JP6715011B2 - 上掛け生地用粉末油脂組成物 - Google Patents

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本発明は、上掛け生地が滑らかであり、上掛け生地のサクサクした食感と中生地のしっとりとした柔らかな食感が経日的に持続している、メロンパン等のベーカリー製品を製造するための上掛け生地用粉末油脂組成物に関する。また、前記のごとき粉末油脂組成物を用いて製造した上掛け生地、前記上掛け生地を含むベーカリー製品及びそれらの製造方法にも関する。
ベーカリー製品には実に様々な種類のものがあるが、その中の1つとして、パン生地の上にビスケット生地等を上掛けして焼成したメロンパンや欧風パン等がある。例えば、メロンパンは、ビスケット生地部分のサクサクした食感と、パン生地部分のしっとりとした柔らかな食感とを同時に楽しむことができ、消費者の間で大変人気の高いベーカリー製品である。特に、焼成直後のメロンパンはこの食感が強調されているため、消費者に最も好まれているものである。
一般にメロンパンは、パン生地の外側をビスケット生地で覆い、ホイロで発酵させた後、焼成して製造されるが、焼成後、水分がパン生地からビスケット生地へ移行してしまうため、数日経過したメロンパンはビスケット生地部分のサクサクした食感を失われ、また、パン生地部分のしっとりした柔らかい食感も失われてしまい、全体として好ましい食感が弱くなってしまう傾向があった。さらに、前記水分移行によってメロンパンの表面がべとつくため、包装材料に表面が付着してビスケット生地が剥がれてしまったり、見栄えが悪くなったり、また、食べるときに手が汚れてしまう等の欠点もあった。
このような問題を解決するため、これまで様々な取組みがなされてきたが、最近、融点が40℃以上である粉末油脂を練り込んだベーカリー用上掛け生地が提案されている(特許文献1)。これによれば、生地の伸展性、食感、焼成後の水分移行抑制に効果があるようであるが、本発明とは、原料となる油脂が異なり、上掛け生地の滑らかさや、中生地のしっとりした柔らかい食感の経日的持続性についての記載はなく、依然として焼成後の経時的な食感の変化を抑制する技術が求められていた。
特開2011−55786号公報
本発明の課題は、上掛け生地が滑らかであり、上掛け生地のサクサクした食感とパン生地のしっとりとした柔らかな食感が経日的に持続しているベーカリー製品を製造するための上掛け生地用粉末油脂組成物を提供することである。
本発明者らは、上掛け生地の焼成後の経時的な食感の変化が抑制されるベーカリー製品の製造方法について鋭意研究を行った結果、意外にも特定の条件を満たす粉末油脂組成物を用いることによって、上掛け生地が滑らかであり、上掛け生地のサクサクした食感と中生地のしっとりとした柔らかな食感が経日的に持続しているベーカリー製品が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の一態様によれば、次の(a)の条件を満たす粉末状の油脂組成物を含有する、上掛け生地用粉末油脂組成物を提供することができる。
(a)全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するXXX型トリグリセリドを65〜99質量%と、前記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換した1種以上のX2Y型トリグリセリドを35〜1質量%とを含有する油脂組成物であって、前記炭素数xは8〜20から選択される整数であり、前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+2〜x+12から選択される整数でありかつy≦22である。
また、本発明の好ましい態様によれば、前記XXX型トリグリセリドが80〜99質量%と、前記1種以上のX2Y型トリグリセリドの合計が20〜1質量%とを含有する、上記粉末油脂組成物を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、前記xが10〜18から選択される整数であり、前記yが、それぞれ独立して、x+2〜x+10から選択される整数でありかつy≦22である、上記粉末油脂組成物を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、前記xが10〜12から選択される整数であり、前記yが、それぞれ独立して、x+4〜x+8から選択される整数でありかつy≦22である、上記粉末油脂組成物を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、ゆるめ嵩密度が0.1〜0.6g/cm3である、上記粉末油脂組成物を提供することができる。
さらに、本発明の一態様によれば、上記粉末油脂組成物を含有してなる、上掛け生地を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、上記粉末油脂組成物を、穀粉100質量%に対して1〜50質量%含有してなる、上掛け生地を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、上記上掛け生地を含有する、ベーカリー製品を提供することができる。
さらに、本発明の一態様によれば、上記粉末油脂組成物を配合する、上掛け生地の製造法を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、上記粉末油脂組成物を、穀粉100質量%に対して1〜50質量%となるように配合する、上掛け生地の製造法を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、上記上掛け生地を中生地と組み合わせる、ベーカリー製品の製造法を提供することができる。
さらに、本発明の一態様によれば、上記粉末油脂組成物を有効成分とする、上掛け生地用品質改良剤を提供することができる。
本発明によれば、特定の条件を満たす粉末油脂組成物を用いることによって、上掛け生地が滑らかであり、上掛け生地のサクサクした食感と中生地のしっとりとした柔らかな食感が経日的に持続しているベーカリー製品を簡便に製造することができる。これにより、従来の複合生地によるベーカリー製品では満足できなかった人々の需要に応えることができる。
以下、本発明の「ベーカリー製品」について順を追って記述する。
<上掛け生地>
本発明において「上掛け生地」とは、メロンパンのような複合生地によるベーカリー製品において、例えばパン生地を中生地とした場合に、「中生地に対して上掛けされる生地」のことを意味し、材料の点からいえば、一般に、焼き菓子に用いられる生地とほぼ同じものである。本発明において、「上掛け生地」は、焼成する前の生地を指すことが一般的であるが、文脈上、焼成された後の生地を指すこともある。したがって、冷凍された状態のものを含まれており、本発明の「上掛け生地」は冷凍生地としても好ましく使用される。
本発明の「上掛け生地」は、穀粉などを主原料とする焼き菓子の生地であれば特に限定されないが、具体例を挙げれば、例えば、ビスケット生地、クッキー生地、サブレ生地、ガレット生地、タルト生地、ケーキ生地、メレンゲ生地、マカロン生地等が挙げられる。その中でも、ビスケット生地、クッキー生地が特に好ましい。
<中生地>
本発明において「中生地」とは、メロンパンのような複合生地によるベーカリー製品において、例えばビスケット生地を上掛け生地とした場合に、「上掛け生地によって上掛けされる生地」のことを意味し、材料の点からいえば、一般に、製菓製パンに用いられる生地とほぼ同じものである。本発明において、「中生地」は、焼成する前の生地を指すことが一般的であるが、文脈上、焼成された後の生地を指すこともある。したがって、冷凍された状態のものを含まれており、本発明の「中生地」は冷凍生地としても好ましく使用される。
本発明の「中生地」は、穀粉などを主原料とする製菓製パンの生地であれば特に限定されないが、具体例を挙げれば、例えば、パン生地、練りパイ生地、折りパイ生地、デニッシュ生地、シュー生地、ドーナツ生地、ケーキ生地、クラッカー生地、ワッフル生地等が挙げられる。その中でも、パン生地が特に好ましい。
<ベーカリー製品>
本発明において「ベーカリー製品」とは、上記「上掛け生地」の1種又は2種以上と、上記「中生地」の1種又は2種以上とから構成される複合生地によるベーカリー製品のことを意味する。本発明において、「ベーカリー製品」は、通常、焼成した後のものを指すことが一般的であるが、文脈上、焼成される前のものを指すこともある。したがって、冷凍された状態のものを含まれており、本発明の「ベーカリー製品」は冷凍品としても好ましく使用される。
<油脂組成物>
本発明は、全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種類又はそれ以上のXXX型トリグリセリドを65〜99質量%と、前記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換した1種以上のX2Y型トリグリセリドを35〜1質量%とを含有する油脂組成物であって、前記炭素数xは8〜20から選択される整数であり、前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+2〜x+12から選択される整数でありかつy≦22である条件から選ばれる、油脂組成物に関する。上記2種類のトリグリセリドを上記質量%にて含む当該油脂組成物は、乳化剤、賦形剤等の添加剤を含めることなく、容易に粉末状の油脂組成物となる。本発明の油脂組成物及び粉末油脂組成物については、先に出願したPCT/JP2015/070850(特願2014−149168号)において詳しく説明されているので、ここでは詳細を割愛する。なお、前記出願の内容は、本明細書の中に取り込まれる。以下、本発明の油脂組成物及び粉末油脂組成物の特徴を要約して説明する。
<XXX型トリグリセリド>
本発明の油脂組成物は、全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、その含有量が65〜99質量%である、単一種又は複数種、好ましくは単一種(1種類)のXXX型トリグリセリドを含む。当該XXX型トリグリセリドは、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するトリグリセリドであり、各脂肪酸残基Xは互いに同一である。ここで、当該炭素数xは8〜20から選択される整数であり、好ましくは10〜18から選択される整数、より好ましくは10〜16から選択される整数、更に好ましくは10〜12から選択される整数である。
脂肪酸残基Xは、飽和あるいは不飽和の脂肪酸残基であってもよい。具体的な脂肪酸残基Xとしては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びアラキジン酸等の残基が挙げられるがこれに限定するものではない。脂肪酸としてより好ましくは、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びステアリン酸であり、さらに好ましくは、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸であり、殊更好ましくは、カプリン酸及びラウリン酸である。
XXX型トリグリセリドは、油脂組成物中の全トリグリセリドを100質量%とした場合、65〜99質量%含まれる。XXX型トリグリセリドの含有量として好ましくは、75〜99質量%であり、より好ましくは80〜99質量%であり、更に好ましくは83〜98質量%であり、特に好ましくは85〜98質量%であり、殊更好ましくは90〜98質量%である。
<X2Y型トリグリセリド>
本発明の油脂組成物は、上記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換したX2Y型トリグリセリドを1種以上含む。ここで、1つのX2Y型トリグリセリドに含まれる各脂肪酸残基Xは互いに同一であり、かつXXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xとも同一である。当該1つのX2Y型トリグリセリドに含まれる脂肪酸残基Yの炭素数yはx+2〜x+12でありかつy≦22である条件から選ばれる整数である。炭素数yは、好ましくはy=x+2〜x+10を満たし、より好ましくはy=x+4〜x+8を満たす条件から選ばれる整数である。また、炭素数yの上限値は、好ましくはy≦20であり、より好ましくはy≦18である。本発明の油脂組成物は複数、例えば、2種類〜5種類、好ましくは3〜4種類のX2Y型トリグリセリドを含んでいてもよく、その場合の各X2Y型トリグリセリドの定義は上述の通りである。各X2Y型トリグリセリドの脂肪酸残基Yの炭素数yは、上述の範囲内から、各X2Y型トリグリセリドごとにそれぞれ独立して選択される。例えば、本発明の油脂組成物を、トリカプリンとパーム核ステアリン極度硬化油とをエステル交換して製造する場合は、xは共通してx=10であるが、yはそれぞれy=12、14、16及び18である4種類のX2Y型トリグリセリドを含む。
脂肪酸残基Yは、飽和あるいは不飽和の脂肪酸残基であってもよい。具体的な脂肪酸残基Yとしては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸及びベヘン酸等の残基が挙げられるがこれに限定するものではない。脂肪酸としてより好ましくは、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸及びベヘン酸であり、さらに好ましくは、ミリスチン酸、パルミチン酸及びステアリン酸である。
このX2Y型トリグリセリドの脂肪酸残基Yは、1位〜3位の何れに配置していてもよい。
X2Y型トリグリセリドは、油脂組成物中の全トリグリセリドを100質量%とした場合、35〜1質量%含まれる。X2Y型トリグリセリドの含有量としては、例えば、25〜1質量%であり、好ましくは20〜1質量%であり、より好ましくは17〜1質量%であり、更に好ましくは15〜2質量%であり、殊更好ましくは10〜2質量%である。本発明の油脂組成物に複数のX2Y型トリグリセリドが含まれる場合、上記X2Y型トリグリセリドの量は、含まれるX2Y型トリグリセリドの合計量である。
<その他のトリグリセリド>
本発明の油脂組成物は、本発明の効果を損なわない限り、上記XXX型トリグリセリド及びX2Y型トリグリセリド以外の、その他のトリグリセリドを含んでいてもよい。その他のトリグリセリドは、複数の種類のトリグリセリドであってもよく、合成油脂であっても天然油脂であってもよい。合成油脂としては、トリカプリル酸グリセリル、トリカプリン酸グリセリル等が挙げられる。天然油脂としては、例えば、ココアバター、ヒマワリ油、菜種油、大豆油、綿実油等が挙げられる。本発明の油脂組成物中の全トリグリセリドを100質量%とした場合、その他のトリグリセリドは、1質量%以上、例えば、5〜30質量%程度含まれていても問題はない。その他のトリグリセリドの含有量は、例えば、0〜30質量%、好ましくは0〜18質量%、より好ましくは0〜15質量%、更に好ましくは0〜8質量%である。
<その他の成分>
本発明の油脂組成物は、上記トリグリセリドの他、任意に乳化剤、香料、脱脂粉乳、全脂粉乳、ココアパウダー、砂糖、デキストリン等のその他の成分を含んでいてもよい。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、0〜70質量%、好ましくは0〜65質量%、より好ましくは0〜30質量%である。その他成分は、その90質量%以上が、平均粒径が1000μm以下である紛体であることが好ましく、平均粒径が500μm以下の紛体であることがより好ましい。なお、ここでいう平均粒径は、レーザー回折散乱法(ISO133201及びISO9276-1)によって測定した値である。
但し、本発明の好ましい油脂組成物は、実質的に油脂のみからなることが好ましい。ここで油脂とは、実質的にトリグリセリドのみからなるものである。また、「実質的に」とは、油脂組成物中に含まれる油脂以外の成分または油脂中に含まれるトリグリセリド以外の成分が、油脂組成物または油脂を100質量%とした場合、例えば、0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%であることを意味する。
<粉末油脂組成物>
本発明の粉末油脂組成物は、上記油脂組成物中に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の上記油脂組成物を得、この油脂組成物を冷却することにより、噴霧やミル等の粉砕機による機械粉砕等特別の加工手段を採らなくても、粉末状の油脂組成物(粉末油脂組成物)を得ることができる。より具体的には、上記XXX型トリグリセリドと上記X2Y型トリグリセリドを含有する油脂組成物を任意に加熱・融解して溶融状態の油脂組成物を得、その後冷却して溶融状態の油脂組成物よりも体積が増加した空隙を有する固形物を形成する。得られた該固形物を篩にかける等により外部より軽く衝撃を加えて粉砕する(ほぐす)ことで容易に粉末油脂組成物を得ることができる。
<粉末油脂組成物の物性>
本発明の粉末油脂組成物は、常温(20℃)で粉末状の固体である。
本発明の粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度は、例えば実質的に油脂のみからなる場合、0.1〜0.6g/cm3、好ましくは0.15〜0.5g/cm3であり、より好ましくは0.2〜0.4g/cm3である。ここで「ゆるめ嵩密度」とは、粉体を自然落下させた状態の充填密度である。ゆるめ嵩密度(g/cm3)の測定は、例えば、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端から2cm程度上方から粉末油脂組成物の適量を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、mL当たりの当該粉末油脂組成物の質量(g)を算出することで求めることができる。また、ゆるめ嵩密度は、(株)蔵持科学器械製作所のカサ比重測定器を使用し、JIS K-6720(又はISO 1060-1及び2)に基づいて測定したカサ比重から算出することもできる。具体的には、試料120mLを、受器(内径40mm×高さ85mmの100mL円柱形容器)の上部開口部から38mmの高さの位置から、該受器に落とす。受器から盛り上がった試料はすり落とし、受器の内容積(100mL)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求めることができる。
ゆるめ嵩密度(g/mL)=A(g)/100(mL)
測定は3回行ってその平均値を取ることが好ましい。
<粉末油脂組成物の製造方法>
本発明の粉末油脂組成物は、以下の工程、
(a)全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するXXX型トリグリセリドを65〜99質量%と、前記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換したX2Y型トリグリセリドを35〜1質量%とを含有する油脂組成物であって、前記炭素数xは8〜20から選択される整数であり、前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+2〜x+12から選択される整数でありかつy≦22である、油脂組成物を調製する工程、
(b)前記油脂組成物を加熱し、前記油脂組成物中に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の前記油脂組成物を得る任意の工程、
(d)溶融状態の前記油脂組成物を冷却して粉末油脂組成物を得る工程、
を含む方法によって製造することができる。
また、上記工程(b)と(d)の間に、工程(c)として粉末生成を促進するための任意工程、例えば(c1)シーディング工程、(c2)テンパリング工程、及び/又は(c3)予備冷却工程を含んでいてもよい。さらに上記工程(d)で得られる粉末油脂組成物は、工程(d)の冷却後に得られる固形物を粉砕して粉末状の油脂組成物を得る工程(e)によって得られるものであってもよい。
(a)油脂組成物の調製工程I
工程(a)で調製される油脂組成物は、上述したとおりのXXX型トリグリセリド(1種類又はそれ以上)とX2Y型トリグリセリド(1種類又はそれ以上)とを、上述した質量%で含有するものである。具体的には、例えば、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するXXX型トリグリセリド(1種類又はそれ以上)と、1位〜3位に炭素数yの脂肪酸残基Yを有するYYY型トリグリセリド(1種類又はそれ以上)とを別々に入手し、XXX型トリグリセリド/YYY型トリグリセリドの質量比で90/10〜99/1にて混合して反応基質を得(ここで、前記炭素数xは8〜20から選択される整数であり、前記炭素数yはx+2〜x+12から選択される整数でありかつy≦22である)、前記反応基質を加熱し、触媒の存在下でエステル交換反応する工程を経て得られる。
(a)油脂組成物の調製工程II
本発明の工程(a)で調製される油脂組成物の製造方法としては、さらに以下に示すようなXXX型トリグリセリドとX2Y型トリグリセリドを同時かつ直接合成する方法を挙げることができる。すなわち、本調製工程IIは、XXX型トリグリセリドとX2Y型トリグリセリドを得るために、XXX型トリグリセリドとYYY型トリグリセリドとを別々に合成してエステル交換するということはせず、双方のトリグリセリドを製造するための原料(脂肪酸または脂肪酸誘導体とグリセリン)を、例えば単一の反応容器に投入し、同時かつ直接合成する。
(a)油脂組成物の調製工程III
油脂組成物は、さらに65〜99質量%の範囲外にあるXXX型トリグリセリド及び/または35〜1質量%の範囲外にあるX2Y型トリグリセリドを含む油脂組成物を調製した後、XXX型トリグリセリド又はX2Y型トリグリセリドを更に添加することによって65〜99質量%のXXX型トリグリセリドと35〜1質量%のX2Y型トリグリセリドとを含む油脂組成物を得てもよい(希釈による油脂組成物の調製)。例えば、50〜70質量%のXXX型トリグリセリドと50〜30質量%のX2Y型トリグリセリドとを含む油脂組成物を得た後、所望量のXXX型トリグリセリドを添加して65〜99質量%のXXX型トリグリセリドと35〜1質量%のX2Y型トリグリセリドとを含む油脂組成物を得てもよい。
(b)溶融状態の前記油脂組成物を得る工程
上記(d)工程の前に、上記工程(a)で得られた油脂組成物は、調製された時点で溶融状態にある場合、加熱せずにそのまま冷却されるが、得られた時点で溶融状態にない場合は、任意に加熱され、該油脂組成物中に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の油脂組成物を得る。
ここで、油脂組成物の加熱は、上記油脂組成物中に含まれるトリグリセリドの融点以上の温度、特にXXX型トリグリセリド及びX2Y型トリグリセリドを融解できる温度、例えば、70〜200℃、好ましくは、75〜150℃、より好ましくは80〜100℃であることが適当である。また、加熱は、例えば、0.5〜3時間、好ましくは、0.5〜2時間、より好ましくは0.5〜1時間継続することが適当である。
(d)溶融状態の油脂組成物を冷却して粉末油脂組成物を得る工程
上記工程(a)又は(b)で得られた溶融状態の油脂組成物は、さらに冷却されて粉末油脂組成物を形成する。
ここで、「溶融状態の油脂組成物を冷却」とは、溶融状態の油脂組成物を、当該油脂組成物の融点より低い温度に保つことを意味する。「油脂組成物の融点より低い温度」とは、例えば、当該融点より1〜30℃低い温度、好ましくは当該融点より1〜20℃低い温度、より好ましくは当該融点より1〜15℃低い温度である。溶融状態にある油脂組成物の冷却は、例えばxが8〜10のときは最終温度が、好ましくは10〜30℃、より好ましくは15〜25℃、更に好ましくは18〜22℃の温度になるように冷却することによって行われる。冷却における最終温度は、例えばxが11又は12のときは、好ましくは30〜40℃、より好ましくは32〜38℃、更に好ましくは33〜37℃であり、xが13又は14のときは、好ましくは40〜50℃、より好ましくは42〜48℃、更に好ましくは44〜47℃であり、xが15又は16のときは、好ましくは50〜60℃、より好ましくは52〜58℃、更に好ましくは54〜57℃であり、xが17又は18のときは、好ましくは60〜70℃、より好ましくは62〜68℃、更に好ましくは64〜67℃であり、xが19又は20のときは、好ましくは70〜80℃、より好ましくは72〜78℃、更に好ましくは74〜77℃である。上記最終温度において、例えば、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上、更に好ましくは6時間〜2日間静置することが適当である。場合によっては、例えばXXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの炭素数xが8〜12の場合など、比較的粉体化に時間を要するものは、特に以下の(c)工程を使用しない場合、例えば2〜8日間、具体的には3〜7日間、より具体的には約6日間静置しなければならない場合もある。
(c)粉末生成促進工程
さらに、上記工程(a)又は(b)と(d)との間に、(c)粉末生成を促進するための任意工程として、工程(d)で使用する溶融状態の油脂組成物に対し、シーディング法(c1)、テンパリング法(c2)及び/又は(c3)予備冷却法による処理を行ってもよい。
ここで、(c1)シーディング法とは、粉末の核(種)となる成分を溶融状態にある油脂組成物の冷却時に少量添加して、粉末化を促進する方法である。具体的には、例えば、工程(b)で得られた溶融状態にある油脂組成物に、当該油脂組成物中のXXX型トリグリセリドと炭素数が同じXXX型トリグリセリドを好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含む油脂粉末を核(種)となる成分として準備する。この核となる油脂粉末を、溶融状態にある油脂組成物の冷却時、当該油脂組成物の温度が、例えば、最終冷却温度±0〜+10℃、好ましくは+5〜+10℃の温度に到達した時点で、当該溶融状態にある油脂組成物100質量部に対して0.1〜1質量部、好ましくは0.2〜0.8質量部添加することにより、油脂組成物の粉末化を促進する方法である。
(c2)テンパリング法とは、溶融状態にある油脂組成物の冷却において、最終冷却温度で静置する前に一度、工程(d)の冷却温度よりも低い温度、例えば5〜20℃低い温度、好ましくは7〜15℃低い温度、より好ましくは10℃程度低い温度に、好ましくは10〜120分間、より好ましくは30〜90分間程度冷却することにより、油脂組成物の粉末化を促進する方法である。
(c3)予備冷却法とは、前記工程(a)又は(b)で得られた溶融状態の油脂組成物を、工程(d)にて冷却する前に、工程(a)又は(b)の溶融状態の温度よりも低く、工程(d)の冷却温度よりも高い温度で一旦予備冷却する方法である。工程(d)の冷却温度より高い温度とは、例えば、工程(d)の冷却温度よりも2〜40℃高い温度、好ましくは3〜30℃高い温度、より好ましくは4〜30℃高い温度、さらに好ましくは5〜10℃程度高い温度であり得る。前記予備冷却する温度を低く設定すればするほど、工程(d)の冷却温度における本冷却時間を短くすることができる。すなわち、予備冷却法とは、シーディング法やテンパリング法と異なり、冷却温度を段階的に下げるだけで油脂組成物の粉末化を促進できる方法であり、工業的に製造する場合に利点が大きい。
(e)固形物を粉砕して粉末油脂組成物を得る工程
上記工程(d)の冷却によって粉末油脂組成物を得る工程は、より具体的には、工程(d)の冷却によって得られる固形物を粉砕して粉末油脂組成物を得る工程(e)によって行われてもよい。
詳細に説明すると、まず、上記XXX型トリグリセリドと上記X2Y型トリグリセリドを含有する油脂組成物を融解して溶融状態の油脂組成物を得、その後冷却して溶融状態の油脂組成物よりも体積が増加した空隙を有する固形物を形成する。空隙を有する固形物となった油脂組成物は、軽い衝撃を加えることで粉砕でき、固形物が容易に崩壊して粉末状となる。
ここで、軽い衝撃を加える手段は特に特定されないが、振る、篩に掛ける等により、軽く振動(衝撃)を与えて粉砕する(ほぐす)方法が、簡便で好ましい。
<粉末油脂組成物に含まれるその他の成分>
本発明の粉末油脂組成物は、任意に乳化剤、タンパク質、澱粉、酸化防止剤等のその他の成分を含んでいてもよい。例えば、粉末油脂組成物に対し、乳化作用のあるものを加えることによって、粉末油脂組成物の水系への分散性を向上させることができる。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、0〜70質量%、好ましくは0〜65質量%、より好ましくは0〜30質量%である。
但し、本発明の好ましい粉末油脂組成物は、実質的に油脂のみからなることが好ましい。ここで油脂とは、実質的にトリグリセリドのみからなるものである。また、「実質的に」とは、粉末油脂組成物中に含まれる油脂以外の成分または油脂中に含まれるトリグリセリド以外の成分が、油脂組成物または油脂を100質量%とした場合、例えば、0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%であることを意味する。
<粉末油脂組成物の含有量>
本発明の上掛け生地は、その原材料である穀粉の質量を基準として上記粉末油脂組成物を含有する。つまり、上掛け生地中の穀粉の全質量を100質量%とした場合、本発明の粉末油脂組成物を1〜100質量%となるように含有する。より好ましくは2〜50質量%、さらに好ましくは5〜40質量%となるように含有する。
上記粉末油脂組成物が100質量%を超えると、生地のまとまりが悪くなり、食味も悪くなってしまう。一方、上記粉末油脂組成物が1質量%よりも少ないと、所望の効果が得られない。
なお、本発明の上掛け生地は、粉末油脂組成物を加えた後の上掛け生地の全質量を100質量%とした場合に、上記粉末油脂組成物を0.5〜50質量%、好ましくは1〜25質量、より好ましくは3〜20質量%、さらに好ましくは5〜10質量%含有する。
<上掛け生地に含まれる穀粉>
本発明の「穀粉」としては、強力粉、中力粉、薄力粉、小麦全粒粉、玄米粉、ライ麦粉、とうもろこし粉、及び米粉等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。例えば、強力粉、中力粉、薄力粉などが好ましい。
上掛け生地中の穀粉の量は、好ましくは1〜70質量%であり、より好ましくは20〜60質量%であり、さらに好ましくは30〜50質量%である。
<上掛け生地に含まれる食用油脂>
本発明の上掛け生地は、上記粉末油脂組成物のほか、任意に食用油脂を含むことができる。このような食用油脂としては、例えば、食用油、マーガリン、ファットスプレッド、及びショートニングなどが挙げられ、これらの一種又は2種以上を併用することができる。前記食用油脂の原料としては、例えば、ヤシ油、パーム核油、パーム油、パーム分別油(パームオレイン、パームスーパーオレイン等)、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、乳脂、ココアバター等やこれらの混合油、加工油脂等を使用することができる。これら食用油脂の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができる。
上掛け生地中の食用油脂の量は、穀粉100質量%に対して、1〜100質量%であることが好ましく、5〜80質量%であることがより好ましく、10〜60質量%であることがさらに好ましい。
<上掛け生地に含まれる糖類>
本発明の上掛け生地は、上記粉末油脂組成物、穀粉、食用油脂のほか、任意に糖類を含むことができる。本発明の「糖類」としては、その性状から大別して、粉末状糖類と液状糖類の2種類がある。そして、粉末状糖類としては、例えば、果糖、ブドウ糖等の粉末状単糖類、ショ糖、麦芽糖、乳糖等の粉末状二糖類、粉末トレハロース及び粉末状糖アルコール等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
また、液状糖類としては、例えば、液状ソルビトール、液状マルチトール、還元水あめ等の液状糖アルコールや、ブドウ糖液糖、果糖・ブドウ糖液糖、及びブドウ糖・果糖液糖等の転化型液糖、ショ糖型液糖、並びに液状トレハロース等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。これらの糖類は市販品を使用することができる。
上掛け生地中の糖類の量は、穀粉100質量%に対して、1〜100質量%であることが好ましく、10〜80質量%であり、さらに好ましくは20〜70質量%である。
<上掛け生地に含まれるその他の成分>
本発明の上掛け生地は、焼き菓子の製造において一般的に配合される原料を任意に使用することができる。例えば、全卵、卵黄、卵白等の卵類、コーン澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、及び各種加工澱粉等の澱粉類、アーモンド粉、ヘーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉等の堅果粉、アスパルテーム、スクロース、ステビア等の甘味料、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン等の増粘安定剤、カロテン、カラメル、色素等の着色料、トコフェロール等の酸化安定剤、カゼイン、ホエー等の蛋白質、牛乳、粉乳、練乳、クリームなどの乳製品、ナチュラルチーズ、プロセスチーズなどのチーズ類、洋酒、日本酒等の酒類、ベーキングパウダー等の膨張剤、イースト、イーストフード、生地改良剤、チョコレート、ココア等のカカオ製品、コーヒー等のコーヒー製品、保存料、酸味料、pH調整剤、乳化剤、酵素、果実、果汁、ジャム、調味料、香辛料、香料、野菜類、魚介類、畜肉類等の食品素材等を配合することができる。
<上掛け生地の製造方法>
本発明の上掛け生地は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、シュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法、溶かしバター法、別立て法、後粉法、後油法、湯捏法などの一般的な方法を適宜単独又は組み合わせて使用することができる。その際、粉末油脂組成物は、それ以外の油脂を添加して一般的な方法により生地を作り、そこに粉末油脂組成物を添加し練り込む方法もあれば、穀粉と粉末油脂組成物とを合わせたものを篩って、他の原材料と合わせて生地を作る方法もある。
なお、本発明の中生地も、従来公知の方法により製造することができる。例えば、パン生地であれば、直捏法(ストレート法)、中種法、液種法、オールインミックス法、老麺法などの製造法を挙げることができる。
<ベーカリー製品の製造方法>
本発明における「ベーカリー製品」とは、ビスケット生地等の上掛け生地を、パン生地等の中生地の上に上掛けして焼成したものである。この上掛け方法は特に制限されず、例えば、板状に成形した上掛け生地を中生地の上に載置する方法や、自動包餡装置などで、上掛け生地により中生地を包み込む方法などが挙げられる。本発明のベーカリー製品において、上掛け生地の使用量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、上記中生地100質量%に対して、好ましくは20〜100質量%とすることができる。
<上掛け生地用品質改良剤>
ところで、以上述べたように、本発明に用いる粉末油脂組成物は、従来の上掛け生地を滑らかなものとし、上掛け生地のサクサク感が経日的に持続するものへ改良するから、本発明は、上記粉末油脂組成物を有効成分とする、上掛け生地用の品質改良剤にも関する。以下に示すように、本発明の上掛け生地用品質改良剤を従来の上掛け生地の原料へ配合することにより、上掛け生地を滑らかにし、しかもサクサクした食感が経日的に持続するものへ変更する品質改良効果を達成することができる。
本発明の上掛け生地用品質改良剤は、上述の粉末油脂組成物を含有する。本発明の上掛け生地用品質改良剤は、少量で効果を発揮するため、上記の粉末油脂組成物を、好ましくは60質量%以上含有し、より好ましくは80質量%以上含有し、さらに好ましくは100質量%以上含有する。
また、本発明の上掛け生地用品質改良剤は、有効成分であると上述した粉末油脂組成物を含有したものであればよく、この他に本発明の効果を損なわない範囲で、大豆油、菜種油などの油脂、デキストリン、澱粉等の賦形剤、品質改良剤等の他の成分を含有させたものであってもよい。
但し、本発明の好ましい上掛け生地用品質改良剤は、実質的に当該粉末油脂組成物のみからなることが好ましい。また「実質的に」とは、上掛け生地用品質改良剤中に含まれる粉末油脂組成物以外の成分が、上掛け生地用品質改良剤を100質量%とした場合、例えば、0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%であることを意味する。
次に、実施例および比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。また。以下において「%」とは、特別な記載がない場合、質量%を示す。
<原料油脂>
(1)粉末油脂組成物(融点約44℃)
〔x=12、y=18、テンパリング法〕
攪拌機、温度計、窒素ガス吹込管及び水分分離機を備えた500mLの四つ口フラスコに、グリセリン(阪本薬品工業社製)38.8g(0.421mol)と、ステアリン酸(Palmac98−18(アシッドケム社製))26.2g(0.092mol)とラウリン酸(Palmac99−10(アシッドケム社製))271.3g(1.354mol)を仕込み、窒素気流下、250℃の温度で15時間反応させた。過剰のラウリン酸を220℃、減圧下にて留去した後、脱色・濾過、脱臭を行い、50℃において淡黄色液状の反応物を242g得た(XXX型:78.3質量%、X2Y型:19.2質量%)。得られた反応物60gとトリラウリン(日清オイリオグループ(株)製)140gを混合し原料油脂とした(XXX型:93.1質量%、X2Y型:5.8質量%)。原料油脂を80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、28℃恒温槽にて0.5時間冷却した後、35℃恒温槽にて12時間静置し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させた後、ほぐすことで粉末状の結晶組成物を得た(ゆるめ嵩密度:0.3g/cm3、平均粒径130μm)。このようにして製造した粉末油脂組成物を以下の実施例で用いた。
ここで、ゆるめ嵩密度は、(株)蔵持科学器械製作所のカサ比重測定器を使用し、JIS K-6720(又はISO 1060-1及び2)に基づいて測定したカサ比重から算出した。具体的には、試料120mLを、受器(内径40mm×高さ85mmの100mL円柱形容器)の上部開口部から38mmの高さの位置から、該受器に落とした。続いて、受器から盛り上がった試料をすり落とし、受器の内容積(100mL)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求めた。
ゆるめ嵩密度(g/mL)=A(g)/100(mL)
測定は3回行って、その平均値を測定値とした。
ここで、平均粒径は、日機装株式会社製 Microtrac MT3300ExII)でレーザー回折散乱法(ISO133201、ISO9276-1)に基づいて測定した。
<その他の原材料>
下記実施例における、薄力粉、強力粉、上白糖、全卵、ベーキングパウダー、生イースト、イーストフード、食塩、脱脂粉乳はいずれも市販されているものを用いた。また、ショートニングとして、日清ロイヤルショート20(業務用:日清オイリオグループ株式会社製)を用いた。
[実施例1]
<上掛け生地の製造>
下記表1の配合(粉300g仕込み)に従って、実施例1、比較例1のメロンパンの上掛け生地を、常法(シュガーバッター法)に従って製造した。より具体的には、ショートニングと上白糖をすり合わせ、これに全卵を少しずつ段階的に加えて混ぜ合わせた。これに粉末油脂組成物と合わせた薄力粉とベーキングパウダーを軽く混ぜ合わせて上掛け生地を調製した。
Figure 0006715011
<中生地の製造>
下記表2の配合(粉1kg仕込み)に従って、実施例1、比較例1のメロンパンの中生地を、常法(中種法)に従って製造した。より具体的には、まず、強力粉、生イースト、イーストフード、全卵及び水を混合して、25℃で捏ね上げた。次に、こうして得られた生地(中種)を28℃、240分(湿度80%)で発酵させた。次に、強力粉、上白糖、食塩、脱脂粉乳、ショートニング及び水をさらに加え、28℃で捏ね上げた。こうして得られた生地(本種)をフロアタイムが28℃、30分(湿度80%)となるように寝かせた後、1つ50gとなるように分割し、ベンチタイムが28℃、20分(湿度80%)となるように寝かせて、中生地を調製した。
Figure 0006715011
<メロンパンの製造>
上記中生地50g(1種類)に上掛け生地35g(実施例1、比較例1)を載せて、メロンパンとなるように成形し、表面にグラニュー糖を付着させた。ホイロ内で30℃、60分(湿度50%)で寝かせた後、オーブン入れて、上火200℃下火200℃で、12分焼成し、複合生地からなるメロンパンを製造した。
Figure 0006715011
<上掛け生地及びメロンパンの評価1>
上記のように製造した、実施例1、比較例1の上掛け生地及びメロンパンについて、以下の評価方法に従って評価した。なお、上掛け生地を製造した直後(焼成前)に評価した。また、メロンパンを製造した直後に喫食し評価した。その結果を表3に示した。
<上掛け生地及びメロンパンの評価方法>
(1)生地の滑らかさの評価方法
以下の基準に従って、熟練した5名のパネラーにより、総合的に評価した。
○:生地が滑らかでつるつるしている
△:生地の滑らかさに欠け、つるつるさが足りない
×:生地が滑らかでなく、つるつるしていない
(2)サクサク感の評価方法
以下の基準に従って、熟練した5名のパネラーにより、総合的に評価した。
○:上掛け生地がサクサクとした好ましい食感を有している
△:上掛け生地のサクサク感がやや乏しくなり、好ましい食感が足りない
×:上掛け生地のサクサク感がなくなり、好ましい食感が感じられない
(3)しっとりさ柔らかさの評価方法
以下の基準に従って、熟練した5名のパネラーにより、総合的に評価した。
○:中生地にしっとりとした柔らかい食感がある
△:中生地のしっとりさや柔らかさに欠け、ややパサつきを感じる
×:中生地が硬くなり、しっとりさや柔らかさは感じられない
表3の結果から明らかであるように、本発明の粉末油脂組成物を用いて製造した上掛け生地(実施例1)は、生地が滑らかでつるつるしているのに対して、本発明の粉末油脂組成物を用いずに製造した上掛け生地(比較例1)は、生地が滑らかがなく、つるつるしていなかった。生地が滑らかでつるつるしていることは、上掛け作業等を容易にし、メロンパンの製造を簡便にするため、工業的に製造する場合、その効果が極めて大である。
また、本発明の粉末油脂組成物を用いて製造したメロンパン(実施例1)は、上掛け生地のサクサクした食感がやや強く感じられたが(より軽い食感)、本発明の粉末油脂組成物を用いずに製造したメロンパン(比較例1)と大差はなかった。また、中生地のしっとりとした柔らかな食感についても両者に大差はみられなかった。なお、外観においても同等であり、本発明の粉末油脂組成物を用いても見た目において全く問題はない。
<メロンパンの評価2>
上記のように製造した、実施例1、比較例1のメロンパンについて、1日後(製造から24時間後)、2日後(製造から48時間後)に、再び上記評価方法に従って評価した。その結果を表4に示した。
Figure 0006715011
表4の結果から明らかであるように、製造1日後の、本発明の粉末油脂組成物を用いて製造したメロンパン(実施例1)は、製造直後の上掛け生地のサクサクとした食感及び中生地のしっとりとした柔らかな食感が持続していたのに対して、本発明の粉末油脂組成物を用いずに製造したメロンパンは(比較例1)は、上掛け生地が水分を吸収してしっとりしてきており、サクサクとした食感が明らかに弱くなっていた。また、中生地のしっとりとした柔らかな食感についても同様に弱くなっており、ややパサつきを感じるようになっていた。
また、製造2日後の、本発明の粉末油脂組成物を用いて製造したメロンパン(実施例1)は、上掛け生地が若干しっとりしてきたものの、依然としてサクサクとした好ましい食感を維持していた。また、中生地のしっとりとした柔らかな食感についてはやや硬くなり始めていた。一方、本発明の粉末油脂組成物を用いずに製造したメロンパンは(比較例1)は、上掛け生地が完全に水分を吸収してしっとりしており、サクサクとした食感は失われていた。また、中生地のしっとりとした柔らかな食感もなくなっており、硬い食感に変わっていた。
以上のように、本発明の粉末油脂組成物を用いることによって、上掛け生地のサクサクした食感と中生地のしっとりとした柔らかな食感が経日的に持続することができた。

Claims (9)

  1. 以下の(a)の条件を満たす粉末状の油脂組成物を含有する、上掛け生地用粉末油脂組成物。
    (a)全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位〜3位に炭素数xの飽和の脂肪酸残基Xを有するXXX型トリグリセリドを90〜98質量%と、前記XXX型トリグリセリドの飽和の脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの飽和の脂肪酸残基Yに置換した1種以上のX2Y型トリグリセリドを10〜2質量%とを含有する油脂組成物であって、前記炭素数xは10及び12から選択される整数であり、前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+4〜x+8から選択される整数でありかつy≦22である。
  2. ゆるめ嵩密度が0.1〜0.6g/cm3である、請求項に記載の粉末油脂組成物。
  3. 請求項1又は2に記載の粉末油脂組成物を生地中に含有してなる、上掛け生地。
  4. 前記粉末油脂組成物を穀粉100質量%に対して1〜50質量%含有してなる、請求項に記載の上掛け生地。
  5. 請求項3又は4に記載の上掛け生地を含有してなる、ベーカリー製品。
  6. 請求項1又は2に記載の粉末油脂組成物を生地中に配合する、上掛け生地の製造法。
  7. 前記粉末油脂組成物を穀粉100質量%に対して1〜50質量%配合する、請求項に記載の上掛け生地の製造法。
  8. 請求項3又は4に記載の上掛け生地と中生地と組み合わせる、ベーカリー製品の製造法。
  9. 請求項1又は2に記載の粉末油脂組成物を有効成分とする、上掛け生地用品質改良剤。
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