以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を上下と表現することがある。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る制御弁の構成を表す断面図である。
制御弁1は、図示しない自動車用空調装置の可変容量圧縮機(単に「圧縮機」という)の吐出容量を制御する。この圧縮機は、冷凍サイクルを流れる冷媒を圧縮して高温・高圧のガス冷媒にして吐出する。そのガス冷媒は外部熱交換器(凝縮器又はガスクーラ)にて冷却され、さらに膨張装置により断熱膨張されて低温・低圧の霧状の冷媒となる。この低温・低圧の冷媒が蒸発器にて蒸発し、その蒸発潜熱により車室内空気を冷却する。蒸発器で蒸発された冷媒は、再び圧縮機へと戻されて冷凍サイクルを循環する。
圧縮機は、自動車のエンジンによって回転駆動される回転軸を有し、その回転軸に取り付けられた揺動板に圧縮用のピストンが連結されている。制御弁1は、その圧縮機の吐出室から制御室へ導入する冷媒流量を制御することで揺動板の角度、ひいてはその圧縮機の吐出容量を変化させる。制御弁1は、圧縮機の吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの差圧(Pd−Ps)が制御目標値である設定差圧に近づくように吐出室から制御室に導入する冷媒流量を制御するいわゆるPd−Ps差圧弁として構成されている。
制御弁1は、弁本体2とソレノイド3(「アクチュエータ」として機能する)とを一体に組み付けて構成される。弁本体2は、段付円筒状のボディ5を有する。ボディ5は、本実施形態では真鍮からなるが、アルミニウム合金からなるものとしてもよい。ボディ5には、その上端側からポート10,12,14が設けられている。このうち、ポート10はボディ5の上端部に設けられ、ポート12,14はボディ5の側部に設けられている。ポート10は吐出室から冷媒を導入する「導入ポート」として機能し、ポート12は制御室へ冷媒を導出する「導出ポート」として機能する。
ボディ5においてポート10とポート12とを連通させる通路には、段付円筒状の弁座形成部材16が配設されている。弁座形成部材16は、ステンレス鋼(例えばSUS420)を焼き入れして形成され、ボディ5よりも硬度が高い。弁座形成部材16は、ボディ5の上部に同軸状に挿通され、ボディ5の上部を内方に加締めることにより固定されている。弁座形成部材16には軸線に沿った貫通孔95が設けられており、その下半部により弁孔18が形成されている。ボディ5における弁座形成部材16の下方には、ポート12に連通する弁室20が形成されている。弁座形成部材16の下半部は、下方に向けて外径が小さくなるテーパ状をなし、弁室20内に延在している。弁座形成部材16の下端面に弁座22が形成されている。弁室20には、弁座22に下方から対向するように弁体24が配設されている。弁体24が弁座22に接離することにより弁部の開度が調整される。
弁座形成部材16における貫通孔95の半径方向外側には、貫通孔95と平行なブリード孔96が設けられている。ブリード孔96は、閉弁時にも制御室へ最低限の冷媒を流入させることにより、圧縮機におけるオイル循環を確保するためのものである。
ボディ5の内部空間を上下に区画するように隔壁26が設けられている。隔壁26の上方には弁室20が形成され、下方には作動室28が形成されている。弁室20は、ポート12を介して制御室に連通する。作動室28は、ポート14を介して吸入室に連通する。隔壁26の中央には軸線方向に延在するガイド部30が設けられている。そのガイド部30を軸線に沿って貫通するようにガイド孔32が形成され、そのガイド孔32には長尺状の作動ロッド34が軸線方向に摺動可能に挿通されている。弁体24は、作動ロッド34の上端に同軸状に設けられている。弁体24と作動ロッド34とは、ステンレス鋼を切削加工することにより一体成形されている。
ガイド部30は、隔壁26の上面側に小さく突出し、下面側に大きく突出している。ガイド部は、下方に向けて外径が小さくなるテーパ状をなし、作動室28内に延在している。それによりガイド孔32の長さが十分に確保され、作動ロッド34が安定に支持されている。弁体24は、作動ロッド34と一体に動作し、その上端面にて弁座22に着脱して弁部を開閉する。弁座形成部材16の硬度が十分に高いため、弁体24が繰り返し着座しても弁座22は変形し難く、弁部の耐久性が確保されている。
作動ロッド34の下部には止輪36(Eリング)が嵌合され、その止輪36によって下方への移動が規制されるように円板状のばね受け38が設けられている。ばね受け38とボディ5(隔壁26)との間には、作動ロッド34を下方(開弁方向)に付勢するスプリング40(コイルスプリング)が介装されている。スプリング40は、隔壁26の下面から下方のばね受け38に向けて小径化するテーパスプリングとされている。上述のようにガイド部30をテーパ状としたことで、テーパ状のスプリング40が配置可能となっている。ボディ5の下部は小径部42とされ、ソレノイド3との連結部を構成する。
ボディ5の上端開口部には、ポート10への異物の侵入を抑制するフィルタ部材44が設けられている。圧縮機の吐出冷媒には金属粉等の異物が含まれることがあるため、フィルタ部材44は、その異物が制御弁1の内部に侵入することを防止又は抑制する。
一方、ソレノイド3は、円筒状のコア50と、コア50に外挿された有底円筒状のスリーブ52と、スリーブ52に収容され、コア50と軸線方向に対向配置されたプランジャ54と、スリーブ52に外挿された円筒状のボビン56と、ボビン56に巻回された電磁コイル58と、電磁コイル58を外方から覆うように設けられた円筒状のケース60と、ボビン56の上方にてコア50とケース60との間に組み付けられた段付円筒状の接続部材62と、ケース60の下端開口部に取り付けられた端部材64とを備える。ソレノイド3への通電制御には、PWM(Pulse Width Modulation )方式が採用される。
スリーブ52は非磁性材料からなり、その上半部にコア50を収容し、下半部にプランジャ54を収容している。弁本体2とソレノイド3とは、ボディ5の小径部42(下端部)が接続部材62の上端開口部に圧入されることにより固定されている。なお、本実施形態においては、ボディ5、弁座形成部材16、接続部材62、ケース60および端部材64が制御弁1全体のボディを形成している。
コア50の中央を軸線方向に貫通するように挿通孔67が形成され、その挿通孔67を貫通するようにシャフト68が挿通されている。シャフト68は、作動ロッド34と同軸状に設けられ、作動ロッド34を下方から支持する。シャフト68の径は作動ロッド34のそれよりも大きい。そのシャフト68の下半部にプランジャ54が組み付けられている。本実施形態において、シャフト68と作動ロッド34とが、ソレノイド力を弁体24に伝達する「伝達ロッド」を構成する。
プランジャ54は、その上部にてシャフト68に同軸状に支持されている。シャフト68の軸線方向中間部の所定位置には止輪70(Eリング)が嵌合され、その止輪70によってプランジャ54の上方への移動が規制されている。プランジャ54の側面には軸線に平行な連通溝71が設けられており、プランジャ54とスリーブ52との間に冷媒を通過させる連通路が形成される。
コア50の上端部にはリング状の軸支部材72が圧入されており、シャフト68の上端部がその軸支部材72によって軸線方向に摺動可能に支持されている。軸支部材72の外周の一部が切り欠かれることにより、コア50と軸支部材72との間に連通路が形成されている。この連通路を介して吸入圧力Psがソレノイド3の内部にも導かれる。
また、スリーブ52の下端部がやや縮径されており、リング状の軸支部材76が圧入されている。この軸支部材76は、シャフト68の下端部を摺動可能に軸支している。すなわち、シャフト68が上方の軸支部材72と下方の軸支部材76とにより2点支持されることにより、プランジャ54を軸線方向に安定に動作することができる。軸支部材76の外周の一部が切り欠かれることにより、スリーブ52と軸支部材76との間に連通路が形成されている。ソレノイド3に導入された吸入圧力Psは、コア50とシャフト68との間の連通路、プランジャ54とスリーブ52との間の連通路、軸支部材76とスリーブ52との間の連通路を介してスリーブ52内に満たされる。
軸支部材76とプランジャ54との間には、プランジャ54を上方、つまり閉弁方向に付勢するスプリング78(コイルスプリング)が介装されている。すなわち、弁体24は、ばね荷重として、スプリング40による開弁方向の力とスプリング78による閉弁方向の力との合力を受ける。ただし、スプリング40の荷重がスプリング78のそれよりも大きいため、スプリング40,78によるばね荷重は、開弁方向に作用するようになる。
ボビン56からは電磁コイル58につながるハーネス65が延出し、端部材64を貫通して外部に引き出されている。端部材64は、ケース60に内包されるソレノイド3内の構造物を下方から支持するように取り付けられている。
以上の構成において、作動ロッド34の径が弁孔18の内径よりやや小さいものの、ほぼ同じ大きさを有するため、弁室20において弁体24に作用する制御圧力Pcの影響はほぼキャンセル(相殺)される。このため、弁体24には、ほぼ弁孔18の大きさの受圧面積に対して吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの差圧(Pd−Ps)が実質的に作用する。弁体24は、差圧(Pd−Ps)がソレノイド3に供給された制御電流にて設定された設定差圧に保持されるように動作する。
次に、可変容量圧縮機用制御弁の基本的動作について説明する。
制御弁1において、ソレノイド3が非通電のときには、スプリング40,78の合力による開弁方向の荷重により弁体24が弁座22から離間して弁部が全開状態に保持される。このとき、圧縮機の吐出室からポート10に導入された吐出圧力Pdの高圧冷媒は、全開状態の弁部を通過し、ポート12から制御室へと流れることになる。その結果、制御圧力Pcが高められ、圧縮機は吐出容量が最小となる最小容量運転を行うことになる。
一方、自動車用空調装置の起動時または冷房負荷が最大のときには、ソレノイド3への供給電流値が最大になり、プランジャ54は、コア50に最大の吸引力で吸引される。このとき、弁体24、作動ロッド34、シャフト68およびプランジャ54が、一体になって閉弁方向に動作し、弁体24が弁座22に着座する。この閉弁動作によって制御圧力Pcが低下するため、圧縮機は吐出容量が最大となる最大容量運転を行うことになる。
ここで、容量制御時においてソレノイド3に供給される電流値が所定値に設定されているときには、弁体24、作動ロッド34、シャフト68およびプランジャ54が一体動作する。このとき、弁体24は、作動ロッド34を開弁方向に付勢するスプリング40のばね荷重と、プランジャ54を閉弁方向に付勢するスプリング78のばね荷重と、プランジャ54を閉弁方向に付勢しているソレノイド3の荷重と、弁体24が開弁方向に受圧する吐出圧力Pdによる力と、弁体24が閉弁方向に受圧する吸入圧力Psによる力とがバランスした弁リフト位置にて停止する。
このバランスが取れた状態で、エンジンの回転数とともに圧縮機の回転数が上がって吐出容量が増えると、差圧(Pd−Ps)が大きくなって弁体24に開弁方向の力が作用し、弁体24は、さらにリフトして吐出室から制御室へ流す冷媒の流量を増やす。これにより、制御圧力Pcが上昇し、圧縮機は、その吐出容量を減少させる方向に動作し、差圧(Pd−Ps)が設定差圧になるように制御される。エンジンの回転数が低下した場合には、その逆の動作が行われ、差圧(Pd−Ps)が設定差圧になるように制御される。
次に、実施形態の主要部であるスプリングおよびその支持構造について説明する。
図2は、スプリング40の構成および動作を表す図である。図2(A)はスプリング40の外観を表す斜視図である。図2(B)はスプリング40の上端部を表す平面図であり、図2(C)はスプリング40の下端部を表す底面図である。図2(D)はスプリング40の縦断面図である。図2(E)は、スプリング40が押し縮められたときの作用を表す説明図である。
図2(A)〜(D)に示すように、スプリング40は、テーパ状の圧縮コイルスプリングである。スプリング40は、ステンレスからなる素線80を巻回して得られる。素線80の両端の座巻部は、軸線Lに対して直角となるように研磨された平坦面82,84をそれぞれ有する。平坦面82はボディ5に当接する第1当接面となり、平坦面84はばね受け38に当接する第2当接面となる。
スプリング40の表面には無電解メッキが施され、その後の熱処理により硬化されている。この無電解メッキとしては、例えば特開2000−303980号公報に記載の潤滑メッキ処理を採用することができる。この潤滑メッキ処理は、スプリング40の表面にポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」と表記する)を含んだニッケル−リン(Ni−P)のメッキ処理を施すものである。このメッキ処理によれば、PTFEの潤滑作用により、スプリング40の上下の平坦面82,84の摩擦係数を顕著に小さくすることができる。さらに、熱処理を施してそのメッキの被膜を硬化させることにより、メッキの耐摩耗性を向上させることができる。このようなメッキ処理を施すことにより、スプリング40が押し縮められたときの横荷重の増大を抑制できる。
すなわち、図2(D)に示すように、スプリング40に圧縮荷重Pが作用すると、スプリング40には軸線方向の荷重のみならず半径方向の荷重(横荷重)Fが発生する。圧縮荷重Pの負荷により素線80が変形することで、図2(E)に示すようにコイルの同軸度がずれ、それにより横荷重Fが発生するものと推察される。同図には、上端の座巻部の中心O1、および下端の座巻部の中心O2が示されている。
この点、本実施形態では上述した潤滑メッキにより摩擦係数が小さくされているため、横荷重Fが生じたとしても、それに追従してスプリング40が容易に横滑りすることができる。すなわち、摩擦力Frを低減することにより、横荷重Fのばね受け38への伝達を抑制することにつながり、作動ロッド34に無用な横力が負荷されることを防止できる。
図3は、スプリング78の構成および動作を表す図である。図3(A)はスプリング78の外観を表す斜視図である。図3(B)はスプリング78の上端部を表す平面図であり、図3(C)はスプリング78の下端部を表す底面図である。図3(D)はスプリング78の縦断面図である。図3(E)は、スプリング78が押し縮められたときの作用を表す説明図である。
スプリング78は、円筒状の圧縮コイルスプリングである。スプリング78は、ステンレスからなる素線90を円筒状に巻回して得られる。素線80の両端の座巻部は、軸線Lに対して直角となるように研磨された平坦面92,94をそれぞれ有する。平坦面92は軸支部材76に当接する第1当接面となり、平坦面94はプランジャ54に当接する第2当接面となる。
スプリング78の表面にもスプリング40と同様に無電解メッキが施され、その後の熱処理により硬化されている。すなわち、上述した潤滑メッキ処理を施すことにより、スプリング78が押し縮められたときの横荷重の増大を抑制できる。
すなわち、スプリング78に圧縮荷重Pが作用すると、スプリング78に横荷重Fが発生するが、上述した潤滑メッキにより摩擦係数が小さくされているため、横荷重Fに追従してスプリング78が容易に横滑りすることができる。これは、摩擦力Frの低減につながり、シャフト68に無用な横力が負荷されることを防止できる。
発明者らは、コイルスプリングの荷重特性を検証するために、各スプリングに圧縮荷重を付与し、どの程度の横荷重が発生するかを測定する試験を行った。具体的には、スプリングの下端を固定した状態で上端にロードセルを設置し、圧縮荷重を徐々に増加させた。このロードセルは、スプリングの軸線方向の荷重(つまり圧縮荷重)を検出するとともに、その軸線と直角な方向の荷重(つまり横荷重)を検出することができる。この測定試験は、スプリング40に対応するテーパスプリング(Spring(1))と、スプリング78に対応する円筒スプリング(Spring(2))について、それぞれ3つの試験片(#1〜#3)を用意して行った。ただし、各試験片に上述した潤滑メッキ処理は施していない。
図4は、試験結果に基づきスプリングのストロークと横荷重との関係を表したグラフである。同図の横軸はスプリングのストローク(mm)、つまり自然長からの縮み量を示し、縦軸は横荷重(N)を示す。図中太線がテーパスプリング(Spring(1))を示し、細線が円筒スプリング(Spring(2))を示す。また、実線が試験片#1、破線が試験片#2、点線が試験片#3をそれぞれ示している。
図示の試験結果により、テーパ状であるか円筒状であるかにかかわらず、スプリングへの圧縮荷重の増大によりストロークが増えるにつれて、横荷重が概ね線形的に増大することが分かる。発明者らは、作動ロッド34およびシャフト68(つまり伝達ロッド)が、この横荷重の変化の影響を受け難くすることが、弁体24の作動安定性を向上させるうえで重要であると認識した。それが、上述のようにスプリングに潤滑メッキ処理を施し、スプリングの一端又は両端を滑らせる構造を採用する動機づけとなった。
図5は、スプリングおよびその周辺構造を表す部分拡大断面図である。図5(A)は図1のA部拡大図であり、図5(B)は図1のB部拡大図である。上述のように、スプリングに潤滑メッキ処理を施すことでその摩擦係数を小さくし、横滑りできる構成としたが、その横滑りを実現するためにはスプリングの少なくとも一端部が半径方向に拘束されないことが必要である。本実施形態では、それを考慮してスプリングの周辺構造を工夫した。
すなわち、図5(A)に示すように、スプリング40は、ボディ5に設けられた支持面31(第1支持面)と、ばね受け38に設けられた支持面33(第2支持面)との間に介装される。すなわち、スプリング40の平坦面82が第1当接面として支持面31に当接し、平坦面84が第2当接面として支持面33に当接する。このスプリング40については、ボディ5に支持される側である基端部41(上端側大径部)が半径方向に拘束され、ばね受け38に支持される側である先端部43(下端側小径部)は半径方向に拘束されない構成とされている。このような構成を実現するために、ボディ5においてスプリング40を支持する部分の内径と、スプリング40の基端部41の外径とがほぼ等しくされている。それにより、スプリング40の基端側が横方向に変位し難くしている。なお、ガイド部30の外径は、スプリング40の内径よりも十分に小さくされている。
一方、ばね受け38は、作動ロッド34を挿通する小径部37と、スプリング40の下面を支持する大径部39とを有する。そして、その小径部37の外径をスプリング40の先端部43の内径よりも十分に小さくしている。それにより、上述した潤滑メッキの作用とも相俟って、スプリング40の先端側がばね受け38に対して横滑り易くしている。このような構成により、スプリング40が押し縮められて横荷重が発生したとしても、そのままばね受け38には伝達されない構成とした。すなわち、スプリング40において半径方向に非拘束とされた端部(「非拘束端部」ともいう)を滑らせることで横荷重を逃すことにより、作動ロッド34に無用な横力が作用しないようにされている。
図5(B)に示すように、スプリング78は、ボディ5と一体に固定された軸支部材76の支持面51(第1支持面)と、弁体24と一体変位可能であるプランジャ54に設けられた支持面53(第2支持面)との間に介装される。すなわち、スプリング78の平坦面92が第1当接面として支持面51に当接し、平坦面94が第2当接面として支持面53に当接する。このスプリング78については、軸支部材76に支持される側である基端部77と、プランジャ54に支持される側である先端部79とが、双方ともに半径方向に拘束されない構成とされている。このような構成を実現するために、軸支部材76は、シャフト68を挿通する小径部73と、スプリング78の下面を支持する大径部75とを有する。そして、その小径部73の外径をスプリング78の基端部77の内径よりも十分に小さくしている。
また、プランジャ54においてスプリング78を支持する部分の内径を、スプリング78の先端部79の外径よりも大きくしている。このような構成により、上述した潤滑メッキの作用とも相俟って、スプリング78がその両端において横滑りし易くなっている。その結果、スプリング78が押し縮められて横荷重が発生したとしても、そのまま軸支部材76には伝達されることがない。すなわち、スプリング78の両端を非拘束端部として滑らせることで横荷重を逃すことにより、シャフト68に無用な横力が作用しないようにされている。
以上に説明したように、本実施形態では、潤滑メッキの作用によりスプリング40,78の非拘束端部が半径方向に滑り易くなる。このため、制御弁1の作動時にスプリング40,78が押し縮められて横荷重を発生させたとしても、その非拘束端部が半径方向に滑ることでその横荷重の増大を抑制できる。この結果、その横荷重が伝達ロッド(作動ロッド34,シャフト68)へ伝達されることを抑制できる。その結果、弁体24の作動に伴うヒステリシスや不安定な挙動を低減することができる。また、弁体24の良好な着座性能を維持することができる。
[第2実施形態]
本実施形態では、上述したスプリングを制御弁としての膨張弁に適用する。この膨張弁は、上述した「膨張装置」として機能する。図6は、第2実施形態に係る制御弁の構成を示す断面図である。
膨張弁201は、アルミニウム合金からなるボディ202を有する。ボディ202の内部には冷媒の絞り膨張を行う弁部が設けられている。ボディ202の長手方向の端部には、「アクチュエータ」として機能するパワーエレメント203が設けられている。ボディ202の側部には、外部熱交換器側から高温・高圧の液冷媒を導入する導入ポート206、膨張弁201にて絞り膨張された低温・低圧の冷媒を蒸発器へ向けて導出する導出ポート207、蒸発器にて蒸発された冷媒を導入する導入ポート208、膨張弁201を通過した冷媒を圧縮機側へ導出する導出ポート209が設けられている。
膨張弁201においては、導入ポート206、導出ポート207およびこれらをつなぐ冷媒通路により第1通路213が構成されている。第1通路213の中間部に弁部が設けられている。導入ポート206から導入された冷媒は、その弁部にて絞り膨張されて霧状となり、導出ポート207から蒸発器へ向けて導出される。一方、導入ポート208、導出ポート209およびこれらをつなぐ冷媒通路により第2通路214が構成されている。第2通路214の中間部がパワーエレメント203の内部と連通している。導入ポート208から導入された冷媒の一部は、パワーエレメント203に供給されて感温される。
第1通路213の中間部には弁孔216が設けられ、その弁孔216の導入ポート206側の開口端縁により弁座217が形成されている。弁座217に導入ポート206側から対向するように弁体218が配置されている。弁体218は、弁座217に着脱して弁部を開閉する球状のボール弁体241と、そのボール弁体241を下方から支持する弁体受け243とを接合して構成されている。
ボディ202の下端部には、内外を連通させる連通孔219が形成されており、その上半部により弁体218を収容する弁室240が形成されている。弁室240は、弁孔216に連通し、弁孔216と同軸状に形成されている。弁室240は、また、側部にて上流側通路237を介して導入ポート206に連通している。弁孔216は、下流側通路239を介して導出ポート207に連通している。すなわち、上流側通路237、弁室240、弁孔216および下流側通路239が、第1通路213を構成している。
連通孔219の下半部には、その連通孔219を外部から封止するようにアジャストねじ220が螺着されている。弁体218(正確には弁体受け243)とアジャストねじ220との間には、弁体218を閉弁方向に付勢するスプリング260が介装されている。アジャストねじ220のボディ202への螺入量を調整することで、スプリング260の荷重を調整することができる。アジャストねじ220とボディ202との間には、冷媒の漏洩を防止するためのOリング224が介装されている。
一方、ボディ202の上端部には凹部250が設けられ、凹部250の底部に内外を連通させる開口部252が設けられている。パワーエレメント203は、下部が凹部250に螺着され、開口部252を閉止するようにボディ202に組み付けられている。凹部250とパワーエレメント203との間の空間により、感温室254が形成されている。
パワーエレメント203は、ボディ202との間に感温室254を形成するように設けられたハウジング225と、そのハウジング225内を軸線方向に仕切るダイヤフラム228とを備える。ダイヤフラム228は、「感圧部材」として機能する。ダイヤフラム228の下面に当接するようにディスク229が配置されている。パワーエレメント203の内部は、ダイヤフラム228により密閉空間S1と開放空間S2とに仕切られる。密閉空間S1は、感温室254と離隔され、感温用のガスが封入されている。開放空間S2は、感温室254に開放され、開口部252を介して第2通路214に連通する。ディスク229は、開放空間S2に配置され、ダイヤフラム228と同軸状に当接する。
パワーエレメント203とボディ202との間には、冷媒の漏洩を防止するためのOリング230が介装されている。第2通路214を通過する冷媒の一部は、開口部252を介して感温室254に導入され、ディスク229に設けられた溝部253を通ってダイヤフラム228の下面に導かれる。それにより、その冷媒の温度および圧力が、ダイヤフラム228に伝達される。また、その冷媒の温度は、ディスク229を介した熱伝導によってもダイヤフラム228に伝達される。
ボディ202の中央部には、第1通路213と第2通路214との間の隔壁235を貫通するように挿通孔234が設けられている。この挿通孔234は、小径部244と大径部246とを有する段付孔となっており、小径部244には長尺状のシャフト233が摺動可能に挿通されている。シャフト233は、金属製(例えばステンレス製)のロッドであり、ディスク229と弁体218との間に介装されている。これにより、ダイヤフラム228の変位よる軸線方向の駆動力が、ディスク229およびシャフト233を介して弁体218へ伝達され、弁部が開閉される。なお、ディスク229は、ハウジング225に係止されることにより、その下方への変位が規制される。それにより、ダイヤフラム228の開弁方向への過度な変位が防止されている。
シャフト233の上半部は第2通路214を横断し、下半部は挿通孔234の小径部244に摺動可能に支持されている。大径部246(「取付孔」として機能する)には、シャフト233に軸線方向と直角な方向の一定の付勢力、つまり適度な横荷重(摺動荷重)を付与するための防振ばね248が収容されている。シャフト233がその防振ばね248の横荷重を受けることにより、冷媒圧力の変動によるシャフト233や弁体218の振動が抑制される。なお、防振ばね248の具体的構造については、例えば特開2013−242129号公報に記載の構成を採用することができるため、その詳細な説明については省略する。
なお、本実施形態では、挿通孔234とシャフト233との間にOリング等のシール部材は設けられていないが、シャフト233と小径部244とのクリアランスが十分に小さいため、第1通路213から第2通路214への冷媒の漏れは抑制される。すなわち、いわゆるクリアランスシールが実現されている。変形例においては、Oリング等のシール部材を設けてもよい。
スプリング260は、円筒状のコイルスプリングであり、第1実施形態と同様の潤滑メッキが施されている。アジャストねじ220は、スプリング260の下半部を収容できるよう有底円筒状をなしている。弁体受け243は、スプリング260に挿通される軸芯部245と、スプリング260の上面を支持するフランジ部247とを有する。
スプリング260は、アジャストねじ220に設けられた支持面251(第1支持面)と、弁体218(弁体受け243)に設けられた支持面253(第2支持面)との間に介装される。すなわち、スプリング260の一端側の平坦面292が第1当接面として支持面251に当接し、他端側の平坦面294が第2当接面として支持面253に当接する。
スプリング260は、アジャストねじ220に支持される側である基端部262が半径方向に拘束され、弁体受け243に支持される側である先端部264は半径方向に拘束されない構成とされている。このような構成を実現するために、アジャストねじ220においてスプリング260を支持する部分の内径と、スプリング260の外径とがほぼ等しくされている。それにより、スプリング260の基端側が横方向に変位し難くしている。
一方、弁体受け243における軸芯部245の外径をスプリング260の内径よりも十分に小さくしている。それにより、上述した潤滑メッキの作用とも相俟って、スプリング260の先端側が弁体受け243に対して横滑りし易くしている。このような構成により、スプリング260が押し縮められて横荷重が発生したとしても、そのまま弁体受け243には伝達されない構成とした。すなわち、スプリング260の非拘束端部を滑らせることで横荷重を逃すことにより、弁体218ひいてはシャフト233に無用な横力が作用しないようにされている。
すなわち、本実施形態においても、潤滑メッキの作用によりスプリング260の非拘束端部が半径方向に滑り易くなる。このため、膨張弁201の作動時にスプリング260が押し縮められて横荷重を発生させたとしても、その非拘束端部が半径方向に滑ることでその横荷重の増大を抑制できる。この結果、その横荷重が伝達ロッド(シャフト233)へ伝達されることを抑制できる。それにより、防振ばね248によって設定される一定の適度な横荷重を保持することができる。その結果、弁体218の作動に伴うヒステリシスの増大を抑制でき、弁部の不安定な挙動を低減することができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
上記実施形態では、PTFEを含んだNi−Pの潤滑メッキを無電解メッキ処理(皮膜形成処理)により得る例を示した。この無電解メッキは、ニッケル等の金属を溶解してイオン化し、その金属イオンをスプリング素材上に金属として還元析出させるものである。上記潤滑メッキは、その無電解メッキの過程で潤滑作用のあるPTFEをメッキ層に含めるものである。ニッケルは自己触媒性を有する金属であり、リンが還元剤として用いられる。メッキ中の金属表面が負に帯電するため、正電荷をもつPTFE粒子がその金属表面に吸着し、Ni−PマトリックスにPTFE粒子が取り込まれた複合メッキ被膜が形成される。なお、上記実施形態では、潤滑メッキ処理後に熱処理を行ったが、その熱処理を省略してもよい。ただし、潤滑メッキの耐摩耗性の観点からは熱処理を行うのが好ましい。
変形例においては、他の潤滑メッキ処理を採用してもよい。例えば硬質クロムにPTFEを含めた潤滑メッキとしてもよい。金属元素として、ニッケルやリン以外が含まれてもよい。自己触媒性を有しない金属であってもよい。また、上記実施形態では、「潤滑性のある被膜」として潤滑メッキを例示したが、例えばPTFEなどの非金属潤滑材をコーティングして被膜を形成してもよい。潤滑剤としてPTFE以外のものを採用してもよい。
上記実施形態では、スプリングの表面全体に潤滑メッキを施す例を示したが、部分的に施してもよい。その場合、潤滑メッキをスプリングの両端の平坦面の一方にのみ施してもよいし、双方に施してもよい。また、上記実施形態では、スプリングにのみ潤滑メッキを施したが、スプリングを受けるばね受け、軸支部材、ボディなど、スプリングの座面を有する部材に潤滑メッキを施してもよい。その場合、スプリングに潤滑メッキを施さなくてもよい。あるいは、スプリングとその座面の双方に潤滑メッキを施してもよい。
上記実施形態では、耐食性金属(ステンレス等)を素材とするスプリングを例示したが、耐食性のないばね鋼を素材とするスプリングに対して上記潤滑メッキを施してもよい。一般にメッキ処理は耐食性に劣る材料に対してなされるものであるが、上記実施形態では潤滑性をもたせることを目的とするが故に、耐食性のあるスプリング素材上にあえてメッキを施す意義がある。
上記第1実施形態では、図5(A)に示したように、スプリング40において作動ロッド34側の端部を非拘束端部とし、ボディ5側の端部を半径方向に拘束する(つまり「拘束端部」とする)例を示した。すなわち、スプリングにおいて軸線方向への可動側端部を非拘束端部とし、軸線方向への固定側端部を拘束端部とする例を示した。変形例においては逆に、作動ロッド34側の端部を拘束端部とし、ボディ5側の端部を非拘束端部としてもよい。すなわち、スプリングにおいて軸線方向への固定側端部を非拘束端部とし、軸線方向への可動側端部を拘束端部としてもよい。このようにすることで、スプリングと伝達ロッドとを同軸状に保つことができ、より安定した作動を実現できる可能性がある。
上記第1実施形態では、下方の軸支部材がスプリングを支持するばね受けとして機能するとともに、シャフトを軸支する軸受けとしても機能する例を示した。変形例においては、スプリングを支持するばね受けと、シャフトを軸支する軸受けとを個別に設けてもよい。そして、そのばね受けとスプリングとの間に横滑り構造を設けてもよい。
上記第1実施形態では、作動ロッドとシャフトとを別体にて作製した後、両者を軸線方向に同軸状に当接させる形で連結し、ソレノイド力を弁体に伝達する伝達ロッドとして構成する例を示した。変形例においては、作動ロッドとシャフトとを単一の部材により一体成形して伝達ロッドとしてもよい。
上記第1実施形態では、制御弁1をいわゆるPd−Ps差圧弁として構成する例を示したが、制御弁の制御方式はこれに限らず、種々の方式を採用することができる。例えば制御圧力Pcと吸入圧力Psとの差圧(Pc−Ps)を制御目標値である設定差圧に近づけるいわゆるPc−Ps差圧弁として構成してもよい。すなわち、吸入室に導入される冷媒を圧縮して吐出室から吐出する可変容量圧縮機の吐出容量を、制御室から吸入室へ導出する冷媒の流量を調整することにより変化させる制御弁に対し、上記実施形態の各構造を適用してもよい。あるいは、吸入圧力Psを制御目標値である設定圧力に近づけるいわゆるPs制御弁に適用してもよい。
上記実施形態では、上記スプリングおよびその支持構造を有する制御弁を、可変容量圧縮機用制御弁や膨張弁として構成する例を示したが、その用途や制御方式は上記のものに限定されない。すなわち、弁体を開弁又は閉弁方向に付勢するスプリングを備えた制御弁であれば、上記構造を適用することができる。
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。