上述した特許文献1の従来構成にあっては、カバー体の一端に、下方に突成された長尺のボルトが配設されると共に、一方の建造物の側縁に、該ボルトを上下方向に移動可能に挿通させる挿通孔が配設されてなり、該ボルトと挿通孔とによって該カバー体の一端を一方の建造物の側縁に連結する連結機構が開示されている。かかる従来の連結機構では、カバー体の自由端が他方の建造物の床面に乗り上げた際に、被連結部のボルトと連結部の挿通孔との案内作用によって、該カバー体を上方にスライドできる。しかしながら、こうした従来構成では、上述したようにカバー体の自由端が他方の建造物の床に乗り上げた際に、前記ボルトと挿通孔との連結部に応力集中が生じ易く、該応力集中によって、該ボルトが折れ曲がってしまうという問題があった。ここで、この応力集中は、地震によりカバー体が摺動した際に発生することから、その力が大きく、長尺のボルトを折曲させ易い。そして、ボルトが折れ曲がってしまうと、カバー体の一端を上下方向に移動させる所望の機能が発揮できなくなることから、該ボルトや挿通孔の交換等の作業が必要となっていた。
本発明は、固定側せり上がり式の構造であって、地震の際に、カバー体の一端と一方の建造物との連結部位に上記問題が生ずることを可及的に抑制し、該カバー体を上下方向に移動させる所望の機能を長期に亘って安定して発揮し得る床用目地カバー装置を提案するものである。
本発明は、隣接する建造物の床相互間の目地に差し渡されるカバー体の一端に設けられた被連結部が、一方の床の側縁に設けられた連結部に連結されると共に、該カバー体の他端を自由端とし、該自由端が他方の床の側縁に摺動可能に乗載されてなる床用目地カバー装置において、前記連結部は、カバー体の被連結部を支持する水平受縁と、該水平受縁の外端から上方に立ち上がる垂直縁とから構成される保持受枠を備えると共に、該保持受枠の水平受縁に、目地の幅方向に沿って延在するように立設され、上部に、外方に向かって下り勾配で傾斜する案内傾斜部が設けられた案内板部を、目地の方向に複数備えてなり、前記被連結部は、カバー体の底面よりも下方に配設されて、前記保持受枠の水平受縁に乗載される乗載板部と、該乗載板部の外端から上方に立ち上がる外板部とを備えると共に、該被支持枠の乗載板部に、その外端から目地の幅方向に沿って開口形成された長孔状の横孔と、該外板部に、該横孔の外端から上方に連続するように開口形成された長孔状の縦孔とから構成され、前記案内板部に上下方向に移動可能に外嵌される挿通孔を備えてなり、前記被連結部が、前記連結部に、該連結部の案内板部に沿って上下方向へ移動可能に連結されていることを特徴とする床用目地カバー装置である。
かかる構成にあっては、地震により両建造物が近接する方向に移動して、カバー体の自由端が他方の建造物の床に乗り上げた際に、該カバー体の被連結部が、一方の床の側縁に設けられた連結部の案内板部に沿って上方に移動することで、該カバー体の全体を上方に安定してスライドさせることができる。このように、本構成は、上記した固定側せり上がり式の構造である。かかる本構成は、一方の床の側縁に設けた保持受枠の案内板部を、カバー体に設けた挿通孔に挿通させることで、該カバー体の一端(被連結部)と一方の床の側縁(連結部)とを連結させたものであり、該案内板部が目地幅方向に延在されていることから、地震の際に、該案内板部と挿通孔との連結部位に生ずる応力集中によって、該案内板部が折れ曲がってしまうことを、可及的に抑制できる。詳述すると、地震により両建造物が近接する方向に移動して、カバー体の自由端が他方の建造物の床に乗り上げる際には、該カバー体に、当該床から一方の建造物側に向かって目地幅方向の力が作用する。前記案内板部は、この力の方向(目地の幅方向)に沿って設けられていることから、該力に対して高い耐力を有し、地震の際に生ずる前記応力集中によって折れ曲がり難くなっている。このように本発明の構成では、カバー体の一端と一方の床の側縁とを連結する案内板部が、地震により生ずる応力集中で折曲し難いことから、前記したカバー体の全体を上方へスライドさせる機能を、長期に亘って安定して発揮できる。
また、上述したように地震等によりカバー体の自由端が他方の床に乗り上げると、該カバー体の一端が上方へ移動し、その後に、該自由端が当該床から降りると、カバー体の一端が自重によって降動して被連結部の乗載板部が保持受枠の水平受縁に再び乗載された状態に戻る。ここで、カバー体の一端が上方へ移動した際に、該カバー体が目地側にずれると、該カバー体の挿通孔の縦孔の上端が案内板部の案内傾斜部上に乗り上げ、その後に降動する際に、カバー体の自重によって該縦孔の上端が案内傾斜部上を外方に向けて滑り落ちて、該カバー体が保持受枠に支持された原位置に戻る。さらに、地震の際にカバー体が上下に揺動した際に、該カバー体が目地側にずれた場合でも、同様に、前記した案内傾斜部の案内作用によって、該カバー体が原位置に戻る。こうした上下の揺動時における目地側へのずれは、地震の際のみならず、該カバー体上の通行による衝撃や振動等によっても生じ得ることから、その発生毎に、該カバー体を前記原位置に戻すことができる。このように本構成によれば、カバー体が目地側にずれた場合でも、一方の建造物の側縁に設けられた保持受枠の垂直縁と、カバー体の一端に設けられた外板部との間に、比較的大きな隙間が生じたままとなってしまうことを防止できる。
上述した本発明の床用目地カバー装置にあって、連結部は、案内板部の外端から外方に延成され且つ該案内板部の下端から下方に延成されたアンカー板部を備え、該アンカー板部が、保持受枠の水平受縁および垂直縁に開口された貫通孔を介して、該水平受縁の外方および該垂直縁の下方に突成されている構成が提案される。
かかる構成にあっては、保持受枠の外方および下方に突成されたアンカー板部が、一方の建造物の床に、直接的に固定されることから、当該床に強固に固定されて配設され得る。これにより、アンカー板部と一体の案内板部が、目地幅方向に一層しっかりと固定された状態で保持されるため、上記した目地幅方向に沿った力に対して一層高い耐力を発揮できる。さらに、アンカー板部によって、保持受枠が一方の建造物の床に一層強固に固定されることから、地震の際に、大きな力が作用しても、該保持受枠を当該床に固定された状態で安定して保持できる。したがって、本構成は、被連結部と連結部とが正常に連結された状態で安定して保持する効果に優れることから、地震等の際に、上記したカバー体を上方へスライドさせる機能が一層安定かつ確実に発揮できる。
上述した本発明の床用目地カバー装置にあって、連結部は、案内板部の目地側に、保持受枠の水平受縁に立設されて挿通孔に移動可能に内嵌される複数の連結杆が配設され、さらに、該連結杆の、水平受縁からの高さが前記カバー体の厚み以上となる上端部位に、被連結部の挿通孔の横孔および縦孔よりも広幅の抜け止め部材が着脱可能に装着されている構成が提案される。
かかる構成にあっては、カバー体が上方へ移動した際に、該カバー体の挿通孔の孔縁が抜け止め部材に当接することにより、カバー体の被連結部が保持受枠から脱出してしまうことを防止でき、両者を連結した状態で安定して保持できる。また、抜け止め部材は、挿通孔の縦孔を挿通不能であることから、カバー体の外板部に当接することによって、該カバー体の目地幅方向への移動を制限する。そのため、地震等によりカバー体が目地側にずれても、そのずれ幅が抜け止め部材により制限され、保持受枠の垂直縁とカバー体の外板部との間に比較的大きな隙間が生ずることを防止できる。また、抜け止め部材が、水平受縁からカバー体の厚み以上の高さ位置に設けられていることから、上述したようにカバー体の自由端が他方の建造物の床に乗り上げた際に、該カバー体を上方へ略平行にスライドさせることができる。
上述した本発明の床用目地カバー装置にあって、カバー体は、その底面の、目地内に配置される部位から下方に突成され、該底面から被連結部側に向かって下り勾配で傾斜する跳上傾斜部を備えている構成が提案される。
かかる構成にあっては、地震等により両建造物が近接する方向に移動した際に、跳上傾斜部が他方の建造物の側端に当接することにより、カバー体が該跳上傾斜部の勾配に従って上方へ移動する。そのため、前記のように両建造物が近接する方向に移動すると、カバー体の自由端と、跳上傾斜部を配設した部位とが上方へ動くことから、カバー体の全体が上方へ移動し易くなる。そして、これに伴って、カバー体の一端(被連結部)が比較的容易かつ安定して上方へ移動し易くなるため、総じて、カバー体の全体を上方へ略平行にスライドさせることができる。
本発明の床用目地カバー装置によれば、地震によりカバー体の自由端が他方の建造物の床に乗り上げた際に、被連結部の案内板部と連結部の挿通孔との連結部位に生ずる応力集中によって、該案内板部が折れ曲がってしまうことを、可及的に抑制できる。したがって、被連結部の案内板部と連結部の挿通孔とによるカバー体の全体を上方へスライドさせる機能を、長期に亘って安定して発揮できる。また、地震等によりカバー体が目地側にずれた場合にあっても、カバー体を原位置に戻すことができるため、一方の建造物に配設された保持受枠の垂直縁と、カバー体の一端に設けられた外板部との間に、比較的大きな隙間が生じたままになってしまうことを防止できる。
本発明にかかる実施例を添付図面に従って説明する。
実施例の床用目地カバー装置1は、図1,2に示すように、隣接する建造物81,82間に設けられた目地83を覆うように配設されるものである。ここで、一方の建造物81は、緩衝機能を備えた免震装置(図示せず)によって下部が支持された免震構造の建造物であり、他方の建造物82は、該建造物81の周囲に形成された人工地盤からなる建造物であり、建造物81と建造物82とが目地83を介して隣接している。目地83は、建造物81の周囲に沿って所定幅で形成され、地震の際における建造物81と周囲の建造物82との水平方向の相対的な揺れを吸収し得るようになっている。尚、本実施例にあって、目地83の幅方向が、床用目地カバー装置1の前後方向であると共に、該目地83に沿った方向を、該床用目地カバー装置1の横方向として説明する。そのため、カバー体2の後端が、本発明にかかるカバー体2の一端に相当し、該カバー体2の前端が、本発明にかかるカバー体2の他端に相当する。
上記他方の建造物82の床86の側縁には、後述するカバー体2の厚みに相当する深さで窪ませた支持段縁91が、前後方向に所定幅で形成されており、該支持段縁91に摺動受枠61が配設されている。摺動受枠61は、支持段縁91の上面を覆う水平状の凹部受縁61aと、該凹部受縁61aの前端から所定傾斜角度で立ち上がる傾斜縁61bと、床86の上面を覆う床受縁61cとを備え、該凹部受縁61aと床受縁61cとが傾斜縁61bを介して連成されてなる。この摺動受枠61は、目地83に沿った横方向に延在するように配設されており、その横方向長さは複数個のカバー体2を並設し得る長さとなっている。
上記建造物81の床85と建造物82の床86との間には、目地83を覆うようにカバー体2が差し渡され、複数個の該カバー体2が、該目地83に沿う横方向に連続状に並設される。カバー体2は、その一端(後端)に設けられた被連結部21と建造物81の床85の側縁に設けられた連結部31とを介して、該建造物81の床85に連結されている。そして、カバー体2は、他端(前端)を自由端としており、該自由端が、上記した支持段縁91に配設された摺動受枠61上に摺動可能に乗載される。尚、前記の被連結部21および連結部31は、本発明の要部にかかり、詳細は後述する。
カバー体2は、上面が開口した浅底矩形状の主筐体部11と、該主筐体部11の前部に配設されて前方へ突出された端部カバー板12とを備える。主筐体部11は、ステンレス製又はスチール製の薄肉鋼板から成形されてなり、矩形状の底板部(図示せず)と、該底板部の左右側端から夫々立設された左右の側壁部(図示せず)と、該底板部の前端から立設された前壁部(図示せず)とを備える。さらに、底板部の後端には、後述する外板部22bが接合されて、該外板部22bの上部が該底板部の後端から上方に突出している。左右の側壁部と前壁部との当接縁および該側壁部と外板部22bとの当接縁は溶接を介して固着されている。また、底板部上には、複数の補強梁13が目地83の幅方向に沿って所定間隔で配設されている。各補強梁13は、底板部に溶接を介して固着されており、該底壁部の面方向の強度と剛性とを向上させる。
上記の端部カバー板12は、ステンレス製又はスチール製の長方形状の鋼板からなり、主筐体部11の前壁部に蝶番14を介して接続されている。端部カバー板12は、該蝶番14によって、上下方向に傾動可能となっている。また、端部カバー板12の左右両端には、略三角形状の側板部15,15が設けられている。この側板部15,15は、その上縁が端部カバー板12の底面に溶接を介して固着され、該上縁の前端から後方へ下方傾斜する第一傾斜縁(図示せず)と、該上縁の後端から前方へ下方傾斜する第二傾斜縁(図示せず)とを備える。端部カバー板12は、水平方向に沿った状態から下方へ傾動した際に、前記側板部15,15の第二傾斜縁が主筐体部11の前壁部に当接して、これ以上傾動できないことから、該第二傾斜縁と該前壁部とのなす角度まで、該水平な状態から下方へ傾動可能となっている(図7参照)。
尚、カバー体2の主筐体部11の内部には、施工時に周囲の床85,86上に敷設されるモルタルやタイル等からなる舗装材19と同じ舗装材19が充填される。
こうしたカバー体2の自由端は、図1に示すように、主筐体部11の前壁部と上記した摺動受枠61の傾斜縁61bとの間に適宜幅の間隙が生じるようにして該摺動受枠61の凹部受縁61a上に乗載される。また、端部カバー板12は、建造物82の床86側に向けて突出されて、摺動受枠61の床受縁61c上に乗載されている。この端部カバー板12によって、前記前壁部と傾斜縁61bとの間隙の上方が遮蔽される。
次に、本発明の要部について説明する。
建造物81の床85の側縁に連結されるカバー体2の一端(後端)には、図1,2に示すように、建造物81の床85の側縁に設けられた連結部31と連結される被連結部21が設けられており、被連結部21が該カバー体2の主筐体部11の底面(底板部)よりも下方に突出されている。被連結部21は、図3〜6に示すように、ステンレス製又はスチール製の鋼板からなり、カバー体2を構成する主筐体部11の下方に配設された帯板状の乗載板部22aと、該乗載板部22aの後端から立設された上記外板部22bと、該乗載板部22aの前端から立設されて該主筐体部11の底面(底板部)に接合された下壁部22cとを備え、該乗載板部22a、外板部22b、および下壁部22cが、カバー体2の横方向に亘って設けられている。そして、主筐体部11の左右の側壁部は、その後端部が下方に延成されており、乗載板部22a、外板部22b、および下壁部22cと夫々当接して溶接されている。
さらに、カバー体2の主筐体部11の底板部には、上記乗載板部22aの両側端の直上に位置する部位に、上下方向に貫通する開口部(図示せず)が夫々形成されており、各開口部に、角パイプ状の区画筒24,24が夫々嵌入されて配設されている。各区画筒24は、前記開口部に嵌入された状態で主筐体部11に溶接されると共に、その下端が乗載板部22aに溶接されている。そして、各区画筒24により夫々囲繞された内部に、上記の舗装材19が充填されない内部空隙が形成される。尚、各区画筒24は、外板部22bの内面と夫々に面接触されて配設されている。
こうした被連結部21には、図6に示すように、各区画筒24を配設した両側部位に、後述する連結杆33と案内用連結材37の案内板部38とを下方から遊嵌可能な挿通孔26が夫々形成されている。各挿通孔26は、乗載板部22aに開口形成された、前後方向(目地83の幅方向)に沿った長孔状の横孔26aと、外板部22bおよび区画筒24に開口形成された、該横孔26aの後端(外端)から上方に連続する長孔状の縦孔26bとから構成されてなる。各横孔26aは、連結杆33と案内板部38と遊嵌可能であると共に、各縦孔26bは、該案内板部38を遊嵌可能である。
一方、建造物81の床85の側縁には、図3〜6に示すように、上記した連結部31を構成する保持受枠32が目地83に沿って配設されている。保持受枠32は、水平受縁32aと該水平受縁32aの後端(外端)から上方に立ち上がる垂直縁32bとを備えた断面L形に形成されており、該水平受縁32aに、上述したカバー体2の乗載板部22aが乗載される。そして、この保持受枠32は、水平受縁32aに該乗載板部22aが乗載された状態で、カバー体2の上面が、建造物81の床85の上面と略面一となるように、該床85の側縁に配設される。尚、保持受枠32は、ステンレス製又はスチール製の鋼板から形成されてなる。
保持受枠32の水平受縁32aには、図6に示すように、該カバー体2の乗載板部22aに設けられた挿通孔26の横孔26aに対応する部位に、前後方向に沿って長孔状の水平孔34aが開口形成されると共に、垂直縁32bには、該挿通孔26の縦孔26bに対応する部位に、該水平孔34aの後端から上方に連続する長孔状の垂直孔34bが開口形成されており、該水平孔34aと垂直孔34bとより貫通孔34が構成されている。そして、貫通孔34に、ステンレス製又はスチール製の鋼板からなる倒台形状の案内用連結材37が前後方向に沿って嵌入されて、該案内用連結材37と水平受縁32aおよび垂直縁32bとが溶接されている。案内用連結材37は、水平受縁32aの上方かつ垂直縁32bの前方に配置される案内板部38と、該水平受縁32aの下方および垂直縁32bの後方に突出するアンカー板部39とから構成される。案内板部38は、前後方向(目地83の幅方向)に沿って延在されるように水平受縁32a上に配置され、下部の案内本体部38bと該案内本体部38bから上方に延成された案内傾斜部38aとを備える。案内傾斜部38aは、その前端から後方へ向けて下り勾配で傾斜して垂直縁32bに達するように設けられている。
各案内板部38,38は、図3〜6に示すように、保持受枠32の水平受縁32a上に、カバー体2の被連結部21を構成する乗載板部22aが乗載された状態で、該被連結部21の両側端に夫々設けられた挿通孔26に下方(及び後方)から遊嵌されており、該被連結部21の外板部22bが該保持受枠32の垂直縁32bと当接または極僅かな隙間(約2mm以下)を介して近接する。ここで、被連結部21が保持受枠32に乗載された常態では、挿通孔26の縦孔26bの上端が該案内板部38の案内傾斜部38a上に当接されている。また、案内傾斜部38aの傾斜角度は、40°〜50°程度の急勾配に設定されていることから、該案内傾斜部38a上に乗り上げた被連結部21の外板部22bを自重によって滑り落とすことができる。
さらに、上記保持受枠32の水平受縁32aには、各水平孔34aの前端と夫々隣接する位置に、該水平受縁32aの下面側から挿通して溶接介して固着されたボルトからなる連結杆33が夫々立設されている。各連結杆33は、隣接する貫通孔34に嵌入されて配設された案内用連結材37の案内板部38と溶接を介して固着されている。また、各連結杆33は、その上部が、上記の案内板部38の上端よりも上方へ突出するように設けられている。こうした各連結杆33は、上述したように、保持受枠32の水平受縁32a上に被連結部21の乗載板部22aが乗載された状態で、該乗載板部22aに設けられた各横孔26aに下方から遊嵌される。そして、この状態で、ステンレス又はスチール製平板からなる抜け止め部材40が、鍔または座金を備えたナット44(図6参照)によって、連結杆33の上部に螺合されて装着されている。抜け止め部材40は、前記挿通孔26の横孔26aおよび縦孔26bよりも広幅に形成されていることから、被連結部21の上方または前方への脱出を防止できる。
ここで、抜け止め部材40を装着した位置は、水平受縁32aからの高さ寸法が、カバー体2の主筐体部11の厚み寸法よりも長くなっている。そのため、保持受枠32に乗載された被連結部21は、前記主筐体部11の厚み寸法よりも長い距離を上方へ移動可能であることから、後述のように該カバー体2の全体を上方へスライドできる(図9参照)。また、抜け止め部材40は、その後端40aが、連結杆33に装着された状態で、被連結部21の外板部22bと近接するように配置されている。そのため、被連結部21が保持受枠32に対して前方へ移動した際に、抜け止め部材40の後端40aに該被連結部21の外板部22bが当接することで、該被連結部21の前方への移動(変位)が制限される(図8参照)。すなわち、抜け止め部材40の後端40aと外板部22bとの隙間により、該被連結部21の前方への移動できる距離が定まっている。
尚、上記の保持受枠32は、図1,3に示すように、建造物81に固着されるものであり、該保持受枠32の外方および下方に突出する案内用連結材37のアンカー板部39が、該建造物81の床85に敷設される舗装材19等により埋め込まれる。そのため、案内板部38は、アンカー板部39を介して建造物81に強固と固定されて配設されると共に、保持受枠32も、該アンカー板部39を介して該建造物81に一層強固に固定される。また、こうした被連結部21の挿通孔26,26が形成された上記の区画筒24の上部開口は、抜け止め部材40の取り付け作業等を可能とする作業用口となっており、図3〜6に示すように、遮蔽蓋41が着脱可能に取り付けられる。
一方、カバー体2には、図1,2に示すように、主筐体部11の底面(底板部)に、下方に突出する跳上杆42,42が目地83の幅方向(前後方向)に沿って配設されている。跳上杆42,42は、カバー体2の両側寄りの部位に夫々配設されており、その後端が、被連結部21の下壁部22cに当接されるように設けられている。そして、各跳上杆42は、主筐体部11の底面から下方に突出した上下方向の寸法が、カバー体2の主筐体部11の厚み寸法と略同じとなっており、カバー体2が目地83に差し渡された状態で、上記した建造物82に配設された摺動受枠61の凹部受縁61aよりも下方に配置される。さらに、各跳上杆42の前端部には、前方に向かって上り勾配で傾斜する跳上傾斜部43が夫々形成されている。この跳上傾斜部43は、カバー体2を目地83に配設した場合に、該目地83の内に位置すると共に、建造物82に配設された摺動受枠61の後端との前後方向の間隔が、上記した主筐体部11の前壁部と該摺動受枠61の傾斜縁61bとの間隔よりも若干短くなるように、前後方向(目地83の幅方向)の配設位置が設定されている。これにより、地震等により両建造物81,82が近接する方向に移動した場合に、カバー体2の主筐体部11が摺動受枠61の傾斜縁61bに接触するよりも先に、該摺動受枠61の後端に接触することによって、該カバー体2の自由端を摺動受枠61の床受縁61cへ乗り上げ易くしている。尚、跳上杆42は、ステンレス製又はスチール製の鋼板から形成されてなる。
次に、本実施例の床用目地カバー装置1の作動態様について説明する。
カバー体2は、図1に示すように、舗装材19が充填された主筐体部11の上面が、建造物81の床85の上面および建造物82の床86の上面と略面一となるように、目地83に差し渡されて配設される。
床用目地カバー装置1は、地震の際に、建造物81と建造物82とが近接する方向に相対変位すると、図7に示すように、カバー体2の自由端が、該建造物82の摺動受枠61の凹部受縁61a上を摺動して、該摺動受枠61の傾斜縁61bを介して床受縁61cに乗り上げる。この際には、カバー体2の下部に配設された跳上杆42,42の跳上傾斜部43が、摺動受枠61の後端に接触して、カバー体2を上方に押し上げることから、該カバー体2の自由端が床受縁61cに乗り上げ易い。さらに、このようにカバー体2の自由端と跳上傾斜部43の配設部位とが上方に押し上げられることにより、該カバー体2の一端も上方へ移動する。ここで、カバー体2の一端に設けられた被連結部21は、その挿通孔26,26に遊嵌された案内板部38,38に沿って上方に移動可能であることから、前記自由端と跳上傾斜部43の配設部位との移動に伴って、図8に示すように、保持受枠32の水平受縁32aに対して上方へ移動する。特に、カバー体2の、跳上傾斜部43よりも後側部分は、跳上杆42により剛性が一層向上していることから、該跳上傾斜部43の上方移動が被連結部21にダイレクトに作用し易く、該被連結部21を上方へ移動させ易くなっている。こうして、カバー体2の全体が略平行に上方へ動く。そして、図7,9に示すように、カバー体2の自由端が摺動受枠61の床受縁61cに乗り上げると、被連結部21が、該カバー体の主筐体部11の厚み寸法と同じ高さ分だけ保持受枠32の水平受縁32aから上方に位置し、カバー体2は、その全体が主筐体部11の厚み分だけ上昇した位置で、略水平方向に沿って保たれ得る。
また、カバー体2の自由端が摺動受枠61の床受縁61cに乗り上げた後に、建造物81と建造物82とが逆方向(離れる方向)に相対変位すると、該カバー体2が、跳上杆42,42の跳上傾斜部43,43により序々に下方へ移動する。これに伴って、カバー体2の被連結部21も下方へ移動することから、該カバー体2の全体が下方へスライドしていき、該カバー体2の自由端が摺動受枠61の凹部受縁61a上に乗載されると共に、該被連結部21の乗載板部21aが保持受枠32の水平受縁32a上に乗載される。
尚、こうしたカバー体2の上下方向への移動の際に、該カバー体2の被連結部21は、図8に示すように、その外板部22bが保持受枠32の連結杆33に装着された抜け止め部材40の後端40aと当接することによって、前方への変位が制限される。そのため、カバー体2が上方へスライドした際に、保持受枠32の垂直縁32bと被連結部21の外板部22bとの隙間が大きく開いてしまうことを防止できる。また、カバー体2が下方へ移動する際には、図8(a)に示すように、被連結部21の挿通孔26,26の縦孔26b,26bの上端が、案内板部38の案内傾斜部38a上に一時的に乗り上げる状態となり、該案内傾斜部38aの下り勾配に従って外方に滑り落ちていくことから、該カバー体2が原位置に戻る。そのため、保持受枠32の垂直縁32bと被連結部21の外板部22bとの隙間が大きく開いてしまうことを防止できる。このようにカバー体2は、地震時などの上下移動によっても、保持受枠32の垂直縁32bと被連結部21の外板部22bとの隙間が大きく開いてしまうことがない。また、地震、又はカバー体上の通行による衝撃や振動等によって、カバー体2が上下に揺動した際に、該カバー体2が前方へずれた場合にあっても、前記のように、前方にずれる変位が抜け止め部材40の後端40aによって制限されると共に、案内傾斜部38aにより該カバー体2が原位置に戻る。そのため、カバー体2は、上下揺動に伴って前方へずれても、保持受枠32の垂直縁32bと被連結部21の外板部22bとの隙間が大きく開いてしまうことを防止できる。
また、本実施例の構成にあっては、カバー体2と建造物81の床85とが被連結部21と保持受枠32(連結部)とを介して連結されており、該カバー体2が上下方向に移動している際には、図8に示すように、主に該被連結部21の挿通孔26,26の孔縁と案内板部38,38および連結杆33,33とが連結するのみとなる。そのため、上記のようにカバー体2の自由端が摺動受枠61の床受縁61cに乗り上げる際に、該カバー体2に作用する前後方向の応力が、挿通孔26を介して案内板部38および連結杆33に集中し易い。ここで、カバー体2に作用する応力は、該カバー体2の自由端が摺動受枠61の傾斜縁61bや床受縁61cに衝突すること及び/又は跳上杆42,42の跳上傾斜部43,43が摺動受枠61の後端に衝突することによって発生し、比較的大きな力を有する。こうした応力に対して、案内板部38は、該応力の作用する方向に沿って設けられていることから、高い耐力を発揮することができ、該応力の集中によって折れ曲がってしまうことが可及的に抑制され得る。尚、連結杆33は、案内板部38と溶接されて補強されていることから、同様に折れ曲がってしまうことが抑制される。
さらに、本実施例では、案内板部38は、保持受枠32の貫通孔34を介して外方および下方に突出されたアンカー板部39と一体であり且つ該アンカー板部39が建造物81の床85に舗装材19により埋設されていることから、目地83の幅方向(前後方向)に強固に固定されている。そのため、案内板部38は、上記した目地83の幅方向に沿った応力に対して一層高い耐力を発揮でき、該応力の集中による不具合の発生を防止する効果が一層向上する。また、保持受枠32も、アンカー板部39を介して建造物81の床85に一層強固に固定されることから、地震等により大きな力が作用しても、該床85に設置した状態で安定して保持され得る。本実施例の構成では、案内板部38と保持受枠32とを備えた連結部31が建造物82の床85に強固に固定されて、高い耐力を発揮できることから、地震等により大きな力が作用しても、被連結部21と正常に連結された状態で安定して保つことができ、該被連結部21を上方へ移動させる機能が長期に亘って安定かつ確実に発揮され得る。
本発明にあっては、上述した実施例に限定されるものではなく、この実施例以外の構成についても本発明の趣旨の範囲内で適宜変更して実施可能である。
上述の実施例では、カバー体2に、跳上傾斜部43を備えた跳上杆42が配設された構成であるが、その他の構成として、該跳上杆42を配設されない構成としても良い。この構成では、建造物81と建造物82が近接する方向に相対変位した場合に、カバー体2の自由端が、摺動受枠61の傾斜縁61bを介して上方へ乗り上げていき、これに伴って、カバー体2の被連結部21が上方へ移動する。こうしてカバー体2の全体が上方へスライドできる。
また、上述した実施例にあって、被連結部21の区画筒24は、案内板部38および連結杆33を上下方向に相対移動可能な空隙を形成するためのものであることから、当該空隙を形成できるものであれば、該区画筒24の形態に限定されない。例えば、主筐体部11の底板部に開口した開口部から上方へのみ突出する区画筒を、配設するようにしても良いし、平面視L形の区画壁を配設するようにしても良い。又は、円筒形の区画筒を配設するようにしても良い。