上記のようなデファレンシャル装置においては、デファレンシャルケース内に潤滑油が入れられており、デファレンシャルケースの回転に伴って潤滑油がピニオンシャフトとピニオンギアとの間に入ることで、ピニオンシャフトに対して回転されるピニオンギアの潤滑が図られている。ピニオンシャフトは、一般的には自身の軸線方向に沿って真っ直ぐに延在する円柱状をなしているが、ピニオンギアの潤滑を促すには、例えばピニオンシャフトの断面形状を長円形状とすることで、ピニオンギアとの間に潤滑油が入るよう隙間を空ける場合がある。この隙間を広くするほど潤滑油が入り易くはなるものの、ピニオンシャフトとピニオンギアとの接触面積が減少することになるため、ピニオンギアからピニオンシャフトに作用する圧力が増大し、結果として焼き付きが生じ易くなるおそれがあった。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、焼き付きの発生を抑制することを目的とする。
本発明のデファレンシャル装置は、ピニオンシャフトと、前記ピニオンシャフトに対して回転可能な形で装着されるピニオンギアと、少なくとも前記ピニオンギア及び潤滑油を収容するとともに前記ピニオンシャフトが固定され且つ前記ピニオンシャフトの軸線方向と直交する回転軸周りに回転可能なデファレンシャルケースと、前記ピニオンシャフトのうち前記軸線方向について前記ピニオンギアに対して中央側において表面を凹ませる形で設けられる潤滑油貯留部と、を備える。
このようにすれば、デファレンシャルケース及びそれに固定されたピニオンシャフトが、ピニオンシャフトの軸線方向と直交する回転軸周りに回転されると、ピニオンシャフトのうち軸線方向についてピニオンギアに対して中央側において表面を凹ませる形で設けられた潤滑油貯留部に貯留された潤滑油には遠心力が作用する。潤滑油は、上記遠心力によって潤滑油貯留部からピニオンシャフトの軸線方向について端側へ向けて移動し、潤滑油貯留部に対して軸線方向について端側に位置するピニオンギアとピニオンシャフトとの間に効率的に入り込む。これにより、ピニオンシャフトの軸線周りに回転するピニオンギアの潤滑が図られ、もって焼き付きが生じ難くなる。
本発明の実施態様として、次の構成が好ましい。
(1)前記潤滑油貯留部は、前記ピニオンシャフトの表面を凹ませる形で設けられる表面側凹状部と、前記表面側凹状部の底面を凹ませる形で設けられ、その凹み寸法が前記表面側凹状部よりも大きな底面側凹状部と、から構成される。このようにすれば、底面側凹状部は、表面側凹状部の底面を凹ませる形で設けられているので、ピニオンシャフトの製造時に底面側凹状部を形成し易くなっている。表面側凹状部の底面を凹ませる形で設けられた底面側凹状部の凹み寸法が相対的に大きいので、底面側凹状部によって多くの潤滑油が貯留されるとともに貯留された潤滑油が漏れ難くなる。
(2)前記底面側凹状部は、前記ピニオンシャフトにおいて前記軸線方向についての中央位置から偏在している。このようにすれば、デファレンシャルケース及びピニオンシャフトが回転すると、ピニオンシャフトにおいて軸線方向についての中央位置から偏在する底面側凹状部に貯留された潤滑油にはより確実に遠心力が作用することになる。これにより、ピニオンギアとピニオンシャフトとの間に潤滑油を効率的に供給することができる。
(3)前記ピニオンシャフトには、前記潤滑油貯留部側と前記ピニオンギア側とにそれぞれ開口する潤滑油流動路が設けられている。このようにすれば、潤滑油貯留部に貯留された潤滑油は、デファレンシャルケース及びピニオンシャフトの回転に伴って作用する遠心力によって潤滑油貯留部側に開口した潤滑油流動路へと流し込まれる。潤滑油流動路に流し込まれた潤滑油は、潤滑油流動路を流動してピニオンギア側の開口からピニオンシャフトとピニオンギアとの間に入り込む。このように、潤滑油流動路によってピニオンギアに対して潤滑油を効率的に供給することができる。なお、潤滑油流動路がピニオンギア側に開口する分だけ、ピニオンシャフトとピニオンギアとの接触面積が減少するものの、潤滑油を貯留するための潤滑油貯留部と、潤滑油を流動させるための潤滑油流動路と、を機能毎に分けて設置することで、潤滑油流動路を小型に保つことができ、それによりピニオンギアとピニオンシャフトとの接触面積を極力大きく確保することができる。
(4)前記潤滑油流動路は、前記ピニオンシャフトを貫通する孔状部を少なくとも有する。このようにすれば、潤滑油貯留部に貯留された潤滑油は、ピニオンシャフトを貫通する潤滑油流動路の孔状部を流動することで、ピニオンシャフトの外周面のうち、潤滑油貯留部に対してピニオンシャフトの周方向について離間した位置に効率的に供給される。
(5)前記潤滑油流動路は、前記孔状部が前記ピニオンシャフトの前記軸線方向に対して傾斜状をなしており、前記潤滑油貯留部は、前記孔状部が開口する底面を有するとともに前記底面が前記ピニオンシャフトの前記軸線方向に対して傾斜状をなしていて前記軸線方向に対する傾き方が前記孔状部とは逆向きとされる。このようにすれば、潤滑油貯留部に貯留された潤滑油は、デファレンシャルケース及びピニオンシャフトの回転に伴って作用する遠心力によって潤滑油貯留部の底面へ向けて付勢される。この潤滑油貯留部の底面は、ピニオンシャフトの軸線方向に対して傾斜状をなしていて軸線方向に対する傾き方が孔状部とは逆向きとされているので、上記のように付勢された潤滑油を底面に開口する孔状部に効率的に導くことができる。
(6)前記潤滑油流動路は、前記孔状部が前記ピニオンシャフトの軸心を横切る形で直線状に延在する。このようにすれば、潤滑油貯留部に貯留された潤滑油は、潤滑油流動路の孔状部を流動することで、ピニオンシャフトの外周面のうち、潤滑油貯留部に対してピニオンシャフトの周方向について約180度の角度間隔を空けた位置に供給される。これにより、ピニオンギアとピニオンシャフトとの間に潤滑油をより効率的に供給することができる。
(7)前記潤滑油流動路は、前記孔状部における前記ピニオンギア側の開口に連なるとともに前記ピニオンシャフトの表面を凹ませる形で設けられる溝状部を有する。このようにすれば、潤滑油は、潤滑油流動路の孔状部におけるピニオンギア側の開口から、ピニオンシャフトの表面を凹ませる形で設けられた溝状部を流動することで、ピニオンシャフトとピニオンギアとの間に効率的に供給される。
(8)前記潤滑油流動路は、前記孔状部として、前記ピニオンシャフトの前記軸線方向に対して傾斜状をなす第1孔状部と、前記ピニオンシャフトの前記軸線方向に対して傾斜状をなしていて前記軸線方向に対する傾き方が前記第1孔状部とは逆向きとされ且つ前記第1孔状部に連通する第2孔状部と、を少なくとも有する。このようにすれば、デファレンシャルケース及びピニオンシャフトが正逆いずれの向きに回転した場合であっても、潤滑油は、潤滑油流動路のうちピニオンシャフトの軸線方向に対して傾斜状をなす第1孔状部と、ピニオンシャフトの軸線方向に対して傾斜状をなしていて軸線方向に対する傾き方が第1孔状部とは逆向きとされる第2孔状部と、の少なくともいずれか一方を流動する。しかも、第1孔状部と第2孔状部とが互いに連通しているので、両孔状部間で潤滑油が行き来し、潤滑油に係る流動の自由度が高められている。これにより、ピニオンギアとピニオンシャフトとの間に潤滑油をより効率的に供給することができる。
(9)前記潤滑油貯留部は、前記ピニオンシャフトの周方向について異なる位置に少なくとも一対設けられており、前記潤滑油流動路は、少なくとも前記第1孔状部及び前記第2孔状部をそれぞれ有する形で一対設けられており、一方の前記潤滑油貯留部には、一方の前記潤滑油流動路を構成する前記第1孔状部と、他方の前記潤滑油流動路を構成する前記第2孔状部と、がそれぞれ開口し、他方の前記潤滑油貯留部には、他方の前記潤滑油流動路を構成する前記第1孔状部と、一方の前記潤滑油流動路を構成する前記第2孔状部と、がそれぞれ開口する。このようにすれば、一方の潤滑油貯留部に貯留された潤滑油は、一方の潤滑油流動路を構成する第1孔状部と、他方の潤滑油流動路を構成する第2孔状部と、にそれぞれ流動し、他方の潤滑油貯留部に貯留された潤滑油は、他方の潤滑油流動路を構成する第1孔状部と、一方の潤滑油流動路を構成する第2孔状部と、にそれぞれ流動する。異なる潤滑油流動路を構成する第1孔状部と第2孔状部とが共通の潤滑油貯留部に開口しているので、配置効率が良好となる。
(10)前記潤滑油流動路は、前記潤滑油貯留部よりも幅狭に形成されている。このようにすれば、潤滑油流動路がピニオンギア側に開口するのに起因してピニオンシャフトとピニオンギアとの接触面積が減少するのを抑制することができる。
(11)前記潤滑油流動路は、前記ピニオンギア側における開口範囲が前記ピニオンギアの形成範囲内となるよう形成されている。このようにすれば、潤滑油流動路におけるピニオンギア側の開口がピニオンシャフトに装着されるピニオンギアによって閉塞されるので、潤滑油流動路を通してピニオンギア側に供給された潤滑油がピニオンギアの外側に漏れ出し難くなる。これにより、ピニオンシャフトとピニオンギアとの間に潤滑油を継続的に存在させることができる。
本発明によれば、焼き付きの発生を抑制することができる。
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1から図3によって説明する。本実施形態のデファレンシャル装置10は、自動車などの車両に搭載されるものであって、例えば車両がカーブを曲がる時などにおいて、左右の車輪に同じトルクを与えつつ、左右の車輪の回転数を調整するための差動装置である。なお、各図面の一部にはX軸、Y軸及びZ軸を示しており、各軸方向が各図面で示した方向となるように描かれている。また、車両の左右方向がX軸方向と、車両の前後方向がY軸方向と、車両の高さ方向(鉛直方向)がZ軸方向と、それぞれ一致している。
デファレンシャル装置10は、図1に示すように、図示しないエンジンからプロペラシャフト1に伝達された動力を、左右の車輪の回転軸である一対のドライブシャフト(アスクルシャフト)2,3に対して伝達するものであり、車両の走行に伴って各ドライブシャフト2,3に作用する負荷に応じて各ドライブシャフト2,3に対して適切な回転数を付与するものとされる。デファレンシャル装置10は、プロペラシャフト1の端部に装着されるドライブピニオン4に対して噛み合うリングギア11と、リングギア11が装着されるデファレンシャルケース(デフケース)12と、デファレンシャルケース12内に収容されてデファレンシャルケース12に固定されるピニオンシャフト(デファレンシャルピニオンシャフト、デフピニオンシャフト)13と、デファレンシャルケース12内に収容されてピニオンシャフト13に対して回転可能に装着される一対のピニオンギア(デファレンシャルピニオンギア、デフピニオンギア)14,15と、デファレンシャルケース12内に収容されて一対のピニオンギア14,15に対して噛み合うとともにドライブシャフト2,3に装着される一対のサイドギア16,17と、を少なくとも備える。なお、プロペラシャフト1とドライブシャフト2,3とは、互いに軸線方向が直交する関係とされており、具体的にはプロペラシャフト1の軸線方向がY軸方向(車両の前後方向)と、ドライブシャフト2,3の軸線方向がX軸方向(車両の左右方向)と、それぞれ一致している。
リングギア11は、図1に示すように、ドライブシャフト2,3の軸心とほぼ同心の環状をなしており、自身の外周面に形成された歯がドライブピニオン4の歯に噛み合うとともに、ドライブシャフト2,3の軸線周りに回転可能とされる。このリングギア11によってドライブピニオン4の回転力がデファレンシャル装置10に伝達される。
デファレンシャルケース12は、例えば鋳造などによって成形されることで略箱状をなしており、図1に示すように、X軸方向についての一端側に外向きに張り出すフランジ部12aを有している。このフランジ部12aには、上記したリングギア11が装着・固定されており、それによりデファレンシャルケース12は、ドライブピニオン4によってリングギア11が回転されるのに伴ってドライブシャフト2,3の軸線周りに回転される。また、デファレンシャルケース12には、ドライブシャフト2,3を挿通する一対のドライブシャフト挿通孔12b,12cが貫通形成されている。ドライブシャフト挿通孔12b,12cは、デファレンシャルケース12の壁面のうち、Y軸方向及びZ軸方向に沿う一対の壁面を、X軸方向(ドライブシャフト2,3の軸線方向)に沿ってそれぞれ貫通する形で形成されている。
デファレンシャルケース12は、内部に収容空間S1を有するとともに、図1の紙面貫通方向(Z軸方向)の片側または両側が開口しており、それにより製造に際しては上記開口を通すことで各種部品などを外部から収容空間S1内に収容することが可能とされる。具体的には、デファレンシャルケース12の収容空間S1には、ピニオンシャフト13、一対のサイドギア16,17及び一対のピニオンギア14,15が収容されるのに加えて、図示しない潤滑油が収容されている。デファレンシャルケース12には、ピニオンシャフト13における軸線方向(Y軸方向)についての両端側部分13aを挿通する一対のピニオンシャフト挿通孔(シャフト挿通孔)12d,12eが貫通形成されている。一対のピニオンシャフト挿通孔12d,12eは、図1に示す状態において、デファレンシャルケース12の壁面のうち、X軸方向及びZ軸方向に沿う一対の壁面を、Y軸方向(ピニオンシャフト13の軸線方向)に沿ってそれぞれ貫通する形で形成されている。
ピニオンシャフト13は、図1に示すように、例えば鍛造などによって成形されることでX軸方向と直交する方向(Y軸方向、Z軸方向など)に沿って延在する略円柱状をなすとともに、その両端側部分13aがデファレンシャルケース12における一対のピニオンシャフト挿通孔12d,12eに挿通された形でデファレンシャルケース12に対して図示しない固定手段によって固定されている。従って、ピニオンシャフト13は、デファレンシャルケース12の回転に伴ってドライブシャフト2,3の軸線(X軸)周りに回転されるようになっている。図1から図3では、ピニオンシャフト13の軸線方向がY軸方向と一致した状態を例示しているが、これ以外にもピニオンシャフト13の軸線方向は例えばZ軸方向と一致した状態やY軸方向及びZ軸方向の双方に対して傾いた状態などにもなり得る。なお、ピニオンシャフト13の詳しい構成については後に改めて説明する。
一対のピニオンギア14,15は、図1に示すように、ピニオンシャフト13の軸線方向について間隔を空けて対向配置されている。各ピニオンギア14,15は、ピニオンシャフト13の外周面に沿う環状をなしており、自身の外周面に形成された歯がサイドギア16,17の歯に噛み合うものとされる。各ピニオンギア14,15は、それぞれピニオンシャフト13に対してその軸線周りに回転可能な形で装着されており、自身の内周面とピニオンシャフト13の外周面との間に潤滑油の油膜が介在するものとされる。つまり、各ピニオンギア14,15は、いわゆる「すべり軸受構造」でもってピニオンシャフト13によって回転可能に軸支されている。各ピニオンギア14,15は、ピニオンシャフト13がデファレンシャルケース12と共に回転するのに伴ってドライブシャフト2,3の軸線周りに回転可能とされる。このように、各ピニオンギア14,15は、ピニオンシャフト13の軸線周りに自転可能とされるとともに、ドライブシャフト2,3の軸線周りに公転可能とされる。従って、ピニオンシャフト13が各ピニオンギア14,15の自転軸を、ドライブシャフト2,3が各ピニオンギア14,15の公転軸を、それぞれ構成している。各ピニオンギア14,15は、ピニオンシャフト13のうち、ピニオンシャフト挿通孔12d,12eに通された両端側部分13aに対してピニオンシャフト13の軸線方向についてそれぞれ中央側に隣り合う部分に対して装着されている。ピニオンシャフト13において各ピニオンギア14,15が装着される部分が一対のギア装着部18,19とされる。なお、各ピニオンギア14,15とデファレンシャルケース12の壁面との間には、図示しないワッシャが介在する形で設けられており、それにより各ピニオンギア14,15がピニオンシャフト13の軸線周りに回転(自転)するのに伴ってデファレンシャルケース12の壁面が摩耗することが避けられている。
一対のサイドギア16,17は、図1に示すように、ドライブシャフト2,3の軸線方向であるX軸方向(ピニオンシャフト13の軸線方向と直交する方向)について間隔を空けて対向配置されている。各サイドギア16,17は、ドライブシャフト2,3の外周面に沿う環状をなしており、自身の外周面に形成された歯がピニオンギア14,15の歯に噛み合うものとされる。各サイドギア16,17は、それぞれドライブシャフト2,3に対してスプライン嵌合などによって連結・固定されており、ドライブシャフト2,3と共にその軸線周りに回転可能とされる。各サイドギア16,17は、デファレンシャルケース12及びピニオンシャフト13と共にドライブシャフト2,3の軸線周りに回転(公転)される各ピニオンギア14,15から伝達された回転力によって各ドライブシャフト2,3の軸線周りに回転される。各サイドギア16,17の回転に伴って各ドライブシャフト2,3も同じ軸線周りに回転され、もって車両における左右の車輪が所定の回転数でもって回転される。
ここで、車両の走行状態に応じて各ドライブシャフト2,3に作用する負荷は変化するものとされ、例えば車両が右にカーブするときは右側のドライブシャフト2の負荷が高くなり、逆に車両が左にカーブするときは左側のドライブシャフト3の負荷が高くなる。このように各ドライブシャフト2,3に作用する負荷に差異が生じた場合には、各ピニオンギア14,15が各ドライブシャフト2,3の軸線周りに回転(公転)するのに加えてピニオンシャフト13の軸線周りにも回転(自転)し、それにより一対のサイドギア16,17のうちの高負荷側には相対的に少ない回転数が、一対のサイドギア16,17のうちの低負荷側には相対的に多い回転数がそれぞれ付与される。これにより、高負荷側の車輪が空転することなどが避けられ、車両の安定的な走行が担保される。なお、各ドライブシャフト2,3に作用する負荷が同等であれば、各ピニオンギア14,15は、各ドライブシャフト2,3の軸線周りに回転(公転)するものの、ピニオンシャフト13の軸線周りには殆ど回転(自転)せず、各サイドギア16,17に対して同等の回転数を付与する。
さて、本実施形態に係るピニオンシャフト13のうち、その軸線方向について各ギア装着部18,19(各ピニオンギア14,15)に対して中央側には、図2及び図3に示すように、表面を凹ませる形で潤滑油貯留部20が設けられている。この潤滑油貯留部20には、デファレンシャルケース12内に存在する潤滑油が貯留されるようになっている。潤滑油貯留部20は、ピニオンシャフト13の周方向について異なる位置、具体的には約180度の角度間隔を空けた位置(互いに背中合わせとなる位置)に一対設けられている。このような構成によれば、デファレンシャルケース12及びそれに固定されたピニオンシャフト13が、ドライブシャフト2,3の軸線周り(ピニオンシャフト13の軸線方向と直交する回転軸周り)に回転(公転)されると、ピニオンシャフト13に設けられた各潤滑油貯留部20に貯留された潤滑油には遠心力が作用する。潤滑油は、上記遠心力によって各潤滑油貯留部20からピニオンシャフト13の軸線方向について端側へ向けて移動し、各潤滑油貯留部20に対して軸線方向について端側に位置する各ピニオンギア14,15とピニオンシャフト13の各ギア装着部18,19との間に効率的に入り込むことになる。これにより、ピニオンシャフト13の軸線周りに回転(自転)する各ピニオンギア14,15の潤滑が図られ、もって焼き付きが生じ難くなる。
潤滑油貯留部20は、図2及び図3に示すように、ピニオンシャフト13の表面(外周面)を凹ませる形で設けられる表面側凹状部21と、表面側凹状部21の底面21aを凹ませる形で設けられる底面側凹状部22と、から構成されている。表面側凹状部21は、ピニオンシャフト13の軸線方向についての形成範囲が、一対のギア装着部18,19(一対のピニオンギア14,15)の間に挟み込まれる部分のほぼ全長にわたるものとされる。表面側凹状部21は、ピニオンシャフト13の軸線方向に沿って切断した断面形状が横長の方形状をなしており、その底面21aが全域にわたってほぼフラットな形状とされる。
底面側凹状部22は、図2及び図3に示すように、ピニオンシャフト13における軸線方向及びそれと直交する方向についての形成範囲が、表面側凹状部21よりも狭くされており、その全域が表面側凹状部21の底面21aの面内に位置している。ここで、ピニオンシャフト13の製造時には、潤滑油貯留部20は、例えば切削加工により形成される。具体的な製造に際しては、まず鍛造によって製造されたピニオンシャフト13の表面を切削して表面側凹状部21を形成した後、表面側凹状部21におけるフラットな底面21aを切削することで底面側凹状部22を形成することができるので、底面側凹状部22を形成し易くなっている。底面側凹状部22は、表面側凹状部21の底面21aからの凹み寸法が、ピニオンシャフト13の表面からの表面側凹状部21の凹み寸法よりも大きなものとされていて、潤滑油の貯留機能を主体的に発揮するものとされる。これにより、底面側凹状部22によって多くの潤滑油が貯留されるとともに貯留された潤滑油が表面側凹状部21から漏れ難くなる。底面側凹状部22は、ピニオンシャフト13の軸線方向に沿って切断した断面形状が三角形状(V字型)をなしており、ピニオンシャフト13の軸線方向に対して傾斜状をなす一対の傾斜状底面22a,22bを有している。一対の傾斜状底面22a,22bは、ピニオンシャフト13の軸線方向についての中央側に位置する中央側傾斜状底面22aと、同軸線方向についての端側に位置する端側傾斜状底面22bと、からなる。底面側凹状部22は、自身におけるピニオンシャフト13の軸線方向についての中央位置(中央側傾斜状底面22aと端側傾斜状底面22bとの交点)が、ピニオンシャフト13における軸線方向についての中央位置からは端寄りに偏在している。従って、上記したピニオンシャフト13の公転に伴って生じる遠心力が底面側凹状部22に貯留された潤滑油により確実に作用することになる。これにより、各ピニオンギア14,15とピニオンシャフト13の各ギア装着部18,19との間に潤滑油をより効率的に供給することができる。
ピニオンシャフト13には、図2及び図3に示すように、その軸線方向について中央側(潤滑油貯留部20側、潤滑油供給源側)と、端側(ピニオンギア14,15側、潤滑油供給先側)と、にそれぞれ開口する潤滑油流動路23が設けられている。潤滑油流動路23は、ピニオンシャフト13における設置数が潤滑油貯留部20の設置数と同数であり、X軸方向(ピニオンシャフト13の軸線方向と直交する方向)について潤滑油貯留部20の中央位置に配されるとともに、ピニオンシャフト13の軸線方向について潤滑油貯留部20と同一直線上に配置されている。従って、デファレンシャルケース12及びピニオンシャフト13がドライブシャフト2,3の軸線周りに回転(公転)されるのに伴って、ピニオンシャフト13に設けられた各潤滑油貯留部20に貯留された潤滑油に遠心力が作用すると、潤滑油は、各潤滑油貯留部20側に開口する各潤滑油流動路23内に流し込まれる。各潤滑油流動路23内に流し込まれた潤滑油は、潤滑油流動路23をピニオンシャフト13の軸線方向についての端側へ流動してピニオンギア14,15とピニオンシャフト13のギア装着部18,19との間に入り込むことになる。このように、潤滑油流動路23によってピニオンギア14,15に対して潤滑油を効率的に供給することができる。なお、潤滑油流動路23がピニオンギア14,15側に開口する分(後述する端側開口部24bの開口面積分)だけ、ピニオンシャフト13とピニオンギア14,15との接触面積が減少するものの、潤滑油を貯留するための潤滑油貯留部20と、潤滑油を流動させるための潤滑油流動路23と、を機能毎に分けて設置することで、潤滑油流動路23を小型に保つことができ、それによりピニオンシャフト13とピニオンギア14,15との接触面積を極力大きく確保することができる。また、潤滑油流動路23は、X軸方向(ピニオンシャフト13の軸線方向と直交する方向)についての寸法、つまり幅寸法が潤滑油貯留部20よりも小さくなるよう形成されている。このように潤滑油流動路23を幅狭に形成すれば、潤滑油流動路23がピニオンギア14,15側に開口するのに起因してピニオンシャフト13とピニオンギア14,15との接触面積が減少するのを抑制することができる。
潤滑油流動路23は、図2及び図3に示すように、ピニオンシャフト13を貫通する形で設けられる孔状部24と、孔状部24に連通するとともにピニオンシャフト13の表面を凹ませる形で設けられる溝状部25と、から構成される。孔状部24は、断面形状が円形状をなすとともに、ピニオンシャフト13の軸線方向に対して傾斜状をなしており、ピニオンシャフト13の軸心を横切る形で直線状に延在している。このようにすれば、潤滑油貯留部20に貯留された潤滑油は、潤滑油流動路23の孔状部24を流動することで、ピニオンシャフト13の外周面のうち、潤滑油貯留部20に対してピニオンシャフト13の周方向について離間した位置、具体的には約180度の角度間隔を空けた位置に供給される。これにより、ピニオンシャフト13とピニオンギア14,15との間に潤滑油をより効率的に供給することができる。
孔状部24は、図3に示すように、ピニオンシャフト13において軸線方向についての中央側(潤滑油貯留部20側、潤滑油供給源側)に開口する中央側開口部(潤滑油貯留部側開口部、潤滑油供給源側開口部)24aと、端側(ピニオンギア14,15側、潤滑油供給先側)に開口する端側開口部(ピニオンギア側開口部、潤滑油供給先側開口部)24bと、を有する。孔状部24における中央側開口部24aは、潤滑油貯留部20を構成する底面側凹状部22の一対の傾斜状底面22a,22bのうちの端側傾斜状底面22bに開口している。そして、孔状部24と、底面側凹状部22において孔状部24の中央側開口部24aが開口する端側傾斜状底面22bと、は、ピニオンシャフト13の軸線方向に対する傾き方が互いに逆向きとされている。詳しくは、孔状部24は、図3に示す右上がり(左下がり)となる形でピニオンシャフト13の軸線方向に対して傾斜状をなしているのに対し、底面側凹状部22の端側傾斜状底面22bは、図3に示す右下がり(左上がり)となる形でピニオンシャフト13の軸線方向に対して傾斜状をなしている。言い換えると、孔状部24の中心線と、底面側凹状部22の端側傾斜状底面22bと、の交点を通る形で、ピニオンシャフト13の軸線方向に平行な直線と、同直線の法線と、を描いたとき、これら直線及び法線を直交座標に見立てると、孔状部24の中心線は、正の傾きを有する比例のグラフとなり、底面側凹状部22の端側傾斜状底面22bは、負の傾きを有する反比例のグラフとなる。孔状部24と底面側凹状部22の端側傾斜状底面22bとは、直角に近い角度をなしている。このような構成によれば、潤滑油貯留部20に貯留された潤滑油は、デファレンシャルケース12及びピニオンシャフト13がドライブシャフト2,3の軸線周りに回転(公転)されるのに伴って作用する遠心力によって、潤滑油貯留部20を構成する底面側凹状部22のうちピニオンシャフト13の軸線方向について端側に位置する端側傾斜状底面22bへ向けて付勢される。この潤滑油貯留部20を構成する底面側凹状部22の端側傾斜状底面22bは、ピニオンシャフト13の軸線方向に対して傾斜状をなしていて軸線方向に対する傾き方が孔状部24とは逆向きとされているので、上記のように付勢された潤滑油を端側傾斜状底面22bに開口する孔状部24に効率的に導くことができる。
溝状部25は、図2及び図3に示すように、孔状部24におけるピニオンギア14,15側の開口である端側開口部24bに連なる形でピニオンシャフト13の表面を凹ませて形成されている。このようにすれば、潤滑油は、潤滑油流動路23の孔状部24における端側開口部24bから、ピニオンシャフト13の表面を凹ませる形で設けられた溝状部25を流動することで、ピニオンシャフト13とピニオンギア14,15との間に効率的に供給される。溝状部25は、孔状部24と一直線状をなす形でピニオンシャフト13の表面にて延在しているので、孔状部24から溝状部25へと潤滑油がスムーズに流動する。溝状部25は、孔状部24よりもX軸方向についての寸法、つまり幅寸法が僅かに小さなものとされている。これにより、仮に溝状部を孔状部24と同じ幅寸法とした場合に比べると、ピニオンギア14,15に対するピニオンシャフト13のギア装着部18,19の接触面積を多く確保できる。溝状部25は、孔状部24における端側開口部24bから、ギア装着部18,19のうちのピニオンシャフト13の軸線方向についての端位置よりも中央寄りの位置までの範囲に形成されている。これにより、潤滑油流動路23は、ピニオンギア14,15側における開口範囲が、ギア装着部18,19(ピニオンギア14,15)の形成範囲内とされている。このようにすれば、潤滑油流動路23における端側開口部24b及び溝状部25がギア装着部18,19に装着されるピニオンギア14,15によって閉塞されるので、潤滑油流動路23の端側開口部24bから溝状部25に供給された潤滑油がピニオンギア14,15の外側に漏れ出し難くなる。これにより、ピニオンギア14,15とピニオンシャフト13のギア装着部18,19との間に潤滑油を継続的に存在させることができる。なお、上記のような構成の潤滑油流動路23は、例えば切削加工により形成される。
以上説明したように本実施形態のデファレンシャル装置10は、ピニオンシャフト13と、ピニオンシャフト13に対して回転可能な形で装着されるピニオンギア14,15と、少なくともピニオンギア14,15及び潤滑油を収容するとともにピニオンシャフト13が固定され且つピニオンシャフト13の軸線方向と直交する回転軸周りに回転可能なデファレンシャルケース12と、ピニオンシャフト13のうち軸線方向についてピニオンギア14,15に対して中央側において表面を凹ませる形で設けられる潤滑油貯留部20と、を備える。
このようにすれば、デファレンシャルケース12及びそれに固定されたピニオンシャフト13が、ピニオンシャフト13の軸線方向と直交する回転軸周りに回転されると、ピニオンシャフト13のうち軸線方向についてピニオンギア14,15に対して中央側において表面を凹ませる形で設けられた潤滑油貯留部20に貯留された潤滑油には遠心力が作用する。潤滑油は、上記遠心力によって潤滑油貯留部20からピニオンシャフト13の軸線方向について端側へ向けて移動し、潤滑油貯留部20に対して軸線方向について端側に位置するピニオンギア14,15とピニオンシャフト13との間に効率的に入り込む。これにより、ピニオンシャフト13の軸線周りに回転するピニオンギア14,15の潤滑が図られ、もって焼き付きが生じ難くなる。
また、潤滑油貯留部20は、ピニオンシャフト13の表面を凹ませる形で設けられる表面側凹状部21と、表面側凹状部21の底面21aを凹ませる形で設けられ、その凹み寸法が表面側凹状部21よりも大きな底面側凹状部22と、から構成される。このようにすれば、底面側凹状部22は、表面側凹状部21の底面21aを凹ませる形で設けられているので、ピニオンシャフト13の製造時に底面側凹状部22を形成し易くなっている。表面側凹状部21の底面21aを凹ませる形で設けられた底面側凹状部22の凹み寸法が相対的に大きいので、底面側凹状部22によって多くの潤滑油が貯留されるとともに貯留された潤滑油が漏れ難くなる。
また、底面側凹状部22は、ピニオンシャフト13において軸線方向についての中央位置から偏在している。このようにすれば、デファレンシャルケース12及びピニオンシャフト13が回転すると、ピニオンシャフト13において軸線方向についての中央位置から偏在する底面側凹状部22に貯留された潤滑油にはより確実に遠心力が作用することになる。これにより、ピニオンギア14,15とピニオンシャフト13との間に潤滑油を効率的に供給することができる。
また、ピニオンシャフト13には、潤滑油貯留部20側とピニオンギア14,15側とにそれぞれ開口する潤滑油流動路23が設けられている。このようにすれば、潤滑油貯留部20に貯留された潤滑油は、デファレンシャルケース12及びピニオンシャフト13の回転に伴って作用する遠心力によって潤滑油貯留部20側に開口した潤滑油流動路23へと流し込まれる。潤滑油流動路23に流し込まれた潤滑油は、潤滑油流動路23を流動してピニオンギア14,15側の開口からピニオンシャフト13とピニオンギア14,15との間に入り込む。このように、潤滑油流動路23によってピニオンギア14,15に対して潤滑油を効率的に供給することができる。なお、潤滑油流動路23がピニオンギア14,15側に開口する分だけ、ピニオンシャフト13とピニオンギア14,15との接触面積が減少するものの、潤滑油を貯留するための潤滑油貯留部20と、潤滑油を流動させるための潤滑油流動路23と、を機能毎に分けて設置することで、潤滑油流動路23を小型に保つことができ、それによりピニオンギア14,15とピニオンシャフト13との接触面積を極力大きく確保することができる。
また、潤滑油流動路23は、ピニオンシャフト13を貫通する孔状部24を少なくとも有する。このようにすれば、潤滑油貯留部20に貯留された潤滑油は、ピニオンシャフト13を貫通する潤滑油流動路23の孔状部24を流動することで、ピニオンシャフト13の外周面のうち、潤滑油貯留部20に対してピニオンシャフト13の周方向について離間した位置に効率的に供給される。
また、潤滑油流動路23は、孔状部24がピニオンシャフト13の軸線方向に対して傾斜状をなしており、潤滑油貯留部20は、孔状部24が開口する端側傾斜状底面(底面)22bを有するとともに端側傾斜状底面22bがピニオンシャフト13の軸線方向に対して傾斜状をなしていて軸線方向に対する傾き方が孔状部24とは逆向きとされる。このようにすれば、潤滑油貯留部20に貯留された潤滑油は、デファレンシャルケース12及びピニオンシャフト13の回転に伴って作用する遠心力によって潤滑油貯留部20の端側傾斜状底面22bへ向けて付勢される。この潤滑油貯留部20の端側傾斜状底面22bは、ピニオンシャフト13の軸線方向に対して傾斜状をなしていて軸線方向に対する傾き方が孔状部24とは逆向きとされているので、上記のように付勢された潤滑油を端側傾斜状底面22bに開口する孔状部24に効率的に導くことができる。
また、潤滑油流動路23は、孔状部24がピニオンシャフト13の軸心を横切る形で直線状に延在する。このようにすれば、潤滑油貯留部20に貯留された潤滑油は、潤滑油流動路23の孔状部24を流動することで、ピニオンシャフト13の外周面のうち、潤滑油貯留部20に対してピニオンシャフト13の周方向について約180度の角度間隔を空けた位置に供給される。これにより、ピニオンギア14,15とピニオンシャフト13との間に潤滑油をより効率的に供給することができる。
また、潤滑油流動路23は、孔状部24におけるピニオンギア14,15側の開口に連なるとともにピニオンシャフト13の表面を凹ませる形で設けられる溝状部25を有する。このようにすれば、潤滑油は、潤滑油流動路23の孔状部24におけるピニオンギア14,15側の開口から、ピニオンシャフト13の表面を凹ませる形で設けられた溝状部25を流動することで、ピニオンシャフト13とピニオンギア14,15との間に効率的に供給される。
また、潤滑油流動路23は、潤滑油貯留部20よりも幅狭に形成されている。このようにすれば、潤滑油流動路23がピニオンギア14,15側に開口するのに起因してピニオンシャフト13とピニオンギア14,15との接触面積が減少するのを抑制することができる。
また、潤滑油流動路23は、ピニオンギア14,15側における開口範囲がピニオンギア14,15の形成範囲内となるよう形成されている。このようにすれば、潤滑油流動路23におけるピニオンギア14,15側の開口がピニオンシャフト13に装着されるピニオンギア14,15によって閉塞されるので、潤滑油流動路23を通してピニオンギア14,15側に供給された潤滑油がピニオンギア14,15の外側に漏れ出し難くなる。これにより、ピニオンシャフト13とピニオンギア14,15との間に潤滑油を継続的に存在させることができる。
<実施形態2>
本発明の実施形態2を図4または図5によって説明する。この実施形態2では、潤滑油流動路123の構成を変更したものを示す。なお、上記した実施形態1と同様の構造、作用及び効果について重複する説明は省略する。
本実施形態に係る一対の潤滑油流動路123は、図4及び図5に示すように、孔状部124として、ピニオンシャフト113の軸線方向に対して傾斜状をなす第1孔状部26と、ピニオンシャフト113の軸線方向に対して傾斜状をなしていて同軸線方向に対する傾き方が第1孔状部26とは逆向きとされ且つ第1孔状部26に連通する第2孔状部27と、をそれぞれ有している。さらには、一対の潤滑油流動路123は、溝状部125として、第1孔状部26における端側開口部124bに連なる第1溝状部28と、第2孔状部27における端側開口部124bに連なる第2溝状部29と、をそれぞれ有している。このような構成によれば、デファレンシャルケース(本実施形態では図示せず)及びピニオンシャフト113が正逆いずれの向きに回転した場合であっても、潤滑油貯留部120に貯留された潤滑油は、潤滑油流動路123のうちピニオンシャフト113の軸線方向に対して傾斜状をなす第1孔状部26と、ピニオンシャフト113の軸線方向に対して傾斜状をなしていて軸線方向に対する傾き方が第1孔状部26とは逆向きとされる第2孔状部27と、の少なくともいずれか一方を流動し、第1溝状部28と第2溝状部29との少なくともいずれか一方を経てピニオンシャフト113とピニオンギア114,115との間に供給される。しかも、第1孔状部26と第2孔状部27とが互いに連通しているので、両孔状部26,27間で潤滑油が行き来し、潤滑油に係る流動の自由度が高められている。これにより、ピニオンシャフト113とピニオンギア114,115との間に潤滑油をより効率的に供給することができる。
詳しくは、第1孔状部26は、ピニオンシャフト113の軸心を横切るとともに図5に示す右上がり(左下がり)となる形でピニオンシャフト113の軸線方向に対して傾斜状をなしているのに対し、第2孔状部27は、ピニオンシャフト113の軸心を横切るとともに図5に示す右下がり(左上がり)となる形でピニオンシャフト113の軸線方向に対して傾斜状をなしている。第1孔状部26及び第2孔状部27は、ピニオンシャフト113の軸線方向に対してなす傾斜角度がほぼ同じとされている。従って、第1孔状部26及び第2孔状部27の交点(連通箇所)は、ピニオンシャフト113の軸心と重なり合う位置関係となる。第1溝状部28及び第2溝状部29は、ピニオンシャフト113の周方向について約180度の角度間隔を空けた位置(背中合わせとなる位置)に配置されている。本実施形態では、孔状部124及び溝状部125の設置数が4つずつとされており、潤滑油貯留部120の設置数(2つ)の2倍ずつとなっている。従って、2つの孔状部124の各中央側開口部124aが共通となる1つの潤滑油貯留部120に開口している。潤滑油貯留部120は、底面側凹状部122がピニオンシャフト113の軸線方向について中央位置に配されるとともに、断面形状が略台形とされている。潤滑油貯留部120の底面120aは、断面形状が略台形とされる底面側凹状部122の3つの面によって構成されており、そのうちピニオンシャフト113の軸線方向に対して傾斜状をなす一対の傾斜状底面30,31には、2つの孔状部124の各中央側開口部124aが開口している。なお、表面側凹状部121については、上記した実施形態1に記載されたものと同様である。
なお、以下では一対の潤滑油流動路123を区別する場合には、図5に示す左側(図4に示す奥側)のものを「第1潤滑油流動路」としてその符号(第1孔状部26及び第2孔状部27を含む)に添え字Aを、図5に示す右側(図4に示す手前側)のものを「第2潤滑油流動路」としてその符号(第1孔状部26及び第2孔状部27を含む)に添え字Bを付し、区別せずに総称する場合には、符号に添え字を付さないものとする。同様に、一対の潤滑油貯留部120を区別する場合には、図5に示す上側のものを「第1潤滑油貯留部」としてその符号に添え字Aを、図5に示す下側のものを「第2潤滑油貯留部」としてその符号に添え字Bを付し、区別せずに総称する場合には、符号に添え字を付さないものとする。
より詳しくは、第1潤滑油流動路123Aは、図5に示すように、その第1孔状部26Aの中央側開口部124aが第1潤滑油貯留部120Aの底面120aにおける一方(図5に示す左側)の傾斜状底面30に、第2孔状部27Aの中央側開口部124aが第2潤滑油貯留部120Bの底面120aにおける一方の傾斜状底面30に、それぞれ開口している。これに対し、第2潤滑油流動路123Bは、その第1孔状部26Bの中央側開口部124aが第1潤滑油流動路123Aを構成する第1孔状部26Aに並行して第2潤滑油貯留部120Bの底面120aにおける他方(図5に示す右側)の傾斜状底面31に、第2孔状部27Bの中央側開口部124aが第1潤滑油流動路123Aを構成する第2孔状部27Aに並行して第1潤滑油貯留部120Aの底面120aにおける他方の傾斜状底面31に、それぞれ開口している。従って、第1潤滑油貯留部120Aに貯留された潤滑油は、第1潤滑油流動路123Aを構成する第1孔状部26Aと、第2潤滑油流動路123Bを構成する第2孔状部27Bと、にそれぞれ流動し、第2潤滑油貯留部120Bに貯留された潤滑油は、第2潤滑油流動路123Bを構成する第1孔状部26Bと、第1潤滑油流動路123Aを構成する第2孔状部27Aと、にそれぞれ流動する。このように、異なる潤滑油流動路123A,123Bを構成する第1孔状部26A,26Bと第2孔状部27A,27Bとが共通の潤滑油貯留部120A,120Bに開口しているので、配置効率が良好となる。
以上説明したように本実施形態によれば、潤滑油流動路123は、孔状部124として、ピニオンシャフト113の軸線方向に対して傾斜状をなす第1孔状部26と、ピニオンシャフト113の軸線方向に対して傾斜状をなしていて軸線方向に対する傾き方が第1孔状部26とは逆向きとされ且つ第1孔状部26に連通する第2孔状部27と、を少なくとも有する。このようにすれば、デファレンシャルケース及びピニオンシャフト113が正逆いずれの向きに回転した場合であっても、潤滑油は、潤滑油流動路123のうちピニオンシャフト113の軸線方向に対して傾斜状をなす第1孔状部26と、ピニオンシャフト113の軸線方向に対して傾斜状をなしていて軸線方向に対する傾き方が第1孔状部26とは逆向きとされる第2孔状部27と、の少なくともいずれか一方を流動する。しかも、第1孔状部26と第2孔状部27とが互いに連通しているので、両孔状部26,27間で潤滑油が行き来し、潤滑油に係る流動の自由度が高められている。これにより、ピニオンギア114,115とピニオンシャフト113との間に潤滑油をより効率的に供給することができる。
また、潤滑油貯留部120は、ピニオンシャフト113の周方向について異なる位置に少なくとも一対設けられており、潤滑油流動路123は、少なくとも第1孔状部26及び第2孔状部27をそれぞれ有する形で一対設けられており、一方の潤滑油貯留部120である第1潤滑油貯留部120Aには、一方の潤滑油流動路123である第1潤滑油流動路123Aを構成する第1孔状部26Aと、他方の潤滑油流動路123である第2潤滑油流動路123Bを構成する第2孔状部27Bと、がそれぞれ開口し、他方の潤滑油貯留部120である第2潤滑油貯留部120Bには、他方の潤滑油流動路123である第2潤滑油流動路123Bを構成する第1孔状部26Bと、一方の潤滑油流動路123である第1潤滑油流動路123Aを構成する第2孔状部27Aと、がそれぞれ開口する。このようにすれば、一方の潤滑油貯留部120である第1潤滑油貯留部120Aに貯留された潤滑油は、一方の潤滑油流動路123である第1潤滑油流動路123Aを構成する第1孔状部26Aと、他方の潤滑油流動路123である第2潤滑油流動路123Bを構成する第2孔状部27Bと、にそれぞれ流動し、他方の潤滑油貯留部120である第2潤滑油貯留部120Bに貯留された潤滑油は、他方の潤滑油流動路123である第2潤滑油流動路123Bを構成する第1孔状部26Bと、一方の潤滑油流動路123である第1潤滑油流動路123Aを構成する第2孔状部27Aと、にそれぞれ流動する。異なる潤滑油流動路123を構成する第1孔状部26と第2孔状部27とが共通の潤滑油貯留部120に開口しているので、配置効率が良好となる。
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記した各実施形態では、ピニオンギアが「すべり軸受構造」でもってピニオンシャフトによって回転可能に軸支される構成を示したが、「すべり軸受構造」以外にも例えば「転がり軸受構造」を用いることも可能である。具体的な「転がり軸受構造」としては、設置スペースが小さく済む「ニードルベアリング」などを採用するのが好ましい。
(2)上記した各実施形態では、潤滑油貯留部が、ピニオンシャフトの周方向について180度の角度間隔を空けた位置に2つ設けられる場合を示したが、2つの潤滑油貯留部におけるピニオンシャフトの周方向についての角度間隔を180度以外とし、不等角度間隔の配置を採ることも可能である。また、ピニオンシャフトの周方向について間隔を空けて3つ以上の潤滑油貯留部を設けることも可能であり、その場合も等角度間隔の配置または不等角度間隔の配置のいずれも採ることが可能である。
(3)上記した各実施形態以外にも、潤滑油貯留部(表面側凹状部、底面側凹状部)や潤滑油流動路(孔状部、溝状部)の具体的な断面形状や形成範囲は適宜に変更可能である。
(4)上記した実施形態1,2では、潤滑油流動路の孔状部がピニオンシャフトの軸心を横切る構成を示したが、潤滑油流動路の孔状部がピニオンシャフトの軸心を横切ることなくピニオンシャフトを貫通する構成であっても構わない。その場合、孔状部における中央側開口部と端側開口部との間の角度間隔が180度以外の角度となる。
(5)上記した実施形態1,2では、潤滑油流動路の孔状部と潤滑油貯留部の底面(端側傾斜状底面、傾斜状底面)とが直角に近い角度をなす構成を示したが、潤滑油流動路の孔状部と潤滑油貯留部の底面とが直角をなしていても勿論構わない。また、潤滑油流動路の孔状部と潤滑油貯留部の底面とが直角に近いとは言えない角度をなしていても構わない。
(6)上記した実施形態1,2では、潤滑油流動路の孔状部が直線状に延在する構成を示したが、潤滑油流動路の孔状部が、例えば途中で屈曲したり、湾曲していても構わない。
(7)上記した各実施形態では、潤滑油流動路の溝状部が直線状に延在する構成を示したが、潤滑油流動路の溝状部が、例えば途中で屈曲したり、湾曲していても構わない。
(8)上記した実施形態1,2では、潤滑油流動路の孔状部の断面形状が円形とされる場合を示したが、孔状部の断面形状を例えば楕円形などに変更することも可能である。
(9)上記した実施形態2の変形例として、第1潤滑油貯留部と第2潤滑油貯留部とのうちのいずれか1つのみを残し、孔状部については残された潤滑油貯留部に開口する2つのみ(1つずつの第1孔状部及び第2孔状部)を残すようにしても構わない。その場合は、溝状部についても残された2つの孔状部に開口する2つのみ(1つずつの第1溝状部及び第2溝状部)を残すようにすればよい。
(10)上記した実施形態2の変形例として、第1潤滑油流動路と第2潤滑油流動路とのうちのいずれか1つのみを残すようにしても構わない。
(11)上記した実施形態2の変形例として、第1孔状部と第2孔状部とが互いに交差するものの互いに連通することがない構成を採ることも可能である。
(12)上記した実施形態2の変形例として、第1潤滑油流動路を構成する第1孔状部と、第2潤滑油流動路を構成する第1孔状部と、が平行をなしていなくても構わない。同様に、第1潤滑油流動路を構成する第2孔状部と、第2潤滑油流動路を構成する第2孔状部と、が平行をなしていなくても構わない。
(13)上記した実施形態1,2の変形例として、溝状部を省略し、孔状部のみによって潤滑油流動路を構成することも可能である。
(14)上記した実施形態1,2の変形例として、潤滑油貯留部が1段階の凹状をなしていても構わない。
(15)上記した各実施形態では、潤滑油貯留部が1段階または2段階の凹状をなす場合を示したが、潤滑油貯留部が3段階以上の凹状をなしていても構わない。
(16)上記した各実施形態では、潤滑油流動路が潤滑油貯留部よりも幅狭とされる構成を示したが、潤滑油流動路と潤滑油貯留部とが同一幅であっても構わない。また、潤滑油流動路が潤滑油貯留部よりも幅広とされる構成であっても構わない。
(17)上記した各実施形態では、潤滑油流動路がX軸方向について潤滑油貯留部の中央位置に配される場合を示したが、潤滑油流動路がX軸方向について潤滑油貯留部の中央位置から偏在していても構わない。また、潤滑油流動路がX軸方向について潤滑油貯留部とは重ならない配置であっても構わない。