以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
図1には、本発明の実施例1である光学シフト装置としての光学防振装置100の回路構成を示している。本実施例の光学防振装置100は、カメラや交換レンズ等の光学機器に搭載される。光学防振装置100は、比較部110、演算部120、駆動部130、補正部140および検出部150を有する。
比較部110は、後述する可動部材142の目標位置と検出位置との差異を出力する。演算部120は、比較部110の出力に基づいてゲインを演算するゲイン演算部120gと、検出位置に基づいて後述するコイルに流す電流値の比を演算する関数演算部120fとを有し、コイルに通電する電流値を出力する。
駆動部130は、演算部120の出力に基づいてコイルへの通電を行う。駆動部130は、可動部材142を2つのシフト方向(第1方向)のうちピッチ方向に駆動する第1および第2コイル駆動回路を含むピッチ駆動部130pを有する。また、駆動部130は、可動部材142をもう1つのシフト方向であるヨー方向に駆動する第3および第4コイル駆動回路を含むヨー駆動部130yとを有する。
補正部140は、駆動部130からの通電によって防振動作を行う。補正部140は、第1ピッチコイル146pと第2ピッチコイル148pを有するピッチ補正部140pと、第1ヨーコイル146yと第2ヨーコイル148yを有するヨー補正部140yとを有する。これらコイルとマグネットにより、ボイスコイルモータ(VCM)が構成される。
検出部150は、ピッチ検出部150pとヨー検出部150yを有し、可動部材142のピッチ方向およびヨー方向での位置を検出する。
図2(a),(b)には、光学防振装置100の機械的構成を示す。図2(a)は光軸方向(これについては後述する)から見た光学防振装置100の構成を、図2(b)は図2(a)中のI−I線での断面を示す。図3(a),(b)には、光学防振装置100の補正部140を構成するコイルとマグネットをのみを示している。図3(a)は光軸方向から見たコイルとマグネットを、図3(b)は図3(a)中のII−II線での断面(ヨー方向から見た断面)を示す。
図2(a)に示す電気基板部101は、比較部110、演算部120および駆動部130の処理を行う回路を有する回路基板である。該回路基板には、不図示の配線によって第1ピッチコイル146p、第2ピッチコイル148p、第1ヨーコイル146y、第2ヨーコイル148y、ピッチ検出部150pおよびヨー検出部150yが接続されている。なお、第1ピッチコイル146pと第1ヨーコイル146yがそれぞれ第1コイルに相当し、第2ピッチコイル148pと第2ヨーコイル148yがそれぞれ第2コイルに相当する。
図2(a)において、レンズにより構成されるシフト素子としての光学素子141は、後述する可動部材142がその可動範囲の中心(ピッチおよびヨー方向の中心)に位置する中立状態から該光学素子141の光軸Oaに対して直交する方向に移動(シフト)する。手振れ等による光学機器の振れに応じて光学素子141をシフトさせることで、該光学素子141を通過する光により形成される光学像の振れを低減する防振(像振れ補正)効果を得ることができる。
なお、本実施例ではシフト素子として光学素子141を用いるが、光学像の光電変換を行うCMOSセンサ等の撮像素子をシフト素子として用いてもよい。
また、前述した光軸方向(第2方向)は、光学素子141の光軸Oaが延びる方向に相当し、シフト方向、すなわち互いに直交するピッチ方向およびヨー方向は光軸Oa(光軸方向)に対して直交する方向である。さらに、本実施例において、シフト方向のうち可動範囲の中心から離れる側を外側といい、該中心に近づく側を内側という。
図2(a)において、可動部材142は、その中央部に光学素子141を保持する筒状の保持部を有する。図2(b)に示すように、可動部材142のうち後述する転動ボール144aに当接する側の面には、光軸Oaに直交する平面状のボール受け部142aが光軸Oaを中心する周方向の3箇所に形成されている。また、可動部材142の外周部には、ばね掛け部142bが周方向4箇所に形成されている。
図2(a)において、ベース部材143は、円盤状に形成され、転動ボール144aを介して可動部材142をシフト方向に移動可能に支持する。図2(b)に示すように、ベース部材143のうち可動部材142に面する側の面には、光軸Oaに直交する平面状のボール受け部143aが周方向3箇所に形成されている。また、ベース部材143における外周部よりも内側であってボール受け部143aよりも外側には、ばね掛け部143bが周方向4箇所に形成されている。さらに、ベース部材143における外周部よりも内側であってボール受け部143aよりも外側には、周方向に環状に延びるストッパ部材143cが形成されている。可動部材142が大きくシフトしてストッパ部材143cに当接することで、それ以上の可動部材142のシフトが阻止される。可動部材142がピッチ方向およびヨー方向のそれぞれにおける一方の側にシフトしてストッパ部材143cに当接する位置から他方の側にシフトしてストッパ部材143cに当接する位置までの範囲が可動部材142の可動範囲である。
図2(b)おいて、支持部144は、ベース部材143に対して可動部材142をピッチ方向およびヨー方向に移動可能(シフト可能)に支持する。支持部144は、前述したボール受け部142a、ボール受け部143aおよび転動ボール144aにより構成される。支持部材としての転動ボール144aは、セラミックや金属からなる球体であり、それぞれ周方向3箇所に設けられたボール受け部142aとボール受け部143aとの間に位置するように周方向3箇所に配置されている。転動ボール144aがボール受け部142a,143aの間に挟まれながら転動することで、可動部材142を、ベース部材143に対して光軸方向に位置決めつつ滑らかにピッチ方向およびヨー方向にシフトさせることができる。
周方向4箇所に設けられた付勢部145はそれぞれ、ステンレス製のコイルばね等の引張りばね(付勢部材)145aと、その両端が掛けられる前述したばね掛け部142b,143bにより構成される。引張りばね145aは、可動部材142(ボール受け部142a)を転動ボール144aに当接させ、さらに転動ボール144aをベース部材143(ボール受け部143a)に当接させるように可動部材142をベース部材143に向けて付勢する。なお、可動部材142が可動範囲の中心からシフトした際に、引張りばね145aは該可動部材142を可動範囲の中心に戻す方向への付勢力(つまりはシフト抗力)を作用させる。そして、可動部材142のシフト量が大きいほど引張りばね145aのシフト抗力が大きくなる。
付勢部145の構成は、引張りばね145aを用いるものに限らない。すなわち、可動部材142とベース部材143との間に互いに吸着する方向に作用する磁力を発生する磁石を用いる等、可動部材142とベース部材143を転動ボール144aに当接させる付勢力を発生する構成であればよい。また、転動ボール144aと引張りばね145aの材料や引張りばね145aのばね定数については任意に選択することができる。
図3(a)に示すように、第1ピッチコイル146pは、光軸方向から見て2つの直線部とそれらの長手方向両側に設けられた円弧部とを有する楕円状に巻回された導線からなる巻き線コイルであり、ベース部材143により保持されている。第1ピッチコイル146pは、図3(b)に示すように、その厚み方向(光軸方向)の端面146paが後述するように可動部材142により保持されたピッチマグネット147pに対向している。第1ピッチコイル146pのピッチ方向での中心を、以下、第1ピッチコイル中心146pbという。
第2ピッチコイル148pも、光軸方向から見て2つの直線部とそれらの長手方向両側に設けられた円弧部とを有する楕円状に巻回された導線からなる巻き線コイルであり、ベース部材143により保持されている。第2ピッチコイル148pのピッチ方向での中心を、以下、第2ピッチコイル中心148pbという。ここで、第2ピッチコイル148pは、第1ピッチコイル146pとベース部材143との間に配置されている。そして、第1および第2ピッチコイル146p,148pは、ピッチ方向において互いにずれて光軸方向にて重なるように配置されている。これにより、第2ピッチコイル148pの厚み方向の端面148paのうち第1ピッチコイル146pに重ならない部分は直接、第1ピッチコイル146pに重なる部分は該第1ピッチコイル146pを間に挟んで、ピッチマグネット147pに対向する。このように、第1および第2ピッチコイル146p,148pは、ピッチマグネット147pの同一面(対向面)に対向する。
ピッチマグネット147pは、前述したように第1および第2ピッチコイル146pに対向するように可動部材142に保持されている。ピッチマグネット147pにおける第1および第2ピッチコイル146p,148pとの対向面147paの法線方向が着磁方向であり、着磁境界面147pbを挟んだ両側にN極部(第1極部)147pnとS極部(第2極部)147psとが設けられている。本実施例では、光軸Oaから遠い側にN極部147pnを、光軸Oaに近い側にS極部147psを設けている。着磁境界面147pbは、第1ピッチコイル146pの長手方向(ヨー方向)に平行に延びている。また、ピッチマグネット147pのうち光学素子141から最も離れた面を外端面147pcとする。
本実施例では、図2(a),(b)および図3(a),(b)に示す中立状態において、第1ピッチコイル中心146pbがピッチマグネット147pの着磁境界面147pbよりも後述する所定のずれ量だけピッチ方向の外側にずれて位置する。また、第2ピッチコイル中心148pbが、ピッチマグネット147pの着磁境界面147pbよりも上記ずれ量だけピッチ方向の内側にずれて位置する。つまり、ピッチ方向において、第1および第2ピッチコイル中心146pa,148pbがそれぞれ、ピッチマグネット147pの着磁境界面147pbに対して外側と内側のうち互いに異なる側にずれて位置する。このことによる効果については、後述する。
ピッチ検出素子151pは、これに対向するピッチマグネット147pの位置の変化に応じた磁気の変化を電気信号に変換するホールセンサであり、ホルダ等を介してベース部材143に固定されている。ピッチ検出素子151pからの電気信号(ピッチ位置検出信号)は、電気基板部101に入力される。
ヨー補正部140yとヨー検出部150yはそれぞれ、ピッチ補正部140pとピッチ検出部150pに対して光軸Oaと直交する面(以下、シフト面という)内で互いに直交する向きで配置されている。
図2(a)および図3(a)に示す第1ヨーコイル146yも、光軸方向から見て2つの直線部とそれらの長手方向両側に設けられた円弧部とを有する楕円状に巻回された導線からなる巻き線コイルであり、ベース部材143により保持されている。第1ヨーコイル146yは、その厚み方向の端面が後述するように可動部材142により保持されたヨーマグネット147yに対向している。第1ヨーコイル146yのヨー方向での中心を、以下、第1ヨーコイル中心146ybという。
第2ヨーコイル148yも、光軸方向から見て2つの直線部とそれらの長手方向両側に設けられた円弧部とを有する楕円状に巻回された導線からなる巻き線コイルであり、ベース部材143により保持されている。第2ヨーコイル148yのヨー方向での中心を、以下、第2ヨーコイル中心148ybという。ここで、第2ヨーコイル148yは、第1ヨーコイル146yとベース部材143との間に配置されている。そして、第1および第2ヨーコイル146y,148yは、ヨー方向における互い異なる側にずれて光軸方向にて重なるように配置されている。これにより、第2ヨーコイル148yの厚み方向の端面のうち第1ヨーコイル146yに重ならない部分は直接、第1ヨーコイル146yに重なる部分は該第1ヨーコイル146yを間に挟んで、ヨーマグネット147yに対向する。このように、第1および第2ヨーコイル146y,148yは、ヨーマグネット147yの同一面(対向面)に対向する。
ヨーマグネット147yは、前述したように第1および第2ヨーコイル146yに対向するように可動部材142に保持されている。ヨーマグネット147yにおける第1および第2ヨーコイル146y,148yとの対向面の法線方向が着磁方向であり、着磁境界面147ybを挟んだ両側にN極部147ynとS極部147ysとが設けられている。本実施例では、光軸Oaから遠い側にN極部147ynを、光軸Oaに近い側にS極部147ysを設けている。着磁境界面147ybは、第1ヨーコイル146yの長手方向(ピッチ方向)に平行に延びている。また、ヨーマグネット147yのうち光学素子141から最も離れた面を外端面147ycとする。
本実施例では、図2(a)および図3(a)に示す中立状態において、第1ヨーコイル中心146ybがヨーマグネット147yの着磁境界面147ybよりも後述する所定のずれ量だけヨー方向の外側にずれて位置する。また、第2ヨーコイル中心148ybが、ヨーマグネット147yの着磁境界面147ybよりも上記ずれ量だけヨー方向の内側にずれて位置する。つまり、ヨー方向において、第1および第2ヨーコイル中心146ya,148ybがそれぞれ、ヨーマグネット147yの着磁境界面147ybに対して外側と内側のうち互いに異なる側にずれて位置する。このことによる効果については、後述する。
本実施例では、各コイルおよび各マグネットは可動部材142がその可動範囲でシフトしても互いに干渉しない位置であって、光学防振装置100のシフト方向での大きさ(直径)が可能な限り小さくなるように光学素子141に近い位置に配置されている。
ヨー検出素子151pは、これに対向するヨーマグネット147yの位置の変化に応じた磁気の変化を電気信号に変換するホールセンサであり、ホルダ等を介してベース部材143に固定されている。ヨー検出素子151yからの電気信号(ヨー位置検出信号)は、電気基板部101に入力される。
以下、本実施例の説明を続けるが、光学防振装置100はピッチ方向とヨー方向とで基本的に構成が同じであるため、ピッチ方向についてのみ説明する。
次に、支持部144と付勢部145の配置について図4を用いて説明する。図4には、ベース部材143、ピッチマグネット147p、支持部144および付勢部145のみを示している。支持部144のうち光軸Oaから最も離れた点を点Aとし、付勢部145のうち光軸Oaから最も離れた点を点Bとする。また、光学素子の中心点Oを中心として、点Aを通る円、点Bを通る円およびピッチマグネット147pの外端面147pcとに接する円の半径をそれぞれ、Da,DbおよびDcとする。本実施例では、Da<DcおよびDb<Dcが成り立つようにピッチマグネット147p、支持部144および付勢部145を配置している。したがって、光軸方向から見た場合に、支持部144の転動ボール144aと付勢部145の引張りばね145aとがピッチマグネット147pの外端面147pcよりも光軸Oaの近くに配置されている。このようにピッチマグネット147pが光学素子141に近い位置に配置されているため、光学防振装置100の径方向の大きさを小さく抑えることができる。
次に、図5(a)〜(c)を用いて、補正部140の動作について説明する。図5(a)〜(c)には、ピッチマグネット147pのそれぞれの第1および第2ピッチコイル146p,148pに対するシフト方向(ピッチ方向)での所定のずれ量をともに同じdとしたときの補正部140のヨー方向から見た断面を示す。これらの図では、ストッパ部材143cによる可動部材142の可動範囲の制限をなくしている。
図5(a)では、可動部材142が可動範囲の中心に位置する中立状態を示す。第1および第2ピッチコイル146p,148pにはそれぞれ、コイル−マグネット間の電磁気作用により発生するローレンツ力のうち可動部材142のシフト方向の成分の向きが互いに同じになるように、互いに逆向きの+J1方向と+J2方向に電流が流れている。ピッチマグネット147pと第1ピッチコイル146pとの間に発生するローレンツ力をF1aとし、マグネット147pと第2ピッチコイル148pとの間に発生するローレンツ力をF2aとする。F1aのシフト方向の成分(以下、シフト方向成分という)をF1ahとし、シフト方向に直交する光軸方向の成分(以下、光軸方向成分という)をF1avとする。また、F2aのシフト方向成分をF2ahとし、光軸方向成分をF2avとする。シフト方向成分F1ahとF2ahの合力が可動部材142に作用する推力であり、光軸方向成分F1avとF2avがそれぞれ可動部材142を光軸方向に動かそうとするように可動部材142に作用する面外力である。図5(a)では、ピッチマグネット147pと第1および第2コイル146p,148pとの間にそれぞれ推力が発生している。
図5(b)には、図5(a)の中立状態から可動部材142がシフトし、ピッチマグネット147の着磁境界面147pbが第1ピッチコイル146のコイル線束部146pdのうち光学素子141から遠い側の部分に到達する直前の位置にある状態を示す。この状態では、ピッチマグネット147pの着磁境界面147pbが第2ピッチコイル148のコイル線束部148pdのうち光学素子141から遠い側の部分を通過し、第2ピッチコイル148pとピッチマグネット147pの間のローレンツ力の向きが反転する。このため、ローレンツ力のシフト方向成分が互いに同じ向きになるように、第1ピッチコイル146pには+J1方向に、第2ピッチコイル148pには図5(a)と反対の−J2方向にそれぞれ電流を流すことで、F1bおよびF2bで示すローレンツ力が発生する。F1bとF2bのシフト方向成分F1bhとF2bhの合力が可動部材142の推力であり、光軸方向成分F1bvとF2bvが可動部材142を光軸方向に動かそうとする面外力である。図5(b)では、マグネット147pが第2ピッチコイル148pのコイル線束部148pdの片側の部分に対向する領域から外れているために推力は小さくなる。しかし、ピッチマグネット147pと第1ピッチコイル146pとの間で十分な推力が発生しており、可動部材142をシフトさせることができる。
図5(c)には、図5(b)の状態からさらに可動部材142がシフトし、ピッチマグネット147の着磁境界面147pbが第1ピッチコイル146のコイル線束部146pdのうち光学素子141から遠い側の部分に到達した位置にある状態を示す。図には、図示を省略した4つの引張りばね145aによって発生するシフト抗力の大きさと方向を矢印K1とK2で示す。第1ピッチコイル146pと第2ピッチコイル148pにそれぞれ+J1方向と−J2方向に電流を流すことで、F1cとF2cで示すローレンツ力が発生する。F1chとF2chの合力が可動部材142の推力であり、F1cvとF1cvが可動部材142を移動方向に直交する方向に動かそうとする面外力である。図5(c)では、ピッチマグネット147pの着磁境界面147pbが第1ピッチコイル146のコイル線束部146pdのうち光学素子141から遠い側の部分に到達しているために、推力よりも面外力が大きくなり、推力が小さくなる。一方、図5(b)と同様に、ピッチマグネット147pが第2ピッチコイル148のコイル線束部148pdの片側の部分に対向する領域から外れているために、推力が小さくなる。この位置は、推力が可動部材142を付勢する引張りばね145aのシフト抗力K1とK2の和と釣り合うために可動部材142がそれ以上シフトできなくなる位置、すなわちストッパ部材143cがないときの可動部材142の最大シフト可能位置を示している。
このように、ストッパ部材143cによる可動範囲の制限をなくすると、可動部材142は図5(c)に示す最大シフト可能位置までシフトすることはできる。しかし、一般には、引張りばね145aのシフト抗力のばらつきを見込んで余裕を持たせた範囲を可動範囲として使用する。このため、本実施例では、図5(b)の位置で可動部材142がストッパ部材143cと当接する構成とする。すなわち、図5(b)の位置までを可動範囲とする。ただし、ストッパ部材143cをさらに光学素子141の中心Oから遠ざけて配置し、推力が発生する範囲内でより広い可動範囲を設定してもよい。
なお、可動部材142が、図5(a)〜(c)で説明したシフト方向と反対方向にシフトする場合は、電流の向きおよび力の向きが反転することとなる。
次に、図6を用いて、補正部140におけるコイル−マグネット間のずれ量dの限界値について説明する。図6には、本実施例とは異なる比較例として、ずれ量dを限界値であるPとしたときの構成を示している。また、この図では、中立状態を示し、ストッパ部材143cによる可動部材142の可動範囲の制限をなくしている。
中立状態において、第1ピッチコイル146pに+J1方向に電流を流す。Pは、このときに第1ピッチコイル146pとピッチマグネット147のN極147pnとの間に発生するローレンツ力のシフト方向成分FnhとS極147psとの間に発生するローレンツ力のシフト方向成分Fshとが釣り合うずれ量である。第1ピッチコイル146pとピッチマグネット147pとの間に発生する力は面外力FnvとFsvのみとなり、推力が発生しない。また、第2ピッチコイル148pとピッチマグネット147pとの間にも同様に推力が発生しない。このため、可動部材142を中立状態からシフトさせることができない。
しかし、ずれ量dがPより小さければ、第1ピッチコイル146pとN極147pnの間に発生するシフト方向成分Fnhと第1ピッチコイル146pとS極147psとの間に発生するシフト方向成分Fshとが釣り合わなくなる。このため、推力が得られ、可動部材142をシフトさせることができる。したがって、実際のずれ量dはPより小さいことが必要である。言い換えれば、実際のずれ量dをPより小さい限りは大きくしても、中立状態から可動部材142を動かすことができる。このように、通電された第1ピッチコイル146pとN極147pnとの間に発生するシフト方向の力(Fnh)と、第1ピッチコイル146pとS極147psとの間に発生するシフト方向の力(Fsh)とが釣り合うずれ量をPとする。このとき、実際のずれ量dはPより小さいことが必要な条件となる。
次に、図7のフローチャートを用いて光学防振装置100の制御(各コイルへの通電制御)を行う処理について説明する。図7には、防振動作の開始から終了までの処理の流れを示している。比較部110と演算部120からなる制御部がコンピュータプログラムに従って本処理を実行する。また、ここでも可動部材142をピッチ方向にシフトさせる場合とヨー方向にシフトさせる場合の処理は基本的に同じであるので、ピッチ方向にシフトさせる場合の処理について説明する。
ステップS1では、比較部110は、光学防振装置100に入力される可動部材142の目標位置を読み出して更新する。
次にステップS2では、比較部110は、検出部150からのピッチ位置検出信号を取得して、可動部材142のピッチ方向での検出位置を更新する。
次にステップS3では、比較部110は、ステップS1で更新した目標位置とステップS2で更新した検出位置との差分(以下、位置差という)を算出する。
次にステップS4では、演算部120は、ステップS3で算出された位置差に基づいて、ゲイン演算部120gにて係数kを算出する。係数kは、その値が大きいほど可動部材142をシフトさせる推力を大きくする。具体的には、ゲイン演算部120gは、可動部材142のシフト量に応じて異なる係数kを算出する。例えは、可動部材142のシフト量が大きくなると引張りばね145aによるシフト抗力が大きくなるため、大きい係数kを算出する。また、目標位置と検出位置との位置差に応じて異なる係数kを算出する。例えば、位置差が大きいほど素早く可動部材142をシフトさせるように大きい係数kを算出する。目標位置と検出位置とが一致した場合はそれ以上可動部材142をシフトさせる必要がないため、k=0となる。
次にステップS5では、演算部120は、各コイルに通電する電流値を算出する。関数演算部120fには、可動部材142のシフト量xの関数である第1の関数a(x)と第2の関数b(x)とが記憶されている。関数演算部120fは、可動部材142のシフト量xと第1の関数a(x)によって決まる第1の分配値d1と、可動部材142のシフト量と第2の関数b(x)によって決まる第2の分配値d2とを決定する。分配値d1,d2はそれぞれ、第1ピッチコイル146pと第2ピッチコイル148pに通電する比率を示す。関数演算部120fは、検出部150からのピッチ位置検出信号から可動部材142のシフト量を計算し、さらに第1の関数a(x)と第2の関数b(x)から分配値d1,d2を計算し、ゲイン演算部120gに出力する。
図8(a)には、可動部材142のシフト量に対する第1および第2の関数a(x),b(x)の例を示している。図8(b)に示すようにマグネットの着磁境界面と直交する方向での該マグネットの長さをwとし、コイルに対するマグネットのずれ量をdとすると、第1および第2の関数a(x),b(x)は、後述する3つの理由から、
a(x)=sin[{2π(x+d)}/2w] ・・・(1)
b(x)=m×sin[{2π(x+d)}/2w] ・・・(2)
となる。
第1の理由は、第1および第2の関数a(x),b(x)が三角関数であることにより、ステッピングモータのマイクロステップ駆動方式と同様に、可動部材142を滑らかに駆動するためである。
第2の理由は、第1および第2の関数a(x),b(x)の位相がそれぞれxに対してdだけずれていることで、可動部材142がdだけ移動した位置で第1および第2の関数a(x),b(x)の値がともに最大値となり、コイルに流す電流値が最大となるためである。この位置では、図8(b)に示すx=dのように、マグネットの着磁境界面とコイルの中心とがシフト方向で同じ位置となる。このマグネットとコイルとの位置関係は、図8(c)に示すように、単位電流当たりの推力である推力定数が最大となる位置関係であり、最も高効率で推力を発生させることができる。したがって、第1および第2の関数a(x),b(x)の位相をそれぞれxに対してdだけずらすことで、一組のコイルとマグネットについて最も高効率な位置で最大の推力が発生する。
第3の理由は、第2ピッチコイル148pとピッチマグネット147pとの間の距離が第1ピッチコイル146pとピッチマグネット147pとの間の距離よりも遠いためである。このとき、第2ピッチコイル148pに作用する磁力が低減して推力定数が、図8(c)に示すように小さくなる。そこで、第2の関数b(x)の振幅を第1の関数a(x)の振幅よりも大きくする(m倍とする)ことで、第1ピッチコイル146pと第2ピッチコイル148pとが同等の推力を出すことができるように電流値を設定している。
このように、本実施例では、コイルとマグネットのずれ量分だけ位相をずらし、振幅を異ならせた三角関数を第1および第2の関数a(x),b(x)とする。これにより、図8(d)に示す通ように、シフト量xによらず高効率で、かつシフト量xによる変動が少ない(滑らかに変化する)推力を発生させることができる。
なお、本実施例では第1および第2の関数a(x),b(x)を三角関数とした場合について説明したが、他の関数を用いてもよい。また、第2の関数b(x)の振幅を第1の関数a(x)の振幅のm倍としたが、第2ピッチコイル148pの推力の不足分を補う範囲であれば他の振幅でもよい。
ゲイン演算部120gは、分配値d1にステップS4で算出した係数kを乗じた値k・d1を第1ピッチコイル146pに流す電流値とし、分配値d2に係数kを乗じた値k・d2を第2ピッチコイル148pに流す電流値とする。
次にステップS6では、演算部120は、ステップS5で算出した電流値を、駆動部130の各ピッチコイル駆動回路を通じて補正部140の第1および第2ピッチコイル146p,148pに通電する。これにより、各ピッチコイルとピッチマグネット間にローレンツ力が発生し、可動部材142がシフトする。
次にステップS7では、比較部110および演算部120は、可動部材142の検出位置が目標位置に一致したか否か、つまりは可動部材142のシフトを停止させるか否かを判定する。シフトを停止させない場合はステップS1に戻り、検出位置が目標位置に一致するまで処理を継続する。一方、可動部材142の検出位置が目標位置に一致した場合は、可動部材142のシフトを停止させて処理を終了する。
次に、本実施例の効果について、図9(a),(b)を用いて説明する。図9(a)には、中立状態における光学防振装置100のヨー方向から見た断面を示す。中立状態での光学素子141の光軸の位置をOaで示す。図9(b)には、中立状態から可動部材142がシフトし、ピッチマグネット147の着磁境界面147pbが第1ピッチコイル146のコイル線束部146pdのうち光学素子141から遠い側の部分に到達する直前の位置(可動範囲の端位置)にある状態での断面を示す。この状態での光学素子141の光軸の位置をOc1で示し、可動部材142が可動範囲の反対側の端位置に到達したときの光学素子141の光軸の位置をOc2で示す。可動部材142の最大シフト可能量は、可動範囲における互いに反対側の端位置と端位置間の距離であるStである。ピッチマグネット147の外端面147pcから光軸Oaまでの距離はR1である。この距離R1が大きいと、光学防振装置100の径方向の寸法が大きくなる。
図10(a),(b)には、従来の光学防振装置であって、可動部材102のピッチ方向での駆動に1つのコイル(第1ピッチコイル106p)と1つのマグネット(ピッチマグネット)107pのみを使用するものの構成をヨー方向から見た断面により示す。この装置における可動部材142の最大シフト可能量は、図9(b)に示したStと等しい。図10(a)には中立状態を示しており、このときの光学素子101の光軸の位置をOdで示す。図10(b)には中立状態から可動部材02がシフトして、ピッチマグネット107の着磁境界面107pbが第1ピッチコイル106のコイル線束部106pdのうち光学素子101から遠い側の部分に到達する直前の位置(可動範囲の端位置)にある状態を示す。この状態での光学素子101の光軸の位置をOe1で示し、可動部材102が可動範囲の反対側の端位置に到達したときの光学素子101の光軸の位置をOe2で示す。
この装置のようにコイルとマグネットを1つずつ使用する場合は、可動部材102の最大シフト可能量を図9(b)に示したStと等しくするために、第1ピッチコイル106pの長手方向に直交する方向(ピッチ方向)の寸法Lcを拡大する必要がある。さらに、第1ピッチコイル106pとピッチマグネット107pが、可動範囲の全域において光軸方向にてほぼ全面で重なっているため、ピッチマグネット107pの長手方向に直交する方向(ピッチ方向)の寸法Lmを併せて拡大する必要がある。これらの結果、可動部材102の最大シフト可能量はStであるが、可動範囲の端に到達したときのピッチマグネット107pの外端面107pcから光軸Odまでの距離はR1より大きいR2となる。
したがって、図9(a),(b)で示す本実施例の光学防振装置100は、図10(a),(b)に示す従来の光学防振装置に対して、同じ可動部材102の最大シフト可能量を維持したまま、径方向に小型化することができる。
以上説明したように、本実施例では、VCMをアクチュエータとする光学防振装置100において、大きな最大シフト可能量を確保しつつ、装置の径の増加を抑制することができる。
なお、本実施例では、第1ピッチコイル中心146pbがピッチマグネット147pの着磁境界面147pbより外側にずれて配置され、第2ピッチコイル中心148pが着磁境界面147pbより内側にずれて配置される場合について説明した。しかし、第1ピッチコイル中心146pbが着磁境界面147pbより内側にずれて配置され、第2ピッチコイル中心148pが着磁境界面147pbより外側にずれて配置されるようにしてもよい。第1および第2ヨーコイル中心146yb,148ybとヨーマグネット147yについても同様である。
なお、本実施例では、第1および第2ピッチコイル中心のそれぞれのピッチマグネットの着磁境界面に対するずれ量をともに同じとした場合について説明した。しかし、これらずれ量を、第1ピッチコイル−ピッチマグネット間および第2ピッチコイル−ピッチマグネット間のそれぞれで発生するローレンツ力の差(誤差)等に応じて異ならせてもよい。このことは、後述する他の実施例でも同じである。
次に、本発明の実施例2である光学防振装置200について説明する。本実施例において、実施例1と共通する構成要素には同符号を付して説明は省略する。本実施例では、実施例1と異なる部分を主として説明する。
図11(a),(b)は、光学防振装置200の構成を示す図であり、図11(a)は光軸方向から見た構成を、図11(b)は図11(a)中のIII−III線での断面(ヨー方向から見た断面)を示す。また、図11(a),(b)は、可動部材242がその可動範囲の中心に位置する中立状態を示している。
第1ピッチコイル246pは光学素子141を保持する可動部材242により保持されている。第2ピッチコイル248pは可動部材242により保持され、第1ピッチコイル246pとベース部材243との間に配置されている。そして、第1および第2ピッチコイル246p,248pは、ピッチ方向にて互いずれて光軸方向にて重なるように配置されている。これにより、第1ピッチコイル246pの厚み方向の端面のうち第2ピッチコイル248pに重ならない部分は直接、第2ピッチコイル248pに重なる部分は該第2ピッチコイル246pを間に挟んで、ピッチマグネット247pに対向する。このように、第1および第2ピッチコイル246p,248pは、ピッチマグネット247pの同一面(対向面)に対向する。
また、第1ヨーコイル246yは光学素子141を保持する可動部材242により保持されている。第2ヨーコイル248yは可動部材242により保持され、第1ヨーコイル246yとベース部材243との間に配置されている。そして、第1および第2ヨーコイル246y,248yは、ヨー方向にて互いずれて光軸方向にて重なるように配置されている。これにより、第1ヨーコイル246yの厚み方向の端面のうち第2ヨーコイル248yに重ならない部分は直接、第2ヨーコイル248yに重なる部分は該第2ヨーコイル246yを間に挟んで、ヨーマグネット247yに対向する。このように、第1および第2ヨーコイル246y,248yは、ヨーマグネット247yの同一面(対向面)に対向する。
本実施例では、図11(b)に示すように、第1および第2ピッチコイル246p,248pと第1および第2ヨーコイル246y,248yが光学素子141に対して光軸方向における同じ位置(同じ領域)に配置されている。これにより、光学防振装置200の光軸方向での厚みの増加を防ぐことができる。
以下、本実施例の説明を続けるが、光学防振装置200はピッチ方向とヨー方向とで基本的に同じ構成を有するため、ピッチ方向についてのみ説明する。
図11(a),(b)に示すように、中立状態において、第1ピッチコイル中心246pbはピッチマグネット247pの着磁境界面247pbよりも所定のずれ量だけピッチ方向の外側にずれて位置する。また、第2ピッチコイル中心248pbは、ピッチマグネット247pの着磁境界面247pbよりも上記ずれ量だけピッチ方向の内側にずれて位置する。つまり、ピッチ方向において、第1および第2ピッチコイル中心246pa,248pbがそれぞれ、ピッチマグネット247pの着磁境界面247pbに対して外側と内側のうち互いに異なる側にずれて位置する。
また、図示しないピッチ検出素子は、ホルダ等を介して可動部材242に固定されており、これに対向するピッチマグネット247pの位置(磁気)の変化を電気信号に変換して出力する。
本実施例では、実施例1とは異なり、第1および第2ピッチコイル246p,248pとピッチ検出素子を可動部材242により保持し、ピッチマグネット247pをベース部材243により保持する。このように可動部材242により各コイルとピッチ検出素子を保持することで、可動部材242と電気基板101とを配線により接続する必要がある。しかし、本実施例では、ピッチマグネット247pが移動しないため、ピッチマグネット247pからの漏れ磁束の変化がピッチマグネット247pの周囲に配置された部品に影響を及ぼすことを抑えることができる。
本実施例における補正部の動作、各コイル中心の各マグネットの着磁境界面に対するずれ量(d)および光学防振装置200の制御については、実施例1と同じである。
本実施例でも、VCMをアクチュエータとする光学防振装置200において、大きな最大シフト可能量を確保しつつ、装置の径の増加を抑制することができる。
本実施例でも、VCMをアクチュエータとする光学防振装置200において、大きな最大シフト可能量を確保しつつ、装置の径の増加を抑制することができる。
なお、本実施例では、第1ピッチコイル中心246pbがピッチマグネット247pの着磁境界面247pbより外側にずれて配置され、第2ピッチコイル中心248pが着磁境界面247pbより内側にずれて配置される場合について説明した。しかし、第1ピッチコイル中心246pbが着磁境界面247pbより内側にずれて配置され、第2ピッチコイル中心248pが着磁境界面247pbより外側にずれて配置されるようにしてもよい。第1および第2ヨーコイル中心とヨーマグネット247yについても同様である。
次に、本発明の実施例3である光学防振装置300について説明する。本実施例において、実施例1と共通する構成要素には同符号を付して説明は省略する。本実施例では、実施例1と異なる部分を主として説明する。
図12(a),(b)は、光学防振装置300の構成を示す図であり、図12(a)は光軸方向から見た構成を、図12(b)は図12(a)中のIV−IV線での断面(ヨー方向から見た断面)を示す。また、図12(a),(b)は、可動部材342がその可動範囲の中心に位置する中立状態を示している。さらに、図12(c),(d)は光学防振装置300に用いられている第1および第2ピッチコイル346p,348pの構成を示している。図12(c)は、第1および第2ピッチコイル346p,348pを光軸方向に対して斜めの方向から見たときの構成を示す。また、図12(d)は、図12(c)におけるV−V線での断面(ヨー方向から見た断面)を示す。
以下、本実施例の説明を続けるが、光学防振装置300においてピッチ方向の構成とヨー方向の構成(第1および第2ヨーコイル346y,348y、ヨーマグネット347y)とが基本的に同じであるため、ピッチ方向についてのみ説明する。
図12(c)に示すように、第1ピッチコイル346pは、光軸方向から見て2つの直線部とその両側の円弧部とを有する楕円状に巻回された導線からなる巻き線コイルである。ただし、各円弧部は、その直線部側の位置にて厚み方向に曲げられ、さらに先端側の部分が直線部が延びる長手方向に曲げられている。第2ピッチコイル348pは、図12(c)に示すように光軸方向から見て2つの直線部とその両側の円弧部とを有する楕円状に巻回された導線からなる巻き線コイルである。円弧部が曲げられた第1ピッチコイル346pと第2ピッチコイル348pは、図12(c),(d)に示すように、それぞれにおける直線部が光軸に直交する同一面上(つまりはピッチ方向)に並んで配置されるように互いに組み合わされる。このように組み合わされた第1および第2ピッチコイル346p,348pは、ピッチ方向に並んだ直線部が、可動部材342により保持されたピッチマグネット347pの同一面(対向面)に対向するようにベース部材343により保持される。
本実施例では、図12(a),(b)に示すように、中立状態において、第1ピッチコイル中心346pbはピッチマグネット347pの着磁境界面347pbよりも所定のずれ量だけピッチ方向の外側にずれて位置する。また、第2ピッチコイル中心348pbは、ピッチマグネット347pの着磁境界面347pbよりも上記ずれ量だけピッチ方向の内側にずれて位置する。つまり、ピッチ方向において、第1および第2ピッチコイル中心346pa,348pbがそれぞれ、ピッチマグネット347pの着磁境界面347pbに対して外側と内側のうち互いに異なる側にずれて位置する。
このような構成を採用することで、実施例1,2と異なり、第1および第2ピッチコイル346p,348pのそれぞれとピッチマグネット347との間の距離を等しくすることができる。このため、実施例1,2のように第1および第2ピッチコイルのうちピッチマグネットから遠い側のコイルに流す電流値を近い側のコイルに流す電流値より大きくしなくても、十分な推力を発生させることができる。したがって、実施例1,2に比べて、低消費電力化することができる。
本実施例における補正部の動作、各コイル中心の各マグネットの着磁境界面に対するずれ量(d)および光学防振装置200の制御については、実施例1と同じである。
図13(a)には、可動部材342のシフト量に対する第1および第2の関数a(x),b(x)の例を示している。図13(b)に示すようにマグネットの着磁境界面と直交する方向での該マグネットの長さをwとし、コイルに対するマグネットのずれ量をdとすると、第1および第2の関数A(x),B(x)は、
A(x)=sin[{2π(x+d)}/2w] ・・・(3)
B(x)=sin[{2π(x−d)}/2w] ・・・(4)
となる。実施例1との差異は、第1の関数A(x)と第2の関数B(x)の振幅が等しい点である。この差異の理由は、実施例1では第1および第2ピッチコイル146p,148pのそれぞれとピッチマグネット147pとの間の距離が異なるが、本実施例ではそれらの距離が互いに等しいためである。
これ以外の点は、実施例1における第1の関数a(x)と第2の関数b(x)と同様である。例えば、第1および第2の関数A(x),B(x)の位相がそれぞれxに対してdだけずれていることで、可動部材342がdだけ移動した位置で第1および第2の関数A(x),B(x)の値がともに最大値となり、コイルに流す電流値が最大となる。この位置では、図13(b)に示すx=dのように、マグネットの着磁境界面とコイルの中心とがシフト方向で同じ位置となる。このマグネットとコイルとの位置関係は、図13(c)に示すように、単位電流当たりの推力である推力定数が最大となる位置関係であり、最も高効率で推力を発生させることができる。したがって、第1および第2の関数A(x),B(x)の位相をそれぞれxに対してdだけずらすことで、一組のコイルとマグネットについて最も高効率な位置で最大の推力が発生する。
このように、本実施例では、コイルとマグネットのずれ量分だけ位相をずらした三角関数を第1および第2の関数A(x),B(x)とする。これにより、図13(d)に示すように、シフト量xによらず高効率で、かつシフト量xによる変動が少ない(滑らかに変化する)推力を発生させることができる。
なお、本実施例では第1および第2の関数A(x),B(x)を三角関数とした場合について説明したが、他の関数を用いてもよい。
また、図12(a),(b)には可動部材342により各マグネットが保持され、ベース部材343により各コイルが保持されるムービングマグネットタイプの光学防振装置300を示した。これに対して、実施例2と同様に、可動部材により各コイルが保持され、ベース部材により各マグネットが保持されるムービングコイルタイプとしてもよい。図14(a),(b)には、ムービングコイル方式の光学防振装置400を示している。図14(a)は光軸方向から見た構成を、図14(b)は図14(a)中のVI−VI線での断面(ヨー方向から見た断面)を示す。
図14(a),(b)でも、可動部材442が可動範囲の中心に位置する中立状態において、第1ピッチコイル446pの中心(第1ピッチコイル中心446pb)がピッチマグネット447pの着磁境界面447pbより所定のずれ量だけピッチ方向の外側にずれて位置する。また、第2ピッチコイル448pの中心(第2ピッチコイル中心448pb)が、ピッチマグネット447pの着磁境界面447pbより上記ずれ量だけピッチ方向の内側にずれて位置する。
本実施例でも、VCMをアクチュエータとする光学防振装置300,400において、大きな最大シフト可能量を確保しつつ、装置の径の増加を抑制することができる。
次に、本発明の実施例4である光学防振装置500について説明する。本実施例において、実施例1と共通する構成要素には同符号を付して説明は省略する。本実施例では、実施例1と異なる部分を主として説明する。
図15(a),(b)は、光学防振装置500の構成を示す図であり、図15(a)は光軸方向から見た構成を、図15(b)は図15(a)中のVII−VII線での断面(ヨー方向から見た断面)を示す。また、図15(a),(b)は、可動部材542がその可動範囲の中心に位置する中立状態を示している。
以下、本実施例の説明を続けるが、光学防振装置500においてピッチ方向の構成とヨー方向の構成(第1および第2ヨーコイル546y,548y、ヨーマグネット547y)とが基本的に同じであるため、ピッチ方向についてのみ説明する。
第1ピッチコイル546pは、図15(a)に示すように、光軸方向から見て楕円状に巻回された導線からなる巻き線コイルであり、ベース部材543により保持されている。また、第2ピッチコイル348pも楕円状に巻回された導線からなる巻き線コイルである。ただし、本実施例では、第2ピッチコイル548pをベース部材543のうち光軸方向に延びるアーム部543gにて保持しており、第1ピッチコイル546pと第2ピッチコイル548pとの間のスペースにピッチマグネット547pが配置されている。つまり、第1および第2ピッチコイル346p,348pが、ピッチマグネット347pに対して光軸方向における互いに反対側に配置されている。ピッチマグネット547pは、可動部材542により保持されている。この構成では、第1および第2ピッチコイル546p,548pがそれぞれ、ピッチマグネット547pにおける互いに反対側の面に対向している。
そして、本実施例では、図15(a),(b)に示すように、中立状態において、第1ピッチコイル中心546pbはピッチマグネット547pの着磁境界面547pbよりも所定のずれ量だけピッチ方向の外側にずれて位置する。また、第2ピッチコイル中心548pbは、ピッチマグネット547pの着磁境界面547pbよりも上記ずれ量だけピッチ方向の内側にずれて位置する。つまり、ピッチ方向において、第1および第2ピッチコイル中心546pa,548pbがそれぞれ、ピッチマグネット547pの着磁境界面547pbに対して外側と内側のうち互いに異なる側にずれて位置する。
位置検出用マグネット549pは、ピッチ検出素子151pに対向するように可動部材542により保持されている。位置検出用マグネット549pにおいて、ピッチ検出素子151pに対向する面549paの法線方向が着磁方向であり、着磁境界面549pbはヨー方向に平行に延びている。
このように、本実施例では、ピッチマグネット547pの光軸方向における両側に第1および第2ピッチコイル546p,548pを配置している。これにより、実施例1,2とは異なり、第1および第2ピッチコイル548pのそれぞれとピッチマグネット547との間の距離を等しくすることができる。このため、実施例1,2のように第1および第2ピッチコイルのうちピッチマグネットから遠い側のコイルに流す電流値を近い側のコイルに流す電流値より大きくしなくても、十分な推力を発生させることができる。したがって、実施例1,2に比べて、低消費電力化することができる。
本実施例における補正部の動作、各コイル中心の各マグネットの着磁境界面に対するずれ量(d)および光学防振装置500の制御については、実施例1と同じである。ただし、本実施例では、第2ピッチコイル548pにより発生する面外力の方向が実施例1と反対向きになる。
また、図15(a),(b)には可動部材542により各マグネットが保持され、ベース部材543により各コイルが保持されるムービングマグネットタイプの光学防振装置500を示した。これに対して、実施例2と同様に、可動部材により各コイルが保持され、ベース部材により各マグネットが保持されるムービングコイルタイプとしてもよい。図16(a),(b)には、ムービングコイル方式の光学防振装置600を示している。図16(a)は光軸方向から見た構成を、図16(b)は図16(a)中のVIII−VIII線での断面(ヨー方向から見た断面)を示す。
可動部材642はその可動範囲の中心に位置する中立状態において、第1ピッチコイル646pの中心(第1ピッチコイル中心646pb)がピッチマグネット647pの着磁境界面647pbよりも所定のずれ量だけピッチ方向の外側にずれて位置する。また、第2ピッチコイル648pの中心(第2ピッチコイル中心648pb)が、ピッチマグネット647pの着磁境界面647pbよりも上記ずれ量だけピッチ方向の内側にずれて位置する。
本実施例でも、VCMをアクチュエータとする光学防振装置500,600において、大きな最大シフト可能量を確保しつつ、装置の径の増加を抑制することができる。
次に、本発明の実施例5である光学防振装置700について説明する。本実施例において、実施例4と共通する構成要素には同符号を付して説明は省略する。本実施例では、実施例4と異なる部分を主として説明する。また、本実施例でも、ピッチ方向についてのみ説明する。
図17(a),(b)を用いて、可動範囲の端位置近傍における実施例4における力の発生状態と本実施例における力の発生状態との差異について説明する。図17(a)は、実施例4において、可動部材542が可動範囲の第1コイル側の端位置に到達した状態のモデルを示す。該モデルは、可動部材542の形状を単純化した可動部材562、ベース部材563、支持部564の転動ボール564a、引張りばね565、第1コイル566p、マグネット567pおよび第2コイル568pで構成される。
可動部材562が上記端位置に到達した状態では、可動部材562とベース部材563を付勢する引張りばね565の伸び量が大きく、引張りばね565により生じるシフト抗力も大きい。シフト抗力のシフト方向成分は、コイルとマグネットによって発生する推力と逆向きであるため、可動部材562を目標位置へ到達させるには、コイルとマグネットによって発生する推力を増加させる必要がある。推力を増加させるためにコイルに流す電流を増加させることで面外力も増加する。このため、可動部材562が端位置に到達した状態では、コイルに流れる電流の増加と該コイルの中心がマグネットの着磁境界面から遠いことにより、第1および第2コイル566p,568pのそれぞれへの通電によって大きな面外力N1,N2が発生することになる。ここで、第1および第2コイル566p,568pのそれぞれへの通電によって発生する面外力N1,N2は互いに同じ向きである。加えて、前述したように装置の径を小さくするために転動ボール564aを光軸Oaの近くに配置している。したがって、第1コイル566pと第2コイル568pに対して互いに同じ向きの推力が発生するように通電すると、面外力N1,N2によって転動ボール564を回転中心とする大きなモーメントM1が可動部材562に発生する。この結果、モーメントM1により可動部材562およびベース部材563と転動ボール564aとが接触しなくなるボール浮きが発生し、可動部材562の光軸方向における位置がずれるおそれがある。
図17(b)は、本実施例において、可動部材742が可動範囲の第1コイル746p側の端位置に到達した状態でのモデルを示す。該モデルは、可動部材742の形状を単純化した可動部材762、ベース部材763、支持部764の転動ボール764a、引張りばね765、第1コイル766p、マグネット767pおよび第2コイル768pにより構成される。
本実施例では、図17(a)に示したモデルとは異なり、可動部材762が可動範囲の第1コイル766p側の端位置に到達した状態において第2コイル768pへの通電を0にしている。第2コイル768pの中心がマグネット767pの着磁境界面から遠い位置にあることによって、第2コイル768pへの通電により発生する力においては推力の割合が小さく面外力の割合が大きい。このため、第2コイル768pへの通電を0にすることで、推力の低下を抑えつつ、面外力N3を十分に低減することができる。この結果、モーメントM2を図17(a)に示したモデルにおけるモーメントM1よりも小さくすることができ、ボール浮きを抑制することができる。
仮に第2コイル768pへの通電を0にすることで推力が低減して可動部材742がシフトしなくなった場合は、第1コイル766pに流す電流値を増加させることで推力を増加させれば、可動部材742をシフトさせることができる。この際、第1コイル766pに流す電流値を増加させても、第1コイル766pと第2コイル768pの両方に通電する場合よりも面外力の和は小さくなる。これは、第1コイル766pの中心とマグネット767pの着磁境界面とが近いことによって、第1コイル766pへの通電によって発生する力における推力の割合が大きく、面外力の割合が小さいためである。
以上のように、本実施例では、転動ボール764aに対する可動部材762またはベース部材763の当接力(接触力)Tが常に正になるように、第1および第2コイル764p,766pに流す電流値を設定する。
なお、本実施例とは異なるボール浮き対策として、引張りばねや転動ボールを光学素子の中心Oから遠ざけて配置する構成が考えられる。しかし、この構成では装置の径が増加してしまう。したがって、ボール浮きが発生し易い構成の場合は、装置の径方向の拡大を抑制するために本実施例にて説明したボール浮きを抑制する構成を採用することが望ましい。
図18(a)には、可動部材742のシフト量に対する第1および第2の関数α(x),β(x)の例を示している。図18(b)に示すようにマグネットの着磁境界面と直交する方向での該マグネットの長さをwとし、コイルに対するマグネットのずれ量をdとすると、第1および第2の関数α(x),β(x)は、
α(x)=g×sin[{2π(x+d)}/2w] ・・・(5)
β(x)=h×sin[{2π(x+d)}/2w] ・・・(6)
となる。
上記式(5),(6)において、gは可動部材742がその可動範囲における第2コイル748p側の端位置近傍に位置する場合に0となり、他の範囲に位置する場合に1となる係数である。hは可動部材742がその可動範囲における第1コイル746p側の端位置近傍に位置する場合に0となり、他の範囲に位置する場合に1となる係数である。したがって、図17(b)に示したモデルと同様に、可動部材742が第1コイル746p側の端位置近傍に位置する場合はgが1となり、hが0となる。この場合、第1コイル746pに電流を流し、第2コイル748pには電流を流さないため、前述した通り、ボール浮きの発生を抑制することができる。また、可動部材742が第2コイル768p側の端近傍に位置する場合はgが0となり、hが1となる。この場合、第1コイル746pには電流を流さず、第2コイル748pには電流を流すため、同様にボール浮きの発生を抑制することができる。
なお、係数であるgとhは、ボール浮きが発生しない範囲であれば値を任意に設定することができ、例えば、各端位置近傍において0でなく1未満の係数でもよく、その他の範囲において1ではない1より大きい係数でもよい。
本実施例でも、VCMをアクチュエータとする光学防振装置700において、大きな最大シフト可能量を確保しつつ、装置の径の増加を抑制することができる。しかも、可動部材742に作用するモーメントを減少させ、ボール浮きの発生を抑制することができる。
次に、本発明の実施例6である光学防振装置800について説明する。本実施例において、実施例1と共通する構成要素には同符号を付して説明は省略する。本実施例では、実施例1と異なる部分を主として説明する。
図19(a),(b)は、光学防振装置800の構成を示す図であり、図19(a)は光軸方向から見た構成を、図19(b)は図19(a)中のIX−IX線での断面を示す。また、図19(a),(b)は、可動部材842がその可動範囲の中心に位置する中立状態を示している。
本実施例では、実施例1と同様に、各コイル(846p,848p,846y,846y)がベース部材843により保持され、各マグネット(847p,847y)が可動部材842により保持されている。また、中立状態において、第1ピッチコイル846pの中心(第1ピッチコイル中心846pb)がピッチマグネット847pの着磁境界面847pbよりも所定のずれ量だけピッチ方向の外側にずれて位置する。また、第2ピッチコイル848pの中心(第2ピッチコイル中心848pb)は、ピッチマグネット847pの着磁境界面847pbよりも上記ずれ量だけピッチ方向の外側にずれて位置する。つまり、ピッチ方向において、第1および第2ピッチコイル中心846pb,848pbがそれぞれ、ピッチマグネット847pの着磁境界面847pbに対して外側と内側のうち互いに同じ側にずれて位置する。このことは、第1および第2ヨーコイル846y,848pおよびヨーマグネット847yに関しても同様である。
本実施例では、可動部材842およびベース部材843に設けられたボール受け部842a,843aがそれぞれ、凸球面および凹球面の形状を有し、転動ボール844aはそれらの球面上を転動する。そして、第1および第2ピッチコイル846p,848p、ピッチマグネット847pおよびピッチ検出素子151pは、全て光軸Oaと直交するシフト面に対して所定の角度だけ傾いて保持されている。傾いて保持されたマグネットとコイルにより、可動部材842が点Qを中心とする球面上を動くように推力が発生する。
本実施例における補正部の動作、各コイル中心の各マグネットの着磁境界面に対するずれ量(d)および光学防振装置800の制御については、実施例1と同じである。
本実施例でも、VCMをアクチュエータとする光学防振装置700において、大きな最大シフト可能量を確保しつつ、装置の径の増加を抑制することができる。
なお、第1および第2ピッチコイル846p,848pを実施例3と同様に構成して、それぞれにおけるピッチマグネット847pと対向する部分が光軸に直交する同一面上(ピッチ方向)に並んで配置されるようにしてもよい。
また、実施例4と同様に、第1および第2ピッチコイル846p,848pをピッチマグネット847pにおける互いに反対側の面に対向するように配置してもよい。
さらに、実施例5と同様に、転動ボール144aに対する可動部材842またはベース部材843の当接力Tが常に正になるように、第1および第2ピッチコイル846p,848pに流す電流値を設定するようにしてもよい。
図20には、上述した各実施例の光学防振装置を備えた光学機器としてのデジタルカメラ(撮像装置)900を示している。なお、光学機器としては交換レンズ等、デジタルカメラ以外のものであってもよい。
図20において、L1,L2は撮像光学系を構成するレンズであり、光学防振装置100〜800はこの撮像光学系内に配置されている。撮像光学系は被写体像(光学像)を形成する。901はCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子であり、被写体像を光電変換する。これにより、撮像画像が生成される。
902はジャイロセンサ等の振れセンサであり、カメラ900の振れを検出して、電気信号(振れ検出信号)を光学防振装置100〜800の電気基板部101に入力する。電気基板部101における比較部110および演算部120が、振れ検出信号に基づいて算出された目標位置に応じて、実施例1で説明したように光学防振装置100〜800の制御を行う。
また、上記各実施例では、光学防振装置について説明したが、本発明の光学シフト装置は光学防振装置以外の用途にも使用することができる。
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。