JP6737457B2 - 化合物及びそれを用いた第15族金属サルファハライド及び/又は第15族金属セレノハライドの合成方法 - Google Patents

化合物及びそれを用いた第15族金属サルファハライド及び/又は第15族金属セレノハライドの合成方法 Download PDF

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本発明は、化合物及びそれを用いた第15族金属サルファハライド及び/又は第15族金属セレノハライドの合成方法に関する。
従来、金属カルコハライド合成方法として各種の方法が知られているが、その殆どが高温又は真空条件が必須であり、更に長時間の合成時間を要することから、特に工業化の観点において大きな課題を有している(非特許文献1)。
これに対して、特許文献1には、金属オキシハライドを原料(前駆体)とし、それに硫化水素及び/又はセレン化水素を接触させることにより、簡便且つ温和な合成条件で金属サルファハライド及び/又は金属セレノハライドを合成できると報告されている。
WO2017/043586号パンフレット
Scientific Repots 2016, 6, 32664.
しかしながら、特許文献1の合成方法においても、金属オキシハライドを原料とし、硫化水素及び/又はセレン化水素を接触(硫化法及び/又はセレン化法)させることにより金属サルファハライド及び/又は金属セレノハライドを合成する際に、100℃では殆ど反応が進行せず、また短時間で反応を完了させるためには150℃以上の温度が必要であるとされている。
本発明は、上記従来技術の問題を解決するために完成されたものであり、従来法に比してより低温及び/又は短時間で第15族金属サルファハライド及び/又は第15族金属セレノハライドを合成できる合成方法を提供すること、並びに当該合成方法に有用な化合物を提供することを主な目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、第15族元素カチオンA、第16族元素アニオンX及び第17族アニオンYから構成され、前記アニオンYの一部を有機分子アニオンYに置換した特定の化合物を原料(前駆体)とし、硫化法及び/又はセレン化法に供する場合には、従来よりも低温及び/又は短時間で第15族金属サルファハライド及び/又は第15族金属セレノハライドを合成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、下記の化合物及びそれを用いた第15族金属サルファハライド及び/又は第15族金属セレノハライドの合成方法に関する。
1.第15族元素カチオンA、第16族元素アニオンX、第17族元素アニオンY及び有機分子アニオンZから構成される下記一般式(1):
AXY1−a(Z) (1)
〔但し、aは0<a<1を示す。〕
で示される化合物であり、
(1)前記アニオンXの量は、アニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
(2)前記アニオンYと前記有機分子アニオンZとの合計量は、アニオンの総量のうち35〜65モル%である、
ことを特徴とする化合物。
2.前記有機分子アニオンZの炭素数が1以上6以下である、上記項1に記載の化合物。
3.前記有機分子アニオンZが非点対称構造を有する、上記項1又は2に記載の化合物。
4.前記有機分子アニオンZが擬ハロゲンアニオンである、上記項1〜3のいずれかに記載の化合物。
5.前記擬ハロゲンアニオンがチオシアン酸アニオンである、上記項4に記載の化合物。
6.前記有機分子アニオンZがカルボキシル基を有する、上記項1〜3のいずれかに記載の化合物。
7.前記有機分子アニオンZがギ酸及び酢酸の少なくとも一種である、上記項6に記載の化合物。
8.前記カチオンAがビスマスカチオンである、上記項1〜7のいずれかに記載の化合物。
9.前記アニオンXの量がアニオンの総量のうち40〜60モル%である、上記項1〜8のいずれかに記載の化合物。
10.前記アニオンYが周期表第4周期以降の元素のアニオンである、上記項1〜9のいずれかに記載の化合物。
11.前記アニオンYがヨウ素アニオンである、上記項1〜10のいずれかに記載の化合物。
12.前記アニオンYと前記有機分子アニオンZとの合計量は、アニオンの総量のうち40〜60モル%である、上記項1〜11のいずれかに記載の化合物。
13.前記化合物の結晶子径が5〜50nmである、上記項1〜12のいずれかに記載の化合物。
14.前記化合物のバンドギャップが1.83〜2.40eVである、上記項1〜13のいずれかに記載の化合物。
15.前記化合物の格子定数がa軸方向で9.3〜12Åであり、c軸方向で3.90〜3.99Åである、上記項1〜14のいずれかに記載の化合物。
16.前記有機分子アニオンZの量を示すaが0.001≦a≦0.9である、上記項1〜15のいずれかに記載の化合物。
17.前記有機分子アニオンZの量は、アニオンの総量のうち0.0005〜0.45モル%である、上記項1〜16のいずれかに記載の化合物。
18.前記第16族元素アニオンどうしのアニオン交換を含むアニオン交換反応により第15族金属サルファハライド及び第15族金属セレノハライドの少なくとも一種を合成するための前駆体である、上記項1〜17のいずれかに記載の化合物。
19.前記第16族元素アニオンどうしのアニオン交換は、酸素アニオン及び/又はセレンアニオンと硫黄アニオンとをアニオン交換する硫化法、並びに、酸素アニオン及び/又は硫黄アニオンとセレンアニオンとをアニオン交換するセレン化法の少なくとも一種である、上記項18に記載の化合物。
20.前記有機分子アニオンZのアニオン交換を含むアニオン交換反応により第15族金属サルファハライド及び第15族金属セレノハライドの少なくとも一種を合成するための前駆体である、上記項1〜17のいずれかに記載の化合物。
21.前記有機分子アニオンZのアニオン交換は、前記有機分子アニオンZと硫黄アニオンとをアニオン交換する硫化法、並びに、前記有機分子アニオンZとセレンアニオンとをアニオン交換するセレン化法の少なくとも一種である、上記項20に記載の化合物。
22.第16族元素アニオンどうしのアニオン交換を含むアニオン交換反応により第15族金属サルファハライド及び第15族金属セレノハライドの少なくとも一種を合成する方法であって、
第15族元素カチオンA、第16族元素アニオンX、第17族元素アニオンY及び有機分子アニオンZから構成される下記一般式(1):
AXY1−a(Z) (1)
〔但し、aは0<a<1を示す。〕
で示される化合物であり、
(1)前記アニオンXの量は、アニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
(2)前記アニオンYと前記有機分子アニオンZとの合計量は、アニオンの総量のうち35〜65モル%である、
化合物からなる前駆体を硫化水素及びセレン化水素の少なくとも一種を含有する反応性ガスと接触させることにより第16族元素アニオンどうしのアニオン交換を含むアニオン交換反応を行うことを特徴とする合成方法。
23.前記第16族元素アニオンどうしのアニオン交換は、酸素アニオン及び/又はセレンアニオンと硫黄アニオンとをアニオン交換する硫化法、並びに、酸素アニオン及び/又は硫黄アニオンとセレンアニオンとをアニオン交換するセレン化法の少なくとも一種である、上記項22に記載の合成方法。
24.前記アニオン交換反応は、セレンアニオン及び硫黄アニオンの少なくとも一種と有機分子アニオンZとのアニオン交換反応を含む、上記項22又は23に記載の合成方法。
25.150℃未満の温度条件下で前記アニオン交換反応を行う、上記項22〜24のいずれかに記載の合成方法。
26.0.001〜20MPaの圧力条件下で前記アニオン交換反応を行う、上記項22〜25のいずれかに記載の合成方法。
27.前記ガス中の前記硫化水素及び前記セレン化水素の含有量は、前記硫化水素及び前記セレン化水素のそれぞれについて0.1〜50体積%である、上記項22〜26のいずれかに記載の合成方法。
28.前記アニオン交換反応の反応時間が0.01〜50時間である、上記項22〜27のいずれかに記載の合成方法。
29.前記アニオン交換反応における前記反応性ガスの線流速が0.1〜1000cm/minである、上記項22〜28のいずれかに記載の合成方法。
30.前記第15族金属サルファハライドが、BiSI又はBi1927のいずれかの結晶相を有する、上記項22〜29のいずれかに記載の合成方法。
本発明の第15族金属サルファハライド及び/又は第15族金属セレノハライドの合成方法によれば、第15族元素カチオンA、第16族元素アニオンX及び第17族アニオンYから構成され、前記アニオンYの一部を有機分子アニオンYに置換した特定の化合物を原料(前駆体)とし、硫化法及び/又はセレン化法に供することにより、従来よりも低温及び/又は短時間で第15族金属サルファハライド及び/又は第15族金属セレノハライドを合成することができる。本発明の合成方法によれば、反応温度の低温化が可能であるため、その場合には導電性プラスチックフィルムなどの有機基材上に目的生成物を直接合成することも可能である。
本発明の合成方法により得られる第15族金属サルファハライド及び/又は第15族金属セレノハライドは、例えば、太陽光エネルギーを電気エネルギーや化学エネルギーに変換する用途、具体的には、水を光分解することにより化学エネルギーとして水素を得る光触媒や光電極、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電極(太陽電池、光センサー等)等を構成する材料として有用である。
調製例1で調製した4種類の粒子〔BiOI1−x−y(Ac)x(SCN)y〕及びBiOI粒子のXRDパターンを示す図である。 調製例1で調製した4種類の粒子及びBiOI粒子の拡散反射スペクトルを示す図である。 調製例1で調製した4種類の粒子及びBiOI粒子のEDXにより測定されたI/Biに対する、拡散反射スペクトルの吸収端より求めたバンドギャップの関係を示す図である。 調製例1で調製した4種類の粒子及びBiOI粒子の格子定数の推移を示す図である。 調製例1で調製した4種類の粒子及びBiOI粒子FT−IRスペクトル、並びにCHCOONa及びNaSCNのFT−IRスペクトルを示す図である。 調製例2で調製した4種類の粒子(BiOI1−xAc)及びBiOI粒子のXRDパターンを示す図である。 調製例2で調製した4種類の粒子及びBiOI粒子の拡散反射スペクトルを示す図である。 調製例2で調製した4種類の粒子及びBiOI粒子のEDXにより測定されたI/Biに対する、拡散反射スペクトルの吸収端より求めたバンドギャップの関係を示す図である。 調製例2で調製した4種類の粒子及びBiOI粒子の格子定数の推移を示す図である。 調製例2で調製した4種類の粒子及びBiOI粒子FT−IRスペクトルを示す図である。 試験例1における、BiOI0.38Ac0.46SCN0.16粒子の硫化後のXRDパターンを示す図である。 試験例1における、BiOI0.76Ac0.21SCN0.03粒子の硫化後のXRDパターンを示す図である。 試験例2における、BiOI0.5Ac0.5粒子、及びBiOI0.3Ac0.7粒子の硫化後のXRDパターンを示す図である。
1.本発明の化合物
本発明の化合物は、第15族元素カチオンA、第16族元素アニオンX、第17族元素アニオンY及び有機分子アニオンZから構成される下記一般式(1):
AXY1−a(Z) (1)
〔但し、aは0<a<1を示す。〕
で示される化合物であり、
(1)前記アニオンXの量は、アニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
(2)前記アニオンYと前記有機分子アニオンZとの合計量は、アニオンの総量のうち35〜65モル%である、
ことを特徴とする。
上記特徴を有する本発明の化合物は、それ自体が半導体材料(n型半導体)としての特性を有するため半導体材料として使用することができる。なお、半導体材料とは、価電子帯上端と伝導帯下端とのエネルギー差を有する材料などが挙げられる。
また、本発明の化合物は他の用途に用いることもできる。具体的には、電子又は正孔又はイオンを伝導する材料や、光吸収による光励起キャリアの生成を利用する材料、及びその再結合による発光を利用する材料などであり、より具体的には、太陽電池材料用、太陽電池の光吸収層用、光センサー用、光触媒用等の材料、更に発光材料、イオン伝導材料、導電性材料、圧電素子、パワーデバイスなどである。なお、イオンとは、各材料を構成するカチオン又はアニオンのことを指す。これらの用途の中でも、太陽光に含まれる光子のエネルギーを利用できる観点から、太陽電池の光吸収層用の化合物や、特定波長の光を利用できる観点から、光センサーとしての利用が挙げられる。
更に、上記特徴を有する本発明の化合物は、それを原料(前駆体)とし、硫化法及び/又はセレン化法に供することにより、従来よりも低温及び/又は短時間で第16族元素アニオンのアニオン交換反応を進行させて第15族金属サルファハライド及び/又は第15族金属セレノハライドを合成することができる。本発明の化合物は、前述の通りそれ自体を半導体材料として使用することができるが、より好ましくは、前記の前駆体としての使用である。本発明の化合物を前駆体として使用する場合には、硫化法及び/又はセレン化法における反応温度の低温化が可能であるため、導電性プラスチックフィルムなどの有機基材上に目的生成物を直接合成することも可能である。
なお、本明細書における「硫化法」、「セレン化法」は、金属カルコハライド(原料)に硫化水素又はセレン化水素を接触させることにより、原料中のカルコゲナイド元素アニオン(第16族元素アニオン)のアニオン交換反応により金属サルファハライド又は金属セレノハライドを合成する際の「硫化」、「セレン化」を意味する。本発明の化合物は一般式(1)に示される通り、第17族元素アニオンYの一部が有機分子アニオンZに置換されていることにより、本発明の化合物に硫化水素及び/又はセレン化水素を接触させることにより第16族元素アニオンXのアニオン交換反応により金属サルファハライド及び/又は金属セレノハライドを合成する際の硫化及び/又はセレン化の反応が促進されているため、従来の硫化法及び/又はセレン化法よりも低温及び/又は短時間で目的生成物である第15族金属サルファハライド及び/又は第15族金属セレノハライドを合成することができる。以下、第15族金属サルファハライド及び/又は第15族金属セレノハライドは「目的生成物」ともいう。
上記カチオンAは第15族元素カチオンである。第15族元素カチオンとしては限定的ではないが、例えば、ビスマス(Bi)カチオン、アンチモン(Sb)カチオン等が挙げられ、この中でもビスマスカチオンが好ましい。ビスマスカチオンは、第15族元素カチオンの中でも良好な半導体性能を有するため、目的生成物を光電極などの用途に用いる場合に有利である。
上記アニオンXは第16族元素アニオンであり、その量はアニオンの総量のうち35〜65モル%である。その中でも、アニオンXの量はアニオンの総量のうち40〜60モル%であることが好ましい。
第16族元素アニオンとしては限定的ではなく、酸素(O)アニオン、硫黄(S)アニオン、セレン(Se)アニオン等が挙げられる。これらのアニオンXは、後述の合成方法においてアニオン交換反応によりそれぞれ他のアニオンXと交換される。つまり、酸素アニオンであれば、後述の合成方法においてアニオン交換反応により硫黄アニオン及び/又はセレンアニオンと交換される。また、硫黄アニオンであれば、アニオン交換反応によりセレンアニオンに交換される。また、セレンアニオンであれば、アニオン交換反応により硫黄アニオンに交換される。
上記アニオンYは第17族元素アニオンであり、その量は後述する有機分子アニオンZとの合計量において、アニオンの総量のうち35〜65モル%である。その中でも、アニオンYと有機分子アニオンZとの合計量はアニオンの総量のうち40〜60モル%であることが好ましい。
第17族元素アニオンとしては限定的ではないが、目的生成物のバンドギャップが小さくなり、より長波長までの光吸収に有利となる観点から、新IUPACの周期表における第4周期以降の元素のアニオンであることが好ましく、具体的には、臭素(Br)アニオン、ヨウ素(I)アニオン等が挙げられ、この中でも、前記理由からヨウ素アニオンがより好ましい。
上記アニオンZは有機分子アニオンであり、本発明の化合物においてアニオンYの一部が有機分子アニオンZに置換されていることにより、本発明の化合物を硫化法及び/又はセレン化法に供する際の硫化及び/又はセレン化が促進されている。
発明者らは、特定の理論に拘束されることを欲しないが、本発明の硫化及びセレン化促進の効果は、下記理論の少なくともいずれか、またはこれら複数の協奏的効果によるものであると推測する。
第一に、硫化及び/又はセレン化の過程にて、硫化水素及び/又はセレン化水素が、前駆体の内部にまで拡散することが反応促進に重要である。そのため、前記有機分子アニオンZを包含することで結晶構造中の層間が広がることにより、硫化水素及び/又はセレン化水素の拡散が促進し、硫化及び/又はセレン化が促進すると考えられる。
第二に、有機分子アニオンZの脱離により生じるアニオン欠陥による、アニオン拡散の促進効果が考えられる。硫化及び/又はセレン化過程、特にこの初期に、有機分子アニオンZが、硫化水素及び/又はセレン化水素由来の水素ラジカルと反応することで有機分子を形成、脱離することによりアニオン欠陥が形成する。このアニオン欠陥により、硫化アニオン及び/又はセレンアニオンの拡散が促進されることで硫化及び/又はセレン化が促進されることが考えられる。
第三に、有機分子アニオンZの双極子モーメントが、アニオン拡散を促進した可能性が考えられる。特に、有機分子アニオンZが非点対称構造であると、双極子モーメントを有し、この双極子モーメントが、アニオンの拡散を促進したために、硫化水素及び/又はセレン化が促進されたと考えられる。
第四に、硫化及び/又はセレン化過程でのHXの生成及びその脱離促進が考えられる。硫化及び/又はセレン化は、前駆体のアニオンXと水素が反応した生成物が脱離しながらアニオン交換が進行し、この過程が硫化及び/又はセレン化の総反応速度に大きく影響を与えている可能性がある。例えば、X=Oの場合であると、HOの脱離速度が遅い可能性があるが、ここに前述の有機分子アニオンZ由来の有機分子アニオンが、例えば共沸効果などでHOの脱離を促進することができるために、硫化及び/又はセレン化の総反応速度が速くなり、反応が促進されると考えられる。
第五に、前駆体の比較的低い結晶性が考えられる。硫化及び/又はセレン化は、一度結晶が崩れる過程を介して目的化合物を形成する可能性があるが、この際、結晶が崩れるためには、結晶性が低いことが有利であることが考えられる。そのため、前駆体の比較的低い結晶性が硫化及び/又はセレン化を促進した可能性が考えられる。
有機分子アニオンZとしては、上記の作用機序を発揮することが期待される炭素含有アニオンであれば限定的ではないが、炭素数は1以上6以下であるものが好ましく、その中でも、前記有機分子アニオンZ由来の有機分子の脱離に有利である観点から、特に1以上4以下がより好ましく、1以上2以下さらに好ましい。また、有機分子アニオンZとしては、双極子モーメントを有し、アニオンの拡散を促進できる観点から非点対称構造を有するものが好ましい。また、双極子モーメントを大きくする観点から、前述の炭素数1以上6以下の炭素は、直鎖であることが好ましい。
このような有機分子アニオンZとしては、例えば、いわゆる擬ハロゲン(ハロゲンに似た性質を示す原子団でありプソイドハロゲン(Ps)ともいう)アニオンや、カルボキシル基を有するアニオンが挙げられる。
擬ハロゲンアニオンとしては、例えば、チオシアン酸アニオン(SCN)、シアン化物アニオン(CN)、イソシアン酸アニオン(OCN)及びセレノシアン酸アニオン(SeCN)の少なくとも一種が挙げられる。これらの擬ハロゲンアニオンの中でも、比較的人体に害が少なく、本発明の化合物形成に適した共有結合性を有する観点からチオシアン酸アニオンが好ましい。
カルボキシル基を有するアニオンとしては、例えば、ギ酸アニオン(CHOO)及び酢酸アニオン(CHCOO)の少なくとも一種が挙げられる。これらのカルボキシル基を有するアニオンの中でも、双極子モーメントを大きくする観点から、酢酸アニオンが好ましい。
本発明では、これらの有機分子アニオンの中でも、硫化法及び/又はセレン化法におけるアニオン交換反応の促進効率の観点から擬ハロゲンアニオンが好ましく、特にチオシアン酸アニオン(SCN)が好ましい。
本発明の化合物において、有機分子アニオンZの量を示すaは0<a<1であればよいが、硫化及び/又はセレン化の促進に有利である観点から、その中でも0.001≦a≦0.9の範囲が好ましい。具体的には、有機分子アニオンZが擬ハロゲンの場合は0.0001≦a≦0.3の範囲が好ましく、カルボキシル基を有するアニオンの場合は0.55≦a≦0.9の範囲が好ましい。
また、有機分子アニオンZの量は、アニオンの総量のうち0.0005〜0.45モル%が好ましく、特に擬ハロゲンの場合は0.0005〜0.15モル%が好ましく、カルボキシル基を有するアニオンの場合は0.23≦a≦0.45モル%が好ましい。
本発明の化合物の粒子の平均粒子径は限定的ではないが、球状粒子の場合には平均粒子径は0.001〜10μm程度が好ましい。また、層状構造を有する場合には平面部分の平均径は0.1〜10μm程度が好ましく、厚さは0.001〜1μm程度が好ましい。なお、平均粒子径、平均径及び厚さは、走査電子顕微鏡を用いた直接観察により測定した値などである。
本発明の化合物の粒子の結晶子径は限定的ではないが、5〜50nmが好ましい。また、粒子の結晶構造は層構造を含むが好ましく、PDF:00−010−0445であることが好ましい。更に、粒子の結晶相は単一結晶相であることが好ましい。
本発明の化合物の粒子のバンドギャップは限定的ではないが、この化合物により光起電力を大きくできる観点から、1.83〜2.40eVであることが好ましい。
本発明の化合物の格子定数は限定的ではないが、有機分子アニオンZを含有することにより、これを含有しない場合と比較して本発明の化合物の結晶格子はc軸方向に拡張する。よって、格子定数はc軸方向に拡張し、a軸方向に縮小する。具体的には、格子定数はa軸方向で9.3〜12Åであることが好ましく、c軸方向で3.90〜3.99Åであることが好ましい。
上記本発明の化合物としては、具体的に、BiOI1−aSCN、BiSI1−aSCN、BiSeI1−aSCN、BiOBr1−aSCN、BiSBr1−aSCN、BiSeBr1−aSCN、BiOCl1−aSCN、BiSCl1−aSCN、BiSeCl1−aSCN,BiOI1−aAc、BiSI1−aAc、BiSeI1−aAc、BiOBr1−aAc、BiSBr1−aAc、BiSeBr1−aAc、BiOCl1−aAc、BiSCl1−aAc、BiSeCl1−aAc、BiOI1−a〔(Ac)(SCN)〕、BiSI1−a〔(Ac)(SCN)〕、BiSeI1−a〔(Ac)(SCN)〕、BiOBr1−a〔(Ac)(SCN)〕、BiSBr1−a〔(Ac)(SCN)〕、BiSeBr1−a〔(Ac)(SCN)〕、BiOCl1−a〔(Ac)(SCN)〕、BiSCl1−a〔(Ac)(SCN)〕、BiSeCl1−a〔(Ac)(SCN)〕、BiOI1−a〔(Ac)(CN)〕、BiSI1−a〔(Ac)(CN)〕、BiSeI1−a〔(Ac)(CN)〕、BiOBr1−a〔(Ac)(CN)〕、BiSBr1−a〔(Ac)(CN)〕、BiSeBr1−a〔(Ac)(CN)〕、BiOCl1−a〔(Ac)(CN)〕、BiSCl1−a〔(Ac)(CN)〕、BiSeCl1−a〔(Ac)(CN)〕、BiOI1−a〔(Ac)(OCN)〕、BiSI1−a〔(Ac)(OCN)〕、BiSeI1−a〔(Ac)(OCN)〕、BiOBr1−a〔(Ac)(OCN)〕、BiSBr1−a〔(Ac)(OCN)〕、BiSeBr1−a〔(Ac)(OCN)〕、BiOCl1−a〔(Ac)(OCN)〕、BiSCl1−a〔(Ac)(OCN)〕、BiSeCl1−a〔(Ac)(OCN)〕a、BiOI1−a〔(Ac)(SeCN)〕、BiSI1−a〔(Ac)(SeCN)〕、BiSeI1−a〔(Ac)(SeCN)〕、BiOBr1−a〔(Ac)(SeCN)〕、BiSBr1−a〔(Ac)(SeCN)〕、BiSeBr1−a〔(Ac)(SeCN)〕、BiOCl1−a〔(Ac)(SeCN)〕、BiSCl1−a〔(Ac)(SeCN)〕、BiSeCl1−a〔(Ac)(SeCN)〕等の少なくとも一種が挙げられる。なお、上記例示中及び以降の「Ac」は酢酸アニオンを意味する。
これらの中でも、BiOI1−aSCN、BiOI1−aAcの少なくとも一種が好ましい。これらの本発明の化合物の粒子は、例えば、公知のスプレーパイロリシス法、気相成長法、水溶媒又は有機溶媒中でのソルボサーマル法等により合成することができる。
2.本発明の合成方法
上記一般式(1)で示される本発明の化合物は、硫化法及び/又はセレン化法における第16族元素アニオンどうしのアニオン交換を含むアニオン交換反応により第15族金属サルファハライド及び第15族金属セレノハライドの少なくとも一種を合成するための前駆体(原料化合物)として有用である。
具体的には、第16族元素アニオンどうしのアニオン交換反応は、酸素アニオン及び/又はセレンアニオンと硫黄アニオンとをアニオン交換する硫化法、並びに、酸素アニオン及び/又は硫黄アニオンとセレンアニオンとをアニオン交換するセレン化法の少なくとも一種であり、本発明の化合物に含まれる有機分子アニオンZの存在により、硫化及び/又はセレン化の反応が促進されているため、従来の硫化法及び/又はセレン化法よりも低温及び/又は短時間で目的生成物を合成することができる。
つまり、本発明の合成方法は、第16族元素アニオンどうしのアニオン交換を含むアニオン交換反応により第15族金属サルファハライド及び第15族金属セレノハライドの少なくとも一種を合成する方法であって、上記一般式(1)で示される化合物からなる前駆体を硫化水素及びセレン化水素の少なくとも一種を含有するガスと接触させることにより第16族元素アニオンどうしのアニオン交換を含むアニオン交換反応を行うことを特徴とする合成方法である。
なお、上記アニオン交換反応は、具体的には、第16族元素アニオンどうしのアニオン交換反応に加えて、セレンアニオン及び硫黄アニオンの少なくとも一種と有機分子アニオンZとのアニオン交換反応を含んでいる。
上記一般式(1)で示される本発明の化合物(前駆体)の説明は前述の通りである。
本発明の合成方法は、上記本発明の化合物(以下、「前駆体」という)を硫化水素及びセレン化水素の少なくとも一種を含有するガス(以下、「反応性ガス」という)と接触させることによりアニオン交換反応を行う。
上記前駆体を反応性ガスと接触させる方法としては、例えば、上記前駆体の粒子をアルミナボードなどの基板上に静置し、パイレックス(登録商標)製の反応管内に設置し、反応性ガスを反応管内に流通させることにより行える。
反応性ガス(硫化水素及び/又はセレン化水素)の濃度は限定的ではないが、適宜アルゴンガスなどの不活性ガスと混合することにより希釈して用いることができる。これらの反応性ガスの濃度は、硫化水素及びセレン化水素のそれぞれについて、0.1〜50体積%程度が好ましく、1〜5体積%程度がより好ましい。
反応性ガスの線流速は限定的ではなく、後記する温度条件や圧力条件に応じて適宜設定できるが、一般に0.1〜1000cm/minが好ましく、1〜100cm/minがより好ましい。
上記前駆体を反応性ガスと接触させる際の温度条件は限定的ではないが、本発明では前述の通り硫化及び/又はセレン化の反応が促進されているため、従来の硫化法及び/又はセレン化法に比して温和な条件を採用することができる。温度条件としては、150℃未満の条件でアニオン交換反応を進めることができ、好適な実施態様では130℃以下、より好ましくは120℃以下で反応を進めることができる。一方、硫化及び/又はセレン化の反応を速く完了させることができる観点から、30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましい。
上記のように従来法よりも低温条件を採用することができるため、基材として導電性プラスチックフィルムなどの有機基材(可撓性基材)が採用でき、基材上で直接に目的生成物を合成することもできる上、形態自由度を高めることができる。ここで、前駆体を基材上に設ける方法としては、例えば、前駆体と水とを混合したスラリーを基材上に塗布する方法や、前駆体を電気泳動により基材上に被覆して被膜を形成する方法等が挙げられる。有機基材、及びその他の無機基材については半導体や太陽電池の分野で公知の種々の基材が幅広く使用できる。
反応時の圧力条件は限定されず、通常は大気圧下で実施することができるが、その中でも0.001〜20MPaが好ましく、0.01〜1MPaがより好ましい。なお、本明細書における圧力とは絶対圧であり、大気圧は約0.1MPaである。
反応時間は、温度条件、圧力条件等に応じて適宜設定できるが、0.01〜50時間から広く設定することができ、硫化及び/又はセレン化を十分に進行させるために有利である観点から、0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。目的生成物の製造効率を向上させる観点から、30時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましい。温度条件をできるだけ低温化することを重視する場合は反応時間を長く調整すればよく、また温度条件を高めに設定できる場合には同温度を採用する従来法よりも反応時間を早く終了させることができる。
本発明の合成方法により得られる目的生成物は、第15族金属サルファハライド及び第15族金属セレノハライドの少なくとも一種であればよいが、その中でも目的生成物を半導体材料として利用する観点からは、BiSI、BiSeI、BiSBr、BiSeBr、BiSCl、BiSeCl、Bi1927、Bi19Se27、Bi1927Br、Bi19Se27Br、Bi1927Cl、Bi19Se27Cl、少なくとも一種を含むことが好ましく、BiSI、Bi1927の少なくとも一種を含むことがより好ましい。光起電圧を大きくできる観点から、BiSI、BiSeI、BiSBr、BiSeBr、BiSCl、BiSeClの少なくとも一種を含むことが好ましい。一方、長波長の光を利用できる観点から、Bi1927、Bi19Se27、Bi1927Br、Bi19Se27Br、Bi1927Cl、Bi19Se27Clの少なくとも一種を含むことがより好ましい。本発明では、目的生成物は、複数の結晶相を含むこと、例えば、BiSIと、Bi1927を共に含むことができる。
本発明の合成方法により得られる目的生成物は、半導体材料(n型半導体)として利用することが好ましい。なお、半導体材料とは、価電子帯上端と伝導帯下端とのエネルギー差を有する材料などが挙げられる。
本発明の目的生成物は、他の用途に用いることもできる。具体的には、電子又は正孔又はイオンを伝導する材料や、光吸収による光励起キャリアの生成を利用する材料、及びその再結合による発光を利用する材料などであり、より具体的には、太陽電池材料用、太陽電池の光吸収層用、光センサー用、光触媒用等の材料、更に発光材料、イオン伝導材料、導電性材料、圧電素子、パワーデバイスなどである。なお、イオンとは、各材料を構成するカチオン又はアニオンのことを指す。これらの用途の中でも、本発明の目的生成物は、太陽光に含まれる光子のエネルギーを利用できる観点から、太陽電池の光吸収層用の化合物であることが好ましい。さらに、特定波長の光を利用できる観点から、光センサーとして利用することが好ましい。
以下、試験例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は試験例に限定されない。
試験例で用いる化合物(BiOI1−x−y(Ac)x(SCN)y及びBiOI1−xAc)は以下の手順により調製した。なお、組成式の「Ac」は酢酸アニオンを示す。
調製例1(BiOI 1−x−y (Ac) x (SCN) y の粒子の合成)
15mmolのBi(NO)・5HOを12.5mLのCHCOOHに溶解した。
また、15×(1−x)mmolのNaIと15×xmmolのNaSCNと30mmolのCHCOONaとを190mLHOに溶解した。
次いで、両溶液を混合して2時間撹拌した。
次いで、遠心分離による溶媒除去及び水洗を3回繰り返した。これにより、
BiOI0.91Ac0.07SCN0.02
BiOI0.76Ac0.21SCN0.03
BiOI0.55Ac0.36SCN0.09
BiOI0.38Ac0.46SCN0.16
の4種類の粒子を合成した。
なお、第17族元素アニオンY及び有機分子アニオンZの組成は、EDXにより測定されたI/Bi,S/Biより、それぞれ、Iアニオン量、およびチオシアン酸アニオン量を算出し、残りを酢酸アニオンとして求めた。
これらの4種類の粒子及びBiOI粒子の結晶子径は表1の通りである。
これらの4種類の粒子及びBiOI粒子のXRDパターンは図1の通りである。
これらの4種類の粒子及びBiOI粒子の拡散反射スペクトルは図2の通りである。
これらの4種類の粒子及びBiOI粒子のEDXにより測定されたI/Biに対する、拡散反射スペクトルの吸収端より求めたバンドギャップの関係は図3の通りである。
これらの4種類の粒子及びBiOI粒子の格子定数の推移は図4の通りである。
これらの4種類の粒子及びBiOI粒子のFT−IRスペクトル、並びにCHCOONa及びNaSCNのFT−IRスペクトルは図5の通りである。
調製例2(BiOI 1−x Ac の粒子の合成)
15mmolのBi(NO)・5HOを12.5mLのCHCOOHに溶解した。
また、15×(1−x)mmolのNaIと30mmolのCHCOONaとを190mLのHOに溶解した。
次いで、両溶液を混合して2時間撹拌した。
次いで、遠心分離による溶媒除去及び水洗を3回繰り返した。これにより、
BiOI0.9Ac0.1
BiOI0.7Ac0.3
BiOI0.5Ac0.5
BiOI0.3Ac0.7
の4種類の粒子を合成した。
なお、第17族元素アニオンY及び有機分子アニオンZの組成は、EDXにより測定されたI/BiよりIアニオン量を算出し、残りを酢酸アニオンとして求めた。
これらの4種類の粒子及びBiOI粒子の結晶子径は表2の通りである。
これらの4種類の粒子及びBiOI粒子のXRDパターンは図6の通りである。
これらの4種類の粒子及びBiOI粒子の拡散反射スペクトルは図7の通りである。
これらの4種類の粒子及びBiOI粒子のEDXにより測定されたI/Biに対する、拡散反射スペクトルの吸収端より求めたバンドギャップの関係は図8の通りである。
これらの4種類の粒子及びBiOI粒子の格子定数の推移は図9の通りである。
これらの4種類の粒子及びBiOI粒子のFT−IRスペクトルは図10の通りである。
試験例1〔調製例1で調製した粒子の硫化条件〕
内径φ26mmの石英管内に設置した、上記調製例1で調製した粒子〔BiOI1−x−y(Ac)x(SCN)y〕に対して、100mL/分(線流速:約20cm/分)のHS気流(HS濃度5%、He希釈)下で150〜70℃のいずれかの温度にて、1〜5時間のいずれかの時間をかけて硫化を行った。
図11に、BiOI0.38Ac0.46SCN0.16粒子の硫化後のXRDパターンを示す。
図11から、100℃×1時間の硫化を施したサンプルについて、原料であるBiOI1−x−y(Ac)(SCN)の特徴的な(001)面に由来する回折角7〜9°の回折パターンは消失し、明瞭なBiSIに由来する回折パターンが観測された。すなわち、100℃という、従来では硫化の進行が難しかった条件でも、本発明の化合物を前駆体として用いることで硫化を促進できることが示された。
このサンプルについて、表3に示されるように、硫化後において第17族元素の量(I/Bi)はほぼ変化がないにも関わらず、硫黄の量が(S/Bi)=1.38と前駆体の酸素アニオン含有量+SCNアニオン含有量よりも大きな値になった。これは、硫化により、16族元素アニオンであるアニオンXの置換だけでなく、有機分子アニオンであるアニオンZの交換が生じたことを示している。
また、図11から、70℃×5時間の硫化を施したサンプルについても、原料の(001)面に由来する回折ピークは、ほぼ消失し、アモルファスに近いブロードな、BiSI に帰属できる回折パターンが得られた。このため、70℃の条件であっても、本発明の化合物を前駆体として用いることで硫化を好適に進行できることが示された。
図12に、BiOI0.76Ac0.21SCN0.03粒子の硫化後のXRDパターンを示す。
図12から、150℃×1時間、及び100℃×3時間の硫化を施したサンプルでは、原料であるBiOI1−x−y(Ac)(SCN)の特徴的な(001)面に由来する回折角7〜9°の回折パターンは完全に消失し、SCNアニオンがアニオンYとアニオンZの和のうち、3%含まれるだけで、100℃の条件でも硫化が十分に進行できることが示されている。また、得られたサンプルの回折パターンは、BiSI及びBi1927の両方の回折パターンが観測され、これらの混合物であることがわかる。なお、24°付近、28°付近の回折ピークはBi1927に帰属される。
また、このサンプルについて、表4に示されるように、BiOI0.76Ac0.21SCN0.03についても、BiOI0.38Ac0.46SCN0.16と同様に、硫黄の量が(S/Bi)=1.14と前駆体の酸素アニオン含有量+SCNアニオン含有量よりも大きな値になり、16族元素アニオンであるアニオンXの交換と共に、有機分子アニオンであるアニオンZの交換が生じたことが示されている。
試験例2(調製例2で調製した粒子の硫化条件)
内径φ26mmの石英管内に設置した、上記調製例1で調製した粒子BiOI1−x(Ac)に対して、100mL/分(線流速:約20cm/分)のHS気流(HS濃度5%、He希釈)下で100℃にて、3時間かけて硫化を行った。
図13に、BiOI0.5Ac0.5粒子、及びBiOI0.3Ac0.7粒子の硫化後のXRDパターンを示す。
図13から、100℃×1時間の硫化を施したサンプルについて、原料であるBiOI1−x(Ac)の特徴的な(001)面に由来する回折角7〜9°の回折パターンは消失したことが観測された。すなわち、有機分子アニオンZが酢酸アニオンのみであっても、100℃という、従来では硫化の進行が難しかった条件にて、本発明の化合物を前駆体として用いることで、硫化を促進できることが示された。
また、得られたサンプルの回折パターンは、BiSI及びBi1927の両方の回折パターンが観測され、これらの混合物であることがわかる。なお、24°付近、28°付近の回折ピークはBi1927に帰属される。

Claims (21)

  1. 第15族元素カチオンA、第16族元素アニオンX、第17族元素アニオンY及び有機分子アニオンZから構成される下記一般式(1):
    AXY1−a(Z) (1)
    〔但し、aは0<a<1を示す。〕
    で示される化合物であり、
    前記第15族元素カチオンAは、ビスマス(Bi)カチオン又はアンチモン(Sb)カチオンであり、
    前記第16族元素アニオンXは、酸素(O)アニオン、硫黄(S)アニオン又はセレン(Se)アニオンであり、
    前記第17族元素アニオンYは、臭素(Br)アニオン又はヨウ素(I)アニオンであり、
    前記有機分子アニオンZは、チオシアン酸アニオン(SCN)、シアン化物アニオン(CN)、イソシアン酸アニオン(OCN)、セレノシアン酸アニオン(SeCN)、ギ酸アニオン(CHCOO)又は酢酸アニオン(CH COO)であり、
    (1)前記アニオンXの量は、アニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
    (2)前記アニオンYと前記有機分子アニオンZとの合計量は、アニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
    (3)前記化合物の結晶子径が5〜50nmである、
    ことを特徴とする化合物。
  2. 前記カチオンAがビスマスカチオンである、請求項1に記載の化合物。
  3. 前記アニオンXの量がアニオンの総量のうち40〜60モル%である、請求項1又は2に記載の化合物。
  4. 前記アニオンYと前記有機分子アニオンZとの合計量は、アニオンの総量のうち40〜60モル%である、請求項1〜のいずれか記載の化合物。
  5. 前記化合物のバンドギャップが1.83〜2.40eVである、請求項1〜のいずれか記載の化合物。
  6. 前記化合物の格子定数がa軸方向で9.3〜12Åであり、c軸方向で3.90〜3.99Åである、請求項1〜のいずれかに記載の化合物。
  7. 前記有機分子アニオンZの量を示すaが0.001≦a≦0.9である、請求項1〜のいずれかに記載の化合物。
  8. 前記有機分子アニオンZの量は、アニオンの総量のうち0.0005〜0.45モル%である、請求項1〜のいずれかに記載の化合物。
  9. 前記第16族元素アニオンどうしのアニオン交換を含むアニオン交換反応により第15族金属サルファハライド及び第15族金属セレノハライドの少なくとも一種を合成するための前駆体である、請求項1〜のいずれかに記載の化合物。
  10. 前記第16族元素アニオンどうしのアニオン交換は、酸素アニオン及び/又はセレンアニオンと硫黄アニオンとをアニオン交換する硫化法、並びに、酸素アニオン及び/又は硫黄アニオンとセレンアニオンとをアニオン交換するセレン化法の少なくとも一種である、請求項に記載の化合物。
  11. 前記有機分子アニオンZのアニオン交換を含むアニオン交換反応により第15族金属サルファハライド及び第15族金属セレノハライドの少なくとも一種を合成するための前駆体である、請求項1〜のいずれかに記載の化合物。
  12. 前記有機分子アニオンZのアニオン交換は、前記有機分子アニオンZと硫黄アニオンとをアニオン交換する硫化法、並びに、前記有機分子アニオンZとセレンアニオンとをアニオン交換するセレン化法の少なくとも一種である、請求項11に記載の化合物。
  13. 第16族元素アニオンどうしのアニオン交換を含むアニオン交換反応により第15族金属サルファハライド及び第15族金属セレノハライドの少なくとも一種を合成する方法であって、
    第15族元素カチオンA、第16族元素アニオンX、第17族元素アニオンY及び有機分子アニオンZから構成される下記一般式(1):
    AXY1−a(Z) (1)
    〔但し、aは0<a<1を示す。〕
    で示される化合物であり、
    前記第15族元素カチオンAは、ビスマス(Bi)カチオン又はアンチモン(Sb)カチオンであり、
    前記第16族元素アニオンXは、酸素(O)アニオン、硫黄(S)アニオン又はセレン(Se)アニオンであり、
    前記第17族元素アニオンYは、臭素(Br)アニオン又はヨウ素(I)アニオンであり、
    前記有機分子アニオンZは、チオシアン酸アニオン(SCN)、シアン化物アニオン(CN)、イソシアン酸アニオン(OCN)、セレノシアン酸アニオン(SeCN)、ギ酸アニオン(CHCOO)又は酢酸アニオン(CH COO)であり、
    (1)前記アニオンXの量は、アニオンの総量のうち35〜65モル%であり、
    (2)前記アニオンYと前記有機分子アニオンZとの合計量は、アニオンの総量のうち35〜65モル%である、
    化合物からなる前駆体を硫化水素及びセレン化水素の少なくとも一種を含有する反応性ガスと接触させることにより第16族元素アニオンどうしのアニオン交換を含むアニオン交換反応を行うことを特徴とする合成方法。
  14. 前記第16族元素アニオンどうしのアニオン交換は、酸素アニオン及び/又はセレンアニオンと硫黄アニオンとをアニオン交換する硫化法、並びに、酸素アニオン及び/又は硫黄アニオンとセレンアニオンとをアニオン交換するセレン化法の少なくとも一種である、請求項13に記載の合成方法。
  15. 前記アニオン交換反応は、セレンアニオン及び硫黄アニオンの少なくとも一種と有機分子アニオンZとのアニオン交換反応を含む、請求項13又は14に記載の合成方法。
  16. 150℃未満の温度条件下で前記アニオン交換反応を行う、請求項1315のいずれかに記載の合成方法。
  17. 0.001〜20MPaの圧力条件下で前記アニオン交換反応を行う、請求項1316のいずれかに記載の合成方法。
  18. 前記ガス中の前記硫化水素及び前記セレン化水素の含有量は、前記硫化水素及び前記セレン化水素のそれぞれについて0.1〜50体積%である、請求項1317のいずれかに記載の合成方法。
  19. 前記アニオン交換反応の反応時間が0.01〜50時間である、請求項1318のいずれかに記載の合成方法。
  20. 前記アニオン交換反応における前記反応性ガスの線流速が0.1〜1000cm/minである、請求項1319のいずれかに記載の合成方法。
  21. 前記第15族金属サルファハライドが、BiSI又はBi1927のいずれかの結晶相を有する、請求項1320のいずれかに記載の合成方法。
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