空港において、航空機に乗降する際には、ターミナルビルと航空機とを連結する旅客搭乗橋が用いられる。このような旅客搭乗橋において、待機位置から所定の目標位置(例えば装着位置)までの移動を自動化することが提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
図9は、従来の旅客搭乗橋の概略側面図である。また、図10は、従来の旅客搭乗橋の概略平面図である。
この旅客搭乗橋は、ターミナルビル2の乗降口に接続されて支柱7によって鉛直回転軸CL1の回りに回転自在に支持されたロタンダ4と、基端がロタンダ4に接続されて複数のトンネル5a、5bがテレスコピック式に嵌合されて伸縮自在に構成されたトンネル部5と、トンネル部5の先端に設けられて回転軸CL2を中心に回転自在なキャブ6とを備えている。さらに、トンネル部5の先端寄りには、支持脚としてドライブコラム8が設けられている。
ドライブコラム8には、トンネル部5を上下移動させる昇降機構10が設けられている。昇降機構10によってトンネル部5を上下移動させることにより、トンネル部5はロタンダ4を基端として上下方向に揺動運動することができる。また、ドライブコラム8の下部には、各々独立に正逆回転駆動できる2つの駆動輪9(図10の右車輪9R及び左車輪9L)を有する走行部12が設けられている。走行部12は、2つの駆動輪9の駆動によって、前進走行及び後退走行が自在に構成されるとともに、2つの駆動輪9の中心点を通る回転軸CL3の回りに正逆回転が自在に構成されている。
また、旅客搭乗橋には、ロタンダ4の回転角度θ1(図10)を検出する角度センサ23と、トンネル部5に対するキャブ6の回転角度θ2(図10)を検出する角度センサ25と、走行部12の回転角度θ3(図10)を検出する角度センサ26とが設けられている。また、トンネル部5の長さを測定する距離計等で構成され、ロタンダ4の中心点(回転軸CL1の位置)から走行部12の中心点(回転軸CL3の位置)までの距離L1(図10)を検出する距離センサ24が設けられている。さらに、昇降機構10によるトンネル部5の昇降量を測定しトンネル部5の高さを検出する高さセンサ27も設けられている。
そして、キャブ6の内部には、図3に示すような操作盤31が設けられている。操作盤31には、昇降機構10によるトンネル部5及びキャブ6の昇降や、キャブ6の回転等を操作するための各種操作スイッチ33の他、駆動輪9を操作するための操作レバー32及び表示装置34が設けられている。
また、トンネル部5の先端寄り部分には、旅客搭乗橋の動作を制御する制御装置30が設けられている。制御装置30は、操作盤31と相互に電気回路で接続され、操作スイッチ33や操作レバー32の操作に基づく情報が入力されるとともに、各センサ23〜27の出力信号等が入力されて、旅客搭乗橋の動作を制御するとともに、表示装置34に表示される情報等を出力する。なお、制御装置30が、キャブ6に設けられている場合もある。
乗客の乗り降りの際には、キャブ6を航空機3のドアの付近に移動させるように、キャブ6の回転、昇降機構10によるトンネル部5の昇降、及び、走行部12による走行(2つの駆動輪9の回転及び走行)動作を行うことによって、旅客搭乗橋を所定の待機位置から装着位置にまで移動させ、キャブ6を航空機3のドアに装着する。一方、乗り降りが終了した後は、キャブ6を航空機3のドアから取り外し、旅客搭乗橋を装着位置から待機位置にまで移動させる。
このような旅客搭乗橋において、例えば、待機位置から所定の目標位置(装着位置、あるいは装着位置から所定距離離れた所定位置)への移動を自動制御する場合、制御装置30は、所定周期で走行部12の中心点の現在位置座標を算出し、走行部12の中心点が所定の目標位置の座標へ到達できるように、2つの各駆動輪9の回転速度を制御して走行部12の走行方向を微調整するようにしている。また、キャブ6を航空機3のドアから取り外した後、待機位置への移動を自動制御する場合も、同様である。
また、操作者が操作盤31の操作レバー32等を操作して旅客搭乗橋の移動を手動制御する場合でも、制御装置30は、所定周期で走行部12の中心点の現在位置座標を算出している。さらに、制御装置30は、算出した走行部12の中心点の現在位置座標に基づいて、キャブ6の中心点の現在位置座標なども算出している。
そして制御装置30は、走行部12の中心点及びキャブ6の中心点などの現在位置座標を表示装置34に常時表示して、操作者が操作する際の参考となるようにしている。さらに、制御装置30は、角度センサ23で検出されるロタンダ4の回転角度θ1 及び距離センサ24で検出される距離L1 の他、角度センサ26で検出される走行部12の回転角度θ3 、高さセンサ27で検出されるトンネル部5の高さなども、表示装置34に常時表示して、操作者が操作する際の参考となるようにしている。
上記従来の旅客搭乗橋において、現在位置座標を算出する方法について、図10を用いて説明する。
図10に示すようなXY直交座標を用いる。すなわち絶対座標として、ロタンダ4の中心点(回転軸CL1の位置)を原点(0,0)にして、図10に示すようにX軸、Y軸をとる。
旅客搭乗橋の基準となる点は、走行部12の中心点(回転軸CL3の位置)である。キャブ6の中心点(回転軸CL2の位置)等の位置座標は、走行部12の中心点の位置座標から演算される。
そして、制御装置30では、走行部12の中心点の座標(XA ,YA )は、角度センサ23で検出されるロタンダ4の回転角度θ1 と、距離センサ24で検出されるロタンダ4の中心点から走行部12の中心点までの距離L1とに基づいて算出する。
XA = L1・sinθ1
YA = L1・cosθ1
そして、キャブ6の中心点の座標は、ロタンダ4の中心点と走行部12の中心点とを結ぶ線分の延長線上で、かつ、走行部12の中心点から所定距離L2 だけ離れた位置の座標として算出できる。
このようにして、制御装置30では、常時(所定周期で)、角度センサ23で検出されるロタンダ4の回転角度θ1 と、距離センサ24で検出される距離L1とに基づいて、走行部12の中心点の現在位置座標(XA ,YA )を算出している。
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
(実施形態)
図1は、本実施形態に係る旅客搭乗橋の一例を示す概略平面図である。なお、この旅客搭乗橋1の概略側面図は、図9において、ロタンダの角度センサ23及びその信号用ケーブル23aと、距離センサ24とが無い以外は、図9と同様であるので、必要に応じて図9の参照符号も用いて説明する。また、図2(A)、(B)は、それぞれ、旅客搭乗橋1を前方斜め上方からみた概略模式図である。
旅客搭乗橋1は、空港のターミナルビル2の乗降口2aに接続された水平回転自在なロタンダ(後部円形室)4と、基端がロタンダ4に接続されたトンネル部5と、トンネル部5の先端に正逆回転自在に設けられたキャブ(前部円形室)6とを備えている。なお、トンネル部5のサイドには、例えば、操作者が地上(エプロン)からキャブ6に出入りするのに使用する補助階段(図示せず)が設置されている。
図1に示すように、ロタンダ4は支柱7(図9参照)によって回転軸CL1(鉛直軸)の回りに正逆回転自在に支持されている。トンネル部5は、ターミナルビル2の乗降口2aと航空機3のドア3aとをつなぐ連絡通路を形成する伸縮自在な筒状体であり、複数のトンネル5a,5bがテレスコピック式(入れ子式)に嵌合されて伸縮自在に構成されている。先端側のトンネル5bが基端側のトンネル5aに対してスライド移動することにより、トンネル部5はその全体が伸縮するようになっている。なお、ここでは、2つのトンネル5a,5bによって構成されたトンネル部5が例示されているが、トンネル部5は3つ以上のトンネルによって構成されていてもよい。
また、トンネル部5の先端寄り部分(最も先端側のトンネル5b)には、支持脚としてドライブコラム8が設けられている。ドライブコラム8には、トンネル部5を上下移動させる昇降機構10が設けられている。この昇降機構10によってトンネル部5を上下移動させることにより、トンネル部5は、ロタンダ4を基端として上下方向に揺動運動することができる。
また、ドライブコラム8には、昇降機構10の下方に、2つの駆動輪9(右車輪9R及び左車輪9L)を有する走行部12が設けられている。走行部12は、前進走行及び後退走行が自在に構成され、また、舵角がトンネル部5の長手方向に対して、−90゜〜+90゜の範囲内で変更可能なように、回転軸CL3の回りに正逆回転が自在に構成されている。
ドライブコラム8は、図2(A)、(B)に示すように、トンネル部5の先端寄りの左右に取り付けられ、昇降機構10を構成する伸縮自在な柱状部10R,10Lを備えている。この2つの柱状部10R,10Lの下部にはこれらを連結支持する横部材11が取り付けられている。この横部材11の中央に走行部12が取り付けられる。
走行部12は、支持台13、回転台14、2つの駆動輪9(右車輪9R及び左車輪9L)、及び、車軸15R,15L等で構成されている。横部材11の中央に走行部12の支持台13が設けられ、この支持台13に回転自在に回転台14が取り付けられている。そして回転台14の下方には、右車輪9Rの車軸15R及び左車輪9Lの車軸15Lがそれぞれ取り付けられている。そして、右車輪9Rと左車輪9Lとは、回転軸CL3から等距離の位置となるように間隔を空けて互いに平行に配置され、それぞれに対して駆動モータ(図示せず)等の駆動部が設けられ、各々独立に正逆回転駆動できるよう構成されている。
なお、図2(A)は旅客搭乗橋1を右旋回させる場合の一例を示している。この例では、右車輪9Rと左車輪9Lのそれぞれに対して描かれた矢印の大きさで示すように、右車輪9Rの回転速度を、左車輪9Lの回転速度より小さくすることで、走行部12が回転軸CL3を中心に回転して右方向へ向きを変えることが示されている。同様にして、図2(B)は旅客搭乗橋1を左旋回させる場合の一例を示し、左車輪9Lの回転速度を、右車輪9Rの回転速度より小さくすることで、走行部12が回転軸CL3を中心に回転して左方向へ向きを変えることが示されている。
また、右車輪9Rと左車輪9Lとを互いに逆方向に同じ速度で回転させることにより、走行部12はその場での回転(回転軸CL3が移動しない状態での回転)を行うことができる。
キャブ6は、トンネル部5の先端に設けられており、図示しない回転機構によって回転軸CL2(図1)の回りに正逆回転自在に構成されている。このようにキャブ6はトンネル部5の先端に取り付けられているので、ドライブコラム8の昇降機構10によってトンネル部5を上下移動させることにより、キャブ6もトンネル部5とともに、ロタンダ4を基端として上下方向に揺動運動することができる。
この旅客搭乗橋1には、図9に示されている、トンネル部5に対するキャブ6の回転角度を検出する角度センサ25と、走行部12の回転角度を検出する角度センサ26と、昇降機構10によるトンネル部5の昇降量を測定しトンネル部5の高さを検出する高さセンサ27とが設けられている。また、キャブ6の先端側のバンパー21に、キャブ6と航空機3との間の距離を検出する距離センサ22が取り付けられている。
そして、キャブ6の内部には、図3に示すような操作盤31が設けられている。操作盤31には、昇降機構10によるトンネル部5及びキャブ6の昇降や、キャブ6の回転等を操作するための各種操作スイッチ33の他、駆動輪9を操作するための操作レバー32及び表示装置34が設けられている。操作レバー32は、多方向の自由度をもったレバー状入力装置(ジョイスティック)によって構成されている。
また、トンネル部5の先端寄り部分(最も先端側のトンネル5b)には、制御装置30が設けられている。制御装置30は、操作盤31と相互に電気回路で接続され、操作スイッチ33や操作レバー32の操作に基づく情報(操作情報)が入力されるとともに、各センサ22,25〜27の出力信号等が入力されて、旅客搭乗橋1の動作(2つの駆動輪9、昇降機構10及びキャブ6の回転機構等の動作)を制御するとともに、表示装置34に表示される情報等を出力する。なお、制御装置30は、キャブ6に設けられてあってもよい。
なお、制御装置30には、CPU等の演算処理部と、ROM、RAM等の記憶部とを有している。記憶部には、旅客搭乗橋1の各部を動作させるための制御プログラム及び当該動作に必要な情報が予め記憶されており、操作盤31からの操作情報等に基づいて演算処理部(CPU)が制御プログラムを実行することにより旅客搭乗橋1の各部の動作を制御することができる。また、旅客搭乗橋1の動作中に記憶される情報も記憶部に記憶される。
次に、旅客搭乗橋1の動作の一例について説明する。この旅客搭乗橋1の動作は、制御装置30の制御によって実現される。
〔自動制御〕
まず、旅客搭乗橋1を自動制御する場合について説明する。この場合、旅客搭乗橋1は、図1の二点鎖線で示す待機位置から、図1の実線で示す所定の目標位置にまで自動的に移動するように構成されている。ただし、その移動の一部又は全部を操作者による手動操作によって行うことも勿論可能である。
本実施形態では、キャブ6の目標位置は、航空機3のドア3aから当該ドア3aの前方に所定距離SL(例えば、0.6m)だけ離れた位置である。キャブ6の目標姿勢は、キャブ6がドア3aと対向する姿勢である。すなわち、キャブ6のバンパー21側がドア3aと真っ直ぐに向き合うような姿勢である。このように、キャブ6の目標位置及び目標姿勢は、キャブ6をドア3aに装着した位置である装着位置から、当該キャブ6をそのままドア3aの前方に所定距離SLだけ後退したような位置及び姿勢に設定されている。なお、制御装置30は、距離センサ22の検出距離が、所定距離SLより小さい所定の安全距離(例えば、0.5m)以下になると旅客搭乗橋1の移動を強制的に停止させるよう構成されている。
ところで、ドア3aの位置や形状は航空機3の型式等によって異なるため、キャブ6の目標位置及び目標姿勢は航空機3の種類によって様々である。そこで、本実施形態では、複数種類の航空機に対応できるように、機種に応じた複数の目標位置及び目標姿勢を予め設定しておき、キャブ6が機種に応じた目標位置及び目標姿勢をとるようにキャブ6の回転、トンネル部5の上下移動、走行部12(駆動輪9)の回転及び走行動作等を行う。これらの動作は制御装置30の制御によって実現される。
図4は、旅客搭乗橋1の装着時の動作の一例を示すフローチャートである。
まず、ステップS11において、操作者が操作盤31の機種選択ボタン(図示せず)を押すことにより、航空機3の機種の選択が行われる。この機種選択に基づいて、予め設定された複数の目標位置及び目標姿勢の中から機種に応じた所定の目標位置及び目標姿勢が決定される。次に、操作盤31のスタートボタン(操作スイッチ33の一つ)を押し、以下の自動制御を開始する。なお、本実施形態では安全性の向上のために、スタートボタンは操作者がボタンを押しているときにのみON状態となる方式のボタン、すなわちいわゆるデッドマンスイッチ方式のボタンによって形成されている。従って、操作者がボタンから手を離すと、自動制御は強制的に中止されるようになっている。
自動制御は、以下のようにして行われる。具体的には、まず、ステップS12において、上記機種選択と、キャブ6の角度センサ25、トンネル部5の高さセンサ27等の検出結果とに基づいて、目標位置及び目標姿勢までの各種制御量(キャブ6の回転角度、トンネル部5の上下移動量、走行部12の回転角度等)の演算が行われる。
そして、この演算結果を基に、ステップS13において駆動輪9の制御が行われ、ステップS14においてキャブ6の回転が実行され、ステップS15においてトンネル部5の上下移動が行われる。なお、ステップS13では、駆動輪9の向きを走行部12の目標位置の方向となるように2つの駆動輪9を逆回転させて走行部12(2つの駆動輪9)をその場で回転させた後、走行部12(2つの駆動輪9)を上記方向に向かって走行させる。
ステップS16では、キャブ6が目標状態、すなわち、キャブ6がドア3aに対向する姿勢でドア3aの前方から所定距離SLだけ離れて位置する状態になったか否かを判定する。
そして、キャブ6が目標状態になると、ステップS17において、駆動輪9の向きとキャブ6の向きとが一致するか否かを判定する。一致していない場合には、ステップS18に進み、キャブ6の向きに揃うように2つの駆動輪9を逆回転させて走行部12(2つの駆動輪9)をその場で回転させる。駆動輪9の向きとキャブ6の向きとが一致すると、旅客搭乗橋1の自動制御を終了する(ステップS19)。
その後は、操作者が手動操作により、キャブ6をドア3aに向かって前進させてキャブ6をドア3aに取り付け、装着は完了する。
なお、旅客搭乗橋1を待機位置へ戻す場合には、操作者が手動操作によりキャブ6をドア3aから取り外した後、操作盤31のデッドマンスイッチ方式のリターンボタン(操作スイッチ33の一つ)を押して、待機位置へ戻るための自動制御を開始させる。この待機位置へ戻る場合の制御は、前述の待機位置から目標位置へ移動する場合の制御とほぼ同様にして(但し、移動方向等は逆になる)行われる。
ここで、走行部12に関するステップS12及びステップS13の処理について詳しく説明する。
ここでは、図1に示すようなXY直交座標を用いる。すなわち絶対座標として、ロタンダ4の中心点(回転軸CL1の位置)を原点(0,0)にして、図1に示すようにX軸、Y軸をとり、旅客搭乗橋1の各部の位置座標をあらわす。
旅客搭乗橋1の基準となる点は、走行部12の中心点(回転軸CL3の位置)である。キャブ6の中心点(回転軸CL2の位置)等の位置座標は、走行部12の中心点の位置座標から演算される。
旅客搭乗橋1の待機位置に対応する走行部12の中心点の待機位置座標P1(X1,Y1)は、予め制御装置30に記憶されている。また、旅客搭乗橋1の目標位置に対応する走行部12の中心点の目標位置座標P2(X2,Y2)も、航空機の機種ごとに、予め制御装置30に記憶されている。また、旅客搭乗橋1が待機位置にあるときは、走行部12の向き(駆動輪9の向き)がトンネル部5の長手方向と同一方向となるようにしている。
制御装置30は、待機位置座標P1と機種に応じた目標位置座標P2とに基づいて、待機位置座標P1から目標位置座標P2へ向かう走行方向とするための走行部12の回転角度を算出し、その回転角度だけ走行部12がその場で回転するための左車輪9Lと右車輪9Rの各々に対する回転速度指令(互いに逆回転方向で同一速度の指令)を各駆動部へ出力し、駆動輪9が走行方向に向いた後、走行部12が所定の速度で直進走行するように左車輪9Lと右車輪9Rの各々に対する回転速度指令を各駆動部へ出力するようにしている。
さらに、制御装置30は、走行部12の走行中には、所定時間間隔(所定周期)で走行部12の現在の位置座標P3を算出し、現在位置座標P3を算出する度に、現在位置座標P3と目標位置座標P2とを比較し、一致していなければ、目標位置座標P2へ進行するための目標方向を算出し、その目標方向に基づいて左車輪9Lと右車輪9Rの各々に対する回転速度指令を各駆動部へ出力するようにしている。
例えば、目標方向へ向かうために右方向への旋回動作が必要な場合には、図2(A)のように右車輪9Rの回転速度を左車輪9Lの回転速度より小さくし、目標方向へ向かうために左方向への旋回動作が必要な場合には、図2(B)のように左車輪9Lの回転速度を右車輪9Rの回転速度より小さくする。このように、制御装置30は、走行部12の走行中においても走行部12が確実に目標位置(座標P2)へ到達できるように、左車輪9Lと右車輪9Rの各々の回転速度を随時制御している。
また、制御装置30は、現在位置座標P3を算出する度に、現在位置座標P3と目標位置座標P2との距離を算出し、この距離が所定距離(例えば、0.7m)以下になると、駆動輪9の回転速度をそれまでより遅い所定の速度にするようにしている(すなわち、停止の準備段階にはいる)。
次に、走行部12の現在位置座標P3の算出方法について説明する。
図5(A)、(B)は、走行部12の現在位置座標の算出方法を説明するための図である。図5(A)、(B)において、X軸、Y軸は、図1と同様のものであり、ロタンダ4の中心点(回転軸CL1の位置)を原点(0,0)にしている。
例えば、図5(A)に示すように、走行部12が旋回角θだけ旋回移動してその中心点の座標が直前位置座標(Xi,Yi)から現在位置座標(Xi+1,Yi+1)へ移った場合を考える(座標中のiは、0,1,2,3・・・)。
ここで、走行部12の左右車輪9L,9Rの中心間距離(トレッド)を2T(=2×Tで、既知の値)、旋回内側車輪(ここでは左側車輪9L)の走行速度をVi 、旋回外側車輪(ここでは右側車輪9R)の走行速度をVo 、走行部12の中心点の走行速度をV、旋回角速度をω、旋回半径をRとすると、以下の関係がある。
Vi=(R−T)・ω ・・・・・・(1)
Vo=(R+T)・ω ・・・・・・(2)
V =(Vo+Vi)/2 ・・・・・・(3)
ω =(Vo−Vi)/2T ・・・・・・(4)
R =V/ω =T・(Vo+Vi)/(Vo−Vi) ・・・・・・(5)
なお、(1)式と(2)式より(4)式が導かれる。ここで、走行部12のトレッド2Tは既知の値であるので、左右の車輪9L、9Rの走行速度Vi 、Vo を導出することにより、旋回角速度ω及び旋回半径Rを求めることができる。走行速度Vi 、Vo の導出方法については後述する。
また、微小単位時間での左右の車輪9L、9Rの速度が変化しないとすると、走行部12の旋回角θと旋回角速度ωの関係、走行部12の中心点の走行速度VのX・Y方向成分は、次式で示される。
dθ/dt=ω ・・・・・・(6)
dx/dt=V・sinθ ・・・・・・(7)
dy/dt=V・cosθ ・・・・・・(8)
よって、微小単位時間で数値積分をすることにより、X・Y方向の各移動量を算出し、各移動量を直前位置座標(Xi,Yi)に加えることで、現在位置座標(Xi+1,Yi+1)を推定することができる。
具体的には、図5(B)に示すように、直前位置座標(Xi,Yi)から、Δtの間に旋回中心まわりにΔθ回転して現在位置座標(Xi+1,Yi+1)となったとする。ここで、走行部12の走行方向をX座標軸とのなす角度で表すものとすると、直前位置座標(Xi,Yi)における走行方向は角度θiで表され、現在位置座標(Xi+1,Yi+1)における走行方向は角度θi+1で表され、
θi+1=θi+Δθ ・・・・・・(9)
となる。
このとき、走行部12の中心点の移動距離ΔL(円弧の長さ)は、
ΔL=2πR・(Δθ/2π)=R・Δθ ・・・・・・(10)
となる。
このΔtの間の移動距離ΔL(円弧の長さ)を、Δθが十分に小さい場合の移動距離ΔL’(直線距離)として近似する。このとき、直前位置座標(Xi,Yi)と、Δt後の座標(Xi+1,Yi+1)と、旋回中心とを頂点とする三角形を2つに分割して考えると、Δθが十分に小さい場合の移動距離ΔL’(直線距離)は次式で示される。
ΔL’=2R sin(Δθ/2) ・・・・・・(11)
よって、Δt後の座標(Xi+1,Yi+1)は、次のように考えることができる。
Xi+1=Xi+ΔL’・sin(Δθ/2) ・・・・・・(12)
Yi+1=Yi+ΔL’・cos(Δθ/2) ・・・・・・(13)
なお、Δθ=ω×Δtであり(Δtは所定値)、ωは前述の(4)式により算出できる。
このように、直前位置座標(Xi,Yi)と、検出した左右の車輪9L、9Rの走行速度Vi 、Vo と、左右の車輪9L、9Rの中心間距離(2T)とに基づいて、現在位置座標(Xi+1,Yi+1)を求めることができる。
よって、直前位置座標(Xi,Yi)の初期座標(X0,Y0)を、所定の待機位置座標P1にして、Δt周期の微小時間の移動量を連続して加算することで、現在位置座標(Xi+1,Yi+1)を連続して算出(推定)する。
次に、左右の車輪9L、9Rの走行速度Vi 、Vo の導出方法について説明する。
図6は、左右の車輪9L、9Rの各々の回転方向を含む回転角速度ωL ,ωR を検出するセンサ41L,41Rを設けた場合の模式図である。センサ41L,41Rとしては回転方向を識別できるロータリエンコーダを用いることができる。
左右の車輪9L、9Rの各半径をr(既知の値)とすると、左側車輪9Lの走行速度Vi 、右側車輪9Rの走行速度Vo は、
Vi =r・ωL
Vo =r・ωR
として算出できる。
このように、左右の車輪9L、9Rの回転角速度ωL ,ωR を検出するセンサ41L,41Rを設けて、走行速度Vi 、Voを算出し、前述のように走行部12の中心点の現在位置座標を算出することができる。
なお、上記では、走行部12の中心点の現在位置座標を算出するために、左右の車輪9L、9Rの走行速度Vi 、Vo を求めるようにしたが、これに限らず、走行部12の2つの検出対象部位(左右の車輪9L、9Rは一例)の各々の走行速度を求めるようにしてもよい。ここで、2つの検出対象部位は、走行部12においてその走行方向と直交する水平方向に離れた2つの部位であり、例えば、平面視において左右の車輪9L、9Rの車軸の中心軸線上で、かつ走行部12の回転軸CL3を挟んで等距離にある部位である。なお、検出対象部位は、走行部12における仮想的な部位、例えば、走行部12に取り付けられた後述の速度計(ドップラー速度計としてのレーザドップラー速度計、画像センサとしてのオプティカルフローセンサ)を検出対象部位として含む。
以下に左右の車輪9L、9R以外の走行速度を用いる例について、図7、図8を用いて説明する。
図7(A)は、走行部12にドップラー速度計の一例として周知のレーザドップラー速度計を設けた場合の模式図であり、図7(B)は、同レーザドップラー速度計及び車輪を側面方向から視た模式図である。
レーザドップラー速度計42L,42Rは、回転軸CL3を中心に回転する走行部12とともに回転するように、走行部12に適宜の取付部材(図示せず)を介して取り付けられている。
レーザドップラー速度計42L,42Rは、平面視において左右の車輪9L、9Rの車軸の中心軸線上で、かつ走行部12の回転軸CL3を挟んで等距離となる位置に取り付けられ、各々の直下の地面にレーザ光を照射し、地面に対する移動方向(走行方向)及び移動速度(走行速度)を検出するよう構成されている。
この場合、2つのレーザドップラー速度計42L,42Rの中心間距離を前述の「2T」とし、一方のレーザドップラー速度計42Lで検出される速度を前述の「Vi」とし、他方のレーザドップラー速度計42Rで検出される速度を前述の「Vo」とすることにより、前述の場合と同様にして、走行部12の中心点の現在位置座標を求めることができる。
次に、図8(A)は、走行部12に画像センサの一例として周知のオプティカルフローセンサを設けた場合の模式図であり、図8(B)は、同オプティカルフローセンサ及び車輪を側面方向から視た模式図であり、図8(C)は、同オプティカルフローセンサによって撮影される画像の一例を示す図である。
オプティカルフローセンサ43L,43Rは、カメラ(画像センサ)及び画像処理部を備えており、回転軸CL3を中心に回転する走行部12とともに回転するように、走行部12に適宜の取付部材(図示せず)を介して取り付けられている。
オプティカルフローセンサ43L,43Rは、平面視において左右の車輪9L、9Rの車軸の中心軸線上で、かつ走行部12の回転軸CL3を挟んで等距離となる位置に取り付けられ、各々の直下の地面をカメラで撮影するよう配置されている。各オプティカルフローセンサ43L,43Rは、カメラによって所定時間間隔(所定周期)で連続的に撮影される地面のテクスチャーの流れ(オプティカルフロー)から地面に対する移動方向(走行方向)及び移動速度(走行速度)を検出するよう構成されている。
この場合、2つのオプティカルフローセンサ43L,43Rの中心間距離を前述の「2T」とし、一方のオプティカルフローセンサ43Lで検出される速度を前述の「Vi」とし、他方のオプティカルフローセンサ43Rで検出される速度を前述の「Vo」とすることにより、前述の場合と同様にして、走行部12の中心点の現在位置座標を求めることができる。
また、旅客搭乗橋1の走行部12(駆動輪9)の待機位置には、停止位置マーク44が設けられている。よって、自動制御によって待機位置に戻る場合に、図8(C)に示されるように、オプティカルフローセンサ43で停止位置マーク44を検出した際に、停止位置マーク44が画像中の所定位置、例えば「画像4」で示される位置となるように走行部12を停止させ、そのときの走行部12の中心点の現在位置座標を所定の待機位置座標に置き換えるようにしてもよい。これにより、待機位置座標における走行部12の位置の初期化を行うことができる。
〔手動制御〕
次に、操作者が操作盤31の操作レバー32等を操作して旅客搭乗橋1の移動を手動制御する場合について説明する。
まず、旅客搭乗橋1を待機位置から装着位置へ移動させる際には、キャブ6に乗り込んだ操作者は、目視にて航空機3のドア3aの位置を把握し、操作レバー32をドア3aの方向に押し倒す。この操作レバー32の操作により、走行部12(2つの駆動輪9)は、その走行方向が操作レバー32の傾倒方向に一致するまでその場で回転し、その後、当該傾倒方向に向かって直進走行する。このような操作によって旅客搭乗橋1を待機位置から装着位置へ移動させて、キャブ6をドア3aに取り付け、装着は完了する。なお、この際、キャブ6の回転角度とトンネル部5及びキャブ6の昇降高さは、航空機3のドア3aの位置に応じて操作者の操作によって適宜調節される。
また、旅客搭乗橋1の装着位置から待機位置への移動も、上記の待機位置から装着位置への移動とほぼ同様にして行われる。
この手動制御によって旅客搭乗橋1を移動させる場合に、制御装置30は、自動制御の場合と同様にして、走行部12の中心点の現在位置座標を求め、さらに、キャブ6の中心点の現在位置座標を求め、これらのデータを表示装置34へ出力し、上記の現在位置座標を表示装置34に表示させるよう構成されている。これにより、操作者は、例えば旅客搭乗橋1が移動禁止区域内等に入らないように、表示装置34に表示される現在位置座標を参考にしながら、操作を行うことができる。
なお、本実施形態では、前述の自動制御の場合も、制御装置30は、走行部12及びキャブ6の中心点の現在位置座標を求め、これらのデータを表示装置34へ出力し、上記の現在位置座標を表示装置34に表示させるようにしている。これにより、操作者は表示装置34に表示される現在位置座標を監視しながら自動制御を続行させることができ、また、何らかの不都合があれば自動制御を中止させることができる。
また、本実施形態では、手動制御の場合も自動制御の場合も、走行部12及びキャブ6の両方の中心点の現在位置座標を表示装置34に表示させるようにしているが、いずれか一方のみの中心点の現在位置座標を表示させるようにしてもよい。
また、本実施形態では、キャブ6の内部に表示装置34を有する操作盤31が設けられているが、旅客搭乗橋1から離れた場所に操作盤31が設けられて、旅客搭乗橋1を遠隔操作によって手動制御及び/または自動制御が可能なように構成されていてもよい。この場合も、制御装置30から操作盤31に備えられた表示装置34へ、走行部12及びキャブ6の少なくとも一方の中心点の現在位置座標のデータを出力(無線通信等にて送信)し、表示装置34に上記の現在位置座標を表示させるように構成することができる。なお、表示装置34は、操作盤31とは別に、操作盤31の近傍に設けられてあってもよい。
本実施形態では、走行部12の中心点(回転軸CL3)を挟んで等距離にある2つの検出対象部位の移動速度を検出する速度検出手段を設け、制御装置30が、速度検出手段で所定周期で検出される移動速度(例えば走行速度Vi 、Vo )と、所定の初期位置座標(待機位置座標)とに基づいて、走行動作中における走行部12の中心点の現在位置座標を求めるようにしている。よって、従来用いていた図9に示されるロタンダ4の角度センサ23及び距離センサ24が不要となり、さらに、ロタンダ4の角度センサ23から制御装置30までの長大な信号用ケーブル23aを不要にできるので、施工コストの低減を図ることができるとともに、長大な信号用ケーブル23aを用いることによる信号遅延の問題も解消できる。
また、図10に示す従来のように、角度センサ23で検出されるロタンダ4の回転角度θ1及び距離センサ24で検出される距離L1に基づいて、走行部12の中心点(回転軸CL3)の現在位置座標を求める場合には、以下の(a)〜(c)の問題がある。
(a)トンネル部5は複数のトンネルがテレスコピック式に嵌合されて伸縮するよう構成されているため、トンネル部5がロタンダ4を基端として旋回する場合、トンネル部5の先端のトンネルが走行部12に引っ張られてトンネルとトンネルとの接続部分において旋回方向に若干の曲がりが発生する。そのため、角度センサ23で検出される角度θ1に基づく走行部12の中心点と、実際の走行部12の中心点との間にずれが生じ、算出される走行部12の中心点の現在位置座標に誤差が生じるという問題がある。
(b)さらに、角度センサ23の分解能は一定であるため、角度センサ23で検出される角度θ1に基づいて算出される走行部12の中心点の位置座標の精度は、走行部12の中心点がロタンダ4の中心点から遠くなるほど、低下するという問題がある。
(c)トンネル部5は、常に地面にたいして水平ではなく、航空機のドアの高さに応じて昇降機構10によってトンネル部5の先端寄り部分を昇降させ、その際、ロタンダ4を基端として上下方向に揺動するよう構成されているため、トンネル部5がその長手方向に傾斜している場合には、距離センサ24で検出されるロタンダ4の中心点と走行部12の中心点との距離L1に誤差が生じ、算出される走行部12の中心点の現在位置座標に誤差が生じるという問題がある。
これに対し、本実施形態では、ロタンダ4の角度センサ23及び距離センサ24を用いないので、上記の問題を回避して、走行部12の中心点の現在位置座標を精度よく検出することができる。よって、走行部12の中心点の現在位置座標に基づいて算出されるキャブ6の中心点の現在位置座標なども精度よく検出することができる。
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。