本発明の実施の形態を、図面を基に説明する。
先ず、図1〜図4を参照して、本発明の第1実施形態を説明する。図1において、自動車に搭載される動力源としてのエンジン(図示しない)には、減速機構として機能する遊星歯車機構100を介して差動装置10が接続される。差動装置10は、エンジンから遊星歯車機構100を経てデフケース11に伝達される回転力を、図示しない左右一対の車軸にそれぞれ連なる出力軸21,22に分配して伝達する。これにより、左右一対の車軸を、一対の車軸の相互の差動回転を許容しつつ駆動するものである。そのため、差動装置10は例えば車体前部のエンジンの横に配置されたミッションケース8内に遊星歯車機構100と共に収容される。尚、エンジンと遊星歯車機構100との間には、従来周知の動力断接機構や前後進切換機構(何れも図示しない)が介装される。
尚、本明細書において、「軸方向」とは、デフケース11及びサイドギヤ14,14′の回転軸線Lに沿う方向をいい、また「径方向」とは、デフケース11及びサイドギヤ14,14′の径方向をいい、また「周方向」とは、デフケース11及びサイドギヤ14,14′の円周方向をいう。
遊星歯車機構100は、例えばデフケース11に同一軸線上に回転自在に嵌合支持されるサンギヤ101と、サンギヤ101を同心状に囲繞してミッションケース8の内壁に固定される大径のリングギヤ102と、サンギヤ101及びリングギヤ102間に介装されてサンギヤ101及びリングギヤ102に噛合する複数(例えば4個)の遊星ギヤ103と、複数の遊星ギヤ103を回転自在に軸支するキャリア104と、を備える。サンギヤ101は、図示しない連動機構を介してエンジンのクランク軸に連動連結されている。サンギヤ101に入力された動力は、遊星ギヤ103及びキャリア104を順次経てデフケース11に減速して伝達される。
キャリア104は、例えば、デフケース11よりも小径の円形のリング板状に形成されたキャリアベース104bと、キャリアベース104bに互いに周方向に間隔をおいて一体に突設されて軸方向に延びる複数(例えば4個)のキャリアアーム部104aと、を有する。各々のキャリアアーム部104aは、例えばデフケース11の中心軸線Lと直交する投影面で見て扇形状に形成される。各々のキャリアアーム部104aの先端部(キャリア104の軸方向端部)には、後述するサイドギヤ14,14′の径方向外方に沿って延びる円弧状のフランジ部105が一体に突設される。フランジ部105は、キャリアアーム部104aの軸方向端面から張出し、且つキャリアアーム部104aの径方向外周面からも張出しており、後述するようにデフケース11と溶接wにより接合される。
遊星ギヤ103は、例えばキャリア104の周方向に間隔をおいて隣り合うキャリアアーム部104aの相互間の空間に配置される。また遊星ギヤ103は、上記空間を軸方向に貫通する枢軸106に回転自在に貫通支持される。枢軸106は、例えば一端がキャリアベース104bに固着され、他端がデフケース11(後述する第1ケース半体11Aの側壁部15)の凹部又は貫通孔に嵌合、支持される。
デフケース11の一端部(例えば図1の紙面上で見て右端部)は、軸受7を介してミッションケース8に回転自在に支持される。一方、デフケース11の他端部では、図示はしないがサンギヤ101、キャリア104又は出力軸21のうちの少なくとも1つが、ミッションケース8に回転自在に支持される。これにより、相互に一体的に回転するデフケース11及びキャリア104の結合体がミッションケース8に回転自在に支持される。
またミッションケース8には、各出力軸21,22が嵌挿される貫通孔8aが形成される。また、貫通孔8aの内周と各出力軸21,22の外周との間には環状のシール部材9が介装される。またミッションケース8の底部には、例えばミッションケース8の内部空間に臨んで潤滑油を貯溜するオイルパン(図示しない)が設けられる。そして、オイルパン内の潤滑油がミッションケース8内でデフケース11等の回転により掻き上げられ飛散することで、デフケース11の内外に存する運動部分を潤滑可能にする。
差動装置10は、例えば、デフケース11と、デフケース11内に収容される複数のピニオンギヤ12と、デフケース11内に収容されて、複数のピニオンギヤ12を回転自在に支持するピニオンシャフト13と、デフケース11内に収容されて複数のピニオンギヤ12の各々に対し左右両側より噛合し、且つ一対の出力軸21,22にそれぞれ接続される一対のサイドギヤ14,14′と、を備える。また、デフケース11は、入力部材の一例であり、サイドギヤ14,14′は出力ギヤの一例であり、ピニオンギヤ12は差動ギヤの一例であり、ピニオンシャフト13は、ピニオンギヤ12を支持するピニオンギヤ支持部(差動ギヤ支持部)として機能することができるシャフト(差動ギヤ支持部材,支持部材)の一例である。
ピニオンギヤ12の各々は、例えばデフケース11にピニオンシャフト13を介して支持されており、デフケース11に対しピニオンシャフト13の軸線回りに自転可能であると共にデフケース11の回転に伴いデフケース11の回転軸線L回りに公転可能である。
また、デフケース11は、少なくとも2個の入力部材要素(本実施形態では第1,第2ケース半体11A,11B)に分割可能に構成される。第1の入力部材要素としての第1ケース半体11Aは、例えば、キャリア104に隣接して固定される円板状の側壁部15と、側壁部15の外周端部に一体に連設されて第2ケース半体11B側に延びる短円筒状の筒部16と、側壁部15の外側面の中央部より軸方向外方に円筒状に延びるボス部17と、を備える。
ボス部17の外周にはサンギヤ101が軸受を介して回転自在に嵌合支持される。またボス部17の内周には、出力軸21が回転自在に嵌合支持されると共に、第1サイドギヤ14の軸部14jが微小な遊隙を介して嵌合される。尚、軸部14jを出力軸21と同様に、ボス部17の内周に回転自在に直接嵌合させるようにしてもよい。
また、側壁部15の外側面には、キャリアアーム部104aの軸方向での端面を当接支持する平坦な支持面15aと、支持面15aの外周部において支持面15aより一段後退した窪み状に形成されて、キャリアアーム部104aの端部(より具体的にはフランジ部105)を受容する環状の段部15cと、キャリアアーム部104aの内周端をインロー嵌合させてキャリア104の径方向での位置決めを行う円環状の突起部15bと、が形成されている。
段部15cは、図3でも明らかなようにフランジ部105を受容する領域が径方向内方側に拡幅されている。そして、段部15cの底面には、フランジ部105の軸方向の端面が溶接wにより一体に接合される。これにより、キャリア23が第1ケース半体11Aに結合して一体化される。
また、第2の入力部材要素としての第2ケース半体11Bは、例えば、第1ケース半体11Aの開放端を塞ぐことができる円板状に形成される側壁部15′と、側壁部15′の外側面の中央部より軸方向外方に円筒状に延びるボス部17′と、を備える。ボス部17′の内周には第2サイドギヤ14′の軸部14j′が回転自在に嵌合支持される。
第2ケース半体11Bの側壁部15′の外周端部の内側面は、第1ケース半体11Aの筒部16の端面に当接される。そして、ボルト18等の結合手段を以て第2ケース半体11Bは第1ケース半体11Aと着脱可能に結合される。尚、結合手段としては、ボルト18以外の適当な結合手段、例えばカシメ、接着、溶接等の結合手段を採用してもよい。上記したように第1,第2ケース半体11A,11Bの側壁部15,15′を扁平な円板状に形成して外側面を平坦化したことにより、側壁部15,15′が軸方向外方側に大きく張出すことが抑えられる。これにより、デフケース11、延いては差動装置10の軸方向の扁平化を図ることができる。
第1ケース半体11Aのボス部17と出力軸21との嵌合面の一方(例えばボス部17の内周面)、並びに第2ケース半体11Bのボス部17′と第2サイドギヤ14′の軸部14j′との嵌合面の一方(例えばボス部17′の内周面)には、ミッションケース8内で飛散する潤滑油をデフケース11内に引き込むことができる螺旋溝19,19′がそれぞれ形成される。
ピニオンシャフト13は、例えば、デフケース11内でデフケース11の回転軸線Lと直交するように配置される。また、ピニオンシャフト13の両端部は、例えば第1ケース半体11A(より具体的には筒部16)に一直径線上において設けた一対の貫通支持孔16aにそれぞれ挿通される。ピニオンシャフト13のデフケース11への連結は、ピニオンシャフト13の一端部を貫通してデフケース11に挿着される連結ピン(ピン)30を以て行われる。
連結ピン30は、差動装置10の組立状態においては、第1ケース半体11Aの筒部16に設けた第1貫通孔31と、ピニオンシャフト13の一端部に設けた第2貫通孔32と、キャリア104(より具体的にはキャリアアーム部104aのフランジ部105)に設けた第3貫通孔33と、第1貫通孔31に対応して第2ケース半体11Bの側壁部15′の内側面に設けた凹部40と、に跨がるように嵌合している。而して、第1〜第3貫通孔31〜33及び凹部40は、互いに略等径に形成され、デフケース10の回転軸線Lに沿って同一軸線上に並ぶように配置される。尚、第3貫通孔33は、複数あるキャリアアーム部104aのうちの少なくとも1つに設けられる。
連結ピン30は、本発明の連結部材の一例である。本実施形態では連結ピン30は軸方向全域に亘り一様等径の円柱状又は円筒状のピンで構成される。そして、連結ピン30は、第1〜第3貫通孔31〜33に対しては抜差可能に嵌合する一方、凹部40に対しては圧入して、凹部40に固定される。上記圧入によれば、第1,第2ケース半体11A,11B相互の結合状態では連結ピン30はデフケース11からの抜け出しが阻止される。また第1,第2ケース半体11A,11B相互を分離したときは、第2ケース半体11Bに固定された連結ピン30は、キャリア104、第1ケース半体11A及びピニオンシャフト13より引き抜き可能である。
尚、本実施形態では、ピニオンシャフト13を直線棒状のピニオンシャフト13の両端部に2個のピニオンギヤ12をそれぞれ支持させるようにしたものを示したが、本発明はこれに限らない。本発明では、差動装置10はピニオンギヤ12を3個以上設けてもよい。その場合には、例えば複数のピニオンギヤ12の各々に専用のピニオンシャフト13が設けられ、ピニオンシャフト13毎に連結ピン30が個別に設けられる。
またピニオンギヤ12は、ピニオンシャフト13に直接嵌合させてもよいし、軸受ブッシュ等の軸受手段を介して嵌合させてもよい。尚、ピニオンシャフト13は、実施形態では全長に亘り略一様等径の軸状としたが、段付き軸状に構成してもよい。またピニオンシャフト13は、外周面に潤滑油を流通させる切欠き面又は油溝を形成してもよい。
またピニオンギヤ12及びサイドギヤ14,14′は、例えば、ベベルギヤに形成される。また、ピニオンギヤ12及びサイドギヤ14,14′は、例えば、ピニオンギヤ12及びサイドギヤ14,14′の歯部を含む全体が各々鍛造等の塑性加工で形成されている。そのため、ピニオンギヤ12及びサイドギヤ14,14′の歯部を切削加工する場合のような機械加工上の制約を受けることなく歯部を任意の歯数比を以て高精度に形成可能である。尚、ピニオンギヤ12及びサイドギヤ14,14′としては、ベベルギヤに代えて他のギヤを採用してもよく、例えばサイドギヤ14,14′をフェースギヤとし且つピニオンギヤ12を平歯車又は斜歯歯車としてもよい。
また、一対のサイドギヤ14,14′は、例えば、一対の出力軸21,22の内端部がそれぞれスプライン嵌合にされる円筒状の軸部14j,14j′と、軸部14j,14j′から径方向外方に離れた位置に在ってピニオンギヤ12に噛合する歯面を有する円環状の歯部14g,14g′と、軸部14j,14j′の内端部から歯部14g,14g′の内周端部に向かって径方向外方に延びる扁平なリング板状に形成される中間壁部14m,14m′と、を一体に備える。
また、歯部14g,14g′の背面と対応する第1,第2ケース半体11A,11Bの側壁部15,15′との間にはスラストワッシャ(ワッシャ)41が介装される。またピニオンギヤ12の歯部の背面と対応する第1ケース半体11Aの筒部16の内面との間にもスラストワッシャ(ワッシャ)42が介装される。 また、左右少なくとも一方のサイドギヤ14,14′の中間壁部14m,14m′には、潤滑油が流通可能な複数の貫通油路43が間隔をおいて形成される。尚、少なくとも一方のケース半体11A,11Bにも潤滑油が流通可能な貫通油路を設けてもよい。
次に、第1実施形態の作用について説明する。本実施形態の差動装置10は、エンジンから遊星歯車機構100を介してデフケース11に回転力を受けた場合に、ピニオンギヤ12がピニオンシャフト13回りに自転しないで、デフケース11と共にデフケース11の回転軸線L回りに公転するときは、デフケース11からピニオンギヤ12を介して左右のサイドギヤ14,14′が同速度で回転駆動されて、サイドギヤ14,14′の駆動力が均等に左右の出力軸21,22に伝達される。また、自動車の旋回走行等により左右の出力軸21,22に回転速度差が生じるときは、ピニオンギヤ12が自転しつつデフケース11の回転軸線L回りに公転することで、ピニオンギヤ12から左右のサイドギヤ14,14′に対して差動回転を許容しつつ回転駆動力が伝達される。以上は、従来周知の差動装置の作動と同様である。
ところで本実施形態の差動装置10を組立てる場合には、先ず、遊星歯車機構100の遊星ギヤ103及び枢軸106を予め仮組みしたキャリア104を、第1ケース半体11Aに対し位置決めした状態で溶接wする。
第1ケース半体11Aに対するキャリア104の位置決めには、径方向の位置決めと周方向の位置決めとがある。特に径方向の位置決めは、第1ケース半体11Aの突起部15bを各キャリア104(より具体的にはキャリアアーム部104a)の内端部に係合させることで行われる。また周方向の位置決めは、連結ピン30を第1ケース半体11Aの第1貫通孔31及びキャリア104の第3貫通孔33に跨がるようにして、連結ピン30を第1貫通孔31及び第3貫通孔33に嵌合させることで、容易且つ的確に行われる。
そして、上記の位置決めと並行して、キャリアアーム部104aの端部(より具体的にはフランジ部105)を第1ケース半体11Aの側壁部15の段部15cに当接させ、キャリアアーム部104aの端部と第1ケース半体11Aの側壁部15の段部15cとの当接部を溶接する。溶接作業は、例えば、図4に鎖線で示すように第1ケース半体11Aの径方向外方側に配備される溶接用レーザトーチTからキャリアアーム部104aの端部と段部15cとの当接部の径方向外端に向けて溶接用のレーザを照射しながら、第1ケース半体11A及びレーザトーチTの何れか一方(例えばレーザトーチT)を何れか他方(例えば第1ケース半体11A)に対し、デフケース11の回転軸線L回りに緩やかに相対回転させることで行われる。
これにより、レーザのエネルギを以て、第1ケース半体11Aの段部15cとキャリアアーム部104aのフランジ部105との当接部(特に外周端に近い部位)を溶接wして結合一体化することができる。尚、上記溶接作業に際しては、第1ケース半体11Aの、周方向で連結ピン30に近い領域に対しレーザ照射の影響が及ばないように、連結ピン30に近い領域を避けて溶接してもよい。
そして、溶接作業の終了後は、連結ピン30を第1ケース半体11Aより引き抜く。次いで、キャリア104を下側、第1ケース半体11Aの筒部16を上側とするように、一体化されたキャリア104と第1ケース半体11Aを置く。さらに、スラストワッシャ41を第1ケース半体11Aの側壁部15の対応する位置に配置する。さらに、第1ケース半体11A内に、ピニオンギヤ12及び一対のサイドギヤ14,14′を噛合状態で仮組みする。このとき、スラストワッシャ41がサイドギヤ14の歯部14gの背面に位置するように調整する。更にスラストワッシャ42をピニオンギヤ12の背面と第1ケース半体11Aの筒部16との間に位置するように配置する。そして、ピニオンシャフト13を第1ケース半体11A、スラストワッシャ42及びピニオンギヤ12に挿通させる。このとき、ピニオンシャフト13に設けられた第2貫通孔32が第1ケース半体11Aの第1貫通孔31と同一軸線上に並ぶように調整する。さらに、スラストワッシャ41をサイドギヤ14′の歯部14g′の背面に位置するように配置する。
一方、第2ケース半体11Bの凹部40には、先に第1ケース半体11Aより引き抜いた連結ピン30の一端部が圧入される。これにより、先に連結ピン30を第2ケース半体11Bに固定しておく。そして、連結ピン30を固定した第2ケース半体11Bを第1ケース半体11A(より具体的には筒部16)の開口端に当接させる。そして、連結ピン30を第1ケース半体11Aの第1貫通孔31、ピニオンシャフト13の第2貫通孔32及びキャリア104の第3貫通孔33に嵌挿させる。その後、第2ケース半体11Bを第1ケース半体11Aにボルト18で締結する。これにより、差動装置10の組立作業が終了する。
本実施形態では、第1ケース半体11A(より具体的には筒部16)に設けた第1貫通孔31と、ピニオンシャフト13に設けた第2貫通孔32と、キャリア104(より具体的にはキャリアアーム部104aのフランジ部105)に設けた第3貫通孔33と、第2ケース半体11B(より具体的には側壁部15′)の内側面に設けた凹部40とが、略等径である上、差動装置10の組立状態で同一軸線上に並んでいて、単一の連結ピン30が第1〜第3貫通孔31〜33及び凹部40に跨がるように嵌合する。
これにより、デフケース11及びピニオンシャフト13間の連結手段として機能する連結ピン30が、キャリア104の、第1ケース半体11Aに対する位置決め手段に兼用可能となる。そのため、従来と比べ差動装置10の部品点数を削減でき、差動装置10の構造簡素化及びコスト節減を図ることができる。また第1実施形態の連結ピン30は、第1〜第3貫通孔31〜33のみならず凹部40にも嵌合(本実施形態では圧入)しているため、キャリア104及び第1ケース半体11A相互の位置決め手段のみならず、第1,第2ケース半体11A,11B相互の位置決め手段にも兼用可能となる。そのため、差動装置10の更なる構造簡素化及びコスト節減が図られる。
また、本実施形態においては、サイドギヤ14,14′は、内周側の軸部14j,14j′と外周側の歯部14g,14g′との間を繋ぐ扁平なリング板状の中間壁部14m,14m′の径方向幅t1が、ピニオンギヤ12の最大直径d1よりも長く設定されている。これにより、サイドギヤ14,14′の歯数Z1をピニオンギヤ12の歯数Z2よりも十分大きく設定し得るようにサイドギヤ14,14′をピニオンギヤ12に対し十分大径化できる。そのため、ピニオンギヤ12からサイドギヤ14,14′へのトルク伝達時におけるピニオンシャフト13の荷重負担を軽減できる。従って、ピニオンシャフト13の有効直径d2の小径化、延いてはピニオンギヤ12の、出力軸21,22の軸方向での幅狭化(小径化)を図ることができる。
しかも本実施形態においては、サイドギヤ14,14′の中間壁部14m,14m′の最大肉厚t2が、小径化を可能としたピニオンシャフト13の有効直径d2よりも小さくなるよう形成されている。これにより、サイドギヤ14,14′の中間壁部14m,14m′の更なる薄肉化が達成可能となる。その上、本実施形態では、第1,第2ケース半体11A,11Bの側壁部15,15′が扁平な板状に形成されることで、側壁部15,15′自体の薄肉化も達成される。
それらの結果、本実施形態によれば、差動装置10は、従来装置と同程度の強度(例えば静ねじり荷重強度)や最大トルク伝達量を確保しながら、全体として軸方向で十分に幅狭化することが可能となる。そのため、差動装置10の周辺のレイアウト上の制約が多い伝動系に対しても、差動装置10を高い自由度を以て無理なく容易に組込み可能となる。また差動装置10の伝動系を小型化する上で頗る有利となる。
次に、本発明の第2実施形態を図5及び図6を参照して説明する。
第1実施形態では、第1ケース半体11A(より具体的には筒部16)の第1貫通孔31と、ピニオンシャフト13の第2貫通孔32と、キャリア104(より具体的にはキャリアアーム部104aのフランジ部105)の第3貫通孔33とが、略等径に形成されて差動装置10の組立状態で同一軸線上に並ぶようにし、第1〜第3貫通孔31〜33と、第2ケース半体11Bの側壁部15′の内側面に設けた凹部40とに各部等径の連結ピン30を嵌合させたものを示した。これに対し、第2実施形態では、第1,第2貫通孔231,232が略等径且つ第3貫通孔233よりも大径に形成されると共に、第2ケース半体211Bの側壁部215′には第1実施形態の凹部40に代えて第4貫通孔234が設けられ、第4貫通孔234は、第1,第2貫通孔231,232に対し略同径又は小径(第2実施形態では第1貫通孔231と同径)であり且つ第3貫通孔233よりも大径である。
そして、差動装置210の組立状態で、第1〜第4貫通孔231〜234は、サイドギヤ14,14′の径方向での外周端231e〜234eがデフケース211の回転軸線Lと平行な同一直線250上に位置するように、比較的大径の第1,第2及び第4貫通孔231,232,234の軸線に対し第3貫通孔233の軸線が、サイドギヤ14,14′の径方向外方側(ピニオンシャフト13の長手方向で外方側)にオフセット配置される。しかも差動装置210の組立状態で、各部等径の連結ピン(連結部材)230が第1,第2及び第4貫通孔231,232,234に跨がって嵌合する。
また特に第1貫通孔231の一部(本実施形態では第2貫通孔232よりもキャリア204側の孔部分)は、第2及び第4貫通孔232,234よりも僅かに小径に形成される(即ち連結ピン230に対し所定の締代が設定される)。これにより、連結ピン230は、第2及び第4貫通孔232,234並びに第1貫通孔231の他部(即ち第2貫通孔232よりも第2ケース半体211B側の孔部分)に対してはスムーズに摺動可能な嵌合状態である。しかし、第1貫通孔231の一部に対しては連結ピン230は圧入され、かくして、連結ピン230は第1ケース半体211Aに固定される。そのため、圧入後は、連結ピン230が第1ケース半体211Aから妄りに抜け出さないようになっている。
第2実施形態のその他の構成は、第1実施形態と基本的に同じである。そのため、第2実施形態のその他の構成要素については、第1実施形態の対応する構成要素と同様の参照符号を付記して第1実施形態を参照することとし、それ以上の具体的な説明は省略する。
第2実施形態においても、差動装置210を組立てる場合には、先ず、遊星歯車機構200の遊星ギヤ103及び枢軸106を予め仮組みしたキャリア204を、第1ケース半体211Aに対し位置決めした状態で溶接wして結合一体化する。
第1ケース半体211Aに対するキャリア204の位置決めのうち、径方向の位置決めについては第1実施形態と同様に行われる。また周方向の位置決めについては、キャリア204の第3貫通孔233に対し摺動可能に嵌挿し得る(従って連結ピン230よりも小径の)各部等径のノックピン251が、位置決め部材として使用される。即ち、図6に示すようにノックピン251を、第1ケース半体211Aの第1貫通孔231及びキャリア204の第3貫通孔233に跨がらせて嵌合させると、第1貫通孔231の外周端231e及び第3貫通孔233の外周端233eが、ノックピン251の位置決め作用により同一直線250上に揃うようになる。これにより、第1ケース半体11Aに対しキャリア204が周方向に容易且つ的確に位置決め可能である。
そして、上記位置決めの作業と並行して、キャリアアーム部204aの端部(より具体的にはフランジ部205)を第1ケース半体211Aの段部15cに当接させ、キャリアアーム部204aの端部と段部15cとの当接部を第1実施形態と同様にして溶接wし、結合一体化する。
そして、溶接作業の終了後は、ノックピン251を第1ケース半体211A及びキャリア204より引き抜く。次いで、キャリア204を下側、第1ケース半体211Aの筒部216を上側とするように、一体化されたキャリア204と第1ケース半体211Aを置く。さらに、スラストワッシャ41を第1ケース半体211Aの側壁部215の対応する位置に配置する。さらに、第1ケース半体211A内に、ピニオンギヤ12及び一対のサイドギヤ14,14′を噛合状態で仮組みする。このとき、スラストワッシャ41がサイドギヤ14の歯部14gの背面に位置するように調整する。更に、スラストワッシャ42をピニオンギヤ12の背面と第1ケース半体211Aの筒部216との間に位置するように配置する。そして、ピニオンシャフト13を第1ケース半体211A、スラストワッシャ42及びピニオンギヤ12に挿通させる。このときピニオンシャフト13に設けられた第2貫通孔232が第1ケース半体211Aの第1貫通孔231と同一軸線上に並ぶように調整する。
しかる後に、連結ピン230を、キャリア204とは反対側(図5で右方)から第1貫通孔231及び第2貫通孔232に嵌挿させると共に、特に第1貫通孔231の一部(キャリア204側の孔部分)に対しては連結ピン230の内端部を圧入する。これにより、連結ピン230を第1ケース半体211A(より具体的には筒部216)に固定する。その後、スラストワッシャ41をサイドギヤ14′の歯部14g′の背面に位置するように配置する。そして、第2ケース半体211Bを第1ケース半体211A(より具体的には筒部216)の開口端に当接させると共に、連結ピン230の外端部を第2ケース半体211Bの第4貫通孔234に嵌挿させる。しかる後に、第2ケース半体211Bを第1ケース半体211Aにボルト18で締結する。これにより、差動装置210の組立作業が終了する。
第2実施形態によれば、少なくとも第1,第3貫通孔231,233に位置決め部材としてのノックピン251を挿通させることで、第1ケース半体211Aに対するキャリア204の周方向での位置決めが可能となる。そして、ノックピン251による位置決め後はキャリア204を第1ケース半体211Aに結合(例えば溶接w)してからノックピン251を抜き取る。しかる後に、キャリア204とは反対側から連結ピン230を第1,第2貫通孔231,232に跨がって嵌挿させることで、第1ケース半体211A及びピニオンシャフト13を相互に連結することができる。
かくして、位置決め部材としてのノックピン251は、1つの製品(即ち差動装置210)の組立に使用した後も次の製品の組立に再利用可能となって、製品1台毎に専用とする必要はなくなる。これにより、製造コストの節減が図られる。また第2実施形態の連結ピン230は、第1,第2貫通孔231,232のみならず第4貫通孔234にも嵌合することで、第1ケース半体211A及びピニオンシャフト13相互の連結手段のみならず、第1,第2ケース半体211A,211B相互の位置決め手段にも兼用可能である。また、第1貫通孔231は、ピニオンシャフト13に対する連結支持孔と、キャリア204に対する位置決め孔とに兼用されるのみならず、第2ケース半体211Bに対する位置決め孔にも兼用可能である。これにより、差動装置210の部品点数を削減でき、差動装置210の構造簡素化及びコスト節減が図られる。
次に、本発明の第3実施形態を図7を用いて説明する。
第2実施形態では、第2ケース半体211Bに第4貫通孔234を設けて連結ピン230を嵌合させるようにしたものを示したが、第3実施形態の第2ケース半体311Bは、第4貫通孔234を省略し、差動装置310の組立状態で側壁部315′の内面に連結ピン330の外端を当接させることで、連結ピン(連結部材)330を抜け止めしている。従って、第3実施形態では、連結ピン330を抜け止めするために連結ピン330を第1貫通孔331に圧入する必要はなくなる。即ち第1貫通孔331に連結ピン330が摺動可能に嵌合される。
第3実施形態のその他の構成は、第2実施形態と基本的に同じである。そのため、第3実施形態のその他の構成要素については、第2実施形態の対応する構成要素と同様の参照符号を付記して第2実施形態を参照することとし、それ以上の具体的な説明は省略する。
而して、第3実施形態では、第2ケース半体311Bにおいて第4貫通孔234が省略されるため、連結ピン330による第1,第2ケース半体311A,311B相互の位置決め作用は期待できないが、その他の作用効果は、第2実施形態と基本的に同じである。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
例えば、上述した実施形態では、差動装置10,210,310は、左右車軸の回転速度差を許容するものであったが、前後輪の回転速度差を許容するセンターデフにも本発明の差動装置を実施可能である。
また上述した実施形態では、キャリア104,204を入力部材としてのデフケース11,211、311の第1ケース半体11A,211A,311Aに対し位置決めの上、溶接wにより結合一体化するものを示したが、本発明はこれに限らない。本発明では、溶接以外の種々の結合手段(例えばボルト止め、カシメ、接着等)によりキャリア104,204を第1ケース半体11A,211A,311Aに結合一体化してもよい。
また上述した実施形態では、キャリア104,204を入力部材としてのデフケース11,211A,311Aの第1ケース半体11A,211A,311Aに対し溶接wするに当たり、キャリアアーム部104a,204aの先端部にフランジ部105,205を一体に突設する一方、フランジ部105,205を受容する窪み状の段部15cを第1ケース半体11A,211A,311Aの側壁部15,215,315の外側面に設け、フランジ部105,205及び段部15cを当接させて溶接wするものを示したが、本発明はこれに限らない。本発明は、例えばフランジ部105,205及び段部15cの少なくとも一方を省略して、キャリアアーム部104a,204aと第1ケース半体11A,211A,311Aとの平坦な相対向面相互を溶接するようにしてもよい。
また上述した第1実施形態では、第2の入力部材要素としての第2ケース半体11Bに、第1貫通孔31に対応した凹部40を設けて、連結ピン30の外端を凹部40に圧入し、連結ピン30を第2ケース半体11Bに固定するようにしたものを示したが、本発明はこれに限らない。本発明では、第1実施形態の第1変形例として、例えば凹部40に代えて、第2実施形態の如く第4貫通孔234を第2ケース半体11Bに設ける構造も実施可能である。或いは、第1実施形態の第2変形例として、例えば凹部40や第4貫通孔234を省略して、第3実施形態のように第2ケース半体11Bの側壁部15′の平坦な内側面に連結ピン30の外端を当接させるようにしてもよい。
尚、第1実施形態の上記第1,第2変形例においては、連結ピン30のキャリア104側への抜け止めのために、連結ピン30を例えば第2実施形態のように第1ケース半体11Aの第1貫通孔31に圧入し、連結ピン30を第1ケース半体11Aに固定してもよい。その場合には、連結ピン30を第1ケース半体11Aに圧入する前に少なくともサイドギヤ14,14′、ピニオンギヤ12及びピニオンシャフト13が第1ケース半体11A内に仮組みされる。また、特に第1実施形態の上記第1変形例においては、連結ピン30の抜け止めのために連結ピン30を第4貫通孔234に圧入し、連結ピン30を第2ケース半体211Bに固定することも可能である。その場合は、連結ピン30を第1貫通孔31に圧入する必要はない。
また上述した第1実施形態では、連結ピン30を各部等径のピンで構成し、且つ第1〜第3貫通孔31〜33及び凹部40も略等径としたものを示したが、本発明はこれに限らない。本発明では第1実施形態の第3変形例として、例えば第3貫通孔33及び凹部40を第1,第2貫通孔31,32よりも小径とし、且つ連結ピン30を、両端部(即ち第3貫通孔33及び凹部40に嵌合する部分)が中間部(即ち第1,第2貫通孔31,32に嵌合する部分)よりも小径の段付きピンとした構造も実施可能である。このように連結ピン30を段付きピンとした場合には、連結ピン30を第1,第4貫通孔31,34又は凹部40に圧入させなくても連結ピン30の抜け止めが可能となる。
また上述した第2実施形態では、差動装置210の組立状態で、第1〜第4貫通孔231〜234の、サイドギヤ14,14′の径方向での外周端231e〜234eがデフケース211の回転軸線Lと平行な同一直線250上に位置するように、大径の第1,第2及び第4貫通孔231,232,234の軸線に対し第3貫通孔233の軸線が、サイドギヤ14,14′の径方向(ピニオンシャフト13の長手方向)で外方側にオフセット配置されるものを示したが、本発明はこれに限らない。本発明は、第2実施形態の第1変形例として、例えば、差動装置210の組立状態で、第1〜第4貫通孔231〜234の、サイドギヤ14,14′の径方向での内周端がデフケース211の回転軸線Lと平行な同一直線上に位置するように、大径の第1,第2及び第4貫通孔231,232,234の軸線に対し第3貫通孔233の軸線を、サイドギヤ14,14′の径方向(ピニオンシャフト13の長手方向)で内方側にオフセット配置する構造も実施可能である。
更に上述の第2実施形態の第2変形例として、第2ケース半体211Bにおいて第4貫通孔234に代えて、第4貫通孔234と同径の凹部(即ち第1実施形態の凹部40と同様の凹部)を設け、該凹部に連結ピン230の外端部を嵌合し、或いは圧入するようにしてもよい。
また、上述の第3実施形態の変形例として、第2実施形態の上記第1変形例と同様に、差動装置310の組立状態で、第1〜第3貫通孔331,232,233の、サイドギヤ14,14′の径方向での内周端がデフケース311の回転軸線Lと平行な同一直線上に位置するように、大径の第1,第2貫通孔331,232の軸線に対し第3貫通孔233の軸線を、サイドギヤ14,14′の径方向(ピニオンシャフト13の長手方向)で内方側にオフセット配置する構造も実施可能である。