第1の局面において、本発明は、ラクトースを利用し、α1,3結合で、GDP-フコースドナー基質からのL-フコース糖の転移を触媒する精製されたα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素(本明細書ではα(1,3)FTとも呼ぶ)を提供する。好ましくは、アクセプター基質はオリゴ糖である。本明細書において同定および説明されているα(1,3)フコシルトランスフェラーゼは、ヒト乳オリゴ糖(HMOS)を生産するために宿主細菌において発現させるのに有用である。α(1,3)フコシルトランスフェラーゼは、これが発現され、生産される宿主生物にとって異種のものである。例えば、フコシルトランスフェラーゼの核酸配列および/またはアミノ酸配列は、宿主細菌内で天然に生じるものとは異なる。従って、宿主細菌は遺伝子改変される。例えば、宿主細菌は、異種フコシルトランスフェラーゼをコードするDNA、例えば、cDNAを含むように改変されている。本発明の方法によって生産される例示的なフコシル化オリゴ糖には、3-フコシルラクトース(3FL)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、およびラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)が含まれる。
例えば、本発明は、フコシル化オリゴ糖の生産において使用するための組成物を提供する。前記組成物は、少なくとも1種類のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素を発現する細菌であって、1種類もしくは複数種の酵素のアミノ酸配列が、完全長CafC(SEQ ID NO:2)に対して少なくとも25%の同一性から100%までの同一性を含む細菌、前記酵素をコードする単離された核酸(例えば、cDNA)、または精製された組換え酵素そのもの、もしくは酵素の組み合わせを含む。いくつかの例では、前記細菌は2種類以上のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素を発現し、前記酵素のうちの1つのアミノ酸配列は、完全長CafC(SEQ ID NO:2)に対して少なくとも25%の同一性から100%までの同一性を有し、1種類または複数種のさらなる酵素のアミノ酸配列は、完全長SEQ ID NO:2(CafC)、17(CafV)、9(CafN)、7(CafL)、10(CafO)、12(CafQ)、16(CafU)、または53(CafD)に対して少なくとも25%の同一性から100%までの同一性を含む。後者の場合、少なくとも2コピーのα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素をコードする配列を用いて、酵素の生産または活性が(例えば、10%、25%、50%、75%、2倍、3倍、またはそれより多く)増加するという利点が観察される。例えば、α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素をコードする配列は、異なる異種配列である。さらに、2種類以上のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素はPLプロモーターの制御下にあってもよく、細菌は発現ベクターpG420を有してもよい。
さらに、本発明は、本明細書に開示される任意の細菌においてフコシル化オリゴ糖を生産するための方法を提供する。このような方法では、細菌は、カザミノ酸または酵母抽出物を含む、窒素に富む栄養添加物の存在下で発酵されてもよい。窒素に富む栄養添加物のさらなる例には、肉、カゼイン、乳清、ゼラチン、ダイズ、酵母、または穀粒のタンパク質加水分解物が含まれる。
本発明のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼは、CafC(SEQ ID NO:2)に対して少なくとも10%の配列同一性、かつ100%までの配列同一性を含むアミノ酸配列を含む。好ましくは、本発明のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼは、CafCに対して少なくとも50%の配列同一性を含み、より好ましくは、CafC(SEQ ID NO:2)に対して60%未満、75%未満、90%未満、95%未満、および99%未満の配列同一性を含む。本発明のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼは、グルコースまたはGlcNAcの3位置においてα(1,3)結合の形成を触媒する機能的特徴を保持する。好ましくは、前記酵素は、CafCの基質結合ドメインおよび触媒ドメインに対応する
のアミノ酸配列を含む。
特に好ましい局面において、本発明のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼは、SEQ ID NO:2(CafC)、SEQ ID NO:17(CafV)、およびSEQ ID NO:9(CafN)のアミノ酸配列を含む。または、本発明のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼは、SEQ ID NO:7(CafL)、SEQ ID NO:10(CafO)、およびSEQ ID NO:12(CafQ)を含む。
別の特に好ましい局面において、本発明のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼは、SEQ ID NO:53(CafD):
のアミノ酸配列を含む。
本発明のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:2、9、または17の配列と少なくとも5%、少なくとも65、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%同一である。好ましくは、アミノ酸配列は、SEQ ID NO:2(CafC)の配列と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%同一である。
または、α(1,3)フコシルトランスフェラーゼは、本明細書に開示される、例えば、表1に列挙されたアミノ酸配列を有する、新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼのいずれか1つに対して少なくとも少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも355、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%の配列同一性を含む。フコシル化オリゴ糖は、好ましくは、単離および精製される。
本発明のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼは、α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ、ならびにα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ活性を示す、そのフラグメントおよび変種のアミノ酸配列を含む。
第2の局面において、本発明は、フコシル化オリゴ糖を生産するための方法、特に、α(1,3)-フコシル化オリゴ糖を生産するための方法を提供する。前記方法は、本発明に従う少なくとも1種類の外因性ラクトース利用性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼを発現する細菌を準備する工程、および1種類または複数種のα(1,3)-フコシル化オリゴ糖を生産するようにラクトースの存在下で細菌を培養する工程を含む。前記方法は、好ましくは、前記細菌から、または前記細菌の培養上清からフコシル化オリゴ糖を回収または精製する工程をさらに含む。
関連する局面において、本発明は、「タンデム」配置で2つの異なるα(1,3)フコシルトランスフェラーゼを含有する発現プラスミドを有する細菌株を利用してα(1,3)-フコシル化オリゴ糖を生産するための方法を提供する。これらのタンデム(1,3)フコシルトランスフェラーゼはPLプロモーターの制御下にあってもよい。タンデム(1,3)フコシルトランスフェラーゼおよびPLプロモーターを含む発現ベクターの例はpG420である。好ましい態様において、これらのタンデムα(1,3)フコシルトランスフェラーゼはCafCおよびCafNである。
さらに、本発明の方法は、高レベルのα(1,3)フコシルトランスフェラーゼを生産する株の培養中に、添加されたトリプトファンを排除する工程、およびそれによって、PLプロモーターを抑制し、細胞毒性を最小限にする工程を提供する。
任意で、前記細菌はまた、1種類もしくは複数種の外因性ラクトース利用性α(1,2)フコシルトランスフェラーゼ酵素および/または1種類もしくは複数種の外因性ラクトース利用性α(1,4)フコシルトランスフェラーゼ酵素も発現する。生産細菌において発現されるフコシルトランスフェラーゼの組み合わせは、望ましいフコシル化オリゴ糖産物によって決まる。適当なα(1,2)フコシルトランスフェラーゼ酵素の例には、2014年5月15日に出願されたUSSN61/993,742(参照により本明細書に組み入れられる)に記載のものが含まれるが、バクテロイデス・ブルガタス(Bacteroides vulgatus)ATCC 8482 FutN(GenBankアクセッション: YP_001300461.1)、パラバクテロイデス・ジョンソニイ(Parabacteroides johnsonii)CL02T12C29 FutX(GenBankアクセッション: WP_008155883.1)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌3_1_57FAA_CT1 FutQ(GenBankアクセッション: WP_009251343.1)、プレボテラ・メラニノゲニカ(Prevotella melaninogenica)ATCC 25845 FutO(GenBankアクセッション: YP_003814512.1)、プレボテラ属(Prevotella)種(sp.)CAG:891 FutW(GenBankアクセッション: WP_022481266.1)、およびバクテロイデス属(Bacteroides)種CAG:63 FutZA(GenBankアクセッション: WP_022161880.1)に限定されない。適当なα(1,4)フコシルトランスフェラーゼ酵素の例には、H.ピロリ(H.pylori)UA948 FucTa(緩い(relaxed)アクセプター特異性を有し、α(1,3)-フコシル結合とα(1,4)-フコシル結合を両方とも生じることができる)が含まれるが、これに限定されない。α(1,4)フコシルトランスフェラーゼ活性しか持たない酵素の一例は、ヘリコバクター・ピロリ株DMS6709(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号AY450598.1(GI:40646733))に由来するFucTIII酵素によって示される(S. Rabbani, V. Miksa, B. Wipf, B. Ernst, Glycobiology 15, 1076-83 (2005)。または、α(1,3)フコシルトランスフェラーゼはα(1,2)フコシルトランスフェラーゼおよび/またはα(1,4)フコシルトランスフェラーゼ活性も示す。
第3の局面において、α(1,3)フコシルトランスフェラーゼをコードする核酸配列が提供される。
第4の局面において、本発明は、ラクトース受容性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素またはその変種もしくはフラグメントをコードする単離された核酸を含む核酸コンストラクトまたはベクターであって、前記核酸が、宿主細菌生産株において酵素の生産を誘導する1種類または複数種の異種制御配列に機能的に連結されている、核酸コンストラクトまたはベクターを提供する。ベクターは、さらに、1種類または複数種の調節エレメント、例えば、異種プロモーターを含んでもよい。「異種」とは、制御配列およびタンパク質をコードする配列が異なる細菌株から生じることを意味する。融合タンパク質を発現させるために、タンパク質をコードする遺伝子、融合タンパク質遺伝子をコードする遺伝子コンストラクト、またはオペロン内で連結されている一連の遺伝子に調節エレメントを機能的に連結することができる。
第5の局面において、本発明は、単離された組換え細胞、例えば、上述の核酸分子、コンストラクト、またはベクターを含有する細菌細胞を含む。前記核酸は、任意で、宿主細菌ゲノムに組み込まれる。
操作された細菌により生産されるフコシル化オリゴ糖は、好ましくは、3-フコシルラクトース(3FL)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、またはラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)である。例えば、3FL発現の場合、細菌は、本発明に従ってα(1,3)フコシルトランスフェラーゼを発現するように操作される。例えば、LDFTを生産するために、宿主細菌は、α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ活性も有する外因性α(1,2)フコシルトランスフェラーゼを発現するように、または外因性α(1,2)フコシルトランスフェラーゼおよび外因性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼを発現するように操作される。LNF IIIを生産するために、宿主細菌は、好ましくは、ヘリコバクター・ヘパティカス(Helicobacter hepaticus)ATCC 51449 CafD(SEQ ID NO:53)(GenBankアクセッション:AAP76669)であるα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ、またはCafDと95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、もしくは50%の配列同一性を有し、フコースと、ラクト-N-ネオヘキサオース(neohexaose)(LNnT)のGlcNAc部分との付着を触媒する能力を保持しているα(1,3)フコシルトランスフェラーゼを発現するように操作される。
多量の3-フコシルラクトース(3FL)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、またはラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)が、外因性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む細菌宿主、例えば、大腸菌細菌の中で産生される。
下記で詳述するように、大腸菌(または他の細菌)は、商業的に実行可能なレベルで、選択されたフコシル化オリゴ糖(3-フコシルラクトース(3FL)、ラクトジフコテトラオース、およびラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)を含む)を生産するように操作される。例えば、収率は細菌発酵プロセスにおいて>5グラム/リットルである。他の態様において、フコシル化オリゴ糖産物、例えば、3-フコシルラクトース(3FL)、ラクトジフコテトラオース、およびラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)の収率は、10グラム/リットルよりも多い、15グラム/リットルよりも多い、20グラム/リットルよりも多い、25グラム/リットルよりも多い、30グラム/リットルよりも多い、35グラム/リットルよりも多い、40グラム/リットルよりも多い、45グラム/リットルよりも多い、50グラム/リットルよりも多い、55グラム/リットルよりも多い、60グラム/リットルよりも多い、65グラム/リットルよりも多い、70グラム/リットルよりも多い、または75グラム/リットルよりも多い。
適当な生産宿主細菌株は、フコシルトランスフェラーゼをコードする核酸配列が同定された供給源の細菌株と同一の細菌株ではないものである。ラクトース受容性フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を発現させるために用いられる宿主生物は、典型的には、腸内細菌である大腸菌K12(E.coli)である。大腸菌K-12はヒト病原体とも動物病原体ともみなされず、毒素を生産するともみなされていない。大腸菌K-12は標準的な生産細菌株であり、結腸にコロニー形成し、感染を確立する能力が低いために安全であることが認められている(例えば、epa.gov/oppt/biotech/pubs/fra/fra004.htmを参照されたい)。しかしながら、様々な細菌種、例えば、エルウイニア・ヘルビコラ(Erwinia herbicola)(パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans))、シトロバクター・フロインディ(Citrobacter freundii)、パントエア・シトレア(Pantoea citrea)、ペクトバクテリウム・カロトボルム(Pectobacterium carotovorum)、またはザントモナス・カンペストリス(Xanthomonas campestris)がオリゴ糖生合成法において用いられ得る。枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・サーモフィラス(Bacillus thermophilus)、バチルス・ラテロスポールス(Bacillus laterosporus)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・ミコイデス(Bacillus mycoides)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・レンタス(Bacillus lentus)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、およびバチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)を含む、バチルス属(Bacillus)の細菌も用いられ得る。同様に、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・デルブリュッキイ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・クリスパータス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・イエンセニイ(Lactobacillus jensenii)、およびラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)を含むが、これに限定されない、ラクトバチルス属(Lactobacillus)およびラクトコッカス属(Lactococcus)の細菌が本発明の方法を用いて改変され得る。ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophiles)およびプロプリオニバクテリウム・フロイデンライシイ(Proprionibacterium freudenreichii)もまた、本明細書に記載される発明に適した細菌種である。本発明の一部として、エンテロコッカス属(Enterococcus)(例えば、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)およびエンテロコッカス・サーモフィルス(Enterococcus thermophiles))、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)(例えば、ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、およびビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum))、スポロラクトバチルス属(Sporolactobacillus)の複数の種、ミクロモノスポラ属(Micromomospora)の複数の種、ミクロコッカス属(Micrococcus)の複数の種、ロドコッカス属(Rhodococcus)の複数の種、ならびにシュードモナス属(Pseudomonas)(例えば、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)および緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa))に由来する、本明細書に記載されるように改変される株も含まれる。
本明細書に記載される生産方法において利用される細菌は、好ましくは、フコシル化オリゴ糖産物の効率および収率を増やすように遺伝子操作される。例えば、宿主生産細菌は、β-ガラクトシダーゼ活性レベルが低下していること、コラン酸合成経路が欠損していること、ATP依存性細胞内プロテアーゼが不活性化されていること、lacAが不活性化されていることのうちの、1つ、2つ、3つ、または4つを有することを特徴とする。好ましくは、宿主生産細菌は、β-ガラクトシダーゼ活性レベルが低下していること、コラン酸合成経路が欠損していること、ATP依存性細胞内プロテアーゼが不活性化されていること、lacAが不活性化されていることを特徴とする。
本明細書に記載される生産システムに適した宿主細菌は、ラクトースおよび/またはGDP-フコースの増強または増大した細胞質プールまたは細胞内プールを示す。例えば、細菌は大腸菌であり、内因性の大腸菌代謝経路および遺伝子が、野生型大腸菌において見出されるレベルと比較して増大したラクトース細胞質濃度および/またはGDP-フコース細胞質濃度を生じるように操作される。好ましくは、細菌は、増大した細胞内ラクトースプールおよび増大した細胞内GDP-フコースプールを蓄積する。例えば、細菌は、本明細書に記載される遺伝子組換えを欠く対応する野生型細菌と比較して少なくとも10%、20%、50%、もしくは200%、500%、1000%、またはそれより多いレベルの細胞内ラクトースおよび/または細胞内GDP-フコースを含む。
野生型細菌と比較して増大した宿主細菌内のラクトース細胞内濃度は、ラクトースの運び入れ、運び出し、および異化に関与する遺伝子および経路を操作することによって達成される。特に、内因性β-ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)およびラクトースオペロンリプレッサー遺伝子(lacI)を同時に欠失させることによって、ヒト乳オリゴ糖を生産するように遺伝子操作された大腸菌において細胞内ラクトースレベルを増大させる方法が本明細書に記載されている。この欠失を構築する間に、lacIqプロモーターはラクトースパーミアーゼ遺伝子lacYのすぐ上流に(ラクトースパーミアーゼ遺伝子lacYに隣接して)配置される、すなわち、lacY遺伝子がlacIqプロモーターによる転写調節下にあるように、lacIqプロモーター配列は、lacY遺伝子をコードする配列の開始点のすぐ上流にあり、かつ隣接している。この改変された株は、(LacYを通じて)培養培地からラクトースを輸送するその能力を維持しているが、ラクトース異化を担う(β-ガラクトシダーゼをコードする)lacZ遺伝子の野生型染色体コピーを欠失している。従って、この改変された株が外因性ラクトースの存在下で培養された時に、細胞内ラクトースプールが作り出される。
大腸菌におけるラクトース細胞内濃度を増大させる別の方法はlacA遺伝子の不活性化を伴う。lacAの不活性化変異、ヌル変異、または欠失によって細胞内アセチル-ラクトースの形成が妨げられ、これにより、この分子は汚染物質として、その後の精製物から除去されるだけでなく、大腸菌が過剰なラクトースを細胞質から運び出す能力が無くなり(Danchin A. Cells need safety valves. Bioessays 2009, Jul;31(7):769-73.)、従って、大腸菌の細胞内ラクトースプールの意図的な操作がかなり楽になる。
さらなる局面において、本発明はまた、生物の内因性コラン酸生合成経路を操作することによって、細菌におけるGDP-フコース細胞内レベルを増大させる方法も提供する。この増加は、コラン酸前駆体生合成に直接関与するか、またはコラン酸合成レギュロンの制御全体に関与する内因性大腸菌遺伝子の多数の遺伝子組換えを通じて達成される。GDP-フコース(ドナー基質)の生産後およびコラン酸の生成前にコラン酸合成経路において働く遺伝子またはコードされるポリペプチドを不活性化することが特に好ましい。例示的なコラン酸合成遺伝子には、wcaJ遺伝子、(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号(アミノ酸)BAA15900(GI:1736749))、wcaA遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号(アミノ酸)BAA15912.1(GI:1736762))、wcaC遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号(アミノ酸)BAE76574.1(GI:85675203))、wcaE遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号(アミノ酸)BAE76572.1(GI:85675201))、wcaI遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号(アミノ酸)BAA15906.1(GI:1736756))、wcaL遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号(アミノ酸)BAA15898.1(GI:1736747))、wcaB遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号(アミノ酸)BAA15911.1(GI:1736761))、wcaF遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号(アミノ酸)BAA15910.1(GI:1736760))、wzxE遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号(アミノ酸)BAE77506.1(GI:85676256))、wzxC遺伝子、(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号(アミノ酸)BAA15899(GI:1736748))、wcaD遺伝子、(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号(アミノ酸)BAE76573(GI:85675202))、wza遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号(アミノ酸)BAE76576(GI:85675205))、wzb遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号(アミノ酸)BAE76575(GI:85675204))、およびwzc遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号(アミノ酸)BAA15913(GI:1736763))が含まれるが、これに限定されない。
好ましくは、大腸菌などの宿主細菌は、UDP-グルコース脂質キャリアートランスフェラーゼをコードするwcaJ遺伝子の不活性化を含むか、またはより好ましくは、上述した遺伝子操作に加えてwcaJ遺伝子の不活性化を含む。wcaJ遺伝子の不活性化は、コードされるwcaJの活性が野生型大腸菌と比較して低下するか、または無くなるような、wcaJ遺伝子の欠失、ヌル変異、またはwcaJ遺伝子の不活性化変異によるものでもよい。wcaJヌルの背景の下で、GDP-フコースは大腸菌の細胞質内に蓄積する。
コラン酸合成経路における正の調節タンパク質RcsA(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号M58003(GI:1103316))を過剰発現させると細胞内GDP-フコースレベルが増大する。細胞内GDP-フコースレベルを増大させるために、RcsAの過剰発現の代わりに、またはそれに加えて、コラン酸生合成のさらなる正の調節因子、すなわちRcsB(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号E04821(GI:2173017))の過剰発現も利用される。従って、代わりに、またはさらに、宿主細胞はRcsBを過剰発現する、および/またはRcsAを過剰発現する
または、大腸菌lon遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号L20572(GI:304907))に変異が導入された後に、コラン酸生合成は増大する。Lonは、大腸菌におけるコラン酸生合成の正の転写調節因子として上述したRcsAの分解を担うアデノシン-5'-三リン酸(ATP)依存性細胞内プロテアーゼである。lonヌルの背景の下で、RcsAは安定化され、RcsAレベルが増大し、大腸菌においてGDP-フコース合成を担う遺伝子が上方調節され、細胞内GDP-フコース濃度が増強される。本明細書に示される方法と共に使用するのに適したlonの変異には、lonの発現または機能を妨害するヌル変異または挿入が含まれる。
好ましくは、機能的ラクトースパーミアーゼ遺伝子も宿主細菌に存在する。ラクトースパーミアーゼ遺伝子は内因性ラクトースパーミアーゼ遺伝子または外因性ラクトースパーミアーゼ遺伝子である。例えば、ラクトースパーミアーゼ遺伝子は、大腸菌lacY遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、GenBankアクセッション番号V00295(GI:41897))を含む。多くの細菌には、(例えば、バチルス・リケニフォルミスに見出されるような)大腸菌ラクトースパーミアーゼホモログ、または(例えば、ラクトバチルス・カゼイおよびラクトバチルス・ラムノサスに見出されるような)遍在性のPTS糖輸送ファミリーのメンバーであるトランスポーターのいずれかである輸送タンパク質を利用することによって、ラクトースを増殖培地から細胞に輸送する生来的な能力がある。細胞外ラクトースを細胞質に輸送する生来的な能力を欠く細菌の場合、この能力は、組換えDNAコンストラクトにより提供され、プラスミド発現ベクターに乗せられて供給されるか、または宿主染色体に組み込まれた外因性遺伝子として供給される外因性ラクトーストランスポーター遺伝子(例えば、大腸菌lacY)によって付与される。
本明細書に記載されているように、宿主細菌は、好ましくは、低下したレベルのβ-ガラクトシダーゼ活性を有する。細菌が内因性β-ガラクトシダーゼ遺伝子の欠失を特徴とする場合、外因性β-ガラクトシダーゼ遺伝子が細菌に導入される。例えば、外因性β-ガラクトシダーゼ遺伝子を発現するプラスミドが細菌に導入されるか、または組換えされるか、または宿主ゲノムに組み込まれる。例えば、外因性β-ガラクトシダーゼ遺伝子は、宿主細菌内で不活性化された遺伝子、例えば、lon遺伝子に挿入される。
外因性β-ガラクトシダーゼ遺伝子は、全く遺伝子操作されていない野生型細菌におけるβ-ガラクトシダーゼ活性と比較して低下した、または低いレベルのβ-ガラクトシダーゼ活性を特徴とする機能的β-ガラクトシダーゼ遺伝子である。例示的なβ-ガラクトシダーゼ遺伝子には、β-ガラクトシドから単糖への加水分解を触媒する、大腸菌lacZおよび多数の他の生物のうちの任意の生物に由来するβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、クリベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)のlac4遺伝子(例えば、GenBankアクセッション番号M84410(GI:173304)の)が含まれる。野生型大腸菌細菌におけるβ-ガラクトシダーゼ活性のレベルは、例えば、1,000単位である。従って、本明細書に記載される操作された宿主細菌が包含する低下したβ-ガラクトシダーゼ活性レベルには、1,000単位未満、900単位未満、800単位未満、700単位未満、600単位未満、500単位未満、400単位未満、300単位未満、200単位未満、100単位未満、または50単位未満が含まれる。β-ガラクトシダーゼの低い機能的レベルには、0.05〜1,000単位のβ-ガラクトシダーゼ活性レベル、例えば、0.05〜750単位、0.05〜500単位、0.05〜400単位、0.05〜300単位、0.05〜200単位、0.05〜100単位、0.05〜50単位、0.05〜10単位、0.05〜5単位、0.05〜4単位、0.05〜3単位、または0.05〜2単位のβ-ガラクトシダーゼ活性が含まれる。β-ガラクトシダーゼ活性を求めるための単位の定義およびアッセイについては、Miller JH, Laboratory CSH. Experiments in molecular genetics. Cold Spring Harbor Laboratory Cold Spring Harbor, NY; 1972;(参照により本明細書に組み入れられる)を参照されたい。この低いレベルの細胞質β-ガラクトシダーゼ活性は細胞内ラクトースプールを大幅に減らすのに十分でない。低いレベルのβ-ガラクトシダーゼ活性は、発酵の終了時に、望ましくない残存ラクトースを容易に除去するのに非常に有用である。野生型細菌におけるβ-ガラクトシダーゼ活性の当技術分野において認められている標準レベルは1000単位である。(Garcia et al., 2011, Biophysical J. 101: 535-544を参照されたい)。シングルコピー野生型lacβ-ガラクトシダーゼ活性の当技術分野において認められている値は1000ミラー(Miller)単位である。β-ガラクトシダーゼ活性の「低いレベル」とは、200ミラー単位未満、すなわち、野生型の20%未満を意味する。
任意で、細菌は、不活性化されたthyA遺伝子を有するか、または不活性化されたthyA遺伝子をさらに有する。好ましくは、宿主細菌におけるthyA遺伝子の変異は、選択マーカー遺伝子としてthyAを有するプラスミドの維持を可能にする。例示的な代替の選択マーカーには、抗生物質耐性遺伝子、例えば、BLA(β-ラクタマーゼ)またはproBA遺伝子(proAB宿主株のプロリン栄養要求性を補完するため)もしくはpurA(purA宿主株のアデニン栄養要求性を補完するため)が含まれる。
最も好ましくは、宿主細菌は、遺伝子型ΔampC::Ptrp BcI, Δ(lacI-lacZ)::FRT, PlacIqlacY+, ΔwcaJ::FRT, thyA::Tn10, Δlon:(npt3,lacZ+)を含む大腸菌細菌であり、本明細書に記載される外因性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼの少なくとも1つも発現している。
上記の特徴を含む、最も好ましくは上記の特徴を組み合わせて含む細菌はラクトースの存在下で培養される。場合によっては、前記方法は、トリプトファンの存在下およびチミジンの非存在下で細菌を培養する工程をさらに含む。
場合によっては、培養培地には、窒素に富む栄養添加物が補充される。(例えば、誘導されたPLプロモーターから動かされるような)ほぼ全種類のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼの高レベル発現が大腸菌株に対して毒性がある可能性があり、その結果、発酵操作における生存率が低くなり、3-FL収率が少なくなる。一部の態様において、発酵培地にカザミノ酸(CAA)または酵母抽出物(YE)などの窒素に富む添加物を補充することによってα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ活性の毒性が妨げられ、それによって、3-FL生産収率が大幅に改善される。特に、CAAを補充することによって、得られる3FLの収率は二倍になる。別の態様において、他のこのような窒素に富む栄養添加物は、肉、カゼイン、乳清、ゼラチン、ダイズ、酵母、および穀粒、ならびに/またはその抽出物を含むが、これに限定されない様々な供給源に由来する任意のタンパク質加水分解物(ペプトン)を含んでもよい。フコシル化オリゴ糖は細菌(すなわち、細胞溶解産物)または細菌の培養上清から回収される。フコシル化オリゴ糖は治療用製品または栄養製品における使用のために精製されるか、または、このような製品の中に細菌が直接用いられる。
別の局面において、本発明は、本明細書に記載される方法によって生産された精製されたα(1,3)フコシル化オリゴ糖を提供する。「精製されたオリゴ糖」、例えば、3-フコシルラクトース(3FL)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、またはラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)は、重量で少なくとも90%、95%、98%、99%、または100%(w/w)の望ましいオリゴ糖であるオリゴ糖である。純度は、任意の公知の方法、例えば、薄層クロマトグラフィーまたは当技術分野において公知の他のクロマトグラフィー法によって評価される。例えば、本発明に従う操作された細菌、細菌培養上清、または細菌細胞溶解産物は、本明細書に記載される方法によって生産された3-フコシルラクトース(3FL)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、またはラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)を含み、細胞、培養上清、または溶解産物からフコシル化オリゴ糖産物を精製する前に他のフコシル化オリゴ糖を実質的に含まない。一般的な事項として、前記方法によって生産されたフコシル化オリゴ糖は、3-FLを含有する細胞、細胞溶解産物もしくは培養物、または上清の中に、無視できる程度の量の2’-FL、例えば、1%未満のレベルの3-FLまたは0.5%のレベルの3-FLを含有する。さらに、本明細書に記載される方法によって生産されたフコシル化オリゴ糖には、わずかな量の汚染ラクトースもある。汚染ラクトースは、多くの場合、3-FLなどのフコシル化オリゴ糖産物と一緒に同時精製することができる。この汚染ラクトースの低下は、操作された宿主細菌に存在する低下したレベルのβ-ガラクトシダーゼ活性に起因する。フコシル化オリゴ糖は、治療用製品または栄養製品における使用のために精製されるか、または、このような製品の中に細菌が直接用いられる。
本発明は、前記の遺伝子操作された細菌によって生産されたフコシル化オリゴ糖を精製する方法であって、望ましいフコシル化オリゴ糖(例えば、3-FL)を、細菌の細菌細胞溶解産物または細菌細胞培養上清中にある汚染物質から分離する工程を含む、方法を含む。
オリゴ糖は精製され、ヒトならびに動物、例えば、コンパニオンアニマル(イヌ、ネコ)ならびに家畜(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、またはブタ動物、ならびに家禽類)が消費する多くの製品において用いられる。例えば、薬学的組成物は、精製された3-フコシルラクトース(3FL)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、またはラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)と、経口投与に適した薬学的に許容される賦形剤を含む。
別の局面において、本発明は、精製されたヒト乳オリゴ糖(HMOS)を含む薬学的組成物を生産する方法であって、前記の細菌を培養する工程、細菌によって生産されたHMOSを精製する工程、およびHMOSを賦形剤または担体を組み合わせて、経口投与用の栄養補助食品を得る工程を含む、方法を提供する。これらの組成物は、乳児および成人において腸疾患および/または呼吸器疾患を予防または処置する方法において有用である。従って、前記組成物は、このような疾患に罹患している対象またはこのような疾患を発症する危険がある対象に投与される。
さらに別の局面において、本発明はまた、宿主細菌内でフコシル化オリゴ糖、例えば、大腸菌内で3-FLを合成することができるα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を同定する方法も提供する。新規のラクトース利用性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素を同定する例示的な方法は、以下の工程:
1)配列データベースのコンピュータ検索を行って、任意の1種類の既知のラクトース利用性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼの単純配列ホモログ(simple sequence homolog)の大グループを定義する工程;
2)工程(1)の検索ヒットのリストを使用して、リストのメンバーによって共有されている共通配列および/または構造モチーフを含む検索プロフィールを得る工程;
3)工程(2)から得られた、共通配列または構造モチーフに基づく検索プロフィールをクエリーとして使用して配列データベースを検索し、さらなる候補配列を同定する工程であって、参照ラクトース利用性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼに対する配列相同性が既定のパーセント閾値である、工程;
4)自然状態でα(1,3)フコシル-グリカンを発現することを特徴とするか、または自然生息場所(natural habitat)が、α(1,3)フコシル-グリカンが関与するプロセスおよび相互作用を含むことが分かっている関心対象の候補生物のリストをまとめる工程;
5)関心対象の候補生物に由来する候補配列を選択して、候補ラクトース利用性酵素のリストを作成する工程;
6)宿主生物において候補ラクトース利用性酵素を発現させる工程;ならびに
7)ラクトース利用性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ活性について試験する工程であって、前記生物における望ましいフコシル化オリゴ糖産物の検出が、候補配列が新規のラクトース利用性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼを含むことを示す、工程
を含む。別の態様において、検索プロフィールは、既知のα(1,3)-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する複数種の酵素のアミノ酸配列の多重配列アラインメントから作成される。次いで、多重配列アラインメントクエリーに対して有意な配列類似性を有する新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼを得るために改良し、繰り返し検索するようにデータベース検索を設計することができる。
上記の工程(3)における既定のパーセント閾値は、例えば、50%以下、好ましくは50%未満、より好ましくは45%以下、より好ましくは42%以下、または40%以下である。特に好ましいパーセント閾値は、6〜50%、より好ましくは6〜42%の配列相同性または同一性である。
別の局面において、本発明は、対象において感染を処置する、予防する、またはその危険を低下させる方法であって、精製された組換えヒト乳オリゴ糖を含む組成物を対象に投与する工程を含み、HMOSが病原体に結合し、対象が病原体に感染しているか、または感染する危険がある、方法を提供する。1つの局面において、感染は、ノーウォーク様ウイルスまたはカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)によって引き起こされる。対象は、好ましくは、このような処置を必要とする哺乳動物である。哺乳動物は、例えば、任意の哺乳動物、例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、またはブタである。好ましい態様において、哺乳動物はヒトである。例えば、組成物は、コンパニオンアニマル、例えば、イヌもしくはネコならびに食用で飼育される家畜または動物、例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、およびヤギのための動物用飼料(例えば、ペレット、キブル、マッシュ)または動物用栄養補助製品に処方される。好ましくは、精製されたHMOSは、粉末(例えば、調製粉乳の粉末もしくは成人用栄養補助食品の粉末。これらはそれぞれ摂取される前に液体、例えば、水もしくはジュースと混合される)、または錠剤、カプセル、もしくはペーストの形に処方されるか、あるいは乳製品、例えば、乳、クリーム、チーズ、ヨーグルト、もしくはケフィアの一成分として、または任意の飲料の一成分として組み込まれるか、あるいはプロバイオティクスの役割を果たすことが意図されている生菌培養物を含む調製物、またはインビトロもしくはインビボのいずれかで有益な微生物の増殖を高めるプレバイオティク調製物に組み入れられる。
本発明のポリヌクレオチド、ポリペプチド、およびオリゴ糖は精製および/または単離される。精製されたとは、ヒト対象に投与するのに安全な無菌性の程度、例えば、感染性作用物質または毒性作用物質が無いことを定義する。具体的には、本明細書で使用する「単離された」または「精製された」核酸分子、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、タンパク質、またはオリゴ糖は他の細胞材料を実質的に含まず、組換え法によって生産された時には培養培地を実質的に含まず、化学合成された時には化学前駆体も他の化学物質も含まない。例えば、精製されたHMOS組成物は、少なくとも60重量%(乾燥重量)の関心対象の化合物である。好ましくは、調製物は、少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは少なくとも99重量%の関心対象の化合物である。純度は、任意の適当な標準的な方法によって、例えば、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、または高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって測定される。例えば、「精製されたタンパク質」とは、天然で付随する他のタンパク質、脂質、および核酸から分離されたタンパク質を表す。好ましくは、タンパク質は、乾燥重量で、精製された調製物の少なくとも10、20、50、70、80、90、95、99〜100%を構成する。
同様に、「実質的に純粋な」とは、天然で付随する成分から分離されているオリゴ糖を意味する。典型的に、オリゴ糖は、天然で付随するタンパク質および天然有機分子を含まず、少なくとも60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、95重量%、さらには99重量%である場合に実質的に純粋である。
「単離された核酸」とは、本発明のDNAが得られた生物の天然ゲノムにおいて、その遺伝子に隣接する遺伝子を含まない核酸を意味する。この用語は、例えば、(a)天然ゲノムDNA分子の一部であるが、その分子が天然で生じる生物ゲノム内で、その分子部分に隣接する核酸配列を両方とも隣接していないDNA;(b)結果として生じる分子がどの天然ベクターともゲノムDNAとも同一にならないように、ベクターの中に組み込まれたか、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAの中に組み込まれた核酸;(c)別の分子、例えば、cDNA、ゲノムフラグメント、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生じたフラグメント、または制限フラグメント;および(d)ハイブリッド遺伝子、すなわち、融合タンパク質をコードする遺伝子の一部である組換えヌクレオチド配列を含む。本発明による単離された核酸分子は、合成により生成された分子、ならびに化学的に変えられた、および/または改変されたバックボーンを有する任意の核酸をさらに含む。
「異種プロモーター」とは、遺伝子または核酸配列と、もともと機能的に連結しているプロモーターとは異なるプロモーターである。
「過剰発現する」または「過剰発現」という用語は、同一条件下での野生型細胞よりも多量の因子が、遺伝子改変された細胞によって発現される状態を表す。同様に、未改変の細胞が、生産するように遺伝子改変される因子を発現しない場合は、「発現する」という用語(「過剰発現する」と区別する)が用いられ、野生型細胞が遺伝子操作以前にその因子を全く発現しなかったことを示す。
本明細書で使用する「不活性化された」遺伝子もしくは遺伝子「の不活性化」、「不活性化された」コードされる遺伝子産物(すなわち、ポリペプチド)もしくはコードされる遺伝子産物(すなわち、ポリペプチド)「の不活性化」、または「不活性化された」経路もしくは「不活性化された」経路とは、遺伝子、遺伝子産物、または経路の発現(すなわち、転写もしくは翻訳)、タンパク質レベル(すなわち、翻訳、分解速度)、または酵素活性を低下させること、または無くすことを表す。経路が不活性化される場合、好ましくは、その経路の1種類の酵素またはポリペプチドが、低下した、または無視できる程度の活性を示す。例えば、野生型細菌またはインタクトな経路と比較して経路の生成物が低レベルで生産されるように、経路の酵素が改変、欠失、または変異される。あるいは、経路の生成物は生産されない。遺伝子の不活性化は、遺伝子が転写または翻訳されないように、遺伝子または遺伝子の調節エレメントを欠失または変異させることによって達成される。ポリペプチドの不活性化は、遺伝子産物をコードする遺伝子を欠失または変異させることによって達成されてもよく、その活性を破壊するポリペプチドを変異させることによって達成されてもよい。不活性化変異には、遺伝子またはポリペプチドの発現または活性を低下させるか、または無くす核酸配列またはアミノ酸配列の1つまたは複数のヌクレオチドまたはアミノ酸の付加、欠失、または置換が含まれる。他の態様において、ポリペプチドの不活性化は、ポリペプチドの活性が低下するか、または無くなるように、ポリペプチドのN末端またはC末端に外因性配列(すなわち、タグ)を付加することを通じて(すなわち、立体障害によって)達成される。
本明細書で使用する「処置する」および「処置」という用語は、症状の重症度および/もしくは頻度を低下させる、症状および/もしくはその根底にある原因を無くす、ならびに/または損傷の改善もしくは治療を促進するために、有害な状態、障害、または疾患を患っている臨床症候を示す個体に薬剤または製剤を投与することを表す。「予防する」および「予防」という用語は、特定の有害な状態、障害、または疾患にかかりやすい、臨床症候を示していない個体への薬剤または組成物の投与を表し、従って、症状および/またはそれらの根底にある原因の発生の予防に関する。
製剤または製剤成分の「有効量」および「治療的有効量」という用語は、非毒性であるが、望ましい効果を提供するのに十分な量の製剤または成分を意味する。
移行用語「を含む(comprising)」は、「を含む(including)」、「を含有する」、または「によって特徴付けられる」と同義であり、包括的(inclusive)またはオープンエンドであり、さらなる引用されなかった要素も方法工程も排除しない。対照的に、移行句「からなる」は、特許請求の範囲において特定されていない、あらゆる要素、工程、成分を排除する。移行句「から本質的になる」は、クレームの範囲を特定された材料または工程、およびクレームに記載された発明の「基本的なかつ新規の特徴に物質的に影響を及ぼさない材料または工程」に限定する。
[本発明1001]
少なくとも1種類のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素を発現する細菌を含む、フコシル化オリゴ糖の生産において使用するための組成物であって、該少なくとも1種類の酵素のアミノ酸配列が、完全長CafC(SEQ ID NO:2)に対して少なくとも25%の同一性から100%までの同一性を含む、組成物。
[本発明1002]
細菌が2種類以上のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素をさらに発現し、該酵素のうちの1つのアミノ酸配列が、完全長CafC(SEQ ID NO:2)に対して少なくとも25%の同一性から100%までの同一性を含み、該酵素のうちのさらなる酵素のアミノ酸配列が、完全長SEQ ID NO:2(CafC)、17(CafV)、9(CafN)、7(CafL)、10(CafO)、12(CafQ)、16(CafU)、または53(CafD)に対して少なくとも25%の同一性から100%までの同一性を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1003]
2種類以上のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素がP L プロモーターの制御下にある、本発明1002の組成物。
[本発明1004]
細菌が発現ベクターpG420を有する、本発明1003の組成物。
[本発明1005]
本発明1001または1002の細菌においてフコシル化オリゴ糖を生産するための方法であって、カザミノ酸または酵母抽出物を含む窒素に富む栄養添加物の存在下で細菌を発酵させる、方法。
[本発明1006]
本発明1001または1002の細菌においてフコシル化オリゴ糖を生産するための方法であって、肉、カゼイン、乳清、ゼラチン、ダイズ、酵母、または穀粒抽出物を含むタンパク質加水分解物を含む窒素に富む栄養添加物の存在下で細菌を発酵させる、方法。
[本発明1007]
細菌においてフコシル化オリゴ糖を生産するための方法であって、宿主細菌においてα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素を発現させる工程を含み、該酵素のアミノ酸配列が、完全長CafC(SEQ ID NO:2)に対して少なくとも25%の同一性から100%までの同一性を含む、方法。
[本発明1008]
前記酵素のアミノ酸配列が、完全長CafC(SEQ ID NO:2)に対して少なくとも60%の配列同一性を含む、本発明1007の方法。
[本発明1009]
前記アミノ酸配列が、完全長CafC(SEQ ID NO:2)に対して少なくとも90%の同一性を含む、本発明1007の方法。
[本発明1010]
前記アミノ酸配列が、CafC活性部位領域2(SEQ ID NO:2の残基116〜202)に対して少なくとも50%の同一性を含む、本発明1007の方法。
[本発明1011]
前記アミノ酸配列が、CafC活性部位領域2(SEQ ID NO:2の残基116〜202)に対して少なくとも80%の同一性を含む、本発明1007の方法。
[本発明1012]
α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素が、CafC、CafV、CafN、CafL、CafO、CafQ、CafU、およびCafD、またはその機能的変種もしくはフラグメントを含む、本発明1007〜1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素が、SEQ ID NO:2(CafC)、SEQ ID NO:9(CafN)、もしくはSEQ ID NO:17(CafV)、またはその機能的フラグメントのアミノ酸配列を含む、本発明1007〜1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素がSEQ ID NO:2(CafC)のアミノ酸配列を含む、本発明1013の方法。
[本発明1015]
α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素が、SEQ ID NO:2(CafC)、17(CafV)、9(CafN)、7(CafL)、10(CafO)、12(CafQ)、16(CafU)、もしくは53(CafD)、またはその機能的フラグメントを含む、本発明1007〜1013のいずれかの方法。
[本発明1016]
α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素を発現させる工程が、α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素をコードする単離された核酸を含む核酸コンストラクトを細菌に供給する工程を含む、本発明1007〜1015のいずれかの方法。
[本発明1017]
前記核酸が、前記細菌において前記酵素の生産を誘導する1種類または複数種の異種制御配列に機能的に連結されている、本発明1016の方法。
[本発明1018]
異種制御配列が、細菌プロモーターおよびオペレーター、細菌リボソーム結合部位、細菌転写ターミネーター、またはプラスミド選択マーカーを含む、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記細菌または前記細菌の培養上清からフコシル化オリゴ糖を回収する工程をさらに含む、本発明1007〜1018のいずれかの方法。
[本発明1020]
フコシル化オリゴ糖が、3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、またはラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)を含む、本発明1007〜1019のいずれかの方法。
[本発明1021]
フコシル化オリゴ糖が3-フコシルラクトースを含み、α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素がCafC、CafV、CafN、CafL、CafO、CafQ、CafU、またはCafDを含む、本発明1007の方法。
[本発明1022]
α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素が、SEQ ID NO:2、17、9、7、10、12、16、または53を含むアミノ酸配列を含む、本発明1021の方法。
[本発明1023]
細菌においてラクトジフコテトラオース(LDFT)を生産するための方法であって、宿主細菌においてα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素を発現させる工程を含み、該酵素のアミノ酸配列が、CafC、CafV、CafN、CafL、CafO、CafQ、またはCafUのアミノ酸配列を含む、方法。
[本発明1024]
細菌がα(1,2)フコシルトランスフェラーゼ酵素をさらに発現する、本発明1023の方法。
[本発明1025]
α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素を発現させる工程が、α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素をコードする単離された核酸を含む核酸コンストラクトを細菌に供給する工程をさらに含む、本発明1023の方法。
[本発明1026]
核酸コンストラクトが、α(1,2)フコシルトランスフェラーゼ酵素をコードする単離された核酸をさらに含む、本発明1025の方法。
[本発明1027]
α(1,2)フコシルトランスフェラーゼ酵素がwbgL、futC、futN、またはfutLを含む、本発明1024または1026の方法。
[本発明1028]
細菌においてラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)を生産するための方法であって、宿主細菌においてα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素を発現させる工程を含み、該酵素のアミノ酸配列がCafDのアミノ酸配列を含む、方法。
[本発明1029]
細菌がβ(1,3)N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ酵素およびβ(1,4)ガラクトシルトランスフェラーゼ酵素をさらに発現する、本発明1028の方法。
[本発明1030]
β(1,3)N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼがN.メニンギティディス(N.meningitidis)lgtAである、本発明1029の方法。
[本発明1031]
β(1,4)ガラクトシルトランスフェラーゼがH.ピロリ(H.pylori)JHP0765である、本発明1029の方法。
[本発明1032]
α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素を発現させる工程が、α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素をコードする単離された核酸を含む核酸コンストラクトを細菌に供給する工程をさらに含む、本発明1029の方法。
[本発明1033]
核酸コンストラクトが、β(1,3)N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ酵素およびβ(1,4)ガラクトシルトランスフェラーゼ酵素をコードする単離された核酸をさらに含む、本発明1032の方法。
[本発明1034]
細菌が、低下したレベルのβ-ガラクトシダーゼ活性、欠損のある結腸(colonic)酸合成経路、ATP依存性細胞内プロテアーゼの変異、thyA遺伝子の変異、またはその組み合わせをさらに含む、本発明1007〜1033のいずれかの方法。
[本発明1035]
トリプトファンの存在下およびチミジンの非存在下で前記細菌を培養する工程をさらに含む、本発明1034の方法。
[本発明1036]
前記細菌の内因性lacZ遺伝子および内因性lacI遺伝子が欠失させられている、本発明1034の方法。
[本発明1037]
前記細菌が、lacY遺伝子のすぐ上流にlacIq遺伝子プロモーターを含む、本発明1036の方法。
[本発明1038]
前記細菌の内因性wcaJ遺伝子が欠失させられている、本発明1034の方法。
[本発明1039]
ATP依存性細胞内プロテアーゼの変異がlon遺伝子のヌル変異である、本発明1034の方法。
[本発明1040]
前記細菌が外因性ラクトースの存在下で細胞内ラクトースを蓄積する、本発明1034の方法。
[本発明1041]
前記細菌が細胞内GDP-フコースを蓄積する、本発明1034の方法。
[本発明1042]
前記細菌が大腸菌(E.coli)である、本発明1007〜1041のいずれかの方法。
[本発明1043]
本発明1007〜1022および1034〜1042のいずれかによって生産された、精製された3-フコシルラクトース。
[本発明1044]
本発明1023〜1027および1034〜1042のいずれかによって生産された、精製されたラクトジフコテトラオース。
[本発明1045]
本発明1029〜1042のいずれかによって生産された、精製されたラクト-N-フコペンタオース(LNF III)。
[本発明1046]
宿主細菌生産株においてラクトース利用性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素を生産するための、ラクトース利用性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素をコードする単離された核酸を含む核酸コンストラクトであって、該核酸によってコードされる該酵素のアミノ酸配列がSEQ ID NO:54(FutA)に対して少なくとも6%の同一性を含む、核酸コンストラクト。
[本発明1047]
前記アミノ酸配列が、CafC(SEQ ID NO:2)またはCafF(SEQ ID NO:1)の核酸配列に対して少なくとも19%の同一性を含む、本発明1046のコンストラクト。
[本発明1048]
前記アミノ酸配列が、CafC、CafV、CafN、CafL、CafO、CafQ、CafU、およびCafD、またはその機能的変種もしくはフラグメントの核酸配列を含む、本発明1046のコンストラクト。
[本発明1049]
前記核酸が、前記生産株において前記酵素の生産を誘導する1種類または複数種の異種制御配列に機能的に連結されている、本発明1046のコンストラクト。
[本発明1050]
異種制御配列が、細菌プロモーターおよびオペレーター、細菌リボソーム結合部位、細菌転写ターミネーター、またはプラスミド選択マーカーを含む、本発明1049のコンストラクト。
[本発明1051]
α(1,2)フコシルトランスフェラーゼ酵素をコードする単離された核酸をさらに含む、本発明1046のコンストラクト。
[本発明1052]
α(1,2)フコシルトランスフェラーゼ酵素がwbgL、futC、futN、またはfutLを含む、本発明1046のコンストラクト。
[本発明1053]
β(1,3)N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ酵素およびβ(1,4)ガラクトシルトランスフェラーゼ酵素をさらに含む、本発明1046のコンストラクト。
[本発明1054]
β(1,3)N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼがN.メニンギティディスlgtAである、本発明1053のコンストラクト。
[本発明1055]
β(1,4)ガラクトシルトランスフェラーゼがH.ピロリJHP0765である、本発明1053のコンストラクト。
[本発明1056]
前記生産株が大腸菌を含む、本発明1046のコンストラクト。
[本発明1057]
ラクトース受容性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素をコードする単離された核酸を含み、該核酸によってコードされる該酵素のアミノ酸配列が完全長CafC(SEQ ID NO:2)に対して少なくとも25%の同一性から100%までの同一性を含む、単離された細菌。
[本発明1058]
α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素が、CafC、CafV、CafN、CafL、CafO、CafQ、CafU、およびCafD、またはその機能的変種もしくはフラグメントを含む、本発明1057の単離された細菌。
[本発明1059]
α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素が、SEQ ID NO:2、17、9、7、10、12、16、もしくは53、またはSEQ ID NO:2、17、9、7、10、12、16、もしくは53の機能的フラグメントのアミノ酸配列を含む、本発明1057の単離された細菌。
[本発明1060]
大腸菌である、本発明1057または1059の単離された細菌。
[本発明1061]
低下したレベルのβ-ガラクトシダーゼ活性、欠損のある結腸酸合成経路、アデノシン-5'-三リン酸(ATP)依存性細胞内プロテアーゼの変異、lacA遺伝子の変異、thyA遺伝子の変異、またはその任意の組み合わせをさらに含む、本発明1057の単離された細菌。
[本発明1062]
前記細菌の内因性lacZ遺伝子および内因性lacI遺伝子が欠失させられているか、または機能的に不活性化されている、本発明1057の単離された細菌。
[本発明1063]
lacY遺伝子の上流にlacIq遺伝子プロモーターを含む、本発明1062の単離された細菌。
[本発明1064]
前記細菌の内因性wcaJ遺伝子が欠失させられているか、または機能的に不活性化されている、本発明1057の単離された細菌。
[本発明1065]
ATP依存性細胞内プロテアーゼの変異がlon遺伝子の変異である、本発明1057の単離された細菌。
[本発明1066]
外因性ラクトースの存在下で細胞内ラクトースを蓄積する、本発明1057の単離された細菌。
[本発明1067]
細胞内グアノシン二リン酸(GDP)-フコースを蓄積する、本発明1057の単離された細菌。
[本発明1068]
遺伝子型ΔampC::P trp B cI, Δ(lacI-lacZ)::FRT, P lacIq lacY + , ΔwcaJ::FRT, thyA::Tn10, Δlon:(npt3,lacZ + )を含む、本発明1057の単離された細菌。
[本発明1069]
酵素または酵素をコードする核酸コンストラクトを含む、フコシル化オリゴ糖の生産において使用するための組成物であって、該酵素のアミノ酸配列が完全長CafC(SEQ ID NO:2)に対して少なくとも25%の同一性から100%までの同一性を含む、組成物。
[本発明1070]
2種類以上のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素または該酵素をコードする核酸コンストラクトをさらに含み、該酵素のうちの1つのアミノ酸配列が、完全長CafC(SEQ ID NO:2)に対して少なくとも25%の同一性から100%までの同一性を含み、該酵素のうちのさらなる酵素のアミノ酸配列が、完全長SEQ ID NO:2(CafC)、17(CafV)、9(CafN)、7(CafL)、10(CafO)、12(CafQ)、16(CafU)、または53(CafD)に対して少なくとも25%の同一性から100%までの同一性を含む、本発明1069の組成物。
本発明の他の特徴および利点は、本発明の好ましい態様の以下の説明および特許請求の範囲から明らかである。特に定義のない限り、本明細書において用いられる技術用語および科学用語は全て、本発明が属する当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様のまたは等価な方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、適当な方法および材料を以下で説明する。
本明細書で引用された公開された外国の特許および特許出願は全て参照により本明細書に組み入れられる。本明細書で引用されたアクセッション番号により示されるGenbankおよびNCBI提出は参照により本明細書に組み入れられる。本明細書で引用された他の公開された参考文献、文書、原稿、および科学文献は全て参照により本明細書に組み入れられる。矛盾する場合は、定義を含めて本明細書が優先される。加えて、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定を意図したものではない。
詳細な説明
いくつかの研究から、ヒト乳グリカンが抗菌性抗付着剤として使用できる可能性があることが示唆されているが、ヒトが摂取するのに適した品質の、これらの薬剤を十分な量で生産することは困難であり、かつ費用がかかるために、本格的な規模の試験と、認識されている有用性は制限されていた。必要とされていることは、妥当な費用で十分量の適当なグリカンを生産する適切な方法である。本明細書に記載される本発明より以前に、グリカンを合成するために、いくつかの異なる合成アプローチを使用する試みがなされた。いくつかの化学的アプローチによってオリゴ糖を合成することができるが(Flowers, H. M. Methods Enzymol 50, 93-121 (1978); Seeberger, P. H. Chem Commun (Camb) 1115-1121 (2003))、これらの方法のための反応物は高価であり、潜在的に毒性がある(Koeller, K. M. & Wong, C. H. Chem Rev 100, 4465-4494 (2000))。
操作された生物から発現させた酵素(Albermann, C., Piepersberg, W. & Wehmeier, U. F. Carbohydr Res 334, 97-103 (2001); Bettler, E., Samain, E., Chazalet, V., Bosso, C., et al. Glycoconj J 16, 205-212 (1999); Johnson, K. F. Glycoconj J 16, 141-146 (1999); Palcic, M. M. Curr Opin Biotechnol 10, 616-624 (1999); Wymer, N. & Toone, E. J. Curr Opin Chem Biol 4, 110-119 (2000)) は正確かつ効率的な合成を提供するが(Palcic, M. M. Curr Opin Biotechnol 10, 616-624 (1999)); Crout, D. H. & Vic, G. Curr Opin Chem Biol 2, 98-111 (1998))、反応物、特に、糖ヌクレオチドの費用がかかるために、低コスト大規模生産における、これらの有用性は制限されている。細菌の固有のヌクレオチド糖プールからオリゴ糖を合成するのに必要なグリコシルトランスフェラーゼを発現するように微生物が遺伝子操作されている(Endo, T., Koizumi, S., Tabata, K., Kakita, S. & Ozaki, A. Carbohydr Res 330, 439-443 (2001); Endo, T., Koizumi, S., Tabata, K. & Ozaki, A. Appl Microbiol Biotechnol 53, 257-261 (2000); Endo, T. & Koizumi, S. Curr Opin Struct Biol 10, 536-541 (2000); Endo, T., Koizumi, S., Tabata, K., Kakita, S. & Ozaki, A. Carbohydr Res 316, 179-183 (1999); Koizumi, S., Endo, T., Tabata, K. & Ozaki, A. Nat Biotechnol 16, 847-850 (1998))。
HMOSを効率的に大規模合成するための戦略の1つは細菌代謝工学である。このアプローチは、前駆体糖を細菌サイトゾルに運び入れるための膜輸送体である異種グリコシルトランスフェラーゼを過剰発現し、生合成前駆体として使用するための再生ヌクレオチド糖の増強されたプールを有する微生物株を構築することを伴う(Dumon, C., Samain, E., and Priem, B. (2004). Biotechnol Prog 20, 412-19; Ruffing, A., and Chen, R.R. (2006). Microb Cell Fact 5, 25)。このアプローチの重要な局面は、微生物宿主における過剰発現ために選択された異種グリコシルトランスフェラーゼである。酵素が、反応速度、基質特異性、ドナー分子およびアクセプター分子に対する親和性、安定性、ならびに可溶性の点で大きく異なる場合があることを考えると、グリコシルトランスフェラーゼの選択が、望ましい合成されるオリゴ糖の最終収率に大きな影響を及ぼす可能性がある。様々な細菌種に由来する、いくつかのグリコシルトランスフェラーゼが同定されており、大腸菌宿主株においてHMOSの生合成を触媒する能力の点で特徴付けられている(Dumon, C., et al. (2006). Chembiochem 7, 359-365; Dumon, C., Samain, E., and Priem, B. (2004). Biotechnol Prog 20, 412-19; Li, M., Liu, X.W., Shao, J., Shen, J., Jia, Q., Yi, W., Song, J.K., Woodward, R., Chow, C.S., and Wang, P.G. (2008). Biochemistry 47, 378-387)。反応速度が速いか、ヌクレオチド糖ドナー分子および/もしくはアクセプター分子に対する親和性が大きいか、または細菌宿主内での安定性が高い、さらなるグリコシルトランスフェラーゼが同定されると、治療に有用なHMOSの収率が大幅に改善される。本明細書に記載される本発明より以前にHMOSの化学合成は可能であったが、立体特異性の問題、前駆体の入手性、製品の不純物、およびかさむ総費用によって制限されていた(Flowers, H. M. Methods Enzymol 50, 93-121 (1978); Seeberger, P. H. Chem Commun (Camb) 1115-1121 (2003); Koeller, K. M. & Wong, C. H. Chem Rev 100, 4465-4494 (2000))。本発明は、栄養補助食品として使用するための多量のヒト乳オリゴ糖(HMOS)を安価に製造する新しい戦略を提供することによって、これらの以前の試みの欠点を克服する。
本明細書に記載される本発明より以前は、代謝が操作された細菌宿主におけるHMOS合成に有用な、さらなるグリコシルトランスフェラーゼを同定し、特徴付ける必要性が高まっていた。
本発明によって提供される有利な点は、前記酵素が効率的に発現されること、フコシル化オリゴ糖産物(3-FL、LDFT、およびLNF III)の安定性および/または可溶性が改善されること、ならびに宿主生物に対する毒性が弱いことが含まれる。本発明は、この分野において現在利用されているα(1,3)FTと比較して高いフコシル化HMOSの効力および収率を得るための、生産株における発現に適した新規のα(1,3)FTを特徴とする。
ヒト乳グリカン
ヒト乳は多種で豊富な中性および酸性オリゴ糖群を含んでいる(Kunz, C., Rudloff, S., Baier, W., Klein, N., and Strobel, S. (2000). Annu Rev Nutr 20, 699-722; Bode, L. (2006). J Nutr 136, 2127-130)。130を超える異なる複合オリゴ糖がヒト乳中に同定されており、それらの構造の多様さおよび豊富さはヒトに特有である。これらの分子は栄養分としては乳児によって利用されない可能性があるが、とはいうものの、健康な腸ミクロビオームの確立(Marcobal, A., Barboza, M., Froehlich, J. W., Block, D. E., et al. J Agric Food Chem 58, 5334-5340 (2010))、疾患の予防(Newburg, D. S., Ruiz-Palacios, G. M. & Morrow, A. L. Annu Rev Nutr 25, 37-58 (2005))、および免疫機能(Newburg, D. S. & Walker, W. A. Pediatr Res 61, 2-8 (2007))において重要な役割を果たしている。病原体はヒト乳オリゴ糖(HMOS)に数百万年間、曝露されてきたにもかかわらず、標的細胞への付着を阻止し、感染を阻害するHMOSの能力を回避する手段をまだ開発できないでいる。病原体付着阻害剤としてHMOSを利用できることで、現在の急増する抗生物質耐性危機に取り組む希望が持てる。生合成により生産されたヒト乳オリゴ糖は、最も対処困難な社会悪のいくつかに対する新規クラスの治療剤のリード化合物となる。
感染症におけるヒト乳グリカンの役割
ヒト乳グリカンは非結合オリゴ糖とその複合糖質を両方とも含み、乳児の胃腸(GI)管の保護および発達において重要な役割を果たしている。α(1,3)フコシル化オリゴ糖を含む中性フコシル化オリゴ糖は、いくつかの重要な病原体から乳児を守る。様々な哺乳動物において見出される乳オリゴ糖は多種多様であり、ヒトにおける組成は独特である(Hamosh M., 2001 Pediatr Clin North Am, 48:69-86; Newburg D.S., 2001 Adv Exp Med Biol, 501:3-10)。さらに、ヒト乳中のグリカンレベルは授乳中ずっと変化し、その上、個体間で大きなばらつきがある(Morrow A.L. et al., 2004 J Pediatr, 145:297-303; Chaturvedi P et al., 2001 Glycobiology, 11:365-372)。約200種類の異なるヒト乳オリゴ糖が同定されており、単純なエピトープの組み合わせが、この多様性を担っている(Newburg D.S., 1999 Curr Med Chem, 6:117-127; Ninonuevo M. et al., 2006 J Agric Food Chem, 54:7471-7480l)。
ヒト乳オリゴ糖は、5種類の単糖:D-グルコース(Glc)、D-ガラクトース(Gal)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、L-フコース(Fuc)、およびシアル酸(N-アセチルノイラミン酸、Neu5Ac、NANA)で構成される。ヒト乳オリゴ糖は、通常、その化学構造に従い2つのグループ:ラクトース(Galβ1-4Glc)コアに連結されたGlc、Gal、GlcNAc、およびFucを含む中性化合物、ならびに同じ糖、多くの場合、同じコア構造とNANAを含む酸性化合物に分類される(Charlwood J. et al., 1999 Anal Biochem, 273:261-277; Martin-Sosa et al., 2003 J Dairy Sci, 86:52-59; Parkkinen J. and Finne J., 1987 Methods Enzymol, 138:289-300; Shen Z. et al., 2001 J Chromatogr A, 921:315-321)。
ヒト乳の中にあるオリゴ糖の約70〜80%はフコシル化され、その合成経路は、図1に示したように進行すると考えられている。さらに少ない割合のオリゴ糖がシアル化(sialylate)されるか、またはフコシル化とシアル化が両方ともなされるが、その合成経路は完全に明らかにされていない。酸性(シアル化)オリゴ糖の理解は、部分的には、これらの化合物を測定する能力によって限定されている。中性オリゴ糖と酸性オリゴ糖を両方とも分析する高感度かつ再現性のある方法が設計されている。クラスとしてヒト乳オリゴ糖は乳児腸の通過を非常に効率的に切り抜けるので、本質的に非消化性である(Chaturvedi, P., Warren, C. D., Buescher, C. R., Pickering, L. K. & Newburg, D. S. Adv Exp Med Biol 501, 315-323 (2001))。
ヒト乳グリカンは腸管病原体と、その受容体との結合を阻害する
ヒト乳グリカンは腸管病原体の細胞受容体と構造的相同性を有し、受容体のデコイとして機能する。
例えば、3-フコシルラクトース(3FL)は、ヒト乳の中に存在する最も豊富なフコシル化オリゴ糖の1つであり、他のHMOSと一緒に、乳児腸内にある有益な共生細菌、例えば、ビフィドバクテリウム属の複数の種の増殖を促進するように機能すると考えられている(Marcobal, A., et al. (2010). Consumption of human milk oligosaccharides by gut-related microbes. J Agric Food Chem 58, 5334-340.; Asakuma, S., et al. (2011). Physiology of the consumption of human milk oligosaccharides by infant-gut associated bifidobacteria. J Biol Chem; Sela, D.A., et al. (2012). Bifidobacterium longum subsp. infantis ATCC 15697 α-fucosidases are active on fucosylated human milk oligosaccharides. Appl Environ Microbiol 78, 795-803.; Garrido, D., et al. (2012). A molecular basis for bifidobacterial enrichment in the infant gastrointestinal tract. Adv Nutr 3, 415S-421S.)。実際に、3FLは、唯一の糖供給源として供給された時に、いくつかの異なるビフィドバクテリウム属の複数の種がインビトロで増殖するのに利用できることが示されている(Yu, Z.T., et al. (2012). The Principal Fucosylated Oligosaccharides of Human Milk Exhibit Prebiotic Properties on Cultured Infant Microbiota. Glycobiology)。さらに、3FLはインビトロ乳児糞便微生物叢培養系の状況において消費されることが証明されており、これにより、3FLは、乳児腸の中にいる有益な共生微生物の基質であるという、さらなる証拠が得られた(Yu, Z.T., et al. (2012). The Principal Fucosylated Oligosaccharides of Human Milk Exhibit Prebiotic Properties on Cultured Infant Microbiota. Glycobiology)。さらに、いくつかの細菌病原体およびウイルス病原体は、感染を開始するプロセス中に細胞表面に結合するために3FLと構造類似性を有する宿主細胞分子を標的とする。いくつかの研究から、3FLは、競合機構を介して病原体と、その標的分子または宿主細胞との結合を阻止できることが分かっている。このことから、3FLは抗感染分子としても有用なことが示唆される(Huang et al, 2003; Coppa et al 2006; Chessa et al, 2008)。構造上、3FLは、ラクトースのグルコース部分にα1,3結合したフコース分子(Galβ1-4(Fucα1-3)Glc)からなる(図1)。この構造は、多くの異なる生物学的プロセスにおいて役割を果たす糖タンパク質および糖脂質の共通のエピトープであるルイスx(Lex)組織・血液型抗原(Galβ1,4(Fucα1,3)GlcNAcβ-R)の構造と極めて似ている(Rudloff, S., and Kunz, C. (2012). Milk oligosaccharides and metabolism in infants. Adv Nutr 3, 398S-405S.)。
LDFTはジフコシル化HMOSであり、構造Fucα1,2Galβ1,4(Fucα1,3)Glcを有する。LDFTは、ヒト乳中で見出される最も豊富なHMOSの1つである(Newburg et al., 2000; Warren et al., 2001)。LDFTは乳児腸の有益な共生細菌(すなわち、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacteria)の複数の種)がインビトロで増殖するための糖供給源として利用されることが示されており、従って、重要なプレバイオティクス、すなわち「ビフィズス菌(Bifidogenic)」因子として有用である(Asakuma, S., et al. (2011). Physiology of the consumption of human milk oligosaccharides by infant-gut associated bifidobacteria. J Biol Chem; Yu, Z.T., et al. (2012). The Principal Fucosylated Oligosaccharides of Human Milk Exhibit Prebiotic Properties on Cultured Infant Microbiota. Glycobiology; Blank, D., et al. (2012). Human milk oligosaccharides and Lewis blood group: individual high-throughput sample profiling to enhance conclusions from functional studies. Adv Nutr 3, 440S-49S.)。さらに、LDFTは組織・血液型抗原ルイス(Lewis)Y(Ley)と構造が極めて似ている。多くの細菌病原体およびウイルス病原体は、感染を開始するプロセス中に結合するために、例えば、腸の内層に結合するために、ルイスYエピトープと構造類似性をもつ宿主細胞表面にある分子を標的とする。経口投与されたLDFTは、宿主細胞受容体の構造模倣物の役割を果たす可能性があり、従って、競合機構を介して、病原体と腸上皮との結合を阻止する可能性がある(Ruiz-Palacios, G.M., et al. (2003). Campylobacter jejuni binds intestinal H(O) antigen (Fuc alpha 1, 2Gal beta 1, 4GlcNAc), and fucosyloligosaccharides of human milk inhibit its binding and infection. J Biol Chem 278, 14112-120.; Morrow, A.L., et al. (2004). Human milk oligosaccharide blood group epitopes and innate immune protection against campylobacter and calicivirus diarrhea in breastfed infants. Adv Exp Med Biol 554, 443-46.; Sharon, N. (2006). Carbohydrates as future anti-adhesion drugs for infectious diseases. Biochim Biophys Acta 1760, 527-537.; Bode, L., and Jantscher-Krenn, E. (2012). Structure-function relationships of human milk oligosaccharides. Adv Nutr 3, 383S-391S.)。
LNF IIIは構造Galβ1-4(Fucα1,3)GlcNacβ1-3Galβ1-4Glcを有し、Lex抗原構造を含有する。LNF IIIは、乳児腸の中にいる共生微生物が増殖するためのプレバイオティクス因子の役割を果たす可能性が高く、受容体模倣を介して微生物病原体と腸上皮との結合を阻止する可能性もある。
いくつかの病原体、例えば、インフルエンザ(Couceiro, J. N., Paulson, J. C. & Baum, L. G. Virus Res 29, 155-165 (1993))、パラインフルエンザ(Amonsen, M., Smith, D. F., Cummings, R. D. & Air, G. M. J Virol 81, 8341-8345 (2007)、およびロトウイルス(rotovirus)(Kuhlenschmidt, T. B., Hanafin, W. P., Gelberg, H. B. & Kuhlenschmidt, M. S. Adv Exp Med Biol 473, 309-317 (1999))は宿主受容体としてシアル化グリカンを利用する。シアリル-ルイスXエピトープは、ヘリコバクター・ピロリ(Mahdavi,J., Sonden,B., Hurtig,M., Olfat, F.O., et al. Science 297, 573-578 (2002))、緑膿菌 (Scharfman,A., Delmotte,P., Beau,J., Lamblin,G., et al. Glycoconj J 17, 735-740 (2000))、およびノロウイルスのいくつかの株(Rydell,G.E., Nilsson,J., Rodriguez-Diaz, J., Ruvoen-Clouet,N., et al. Glycobiology 19, 309-320 (2009))によって使用される。
新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼの同定
本発明は、新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素(α(1,3)FT)を提供する。本発明のα(1,3)FTには公知のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素よりも有利な点がある。このような有利な点には、収率が改善されたこと、特異性が改善されたこと、および宿主細胞に対する毒性が弱いことが含まれる。
全てのα(1,3)フコシルトランスフェラーゼがアクセプター基質としてラクトースを利用できるわけではない。アクセプター基質には、例えば、炭水化物、オリゴ糖、タンパク質もしくは糖タンパク質、脂質もしくは糖脂質、例えば、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルラクトサミン、ガラクトース、フコース、シアル酸、グルコース、ラクトース、またはその任意の組み合わせが含まれる。好ましいα(1,3)フコシルトランスフェラーゼはドナーとしてGDP-フコースを利用し、ラクトースは、そのドナーのアクセプターである。
アクセプターとしてラクトースを利用することができる新規のα(1,2)フコシルトランスフェラーゼ酵素を同定する方法は、以前に、(その全体が参照により本明細書に組み入れられるPCT/US2013/051777に記載のように)以下の工程:1)配列データベースのコンピュータ検索を行って、任意の公知のラクトース利用性α(1,2)フコシルトランスフェラーゼ(例えば、この場合、ヘリコバクター・ピロリ26695 FutC)の単純配列ホモログの大グループを定義する工程;2)工程1のホモログのリストを使用して、例えば、コンピュータプログラム、例えば、MEME(Multiple Em for Motif Elicitation. http://meme.sdsc.edu/meme/cgi-bin/meme.cgi(2014年8月5日にアクセスした))またはPSI-BLAST(Position-Specific Iterated BLAST)(Blast. http://ncbi.nlm.nih.gov/blast(2014年8月4日にアクセスした)を、openstax CNX. http://cnx.org/content/m11040/latest/(2014年8月5日にアクセスした)にある追加情報と共に用いることによって、この大グループのメンバーが共有する共通配列および/または構造モチーフを含む検索プロフィールを導き出す工程;3)(例えば、コンピュータプログラム、例えば、PSI-BLAST、またはMAST(Motif Alignment Search Tool. http://meme.sdsc.edu/meme/cgi-bin/mast.cgi(2014年8月5日にアクセスした)を用いて)配列データベースを検索する工程;この導き出された検索プロフィールをクエリーとして用いて、オリジナルのラクトース受容性α(1,2)フコシルトランスフェラーゼに対する単純配列相同性が50%以下である「候補配列」を同定する工程;4)化学文献を調査し、α(1,2)フコシル-グリカンを発現することが分かっている「候補生物」、または自然生息場所が、α(1,2)フコシル-グリカンが関与するプロセスおよび相互作用を含むことが分かっている「候補生物」のリストを作る工程;5)「候補生物」に由来する「候補配列」のみを選択して、「候補ラクトース利用性酵素」のリストを作成する工程;ならびに6)それぞれの「候補ラクトース利用性酵素」を発現させ、ラクトース利用性α(1,2)フコシルトランスフェラーゼ活性について試験する工程を用いて行われた。
上記の工程(3)におけるパーセント配列同一性閾値は50%以下、例えば、50%未満である。好ましくは、%配列同一性閾値は45%以下、より好ましくは42%以下である。好ましい%配列同一性閾値は6%〜42%である。クエリーα(1,2)フコシルトランスフェラーゼ(例えば、この場合、ヘリコバクター・ピロリ26695 FutC)にとって遠縁関係にある候補配列を選択し、近縁関係にある候補配列を排除するように閾値を設定した。
α(1,2)フコシルトランスフェラーゼの例には、ヘリコバクター・ピロリFutC(GenBankアクセッションAAD29869.1;ヘリコバクター・ムステラエ(mustelae)12198 FutL(GenBankアクセッションYP_003517185.1);バクテロイデス・ブルガタスATCC 8482 FutN(GenBankアクセッションYP_001300461.1);大腸菌 UMEA 3065-1 WbgL(GenBankアクセッションWP_021554465.1);大腸菌WbsJ(GenBankアクセッションAAO37698.1);プレボテラ・メラニノゲニカATCC 25845 FutO(GenBankアクセッションYP_003814512.1);クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)90A9 FutP(GenBankアクセッションWP_002570768.1);ラクノスピラ科細菌3_1_57FAA_CT1 FutQ(GenBankアクセッションWP_009251343.1);メタノスファエルラ・パルストリス(Methanosphaerula palustris)E1-9c FutR(GenBankアクセッションYP_002467213.1);タンネレラ属(Tannerella)種CAG:118 FutS(GenbBank WP_021929367.1);バクテロイデス・カカエ(Bacteroides caccae)ATCC 43185 FutU(GenBankアクセッションWP_005675707.1);ブチリビブリオ属(Butyrivibrio)種AE2015 FutV(GenBankアクセッションWP_022772718.1);プレボテラ属種CAG:891 FutW(GenBankアクセッションWP_022481266.1);パラバクテロイデス・ジョンソニイCL02T12C29 FutX(GenBankアクセッションWP_008155883.1);サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)亜種エンテリカ(enterica)血液型亜型プーナ(Poona)株ATCC BAA-1673 FutZ(GenBankアクセッションWP_023214330.1);およびバクテロイデス属種CAG:633(GenBankアクセッションWP_022161880.1)が含まれるが、これに限定されない。
任意で、配列分析ツールのMEMEスイート(MEME. http://meme.sdsc.edu/meme/cgi-bin/meme.cgi(2014年8月5日にアクセスした))がPSI-BLASTに代わるものとして用いられる。プログラム「MEME」を用いて配列モチーフが発見される。次いで、これらのモチーフは、プログラム「MAST」を用いて配列データベースを検索するのに使用することができる。BLASTおよびPSI-BLAST検索アルゴリズムは他の周知の代替物である。
代謝が操作された大腸菌において3FL合成を触媒するために、FutAと名付けられたH.ピロリ株26695に由来するα(1,3)FTが他の人たちによって利用されている(Dumon, C. et al. (2006). Production of Lewis x tetrasaccharides by metabolically engineered Escherichia coli. Chembiochem 7, 359-365.; Dumon, C. et al. (2004). Assessment of the two Helicobacter pylori alpha-1,3-fucosyltransferase ortholog genes for the large-scale synthesis of LewisX human milk oligosaccharides by metabolically engineered Escherichia coli. Biotechnol Prog 20, 412-19.)。しかしながら、この酵素を用いて得られた3FLの全収率は低い。その上、FutAの特異性は相手を選ばない。すなわち、この酵素は、糖アクセプターの還元末端にあるグルコースの3位置にα-フコース結合を形成するだけでなく、さらに、内部N-アセチル-グルコサミン(GlcNAc)部分の3位置にα-フコース結合も形成する。従って、FutAは、アクセプター糖としてラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)を用いてラクト-N-フコペンタオースIII(LNF-III、ルイスX)を生産するのに効果的に利用することができない。さらに、FutAはまた、低レベルで、ラクトースのガラクトース部分の2位置におけるα-フコース結合の相手を選ばない挿入も触媒する。この後者の活性は、時として、特定の生合成における望ましい産物の純度を損なうことがあるが、時として、副産物として有用なオリゴ糖の生産につながるので有利な場合もある。本明細書に記載される組成物および方法は、大きな3-フコシルラクトース収率を生じる、LNF-IIIの生産を可能にする、および/または増強もしくは低下したレベルのオリゴ糖副産物につながる特性を有する新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼを提供することによって、これらの問題を克服する。従って、本発明の新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼには、FutAを含む公知のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼよりも有利な点がある。
代替のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼの同定
新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼを同定するために2回の連続したデータベーススクリーンを行った。これらの2回の連続したスクリーンの概要を図3に示した。
最初に、さらなるラクトース受容性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼになる可能性がある単純なホモログを見つけるために、1種類の公知のラクトース受容性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ(すなわち、H.ピロリ株26695 FutA)の配列を用いて公的データベースを検索した。新規のα(1,3)FTを同定するために、FutAのアミノ酸配列を検索アルゴリズムPSI-BLAST(Position Specific Iterated Basic Local Alignment Search Tool)のクエリーとして使用した。PSI-BLASTプログラムは、ある特定のクエリータンパク質配列を用いて、データベースの相同性検索に基づいて、近縁関係にあるタンパク質配列のリストを作成する。次いで、これらのタンパク質ホモログヒットをプログラムが使用して、オリジナルのクエリーとの配列類似性を反映するプロフィールを作成する。次いで、このプロフィールをアルゴリズムが使用して、ホモログタンパク質の拡大したグループを同定する。それぞれの反復の後に得られる、さらなる新たな候補の数が減少するまで、このプロセスを数回繰り返す(Altschul et al., 1990, J. Mol. Bio. 215:403-410; Altschul et al., 1997, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402)。
FutAアミノ酸配列をクエリーとして使用して、PSI-BLAST検索アルゴリズムを3回繰り返した。このアプローチから、このうちの多くがFutAと高い類縁関係にある(50〜90%の範囲のアミノ酸同一性を有した)FutAと類似性がある500個の候補のグループと、遠縁関係にある(50%未満のアミノ酸同一性を有した)グループが得られた。注目すべきは、FutAは、代謝が操作された大腸菌生産株において用いられた時に最適以下の3FL収率を生じる。さらに、FutAの生産は、本明細書において使用するのに好ましい株を含む、ある特定の大腸菌生産株において中程度の毒性があるように見える。従って、さらなる分析のために、PSI-BLAST検索を介して同定された遠縁関係にある(50%未満のFutAに対するアミノ酸同一性を有した)グループからの候補を標的とした(表1)。この候補グループはFutAと似ているが、主として、それぞれのタンパク質の触媒ドメイン領域内にあった(Martin, S.L., et al. (1997). Lewis X biosynthesis in Helicobacter pylori. Molecular cloning of an alpha(1,3)-fucosyltransferase gene. J Biol Chem 272, 21349-356.; Breton, C., et al. (1998). Conserved structural features in eukaryotic and prokaryotic fucosyltransferases. Glycobiology 8, 87-94.; Rasko, .A. (2000). Cloning and Characterization of the alpha (1,3/4) Fucosyltransferase of Helicobacter pylori. Journal of Biological Chemistry 275, 4988-994.)。FutAと50%以下、好ましくは45%以下、より好ましくは42%以下の全配列同一性を有する本発明のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼは、同時に、触媒ドメイン(すなわち、図18にある濃い黒色の棒によってカバーされる領域)の内でFutAとさらに高いレベルの局所配列同一性を有することが好ましい。理論に拘束されるものではないが、この候補グループは、FutAと比べて類似した、良好な、または別個のフコシルトランスフェラーゼ活性を含む可能性があるが、アミノ酸レベルでは、生産株においてFutAを用いて観察される隠れた毒性を回避するのに十分に異なると考えられている。
これらの遠縁関係にある(FutAに対して50%未満の配列同一性)推定α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ(FT)をさらにスクリーニングして、フコースをリポ多糖(LPS)のO-抗原に、または細胞表面莢膜を構成する多糖サブユニットに組み入れる、細菌種に由来する推定α(1,3)FTを同定した。これらのタイプの生物に由来する推定α(1,3)FTは、表面炭水化物構造にフコースが存在すれば、基質としてフコースを利用する可能性が高い。共生生物または病原体いずれかの既知の腸細菌種に由来する推定α(1,3)FTも同定した。このような生物は、細胞表面に、フコースを含有し、高等生物に見出される様々な3-フコシル含有ルイス抗原構造を模倣する炭水化物構造を示すこともある(Coyne, M.J., et al. (2005). Human symbionts use a host-like pathway for surface fucosylation. Science 307, 1778-781.; Appelmelk, B.J., et al. (1998). Phase variation in Helicobacter pylori lipopolysaccharide. Infect Immun 66, 70-76.; Ma, B., et al. (2006). Fucosylation in prokaryotes and eukaryotes. Glycobiology 16, 158R-184R.)。さらに加えて、これらのタイプ生物に由来する候補α(1,3)FTは基質としてフコースを利用する可能性が高く、フコースと有用なアクセプターオリゴ糖との結合を触媒する可能性が高いとも考えられている。
アミノ酸レベルで6〜42%のFutAとの相同性をもつ11種類の推定α(1,3)FTがPSI-BLASTから同定された。これらの候補は全て、高等生物の胃腸系と相互作用することが分かっている細菌において見出された。さらに、これらの候補のうち3つが、フコースを細胞表面グリカンに組み入れることが分かっている細菌において見出された。説明を楽にするために、これらのタンパク質をコードする遺伝子を、候補α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ(candidate alpha (1,3) fucosyltransferase)にちなんでcafA〜Kと名付けた。標準的な分子生物学技法によってcaf遺伝子を発現プラスミドにクローニングした。
このプラスミドは、候補遺伝子の発現を誘導するためにバクテリオファージλの強力な左方向の(leftwards)プロモーター(PLと呼ぶ)を利用する(Sanger, F., 1982, J. Mol. Bio. 162:729-773)。このプロモーターは制御可能であり、例えば、trp-cIコンストラクトは大腸菌宿主のゲノム(のampC遺伝子座)に安定的に組み込まれ、増殖培地にトリプトファンを添加することによって制御が行われる。タンパク質発現の段階的誘導は温度感受性cIリプレッサーを用いて達成される。別の同様の制御戦略(温度非依存的発現系)も記載されている(Mieschendahl et al., 1986, Bio/Technology 4: 802-808)。このプラスミドは、フコシル結合型オリゴ糖合成に重要な前駆体であるGDP-フコースの合成を上方調節する大腸菌rcsA遺伝子も有する。さらに、このプラスミドは、(研究室での利便性のために)このプラスミドをアンピシリン選択により宿主株中で維持するためのβ-ラクタマーゼ(bla)遺伝子と、thyA-宿主における代替の選択手段である天然thyA(チミジル酸シンターゼ)遺伝子を有する。代替の選択マーカーには、プロリン栄養要求性を補完するproBA遺伝子(Stein et al., (1984), J Bacteriol 158:2, 696-700 (1984))またはアデニン栄養要求性を補完するpurA(S. A. Wolfe, J. M. Smith, J Biol Chem 263, 19147-53 (1988))が含まれる。プラスミド選択マーカーとして働くためには、これらの遺伝子はどれも、最初に、宿主細胞染色体において不活性化され、次いで、野生型遺伝子コピーがプラスミドに供給される。または、薬物耐性遺伝子、例えば、βラクタマーゼ(この遺伝子は前記の発現プラスミドに既に存在しており、それによってアンピシリン選択が可能になる)がプラスミドに用いられてもよい。アンピシリン選択は当技術分野で周知であり、標準的なマニュアル、例えば、Maniatis et al., (1982) Molecular cloning, a laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring, N.Y.に記載されている。
この発現コンストラクトで、フコシル化オリゴ糖の生産に有用な宿主株を形質転換した。アクセプター糖としてラクトースを用いて3FLの生産を誘導する能力を評価した。候補α(1,3)FT CafC(SEQ ID NO:2)、CafF(SEQ ID NO:1)、CafA(SEQ ID NO:4)、およびCafB(SEQ ID NO:5)はラクトース利用性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼであることが見出された(表1および図4を参照されたい)。
(表1)この研究において分析した候補α(1,3)フコシルトランスフェラーゼの概要
nt=試験せず
1α(1,2)フコシルトランスフェラーゼWbgL(アクセッション番号ADN43847.1)と比較した
2β(1,3)N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼLgtA(N.メニンギティディスMC58, アクセッション番号NP_274923.1)およびβ(1,4)ガラクトシルトランスフェラーゼHP0826(H.ピロリ26695, アクセッション番号NP_207619.1) と比較した
次いで、さらなる新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼを同定する2回目のデータベーススクリーンを行った。1回目のスクリーンからの2つの最も強い、以前に同定されたラクトース利用性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼタンパク質配列、すなわち、CafCおよびCafFを用いて多重配列アラインメントを作成した。これらの2つの配列の配列アラインメントおよび配列同一性パーセントを以下の表2に示した。
次いで、2回目の反復PSI-BLASTスクリーンを行った。この時、NCBI BLAST+バージョン2.2.29のローカルコピー上でランするNCBI PSI-BLASTプログラムと共に、FASTAでフォーマットしたCafCおよびCafF多重配列アラインメントをクエリーとして使用した。初回位置特異的スコアリング行列ファイル(.pssm)をPSI-BLASTによって作成した。次いで、このプログラムを用いて反復相同性検索操作のスコアを調整した。さらに大きな候補グループを作成するために、このプロセスを繰り返し、各操作の結果を用いて行列をさらに改良した。
このPSI-BLAST検索によって2586個の初回ヒットが得られた。CafFに対して25%より大きな配列同一性をもつヒットは996個あった。87個のヒットが、長さが250アミノ酸より長いヒットであった。胃腸管に天然に存在する細菌から生じたヒットを同定するために、ならびに真核生物および「ピロリ(pylori)」の配列ならびに全く同じものを除去するために、BLASTによる配列と公知のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ(すなわち、FutA、CafC、CafF、CafA、およびCafB)の既存の目録(inventory)との比較、ならびに手作業によるヒット配列のアノテーションを含めてヒットのさらなる分析を行った。このスクリーン(とその後のフィルタリング)によって同定された新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼのアノテートされたリストを表5に列挙した。表5は、候補酵素が見出された細菌種、GenBankアクセッション番号、GI識別番号、アミノ酸配列、およびCafFに対する%配列同一性を示す。
同定されたヒットのうち12種類の新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ:ブチリビブリオ・フィブリソルベンス(Butyrivibrio fibrisolvens)CafK、ブチリビブリオ属(Butyrivibri)種CafL、パラバクテロイデス・ゴルドステイニ(goldsteinii)CafM、タンネレラ属種CafN、ラクノスピラ科(Lachnospiracae)細菌CafO、メタノブレビバクター・ルミナンチウム(Methanobrevibacter ruminantium)CafP、バクテロイデス・サリエルシアエ(Bacteroides salyersiae)CafQ、ラクノスピラ科細菌CafR、パラバクテロイデス・ゴルドステイニCafS、クロストリジウム・ボルテアエCafT、ヘリコバクター・カニス(canis)CafU、およびヘリコバクター・カニスCafVを機能的能力について、さらに分析した。図6は、3-FLがFutA、CafC、CafFによって大量に生産されたことを示し、2回目のデータベーススクリーンに由来する新たな候補α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ酵素;CafL、CafN、CafO、CafQ、CafU、およびCafVによっても大量に生産されたことを示す。
この2回目のスクリーンにおいて同定された12種類の新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼと、1回目のスクリーンからの以前に同定されたラクトース利用性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼと、FutAとの配列同一性を以下の表2および表3に示した。
同定されたα(1,3)フコシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列(すなわち、表5にあるアミノ酸配列)に基づいて、合成遺伝子が、当技術分野において公知の標準的な方法を用いて当業者により設計および構築される。例えば、合成遺伝子はリボソーム結合部位を含み、宿主細菌生産株(すなわち、大腸菌)において発現させるためにコドン最適化され、共通6カッター(6-cutter)制限部位、または大腸菌宿主株におけるクローニングおよび発現を容易にするために除去される、宿主株に存在する内因性制限酵素により認識される部位(すなわち、EcoK制限部位)を有する。好ましい態様において、合成遺伝子は、以下の構成:EcoRI部位-T7g10 RBS-α(1,3)FT合成遺伝子-XhoI部位で構築される。
12種類の同定されたα(1,3)フコシルトランスフェラーゼの試料合成遺伝子の核酸配列を表6に示した。開始コドンおよび停止コドンに下線を引き、太字にした。
(表6)12種類の新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ合成遺伝子の核酸配列
本明細書に記載される任意の方法において、α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ遺伝子または遺伝子産物は、その変種または機能的フラグメントでもよい。本明細書に開示される任意の遺伝子または遺伝子産物の変種は、本明細書に記載される核酸配列またはアミノ酸配列と50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有してもよい。
本明細書に開示される変種はまた、本明細書で特定されている遺伝子または遺伝子産物と同じ生物学的機能を保持している本明細書に記載される遺伝子または遺伝子産物のホモログ、オルソログ、またはパラログを含む。これらの変種は、これらの方法において言及されている遺伝子と交換可能に使用することができる。このような変種は、生物学的機能にとって重要な保存されたドメイン、好ましくは機能的ドメイン、例えば、触媒ドメインにおいて、一定比率の相同性または同一性、例えば、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を示してもよい。
2つ以上の核酸配列またはポリペプチド配列の文脈において、「%同一性」という用語は、以下の配列比較アルゴリズムの1つを用いて、または目視検査によって測定された時に、最大に一致するように比較およびアラインメントされた場合に、同一の2つ以上の配列もしくは部分配列、または特定のパーセントの同一のアミノ酸残基もしくはヌクレオチドを有する2つ以上の配列もしくは部分配列を表す。例えば、%同一性は、比較されている配列のコード領域の全長、または特定のフラグメントもしくはその機能的ドメインの長さに対するものである。
配列比較の場合、典型的には、ある1つの配列が参照配列として働き、参照配列と試験配列が比較される。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列および参照配列がコンピュータに入力され、必要に応じて、部分配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。次いで、配列比較アルゴリズムは、指定されたプログラムパラメータに基づいて、参照配列に対する試験配列のパーセント配列同一性を計算する。
パーセント同一性は、検索アルゴリズム、例えば、BLASTおよびPSI-BLAST(Altschul et al., 1990, J Mol Biol 215:3, 403-410; Altschul et al., 1997, Nucleic Acids Res 25:17, 3389-402)を用いて決定される。PSI-BLAST検索の場合、以下の例示的なパラメータが用いられる:(1)期待閾値(Expect threshold)は10であった:(2)ギャップコスト(Gap cost)は、存在(Existence):11および拡張(Extension):1であった。
(3)使用した行列はBLOSUM62であった;(4)低複雑度領域のフィルターは「オン」であった。
ラクトース利用性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼヘリコバクター・ピロリFutA(FucT)の三次元構造は、H. Y. Sun, S. W. Lin, T. P. Ko, J. F. Pan, et al., J Biol Chem 282, 9973-82 (2007)に記載されている。ここで、この酵素の基質結合および触媒機構に不可欠なアミノ酸残基が議論される。特に、特定のアミノ酸残基E96、R196、E250、およびK251がある、FutA残基31〜42(基質結合)の間にある配列、85〜129(活性部位領域1)の間にある配列、および180〜266(活性部位領域2)の間にある配列は触媒作用に関与する。図18は、FutAと、本発明のコンピュータスクリーンにおいて発見された8種類のラクトース利用性「Caf」α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ(すなわち、CafF、CafC、CafV、CafN、CafL、CafO、CafQ、およびCafU)との配列アラインメントである。基質結合に関与することが分かっているFutA領域は8種類全ての配列においてよく保存されていることが容易に分かる。さらに、触媒部位に関与することが分かっている4つの残基はそれぞれ、8種類全ての酵素全体にわたって完全に保存されている。
本明細書に記載される任意の遺伝子または遺伝子産物の核酸配列またはアミノ酸配列に変異を導入して、コードされるタンパク質または酵素の機能的能力を変えることなく、コードされるタンパク質または酵素のアミノ酸配列を変えることによって、変化が導入される。例えば、「非必須」アミノ酸残基におけるアミノ酸置換につながるヌクレオチド置換は、本明細書にはっきりと開示される任意の配列の配列内で行うことができる。「非必須」アミノ酸残基は、生物学的活性を変えることなくポリペプチドの野生型配列から変えることができる、配列内の位置にある残基であるのに対して、「必須」アミノ酸残基は、生物学的活性に必要な位置にある残基である。例えば、タンパク質ファミリーのメンバー間で保存されているアミノ酸残基は変異に適する可能性が低い。しかしながら、他のアミノ酸残基(例えば、タンパク質ファミリーのメンバー間であまり保存されていないアミノ酸残基)は活性に必須でない可能性があり、従って、変化に適している可能性が高い。従って、本発明の別の局面は、本明細書に開示されるアミノ酸配列と比べて、活性(すなわち、フコシルトランスフェラーゼ活性)に必須でないアミノ酸残基の変化を含む本明細書に開示されるタンパク質または酵素をコードする核酸分子に関する。好ましくは、参照酵素の活性の少なくとも0.1%が保持される。一部の態様において、多量の3FLを生産する際に、低いα1,3フコシルトランスフェラーゼ活性の酵素が用いられる場合がある。例えば、CafCは大腸菌において非常によく発現され、多量の3FLを生産するのに必要な活性を上回る、かなり過剰なα1,3フコシルトランスフェラーゼ酵素活性を容易に生じる。従って、野生型CafC酵素と比べて比較的低いレベル(例えば、0.1、1、10%)の活性をもつCafC酵素変種でさえ、有用なレベルの産物3FLを生産する可能性がある。
本明細書に記載される任意の遺伝子と比較して機能的能力を本質的に保持しているタンパク質をコードする単離された核酸分子は、コードされるタンパク質に1つまたは複数のアミノ酸置換、付加、または欠失が導入されるように、1つまたは複数のヌクレオチド置換、付加、または欠失を対応するヌクレオチド配列に導入することによって作り出すことができる。
変異は、コードされるアミノ酸配列が変えられるような標準的な技術、例えば、部位特異的変異誘発およびPCRを介した変異誘発によって核酸配列に導入される。好ましくは、保存的アミノ酸置換が1つまたは複数の推定非必須アミノ酸残基において行われる。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基と置き換えられる置換である。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当技術分野で定義されている。ある特定のアミノ酸は、複数の分類可能な特徴をもつ側鎖を有する。これらのファミリーには、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、トリプトファン、システイン)、無極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、チロシン、トリプトファン)、β分枝側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。従って、ある特定のポリペプチドにある推定非必須アミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリーの別のアミノ酸残基と置き換えられる。または、別の態様において、変異は、ある特定のコード配列の全体または一部にわたってランダムに、例えば、飽和変異誘発によって導入することができ、結果として得られた変異体は、活性を保持する変異体を同定するために、ある特定のポリペプチド生物学的活性についてスクリーンすることができる。逆に、本発明はまた、内因性の生物学的活性を増強する、または増大させる変異をもつ変種も提供する。核酸配列の変異誘発後に、コードされるタンパク質を、当技術分野で公知の任意の組換え技術によって発現させることができ、そのタンパク質の活性を確かめることができる。本明細書に開示される変種のある特定の生物学的活性の増加、減少、または消滅は、当業者によって容易に、すなわち、オリゴ糖の修飾、合成、または分解を媒介する能力を(産物の検出を介して)測定することによって測定することができる。
本発明は、本明細書に記載される遺伝子または遺伝子産物の機能的フラグメント、例えば、図18および図19に示した酵素の触媒ドメイン部分を含む。これらの配列および本明細書において提供される他の全ての配列の場合、フラグメントは、全体より小さな全体の一部と定義される。さらに、フラグメントはサイズが、ポリヌクレオチド配列内またはポリペプチド配列内にある1個のヌクレオチドまたはアミノ酸から、ポリヌクレオチド配列全体またはポリペプチド配列全体よりも1個少ないヌクレオチドまたはアミノ酸に及ぶ。最後に、フラグメントは、上記で定義された極値の間の中間にある、完全ポリヌクレオチド配列または完全ポリペプチド配列の任意の一部と定義される。
例えば、本明細書に開示されるか、または本明細書に開示される任意の遺伝子によってコードされる任意のタンパク質または酵素のフラグメントは、10〜20アミノ酸、10〜30アミノ酸、10〜40アミノ酸、10〜50アミノ酸、10〜60アミノ酸、10〜70アミノ酸、10〜80アミノ酸、10〜90アミノ酸、10〜100アミノ酸、50〜100アミノ酸、75〜125アミノ酸、100〜150アミノ酸、150〜200アミノ酸、200〜250アミノ酸、250〜300アミノ酸、300〜350アミノ酸、350〜400アミノ酸、400〜450アミノ酸、または450〜500アミノ酸でもよい。本発明に包含されるフラグメントは、機能的フラグメントを保持しているフラグメントを含む。従って、フラグメントは、好ましくは、機能活性に必要とされるか、または重要なドメインを保持している。フラグメントは、本明細書中の配列情報を用いて決定または作製することができ、当技術分野において公知の標準的な方法を用いて機能活性について試験することができる。例えば、コードされるタンパク質を、当技術分野において公知の任意の組換え技術によって発現させることができ、タンパク質の活性を求めることができる。前記フラグメントの生物学的機能は、基質オリゴ糖を合成または修飾する能力を測定することによって、またはその反対に、オリゴ糖基質を異化する能力を測定することによって測定することができる。
本発明の文脈の中で、本明細書で使用する「機能的等価物」とは、野生型フコシルトランスフェラーゼと実質的に類似する活性を示すことができる、遺伝子または結果として生じるコードされる、そのタンパク質変種もしくはフラグメントを表す。具体的には、フコシルトランスフェラーゼ活性とは、α-(1,3)-結合を介してフコース糖をアクセプター基質に転移させる能力を表す。本明細書で使用する「実質的に類似する活性」とは、野生型フコシルトランスフェラーゼの5%以内、10%以内、20%以内、30%以内、40%以内、または50%以内の活性レベルを表す。
ラクトース利用性フコシルトランスフェラーゼ活性を試験するために、α(1,3)フコシル化オリゴ糖の生産は、候補酵素合成遺伝子を発現し、細胞質GDP-フコースプールとラクトースプールを両方とも含有する宿主生物において評価される。フコシル化オリゴ糖が生産されたことは、候補酵素をコードする配列がラクトース利用性α(1,3)フコシルトランスフェラーゼとして機能することを示している。
本発明はまた、宿主細菌において新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼを発現させるための新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼの核酸配列を有する核酸コンストラクト(すなわち、プラスミドまたはベクター)も提供する。
本発明はまた、さらに本明細書に記載されるように、適当な宿主生産細菌において新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼを発現させることによってフコシル化オリゴ糖を生産するための方法も提供する。
α(1,3)フコシル化ヒト乳オリゴ糖の生産のための大腸菌の操作
代謝が操作された大腸菌においてフコシル結合型オリゴ糖を合成するための新規のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ(α(1,3)FT)を検証するのに使用した遺伝子スクリーニングアプローチが本明細書に記載されている。特に関心があるのは、HMOS 3-フコシルラクトース(3-FL)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、またはラクト-N-フコペンタオースIII(LNF III)を合成することができるα(1,3)FTである。最も関心があるのは、3-FL合成を触媒するα(1,3)FTである。好ましくは、α(1,3)フコシル結合型オリゴ糖は、代謝が操作された大腸菌において発現される。
従って、特に、本発明は、HMO(ヒト乳オリゴ糖)3-フコシルラクトース(3FL)を合成することができるα(1,3)FTを提供する。上記で説明したように、3FLは、ヒト乳の中に存在する最も豊富なフコシル化オリゴ糖の1つであり、他のHMOSと一緒に、乳児腸内にある有益な共生細菌の増殖を促進するように機能すると考えられている。
生産宿主株
適当な生産宿主株は、フコシルトランスフェラーゼをコードする核酸配列が同定された供給源の細菌株と同一の細菌株ではないものである。
大腸菌K-12は、微生物生理学および遺伝学における幅広い研究の対象であり、様々な産業用途向けに商業的に利用されてきた、よく研究された細菌である。その親種である大腸菌の自然生息場所は哺乳動物の大腸である。大腸菌K-12は安全に用いられてきた歴史があり、その派生株は、ヒトに投与およびヒトが摂取するための化学物質および薬物の生産を含む多くの産業用途で用いられる。大腸菌K-12は、1922年に、回復期のジフテリア患者から最初に単離された。大腸菌K-12は毒性を有さず、一般的な研究用培地で容易に増殖し、微生物生理学および遺伝学の研究において広く使用されてきたので、微生物学的研究、教育、ならびに産業用および医薬用製品の生産において用いられる標準的な細菌株となっている。大腸菌K-12は、現在、実験環境で70年を超えて維持された結果として非常に弱い生物であるとみなされている。その結果、K-12株は、通常の条件下でヒトおよび他の動物の腸にコロニーを形成することができない。この周知の株に関するさらなる情報は、http://epa.gov/oppt/biotech/pubs/fra/fra004.htmで入手可能である。大腸菌K-12に加えて、他の細菌株が生産宿主株として用いられ、例えば、様々な細菌種、例えば、エルウイニア・ヘルビコラ(パントエア・アグロメランス)、シトロバクター・フロインディ、パントエア・シトレア、ペクトバクテリウム・カロトボルム、またはザントモナス・カンペストリスがオリゴ糖生合成法において用いられ得る。枯草菌、バチルス・リケニフォルミス、バチルス・コアグランス、バチルス・サーモフィラス、バチルス・ラテロスポールス、バチルス・メガテリウム、バチルス・ミコイデス、バチルス・プミルス、バチルス・レンタス、バチルス・セレウス、およびバチルス・サーキュランスを含む、バチルス属の細菌も用いられ得る。同様に、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ヘルベティクス、ラクトバチルス・デルブリュッキイ、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・ブルガリクス、ラクトバチルス・クリスパータス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・イエンセニイ、およびラクトコッカス・ラクティスを含むが、これに限定されない、ラクトバチルス属およびラクトコッカス属の細菌が本発明の方法を用いて改変され得る。ストレプトコッカス・サーモフィルスおよびプロピオニバクテリウム・フロイデンライシイもまた、本明細書に記載される発明に適した細菌種である。本発明の一部として、エンテロコッカス属(例えば、エンテロコッカス・フェシウムおよびエンテロコッカス・サーモフィルス)、ビフィドバクテリウム属(例えば、ビフィドバクテリウム・ロングム、ビフィドバクテリウム・インファンティス、およびビフィドバクテリウム・ビフィダム)、スポロラクトバチルス属の複数の種、ミクロモノスポラ属の複数の種、ミクロコッカス属の複数の種、ロドコッカス属の複数の種、ならびにシュードモナス属(例えば、シュードモナス・フルオレッセンスおよび緑膿菌)に由来する、本明細書に記載されるように改変された株も含まれる。
適当な宿主株は、遺伝子操作が可能なものである。例えば、適当な宿主株は発現コンストラクトを維持し、望ましい最終産物の前駆体を蓄積する。例えば、適当な宿主株はラクトースおよびGDP-フコースのプールを維持し、最終産物、例えば、3FLを蓄積する。このような株は、単塩と、一般的には単一の炭素源を含む合成最小培地においてよく増殖する。
3FLが生合成されるには、増強された細胞ラクトースプールおよびGDP-フコースプールが両方とも生成されることが必要である(図2)。従って、宿主株には、好ましくは、増強された細胞ラクトースプールおよび/またはGDP-フコースプールがあり、好ましくは、増強された細胞ラクトースプールとgdp-フコースプールが両方ともある。
本明細書において提供される実施例では、3FLの生産を触媒する候補の能力を試験するために親背景の宿主として野生型大腸菌K-12原栄養株W3110を選択した(Bachmann, 1972)。使用した特定のW3110派生株は、トリプトファン誘導性PtrpBcI+リプレッサーカセットを(ampC遺伝子座に)導入して、GI724として知られている大腸菌株を得ることによって以前に改変されたものであった(LaVallie et al., 2000)。GI724の他の特徴はlacIqおよびlacPL8プロモーターの変異を含む。大腸菌株GI724は低レベルの外因性トリプトファンによって誘導された後に、ファージλPLプロモーターから組換えタンパク質を経済的に生産する(LaVallie et al., 1993; Mieschendahl et al., 1986)。この株に対して、3FLの生合成を促進する、さらなる遺伝子変異(下記で説明する)を導入した。これは、GI724株において、λRed再結合 (recombineering)を用いた数回の染色体操作(Court et al., 2002)および一般的なP1ファージ形質導入を行うことによって達成された。
第1に、細胞内ラクトースを蓄積する大腸菌宿主株の能力を、内因性β-ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)およびラクトースオペロンリプレッサー遺伝子(lacI)を同時に欠失させることよって操作した。この欠失を構築する間に、lacIqプロモーターをラクトースパーミアーゼ遺伝子lacYのすぐ上流に配置した。このように改変された株は、培養培地から(LacYを介して)ラクトースを輸送する能力を維持しているが、ラクトース異化を担うlacZ(β-ガラクトシダーゼ)遺伝子の野生型コピーを欠失している。従って、この改変株を外因性ラクトースの存在下で培養した時に、細胞内ラクトースプールが作り出される。さらに、増強された細胞内ラクトースプールからアセチル-ラクトースが生産されないようにするためにlacA遺伝子を欠失させた。
第2に、細胞外莢膜多糖であるコラン酸を合成する宿主大腸菌株の能力を、UDP-グルコース脂質キャリアートランスフェラーゼをコードするwcaJ遺伝子を欠失させることによって無くした(Stevenson et al., 1996)。wcaJヌルの背景の下で、GDP-フコースは大腸菌の細胞質内に蓄積する(Dumon, C., et al. (2001). In vivo fucosylation of lacto-N-neotetraose and lacto-N-neohexaose by heterologous expression of Helicobacter pylori alpha-1,3 fucosyltransferase in engineered Escherichia coli. Glycoconj J 18, 465-474.)。
ΔwcaJ::FRT変異を有する大腸菌の染色体領域の配列を以下に示した(SEQ ID NO:55):
第3に、細胞質GDP-フコースプールの大きさを、lon遺伝子にヌル変異を導入することによって拡大した。Lonは、大腸菌におけるコラン酸生合成の正の転写調節因子であるRcsAの分解を担うことが分かっているATP依存性細胞内プロテアーゼである(Gottesman and Stout, 1991)。lonヌルの背景の下で、RcsAは安定化され、RcsAレベルが増大し、GDP-フコース合成を担う遺伝子が上方調節され、細胞内GDP-フコース濃度が増強される。本発明者らの生産株(E638)においてlon遺伝子はほぼ完全に欠失しており、挿入された機能的な、野生型であるがプロモーターが無い大腸菌lacZ+遺伝子と置き換えられた(Δlon::(kan,lacZ+))。λRed再結合を用いて、構築を行った。
大腸菌株におけるlon領域へのlacZ+挿入を取り囲むゲノムDNA配列を以下に示した(SEQ ID NO:56):
挿入されたlacZ+カセットはlonをノックアウトするだけでなく、lacZ-宿主をlacZ+の遺伝子型および表現型に切り替えて戻す。改変された株は、(依然として容易に検出可能であるが)最小限のレベルのβ-ガラクトシダーゼ活性(1〜2単位)を生産する。このようなβ-ガラクトシダーゼ活性は生産操作中のラクトース消費にごくわずかにしか影響を及ぼさないが、操作の終了時に残留ラクトースを除去する際に有用であり、かつP1形質導入によってlon変異を他のlacZ-大腸菌株に移すための容易にスコア付け可能な(scorable)表現型マーカーとして有用である。
第4に、thyA(チミジル酸シンターゼ)変異をP1形質導入によって、この株に導入した。外因性チミジンの非存在下で、thyA株はDNAを作ることができず、死滅する。この欠陥は、野生型thyA遺伝子をマルチコピープラスミドに乗せて供給することによってトランスで相補することができる(Belfort et al., 1983)。この相補性を、ここでは、プラスミド維持の手段として使用した。
遊離ラクトースの細胞質プール(従って、3-FLの最終収率)を増大させるのに有用なさらなる改変は、lacA変異の組み込みである。LacAは、高レベルのラクトースが大腸菌の細胞質内に蓄積している時にしか活性を示さないラクトースアセチルトランスフェラーゼである。(例えば、高い細胞内ラクトースプールによって引き起こされる)高い細胞内モル浸透圧濃度は細菌増殖を阻害することができ、大腸菌は、LacAを用いて過剰な細胞内ラクトースにアセチル基を「付け(tag)」、次いで、アセチル-ラクトースを細胞から能動的に排出することによって、ラクトースによって引き起こされる高い細胞内モル浸透圧濃度から自身を保護する機構を進化させてきた(Danchin,A. Bioessays 31, 769-773 (2009))。従って、3-FLまたは他のヒト乳オリゴ糖を生産するよう操作された大腸菌においてアセチル-ラクトースが生産されることは望ましくなく、総収率を減少させる。さらに、アセチル-ラクトースは、オリゴ糖精製スキームを複雑にする副産物である。lacA変異を組み込むことで、これらの問題が解決する。最適状態に及ばないフコシル化オリゴ糖生産は、コラン酸経路変異またはlonプロテアーゼ変異のいずれかまたは両方を欠く株において見られる。ラクトースから副産物(アセチル-ラクトース)への転換は、lacA変異を含まない株において見られる。lacA欠失の概略および対応するゲノム配列は上記に示した。
様々なα(1,3)FT候補を試験するために実施例において用いられる株は、上述した遺伝子組換えを全て組み入れ、以下の遺伝子型:
ΔampC::Ptrp BcI, Δ(lacI-lacZ)::FRT, PlacIqlacY+,ΔlacA, ΔwcaJ::FRT, thyA::Tn10, Δlon:(npt3,lacZ+)
を有する。
望ましいフコシル化オリゴ糖を生産するように前記のように操作された株は最小培地中で増殖される。バイオリアクター中で用いられる例示的な最小培地である最小「FERM」培地を以下で詳述する。
Ferm (10リットル):最小培地は以下を含む:
40g (NH4) 2HPO4
100g KH2PO4
10g MgSO4.7H2O
40g NaOH
1X微量元素:
1.3g NTA(ニトリロ三酢酸)
5g FeSO4.7H2O
0.09g MnCl2.4H2O
0.09g ZnSO4.7H2O
0.01g CoCl2.6H2O
0.01g CuCl2.2H2O
0.02g H3BO3
0.01g Na2MoO4.2H2O(pH6.8)
水、10リットルにする
DF204消泡剤(0.1ml/L)
150gグリセロール(初期回分増殖)、その後に、様々な時間にわたって様々な速度で90%グリセロール-1%MgSO4-1X微量元素を供給する流加培養法を行う。
本明細書に記載される特徴を含む細菌はラクトースの存在下で培養され、細菌そのもの、または細菌の培養上清からフコシル化オリゴ糖が回収される。フコシル化オリゴ糖は、治療用製品または栄養製品における使用のために精製されるか、または、このような製品の中に細菌が直接用いられる。
発酵後精製
代謝が操作された大腸菌細胞によって生産されたフコシル化オリゴ糖は発酵後に培養ブロスから精製される。例示的な手順は5つの工程を含む。(1)清澄化:発酵ブロスを収集し、6000xgで30分間の調製用遠心機による沈降によって細胞を除去する。1回のバイオリアクター操作ごとに、約5〜7Lの部分的に清澄化された上清が得られる。(2)粗カーボンによる生成物の捕捉:約1000ml容積の粗カーボン(Calgon 12x40 TR)を充填したカラム(直径5cmx長さ60cmの寸法)を1カラム容積(CV)の水で平衡化し、清澄化した培養上清を40ml/分の流速で投入する。このカラムの総容量は約120gの糖である。投入および糖の捕捉の後、カラムを1.5CVの水で洗浄し、次いで、2.5CVの50%エタノールまたは25%イソプロパノールで溶出させる(この工程では、生成物を溶出させるに低濃度のエタノール(25〜30%)で十分な場合がある)。この溶媒溶出工程により、カラムに結合した糖全体の約95%および少量の有色物質(color body)が放出される。この第1の工程においては、最大量の糖を捕捉することが主目的である。汚染物質を解明することは目的ではない。(3)蒸発:捕捉カラムからの2.5L容積のエタノールまたはイソプロパノール溶出液を56℃でロータリーエバレーターで蒸発させ、水に溶解した糖シロップを生成する。この工程に使用することができる代替法には凍結乾燥または噴霧乾燥が含まれる。(4)微細カーボンおよびイオン交換媒体上でのフラッシュクロマトグラフィー:Biotage Isolera One FLASH Chromatography Systemに接続したカラム(GE Healthcare HiScale50/40、5x40cm、最大圧20バール)に、750mlのDarco Activated Carbon G60(100メッシュ):Celite 535(粗)の1:1混合物を充填する(どちらのカラム充填物もSigmaから入手した)。このカラムを5CVの水で平衡化し、セライトローディングカートリッジ(celite loading cartridge)または直接注入のいずれかを用いて工程3からの糖(3-FL対汚染ラクトースの比に応じて10〜50g)を投入する。クロマトグラフィー中に溶出する糖のピークを検出するために、このカラムを蒸発光散乱(ELSD)検出器に接続する。3-FLを単糖(存在する場合)、ラクトース、および有色物質から分離するために、イソプロパノール、エタノール、またはメタノールの4段階勾配を行う。糖のピークに対応する画分を120mlボトルに自動収集し、プールし、工程5に送る。通常より長い発酵からの特定の精製操作では、3-FL含有画分を陰イオン交換カラムおよび陽イオン交換カラムに通すことで、余分なタンパク質/DNA/カラメル物質の汚染物質を除去することができる。この目的で、首尾良く試験された樹脂にはDowex22が含まれる。
本明細書に記載される遺伝子スクリーニングアプローチを用いて、代謝が操作された大腸菌宿主株において3FLおよび他のα(1,3)フコシル化オリゴ糖を効率的に生合成するための新たなα(1,3)FTを同定するのに成功した。このスクリーンの結果を表1および表4にまとめた。
方向付けられた(directed)スクリーニングアプローチを用いて、α(1,3)結合型フコシル化オリゴ糖の大規模生産に有用な、異なる、かつ望ましい特性をもつ(例えば、高い比活性、高い発現レベル、弱い細胞毒性、高いプロテアーゼ安定性、および/または異なるアクセプター基質特異性を有する)代替の細菌α(1,3)FTを同定し、特徴付けた。具体的には、重要かつ有用な治療特性を有する、ヒト乳の中で豊富にある2種類のHMOSである3FLおよびLDFTを生産するには、酵素CafC、CafL、CafN、CafO、CafQ、CafU、およびCafVが有用である。さらに、CafDは、3FLおよびLDFTのLexエピトープと同様の治療特性を有する可能性が高い、本物のLexエピトープを有するHMOSであるLNF IIIの合成を促進することができる。Lexエピトープは無数の生物学的認識プロセスに関与し、このエピトープを含有する分子を大規模に生産する能力は、このような分子の作用機序を解明するツールとして有用である(McEver et al., 1995; McEver and Cummings, 1997)。
実施例1:大腸菌におけるα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ発現
異なるα(1,3)FT候補を試験するのに使用した株は、上述した遺伝子組換えを全て組み入れ、以下の遺伝子型:
ΔampC::Ptrp BcI, Δ(lacI-lacZ)::FRT, PlacIqlacY+, ΔlacA, ΔwcaJ::FRT, thyA::Tn10, Δlon::(npt3,lacZ+)
を有する。
異なるα(1,3)FT候補発現プラスミドを有する大腸菌株を小規模実験において分析した。株を(チミジンを欠く)選択培地中で初期対数期まで増殖させた。次いで、ラクトースを最終濃度が1%になるように添加し、トリプトファン(200μM)を添加して、PLプロモーターから各候補α(1,3)FTの発現を誘導した。誘導期間(約20時間)の終了時に、同等のOD600単位の各株を収集した。溶解産物を調製し、薄層クロマトグラフィー(TLC)によって3FLの存在について分析した。図4A〜Cに示したように、FutAを生産する対照株は3FLを生合成することができ、さらに少ない量の四糖ラクトジフコテトラオース(LDFT)も生産した。興味深いことに、CafAを生産する株、CafCを生産する株、およびCafFを生産する株は、FutAを生産する対照株と比較して多量の3FLを合成した。具体的には、CafAを生産する株は、対照株と比較して約50%も多い3FLを合成したが、大幅に多いLDFTを生産した(図4A)。重要なことに、CafCおよびCafFは、FutAと比較して高いレベルの3FLの形成を再現性よく触媒した(図4Aおよび図4B)。CafCを生産する株およびCafFを生産する株も、かなり多い量の3FLを培養上清に分泌した。CafBも3FL生合成を触媒することができたが、FutA対照株よりかなり少ないレベルであった。CafA、B、C、およびFの推定分子量のポリペプチドが、SDS-PAGE分析によって、それぞれの株のタンパク質溶解産物中に検出された。このことから、これらのタンパク質は本発明者らの大腸菌生産株において活発に合成されたことが分かる(図5A〜C)。従って、CafA、CafC、およびCafFは、フコシル化オリゴ糖の大規模生産に有用なα(1,3)FTである。CafCおよびCafFを合成する株はFutA対照株と比較して高いレベルの3FLを日常的に生産したので、これらの酵素は特に関心が高い(表1)。注目すべきことに、残りの候補(CafD、E、G、H、I、J、およびK)は、これらの酵素のほとんどが大腸菌において活発に合成されたという観察にもかかわらず、3FL生産のためのアクセプターとしてラクトースを利用することができなかった。従って、操作された大腸菌株において、試験した11の候補のうち3つしか3FLを合成できなかったという事実は、これらの発見の独自性と驚くべき局面を示している。
本発明の関連する局面において、細菌生産株は、プロモーター、例えば、偶然の(fortuitous)プロモーターの制御下で、「タンデム」または「一列に並べた(stringed)」配置で2以上の異なるα(1,3)フコシルトランスフェラーゼを含有する発現プラスミドを有してもよい。単一の異種α(1,3)フコシルトランスフェラーゼの強い、例えば、誘導性の/誘導された発現に伴う、望ましくない、または容認できない細胞毒性の欠点が観察されることなく、2つの異なるα(1,3)フコシルトランスフェラーゼの比較的少ないレベルの構成的発現が酵素活性の純増加をもたらすことが見出された。例示的なプロモーターはP
Lプロモーター(例えば、図21に示したpG420)を含む。以下のSEQ ID NO:64は、pG420発現プラスミドのための核酸配列を提供する。
実施例2:LDFTの合成
ラクトジフコテトラオース(LDFT)の合成を触媒するために、CafA、CafC、またはCafFを、同じ株において生産されたα(1,2)フコシルトランスフェラーゼと組み合わせて利用することについて試験した(図7)。標準的な分子生物学技法を用いて、CafAをコードする遺伝子、CafCをコードする遺伝子、およびCafFをコードする遺伝子をプラスミドpG297(大腸菌O126に由来するα(1,2)フコシルトランスフェラーゼをコードするwbgLを有する)に挿入した。従って、PLプロモーターの制御下にあるwbgLとcafA、cafC、またはcafFの組み合わせからなる一連の「ミニオペロン」を構築した。次いで、結果として生じたプラスミドで、操作された大腸菌生産株を形質転換した。
異なるLDFT発現プラスミドを有する大腸菌株を小規模実験において分析した。株を(チミジンを欠く)選択培地中で初期対数期まで増殖させた。次いで、ラクトースを最終濃度が1%になるように添加し、トリプトファン(200μM)を添加して、PLプロモーターからα(1,2)FTおよびα(1,3)FTの発現を誘導した。誘導期間(約20時間)の終了時に、同等のOD600単位の各株を収集した。細胞溶解産物を調製し、薄層クロマトグラフィー(TLC)によって細胞内LDFTの存在について分析した。図8に示したように、α(1,2)FT WbgLしか生産しない対照株は主に2’-FLを合成し、比較的少ない量のLDFTを合成した。これと比較して、WbgLをα(1,3)FT FutAまたはCafAと組み合わせて生産する株は推定20〜30%多いLDFTを合成した。WbgLをCafCまたはCafFと組み合わせて生産する株は、WbgLしか生産しない株またはWbgLをFutAと組み合わせて生産する株よりかなり多い量のLDFTを合成した。この効果は、WbgLとCafFの組み合わせについて特に顕著であった。さらに、本発明者らは、WbgLとCafCおよびWbgLとCafFの組み合わせについて培養上清中に、かなり多い量のLDFTを観察した(データ示さず)(表1)。従って、これらの観察から、CafA、CafC、およびCafFは、高い潜在的な治療価値をもつ別のHMOSであるLDFTの大規模合成に有用なことが分かる。
実施例3:LNF IIIの発現
1回目のデータベーススクリーンから試験したα(1,3)FT候補の大多数(CafD、E、G、H、I、J、K)は、これらの酵素のほとんどが大腸菌において良好に発現されたという事実にもかかわらず、ドナー基質としてラクトースを利用することができず、3FL合成を促進することができなかった(表1)。この観察の説明の1つは、一部の細菌α(1,3)FTおよび高等真核生物α(1,3)FTがフコース付着のためのアクセプターとしてグルコース(Glc)よりもN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の方を好むということである(Breton, C.,et al. (1998). Conserved structural features in eukaryotic and prokaryotic fucosyltransferases. Glycobiology 8, 87-94.; Ma, B., et al. (2003). C-terminal amino acids of Helicobacter pylori alpha1,3/4 fucosyltransferases determine type I and type II transfer. J Biol Chem 278, 21893-1900.; Ma, B., et al. (2006). Fucosylation in prokaryotes and eukaryotes. Glycobiology 16, 158R-184R.)。従って、CafD、E、G、H、I、J、またはKが、HMOS LNnTの中に存在するGlcNAc部分へのフコースの付着(ラクト-N-ネオテトラオース)を触媒して、LNF III(ラクト-N-フコペンタオース)と呼ばれる、ヒト乳中で見出されるフコシル化オリゴ糖を生成するかどうか確かめるために研究を行った(図9)。この目的のために、標準的な分子生物学技法を用いて、これらの候補α(1,3)FT遺伝子をプラスミドpG222に挿入した。pG222は、N.メニンギティディス(N.meningitidis)に由来するβ(1,3)N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(lgtA)(GenBankアクセッションNP_274923.1)をコードする遺伝子およびH.ピロリに由来するβ(1,4)ガラクトシルトランスフェラーゼ(JHP0765)(GenBankアクセッションNP_207619.1)をコードする遺伝子を有する。別の態様において、ヘリコバクター・ピロリβ(1,3)N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼJHP0563(GenBankアクセッションYP_002301261.1)を使用することができる。別の例では、ナイセリア・メニンギティディス(Neisserria meningitidis)β(1,4)ガラクトシルトランスフェラーゼLgtB(GenBankアクセッションNP_274922.1)を使用することができる。
LgtAは、ラクトース中のガラクトースへのGlcNAcの付着を触媒して、構造GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glcを有する、多くのHMOSの前駆体であるラクト-N-トリオース(LNT2)を生産する。次いで、JHP0765(β(1,4)ガラクトシルトランスフェラーゼ)がアクセプターとしてLNT2を利用して、豊富なヒト乳HMOSであるLNnTを生成することができる。LNnTは構造Galβ1-4GlcNacβ1-3Galβ1-4Glcを有し、ヒト乳の中にある重要なビフィズス菌プレバイオティクス因子である(Marcobal, A., et al. (2010). Consumption of human milk oligosaccharides by gut-related microbes. J Agric Food Chem 58, 5334-340.; Garrido, D., et al. (2012). A molecular basis for bifidobacterial enrichment in the infant gastrointestinal tract. Adv Nutr 3, 415S-421S.; Sela, D.A., et al. (2012). Bifidobacterium longum subsp. infantis ATCC 15697 α-fucosidases are active on fucosylated human milk oligosaccharides. Appl Environ Microbiol 78, 795-803.)。LNnT中のGlcNAcにフコースがα1,3結合で付着すると、ヒト乳中で見出される別のHMOSであるLNF IIIが生じる。
標準的な技法を用いて、それぞれのα(1,3)FT候補を有するプラスミドpG222誘導体で大腸菌生産株を形質転換した。次いで、異なるLNF III発現プラスミドを有する大腸菌株を小規模実験において分析した。株を(チミジンを欠く)選択培地中で初期対数期まで増殖させた。次いで、ラクトースを最終濃度が1%になるように添加し、トリプトファン(200μM)を添加して、グリコシルトランスフェラーゼの発現を誘導した。誘導期間(約20時間)の終了時に、同等のOD600単位の各株を収集した。細胞溶解産物を調製し、薄層クロマトグラフィー(TLC)によって細胞内LNF IIIの存在について分析した。図10に示したように、LgtAとJHP0765を両方とも生産する株は、LNnT、ならびにさらに大きなオリゴ糖、例えば、構造Galβ1-4GlcNacβ1-3Galβ1-4GlcNacβ1-3Galβ1-4Glcを有するオリゴ糖(ラクト-N-ネオヘキサオース)を合成した。試験した7種類のα(1,3)FTのうちCafDだけがLNnTへのフコースの付着を触媒することができた(図10、レーン3および4を参照されたい)。液体クロマトグラフィーと質量分析法から、このフコシル化分子はLNF IIIの質量と一致する質量を有することが明らかになった。このことから、CafDは、本発明者らの大腸菌生産株において本物のLNF IIIの生合成を触媒することが分かる。
実施例4:タンデムまたは一列に並べた配置のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ
PLプロモーターの制御下で「タンデム」配置または一列に並べた(3つ以上の遺伝子)配置で2つの異なるα(1,3)フコシルトランスフェラーゼを含有する発現プラスミドを有する細菌株を構築した。図21は、このようなプラスミドpG420(核酸配列SEQ ID NO:64)の地図を示す。pG420は、PLプロモーターから動かされるオペロンに並べられた、2つの異なるα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ;CafC(アミノ酸配列SEQ ID NO:2)およびCafN(アミノ酸配列SEQ ID NO:44)をコードする遺伝子を有する。
図22A〜Bは、2種類のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼを発現する発現プラスミドを用いた3-フコシルラクトースの強化ファーメンター生産を示す。具体的には、図22Aは、発酵操作126からの培養上清の薄層クロマトグラフィー分析を示す。この実験では、プラスミドpG366(pEC2-PL-cafC-rcsA-thyA)を有する操作された大腸菌生産株を、規定された直線ラクトース供給を用いて(初回培養容積1リットルにつき50gの最終ラクトースを添加した)、流加培養条件下で増殖させた。これらの条件下で、かなり多い量の3-FLが生産され、培養培地に運び出された。このプロセスの終了時に、残っている細胞内3-FLを培養培地に放出するために、細胞を65℃で20分間、加熱した。最終試料中のHPLCによる産物収率の分析から、これらの条件下で約7.5g/Lの3-FLが生産されたことが明らかになった。驚いたことに、第2のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ(cafN)を親プラスミドpG366に導入して、pG420(pEC2-PL-cafC-cafN-rcsA-thyA、SEQ ID NO:64)を作製し(図22B)、細胞を同一の流加培養プロセス法の下で増殖させた時に、3-FLの収率は約15g/Lまで改善することができた。
細胞毒性と、その結果として起きる産物収率の低下が3-FLバイオリアクター操作中に観察された。このような株は、完全に誘導されたPLプロモーターによって動かされる高レベルのα(1,3)フコシルトランスフェラーゼを発現する。しかしながら、(例えば、培養物へのトリプトファンの添加を無くし、プロモーター領域から生じる低レベルの構成的転写に頼ることで)PLプロモーターを抑制したままにすることによって、およびプロモーター下流にα(1,3)フコシルトランスフェラーゼCafCとCafNのタンデム配置を構築することによって、培養物は操作期間にわたって良好な生存率を維持し、3-FL収率は大幅に改善される。
実施例5:カザミノ酸補充(CAA)を用いた3-フコシルラクトースの強化ファーメンター生産
今日まで試験したほぼ全種類のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼの高レベル発現(例えば、誘導されたPLプロモーターから動かされるような)は大腸菌生産株に対して毒性がある可能性があり、その結果、発酵操作における生存率が低くなり、3-FL収率が少なくなる。説明の1つは、細胞生存に不可欠な内因性大腸菌分子が不適切にフコシル化されて機能しなくなる、および/また毒性を示すようになるオフターゲット活性を多くのα(1,3)フコシルトランスフェラーゼが有するかもしれないということである。注目すべきことに、一部のα(1,3)フコシルトランスフェラーゼはアクセプターとしてN-アセチルグルコサミンを使用することが分かっている。従って、二次的な内因性大腸菌標的の正体は、N-アセチルグルコサミンを含有する分子、例えば、細胞壁ペプチドグリカンのリピドII前駆体であるかもしれない。従って、高レベルのα(1,3)フコシルトランスフェラーゼ活性を生じる細胞は、細胞壁/膜構造またはバイオジェネシスの欠陥を示唆する異常な細胞表層形態(膨張、膜の小疱形成)を示した。興味深いことに、発酵培地に、カザミノ酸(CAA)または酵母抽出物(YE)などの窒素に富む添加物を補充することによって、α(1,3)フコシルトランスフェラーゼ活性の毒性が妨げられ、それによって、3-FL生産収率が大幅に改善された。特に、CAAを補充することによって、発酵操作において得られる3FLの収率が増大し、例えば、二倍になった。この収率を高める活性は、アミノ酸、ペプチド、ミネラル、ビタミン、および他の微量栄養素を含有する任意の豊富な栄養添加物と関連している。CAAおよびYEに加えて、このような添加物は、肉、カゼイン、乳清、ゼラチン、ダイズ、酵母、および穀粒を含むが、これに限定されない様々な供給源に由来する任意のタンパク質加水分解物(例えば、ペプトン)を含んでもよい。
図22Cは、カザミノ酸補充(CAA)を用いた3-フコシルラクトースの強化ファーメンター生産を示す。具体的には、初回培養容積1リットルにつき50gの最終CAAを添加し、操作の過程において直線的に供給して送達した以外は、プラスミドpG420(pEC2-PL-cafC-cafN-rcsA-thyA、SEQ ID NO:64)を有する操作された大腸菌生産株を、図22A〜Bについて前記で説明したように同一条件下で増殖させた。CAAを添加することによって産物の形成が大幅に増大し、その結果、HPLCで評価した時に約30g/Lの3-FLが得られた。
他の態様
本発明を本発明の詳細な説明に関連して説明したが、前述の説明は例示を目的とし、本発明の範囲を制限しないことが意図される。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義される。他の局面、利点、および修正は以下の特許請求の範囲の内にある。
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本発明を、特に、本発明の好ましい態様に関連して示し、説明したが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱することなく、形態および細部の点で様々な変更が加えられ得ることが当業者に理解される。