以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態における電圧供給装置の概略構成図である。このような電圧供給装置100は、電動車両に搭載されるモータ200の回転駆動を制御する装置である。
電圧供給装置100は、例えばアクセル開度に応じで定まるトルク指令値である目標トルクT*に応じたPWM電圧vu、vv、vwをモータ200に供給する装置である。このようにすることで、モータ200の回転駆動が制御される。なお、モータ200は、車両の駆動輪に接続された多相電動機の一例であり、本実施形態では3相で動作する。
なお、この電圧供給装置100は、電流ベクトル制御器2による電流ベクトル制御、および、電圧位相制御器14による電圧位相制御のいずれかの方法で、モータ200の回転駆動を制御する。なお、電流ベクトル制御と電圧位相制御との切り替えは、制御切替判定器15により行われる。
まず、電流ベクトル制御に関連する構成について説明する。
CVC(Current Voltage Control)MAP1には、電圧供給装置100外から目標トルクT*が入力されるとともに、電圧センサ7から直流電源6の電圧検出値Vdc、及び、回転数演算器10からモータ200の電気角周波数検出値ωreが入力される。CVCMAP1は、ルックアップテーブルを備えており、これらの入力に応じてd軸電流指令値id *、q軸電流指令値iq *、d軸非干渉化電圧指令値vd_dcpl *、及び、q軸非干渉化電圧指令値vq_dcpl *を求めて電流ベクトル制御器2に出力する。
電流ベクトル制御器2には、CVCMAP1から、d軸電流指令値id *、及び、q軸電流指令値iq *、及び、d軸非干渉化電圧指令値vd_dcpl *、q軸非干渉化電圧指令値vq_dcpl *が入力されるとともに、座標変換器11から、d軸電流値id、及び、q軸電流値iqが入力される。そして、電流ベクトル制御器2は、これらの入力に応じて公知の電流ベクトル制御演算を行い、d軸電圧指令値vd1 *、及び、q軸電圧指令値vq1 *を出力する。なお、電流ベクトル制御器2の詳細な構成については、後に、図2を用いて説明する。
座標変換器3は、電流ベクトル制御器2から出力されるd軸電圧指令値vd1 *、及び、q軸電圧指令値vq1 *に対して、回転センサ9から出力されるモータ200の電気角θに基づく座標変換を実施し、三相の電圧指令値vu *、vv *、vw *を求める。そして、座標変換器3は、三相の電圧指令値vu *、vv *、vw *をPWM変換器4に出力する。なお、座標変換器3にて行われる座標変換処理は、次の式で示される。
PWM変換器(PWM電圧生成部)4は、電流ベクトル制御が行われている場合には、三角波であるキャリア波と、座標変換器3から出力される電圧指令値vu *、vv *、vw *を変換して求めたデューティ指令値との大小関係を比較する。そして、PWM変換器4は、その比較結果に基づいてインバータ装置5が備える複数のスイッチング素子に対する駆動信号Duu *、Dul *、Dvu *、Dvl *、Dwu *、Dwl *を生成し、これらの駆動信号をインバータ装置5に出力する。なお、電圧位相制御が行われている場合のPWM変換器4の動作については、後に説明する。
インバータ装置5は、3相6アームで構成され、各相ごとに2つずつ計6つのスイッチング素子を備えている。また、インバータ装置5には、直流電源6から直流電圧が供給される。インバータ装置5は、PWM変換器4から出力される駆動信号に基づいてスイッチング素子のそれぞれを駆動させることで、PWM電圧vu、vv、vwを生成して、これらのPWM電圧vu、vv、vwをモータ200に供給する。すなわち、駆動信号Duu *、Dul *によりu相のPWM電圧vuが生成され、駆動信号Dvu *、Dvl *によりv相のPWM電圧vvが生成され、駆動信号Dwu *、Dwl *によりw相のPWM電圧vwが生成される。
なお、インバータ装置5から出力されるPWM電圧vu、vv、vwは、それぞれ、電圧指令値vu *、vv *、vw *と同じ変化をする。また、PWM電圧vu、vv、vwにおけるハイレベルとローレベルとの差は、直流電源6の電圧となる。
電圧センサ7は、直流電源6の電圧を検出し、その検出した電圧検出値Vdcを、CVCMAP1、PWM変換器4、VPCMAP13に出力する。
なお、モータ200は三相で駆動しているため、インバータ装置5とモータ200とは三相と対応する3つの配線で接続されている。モータ200には、u相配線を介してPWM電圧vuが入力され、v相配線を介してPWM電圧vvが入力され、w相配線を介してPWM電圧vwが入力される。なお、u相配線には電流センサ8uが設けられ、v相配線には電流センサ8vが設けられている。電流センサ8uにより検出された電流検出値iu、及び、電流センサ8vにより検出された電流検出値ivは、座標変換器11に入力される。
回転センサ9は、モータ200に隣接して設けられており、モータ200の回転子の電気角θを検出する。回転センサ9は、検出した電気角θを、座標変換器3及び11と、PWM変換器4と、回転数演算器10とに出力する。
座標変換器11は、電流センサ8u、8vから出力されるu軸電流値iu、v軸電流値ivに対して、回転センサ9から出力される電気角θに基づいて、dq軸への座標変換を行う。そして、座標変換器11は、変換結果であるd軸電流値id、及び、q軸電流値iqを、電流ベクトル制御器2、トルク推定器12、及び、制御切替判定器15に出力する。なお、座標変換器11にて行われる座標変換処理は、次の式で示される。また、三相電流であるiu、iv、及び、iwの和はゼロになるため、w相電流iwは、「−iu−iv」と示すことができる。
次に、電圧位相制御に関連する構成について説明する。
トルク推定器12は、予め記憶しているテーブルなどを参照してd軸電流値id、及び、q軸電流値iqに基づき現在のモータ200のトルクをトルク推定値Tcalとして算出する。そして、トルク推定器12は、算出したトルク推定値Tcalを電圧位相制御器14に出力する。
VPC(Voltage Phase Control)MAP13は、ルックアップテーブルを備えており、入力される目標トルクT*、電圧検出値Vdc、及び、電気角周波数検出値ωreに対応する電圧位相指令値α* ffを求める。そしで、VPCMAP13は、電圧位相指令値α* ffを電圧位相制御器14に出力する。
電圧位相制御器14は、トルク推定器12から出力されるトルク推定値Tcalが目標トルクT*に一致するように、電圧位相指令値α* ffを変更する。そして、電圧位相制御器14は、変更後の電圧位相指令値に対して、電流応答が振動的になるのを抑制するフィルタ処理を行い、最終電圧位相指令値α* finを算出する。なお、電圧位相制御器14の詳細な構成については、後に、図3を用いて説明する。
PWM変換器4は、電圧位相制御が行われている場合には、まず、回転センサ9から出力されるモータ200の回転子の電気角θと、電圧位相制御器14から出力される最終電圧位相指令値α* finとの和を算出する。そして、PWM変換器4は、後述の方法によって、その和に応じて矩形波の電圧指令値を決定し、電圧指令値に基づいてデューティ指令値を算出する。そして、PWM変換器4は、キャリア波とデューティ指令値との大小関係に基づいて、駆動信号Duu *、Dul *、Dvu *、Dvl *、Dwu *、Dwl *を生成すると、これらの駆動信号をインバータ装置5に出力する。このように、電圧位相制御が行われている場合には、PWM変換器4は、電圧指令値を生成する指令値生成部として機能する。なお、電圧位相制御が行われている場合のPWM変換器4における処理の詳細は、後に、図4などを用いて説明する。
インバータ装置5は、電圧位相制御が行われる場合においても、入力された駆動信号に応じてPWM電圧vu、vv、vwを生成して、これらのPWM電圧をモータ200に出力する。なお、電圧位相制御が行われる場合には、PWM変換器4内で生成される電圧指令値は矩形波であるため、インバータ装置5から出力されるPWM電圧vu、vv、vwは電圧指令値と一致するような矩形波となる。
制御切替判定器15には、電流ベクトル制御器2から出力されるd軸電圧指令値vd1 *、q軸電圧指令値vq1 *、及び、座標変換器11から出力されるd軸電流値id、及び、q軸電流値iqが入力される。そして、制御切替判定器15は、これらの入力に基づいて、電流ベクトル制御、又は、電圧位相制御のいずれかの制御方法を選択して、PWM変換器4にその制御方法を示す信号を出力する。PWM変換器4は、制御切替判定器15により選択された制御方法に基づいて、電流ベクトル制御、又は、電圧位相制御のいずれかを行う。
モータ200の回転数が大きい場合には、モータ200に印加されるPWM電圧vu、vv、vwが直流電源6によって印加可能な電圧の上限値を上回るおそれがある。そのため、制御切替判定器15は、目標トルクT*が所定の閾値を上回る場合には、電圧位相制御を選択する。一方、モータ200に供給される電流が大きい場合には、逆起電力を抑制する弱め界磁電流が大きくなりすぎるおそれがある。そのため、制御切替判定器15は、d軸電流値id、及び、q軸電流値iqが所定の閾値を上回る場合には、電流ベクトル制御を選択する。
次に、電流ベクトル制御器2の詳細な構成について図2を用いて説明する。
図2は、電流ベクトル制御器2の詳細な構成を示すブロック図である。なお、図2においてはd軸の指令値の処理を行うブロックのみが示されているが、電流ベクトル制御器2はq軸の指令値の処理を行うブロックも備えており、q軸に関してもd軸と同様の処理が行われる。
電流ベクトル制御器2は、減算器2Aと、PI増幅器2Bと、フィルタ2Cと、加算器2Dとを有する。
減算器2Aは、電流ベクトル制御器2に入力されるd軸電流指令値id *からd軸電流値idを減じ、その減算結果をPI増幅器2Bに出力する。
PI増幅器2Bは、減算器2Aでの減算結果に基づいたPI演算を行い、補償電圧vd’を算出する。
フィルタ2Cは、入力されたd軸非干渉化電圧指令値vd_dcpl *に対してフィルタ処理を行う。そして、フィルタ処理後のd軸非干渉化電圧指令値vd_dcpl_flt *を加算器2Dに出力する。なお、フィルタ2Cにおいては、次式の伝達関数で示される処理が行われる。ただし、τmsは、d軸電流値idの規範応答時定数である。
加算器2Dは、PI増幅器2Bから出力される補償電圧vd’と、フィルタ2Cから出力されるフィルタ処理後の非干渉化電圧指令値vd_dcpl_fltとの和を、d軸電圧指令値vd1 *として出力する。
次に、電圧位相制御器14の詳細な構成について図3を用いて説明する。
図3は、電圧位相制御器14の詳細な構成を示すブロック図である。
電圧位相制御器14は、フィルタ14A及び14Eと、減算器14Bと、PI増幅器14Cと、加算器14Dとを有する。なお、フィルタ14A及び14Eにおいては、図2のフィルタ2Cと同じ伝達関数の処理が行われる。また、PI増幅器14Cは、図2のPI増幅器2Bと同様のPI演算を行う。
フィルタ14Aは、入力された目標トルクT*に対してフィルタ処理を行い、規範ベクトル応答値Trefとして減算器14Bに出力する。
減算器14Bは、フィルタ14Aから出力される規範ベクトル応答値Trefから、トルク推定値Tcalを減算し、その減算結果をPI増幅器14Cに出力する。
PI増幅器14Cは、減算器14Bでの減算結果に基づいたPI演算を行い、補償位相指令値α’を算出し、加算器14Dに出力する。
加算器14Dは、VPCMAP13から出力される電圧位相指令値α* ffと、PI増幅器14Cから出力される補償位相指令値α’とを加算し、その加算結果を電圧位相指令値α* fin 'としてフィルタ14Eに出力する。
フィルタ14Eは、電圧位相指令値α* fin 'に対してフィルタ処理を行い、最終電圧位相指令値α* finとして出力する。
このような構成の電圧供給装置100が電圧位相制御を行う時に、本実施形態の信号処理が行われる。この信号処理が行われることにより、キャリア波の周波数を変更することなくデューティ指令値を設定できることについて、図4Aから図4Cまでを用いて説明する。
なお、電圧位相制御が行われる場合には、PWM変換器4の内部において、最終電圧位相指令値α* finに応じて電圧指令値vu *、vv *、vw *が算出されると、電圧指令値vu *、vv *、vw *に基づいてデューティ指令値Du *、Dv *、Dw *が算出される。そして、デューティ指令値とキャリア波との比較結果に応じて、駆動信号Duu *、Dul *、Dvu *、Dvl *、Dwu *、Dwl *が生成される。インバータ装置5は、これらの駆動信号に応じてスイッチング素子が操作されることで、PWM電圧vu、vv、vwを生成して出力する。
図4A、及び、図4Bに示される場合においては、本実施形態の信号処理が行われておらず、図4Cに示される場合においては、本実施形態の信号処理が行われている。また、図4Aから図4Cまでのそれぞれには、(a)電圧位相指令値φ、(b)電圧指令値vu *、及び、(c)デューティ指令値Du *が示されている。なお、(a)電圧位相指令値φは、モータ200の電気角θと、最終電圧位相指令値α* finとの和である。
図4Aは、本実施形態の信号処理が行われていないが、キャリア波の周波数を変更しなくても、デューティ指令値Du *を設定できる場合について示されている。
図4A(a)に示されているように、電圧位相指令値φは、モータ200の電気角θの変化に伴って、0°から360°まで単調に増加する。なお、電圧位相制御が行われる場合には、モータ200の回転子が1回転する間、すなわち、電気角θが0°から360°まで変化する間に、モータ200に供給されるPWM電圧は、オン(ハイレベル)からオフ(ローレベル)への切り替え、及び、オフからオンへの切り替えが行われる。
そのため、図4A(a)、(b)を参照すれば、電圧位相指令値φが180°から360°までの間は電圧指令値vu *がオンとなり、電圧位相指令値φが0°から180°までの間は電圧指令値vu *がオフとなる。したがって、電圧指令値vu *のオフからオンへの切り替え、及び、オフからオンへの切り替えが繰り返される周期は、電圧位相指令値φが0°から360°までの期間と等しい。
図4A(c)においては、細い線で三角波であるキャリア波が示されるとともに、太い線でデューティ指令値Du *が示されている。デューティ指令値Du *は、図4A(b)に示される電圧指令値vu *に応じて設定される。以下では、この設定方法について説明する。
デューティ指令値Du *は、キャリア波が最大値及び最小値となるタイミング毎に、すなわち、キャリア波の半周期毎に、電圧指令値vu *に応じた値に更新される。したがって、このキャリア波の半周期が、デューティ指令値Du *の設定周期となる。ここで、説明の便宜上、以下では、デューティ指令値が設定されてから次に設定されるまでの区間を、制御区間と称する。すなわち、例えば、時刻t0からt1までの区間のように、キャリア波が単調に変化している区間を、制御区間と称する。なお、電圧指令値vu *のオン(ハイレベル)とオフ(ローレベル)との電位差は、直流電源6の電圧検出値Vdcである。
そして、電圧指令値vu *がオフである間は、デューティ指令値Du *はキャリア波よりも小さくなるように設定される。一方、電圧指令値vu *がオンである間は、デューティ指令値Du *はキャリア波よりも大きくなるように設定される。
そのため、制御区間において電圧指令値vu *が常にオンである場合には、デューティ指令値Du *は100%が設定される。一方、制御区間において電圧指令値vu *が常にオフである場合には、デューティ指令値Du *は0%が設定される。また、制御区間の途中で電圧指令値vu *の切り替えが行われる場合には、その切り替えタイミングに応じてデューティ指令値Du *が設定される。具体的には、デューティ指令値Du *は、制御区間の全区間に対する制御区間の開始タイミングから切り替えタイミングまでの区間の割合に応じて、設定される。
ここで、図4A(b)を参照すると、時刻t0からt1までの制御区間における時刻t0c、及び、時刻t6からt7までの制御区間における時刻t6cにおいて、電圧指令値vu *のオフからオンの切り替えが行われる。図4A(c)を参照すれば、これらの制御区間では、キャリア波は時間経過に伴って減少する(傾きが下り)。そこで、電圧指令値vu *のオフからオンの切り替えが行われるタイミング(時刻t0c、t6c)に応じて、デューティ指令値Du *が設定される。
また、時刻t3からt4までの制御区間における時刻t3c、及び、時刻t9からt10までの制御区間における時刻t9cにおいて、電圧指令値vu *のオンからオフの切り替えが行われる。これらの制御区間においては、キャリア波は、時間経過に伴って増加する(傾きが上り)。そこで、電圧指令値vu *のオンからオフの切り替えが行われるタイミング(時刻t3c、t9c)に応じて、デューティ指令値Du *が設定される。
なお、時刻t1からt3までの間、及び、時刻t7からt9までの間では、電圧指令値vu *はオンであるため、デューティ指令値Du *は100%が設定される。一方、時刻t4からt6までの間は、電圧指令値vu *がオフであるため、デューティ指令値Du *は0%が設定される。
次に、図4Bを用いて、本実施形態の信号処理が行われていないため、デューティ指令値Du *を設定できない場合について説明する。なお、図4Bにおいては、図4Aにおける場合と比較すると、矩形波である電圧指令値vu *の周期が異なる。
図4B(b)を参照すれば、時刻t0からt1までの制御区間における時刻t0c、及び、時刻t9からt10までの制御区間における時刻t9cにおいて、電圧指令値vu *のオフからオンの切り替えが行われる。これらの制御区間のうち時刻t9からt10までの制御区間においては、電圧指令値vu *に応じたデューティ指令値Du *を設定できない。
この制御区間の開始タイミングである時刻t9においては、電圧指令値vu *がオフであるので、デューティ指令値Du *がキャリア波を下回らなければならない。しかしながら、この制御区間のキャリア波が上りであり、時刻t9におけるキャリア波の値は0%であるので、キャリア波を下回るデューティ指令値Du *を設定できない。
一方、制御区間の終了タイミングである時刻t10においては、電圧指令値vu *がオンであるので、デューティ指令値Du *がキャリア波を上回らなければならない。しかしながら、この制御区間のキャリア波が上りであり、時刻t10におけるキャリア波の値は100%であるので、キャリア波を上回るデューティ指令値Du *を設定できない。
また、時刻t4からt5までの制御区間における時刻t4cおいて、電圧指令値vu *のオンからオフの切り替えが行われる。この制御区間においては、電圧指令値vu *に応じたデューティ指令値Du *を設定できない。
この制御区間の開始タイミングである時刻t4においては、電圧指令値vu *がオンであるので、デューティ指令値Du *がキャリア波を上回らなければならない。しかしながら、この制御区間のキャリア波が下りであり、時刻t4におけるキャリア波の値は100%であるので、キャリア波を上回るデューティ指令値Du *を設定できない。
一方、制御区間の終了タイミングである時刻t5においては、電圧指令値vu *がオフであるので、デューティ指令値Du *がキャリア波を下回らなければならない。しかしながら、この制御区間のキャリア波が下りであり、時刻t5におけるキャリア波の値は0%であるので、キャリア波を下回るデューティ指令値Du *を設定できない。
このように、電圧指令値vu *の周期によっては、電圧指令値vu *に応じたデューティ指令値Du *を設定できないことがある。
図4Cには、本実施形態の信号処理が行われる場合について示されている。なお、図4Cにおいては、図4Bにおける場合と電圧指令値vu *の周期が同じである。
図4C(b)に示されるように、時刻t4からt5までの制御区間における時刻t4cにおいては、電圧指令値vu *のオンからオフへの切り替えが行われる。しかしながら、一点鎖線で示されているようにキャリア波が下りである場合には、デューティ指令値Du *を設定できない。
そこで、本実施形態においては、この制御区間において、キャリア波の位相を180°反転させる。このようにすることで、時刻t4からt5までの制御区間では、キャリア波の傾きが上りに変更されるので、電圧指令値vu *に応じたデューティ指令値Du *を設定できるようになる。
このように、本実施形態では、ある制御区間で電圧指令値vu *の切り替えの方向(オンからオフへの方向、又は、オフからオンへの方向)、及び、キャリア波の傾きに応じて、デューティ指令値Du *の設定の可否を判定する。そして、デューティ指令値Du *を設定できないと判定した場合には、キャリア波の位相反転を実施することで、デューティ指令値Du *の設定を可能にする。
図5には、本実施形態の信号処理の詳細がフローチャートで示されている。なお、この信号処理は、PWM変換器4によって行われる。また、u、v、w相をまとめてx相として示しており、各相の電圧指令値はvx *と示され、デューティ指令値はDx *と示される。
なお、この信号処理は、キャリア波が最大値及び最小値となるタイミング毎に、すなわち、キャリア波の半周期である制御区間毎に行われる。ある制御区間でこの信号処理が行われることにより、次の制御区間(次区間)のデューティ指令値Dx *が設定されるとともに、次区間のキャリア波の位相反転の実施の要否が判断される。
まず、ステップS51においては、次の式を用いてキャリア波の周波数が所定の基準を満たすか否かが判定される。ただし、fcは、キャリア波の周波数を示す。また、ωre/2πは、モータ200の回転速度を示しており、式中の「3」は、モータ200の相数に相当する。
ここで、キャリア波の半周期に相当する1つの制御区間に、インバータ装置5内の1つのスイッチング素子の切り替えが行われる。また、モータ200の回転子が1回転する間、すなわち、モータ200の1回転周期の間に、3相6アームを構成する6つのスイッチング素子の全てが制御される必要がある。そのため、モータ200の1回転周期は、キャリア波の半周期の6倍以上の長さ、すなわち、キャリア波の3周期以上の長さとなる必要がある。すなわち、キャリア波の周波数は、モータ200の回転数の3倍以上になる必要があるので、(4)式が求められる。
キャリア波の周波数が(4)式を満たさない場合には(S51:No)、キャリア波の周波数を変更する必要があると判断して、ステップS52の処理に進む。一方、キャリア波の周波数が(4)式を満たす場合には(S51:Yes)、ステップS53の処理に進む。
ステップS52においては、キャリア周波数が(4)式を満たす周波数に変更されると、信号処理を終了する。
一方、ステップS53においては、次区間での電圧指令値vx *の切り替えの有無が判定される。なお、ステップS53では、次区間での電圧指令値vx *の切り替えの方向(オンからオフへの切り替え、又は、オフからオンへの切り替え)も判定される。
具体的には、次の式を用いて、次区間の開始時刻での電圧位相指令値a、及び、次区間の終了時刻での電圧位相指令値bを求める。ただし、tは、制御区間の時間長、すなわち、キャリア波の半周期の長さを示すものとする。
まず、(5)式について説明する。信号処理が開始される現在の制御区間(現区間)の開始時刻においては、電圧位相指令値φは、モータ200の電気角θと最終電圧位相指令値α* finとの和(α* fin+θ)となる。そして、電気角周波数検出値ωreと制御区間の長さtとの積(ωret)は、現区間の開始時刻から次区間の開始時刻までの間の電圧位相指令値の増加量を示す。したがって、現区間の開始時刻の電圧位相指令値φ(=α* fin+θ)に、電圧位相指令値の増加量(ωret)を加算することで、次区間の開始時刻での電圧位相指令値aを求めることができる。
さらに、(6)式について説明する。次区間の開始時刻から次区間の終了時刻までの間の電圧位相指令値の増加量は、電気角周波数検出値ωreと制御区間の長さtとの積(ωret)である。そのため、現区間の開始時刻の電圧位相指令値φに2ωretを加えることで、次区間の終了時刻での電圧位相指令値bを求めることができる。
(5)式、(6)式を用いて電圧位相指令値a、bを算出した後に、図6に示されたパルスパターン表を用いて、次区間での電圧指令値vx *の切り替えの有無を判定する。
図6を参照すると、各相のそれぞれについて、電圧指令値vx *の切り替えが行われる電圧位相指令値φにおいて、上向き矢印(↑)、又は、下向き矢印(↓)が示されている。上向き矢印(↑)は、オフからオンへの切り替えが行われることを示し、下向き矢印(↓)は、オンからオフへの切り替えが行われることを示す。
すなわち、U相の電圧指令値vu *は、電圧位相指令値φが0°(360°)になる時にオンからオフへの切り替え(↓)が行われ、180°になる時にオフからオンへの切り替え(↑)が行われる。V相の電圧指令値vv *は、電圧位相指令値φが120°になる時にオンからオフへの切り替え(↓)が行われ、電圧位相指令値φが300°になる時にオフからオンへの切り替え(↑)が行われる。W相の電圧指令値vw *は、電圧位相指令値φが60°になる時にオフからオンへの切り替え(↑)が行われ、電圧位相指令値φが240°になる時にオンからオフへの切り替え(↓)が行われる。
また、上向き矢印(↑)及び下向き矢印(↓)のいずれもが入力されていない箇所には、電圧位相指令値φと対応するデューティ指令値Dx *の設定値が示されている。この設定値は、後のデューティ指令値Dx *の決定処理(S55)で用いられる。
したがって、このパルスパターン表を参照して、次区間における電圧位相指令値の範囲(aからbまで)内に、上向き矢印(↑)又は下向き矢印(↓)が存在するか否かが判定される。そして、上向き矢印(↑)が存在する場合には、次区間において電圧指令値vx *のオフからオンへの切り替えが行われると判定される。一方、下向き矢印(↓)が存在する場合には、次区間において電圧指令値vx *のオンからオフへの切り替えが行われると判定される。また、矢印が存在しない場合には、次区間において電圧指令値vx *の切り替えが行われないと判定される。
このように、次区間において電圧指令値vx *の切り替えの有無が判定されると、ステップS54の処理に進む。
次に、ステップS54においては、ステップS53において判定された次区間での電圧指令値vx *の切り替え有無に応じて、処理を分岐させる。次区間で電圧指令値vx *の切り替えが行われないと判定される場合(S54:No)には、ステップS55の処理に進む。一方、切り替えが行われると判定される場合には(S54:Yes)、ステップS56の処理に進む。
ステップS55においては、図6のパルスパターン表を参照して、次区間の開始タイミングでの電圧位相指令値aと対応する値が、次区間のデューティ指令値Dx *として設定されて、信号処理を終了する。
一方、ステップS56においては、現区間のキャリア波の傾きが検出される。具体的には、制御区間よりもはるかに短い間隔で、2回以上、キャリア波の値が取得される。そして、それらの値が時間経過に伴って増加しているか減少しているかが判定される。これにより、キャリア波の傾きが上りであるか下りであるかを判断することができる。なお、PWM変換器4に現区間でのキャリア波の傾きを記憶するフラグなどが存在する場合には、そのフラグの値を読み込むことでキャリア波の傾きを取得することができる。このようにキャリア波の傾きが取得されると、ステップS57の処理に進む。
ステップS57においては、図7に示された第1の反転判定表を用いて、次区間でのデューティ指令値Dx *の設定の可否が判断され、その判断結果に応じてキャリア波の位相反転の実施の要否が判定される。
図7の第1の反転判定表によれば、ステップS56にて取得された現区間のキャリア波の傾きと、ステップS53にて判定された次区間の電圧指令値vx *の切り替えの方向とに応じて、次区間でのキャリア波の位相反転の要否が判断される。
(i)現区間のキャリア波が上り、かつ、次区間で電圧指令値vx *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われる場合、及び、(iv)現区間のキャリア波が下り、かつ、次区間で電圧指令値vx *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる場合には、次区間でキャリア波の位相反転は必要であると判断される。一方、(ii)現区間のキャリア波が下り、かつ、次区間で電圧指令値vx *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われる場合、及び、(iii)現区間のキャリア波が上り、かつ、次区間で電圧指令値vx *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる場合には、次区間でキャリア波の位相反転は必要ないと判断される。
次区間でキャリア波の位相反転が必要と判定される場合(S57:Yes)には、ステップS58の処理に進む。一方、次区間でキャリア波の位相反転は不要と判定される場合(S57:No)には、ステップS59の処理に進む。
ステップS58においては、次区間でキャリア波の位相を180°反転させるために、例えば、PWM変換器4内に設けられている位相反転フラグがオンに設定される。このようにすることで、次区間でキャリア波の位相を180°反転させる設定が行われると、ステップS59の処理に進む。
ステップS59においては、次区間のデューティ指令値Dx *が設定される。
具体的には、次区間で電圧指令値vx *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われる場合には、次の式を用いて、デューティ指令値Dx *が設定される。例えば、u相の場合には、aは(5)式を用いて求められ、bは(6)式の算出結果に0°が加算された補正値が用いられる。また、cは、図6のパルスパターン表に示された、U相の電圧指令値vu *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われる場合の電圧位相指令値であり、0°ではなく360°が用いられる。
一方、次区間で電圧指令値vx *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる場合には、次の式を用いて、デューティ指令値Dx *が設定される。例えば、u相の場合には、aは(5)式を用いて求められ、bは(6)式を用いて求められる。また、cは、図6のパルスパターン表に示された、U相の電圧指令値vu *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる場合の電圧位相指令値であり、180°である。
このようにして、次区間でのデューティ指令値Dx *が設定されるとともに(S55、S59)、次区間でのキャリア波の位相反転の要否が判断され(S57)、位相反転が必要な場合には(S57:Yes)、次区間で位相反転を実施する設定を行い(S58)、信号処理を終了する。
次に、図8を用いて、図7の信号処理が行われる現区間と、デューティ指令値の決定及びキャリア波の位相反転の要否判断が行われる次区間との関係について説明する。図8には、(a)電圧位相指令値φ、(b)電圧指令値vu *、及び、(c)デューティ指令値Du *が示されている。
図5の信号処理のフローチャートに従って、キャリア波の周波数が(4)式の基準を満たす場合には(S51:Yes)、次区間での切り替えの有無が判定される(S53)。この処理においては、(5)式を用いて次区間の開始時刻taでの電圧位相指令値aが求められ、(6)式を用いて次区間の終了時刻tbでの電圧位相指令値bが求められる。なお、この図8においては、bの算出値は括弧を付した「b’」として示し、算出値に360°を加えた補正値を「b」と示している。そして、図6のパルスパターン表を用いて、次区間で電圧指令値vu *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われると判定される。
次区間で電圧指令値vu *の切り替えが行われると判定されると(S54:Yes)、現区間のキャリア波の傾きを取得し、傾きが上りであることがわかる(S56)。具体的には、図8(c)に示すように、所定の間隔で2回キャリア波の大きさを測定し、その測定値が時間の経過とともに大きくなるため、キャリア波の傾きは上りと判断される。
そして、図7の第1の反転判定表を用いて、ステップS56において判定された現区間のキャリア波の傾き(上り)、及び、ステップS53において判定された次区間での電圧指令値vu *の切り替えの方向(オンからオフへの切り替え(↓))に基づいて、次区間でキャリア波の位相反転が必要と判定される(S57:Yes)。そのため、次区間でキャリア波の位相反転が実施されるように、PWM変換器4内の位相反転フラグがオンに設定される(S58)。そして、ステップS53にて(5)式及び(6)式により算出された電圧位相指令値a、bを用いて、(7)式に基づいて次区間でのデューティ指令値Du *が算出され(S59)、信号処理が終了する。
このように現区間で信号処理が終了すると、次区間では、ステップS58での設定に基づいてキャリア波の位相反転が実施され、ステップS59において算出されたデューティ指令値Du *が設定される。
ここで、図9Aから図9Dまでを用いて、図7の第1の反転判定表に示された(i)から(iv)までの場合の各ケースにおける動作を説明する。これらの図においては、(a)電圧位相指令値φ、(b)電圧指令値vu *、及び、(c)デューティ指令値Du *のそれぞれが示されている。なお、現区間の信号処理によって、次区間(時刻ta〜tb)のキャリア波の位相反転の要否の判定、及び、デューティ指令値Du *の設定が行われる。
(a)には、時刻taと対応する電圧位相指令値a、時刻tbと対応する電圧位相指令値bが示されている。また、電圧指令値vu *の切り替えが行われる時刻tcと対応する電圧位相指令値cが示されている。なお、図9A(a)、図9B(a)に示されるように、次区間で電圧指令値vu *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われる場合には、電圧位相指令値bとして、360°が加えられた補正値が示されている。なお、補正前の電圧位相指令値は、括弧を付して「b’」と記されている。
また、(c)には、キャリア波が示されている。キャリア波の位相が反転する場合には、位相反転前のキャリア波が一点鎖線で、位相反転後のキャリア波が実線で示されている。
図9Aにおいては、図7の第1の反転判定表の(i)の場合、すなわち、現区間のキャリア波が上りであり、かつ、次区間で電圧指令値vu *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われる場合について示されている。このような場合には、第1の反転判定表に従って、次区間ではキャリア波の位相反転が実施される。このようにすることで、次区間においては、(7)式を用いることで、電圧指令値vu *に応じたデューティ指令値Du *を設定できる。
図9Bにおいては、図7の第1の反転判定表の(ii)の場合、すなわち、現区間のキャリア波が下りであり、かつ、次区間で電圧指令値vu *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われる場合について示されている。このような場合には、第1の反転判定表に従って、次区間ではキャリア波の位相反転が実施されない。次区間においては、位相反転が行われなくても、(7)式を用いることで、電圧指令値vu *に応じたデューティ指令値Du *を設定できる。
図9Cにおいては、図7の第1の反転判定表の(iii)の場合、すなわち、現区間のキャリア波が上りであり、かつ、次区間で電圧指令値vu *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる場合について示されている。このような場合には、第1の反転判定表に従って、次区間ではキャリア波の位相反転が実施されない。次区間においては、位相反転が行われなくても、(8)式を用いることで、電圧指令値vu *に応じたデューティ指令値Du *を設定できる。
図9Dにおいては、図7の第1の反転判定表の(iv)の場合、すなわち、現区間のキャリア波が下りであり、かつ、次区間で電圧指令値vu *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる場合について示されている。このような場合には、第1の反転判定表に従って、次区間ではキャリア波の位相反転が実施される。このようにすることで、次区間においては、(8)式を用いることで、電圧指令値vu *に応じたデューティ指令値Du *を設定できる。
なお、本実施形態では、電圧指令値vx *が矩形波となる例として、電圧位相制御が行われる場合について説明したがこれに限らない。電圧位相制御が行われる場合には、電圧指令値vx *の矩形波の周期は、モータ200の回転周期と同じになる。しかしながら、電圧指令値vx *の矩形波の周期がモータ200の回転周期と一致しないような場合であっても、本実施形態の信号処理の位相反転処理(S57、S58)を実施することで、モータ200の回転周期によらず、電圧指令値vx *に応じたデューティ指令値Dx *を設定できる。
また、1つのPWM換器4が、判定ステップ(S57)と、反転ステップ(58)を実施したが、これに限らない。例えば、PWM変換部4は、判定ステップ(S57)を行う判定部と、反転ステップ(58)を行う判定部とを備えていてもよい。
第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
電圧指令値vx *に基づいてデューティ指令値Dx *を算出し、キャリア波とデューティ指令値Dx *との比較結果に応じてPWM電圧vxを生成する場合には、制御区間でのキャリア波の傾きによっては、電圧指令値vx *に応じたデューティ指令値Dx *を設定できないことがある。具体的には、キャリア波の傾きが正(上り)であり、かつ、電圧指令値vx *のオフからオンの方向への切り替え(↑)が行われる場合や、キャリア波の傾きが負(下り)、かつ、電圧指令値vx *のオンからオフの方向への切り替え(↓)が行われる場合などには、電圧指令値vx *に応じたデューティ指令値Dx *を設定できない。
そこで、次の制御区間で電圧指令値vx *の切り替えが行われる場合には(S54:Yes)、キャリア波の傾き、及び、電圧指令値vx *の切り替えの方向に応じた判定ステップを実行する(S57)。この判定ステップにおいては、キャリア波の傾き及び電圧指令値vx *の切り替え方向に応じて、次の制御区間でのデューティ指令値Dx *の設定可否が判断され、その判断結果に応じてキャリア波の位相反転の要否が判定される。そして、キャリア波の位相反転が必要と判定される場合には(S57:Yes)、次の制御区間でキャリア波の位相反転を実施する反転ステップ(S58)が行われる。
このように、次の制御区間では、必要に応じてキャリア波の位相反転が実施されるので、電圧指令値vx *に応じたデューティ指令値Dx *を設定できるようになる。そのため、電圧指令値vx *の切り替え周期が変更されても、キャリア周波数を変更することなく、電圧指令値vx *に応じたデューティ指令値Dx *の設定ができる。したがって、キャリア波の周波数の変更に伴う電圧供給装置の処理負荷の増加が抑制されて、処理遅延などの発生が抑制されることにより、応答性や安定性などのモータ200の制御性を向上させることができる。
また、第1実施形態の制御方法によれば、電圧位相制御が行われている場合に、信号処理が行われる。電流ベクトル制御が行われている場合には、電圧指令値vx *は矩形波となり、その周期はモータ200の回転周期と同じ周期となる。そのため、モータ200の回転数の変化に伴って電圧指令値vx *の切り替え周期が変更されても、キャリア周波数を変更することなく、電圧指令値vx *に応じたデューティ指令値Dx *の設定ができる。したがって、モータ200の回転数に伴ってキャリア波の周波数を変更する必要がなくなるので、応答性や安定性などのモータ200の制御性を向上させることができる。
また、第1実施形態の制御方法によれば、(4)式に示したように、キャリア波の周波数は、モータ200の回転速度(ωre/2π)に、モータ200の相数(3)を乗じた数よりも大きくなるように設定される。このようにすることで、モータ200の1周期は、キャリア波の1周期に相数を乗じた値より大きくなる。
ここで、キャリア波の半周期の間においては、1つの電圧指令値vx *が切り替わる場合しか、デューティ指令値Dx *を設定だけない。すなわち、キャリア波の半周期の間に、1つのスイッチング素子しか操作できない。本実施形態では、モータ200の1周期が、キャリア波の1周期に相数を乗じた値より大きくなることで、モータ200の1周期の間に、相数の2倍の個数のスイッチング素子を操作することができる。
通常、PWM電圧制御が行われる場合には、例えば、インバータ装置5は3相6アームのように、相数の2倍の個数のスイッチング素子により構成されている。したがって、(4)式を満たすことにより、モータ200の1周期の間に、インバータ装置5が備えるスイッチング素子の全てを制御できるので、モータ200を適切に制御することができる。
(第2実施形態)
第1実施形態では、矩形波のPWM電圧を生成する例について説明した。しかしながら、PWM電圧が矩形波である場合には、常にPWM電圧の基本波ベクトルの振幅が変わらないため、最終電圧位相指令値α* finの変化の仕方によっては、必要以上に電流が流れてしまうという課題がある。この対策として、PWM電圧の矩形波の一部のオンとオフとを反転するチョッピングと称される処理を行うことにより、PWM電圧により実現される交流電圧である基本波ベクトルの振幅が擬似的に小さくなるので、必要以上に電流が流れることを抑制することができる。本実施形態では、このような対策の一例について説明する。
まず、本実施形態の信号処理が行われることにより、PWM電圧の基本波ベクトルの振幅が小さくなることにより、電流を抑制できることについて、図10を用いて説明する。
図10は、モータ200に印加されるPWM電圧の基本波ベクトルの変化を、dq座標で示した図である。この図には、変化前の基本波ベクトルがA点に示されており、変化後の基本波ベクトルがB点に示されている。
また、基本波ベクトルの取りうる範囲が、「Vdc×1.1/√2」を半径とする円で示されている。このように示される理由は、電圧位相制御が行われる場合には、モータ200に印加されるPWM電圧の基本波ベクトルの振幅の最大値が、電圧検出値Vdcの概ね「1.1/√2」倍の電圧となるためである。
第1実施形態においては、最終電圧位相指令値α* finのみを変化させるので、基本波ベクトルの振幅は変わらない。そのため、基本波ベクトルは、経路(1)を経て変化することになる。
一方、本実施形態においては、最終電圧位相指令値α* finだけでなく、基本波ベクトルの振幅が擬似的に小さくなるので、基本波ベクトルが経路(2)を通って変化させることができる。そのため、経路(1)を通って変化する場合と比較すると、変化の途中で基本波ベクトルの振幅が小さくなるので、電流を抑制してエネルギー損失を小さくすることができる。
以下では、このように基本波ベクトルの振幅を小さくするために、PWM電圧をチョッピングする方法について、具体的に説明する。
図11は、本実施形態の電圧供給装置100の概略構成図である。この電圧供給装置100は、図1に示した第1実施形態の電圧供給装置100と比較すると、電圧センサ7から電圧位相制御器14に電圧検出値Vdcが出力される点と、電圧位相制御器14からPWM変換器4にさらに電圧ベクトルノルム値Va *が出力される点が異なる。
図12は、本実施形態の電圧位相制御器14の詳細な構成が示されている。
本実施形態の電圧位相制御器14は、図3に示した第1実施形態の電圧位相制御器14と比較すると、フィルタ14F、ベクトル変換器14G及び14Hが追加されている。さらに、ベクトル変換器14Gと14Hとの間に2つのフィルタ14Eが設けられている。なお、図12中に示されているフィルタ14Eは、図3に示されたフィルタ14Eと同じ機能を有する。以下では、図3に示した第1実施形態の電圧位相制御器14との相違点についてのみ説明する。
フィルタ14Fにおいては、電圧検出値Vdcに対して「1.1/√2」が乗じられて、電圧ベクトルノルム規定値Va *'が算出される。このようにする理由は、上述のように、PWM電圧の基本波ベクトルの振幅の最大値が、電圧検出値Vdcの概ね「1.1/√2」倍の電圧となるためである。
そして、ベクトル変換器14Gにおいては、xy座標からdq座標への変換が行われる。具体的には、d軸電圧指令値vd2 *'、及び、q軸電圧指令値vq2 *'は、それぞれ、電圧ベクトルノルム規定値Va *'、及び、電圧位相指令値α* fin 'を用いて次式により求められる。
そして、2つのフィルタ14Eのうちの一方においては、d軸電圧指令値vd2 *'に対してフィルタ処理が行われてd軸電圧指令値vd2 *が算出される。また、他方においては、q軸電圧指令値vq2 *'に対してフィルタ処理が行われてq軸電圧指令値vq2 *が算出される。
ベクトル変換器14Hにおいては、dq座標からxy座標への変換が行われる。具体的には、d軸電圧指令値vd2 *、及び、q軸電圧指令値vq2 *に対してベクトル変換を行うことにより、電圧ベクトルノルム値Va *、及び、最終電圧位相指令値α* finが算出される。そして、これらの値がPWM変換器4へ出力される。なお、ベクトル変換器14Hにおけるベクトル変換は、次式を用いて行われる。
電圧位相制御器14への入力に着目すれば、電圧検出値Vdcは一定の値であり、電圧位相指令値α* ffは、モータ200の回転状態及び目標トルクT*に応じて変化し、トルク推定値Tcalは、モータ200の回転状態に応じて変化する。そのため、電圧位相制御器14から出力される電圧ベクトルノルム値Va *、及び、最終電圧位相指令値α* finは、モータ200の回転状態及び目標トルクT*に応じて変化する。
さらに、電圧位相制御器14は、ベクトル変換器14Gを用いてxy座標からdq座標へのベクトル変換後に、2つのフィルタ14Eによるフィルタ処理を行い、そして、ベクトル変換器14Hによるdq座標からxy座標へのベクトル変換を行う。このようなフィルタ処理が行われることで、PWM電圧の基本波ベクトルの振幅の変化を滑らかにすることができる。
図13には、本実施形態の信号処理のフローチャートが示されている。本実施形態の信号処理は、図5に示した第1実施形態の信号処理と比較すると、ステップS131からステップS139までの処理が追加されている。以下では、ステップS131からステップS139までの処理のそれぞれについて説明する。
ステップS53において、次区間での電圧指令値vx *の切り替えの有無を判定した後に、ステップS131の処理が行われる。
ステップS131においては、次区間でのチョッピングの実施の有無が判定される。本実施形態では、制御区間ごとに交互にチョッピングの実施の有無が変更される。そのため、現区間でチョッピングが実施されている場合には、次区間でチョッピングを実施しない。一方、現区間でチョッピングが実施されていない場合には、次区間でチョッピングを実施する。なお、制御区間ごとに交互にチョッピングの実施の有無が変更される効果については、後に、図15A、図15Bを用いて説明する。
このように次区間でのチョッピングの実施の有無の判定を終えると、ステップS54の処理に進む。なお、チョッピングの実施方法は、次区間で電圧指令値vx *の切り替えが行われる場合(S54:Yes)と、切り替えが行われない場合(S54:No)とでは異なる。
まず、次区間で電圧指令値vx *の切り替えが行われない場合について説明する。次区間で電圧指令値vx *の切り替えが行われない場合には(S54:No)、チョッピングが行われる前に、まず、ステップS132の処理が行われる。
ステップS132においては、図14Aに示された第2の反転判定表を用いて、次区間の位相反転の要否が判定される。
図14Aの第2の反転判定表を参照すると、(i)現区間において、電圧指令値vx *の切り替えが行われ、かつ、キャリア波の位相反転が実施されていない場合に、次区間でのキャリア波の位相反転が必要と判定される。一方、(ii)現区間において、電圧指令値vx *の切り替えが行われ、かつ、キャリア波の位相反転が実施されている場合、及び、(iii)現区間で電圧指令値vx *の切り替えが行われていない場合には、次区間でのキャリア波の位相反転が不要と判定される。
次区間でのキャリア波の位相反転が必要と判定される場合には(S132:Yes)、ステップS133に進む。一方、次区間でのキャリア波の位相反転が不要と判定される場合には(S132:No)、ステップS55の処理に進む。
ステップS133においては、次区間でのキャリア波の位相反転を実施するために、位相反転フラグがオンに設定される。なお、本ステップの処理は、ステップS58の処理と同じである。この設定を終えると、ステップS55の処理に進む。
なお、ステップS132の判定処理、及び、ステップS133の位相反転処理については、後に、図16Aから図16Cの各図を用いて詳細に説明する。
そして、ステップS55でデューティ指令値Dx *が決定された後には、ステップS134の処理が行われる。
ステップS134においては、ステップS131の判定結果に基づいて、次区間でのチョッピングの実施の有無が判定される。次区間でチョッピングを実施する場合には(S134:Yes)、デューティ指令値Dx *を補正するために、ステップS135に進む。一方、次区間でチョッピングを実施しない場合には(S134:No)、信号処理を終了する。
ステップS135においては、まず、次の式に基づいて、電圧ベクトルノルム値Va *に応じた補正量ΔDが算出される。
そして、ステップS55で決定されたデューティ指令値Dx *に対して補正処理が行われる。
デューティ指令値Dx *が100%の場合には、次式のようにデューティ指令値Dx *が補正される。
一方、デューティ指令値Dx *が0%の場合には、次式のようにデューティ指令値Dx *が補正される。
このようにして、次区間で電圧指令値vx *の切り替えが行われない場合(S54:No)の信号処理を終了する。
次に、次区間で電圧指令値vx *の切り替えが行われる場合について説明する。
次区間で電圧指令値vx *の切り替えが行われる場合(S54:Yes)には、次区間の位相反転の要否の判断(S57)が行われた後に、デューティ指令値Dx *が算出され(S59)、ステップS136の処理に進む。
ステップS136においては、ステップS131の判定結果に基づいて、次区間でのチョッピングの実施の有無が判定される。次区間でチョッピングを実施する場合には(S136:Yes)、デューティ指令値Dx *を補正するために、ステップS137に進む。一方、次区間でチョッピングを実施しない場合には(S136:No)、信号処理を終了する。
ステップS137においては、デューティ指令値Dx *の補正処理が行われる。具体的には、まず、(13)式を用いて、補正量ΔDが設定される。そして、図14Bに示された符号判定表に応じて、補正量ΔDに付される符号が決定される。
図14Bの符号判定表には、前の制御区間(前区間)のキャリア波の傾き、及び、次区間の電圧指令値vx *の切り替えの方向に応じて、補正量ΔDに付す符号が示されている。
(i)前区間のキャリア波が上り、かつ、次区間で電圧指令値vx *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われる場合、及び、(iii)前区間のキャリア波が上り、かつ、次区間で電圧指令値vx *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる場合には、プラス(+)の符号が付される。一方、(ii)前区間のキャリア波が下り、かつ、次区間で電圧指令値vx *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われる場合、及び、(iv)前区間のキャリア波が下り、かつ、次区間で電圧指令値vx *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる場合には、マイナス(−)の符号が付される。
このように図14Bの符号判定表にて示される符号が付された補正量ΔDが、ステップS59で算出されたデューティ指令値Dx *に加算される。そのため、デューティ指令値Dx *は次のように求められる。
次区間で電圧指令値vx *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われる場合には、デューティ指令値Dx *は次式により求められる。なお、補正量ΔDに付される符号は、図14Bの符号判定表を用いて決定される。ただし、この式における、a、b、cは(7)式における値と同じである。
一方、次区間で電圧指令値vx *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる場合には、デューティ指令値Dx *は次式により求められる。なお、補正量ΔDに付される符号は、図14Bの符号判定表を用いて決定される。ただし、この式における、a、b、cは(8)式における値と同じである。
そして、ステップS138においては、(16)式又は(17)式により求められるデューティ指令値Dx *が適正範囲内にあるか否かが判定される。具体的には、以下の式が満たされるか否かが判定される。
デューティ指令値Dx *が(18)式を満たしており、デューティ指令値Dx *が適正範囲内にあると判断される場合(S138:Yes)には、信号処理を終了する。一方、デューティ指令値Dx *が(18)式を満たさず、デューティ指令値Dx *が適正範囲内にないと判断される場合には(S138:No)、デューティ指令値Dx *のさらなる補正が必要であると判断して、ステップS139の処理に進む。
ステップS139においては、デューティ指令値Dx *が次のようにさらに補正される。
デューティ指令値Dx *が100%より大きい場合には、デューティ指令値Dx *は、次式のように補正される。なお、Dx_before *は補正前のデューティ指令値であり、Dx *は補正後のデューティ指令値である。
デューティ指令値Dx *が0%より小さい場合には、デューティ指令値Dx *は、次式のように補正される。
デューティ指令値Dx *が(18)式を満たさない場合には、生成されるPWM電圧vxはオン状態又はオフ状態のいずれか一方になってしまうので、チョッピングを実施できない。しかしながら、制御区間内においてPWM電圧vxの切り替えが行われさえすれば、全制御区間を平均すれば、概ね所望のチョッピングが実施されているとみなせる。そこで、本実施形態においては、PWM電圧vxの切り替えが行われるように、(19)式、(20)式に示したさらなる補正を行う。そして、信号処理を終了する。
このようにして、次区間で電圧指令値vx *の切り替えが行われない場合のデューティ指令値Dx *が設定される。
ここで、図15A、15Bを用いて、ステップS134及びステップS136の分岐処理により定まるチョッピングの実施タイミングについて説明する。図15Aは、u相の電圧指令値vu *がオンのまま変化しない場合に、キャリア波が下りの制御区間でチョッピングが行われる場合を示す図である。図15Aは、電圧指令値vu *がオンのまま変化しない場合に、キャリア波が上りの制御区間でチョッピングが行われる場合を示す図である。
図15A、図15Bのそれぞれには、(a)電圧位相指令値φ、(b)電圧指令値vu *、(c)デューティ指令値Du *、及び、(d)PWM電圧vuが示されている。
また、各図の(b)に示されるように、全区間(時刻t0〜t5)において電圧指令値vu *はオンである。そして、時刻t1から時刻t2までの制御区間、及び、時刻t3から時刻t4までの制御区間においてチョッピングが実施される。なお、図15Aに示される場合と図15Bに示される場合とでは、制御区間でのキャリア波の傾きの正負が逆である。
なお、図15A(d)及び図15B(d)においては、PWM電圧vuが太い線で示されており、比較のために電圧指令値vu *が細い点線で示されている。図15A(c)及び図15B(c)に示されるようにデューティ指令値Du *が補正量ΔDだけ補正されることにより、矩形波の一部がチョッピングされたPWM電圧vuが生成される。
なお、説明の便宜上、以下では、図15A(d)及び図15B(d)には示さるように、電圧指令値vu *がオンであるにも関わらずPWM電圧vuをオフとするチョッピングを、「オン区間でのオフのチョッピング」と称し、図中では下向き矢印(↓)を用いて示すものとする。一方、図15A(d)及び図15B(d)には示されていないが、電圧指令値vu *がオフであるにも関わらずPWM電圧vuをオンとするチョッピングを、「オフ区間でのオンのチョッピング」と称し、図中では上向き矢印(↑)を用いて示すものとする。
まず、図15Aの場合について説明する。図15A(c)に示すように、時刻t1から時刻t2までの制御区間、及び、時刻t3から時刻t4までの制御区間でチョッピングが実施される。これらの制御区間では、電圧指令値vu *がオンであるので(14)式に従いデューティ指令値Du *は「100−ΔD%」となる。このとき、キャリア波が下りである。そのため、制御区間の開始タイミング(時刻t1〜t1x、時刻t3〜t3x)でチョッピングが実施される。したがって、チョッピングは、制御区間の2倍の時間ごとに、一定間隔で実施されることになる。
次に、図15Bの場合について説明する。図15B(c)に示すように、時刻t1から時刻t2までの制御区間、及び、時刻t3から時刻t4までの制御区間でチョッピングが実施される。これらの制御区間では、電圧指令値vu *がオンであるので(14)式に従いデューティ指令値Du *は「100−ΔD%」となる。このとき、キャリア波が上りである。そのため、制御区間の終了タイミング(時刻t1x〜t2、時刻t3x〜t4)でチョッピングが実施される。したがって、チョッピングは、制御区間の2倍の時間ごとに、一定間隔で実施されることになる。
このように制御区間ごとに交互にチョッピングの実施の有無を変更することにより、チョッピングの実施間隔を一定にすることができる。そのため、チョッピングされることにより小さくなるPWM電圧vxの基本波ベクトルの振幅を、安定させることができる。
次に、次区間で切り替えが行われない場合(S54:No)の、キャリア波の位相反転の処理(S132、S133)を、図16Aから図16Cまでの各図を用いて説明する。なお、図16A、16B、及び、16Cには、それぞれ、ステップS132の判定処理に用いられる図14Aの第2の反転判定表の(i)、(ii)、及び、(iii)の各ケースが示されている。また、全ての図には、(a)電圧位相指令値φ、(b)電圧指令値vu *、(c)デューティ指令値Du *、及び、(d)PWM電圧vuが示されている。
なお、時刻t1から時刻t2までの制御区間が現区間であるものとする。そのため、時刻t0から時刻t1までの制御区間が前区間となり、時刻t2から時刻t3までの制御区間が次区間となる。また、現区間(時刻t1〜t2)ではチョッピングが実施されておらず、前区間(時刻t0〜t1)及び次区間(時刻t2〜t3)でチョッピングが実施されるものとする。
図16Aにおいては、図14Aの第2の反転判定表の(i)の場合の一例が示されている。この図では、現区間(時刻t1〜t2)の時刻t1cにおいて、電圧指令値vu *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われ、かつ、キャリア波の位相反転が実施されない。このような場合には、第2の反転判定表に基づいて、次区間でキャリア波の位相反転が実施される(S132:Yes、S133)。
まず、チョッピングが実施される前区間(時刻t0〜t1)の動作について説明する。
図16A(b)に示されるように、電圧指令値vu *はオンである。そのため、図16A(c)に示されるように、(14)式に従ってデューティ指令値Du *は「100−ΔD%」となる。このとき、キャリア波が下りである。したがって、図16A(d)に示されるように、前区間の開始タイミング(時刻t0〜t0x)で、「オン区間でのオフのチョッピング(↓)」が実施される。
そして、次にチョッピングが実施される次区間(時刻t2〜t3)の動作について説明する。
図16A(b)に示されるように、電圧指令値vu *はオフである。そのため、図16A(c)に示されるように、(15)式に従ってデューティ指令値Du *は「0+ΔD%」となる。このとき、次区間ではキャリア波の位相反転が実施されるので、キャリア波が上りである。したがって、図16A(d)に示されるように、次区間の開始タイミング(時刻t2〜t2x)で「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」が実施される。
このように、前区間及び次区間では、共に区間の開始タイミングでチョッピングが実施されるため、チョッピングの実施間隔が一定となる。そのため、チョッピングされることにより小さくなるPWM電圧vxの基本波ベクトルの振幅を、安定させることができる。
図16Bにおいては、図14Aの第2の反転判定表の(ii)の場合の一例が示されている。現区間(時刻t1〜t2)の時刻t1cにおいて、電圧指令値vu *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われ、かつ、キャリア波の位相反転が実施されている。
ここで、図7に示した第1の反転判定表を参照すれば、図16Bにおける前区間及び現区間を、それぞれ、第1の反転判定表における現区間及び次区間とみなせば、(i)の場合に相当するため、現区間でキャリア波の位相反転が実施される。このような場合には、第2の反転判定表に基づいて、次区間でキャリア波の位相反転を実施しない(S132:No)。
チョッピングが実施される前区間(時刻t0〜t1)においては、図16B(b)に示されるように、電圧指令値vu *はオンである。そのため、図16B(c)に示されるように、(14)式に従ってデューティ指令値Du *は「100−ΔD%」となる。このとき、キャリア波が上りである。したがって、図16B(d)に示されるように、前区間の終了タイミング(時刻t0x〜t1)で「オン区間でのオフのチョッピング(↓)」が実施される。
そして、次にチョッピングが実施される次区間(時刻t2〜t3)においては、図16B(b)に示されるように、電圧指令値vu *はオフである。そのため、図16B(c)に示されるように、(15)式に従ってデューティ指令値Du *は「0+ΔD%」となる。このとき、位相反転が実施されないので、キャリア波は下りである。したがって、図16B(d)に示されるように、前区間の終了タイミング(時刻t2x〜t3)で「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」が実施される。
このように、前区間及び次区間の終了タイミングにおいて、チョッピングが実施されており、チョッピングの実施間隔が一定となる。
図16Cには、図14Bの第2の反転判定表の(iii)の場合の一例が示されている。現区間(時刻t1〜t2)においては、電圧指令値vu *の切り替えは行われない。また、次区間でも電圧指令値vu *の切り替えは行われない(S54:No)。なお、説明の便宜上、前区間でも電圧指令値vu *の切り替えは行われないものとする。このような場合には、第2の反転判定表に基づいて、次区間でキャリア波の位相反転が実施されない(S132:No)。
前区間(時刻t0〜t1)、及び、次区間(時刻t2〜t3)のいずれにおいても、図16C(b)に示されるように、前区間では電圧指令値vu *はオフである。そのため、図16C(c)に示されるように、(15)式に従ってデューティ指令値Du *が「0+ΔD%」となる。このとき、次区間でキャリア波の位相反転が実施されないので、前区間及び次区間のいずれにおいてもキャリア波が上りである。したがって、どちらの制御区間でも、区間の開始タイミング(時刻t0〜t0x、時刻t2〜t2x)で「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」が実施されるので、チョッピングの実施間隔が一定となる。
このように、現区間で電圧指令値vu *の切り替えが行われる時には、図16Aに示した第2の反転判定表の(i)の場合のように、現区間でキャリア波の位相反転が実施されるか、又は、図16Bに示した(ii)の場合のように、次区間でキャリア波の位相反転が実施される。いずれの場合においても、制御区間内の同じタイミング(開始タイミング)でチョッピングが実施されるので、チョッピングの実施間隔を一定に保つことができる。そのため、チョッピングされることにより小さくなるPWM電圧vxの基本波ベクトルの振幅を、安定させることができる。
なお、図16A、図16Bにおいては、電圧指令値vu *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われる例について示したがこれに限らない。オフからオンへの切り替え(↑)が行われてもよい。また、図16Cにおいては、前区間、現区間、及び、次区間のいずれにおいても、電圧指令値vu *がオフである例について示した。しかしながら、これは、現区間で電圧指令値vu *の切り替えが行われない場合の一例であって、この例に限定されるものではない。
次に、次区間で電圧指令値vu *の切り替えが行われる場合(S54:Yes)における、デューティ指令値Du *の補正処理(S137)について、図17Aから図17Dまでの各図を用いて説明する。
図17A、図17B、図17C、及び、図17Dには、図14Bの符号判定表の(i)、(ii)、(iii)、及び、(iv)の場合の各ケースについて示されている。また、全ての図には、(a)電圧位相指令値φ、(b)電圧指令値vu *、(c)デューティ指令値Du *、及び、(d)PWM電圧vuが示されている。
これらの図では、時刻t1から時刻t2までの制御区間が現区間であるものとする。そのため、時刻t0から時刻t1までの制御区間が前区間となり、時刻t2から時刻t3までの制御区間が次区間となる。また、現区間(時刻t1〜t2)においてはチョッピングが実施されず、前区間(時刻t0〜t1)及び次区間(時刻t2〜t3)でチョッピングが実施されるものとする。
図17Aには、図14Bの符号判定表の(i)の場合が示されている。すなわち、前区間(時刻t0〜t1)のキャリア波が上りであり、かつ、次区間(時刻t2〜t3)で電圧指令値vu *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われる。
まず、チョッピングが実施される前区間(時刻t0〜t1)の動作について説明する。
図17A(b)に示されるように、電圧指令値vu *はオンである。そのため、図17A(c)に示されるように、(14)式に従ってデューティ指令値Du *は「100−ΔD%」となる。このとき、キャリア波が上りである。したがって、図17A(d)に示されるように、終了タイミング(時刻t0x〜t1)で「オン区間でのオフのチョッピング(↓)」が実施される。
そして、次にチョッピングが実施される次区間(時刻t2〜t3)の動作について説明する。
図17A(b)に示されるように、電圧指令値vu *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われる。そのため、図17A(c)に示されるように、(16)式に従ってデューティ指令値Du *は補正される。なお、符号判定表に従って補正量ΔDにはプラス(+)が付されるので、デューティ指令値Du *は正方向に補正される。また、キャリア波は上りである。したがって、図17A(d)に示されるように、時刻t2cからt2xまでの間に、「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」実施される。
ここで、本来、次区間においては、前区間と同様のタイミングである制御区間の終了タイミングでチョッピングが実施されるべきである。また、次区間の終了タイミングでチョッピングが実施されると仮定すれば、「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」が実施されるべきである。なお、このような本来実施されるべきであったチョッピングが、図中では点線の矢印で示されている。
チョッピングが実施されるタイミングについては、次区間の途中で電圧指令値vu *の切り替えが行われるので、電圧指令値vu *の切り替えが行われる時刻t2cの前後でしかチョッピングを実施できない。したがって、次区間の終了タイミングでチョッピングを実施することはできない。しかしながら、キャリア波が上りである次区間において、デューティ指令値Du *を正方向に補正することにより、本来実施されるはずである「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」を実施することはできる。
すなわち、次区間では、前区間と同様のタイミングである終了タイミングでチョッピングを実施できないが、終了タイミングで行われるはずである「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」は実施できる。そのため、全体としては、所望のチョッピングが実施されたと見なすことができるので、PWM電圧vuの基本波ベクトルの振幅は小さくすることができる。
図17Bには、図14Bの符号判定表の(ii)の場合が示されている。すなわち、前区間(時刻t0〜t1)のキャリア波が下りであり、かつ、次区間(時刻t2〜t3)で電圧指令値vu *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われる。なお、この場合は、図7の第1の反転判定表の(i)の場合にも該当するため、次区間でキャリア波の位相反転
が実施されている。
チョッピングが行われる前区間(時刻t0〜t1)においては、図17B(b)に示されるように、電圧指令値vu *はオンである。そのため、図17B(c)に示されるように、(14)式に従ってデューティ指令値Du *は「100−ΔD%」となる。このとき、キャリア波は上りである。したがって、図17B(d)に示されるように、開始タイミング(時刻t0〜t0x)で、「オン区間でのオフのチョッピング(↓)」が実施される。
そして、次にチョッピングが行われる次区間(時刻t2〜t3)においては、図17B(b)に示されるように、電圧指令値vu *のオンからオフへの切り替え(↓)が行われる。そのため、図17B(c)に示されるように、符号判定表に従って補正量ΔDにマイナス(−)が付されるので、デューティ指令値Du *は負方向に補正される。また、キャリア波は上りである。したがって、図17B(d)に示されるように、時刻t2xからt2cまでの間に、「オン区間でのオフのチョッピング(↓)」が実施される。
本来、次区間においては、前区間と同様のタイミングである制御区間の開始タイミングで、「オン区間でのオフのチョッピング(↓)」が実施されるべきである。次区間では、前区間と同様のタイミングである開始タイミングでチョッピングを実施できないが、本来実施されるはずである「オン区間でのオフのチョッピング(↓)」を実施することはできる。そのため、全体としては所望のチョッピングが実施されたと見なすことができる。
図17Cには、図14Bの符号判定表の(iii)の場合が示されている。すなわち、前区間(時刻t0〜t1)のキャリア波が上りであり、かつ、次区間(時刻t2〜t3)で電圧指令値vu *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる。なお、この場合は、図7の第1の反転判定表の(iv)の場合にも該当するため、次区間でキャリア波の位相反転が実施される。
チョッピングが行われる前区間(時刻t0〜t1)においては、図17C(b)に示されるように、電圧指令値vu *はオフである。そのため、図17C(c)に示されるように、(15)式に従ってデューティ指令値Du *は「0+ΔD%」となる。このとき、キャリア波は上りである。したがって、図17C(d)に示されるように、前区間の開始タイミング(時刻t0〜t0x)で、「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」が実施される。
そして、次にチョッピングが行われる次区間(時刻t2〜t3)においては、図17C(b)に示されるように、電圧指令値vu *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる。そのため、図17C(c)に示されるように、符号判定表に従って補正量ΔDにはプラス(+)が付されるので、デューティ指令値Du *は正方向に補正される。また、キャリア波は下りである。したがって、図17C(d)に示されるように、時刻t2xからt2cまでの間に、「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」が実施される。
本来、次区間においては、前区間と同様のタイミングである制御区間の開始タイミングで、「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」が実施されるべきである。次区間では、前区間と同様のタイミングである開始タイミングでチョッピングを実施できないが、本来実施されるはずである「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」を実施することはできる。そのため、全体としては所望のチョッピングが実施されたと見なすことができる。
図17Dには、図14Bの符号判定表の(iv)の場合が示されている。すなわち、前区間(時刻t0〜t1)のキャリア波が下りであり、かつ、次区間(時刻t2〜t3)で電圧指令値vu *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる。
チョッピングが行われる前区間(時刻t0〜t1)においては、図17D(b)に示されるように、電圧指令値vu *はオフである。そのため、図17D(c)に示されるように、(15)式に従ってデューティ指令値Du *は「0+ΔD%」となる。このとき、キャリア波は下りである。したがって、図17D(d)に示されるように、前区間の終了タイミング(時刻t0x〜t1)で、「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」が実施される。
そして、次にチョッピングが行われる次区間(時刻t2〜t3)においては、図17D(b)に示されるように、電圧指令値vu *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる。そのため、図17D(c)に示されるように、符号判定表に従って、補正量ΔDにはマイナス(−)が付されるので、デューティ指令値Du *は負方向に補正される。また、キャリア波は下りである。したがって、図17D(d)に示されるように、時刻t2cからt2xまでの間に、「オン区間でのオフのチョッピング(↓)」が実施されることになる。
本来、次区間においては、前区間と同様のタイミングである制御区間の終了タイミングで、「オン区間でのオフのチョッピング(↓)」が実施されるべきである。次区間では、前区間と同様のタイミングである終了タイミングでチョッピングを実施できないが、本来実施されるはずである「オン区間でのオフのチョッピング(↓)」を実施することはできる。そのため、全体としては所望のチョッピングが実施されたと見なすことができる。
次に、図18を用いて、本実施形態による一連の信号処理について説明する。なお、図18には、(a)電圧位相指令値φ、(b)電圧指令値vu *、(c)デューティ指令値Du *、及び、(d)PWM電圧vuが示されている。
この図では、時刻t0から時刻t1まで、時刻t2から時刻t3まで、時刻t4から時刻t5まで、時刻t6から時刻t7まで、時刻t8から時刻t9まで、時刻t10から時刻t11までの制御区間でチョッピングが実施されるものとする。
時刻t0から時刻t1までの制御区間では、図18(b)に示されるように、電圧指令値vu *がオフのままで切り替えが行われない(S54:No)。そのため、図18(c)に示されるように、デューティ指令値Du *は、図6のパルスパターン表に従って0%が設定され(S55)、その後、チョッピングが行われる(S134:Yes)ので、(15)式に従って「0+ΔD%」に補正される(S135)。したがって、図18(d)に示されるように、キャリア波が上りであるので、PWM電圧vuは、区間の開始タイミング(時刻t0〜t0x)で、「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」が行われる。
時刻t1から時刻t2までの制御区間では、図18(b)に示されるように、電圧指令値vu *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる(S54:Yes)。そのため、図18(c)に示されるように、デューティ指令値Du *は、(8)式を用いて算出される値(S59)が用いられる。なお、この制御区間では、チョッピングが行われないので(S136:No)、デューティ指令値Du *の補正は行われない。したがって、図18(d)に示されるように、キャリア波が下りであるので、PWM電圧vuは、電圧指令値vu *の切り替えタイミング(時刻t1c)で、オフからオンへの切り替え(↑)が行われる。
なお、この制御区間では、デューティ指令値Du *の切り替えが行われており、キャリア波の位相反転が行われていない。そのため、図14Aの第2の反転判定表の(i)の場合に相当するので(S132:Yes)、次区間(時刻t2〜t3)でキャリア波の位相反転が実施される(S133)。
時刻t2から時刻t3までの制御区間では、図18(b)に示されるように、電圧指令値vu *がオンのままで切り替えが行われない(S54:No)。そのため、図18(c)に示されるように、デューティ指令値Du *は、図6のパルスパターン表に従って100%が設定され(S55)、その後、チョッピングが行われる(S134:Yes)ので、(14)式に従って、「100−ΔD%」に補正される(S135)。したがって、図18(d)に示されるように、キャリア波が下りであるので、PWM電圧vuは、区間の開始タイミング(時刻t2〜t2x)で、「オン区間でのオフのチョッピング(↓)」が行われる。
時刻t3から時刻t4までの制御区間では、図18(b)に示されるように、電圧指令値vu *がオンのままで切り替えが行われない(S54:No)。そのため、図18(c)に示されるように、図6のパルスパターン表に従って、デューティ指令値Du *として100%が設定される(S55)。なお、この制御区間では、チョッピングが行われないので(S134:No)、デューティ指令値Du *の補正は行われない。したがって、図18(d)に示されるように、PWM電圧vuはオンのまま変化しない。
時刻t4から時刻t5までの制御区間では、時刻t2から時刻t3までの制御区間と同様の処理が行われる。したがって、図18(d)に示されるように、PWM電圧vuは、区間の開始タイミング(時刻t4〜t4x)で、「オン区間でのオフのチョッピング(↓)」が行われる。
時刻t5から時刻t6までの制御区間では、図18(b)に示されるように、電圧指令値vu *のオンからオフの切り替え(↓)が行われる(S54:Yes)。そのため、図18(c)に示されるように、デューティ指令値Du *は、式(7)を用いて算出される値(S59)が用いられる。なお、この制御区間では、チョッピングが行われないので(S136:No)、デューティ指令値Du *の補正は行われない。したがって、図18(d)に示されるように、キャリア波が上りであるので、PWM電圧vuは、電圧指令値vu *の切り替えタイミング(時刻t5c)で、オンからオフへの切り替え(↑)が行われる。
なお、この制御区間では、デューティ指令値Du *の切り替えが行われており、かつ、キャリア波の位相反転が行われていない。そのため、図14Aの第2の反転判定表の(i)の場合に相当するので(S132:Yes)、次区間(時刻t6〜t7)でキャリア波の位相反転が実施される(S133)。
時刻t6から時刻t7までの制御区間では、時刻t0から時刻t1までの制御区間と同様の処理が行われる。したがって、図18(d)に示されるように、PWM電圧vuは、区間の開始タイミング(時刻t6〜t6x)で、「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」が行われる。
時刻t7からt8までの制御区間では、図18(b)に示されるように、電圧指令値vu *がオフのままで切り替えが行われない(S54:No)。そのため、図18(c)に示されるように、図6のパルスパターン表に従って、デューティ指令値Du *として0%が設定される(S55)。なお、この制御区間では、チョッピングが行われないので(S134:No)、デューティ指令値Du *の補正は行われない。したがって、図18(d)に示されるように、PWM電圧vuはオフのまま変化しない。
時刻t8からt9までの制御区間では、時刻t0から時刻t1までの制御区間、及び、時刻t6からt7までの制御区間と同様の処理が行われる。したがって、図18(d)に示されるように、PWM電圧vuは、区間の開始タイミング(時刻t8〜t8x)で、「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」が行われる。
時刻t9から時刻t10までの制御区間においては、時刻t7から時刻t8までの制御区間と同様の処理が行われる。したがって、図18(d)に示されるように、PWM電圧vuはオフのまま変化しない。
なお、この制御区間ではキャリア波が下りであり、かつ、次区間(時刻t10〜t11)ではデューティ指令値Du *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる。そのため、図7Aの第1の反転判定表の(i)の場合に相当するので(S57:Yes)、次区間(時刻t10〜t11)でキャリア波の位相反転が実施される(S58)。
時刻t10から時刻t11までの制御区間では、電圧指令値vu *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われる(S54:Yes)。そのため、図18(c)に示されるように、デューティ指令値Du *は、(8)式に従って設定され(S59)、その後、チョッピングが行われる(S136:Yes)ので、(17)式に従って補正される(S137)。なお、時刻t9から時刻t10までを現区間とすれば、前区間(時刻t8〜t9)のキャリア波が上りであり、次区間(時刻t10〜t11)で電圧指令値vu *のオフからオンへの切り替え(↑)が行われるため、図14Bの符号判定表の(iii)の場合に相当するので、デューティ指令値Du *は、正方向に補正される。
したがって、図18(c)に示されるように、時刻t10xから時刻t10cまでにおいて、「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」が実施される。本来は、開始タイミングで、「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」が実施されるはずであるので、本来のタイミングではないが、本来実施されるはずのチョッピングが実施されることになる。そのため、全体としては、所望のチョッピングが実施されたと見なすことができるので、PWM電圧vuの基本波ベクトルの振幅は小さくすることができる。
時刻t11からt12までに制御区間においては、時刻t3から時刻t4までの制御区間と同様の処理が行われる。したがって、図18(d)に示されるように、PWM電圧vuはオンのまま変化しない。
このように、本実施形態の信号処理が行われることにより、略等しい間隔でチョッピングを実施できるとともに、全体としては所望のチョッピングが行われたと見なすことができる。そのため、チョッピングされることにより小さくなるPWM電圧vxの基本波ベクトルの振幅を、安定させることができる。
第2実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
第2実施形態の制御方法によれば、電圧ベクトルノルム値Va *に応じてデューティ指令値Dx *を補正する補正ステップ(S135、S137)をさらに備える。補正ステップが実行されることによって、モータ200に印加されるPWM電圧の制御区間におけるオン区間とオフ区間の比率が変化するチョッピングが実行される。そのため、PWM電圧の基本波ベクトルの振幅を電圧ベクトルノルム値Va *に応じて小さくすることができる。したがって、最終電圧位相指令値α* finが変化する場合には、図12の経路(2)のような最短の経路で変化することが可能になり、無駄な電流が流れずに損失を抑制することができる。
また、第2実施形態の制御方法によれば、制御区間ごとに交互に補正ステップの実施の有無が変更される(S131)。このようにすることで、補正ステップ(S135、S137)が行われる制御区間でのキャリア波の傾きが同じになるため、チョッピングが行われるタイミングを、その制御区間の開始タイミング又は終了タイミングのいずれか一方に統一することができる。したがって、チョッピングの実施間隔が一定になることにより、モータ200に印加されるPWM電圧の基本波ベクトルの振幅が安定するため、モータ200の制御性を高めることができる。
また、第2実施形態の制御方法によれば、次の制御区間で電圧指令値vx *の切り替えが行われない時(S54:Yes)には、図14Aの第2の反転判定表を用いて、次の制御区間でのキャリア波の位相反転の要否を判定する第2反転ステップが実施される(S132)。具体的には、現在の制御区間で電圧指令値vx *の切り替えが行われ、かつ、キャリア波の位相反転が実施されていない場合には、次の制御区間でキャリア波の位相反転を実施する(S133)。このようにすることで、ある制御区間で電圧指令値vx *の切り替えが行われる場合には、その制御区間、及び、次の制御区間のいずれか一方で、キャリア波の位相反転が実施されることになる。
ここで、ある制御区間で電圧指令値vx *の切り替えが行われる場合には、その制御区間の前後で、デューティ指令値Dx *が0%及び100%のうちの一方から他方に変化する。キャリア波の位相反転が実施されなければ、電圧指令値vx *の切り替えが行われる制御区間の前後でキャリア波の傾きは同じになってしまう。したがって、制御区間内でのチョッピングの実施タイミングは、その制御区間の開始タイミング及び終了タイミングの一方から他方に変化してしまい、チョッピングの実施間隔が一定とならない。
そこで、本実施形態では、ある制御区間で電圧指令値vx *の切り替えが行われる場合には、その制御区間、及び、次の制御区間のいずれか一方で、キャリア波の位相反転を実施する。このようにすることで、チョッピングの実施タイミングは、その制御区間の開始タイミング及び終了タイミングのいずれか一方に統一されるので、チョッピングの実施間隔を一定にすることができる。したがって、モータ200に印加されるPWM電圧の基本波ベクトルの振幅が安定するため、モータ200の制御性を高めることができる。
また、第2実施形態の制御方法によれば、次区間において電圧指令値vx *の切り替えが行われ、かつ、チョッピングが実施される場合には、図14Bの符号判定表を用いて補正量ΔDに付す符号が決定される。具体的には、次区間の電圧指令値vx *の切り替えの方向、及び、前区間のキャリア波の傾きに応じて符号が決定される。
図17Aから図17Dまでに示したように、前区間のキャリア波の傾き、及び、次区間の電圧指令値vx *の切り替えの方向に応じて、前区間におけるチョッピングの実施タイミング(開始タイミング、又は、終了タイミング)が定まる。そのため、次区間において、前区間と同様のタイミングでチョッピングが行われると仮定した場合の、チョッピングの種類(「オン区間でのオフのチョッピング(↓)」、又は、「オフ区間でのオンのチョッピング(↑)」)も定まる。
そこで、図14Bの符号判定表に従って、前区間のキャリア波の傾き、及び、次区間の電圧指令値vx *の切り替えの方向に応じた符号を補正値に付すことにより、次区間で本来実施されるべき種類のチョッピングを実施できる。したがって、全体としては所望のチョッピングが行われたと見なすことができるため、基本波ベクトルの振幅の変化が安定するので、モータ200の回転制御の精度を高めることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。