以下、図面を参照しながら、本発明の車線逸脱抑制装置の実施形態について説明する。以下では、本発明の車線逸脱抑制装置の実施形態が搭載された車両1を用いて説明を進める。
(1)車両1の構成
図1のブロック図を参照して、本実施形態の車両1の構成について説明する。図1に示すように、車両1は、ブレーキペダル111と、マスタシリンダ112と、ブレーキパイプ113FLと、ブレーキパイプ113RLと、ブレーキパイプ113FRと、ブレーキパイプ113RRと、左前輪121FLと、左後輪121RLと、右前輪121FRと、右後輪121RRと、ホイールシリンダ122FLと、ホイールシリンダ122RLと、ホイールシリンダ122FRと、ホイールシリンダ122RRと、「制動装置」の一具体例であるブレーキアクチュエータ131と、ステアリングホイール141と、振動アクチュエータ142と、車速センサ151と、車輪速センサ152と、ヨーレートセンサ153と、加速度センサ154と、カメラ155と、ディスプレイ161と、スピーカ162と、「車線逸脱抑制装置」の一具体例であるECU(Electronic Control Unit)17とを備えている。
ブレーキペダル111は、車両1を制動するためにドライバによって踏み込まれるペダルである。マスタシリンダ112は、マスタシリンダ112内のブレーキフルード(或いは、任意の流体)の圧力を、ブレーキペダル111の踏み込み量に応じた圧力に調整する。以下、説明の便宜上、“ブレーキフルードの圧力”を、“油圧”と称する。マスタシリンダ112内の油圧は、ブレーキパイプ113FL、113RL、113FR及び113RRを夫々介してホイールシリンダ122FL、122RL、122FR及び122RRに伝達される。このため、ホイールシリンダ122FL、122RL、122FR及び122RRに伝達される油圧に応じた制動力が、夫々、左前輪121FL、左後輪121RL、右前輪121FR及び右後輪121RRに付与される。
ブレーキアクチュエータ131は、ECU17の制御下で、ブレーキペダル111の踏み込み量とは無関係に、ホイールシリンダ122FL、122RL、122FR及び122RRの夫々に伝達される油圧を調整可能である。従って、ブレーキアクチュエータ131は、ブレーキペダル111の踏み込み量とは無関係に、左前輪121FL、左後輪121RL、右前輪121FR及び右後輪121RRの夫々に付与される制動力を調整可能である。
ステアリングホイール141は、車両1を操舵する(つまり、転舵輪を転舵する)ためにドライバによって操作される操作子である。尚、本実施形態では、転舵輪は、左前輪121FL及び右前輪121FRであるものとする。振動アクチュエータ142は、ECU17の制御下で、ステアリングホイール141を振動させることが可能である。
車速センサ151は、車両1の車速Vvを検出する。車輪速センサ152は、左前輪121FL、左後輪121RL、右前輪121FR及び右後輪121RRの夫々の車輪速Vwを検出する。ヨーレートセンサ153は、車両1のヨーレートγを検出する。加速度センサ154は、車両1の加速度G(具体的には、前後加速度Gx及び横加速度Gy)を検出する。カメラ155は、車両1の前方の外部状況を撮像する撮像機器である。車速センサ151から加速度センサ154の検出結果を示す検出データ及びカメラ155が撮像した画像を示す画像データは、ECU17に出力される。
ディスプレイ161は、ECU17の制御下で、任意の情報を表示可能である。スピーカ162は、ECU17の制御下で、任意の音声を出力可能である。
ECU17は、車両1の全体の動作を制御する。本実施形態では特に、ECU17は、現在走行している走行車線からの車両1の逸脱を抑制するための逸脱抑制動作を行う。従って、ECU17は、いわゆるLDA(Lane Departure Alert:レーンデパーチャーアラート)又はLDP(Lane Departure Prevention:レーンデパーチャープリベンション)を実現するための制御装置として機能する。
逸脱抑制動作を行うために、ECU17は、ECU17の内部に論理的に実現される処理ブロックとして、データ取得部171と、「逸脱抑制手段」の一具体例であるLDA制御部172と、「制御手段」の一具体例である比率調整部173とを備えている。尚、データ取得部171、LDA制御部172及び比率調整部173の夫々の動作については、後に図2等を参照しながら詳述するが、以下にその概略について簡単に説明する。データ取得部171は、車速センサ151から加速度センサ154の検出結果を示す検出データ及びカメラ155が撮像した画像を示す画像データを取得する。LDA制御部172は、データ取得部171が取得した検出データ及び画像データに基づいて、現在走行している走行車線から車両1が逸脱する可能性がある場合に、左前輪121FL、左後輪121RL、右前輪121FR及び右後輪121RRのうちの少なくとも一つに付与される制動力を用いて、走行車線からの車両1の逸脱を抑制可能な抑制ヨーモーメントが車両1に付与されるように、ブレーキアクチュエータ131を制御する。尚、本実施形態における「走行車線からの車両1の逸脱の抑制」とは、抑制ヨーモーメントが付与されていない場合に想定される走行車線からの車両1の逸脱距離と比較して、抑制ヨーモーメントが付与されている場合における走行車線からの車両1の実際の逸脱距離を小さくすることを意味する。比率率調整部173は、抑制ヨーモーメントの付与の際に、車両1が走行している路面の摩擦係数μに基づいて、車両1に付与される制動力に対する前輪(つまり、左前輪121FL及び右前輪121FRの少なくとも一方)に付与される制動力の比率r1及び車両1に付与される制動力に対する後輪(つまり、左後輪121RL及び右後輪121RRの少なくとも一方)に付与される制動力の比率r2を調整する。尚、比率r1及びr2は、夫々、「第1比率」及び「第2比率」の一具体例である。また、以下の説明では、車両1に付与される制動力を“総制動力”と称し、前輪に付与される制動力を“前輪制動力”と称し、後輪に付与される制動力を、“後輪制動力”と称する。
(2)脱抑制動作の詳細
続いて、図2のフローチャートを参照しながら、ECU17が行う車線逸脱抑制動作について説明する。
図2に示すように、まず、データ取得部171は、車速センサ151から加速度センサ154の検出結果を示す検出データ及びカメラ155が撮像した画像を示す画像データを取得する(ステップS10)。
その後、LDA制御部172は、ステップS10で取得された画像データを解析することで、車両1が現在走行している走行車線の車線端(本実施形態では、車線端の一例として白線が用いられる)を、カメラ155が撮像した画像内で特定する(ステップS20)。
その後、LDA制御部172は、ステップS20で特定した白線に基づいて、車両1が現在走行している走行車線の曲率半径Rを算出する(ステップS21)。尚、走行車線の曲率半径Rは、実質的には、白線の曲率半径と等価である。このため、LDA制御部172は、ステップS20で特定した白線の曲率半径を算出すると共に、当該算出した曲率半径を、走行車線の曲率半径Rとして取り扱ってもよい。但し、LDA制御部172は、GPS(Global Positioning System)用いて特定される車両1の位置情報及びナビゲーション動作に用いられる地図情報を用いて、車両1が現在走行している走行車線の曲率半径Rを算出してもよい。
LDA制御部172は、更に、ステップS20で特定した白線に基づいて、車両1の現在の横位置Xを算出する(ステップS22)。本実施形態の「横位置X」は、走行車線が延伸する方向(車線延伸方向)に直交する車線幅方向に沿った、走行車線の中央から車両1までの距離(典型的には、車両1の中央までの距離)を示す。この場合、走行車線の中央から右側に向かう方向及び左側に向かう方向のいずれか一方が、正の方向に設定され、走行車線の中央から右側に向かう方向及び左側に向かう方向のいずれか他方が、負の方向に設定されることが好ましい。後述する横速度Vlや、上述した抑制ヨーモーメント等のヨーモーメントや、上述した横加速度Gyや、上述したヨーレートγ等についても同様である。
LDA制御部172は、更に、ステップS20で特定した白線に基づいて、車両1の逸脱角度θを算出する(ステップS22)。本実施形態の「逸脱角度θ」は、走行車線と車両1の前後方向軸とがなす角度(つまり、白線と車両1の前後方向軸とがなす角度)を示す。
LDA制御部172は、更に、白線から算出された車両1の横位置Xの時系列データに基づいて、車両1の横速度Vlを算出する(ステップS22)。但し、LDA制御部172は、車速センサ151の検出結果及び算出した逸脱角度θと、加速度センサ154の検出結果の少なくとも一方に基づいて、車両1の横速度Vlを算出してもよい。本実施形態の「横速度Vl」は、車線幅方向に沿った車両1の速度を示す。
LDA制御部172は、更に、許容逸脱距離Dを設定する(ステップS23)。許容逸脱距離Dは、走行車線から車両1が逸脱する場合において走行車線からの車両1の逸脱距離(つまり、白線からの車両1の逸脱距離)の許容最大値を示す。このため、逸脱抑制動作は、走行車線からの車両1の逸脱距離が許容逸脱距離D内に収まるように、車両1に対して抑制ヨーモーメントを付与する動作となる。
LDA制御部172は、法規等の要請(例えば、NCAP:New Car Assessment Programmeの要請)を満たすという観点から許容逸脱距離Dを設定してもよい。この場合、法規等の要請を満たすという観点から設定された許容逸脱距離Dは、デフォルトの許容逸脱距離Dとして用いられてもよい。
その後、LDA制御部172は、現在走行している走行車線から車両1が逸脱する可能性があるか否かを判定する(ステップS24)。具体的には、LDA制御部172は、将来の横位置Xfを算出する。例えば、LDA制御部172は、車両1が現在の位置から前方注視距離に相当する距離を走行した時点における横位置Xを、将来の横位置Xfとして算出する。将来の横位置Xfは、現在の横位置Xに対して、横速度Vlと車両1が前方注視距離を走行するために必要な時間Δtとの乗算値を加算又は減算することで算出可能である。その後、LDA制御部172は、将来の横位置Xfの絶対値が逸脱閾値以上であるか否かを判定する。車両1が車線延伸方向に平行な方向を向いていると仮定する場合、逸脱閾値は、例えば、走行車線の幅及び車両1の幅に基づいて定まる値(具体的には、(走行車線の幅−車両1の幅)/2)である。この場合、将来の横位置Xfの絶対値が逸脱閾値と一致する状況は、車線幅方向に沿った車両1の側面(例えば、走行車線の中央から遠い方の側面)が白線上に位置する状況に相当する。将来の横位置Xfの絶対値が逸脱閾値より大きくなる状況は、車線幅方向に沿った車両1の側面(例えば、走行車線の中央から遠い方の側面)が白線の外側に位置する状況に相当する。このため、将来の横位置Xfの絶対値が逸脱閾値以上でない場合には、LDA制御部172は、現在走行している走行車線から車両1が逸脱する可能性がないと判定する。一方で、将来の横位置Xfの絶対値が逸脱閾値以上となる場合には、LDA制御部172は、現在走行している走行車線から車両1が逸脱する可能性があると判定する。但し、実際には車両1が車線延伸方向に平行でない方向を向いている場合もあるため、逸脱閾値として、上述の例とは異なる任意の値が用いられてもよい。
尚、ここで説明した動作は、現在走行している走行車線から車両1が逸脱する可能性があるか否かを判定する動作の一例に過ぎない。従って、LDA制御部172は、任意の判定基準を用いて、現在走行している走行車線から車両1が逸脱する可能性があるか否かを判定してもよい。尚、「走行車線から車両1が逸脱する可能性がある」状況の一例として、近い将来に(例えば、上述した前方注視距離に相当する距離を走行した時点で)車両1が白線を跨ぐ又は踏む状況があげられる。
ステップS24の判定の結果、走行車線から車両1が逸脱する可能性がないと判定される場合には(ステップS24:No)、図2に示す逸脱抑制動作が終了する。従って、走行車線から車両1が逸脱する可能性があると判定される場合に行われる動作(ステップS25からステップS29)は行われない。つまり、LDA制御部172は、抑制ヨーモーメントを車両1に付与しない(つまり、抑制ヨーモーメントを車両1に付与可能な制動力を付与しない)ように、ブレーキアクチュエータ131を制御する。更に、LDA制御部172は、走行車線から車両1が逸脱する可能性がある旨を、ドライバに対して警告しない。
走行車線から車両1が逸脱する可能性がないと判定されたことに起因して図2に示す逸脱抑制動作が終了した場合には、ECU17は、所定期間(例えば、数ミリ秒から数十ミリ秒)が経過した後に再度図2に示す逸脱抑制動作を開始する。つまり、図2に示す逸脱抑制動作は、所定期間に応じた周期で繰り返し行われる。
他方で、ステップS24の判定の結果、走行車線から車両1が逸脱する可能性があると判定される場合には(ステップS24:Yes)、LDA制御部172は、走行車線から車両1が逸脱する可能性がある旨を、ドライバに対して警告する(ステップS25)。例えば、LDA制御部172は、走行車線から車両1が逸脱する可能性があることを示す画像を表示するように、ディスプレイ161を制御してもよい。例えば、LDA制御部172は、走行車線から車両1が逸脱する可能性があることをステアリングホイール141の振動でドライバに伝えるように、振動アクチュエータ142を制御してもよい。例えば、LDA制御部172は、走行車線から車両1が逸脱する可能性があることを警報音でドライバに伝えるように、スピーカ(いわゆる、ブザー)162を制御してもよい。
走行車線から車両1が逸脱する可能性があると判定される場合には更に、LDA制御部172は、抑制ヨーモーメントを車両1に付与可能な制動力を付与するように、ブレーキアクチュエータ131を制御する(ステップS26からステップS29)。
具体的には、車両1が走行車線から逸脱する可能性がある場合には、車両1は、走行車線の中央から離れるように走行している可能性が高い。このため、車両1の走行軌跡が、走行車線の中央から離れるように走行する走行軌跡から、走行車線の中央に向かって走行する走行軌跡に変更されれば、走行車線からの車両1の逸脱が抑制される。このため、LDA制御部172は、検出データ、画像データ、特定した白線、算出した曲率半径R、算出した横位置X、算出した横速度Vl、算出した逸脱角度θ及び設定した許容逸脱距離Dに基づいて、走行車線の中央から離れるように走行していた車両1が走行車線の中央に向かうように走行することになる新たな走行軌跡を算出する。このとき、LDA制御部172は、ステップS23で設定した許容逸脱距離Dの制約を満たす新たな走行軌跡を算出する。更に、LDA制御部172は、算出した新たな走行軌跡を走行する車両1に発生すると推定されるヨーレートを、目標ヨーレートγtgtとして算出する(ステップS26)。
その後、LDA制御部172は、車両1に目標ヨーレートγtgtを発生させるために車両1に付与するべきヨーモーメントを、目標ヨーモーメントMtgtとして算出する(ステップS27)。尚、目標ヨーモーメントMtgtは、抑制ヨーモーメントと等価である。
その後、比率調整部173は、車両1が現在走行している走行車線の路面の摩擦係数μを推定する(ステップS281)。尚、摩擦係数μを推定する動作としては、既存の動作を採用可能であるため、その詳細な説明を省略する。
その後、比率調整部173は、総制動力に対する前輪制動力の比率(つまり、前輪制動力が総制動力に占める比率)r1を設定する(ステップS282)。更に、比率調整部173は、総制動力に対する後輪制動力の比率(つまり、後輪制動力が総制動力に占める比率)r2を設定する(ステップS282)。尚、総制動力は、典型的には、前輪制動力と後輪制動力との総和と等価である。
左後輪RLに付与される制動力の大きさは、ホイールシリンダ122RLに伝達される油圧に比例する。右後輪RRに付与される制動力の大きさは、ホイールシリンダ122RRに伝達される油圧に比例する。左前輪FLに付与される制動力の大きさは、ホイールシリンダ122FLに伝達される油圧に比例する。右前輪FRに付与される制動力の大きさは、ホイールシリンダ122FRに伝達される油圧に比例する。従って、比率r1は、マスタシリンダ112内の油圧のうち、前輪に対応するホイールシリンダ122FL及び122FRに伝達される油圧の比率(つまり、配分率)と等価である。同様に、比率r2は、マスタシリンダ112内の油圧のうち、後輪に対応するホイールシリンダ122RL及び122RRに伝達される油圧の比率(つまり、配分率)と等価である。
比率調整部173は、ステップS282において推定された摩擦係数μに基づいて、比率r1及びr2を設定する。具体的には、比率調整部173は、摩擦係数μが所定閾値K以上である場合には、比率r1及びr2の夫々を、同一の第1の値(具体的には、50%)に設定する。但し、比率調整部173は、比率r1が比率r2よりも小さくなるように、比率r1及びr2を設定してもよい。一方で、比率調整部173は、摩擦係数μが所定閾値Kより小さい場合には、比率r1を、第1の値よりも大きい第2の値(例えば、50%より大きい値)に設定し、比率r2を、第1の値よりも小さい第3の値(例えば、50%より小さい値)に設定する。つまり、比率調整部173は、摩擦係数μが所定閾値Kより小さい場合には、比率r1が比率r2より大きくなるように、比率r1及びr2を設定する。このとき、比率調整部173は、摩擦係数μが小さくなるほど比率r1が大きくなり且つ比率r2が小さくなるように、比率r1及びr2を設定することが好ましい。
ステップS282では、比率調整部173は、例えば、摩擦係数μと比率r1及びr2の夫々との関係を示すマップ(図3(a)から図3(c)参照)に基づいて、比率r1及びr2を設定してもよい。尚、図3(a)は、摩擦係数μが所定閾値Kの一例である閾値K1(但し、0<K1<1)以上である場合に比率r1及びr2の夫々が50%になり、摩擦係数が閾値K1より小さい場合に、摩擦係数μが小さくなるほど比率r1が連続的に大きくなり且つ比率r2が連続的に小さくなるマップの例を示している。特に、図3(a)は、摩擦係数μが0である場合に比率r1が100%になり且つ比率r2が0%になるマップの例を示している。図3(b)は、摩擦係数μが所定閾値Kの一例である閾値K2(但し、0<K2<1)以上である場合に比率r1及びr2の夫々が50%になり、摩擦係数μが閾値K2より小さい場合に、摩擦係数μが小さくなるほど比率r1が段階的に大きくなり且つ比率r2が段階的に小さくなるマップの例を示している。特に、図3(b)は、摩擦係数μが閾値K2より小さく且つ閾値K3(但し、0<K3<K2)以上である場合に比率r1が70%になり且つ比率r2が30%になり、摩擦係数μが閾値K3より小さい場合に比率r1が100%になり且つ比率r2が0%になるマップの例を示している。図3(c)は、摩擦係数が所定閾値Kの一例である閾値K4(但し、K3=1)である場合に比率r1及びr2の夫々が50%になり、摩擦係数μが閾値K4より小さい場合に、摩擦係数μが小さくなるほど比率r1が連続的に大きくなり且つ比率r2が連続的に小さくなるマップの例を示している。特に、図3(c)は、摩擦係数μが0である場合に比率r1が100%になり且つ比率r2が0%になるマップの例を示している。
その後、LDA制御部172は、左前輪121FL、左後輪121RL、右前輪121FR及び右後輪121RRの夫々に付与される制動力を個別に算出する(ステップS283)。このとき、LDA制御部172は、目標ヨーモーメントMtgtを付与可能であって且つ比率r1及びr2の条件を満たす制動力を算出する。その後、LDA制御部172は、算出した制動力を発生させるために必要な油圧を指定する圧力指令値を算出する(ステップS283)。この場合、LDA制御部172は、ホイールシリンダ122FL、122RL、122FR及び122RRの夫々の内部での油圧を指定する圧力指令値を個別に算出する。
例えば、車両1の進行方向に対して右側に位置する白線を跨いで車両1が走行車線から逸脱する可能性があると判定される場合には、走行車線からの車両1の逸脱を抑制するためには、車両1の進行方向に対して左側に向けて車両1を偏向させることが可能な抑制ヨーモーメントが車両1に付与されればよい。この場合には、右前輪121FR及び右後輪121RRに制動力が付与されない一方で左前輪121FL及び左後輪121RLの少なくとも一方に制動力が付与されれば、又は、右前輪121FR及び右後輪121RRの少なくとも一方に相対的に小さい制動力が付与される一方で左前輪121FL及び左後輪121RLの少なくとも一方に相対的に大きい制動力が付与されれば、左側に向けて車両1を偏向させることが可能な抑制ヨーモーメントが車両1に付与される。車両1の進行方向に対して左側の白線を跨いで車両1が走行車線から逸脱する可能性があると判定される場合には、逆に、左前輪121FL及び左後輪121RLに制動力が付与されない一方で右前輪121FR及び右後輪121RRの少なくとも一方に制動力が付与されれば、又は、左前輪121FL及び左後輪121RLの少なくとも一方に相対的に小さい制動力が付与される一方で右前輪121FR及び右後輪121RRの少なくとも一方に相対的に大きい制動力が付与されれば、車両1の進行方向に対して右側に向けて車両1を偏向させることが可能な抑制ヨーモーメントが車両1に付与される。つまり、本実施形態では、LDA制御部172は、左前輪121FL及び左後輪121RLを含む左側車輪と右前輪121FR及び右後輪121RRを含む右側車輪との間の制動力差を利用して、抑制ヨーモーメントを付与する。
その後、LDA制御部172は、ステップS283で算出した圧力指令値に基づいて、ブレーキアクチュエータ131を制御する。従って、圧力指令値に応じた制動力が、左前輪121FL、左後輪121RL、右前輪121FR及び右後輪121RRのうちの少なくとも一つに付与される(ステップS29)。その結果、車両1には目標ヨーモーメントMtgtと等価な抑制ヨーモーメントが付与されるがゆえに、走行車線からの車両1の逸脱が抑制される。
(3)本実施形態の逸脱抑制動作の技術的効果
本実施形態の車両1では、走行車線から車両1が逸脱する可能性がある場合には、抑制ヨーモーメントが車両1に付与される。このため、走行車線からの車両1の逸脱が抑制される。
更に、本実施形態では、摩擦係数μに基づいて比率r1及びr2が設定される。このため、ECU17は、車両1が走行している路面の摩擦係数μの大小に関わらず、走行車線からの車両1の逸脱を適切に抑制するための逸脱抑制動作を適切に行うことができる。以下、摩擦係数μの大小に関わらず逸脱抑制動作を適切に行うことができる理由について、車両1の進行方向に対して左側に向けて車両1を偏向させることが可能な抑制ヨーモーメントが車両1に付与される例を用いて説明を進める。
上述したように、LDA制御部172は、右前輪121FR及び右後輪121RRに制動力を付与しない一方で左前輪121FL及び左後輪121RLに制動力を付与することで、車両1を左側に偏向させることが可能な抑制ヨーモーメントを付与可能である。ここで、左後輪121RLに相対的に大きな制動力が付与されると、左後輪121RLがロックする(言い換えれば、スリップする)可能性がある。つまり、左後輪121RLの横力が低下する可能性がある。その結果、車両1の挙動が不安定になる可能性が高くなる。
しかるに、本実施形態では、摩擦係数μが所定閾値Kよりも小さい場合には、比率r1が比率r2よりも大きくなる。つまり、比率r2が相対的に小さくなる。このため、左後輪121RLには、抑制ヨーモーメントを付与するために必要な本来の制動力(つまり、摩擦係数μが所定閾値K以上である場合に付与される制動力)よりも小さな制動力が付与される。その結果、左後輪121RLがロックする可能性が小さくなる。つまり、左後輪121RLの横力が低下する可能性が小さくなる。その結果、車両1の挙動の不安定化が抑制される。
その上で、左後輪121RLに付与される制動力の減少を補って適切な制動力差を得るために、比率r2が相対的に小さくなったことに合わせて比率r1が相対的に大きくなる。その結果、左前輪121FLには、抑制ヨーモーメントを付与するために必要な本来の制動力(つまり、摩擦係数μが所定閾値K以上である場合に付与される制動力)よりも大きな制動力が付与される。その結果、左後輪121RLに付与される制動力が相対的に小さくなり且つ左前輪121FLに付与される制動力が相対的に大きくなったとしても、左側車輪全体に付与される制動力(つまり、総制動力)を一定に維持可能である。その結果、右側車輪と左側車輪との間には、抑制ヨーモーメントを実現するだけの制動力差が発生可能である。つまり、車両1に対して適切な抑制ヨーモーメントが付与可能である。
このように、本実施形態によれば、相対的に小さい(つまり、所定閾値Kよりも小さい)摩擦係数μの路面を車両1が走行している場合であっても、相対的に大きい(つまり、所定閾値K以上となる)摩擦係数μの路面を車両1が走行している場合と同様に、車両1の挙動の不安定化を招くことなく、適切な抑制ヨーモーメントが車両1に付与可能となる。
加えて、本実施形態では、摩擦係数μが所定閾値Kより小さい場合には、摩擦係数μが小さくなるほど比率r1が大きくなり且つ比率r2が小さくなる。摩擦係数μが小さくなればなるほど後輪に制動力が付与された場合に後輪がロックする可能性が高くなることを考慮すれば、摩擦係数μが小さくなるほど比率r1が大きくなり且つ比率r2が小さくなることで、後輪のロックがより適切に抑制される。その結果、車両1の挙動の不安定化がより適切に抑制される。
本発明は、請求の範囲及び明細書全体から読み取るこのできる発明の要旨又は思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車線逸脱抑制装置もまた本発明の技術思想に含まれる。