次に、添付図面に基づいて、本発明に係る通気性扉の実施形態につき説明する。
図1は、本発明に係る通気性扉の第1実施形態を示す。この通気性扉1は、第1空間と第2空間とを隔てる区画体たる区画壁へ開閉可能に設けられ、第1空間と第2空間との間で空気の移動を可能にする通気性を備える。
なお、扉の適用箇所や適用態様によって前・後・左・右・上・下の各方向は変化するが、以下の説明においては、便宜上、前・後・左・右・上・下の各方向を次のように定める。略長方形(例えば、長尺方向1.79m×短尺方向0.68m)の第1面板である前面板11aが臨む方向を「前」、前面板11aと同一形状で所要距離(例えば、0.04m)を隔てて配置される第2面板である背面板11bが臨む方向を「後」、前面板11aと背面板11bにおける一方の長尺側縁を連結する第1長尺側面部たる左側面部12aが設けられた方向を「左」、前面板11aと背面板11bにおける他方の長尺側縁を連結する第2長尺側面部たる右側面部12bが設けられた方向を「右」、前面板11aと背面板11bにおける一方の短尺側縁を連結する第1短尺側面部たる下面部12cが設けられた方向を「下」、前面板11aと背面板11bにおける他方の短尺側縁を連結する第2短尺側面部たる上面部12dが設けられた方向を「上」とする。また、通気性扉1の右側は、図示を省略した蝶番等により壁体へ回動自在に固定され、その反対側(左側)には開閉操作用のレバーハンドル13を設けてある。
上記前面板11aの下方部には、ルーバー付き通気口14を集約状に設ける(例えば、3列×5段に近接配置する)ことで、前面側通気領域15aを形成する。背面板11aにも同様に、ルーバー付き通気口14を集約状に設ける(例えば、3列×5段に近接配置する)ことで、背面側通過領域15bを形成する。但し、背面側通気領域15bの下縁は前面側通気領域15aの上縁よりも適宜上方となるように配置することで、前面側通気領域15aと背面側通気領域15bとが重ならないようにする。なお、前面側通気領域15aの左側縁と背面側通気領域15bの左側縁は上下方向に揃え、前面側通気領域15aの右側縁と背面側通気領域15bの右側縁も上下方向に揃えておく。
本実施形態の通気性扉1においては、前面板11aおよび背面板11bとなる鉄板材を切断・加工する際に、ルーバー付き通気口14を一体に成型して、前面側通気領域15aおよび背面側通気領域15bを形成するものとしたが、これに限定されるものではない。例えば、開口部のみの通気口にて前面側通気領域15aおよび背面側通気領域15bを形成しても良いし、角度調整可能なルーバーを別途取り付けても良い。或いは、数個程度の比較的大きな開口部によって前面側通気領域15aおよび背面側通気領域15bを形成しても良い。
上記のように配置した前面側通気領域15aと背面側通気領域15bは上下方向にずれているものの、扉内空部を介して連通しており、前面板11a側の部屋(或いは廊下等)と、背面板11b側の部屋(或いは廊下等)とには、通気性が確保される。しかしながら、前面側通気領域15aと背面側通気領域15bは、上下方向に離隔させた配置になってはいるものの、その離隔距離はそれほど大きくないので、音が扉内空部を伝搬する際の伝搬減衰は小さく、この構造だけでは高い遮音性を発揮できるものではない。
そこで、本実施形態に係る通気性扉1においては、まず、前面側通気領域15aと背面側通気領域15bとが最短で連通する部位を通気領域仕切体16によって仕切る。すなわち、通気領域仕切体16よりも下方に前面側通気領域15aが配置され、通気領域仕切体16よりも上方に背面側通気領域15bが配置されるので、前面,背面側通気領域15a,15bから扉内空部に伝搬した音波は、気領域仕切体16によって上下方向へ反射されるか左右方向へ回り込むこととなる。
また、通気領域仕切体16の左右幅は、その機能を発揮する上で、前面側通気領域15aの左右幅および背面側通気領域15bの左右幅よりも長くしておく必要がある。この制限に加えて、通気領域仕切体16の左右幅は、下面部12cおよび上面部12dの左右幅よりも適宜短くしておく。これにより、通気領域仕切体16の左側端部と左側面部12aとの間、および通気領域仕切体16の右側端部と右側面部12bとの間には、適宜な幅(例えば、0.11m)の非閉塞領域が残るので、前面側通気領域15aと背面側通気領域15bとを結ぶ気流路となり得る空間を確保できる。
なお、通気領域仕切体16としては、前面板11aの内面から背面板11bの内面までの前後方向を閉塞して、前面側通気領域15aと背面側通気領域15bを仕切る機能を損なわない限り、どのような形状・素材で構成しても構わないが、本実施形態の通気性扉1においては、通気領域仕切体16として断面コ字状のチャンネル鋼材を用いた。すなわち、通気領域仕切体16は、平板状の仕切片16aの両側縁から曲折する平板状の取付片16b,16bを備える構造で、一方の取付片16bを前面板11aの内面に溶接等で取り付け、他方の取付片16bを背面板11bの内面に溶接等で取り付けることができる。このように、チャンネル鋼材を通気領域仕切体16として用いれば、内部の補強材としても機能するので、通気性扉1としての剛性を高める上で有効である。
上記のように構成した通気領域仕切体16の左側端部には左側誘導仕切体17を、右側端部には右側誘導仕切体18を設ける。これら左側誘導仕切体17および右側誘導仕切体18は、少なくとも、前面側通気領域15aの下縁よりも下方に長く、背面側通気領域15bの上縁よりも上方に長くしておく。但し、左側誘導仕切体17および右側誘導仕切体18の上下長さは、左側面部12aおよび右側面部12bの長さよりも適宜短くしておく。これにより、左側誘導仕切体17および右側誘導仕切体18の下側端部と下面部12cとの間、および左側誘導仕切体17および右側誘導仕切体18の上側端部と上面部12dとの間には、適宜な幅(例えば、0.08m)の非閉塞領域が残るので、前面側通気領域15aと背面側通気領域15bとを結ぶ気流路となり得る空間を確保できる。
なお、これら左側誘導仕切体17および右側誘導仕切体18は、どのような形状・素材で構成しても構わないが、本実施形態の通気性扉1においては、上述した通気領域仕切体16と同様に、断面コ字状のチャンネル鋼材を用いた。すなわち、左側誘導仕切体17は、平板状の仕切片17aの両側縁から曲折する平板状の取付片17b,17bを備える構造で、右側誘導仕切体18は、平板状の仕切片18aの両側縁から曲折する平板状の取付片18b,18bを備える構造である。このように、左側誘導仕切体17および右側誘導仕切体18にもチャンネル鋼材を用いれば、通気性扉1としての剛性を一層高めることができる。
以上のように、通気領域仕切体16と左側誘導仕切体17と右側誘導仕切体18とによって扉内空部を仕切って、前面側通気領域15aと背面側通気領域15bとの間の気流路を長くした通気性扉1においては、扉内空部を伝わる伝搬音の距離減衰を大きくし、高い遮音性能を実現できるのである。
ここで、通気領域仕切体16と左側誘導仕切体17と右側誘導仕切体18とによって、通気性扉1の扉内空部に形成される気流路を、図2に基づいて説明する。この図2は、通気性扉1における前面板11aを外した状態で、正面から扉内空部を見たもので、前面板1に形成されている前面側通気領域15aは、想像線(二点鎖線)で示す。また、以下の説明では、便宜上、背面側通気領域15bから入った空気が前面側通気領域15aへ至る際の気流路として説明する。
まず、背面板11bが臨む部屋(或いは廊下等)から背面側通気領域15bを通って扉内部に入った空気は、背面側連通空部19aに入る。この背面側連通空部19aは、通気領域仕切体16の上面と左側誘導仕切体17の右側面と右側誘導仕切体18の左側面とによって仕切られた空部であり、その上部が上方空部19bと連通する。すなわち、背面側通気領域15bを通って扉内部に入った空気は、背面側連通空部19aによって上方へ誘導され、上方空部19bへ至る気流路となる。
上方空部19bは、上面部12dの内面と、左側誘導仕切体17および右側誘導仕切体18の上端部との間に形成される空間である。上方空部19bの左右両方向への広がりは、左側面部12aおよび右側面部12bによって規制されるが、左側下部は左側空部19cと連通し、右側下部は右側空部19dと連通する。すなわち、背面側連通空部19aから上方空部19bへ入った空気は、上方空部19b内で左右方向へ分岐するように誘導され、左側空部19cもしくは右側空部19dへ至る気流路となる。
左側空部19cは、左側面部12aの内面と左側誘導仕切体17の左側面との間に形成される空間である。右側空部19dは、右側面部12bの内面と右側誘導仕切体18の右側面との間に形成される空間である。これら右側空部19cおよび左側空部19dは、上部にて上方空部19bに連通すると共に、下部にて下方空部19eに連通する。すなわち、上方空部19bにて左右に分岐した空気は、左空部19cまたは右空部19dに入って下方へ誘導され、下方空部19eへ至る気流路となる。
下方空部19eは、下面部12cの内面と、左側誘導仕切体17および右側誘導仕切体18の下端部との間に形成される空間である。下方空部19eの左右両方向への広がりは、左側面部12aおよび右側面部12bによって規制されるが、上述したように、左側上部は左側空部19cと連通し、右側上部は右側空部19dと連通する。また、下方空部19eの中央上部(左側誘導仕切体17の下端部と右側誘導仕切体18の下端部とで囲まれる範囲)は、前面側連通空部19fと連通する。すなわち、左側空部19cまたは右側空部19dを経て下方空部19eへ誘導された空気は、下方空部19eの中央側へ押しやられて合流し、押し上げられて前面側連通空部19fへ至る気流路となる。
前面側連通空部19fは、通気領域仕切体16の下面と左側誘導仕切体17の右側面と右側誘導仕切体18の左側面とによって仕切られた空部であり、その下部が下方空部19eと連通する。また、前面側連通空部19fの前面板11a側には、前面側通気領域15aがあり、前面板11aが臨む部屋(或いは廊下等)と連通する。すなわち、下方空部19eから前面側連通空部19fへ誘導された空気は、前面側通気領域15aを通って扉の外へ抜ける気流路となる。
このように、本実施形態に係る通気性扉1では、背面側通気領域15bから入った空気は、すぐ下方にある前面側通気領域15bへ至ることは無く、一旦、扉内空部の上方へ誘導された後に、下方部まで誘導されてから前面側通気領域15aへ到達するので、通気性扉1の上下方向(長尺方向)に一往復させるぐらいの距離を移動することとなる。すなわち、本実施形態に係る通気性扉1では、前面側通気領域15aと背面側通気領域15bの形成位置が近くても、前面側通気領域15aと背面側通気領域15bとの間の気流路は、通気性扉1の高さ(左側面12aまたは右側面12bの長さ)の2倍近い距離となるので、扉内空部を伝わる伝搬音の距離減衰が大きくなり、高い遮音性能を実現できる。
なお、通気性扉1の内空部を仕切る方法は、上述した実施形態に限定されるものではなく、より多くの仕切体を設けたり、仕切体を湾曲させたりすることで、前面側通気領域15aと背面側通気領域15bとの間の気流路をより長くすることも可能である。但し、背面側通気領域15bに対して下方に位置する前面側通気領域15aと内空部との通気路が下向きとなり、前面側通気領域15aに対して上方に位置する背面側通気領域15bと内空部との通気路が上向きとなるようにするため、通気領域仕切体16と左側誘導仕切体17と右側誘導仕切体18は必須である。
上述した第1実施形態に係る通気性扉1では、伝搬音の距離減衰を利用して遮音性能を高めるものであったが、扉内空部に入った音波の吸収や制震によって遮音性能をより高められるようにすることも可能である。図3に示すのは、第2実施形態に係る通気性扉2であり、通気性扉2の内部適所に吸音材を設けたものである。なお、図3中、第1実施形態と同じ構成には、同一符号を付して説明を省略する。
第2実施形態に係る通気性扉2は、扉内空部において気流路となる側壁の全面を吸音材で覆った構造である。具体的には、通気領域仕切体16の上面に吸音材21aを、左側誘導仕切体17の右側面上側(通気領域仕切体16よりも上側)に吸音材21bを、右側誘導仕切体18の左側面上側(通気領域仕切体16よりも上側)に吸音材12cを、左側誘導仕切体17の左側面に吸音材21dを、右側誘導仕切体18の右側面に吸音材21eを、左側誘導仕切体17の右側面下側(通気領域仕切体16よりも下側)に吸音材21fを、右側誘導仕切体18の左側面下側(通気領域仕切体16よりも下側)に吸音材12gを、通気領域仕切体16の下面に吸音材21hを設ける。これに加えて、左側面部12aの内面には吸音材22aを、右側面部12bの内面には吸音材22bを、下面部12cの内面には吸音材22cを、上面部12dの内面には吸音材22dを設ける。
これらの吸音材21a〜21h,22a〜22dには、グラスウールやロックウールなどの不燃性多孔質材料を用いることができる。なお、中低音域の吸音効果が高い高密度のロックウールを吸音材として用いれば、距離減衰での減衰率が弱い中低音域の遮音性能を補完できるが、高密度で厚手のロックウールを使うと、扉自体の重量負荷が増大して取り扱いが難しい上に高コストになってしまう。このため、現実的な密度・厚さの吸音材を用いる場合は、高音域の遮音性能向上に効果があると考えられる。
上述した第1実施形態に係る通気性扉1と第2実施形態に係る通気性扉2の遮音性能を評価するために、1/3オクターブバンド中心周波数に対する音響透過損失を測定した結果を図5に示す。なお、これら第1,第2実施形態に係る通気性扉1,2の遮音性能と対比するために、図4に示す各比較例についても測定した。
図4(a)は、第1比較例である通気性扉110を示すもので、前面板111aと背面板111bで枠体112の開放前後面を遮蔽して、扉内空部に仕切体は設けていない。また、前面側通気領域115aと背面側通気領域115bは前後方向に相対している。
図4(b)は、第2比較例である通気性扉120を示すもので、前面板121aと背面板121bで枠体122の開放前後面を遮蔽して、扉内空部に吸音材126を充填している。ただし、前面側通気領域125aと背面側通気領域125bが前後方向に相対している通気空間からは吸音材126を除去してある。
図4(c)は、第3比較例である通気性扉130を示すもので、前面板131aと背面板131bで枠体132の開放前後面を遮蔽して、扉内空部に仕切体は設けていない。但し、前面側通気領域135aと背面側通気領域135bは上下方向に位置をずらして設けている。
図5の特性図において、現在一般的な船舶用扉として用いられている構造である第1比較例の通気性扉110は、重み付き透過損失Rw=15dB程度であり、国際海事機関が定める船舶に関する国際的規制で定められた遮音性能基準値(重み付き透過損失Rw=30dB以上)には到底及ばない。
また、扉内空部に吸音材を充填した第2比較例の通気性扉12は、重み付き透過損失Rw=16dB程度であり、やはり規制値には到底及ばない。なお、扉両面の通気領域が重ならないように形成位置を上下にずらした第3比較例の通気性扉130は、重み付き透過損失Rw=18dBで、若干ながら伝搬減衰による遮音効果が現れたものと考えられるが、やはり規制値には到底及ばない。
これら第1〜第3比較例に対して、第1実施形態に係る通気性扉1(通気領域仕切体16と左側誘導仕切体17と右側誘導仕切体18による仕切構造)は、重み付き透過損失Rw=31dBまで改善された。第2実施形態に係る通気性扉2(通気領域仕切体16と左側誘導仕切体17と右側誘導仕切体18による仕切構造に加えて吸音材21a〜21h,22a〜22dを付加)も、重み付き透過損失Rw=31dBまで改善された。
上述した第1実施形態に係る通気性扉1は、主として距離減衰による遮音を期せるものであり、第2実施形態に係る通気性扉2は、吸音材を用いることで更なる遮音効果の向上を図るものであったが、音の伝搬空間の断面積を変えることによっても遮音効果を向上させることができる。図6に示すのは、第3実施形態に係る通気性扉3であり、前面側通気領域15aと背面側通気領域15bとの間の気流路に、流路断面積を不規則に変化させる減衰構造を設けたものである。なお、図6中、第1実施形態と同じ構成には、同一符号を付して説明を省略する。
第3実施形態に係る通気性扉3は、例えば、背面板11bに突起構造を設けることで、前面板11aと背面板11bとの間に流路断面積が狭くなる部位が不規則に形成されるようにした。具体的には、背面側連通空部19aと上方空部19bとの領域境界付近には横長の第1凸状体31aを、左側誘導仕切体17の上端と上面部12dとの間には縦長の第2凸状体31bを、右側誘導仕切体18の上端と上面部12dとの間には縦長の第3凸状体31cを、上方空部19bと左側空部19cとの領域境界付近には横長の第4凸状体31dを、上方空部19bと右側空部19dとの領域境界付近には横長の第5凸状体31eを、左側空部19cと下方空部19eとの領域境界付近には横長の第6凸状体31fを、右側空部19dと下方空部19eとの領域境界付近には横長の第7凸状体31gを、左側誘導仕切体17の下端と下面部12cとの間には縦長の第8凸状体31hを、右側誘導仕切体18の下端と下面部12cとの間には縦長の第9凸状体31iを、下方空部19eと前面側連通空部19fとの領域境界付近には横長の第10凸状態31jを設ける。
上記のような第1〜第10凸状体31a〜31jを背面板11bに設けることで、前面側通気領域15aと背面側通気領域15bとの間の気流路における流路断面積が不規則に変化するので、遮音性能を一層向上させることができる。なお、第1〜第10凸状体31a〜31jの突出量が大きすぎると、通気性を阻害することとなるし、逆に第1〜第10凸状体31a〜31jの突出量が小さすぎると、良好な遮音効果が得られないこととなるので、通気性扉3の使用環境に応じた適切な突出量となるように設計すれば良い。また、本実施形態においては、背面板11bに第1〜第10凸状体31a〜31jを設けるものとしたが、これに限定されるものではなく、前面板11aに凸状体を設けるようにしても良いし、前面板11aと背面板11bの両面に凸状体を設けるようにしても良い。さらに、前述した第2実施形態で示したように、吸音材と併用するようにしても良い。
また、流路断面積を不規則に変化させる減衰構造は、前面板11aあるいは背面板11bに設けるものに限らず、扉内空部を仕切る誘導仕切体に設けるようにしても良い。図7に示すのは、第4実施形態に係る通気性扉を示すもので、図7(a)は第1構成例である通気性扉7A、図7(b)は第2構成例である通気性扉7B、図7(c)は第3構成例である通気性扉7Cである。なお、図7中、第1実施形態と同じ構成には、同一符号を付して説明を省略する。
第4実施形態の第1構成例である通気性扉4Aは、前面側通気領域15aと背面側通気領域15bを上下に仕切る通気領域仕切体16の左側端に左側誘導仕切体42を、右側端には右側誘導仕切体43を設けたものである。左側誘導仕切体42は、等幅仕切体42aの上部に比較的大きな断面略四角形状の凸状体42bを、等幅仕切体42bの下部に比較的小さな横長四角形状の凸状体42cを設けた構造である。右側誘導仕切体43は、左側誘導仕切体42とほぼ対象構造で、等幅仕切体43aの上部に凸状体43bを、等幅仕切体42bの下部に凸状体43cを備える。すなわち、左側誘導仕切体42の凸状体42b,42cおよび右側誘導仕切体43の凸状体43b,43cによって、流路断面積を変化させることができ、遮音性能を一層向上させることができる。
第4実施形態の第2構成例である通気性扉4Bは、通気領域仕切体16の左側端に左側誘導仕切体44を、右側端には右側誘導仕切体45を設けたものである。左側誘導仕切体44は、等幅仕切体44aの上部に比較的大きな断面略菱形形状の凸状体44bを、等幅仕切体44bの下部左側壁側に比較的小さな略三角形状の凸状体44cを設けた構造である。右側誘導仕切体45は、左側誘導仕切体44とほぼ対象構造で、等幅仕切体45aの上部に凸状体45bを、等幅仕切体44bの下部に凸状体45cを備える。すなわち、左側誘導仕切体44の凸状体44b,44cおよび右側誘導仕切体45の凸状体45b,45cによって、流路断面積を変化させることができ、遮音性能を一層向上させることができる。しかも、第2構成例の通気性扉4Bでは、凸状体44b,44c,45b,45cの形状により、扉内空部の気流路が徐々に狭くなったり徐々に広くなったりするので、気流の乱れを抑制でき、通気性の低減を抑えられる。
第4実施形態の第3構成例である通気性扉4Cは、通気領域仕切体16の左側端に左側誘導仕切体46を、右側端には右側誘導仕切体47を設けたものである。左側誘導仕切体46は、等幅仕切体46aの上部に比較的大きな縦長楕円形状の凸状体46bを、等幅仕切体46bの下部左側壁側に比較的小さな楕円形状の凸状体46cを設けた構造である。右側誘導仕切体47は、左側誘導仕切体46とほぼ対象構造で、等幅仕切体47aの上部に凸状体47bを、等幅仕切体46bの下部に凸状体47cを備える。すなわち、左側誘導仕切体46の凸状体46b,46cおよび右側誘導仕切体47の凸状体47b,47cによって、流路断面積を変化させることができ、遮音性能を一層向上させることができる。しかも、第3構成例の通気性扉4Cでは、凸状体46b,46c,47b,47cには尖った角部がないので、一層高い減衰効果を期待できる。
ここで、上述した第1実施形態の通気性扉1を試験用に簡易な構造で試作した構成例を図8に示す。図8(a)中に記載のサイズにて試作した通気性扉1′を、以後の説明においては基準構造と称する。なお、通気性扉1′は、通気領域仕切体16、左側誘導仕切体17、右側誘導仕切体18を、5〜10cmの仕切材を繋いで構成しているため、そのつなぎ目部に生じる小さな隙間から音が漏れてしまうことから、通気性扉1よりも通気性扉1′の方が遮音性能が低くなる。また、基準構造の通気性扉1′では、前面側通気領域15aが開口する側を音源側とし、背面側通気領域15bが開口する側を受音側とする。
そして、基準構造の通気性扉1′では、前面側通気領域15aおよび背面側通気領域15bを下方に設けてあるので、前面側連通空部19fよりも背面側連通空部19aの方が面積が広い。特に、左側誘導仕切体17および右側誘導仕切体18の上端から背面側通気領域15bの上端までの長気流部19a1は前面板11aと背面板11bに挟まれた広い空間であり、背面側通気領域15bの上端から通気領域仕切体16までの通気領域コンタクト部19a2に比べて、長気流部19a1に臨む部位の前面板11aもしくは背面板11bは撓みやすい。このため、通気性扉1′の外側から音や風が当たることで、長気流部19a1に臨む部位の前面板11aもしくは背面板11bが振動して、遮音性能が低下することが懸念される。
基準構造の通気性扉1′における長気流部19a1は、図8(b)に示すように、左右方向の幅が約370mm、上下方向の高さが約900mmである。なお、以下の説明では、長気流部19a1の中心を0として左右両側へそれぞれ185mm、左側誘導仕切体17および右側誘導仕切体18の上端を0として背面側通気領域15bに向かって900mmの座標系を基本とする。
上記のように試作した通気性扉1′における基準構造の通気扉において得られた1/3オクターブバンド中心周波数に対する音響透過損失特性を図9に示す。この特性図では、図5に示した同特性図よりも悪く、重み付き透過損失Rw=27dBとなってしまった。特に、200Hz帯、250Hz帯、500Hz帯、1250Hz帯において、遮音性が低下していることが分かる。ここで、長気流部19a1に臨む前面板11aの振動特性として、200Hz帯(193.08Hz)を図10(a)に、250Hz帯(226.7Hz)を図10(b)に夫々示す。図10(a),(b)から、局部的に共振、固有振動などが生じていることは明らかであり、このような振動を抑えることが、遮音性の向上に有効であると考えられる。
そこで、図11に示す第5実施形態においては、長気流部19a1に矩形状の第1流路仕切体50a、第2流路仕切体50b、第3流路仕切体50cを設け、長気流部19a1に臨む部位の前面板11aもしくは背面板11bに振動が生じないように制御した。第1流路仕切体50aは高さ250mm×左右幅150mmで、上下座標の基準位置から50mm下方部に第1流路仕切体50aの上面を位置させ、左右座標の中心よりも25mm右側に第1流路仕切体50aの中心をずらしてある。第2流路仕切体50bは高さ100mm×左右幅150mmで、上下座標の基準位置から450mm下方部に第2流路仕切体50bの上面を位置させ、左右座標の中心よりも25mm左側に第2流路仕切体50bの中心をずらしてある。第3流路仕切体50cは高さ200mm×左右幅150mmで、上下座標の基準位置から650mm下方部に第3流路仕切体50cの上面を位置させ、左右座標の中心に第3流路仕切体50cの中心を位置させてある。なお、第1〜第3流路仕切体50a〜50cの前後幅は、前面板11aと背面板11bとの離隔間隔に等しい。また、第1〜第3流路仕切体50a〜50cを区別する必要がないときは、単に流路仕切体50という。
流路仕切体50は、第1面板(例えば前面板11a)と第2面板(例えば背面板11b)との間隔に等しい幅で任意形状の閉じた側壁を有し、該側壁の一方端を第1面板に、他方端を第2面板に取り付けることで、前面板11aおよび背面板11bに振動が生じないように制御することができる。しかも、流路仕切体50を設けることで、気流路の断面積変化が生ずることとなり、これが遮音性能向上に有効となる。かかる流路仕切体50の構成例を図12に示す。
図12(a)に示す矩形状流路仕切体51は、一枚の金属板を加工して形成できるもので、略四角形の第1側壁511、この第1側壁511に連なってほぼ直角に屈曲する第2側壁512、この第2側壁512に連なってほぼ直角に屈曲する第3側壁513、この第3側壁514に連なって直角に屈曲して第1側壁511と連結される第4側壁514、からなる矩形状である。また、第1側壁511の一方端には外向きに屈曲した第1鍔部511aを、他方端には第2鍔部511bを設けてある。同様に、第2側壁512の一方端には第1鍔部512aを、他方端には第2鍔部512bを設け、第3側壁513の一方端には第1鍔部513aを、他方端には第2鍔部513bを設け、第4側壁514の一方端には第1鍔部514aを、他方端には第2鍔部514bを設ける。これら第1鍔部511a,512a,513a,514aおよび第2鍔部511b,512b,513b,514bは、それぞれ鉛直方向にほぼ面一にしておくことで、前面板11aもしくは背面板11bの内面に装着することが容易になる。
なお、矩形状流路仕切体51を前面板11aおよび背面板11bの内面に取り付ける方法は特に限定されず、溶接、超音波融着、金属用の接着剤などでも良いが、例えば、平板状マグネットを適宜な大きさに切って第1鍔部511a,512a,513a,514aおよび第2鍔部511b,512b,513b,514bに取り付け、この平板状マグネットの吸着力で前面板11aおよび背面板11bに固定する構造とすることもできる。平板状マグネットを用いて矩形状流路仕切体51を前面板11aおよび背面板11bに取り付ける場合には、矩形状気流性下年帯51の取付位置を微調整し易いという利点がある。また、平板状マグネットを用いる場合は、矩形状流路仕切体51の前後幅を平板状マグネットの厚さ分だけ短くしておけば良い。
図12(b)に示す円環状流路仕切体52は、円環状の側壁(周壁)が生ずる円筒体521の第1端部521aに略四角形の第1接着プレート522を取り付け、円筒体521の第2端部521bに略四角形の第2接着プレート523を取り付けたものである。この円環状流路仕切体52を前面板11aおよび背面板11bに固定するときには、平坦な第1接着プレート522と第2接着プレート523を介して、上述した矩形状流路仕切体51と同様に、溶接、超音波融着、金属用の接着剤、或いは平板状マグネットを適用可能である。
第5実施形態に係る通気性扉5(基準構造+第1〜第3流路仕切体50a〜50c)において得られた1/3オクターブバンド中心周波数に対する音響透過損失特性を図13に示す。同図中、破線で示す基準構造の通気性扉1′の特性と比較して、通気性扉5においては、200Hz、250Hz、500Hz、1250Hzの何れの帯域においても、遮音性能向上の効果が得られた。なお、第5実施形態の通気性扉5および基準構造の通気性扉1′を製品化と同じ条件(通気領域仕切体16、左側誘導仕切体17、右側誘導仕切体18がそれぞれ継ぎ目のない一体構造)によりシミュレートして得られた1/3オクターブバンド中心周波数に対する音響透過損失特性を図14に示す。ここでも、やはり第1〜第3流路仕切体50a〜50cを設けた通気性扉5は、基準構造の通気性扉1′よりも遮音性能を向上可能であるとの結果を得られた。
以上のように、流路仕切体50を設けた通気性扉5においては、扉内の気流路、特に、長気流部19a1のように広域となる部位で、前面板11aあるいは背面板11bが振動することを制御すると共に、流路仕切体50によって気流路の断面積変化を生ぜしめるので、基準構造の通気性扉1′の遮音性能を向上させるのに好適である。
なお、どこに、どのような大きさ・形状の流路仕切体50を設けるかは、扉の素材や形状等に応じて適宜定めれば良く、上述したように、長気流部19a1に臨む前面板11aの振動特性を取得して、振動発生部分振動を制御するように設計することもできる。しかしながら、必ずしも振動特性を取得しなくても、ある程度の指標に基づいて流路仕切体50の大きさや配設位置を決められることが望ましい。以下に、流路仕切体50と遮音性能向上との関連について、いくつか例示する。
図15(a)は、長気流部19a1内で同一形状(左右幅200mm×高さ100mm)の流路仕切体53を通気領域15bまでの離隔距離を変化させる場合を示す。流路仕切体53aは、左右座標の中心に位置させると共に上下座標の基準位置に上面を位置させた状態である。流路仕切体53bは、左右座標の中心に位置させると共に上下座標の基準位置から200mm下方に上面を位置させた状態である。流路仕切体53cは、左右座標の中心に位置させると共に上下座標の基準位置から400mm下方に上面を位置させた状態である。流路仕切体53dは、左右座標の中心に位置させると共に上下座標の基準位置から600mm下方に上面を位置させた状態である。
上記のように流路仕切体53a〜53dを長気流部19a1内に配置したときの1/3オクターブバンド中心周波数に対する音響透過損失特性を図15(b)に示す。傾向としては、背面側通気領域15bから離して、上に流路仕切体53を設けた方が遮音性能向上に効果があると考えられる。
図16(a)は、長気流部19a1内で流路仕切体54の大きさを通気領域15bの方向へ変化(左右幅は200mmで一定、上下幅を25mm〜700mmへ変化)させる場合を示す。流路仕切体54aは、左右座標の中心に位置させると共に上下座標の基準位置に上面を位置させた状態で、高さが25mmある。流路仕切体54bは、同様の状態で、高さが50mmである。流路仕切体54cは、同様の状態で、高さが100mmである。流路仕切体54dは、同様の状態で、高さが300mmである。流路仕切体54eは、同様の状態で、高さが500mmである。流路仕切体54fは、同様の状態で、高さが700mmである。
上記のように流路仕切体54a〜53fを長気流部19a1内に配置したときの1/3オクターブバンド中心周波数に対する音響透過損失特性を図16(b)に示す。高さ100mmの54cは極端な劣化がなく、全帯域で遮音性能が高い。
図17(a)は、長気流部19a1内で流路仕切体55の大きさを誘導仕切板の方向へ変化(高さは100mmで一定、左右幅を00mmから25mmへ変化)させる場合を示す。流路仕切体55aは、左右座標の中心に位置させると共に上下座標の基準位置から400mm下に上面を位置させた状態で、幅は200mmである。流路仕切体55bは、同様の状態で、幅が150mmである。流路仕切体55cは、同様の状態で、幅が100mmである。流路仕切体55dは、その状態で、幅が50mmである。流路仕切体eは、その状態で、幅が25mmである。
上記のように流路仕切体55a〜55eを長気流部19a1内に配置したときの1/3オクターブバンド中心周波数に対する音響透過損失特性を図17(b)に示す。流路仕切体55の幅が広いほど、遮音性能が高い。
図18(a)は、長気流部19a1内で同一形状(左右幅50mm×高さ100mm)の流路仕切体56を左側誘導仕切板17までの離隔距離を変化させる場合を示す。流路仕切体56aは、上下座標の基準位置から400mm下に上面を位置させると共に左右座標の中心位置から125mm左に位置させた状態(左側誘導仕切板17から35mm離隔した状態)を示す。流路仕切体56bは、上下座標の基準位置から400mm下に上面を位置させると共に左右座標の中心位置から75mm左に位置させた状態(左側誘導仕切板17から85mm離隔した状態)を示す。流路仕切体56cは、上下座標の基準位置から400mm下に上面を位置させると共に左右座標の中心位置から25mm左に位置させた状態(左側誘導仕切板17から135mm離隔した状態)を示す。流路仕切体56dは、上下座標の基準位置から400mm下に上面を位置させると共に左右座標の中心に位置させた状態(左側誘導仕切板17から160mm離隔した状態)を示す。
上記のように流路仕切体56a〜56dを長気流部19a1内に配置したときの1/3オクターブバンド中心周波数に対する音響透過損失特性を図18(b)に示す。流路仕切体56を左側誘導仕切板17(或いは右側誘導仕切板18)から離隔させただけでは、顕著な遮音性能の変化は見られなかった。
図19および図20は、複数の流路仕切体57を長気流部19a1内に配置した様々なタイプを示す。
図19(a)の第1タイプは、幅200mm×高さ300mmの流路仕切体571aを上下座標の基準位置で左右座標の中心に位置させ、幅50mm×高さ100mmの流路仕切体571bを上下座標の基準位置から500mm下に上面を位置させると共に左右座標の基準位置から125mm右に位置させた状態である。図19(b)の第2タイプは、幅200mm×高さ300mmの流路仕切体572aを上下座標の基準位置で左右座標の中心に位置させ、幅150mm×高さ100mmの流路仕切体572bを上下座標の基準位置から500mm下に上面を位置させると共に左右座標の基準位置から75mm右に位置させた状態である。図19(c)の第3タイプは、幅200mm×高さ300mmの流路仕切体573aを上下座標の基準位置で左右座標の中心に位置させ、幅300mm×高さ100mmの流路仕切体573bを上下座標の基準位置から500mm下に上面を位置させると共に左右座標の中心に位置させた状態である。
図20(a)の第4タイプは、幅150mm×高さ100mmの流路仕切体574aを上下座標の基準位置に上面を位置させると共に左右座標の中心に位置させ、幅150mm×高さ100mmの流路仕切体574bを上下座標の基準位置から400mm下に上面を位置させると共に左右座標の中心に位置させた状態である。図20(b)の第5タイプは、幅150mm×高さ100mmの流路仕切体575aを上下座標の基準位置に上面を位置させると共に左右座標の中心に位置させ、幅150mm×高さ100mmの流路仕切体575bを上下座標の基準位置から400mm下に上面を位置させると共に左右座標の中心に位置させ、幅150mm×高さ100mmの流路仕切体575cを上下座標の基準位置から650mm下に上面を位置させると共に左右座標の中心に位置させた状態である。図20(c)の第6タイプは、幅150mm×高さ250mmの流路仕切体576aを上下座標の基準位置から50mm下に上面を位置させると共に左右座標の中心から25mm右に位置させ、幅150mm×高さ100mmの流路仕切体576bを上下座標の基準位置から450mm下に上面を位置させると共に左右座標の中心から25mm左に位置させ、幅150mm×高さ200mmの流路仕切体576cを上下座標の基準位置から650mm下に上面を位置させると共に左右座標の中心に位置させた状態である。なお、第6タイプは、前述した第5実施形態の通気性扉5における第1〜第3流路仕切体50a〜50cと同じ配置である。
上記のような第1〜第6タイプについて、1/3オクターブバンド中心周波数に対する音響透過損失特性を図21に示す。
以上、本発明に係る通気性扉を実施形態に基づき説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない限りにおいて実現可能な全ての通気性扉(例えば、船舶のほかにも、住宅や店舗、工場、倉庫などの家屋(建屋)等で使用される扉)を権利範囲として包摂するものである。