(実施形態1)
多孔質ハニカムフィルタの製造方法に係る実施形態について、図1〜図19を参照して説明する。まず、本実施形態の製造方法により製造することができる多孔質ハニカムフィルタ1について説明する。図1に例示されるように、フィルタ1は、筒状外皮10、傾斜壁21、平行壁22、及びセル3を有する。本明細書においては、傾斜壁21及び平行壁22のように、ガス流路となるセル3を囲む壁のことを、適宜セル壁2という。
筒状外皮10は、フィルタ1の外周を覆う両端開口の筒状体である。この筒状外皮10の軸方向を本明細書においては軸方向Zという。軸方向Zは、ガス流路を形成するセル3の伸長方向、フィルタ1内に流入する排ガスGの流れ方向、フィルタ1から外部に流出する排ガスGの流れ方向、セル3内を流れる排ガスGの流れ方向等と一致させることができる。傾斜壁21及び平行壁22は、筒状外皮10の内側を区画する。これにより、筒状外皮10の内側には、傾斜壁21及び平行壁22に囲まれた多数のセル3が形成される。
傾斜壁21は、軸方向Zに対して傾斜して伸びる。傾斜壁21は例えば多孔質である。セル3内を流れる排ガスGは多孔質の傾斜壁21を通り抜けることができる。なお、図1は、フィルタ1の斜視図を示し、フィルタ1の内部のセル壁は本来図示されないが、説明の便宜のため一部の傾斜壁21の形成パターンを点線にて示してある。
平行壁22は、軸方向Zに対して平行に伸びる。平行壁22は、排ガスGの流れ方向に対しても例えば平行である。そのため、排ガスGは平行壁22の壁面から内部に侵入しにくい。平行壁22は、排ガスGを透過しても実施的に排ガスを透過しなくてもよい。
平行壁22は傾斜壁21よりも気孔率が低いことが好ましい。この場合には、平行壁の強度を傾斜壁よりも高くすることができる。したがって、傾斜壁21によりPMの捕集を可能にし、平行壁22によりフィルタ1の強度を高めることができる。平行壁22は、多孔質であってもよいが、多孔質である必要はなく、非多孔体、すなわち緻密体であってもよい。
傾斜壁21及び平行壁22の気孔率は、原料組成や各原料粉末の粒径などを調整することにより変更可能である。気孔率は、水銀圧入法による水銀ポロシメータを用いて比較、測定することできる。水銀ポロシメータには、例えば島津製作所製のオートポアIV9500を用いることができる。
図1に例示されるように、フィルタ1は、例えば円柱状であるが、楕円柱状、三角柱状、四角柱状などの他の柱状体であってもよい。フィルタ1は、例えば円筒状のような両端開口の筒状外皮10と、この筒状外皮10の内側を区画するセル壁2とを有する。筒状外皮10の軸方向Zがフィルタ1の軸方向Zでもある。
フィルタ1の軸方向Zにおける両端面11、12におけるセル3の外縁形状は、三角形、正方形、長方形、六角形、八角形等の多角形にすることができる。セル3の外縁形状は、円形、楕円形にすることも可能である。軸方向Zに直交する断面におけるセル3の外縁形状も同様である。
セル3の外縁形状が多角形の場合には、各セル3を囲む複数のセル壁2のうち少なくとも1つのセル壁2を傾斜させて傾斜壁21とすることができる。セル3の外縁形状は、対向する二辺を有する多角形状が好ましい。そして、セル3を囲む対向する2つのセル壁2を傾斜させることにより一対の傾斜壁21を形成する好ましい。この場合には、傾斜壁21を通過する排ガスGの流速のばらつきを小さくして圧力損失を小さくすることができる。同様の観点から、セル3の外縁形状は、図1に例示されるように四角形がより好ましく、対向する一対の傾斜壁21は、両者の壁面距離が両端面11、12のいずれか一方に向かうにつれて近づくように傾斜することがより好ましい。なお、圧力損失を以下、適宜「圧損」という。
以下、フィルタ1の例を詳細に説明する。なお、以下の説明において、Z軸方向と直交し、かつ平行壁22の壁面と平行な方向をY軸方向とし、Z軸方向及びY軸方向のいずれにも直交する方向をX軸方向とする。また、X軸とY軸とを有する平面でのフィルタ断面をXY断面、Y軸とZ軸とを有する平面でのフィルタ断面をYZ断面、X軸とZ軸とを有する平面でのフィルタ断面をXZ断面とする。
図2は、排ガスGの流れ方向に対して平行なYZ平面でのフィルタ1の断面を示す。具体的には、図2には、フィルタ1の軸方向Z、及び平行壁22の壁面と平行なY軸方向を含む平面でのフィルタ1の断面を示す。図2に例示されるように、傾斜壁21は、軸方向Zに対して傾斜しているため、傾斜壁21の傾斜方向Ds1、Ds2は軸方向Zと交わる。傾斜方向Ds1、Ds2は傾斜壁21の斜面方向である。各傾斜壁21は、そのY座標位置が軸方向Zに対して例えば連続的に変化する。対向する一対の傾斜壁21は、例えば両者のY座標位置が両端面11、12のいずれか一方に向かってそれぞれ近づくように連続的に傾斜する。
傾斜壁21は、図2に例示されるようにセル壁2の伸長方向全体に形成されていてもよいが、後述の変形例2に示すように部分的に形成されていてもよい。傾斜壁21は、軸方向Zに対して外観上傾斜していればよく、傾斜壁21の軸方向Zに対する傾斜角度θ1は、特に限定されるわけではないが例えば0.9°以上が好ましい(図9参照)。傾斜角度θ1の上限は、例えば30°未満である。傾斜角度θ1はフィルタ1の寸法、所望の圧損や捕集率等に応じて適宜調整可能である。各傾斜壁21の傾斜角度は、本実施形態のように一定にしてもよいが変化させてもよい。
図2に例示されるように、連続的かつ直線的に傾斜する傾斜壁21を形成することができるが、傾斜が断続的であったり、傾斜角度が段階的に変化したりする傾斜壁を形成することもできる。
図2に例示されるように、各セル3は、対向する一対の傾斜壁21によって挟まれていることが好ましい。また、これら一対の傾斜壁21の傾斜方向Ds1、Ds2は、軸方向Zに対して対称であることが好ましい。この場合は、軸方向Zの所定位置における一対の傾斜壁21をそれぞれ通過する排ガスGの流速のばらつきを小さくすることができる。そのため、圧損をより小さくすることができる。また、一対の傾斜壁21にそれぞれ捕集されるPM量のばらつきが小さくなる。そのため、フィルタ1の加熱時における温度のばらつきを小さくすることができる。傾斜方向Ds1、Ds2は、軸方向Zに対して非対称にすることも可能である。
図3は、排ガスGの流れ方向に平行なXZ平面でのフィルタ1の断面を示す。具体的には、図3には、平行壁22の壁面と直交する平面でのフィルタ1の断面を示し、平行壁22の断面が示されている。図3に例示されるように、各平行壁22は、そのX座標位置が軸方向Zに対して変化せず、例えば一定である。平行壁22も、上述の傾斜壁21と同様に、対向する一対のセル壁2に形成することができる。平行壁22は、その全体が外観上軸方向Zに対して平行であればよく、微小な傾斜や成形時や焼結時に形成されうる波状の部分を含んでいてもよい。
図1、図4〜図8に例示されるように、フィルタ1の端面11、12やXY断面において、平行壁22と傾斜壁21とは互いに直交することが好ましい。この場合には、フィルタ1の強度をより向上させることができる。なお、図5は、軸方向Zにおける中央と流入端面11との中間位置におけるフィルタ1のXY断面を流入端面11側から示す図である。図5のXY断面の軸方向Zにおける位置及び向きは、図2におけるV−V線及び矢印でそれぞれ示される。図6は、軸方向Zの中央位置におけるフィルタ1のXY断面を流入端面11側から示す図である。図6のXY断面の軸方向Zにおける位置及び向きは、図2におけるVI−VI線及び矢印でそれぞれ示される。図7は、軸方向Zにおける中央と流出端面12との中間位置におけるフィルタ1のXY断面を流入端面11側から示す図である。図7のXY断面の軸方向Zにおける位置及び向きは、図2におけるVII−VII線及び矢印でそれぞれ示される。
図4〜図8に例示されるように、フィルタ1は、軸方向Zの両端に排ガスGの流入端面11と流出端面12とを有する。そして、セル3は、流入端面11から流出端面12に向けてセル3内のガス流路断面積Sが小さくなる縮小セル32と、流入端面11から流出端面12に向けてセル3内のガス流路断面積Sが大きくなる拡大セル33とを有する。縮小セル32と拡大セル33とは、1つの傾斜壁21を共有して相互に隣り合って配置されていることが好ましい。この場合には、排ガスGが縮小セル32に流入し、共有の傾斜壁21を通過して隣接の拡大セル33から排出され易くなり、PM捕集率を向上させ、捕集率のばらつきを小さくすることができる。なお、図4〜図8においては、縮小セル32のガス流路断面積をS1とし、拡大セル33のガス流路断面積をS2とする。ガス流路断面積S1は、軸方向Zと直交する断面における縮小セル32の面積であり、ガス流路断面積S2は、軸方向Zと直交する断面における拡大セル33の面積である。
縮小セル32は、ガス流路断面積S1が一定の領域と、ガス流路断面積S1が小さくなる領域とを含んで、ガス流路断面積S1が段階的に小さくなっていてもよい。拡大セル33においては、ガス流路断面積S2が段階的に大きくなっていてもよい。
図2、図4〜図8に例示されるように、縮小セル32と拡大セル33とは、XY平面におけるY軸方向に交互に形成されており、Y軸方向において互いに隣り合っている。一方、XY平面におけるX軸方向においては、縮小セル32同士、又は拡大セル33同士が隣りあっている。このような縮小セル32と拡大セル33の配置構成を採用することにより、後述の傾斜構造体を用いたフィルタ1の製造が可能になる。そのため、フィルタ1の量産性が向上する。
図2、図4に例示されるように、流入端面11においては、縮小セル32のガス流路断面積S1が最大になり、縮小セル32は、流入端面11において開口していることが好ましい。一方、拡大セル33のガス流路断面積S2は、流入端面11において最小になり、拡大セル33を形成する一対の傾斜壁21は、流入端面11において直接接続して流入側接続部214が形成されていることが好ましい。この場合には、拡大セル33は流入端面11で閉塞しており、拡大セル33のガス流路断面積S2は流入端面11において0となる。そのため、流入端面11における開口面積が大きくなり、圧損をより小さくすることができる。
図2、図8に例示されるように、流出端面12においては、縮小セル32のガス流路断面積S1が最小になり、縮小セル32を形成する対向する2つの傾斜壁21は、流出端面12において直接接続して流出側接続部213が形成されていることが好ましい。この場合には、縮小セル32は流出側接続部213により閉塞し、ガス流路断面積S1は流出端面12の流出側接続部213において0とすることができる。一方、拡大セル33のガス流路断面積S2は、流出端面12において最大になり、流出端面12において拡大セル33を開口させることができる。
対向する一対の傾斜壁21の傾斜角度θ1を適宜調整することにより、上述のように、流出端面11又は流入端面12のいずれかにおいて傾斜方向を交わらせことができる。この場合には、傾斜方向が交わる流出端面11又は流入端面12において、一対の傾斜壁21を直接接続させることができる。
本形態のフィルタ1において、各セル3は一対の傾斜壁21と平行壁に囲まれている。したがって、セル3の形状はX軸方向が高さ方向となる三角柱となる。縮小セル32と拡大セル33とはY軸方向、すなわち、平行壁22の壁面と平行方向で、軸方向Zと直交する方向に隣り合い、交互に配置されている。隣り合う縮小セル32と拡大セル33は、1つの傾斜壁21を共有する。
フィルタ1は、コージェライト、SiC、チタン酸アルミ、セリア−ジルコニア固溶体、アルミナ、ムライト等のセラミックス材料により形成される。熱膨張係数が小さく、耐熱衝撃性に優れるという観点から、コージェライトが好ましい。
傾斜壁21と平行壁22は、同じ材料から形成されていてもよいが、異なる材料により形成することもできる。例えば、傾斜壁21をコージェライトのようなセラミックスにより形成し、平行壁22を金属により形成することも可能である。好ましくは、傾斜壁21及び平行壁22の両方がコージェライト結晶相を主成分とするセラミックスよりなることが好ましい。この場合には、傾斜壁21と平行壁22との熱膨張差を小さくすることができるため、クラック等の不具合の発生を防止できる。
平行壁22は、傾斜壁21よりも単位厚み当たりの強度が高い材質によって形成されることが好ましい。この場合には、平行壁22による強度向上効果がより増大する。単位厚みあたりの強度は、例えば、JIS R1601:2008「ファインセラミックスの曲げ強さ試験方法」に則り、支点2点と荷重点1点の3点曲げ強さ評価により測定し、比較することができる。
図10及び図11に例示されるように、傾斜壁21及び平行壁22には、排ガス浄化触媒4を担持することができる。触媒4としては、例えば貴金属を含有する三元触媒がある。触媒性能に優れるという観点から、貴金属としては、Pt、Rh、及びPdのうちの少なくとも1種が好ましい。
図10に例示されるように、傾斜壁21の気孔率を高くすると、触媒4は、傾斜壁21の表面だけでなく内部にも担持される。具体的には、気孔率の高い傾斜壁21は、大きな細孔219を多数有するため、傾斜壁21内における細孔219に面する壁面にも触媒4を担持させることができる。細孔219は、傾斜壁21を通過する排ガスの流路となる。PMの捕集率の向上及び圧損の低減という観点から、傾斜壁21の気孔率は、例えば40〜70%の範囲にすることができる。
一方、図11に例示されるように、平行壁22の気孔率を低くすると、触媒4は、平行壁22の内部には担持されず、ガス流路に面する表面228に担持される。上述のように、傾斜壁21が排ガスを透過できれば、平行壁22は排ガスを透過できなくてもよい。したがって、平行壁22の内部にまで触媒4を担持させる必要もない。例えば傾斜壁21においては、内部まで触媒が担持される程度まで気孔率を高め、平行壁22においては、表面228に触媒が担持される程度まで気孔率を低下させることができる。フィルタ1の強度をより向上させるという観点から、平行壁22の気孔率は、45%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。平行壁22は緻密体であってもよい。つまり、平行壁22の気孔率は0であってもよい。
触媒の担持は、公知の方法によって行うことができる。例えば触媒又はその前駆体を含有する液体中にフィルタを浸漬し、その後フィルタに触媒を焼き付ける方法がある。
上述のようなフィルタ1は、図12〜図19に例示されるように、押出工程、平行部形成工程、及び焼成工程を行うことにより製造される。図12に例示されるように、押出工程においては、坏土20を軸方向Zと直交方向Xに押出成形する。これにより、図12〜図15に例示されるように、多数の傾斜部211と、一対の傾斜部211同士を接続する接続部213、214とを有する傾斜構造体210を得る。傾斜部211は、後述の焼成後に上述の傾斜壁21を形成する。上述の傾斜壁21の接続部213、214と、傾斜部211の接続部213、214は、実質的には同じ構成部位を示すため、本明細書ではこれらを同じ符号にて示す。
坏土20は、例えば傾斜壁形成材料を含有することができる。傾斜壁形成材料は、後述の焼成後に傾斜壁21を形成する材料であり、例えば後述のコージェライト原料を含有する。
坏土20は、例えば次のようにして製造される。まず、シリカ、水酸化アルミニウム、タルク等の原料粉末を、コージェライト組成となるように配合したコージェライト原料を準備する。コージェライト原料としては、その他にもカオリン、アルミナ等を用いることもできる。コージェライト原料は、焼成後の最終的な組成が、例えばSiO2:47〜53質量%、Al2O3:32〜38質量%、MgO:12〜16質量%となるように、原料粉末の組成を調整することができる。
次に、粉末状のコージェライト原料に、水、メチルセルロースを加えて混練し、粘土状の坏土20を得る。坏土20には、増粘剤、分散剤、有機バインダ、造孔材、界面活性剤等を添加することもできる。
坏土20は、上述のようにコージェライト原料を含むことが好ましい。この場合には、耐熱衝撃性に優れたコージェライトを含有する傾斜壁21を形成することができる。そのため、フィルタ1の耐熱衝撃性を向上させることができる。コージェライト原料は、焼成後にコージェライト結晶を生成する原料である。コージェライト原料は、例えばMg源、Si源、Al源などを含有することができる。
図16(a)に例示されるように、坏土20は、例えばタルク、カオリンのような板状粒子201を含有することが好ましい。この場合には、坏土20の押出成形により、図16(b)に例示されるように、傾斜部211中の板状粒子201の面内方向を押出方向Xに配向させることができる。面内方向は、板状粒子201の厚み方向と直交する方向である。そのため、コージェライト結晶粒がC軸方向に配向した傾斜壁21を形成することができる。その結果、C軸方向における傾斜壁21の熱膨張が小さくなるため、熱応力を低減することができる。したがって、フィルタ1の耐熱衝撃性の向上が可能になる。板状粒子201は、外観上板状であることを意味し、鱗片状、薄片状等の粒子を含む概念である。
図12に例示されるように、押出成形における坏土12の押出方向Xは、軸方向Zと直交方向である。押出方向Xは、接続部213、214の伸長方向となる。本明細書においては、接続部213、214の伸長方向を押出方向と同じ符号で表し、伸長方向Xと標記する場合がある。
傾斜構造体210は、図12〜図15に例示されるように、多数の傾斜部211と、多数の接続部213、214とを有する。傾斜部211は、軸方向Zに対して傾斜しながら軸方向Zに伸びる。各傾斜部211は、例えば板状であるが、後述の変形例1のように曲面を有していてもよい。Y軸方向において隣接する一対の傾斜部211は相互に対向する対向面を有し、対向面がY軸方向に並列されている。
傾斜部211の軸方向Zに対する傾斜方向Ds1、Ds2は交互に逆である。傾斜方向Ds1、Ds2が交互に逆とは、図14に例示されるように対向する一対の傾斜部211の傾斜方向Ds1、Ds2の交点P1、P2が、交互にZ軸方向における反対側に位置することを意味する。対向する一対の傾斜部211の傾斜方向Ds1、Ds2は、軸方向Zを軸として対称であってもよいし、非対称であってもよい。好ましくは、対称であることがよい。この場合には、軸方向に対して対称な傾斜壁を形成することができる。その結果、上述のように圧損をより低減することができる。
傾斜部211の軸方向に対する傾斜角度は、上述の傾斜壁21の傾斜角度に応じて適宜調整することができる。対向する一対の傾斜部21がなす角度θ2は例えば0.5〜30°の範囲で調整することができる。角度θ2が大きくなりすぎると、フィルタ1の軸方向の長さが小さくなりすぎるので、すすの堆積に伴う圧力損失の変動が大きくなりドライバビリティが悪化するおそれがある。一方、角度θ2が小さくなりすぎると、圧損の低減効果小さくなったり、フィルタ1の軸方向の長さが大きくなりすぎたりするおそれがある。フィルタの小型化及び圧損の低減効果という観点から、角度θ2は0.9〜1.5°であることが好ましい。
図12及び図14に例示されるように、傾斜壁構造体210において対向して隣り合う一対の傾斜部211は、接続部213又は接続部214に向けて相互に近づくように傾斜する。本形態のように、接続部213、214は、傾斜構造体210の軸方向Zの端部に形成することができる。つまり、一対の傾斜部211を、傾斜構造体210の軸方向Zにおける一端又は他端おいて接続させて接続部213、214を形成させることができる。他端傾斜構造体210の軸方向Zの長さは、焼成後の収縮などを考慮しなければ、フィルタ1の軸方向Zの長さと一致する。本実施形態において、上述の傾斜構造体210の一端、他端は、フィルタ1の流入側端面11、流出端面12にそれぞれ相当する。
図12〜図15に例示される傾斜構造体210は、山部Mと谷部Vとを交互に有するということもできる。図14においては、断面図を紙面内において例えば時計と反対回りに90°回転させると山部Mと谷部Vがより明確となる。傾斜構造体210においては、これらの山部M及び谷部Vによって接続部213、214が形成されている。傾斜構造体210は、例えば蛇腹状であり、図14に例示されるように傾斜構造体210の断面はジグザグ状、波形状等になる。山部M及び谷部Vの断面は、2つ直線とこれらの交点によって形成される角部を有していてもよく、後述の変形例1のように、山部及び谷部の断面は、円弧状であってもよい。
図12〜図15に例示されるように、接続部213、214は、対向する一対の傾斜部211を接続する。接続部213、214の伸長方向は押出方向である。具体的には、押出方向は、図12〜図15におけるX軸方向である。
押出工程においては、図14に例示される傾斜構造体210のYZ断面で示される平面体をX軸方向に押し出すことができる。X軸方向は、図14における紙面と直交方向であり、接続部213、214の伸長方向である。傾斜構造体210のYZ断面で示される平面体のことを適宜YZ平面体という。YZ平面体は、蛇腹断面状平面体、波状平面体、ジグザグ状平面体、連結V字状平面体等ということもできる。これにより、傾斜構造体210を得ることができる。このように、YZ平面体をX軸方向に押し出すことにより、押出成形によって傾斜構造体210を得ることができる。その結果、傾斜構造体210の量産性が向上し、フィルタ1の生産性が高まる。
図13に例示されるように、押出成形は、例えば本体51と金型52とを備える押出成形機5を用いて行うことができる。金型52は、傾斜構造体210のYZ断面と同形状の押出孔521を有する。押出孔521は、押出溝、成形溝、スリットともいう。図13に例示されるように、押出孔521は、例えば山形状の孔と谷形状の孔とが交互に連なった構造を有しており、押出孔521の形状は、例えばジグザグ状、波形状である。つまり、押出孔521の形状は、上述の傾斜構造体210のYZ平面体(図14参照)と同形状である。
従来の軸方向に押出を行う一般的な形状の金型においては、スリットが交差し、金型の肉部分が径方向に接続される部分がない構造となる。これに対して、図13に例示されるように、本形態にて用いられる押出用の金型52には、スリットが交差する構造や、金型の肉部分が径方向に接続される部分がない構造などの複雑な構造が生じない。そのため、金型52の構造として、例えば軸方向に異なる形状を組み合わせる必要がなく、一断面形状で構成された比較的簡易な構造の金型52を用いることができる。
押出工程においては、本体51内で混練された坏土12が金型の押出孔521から押し出される。これにより、上述の傾斜構造体210を得ることができる。傾斜構造体210は、YZ平面体がX軸方向に伸びる連続構造体であるため、上記のようにX軸方向を押出方向にすることにより、押出成形機5による成形が可能である。
次いで、マイクロ波乾燥によって、傾斜構造体210を乾燥、収縮させる。その後、フィルタ1の軸方向と直交方向における所望の寸法よりも大きくなるように切断することができる。本形態においては、所望の円柱形状のフィルタ1の直径よりも大きな長さになるように傾斜構造体210を切断する。
次に、図17(a)、図17(b)、図18に例示されるように、平行部形成工程を行う。平行部形成工程においては、焼成により上述の平行壁22となる複数の平行部221を形成する。これにより、図19(a)に例示されるように傾斜部211と平行部221とを有するハニカム成形体100を得ることができる。平行部形成工程においては、接続部213、214の伸長方向Xと直交する面を有する複数の平行部221を形成することができる。平行部221は、後述の平行壁形成材料を含有することができる。
本形態において、平行部形成工程は、硬化工程と排出工程とを有する。硬化工程においては、図17(a)に例示されるように、硬化工程においては、傾斜構造体210を接続部213、214の伸長方向が鉛直となるように配置することができる。この場合には、後述の平行壁形成材料220の充填が容易になる。また、後述の光照射中において、自重により傾斜壁形成材料220の形状を保持できるため、硬化を容易に行うことができる。鉛直は重力の方向である。
次いで、傾斜構造体210の傾斜部211間の空間Sp内へ平行壁形成材料220を充填する。平行壁形成材料220は、接続部213,214の伸長方向における所定の高さまで充填する。この高さを適宜調整することにより、平行壁22の形成ピッチを調整することができる。
平行壁形成材料220は、後述の焼成後に平行壁22を形成する材料である。平行壁形成材料220は、金属材料、セラミックス材料等を含有することができる。これにより、金属、セラミックス等からなる平行壁22を形成することができる。
好ましくは、平行壁形成材料220は、コージェライト原料を含有することがよい。この場合には、コージェライト結晶を含有する平行壁22を形成することができる。そして、傾斜壁21と平行壁22をコージェライトにより形成する場合には、傾斜壁21と平行壁22との熱膨張差を小さくすることができると共に、耐熱衝撃性を向上させることができる。コージェライト原料としては、上述の傾斜部211と同様のものが例示できる。
次いで、図17(a)に例示されるように、傾斜部211間に充填された平行壁形成材料220に光LSを照射する。光LSは例えばレーザ光である。これにより、平行壁形成材料220における光照射面からレーザ光の透過強度に応じた厚みまでを硬化させることができる。平行壁形成材料220の充填、レーザ光の照射を繰り返すことで所望の厚みの平行部221を形成することができる。その結果、図17(b)に例示されるように、平行部221を形成することができる。平行部221は、平行壁形成材料220の硬化物からなる。
レーザ光LSの照射方向は、鉛直方向であることが好ましい。この場合には、硬化後に形成される平行部221の厚みの調整が容易になる。その結果、均一な厚みの平行部221を容易に形成することができる。レーザ光LSの照射は、例えば鉛直方向の上から下に向けて行うことができる。
平行部221の厚みは、所望の平行壁22の厚みに応じて適宜調整することができる。平行部221の厚みは、例えば平行壁形成材料の組成、レーザ光LSの強度、照射時間などにより制御することができる。
平行壁形成材料220は、光硬化性有機成分を含有することが好ましい。この場合には、レーザ光LSの照射により、平行壁形成材料220を容易に硬化させることができる。光硬化性有機成分は、例えば光硬化性樹脂である。平行壁形成材料220中の光硬化性有機成分樹脂の含有量は、レーザ照射により平行壁形成材料220の硬化が可能であれば、できるだけ少ないことが好ましい。この場合には、平行壁22の緻密性を高めてフィルタ1の強度を高めることができる。平行部221は、例えば板状であり、水平方向と平行な面を有する。
次いで、図18に例示させるように、傾斜部211の間に形成された平行部221上に平行壁形成材料220をさらに充填する。そしてこの平行壁形成材料220にレーザ光LSを照射する。これにより、平行壁形成材料220を所定の厚み分だけ硬化させる。このようにして、傾斜部211間に平行部221をさらに形成する。
図17及び図18に例示されるように、平行壁形成材料220の充填と光LSの照射とを繰り返し行う。これにより、傾斜部211間に多数の平行部221を形成することができる。
平行部221の形成後には、除去工程を行うことができる。除去工程においては、傾斜構造体210の傾斜部211間から未硬化の平行壁形成材料220を排出させる。未硬化の平行壁形成材料220の除去は、全ての平行部221の形成後に行っても、各平行部221の形成後に行ってもよい。これにより、傾斜部211と平行部221とに囲まれる多数のセル3が形成される。このようにして、図19(a)に例示されるように、ハニカム成形体100を得ることができる。
未硬化の平行壁形成材料220の除去は、ハニカム成形体100を傾けることによって容易に行うことができる。この場合には、端面11、12におけるセル3の開口部から平行壁形成材料220を容易に取り除くことができる。さらに、エアブロー等を併用して平行壁形成材料220の除去を行うこともできる。
上記硬化工程において、充填時における平行壁形成材料220の性状は、特に限定されるわけではなく、例えば粉末状、スラリー状、ゾル溶液状、ガス状等がある。充填時における平行壁形成材料220は、粉末状であることが好ましい。この場合には、平行壁形成材料220の充填が容易になる。また、レーザ光による平行壁形成材料220の硬化が容易になる。さらにこの場合には、上述の除去工程において未硬化の平行壁形成材料220の除去も容易になる。
平行壁形成材料220の平均粒子径は、充填時における充填容易性、光照射による硬化性、除去工程における除去容易性等の観点から適宜調整することができる。充填容易性、硬化性、除去容易性を高めるという観点から、平行壁形成材料220の平均粒子径は1μm〜30μmであることが好ましく、15μm〜25μmであることがより好ましい。平均粒子径は、メジアン径d50のことである。すなわち、平均粒子径は、レーザ回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値50%での粒径を意味する。
図19(a)は、ハニカム成形体100のXY平面図である。図19(a)は、ハニカム成形体100を一方の接続部213又は214側から見た平面図である。図19(a)及び図19(b)において、X軸方向と平行に伸びる直線は、傾斜部211の接続部213、214を示す。これらの直線のうち、太線は紙面の手前側に位置する接続部213を示し、細線は紙面の奥側に位置する接続部214を示す。太線と細線との間は、紙面の手前から奥に向かって伸びる傾斜部211の壁面を示す。Y軸と平行に伸びる直線は、平行部221を示す。
平行部形成工程においては、図19(a)に例示されるように、平行部221を傾斜部211と直交するように形成することが好ましい。この場合には、傾斜壁21と平行壁22とが直交するフィルタを得ることができる。このようなフィルタ1は、強度がより向上する。
平行部221の形成には、例えば3Dプリンタを利用することができる。この場合には、本形態のように光硬化性有機成分を含有する平行壁形成材料220を用いてもよいが、光硬化性有機成分を含有しない平行壁形成材料220を用いることも可能である。平行壁形成材料220が光硬化性有機成分を含有しない場合には、レーザ光LSの光源として、例えばコージェライトが吸収可能なものを選択することができる。このような光源としては、短波長で高エネルギーなものがある。そして、レーザ光LSの照射によりコージェライト原料が発熱し、コージェライト原料を少なくとも部分的に焼結させることにより硬化させることができる。短波長のレーザ光の照射には、例えばフェムト秒レーザを用いることができる。
次に、ハニカム成形体100を所望形状にくり抜くことができる。図19(a)においては、くり抜き形状を破線にて示す。図19(a)に例示されるように、例えば円柱形状にハニカム成形体100をくり抜くことができる。
次いで、筒状部形成工程を行うことにより、図19(b)に例示されるように筒状部110を形成することができる。筒状部110は、ハニカム成形体100の外周を覆う筒状の部分である。筒状部110の形成は、例えばセメンティングにより行うことができる。具体的には、ハニカム成形体100の外周に外皮形成材料を塗布することにより、外皮形成材料を含有する筒状部110を形成することができる。
外皮形成材料は、例えばコージェライト原料を含有することが好ましい。この場合には、フィルタ1の耐熱衝撃性をより向上させることができる。
次に、焼成工程を行う。焼成工程においては、ハニカム成形体100を焼成する。これにより、図1〜図9に例示されるフィルタ1を得ることができる。
焼成工程においては、傾斜部211及び平行部221を焼成することが好ましい。すなわち、傾斜部211及び平行部221の焼結が可能な温度制御によって焼成を行うことが好ましい。この場合には、焼成を1回の工程で行うことが可能になる。そのため、例えば傾斜部211と平行部221とをそれぞれ異なる焼成操作によって焼結させる場合に比べて、製造時における操作を減らすことができる。また、この場合には、傾斜部211と平行部221との接続部の焼成を行うことができる。すなわち、この場合には、傾斜部211と平行部221とこれらの接続部とを一体的に焼成することができる。そのため、焼成後における傾斜壁21と平行壁22との接合強度を高めることができる。なお、傾斜部211及び平行部221が例えば同じ組成のコージェライトのように同じ材料からなる場合には、上述の1回の工程での焼成により、傾斜部211と平行部221とを同時に焼成させることも可能になる。
また、傾斜部211と平行部221とを、それぞれ異なる焼成操作により焼成させることも可能である。具体的には、上述の押出工程後であって平行部形成工程の前に傾斜構造体210を焼成する傾斜部焼成工程を行うことができる。したがって、平行部形成工程において用いられる傾斜構造体210は、未焼成体だけでなく、焼成体をも含む概念である。同様に、ハニカム成形体は、未焼成の傾斜部を有する形態だけでなく、焼成後の傾斜壁を有する形態をも含む概念である。
また、焼成工程の前に上述の筒状部形成工程を行い、焼成工程においては、筒状部110を有するハニカム成形体100を焼成することが好ましい。この場合には、焼成後に得られるフィルタ1における筒状外皮10の接合強度を高めることができる。
フィルタ形状、セル形状などは、適宜変更可能である。また、セルピッチ、セル壁の厚み、傾斜壁の傾斜角度、フィルタ1の長さ、幅などの寸法も適宜変更可能である。
本実施形態の製造方法においては、図12に例示されるように、軸方向Zと直交方向Xに坏土20を押し出している。そのため、押出成形により傾斜構造体210を連続的に生産することが可能である。これは、図12〜図15に例示されるように、傾斜構造体210が複数の傾斜部211と、傾斜部211同士を接続する複数の接続部213、214とを有するためである。このような傾斜構造体210は、上記のごとく軸方向Zと直交方向Xに押出成形を行うこと可能である。
すなわち、図14に例示される傾斜構造体210のYZ平面体を接続部213、214の伸長方向Xに押し出すことができる。その結果、上述のように押出成形による傾斜構造体210の連続的な製造が可能になる。したがって、傾斜構造体210を用いて得られるフィルタ1の生産性が良好になる。
また、押出工程においては、押出成形により傾斜部211を形成している。そのため、坏土20の原料組成、混練条件、気孔制御条件、成形条件などを別途検討することなく、傾斜構造体を製造することができる。つまり、一般的な押出成形によるフィルタの製造と同様の製造条件を適用することができる。したがって、実際の量産上で有利である。
平行部形成工程においては、図17(a)、図17(b)、図18、図19(a)及び図19(b)に例示されるように、焼成後に平行壁となる複数の平行部221を形成する。これにより、平行部221と傾斜部211とを有するハニカム成形体100を得ることができる。平行壁形成材料220と坏土20とは、実質的に同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。すなわち、傾斜壁21と平行壁22とが同じ材料からなるフィルタ1だけでなく、異なる材料からなるフィルタ1を製造することが可能になる。また、平行壁形成材料220と坏土20との間で組成や原料の粒子径などを変更することにより、気孔率などの気孔条件が相互に異なる傾斜壁21及び平行壁22を形成することができる。
本実施形態のフィルタ1は、図1〜図9に例示されるように、傾斜壁21と平行壁22とを有する。傾斜壁21は、軸方向Zに対して傾斜している。そのため、流入端面11に開口する縮小セル32は、流入端面11から流出端面12に向けてガス流路断面積S1が徐々に減少する。一方、流出端面12に開口する拡大セル33は、縮小セル32と相反してガス流路断面積S2が徐々に増大する。これらの縮小セル32と拡大セル33との内圧差が駆動力となり、排ガスGが傾斜壁21を通り抜ける。換言すると、図5〜図7に例示される断面において、密度の濃いドットハッチング領域と密度の薄いドットハッチング領域とが傾斜壁21を介して隣り合っており、これらのハッチング領域の面積S1、S2が異なっている。このような構成が上述の内圧差を発生させる。
つまり、傾斜壁21を挟んで隣接する縮小セル32及び拡大セル33は、それぞれ流入端面11及び下流端面12に開口しており、縮小セル32と拡大セル33との間で内圧差を生じる隣接セル構造をとる。この構造によって排ガスGが傾斜壁21を透過し、排ガスG中のPMが傾斜壁21に捕集される。傾斜壁21の気孔率を適宜調整することにより、捕集率を高めたり、圧損の増大を防止したりすることができる。
一方、図1、図3、図4〜図8に例示されるように、平行壁22を挟んで隣接するセル3間は、いずれも縮小セル32同士又は拡大セル33同士となる。そのため、平行壁22を挟んで隣接するセル3間には内圧差が生じない。したがって、傾斜壁21に比べて平行壁22は排ガスを透過しにくい。図5〜図7においては、密度の濃いドットハッチング領域同士が平行壁22を介して隣り合う縮小セル32同士のガス流路断面積の関係に相当する。密度の薄いドットハッチングの領域同士は、平行壁22を介して隣り合う拡大セル33同士のガス流路断面積の関係に相当する。
上記のように平行壁22には内圧差によるガス透過が発生し難いため、平行壁22の気孔率は傾斜壁21よりも小さくすることができる。これにより、フィルタ1の強度を高めることができる。つまり、平行壁22は、多孔質であってもよいが、多孔質である必要はなく、非多孔体、すなわち緻密体であってもよい。上述のように平行壁22を挟むセル3間には内圧差が生じないため、平行壁22がたとえ多孔質であっても、平行壁22は傾斜壁21よりもガスを透過しにくいセル壁となり、あるいは実質的にガスを透過しないセル壁となる。
平行壁22の気孔率を小さくすると、上述のようにフィルタ1の強度を高めることができる。この場合には、軸方向Zに直交する例えばY軸方向の強度保障ができればよく、平行壁22によって形成される構造体がガス流の抵抗にならないように、できるだけその構造体の体積は小さいことが望ましい。そのため、平行壁22は、軸方向Zに対して平行であり、傾斜壁21に対して直行していることが好ましい。
このように、フィルタ1においては、傾斜壁21及び平行壁22にそれぞれ異なる機能を持たせることができる。例えば傾斜壁21においては圧損の増大を抑制しながら、PMを捕集させ、平行壁22においては実用上十分な強度を持たせることができる。
(実施形態2)
本実施形態においては、実施形態1とは異なる方法により平行部を形成する形態について説明する。なお、本実施形態以降において用いられる符号のうち、既出の実施形態等において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態等におけるものと同様の構成要素等を表す。本形態の平行部形成工程においては、図20(a)、図20(b)、図21(a)、図21(b)に例示されるように、以下の切断工程及び積層工程を行う。
切断工程においては、図20(a)及び図20(b)に例示される傾斜構造体210を軸方向Zに切断する。具体的には、まず、実施形態1と同様にして傾斜構造体210を作製する。傾斜構造体210の切断は、X軸方向と直交する断面、すなわちYZ断面で行うことができる。軸方向Zに切断するとは、軸方向Zと平行に切断すること意味する。傾斜構造体210の切断方向は、接続部213、214の伸長方向Xと直交する方向でもある。
これにより、図20(a)に例示される傾斜構造体210から図20(b)に例示される傾斜構造体片209を複数切り出すことができる。傾斜構造体210の切断は、所望の平行壁22の形成ピッチと例えば同じ幅で行うことができる。傾斜構造体片209の形状は、X軸方向の幅が小さい点を除いて傾斜構造体210と実質的に同じである。したがって、傾斜構造体片209は、傾斜構造体210と同様に傾斜部211及び接続部213、214を有している。
次いで、積層工程を行う。積層工程においては、図21(a)に例示されるように、多数の傾斜構造体片209と多数の成形シート225とを交互に積層する。成形シート225は、平行壁形成材料を含有する。このような成形シート225としては、所謂グリーンシートを用いることができる。
成形シート225は、例えば次の様にして製造される。まず、コージェライト原料と、有機溶媒と、ブチラール系バインダとを混合する。これにより、スラリー状の平行壁形成材料を作製する。この平行部形成材料を例えばドクターブレード法により所定厚みのシート状に成形する。このようにして、成形シート225を得ることができる。成形シートの厚みは、焼成後に所望の厚みの平行壁22が形成されるように適宜調整できる。
傾斜構造片209と成形シート225との積層においては、傾斜構造片209の切断面203と成形シート225のシート面226とを当接させる。傾斜構造体片209の切断面203は、図17(b)における例えばジグザグ状、波状のYZ面である。積層工程における積層方向は、図21(a)に例示されるように、傾斜構造片209の接続部213、214の伸長方向と成形シート225の厚み方向とが平行となる方向である。
積層工程を行うことにより、図21(b)に例示されるように、接続部213、214の伸長方向に直交する平行部221を形成することができる。このようにして、傾斜部211と平行部221とを有するハニカム成形体100を得ることができる。平行部221は成形シート225からなる。ハニカム成形体100は、多数の傾斜構造体片209と多数の成形シート225とが交互に積層された積層体からなる。
積層工程においては、傾斜構造体片209と成形シート225との当接面に有機溶剤を塗布することが好ましい。この場合には、傾斜構造体片209と成形シート225との接着性を向上させることができる。そのため、傾斜壁21や平行壁22にクラックが発生したり、変形が発生したりすることを防止できる。
接着性をより向上させるという観点からは、有機溶剤としては、成形シート225の作製時に用いたものと同様又は類似のものを用いることが好ましい。ここで、類似とは、例えば相互に相溶性のある有機溶媒のことを意味する。有機溶剤の塗布は、例えばスプレーにより行うことができる。また、有機溶剤の塗布は、傾斜構造体片209の切断面203に対して行うことができる。また、傾斜構造体片209と成形シート225とを熱圧着により接合させてもよい。この場合にも、クラックの発生や変形を防止することができる。
本形態において得られるハニカム成形体100を用いて、その他は実施形態1と同様の操作を行うことにより、実施形態1と同様のフィルタ1を得ることができる。本形態においては、上述のように成形シート225を用いて平行部221を形成することができる。この成形シート225は、連続的に製造することが可能である。したがって、傾斜壁構造体210だけでなく、成形シート225も連続的に製造することができる。よって、フィルタ1の生産性をさらに高めることが可能になる。
また、本形態の製造方法においては、平行壁22にて区切られる傾斜壁構造を段違いに交差させることができる。そのような構造とすることで、流入端面11及び流出端面12における傾斜壁21の流入側接続部214及び流出側接続部213も同様に段違いに形成される。その結果、流入端面11において、平行壁22と傾斜壁21の流入側接続部214との接点数が増大し熱応力を分散させることができる。その他の構成及び作用効果は、実施形態1と同様である。
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。以下、実施形態1及び2の製造方法によって製造可能なフィルタの変形例について説明するが、本発明の製造方法は、これらのフィルタの製造に限定されるものではない。具体的には、傾斜壁21を接続する接続部213、214が軸方向Zと直交方向であるX軸方向に伸びる場合には、本発明の製造方法の適用が可能となる。
(変形例1)
次に、傾斜壁が軸方向の両末端側に曲線的に傾斜するフィルタの例について説明する。図22及び図23に例示されるように、本例のフィルタ1は、傾斜壁21が軸方向Zの流入端面11側又は流出端面12側にそれぞれ湾曲している。
本例のフィルタ1は、実施形態1と同様にXY断面の外縁形状が四角形のセル3を有する。対向する一対のセル壁2が傾斜壁21によって形成されており、対向する残りの一対のセル壁2が平行壁22によって形成されている(図1参照)。図22に例示されるように対向する2つの傾斜壁21は、軸方向Zの中央部分においては直線的に傾斜しているが、図22及び図23に例示されるように、流入端面11側、流出端面12側に向けて曲線的に傾斜する。
より具体的には、軸方向Zに伸びる傾斜壁21は、流入端面11側に向けて曲線的に傾斜する流入側曲線傾斜領域Acfと、流出端面12側に向けて曲線的に傾斜する流出側曲線傾斜領域Acrとを有する。縮小セル32においては、一対の傾斜壁21が流出側曲線傾斜領域Acrにおいて接続して流出側接続部213が形成されている。一方、拡大セル33においては、一対の傾斜壁21が流入側曲線傾斜領域Acfにおいて接続して流入側接続部214が形成されている。その結果、流入側接続部214及び流出側接続部213は湾曲構造になっている。流入側曲線傾斜領域Acfと流出側曲線傾斜領域Acrとの間の傾斜壁21は、直線的に傾斜する。
上記のように傾斜壁21が両端面11、12側に湾曲しているため、傾斜壁21の接平面TPと軸方向Zとのなす角αが軸方向の両端面11、12に向かって大きくなる。具体的には、図23に例示されるように、軸方向Zのより端面11、12側における接平面TP2と軸方向Zとのなす角α2と、接平面TP2よりも軸方向Zの内部における接平面TP1と軸方向Zとのなす角α1とがα1<α2の関係を満足する。
本例のように、傾斜壁21は、曲面を有していてもよく、図22及び図23に例示されるようにYZ断面において傾斜壁21が曲線状に傾斜して湾曲している場合には、傾斜壁21を通過する排ガスの流速のバラツキをより小さくすることができる。後述の実験例で示すように、実施形態1及び後述の変形例2のフィルタ1に比べて、最もばらつきが小さくなる。そのため、圧損を十分に低下させつつ、優れた捕集率を示すことができる。
また、図22に例示されるように、曲線状に傾斜する一対の傾斜壁21は、傾斜方向が軸方向Zに対して対称であり、流入端面11で接続する。その結果、流入側曲線傾斜領域Acfにおいては、セル3のガス流路断面積が流入端面11側に向かうにつれて増大し、その増大量も流入端面11側に向かうにつれて大きくなる。流出側曲線傾斜領域Acr側についても同様である。したがって、流入端面11及び流出端面12におけるセル3の開口面積がより大きくなり、その結果圧損をより小さくできると考えられる。なお、曲線状に傾斜する傾斜壁21の傾斜方向は、接線方向のことを意味する。したがって、傾斜方向が軸方向Zに対して対称であることは、曲線状の傾斜壁21上における各接線が対称であることを意味するが、厳密に全ての接線が対称でなくとも外観上実質的に対称であればよい。
また、図22においては、流入側曲線傾斜領域Acfと流出側曲線傾斜領域Acrとの間が直線状に傾斜する傾斜壁の例を示したが、直線状に傾斜する領域は必ずしも必要なわけではない。具体的な図示を省略するが、フィルタのYZ断面において、例えば傾斜壁における軸方向の中央に変曲点を設けることができる。これにより、傾斜方向が軸方向に対して互いに対称な流入側曲線傾斜領域Acfと流出側曲線傾斜領域Acrとが変曲点において連結された傾斜壁を形成することが可能になる。
本例のフィルタ1は、図22に例示される傾斜壁21と同様の断面構造を有する傾斜構造体を用いて製造される。具体的には、図22における傾斜壁のYZ平面体をX軸方向に押し出すことにより、傾斜構造体を得ることができる。このようにして得られた傾斜構造体を用いて、実施形態1又は実施形態2と同様してフィルタ1を製造することができる。その他の構成及び作用効果は、実施形態1、実施形態2と同様である。
(変形例2)
次に、傾斜壁が流入端面及び流出端面よりも軸方向の内側において接続して閉塞したフィルタの例について図24を参照して説明する。本例のフィルタ1は、実施形態1と同様に、外縁が四角形状のセル3を有する。対向する一対のセル壁2が軸方向Zに対して傾斜する傾斜壁21を有し、対向する残りの一対のセル壁2が軸方向Zに対して平行に伸びる平行壁22によって形成されている(図1参照)。図24に例示されるように、軸方向Zに伸びる一対の傾斜壁21は、流入端面11又は流出端面12よりも軸方向Zの内側において接続して接続部213、214が形成されている。
図24に例示される本例のフィルタ1について、傾斜壁21を含み軸方向Zの両端面11、12まで伸びる一続きのセル壁2に着目して説明する。このセル壁2は、軸方向Zの中央において流入側接続部214と流出側接続部214との間に形成された傾斜壁21を有する。さらに、上述の一続きのセル壁2は、傾斜壁21の流入側に連なると共に軸方向Zに対して平行に伸びる流入側平行壁215と、傾斜壁21の流出側に連なると共に軸方向Zに対して平行に伸びる流出側平行壁216とを有する。
傾斜壁21、流入側平行壁215、及び流出側平行壁216は、組成や気孔率などがそれぞれ異なる構成部材によって形成することができる。フィルタ1の製造時に、実施形態1と同様に押出成形により生産性良く傾斜構造体を製造するためには、傾斜壁21、流入側平行壁215、及び流出側平行壁216は、同じ構成部材からなることが好ましい。
また、縮小セル32及び拡大セル33を囲むセル壁の観点から本例のフィルタ1を説明する。流入端面11から排ガスGが流入する縮小セル32は、対向する一対の傾斜壁21と、各傾斜壁21の流入側に連なると共に軸方向Zに対して平行に伸びる一対の流入側平行壁215とを有する。縮小セル32における一対の傾斜壁21は、流出端面12側に向けて互いに近づくように傾斜し、流出端面12よりも軸方向Zの内側において接続する。図24に例示されるように一対の傾斜壁21は例えば直接接続することにより流出側接続部213が形成される。これにより、縮小セル32は流出側接続部213において閉塞している。流出側接続部213は例えば軸方向Zにおける流出端面12寄りに形成することができる。流出側接続部213よりも流出端面12側には、接続した傾斜壁21が1つのセル壁となって軸方向Zに平行に伸びる流出側平行壁216が形成されている。
流出端面12から排ガスGが排出さる拡大セル33は、対向する一対の傾斜壁21と、各傾斜壁21の流出側に連なると共に軸方向Zに対して平行に伸びる一対の流出側平行壁216とを有する。拡大セル33における一対の傾斜壁21は、流入端面11側に向けて互いに近づくように傾斜し、流入端面11よりも軸方向Zの内側において接続する。図24に例示されるように、一対の傾斜壁21は例えば直接接続することにより流入側接続部214が形成される。これにより、拡大セル33は流入側接続部214において閉塞している。流入側接続部214は例えば軸方向Zにおける流入端面11寄りに形成することができる。流入側接続部214よりも流入端面11側には、接続した傾斜壁21が1つのセル壁となって軸方向Zに平行に伸びる流入側平行壁215が形成されている。
縮小セル32及び拡大セル33において、対向する一対の傾斜壁21の傾斜方向は、軸方向Zについて例えば互いに対称にすることができる。縮小セル32及び拡大セル33は、両者の間に共通の傾斜壁21を有して隣り合っており、例えばY軸方向に交互に形成される。
図24に例示されるように、フィルタ1は、傾斜壁21を介して例えばY軸方向に縮小セル32と拡大セル33とが隣り合う連通領域Acと、隣り合わない非連通領域Ancとを有する。連通領域Acは、排ガスGが傾斜壁21を通過す領域であり、縮小セル32内に流入した排ガスGが連通領域Acにおいて傾斜壁21を通過して拡大セル33から排出される。一方、非連通領域Ancにおいては、縮小セル32同士が流入側平行壁215を介して隣り合い、拡大セル33同士が流出側平行壁216を介して隣り合っている。したがって、非連通領域Ancは、排ガスGがセル壁を実質的に通過しない領域となる。連通領域Acは、軸方向Zの中央に形成されており、非連通領域Ancは、軸方向Zの両端面11、12から所定領域にそれぞれ形成される。
流入側平行壁215と流出側平行壁216とは例えば同じ長さであり、流入端面11側及び流出端面12側の非連通領域Ancも例えば同じ長さにすることができる。流入側平行壁215の長さ及び流出側平行壁216の長さは、適宜変更することが可能であり、両者の長さは同じであっても異なっていてもよい。
同じ形状、大きさのフィルタ1において同じセルピッチでセル壁2を形成する場合においては、実施形態1のように傾斜壁21の接続部213、214を流出端面12、流入端面11にそれぞれ形成した場合に比べて(図2参照)、本例のように接続部213、214をそれぞれ流出端面12、流入端面11よりも軸方向Zの内側に形成した場合には(図24参照)、流入端面11、流出端面12でのセル壁2に対するガス透過が発生しない助走区間を設けることができる。この助走区間の存在により、流入端面11でのセル壁2への衝突によるガス乱流の影響によって起こるセル3への流入ロスやガス集中が抑制される。これにより、圧損を低下させることができる。
後述の実験例において示すように、本例のように、直線的に伸びる傾斜壁21が両端面11、12よりも内側で接続している場合には、実施形態1のように両端面11、12において接続している場合程ではないものの、傾斜壁21を通過する排ガスGの流速のバラツキを小さくすることができる。そのため、圧損を低下させつつ、優れた捕集率を示すことが可能になる。
本例のフィルタ1は、図24に例示される断面図において、傾斜壁21、流入側平行壁215、及び流出側平行壁216からなる断面体と同様の断面構造を有する傾斜構造体を用いて製造される。具体的には、図24において、傾斜壁21、流入側平行壁215、及び流出側平行壁216からなるYZ平面体をX軸方向に押し出すことにより、傾斜構造体を得ることができる。このようにして得られた傾斜構造体を用いて、実施形態1又は実施形態2と同様してフィルタ1を製造することができる。その他の構成及び作用効果は、実施形態1、実施形態2と同様である。
(変形例3)
次に、傾斜壁が連結部材によって接続されたフィルタの例について説明する。上述の実施形態1においては、軸方向Zに伸びる対向する一対の傾斜壁21同士が接続部213、214において直接接続していた。本例においては、図25及び図26に例示されるように、例えば端面11、12と平行な連結部材23を介して傾斜壁21が連結されたフィルタ1について説明する。
本例のフィルタ1は、実施形態1と同様にXY断面の外縁形状が四角形のセル3を有する。対向する一対のセル壁2が軸方向Zに対して傾斜する傾斜壁21によって形成されており、対向する残りの一対のセル壁2が軸方向Zに対して平行に伸びる平行壁22によって形成されている(図1参照)。図25及び図26に例示されるように、軸方向Zに伸びる一対の傾斜壁21は、直接交わって接続しておらず、連結部材23を介して連結されている。
縮小セル32は、流出端面12に設けられた流出側連結部材231により閉塞されており、流出側連結部材231により流出側接続部213が形成されている。一方、拡大セル33は、流入端面11に設けられた流入側連結部材232により閉塞されており、流入側連結部材232により流入側接続部214が形成されている。
各傾斜壁21は、流入端面11から流出端面12に向かって連続的にかつ直線的に傾斜している。同じ形状、大きさのフィルタ1において同じセルピッチで傾斜壁21を形成する場合においては、実施形態1のように傾斜壁21が端面11、12において交わって接続する場合に比べて(図2参照)、本例のように傾斜壁21が端面11、12において連結部材23を介して連結される場合には、傾斜壁21の傾斜角度が小さくなる。
連結部材23は、例えば軸方向Zと直交する面を有する。連結部材23は、上述のごとく、流入端面11、12と平行に設けることができるが、一対の傾斜壁21を連結することができれば傾斜していてもよい。連結部材23の材質は、適宜選択可能である。特に限定されるわけではないが、例えば傾斜壁21や平行壁22などと同様にコージェライトによって形成することができる。フィルタ1の製造時に、実施形態1と同様に押出成形により生産性良く傾斜構造体を製造するためには、傾斜壁21及び連結部材23は、同じ構成部材からなることが好ましい。
本例のように、軸方向Zに対して直線的に傾斜して伸びる傾斜壁21を両端面11、12において連結部材23により連結させることができる。上述のごとく、傾斜角度を小さくすることが可能になるため、排ガスGの傾斜壁21内の通過距離が大きくなる。そのため、PMの捕集率の向上が可能になる。
また、連結部材23の気孔率を調整することにより、端面11、12の連結部材23においても、排ガスG中のPMの捕集を行うことが可能になる。傾斜壁21を有するため、各セル3の端面11、12における連結部材23の形成面積は、例えば後述の比較例1のように、傾斜壁21を有しておらず軸方向Zに平行に伸びるセル壁を有するフィルタにおける連結部材23の形成面積に比べて小さくなる。そのため、圧損の低減も可能になる。連結部材23の形成面積は、フィルタ1の端面11、12における連結部材23の面積である。
本例のフィルタ1は、図25に例示される断面図において、傾斜壁21及び連結部材23からなる断面体と同様の断面構造を有する傾斜構造体を用いて製造される。具体的には、図25における傾斜壁21及び連結部材23からなるYZ平面体をX軸方向に押し出すことにより、傾斜構造体を得ることができる。このようにして得られた傾斜構造体を用いて、実施形態1又は実施形態2と同様してフィルタ1を製造することができる。その他の構成及び作用効果は、実施形態1、実施形態2と同様である。
(変形例4)
次に、平行壁の軸方向の端部が軸方向の端面よりも内側に形成されたフィルタの例について説明する。上述の実施形態1においては、平行壁22は、軸方向Zにおける両端面11、12まで形成されていた。本例においては、図27、図28(a)及び図28(b)に例示されるように、平行壁22は、軸方向Zの両端面11、12には到達せず、平行壁22の端部222は、端面11、12よりも軸方向Zの内側にある。
本例のフィルタ1は、実施形態1と同様にXY断面の外縁形状が四角形のセル3を有する。対向する一対のセル壁2が軸方向Zに対して傾斜して伸びる傾斜壁21によって形成されている。一対の傾斜壁21は、流入端面11又は流出端面12まで形成されている。
一方、対向する残りの2つのセル壁2が軸方向Zに対して平行に伸びる平行壁22によって形成されている。図27、図28(a)、図28(b)に例示されるように、一対の平行壁22は、流入端面11又は流出端面12まで到達しておらず、平行壁22の端部222は、端面11、12よりもそれぞれ軸方向Zの内側にある。
図28(a)及び図28(b)に例示されるように、平行壁22は、フィルタ1の軸方向Zの内部における所定の範囲Atに形成されている。平行壁22の形成領域Atは、両端面11、12よりも内側にある。フィルタ1の両端面11、12から内側の所定領域には、平行壁22の非形成領域Antが形成されている。非形成領域Antには、平行壁は形成されていない。
その結果、各セル3は、上述の形成領域Atにおいては一対の傾斜壁21と一対の平行壁22とに囲まれるが、上述の非形成領域Antにおいては一対の平行壁22によって挟まれることなく一対の傾斜壁21によって挟まれて区画される。そして、フィルタ1の両端面11、12には、一対の傾斜壁21に挟まれるともに平行壁22がない拡大セル開口部35が形成される。
上記のように、フィルタ1の端面11、12に拡大セル開口部35を有する場合には、圧損をより低減させることができる。特に、拡大セル開口部35が、流入端面11に形成されている場合には、排ガスが流入する流入端面11における開口面積がより大きくなるため、圧損の低減効果がより顕著になる。
平行壁22の形成領域At、非形成領域Antの軸方向Zにおける長さは、適宜変更可能である。平行壁22よりなる平行壁22は、上述のようにフィルタ強度を向上させることができ、この強度向上効果を十分に得るためには、平行壁22の形成領域Atの長さは、フィルタの軸方向Zにおける全長の80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上がさらに好ましい。
上述の拡大セル開口部35による圧損の低減効果をより十分に得るためには、非形成領域Antの軸方向Zにおける長さは、フィルタの軸方向Zにおける全長の1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、5%以上であることがさらに好ましい。非形成領域Antが軸方向Zにおける両端に形成されている場合には、非形成領域Antの軸方向Zにおける長さは、それぞれの長さのことである。
平行壁22の非形成領Antや、これによって形成される拡大セル開口部35は、軸方向Zの両端面11、12に形成されていてもよいが、一方の端面に形成されていてもよい。上述のように流入端面11の圧損をより低減できるという観点から、平行壁22の非形成領Antや拡大セル開口部35は、少なくとも流入端面11に形成されていることが好ましい。
本例のフィルタ1は、上述の硬化工程において、例えばレーザ光の照射範囲を平行壁22の形成領域Atに限定し、その他は実施形態1と同様にして製造することができる。また、上述の積層工程において、成形シートのZ軸方向の長さを実施形態1よりも短くし、平行壁22の形成領域Atに成形シートを積層する点を除いては、実施形態2と同様にして製造することができる。この場合には、積層体の軸方向の両端面に成形シートが到達していない領域が形成される。その他の構成及び作用効果は、実施形態1、実施形態2と同様である。
(変形例5)
次に、軸方向と直交方向におけるフィルタの断面において、傾斜壁が占める断面積よりも平行壁が占める断面積が小さいフィルタについて説明する。まず、図4〜図8を参照して説明する。
図4〜図8に例示されるように、フィルタ1の軸方向と直交方向の断面においては、傾斜壁21の断面によって形成される領域の面積Saと、平行壁22の断面によって形成される領域の面積Sbが存在する。例えば図5〜図7に示す各断面図において、傾斜壁21の断面は、X軸方向と平行に伸びる領域であり、細かい斜線ハッチングにて示された領域である。この領域が傾斜壁21の断面積Saである。すなわち、フィルタ1の軸方向と直交方向の任意断面において、傾斜壁21の断面積の合計がSaである。
一方、平行壁22の断面は、Y軸方向と平行に伸びる領域であり、粗い斜線ハッチングにて示された領域である。この領域が平行壁22の断面積S2である。すなわち、フィルタ1の軸方向と直交方向の任意断面において、平行壁22の断面積の合計がSbである。
軸方向の任意位置における軸方向と直交方向のフィルタ1の断面において、Sa>Sbの関係を満足することが好ましい。この場合には、フィルタ1内における平行壁22の占有体積を小さくすることができる。そのため、ガスを透過し難い平行壁22によるガス流れの妨げを緩和することができる。これにより、圧損の更なる低減が可能になる。また、排ガスG中のPMは、傾斜壁21に捕集されるため、上記のように平行壁22の占有面積を相対的に減らしても捕集率の低下を防止できる。すなわち、捕集率の低下を防止しつつ、圧損を低下させることができる。
Sa>Sbの関係を満足するために、例えば傾斜壁の数よりも平行壁の数を少なくすることができる。その例を図29に示す。図29は、フィルタ1の端面11、12の正面図を示す。図29において、X軸と平行に伸びる線のうち、太線は、紙面と直交方向における手前にある接続部214、213を示し、細線は、紙面と直交方向における奥にある接続部213、214を示す。流入端面11と流出端面12とでは、X軸方向に平行に伸びる太線と細線の位置が半ピッチずれるが、実質的に等価な図となる。
図29に例示されるフィルタ1は、実施形態1と同様にXY断面の外縁形状が四角形のセル3を有する。対向する一対のセル壁2が軸方向Zに対して傾斜して伸びる傾斜壁21によって形成されている。一方、対向する残りの2つのセル壁2が軸方向Zに対して平行に伸びる平行壁22によって形成されている。
図29に例示されるように、傾斜壁21と平行壁22とは例えば直交する。これらの傾斜壁21及び平行壁22に囲まれるセル3は、端面11、12における外縁形状が四角形となる。本例のフィルタ1は、端面11、12において筒状外皮10の内側を直線的に区画する平行壁22の数が傾斜壁21の数よりも少ない。その結果、流入端面11、流出端面12におけるセル3の開口部の形状は、図29に例示されるように長方形になる。
上述のように平行壁22の数を減らすことにより、Sa>Sbの関係を満足させることができる。そのため、フィルタ1内における平行壁22の占有体積を小さくすることができ、平行壁22によるガス流れの妨げを緩和することができる。そのため、圧損の低下が可能になる。また、この場合には、例えば流入端面11におけるセル3の開口面積を大きくすることができる。かかる観点からも、圧損の更なる低減が可能になる。また、平行壁22の数は、所望の強度を維持できる範囲内において調整することができる。
また、Sa>Sbの関係を満足するための他の構成として、例えば軸方向Zと直交方向におけるフィルタ1の断面において、平行壁22の厚みT2を傾斜壁21の厚みT1よりも小さくすることができる。つまり、T1<T2の関係を満足させればよい。この場合にも、フィルタ1内における平行壁22の占有体積を小さくすることができる。その結果、圧損の更なる低下が可能になる。
本例のようにSa>Sbの関係を満足する場合には、平行壁22を、傾斜壁21よりも単位厚み当たりの強度が高い材質によって形成することが特に好ましい。この場合には、平行壁22自体の強度が向上するため、平行壁22の数を少なくしても強度低下はより一層防止される。したがって、強度低下をより一層防止しつつ圧損の向上が可能になる。
平行壁の数の少ないフィルタ1は、上述の硬化工程において、傾斜部間の空間内への平行壁形成材料の充填高さを例えば実施形態1よりも大きくし、その他は実施形態1と同様にして製造することができる。また、フィルタ1は、上述の切断工程において、傾斜構造体片209を実施形態1よりも大きな幅で行い、その他は実施形態2と同様にして製造することができる。
また、平行壁の厚みは、例えば硬化工程におけるレーザ光の透過強度を変更したり、成形シートの厚みを変更したりすることにより調整することができる。本例において、その他の構成及び作用効果は、実施形態1、実施形態2と同様である。
(比較例1)
次に、実施形態1及び変形例のフィルタとの比較用のフィルタの例について説明する。図30及び図31に例示されるように、本例のフィルタ9は、軸方向Zに傾斜して伸びる傾斜壁を有していない。フィルタ9は、円筒状の外皮90と、外皮内を区画するセル壁91と、セル壁91に囲まれて円筒状の外皮の軸方向Zに伸びるガス流路を形成するセル92とを有する。各セル92は、4つのセル壁91に囲まれており、対向するセル壁91を2組有し、各セル壁91は直交している。軸方向Zと直交する断面でのセル92の形状は、四角形、より具体的には正方形である。
各セル92における軸方向Zにおける両端面93、94のうちのいずれか一方は、ガスを透過しない閉塞部材95によって閉塞している。閉塞部材95が流出端面94に設けられたセル92は、流入端面93には開口しており、排ガスが流入する流入セル921となる。一方、閉塞部材95が流入端面93に設けられたセル92は、流出端面94には開口しており、排ガスが流出する流出セル922となる。
流入セル921と流出セル922とは、交互に近接する。近接する2つの流入セル921と流出セル922とは、1つのセル壁91を共有している。流入セル921に流入した排ガスは、この流入セル921と共有するセル壁91を通過し流出セル922に至る。そして、排ガスGは、流出セル922を通って流出端面94から排出される。
本例のフィルタ9は、セル壁91が軸方向Zに平行に伸び、セル壁91に囲まれたセル92は、上述のように両端面93、94において交互に閉塞している。したがって、流入端面93においては、すべてのセル92のうちの半分が開口するものの、残りの半分は閉塞部材95によって閉塞している。そのため、上述の実施形態1、変形例1〜5のフィルタに比べて流入端面93における圧損が大きくなる。流出端面94においても、セル92の半分が開口し、残りの半分が閉塞する。
図31においては、セル壁91を通過する排ガスGの流速の大きさを、セル壁91を横切る矢印の長さによって表している。以下、セル壁91を通過する排ガスGの流速のことを壁透過流速という。同図に例示されるように、閉塞部材95が設けられた流入端面93及び流出端面94に近づくについて、壁透過速度が大きくなり、フィルタ9の軸方向Zの中央においては、壁透過流速が小さくなる。その結果、壁透過流速のバラツキが大きくなり、圧損が増大する。
(実験例)
本例においては、実施形態1、変形例1、及び変形例2と同様のパターンで形成された傾斜壁を有する3種類のフィルタの壁透過流速をシミュレーションにより計測し、比較例1と比較する。
試料E1は、実施形態1のフィルタに相当し、傾斜壁21が流入端面11から流出端面12まで直線的かつ連続的に傾斜し、対向する傾斜壁21同士が両端面11、12のうち一方において直接接続するフィルタ1である(図1〜図9参照)。本例において壁透過流速の計測に用いた試料E1の実際の形状、寸法は、次の通りである。
試料E1のフィルタ1は、円柱形状であり、直径Φは118.4mm、軸方向Zの長さは118.4mmである。セル壁2の厚み、すなわち、傾斜壁21の厚みT1及び平行壁22の厚みT2は、いずれも0.203mmである(図9、図3参照)。傾斜壁21の接続部213、214におけるY軸方向の厚みT3は0.444mmであり、接続部213、214の軸方向Zの幅W1は0.200mmである(図9参照)。傾斜壁21の傾斜角度θ、すなわち、傾斜壁21と軸方向Zとがなす角度θは0.97°である(図9参照)。端面11、12におけるセル3の外縁形状は正方形であり、外縁の一辺の長さL1は1.576mmである(図4参照)。
試料E2は、変形例1のフィルタに相当し、傾斜壁21が軸方向Zの両端面11、12に曲線的に傾斜し、湾曲構造の接側部213、214を有するフィルタ1である。壁透過流速の計測に用いた試料E2における傾斜壁21の実際の形成パターンを図32に示す。図32において、横軸は流入端面11から流出端面12までのフィルタの軸方向Zの長さを示す。縦軸は、径方向の幅であり、より具体的には、例えば中央に位置する任意の流入側接続部214からのY軸方向の距離を示す。図32において、接続部213、214の厚みが小さくなっているが、接続部213、214の厚みは任意に変更可能である。その他の形状及び寸法は、試料E1と同様である。
試料E3は、変形例2のフィルタに相当し、傾斜壁21が端面11、12よりも軸方向の内側において接続して閉塞したフィルタ1である(図24参照)。壁透過流速の計測に用いた試料E3における各寸法は、次の通りである。流入側接続部214と流出側接続部213との間の軸方向Zにおける距離、すなわち、傾斜壁21が形成された領域の軸方向の長さは108.4mmであり、流入側平行壁215の長さ及び流出側平行壁216の長さはいずれも5.0mmである。傾斜壁21と軸方向Zとのなす角、すなわち傾斜角度は1.06°である。また、試料E3においては、非連通領域Anc=5.0mm、連通領域Ac=108.4mmである(図24参照)。その他の形状及び寸法は、試料E1と同様である。
試料C1は、比較例1のフィルタに相当し、全てのセル壁が軸方向に平行に伸び、両末端において各セルが交互に閉塞部材によって閉塞したフィルタ9である(図30及び図31参照)。壁透過流速の計測に用いた試料C1における各寸法は、傾斜壁がない点を除いて、試料E1と同様である。
試料E1〜E3の各寸法は代表例であり、フィルタ1の寸法はこれらに限定されるものではなく、適宜変更可能である。各試料のフィルタにおける流入端面からの軸方向の距離と、壁透過流速との関係をシミュレーションにより求めた。シミュレーションの測定条件は、以下の通りである。ガス流量:32m3/min、温度:900℃、上流圧力:60kPa。その結果を図33に示す。
試料C1のように、傾斜壁を有しておらず、全てのセル壁91が軸方向Zに対して平行に伸び、各セル92が端面93、94のいずれか一方に設けられた閉塞部材95により閉塞したフィルタ9においては、図33に示されるように壁透過流速のばらつきが大きくなる(図30及び図31参照)。具体的には、流入端面93及び流出端面94に近づくにつれて壁透過流速が大きくなり、各端面93、94において最大になる。一方、軸方向Zの中央において最小になる。試料C1においては、壁透過流速の最小値と最大値の幅が大きく、壁透過流速のばらつきが大きい。そのため、圧損が大きくなる。
一方、試料E1〜試料E3のように、傾斜壁21と、平行壁22とを有するフィルタ1においては、上述の試料C1に比べて壁透過流速のばらつきが小さく、圧損が小さくなる。図33より知られるように、試料E1〜E3を比較すると、壁透過流速のばらつきは、試料E3、試料E1、試料E2の順で小さくなる。
図24に例示されるように、傾斜壁21が端面11、12よりも軸方向Zの内側において接続して閉塞した試料E3のフィルタ1は、傾斜壁21が端面11、12において閉塞する試料E1のフィルタ1に比べて、上述のように流入端面11の開口面積が大きくなる。そのため、図33に示されるとおり、流入端面11側における壁透過流速は試料E3の方が小さくなる。一方、試料E3における傾斜壁21の傾斜角度は、試料E1に比べて大きくなるため、軸方向Zの中央における壁透過流速は試料E3の方が大きくなる。その結果、壁透過流速のバラツキは、試料E1の方が試料E3に比べて小さくなる。
また、試料E2においては、壁透過流速が一定となり、実質的にばらつきがない。その結果、試料E1〜E3の中では圧損を最も低下させることが可能になる。
上述の実施形態1、変形例1〜5のフィルタにおける傾斜壁、接続部、平行壁の構成は適宜組み合わせることができる。例えば、変形例1と変形例2とを組み合わせて、曲線状に傾斜する傾斜壁の接続部214、213を軸方向における内側に形成することも可能である。また、変形例1と変形例3とを組み合わせ、曲線状に傾斜する一対の傾斜壁を、接続部において連結部材を介して接続させることができる。