JP6714658B2 - 磁気記録媒体および磁気記録再生装置 - Google Patents

磁気記録媒体および磁気記録再生装置 Download PDF

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Description

本発明は、磁気記録媒体および磁気記録再生装置に関する。
磁気記録媒体への情報の記録および/または再生は、通常、磁気記録媒体の表面(磁性層表面)と磁気ヘッド(以下、単に「ヘッド」とも記載する。)とを接触させ摺動させることにより行われる。
磁気記録媒体に求められる性能の1つとしては、磁気記録媒体に記録された情報を再生する際に優れた電磁変換特性を発揮できることが挙げられる。
一方、磁性層表面とヘッドとの摺動によってヘッドの再生素子が削れてしまう(以下、「ヘッド素子削れ」とも記載する。)と、磁性層表面と再生素子との距離が広がり、電磁変換特性低下の原因となるスペーシングロスが発生してしまう。このスペーシングロスの発生を抑制するための対策としては、従来、ヘッドに保護層を設けることが提案されていた(例えば特許文献1参照)。
特開2005−92967号公報
ところで、磁気記録媒体等の各種記録媒体に記録されるデータは、アクセス頻度(再生頻度)に応じて、ホットデータ、ウォームデータ、コールドデータと呼ばれる。アクセス頻度は、ホットデータ、ウォームデータ、コールドデータの順に低くなり、コールドデータは10年以上の長期間(例えば数十年)にわたって記録媒体に記録されたまま保管されることが通常である。このようなコールドデータを記録し保管することは、アーカイブ(archive)と呼ばれる。近年の情報量の飛躍的な増大および各種情報のデジタル化に伴い、磁気記録媒体に記録し保管されるコールドデータのデータ量は増大しているため、アーカイブに適した磁気記録再生システムに対する注目が高まりつつある。
かかる状況下、近年、磁気記録再生装置(一般に「ドライブ」と呼ばれる。)の試験として、グリーンテープテスト(GTT;Green Tape Test)が行われている。このGTTでは、アクセス頻度が低いコールドデータを記録再生するというアーカイブ用途に特有の使用形態を想定し、1つのヘッドに対して、磁気記録媒体を交換しながら複数(例えば数百)の新品(未使用)の磁気記録媒体を摺動させることが行われる。一方、従来のヘッド耐久性試験では、アーカイブ用途と比べてアクセス頻度が高い使用形態が想定されていたため、通常、磁気記録媒体を新品に交換することなく、1つの磁気記録媒体を同じ磁気ヘッドと繰り返し摺動させることが行われていた。このような従来の耐久性試験では、摺動を繰り返すうちに磁性層表面が磨耗するためヘッド素子削れは徐々に生じ難くなる。これに対し、GTTでは、ヘッドと摺動させる磁気記録媒体を新品に交換し、同じヘッドを複数の新品の磁気記録媒体と摺動させることが繰り返されるため、ヘッドは、従来の耐久性試験より遙かに削れ易い過酷な条件に晒されることになる。このようなGTTにおけるヘッド素子削れを抑制するためには、ヘッド側で対策することと、磁気記録媒体側で対策することが考えられる。例えば、ヘッド側での対策としては、ヘッドの保護層を厚くすることが考えられるものの、ヘッドの保護層を厚くすることは、磁性層表面とヘッドの再生素子との距離を広げることとなり、スペーシングロスの原因となってしまう。これに対し、GTTにおけるヘッド素子削れを抑制するための対策を磁気記録媒体側で取ることができれば、そのような対策が施された磁気記録媒体は、アーカイブ用途での使用形態においてヘッド素子削れを生じ難い、アーカイブ用記録媒体に適した磁気記録媒体と言える。
そこで本発明の目的は、優れた電磁変換特性を発揮することができるアーカイブ用記録媒体に適した磁気記録媒体を提供すること、詳しくは、優れた電磁変換特性を発揮することができ、かつグリーンテープテスト(GTT)におけるヘッド素子削れの発生の抑制が可能な磁気記録媒体を提供することにある。
本発明の一態様は、
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
上記強磁性粉末は強磁性六方晶フェライト粉末であり、上記磁性層は酸化物研磨剤を含み、
In−Plane法を用いた上記磁性層のX線回折分析により求められる六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)に対する(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)の強度比(Int(110)/Int(114);以下、「XRD(X−ray diffraction)強度比」とも記載する。)は0.5以上4.0以下であり、
上記磁気記録媒体の垂直方向角型比は0.65以上1.00以下であり、
上記磁性層の表面において振り子粘弾性試験により求められる対数減衰率(以下、「磁性層表面の対数減衰率」または単に「対数減衰率」とも記載する。)は0.050以下であり、かつ
上記磁性層の表面に集束イオンビーム(FIB;Focused Ion Beam)を照射して取得される2次イオン像から求められる上記酸化物研磨剤の平均粒子直径(以下、「FIB研磨剤径」とも記載する。)は0.04μm以上0.08μm以下である磁気記録媒体、
に関する。
一態様では、上記垂直方向角型比は、0.65以上0.90以下であることができる。
一態様では、上記対数減衰率は、0.010以上0.050以下であることができる。
一態様では、上記酸化物研磨剤は、アルミナ粉末であることができる。
一態様では、上記磁気記録媒体は、上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有することができる。
一態様では、上記磁気記録媒体は、上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有することができる。
一態様では、上記磁気記録媒体は、磁気テープであることができる。
本発明の更なる態様は、上記磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置に関する。
一態様では、上記磁気ヘッドは、磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を含む磁気ヘッドであることができる。
本発明の一態様によれば、優れた電磁変換特性を発揮することができ、グリーンテープテスト(GTT)におけるヘッド素子削れの発生の抑制が可能なアーカイブ用途に適した磁気記録媒体、およびこの磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置を提供することができる。
対数減衰率の測定方法の説明図である。 対数減衰率の測定方法の説明図である。 対数減衰率の測定方法の説明図である。 磁気テープ製造工程の具体的態様の一例(工程概略図)を示す。
[磁気記録媒体]
本発明の一態様は、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、上記強磁性粉末は強磁性六方晶フェライト粉末であり、上記磁性層は酸化物研磨剤を含み、In−Plane法を用いた上記磁性層のX線回折分析により求められる六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)に対する(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)の強度比(Int(110)/Int(114))は0.5以上4.0以下であり、上記磁気記録媒体の垂直方向角型比は0.65以上1.00以下であり、上記磁性層の表面において振り子粘弾性試験により求められる対数減衰率は0.050以下であり、かつ上記磁性層の表面に集束イオンビームを照射して取得される2次イオン像から求められる上記酸化物研磨剤の平均粒子直径(FIB研磨剤径)は0.04μm以上0.08μm以下である磁気記録媒体に関する。
本発明および本明細書において、「磁性層(の)表面」とは、磁気記録媒体の磁性層側表面と同義である。また、本発明および本明細書において、「強磁性六方晶フェライト粉末」とは、複数の強磁性六方晶フェライト粒子の集合を意味するものとする。強磁性六方晶フェライト粒子とは、六方晶フェライト結晶構造を有する強磁性粒子である。以下では、強磁性六方晶フェライト粉末を構成する粒子(強磁性六方晶フェライト粒子)を、「六方晶フェライト粒子」または単に「粒子」とも記載する。「集合」とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。以上の点は、本発明および本明細書における非磁性粉末等の各種粉末についても同様とする。
本発明および本明細書において、「酸化物研磨剤」とは、モース硬度8超の非磁性酸化物粉末を意味する。
本発明および本明細書において、方向および角度に関する記載(例えば垂直、直交、平行等)には、特記しない限り、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。上記誤差の範囲とは、例えば、厳密な角度±10°未満の範囲を意味し、厳密な角度±5°以内であることが好ましく、±3°以内であることがより好ましい。
上記磁気記録媒体に関する本発明者らの推察は、以下の通りである。
本発明者らは、上記磁気記録媒体の垂直方向角型比およびXRD強度比が上記範囲であることが、上記磁気記録媒体が優れた電磁変換特性を発揮できること、詳しくは、磁気記録媒体に記録された情報を高SNR(Signal−to−Noise−Ratio)で再生できること、に主に寄与すると考えている。この点について、以下に更に記載する。
上記磁気記録媒体は、磁性層に強磁性六方晶フェライト粉末を含む。本発明者らは、磁性層に含まれる強磁性六方晶フェライト粉末の中には、強磁性六方晶フェライト粉末(粒子の集合)の磁気特性に影響を及ぼす粒子(以下、「前者の粒子」ともいう。)と、影響を及ぼさないか影響が少ないと考えられる粒子(以下、「後者の粒子」ともいう。)とが含まれていると推察している。後者の粒子は、例えば磁性層形成用組成物の調製時に行われる分散処理により粒子が一部欠けること(チッピング(chipping))により発生した微細な粒子と考えられる。
そして本発明者らは、磁性層に含まれる強磁性六方晶フェライト粉末に含まれる粒子の中で、前者の粒子は、In−Plane法を用いたX線回折分析において回折ピークをもたらす粒子であり、後者の粒子は微細なため回折ピークをもたらさないか回折ピークへの影響は小さいと考えている。そのため、In−Plane法を用いた磁性層のX線回折分析によってもたらされる回折ピークの強度に基づけば、強磁性六方晶フェライト粉末の磁気特性に影響を及ぼす粒子の磁性層における存在状態を制御することができると推察している。詳細を後述するXRD強度比は、この点に関する指標と本発明者らは考えている。
一方、垂直方向角型比とは、磁性層表面に対して垂直な方向で測定される飽和磁化に対する残留磁化の比であって、残留磁化が小さいほど値が小さくなる。上記の後者の粒子は微細であり磁化を保持し難いと考えられるため、磁性層において後者の粒子が多く含まれるほど、垂直方向角型比は小さくなる傾向があると推察される。そのため、垂直方向角型比は、磁性層における上記の後者の粒子(微細な粒子)の存在量の指標になり得ると本発明者らは考えている。かかる微細な粒子の磁性層における存在量が少ないほど、強磁性六方晶フェライト粉末の磁気特性は向上すると考えられる。
そして磁性層における後者の粒子(微細な粒子)の存在量を低減し、かつ磁性層における前者の粒子の存在状態を制御することにより、磁気記録媒体の垂直方向角型比およびXRD強度比をそれぞれ上記範囲とすることによって、電磁変換特性の向上が可能になると、本発明者らは推察している。
更に、上記磁気記録媒体において、磁性層表面の対数減衰率およびFIB研磨剤径がそれぞれ上記範囲にあることが、GTTにおけるヘッド素子削れの発生を抑制することに主に寄与すると、本発明者らは考えている。この点について、以下に更に説明する。
本発明および本明細書において、磁性層表面の対数減衰率とは、以下の方法により求められる値とする。
図1〜図3は、対数減衰率の測定方法の説明図である。以下、これら図面を参照し対数減衰率の測定方法を説明する。ただし、図示された態様は例示であって、本発明を何ら限定するものではない。
振り子粘弾性試験機内の試料ステージ101において、測定対象の磁気テープの一部(測定用試料)100を、目視で確認できる明らかなしわが入っていない状態で、基板103上に測定面(磁性層表面)を上方に向けて固定用テープ105等で固定された状態で載置する。
測定用試料100の測定面上に、振り子付丸棒型シリンダエッジ104を、シリンダエッジの長軸方向が測定用試料100の長手方向と平行になるように載せる。こうして測定用試料100の測定面に、振り子付丸棒型シリンダエッジ104を載せた状態(上方から見た状態)の一例を、図1に示す。図1に示す態様では、ホルダ兼温度センサー102が設置され、基板103の表面温度をモニタリングできる構成になっている。ただし、この構成は必須ではない。なお測定用試料100の長手方向は、図1に示す態様では図中に矢印によって示した方向であり、測定用試料を切り出した磁気記録媒体における長手方向(磁気テープの場合)または半径方向(磁気ディスクの場合)と同方向である。また、振り子107(図2参照)としては、マグネットに吸着される性質を有する材料製(例えば金属製、合金製等)の振り子を用いる。
測定用試料100を載置した基板103の表面温度を5℃/min以下の昇温速度(5℃/min以下であれば任意の昇温速度でよい。)で昇温して80℃として、振り子運動を、振り子107とマグネット106との吸着を解除することにより開始(初期振動を誘起)させる。振り子運動している振り子107の状態(横から見た状態)の一例が、図2である。図2に示す態様では、振り子粘弾性試験機内で、試料ステージ下方に配置されたマグネット(電磁石)106への通電を停止して(スイッチをオフにして)吸着を解除することにより振り子運動を開始し、電磁石への通電を再開して(スイッチをオンにして)振り子107をマグネット106に吸着させることにより振り子運動を停止させる。振り子運動中、図2に示すように、振り子107は振幅を繰り返す。振り子が振幅を繰り返している間、振り子の変位を変位センサー108によりモニタリングして得られる結果から、変位を縦軸に取り、経過時間を横軸に取った変位−時間曲線を得る。変位−時間曲線の一例を、図3に示す。図3では、振り子107の状態と変位−時間曲線との対応が模式的に示されている。一定の測定間隔で、静止(吸着)と振り子運動とを繰り返し、10分以上(10分以上であれば任意の時間でよい。)経過した後の測定間隔において得られた変位−時間曲線を用いて、対数減衰率Δ(無単位)を、下記式から求め、この値を磁気テープの磁性層表面の対数減衰率とする。1回の吸着の吸着時間は1秒以上(1秒以上であれば任意の時間でよい。)とし、吸着終了から次の吸着開始までの間隔は6秒以上(6秒以上であれば任意の時間でよい。)とする。測定間隔とは、吸着開始から次の吸着開始までの時間の間隔である。また、振り子運動を行う環境の湿度は、相対湿度40〜70%の範囲であれば任意の相対湿度でよい。また、振り子運動を行う環境の雰囲気温度は、20〜30℃の範囲であれば任意の温度でよい。
変位−時間曲線において、変位が極小から再び極小になるまでの間隔を、波の一周期とする。nを、測定間隔中の変位−時間曲線に含まれる波の数とし、Anを、n番目の波における極小変位と極大変位との差とする。図3では、n番目の波の変位が極小から再び極小になるまでの間隔を、Pn(例えば1番目の波についてはP1、2番目についてはP2、3番目についてはP3)と表示している。対数減衰率の算出には、n番目の波の次に現れる極小変位と極大変位との差(上記式中、An+1、図3に示す変位−時間曲線ではA4)も用いるが、極大変位以降に振り子107が静止(吸着)している部分は波の数のカウントには用いない。また、極大変位以前に振り子107が静止(吸着)している部分も、波の数のカウントには用いない。したがって、図3に示す変位−時間曲線では、波の数は3つ(n=3)である。
上記対数減衰率は、ヘッドと磁性層表面とが接触し摺動する際に磁性層表面から遊離して磁性層表面とヘッドとの間に介在する粘着性成分の量の指標となる値と考えられる。かかる粘着性成分が多く存在するほど磁性層表面とヘッドとの密着力が高まり、磁性層表面とヘッドとの円滑な摺動が妨げられる(摺動性が低下する)と考えられる。これに対し、上記磁気記録媒体において磁性層表面の対数減衰率が0.050以下の状態であること、即ち粘着性成分が低減された状態であることは、磁性層表面とヘッドとを円滑に摺動させることに寄与すると考えられる。その結果、GTTにおいて磁性層表面との摺動によってヘッド素子が削れることを抑制することができると本発明者らは推察している。
なお上記粘着性成分の詳細は明らかではない。本発明者らは、上記粘着性成分は、結合剤として用いられる樹脂に由来する可能性があると推察している。詳しくは、次の通りである。結合剤としては、詳細を後述するように各種樹脂を用いることができる。樹脂とは、2つ以上の重合性化合物の重合体(ホモポリマーおよびコポリマーを包含する。)であり、分子量が平均分子量を下回る成分(以下、「低分子量結合剤成分」と記載する。)も通常含まれる。このような低分子量結合剤成分が、ヘッドと磁性層表面との摺動時に磁性層表面から遊離し磁性層表面とヘッドとの間に介在してしまうのではないかと、本発明者らは考えている。そして、上記の低分子量結合剤成分は粘着性を有すると考えられ、振り子粘弾性試験により求められる対数減衰率が、磁性層表面とヘッドとの摺動時に磁性層表面から遊離する低分子量結合剤成分の量の指標になるのではないかと、本発明者らは推察している。なお、一態様では、磁性層は、強磁性六方晶フェライト粉末、結合剤および酸化物研磨剤に加えて、硬化剤を含む磁性層形成用組成物を非磁性支持体上に直接または他の層を介して塗布し、硬化処理を施し形成される。ここでの硬化処理により、結合剤と硬化剤とを硬化反応(架橋反応)させることができる。ただし、低分子量結合剤成分は、理由は定かではないものの、硬化反応の反応性に乏しいのではないかと本発明者らは考えている。このため、低分子量結合剤成分は磁性層に留まり難く磁性層から遊離しやすいことが、低分子量結合剤成分が磁性層表面とヘッドとの摺動時に磁性層表面とヘッドとの間に介在してしまう理由の1つではないかと、本発明者らは推察している。
また、本発明および本明細書において、FIB研磨剤径は、以下の方法によって求められる値とする。
(1)2次イオン像の取得
集束イオンビーム装置により、FIB研磨剤径を求める対象の磁気記録媒体の磁性層表面の25μm角(25μm×25μm)の領域の2次イオン像を取得する。集束イオンビーム装置としては、日立ハイテクノロジーズ社製MI4050を使用することができる。
2次イオン像を取得する際の集束イオンビーム装置のビーム照射条件を、加速電圧30kV、電流値133pA(ピコアンペア)、BeamSize30nmおよびBrightness50%に設定する。磁性層表面への撮像前のコーティング処理は行わない。2次イオン検出器によって、2次イオン(SI;secondary ion)信号を検出し、2次イオン像を撮像する。2次イオン像の撮像条件は、以下の方法により決定する。磁性層表面の未撮像領域3箇所において、ACB(Auto Contrast Brightess)を実施する(即ち、ACBを3回実施する)ことにより画像の色味を安定させ、コントラスト基準値およびブライトネス基準値を決定する。本ACBにより決定されたコントラスト基準値から1%下げたコントラスト値および上記のブライトネス基準値を、撮像条件とする。磁性層表面の未撮像領域を選択し、上記で決定された撮像条件下で2次イオン像を撮像する。撮像された画像からサイズ等を表示する部分(ミクロンバー、クロスマーク等)を消し、2000pixel×2000pixelの画素数の2次イオン像を取得する。撮像条件の具体例については、後述の実施例を参照できる。
(2)FIB研磨剤径の算出
上記(1)で取得した2次イオン像を、画像処理ソフトに取り込み、以下の手順により2値化処理を行う。画像解析ソフトとしては、例えば、フリーソフトのImageJを使用することができる。
上記(1)で取得した2次イオン像を8bitに色調変更する。2値化処理するための閾値は、下限値を250諧調、上限値を255諧調とし、これら2つの閾値により2値化処理を実行する。2値化処理後に画像解析ソフトによりノイズ成分除去処理を行う。ノイズ成分除去処理は、例えば以下の方法により行うことができる。画像解析ソフトImageJにおいて、ノイズカット処理Despeckleを選択し、AnalyzeParticleでSize 4.0−Infinityを設定してノイズ成分の除去を行う。
こうして得られた2値化処理画像において白く光る各部分を酸化物研磨剤と判断し、画像解析ソフトにより、白く光る部分の個数を求め、かつ白く光る各部分の面積を求める。ここで求められた白く光る各部分の面積から、各部分の円相当径を求める。具体的には、求められた面積Aから、(A/π)^(1/2)×2=Lにより、円相当径Lを算出する。
以上の工程を、FIB研磨剤径を求める対象の磁気記録媒体の磁性層表面の異なる箇所(25μm角)において4回実施し、得られた結果から、FIB研磨剤径を、FIB研磨剤径=Σ(Li)/Σiにより算出する。Σiは、4回の実施により得られた2値化処理画像において観察された白く光る部分の総数である。Σ(Li)は、4回の実施により得られた2値化処理画像において観察された白く光る各部分について求めた円相当径Lの合計である。白く光る部分について、その部分の一部のみが2値化処理画像に含まれている場合もあり得る。そのような場合には、その部分は含めずにΣiおよびΣ(Li)を求める。
上記FIB研磨剤径は、磁性層における酸化物研磨剤の存在状態の指標とすることができる値であり、磁性層表面に集束イオンビーム(FIB)を照射して取得される2次イオン像から求められる。この2次イオン像は、FIBが照射された磁性層表面から発生する2次イオンを捕捉することにより生成される。一方、磁性層における研磨剤の存在状態の観察方法としては、従来、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)を用いる方法が提案されていた。SEMでは、電子線を磁性層表面に照射し、磁性層表面から放出される2次電子を捕捉して画像(SEM像)が生成される。このような画像生成原理の違いから、同じ磁性層を観察したとしても、2次イオン像から求められる酸化物研磨剤のサイズと、SEM像から求められる酸化物研磨剤のサイズとは、異なるものとなる。本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、上記2次イオン像から先に記載した方法によって求められるFIB研磨剤径を磁性層における酸化物研磨剤の存在状態の新たな指標として、FIB研磨剤径が0.04μm以上0.08μm以下となるように磁性層における酸化物研磨剤の存在状態を制御することに至った。このように磁性層における酸化物研磨剤の存在状態を制御することも、GTTにおいて磁性層表面との摺動によってヘッド素子が削れることを抑制することに寄与すると本発明者らは考えている。
以上の通り、上記磁気記録媒体が優れた電磁変換特性を発揮できることには、主にXRD強度比および垂直方向角型比が上記範囲であることが寄与し、GTTにおけるヘッド素子削れの発生を抑制できることには磁性層表面の対数減衰率およびFIB研磨剤径が上記範囲であることが主に寄与すると、本発明者らは推察している。ただし上記推察に、本発明は何ら限定されるものではない。
以下、上記磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
[XRD強度比]
上記磁気記録媒体は、磁性層に強磁性六方晶フェライト粉末を含む。XRD強度比は、強磁性六方晶フェライト粉末を含む磁性層をIn−Plane法を用いてX線回折分析することによって求められる。以下において、In−Plane法を用いて行われるX線回折分析を、「In−Plane XRD」とも記載する。In−Plane XRDは、薄膜X線回折装置を用いて、以下の条件で、磁性層表面にX線を照射して行うものとする。磁気記録媒体は、テープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)とディスク状の磁気記録媒体(磁気ディスク)とに大別される。測定方向は、磁気テープについては長手方向、磁気ディスクについては半径方向とする。
Cu線源使用(出力45kV、200mA)
Scan条件:20〜40degreeの範囲を0.05degree/step、0.1degree/min
使用光学系:平行光学系
測定方法::2θχスキャン(X線入射角0.25°)
上記条件は、薄膜X線回折装置における設定値である。薄膜X線回折装置としては、公知の装置を用いることができる。薄膜X線回折装置の一例としては、リガク社製SmartLabを挙げることができる。In−Plane XRDの分析に付す試料は、測定対象の磁気記録媒体から切り出した媒体試料であって、後述する回折ピークが確認できればよく、その大きさおよび形状は限定されるものではない。
X線回折分析の手法としては、薄膜X線回折と粉末X線回折が挙げられる。粉末X線回折は粉末試料のX線回折を測定するのに対し、薄膜X線回折によれば基板上に形成された層等のX線回折を測定することができる。薄膜X線回折は、In−Plane法とOut−Of−Plane法とに分類される。測定時のX線入射角は、Out−Of−Plane法では5.00〜90.00°の範囲であるのに対し、In−Plane法では通常0.20〜0.50°の範囲である。本発明および本明細書におけるIn−Plane XRDでは、上記の通りX線入射角は0.25°とする。In−Plane法は、Out−Of−Plane法と比べてX線入射角が小さいためX線の侵入深さが浅い。したがって、In−Plane法を用いるX線回折分析(In−Plane XRD)によれば、測定対象試料の表層部のX線回折分析を行うことができる。磁気記録媒体試料については、In−Plane XRDによれば磁性層のX線回折分析を行うことができる。上記のXRD強度比とは、かかるIn−Plane XRDにより得られたX線回折スペクトルの中で、六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)に対する(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)の強度比(Int(110)/Int(114))である。Intは、Intensity(強度)の略称として用いている。In−Plane XRDにより得られるX線回折スペクトル(縦軸:Intensity、横軸:回折角2θχ(degree))において、(114)面の回折ピークは、2θχが33〜36degreeの範囲で検出されるピークであり、(110)面の回折ピークは、2θχが29〜32degreeの範囲で検出されるピークである。
回折面の中で、六方晶フェライト結晶構造の(114)面は、強磁性六方晶フェライト粉末の粒子(六方晶フェライト粒子)の磁化容易軸方向(c軸方向)近くに位置する。また、六方晶フェライト結晶構造の(110)面は、磁化容易軸方向と直交する方向に位置する。
本発明者らは、In−Plane XRDによって求められるX線回折スペクトルにおいて、六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)に対する(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)の強度比(Int(110)/Int(114);XRD強度比)が大きいほど、磁化容易軸方向と直交する方向が磁性層表面に対してより平行に近い状態で存在する前者の粒子が磁性層に多く存在することを意味し、XRD強度比が小さいほど、そのような状態で存在する前者の粒子が磁性層に少ないことを意味すると推察している。そして、XRD強度比が0.5以上4.0以下である状態とは、前者の粒子が磁性層において適度に整列した状態にあることを意味すると考えられる。このことが、電磁変換特性の向上に寄与すると、本発明者らは推察している。
XRD強度比は、電磁変換特性の更なる向上の観点から、3.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましい。また、同様の観点から、XRD強度比は、0.7以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましい。XRD強度比は、例えば、磁気記録媒体の製造工程において行われる配向処理の処理条件によって制御することができる。配向処理としては、垂直配向処理を行うことが好ましい。垂直配向処理は、好ましくは、湿潤状態(未乾燥状態)の磁性層形成用組成物の塗布層の表面に対して垂直に磁場を印加することにより行うことができる。配向条件を強化するほど、XRD強度比の値は大きくなる傾向がある。配向処理の処理条件としては、配向処理における磁場強度等が挙げられる。配向処理の処理条件は特に限定されるものではない。0.5以上4.0以下のXRD強度比が実現できるように配向処理の処理条件を設定すればよい。一例として、垂直配向処理における磁場強度は、0.10〜0.80Tとすることができ、または0.10〜0.60Tとすることもできる。磁性層形成用組成物における強磁性六方晶フェライト粉末の分散性を高めるほど、垂直配向処理によりXRD強度比の値は大きくなる傾向がある。
[垂直方向角型比]
垂直方向角型比とは、磁気記録媒体の垂直方向において測定される角型比である。角型比に関して記載する「垂直方向」とは、磁性層表面と直交する方向をいう。例えば磁気記録媒体がテープ状の磁気記録媒体、即ち磁気テープである場合には、垂直方向は、磁気テープの長手方向と直交する方向でもある。垂直方向角型比は、振動試料型磁束計を用いて測定される。詳しくは、本発明および本明細書における垂直方向角型比は、振動試料型磁束計において、23℃±1℃の測定温度において、磁気記録媒体に外部磁場を最大外部磁場1194kA/m(15kOe)かつスキャン速度4.8kA/m/秒(60Oe/秒)の条件で掃引して求められる値であって、反磁界補正後の値とする。測定値は、振動試料型磁束計のサンプルプローブの磁化をバックグラウンドノイズとして差し引いた値として得るものとする。
上記磁気記録媒体の垂直方向角型比は、0.65以上である。本発明者らは、磁気記録媒体の垂直方向角型比は、先に記載した後者の粒子(微細な粒子)の存在量の指標になり得ると推察している。磁気記録媒体の垂直方向角型比が0.65以上である磁性層は、かかる微細な粒子の存在量が少ないと考えられる。このことが、電磁変換特性の向上に寄与すると、本発明者らは推察している。電磁変換特性の更なる向上の観点から、上記垂直方向角型比は0.70以上であることが好ましく、0.73以上であることがより好ましく、0.75以上であることが更に好ましい。また、角型比は、原理上、最大で1.00である。したがって、上記磁気テープの垂直方向角型比は1.00以下である。上記垂直方向角型比は、例えば0.95以下、0.90以下、0.87以下または0.85以下であってもよい。ただし、上記垂直方向角型比の値が大きいほど、磁性層中に上記の微細な後者の粒子が少なく電磁変換特性の向上の観点から好ましいと考えられる。したがって、上記垂直方向角型比は、上記例示した値を上回ってもよい。
上記垂直方向角型比を0.65以上とするためには、磁性層形成用組成物の調製工程において、粒子が一部欠けること(チッピング)によって微細な粒子が発生することを抑制することが好ましいと本発明者らは考えている。チッピングの発生を抑制するための具体的手段は後述する。
[対数減衰率]
上記磁気記録媒体の磁性層の表面において振り子粘弾性試験により求められる対数減衰率は、0.050以下である。このことが、GTTにおけるヘッド素子削れの発生を抑制することに寄与すると推察される。GTTにおけるヘッド素子削れの発生をより一層抑制する観点から、対数減衰率は、0.048以下であることが好ましく、0.045以下であることがより好ましく、0.040以下であることが更に好ましい。一方、GTTにおけるヘッド素子削れの発生を抑制する観点からは、上記対数減衰率は低いほど好ましいため、下限値は特に限定されるものではない。一例として、対数減衰率は、例えば0.010以上、または0.015以上であることができる。ただし対数減衰率は、上記の例示した値を下回ってもよい。対数減衰率を調整するための手段の具体的態様は、後述する。
[FIB研磨剤径]
上記磁気記録媒体の磁性層の表面にFIBを照射して取得される2次イオン像から求められるFIB研磨剤径は、0.04μm以上0.08μm以下である。FIB研磨剤径が0.08μm以下であることは、GTTにおいて酸化物研磨剤によってヘッド素子が削られることを抑制することに寄与すると考えられる。また、FIB研磨剤径が0.04μm以上であることは、GTTにおいて磁性層表面との摺動によりヘッドに付着した磁性層由来の成分を除去することに寄与すると推察される。このことは、GTTにおいて磁性層由来の成分がヘッドに付着した状態で磁性層表面とヘッドが摺動することによってヘッドの素子が削れることを抑制することに寄与すると考えられる。GTTにおけるヘッド素子削れの発生をより一層抑制する観点からは、FIB研磨剤径は0.05μm以上であることが好ましく、0.06μm以上であることがより好ましい。また、同様の観点から、FIB研磨剤径は、0.07μm以下であることが好ましい。FIB研磨剤径を調整するための手段の具体的態様は、後述する。
以下、上記磁気記録媒体について、更により詳細に説明する。
[磁性層]
<強磁性六方晶フェライト粉末>
上記磁気記録媒体の磁性層は、強磁性粉末として強磁性六方晶フェライト粉末を含む。強磁性六方晶フェライト粉末に関して、六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。上記磁性層に含まれる強磁性六方晶フェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。また、六方晶フェライトの結晶構造には、構成原子として、鉄原子および二価金属原子が含まれる。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、バリウム原子、ストロンチウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。例えば、二価金属原子としてバリウム原子を含む六方晶フェライトは、バリウムフェライトであり、ストロンチウム原子を含む六方晶フェライトは、ストロンチウムフェライトである。また、六方晶フェライトは、二種以上の六方晶フェライトの混晶であってもよい。混晶の一例としては、バリウムフェライトとストロンチウムフェライトの混晶を挙げることができる。
強磁性六方晶フェライト粉末の粒子サイズの指標としては、活性化体積を用いることができる。「活性化体積」とは、磁化反転の単位である。本発明および本明細書に記載の活性化体積は、振動試料型磁束計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで雰囲気温度23℃±1℃の環境下で測定し、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。
Hc=2Ku/Ms{1−[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2
[上記式中、Ku:異方性定数、Ms:飽和磁化、k:ボルツマン定数、T:絶対温度、V:活性化体積、A:スピン歳差周波数、t:磁界反転時間]
磁気記録媒体には高密度記録化が常に望まれている。高密度記録化を達成するための方法としては、磁性層に含まれる強磁性粉末の粒子サイズを小さくし、磁性層の強磁性粉末の充填率を高める方法が挙げられる。この点から、強磁性六方晶フェライト粉末の活性化体積は、2500nm3以下であることが好ましく、2300nm3以下であることがより好ましく、2000nm3以下であることが更に好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、活性化体積は、例えば800nm3以上であることが好ましく、1000nm3以上であることがより好ましく、1200nm3以上であることが更に好ましい。
強磁性六方晶フェライト粉末を構成する粒子の形状は、強磁性六方晶フェライト粉末を透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして得た粒子写真において、デジタイザーで粒子(一次粒子)の輪郭をトレースして特定するものとする。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。透過型電子顕微鏡を用いる撮影は、加速電圧300kVで透過型電子顕微鏡を用いて直接法により行うものとする。透過型電子顕微鏡観察および測定は、例えば日立製透過型電子顕微鏡H−9000型およびカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を用いて行うことができる。強磁性六方晶フェライト粉末を構成する粒子の形状に関して、「板状」とは、対向する2つの板面を有する形状をいう。一方、そのような板面を持たない粒子形状の中で、長軸と短軸の区別のある形状が「楕円状」である。長軸とは、粒子の長さを最も長く取ることができる軸(直線)として決定する。一方、短軸とは、長軸と直交する直線で粒子長さを取ったときに長さが最も長くなる軸として決定する。長軸と短軸の区別がない形状、即ち長軸長=短軸長となる形状が「球状」である。形状から長軸および短軸が特定できない形状を不定形と呼ぶ。上記の粒子形状特定のための透過型電子顕微鏡を用いる撮影は、撮影対象粉末に配向処理を施さずに行う。磁性層形成用組成物の調製に用いる強磁性六方晶フェライト粉末および磁性層に含まれる強磁性六方晶フェライト粉末の形状は、板状、楕円状、球状および不定形のいずれでもよい。
なお本発明および本明細書に記載の各種粉末に関する平均粒子サイズは、特記しない限り、上記のように撮影された粒子写真を用いて、無作為に抽出した500個の粒子について求められた値の算術平均とする。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H−9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を用いて得られた値である。
強磁性六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば特開2011−216149号公報の段落0134〜0136も参照できる。
磁性層における強磁性六方晶フェライト粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50〜90質量%の範囲であり、より好ましくは60〜90質量%の範囲である。磁性層の強磁性六方晶フェライト粉末以外の成分は少なくとも結合剤および酸化物研磨剤であり、任意に一種以上の添加剤が含まれ得る。磁性層において強磁性六方晶フェライト粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
<結合剤、硬化剤>
上記磁気記録媒体は、磁性層に結合剤を含む。結合剤とは、一種以上の樹脂である。樹脂はホモポリマーであってもコポリマー(共重合体)であってもよい。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選択したものを単独で用いることができ、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010−24113号公報の段落0029〜0031を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。測定条件としては、下記条件を挙げることができる。後述の実施例に示す重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。
GPC装置:HLC−8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL−M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
また、磁性層形成時、上記結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁気記録媒体の製造工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011−216149号公報の段落0124〜0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して、例えば0〜80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0〜80.0質量部の量で添加して使用することができる。
<酸化物研磨剤>
上記磁気記録媒体は、磁性層に酸化物研磨剤を含む。酸化物研磨剤は、モース硬度8超の非磁性酸化物粉末であり、モース硬度9以上の非磁性酸化物粉末であることが好ましい。なおモース硬度の最大値は10である。酸化物研磨剤は、無機酸化物粉末であっても有機酸化物粉末であってもよく、無機酸化物粉末であることが好ましい。具体的には、研磨剤としては、アルミナ(Al23)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)等の粉末を挙げることができ、中でもアルミナ粉末が好ましい。なおアルミナのモース硬度は約9である。アルミナ粉末については、特開2013−229090号公報の段落0021も参照できる。また、酸化物研磨剤の粒子サイズの指標としては、比表面積を用いることができる。比表面積が大きいほど酸化物研磨剤を構成する粒子の一次粒子の粒子サイズが小さいと考えることができる。酸化物研磨剤としては、BET(Brunauer−Emmett−Teller)法によって測定された比表面積(以下、「BET比表面積」と記載する。)が14m2/g以上の酸化物研磨剤を使用することが好ましい。また、分散性の観点からは、BET比表面積が40m2/g以下の酸化物研磨剤を使用することが好ましい。磁性層における酸化物研磨剤の含有量は、強磁性六方晶フェライト粉末100.0質量部に対して1.0〜20.0質量部であることが好ましく、1.0〜10.0質量部であることがより好ましい。
<添加剤>
磁性層には、強磁性六方晶フェライト粉末、結合剤および酸化物研磨剤が含まれ、必要に応じて一種以上の添加剤が更に含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれ得る添加剤としては、酸化物研磨剤以外の非磁性粉末、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。例えば、潤滑剤については、特開2016−126817号公報の段落0030〜0033、0035および0036を参照できる。非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016−126817号公報の段落0030〜0031、0034、0035および0036を参照できる。分散剤については、特開2012−133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤は、非磁性層に含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る分散剤については、特開2012−133837号公報の段落0061を参照できる。
また、分散剤としては、酸化物研磨剤の分散性を高めるための分散剤を挙げることができる。そのような分散剤として機能し得る化合物としては、フェノール性ヒドロキシ基を有する芳香族炭化水素化合物を挙げることができる。「フェノール性ヒドロキシ基」とは、芳香環に直接結合したヒドロキシ基をいう。上記芳香族炭化水素化合物に含まれる芳香環は、単環であってもよく、多環構造であってもよく、縮合環であってもよい。研磨剤の分散性向上の観点からは、ベンゼン環またはナフタレン環を含む芳香族炭化水素化合物が好ましい。また、上記芳香族炭化水素化合物は、フェノール性ヒドロキシ基以外の置換基を有していてもよい。フェノール性ヒドロキシ基以外の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、ヒドロキシアルキル基等を挙げることができ、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシアルキル基が好ましい。上記芳香族炭化水素化合物1分子中に含まれるフェノール性ヒドロキシ基は、1つであってもよく、2つ、3つ、またはそれ以上であってもよい。
フェノール性ヒドロキシ基を有する芳香族炭化水素化合物の好ましい一態様としては、下記一般式100で表される化合物を挙げることができる。
[一般式100中、X101〜X108のうちの2つはヒドロキシ基であり、他の6つはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。]
一般式100で表される化合物において、2つのヒドロキシ基(フェノール性ヒドロキシ基)の置換位置は特に限定されるものではない。
一般式100で表される化合物は、X101〜X108のうちの2つがヒドロキシ基(フェノール性ヒドロキシ基)であり、他の6つはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。また、X101〜X108のうち、2つのヒドロキシ基以外の部分がすべて水素原子であってもよく、一部またはすべてが置換基であってもよい。置換基としては、先に記載した置換基を例示することができる。2つのヒドロキシ基以外の置換基として、1つ以上のフェノール性ヒドロキシ基が含まれていてもよい。研磨剤の分散性向上の観点からは、X101〜X108のうちの2つのヒドロキシ基以外はフェノール性ヒドロキシ基ではないことが好ましい。即ち、一般式100で表される化合物は、ジヒドロキシナフタレンまたはその誘導体であることが好ましく、2,3−ジヒドロキシナフタレンまたはその誘導体であることがより好ましい。X101〜X108で表される置換基として好ましい置換基としては、ハロゲン原子(例えば塩素原子、臭素原子)、アミノ基、炭素数1〜6(好ましくは1〜4)のアルキル基、メトキシ基およびエトキシ基、アシル基、ニトロ基およびニトロソ基、ならびに−CH2OH基を挙げることができる。
また、酸化物研磨剤の分散性を高めるための分散剤については、特開2014−179149号公報の段落0024〜0028も参照できる。
酸化物研磨剤の分散性を高めるための分散剤は、磁性層形成用組成物の調製時(好ましくは後述するように研磨剤液の調製時)、研磨剤100.0質量部に対して、例えば0.5〜20.0質量部の割合で使用することができ、1.0〜10.0質量部の割合で使用することが好ましい。
また、分散剤としては、カルボキシ基含有化合物、含窒素化合物等の強磁性六方晶フェライト粉末の分散性を高めるための公知の分散剤を挙げることもできる。例えば、含窒素化合物は、NH2Rで表される第一級アミン、NHR2で表される第二級アミン、NR3で表される第三級アミンのいずれであってもよい。上記において、Rは含窒素化合物を構成する任意の構造を示し、複数存在するRは同一であっても異なっていてもよい。含窒素化合物は、分子中に複数の繰り返し構造を有する化合物(ポリマー)であってもよい。含窒素化合物の含窒素部が強磁性六方晶フェライト粉末の粒子表面への吸着部として機能することが、含窒素化合物が分散剤として働くことができる理由と考えられる。カルボキシ基含有化合物は、例えばオレイン酸等の脂肪酸を挙げることができる。カルボキシ基含有化合物については、カルボキシ基が強磁性六方晶フェライト粉末の粒子表面への吸着部として機能することが、カルボキシ基含有化合物が分散剤として働くことができる理由と考えられる。カルボキシ基含有化合物と含窒素化合物を併用することも、好ましい。これらの分散剤の使用量は適宜設定することができる。
磁性層に含まれ得る酸化物研磨剤以外の非磁性粉末としては、磁性層表面に突起を形成して摩擦特性制御に寄与し得る非磁性粉末(以下、「突起形成剤」とも記載する。)を挙げることができる。突起形成剤としては、一般に磁性層に突起形成剤として使用される各種非磁性粉末を用いることができる。これらは、無機物質の粉末(無機粉末)であっても有機物質の粉末(有機粉末)であってもよい。一態様では、摩擦特性の均一化の観点からは、突起形成剤の粒度分布は、分布中に複数のピークを有する多分散ではなく、単一ピークを示す単分散であることが好ましい。単分散粒子の入手容易性の点からは、突起形成剤は無機粉末であることが好ましい。無機粉末としては、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末を挙げることができる。突起形成剤(酸化物研磨剤以外の非磁性粉末)を構成する粒子は、コロイド粒子であることが好ましく、無機酸化物コロイド粒子であることがより好ましい。また、単分散粒子の入手容易性の観点からは、無機酸化物コロイド粒子を構成する無機酸化物は二酸化ケイ素(シリカ)であることが好ましい。無機酸化物コロイド粒子は、コロイダルシリカ(シリカコロイド粒子)であることがより好ましい。本発明および本明細書において、「コロイド粒子」とは、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、トルエンもしくは酢酸エチル、または上記溶媒の二種以上を任意の混合比で含む混合溶媒の少なくとも1つの有機溶媒100mLあたり1g添加した際に、沈降せず分散しコロイド分散体をもたらすことのできる粒子をいうものとする。他の一態様では、突起形成剤は、カーボンブラックであることも好ましい。突起形成剤の平均粒子サイズは、例えば30〜300nmであることができ、40〜200nmであることが好ましい。また、突起形成剤がその機能をより良好に発揮し得るという観点から、磁性層における突起形成剤の含有量は、強磁性六方晶フェライト粉末100.0質量部に対して、1.0〜4.0質量部であることが好ましく、1.5〜3.5質量部であることがより好ましい。
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に設けることができる。
[非磁性層]
次に非磁性層について説明する。
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有していてもよい。非磁性層に含まれる非磁性粉末は、無機粉末でも有機粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2010−24113号公報の段落0036〜0039を参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50〜90質量%の範囲であり、より好ましくは60〜90質量%の範囲である。
非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
本発明および本明細書における非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
[非磁性支持体]
次に、非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)について説明する。
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等を行ってもよい。
[バックコート層]
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有することもできる。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末の一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層に含まれる結合剤、任意に含まれ得る各種添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006−331625号公報の段落0018〜0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目〜第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
[各種厚み]
上記磁気記録媒体における非磁性支持体および各層の厚みについて、以下に説明する。
非磁性支持体の厚みは、例えば3.0〜80.0μmであり、好ましくは3.0〜50.0μmであり、より好ましくは3.0〜10.0μmである。
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等に応じて最適化することができる。磁性層の厚みは、一般には10nm〜100nmであり、高密度記録化の観点から、好ましくは20〜90nmであり、より好ましくは30〜70nmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。2層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
非磁性層の厚みは、例えば50nm以上であり、好ましくは70nm以上であり、より好ましくは100nm以上である。一方、非磁性層の厚みは、800nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましい。
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1〜0.7μmであることが更に好ましい。
磁気記録媒体の各層および非磁性支持体の厚みは、公知の膜厚測定法により求めることができる。一例として、例えば、磁気記録媒体の厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等の電子顕微鏡を用いて断面観察を行う。断面観察において厚み方向の1箇所において求められた厚み、または無作為に抽出した2箇所以上の複数箇所、例えば2箇所、において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各層の厚みは、製造条件から算出される設計厚みとして求めてもよい。
[製造工程]
<各層形成用組成物の調製>
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含む。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の一種または二種以上を用いることができる。溶媒については、例えば特開2011−216149号公報の段落0153を参照できる。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、結合剤を混練工程、分散工程および分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気記録媒体を製造するためには、従来の公知の製造技術を各種工程において用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報および特開平1−79274号公報を参照できる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を調製する任意の段階において、公知の方法によってろ過を行ってもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01〜3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
FIB研磨剤径は、磁性層において酸化物研磨剤をより微細な状態で存在させることによって値が小さくなる傾向がある。磁性層において酸化物研磨剤をより微細な状態で存在させるための手段の1つとしては、先に記載したように酸化物研磨剤の分散性を高めることができる分散剤の使用を挙げることができる。また、磁性層において酸化物研磨剤をより微細な状態で存在させるためには、粒子サイズの小さな研磨剤を使用し、研磨剤の凝集を抑制し、かつ偏在を抑制して均一に磁性層に分散させることが好ましい。そのための手段の1つとしては、磁性層形成用組成物調製時の酸化物研磨剤の分散条件を強化することが挙げられる。例えば、酸化物研磨剤を強磁性六方晶フェライト粉末と別分散することは、分散条件強化の一態様である。別分散とは、より詳しくは、酸化物研磨剤および溶媒を含む研磨剤液(但し、強磁性六方晶フェライト粉末を実質的に含まない)を強磁性六方晶フェライト粉末、溶媒および結合剤を含む磁性液と混合する工程を経て磁性層形成用組成物を調製する方法である。このように酸化物研磨剤と強磁性六方晶フェライト粉末とを別分散した後に混合することにより、磁性層形成用組成物における酸化物研磨剤の分散性を高めることができる。上記の「強磁性六方晶フェライト粉末を実質的に含まない」とは、研磨剤液の構成成分として強磁性六方晶フェライト粉末を添加しないことを意味するものであって、意図せず混入した不純物として微量の強磁性六方晶フェライト粉末が存在することは許容されるものとする。また、別分散のほかに、または別分散とともに、長時間の分散処理、サイズの小さな分散メディアの使用(例えばビーズ分散における分散ビーズの小径化)、分散機における分散メディアの高充填化等の手段を任意に組み合わせることにより、分散条件を強化することができる。分散機および分散メディアは市販のものを使用できる。また、研磨剤液の遠心分離処理を行うことは、酸化物研磨剤を構成する粒子の中で平均的な粒子サイズより大きい粒子および/または凝集した粒子を除去することにより、磁性層において酸化物研磨剤をより微細な状態で存在させることに寄与し得る。遠心分離処理は、市販の遠心分離機を用いて行うことができる。また、研磨剤液をフィルタろ過等によってろ過することは、酸化物研磨剤を構成する粒子が凝集した粗大な凝集体を除去するために好ましい。そのような粗大な凝集体を除去することも、磁性層において酸化物研磨剤をより微細な状態で存在させることに寄与し得る。例えば、より孔径の小さなフィルタを用いてフィルタろ過することは、磁性層において酸化物研磨剤をより微細な状態で存在させることに寄与し得る。また、研磨剤液を強磁性六方晶フェライト粉末等の磁性層形成用組成物を調製するための成分と混合した後の各種処理条件(例えば撹拌条件、分散処理条件、ろ過条件等)を調整することにより、磁性層形成用組成物における酸化物研磨剤の分散性を高めることができる。このことも、磁性層において酸化物研磨剤をより微細な状態で存在させることに寄与し得る。ただし、磁性層において酸化物研磨剤を極めて微細な状態で存在させるとFIB研磨剤径が0.04μmを下回ってしまうため、研磨剤液調製のための各種条件は、0.04μm以上0.08μm以下のFIB研磨剤径を実現できるように調整することが好ましい。
磁性層形成用組成物の分散処理に関しては、先に記載したように、チッピングの発生を抑制することが好ましい。そのためには、磁性層形成用組成物を調製する工程において、強磁性六方晶フェライト粉末の分散処理を二段階の分散処理により行い、第一の段階の分散処理により強磁性六方晶フェライト粉末の粗大な凝集物を解砕した後、分散ビーズとの衝突によって強磁性六方晶フェライト粉末の粒子に加わる衝突エネルギーが第一の分散処理より小さな第二の段階の分散処理を行うことが好ましい。かかる分散処理によれば、強磁性六方晶フェライト粉末の分散性向上とチッピングの発生の抑制とを両立することができる。
上記の二段階の分散処理の好ましい態様としては、強磁性六方晶フェライト粉末、結合剤および溶媒を、第一の分散ビーズの存在下で分散処理することにより分散液を得る第一の段階と、第一の段階で得られた分散液を、第一の分散ビーズよりビーズ径および密度が小さい第二の分散ビーズの存在下で分散処理する第二の段階と、を含む分散処理を挙げることができる。以下に、上記の好ましい態様の分散処理について、更に説明する。
強磁性六方晶フェライト粉末の分散性を高めるためには、上記の第一の段階および第二の段階は、強磁性六方晶フェライト粉末を他の粉末成分と混合する前の分散処理として行うことが好ましい。例えば、酸化物研磨剤と混合する前に(好ましくは酸化物研磨剤および先に記載した突起形成剤と混合する前に)、強磁性六方晶フェライト粉末、結合剤、溶媒および任意に添加される添加剤を含む液(磁性液)の分散処理として、上記の第一の段階および第二の段階を行うことが好ましい。
第二の分散ビーズのビーズ径は、好ましくは、第一の分散ビーズのビーズ径の1/100以下であり、より好ましくは1/500以下である。また、第二の分散ビーズのビーズ径は、例えば第一の分散ビーズのビーズ径の1/10000以上であることができる。ただし、この範囲に限定されるものではない。例えば、第二の分散ビーズのビーズ径は、80〜1000nmの範囲であることが好ましい。一方、第一の分散ビーズのビーズ径は、例えば0.2〜1.0mmの範囲であることができる。
なお本発明および本明細書におけるビーズ径は、先に記載した粉末の平均粒子サイズの測定方法と同様の方法で測定される値とする。
上記の第二の段階は、質量基準で、第二の分散ビーズが、強磁性六方晶フェライト粉末の10倍以上の量で存在する条件下で行うことが好ましく、10倍〜30倍の量で存在する条件下で行うことがより好ましい。
一方、第一の段階における第一の分散ビーズ量も、上記範囲とすることが好ましい。
第二の分散ビーズは、第一の分散ビーズより密度が小さいビーズである。「密度」とは、分散ビーズの質量(単位:g)を体積(単位:cm3)で除して求められる。測定は、アルキメデス法によって行われる。第二の分散ビーズの密度は、好ましくは3.7g/cm3以下であり、より好ましくは3.5g/cm3以下である。第二の分散ビーズの密度は、例えば2.0g/cm3以上であってもよく、2.0g/cm3を下回ってもよい。密度の点から好ましい第二の分散ビーズとしては、ダイヤモンドビーズ、炭化ケイ素ビーズ、窒化ケイ素ビーズ等を挙げることができ、密度および硬度の点で好ましい第二の分散ビーズとしては、ダイヤモンドビーズを挙げることができる。
一方、第一の分散ビーズとしては、密度が3.7g/cm3超の分散ビーズが好ましく、密度が3.8g/cm3以上の分散ビーズがより好ましく、4.0g/cm3以上の分散ビーズが更に好ましい。第一の分散ビーズの密度は、例えば7.0g/cm3以下であってもよく、7.0g/cm3超でもよい。第一の分散ビーズとしては、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ等を用いることが好ましく、ジルコニアビーズを用いることがより好ましい。
分散時間は特に限定されるものではなく、用いる分散機の種類等に応じて設定すればよい。
<塗布工程、冷却工程、加熱乾燥工程、バーニッシュ処理工程、硬化工程>
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010−231843号公報の段落0066を参照できる。
好ましい一態様では、強磁性六方晶フェライト粉末、結合剤、酸化物研磨剤、硬化剤および溶媒を含む磁性層形成用組成物を非磁性支持体上に直接または非磁性層を介して塗布することにより塗布層を形成する塗布工程、塗布層を加熱処理により乾燥させる加熱乾燥工程、ならびに、塗布層に硬化処理を施す硬化工程を含む磁性層形成工程を経て、磁性層を形成することができる。磁性層形成工程は、塗布工程と加熱乾燥工程との間に、塗布層を冷却する冷却工程を含むことが好ましく、更に加熱乾燥工程と硬化工程との間に、上記塗布層表面をバーニッシュ(burnish)処理するバーニッシュ処理工程を含むことが好ましい。
上記の磁性層形成工程の中で冷却工程およびバーニッシュ処理工程を実施することは、対数減衰率を0.050以下とするための好ましい手段であると考えられる。詳しくは、次の通りである。
塗布工程と加熱乾燥工程との間に塗布層を冷却する冷却工程を行うことは、先に記載した粘着性成分を、上記塗布層の表面および/または表面近傍の表層部分に局在させることに寄与するのではないかと推察される。これは、加熱乾燥工程前に磁性層形成用組成物の塗布層を冷却することにより、加熱乾燥工程における溶媒揮発時に粘着性成分が塗布層表面および/または表層部分に移行しやすくなるためではないかと考えられる。ただし、その理由は明らかではない。そして、粘着性成分が表面および/または表層部分に局在した塗布層の表面をバーニッシュ処理することにより、粘着性成分を除去することができると考えられる。こうして粘着性成分を除去した後に硬化工程を行うことが、対数減衰率を0.050以下にすることにつながると推察される。ただし、以上は推察に過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
上記の通り、磁性層形成用組成物は、非磁性層形成用組成物と逐次または同時に重層塗布することができる。好ましい一態様では、上記磁気記録媒体は、逐次重層塗布により製造することができる。逐次重層塗布を含む製造工程は、好ましくは次のように行うことができる。非磁性層形成用組成物を非磁性支持体上に塗布することにより塗布層を形成する塗布工程、および形成した塗布層を加熱処理により乾燥させる加熱乾燥工程を経て、非磁性層を形成する。そして形成された非磁性層上に磁性層形成用組成物を塗布することにより塗布層を形成する塗布工程、および形成した塗布層を加熱処理により乾燥させる加熱乾燥工程を経て、磁性層を形成する。
以下、上記製造方法の具体的態様を、図4に基づき説明する。ただし本発明は、下記具体的態様に限定されるものではない。
図4は、非磁性支持体の一方の面に非磁性層と磁性層とをこの順に有し、他方の面にバックコート層を有する磁気記録媒体を製造する工程の具体的態様を示す工程概略図である。図4に示す態様では、非磁性支持体(長尺フィルム)を、送り出し部から送り出し巻き取り部で巻き取る操作を連続的に行い、かつ図4に示されている各部または各ゾーンにおいて塗布、乾燥、配向等の各種処理を行うことにより、走行する非磁性支持体上の一方の面に非磁性層および磁性層を逐次重層塗布により形成し、他方の面にバックコート層を形成することができる。かかる製造方法は、磁性層形成工程に冷却ゾーンを含み、かつ硬化処理前にバーニッシュ処理工程を含む点以外は、塗布型磁気記録媒体の製造のために通常行われる製造方法と同様にすることができる。
送り出し部から送り出された非磁性支持体上には、第一の塗布部において、非磁性層形成用組成物の塗布が行われる(非磁性層形成用組成物の塗布工程)。
上記塗布工程後、第一の加熱処理ゾーンでは、塗布工程で形成された非磁性層形成用組成物の塗布層を加熱することにより、塗布層を乾燥させる(加熱乾燥工程)。加熱乾燥工程は、非磁性層形成用組成物の塗布層を有する非磁性支持体を加熱雰囲気中に通過させることにより行うことができる。ここでの加熱雰囲気の雰囲気温度は、例えば60〜140℃程度とすることができる。ただし、溶媒を揮発させて塗布層を乾燥させることができる温度とすればよく、上記範囲に限定されるものではない。また任意に、加熱した気体を塗布層表面に吹き付けてもよい。以上の点は、後述する第二の加熱処理ゾーンにおける加熱乾燥工程および第三の加熱処理ゾーンにおける加熱乾燥工程についても、同様である。
次に、第二の塗布部において、第一の加熱処理ゾーンにて加熱乾燥工程を行い形成された非磁性層上に、磁性層形成用組成物が塗布される(磁性層形成用組成物の塗布工程)。
上記塗布工程後、冷却ゾーンにおいて、塗布工程で形成された磁性層形成用組成物の塗布層が冷却される(冷却工程)。例えば、非磁性層上に上記塗布層を形成した非磁性支持体を冷却雰囲気中に通過させることにより、冷却工程を行うことができる。冷却雰囲気の雰囲気温度は、好ましくは−10℃〜0℃の範囲とすることができ、より好ましくは−5℃〜0℃の範囲とすることができる。冷却工程を行う時間(例えば、塗布層の任意の部分が冷却ゾーンに搬入されてから搬出されるまでの時間(以下において、「滞在時間」ともいう。))は特に限定されるものではない。滞在時間を長くするほど対数減衰率の値は小さくなる傾向があるため、0.050以下の対数減衰率を実現できるように必要に応じて予備実験を行う等して調整することが好ましい。なお冷却工程では、冷却した気体を塗布層表面に吹き付けてもよい。
その後、配向処理を行う態様では、磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤状態にあるうちに、配向ゾーンにおいて塗布層中の強磁性六方晶フェライト粉末の配向処理が行われる。配向処理については、特開2010−231843号公報の段落0067の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。先に記載したように、配向処理としては垂直配向処理を行うことが、XRD強度比を制御する観点から好ましい。配向処理については、先の記載も参照できる。
配向処理後の塗布層は、第二の加熱処理ゾーンにおいて加熱乾燥工程に付される。
次いで、第三の塗布部において、非磁性支持体の非磁性層および磁性層が形成された面とは反対側の面に、バックコート層形成用組成物が塗布されて塗布層が形成される(バックコート層形成用組成物の塗布工程)。その後、第三の加熱処理ゾーンにおいて、上記塗布層を加熱処理し乾燥させる。
こうして、非磁性支持体の一方の面に、非磁性層上に加熱乾燥された磁性層形成用組成物の塗布層を有し、他方の面にバックコート層を有する磁気記録媒体を得ることができる。ここで得られた磁気記録媒体は、この後に、後述する各種処理を施した後に、製品磁気記録媒体となる。
得られた磁気記録媒体は、巻き取り部で巻き取られた後に、製品磁気記録媒体のサイズに裁断(スリット)される。スリットは、公知の裁断機を用いて行うことができる。
スリットされた磁気記録媒体は、磁性層形成用組成物に含まれている硬化剤の種類に応じた硬化処理(加熱、光照射等)を行う前に、加熱乾燥された磁性層形成用組成物の塗布層の表面をバーニッシュ処理する(加熱乾燥工程と硬化工程との間のバーニッシュ処理工程)。このバーニッシュ処理により、冷却ゾーンにおいて冷却されて塗布層表面および/または表層部分に移行した粘着性成分を除去できることが、上記対数減衰率を0.050以下にすることにつながると、本発明者らは推察している。ただし先に記載した通り、推察に過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
バーニッシュ処理は、部材(例えば研磨テープ、または研削用ブレード、研削用ホイール等の研削具)により処理対象の表面を擦る処理であり、塗布型磁気記録媒体製造のために公知のバーニッシュ処理と同様に行うことができる。ただし、冷却工程および加熱乾燥工程を経た後、硬化工程前の段階でバーニッシュ処理を行うことは、従来行われていなかった。これに対し、上記段階でバーニッシュ処理を行うことにより、上記の対数減衰率を0.050以下にすることができる。
バーニッシュ処理は、好ましくは、研磨テープによって処理対象の塗布層表面を擦る(研磨する)ことおよび研削具によって処理対象の塗布層表面を擦る(研削すること)の一方または両方を行うことにより、実施することができる。磁性層形成用組成物に含まれる酸化物研磨剤よりモース硬度の高い研磨剤を少なくとも一種含む研磨テープを用いることが好ましい。研磨テープとしては、市販品を用いてもよく、公知の方法で作製した研磨テープを用いてもよい。また、研削具としては、固定式ブレード、ダイヤモンドホイール、回転式ブレード等の公知の研削用ブレード、研削用ホイール等を用いることができる。また、研磨テープおよび/または研削具によって擦られた塗布層表面をワイピング材によって拭き取るワイピング(wiping)処理を行ってもよい。好ましい研磨テープ、研削具、バーニッシュ処理およびワイピング処理の詳細については、特開平6−52544号公報の段落0034〜0048、図1および同公報の実施例を参照できる。バーニッシュ処理を強化するほど、上記の対数減衰率の値は小さくなる傾向がある。バーニッシュ処理は、研磨テープに含まれる研磨剤として高硬度な研磨剤を用いるほど強化することができ、研磨テープ中の研磨剤量を増やすほど強化することができる。また、研削具として高硬度な研削具を用いるほど強化することができる。バーニッシュ処理条件に関しては、処理対象の塗布層表面と部材(例えば研磨テープまたは研削具)との摺動速度を速くするほど、バーニッシュ処理を強化することができる。上記摺動速度は、部材を移動させる速度および処理対象の磁気テープを移動させる速度の一方または両方を速くすることにより、速くすることができる。
上記のバーニッシュ処理(バーニッシュ処理工程)後、磁性層形成用組成物の塗布層に硬化処理を施す。図4に示す態様では、磁性層形成用組成物の塗布層は、バーニッシュ処理後、硬化処理前に、表面平滑化処理が施される。表面平滑化処理は、カレンダ処理によって行うことが好ましい。カレンダ処理の詳細は、例えば特開2010−231843号公報の段落0026を参照できる。カレンダ処理を強化するほど、磁気記録媒体の表面を平滑化することができる。カレンダ処理は、カレンダロールの表面温度(カレンダ温度)を高くするほど、および/または、カレンダ圧力を大きくするほど、強化することができる。
その後、磁性層形成用組成物の塗布層に、この塗布層に含まれる硬化剤の種類に応じた硬化処理を施す(硬化工程)。硬化処理は、加熱処理、光照射等の上記塗布層に含まれる硬化剤の種類に応じた処理によって行うことができる。硬化処理条件は特に限定されるものではなく、塗布層形成に用いた磁性層形成用組成物の処方、硬化剤の種類、塗布層の厚み等に応じて適宜設定すればよい。例えば、硬化剤としてポリイソシアネートを含む磁性層形成用組成物を用いて塗布層を形成した場合には、硬化処理は加熱処理であることが好ましい。なお磁性層以外の層に硬化剤が含まれる場合、その層の硬化反応も、ここでの硬化処理により進行させることもできる。または別途、硬化工程を設けてもよい。なお硬化工程後に、更にバーニッシュ処理を行ってもよい。
以上により、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を得ることができる。ただし上記の製造方法は例示であって、XRD強度比、垂直方向角型比、磁性層表面の対数減衰率およびFIB研磨剤径を調整可能な任意の手段によって、それらの値をそれぞれ上記範囲に制御することができ、そのような態様も本発明に包含される。
本発明の一態様にかかる磁気記録媒体は、テープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)であることができ、ディスク状の磁気記録媒体(磁気ディスク)であることもできる。例えば磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジに収容され、磁気テープカートリッジが磁気記録再生装置に装着される。磁気テープには、磁気記録再生装置においてヘッドトラッキングサーボを行うことを可能とするために、公知の方法によってサーボパターンを形成することもできる。
[磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置に関する。
本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気記録媒体への情報の記録および磁気記録媒体に記録された情報の再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、磁気記録媒体への情報の記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気記録媒体に記録された情報の再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気記録再生装置は、一態様では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一態様では、上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、記録素子と再生素子の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。また、情報の記録および/または情報の再生を行う磁気ヘッドには、サーボパターン読み取り素子が含まれていてもよい。または、情報の記録および/または情報の再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボパターン読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気記録再生装置に含まれていてもよい。
上記磁気記録再生装置において、磁気記録媒体への情報の記録および磁気記録媒体に記録された情報の再生は、磁気記録媒体の磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。上記磁気記録再生装置は、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
本発明の一態様にかかる磁気記録媒体は、上記磁気記録再生装置において、優れた電磁変換特性を発揮することができる。即ち、上記磁気記録再生装置において、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体に記録された情報を高SNRで再生することができる。更に、上記磁気記録再生装置では、磁気記録媒体を新品のものに交換しながらGTTを行うことができる。このGTTにおいて、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体によれば、ヘッド素子削れが発生することを抑制することができる。ヘッド素子削れの発生が抑制される素子は、再生素子、記録素子およびサーボパターン読み取り素子からなる群から選ばれる素子の1つ以上であることができ、これら素子の2つ以上であることもできる。再生素子は、磁気記録媒体に記録された情報を感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子が好ましい。また、サーボパターン読み取り素子としても、MR素子が好ましい。再生素子および/またはサーボパターン読み取り素子としてMR素子を含むヘッド(MRヘッド)としては、公知の各種MRヘッドを用いることができる。
以下に、本発明を実施例に基づき説明する。ただし、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」の表示は、特に断らない限り、「質量部」、「質量%」を示す。また、以下に記載の工程および評価は、特記しない限り、雰囲気温度23℃±1℃の環境において行った。また、以下に記載の「eq」は、SI単位系に換算不可の単位である当量(equivalent)を示す。
[実施例1]
各層形成用組成物の処方を、下記に示す。
<研磨剤液の調製>
表1の条件Cに示す酸化物研磨剤(アルミナ粉末)100.0部に対し、表1の条件Cに示す量の2,3−ジヒドロキシナフタレン(東京化成社製)、極性基としてSO3Na基を有するポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR−4800(極性基量:80meq/kg))の32%溶液(溶媒はメチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒)31.3部、溶媒としてメチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1(質量比)の混合液570.0部を混合し、ジルコニアビーズ(ビーズ径:0.1mm)存在下で、ペイントシェーカーにより、表1の条件Cに示す時間(ビーズ分散時間)、分散させた。分散後、メッシュにより分散液とビーズとを分離して得られた分散液の遠心分離処理を実施した。遠心分離処理は、遠心分離機として日立工機社製CS150GXL(使用ローターは同社製S100AT6)を使用し、表1の条件Cに示す回転数(rpm;rotation per minute)で表1の条件Cに示す時間(遠心分離時間)、実施した。その後、表1の条件Cに示す孔径のフィルタでろ過を行い、アルミナ分散物(研磨剤液)を得た。
<磁性層形成用組成物の調製>
(磁性液)
板状強磁性六方晶フェライト粉末(M型バリウムフェライト):100.0部
(活性化体積:1500nm3
オレイン酸:2.0部
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン製MR−104):10.0部
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂:4.0部
(重量平均分子量70000、SO3Na基:0.07meq/g)
アミン系ポリマー(ビックケミー社製DISPERBYK−102):6.0部
メチルエチルケトン:150.0部
シクロヘキサノン:150.0部
(研磨剤液)
上記研磨剤液:6.0部
(突起形成剤液(シリカゾル))
コロイダルシリカ:2.0部
(平均粒子サイズ80nm)
メチルエチルケトン:8.0部
(その他の成分)
ステアリン酸:3.0部
ステアリン酸アミド:0.3部
ステアリン酸ブチル:6.0部
メチルエチルケトン:110.0部
シクロヘキサノン:110.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)L):3.0部
(調製方法)
上記磁性液の各種成分を、バッチ式縦型サンドミルによりビーズ径0.5mmのジルコニアビーズ(第一の分散ビーズ、密度6.0g/cm3)を使用して24時間分散し(第一の段階)、その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過することにより分散液Aを調製した。ジルコニアビーズは、強磁性六方晶フェライト粉末の質量に対して、質量基準で10倍量用いた。
その後、分散液Aをバッチ式縦型サンドミルにより表2に示すビーズ径のダイヤモンドビーズ(第二の分散ビーズ、密度3.5g/cm3)を使用して表2に示す時間分散し(第二の段階)、遠心分離機を用いてダイヤモンドビーズを分離した分散液(分散液B)を調製した。下記磁性液は、こうして得られた分散液Bである。
上記磁性液、研磨剤液、突起形成剤液、および上記のその他の成分をディゾルバー撹拌機に導入し、周速10m/秒で表1の条件Cに示す時間(撹拌時間)、撹拌した。その後、フロー式超音波分散機により流量7.5kg/分で表1の条件Cに示す時間(超音波分散時間)、超音波分散処理を行った後に、表1の条件Cに示す孔径のフィルタで表1の条件Cに示す回数ろ過して磁性層形成用組成物を調製した。
なお、先に記載した強磁性六方晶フェライト粉末の活性化体積は、磁性層形成用組成物の調製に使用した強磁性六方晶フェライト粉末と同じ粉末ロットの粉末を使用して測定し算出した値である。測定は、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで行い、先に記載した関係式から活性化体積を算出した。測定は23℃±1℃の環境で行った。
<非磁性層形成用組成物の調製>
下記の非磁性層形成用組成物の各種成分を、バッチ式縦型サンドミルによりビーズ径0.1mmのジルコニアビーズを使用して24時間分散し、その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過することにより、非磁性層形成用組成物を調製した。
非磁性無機粉末 α酸化鉄:100.0部
(平均粒子サイズ10nm、BET比表面積75m2/g)
カーボンブラック:25.0部
(平均粒子サイズ20nm)
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂:18.0部
(重量平均分子量70000、SO3Na基含有量0.2meq/g)
ステアリン酸:1.0部
シクロヘキサノン:300.0部
メチルエチルケトン:300.0部
<バックコート層形成用組成物の調製>
下記のバックコート層形成用組成物の各種成分のうち潤滑剤(ステアリン酸およびステアリン酸ブチル)、ポリイソシアネートならびにシクロヘキサノン200.0部を除いた成分をオープンニーダにより混練および希釈した後、横型ビーズミル分散機によりビーズ径1mmのジルコニアビーズを用い、ビーズ充填率80体積%、ローター先端周速10m/秒で1パスあたりの滞留時間を2分間とし、12パスの分散処理に供した。その後、上記の残りの成分を添加してディゾルバーで撹拌し、得られた分散液を1μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過することにより、バックコート層形成用組成物を調製した。
非磁性無機粉末 α酸化鉄:80.0部
(平均粒子サイズ0.15μm、BET比表面積52m2/g)
カーボンブラック:20.0部
(平均粒子サイズ20nm)
塩化ビニル共重合体:13.0部
スルホン酸塩基含有ポリウレタン樹脂:6.0部
フェニルホスホン酸:3.0部
シクロヘキサノン:155.0部
メチルエチルケトン:155.0部
ステアリン酸:3.0部
ステアリン酸ブチル:3.0部
ポリイソシアネート:5.0部
シクロヘキサノン:200.0部
<磁気テープの作製>
図4に示す具体的態様により磁気テープを作製した。詳しくは、次の通りとした。
厚み5.0μmのポリエチレンナフタレート製支持体を送り出し部から送り出し、一方の表面に、第一の塗布部において乾燥後の厚みが100nmになるように非磁性層形成用組成物を塗布し、第一の加熱処理ゾーン(雰囲気温度100℃)にて乾燥させて塗布層を形成した。
その後、第二の塗布部において乾燥後の厚みが70nmになるように磁性層形成用組成物を非磁性層上に塗布し塗布層を形成した。形成した塗布層が湿潤状態にあるうちに雰囲気温度0℃に調整した冷却ゾーンに表2に示す滞在時間で通過させて冷却工程を行った後、更に配向ゾーンにおいて表2に示す強度の磁場を上記塗布層の表面に対して垂直方向に印加し垂直配向処理を行った後に第二の加熱処理ゾーン(雰囲気温度100℃)にて乾燥させた。
その後、第三の塗布部において、上記ポリエチレンナフタレート製支持体の非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対側の表面に、乾燥後の厚みが0.4μmになるようにバックコート層形成用組成物を塗布して塗布層を形成し、形成した塗布層を第三の加熱処理ゾーン(雰囲気温度100℃)にて乾燥させた。
こうして得られた磁気テープを1/2インチ(0.0127メートル)幅にスリットした後、磁性層形成用組成物の塗布層表面のバーニッシュ処理およびワイピング処理を行った。バーニッシュ処理およびワイピング処理は、特開平6−52544号公報の図1に記載の構成の処理装置において、研磨テープとして市販の研磨テープ(富士フイルム社製商品名MA22000、研磨剤:ダイヤモンド/Cr23/ベンガラ)を使用し、研削用ブレードとして市販のサファイヤブレード(京セラ社製、幅5mm、長さ35mm、先端角度60度)を使用し、ワイピング材として市販のワイピング材(クラレ社製商品名WRP736)を使用して行った。処理条件は、特開平6−52544号公報の実施例12における処理条件を採用した。
上記バーニッシュ処理およびワイピング処理後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールで、速度80m/分、線圧300kg/cm(294kN/m)、およびカレンダ温度(カレンダロールの表面温度)90℃にてカレンダ処理(表面平滑化処理)を行った。
その後、雰囲気温度70℃の環境で36時間加熱処理(硬化処理)を行った後、市販のサーボライターによって磁性層にサーボパターンを形成した。
以上により、実施例1の磁気テープを得た。
[実施例2〜9、比較例1〜13]
表1および表2に示す各種項目を各表に示すように変更した点以外、実施例1と同様に磁気テープを作製した。
表1に記載されている酸化物研磨剤は、いずれもアルミナ粉末である。
表2中、分散ビーズの欄および時間の欄に「なし」と記載されている比較例については、磁性液分散処理において第二の段階を実施せずに磁性層形成用組成物を調製した。
表2中、垂直配向処理磁場強度の欄に「なし」と記載されている例については、配向処理を行わずに磁性層を形成した。
表2中、冷却ゾーン滞在時間の欄および硬化処理前バーニッシュ処理の欄に「未実施」と記載されている比較例では、磁性層形成工程に冷却ゾーンを含まず、かつ硬化処理前のバーニッシュ処理およびワイピング処理を行わない製造工程により磁気テープを作製した。
[磁気テープの物性評価]
(1)XRD強度比
作製した磁気テープから、テープ試料を切り出した。
切り出したテープ試料について、薄膜X線回折装置(リガク社製SmartLab)を用いて磁性層表面にX線を入射させて、先に記載した方法によりIn−Plane XRDを行った。
In−Plane XRDにより得られたX線回折スペクトルから、六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)および(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)を求め、XRD強度比(Int(110)/Int(114))を算出した。
(2)垂直方向角型比
作製した各磁気テープについて、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いて先に記載した方法により垂直方向角型比を求めた。
(3)磁性層表面の対数減衰率の測定
測定装置として、株式会社エー・アンド・デイ製剛体振り子型物性試験器RPT−3000W(振り子:株式会社エー・アンド・デイ製剛体振り子FRB−100、おもり:なし、丸棒型シリンダエッジ:株式会社エー・アンド・デイ製RBP−040、基板:ガラス基板、基板昇温速度5℃/min)を用いて、先に記載した方法により磁気テープの磁性層表面の対数減衰率を求めた。
ガラス基板としては、市販のスライドグラスを25mm(短辺)×50mm(長辺)のサイズにカットしたものを使用した。磁気テープの長手方向がガラス基板の短辺方向と平行になるように磁気テープをガラス基板の中央に載せた状態で、ガラス基板上の磁気テープの四隅を固定用テープ(東レ・デュポン製カプトンテープ)でガラス基板と固定した。その後、ガラス基板から食み出た部分の磁気テープをカットした。こうして、測定用試料が、ガラス基板上に図1に示すように4箇所で固定されて載置された。吸着時間を1秒間かつ測定間隔を7〜10秒とし、86回目の測定間隔について変位−時間曲線を作成し、この曲線を用いて対数減衰率を求めた。測定は、相対湿度約50%の環境下にて行った。
(4)FIB研磨剤径
作製した各磁気テープのFIB研磨剤径を、以下の方法により求めた。集束イオンビーム装置としては、日立ハイテクノロジーズ社製MI4050を使用し、画像解析ソフトとしては、フリーソフトのImageJを使用した。
(i)2次イオン像の取得
作製した各磁気テープから切り出した測定用サンプルのバックコート層表面を、市販のSEM測定用カーボン両面テープ(アルミニウム製基材上にカーボン膜が形成された両面テープ)の粘着層に貼り付けた。この両面テープのバックコート層表面と貼り付けた表面とは反対の表面上の粘着層を、集束イオンビーム装置の試料台に貼り付けた。こうして、測定用サンプルを、磁性層表面を上方に向けて集束イオンビーム装置の試料台上に配置した。
撮像前コーティング処理を行わず、集束イオンビーム装置のビーム設定を、加速電圧30kV、電流値133pA、BeamSize30nmおよびBrightness50%に設定し、2次イオン検出器によりSI信号を検出した。磁性層表面の未撮像領域3箇所においてACBを実施することにより画像の色味を安定させ、コントラスト基準値およびブライトネス基準値を決定した。本ACBにより決定されたコントラスト基準値から1%下げたコントラスト値および上記のブライトネス基準値を、撮像条件として決定した。磁性層表面の未撮像領域を選択し、上記で決定された撮像条件下で、Pixel distance=25.0(nm/pixel)にて撮像を実施した。画像取り込み方式は、PhotoScan Dot×4_Dwell Time 15μsec(取り込み時間:1分)とし、取り込みサイズは25μm角とした。こうして、磁性層表面の25μm角の領域の2次イオン像を得た。得られた2次イオン像は、スキャン終了後、取り込み画面上でマウスを右クリックし、ExportImageでファイル形式をJPEGとして保存した。画像の画素数が2000pixel×2100pixelであることを確認し、取り込み画像のクロスマークおよびミクロンバーを消し、2000pixel×2000pixel画像とした。
(ii)FIB研磨剤径の算出
上記(i)で取得した2次イオン像の画像データを、画像解析ソフトImageJにドラッグおよびドロップした。
画像解析ソフトを用いて、画像データを8bitに色調変更した。具体的には、画像解析ソフトの操作メニューのImageを押し、Typeの8bitを選択した。
2値化処理するために、下限値250諧調、上限値255諧調を選択し、これら2つの閾値による2値化処理を実行した。具体的には、画像解析ソフトの操作メニュー上、Imageを押し、AdjustのThresholdを選択し、下限値250、上限値255を選択した後にapplyを選択した。得られた画像について、画像解析ソフトの操作メニューのProcessを押し、NoiseからDespeckleを選択し、AnalyzeParticleでSize 4.0−Infinityを設定してノイズ成分の除去を行った。
こうして得られた2値化処理画像について、画像解析ソフトの操作メニューからAnalyzeParticleを選択し、画像上の白く光る部分の個数およびArea(単位:Pixel)を求めた。面積は、画像解析ソフトにより画面上の白く光る各部分について、Area(単位:Pixel)を面積に変換して求めた。具体的には、上記撮像条件により得られた画像において、1pixelは0.0125μmに相当するため、面積A=Area pixel×0.0125^2により、面積A[μm2]を算出した。こうして算出された面積を用いて、円相当径L=(A/π)^(1/2)×2=Lにより、白く光る各部分について円相当径Lを求めた。
以上の工程を、測定用サンプルの磁性層表面の異なる箇所(25μm角)において4回実施し、得られた結果から、FIB研磨剤径を、FIB研磨剤径=Σ(Li)/Σiにより算出した。
[電磁変換特性(SNR)の評価]
作製した各磁気テープの電磁変換特性を、ヘッドを固定した1/2インチ(0.0127メートル)リールテスターを用いて以下の方法により測定した。以下の記録および再生は、磁気テープの磁性層表面とヘッドとを摺動させて行われた。
磁気テープの走行速度(磁気ヘッド/磁気テープ相対速度)は4m/秒とした。記録ヘッドとしてMIG(Metal−In−Gap)ヘッド(ギャップ長0.15μm、トラック幅1.0μm)を使い、記録電流は各磁気テープの最適記録電流に設定した。再生ヘッドとしては素子厚み15nm、シールド間隔0.1μmおよびリード幅0.5μmのGMR(Giant−Magnetoresistive)ヘッドを使用した。線記録密度300kfciで信号の記録を行い、再生信号をシバソク社製のスペクトラムアナライザーで測定した。キャリア信号の出力値と、スペクトル全帯域の積分ノイズとの比をSNRとした。SNR測定のためには、磁気テープの走行後に信号が十分に安定した部分の信号を使用した。SNRは、比較例1のSNRを0.0dBとしたときの相対値として表2に示した。なお単位kfciとは、線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。
[GTTにおけるヘッド素子削れ量]
IBM社製TS1140テープドライブで使用されている磁気ヘッド(MRヘッド)をリールテスターに取り付け、1巻1000m長の磁気テープを、磁性層表面とMRヘッドとを摺動させながら、走行速度(磁気ヘッド/磁気テープ相対速度)を4m/秒として200パス走行させた。
上記と同様の200パス走行を、磁気テープを新品に取り替えて繰り返した後(磁気テープを1000巻使用)、以下の方法によって上記MRヘッドのMR素子の削れ量を測定した。
上記MRヘッドの磁性層表面との摺動面を含む表面上に、真空蒸着装置(JEOL社製JEE−4X)を用いてカーボン膜を蒸着し、このカーボン膜の上にイオンスパッタ装置(日立ハイテクノロジーズ社製E−1030)を用いて白金膜をスパッタ成膜した。その後、MRFEI社製FIB−SEM複合機Helios400Sを用いて、上記MRヘッドから、走行時の磁気テープとの摺動方向と平行な断面が露出し、かつこの断面にMR素子が含まれるように断面観察用試料(厚み100nmの切片)を切り出した。この断面観察用試料を透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission Electron Microscope)(FEI社製Titan80−300)により加速電圧300kVで観察して得られたTEM像を用いて、磁性層表面との摺動面とMR素子の頂部との垂直方向距離求めた。求められた距離と未使用のMRヘッドについて同じ方法で求めた距離との差分を、GTTにおけるヘッド素子削れ量として表2に示した。
表2に示す結果から、磁気テープのXRD強度比、垂直方向角型比、磁性層表面の対数減衰率およびFIB研磨剤径がそれぞれ先に記載した範囲である実施例1〜9は、高SNRでの再生が可能であり(即ち優れた電磁変換特性を発揮し)、かつGTTにおけるヘッド素子削れの発生が抑制されていることが確認できる。なお比較例6および比較例7において、実施例1〜9と比べてSNRが低下した理由は、FIB研磨剤径が0.08μmを大きく超える状態で磁性層に酸化物研磨剤が存在していたため磁性層表面が粗くなったことにより、磁性層表面と再生素子との間の距離が広がりスペーシングロスが生じたためと考えられる。
本発明の一態様は、アーカイブ用記録媒体として用いられる磁気記録媒体の技術分野において有用である。

Claims (9)

  1. 非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
    前記強磁性粉末は強磁性六方晶フェライト粉末であり、前記磁性層は酸化物研磨剤を含み、
    In−Plane法を用いた前記磁性層のX線回折分析により求められる六方晶フェライト結晶構造の(114)面の回折ピークのピーク強度Int(114)に対する(110)面の回折ピークのピーク強度Int(110)の強度比、Int(110)/Int(114)、は0.5以上4.0以下であり、
    前記磁気記録媒体の垂直方向角型比は0.65以上1.00以下であり、
    前記磁性層の表面において振り子粘弾性試験により求められる対数減衰率は0.050以下であり、かつ
    前記磁性層の表面に集束イオンビームを照射して取得される2次イオン像から求められる前記酸化物研磨剤の平均粒子直径は0.04μm以上0.08μm以下である磁気記録媒体。
  2. 前記垂直方向角型比は、0.65以上0.90以下である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
  3. 前記対数減衰率は、0.010以上0.050以下である、請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
  4. 前記酸化物研磨剤は、アルミナ粉末である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  5. 前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  6. 前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  7. 磁気テープである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体と、
    磁気ヘッドと、
    を含む磁気記録再生装置。
  9. 前記磁気ヘッドは、磁気抵抗効果型素子を含む磁気ヘッドである、請求項8に記載の磁気記録再生装置。
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