以下、本発明の複層不織布の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
本発明においては、複層不織布の各層を構成する素材の選択とその一体化の方法が重要である。
まず複層不織布の各層を構成する素材の選択に当たっては、繊維端末(fiber tail)が存在する短繊維層を、繊維端末が殆ど存在しないが引っ張り強度の強い、フィラメント繊維を主成分とするフィラメント繊維主成分層と重ねた状態で使用することである。
一体化とは短繊維層とフィラメント繊維主成分層とが接合され、その接合面では両層の構成繊維が浸透・混合して、新たな構造と性質を持つ層を創出することである。より具体的には一体化とは、短繊維層中に存在する繊維端末がフィラメント繊維を主体とするフィラメント繊維主成分層に浸透して(入り込んで)、一部はフィラメント繊維に絡み付き、一部はフィラメント繊維主成分層を貫通して、フィラメント繊維主成分層の面から露出してその面に起毛状の露出繊維端末を形成する状態を称する。
従って一体化方法では、短繊維層とフィラメント繊維主成分層、両層の履歴と、その接合界面がそのまま存在する接着剤による接合方法や、熱接合方法は好ましくなく、高圧流体を使用して繊維相互を絡み合わせる流体交絡法が望ましい。さらに望ましくは短繊維層成分がフィラメント繊維主成分層に浸透・貫通するようないわゆるニードリング効果の大きい受けプレートを使用する、後述する流体交絡法が望ましい。流体交絡法で用いる流体は水に限定するものではない。流体は水蒸気であってもよい。以下の説明において、流体交絡法として水流交絡法を好適な例として適宜取り上げて説明する。
以下、本発明の一実施形態の複層不織布の構成要素及びその形態について説明する。
1.繊維端末
本実施形態の複層不織布は短繊維層とフィラメント繊維(長繊維ともいう)成分層からなり、多数の繊維端末が短繊維層に含まれる。短繊維とは長さの長短はあるが、切断操作により長繊維から切断された短繊維と、自然状態で収穫される、あるいは抽出される初めから短い状態で存在する短繊維との2種類に分けられる。本願ではこの2種類の短繊維を、ともに切断繊維と定義する。一本の切断繊維は頭部(前端部)と尾部(後端部)の2か所の端末部を有する。これを繊維端末と称することにする。
それに対してフィラメント繊維(長繊維ともいう)は連続した繊維で切断操作に起因する端部は存在しない。ただし、いくら長繊維でも一本のフィラメントにも頭部(前端部)と尾部(後端部)は存在するが、複層不織布において、フィラメント繊維成分層のフィラメント繊維の繊維端末の数は、短繊維層の短繊維の繊維端末の数に比べて計算上誤差値といえる範囲に属する少ない数であるのでここでは除外して、フィラメント繊維には繊維端部は実質的に存在しないと仮定して扱う。
複層不織布は短繊維層とフィラメント繊維主成分層との構成体であり、短繊維層の構成繊維の繊維長が短くなるにつれ単位重量及び単位面積当たりの繊維本数が増え繊維端末の個数も増える。また構成繊維の直径即ち繊度(dtex)を細くすることによっても、目付を増加することによっても、同様に単位重量及び単位面積当たりの繊維本数が増え繊維端末の個数が増える。表1は繊維径、繊維長から単位重量1g当たりの繊維本数(本/g)を計算し、それに目付を掛けて単位面積1cm2当たりの繊維端末の個数(個/cm2)を算出し一覧表にしたものである。表1において、dtexは単位長あたりの重量(g)で、繊維径を表し、ここでは繊維10,000m当たりのグラム数である。端末個数は繊維1本当たり端末2個として算出した。この表から本実施形態に使用される構成繊維の位置付を、レベル1〜レベル4に分類して表2に示した。湿式不織布やTCFの場合はレベル1に相当し、通常化合繊のステーブル繊維の場合はレベル2に相当し、スパンボンドの場合はレベル4に相当する。
さらに繊維端末は短繊維層のなかで次のように3種類の状態で存在する。即ち、(1)繊維端末がその存在位置を移動できるような可動性を有する状態で存在する繊維端末で、自由端末(FREE TAIL)と称する。たとえば短繊維層が未結合のカードウェブで、そのウェブ中に存在する繊維端末、スポットボンド不織布の未結合部分に存在する繊維端末等である。(2)繊維相互が熱融着や接合剤で結合された状態で存在する繊維端末で、固定端末(FIXED TAIL)と称する。たとえばエアースルー不織布の表面に存在して既に融着状態にある繊維端末である。(3)セルロース系の湿式不織布において、構成セルロース繊維相互が水素結合により固定されている繊維端末の状態が典型的な例であり、その水素結合は水和により解除され自由状態に復帰するので仮固定端末(PSEUDO FIXED TAIL)と称する。本実施形態において利用され得る繊維端末は自由端末状態にあるか、あるいは水流処理の際に水素結合が切れて自由端末に復帰する仮固定端末の場合であり、レベル1であっても殆ど全ての繊維端末が固定端末状態にある短繊維層は本実施形態には使用できないが、一部の繊維端末が固定端末状態であっても自由端末が存在する場合は使用できる。本実施形態の短繊維層として好んで使用される湿式不織布やTCFはレベル1に相当し、一部固定端末も存在するが、自由端末が多量に存在する。
なお繊維端末のレベルで分類すればフィラメント繊維主成分層はレベル4に位置付けされる。「繊維端末が殆ど存在しないフィラメント繊維」とは、このようにレベル4に位置付けされ、繊維端末の数が5個/cm2以下のものをいう。
2.複層不織布の表面と裏面
本実施形態の複層不織布は、短繊維層とフィラメント繊維主成分層と単に両層を重ねたものではなく、短繊維層を構成する短繊維の繊維端末が、フィラメント繊維主成分層側に移動・浸透し、一部がフィラメント繊維主成分層に交絡し、一部がフィラメント繊維主成分層を貫通してフィラメント繊維主成分層の面(裏面)から起毛状(毛羽状)に突出し、露出している状態にある複層不織布である。本願では図1に示すように、短繊維層を上層として、その表面あるいは上面を、複層不織布の表面あるいは上面と呼称し、フィラメント繊維主成分層を下層として、その裏面あるいは下面を、複層不織布の裏面あるいは下面と呼称することにする。ただし、上面、下面、表面、裏面の用語は、本願での説明の便宜上により用いる用語であり、用途によっては、上面と下面、表面と裏面は逆に呼称される場合があり、また複層不織布が水平面に対して垂直に配置されるときなどは上面、下面と呼称されない場合がある。
3.複層不織布の層構成
図1を参照して本実施形態の複層不織布の上面から下面への繊維層の分布状態を説明する。
本実施形態の複層不織布はその原料段階では図1(A)に模式的に示すように、短繊維層とフィラメント繊維主成分層を上下に重ねた状態で存在する。この重ねた層を高圧水流による交絡処理を行うことにより、図1(B)、(C)、(D)の模式図で示すような構成繊維の分布状態を有する複層不織布が得られる。
複層不織布の繊維層の構成に着目して、その分布状態を説明したのが図1(B)である。図1(B)に示すように、短繊維層のみ(分布領域1A)、短繊維層主体/フィラメント繊維主成分層の一部(分布領域2A)、フィラメント繊維主成分層主体/短繊維層の一部(分布領域3A)、及びフィラメント繊維主成分層を貫通した短繊維(分布領域4A)の4領域から構成される複層状態が形成される。
更に具体的に複層不織布の短繊維の交絡状態に着目して、その分布状態について図1(C)を用いて説明すると、短繊維相互が交絡して平面化した交絡繊維層(分布領域1B)、フィラメント繊維に短繊維が交絡したネットワーク層とこのネットワーク層を未交絡状態で貫通する短繊維からなる層(分布領域2B)、及びフィラメント繊維主成分層を貫通して起毛状に存在する短繊維からなる層(分布領域3B)の交絡状態の異なる3分布領域から構成される複層状態が形成される。
4.複層不織布における交絡繊維端末と未交絡繊維端末及び露出繊維端末の存在状態
本実施形態の複層不織布を、更に繊維端末の交絡繊維端末と未交絡繊維端末の存在状態に着目して図1(D)を用いて説明すると、表面から、繊維端末の大部分が交絡繊維端末で、一部が未交絡繊維端末の存在領域(領域1C)、繊維端末がフィラメント繊維に交絡した一部の交絡繊維端末と、フィラメント繊維主成分層を貫通する未交絡繊維端末の存在領域(領域2C)、繊維端末が貫通して露出する未交絡繊維端末(露出繊維端末)の存在領域(領域3C)の3存在領域から構成される複層状態が形成される。なお露出繊維端末とは裏面に突出する未交絡繊維端末であると定義できる。
5.複層不織布の上層と下層を構成する素材の選択
複層とは複数の層を意味するが、本実施形態では上層部と下層部を重ねた2層構成からなる複層シートを原料ウェブとして採用するのが望ましい。なお上層部と下層部の2層構成としているが、上層部がその構成過程において複数の層から構成されていてもよい。例えば、短繊維層を厚くするため、複数層のカードウェブやサーマルボンド不織布を重ねて構成するような例である。また下層部が複数の層から構成されていてもよい。例えば、フィラメント繊維主成分層を厚くするため、SBを重ねたり、SBとSMSとを複数枚重ねて使用するような場合である。また上下層の一体化方法として受けプレートを利用した流体交絡法を採用する場合には、上層とは流体噴出装置に近接する面側をいい、下層とは吸引ユニットと受けプレートに近接する面側をいう。
複層不織布の上層と下層を構成する素材の選択についてより詳細に説明する。
上層部には繊維端末を多く持った短繊維層が採用されるが、流体交絡法として水流交絡法を採用する場合には、WJ(Water Jet)により変形・移動し絡み付きやすい繊維ウェブや不織布が選択される。短繊維層に求められる第一の特性は、構成繊維を短く、しかも細くして繊維の本数を増加させることであり、それにより繊維の自由端末(Free Tail)を多く存在させることができる。短繊維層としては例えばPE(ポリエチレン)系、PP(ポリプロピレン)系、PET(ポリエチレンテレフタレート)系、ナイロン系、アクリル系、及びこれらの複合繊維等の合成繊維ステープル(短繊維);コットン、麻、レーヨン、リヨセル、アセテート等のセルロース系の天然繊維や化学繊維ステープル;をウェブ状としたもの、例えばカード機を用いてウェブ化した未結合カードウェブ、あるいはすでに構成繊維間を部分結合し不織布化したウェブ、例えばカードウェブをスポット状に熱処理で不織布化したスポット結合カードウェブ等が選択される。構成繊維の繊度は0.5dtex〜10dtexの広範囲で使用可能であるが、繊維端末の個数と交絡のし易さから1.0dtex〜7.0dtexの範囲のものが好んで使用される。中空の嵩高繊維と細繊度繊維との組み合わせ、例えば1.5dtexと7dtexの混合繊維ウェブ等も好んで使用される。繊維長は均一に層形成しやすい観点から3mm〜75mmのものが好んで使用される。交絡性の観点から特に好ましくは10mm〜50mmの範囲のものが選択される。繊維端末の個数からいえば100個/cm2以上が望ましく、200個/cm2以上がさらに望ましい。本発明に使用される例の一つには、繊維長50mm以下、繊度3dtex以下で繊維端末個数が500個/cm2前後の化・合成繊維のカードウェブがある。また特に繊維端末個数が多く、1,000個/cm2を超える例としては、木材パルプを主成分とするティシュペーパー;レーヨン、リヨセル、PE繊維、PP繊維、PET繊維、PE/PP複合繊維、PE/PET複合繊維を含む製紙プロセスを応用した湿式不織布類がある。これらは層形成の均一性の観点から、繊度は0.1dtex〜5.0dtexの範囲、繊維長1mm〜20mmのものが殆どで、水分散したスラリー状態からネット上でシート形成して得られる。
短繊維層に求められる第二の特性は湿潤時のモデュラスが小さいことである。PEやPPなどの疎水性の繊維よりは、親水性で水分を吸収するとくたっとして曲がり易くなる、いわゆるウェットモジュラスの低い繊維がよく、特にコットン、リヨセル、レーヨンなどのセルロース系の植物繊維は皮膚への安全性や環境適応性の観点からも望ましい。
第一の特性と第二の特性を共に備えた典型的な例は、短繊維セルローススパンボンドと称されるTCF(フタムラ化学株式会社の登録商標)である。TCFの構成繊維は湿潤モデュラスの小さいビスコースレーヨンであり、繊維長が3mm〜20mm、繊維径0.5〜5.0dtexで端末個数が1500〜4000個/cm2と繊維端末が非常に多く、しかも結合点が少ないので大部分の繊維端末が自由端末状態で存在している。通常のステープル繊維が200〜500個/cm2であるのに対して、10倍前後の繊維の自由端末(Free Tail)を多く持つ不織布である。
目付もまた表1、表2に示すように、繊維端末の数に影響する大きな因子である。コストや層形成性及び生産性も加味して選択すると、目付は5g/m2〜60g/m2の範囲が好ましい。更に望ましくは10g/m2〜40g/m2である。5g/m2未満のウェブは商業的に得るのが難しく、60g/m2を超えるとコスト的に不利になり、また交絡処理も難しくなる。
下層部にはフィラメント繊維主成分層が配置される。フィラメント繊維主成分層とは、連続フィラメントからなる繊維を主体としているという意味で、連続フィラメントからなる繊維100%から構成しているケースと、構成フィラメントを接合する成分等を含有しているケースとがある。具体例で説明するとスパンボンド不織布(SB)はフィラメント繊維100%のケースであり、スパンボンド・メルトブローン・スパンボンド複合不織布(SMS)やスパンボンド・メルトブローン・メルトブローン・スパンボンド複合不織布(SMMS)はフィラメント繊維SB層とその接合材としてメルトブローン繊維M層を併せて含有しているフィラメント繊維主成分層の例である。
SB不織布は繊維端末を実質的に持たないが、SMS不織布,SMMS不織布もM成分が融解しSB成分に融着した状態で存在しているため繊維端末を実質的に持たないフィラメント繊維主成分層であると解釈される。
フィラメント繊維主成分層に求められる第一の特性は構成繊維が縦、横方向に平面的に配置し、厚さが薄く、特に繊維が縦方向に整列している部分が多く、しかも上下方向の絡み合いが少ないため繊維間隙が存在し、そのため上層の短繊維層の繊維端末(自由端末)が上層から下層への途中でからまずに繊維間を移動出来、繊維間を透過でき易い構造になっていることである。フィラメント繊維主成分層の厚さは少なくとも0.5mm以下、好ましくは0.3mm〜0.1mmの薄いもので、短繊維層の半分以下、場合によっては1/5以下の薄さのものが好ましい。第二の特性は強度、特に構成繊維が縦方向に配向しているため縦方向の引っ張り強度が強く、上層の短繊維層の支持体あるいは補強材となる機能を持つことである。
さらに製造方法として受けプレートを利用する水流交絡を採用する場合には、下層部となるフィラメント繊維主成分層の下面は吸引ユニットの吸引用貫通孔を有する上面と受けプレート上面に接触しながら、上方からのWJによる水流噴射と下方から吸引ユニットによる吸引を受けながら走行することになるので、フィラメント繊維主成分層には、水液に滑りやすく、耐水強度があり、更に湿潤時に寸法安定性に優れていることが要求される。このようなフィラメント繊維主成分層として好ましい例は、疎水性で、湿潤強度の強い、熱溶融樹脂を原料とするスパンメルト不織布が好ましく使用される。特にPE系,PP系,PET系、PE/PP系,PE/PET系、のいずれかのSB、SMS、SMMS不織布等のスパンメルト不織布が望ましい。
これらのスパンメルト不織布を構成する繊維の太さ即ち繊維径に関しては、dtex繊度に換算して示すと、SB(SMS、SMMSのS成分)の場合は5dtex以下、好ましくは0.5dtex〜3dtexである。SMSやSMMSの接合成分のM(メルトブローン)の繊維は、繊維長も繊維径も広範囲の分布を持つ成分であり、繊維径はSBに比較して細く、大略0.1dtex〜2dtexの分布を持つが、接合状態にあっては溶融により既に繊維形態を相当部分喪失しているのが一般的である。
スパンメルト不織布の目付は、厚みが厚くなると、短繊維層の繊維端末の貫通性と露出繊維端末の生成度合いに影響を与える。したがって物性やウェブ形態が維持される範囲で薄い方が望ましく、50g/m2以下、好ましくは5g/m2〜30g/m2の範囲から選択される。5g/m2未満は商業的に均一な成形が難しく、50g/m2を超えると繊維端末の貫通が難しくなり、併せてコストも高くなる。
6.上(表)層と下(裏)層の一体化による複層化方法
一体化とは上層と下層が元の構造や形状、性質を消失して新しい構造を創出するという意味であり、更に具体的に本実施形態の一体化とは、上層の短繊維層に存在する繊維端末がフィラメント繊維層を主体とする下層に一部は絡み付き、一部は下層の下面まで貫通して、下層の下面に起毛状の露出繊維端末層を形成する図1の(B)、(C)、(D)で説明したような状態を称する。
多数の繊維端末を有する短繊維層を繊維端末の殆ど存在しないフィラメント繊維主成分層と一体化する方法として好ましいのは、本発明者らが、特願2014−209679号及び特願2015−163484号で提案した、受けプレートを使用する水流交絡法である。特に特願2015−163484号で提案した製造装置は、流体噴射ユニット(流体は水を用いている)と、その下方に設けられた受けプレート及び吸引ユニットとを有し、短繊維層とフィラメント繊維主成分層を重ねた状態の繊維層を、前記流体噴射ユニットと、前記受けプレート及び前記吸引ユニットとの間で走行させることで水流交絡を行うプロセスであるが、このプロセスでは、前記吸引ユニットの表面と前記受けプレートの表面とが前記繊維層の走行方向に隣接して配置され、且つ前記繊維層の走行状態で、前記繊維層の下面が前記吸引ユニットの表面と前記受けプレートの表面とに接触している。本願で説明する水流交絡法を用いた複層不織布の製造装置は、特願2014−209679号及び特願2015−163484号で提案した製造装置に基づくものである。
このプロセスで使用されるWJユニットに関しては通常の水流交絡法で使用されるものでよく、図16、図17に例示するように、ノズルホルダー101とWJノズル102とから構成されている。ノズルホルダー101は高圧化で変形せず、寸法安定性を保つため砲身状にして、頑丈に作られることが望ましく、図16のホルダーはSUS304製で全体が中空の砲身のような形状で、10MPaレベルの水圧に対してひずみを生じさせないような構造を持っている。図16(A)はノズル面からみた左右方向の平面図である。WJノズル102はプレート状で図16(B)の縦側面図、図16(C)の横断面図に示すように、最下部に挿入するように取り付けられ、支持板によって固定ボルト103によって把持される。WJノズルは通常の水流交絡法に使用されるものでよく、例えば図17(A)〜(C)に示すようなWJノズルを用いることができる。図17(A)、図17(B)はそれぞれプレート状のWJノズル102−1、102−2の構成例を示す平面図であり、図17(C)の横断面図に示したような漏斗状断面を持つものが使用される。即ちWJノズルを構成するノズルプレートは例えば図17(A)に示すように幅14mm、全長1612mm、厚さ1mmのSUS316製のプレートに2mm間隔で716個の0.12mm径の細孔が設けられている。ノズルプレートの他の例では図17(B)に示すように幅14mm、全長1612mm、厚さ1mmのSUS316製のプレートに9mm間隔で160個の0.18mm径の細孔が設けられている。図17(B)に示すノズルプレート102−2の噴出口となる細孔は図17(C)の断面図に示すように入口0.427mm径、出口0.18mm径の漏斗形状を呈し、異物のつまりを無くし、出口での液流の膨化(ベラス効果と称する)の生じにくいような構造にしている。ノズル口径(直径)とは出口の口径を意味し、図17(C)の例は図17(B)の口径0.18mmの例で比較的ノズル口径が大きいケースである。図17(A)に示すノズルプレート102−1は入口0.427mm径、出口0.12mm径の漏斗形状となっている。本実施形態ではノズル口径(直径)は0.06〜0.5mmの範囲から選択され、ノズル間隔は0.5〜20mmピッチの範囲から選択される。水液流はホルダー内に設けられている整流板と微細フィルターを経由してノズルプレートに供給される。使用される水圧は通常2.0〜10.0MPaの範囲で使用される。
通常のWJ(Water Jet)交絡プロセスでは、複数のWJユニット(例えば3ユニット)を上流から下流に向かって配置し、第1段では2MPa前後で行う予備交絡処理により処理対象となる短繊維層の外面層を主体に交絡、安定化し、第2段では5MPa前後で行う前交絡処理で交絡を外表面から内部、中芯部へと進行させ、第3段では8MPa前後で行う後交絡処理で繊維層の下面層に至る交絡を完結する。このような段階的昇圧処理方法では、多量に繊維端末が存在してもほとんどが短繊維相互の交絡で消費され裏面に起毛状に突出することはない。従って本実施形態では、貫通効果あるいはニードリング効果を高めるために、原料ウェブの乱れを生じないような装置配慮を前提として、予備交絡処理や前交絡を行わずに最初から高圧水流で処理を行うことが望ましい。受けプレートを利用した本実施形態では、上層と下層との積層体を水流処理する際には、初期状態つまり短繊維端末ができるだけ自由で変化を受けていない状態の時点で、上層の短繊維を下層へと貫通させるように、最初の処理に相当する上流の第1段のWJユニットからできるだけ高圧水流で処理することが好んで行われる。勿論ウェブに乱れが生じない状況が確保されていることが前提である。
上層の繊維端末を下層に貫通させ、露出繊維端末を安定に形成させるためには、水圧、ノズル径、ノズルピッチを適正に設定することが重要である。繊維端末を貫通させ露出繊維端末を形成するための望ましい方法の1つは、最初からノズル径として0.10mm〜0.12mmの細い口径で、ノズルが0.5mm〜2mmの比較的近接したピッチで存在するノズルプレートを採用し、積層体を無孔の受けプレート上で全面WJ処理することである。しかし、パターン形成や複層体の条件によっては製品にムラが生じることがあるので、複数のノズルと受けプレートを組み合わせた多段処理、例えば3段処理が行われる。その場合には次のような条件が採用される。第1段では、ノズル口径として0.15mm〜0.2mmの比較的太い口径で、ノズルが4mm〜15mmの比較的離間したピッチで存在するノズルプレートを採用し、積層体を無孔の受けプレート上で6MPa〜12MPaの高水圧で部分処理した後に、第2段、第3段では有孔あるいは無孔の受けプレート上で、ノズル口径として0.10mm〜0.12mmの細い口径で、ノズルが0.5mm〜2mmのピッチをもつノズルプレートを採用し、6MPa〜12MPaの高水圧で全面処理することが行われる。
図5(A)〜(E)はWJユニットと吸引ユニット及び受けプレートとの配置状態例に関する模式図である。本実施形態ではWJ(水流噴出)ユニットを用いているが、流体噴射ユニットであればよく、水以外の水蒸気の流体を用いてもよい。走行状態の理解を容易にするため2層繊維層の存在位置を鎖線で示した。WJユニットは図16、図17に準じた構成である。ここでは吸引ユニットと受けプレートは一体に組み合わされているので両者が組み合わされた構成で1ユニットとする。図5(A)〜(E)において、繊維層25が、WJユニット24と、吸引ユニットと受けプレートが組み合わされたユニットとの間を走行する。吸引ユニットの表面と受けプレートの表面とは繊維層の走行方向に隣接して配置され、且つ繊維層の走行状態で、繊維層の下面(フィラメント繊維主成分層の下面)が吸引ユニットの表面と受けプレートの表面とに接触している。
図5(A)はWJユニット24が1ユニット、吸引ユニット/受けプレートが1ユニットの配置例である。吸引ユニット12−1に受けプレート11−1が嵌め込まれて構成される、吸引ユニットと受けプレートの組み合わせを以降吸引ユニット/受けプレートとして記す。
図6(A)、(B)は受けプレート11−1と吸引ユニット12−1の配置状態例を示す斜視図及び横断面模式図であり、吸引ユニット12−1の天板部に受けプレート11−1が埋め込まれている形態を示している。埋め込まれている状態は吸引ユニットと面一となっているが、受けプレート部が上方に一部あるいは全体が凸状に突出していてもよい。受けプレート部が凹状にくぼんだ状態になることは、水流が滞留する恐れがあるので避けるべきである。吸引ユニットの天板部に受けプレートが埋め込まれている形態は図5(B)〜図5(D)でも同様である。図6(A)、(B)において、吸引ユニット12−1の表面と受けプレート11−1の表面とはウェブ状繊維層の走行方向に隣接して配置される。吸引ユニット12−1の表面は前部表面と後部表面とを有し、ウェブ状繊維層の走行方向において受けプレート11−1の表面の前後に前部表面と後部表面とが隣接して配置される。
図6(A)、(B)の配置では、前後幅50mm未満の狭幅の無孔の受けプレート11−1が、その上面を吸引ユニット12−1の天板部の上面に合わせて面一になるように、吸引ユニット12−1に埋め込まれている。吸引ユニット12−1の天板部は超高圧PE樹脂製の、厚さ10mmの樹脂板で作られ、幅2mm、長さ150mmの長方形状のスリット13−1が貫通孔として、ほぼ全面に均一に配置されている。受けプレート11−1は幅(W)が30mm、厚さは4mmの長方形断面を持つSUS316製の薄いプレートであるが、下面から天板部によって支えられているので、加圧や衝撃を受けても撓むこともなく、変形もしない。ここでは、受けプレート11−1の前後幅が50mm未満の狭幅の場合を示しているが、WJ流が外れない範囲であれば前後幅が5mm前後の極狭幅になってもよい。
図5(B)はWJユニット24が1ユニット、吸引ユニット/受けプレートが1ユニットの組み合わせが1セット(図5(A)の構成が1セットとなる)とすると、その3セットを走行方向に一定間隔で配置した例である。この様な組み合わせによって繊維層25を高速で処理する場合や、繊維層25の目付が厚い場合に対応できるようになる。図5(C)はWJユニット24が3ユニット、吸引ユニット12−1が1ユニット、受けプレート11−1が3ユニットの組み合わせを配置した例であるが、走行方向に長い一つの吸引ユニット12−1に対して3枚の狭幅の受けプレート11−1が嵌め込まれている配置例である。この様な組み合わせによっても繊維層25を高速で処理する場合や、繊維層25の目付が厚い場合に対応できるようになる。図5(D)はWJユニット24が3ユニットと吸引ユニット/受けプレートが1ユニットの組み合わせを配置した例であるが、走行方向に長い一つの吸引ユニット12−1に対して50mm以上の幅広で貫通孔を備えた有孔受けプレート11−4を組み合わせた態様例である。図5(D)の吸引ユニットには約400mmの前後幅を持つ広幅の有孔受けプレートが嵌め込まれている。この様な組み合わせによっても繊維層25を高速で処理する場合や、繊維層25の目付が厚い場合に対応できるようになる。図5(E)はWJユニット24が1ユニットと吸引ユニット/受けプレートが1ユニットの組み合わせが前後に2セットを繊維層25の走行方向に配置した例である。吸引ユニット/受けプレートはパイプの上面を吸引用の貫通孔と受けプレート部として機能させた構成である。1セット目は2本のスリットと無孔の曲面を組み合わせた管状体(パイプ)20であり、2セット目は、円形の貫通孔を上部曲面に設けて吸引ユニットと受けプレートの両機能を発現させた構成の管状体(パイプ)22である。この組み合わせ例の場合には、パイプの曲面に繊維層を接触させて走行させるため、ガイドロール26を各セットの前後及び中間に設けるのが望ましい。
図7は中空の管状体20、22の構成を示す図である。管状体の断面形状は円形としているが、他の形状、例えば、円形を上下に潰した「楕円状」や、片側を扁平化した「D字状」、あるいは上下両面を扁平化した形状等としてもよい。
図7(A)〜(D)では吸引ユニットが天板部を持たず、管状体(パイプ状)の上部面部分を吸引ユニットの貫通孔として使用しており、その上部面部分が吸引用の貫通孔と受けプレートの両機能を発揮するようにしている。
図7(A)、(B)は、1本の太い管状体20を応用してその上曲面(上部面)の前後にウェブ状繊維層の走行方向と略直角に延びる2本のスリット(吸引用の貫通孔)21を有する第2の領域20−2を設け、2本のスリット21間の曲面の第1の領域20−1を受けプレートとして兼用するものである。図7(A)は斜視図、図7(B)は図7(A)のVIIB―VIIB横断面図である。図7(A)、(B)では、直径240mm、肉厚2mmのステンレスSUS304のパイプの上頂点近傍に、吸引用の貫通孔として前後幅2mmのスリット21を間に約20mmの間隔をおいて前後に2本設けたものである。この前後2本のスリット21間の約20mmの無孔の曲面の第1の領域20−1を受けプレートとして使用する。この構造の特徴は、1本のパイプの上部面が吸引用の貫通孔及び受けプレートとして機能し、またパイプは空間部及び排出部としても機能するので、設置や取り外しがし易く、コンパクトで軽く、しかも丈夫であることである。スリットの本数は前後1本ずつとなっているが複数本ずつでもよく、またスリットを円形開口に置き換えてもよい。
図7(C)、(D)は図7(A)、(B)と基本構成は全く同じであるが、図7(A)、(B)のスリットに代わって、管状体22に互い違いの2列の直径2mmの円形貫通孔23−1を設け、図7(A)、(B)の前後幅約20mmの無孔の曲面に代わって、千鳥状の直径0.5mmの円形細孔23−2を5列に亘って設けて第1の領域(受けプレート部となる)22−1としている点で異なる。第1の領域22−1は受けプレートとして働く。図7(C)は斜視図、図7(D)は図7(C)のVIID―VIID横断面図である。上部面には吸引用の貫通孔となる円形開口23−1が設けられた第2の領域22−2と、円形細孔23−2が設けられた第1の領域(受けプレート部となる)22−1がある。第1の領域22−1は受けプレートとして働く。この例では吸引ユニットの貫通孔には受けプレート部の貫通孔よりも大きな開口径の開口(大きな開口面積をもつ開口)を設けているが、両者は同一の径であってもよいし、大小が混在するように配置してもよい。この構造の特徴は、図7(A)、(B)の特徴に加えて更に製造がし易く、製造コストが安価で済むことである。
図7の管状体を利用する構成においては、装置曲面にウェブ状繊維層を接触させて走行させるために、前方では下方から上方に曲面に巻きつけるように供給し、後方では上方から下方に曲面に巻きつけた状態で取り出す。
7.複層不織布の断面構造例
本実施形態の複層不織布は図1で説明したように上面から下面への異なった繊維層分布を持ち、裏面に起毛状露出繊維端末を持っている。図2は本実施形態の複層不織布の表面が滑らかな短繊維相互が交絡している短繊維層1−1と、SBとSBに交絡した短代表的な断面構造例を模式的に示した図である。図2(A)は短繊維層としてレーヨンとPETのステープル繊維の混合層を、フィラメント繊維主成分層としてPP製のSB不織布を使用し、無孔の受けプレート上で交絡処理をした例である。上面から下面へ、水流交絡され繊維と貫通する短繊維とが共存する層が一体化して構成され、SB層の裏面に比較的長めに露出繊維端末が突出している例である。この例では露出繊維端末は2〜4mmの範囲の比較的長いもので、全面に起毛状に存在する。図2(B)は短繊維層として中空の比較的繊度の大きいPETのステープル繊維層をフィラメント繊維主成分層としてPE/PP複合繊維製のSB不織布を使用し、開口の受けプレート上で交絡処理をした例である。上面から下面へ、短繊維相互が交絡され畝状に連なる短繊維層1−2と、SBとSBに交絡した短繊維と貫通する短繊維とが共存する層が一体化させて構成され、SB層の裏面に3mm〜5mmの長めに、畝状に連なる露出繊維端末が突出している例である。この例では厚みを持つ嵩高の不織布で、露出繊維端末は畝状に連なって存在する。図2(C)は短繊維層としてTCF不織布をフィラメント繊維主成分層としてPP製のSB不織布を使用し、無孔の受けプレート上で交絡処理をした例である。上面から下面へ、短繊維相互が交絡され表面が織物状に滑らかになった短繊維層1−3と、SBとSBに交絡した短繊維と貫通する短繊維とが共存する層が一体化させて構成され、SB層の裏面に0.5〜1.5mm程度の多数の短い露出繊維端末が突出している例である。この例では露出繊維端末は全面に短い起毛状に存在する。
8.繊維端末の裏面(下面)への露出形状
本実施形態の複層不織布は短繊維層を構成する短繊維の繊維端末が、一部は短繊維相互の交絡とフィラメント繊維主成分層に交絡して固定されるが、多くの繊維端末はフィラメント繊維主成分層を貫通してフィラメント繊維主成分層側(裏面)に突出して、起毛状(毛羽状)に露出している繊維端末(露出繊維端末)を有している。その露出状態は選択される短繊維層と受けプレートの組み合わせによって大きく左右されるが、露出繊維端末の分布状態を平面的に観察すると、図3(A)、(B)の模式図に示す全面起毛状、図3(C)、(D)の模式図に示すスポット状、図3(E)、(F)の模式図に示す畝状に大別される。図3(A)、(C)、(E)はそれぞれの平面図、図3(B)、(D)、(F)は断面図である。図3(A)は図18(A)〜(F)のような無孔の受けプレートで処理する例で、裏面ほぼ全面にわたって短い繊維端末が突出し、起毛状、毛羽状あるいはビロード状を呈する例である。ノズル間隔が例えば2mm程度と狭く、しかも多段で処理する場合は細い線状起毛の集合体となり、肉眼的には図3(A)のようにほぼ全面に処理されたような外観を呈する。図3(C)は図19(A)〜(F)のような有孔の受けプレート(開口プレート)を前後に摺動させて処理する例で、裏面全体に受けプレートの平面部に応じた短い起毛と、受けプレートの有孔部に応じて生成するスポット状に密集したパイル状繊維端末の集団が突出し、短い起毛状と長いパイル状が併せて存在する例である。図3(E)は図19(A)〜(F)のような有孔の受けプレートを固定して処理する例で、裏面に一定間隔で畝状に連続して比較的長い繊維端末の帯状体が突出し、起毛状、パイル状あるいはコーデュロイ状を呈する例である。なお本実施形態では裏面への繊維端末の突出状態を形状の違いで、起毛状、パイル状、ビロード状、コーデュロイ状等で表現しているがそれらを代表して、以下では原則として「露出繊維端末が起毛状に存在する」と表現することにする。突出状態を露出繊維端末の長さで説明するとその形状を理解しやすいが、単に長い、短いではなく定量的に説明するには繊維の立った状態や、加圧されて寝た状態、端末がフリーの状態(1本1本の端末が独立している状態)とループしている状態(自由端が繊維層内に留まり、繋がった部分がそのまま露出している状態)、等でその都度長さが違ってくるのでその測定が難しい。図4に露出繊維端末の存在状態を横断面図で模式的に図示する。図では露出繊維端末を起立状態にして(ここでは衣料用ブラシで2往復ブラッシングして、寝ている繊維を立たせた状態で)、側面切片を作成し、100倍程度に拡大検鏡下で長さや形状を観察、測定する。
露出繊維端末の突出する長さは、手触りの風合感覚では0mm相当、即ち下層のフィラメント繊維主成分層の表面と同じ、つまり下層の凹部を露出繊維端末で埋めたような状態でもソフトな感触を持ち、大きな風合改善効果として感得される。従って0.1mm程度以上あれば充分大きな改善効果として官能評価される。しかし、肉眼的にその存在が明確に観察されたり、顕微鏡で測定評価できる範囲は0.5mm以上になる。長さの限界に関しては、短繊維層の繊維長を長くしても層形成に限界があり、また長くなると相互交絡が多くなり、また受けプレートに押しつけられて処理する方式のため、露出繊維端末は、lまたはhが10mmを超えることはない。また実用的に5mm前後を境に、長くなると手や爪に引っ掛かるようになるため5mm以下にコントロールすることが好ましく、3mm以下にすることが更に好ましい。図4(A)、(B)、(C)は典型的な例で、実際には自由端末状態の中にループ状態が混在することもあり、またループ状態の中に自由端末状態が混在することもある。また実際の生産では、(A)/(B)の組み合わせ、(A)/(C)の組み合わせ、(B)/(C)の組み合わせ等が行われる。露出繊維端末の密集度つまり単位面積当たりの露出繊維端末の存在数については、例えば10cm×10cm(100cm2)の中に全面に存在する場合には、単位面積1cm2当たりの本数として表示し比較することは可能であるが、露出繊維端末がライン状あるいはスポット状に突出して、露出繊維端末が全く存在しない部分とが共存している場合には、比較に若干無理が生じる。そこで、本願においては、露出繊維端末が、ライン状あるいはスポット状に突出する等のように部分的に存在する場合には、100cm2当たりに存在する露出繊維端末の本数を平均して、単位面積1cm2当たりの本数として解釈する。従って、露出繊維端末がライン状あるいはスポット状に突出する等のように部分的に存在する場合には、単位面積当たりの露出繊維端末の存在数は、相対的に小さくなる。ただライン状に処理する場合、短繊維層の繊維長が例えば1mm〜3mmと極端に短い場合や、ノズル間隔が例えば5mm以上離れているような場合には、ノズル一穴の水流はその周囲の繊維を引き込むように作用するので、ノズル口径幅の数倍の面積範囲にある繊維が移動し、交絡やフィラメント繊維層の貫通に寄与することとなる。そのため、ライン状に突出した露出繊維端末数が、計算上ノズル口径幅に起因する面積相当の繊維端末数を上回ることがあり得る。
図20は、実施例3で得られたTCFとPP製SB不織布との複層不織布製品のSB面側から撮影した顕微鏡写真を基に、露出繊維端末数を計数するために露出繊維部位を判り易く加工した表面参考図である。複層不織布の顕微鏡写真をTCF面側からみると、大部分がTCF繊維でその下に一部SB層のPP繊維が観察される。SB面側から観察すると、SB層を形成するPP繊維とその下に相対的に細いTCF繊維が観察されるが、最表面にSB層を貫通してPP繊維の上側に突出し、露出したTCF繊維が分散して存在しているのが分かる。図20は、その表面に露出したTCF繊維が判別し易いように黒く着色したものである。このような写真を100倍程度の倍率で任意に3か所撮影し、図に示すように1mm長の正方形に区画して、それぞれその区画内に存在する露出TCF繊維を計数して1cm2当たりの数に換算し、その複層不織布製品の露出繊維端末数とする。
図4(A)は自由端末状態の短めの起毛が全面に存在する例で短いものは長さl1=0.1mm程度で、相対的に長いものはl2=2mm程度である。つまり約0.1〜2mmの範囲の多数の短い露出端末が混在して存在しているケースである。このケースが露出端末の数が多く、最大では4,000個/cm2に達する例もあるが、3,000〜500個/cm2の範囲に入るものが殆どである。
図4(B)は自由端末状態の長めの起毛が部分的に存在する例で短いものはl3=1mm程度で、相対的に長いものはl4=3mm程度である。つまり約1〜3mmの範囲の露出繊維端末が部分的に密集して存在しているケースである。このケースでは露出繊維端末の数は少なくなり、最大で2,000個/cm2で通常は1,000〜300個/cm2の範囲に入る。
図4(C)は露出繊維端末が殆どが自由端末状態ではなくループ状で、この場合はループの高さhを長さとしている。短いものはh1=2mm程度で、相対的に長いものはh2=7mm程度である。この受けプレート法による交絡処理に於いては露出繊維端末のlあるいはhは10mmを超えることはなく、殆どは5mm以下である。つまり約2〜7mmの範囲のループ状で比較的長い露出繊維端末が部分的に存在しているケースであり、短繊維層として繊維長が長く、繊度が太い繊維を選択したケースである。このケースでは露出繊維端末は部分的には密集して存在しているが、平均値として示すと露出繊維端末の数は更に少なくなり、500〜100個/cm2である。
露出繊維端末の数は100個/cm2より少なくなると、長さが短い場合は起毛の存在を肌で感触として感ずることができなくなり、露出繊維端末の存在効果が観察できなくなる。またフィラメント不織布の表面が露出してくるので、ヒートシール加工等の際に溶断を起こし易くなり、フィラメント不織布の熱溶融性と露出繊維の複合化を利用した、良好なヒートシール特性も発揮できなくなる。また露出長さが長い場合は、存在は分かるが見栄えの悪いものになる。露出繊維端末の数は少なくとも100個/cm2、好ましくは200個/cm2以上存在することが望ましい。
尚、繊維繊維端末の貫通状態は、上述したように、短繊維層の選択、WJ処理の水圧、ノズル径、ノズルピッチ等により制御することができ、図4(A)〜(C)の形態のそれぞれに於いて、条件の選択によっては露出繊維端末の数が100個/cm2より少なくすることも出来、露出繊維端末が発生しないような状況も発生する。
また露出繊維端末の存在量は、原料である短繊維ウェブ中の繊維端末を如何に効率的にフィラメント繊維主成分層を貫通させるかに起因するため、露出繊維端末の存在状態を、全繊維端末数(計算値)に対する露出繊維端末数(実測値)の割合、即ち(露出繊維端末数/全繊維端末数)×100(%)で表示することも可能である。この値は、製造速度、WJと受けプレート製造特性等の条件で変動するが、短繊維端末相互の交絡も同時的に進行するので、上限は80%を超えることは少ない。ただし、下限は少なくとも10%以上、好ましくは20%以上であることが望ましい。10%以下であるということは、WJのニードリング効果が有効に働いていないことを意味するので、WJ処理条件等の変更が必要になる。
以下、本発明の複層不織布について実施例により更に説明する。
実施例1
図8は本発明になる複層不織布の製造プロセスフローシート例を示す図である。
図8において、プロセスの流れは左から右の方向に進行する。プロセスの構成は左から、下層不織布巻出し機1001、2台の直列に配置されたカード機1002及び1003、繊維層搬送コンベアー1004、第1のWJユニット1005、第2のWJユニット1006、第3のWJユニット1007、吸引ユニットと受けプレートの第1の組み合わせ(第1の吸引ユニット/受けプレート)1008、吸引ユニットと受けプレートの第2の組み合わせ(第2の吸引ユニット/受けプレート)1009、吸引ユニットと受けプレートの第3の組み合わせ(第3の吸引ユニット/受けプレート)1010、ニップロール1011、乾燥機1012、製品巻取機1013、となっている。なお第1のWJユニット1005と、第1の吸引ユニット/受けプレート1008とは第1の交絡セット(WJユニットと吸引ユニットと受けプレートの第1の組み合わせ)を構成し、第2のWJユニット1006と、第2の吸引ユニット/受けプレート1009とは第2の交絡セット(WJユニットと吸引ユニットと受けプレートの第2の組み合わせ)を構成し、第3のWJユニット1007と、第3の吸引ユニット/受けプレート1010とは第3の交絡セット(WJユニットと吸引ユニットと受けプレートの第3の組み合わせ)を構成する。第1から第3の交絡セットを水流交絡装置と呼ぶ。また図8においては、WJユニット、吸引ユニット、受けプレートの配置部位(点線で囲んだ部位)については、詳細がわかるように相対的に拡大して図示した。
フィラメント繊維主成分層となる下層不織布としては1600mm幅のPP製SB不織布13g/m2(AVGOL社製)を巻出し機(大昌鉄工製)1001に装着し、第1及び第2のカード機1002,1003として鳥越製作所製カード機を用い、第1のカード機1002には1.5dtex×45mmのレーヨン繊維(ダイワボウ製)10g/m2、第2のカード機1003には1.5d×45mmのPET繊維(テイジン製)10g/m2を供給し、1500mm幅20g/m2の短繊維層となる未結合カードウェブを前記PP製SB不織布上に重ねて、搬送コンベアー出口に設けられた、一定の隙間を持つスムースロール(詳細説明割愛)によりカードウェブの表面を平滑にする。このようにして得られた60m/min.で走行するPP製SB不織布と、それに重ねられた20g/m2の未結合カードウェブの2層積層体(この2層積層体中に存在する全繊維端末数は短繊維層である未交絡カードウェブに起因するもので、計算すると約500個/cm2である)を、第1から第3の交絡セットからなる水流交絡装置へとガイドする。表3に示すように、フィラメント繊維不織布であるPP製SBの厚みは0.12mmと極めて薄く、それに対して未結合カードウェブの厚みは1.5mmと12倍も厚いものであった。
水流交絡装置は、WJユニット1005、1006、1007の3ユニットとその下方に設けられた第1から第3の吸引ユニット/受けプレート1008、1009、1010の3ユニットとからなる。交絡セットで表現すれば第1、第2及び第3の交絡セットの3セットの水流交絡装置から構成され、図5(B)で説明したものと同様の配置状態である。第1のWJユニット1005には口径0.18mm、ノズル間隔9mmのノズルプレートが組込まれ、第2のWJユニット1006には口径0.12mm、ノズル間隔2mmのノズルプレートが組込まれ、第3のWJユニット1007にも口径0.12mm、ノズル間隔2mmのノズルプレートが組込まれている。いずれのWJユニットにも1台の高圧ポンプから7Mpaの水圧の高圧イオン交換水が供給される。従来のWJ交絡法ではWJユニットを3ユニット配置する場合、第1のWJユニットは低水圧にして、第2のWJユニット、第3のWJユニットと順次に水圧を高くするのが一般的であるが、本実施例では最初の第1のWJユニットから高圧水を供給して上層部の短繊維の自由端末をフィラメント繊維主成分層に貫通するように作用させる。
吸引ユニットと受けプレートは第1から第3の吸引ユニット/受けプレート1008、1009、1010の3ユニットとも同じ仕様で、吸引ユニットの天板部の中央に受けプレートが埋め込まれている構造を持っている。吸引ユニットは、厚さ1.0mmのSUS304製の前後幅200mm×長さ1800mmの直方体の箱状空間と、箱底に直径100mmのパイプ状の排出口を持った本体(サクションボックス)と、厚さ12mmの天板が密閉状態になるように接合されている。天板材料には超高圧ポリエチレンを採用し、天板には、ほぼ全面に幅5mm×長さ100mmの長方形状のスリットが上面から箱状空間に貫通するように設けられている。天板の中央には前後幅20mm、厚さ2mmの無孔の帯状のSUS316製の狭幅受けプレートが天板の上表面と面一になるように埋め込まれている。天板の上表面と受けプレートの上表面はバフ仕上げによる研磨処理が施されている。
なおWJノズルの下面と受けプレートの上面との距離は、この間隙を2層積層体が通過するため、この例では15mmに設定している。パイプ状の排出口はフレキシブルホースを経由してターボブロワーに接続され20mmH2Oの減圧状態に保たれている。
前記2層積層体は受けプレート上を60m/min.の速度で滑走させつつ、第1のWJユニット1005、第2のWJユニット1006、第3のWJユニット1007による7MPaの高圧水流噴射を受けつつ、上記15mmの間隙を走行し、交絡・脱水処理を終了する。こうして得られた複層不織布は、ニップロールで更に脱水し熱風乾燥器を経て巻き取られて複層不織布製品とする。
得られた複層不織布製品の外観表面は多数の細い線が長さ方向に走り織物のような外観を呈する。得られた複層不織布製品の代表的な物性値を短繊維層である未結合カードウェブ及びフィラメント繊維主成分層として使用したPPスパンボンド不織布と比較して示すと表3のような結果になる。特に湿潤強度が高く、また乾燥状態でも、湿潤状態でも、縦と横の強度バランスがよいことが目立つ。更に上層・下層の剥離状態を観察すると、層間剥離が出来ないレベルに上下層は一体化しており、十分な水流交絡効果とともに短繊維層と下層不織布との複合効果が働いて、物性が向上していることがわかる。
更に本実施形態の複層不織布の特徴は、感触・風合いの改善効果である。上層の短繊維層即ちレーヨン及びPET短繊維の自由端末(Free Tail)が、上層では短繊維相互が交絡し、内部ではフィラメント繊維に交絡し、そして残りはフィラメント繊維主成分層を貫通して、図1(A)の模式図で示すように、下層のPPスパンボンド不織布の下面に突出して、短いもので約1mm、相対的に長いもので約3mmの端末が混在して起毛状を呈するようになる。上面から下面に至る断面を図示すると、図2(A)で模式的に示したような構造になる。これによって下層を指や掌でなでると、下層不織布のPPスパンボンド不織布特有の、硬い、引っかかるような感触が消え、赤ちゃんの産毛のようなソフトな感蝕が賦与される。起毛状に突出した繊維端末数を顕微鏡で拡大して計数すると約250個/cm2で、全繊維端末(約500個/cm2)の約50%前後が露出繊維端末となっていることが分かった。また得られた複層不織布の上面と下面の水に対する親和性の違いを、下記のように水の拡散性とメチレンブルーの染色性で調べた。
変更例及び比較例
図8のプロセスを用い、実施例1と同じ条件で得られた2層積層体(全繊維端末数は約500個/cm2)を、第1から第3の交絡セットからなる水流交絡装置へとガイドする。水流交絡装置のWJユニットも吸引ユニットと受けプレートの配置も全く実施例1と同じであるが、水流の圧力条件を下記のようにA条件とB条件に変更している。
・A条件
第1のWJユニット1005:水圧7.0MPa
第2のWJユニット1006:水圧5.0MPa
第3のWJユニット1007:水圧3.0MPa
・B条件
第1のWJユニット1005:水圧3.0MPa
第2のWJユニット1006:水圧5.0MPa
第3のWJユニット1007:水圧7.0MPa
A条件以外は全て実施例1と同じ条件で調製した複層不織布を変更例とし、B条件以外は全て実施例1と同じ条件で調製した複層不織布を比較例として、その物性値の測定結果を表3に示した。
(変更例と比較例の物性)
表3で示すように、乾燥強度、湿潤強度もA、Bとも実施例1と比較して、いずれも若干の低下は有るが殆ど変わりがなく、水流交絡は充分行われていることを示している。しかし、上層と下層との剥離テストの結果を比較すると、実施例1と変更例は共に界面破壊を起こしているが、比較例のみは層間剥離を起こすことがわかる。比較例の条件は通常のWJ法で採用されている方法であって、第1段では原料ウェブが乱れないように表面を交絡してまず安定化し、第2段ではより交絡深度を高め、第3段で交絡を完結させる方式である。このように、比較例では水流交絡は短繊維層内で大部分生起し、下層を貫通する繊維端末が少なくなり、下層には充分交絡が及んでいないことを示唆している。
(変更例と比較例の露出繊維の状態比較)
・下面の突出繊維の長さの比較
変更例:1mm〜3mmで全面に起毛状、実施例1とほとんど同じ。
比較例:肉眼的に起毛状の存在がわからない。顕微鏡でみると所々にパラパラと存在しているものが観察される。
・下面の露出繊維端末の数
変更例:約230個/cm2で実施例1と殆ど変らない。
比較例:50〜80個/cm2程度で殆どないに近い。
・手触り感
変更例:下面全面にビロード状の産毛の様なソフトな感触で、実施例1と殆ど同じ。
比較例:下面が少しザラザラして、SBの表面と殆ど変らない。
・上面と下面の水濡れ性
変更例:上面、下面共に実施例1と殆ど変らず、水滴を添加すると瞬時に拡散する。
比較例:上面は水滴の添加で瞬時に拡散するが、下面は、最初は球状に水滴が留まり、5〜6sec程すると吸収されて拡散する。染色液の場合は、その着色度合いは変更例と比較してかなり薄く感じられる。
尚、水濡れ性のテストは、スポイトで吸引した0.5mlの水をサンプルシートの上方高さ10mm上からスポット状に滴下させ、その拡散状態を観察した。メチレンブルーの着色テストは、0.01%のメチレンブルー水溶液を用意し、水濡れ性テストと同様に、スポイトで0.5mlのメチレンブルー水溶液をサンプルシートに滴下させ、その拡散状態と着色状態を観察した。
これらの実施例1、変更例、比較例による複層不織布を比較すると、交絡効果としての物性の違いは少ないが、露出繊維端末の存在状態に大きな違いがあり、最初(第1段)のWJ効果が、繊維端末の下層への移動、下層への貫通には重要な効果を発揮することが明らかになった。
尚、本実施例では第1段のWJユニットの条件が重要であり、第2段目からは効果は少なくなるので、変更例の条件のように、第2段、第3段の水圧を大幅に下げた条件を用いることは実施例1に比べて商業生産上効率が悪くなるが、B条件に対比する実験例として行ったものである。
*上層と下層の界面で界面破壊が生じるかを観察
(厚さ及び強度測定は、JIS-L-1096及びL-1913に準じて行った)
実施例2
図9は本発明になる複層不織布の製造プロセスフローシートの別の例を図示した。プロセスの流れは左から右の方向に進行する。プロセスの構成は左から、下層不織布巻出し機2001、2台の直列に配置されたカード機2002及び2003、繊維層搬送コンベアー2004、第1のWJユニット2005、第2のWJユニット2006、第3のWJユニット2007、長い吸引ユニット2011の中に嵌め込まれた、第1の受けプレート2008、第2の受けプレート2009、第3の受けプレート2010、エアーブロワー2012、エアーサクション2013、スウィングピドラー2014、ウェブ収容コンテナー2015、となっている。なお図9においてはWJユニット、吸引ユニット、受けプレートの配置部(点線で囲んだ部位)については詳細がわかるように相対的に拡大して図示した。
フィラメント繊維主成分層となる下層不織布としては1600mm幅のPE/PP製SB不織布15g/m2(チッソ社製)を巻出し機(大昌鉄工製)2001に装着し、第1及び第2のカード機2002、2003として鳥越製作所製カード機を用い、第1のカード機2002には7d×63mmの中空PET繊維(テイジン製)10g/m2、第2のカード機2003にも同じく中空PET繊維(テイジン製)10g/m2を供給し、1500mm幅20g/m2の短繊維層となる未結合カードウェブを前記SB不織布上に重ねて、搬送コンベアー出口に設けられた一定の隙間を持つスムースロール(詳細説明割愛)によりカードウェブの表面を平滑にする。このようにして得られた60m/min.で走行するPE/PP製SB不織布とそれに重ねられた20g/m2の未結合カードウェブの2層積層体を、吸引ユニット2011に3つの受けプレート2008、2009、2010が隣接する装置と、その上方に3つのWJ(水流噴出)ユニット2005、2006、2007を備えた水流交絡装置へとガイドする。
水流交絡装置は図9に図示するように、WJユニット2005、2006、2007の3ユニットと、その下方に設けられた受けプレート2008、2009、2010及び吸引ユニット2011の組み合わせとからなっている。WJユニットは、第1のWJユニット2005、第2のWJユニット2006、第3のWJユニット2007も図16、図17で図示したものと同様の構造をもち、第1のWJユニット2005には口径0.18mm、ノズル間隔18mmのノズルプレートが組込まれ、第2のWJユニット2006には口径0.18mm、ノズル間隔9mmのノズルプレートが組込まれ、第3のWJユニット2007には口径0.12mm、ノズル間隔9mmのノズルプレートが組込まれている。いずれのユニットにも1台の高圧ポンプから7Mpaの高圧イオン交換水が供給される。
図9で使用している吸引ユニット2011と受けプレート2008〜2010は、吸引ユニットをカバーする天板の中央に受けプレートが埋め込まれている構造を持っている。特に図9の配置の特徴は、長い吸引ユニット2011の中に、第1の受けプレート2008、第2のプレート2009、第3の受けプレート2010の3枚の受けプレートが嵌め込まれた点であり、図5(C)で説明した配置状態に相当する。
吸引ユニット2011は厚さ1.0mmのSUS304製の前後幅600mm×長さ1800mmの直方体の箱状空間と、箱底に直径100mmのパイプ状の排出口を持った本体(サクションボックス)と、厚さ15mmの天板が密閉状態になるように接合されている。天板材料には超高圧ポリエチレンを採用し、天板には吸引用の貫通孔としてほぼ全面に幅5mm×長さ100mmの長方形状のスリットが上面から箱状空間に貫通するように設けられている。天板にはほぼ等間隔に、天板を隔てて3枚の前後幅25mm、厚さ2mmの無孔の帯状のSUS316製の狭幅受けプレートが天板の上表面と面一になるように埋め込まれている。天板の上表面と受けプレートの上表面はバフ仕上げによる研磨処理が施されている。
なおWJノズルの下面と受けプレートの上面との距離は、この間隙を2層積層体が通過するため、この例では20mmに設定している。またパイプ状の排出口はフレキシブルホースを経由してターボブロワーに接続され20mmH2Oの減圧状態に保たれている。
前記2層積層体は受けプレート上を滑走させつつ、第1のWJユニット2005、第2のWJユニット2006、第3のWJユニット2007による水流噴射を受け、上記20mmの間隙を走行し、交絡・脱水処理を終了する。交絡・脱水処理を経た交絡した繊維層は40℃前後の温風を供給するエアーブロワー2012、エアーサクション2013で余分の水分を除去し、スウィングピドラー2014を使用して、ウェブ収容コンテナー2015に折り畳みながら収容した。
残存水分率を測定すると、WJサクション通過後の交絡済み2層積層体には35wt%程度の水分が残存していたが、エアーサクション通過後の交絡済み2層積層体には15wt%程度の水分が残存する状態で、少し湿った感触はあったが手に水分が付くようなこともなく、外見上乾燥している状態になっていた。ウィングピドラーを利用しての折り畳み状況も静電気の発生は全く観察されず均一に折り畳まれた。ちなみに本実施例のように合成繊維100%のWJ交絡不織布の場合、熱乾燥した水分率10wt%以下の状態では、巻き取り、スリット加工、フェストーニング加工(折り畳み加工)する場合、静電気トラブルを回避するため、水分の噴霧により加湿して静電気の発生を防いで作業を行うのが一般的である。
本実施例で得られた複層不織布は非常に嵩高の不織布で、図2(B)の模式図で示すように畝状の連続的な厚みのある畝状の突起部と薄くなった平滑部を持っている。
得られた不織布は目付35g/m2で、厚みのある突起部は厚み3mm(無加重下)、薄くなった平滑部は厚み0.3mmであった。突起部ではPE/PP製SBのフィラメント繊維主成分層側にも起毛状にPET繊維がループ状に突出し、高さhが2mm〜4mm前後に飛出し、手指や掌で触ると畝状に長手方向に続くふわふわした繊維脈が観察された。
実施例3
図10は本発明になる複層不織布の製造プロセスフローシートの別の例を図示した。プロセスの流れは左から右の方向に進行する。プロセスの構成は左から、上層不織布巻出し機3001、下層不織布巻出し機3002、プレスロール3003、第1のWJユニット3004、第2のWJユニット3005、貫通孔を持つ広幅受けプレート3006、受けプレート3006を埋め込み支える吸引ユニット3007、ニップロール3008、乾燥機3009、製品巻取機3010、となっている。なお図10においてはWJユニット、吸引ユニット、受けプレートの配置部(点線で囲んだ部位)については詳細がわかるように相対的に拡大して図示した。
上層の短繊維層を形成する不織布としてTCF(品番500、フタムラ化学製)目付25g/m2、構成繊維径1.5d繊維長10mm、の1500mm幅巻き取りを第1の巻出し機(大昌鉄工製)3001に装着し、フィラメント繊維主成分層となる下層不織布としては1600mm幅のPP製SB不織布15g/m2(三井化学社製)を第2の巻出し機(大昌鉄工製)3002に装着し、プレスロール3003で圧着して2層積層体とする。前記2層積層体(この2層積層体中に存在する全繊維端末数はTCFに起因するもので、計算すると約2700個/cm2である)は、60m/min.の速度で吸引ユニット3007と受けプレート3006が隣接する装置と、その上方に水流噴出ユニット3004、3005を備えた水流交絡装置へとガイドする。表4に示すように、下層のSB不織布の厚みは0.12mmと薄いのに対して、上層のTCFは目付の小さいものであるが0.18mmの厚みを持っていた。
水流交絡装置は図10に図示するように、WJユニット3004、3005の2ユニットと、その下方に設けられた受けプレート3006と吸引ユニット3007の組み合わせの1ユニットからなっている。WJユニットは、第1のWJユニット3004、第2のWJユニット3005も図16、図17で図示したものと同様の構造をもち、第1のWJユニット3004には口径0.12mm、ノズル間隔2mmのノズルプレートが組込まれ、第2のWJユニット3005にも同じ口径0.12mm、ノズル間隔2mmのノズルプレートが組込まれ、いずれのユニットにも1台の高圧ポンプから7Mpaの高圧イオン交換水が供給される。
図10で使用している吸引ユニット3007と受けプレート3006は、吸引ユニットをカバーする天板の中央に受けプレートが埋め込まれ、受けプレートの開口はサクションボックスまで貫通し減圧になった吸引力が働くようになっている。また図5(D)のように複数のWJユニットが組み合わさっている構造を持っているが、中央部の一部が上に突出して横断面が屋根板状になっている点で異なる。この受けプレートは図19(E)、(F)に類似した屋根板状の横断面形状を持ち、W6=200mmで表面に直径0.3mmの円形貫通孔がほぼ全面に均等に設けられている。更に表面をバフ仕上げして平滑にしている。
なおWJノズル3004、3005の下面と受けプレート3006の上面との距離は、この間隙を2層積層体が通過するためこの例では15mmに設定している。またパイプ状の排出口はフレキシブルホースを経由してターボブロワーに接続され20mmH2Oの減圧状態に保たれている。
前記2層積層体は受けプレート上を60m/min.の速度で滑走させつつ、第2のWJユニット3004、第2のWJユニット3005による水流噴射を受けつつ、上記15mmの間隙を走行し、交絡・脱水処理を終了する。こうして得られた交絡済み複層不織布は、ニップロール3008で更に脱水し熱風乾燥機3009を経て製品巻取機3010により巻き取られて複層不織布製品とする。
得られた複層不織布製品の外観表面は、多数の細い孔が全面に開き編み物のような外観を呈する。得られた複層不織布製品の代表的な物性値を原料として使用したTCFおよびPPスパンボンドとの比較で示すと表4のような結果であった。乾燥強度も湿潤強度も高く、縦と横の強度バランスもよい。特に湿潤時強度の上昇が目立つ。十分な水流交絡効果とともにTCFとPPスパンボンドとの複合効果が働いて、物性が大幅に向上していることがわかる。更に受けプレートを使用した不織布の特徴は、感触・風合いの改善効果である。上層のTCFの短繊維の自由端末(Free Tail)がフィラメント繊維主成分層であるPPスパンボンドを貫通してその下面に突き出て、図2(C)の模式図で示すように、下層の表面全体が平均して1mm前後の短い起毛状を呈していることである。これによって下層を指や掌でなでると、下層不織布であるPPスパンボンド特有の硬い、引っかかるような感触が消え、赤ちゃんの産毛のようなソフトな感蝕が賦与される。また上層のTCFの表面もTCF特有の横じわが殆ど消えて、細い孔が線状に観察されるようになっていた。起毛状に突出した繊維端末数を顕微鏡で拡大して計数すると約2,200個/cm2で、全繊維端末(約3,300個/cm2)の約67%前後が露出繊維端末となっていることが分かった。
実施例4
図11は本発明になる複層不織布の製造プロセスフローシートの別の例を図示した。プロセスの流れは左から右の方向に進行する。プロセスの構成は左から上層不織布巻出し機4001、下層不織布巻出し機4002、プレスロール4003、WJユニット4004、無孔の狭幅で台形の受けプレート4005、受けプレート4005の一部で受けプレート4005の下部を支える支持体(支え板)4006、前部吸引ユニット4007、後部吸引ユニット4008、ニップロール4009、乾燥機4010、製品巻取機4011、となっている。なお図11においては、WJユニット、吸引ユニット、受けプレートの配置部(点線で囲んだ部位)については詳細がわかるように相対的に拡大して図示した。
上層の短繊維層を形成する不織布としてTCF(品番400,フタムラ化学製)目付20g/m2、構成繊維径1.5d、繊維長10mm、1500mm幅を第1の巻出し機(大昌鉄工製)4001に装着し、フィラメント繊維主成分層となる下層不織布としては1600mm幅のPP製SMMS不織布13g/m2(AVGOL社製)を第2の巻出し機(大昌鉄工製)4002に装着しプレスロール4003で圧着して2層積層体とする。得られた2層積層体(この2層積層体中に存在する全繊維端末数はTCFに起因するもので、計算すると約2700個/cm2である)は、60m/min.の速度で吸引ユニット4007、4008と受けプレート4005が隣接する装置と、その上方にWJ(水流噴出)ユニット4004を備えた水流交絡装置へとガイドする。受けプレート4005の上部は受けプレート4005の一部となる支持体4006により支持されている。
水流交絡装置は図11に図示するように、WJユニット4004と、その下方に設けられた受けプレート4005と吸引ユニット4007、4008の組み合わせの1ユニットとからなっている。WJユニット4004は図16、図17で図示したものと同様の構造を持ち、WJユニット4004には口径0.12mm、ノズル間隔2mmのノズルプレートが組込まれ、高圧ポンプから7Mpaの高圧イオン交換水が供給される。
図11で使用している吸引ユニット4007、4008と受けプレート4005は天板にスリット状の吸引用の貫通孔を持つ前部吸引ユニット4007と後部吸引ユニット4008が、前後に約15mmの間隔を置いて、別体として配置されている。この15mmの間隙と前部吸引ユニット4007の天板の後端10mmと後部吸引ユニット4008の前端部10mmをカバーする様に、下面前後幅35mm、厚さ5mm、上面前後幅20mmの台形状横断面を有するSUS316製の無孔受けプレートが、下面幅25mm、厚さ5mmのT字型の支え板に溶接されて配置されている。更に受けプレートの表面はバフ仕上げして平滑にしている。
図12(A)は吸引ユニット4007、4008と受けプレート4005の配置を示す斜視図、図12(B)は図12(A)のXIIB−XIIB横断面模式図である。図12(A)、(B)は天板部と空間部と排出部を備えた吸引ユニットが、前後に前部吸引ユニット4007、後部吸引ユニット4008として別体に設けられ、その前部及び後部吸引ユニット4007、4008の間隙と前部吸引ユニット4007の天板部後部及び後部吸引ユニット4008の天板部前部の上面を傘で覆う様に、図18(C)、(D)と同様の無孔で狭幅の台形状の受けプレート4005が配置され、受けプレート4005の中央部位は底板から柱状に立ち上がる複数本の支持体4006によって支えられている構造になっている。支持体4006は断面が逆T字状をなし、受けプレート4005の一部となる。複数本の支持体4006は受けプレート4005の長手方向に並び受けプレートの台形状の上部(受けプレート4005の、断面が台形状の平板部分)を支える。受けプレートの前後に上向きに吸引用の貫通孔が配置される。受けプレート4005の支持体4006は前後吸引ユニット4007、4008の側部と接合されている。
なおWJノズル4004の下面と受けプレート4005の上面との距離は、この間隙を2層積層体が通過するためこの例では15mmに設定している。またパイプ状の排出口はフレキシブルホースを経由してターボブロワーに接続され20mmH2Oの減圧状態に保たれている。
前記2層積層体は受けプレート4005上を60m/min.の速度で滑走させつつ、WJユニット4004による水流噴射を受けつつ、上記15mmの間隙を走行し、交絡・脱水処理を終了する。得られた交絡済み複層不織布は、ニップロール4009で更に脱水し熱風乾燥機4010を経て、製品巻取機4011で巻き取られて複層不織布製品とする。
得られた複層不織布の外観表面は、多数の細い線が長さ方向に走り織物のような外観を呈する。得られた複層不織布製品の代表的な物性値を原料であるTCFとPP・SMMSとの比較で示すと表5のような結果が得られた。乾燥強度も湿潤強度も高く、縦と横の強度バランスもよい。特に横強度の上昇による縦と横のバランスの改善が目立つ。十分な水流交絡効果とともにTCFとPP製のSMMSとの複合効果が働いて、物性が向上していることがわかる。更に受けプレートを使用した不織布の特徴は、感触・風合いの改善効果である。上層のTCFの短繊維の自由端末(Free Tail)がフィラメント繊維主成分層であるPP製SMMSを貫通して、その下面に突き出て、図2(C)の模式図と同様に、下層の表面全体が平均1mm前後の短い起毛状を呈していることである。これによって下層を指や掌でなでると、下層不織布であるPP製SMMS特有の硬い、引っかかるような感触が消え、赤ちゃんの産毛のようなソフトな感蝕が賦与される。また上層のTCFの表面もTCF特有の横じわが殆ど観察されず、細い織物状の線状模様が表われていた。起毛状に突出した繊維端末数を顕微鏡で拡大して計数すると約1,500個/cm2で、全繊維端末(約2700個/cm2)の約56%前後が露出繊維端末となっていることが分かった。
実施例5
図13は本発明になる複層不織布の製造プロセスフローシートの別の例を図示した。プロセスの流れは左から右の方向に進行する。プロセスの構成は左から上層不織布巻出し機5001、下層不織布巻出し機5002、プレスロール5003、ガイドロール5004−1〜504−3、第1のWJユニット5005、第2のWJユニット5006、吸収ユニットと受けプレートの両機能を持つ第1の管状体(パイプ状)装置5007と第2の管状体(パイプ状)装置5008、ニップロール5009、乾燥機5010、製品巻取機5011、となっている。なお図13においては、WJユニット、吸収ユニットと受けプレートの両機能を持つ管状体の配置部(点線で囲んだ部位)については詳細がわかるように相対的に拡大して図示した。
上層の短繊維層を形成する材料としてティシュ(王子ネピア製)目付25g/m2、ヴァージンパルプ100%使用、1500mm幅を第1の巻出し機(大昌鉄工製)5001に装着し、フィラメント繊維主成分層となる下層不織布としては1600mm幅のPP製SMMS不織布13g/m2(AVGOL社製)を第2の巻出し機(大昌鉄工製)5002に装着し、プレスロール5003で圧着して2層積層体とする。得られた2層積層体は、60m/min.の速度で吸引ユニットと受けプレート両方の機能を持つ管状体(パイプ状)装置5007、5008と、その上方にWJ(水流噴出)ユニット5005、5006を備えた水流交絡装置へとガイドする。
水流交絡装置は図13に図示するように、WJユニット5005、5006の2ユニットと、その下方に設けられた管状体(パイプ状)装置5007、5008の2ユニットとの組み合わせから構成されている。WJユニット5005、5006は図16、図17で図示したものと同様の構造を持ち、WJユニット5005、5006にはそれぞれ口径0.12mm、ノズル間隔2mmのノズルプレートが組込まれ、高圧ポンプから7Mpaの高圧イオン交換水が供給される。
図13で使用している吸引ユニットと受けプレート両方の機能を持つ管状体(パイプ状)装置5007、5008は、基本的に管状体(パイプ状)を図5(E)で示すように前後に2セット配置したものである。吸引ユニットと受けプレート両方の機能を持つ管状体(パイプ状)装置5007、5008は同一仕様を持つものであり、それぞれ直径240mm、肉厚2mmのSUS304製のパイプの上頂点近傍に、前後幅2mmの吸引用の貫通孔となるスリットを20mmの間隔をおいて前後に2本設けている。前後2本のスリット間の無孔の曲面を受けプレート部としている。更にパイプの表面はバフ仕上げをして平滑にしている。
なおWJノズル5005、5006の下面と管状体(パイプ状)装置5007、5008の上面との距離は、この間隙を2層積層体が通過するためこの例では15mmに設定している。またパイプ状の排出口はフレキシブルホースを経由してターボブロワーに接続され20mmH2Oの減圧状態に保たれている。前記2層積層体は、管状体(パイプ状)装置5007、5008の曲面に沿わせるように60m/min.の速度で滑走させつつ、WJユニット5005、5006による水流噴射を受けつつ、上記15mmの間隙を走行し、交絡・脱水処理を終了する。得られた交絡済み複層不織布は、ニップロール5009で更に脱水し熱風乾燥機5010を経て、製品巻取機5011で巻き取られて複層不織布製品とする。
得られた複層不織布製品の外観表面は、多数の細い線が長さ方向に走り織物のような外観を呈する。得られた複層不織布製品の代表的な物性値を原料であるティシュとPP・SMMSとの比較で示すと表6のような結果が得られた。乾燥強度も湿潤強度も高く、縦と横の強度バランスもよい。特に横強度の上昇による縦と横のバランスの改善が目立つ。十分な水流交絡効果とともにティシュとフィラメント繊維主成分層であるPP製のSMMSとの複合効果が働いて、物性が向上していることがわかる。更に受けプレートを使用した複層不織布の特徴は、感触・風合いの改善効果である。ティシュの構成木材繊維は1mm〜3mm前後の短い繊維から構成されているため、肉眼観察では自由端末が下層不織布を貫通した起毛状体は観察できないが、表5に示したように、(1)裏面がティシュ繊維により親水化され濡れ性が顕著に改善される、(2)直接染料(メチレンブルー)により全体に青色に染色される、等の変化が観察された。またSMMS面の感触はソフトに改善される。さらに重要なのはティシュ面で、ティシュの形状は全く変化し、繊維の脱落がなくなりコットン不織布状の風合いとなる。なお本製品は水分の吸収、拡散性にも優れ、更に湿熱安定性も向上する。
実施例6
図14は本発明になる複層不織布の製造プロセスフローシートの別の例を図示した。プロセスの流れは左から右の方向に進行する。プロセスの構成は左から上層不織布巻出し機6001、下層不織布巻出し機6002、プレスロール6003、WJユニット6004、狭幅で角柱状の受けプレート6005、取り付けボルト6006、スペーサー6007、天板6008、吸引ユニット6009、ニップロール6010、乾燥機6011、製品巻取機6012、となっている。なお図14においては、WJユニット、吸引ユニット、受けプレートの配置部(点線で囲んだ部位)については詳細がわかるように相対的に拡大して図示した。
上層の短繊維層を形成する不織布としてTCF(品番400,フタムラ化学製)目付30g/m2、構成繊維径1.5d、繊維長10mm、1500mm幅を第1の巻出し機(大昌鉄工製)6001に装着し、フィラメント繊維主成分層となる下層不織布としては1600mm幅のPP製SB不織布15g/m2(三井化学社製)を第2の巻出し機(大昌鉄工製)6002に装着しプレスロール6003で圧着して2層積層体とする。得られた2層積層体(この2層積層体中に存在する全繊維端末数はTCFに起因するもので、計算すると約4000個/cm2である)は、60m/min.の速度で吸引ユニット6009の表面となる受けプレート6005が取り付けられた天板6008と、その上方にWJ(水流噴出)ユニット6004を備えた水流交絡装置へとガイドする。受けプレート6005は、取り付けボルト6006とスペーサー6007により、天板6008の中央開口部の片側側面に取り付けられている。
水流交絡装置は図14に図示するように、WJユニット6004と、その下方に設けられた受けプレート6005と吸引ユニット6009の組み合わせの1ユニットとからなっている。WJユニット6004は図16、図17で図示したものと同様の構造を持ち、WJユニット6004には口径0.18mm、ノズル間隔5mmのノズルプレートが組込まれ、高圧ポンプから8Mpaの高圧イオン交換水が供給される。
図14で使用している受けプレート6005は、図15で示すように吸引ユニット6009の天板6008の中央開口部の片側側面に、取り付けボルト6006により取り付けられて、吸引ユニット6009と一体化されている。
図15(A)は吸引ユニット6009と受けプレート6005の配置を示す斜視図、図15(B)は図15(A)のXVB−XVB部分横断面模式図である。厚さ15mmの超高圧PE樹脂製の天板6008は、前後2枚に分かれて吸引ユニット6009の上面を覆い、中央に前後幅約20mmの開口部を形成している。受けプレート6005は10mm角のSUS316製の角柱状のもので、その側面の5か所に、ほぼ等間隔になるようにボルト用の貫通穴が設けられている。受けプレート6005は、その5か所でM3の取り付けボルト6006によって後部天板の側面に取り付けられる。その際、これも超高圧PE樹脂製の5mm長の中空管であるスペーサー6007をボルトに挿入して、受けプレートと後部天板の間に隙間を作る。その結果、受けプレート6005の前後には約5mmずつのスリット状貫通孔が形成される。尚この貫通孔の前後幅は、スペーサーの長さを変えたり、天板を前後にずらしたりすることにより、ある程度自由に調整することができる。また受けプレート6005は、その上表面が天板の上面に合わせて面一になるように取り付けてもよいが、繊維層が貫通孔へ引き込まれる抵抗を考慮して、天板の上面より1〜3mm上になるように取り付ける方が好ましい。尚、受けプレート6005の上表面はバフ仕上げして平滑にしている。
WJノズル6004の下面と受けプレート6005の上面との距離は、この間隙を2層積層体が通過するためこの例では15mmに設定している。また吸引ユニット6009の排出口はフレキシブルホースを経由してターボブロワーに接続され20mmH2Oの減圧状態に保たれている。
前記2層積層体は受けプレート6005上を60m/min.の速度で滑走させつつ、WJユニット6004による水流噴射を受けつつ、上記15mmの間隙を走行し、交絡・脱水処理を終了する。得られた交絡済み複層不織布は、ニップロール6010で更に脱水し熱風乾燥機6011を経て、製品巻取機6012で巻き取られて複層不織布製品とする。
得られた複層不織布の外観は図3(E)、(F)に類似した形状をもち、上層のTCFが縦縞状にふっくらと盛り上がり、見掛け上嵩高な不織布製品となる。更に上層のTCFの短繊維の自由端末(Free Tail)がフィラメント繊維主成分層であるPP製SBを貫通して、線状にその下面に突き出ているため、下層不織布であるPP製SB特有の硬い、引っかかるような感触が感じられないようになっている。ただし下面への起毛が5mmピッチの線状部分だけであるため、上面と下面の水分に対する濡れ性の差が維持され、上面がしっとり濡れても下面のドライタッチは残したままにすることができる。起毛状に突出した繊維端末数を顕微鏡で拡大して計数すると約400個/cm2で、全繊維端末(約4000個/cm2)の約10%前後が露出繊維端末となっていることが分かった。