JP6723296B2 - 磁気記録媒体 - Google Patents

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Description

本発明は、磁気記録媒体に関する。
磁気記録媒体への情報の記録および/または再生は、通常、磁気記録媒体の表面(磁性層表面)と磁気ヘッド(以下、単に「ヘッド」とも記載する。)とを接触させ摺動させることにより行われる。
磁気記録媒体に記録された情報を連続的または断続的に繰り返し再生するためには、磁性層表面とヘッドとの摺動が繰り返される(繰り返し摺動)。このような繰り返し摺動における電磁変換特性の低下を抑制することは、データストレージ用の記録媒体としての磁気記録媒体の信頼性を高めるうえで望ましい。繰り返し摺動における電磁変換特性の低下が少ない磁気記録媒体は、連続的または断続的に再生を繰り返しても優れた電磁変換特性を発揮し続けることができるからである。
繰り返し摺動において電磁変換特性が低下する原因としては、磁性層表面とヘッドとの距離が広がる現象(「スペーシングロス」と呼ばれる。)が発生することが挙げられる。このスペーシングロスの原因としては、再生が繰り返されて磁性層表面とヘッドとが摺動し続ける間に磁気記録媒体由来の異物がヘッドに付着することが挙げられる。こうして発生したヘッド付着物に対する対策としては、従来より、ヘッド付着物を除去する機能を磁性層表面に持たせるために、磁性層に研磨剤を含有させることが行われてきた(例えば特許文献1参照)。
特開2005−243162号公報
磁性層に研磨剤を含有させることは、ヘッド付着物によって発生するスペーシングロスに起因する電磁変換特性の低下を抑制するうえで好ましい。しかるに、従来行われていたように磁性層に研磨剤を含有させることによって達成される水準よりも更に電磁変換特性の低下を抑制することが可能となれば、データストレージ用の記録媒体としての磁気記録媒体の信頼性をより高めることができる。
かかる状況を鑑み、本発明の目的は、磁性層表面とヘッドとの摺動を繰り返しても電磁変換特性の低下が少ない磁気記録媒体を提供することにある。
本発明の一態様は、
非磁性支持体上に磁性層を有する磁気記録媒体であって、
上記磁性層は、強磁性粉末、結合剤および研磨剤を含み、
上記強磁性粉末は強磁性六方晶フェライト粉末であり、
In−Plane法を用いた上記磁性層のX線回折分析により求められる六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)に対する(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)の強度比(Int(110)/Int(114);以下、「XRD(X−ray diffraction)強度比」とも記載する。)は、0.5以上4.0以下であり、
上記磁気記録媒体の垂直方向角型比は、0.65以上1.00以下であり、
脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を上記非磁性支持体上の磁性層側の部分に含み、かつ
上記磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析により得られるC1sスペクトルにおけるC−Hピーク面積率から算出されるC−H由来C濃度(以下、「磁性層のC−H由来C濃度」または単に「C−H由来C濃度」とも記載する。)は、45原子%以上である磁気記録媒体、
に関する。
一態様では、上記垂直方向角型比は、0.65以上0.90以下であることができる。
一態様では、上記磁性層のC−H由来C濃度は、45原子%以上80原子%以下であることができる。
一態様では、上記磁気記録媒体は、上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有することができる。
一態様では、上記磁気記録媒体は、上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有することができる。
一態様では、上記磁気記録媒体は、磁気テープであることができる。
本発明の一態様によれば、磁性層表面とヘッドとを繰り返し摺動させても電磁変換特性の低下が少ない磁気記録媒体を提供することができる。
磁気テープ製造工程の具体的態様の一例(工程概略図)を示す。
本発明の一態様は、非磁性支持体上に磁性層を有する磁気記録媒体であって、上記磁性層は、強磁性粉末、結合剤および研磨剤を含み、上記強磁性粉末は強磁性六方晶フェライト粉末であり、In−Plane法を用いた磁性層のX線回折分析によって求められる六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)に対する(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)の強度比(Int(110)/Int(114))が0.5以上4.0以下であり、上記磁気記録媒体の垂直方向角型比が0.65以上1.00以下であり、脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を上記非磁性支持体上の磁性層側の部分に含み、かつ上記磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析により得られるC1sスペクトルにおけるC−Hピーク面積率から算出されるC−H由来C濃度は45原子%以上である磁気記録媒体に関する。
本発明および本明細書において、「磁性層(の)表面」とは、磁気記録媒体の磁性層側表面と同義である。また、本発明および本明細書において、「強磁性六方晶フェライト粉末」とは、複数の強磁性六方晶フェライト粒子の集合を意味するものとする。強磁性六方晶フェライト粒子とは、六方晶フェライト結晶構造を有する強磁性粒子である。以下では、強磁性六方晶フェライト粉末を構成する粒子(強磁性六方晶フェライト粒子)を、「六方晶フェライト粒子」または単に「粒子」とも記載する。「集合」とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。以上の点は、本発明および本明細書における非磁性粉末等の各種粉末についても同様とする。
本発明および本明細書において、方向および角度に関する記載(例えば垂直、直交、平行等)には、特記しない限り、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。上記誤差の範囲とは、例えば、厳密な角度±10°未満の範囲を意味し、厳密な角度±5°以内であることが好ましく、±3°以内であることがより好ましい。
上記磁気記録媒体は、脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を非磁性支持体上の磁性層側の部分に含む。本発明および本明細書において、「非磁性支持体上の磁性層側の部分」とは、非磁性支持体上に直接磁性層を有する磁気テープについては磁性層であり、非磁性支持体と磁性層との間に詳細を後述する非磁性層を有する磁気テープについては、磁性層および/または非磁性層である。以下において、「非磁性支持体上の磁性層側の部分」を、単に「磁性層側の部分」とも記載する。
上記磁気記録媒体に関する本発明者らの推察は、以下の通りである。
上記磁気記録媒体の磁性層は、研磨剤を含む。磁性層に研磨剤を含有させることにより、ヘッド付着物を除去する機能を磁性層表面に付与することができる。ただし、磁性層表面および/または磁性層表面近傍に存在する研磨剤が、磁性層表面とヘッドとの摺動時にヘッドから力を受けて磁性層内部に適度に沈み込まない場合、磁性層表面に突出した研磨剤との接触によってヘッドが削れてしまう(ヘッド削れ)と考えられる。このように発生するヘッド削れを抑制することができれば、スペーシングロスを原因とする電磁変換特性の低下をより一層抑制することが可能になると考えられる。
以上の点に関して、本発明者らは、磁性層に含まれる強磁性六方晶フェライト粉末には、磁性層内部に押し込まれた研磨剤を支えて研磨剤の沈み込みの程度に影響を及ぼす粒子(以下、「前者の粒子」ともいう。)と、影響を及ぼさないか影響が少ないと考えられる粒子(以下、「後者の粒子」ともいう。)とが存在すると推察している。後者の粒子は、例えば磁性層形成用組成物の調製時に行われる分散処理により粒子が一部欠けること(チッピング(chipping))により発生した微細な粒子と考えられる。更に本発明者らは、かかる微細な粒子が多く含まれるほど、理由は明らかではないものの磁性層の強度は低下すると推察している。磁性層の強度の低下は、磁性層表面とヘッドとの摺動時に磁性層表面が削れて(磁性層削れ)発生した異物が磁性層表面とヘッドとの間に介在してスペーシングロスが発生する原因となる。
そして本発明者らは、磁性層に存在する強磁性六方晶フェライト粉末の中で、前者の粒子は、In−Plane法を用いたX線回折分析において回折ピークをもたらす粒子であり、後者の粒子は微細なため回折ピークをもたらさないか回折ピークへの影響は小さいと考えている。そのため、In−Plane法を用いた磁性層のX線回折分析によってもたらされる回折ピークの強度に基づけば、磁性層内部に押し込まれた研磨剤を支えて研磨剤の沈み込みの程度に影響を及ぼす粒子の磁性層における存在状態を制御することができ、その結果、研磨剤の沈み込みの程度を制御することが可能になると本発明者らは推察している。詳細を後述するXRD強度比は、この点に関する指標と本発明者らは考えている。
一方、垂直方向角型比とは、磁性層表面に対して垂直な方向で測定される飽和磁化に対する残留磁化の比であって、残留磁化が小さいほど値が小さくなる。上記の後者の粒子は微細であり磁化を保持し難いと考えられるため、磁性層において後者の粒子が多く含まれるほど、垂直方向角型比は小さくなる傾向があると推察される。そのため、垂直方向角型比は、磁性層における微細な粒子(上記の後者の粒子)の存在量の指標になり得ると本発明者らは考えている。そして、かかる微細な粒子が磁性層に多く含まれるほど、磁性層の強度が低下し磁性層表面とヘッドとの摺動時に磁性層表面が削れて発生した異物が磁性層表面とヘッドとの間に介在してスペーシングロスが発生する傾向は強くなると考えられる。
そして上記磁気記録媒体において、XRD強度比および垂直方向角型比がそれぞれ上記範囲にあることが、繰り返し摺動における電磁変換特性の低下を抑制することに寄与すると本発明者らは考えている。これは、XRD強度比を制御することにより主にヘッド削れを抑制することができ、垂直方向角型比を制御することにより主に磁性層削れを抑制することができるためと、本発明者らは推察している。
更に上記磁気記録媒体は、脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を磁性層側の部分に含み、かつ磁性層のC−H由来C濃度が45原子%以上であることが、繰り返し摺動における電磁変換特性の低下をより一層抑制することに寄与すると本発明者らは考えている。この点について、以下に更に説明する。
「X線光電子分光分析」は、一般にESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)またはXPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)とも呼ばれる分析法である。以下において、X線光電子分光分析を、ESCAとも記載する。ESCAは、測定対象試料表面にX線を照射すると光電子が放出されることを利用する分析法であり、測定対象試料の表層部の分析法として広く用いられている。ESCAによれば、測定対象の試料表面における分析により取得されるX線光電子分光スペクトルを用いて定性分析および定量分析を行うことができる。試料表面から分析位置までの深さ(以下、「検出深さ」とも記載する。)と光電子取り出し角(take−off angle)との間には、一般に次の式:検出深さ≒電子の平均自由行程×3×sinθ、が成立する。式中、検出深さは、X線光電子分光スペクトルを構成する光電子の95%が発生する深さであり、θは光電子取り出し角である。上記の式から、光電子取り出し角が小さいほど試料表面からの深さが浅い部分が分析でき、光電子取り出し角が大きいほど深い部分が分析できることがわかる。そして光電子取り出し角10度でのESCAによって行われる分析では、通常、試料表面から深さ数nm程度のごく表層部が分析位置になる。したがって、磁気記録媒体の磁性層の表面において、光電子取り出し角10度でESCAによって行われる分析によれば、磁性層の表面から深さ数nm程度のごく表層部の組成分析を行うことができる。
上記C−H由来C濃度とは、ESCAによって行われる定性分析により検出される全元素の合計(原子基準)100原子%に対して、C−H結合を構成している炭素原子Cが占める割合である。上記磁気記録媒体は、脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を磁性層側の部分に含む。脂肪酸および脂肪酸アミドは、それぞれ磁気記録媒体において潤滑剤として機能することのできる成分である。これら成分の一種以上を磁性層側の部分に含む磁気記録媒体の磁性層の表面において、光電子取り出し角10度でESCAによって行われる分析により得られるC−H由来C濃度は、磁性層のごく表層部における上記成分(脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上)の存在量の指標になるものであると、本発明者らは考えている。詳しくは、次の通りである。
ESCAによって行われる分析により得られるX線光電子分光スペクトル(横軸:結合エネルギー、縦軸:強度)の中で、C1sスペクトルは、炭素原子Cの1s軌道のエネルギーピークに関する情報を含んでいる。かかるC1sスペクトルにおいて、結合エネルギー284.6eV付近に位置するピークが、C−Hピークである。このC−Hピークは、有機化合物のC−H結合の結合エネルギーに由来するピークである。脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を非磁性支持体上の磁性層側の部分に含む磁気テープ(換言すると、脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上が非磁性支持体上の磁性層側の部分から検出される磁気テープ)において、磁性層のごく表層部では、C−Hピークの主要構成成分が脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分であると本発明者らは推察している。そのため、上記のC−H由来C濃度を先に記載したように上記成分の存在量の指標とすることができると本発明者らは考えている。
そして、上記C−H由来C濃度が45原子%以上である状態、即ち磁性層のごく表層部に脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上が多量に存在する状態であることが、磁性層表面とヘッドとの円滑な摺動を促進する(摺動性を向上させる)ことに寄与すると本発明者らは考えている。摺動性を向上させることができれば、磁性層表面とヘッドとの摺動時に磁性層表面がダメージを受けて磁性層削れが発生することを抑制することができると考えられる。このことが、磁性層削れにより生じた異物によってスペーシングロスが発生して繰り返し摺動において電磁変換特性が低下することを抑制することにつながると、本発明者らは推察している。
以上が、上記磁気記録媒体において、磁性層表面とヘッドとの摺動を繰り返しても電磁変換特性の低下を抑制することができることに関する本発明者らの推察である。ただし本発明は、上記推察によって何ら限定されない。
以下、上記磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。なお本明細書には、本発明者らの推察が含まれる。かかる推察に、本発明は何ら限定されるものではない。
[XRD強度比]
上記磁気記録媒体は、磁性層に強磁性六方晶フェライト粉末を含む。XRD強度比は、強磁性六方晶フェライト粉末を含む磁性層をIn−Plane法を用いてX線回折分析することによって求められる。以下において、In−Plane法を用いて行われるX線回折分析を、「In−Plane XRD」とも記載する。In−Plane XRDは、薄膜X線回折装置を用いて、以下の条件で、磁性層表面にX線を照射して行うものとする。磁気記録媒体は、テープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)とディスク状の磁気記録媒体(磁気ディスク)とに大別される。測定方向は、磁気テープについては長手方向、磁気ディスクについては半径方向とする。
Cu線源使用(出力45kV、200mA)
Scan条件:20〜40degreeの範囲を0.05degree/step、0.1degree/min
使用光学系:平行光学系
測定方法::2θχスキャン(X線入射角0.25°)
上記条件は、薄膜X線回折装置における設定値である。薄膜X線回折装置としては、公知の装置を用いることができる。薄膜X線回折装置の一例としては、リガク社製SmartLabを挙げることができる。In−Plane XRDの分析に付す試料は、測定対象の磁気記録媒体から切り出した媒体試料であって、後述する回折ピークが確認できればよく、その大きさおよび形状は限定されるものではない。
X線回折分析の手法としては、薄膜X線回折と粉末X線回折が挙げられる。粉末X線回折は粉末試料のX線回折を測定するのに対し、薄膜X線回折によれば基板上に形成された層等のX線回折を測定することができる。薄膜X線回折は、In−Plane法とOut−Of−Plane法とに分類される。測定時のX線入射角は、Out−Of−Plane法では5.00〜90.00°の範囲であるのに対し、In−Plane法では通常0.20〜0.50°の範囲である。本発明および本明細書におけるIn−Plane XRDでは、上記の通りX線入射角は0.25°とする。In−Plane法は、Out−Of−Plane法と比べてX線入射角が小さいためX線の侵入深さが浅い。したがって、In−Plane法を用いるX線回折分析(In−Plane XRD)によれば、測定対象試料の表層部のX線回折分析を行うことができる。磁気記録媒体試料については、In−Plane XRDによれば磁性層のX線回折分析を行うことができる。上記のXRD強度比とは、かかるIn−Plane XRDにより得られたX線回折スペクトルの中で、六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)に対する(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)の強度比(Int(110)/Int(114))である。Intは、Intensity(強度)の略称として用いている。In−Plane XRDにより得られるX線回折スペクトル(縦軸:Intensity、横軸:回折角2θχ(degree))において、(114)面の回折ピークは、2θχが33〜36degreeの範囲で検出されるピークであり、(110)面の回折ピークは、2θχが29〜32degreeの範囲で検出されるピークである。
回折面の中で、六方晶フェライト結晶構造の(114)面は、強磁性六方晶フェライト粉末の粒子(六方晶フェライト粒子)の磁化容易軸方向(c軸方向)近くに位置する。また、六方晶フェライト結晶構造の(110)面は、磁化容易軸方向と直交する方向に位置する。
磁性層に含まれる六方晶フェライト粒子の中で先に記載した前者の粒子が、磁化容易軸方向と直交する方向が磁性層表面に対してより平行に近い状態で存在するほど、研磨剤が六方晶フェライト粒子によって支えられて磁性層内部へ沈み込み難いと本発明者らは考えている。これに対し、磁性層において前者の粒子が、磁化容易軸方向と直交する方向が磁性層表面に対してより垂直に近い状態で存在するほど、研磨剤は六方晶フェライト粉末によって支えられ難く、磁性層内部へ沈み込み易いと本発明者らは考えている。更に本発明者らは、In−Plane XRDによって求められるX線回折スペクトルにおいて、六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)に対する(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)の強度比(Int(110)/Int(114);XRD強度比)が大きいほど、磁化容易軸方向と直交する方向が磁性層表面に対してより平行に近い状態で存在する前者の粒子が磁性層に多く含まれていることを意味し、XRD強度比が小さいほど、そのような状態で存在する前者の粒子が磁性層に少ないことを意味すると推察している。そして、XRD強度比が4.0以下であることは、前者の粒子、即ち磁性層内部に押し込まれた研磨剤を支えて研磨剤の沈み込みの程度に影響を及ぼす粒子が研磨剤を支え過ぎず、その結果、磁性層表面とヘッドとの摺動時に研磨剤が適度に磁性層内部に沈み込むことができると考えられる。このことが、磁性層表面とヘッドとの摺動を繰り返してもヘッド削れを発生し難くすることに寄与すると、本発明者らは推察している。一方、磁性層表面とヘッドとの摺動時、磁性層表面に研磨剤が適度に突出した状態にあることは、磁性層表面とヘッドとが接触(真実接触)する面積を低減することに寄与すると考えられる。真実接触面積が大きいほど磁性層表面とヘッドとの摺動時にヘッドから磁性層表面に加わる力が強くなり、磁性層表面がダメージを受けて磁性層表面が削れる原因になると考えられる。この点に関し、XRD強度比が0.5以上であることは、磁性層表面とヘッドとの摺動時に研磨剤が磁性層表面に適度に突出した状態にある程度に、先に記載した前者の粒子が研磨剤を支えることができる状態で磁性層に存在していることを示していると本発明者らは推察している。
XRD強度比は、電磁変換特性の低下をより一層抑制する観点から、3.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましい。また、同様の観点から、XRD強度比は、0.7以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましい。XRD強度比は、例えば、磁気記録媒体の製造工程において行われる配向処理の処理条件によって制御することができる。配向処理としては、垂直配向処理を行うことが好ましい。垂直配向処理は、好ましくは、湿潤状態(未乾燥状態)の磁性層形成用組成物の塗布層の表面に対して垂直に磁場を印加することにより行うことができる。配向条件を強化するほど、XRD強度比の値は大きくなる傾向がある。配向処理の処理条件としては、配向処理における磁場強度等が挙げられる。配向処理の処理条件は特に限定されるものではない。0.5以上4.0以下のXRD強度比が実現できるように配向処理の処理条件を設定すればよい。一例として、垂直配向処理における磁場強度は、0.10〜0.80Tとすることができ、または0.10〜0.60Tとすることもできる。磁性層形成用組成物における強磁性六方晶フェライト粉末の分散性を高めるほど、垂直配向処理によりXRD強度比の値は大きくなる傾向がある。
[垂直方向角型比]
垂直方向角型比とは、磁気記録媒体の垂直方向において測定される角型比である。角型比に関して記載する「垂直方向」とは、磁性層表面と直交する方向をいう。例えば磁気記録媒体がテープ状の磁気記録媒体、即ち磁気テープである場合には、垂直方向は、磁気テープの長手方向と直交する方向でもある。垂直方向角型比は、振動試料型磁束計を用いて測定される。詳しくは、本発明および本明細書における垂直方向角型比は、振動試料型磁束計において、23℃±1℃の測定温度において、磁気記録媒体に外部磁場を最大外部磁場1194kA/m(15kOe)かつスキャン速度4.8kA/m/秒(60Oe/秒)の条件で掃引して求められる値であって、反磁界補正後の値とする。測定値は、振動試料型磁束計のサンプルプローブの磁化をバックグラウンドノイズとして差し引いた値として得るものとする。
上記磁気記録媒体の垂直方向角型比は、0.65以上である。本発明者らは、磁気記録媒体の垂直方向角型比は、磁性層の強度低下を引き起こすと考えられる先に記載した後者の粒子(微細な粒子)の存在量の指標になり得ると推察している。磁気記録媒体の垂直方向角型比が0.65以上である磁性層は、かかる微細な粒子の存在量が少ないため強度が高く、磁性層表面とヘッドとの摺動により削れ難いと考えられる。磁性層表面が削れ難いことにより、磁性層表面が削れて発生した異物によりスペーシングロスが発生して電磁変換特性が低下することを抑制することができると推察される。電磁変換特性の低下をより一層抑制する観点から、上記垂直方向角型比は0.68以上であることが好ましく、0.70以上であることがより好ましく、0.73以上であることが更に好ましく、0.75以上であることが一層好ましい。また、角型比は、原理上、最大で1.00である。したがって、上記磁気記録媒体の垂直方向角型比は1.00以下である。上記垂直方向角型比は、例えば0.95以下、0.90以下、0.87以下または0.85以下であってもよい。ただし、上記垂直方向角型比の値が大きいほど、磁性層中に上記の微細な後者の粒子が少なく磁性層の強度の観点から好ましいと考えられる。したがって、上記垂直方向角型比は、上記例示した上限を上回ってもよい。
上記垂直方向角型比を0.65以上とするためには、磁性層形成用組成物の調製工程において、粒子が一部欠けること(チッピング)によって微細な粒子が発生することを抑制することが好ましいと本発明者らは考えている。チッピングの発生を抑制するための具体的手段は後述する。
[C−H由来C濃度]
上記磁気記録媒体のC−H由来C濃度は、繰り返し摺動における電磁変換特性の低下を抑制する観点から45原子%以上である。C−H由来C濃度は、繰り返し摺動における電磁変換特性の低下をより一層抑制する観点から、48原子%以上であることが好ましく、50原子%以上であることが更に好ましい。また、本発明者らの検討によれば、表面平滑性の高い磁性層の形成容易性の観点から、C−H由来C濃度は、例えば95原子%以下、90原子%以下、85原子%以下、80原子%以下、75原子%以下、70原子%以下または65原子%以下であることが好ましい。
先に記載したように、C−H由来C濃度は、ESCAを用いる分析により求められる値である。分析を行う領域は、磁気記録媒体の磁性層表面の任意の位置の300μm×700μmの面積の領域とする。ESCAによって行われるワイドスキャン測定(パスエネルギー:160eV、スキャン範囲:0〜1200eV、エネルギー分解能:1eV/step)により定性分析を実施する。次いで、定性分析により検出された全元素のスペクトルをナロースキャン測定(パスエネルギー:80eV、エネルギー分解能:0.1eV、スキャン範囲:測定するスペクトルの全体が入るように元素毎に設定。)により求める。こうして得られた各スペクトルにおけるピーク面積から、各元素の原子濃度(atomic concentration、単位:原子%)を算出する。ここでC1sスペクトルのピーク面積から炭素原子の原子濃度(C濃度)も算出される。
更に、C1sスペクトルを取得する(パスエネルギー:10eV、スキャン範囲:276〜296eV、エネルギー分解能:0.1eV/step)。取得したC1sスペクトルを、ガウス−ローレンツ複合関数(ガウス成分70%、ローレンツ成分30%)を用いる非線形最小二乗法によってフィッティング処理し、C1sスペクトルにおけるC−H結合のピークをピーク分離し、分離されたC−HピークのC1sスペクトルに占める割合(ピーク面積率)を算出する。算出されたC−Hピーク面積率を、上記のC濃度に掛けることにより、C−H由来C濃度を算出する。
以上の処理を磁気記録媒体の磁性層表面の異なる位置において3回行って得られた値の算術平均を、C−H由来C濃度とする。また、以上の処理の具体的態様を、後述の実施例に示す。
以上説明したC−H由来C濃度を調整するための好ましい手段としては、詳細を後述するように非磁性層形成工程において冷却工程を実施することを挙げることができる。ただし上記磁気記録媒体は、かかる冷却工程を経て製造されたものに限定されるものではない。
[脂肪酸、脂肪酸アミド]
上記磁気記録媒体は、脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を、非磁性支持体上の磁性層側の部分に含む。上記磁性層側の部分には、脂肪酸および脂肪酸アミドの一方のみが含まれていてもよく、両方が含まれていてもよい。これら成分が磁性層のごく表層部に、C−H由来C濃度が45原子%以上となる量で存在することが、繰り返し摺動における電磁変換特性の低下を抑制することに寄与すると本発明者らは考えている。
脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、エルカ酸、エライジン酸等を挙げることができ、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。脂肪酸は、金属塩等の塩の形態で磁性層の部分に含まれていてもよい。
脂肪酸アミドとしては、例示した上記各種脂肪酸のアミド、具体的には、例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等を挙げることができる。
脂肪酸と脂肪酸の誘導体(アミドおよび後述のエステル等)については、脂肪酸誘導体の脂肪酸由来部位は、併用される脂肪酸と同様または類似の構造を有することが好ましい。例えば、一例として、脂肪酸としてステアリン酸を用いる場合にステアリン酸アミドおよび/またはステアリン酸エステルを併用することは好ましい。
脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を磁性層側の部分に含む磁気記録媒体は、一態様では、脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を含む磁性層形成用組成物を用いて磁性層を形成することによって製造することができる。また、一態様では、脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を含む非磁性層形成用組成物を用いて非磁性層を形成することによって、脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を磁性層側の部分に含む磁気記録媒体を製造することができる。また、一態様では、脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を含む非磁性層形成用組成物を用いて非磁性層を形成し、かつ脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を含む磁性層形成用組成物を用いて磁性層を形成することによって、脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を磁性層側の部分に含む磁気記録媒体を製造することができる。非磁性層は、脂肪酸、脂肪酸アミド等の潤滑剤を保持し磁性層に供給する役割を果たすことができる。非磁性層に含まれる脂肪酸、脂肪酸アミド等の潤滑剤は、磁性層に移行し磁性層に存在し得る。
脂肪酸含有量について、磁性層形成用組成物の含有量は、強磁性六方晶フェライト粉末100.0質量部あたり、例えば0.1〜10.0質量部であり、好ましくは1.0〜7.0質量部である。磁性層形成用組成物に二種以上の異なる脂肪酸を添加する場合、含有量とは、それら二種以上の異なる脂肪酸の合計含有量をいうものとする。この点は、他の成分についても同様である。また、本発明および本明細書において、特記しない限り、ある成分は、一種のみ用いてもよく二種以上用いてもよい。
磁性層形成用組成物中の脂肪酸アミド含有量は、強磁性六方晶フェライト粉末100.0質量部あたり、例えば0.1〜3.0質量部であり、好ましくは0.1〜1.0質量部である。
一方、非磁性層形成用組成物中の脂肪酸含有量は、非磁性粉末100.0質量部あたり、例えば1.0〜10.0質量部であり、好ましくは1.0〜7.0質量部である。また、非磁性層形成用組成物中の脂肪酸アミド含有量は、非磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0.1〜3.0質量部であり、好ましくは0.1〜1.0質量部である。
以下、上記磁気記録媒体について、更により詳細に説明する。
[磁性層]
<強磁性六方晶フェライト粉末>
上記磁気記録媒体の磁性層は、強磁性粉末として強磁性六方晶フェライト粉末を含む。強磁性六方晶フェライト粉末に関して、六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。上記磁性層に含まれる強磁性六方晶フェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。また、六方晶フェライトの結晶構造には、構成原子として、鉄原子および二価金属原子が含まれる。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、バリウム原子、ストロンチウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。例えば、二価金属原子としてバリウム原子を含む六方晶フェライトは、バリウムフェライトであり、ストロンチウム原子を含む六方晶フェライトは、ストロンチウムフェライトである。また、六方晶フェライトは、二種以上の六方晶フェライトの混晶であってもよい。混晶の一例としては、バリウムフェライトとストロンチウムフェライトの混晶を挙げることができる。
強磁性六方晶フェライト粉末の粒子サイズの指標としては、活性化体積を用いることができる。「活性化体積」とは、磁化反転の単位である。本発明および本明細書に記載の活性化体積は、振動試料型磁束計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで雰囲気温度23℃±1℃の環境下で測定し、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。
Hc=2Ku/Ms{1−[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2
[上記式中、Ku:異方性定数、Ms:飽和磁化、k:ボルツマン定数、T:絶対温度、V:活性化体積、A:スピン歳差周波数、t:磁界反転時間]
高密度記録化を達成するための方法としては、磁性層に含まれる強磁性粉末の粒子サイズを小さくし、磁性層の強磁性粉末の充填率を高める方法が挙げられる。この点から、強磁性六方晶フェライト粉末の活性化体積は、2500nm以下であることが好ましく、2300nm以下であることがより好ましく、2000nm以下であることが更に好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、活性化体積は、例えば800nm以上であることが好ましく、1000nm以上であることがより好ましく、1200nm以上であることが更に好ましい。
強磁性六方晶フェライト粉末を構成する粒子の形状は、強磁性六方晶フェライト粉末を透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして得た粒子写真において、デジタイザーで粒子(一次粒子)の輪郭をトレースして特定するものとする。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。透過型電子顕微鏡を用いる撮影は、加速電圧300kVで透過型電子顕微鏡を用いて直接法により行うものとする。透過型電子顕微鏡観察および測定は、例えば日立製透過型電子顕微鏡H−9000型およびカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を用いて行うことができる。強磁性六方晶フェライト粉末を構成する粒子の形状に関して、「板状」とは、対向する2つの板面を有する形状をいう。一方、そのような板面を持たない粒子形状の中で、長軸と短軸の区別のある形状が「楕円状」である。長軸とは、粒子の長さを最も長く取ることができる軸(直線)として決定する。一方、短軸とは、長軸と直交する直線で粒子長さを取ったときに長さが最も長くなる軸として決定する。長軸と短軸の区別がない形状、即ち長軸長=短軸長となる形状が「球状」である。形状から長軸および短軸が特定できない形状を不定形と呼ぶ。上記の粒子形状特定のための透過型電子顕微鏡を用いる撮影は、撮影対象粉末に配向処理を施さずに行う。磁性層形成用組成物の調製に用いる強磁性六方晶フェライト粉末および磁性層に含まれる強磁性六方晶フェライト粉末の形状は、板状、楕円状、球状および不定形のいずれでもよい。
なお本発明および本明細書に記載の各種粉末に関する平均粒子サイズは、上記のように撮影された粒子写真を用いて、無作為に抽出した500個の粒子について求められた値の算術平均とする。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H−9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を用いて得られた値である。
強磁性六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば特開2011−216149号公報の段落0134〜0136も参照できる。
磁性層における強磁性六方晶フェライト粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50〜90質量%の範囲であり、より好ましくは60〜90質量%の範囲である。磁性層において強磁性六方晶フェライト粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
<結合剤、硬化剤>
上記磁気記録媒体は、磁性層に結合剤を含む。結合剤とは、一種以上の樹脂である。樹脂はホモポリマーであってもコポリマー(共重合体)であってもよい。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選択したものを単独で用いることができ、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010−24113号公報の段落0029〜0031を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。測定条件としては、下記条件を挙げることができる。後述の実施例に示す重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。
GPC装置:HLC−8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL−M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
また、磁性層形成時、上記結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁気記録媒体の製造工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011−216149号公報の段落0124〜0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して、例えば0〜80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0〜80.0質量部の量で添加して使用することができる。
<研磨剤>
上記磁気記録媒体は、磁性層に研磨剤を含む。研磨剤とは、モース硬度8超の非磁性粉末を意味し、モース硬度9以上の非磁性粉末であることが好ましい。研磨剤は、無機物質の粉末(無機粉末)であっても有機物質の粉末(有機粉末)であってもよく、無機粉末であることが好ましい。研磨剤は、モース硬度8超の無機粉末であることがより好ましく、モース硬度9以上の無機粉末であることが更に好ましい。なおモース硬度の最大値は、ダイヤモンドの10である。具体的には、研磨剤としては、アルミナ(Al)、炭化珪素、ボロンカーバイド(BC)、TiC、酸化セリウム、酸化ジルコニウム(ZrO)、ダイヤモンド等の粉末を挙げることができ、中でもアルミナ粉末が好ましい。アルミナ粉末については、特開2013−229090号公報の段落0021も参照できる。また、研磨剤の粒子サイズの指標としては、比表面積を用いることができる。比表面積が大きいほど粒子サイズが小さいことを意味する。BET(Brunauer−Emmett−Teller)法によって一次粒子について測定された比表面積(以下、「BET比表面積」と記載する。)が14m/g以上の研磨剤を使用することが好ましい。また、分散性の観点からは、BET比表面積が40m/g以下の研磨剤を用いることが好ましい。磁性層における研磨剤の含有量は、強磁性六方晶フェライト粉末100.0質量部に対して1.0〜20.0質量部であることが好ましい。
<添加剤>
磁性層には、強磁性六方晶フェライト粉末、結合剤および研磨剤が含まれ、必要に応じて一種以上の添加剤が更に含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれ得る添加剤としては、非磁性粉末、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。例えば、研磨剤を含む磁性層に使用され得る添加剤の一例としては、特開2013−131285号公報の段落0012〜0022に記載の分散剤を、磁性層形成用組成物における研磨剤の分散性を向上させるための分散剤として挙げることができる。
また、分散剤としては、カルボキシ基含有化合物、含窒素化合物等の公知の分散剤を挙げることもできる。例えば、含窒素化合物は、NHRで表される第一級アミン、NHRで表される第二級アミン、NRで表される第三級アミンのいずれであってもよい。上記において、Rは含窒素化合物を構成する任意の構造を示し、複数存在するRは同一であっても異なっていてもよい。含窒素化合物は、分子中に複数の繰り返し構造を有する化合物(ポリマー)であってもよい。本発明者らは、含窒素化合物の含窒素部が、強磁性六方晶フェライト粉末の粒子表面への吸着部として機能することが、含窒素化合物が分散剤として働くことができる理由と考えている。カルボキシ基含有化合物は、例えばオレイン酸等の脂肪酸を挙げることができる。カルボキシ基含有化合物については、カルボキシ基が強磁性六方晶フェライト粉末の粒子表面への吸着部として機能することが、カルボキシ基含有化合物が分散剤として働くことができる理由と本発明者らは考えている。カルボキシ基含有化合物と含窒素化合物を併用することも、好ましい。
磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、磁性層表面に突起を形成して摩擦特性制御に寄与し得る非磁性粉末(以下、「突起形成剤」とも記載する。)を挙げることができる。そのような非磁性粉末としては、一般に磁性層に使用される各種非磁性粉末を用いることができる。これらは、無機粉末であっても有機粉末であってもよい。一態様では、摩擦特性の均一化の観点からは、かかる非磁性粉末の粒度分布は、分布中に複数のピークを有する多分散ではなく、単一ピークを示す単分散であることが好ましい。単分散粒子の入手容易性の点からは、上記非磁性粉末は無機粉末であることが好ましい。無機粉末としては、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末を挙げることができる。上記非磁性粉末を構成する粒子は、コロイド粒子であることが好ましく、無機酸化物コロイド粒子であることがより好ましい。また、単分散粒子の入手容易性の観点からは、無機酸化物コロイド粒子を構成する無機酸化物は二酸化ケイ素(シリカ)であることが好ましい。無機酸化物コロイド粒子は、コロイダルシリカ(シリカコロイド粒子)であることがより好ましい。本発明および本明細書において、「コロイド粒子」とは、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、トルエンもしくは酢酸エチル、または上記溶媒の二種以上を任意の混合比で含む混合溶媒の少なくとも1つの有機溶媒100mLあたり1g添加した際に、沈降せず分散しコロイド分散体をもたらすことのできる粒子をいうものとする。他の一態様では、上記非磁性粉末は、カーボンブラックであることも好ましい。上記非磁性粉末の平均粒子サイズは、例えば30〜300nmであり、好ましくは40〜200nmである。また、上記非磁性フィラーが、その機能をより良好に発揮することができるという観点から、磁性層における上記非磁性粉末の含有量は、好ましくは強磁性六方晶フェライト粉末100.0質量部に対して、1.0〜4.0質量部であり、より好ましくは1.5〜3.5質量部である。
また、磁性層および詳細を後述する非磁性層の一方または両方には、脂肪酸エステルが含まれていてもよく、含まれなくてもよい。
脂肪酸エステル、脂肪酸および脂肪酸アミドは、いずれも潤滑剤として機能し得る成分である。潤滑剤は、一般に流体潤滑剤と境界潤滑剤とに大別される。そして脂肪酸エステルは流体潤滑剤として機能し得る成分と言われているのに対し、脂肪酸および脂肪酸アミドは、境界潤滑剤として機能し得る成分と言われている。境界潤滑剤は、粉末(例えば強磁性粉末)の表面に吸着し強固な潤滑膜を形成することで接触摩擦を下げることのできる潤滑剤と考えられる。一方、流体潤滑剤は、それ自身が磁性層表面に液膜を形成し、この液膜の流動により摩擦を下げることのできる潤滑剤と考えられる。このように脂肪酸エステルは脂肪酸および脂肪酸アミドとは潤滑剤としての作用が異なると考えられる。そして本発明者らは、磁性層のごく表層部における脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上の存在量の指標と考えられるC−H由来C濃度を45原子%以上とすることが、繰り返し摺動における電磁変換特性の低下を抑制することに寄与すると推察している。
脂肪酸エステルとしては、脂肪酸に関して例示した上記の各種脂肪酸のエステル等を挙げることができる。具体例としては、例えば、ミリスチン酸ブチル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸ブチル(ブチルステアレート)、ネオペンチルグリコールジオレエート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタントリステアレート、オレイン酸オレイル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸イソトリデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸イソオクチル、ステアリン酸アミル、ステアリン酸ブトキシエチル等を挙げることができる。
脂肪酸エステル含有量について、磁性層形成用組成物の脂肪酸エステル含有量は、強磁性六方晶フェライト粉末100.0質量部あたり、例えば0〜10.0質量部であり、好ましくは1.0〜7.0質量部である。
また、非磁性層形成用組成物の脂肪酸エステル含有量は、非磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0〜10.0質量部であり、好ましくは1.0〜7.0質量部である。
磁性層に任意に含まれ得る各種添加剤は、所望の性質に応じて、市販品または公知の方法により製造されたものを適宜選択して使用することができる。
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に設けることができる。
[非磁性層]
次に非磁性層について説明する。
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有していてもよい。非磁性層に含まれる非磁性粉末は、無機粉末でも有機粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2010−24113号公報の段落0036〜0039を参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50〜90質量%の範囲であり、より好ましくは60〜90質量%の範囲である。
非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
本発明および本明細書における非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
[非磁性支持体]
次に、非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)について説明する。
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等を行ってもよい。
[バックコート層]
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有することもできる。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末の一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層に含まれる結合剤、任意に含まれ得る各種添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006−331625号公報の段落0018〜0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目〜第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。上記磁気記録媒体は、非磁性支持体上の磁性層側の部分に脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を含み、これら成分の一種以上をバックコート層にも含むことができ、またはバックコート層には含まないこともできる。
[各種厚み]
上記磁気記録媒体における非磁性支持体および各層の厚みについて、以下に説明する。
非磁性支持体の厚みは、例えば3.0〜80.0μmであり、好ましくは3.0〜50.0μmであり、より好ましくは3.0〜10.0μmである。
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等に応じて最適化することができる。磁性層の厚みは、一般には10nm〜100nmであり、高密度記録化の観点から、好ましくは20〜90nmであり、より好ましくは30〜70nmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。2層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
非磁性層の厚みは、例えば50nm以上であり、好ましくは70nm以上であり、より好ましくは100nm以上である。一方、非磁性層の厚みは、800nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましい。
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1〜0.7μmであることが更に好ましい。
磁気記録媒体の各層および非磁性支持体の厚みは、公知の膜厚測定法により求めることができる。一例として、例えば、磁気記録媒体の厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡を用いて断面観察を行う。断面観察において厚み方向の1箇所において求められた厚み、または無作為に抽出した2箇所以上の複数箇所、例えば2箇所、において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各層の厚みは、製造条件から算出される設計厚みとして求めてもよい。
[製造工程]
<各層形成用組成物の調製>
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含む。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の一種または二種以上を用いることができる。溶媒については、例えば特開2011−216149号公報の段落0153を参照できる。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、結合剤を混練工程、分散工程および分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気記録媒体を製造するためには、従来の公知の製造技術を各種工程において用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報および特開平1−79274号公報を参照できる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を、塗布工程に付す前に公知の方法によってろ過してもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01〜3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
磁性層形成用組成物の分散処理に関しては、先に記載したように、チッピングの発生を抑制することが好ましい。そのためには、磁性層形成用組成物を調製する工程において、強磁性六方晶フェライト粉末の分散処理を二段階の分散処理により行い、第一の段階の分散処理により強磁性六方晶フェライト粉末の粗大な凝集物を解砕した後、分散ビーズとの衝突によって強磁性六方晶フェライト粉末の粒子に加わる衝突エネルギーが第一の分散処理より小さな第二の段階の分散処理を行うことが好ましい。かかる分散処理によれば、強磁性六方晶フェライト粉末の分散性向上とチッピングの発生の抑制とを両立することができる。
上記の二段階の分散処理の好ましい態様としては、強磁性六方晶フェライト粉末、結合剤および溶媒を、第一の分散ビーズの存在下で分散処理することにより分散液を得る第一の段階と、第一の段階で得られた分散液を、第一の分散ビーズよりビーズ径および密度が小さい第二の分散ビーズの存在下で分散処理する第二の段階と、を含む分散処理を挙げることができる。以下に、上記の好ましい態様の分散処理について、更に説明する。
強磁性六方晶フェライト粉末の分散性を高めるためには、上記の第一の段階および第二の段階は、強磁性六方晶フェライト粉末を他の粉末成分と混合する前の分散処理として行うことが好ましい。例えば、研磨剤および上記非磁性粉末を含む磁性層を形成する場合、研磨剤および上記非磁性粉末と混合する前に、強磁性六方晶フェライト粉末、結合剤、溶媒および任意に添加される添加剤を含む液(磁性液)の分散処理として、上記の第一の段階および第二の段階を行うことが好ましい。
第二の分散ビーズのビーズ径は、好ましくは、第一の分散ビーズのビーズ径の1/100以下であり、より好ましくは1/500以下である。また、第二の分散ビーズのビーズ径は、例えば第一の分散ビーズのビーズ径の1/10000以上であることができる。ただし、この範囲に限定されるものではない。例えば、第二の分散ビーズのビーズ径は、80〜1000nmの範囲であることが好ましい。一方、第一の分散ビーズのビーズ径は、例えば0.2〜1.0mmの範囲であることができる。
なお本発明および本明細書におけるビーズ径は、先に記載した粉末の平均粒子サイズの測定方法と同様の方法で測定される値とする。
上記の第二の段階は、質量基準で、第二の分散ビーズが、強磁性六方晶フェライト粉末の10倍以上の量で存在する条件下で行うことが好ましく、10倍〜30倍の量で存在する条件下で行うことがより好ましい。
一方、第一の段階における第一の分散ビーズ量も、上記範囲とすることが好ましい。
第二の分散ビーズは、第一の分散ビーズより密度が小さいビーズである。「密度」とは、分散ビーズの質量(単位:g)を体積(単位:cm)で除して求められる。測定は、アルキメデス法によって行われる。第二の分散ビーズの密度は、好ましくは3.7g/cm以下であり、より好ましくは3.5g/cm以下である。第二の分散ビーズの密度は、例えば2.0g/cm以上であってもよく、2.0g/cmを下回ってもよい。密度の点から好ましい第二の分散ビーズとしては、ダイヤモンドビーズ、炭化ケイ素ビーズ、窒化ケイ素ビーズ等を挙げることができ、密度および硬度の点で好ましい第二の分散ビーズとしては、ダイヤモンドビーズを挙げることができる。
一方、第一の分散ビーズとしては、密度が3.7g/cm超の分散ビーズが好ましく、密度が3.8g/cm以上の分散ビーズがより好ましく、4.0g/cm以上の分散ビーズが更に好ましい。第一の分散ビーズの密度は、例えば7.0g/cm以下であってもよく、7.0g/cm超でもよい。第一の分散ビーズとしては、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ等を用いることが好ましく、ジルコニアビーズを用いることがより好ましい。
分散時間は特に限定されるものではなく、用いる分散機の種類等に応じて設定すればよい。
<塗布工程、冷却工程、加熱乾燥工程>
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010−231843号公報の段落0066を参照できる。
先に記載した通り、上記磁気記録媒体は、一態様では、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性層を有する。かかる磁気記録媒体は、好ましくは、逐次重層塗布により製造することができる。逐次重層塗布を行う製造工程は、好ましくは次のように実施することができる。非磁性層を、非磁性層形成用組成物を非磁性支持体上に塗布することにより塗布層を形成する塗布工程、形成した塗布層を加熱処理により乾燥させる加熱乾燥工程を経て形成する。そして形成された非磁性層上に磁性層形成用組成物を塗布することにより塗布層を形成する塗布工程、形成した塗布層を加熱処理により乾燥させる加熱乾燥工程を経て、磁性層を形成する。
かかる逐次重層塗布を行う製造方法の非磁性層形成工程において、脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を含む非磁性層形成用組成物を用いて塗布工程を行い、かつ塗布工程と加熱乾燥工程との間に、塗布層を冷却する冷却工程を行うことは、脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を非磁性支持体上の磁性層側の部分に含む磁気記録媒体において、C−H由来C濃度を45原子%以上に調整するために好ましい。これは、理由は明らかではないものの、加熱乾燥工程前に非磁性層形成用組成物の塗布層を冷却することにより、加熱乾燥工程における溶媒揮発時に上記成分(脂肪酸および/または脂肪酸アミド)が非磁性層表面に移行しやすくなるためではないかと推察される。ただし推察に過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
また、磁性層形成工程では、強磁性六方晶フェライト粉末、結合剤、脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分、ならびに溶媒を含む磁性層形成用組成物を非磁性層上に塗布することにより塗布層を形成する塗布工程を行い、形成された塗布層を加熱処理により乾燥させる加熱乾燥工程を行うことができる。
以下、上記磁気記録媒体テープの製造方法の具体的態様を、図1に基づき説明する。ただし本発明は、下記具体的態様に限定されるものではない。
図1は、非磁性支持体の一方の面に非磁性層と磁性層とをこの順に有し、他方の面にバックコート層を有する磁気記録媒体を製造する工程の具体的態様を示す工程概略図である。図1に示す態様では、非磁性支持体(長尺フィルム)を、送り出し部から送り出し巻き取り部で巻き取る操作を連続的に行い、かつ図1に示されている各部または各ゾーンにおいて塗布、乾燥、配向等の各種処理を行うことにより、走行する非磁性支持体上の一方の面に非磁性層および磁性層を逐次重層塗布により形成し、他方の面にバックコート層を形成することができる。図1に示す態様は、冷却ゾーンを含む点以外は、塗布型磁気記録媒体の製造のために通常行われる製造工程と同様にすることができる。
送り出し部から送り出された非磁性支持体上には、第一の塗布部において、非磁性層形成用組成物の塗布が行われる(非磁性層形成用組成物の塗布工程)。
上記塗布工程後、冷却ゾーンにおいて、塗布工程で形成された非磁性層形成用組成物の塗布層が冷却される(冷却工程)。例えば、上記塗布層を形成した非磁性支持体を冷却雰囲気中に通過させることにより、冷却工程を行うことができる。冷却雰囲気の雰囲気温度は、好ましくは−10℃〜0℃の範囲とすることができ、より好ましくは−5℃〜0℃の範囲とすることができる。冷却工程を行う時間(例えば、塗布層の任意の部分が冷却ゾーンに搬入されてから搬出されるまでの時間(以下において、「滞在時間」ともいう。))は特に限定されるものではないが、長くするほどC−H由来C濃度が高まる傾向があるため、45原子%以上のC−H由来C濃度が実現できるように必要に応じて予備実験を行う等して調整することが好ましい。冷却工程では、冷却した気体を塗布層表面に吹き付けてもよい。
冷却ゾーンの後、第一の加熱処理ゾーンでは、冷却工程後の塗布層を加熱することにより、塗布層を乾燥させる(加熱乾燥工程)。加熱乾燥処理は、冷却工程後の塗布層を有する非磁性支持体を加熱雰囲気中に通過させることにより行うことができる。ここでの加熱雰囲気の雰囲気温度は、例えば60〜140℃程度である。ただし、溶媒を揮発させて塗布層を乾燥させることができる温度とすればよく、上記範囲の雰囲気温度に限定されるものではない。また任意に、加熱した気体を塗布層表面に吹き付けてもよい。以上の点は、後述する第二の加熱処理ゾーンにおける加熱乾燥工程および第三の加熱処理ゾーンにおける加熱乾燥工程についても、同様である。
次に、第二の塗布部において、第一の加熱処理ゾーンにて加熱乾燥工程を行い形成された非磁性層上に、磁性層形成用組成物が塗布される(磁性層形成用組成物の塗布工程)。
その後、配向処理を行う態様では、磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤状態にあるうちに、配向ゾーンにおいて塗布層中の強磁性六方晶フェライト粉末の配向処理が行われる。配向処理については、特開2010−231843号公報の段落0067の記載をはじめとする各種公知技術を何ら制限なく適用することができる。先に記載したように、配向処理としては垂直配向処理を行うことが、XRD強度比を制御する観点から好ましい。配向処理については、先の記載も参照できる。
配向処理後の塗布層は、第二の加熱処理ゾーンにおいて加熱乾燥工程に付される。
次いで、第三の塗布部において、非磁性支持体の非磁性層および磁性層が形成された面とは反対側の面に、バックコート層形成用組成物が塗布されて塗布層が形成される(バックコート層形成用組成物の塗布工程)。その後、第三の加熱処理ゾーンにおいて、上記塗布層を加熱処理し乾燥させる。
以上の工程により、非磁性支持体の一方の面に非磁性層および磁性層をこの順に有し、他方の面にバックコート層を有する磁気テープを得ることができる。
上記磁気テープを製造するためには、塗布型磁気記録媒体の製造のための公知の各種処理を行うことができる。各種処理については、例えば、特開2010−231843号公報の段落0067〜0069を参照できる。
以上により、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を得ることができる。ただし上記の製造方法は例示であって、XRD強度比、垂直方向角型比および磁性層のC−H由来C濃度を調整可能な任意の手段によって、それらの値をそれぞれ上記範囲に制御することができ、そのような態様も本発明に包含される。
以上説明した本発明の一態様にかかる磁気記録媒体は、例えばテープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)であることができる。磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジに収容されて流通され、使用される。磁気テープには、ドライブにおいてヘッドトラッキングサーボを行うことを可能とするために、公知の方法によってサーボパターンを形成することもできる。磁気テープカートリッジをドライブ(磁気テープ装置等とも呼ばれる。)に装着し、磁気テープをドライブ内で走行させて磁気テープ表面(磁性層表面)と磁気ヘッドとを接触させ摺動させることにより、磁気テープへの情報の記録および再生が行われる。磁気テープに記録された情報を連続的または断続的に繰り返し再生するためには、ドライブ内で磁気テープの走行が繰り返される。本発明の一態様によれば、この繰り返し走行中に磁性層表面とヘッドとが摺動を繰り返しても、電磁変換特性の低下が少ない磁気テープを提供することができる。ただし、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体は、磁気テープに限定されるものではない。摺動型の磁気記録および/または再生装置において使用される各種磁気記録媒体(磁気テープ、ディスク状の磁気記録媒体(磁気ディスク)等)として、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体は好適である。上記の摺動型の装置とは、磁気記録媒体への情報の記録および/または記録された情報の再生を行う際に磁性層表面とヘッドとが接触し摺動する装置をいう。かかる装置には、磁気テープと、情報の記録および/または再生のための1つ以上の磁気ヘッドとが、少なくとも含まれる。
上記摺動型の装置において、磁気テープの走行速度を高速にするほど、情報の記録および記録した情報の再生を、短時間で行うことが可能となる。ここで磁気テープの走行速度とは、磁気テープと磁気ヘッドとの相対速度をいい、通常、装置の制御部において設定される。磁気テープの走行速度を高速にするほど、磁性層表面と磁気ヘッドとの接触時に双方に加わる圧力は大きくなるため、ヘッド削れおよび/または磁性層削れが発生しやすくなる傾向がある。したがって、走行速度が高速になるほど、繰り返し摺動における電磁変換特性の低下がより生じやすいと考えられる。また、磁気記録分野では高密度記録化が求められているものの、記録密度を高めるほど隣接ビットとの信号干渉の影響が大きくなるため、繰り返し摺動によりスペーシングロスが増大したときに電磁変換特性がより低下しやすくなる傾向がある。以上の通り、高速走行化および高密度記録化が進行するほど、繰り返し摺動における電磁変換特性の低下はより顕在化する傾向がある。これに対し、そのような場合であっても、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体によれば、繰り返し摺動における電磁変換特性の低下を抑制することができる。本発明の一態様にかかる磁気テープは、例えば、磁気テープの走行速度が5m/秒以上(例えば5〜20m/秒)の摺動型の装置における使用に好適である。また、本発明の一態様にかかる磁気テープは、例えば、250kfci以上の線記録密度で情報を記録し再生するための磁気テープとして好適である。なお単位kfciとは、線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。線記録密度は、例えば250kfci以上であることができ、300kfci以上であることもできる。また、線記録密度は、例えば800kfci以下であることができ、800kfci超であることもできる。
以下に、本発明を実施例に基づき説明する。ただし、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」の表示は、特に断らない限り、「質量部」、「質量%」を示す。また、以下に記載の工程および評価は、特記しない限り、雰囲気温度23℃±1℃の環境において行った。
[例1]
各層形成用組成物の処方を、下記に示す。
<磁性層形成用組成物の処方>
(磁性液)
板状強磁性六方晶フェライト粉末(M型バリウムフェライト):100.0部
(活性化体積:1500nm
オレイン酸:2.0部
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン製MR−104):10.0部
SONa基含有ポリウレタン樹脂:4.0部
(重量平均分子量70000、SONa基:0.07meq/g)
アミン系ポリマー(ビックケミー社製DISPERBYK−102):6.0部
メチルエチルケトン:150.0部
シクロヘキサノン:150.0部
(研磨剤液)
α−アルミナ:6.0部
(BET比表面積19m/g、モース硬度9)
SONa基含有ポリウレタン樹脂:0.6部
(重量平均分子量70000、SONa基:0.1meq/g)
2,3−ジヒドロキシナフタレン:0.6部
シクロヘキサノン:23.0部
(突起形成剤液)
コロイダルシリカ:2.0部
(平均粒子サイズ80nm)
メチルエチルケトン:8.0部
(潤滑剤および硬化剤液)
ステアリン酸:3.0部
ステアリン酸アミド:0.3部
ステアリン酸ブチル:6.0部
メチルエチルケトン:110.0部
シクロヘキサノン:110.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)L):3.0部
<非磁性層形成用組成物の処方>
非磁性無機粉末 α酸化鉄:100.0部
(平均粒子サイズ10nm、BET比表面積75m/g)
カーボンブラック:25.0部
(平均粒子サイズ20nm)
SONa基含有ポリウレタン樹脂:18.0部
(重量平均分子量70000、SONa基含有量0.2meq/g)
ステアリン酸:1.0部
シクロヘキサノン:300.0部
メチルエチルケトン:300.0部
<バックコート層形成用組成物の処方>
非磁性無機粉末 α酸化鉄:80.0部
(平均粒子サイズ0.15μm、BET比表面積52m/g)
カーボンブラック:20.0部
(平均粒子サイズ20nm)
塩化ビニル共重合体:13.0部
スルホン酸塩基含有ポリウレタン樹脂:6.0部
フェニルホスホン酸:3.0部
シクロヘキサノン:155.0部
メチルエチルケトン:155.0部
ステアリン酸:3.0部
ステアリン酸ブチル:3.0部
ポリイソシアネート:5.0部
シクロヘキサノン:200.0部
<磁性層形成用組成物の調製>
磁性層形成用組成物を、以下の方法によって調製した。
上記磁性液の各種成分を、バッチ式縦型サンドミルによりビーズ径0.5mmのジルコニアビーズ(第一の分散ビーズ、密度6.0g/cm)を使用して24時間分散し(第一の段階)、その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いて濾過することにより分散液Aを調製した。ジルコニアビーズは、強磁性六方晶フェライト粉末の質量に対して、質量基準で10倍量用いた。
その後、分散液Aをバッチ式縦型サンドミルにより表1に示すビーズ径のダイヤモンドビーズ(第二の分散ビーズ、密度3.5g/cm)を使用して表1に示す時間分散し(第二の段階)、遠心分離機を用いてダイヤモンドビーズを分離した分散液(分散液B)を調製した。下記磁性液は、こうして得られた分散液Bである。
研磨剤液は、上記の研磨剤液の各種成分を混合してビーズ径0.3mmのジルコニアビーズとともに横型ビーズミル分散機に入れ、ビーズ体積/(研磨剤液体積+ビーズ体積)が80%になるように調整し、120分間ビーズミル分散処理を行い、処理後の液を取り出し、フロー式の超音波分散濾過装置を用いて、超音波分散濾過処理を施した。こうして研磨剤液を調製した。
調製した磁性液および研磨剤液、ならびに残りの成分をディゾルバー攪拌機に導入し、周速10m/秒で30分間攪拌した後、フロー式超音波分散機により流量7.5kg/分で3パス処理した後に、孔径1μmのフィルタで濾過して磁性層形成用組成物を調製した。
先に記載した強磁性六方晶フェライト粉末の活性化体積は、磁性層形成用組成物の調製に使用した強磁性六方晶フェライト粉末と同じ粉末ロットの粉末を使用して測定し算出した値である。測定は、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで行い、先に記載した関係式から活性化体積を算出した。測定は23℃±1℃の環境で行った。
<非磁性層形成用組成物の調製>
上記の非磁性層形成用組成物の各種成分を、バッチ式縦型サンドミルによりビーズ径0.1mmのジルコニアビーズを使用して24時間分散し、その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いて濾過することにより、非磁性層形成用組成物を調製した。
<バックコート層形成用組成物の調製>
上記のバックコート層形成用組成物の各種成分のうち潤滑剤(ステアリン酸およびステアリン酸ブチル)、ポリイソシアネートならびにシクロヘキサノン200.0部を除いた成分をオープンニーダにより混練および希釈した後、横型ビーズミル分散機によりビーズ径1mmのジルコニアビーズを用い、ビーズ充填率80体積%、ローター先端周速10m/秒で1パスあたりの滞留時間を2分間とし、12パスの分散処理に供した。その後、上記の残りの成分を添加してディゾルバーで撹拌し、得られた分散液を1μmの孔径を有するフィルタを用いて濾過することにより、バックコート層形成用組成物を調製した。
<磁気テープの作製>
図1に示す具体的態様により磁気テープを作製した。詳しくは、次の通りとした。
厚み5.0μmのポリエチレンナフタレート製支持体を送り出し部から送りだし、一方の表面に、第一の塗布部において乾燥後の厚みが100nmになるように非磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。形成した塗布層が湿潤状態にあるうちに雰囲気温度0℃に調整した冷却ゾーンに表5に示す滞在時間で通過させて冷却工程を行い、その後に雰囲気温度100℃の第一の加熱処理ゾーンを通過させ加熱乾燥工程を行い非磁性層を形成した。
その後、第二の塗布部において乾燥後の厚みが70nmになるように上記で調製した磁性層形成用組成物を非磁性層上に塗布し塗布層を形成した。この塗布層が湿潤状態(未乾燥状態)にあるうちに配向ゾーンにおいて表5に示す強度の磁場を、磁性層形成用組成物の塗布層表面に対し垂直方向に印加し垂直配向処理を行った後、第二の加熱処理ゾーン(雰囲気温度100℃)にて乾燥させた。
その後、第三の塗布部において、上記ポリエチレンナフタレート製支持体の非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対の表面に乾燥後の厚みが0.4μmになるように上記で調製したバックコート層形成用組成物を非磁性支持体表面に塗布して塗布層を形成し、形成した塗布層を第三の加熱処理ゾーン(雰囲気温度100℃)にて乾燥させた。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールを用いて、速度80m/分、線圧294kN/m(300kg/cm)、およびカレンダ温度(カレンダロールの表面温度)90℃でカレンダ処理(表面平滑化処理)を行った。
その後、雰囲気温度70℃の環境で36時間加熱処理を行った。加熱処理後1/2インチ(0.0127メートル)幅にスリットした後、市販のサーボライターによって磁性層にサーボパターンを形成した。
以上により、例1の磁気テープを得た。
<電磁変換特性(Signal−to−Noise−Ratio;SNR)低下の評価>
例1の磁気テープの電磁変換特性を、ヘッドを固定した1/2インチ(0.0127メートル)リールテスターを用いて以下の方法により測定した。
磁気テープの走行速度(磁気ヘッド/磁気テープ相対速度)は表5に示す値とした。記録ヘッドとしてMIG(Metal−In−Gap)ヘッド(ギャップ長0.15μm、トラック幅1.0μm)を使い、記録電流は各磁気テープの最適記録電流に設定した。再生ヘッドとしては素子厚み15nm、シールド間隔0.1μmおよびリード幅0.5μmのGMR(Giant−Magnetoresistive)ヘッドを使用した。表5に示す線記録密度で信号の記録を行い、再生信号をシバソク社製のスペクトラムアナライザーで測定した。キャリア信号の出力値と、スペクトル全帯域の積分ノイズとの比をSNRとした。SNR測定のためには、磁気テープの走行後に信号が十分に安定した部分の信号を使用した。
上記条件で、各磁気テープを、1パスあたり1000mで、温度40℃相対湿度80%の環境において5000パス往復走行させた後のSNRを測定した。1パス目のSNRと5000パス目のSNRとの差分(5000パス目のSNR−1パス目のSNR)を求めた。
以上の記録および再生は、磁気テープの磁性層表面とヘッドとを摺動させて行われた。
[例2〜17]
表5に示す各種項目を表5に示すように変更した点以外、例1と同様に磁気テープを作製し、作製した磁気テープの電磁変換特性(SNR)低下を評価した。
表5中、分散ビーズの欄および時間の欄に「なし」と記載されている例については、磁性液分散処理において第二の段階を実施せずに磁性層形成用組成物を調製した。
表5中、垂直配向処理磁場強度の欄に「なし」と記載されている例については、配向処理を行わずに磁性層を形成した。
表5中、冷却ゾーン滞在時間の欄に「未実施」と記載されている例では、磁性層形成工程に冷却ゾーンを含まない製造工程により磁気テープを作製した。
作製した各磁気テープは、一部を電磁変換特性(SNR)低下の評価に使用し、他の一部を以下の物性評価に使用した。
[磁気テープの物性評価]
(1)XRD強度比
例1〜17の各磁気テープから、テープ試料を切り出した。
切り出したテープ試料について、薄膜X線回折装置(リガク社製SmartLab)を用いて磁性層表面にX線を入射させて、先に記載した方法によりIn−PlaneXRDを行った。
In−Plane XRDにより得られたX線回折スペクトルから、六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)および(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)を求め、XRD強度比(Int(110)/Int(114))を算出した。
(2)垂直方向角型比
例1〜17の各磁気テープについて、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いて先に記載した方法により垂直方向角型比を求めた。
(3)C−H由来C濃度
以下の方法により、磁気テープの磁性層表面(測定領域:300μm×700μm)においてESCA装置を用いてX線光電子分光分析を行い、分析結果からC−H由来C濃度を算出した。
(分析および算出方法)
下記(i)〜(iii)の測定は、いずれも表1に示す測定条件にて行った。
(i)ワイドスキャン測定
磁気テープの磁性層表面においてESCA装置によりワイドスキャン測定(測定条件:表2参照)を行い、検出された元素の種類を調べた(定性分析)。
(ii)ナロースキャン測定
上記(i)で検出された全元素について、ナロースキャン測定(測定条件:表3参照)を行った。装置付属のデータ処理用ソフトウエア(Vision2.2.6)を用いて、各元素のピーク面積から検出された各元素の原子濃度(単位:原子%)を算出した。ここでC濃度も算出した。
(iii)C1sスペクトルの取得
表4に記載の測定条件にてC1sスペクトルを取得した。取得したC1sスペクトルについて、装置付属のデータ処理用ソフトウエア(Vision2.2.6)を用いて試料帯電に起因するシフト(物理シフト)の補正を行った後、同ソフトウエアを用いてC1sスペクトルのフィッティング処理(ピーク分離)を実施した。ピーク分離にはガウス−ローレンツ複合関数(ガウス成分70%、ローレンツ成分30%)を用い、非線形最小二乗法によりC1sスペクトルのフィッティングを行い、C1sスペクトルに占めるC−Hピークの割合(ピーク面積率)を算出した。算出されたC−Hピーク面積率を、上記(ii)で求めたC濃度に掛けることにより、C−H由来C濃度を算出した。
以上の処理を磁気テープの磁性層表面の異なる位置において3回行い、得られた値の算術平均をC−H由来C濃度とした。
以上の結果を、表5に示す。
表5に示す結果から、磁気テープのXRD強度比、垂直方向角型比および磁性層のC−H由来C濃度がそれぞれ先に記載した範囲である例1〜8は、例9〜17と比べて、磁性層表面とヘッドとを摺動させて再生を繰り返しても電磁変換特性の低下が少ないことが確認された。
なお例9〜11は、同じ物性を有する磁気テープを用いた例であり、磁気テープ走行速度および線記録密度が異なる。これら例9〜11の対比から、磁気テープを高速で走行させるほど、また線記録密度を高めるほど、繰り返し摺動における電磁変換特性の低下が顕在化することも確認できる。そのような繰り返し摺動における電磁変換特性の低下は、例1〜8において抑制可能であった。
本発明は、データバックアップテープ等のデータストレージ用磁気記録媒体の技術分野において有用である。

Claims (6)

  1. 非磁性支持体上に磁性層を有する磁気記録媒体であって、
    前記磁性層は、強磁性粉末、結合剤および研磨剤を含み、
    前記強磁性粉末は強磁性六方晶フェライト粉末であり、
    In−Plane法を用いた前記磁性層のX線回折分析により求められる六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)に対する(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)の強度比、Int(110)/Int(114)、は0.5以上4.0以下であり、
    前記磁気記録媒体の垂直方向角型比は、0.65以上1.00以下であり、
    脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選ばれる成分の一種以上を前記非磁性支持体上の磁性層側の部分に含み、かつ
    前記磁性層の表面において光電子取り出し角10度で行われるX線光電子分光分析により得られるC1sスペクトルにおけるC−Hピーク面積率から算出されるC−H由来C濃度は、45原子%以上である磁気記録媒体。
  2. 前記垂直方向角型比は、0.65以上0.90以下である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
  3. 前記C−H由来C濃度は、45原子%以上80原子%以下である、請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
  4. 前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  5. 前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  6. 磁気テープである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
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