モルよりも多い場合、ホルムアルデヒドが未反応のまま多く残存するため、樹脂が三次元構造化して軟化点が高くなる場合がある。
アルカリとしては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物または炭酸塩の他、アンモニア、アミンのような、通常のレゾール型縮合物を製造する際に用いられるものを使用することができる。アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物または炭酸塩の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。この中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。これらのアルカリは固体状のものでも、水溶液状のものでも利用可能であるが、反応性、取扱いの面から水溶液のものを使用することが好ましい。水溶液状のものを使用する場合、その濃度は通常、10質量%〜50質量%のものを使用する。アルカリの仕込みモル比とは特に限定されないが、フェノール誘導体の総量に対して0.03〜0.6倍モルの範囲が好ましく、より好ましくは0.03〜0.3倍モルの範囲である。
工程(a)の反応、すなわちアルカリ存在下、p−tert−ブチルフェノールとo−フェニルフェノールの混合物と、ホルムアルデヒドとの反応は、溶媒中で行うことも可能である。使用する溶媒は特に限定されることはなく、水、アルコール、芳香族炭化水素等を用いることができる。より具体的には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、モノクロロベンゼン等が挙げられる。中でも水、トルエン、キシレンが好ましい。これらの溶媒は単独あるいは2種類以上を併用して用いることも可能である。溶媒を使用する場合、通常フェノール誘導体の総量に対して0.4〜4質量倍(例えば0.4〜2質量倍)使用する。また、工程(a)の反応は通常、反応温度40〜100℃、反応時間1〜48時間(例えば1〜8時間)で実施される。
かかる反応により得られたレゾール型縮合物は、使用したアルカリを中和せずにそのまま工程(b)の反応、すなわちレゾルシンとの反応に使用してもよいし、酸を加えることでアルカリを中和した後に使用してもよい。中和を行う際に使用する酸の種類は特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸等が例として挙げられる。これらの酸は1種類のみを単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。この際、使用される酸の総量は特に限定されないが、通常使用したアルカリに対し等量(物質量基準)の酸を使用することが好ましい。また、未反応のホルムアルデヒドや中和で生成した無機塩類等を除去するために、必要に応じて水と混和しない有機溶媒を用いてレゾール型縮合物を抽出し、洗浄する処理を追加してもよい。
工程(b)において、得られたレゾール型縮合物とレゾルシンを反応させる際のレゾルシンの仕込みモル比は、フェノール誘導体の総量に対して0.5倍モル以上である必要があり、好ましくは0.8〜4.0倍モル、より好ましくは0.8〜2.0倍モル、さらに好ましくは1.0〜2.0倍モルである。4.0倍モルよりも多い場合、未反応のレゾルシンが多く残存するため揮発性が問題となる場合がある。0.5倍モルより低い場合、反応が完結しないため本来の性能が出ない場合やレゾール型縮合物同士の反応が優先的に進行し、得られる共縮合物が高分子化する結果、軟化点が150℃以下とならない場合がある。
レゾール型縮合物とレゾルシンとの反応は、溶媒を使用せず反応を行うことも可能であるが、p−tert−ブチルフェノールとo−フェニルフェノールの総量に対して0.2質量倍以上の溶媒存在下で実施した場合、遊離レゾルシンを12質量%以下とすることが可能となり好ましい。さらに好ましくはp−tert−ブチルフェノールとo−フェニルフェノールの総量に対して0.4〜4.0質量倍、特に好ましくは0.4〜2.0質量倍の溶媒存在下で実施する。0.2質量倍より少ない場合、レゾルシンとレゾール型縮合物との反応より、レゾール型縮合物同士の反応が優先的に進行する場合があり、得られる共縮合物が高分子化するためか、遊離レゾルシンを12質量%以下とすることができない。また、4.0質量倍以上使用しても反応は進行するが、容積効率が低下し経済的有利に共縮合物を製造することができない。
使用可能な溶媒は特に限定されないが、例えばアルコール類、ケトン類、芳香族炭化水素類等である。より具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、モノクロロベンゼン等が例示される。この中でも、ケトン類、芳香族炭化水素類が好ましく、さらにはメチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンが好ましい。これらの溶媒は必要に応じ単独あるいは2種類以上を併用して用いることも可能である。また、本溶媒はレゾール型縮合物を製造する際に使用した溶媒をそのまま使用してもよいし、適宜新たな溶媒を加えてもよい。
レゾール型縮合物とレゾルシンとの反応は、特に限定されないが、通常、反応温度40〜150℃、反応時間1〜48時間(例えば1〜8時間)で実施される。共縮合物中に含まれる遊離レゾルシン含量を12質量%以下とするためには、後述する溶媒除去工程を実施する前に、反応混合物中の遊離レゾルシン含量が12質量%以下になるまで120℃以上で反応を行うことが好ましい。本反応段階で遊離レゾルシンが12質量%より多く残存している場合、後述する溶媒除去工程で遊離レゾルシンを同時に12質量%未満になるまで除去しようとしても工業的に実施困難な高温、高減圧度条件が必要であり、かつ、この際に得られる共縮合物が熱により着色したり、高分子化が進行したりする結果、軟化点が150℃を超え、混練時にゴムに配合して使用するゴムと金属コードとの接着剤として不適となる。
120℃以上で反応を行うとは、反応中いずれかの時点で120℃以上になっていればよく、例えば反応初期は120℃未満で反応を開始させ、その後徐々に昇温させて120℃以上とする方法等が例示される。反応温度が一度も120℃以上とならない場合、反応混合物中の遊離レゾルシンが12質量%以下にならない。また、前述の通り、0.2質量倍以上の溶媒非存在下で本反応を実施した場合、得られる共縮合物が高分子化するためか、遊離レゾルシン含量が12質量%以下とならない。反応混合物とは、本反応の原料であるレゾール型縮合物やレゾルシン、溶媒等、反応容器内に含まれる全てものを示し、反応混合物中のレゾルシン含量は例えばガスクロマトグラフを用いた分析により定量可能である。なお、遊離レゾルシン含量を減らすため、単に原料レゾルシンの使用量を減らす方法も考えられるが、この方法で製造した場合、反応中に原料レゾルシンが不足し、代わりに共縮合物中のレゾルシン部位がさらに反応して高分子化するため、軟化点が非常に高くなってしまう。
工程(b)におけるレゾール型縮合物とレゾルシンとの反応では、系内に水が存在すると反応速度が遅くなる傾向があり、レゾール型縮合物とレゾルシンとの反応で生成した水により反応速度が低下する場合があるため、反応を促進する目的で脱水しながら反応を行うことが好ましい。また、この脱水反応においては、反応で生成する水を十分に脱水するため、反応当初は減圧下で脱水し、その後内温を120℃以上とするため、常圧で更に脱水する方法とすることが好ましい。
レゾール型縮合物とレゾルシンとの反応に溶媒を使用する場合、通常、反応後、反応で使用した溶媒を除去する。溶媒の除去条件は特に限定されないが、例えば内圧45〜10kPaの減圧下、120〜160℃で実施される。なお、本除去操作により遊離レゾルシン含量をある程度減らすことも可能であるが、溶媒除去前の反応混合物中の遊離レゾルシン含量が12質量%より多い場合、溶媒除去後の共縮合物の遊離レゾルシン含量を12質量%以下としようとするためには工業的に実施困難な高温、高減圧度条件が必要であり、かつ、この際に得られる共縮合物が熱により着色し、製品価値を下げることがある。
さらに、本発明のスチールコード−ゴム複合体においては、ゴム中にビスマレイミド化合物が含有されてなることが好ましい。ビスマレイミド化合物は、ゴム中の硫黄とともに、加硫系の一部として機能するものであり、本発明に係るゴムに配合可能なビスマレイミド化合物としては、下記式(4)、
で表される化合物から選択される1種以上を用いることが好ましい。ここで、式(4)中、Xは、炭素数2〜4のアルキレン基、フェニレン基または芳香族環を1〜4有する炭素数6〜29の2価の炭化水素基を表し、R
4〜R
7は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、−NH
2基または−NO
2基を表す。
上記式(4)において、Xである炭素数2〜4のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、プロパン−2,2−ジイル基等が挙げられる。芳香族環を1〜4有する炭素数6〜29の2価の炭化水素基としては、メチレンビス(フェニレン)基、フェニレンビス(メチレン)基、フェノキシフェニル基等が挙げられる。また、この芳香族環は−O−、−S−、−SS−、−SO2−等により結合されていてもよい。上記Xの中では、フェニレン基または芳香族環を1または2有する炭素数8〜17の炭化水素基が好適であり、フェニレン基または芳香族環を1または2有する炭素数8〜13の炭化水素基がより好ましい。上記式(4)において、Xは置換基を有していてもよい。この置換基としては、例えば、炭素数1〜3のアルキル基、−NH2、−NO2、−F、−Cl、−Br等が挙げられる。また、式(4)において、R4〜R7で示される炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
ビスマレイミド化合物の好適例としては、例えば、N,N’−1,2−エチレンビスマレイミド、N,N’−1,2−プロピレンビスマレイミド、4,4’−ビスマレイミドジフェニルメタン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4−ジフェニル−メタン)ビスマレイミド、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2’−ビス〔4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル〕プロパン、m−フェニレンビス(メチレン)ビスマレイミド、m−フェニレンビス(メチレン)ビスシトラコンイミド、1,1’−(メチレンジ−4,1−フェニレン)ビスマレイミド等が挙げられる。これらビスマレイミド化合物は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4−ジフェニル−メタン)ビスマレイミド、がより好ましい。
本発明に係るゴムにおいて、ビスマレイミド化合物の配合割合は、ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上5.5質量部以下が好ましい。ビスマレイミド化合物の配合量を0.1質量部以上5.5質量部以下とすると、弾性率を高くすることができ、湿熱接着性を向上することができる。この観点から、ビスマレイミド化合物の配合量は、0.1質量部以上5質量部以下がより好ましい。
本発明に係るゴムにおいて、ヒドラジド化合物を配合すること好ましい。ヒドラジド化合物としては、N,N’−ジ(1−メチルエチリデン)−イソフタル酸ジヒドラジド、N,N’−ジ(1−メチルエチリデン)−アジピン酸ジヒドラジド、N,N’−ジ(1−メチルプロピリデン)イソフタル酸ジヒドラジド、N,N’−ジ(1−メチルプロピリデン)−アジピン酸ジヒドラジド、N,N’−ジ(1,3−ジメチルプロピリデン)−イソフタル酸ジヒドラジド、N,N’−ジ(1,3−ジメチルプロピリデン)−アジピン酸ジヒドラジド、N,N’−ジ(1−フェニルエチリデン)−イソフタル酸ジヒドラジド、N,N’−ジ(1−フェニルエチリデン)−アジピン酸ジヒドラジドや、テレフタル酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、イコサノイックジカルボン酸ジヒドラジド、炭酸ジヒドラジドのアルキリデン誘導体、等が挙げられる。また、一般式(III)で表されるものとしては、3−ヒドロキシ−N−(1−メチルエチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N−(1−メチルプロピリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N−(1,3−ジメチルプロピリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−N−(1−フェニルエチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド等の3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジドのアルキリデン誘導体の他に、サリチル酸ヒドラジド、4−ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド、アントラニル酸ヒドラジド、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジドのアルキリデン誘導体などが挙げられる。また、一般式(III)において、RB−Xとしてピリジル基をなす場合として表されるものとしては、N−(1−メチルエチリデン)−イソニコチン酸ヒドラジド、N−(1−メチルプロピリデン)−イソニコチン酸ヒドラジド、N−(1,3−ジメチルプロピリデン)−イソニコチン酸ヒドラジド、N−(1−フェニルエチリデン)−イソニコチン酸ヒドラジド等のイソニコチン酸ヒドラジドのアルキリデン誘導体、等が挙げられる。
本発明のスチールコード−ゴム複合体においては、上記要件を満足するものであれば、それ以外については特に制限はなく、従来と同様の構成を採用することができる。例えば、スチールコードの撚り構造等については、特に制限はなく、撚り合わせることなく並列に引き揃えたモノフィラメントコードであってもよく、これらモノフィラメントコードのうち、数本を束ねた束コードでもよく、また、任意の本数で撚り合わせた撚りコードであってもよい。さらに、スチールコードを構成するスチールフィラメントについても特に制限はなく、従来から用いられているものを用いることができる。
また、本発明のスチールコード−ゴム複合体に係るゴムも、従来から用いたれているゴム組成物を用いることができる。例えば、ゴム成分としては、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、脱蛋白天然ゴムおよびその他の変性天然ゴムの他、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン・ブタジエン共重合ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム(NBR)、イソプレン・イソブチレン共重合ゴム(IIR)、エチレン・プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)、ハロゲン化ブチルゴム(HR)等の各種の合成ゴム等が挙げられる。これらのなかでも、好ましくは、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ポリブタジエンゴム等の高不飽和性ゴムが用いられ、特に好ましくは、天然ゴムおよび/またはポリイソプレンゴムが用いられる。また、天然ゴムとスチレン・ブタジエン共重合ゴムの併用、天然ゴムとポリブタジエンゴムの併用等、数種のゴム成分を組み合わせてもよい。
また、本発明のスチールコード−ゴム複合体に係るゴムに添加する加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、その配合量は、ゴム成分100質量部に対し硫黄分として0.1〜10質量部が好ましく、より好ましくは1〜5質量部である。
さらに、本発明のスチールコード−ゴム複合体に係るゴムには、必要に応じて、充填材を配合することができる。充填材としては、カーボンブラックおよび無機充填材から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、高、中または低ストラクチャーのSAF、ISAF、IISAF、N339、HAF、FEF、GPF、SRFグレードのカーボンブラック、特にSAF、ISAF、IISAF、N339、HAF、FEFグレードのカーボンブラックを用いることが好ましい。カーボンブラックと無機充填材の総配合量は、ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下にすることが好ましい。
さらにまた、本発明のスチールコード−ゴム複合体に係るゴムにおいては、無機充填材としてシリカを用いることもできる。シリカを用いる場合は、シリカのBET比表面積(ISO5794/1に準拠して測定する)は40〜350m2/gであるのが好ましい。BET表面積がこの範囲であるシリカは、ゴム補強性とゴム成分(A)中への分散性とを両立できるという利点がある。この観点から、BET表面積が80〜350m2/gの範囲にあるシリカがさらに好ましく、BET表面積が120〜350m2/gの範囲にあるシリカが特に好ましい。シリカの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下が好ましく、1質量部以上10質量部以下がさらに好ましい。
本発明のスチールコード−ゴム複合体に係るゴムに、シリカ充填する場合、さらにシランカップリッグ剤を配合することができる。シランカップリング剤としては、例えばビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシーリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等が挙げられるが、これらの中で補強性改善効果等の点から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシランおよび3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアジルテトラスルフィドが好適である。これらのシランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
さらにまた、カップリング剤としての効果およびゲル化防止等の点から、シランカップリング剤の好ましい配合量は、質量比(シランカップリング剤/シリカ)が(1/100)〜(20/100)であることが好ましい。(1/100)以上であれば、ゴムの低発熱性向上の効果をより好適に発揮することとなり、(20/100)以下であれば、タイヤ用ゴムのコストが低減し、経済性が向上するからである。さらには好ましくは、質量比(3/100)〜(20/100)であり、特に好ましくは、質量比(4/100)〜(10/100)である。
さらにまた、本発明に係るゴム組成物は、シトラコンイミド化合物を含むことが好ましい。シトラコンイミド化合物は、ゴム組成物中でゴム成分の分子を架橋させる機能を有し、また、ゴム組成物の加硫戻りを抑制して、加硫が進行し過ぎた場合でもゴム組成物の諸特性の悪化を抑えるように作用する。そして、ヒドラゾン化合物および加硫促進剤と併用することにより、加硫速度を損なうことなく、また、加硫が進行し過ぎても低ロス性を悪化させることなく、諸特性の悪化を効果的に抑制することができる。
シトラコンイミド化合物としては、特に制限されないが、ビスシトラコンイミド類を用いることができる。ビスシトラコンイミド類としては、1,2−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン、1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン、1、4−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン、2,3−ビス(シトラコンイミドメチル)トルエン、2,4−ビス(シトラコンイミドメチル)トルエン、2,5−ビス(シトラコンイミドメチル)トルエン、2,6−ビス(シトラコンイミドメチル)トルエン、およびこれらに対応するビス(シトラコンイミドエチル)化合物等が挙げられる。シトラコンイミド化合物としては、これらを1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、本発明の効果を十分に発揮させる観点から、1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼンを単独で用いるのが好ましい。
シトラコンイミド化合物としては、FLEXSYS社製「PERKALINK 900」(1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン)等の市販品を好適に用いることができる。
さらにまた、本発明に係るゴム組成物は、レゾルシンおよびメチレンドナーとなる化合物を含有することが好ましい。メチレンドナーとなる化合物はアミン化合物およびホルムアルデヒド化合物(パラホルムアルデヒド、トリオキサン等)の少なくとも一方でよい。
アミン化合物は、メチレンドナーとなるものであり、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン等からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミン化合物を用いることができる。好ましくは、アミン化合物はヘキサメチレンテトラミンである。環境に対する不可が少なく、作業性の向上を図る上で好ましい。アミン化合物は、ゴム成分100質量部に対して、1〜10質量部、好ましくは、1〜5質量部含有させることができる。1質量部未満では、接着力の低下が懸念される。10質量部を超えると、接着不良となる可能性がある。
ホルムアルデヒド化合物は、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサン等からなる群より選ぶことができる。ホルムアルデヒド化合物は、ゴム成分100質量部に対して、1〜10質量部、好ましくは、1〜5質量部含有させることができる。1質量部未満では、接着力の低下が懸念される。10質量部を超えると、接着不良となる可能性がある。
本発明のスチールコード−ゴム複合体に係るゴムには、本発明の効果が損なわれない範囲で、所望により、通常ゴム工業界で用いられる各種薬品、例えば、加硫促進剤、加硫遅延剤、プロセスオイル、老化防止剤、有機酸、有機コバルト化合物、酸化亜鉛等を配合してもよい。特に、1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物は、硫黄架橋と比較して、熱的に安定な架橋構造を与え、ゴム組成物の耐熱老化性を改良する効果を奏する。
本発明のスチールコード−ゴム複合体は、ゴムとスチールコードとの接着性が、従来よりも優れているため、従来、スチールコード−ゴム複合体が用いられてきた部位に好適に用いることができる。特に、タイヤ、ベルト、ホース等のゴム物品に好適に用いることができる。例えば、タイヤに用いる場合は、乗用車用タイヤやトラック・バス用タイヤのベルト等に好適に用いることができる。
次に、本発明のスチールコード−ゴム複合体の製造方法について説明する。
本発明のスチールコード−ゴム複合体の製造方法は、本発明のスチールコード−ゴム複合体を製造するにあたって、スチールコードとゴムとを接着する前に、スチールコードに脂肪酸エステルオイルで処理を施す。これにより、コバルトリッチ領域のコバルト量をさらに増加させることができ、本発明のスチールコード−ゴム複合体におけるゴムとスチールコードの接着性をさらに向上させることができる。
本発明のスチールコードとゴムとを接着する前に、スチールコードに脂肪酸エステルオイルで処理を施す方法としては、例えば、スチールフィラメントの伸線加工直後に脂肪酸エステルオイルを塗布する方法が挙げられる。その後、脂肪酸エステルオイルが塗布されたスチールフィラメントを撚り合わせることで、本発明に係るスチールコードを製造することができる。脂肪酸エステルオイルの塗布方法としては、特に制限はなく既知の方法を用いることができるが、脂肪酸エステルオイルにスチールフィラメントを通線してもよいし、刷毛等を用いてスチールフィラメントに塗布してもよい。
本発明の製造方法においては、スチールコードに対する脂肪酸エステルオイルの付着量は、20〜2000mg/kgとすることが好ましい。脂肪酸エステルオイルの付着量が20mg/kg未満では上記効果を十分に得られない場合があり、一方、2000mg/kgを超えるとゴムとの接着性がかえって低下してしまう場合がある。なお、脂肪酸エステルオイルの付着量としては、20〜2000mg/kgとすることで、大気中でのスチールフィラメント表面の酸化膜の生成をさらに10mg/kg程度低減することが可能となる。なお、伸線加工されたスチールフィラメントにオイルを塗布することにより、撚り線時のテンション変動の抑制を図ることができるので、スチールコード製造時の不良発生が低減でき、生産性をさらに向上させることができる。
本発明の製造方法においては、スチールコード−ゴム複合体を製造するにあたって、スチールコードとゴムとを接着する前に、スチールコードに脂肪酸エステルオイルで処理を施すこと以外については特に制限はなく、従来の方法を採用することができる。例えば、スチールフィラメントの表面に3元めっき層を形成する方法についても、既知の方法を採用することができ、上述のとおり、例えば、銅、コバルト、亜鉛の順、または銅、亜鉛、コバルトの順、または銅、亜鉛とコバルトの合金の順でめっきを行い、その後、500〜650℃、時間5〜25秒の熱処理によって熱拡散を行い、3元めっき層を形成すればよい。
また、スチールコードをゴムに埋設する方法についても特に制限はなく、既知の方法を用いることができる。例えば、スチールコードを一定間隔で平行に並べ、このスチールコードを上下からゴム組成物で被覆し、その後、加硫することで製造することができる。
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例1−1〜1−3および従来例1−1、1−2>
銅67原子%、亜鉛29原子%、コバルト4原子%の組成を有する3元めっき層が形成された、スチールフィラメント材に連続湿式伸線加工を施して、線径0.25mmあるいは0.30mmの3元めっき付きスチールフィラメントを製造した。脂肪酸エステルオイルの塗布量は200mg/kgとした。なお、実施例1−1〜1−3および従来例1−1、1−2に係るスチールフィラメント材の伸線の際に、潤滑剤濃度および伸線加工時における最下流に位置する3つのダイスの摩擦係数を変化させて行った。
得られた3元めっき付きスチールフィラメントを用いてスチールコード−ゴム複合体を作製し、このスチールコードゴム複合体からスチールフィラメントを取り出し、スチールフィラメントの長手方向に等間隔で6点(分析位置1〜6)、接着層最下部から、スチールフィラメントの長手方向に対して垂直方向内側に向かって100nmにわたって、めっき層中のCu、Zn、Co、C、O、SおよびFeの分析を行った。この結果から、分析範囲である100nmに対するコバルトリッチ領域(nm)の割合を算出した。得られた結果を表1に示す。なお、図2(a)は、実施例1−1の分析位置3におけるめっき成分の分析結果のグラフであり、図2(b)は、従来例1−1の分析位置3におけるめっき成分の分析結果のグラフである。
なお、3元めっきの成分の原子%の分析には、TEM(アルバックファイPHI610と同等)を用いて、以下の条件で行った。
サンプル加工 FIB(Focused Ion Beam):日立製作所FB2000A
界面観察 EDX付透過電子顕微鏡:日立製作所HF2000
分析条件 加速電圧:200kV
スポット径:φ0.1μm
分析間隔:2μmごと
TEM観察用サンプルは、まず、加硫接着後のスチールコード−ゴム複合体から1本のスチールフィラメントを取り出して、Ga−イオンビームで観察部周囲をエッチングして、切り出した部分をマイクロサンプリングで取り出した。次に、取り出したサンプルを試料台の上に固定し、Ga−イオンビームにより観察部のみを最終加工して断面観察用サンプルとした。
<実施例2−1〜2−29および比較例2−1〜2−11>
実施例1−1のスチールコードを下記表2〜8に示す組成のゴム組成物で被覆し、実施例2−1〜2−29のスチールコード−ゴム複合体を作製した。同様に、従来例1−1のスチールコードを下記表2〜8に示す組成のゴム組成物で被覆し、比較例2−2、2−5、2−10のスチールコード−ゴム複合体を作製した。比較例2−1、2−4、2−7、2−8、2−9は、銅63%、亜鉛37%の組成を有するブラスめっき層が形成されたスチールコードを下記表2〜8に示す組成のゴム組成物で被覆して作製した。比較例2−3、2−6、2−11は亜鉛37%の組成を有するブラスめっき層が形成されたスチールフィラメント材の伸線の際に、潤滑剤濃度および伸線加工時における最下流に位置する3つのダイスの摩擦係数の加工量を変化させて、ブラスめっき層の極表面のみを強加工したスチールコードを下記表2〜8に示す組成のゴム組成物で被覆して作製した。得られたスチールコード−ゴム複合体につき、初期接着性、湿熱接着性、耐熱接着性および劣化後耐亀裂進行性につき、下記の手順で作製した。
<初期接着性>
各スチールコードを、12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを上下からゴム組成物で被覆し、160℃で7分間加硫して、ゴム組成物とスチールコードとを接着
させた。このようにして、厚さ1mmのゴムシートにスチールコードが埋設された、スチールコード−ゴム複合体を得た(スチールコードは、ゴムシートの厚さ方向中央に、シート表面に、12.5mm間隔で並んでいる)。その後、ASTM D 2229に準拠して、加硫直後の各サンプルからスチールコードを引き抜き、スチールコードに付着しているゴムの被覆率を目視観察にて0〜100%で決定し、初期接着性の指標とした。結果は、比較例2−1を100として、表2〜8に指数表示した。指数値が大きい程、初期接着性に優れていることを示す。
初期接着性指数={(各スチールコードに付着しているゴムの被覆率)/(比較例2−1の試料のスチールコードに付着しているゴムの被覆率)}×100
<湿熱接着性>
各スチールコードを、12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを上下からゴム組成物で被覆し、160℃で20分間加硫して、ゴム組成物とスチールコードとを接着させた。このようにして、厚さ1mmのゴムシートにスチールコードが埋設された、スチールコード−ゴム複合体を得た(スチールコードは、ゴムシートの厚さ方向中央に、シート表面に、12.5mm間隔で並んでいる)。このスチールコード−ゴム複合体を75℃、相対湿度95%雰囲気下で10日間劣化させた後、ASTM D 2229に準拠して、各サンプルからスチールコードを引き抜き、スチールコードに付着しているゴムの被覆率を目視観察にて0〜100%で決定し、温熱劣化性の指標とした。結果は、比較例2−1を100とする指数で表示した。指数値が大きい程、湿熱接着性に優れていることを示す。すなわち、耐温熱劣化性に優れていることを示す。結果を表2〜8に併記する。
湿熱接着性指数={(各スチールコードに付着しているゴムの被覆率)/(比較例2−1の試料のスチールコードに付着しているゴムの被覆率)}×100
<耐熱接着性>
各スチールコードを、12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを上下からゴム組成物で被覆し、160℃で7分間加硫して、ゴム組成物とスチールコードとを接着させた。このようにして、厚さ1mmのゴムシートにスチールコードが埋設された、スチールコード−ゴム複合体を得た(スチールコードは、ゴムシートの厚さ方向中央に、シート表面に、12.5mm間隔で並んでいる)。このスチールコード−ゴム複合体を110℃、窒素雰囲気下で30日間劣化させた後、ASTM D 2229に準拠して、各サンプルからスチールコードを引き抜き、スチールコードに付着しているゴムの被覆率を目視観察にて0〜100%で決定し、耐熱接着性の指標とした。結果は、比較例2−1を100として、表2〜8に指数表示した。指数値が大きい程、耐熱接着性に優れていることを示す。
耐熱接着性指数={(各スチールコードに付着しているゴムの被覆率)/(比較例2−1の試料のスチールコードに付着しているゴムの被覆率)}×100
<劣化後耐亀裂進行性>
各スチールコードを、12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを上下からゴム組成物で被覆し、160℃で20分間加硫して、厚さ2mmの加硫ゴムサンプルを作製し、このサンプルを100℃で24時間劣化させた。その後、上島製疲労試験機を用いてサンプルの定応力疲労試験を行い、破断するまでの回数を測定した。結果は、比較例2−1を100とする指数で表示した。指数値が大きい程、劣化後の耐亀裂進行性に優れることを示す。結果を表2〜8に併記する。
劣化後耐亀裂進行性={(各サンプルが切断するまでの回数)/(比較例2−1の試料が切断するまでの回数)}×100
※1:BMI−1000 大和化成工業(株)製
※2:BMH 大塚化学(株)製 3−ヒドロキシ−N’−(1,3−ジメチルブチリデン)−2−ナフトエ酸ヒドラジド
※3:HTS フレキシス(株)製 ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物
※4:PERKALINE900:フレキシス(株)製 1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン
※5:スミカノール620:住友化学(株)製
※6:ヘキサメチレンテトラミン
以上、表2〜8より、本発明のスチールコード−ゴム複合体は、ゴムの耐劣化性能およびゴムとスチールコードとの接着性を高度に両立できていることがわかる。